(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記嵌合穴に前記軸部材が嵌合するとき、前記プーリーの筒状部の前記嵌合穴に前記軸部材の端部が、前記嵌合穴の周囲端面と前記軸部材の前記端部の端面とが面一状態となるように嵌合し、
前記ビードを形成するとき、前記ビードが、前記筒状部の前記嵌合穴と前記軸部材の前記端部とで形成された前記円形の接合縁に重なり、かつ、前記軸部材の前記端部から溶け込み深さ方向において部分的に形成されている、
請求項1に記載のプーリーの接合方法。
前記レーザー光を照射するとき、前記軸部材は治具により支持された状態で前記レーザー光が照射され、前記治具に対する前記円環状の接合領域が前記プーリーの中心から偏心した偏心量よりも、前記帯状のビードの径方向の寸法が大きい、
請求項1〜5のいずれか1つに記載のプーリーの接合方法。
前記走査経路は、前記接合縁に対して蛇行することにより前記接合縁の周方向に対して間隔をあけて複数回交差するとき、前記接合縁上で前記レーザー光のレーザースポット同士が重なり合うスポット径の重なり率をラップ率とし、ラップ率=前記接合縁上でのスポット重なり幅/スポット径、と定義するとき、
前記ラップ率が−40%以上で30%未満とする、
請求項1〜9のいずれか1つに記載のプーリーの接合方法。
前記プーリーは前記嵌合穴を有する筒状部を有し、前記軸部材は前記嵌合穴に嵌合される端部を有し、前記筒状部の前記嵌合穴に前記軸部材の前記端部が、前記嵌合穴の周囲端面と前記軸部材の前記端部の端面とが面一状態となるように嵌合した状態で、前記筒状部の前記嵌合穴と前記軸部材の前記端部とで前記円形の接合縁を形成し、前記軸部材の前記端部から、前記ビードが、前記軸部材の前記端部から溶け込み深さ方向において部分的に形成されている、
請求項11に記載のプーリーの接合構造。
前記レーザー溶接部が大略前記円形の接合縁沿いでかつ所定の中心軸周りに形成されていて、この中心軸は前記プーリーの形状中心から偏心していて、この偏心量よりも前記帯状のビードの幅方向の寸法が大きい、
請求項11〜19のいずれか1つに記載のプーリーの接合構造。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明における実施形態を詳細に説明する。
【0013】
(実施形態)
本発明の実施形態にかかるプーリーの接合方法及び接合構造は、
図1A〜
図2に示すように、車両のトルク伝達用のプーリー、例えばベルト式CVT用の自動車用又は二輪用のような小型のプーリーのような固定側又は可動側プーリー2の筒状部2bの嵌合穴2aに軸部材1の端部を圧入して、嵌合穴2aの周囲端面と軸部材1の端部の端面とが面一状態となるように嵌合したのち、軸部材1の端部の外周縁と嵌合穴2aの内周縁との円形の接合縁3に対して、レーザー溶接を行うものである。
【0014】
図3A及び
図3Bに示すように、レーザー溶接は、円形の接合縁3の周方向の全周又はその一部に対して、接合縁3と重なる、例えば所定幅の円環状の接合領域7内で間隔をあけて接合縁3と複数回交差するジグザグ形状の走査経路8に沿ってレーザー光9を走査しつつ照射して、レーザー走査痕を有する帯状のビード5をレーザー溶接部として形成する。円環状の接合領域7としては、例えば、一定幅の円環状の領域であってもよいし、部分的に幅が異なる領域であってもよい。レーザー走査痕は、ビード5の表面で実質的に径方向に延びる線状の痕跡である。
【0015】
具体的には、前記実施形態では、
図3Aに示すように、接合縁3を含むビード形成領域として、円環状の接合領域7を設定する。円環状の接合領域7の一例としては、径方向の幅寸法を1.5mmで一定とし、径方向の幅寸法の中央付近に接合縁3が位置するように設定する。この円環状の接合領域7の幅寸法は一例であり、接合対象物の大きさ、材質、又は、要求される接合強度などにより、適宜、設定することが可能であるが、自動車用又は二輪用のような小型のプーリー2と軸部材1との接合では、接合縁3に、レーザー光9のスポット径を超えるような隙間は通常では生じないため、最低限、スポット径よりも大きければ、接合不良を防ぐことができる。ただし、接合領域7の幅寸法が大きすぎると、加工時間の増大につながる。このため、実質的には、接合領域7の幅寸法は、スポット径の2倍〜3倍が望ましい。
この円環状の接合領域7内で、接合縁3に交差するジグザグ形状の走査経路8に沿って、レーザー照射装置11でレーザー光9を連続的に走査させる。
【0016】
このジグザグ形状のレーザー光9の走査経路8は、
図3Cに示すように、第1斜線部8aと第2斜線部8bとで構成されるV字形状8cを構成し、このV字形状8cが例えば接合縁3に沿って連続的に配置されて一筆書きで描いてV字形状のウィービングを実施し、連続溶接できるように構成されている。第1斜線部8aは、その中間部で接合縁3と交差し、その交点8dにおいて実線で示す接線8eに対して所定角度θ1で傾いて交差しつつ内側から外側に向かう経路である。第2斜線部8bは、その中間部で接合縁3と交差し、その交点8fにおいて点線で示す接線8gに対して所定角度θ2で傾いて交差しつつ外側から内側に向かう経路である。第1斜線部8aの外端と第2斜線部8bの外端とが互いに連結されてV字形状8cを構成している。一例として、接合縁3上の交点8dと交点8fとの間の間隔W2は一定としてもよいし、可変としてもよい。また、所定角度θ1及びθ2もそれぞれ一定としてもよいし、それぞれ異なる角度としてもよい。隣接するV字形状8c同士をつなぐとき、例えば、第2斜線部8bと、第2斜線部8bに連結される第1斜線部8aとで、逆さまの同じV字形状8hを構成しているが、同じV字形状に限られず、異なる形状のV字形状としてもよい。
【0017】
なお、このジグザグ形状の走査経路8に沿ってレーザー光9が照射された部分は、ジグザグ形状の形成開始時点から、接合熱により部分的に溶融してジグザグ形状の区別は明確には残らず互いに溶け合い、
図3Bに斜線で示すとともに
図3Dに写真で示すように、全体として1つの太い幅の円環状の帯状のビード5となる。
図3Dに明白に示されるように、ジグザグ形状の走査経路8に沿ってレーザー光9が照射されると、ジグザグ形状の軌跡に沿って、レーザー走査痕が、ビード5の表面で実質的に径方向に延びる線状の痕跡として残っている。
【0018】
この帯状のビード5は、プーリー2の筒状部2bの嵌合穴2aと軸部材1の端部とで形成された円形の接合縁3に重なり、かつ、軸部材1の端部から溶け込み深さ方向において部分的に形成されている。より具体的な一例としては、ビード5は、
図3B及び
図4Aに示すように、内側の細い接合内縁部5aと、外側の細い接合外縁部5bと、中間の幅広の円環状の接合本体部5cとで概略構成されている。細い接合内縁部5aと細い接合外縁部5bとは、それぞれ、接合本体部5cへの入熱により熱変成した領域である。円環状の接合本体部5cは、2つの細い接合内縁部5aと細い接合外縁部5b間に挟まれて形成され、円形の接合縁3を一定幅で重なり、かつ所望の溶け込み深さまでの部分的な溶け込み6(
図4A参照)が形成されて溶接されている。一例として、筒状部2bの軸方向長さが5mmであって、ビード5が、軸部材1の端部から溶け込み深さ方向において部分的に形成されるとき、その部分的な溶け込み6の深さは1mmであり、筒状部2bの軸方向長さの50%未満が部分的な溶け込み6の深さとなっている。また、細い接合内縁部5aと細い接合外縁部5bは、それぞれ、円環状の接合本体部5cほど深くは、溶け込みが形成されていない。ここで、レーザー溶接部では、プーリー2の筒状部2bの嵌合穴2aの嵌合面(接合本体部5c)において、溶接深さ方向の一部だけ溶接させる構成となっている。これに対して、レーザーをウィービングさせて2つの部材それぞれを溶接深さ方向の全長にわたって溶かすとともに、裏当てにより部材が溶け落ちることを防ぐ、完全溶け込み溶接に関する技術があるが、そのような完全溶け込み溶接では、2つの部材の接合縁の両側近傍にエネルギーを与える必要があった。しかしながら、本発明の接合方法では、そのように接合縁の両側近傍にエネルギーを与える必要はない。
【0019】
また、
図4Dは、
図4Aのラップ率6.2%の場合のビード5の拡大断面の概略説明図である。レーザー走査痕の巨視的な説明として、ビード5のレーザー溶接部の表面は、接合縁3に交差する方向に延びる溝部5d及び隆起部5eが接合縁3に重なって交互に並んで形成されて、プーリー2と軸部材1とが接合固定されている。また、レーザー溶接部は、溝部5d及び隆起部5eに対するプーリー2の内周側の隣接部分(内側の細い接合内縁部5a)とプーリー2の外周側の隣接部分(外側の細い接合外縁部5b)とのそれぞれに熱変成部分を有している。
【0020】
このように、接合縁3と交差するようにレーザー光9を連続的にジグザグ形状に走査させることにより、接合縁3と重なる例えば所定幅の円環状の接合領域7内に、レーザー走査痕を有する帯状のビード5をレーザー溶接部として形成することにより、プーリー2と軸部材1とを安定して接合固定することができる。
【0021】
この結果、円形の接合箇所としての接合縁3に対して、芯ずれによる溶接不良を防止することができる。すなわち、円形の接合縁3に沿うようにレーザー光9を走査するのではなく、レーザー光9の走査方向を接合縁3と交差させることにより、芯ずれの発生を防止することができる。さらに、円形の接合縁3を含む例えば所定幅の円環状の接合領域7を設定し、その接合領域7内に接合縁3と重なる帯状のビード5をレーザー溶接部として形成するため、接合領域7内では、多少、帯状のビード5の位置がずれても許容され、全体としては、接合領域7内に帯状のビード5が形成される限り、芯ずれの発生を防止することができる。
【0022】
走査経路8の一例としては、
図3Aに示すように、円形の接合縁3を中心として内外に均等の距離だけ走査しつつジグザグに形成されており、円形の接合縁3を交差する間隔W2は、一例として均等にしている。このようにすれば、部分的に形成される溶け込み深さのバラツキを小さくすることができる。なお、この交差間隔W2は等間隔に限られず、間隔の距離が異なってもよい。そのような場合には、加工時間を短縮することができる。その理由は、交差間隔W2の密の部分と疎の部分とが交互に並ぶ構成により、密の部分で接合強度を確保しながら、疎の部分で加工時間を短縮することができるためである。
【0023】
次に、プーリーの接合方法について説明する。
【0024】
まず、プーリー2の嵌合穴2aに軸部材1の端部を嵌合する。一例としては、嵌合穴2aに軸部材1の端部がほぼ隙間なく嵌合して、円形の線状の接合縁3が形成される。
【0025】
次いで、
図2に示すように、軸部材1の別の端部側を筒状の治具10で支持する。このとき、溶接前の軸部材1を治具10にセットする作業を効率良く短時間で行うため、接合領域7(溶接後はビード5に対応。)の円の中心とプーリー2の円形状の中心との芯ずれ(偏心)を、意図的に許容している。一例としては、スポット径(例えば0.2mm)よりも大きい芯ずれ(偏心量)(例えば0.3mm)を生じさせている。
【0026】
次いで、レーザー照射装置11を使用して、予め決められた走査経路8に沿ってレーザー溶接を行う。すなわち、軸部材1の端部と嵌合穴2aとの円形の接合縁3を含む円環状の接合領域7内で、接合縁3の周方向に対して間隔W2をあけて複数回交差するような走査経路8に沿ってレーザー光9を照射して、帯状のビード5を形成し、プーリー2と軸部材1とを接合固定する。
【0027】
ここで、レーザー溶接時のスポット径、レーザー走査速度、及びレーザー出力については、溶け込み深さに応じて設定することができる。例えば、プーリー2と軸部材1の例では、少なくとも0.1mm以上の溶け込み深さを満足することが一般に要求されるため、一例としては、スポット径を30μm以上でかつ200μm以下とし、レーザー走査速度を200mm/s以上とし、レーザー出力を450W以下とすることができる。なお、スポット径が小さいほど溶け込み深さが深くなるので、スポット径が200μm以下であれば0.1mmよりも深い溶け込み深さを確保することもできる。一例としては、0.7mmの溶け込み深さで接合することができる。
【0028】
スポット径を200μm以下まで小さくすると、局所的に深い溶け込みを確保することができ、その結果、熱影響を抑えることができて、熱歪を低減することができるとともに、レーザー照射装置11内のレーザー発振器の出力を小さくすることができ、レーザー発振器の価格を抑えることができる。
【0029】
また、レーザー走査速度を最低200mm/s以上まで高速化すると、従来のレーザー溶接以外の溶接時間よりも溶接時間を短縮することができるとともに、熱影響を抑えることができて、熱歪を低減することができる。
【0030】
また、レーザー出力を450W以下まで下げると、レーザー発振器の価格を抑えることができるとともに、入熱を下げることにより、熱歪みを低減することができる。
【0031】
なお、治具10で軸部材1を支持するとき、治具10への軸部材1の取り付けを容易にするため、治具10と軸部材1との間には一定の寸法差(ガタ付き)が設定される場合がある。このように設定すれば、治具10に対して軸部材1すなわちプーリー2がガタ付いた状態(例えば鉛直方向から傾いた状態)でレーザー溶接が行われることになり、最終製品において、円環状の接合領域7は、プーリー2の中心からガタ付き分だけ偏心することになる。ここで、この偏心量(ガタ付き分)よりも、ビード5の幅W1が大きければ、円環状の接合領域7の中央に接合縁3を合わせたのち溶接を開始すれば、プーリー2と軸部材1との間の接合縁3は幅W1のビード5内に確実に収まることになり、安定した接合が行える。
【0032】
すなわち、軸部材1を治具10に支持した際のガタツキがXmmであるとすると、円環状の接合領域7の幅Xmm未満では、芯ずれ不良となる可能性がある。そこで、幅Xmm以上の円環状の接合領域7で溶け込み深さを満足させるようにすれば、芯ずれ不良が起きない。
【0033】
ここで、偏心量(ガタ付き分)の求め方について説明する。
【0034】
偏心量=(レーザー照射位置の繰り返し精度)+(接合縁3の内径と軸部材1の外径との同軸度)+(治具10のレーザー照射設備19への取り付け精度)+(治具10と軸部材1との片側クリアランス)
ここで、レーザー照射位置の繰り返し精度とは、製品加工の度に発生する光学系のずれによって、スポット位置がずれる最大距離(放射方向)(μm)を意味する。また、接合縁3の内径と軸部材1の外径との同軸度とは、製品毎のプーリー2の中心と軸部材1の中心との距離(μm)を意味する。また、治具10と軸部材1との片側クリアランスとは、治具10と軸部材1との間に発生する隙間の最大距離(放射方向)(μm)を意味する。
【0035】
この計算式により、偏心量を求めて、この偏心量以上の幅の円環状の接合領域7で溶け込み深さを満足させるようにすれば、前記した不具合の発生を防止することができる。
【0036】
なお、原理的には、接合縁3よりも軸部材1の中心側での隣接距離と外周側での隣接距離との差によって、内外周に溶け込み深さの相違が生じるはずである。が、スポット径(例えば50μm)がラップするほど、接合縁3を交差するとき狭間隔でレーザー走査すれば、内外周に実質的な溶け込み深さの相違は生じないようにすることができる。
【0037】
すなわち、実際の帯状のビード5では、一例として、接合縁3の全周で隙間なく溶け込みを生じさせるため、接合縁3に対する内外での蛇行の行き帰りで、レーザースポット9a同士が重なり合うような狭い間隔でレーザー走査すればよい。ただし、レーザースポット9a同士が少し離れていても、スポット9aの周囲に溶け込みが生じるため、接合縁3の全周で隙間なく溶け込みを生じさせることができる。
【0038】
ここで、レーザー光9のスポット径の重なり率、すなわち、ラップ率=接合縁3上でのスポット重なり幅/スポット径、と定義する。スポット重なり幅は、隣接するスポット9a同士が重なっているときは正の値とし、重なっていないときは負の値とする。スポット径は例えば50μmとする。
【0039】
ラップ率が−63%と互いに離れた状態では、接合縁3の周方向の全周で隙間なく溶け込みが発生し、全周加工時間は約3secであった。これは、以下に列挙する例の中では、最も悪い例であり、これよりもマイナスが大きい場合には、溶け込みが無い箇所が繰り返し発生してしまう可能性があるため、好ましくない。
【0040】
ラップ率が−40%と互いに離れた状態では、接合縁3の周方向の溶け込み深さのバラツキは42%であるが、十分な強度を得ることができ、全周加工時間は約7secであった。
【0041】
ラップ率が−17%と互いに離れた状態では、接合縁3の周方向の溶け込み深さのバラツキは36%であるが、全周加工時間は約10secであった。
【0042】
ラップ率が6%と互いに少し重なり合った状態では、接合縁3の周方向の溶け込み深さのバラツキは30%であるが、全周加工時間は約15secであった。
【0043】
ラップ率が22%と互いに重なり合った状態では、接合縁3の周方向の溶け込み深さのバラツキは30%であり、全周加工時間は約20secであった。
【0044】
ラップ率が30%と互いに重なり合った状態では、接合縁3の周方向の溶け込み深さのバラツキは10%であるが、全周加工時間は約30secであった。
【0045】
これらの例より、ラップ率は−40%以上で30%未満の範囲が好ましい範囲である。この範囲内ならば、バラツキは42%〜10%内に収まり、隙間なくビード形成するだけでなく、良品率を高め(接合不良を防ぎ)つつ、プラズマアーク溶接よりも加工時間を短縮することができる。
【0046】
なお、従来のプラズマアーク溶接による全周加工時間は約30secを越える時間が必要となっているが、レーザー光9による溶接は、この約30secより短くすることができる。ここで、プラズマアーク溶接よりも時間を短縮することができる理由は、たとえ装置のパワーが同じであっても、レーザー溶接では、集光によりエネルギー密度(J/m
2)を極めて高く調整することができる一方、プラズマアーク溶接では、エネルギー密度(J/m
2)は固定値であり、高く調整することができないためである。
【0047】
図4Bの(1)に示すように、接合縁3を境とする2つの部材12a,12bの伝熱性が等しいときには、2つの部材12a,12bの溶け込み深さ13は、
図4Bの(2)〜(4)に示すように同じである。なお、
図4Bの(2)は、走査経路8の第1部材12a側の内端でレーザー光9を照射したときでかつ接合縁3に対する走査経路8の交差間隔が広いとき、接合縁3を境とする径方向断面14での2つの部材12a,12bうち照射位置に近い第1部材12a側の溶け込み深さ13が第2部材12bより大きくなることを表している。
図4Bの(3)では、走査経路8の第1部材12a側の内端でレーザー光9を照射したときでかつ接合縁3に対する走査経路8の交差間隔が狭いとき、接合縁3を境とする径方向断面14での2つの部材12a,12bの溶け込み深さ13は同じになることを表している。
図4Bの(4)は、走査経路8の接合縁3でレーザー光9を照射したとき、接合縁3を境とする径方向断面15での2つの部材12a,12bの溶け込み深さ13が等しいことを表している。
【0048】
しかしながら。
図4Cの(1)に示すように、2つの部材12c,12d間での含有炭素量の相違により伝熱性が異なり、高伝熱部材12cと低伝熱部材12dとが隣接するときには、溶け込みが2つの部材12c,12d間の境界である接合縁3で非連続になり、低伝熱部材12d側では所定の溶け込み深さに到達しない場合がある。すなわち、
図4Cの(2)は、走査経路8の接合縁3でレーザー光9を照射したとき、接合縁3を境とする径方向断面16での2つの部材12c,12dのうち高伝熱部材12cの溶け込み深さ13が低伝熱部材12dよりも大きくなることを表している。高伝熱部材12cの溶け込み深さ13が所定の溶け込み深さまで到達していると仮定すると、低伝熱部材12dの溶け込み深さ13は所定の溶け込み深さまで到達していないことになる。このような場合を避けるため、溶け込み深さが浅くなる低伝熱部材12dに合わせてレーザー出力をより大きく設定し、低伝熱部材12d側で所定の溶け込み深さを確保する必要がある。又は、そのようにレーザー出力
の設定を変更する代わりに、レーザー出力の設定は変更せずに、溶け込み深さが深くなる高伝熱部材12cに合わせてレーザー出力を設定した状態でレーザー溶接を行うが、そのレーザー出力では溶け込み深さが不足する低伝熱部材12dの溶接個所では、走査時間を長くするか、又は、走査経路8を長くして、所望の溶け込み深さを確保するようにしてもよい。走査経路8を長くする例としては、走査経路8を重複させるか又は1つの渦巻き又は円を追加して経路を長くすることが考えられる。
【0049】
走査経路8の開始点と終点とは必ず一致させる必要はなく、最低限、開始点付近の経路と終点付近の経路とが交差すればよい。例えば5mmだけでもオーバーラップさせるようにすればよい。このようにすることで、走査経路8を自由に設定することができる。
【0050】
前記実施形態によれば、従来のレーザー溶接に対する効果として、軸部材101と円板部材102の嵌合穴103との縁に沿ってレーザー光を照射するのではなく、接合縁3と交差するように走査するため、円形の接合箇所に対して芯ずれによる溶接不良を防止することができる。また、接合縁3の近傍に対してレーザー光9を局所的に照射するため、プラズマ溶接やTIG溶接などの従来の溶接法を採用する場合に比べて入熱量が少なくて済み、熱歪が大幅に減少し、溶接工程の前後での寸法誤差を大幅に抑制することができる。このため、従来、TIG溶接などでは、プーリーに生じた熱歪を取るための削り工程又は熱プレスによる微調整工程が溶接後に必要となっていたが、すべて不要となり、組み付け精度及び製品精度を向上させることができる。また、プラズマ溶接に対する効果として、入熱量が少なくて済むため、加工時間の短縮が図れ、かつ、溶け込み深さのバラツキを少なくすることができる。一例として、従来のプラズマ溶接では溶接時間が40秒であったのが、前記実施形態では10秒となり、1/4に短縮することが可能であり、従来のプラズマ溶接では600kwのパワーが必要であったのが、レーザー出力として450W以下まで下げることができ、パワーを大幅に削減することが可能である。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のように、その他種々の態様で実施できる。ただし、この明細書及び図面では、理解しやすくするため、ジグザグなどの様々なレーザー光9の走査経路8の形状を明確に記載及び図示しているが、実際には、先の実施形態と同様に、走査経路8の形状の形成開始時点から、接合熱により部分的に溶融して走査経路8の形状の区別は明確には残らず互いに溶け合い、全体として1つの太い幅の帯状のビード5となっている。しかしながら、説明上、及び、理解しやすくするため、走査経路8の形状を明確に区別して説明する。
【0052】
(第1変形例)
前記実施形態の第1変形例として、
図5Aに示すように、点線で示す円形の接合縁3の全周を走査経路8としてレーザー溶接するとき、全周を複数の領域に分割して、隣接する領域ではなく、隣接しない、例えば1つおきの領域を順に溶接することにより、熱影響の拡散を抑制するようにしてもよい。一例として、円形の接合縁3を0°〜360°まで溶接するとき6個の部分に分割したのち、まず、0°〜60°の部分18aを溶接し、次いで、120°〜180°の部分18b、240°〜300°の部分18c、60°〜120°の部分18d、180°〜240°の部分18e、300°〜360°の部分18fというように、部分的に順に溶接するようにしてもよい。
【0053】
また、全周をレーザー溶接する代わりに、全周の一部のみを走査経路8−1として、部分的にレーザー溶接することにより、熱影響の拡散をより抑制するようにしてもよい。例えば、
図5Bに示すように、円形の接合縁3を、部分的に、0°〜5°の部分18gと、120°〜125°の部分18hと、240°〜245°の部分18iとの3か所に、部分的にウィービングして溶接するようにしてもよい。又は、
図5Cに示すように、0°〜5°の部分18jと、90°〜95°の部分18kと、180°〜185°の部分18mと、270°〜275°の部分18nとの4か所に対して、部分18j、部分18m、部分18k、部分18nのように対角線に配置された部分の順番でウィービングして溶接するようにしてもよい。それぞれの5°の角度範囲内の部分で、接合縁3に対して走査経路8は、最低8回程度(例えばラップ率が−40%のときなどにおいて)交差するのが好ましい。一例としては、ラップ率が−17%のとき、約10回程度交差することができる。
【0054】
なお、前記例では、接合縁3に沿って走査経路8を形成しているが、接合縁3に沿わずに、例えば
図5Dに示すように、接合縁3の接線方向に長方形の接合領域7−10を設定して、その中でジグザグの走査経路8−10が直線的に延びることにより、走査経路8−10が接合縁3の一部と重なるような例も可能である。
【0055】
この第1変形例によれば、接合縁3の全周ではなく、一部のみ溶接を実施するため、溶け込み深さのバラツキを少なくすることができるとともに、熱歪を大幅に抑制することができる。
【0056】
(第2変形例)
第2変形例として、
図6に示すように、走査経路8−2を、円形の接合縁3に対して交差しかつ湾曲して細かく蛇行するようにして、U字形状を連続的に形成するようにウィービングして連続的にレーザー溶接することもできる。このようにすれば、先の実施形態では、ジグザグ形状の折り返しの角で走査速度が落ちるために当該部分での入熱が大きくなる可能性があるが、この第2変形例では、溶け込み深さのバラツキを先の実施形態よりも小さくすることができる。
【0057】
(第3変形例)
第3変形例として、
図7に示すように、走査経路8−3を、円形の接合縁3に対して交差しかつ湾曲してS字状に大きく蛇行するようにして、S字形状のウィービングを連続的に実施することもできる。このようにすれば、全体として先の実施形態よりも走査経路8−3が短くなり、加工時間を短縮することができる。
【0058】
(第4変形例)
第4変形例として、
図8に示すように、走査経路8−4を、円形の接合縁3に対して交差する斜線のウィービングを所定間隔で間欠的に実施するようにして、非連続で断続的に加工するようにしてもよい。このようにすれば、全体として先の実施形態よりも走査経路8−4が短くなり、加工時間を短縮することができる。
【0059】
(第5変形例)
第5変形例として、
図9に示すように、走査経路8−5を、円形の接合縁3に対して交差するV字のウィービングを所定間隔で間欠的に実施するように、非連続で断続的に加工することもできる。このようにすれば、全体として先の実施形態よりも加工時間を短縮することができる。
【0060】
(第6変形例)
第6変形例として、
図10に示すように、走査経路8−6を、円形の接合縁3に対して交差するように連続した螺旋形状のウィービングを実施し、かつ、隣接した渦同士を部分的に重ね合せるように連続的にレーザー溶接することもできる。このようにすれば、全体として先の実施形態よりも接合縁3上で走査経路8−6が細かく配置されることになり、全体として先の実施形態よりも溶け込み深さのバラツキを少なくすることができる上に加工時間を短縮することができる。この第6変形例では、接合縁3上で走査経路8−6が細かく配置されて接合縁3の各位置を単時間で複数回スポットが近接して通過するため、一回あたりのパワー等を抑制することができ、先の実施形態と比較して、パワー等が低レベルのレーザー照射装置11を使用することが可能となる。
【0061】
(第7変形例)
第7変形例として、
図11に示すように、走査経路8−7を、円形の接合縁3に対して交差するように多数の円形状のウィービングを断続的に一部重なるように実施して、断続的にレーザー溶接することもできる。このようにすれば、全体として先の実施形態よりも接合縁3上で走査経路8−7が細かく配置されることになり、全体として先の実施形態よりも溶け込み深さのバラツキを少なくすることができる。この第7変形例では、接合縁3上で走査経路8−7が細かく配置されて接合縁3の各位置を単時間で複数回スポットが近接して通過するため、一回あたりのパワー等を抑制することができ、先の実施形態と比較して、パワー等が低レベルのレーザー照射装置11を使用することが可能となる。
【0062】
(第8変形例)
第8変形例として、
図12に示すように、
図6に示す走査経路8−2を1周目の走査経路8−8として接合縁3を一周したのち、接合縁3の周方向の位相をずらせ、次いで、
図6に示す走査経路8−2を2周目の走査経路8−9として接合縁3をさらに一周するようにして、走査経路8−2を2周形成するようにしてもよい。このようにすれば、接合縁3上で2周の走査経路8−8,8−9が細かく配置されて接合縁3の各位置を単時間で複数回スポットが近接して通過するため、一回あたりのパワー等を抑制することができ、
図6の第2変形例と比較して、パワー等が低レベルのレーザー照射装置11を使用することが可能となる。また、溶け込み深さのバラツキを
図6の第2変形例よりも小さくすることができる。
【0063】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。