【実施例】
【0040】
(実施例)
上記内面溝付管の実施例を、図を用いて説明する。内面溝付管1は、アルミニウム材からなり、
図1に示すように、その内表面に多数の溝11が設けられている。内面溝付管1は、管軸方向と平行な方向に延び、隣り合う溝11を区画するフィン2と、溝11の底部111から内面溝付管1の内側へ突出し、管軸方向と平行な方向に延びる突条部3とを有している。フィン2の高さをH
f[mm]、突条部3の高さをH
p[mm]、管軸方向に垂直な断面における突条部3の根元32の幅をW
p[mm]としたときに、これらの値は下記の(1)式〜(2)式の関係を満足している。
【0041】
0.04≦H
p≦H
f−0.06 ・・・(1)
0.04≦W
p≦0.08 ・・・(2)
【0042】
本例の内面溝付管1は、JIS A3003合金から構成されている。内面溝付管1の外径ODは7mmであり、内径IDは6.25mmである。また、内面溝付管1の溝11の底部111における肉厚TF(
図1参照)、即ち、フィン2及び突条部3が配置されていない部分における肉厚は0.47mmである。なお、内面溝付管1の内径IDは、全てのフィン2の先端21に内接する内接円C1の直径として算出することができる(
図1参照)。
【0043】
内面溝付管1は、42本のフィン2を有している。各フィン2は、その根元22において最大の幅W
fを有し、先端21、即ち内面溝付管1の管軸側に近づくほど幅が小さくなっている。より具体的には、本例のフィン2は、
図1に示すように、管軸方向に垂直な断面において台形状を呈しており、フィン2の先端21は丸みを帯びている。
【0044】
フィン2の高さH
fは、内面溝付管1の外径ODの値から内径IDの値と溝11の底部111における肉厚TFの値とを差し引いた値として算出することができる。本例のフィン2の高さH
fは0.28mmである。
【0045】
フィン2の頂角γは、以下のようにして算出することができる。まず、管軸方向に垂直な断面において、フィン2の側面における直線部23を延長し、2本の延長線Lを設定する。そして、これらの延長線L同士のなす角度をフィン2の頂角γとすることができる。本例のフィン2の頂角γは10°である。なお、フィン2の頂角γは、例えば、0°超20°未満の範囲から適宜設定することができる。
【0046】
フィン2の根元22の幅W
fは、以下のようにして算出することができる。即ち、管軸方向に垂直な断面において、全ての溝11の底面112に内接する内接円C2(
図1、
図2参照)を設定する。この内接円C2と、上述した各延長線Lとの交点Pを求める。そして、交点P同士の距離をフィン2の根元22の幅W
fとすることができる(
図2参照)。本例のフィン2の根元22の幅W
fは0.14mmである。
【0047】
管軸方向に垂直な断面において、溝11の底面112とフィン2の側面における直線部23との間には、円弧状を呈する接続部24が介在している。
図2に示すように、接続部24は、溝11の底面112とフィン2の直線部23との中間がくぼむように湾曲している。本例において、管軸方向に垂直な断面における、溝11の底面112とフィン2の側面との接続部24の曲率半径R
fは0.04mm以下である。
【0048】
また、本例の内面溝付管1は、
図1に示すように、各溝11の底部111に1本の突条部3を有している。突条部3は、その根元32において最大の幅W
pを有し、先端31、即ち内面溝付管1の管軸側に近づくほど幅が小さくなっている。より具体的には、本例の突条部3は、
図1に示すように、管軸方向に垂直な断面において台形状を呈しており、突条部3の先端31は丸みを帯びている。
【0049】
突条部3の高さH
pは、以下のようにして算出することができる。まず、全ての突条部3の先端31に内接する内接円C3を設定し、その直径MDを算出する。そして、内面溝付管1の外径ODの値から内接円C3の直径MDの値と溝11の底部111における肉厚TFの値とを差し引いた値をH
pとすることができる。本例の突条部3の高さH
pは0.10mmである。
【0050】
図1に示す突条部3の根元32の幅W
pは、フィン2の根元22の幅W
fと同様の方法により算出することができる。即ち、図には示さないが、管軸方向に垂直な断面において、突条部3の側面における直線部を延長し、2本の延長線を設定する。この延長線と、溝11の底面112に内接する内接円C2との交点を求める。この交点同士の距離を突条部3の根元32の幅W
pとすることができる。本例の突条部3の根元32の幅W
pは0.05mmである。
【0051】
管軸方向に垂直な断面において、溝11の底面112と突条部3の側面との間には、円弧状を呈する接続部が介在している。図には示さないが、突条部3の接続部は、フィン2の接続部24と同様に、溝11の底面112と突条部3の側面との中間がくぼむように湾曲している。本例において、管軸方向に垂直な断面における、溝11の底面112と突条部3の側面との接続部の曲率半径R
pは0.04mm以下である。
【0052】
次に、本例の内面溝付管1の作用効果を説明する。内面溝付管1は、その内表面に、管軸方向と平行な方向に延び、隣り合う溝11を区画するフィン2と、溝11の底部111から内面溝付管1の内側へ突出し、管軸方向と平行な方向に延びる突条部3とを有している。また、内面溝付管1におけるフィン2の高さH
fは0.28mmであり、突条部3の高さH
pは0.10mmであり、突条部3の根元32の幅W
pは0.05mmである。従って、内面溝付管1におけるフィン2の高さH
f、突条部3の高さH
p及び根元32の幅W
pは、下記(1)式〜(2)式の関係を満足している。
0.04≦H
p≦H
f−0.06 ・・・(1)
0.04≦W
p≦0.08 ・・・(2)
【0053】
そのため、管軸方向に垂直な断面における濡れ縁の長さ、即ち、管の内表面における、液状の冷媒と接触し得る部分の長さを長くすることができる。その結果、冷媒の蒸発を促進し、蒸発熱伝達率を向上させることができる。
【0054】
また、突条部3の高さH
p及び根元32の幅W
pを上記特定の範囲とすることにより、濡れ縁の長さを長くしつつ、突条部3の中実部分の断面積の増大を抑制することができる。これにより、突条部3の存在に起因する、管軸方向に垂直な断面における溝11の内部空間の断面積S
1(
図1参照)の減少を抑制することができ、ひいては溝11の断面積S
1の総和である液溜面積の減少を抑制することができる。その結果、凝縮熱伝達率の低下を抑制することができる。また、溝11の断面積S
1の減少を抑制することにより、圧力損失の増大を抑制することもできる。
【0055】
更に、内面溝付管1における溝11は多数のフィン2により区画されているため、機械拡管加工において拡管プラグ等から受ける押圧力を多数のフィン2に分散させることができる。それ故、内面溝付管1は、従来のアルミニウム製内面溝付管のようにフィン2の高さや厚さを大きくしなくても、機械拡管加工によるフィン2の変形を抑制し、更には管の外径ODを均一に拡大することができる。このように、内面溝付管1は、機械拡管加工が施される用途にも適用することができる。
【0056】
以上のように、内面溝付管1は、機械拡管加工が可能であり、圧力損失の増加及び凝縮熱伝達率の低下を抑制しつつ、蒸発熱伝達率を向上させることができる。
【0057】
(実験例)
本例は、内面溝付管の性能を評価した例である。本例においては、表1に示すように、フィンや突条部の寸法等を種々の値に変更した内面溝付管(試験体1〜4)を作製した。なお、試験体1は、実施例1の内面溝付管1とほぼ同一の構成を有している。また、試験体2は、突条部を有さない従来の内面溝付管に相当する試験体である。試験体3、4は、表1に示すように各寸法等を変更した以外は実施例1と同様の構成を有している。
【0058】
表1には、フィン等の寸法とともに、各試験体の濡れ縁の長さw[mm]、液溜面積S[mm
2]及び単位長さあたりの質量ω[g/m]を記載した。濡れ縁の長さwは、具体的には、管軸方向に垂直な断面において、溝11に面する部分の長さw
1[mm](
図1参照)の合計である。また、液溜面積Sは、具体的には、管軸方向に垂直な断面における溝11の断面積S
1[mm](
図1参照)の合計である。なお、濡れ縁の長さw及び液溜面積Sの値は、各試験体の設計図面に基づいて算出した値である。
【0059】
また、各試験体が下記式の関係を満たす場合には、表1中の対応する欄に記号「A」を記載し、満たさない場合には記号「B」を記載した。
0.04≦H
p≦H
f−0.06 ・・・(1)
0.04≦W
p≦0.08 ・・・(2)
0.80<(OD−2TF)/(W
f×N)<1.05 ・・・(3)
0.04≦H
p≦(H
f/2) ・・・(4)
0.03≦H
f/OD≦0.06 ・・・(5)
【0060】
試験体の拡管加工性を評価するため、各試験体に拡管プラグを挿入し、外径ODが拡管加工前の外径の105%となるように機械拡管加工を行った。機械拡管加工後に試験体の断面を観察し、フィンが倒れているか否かを確認した。断面観察において、フィンが倒れていなかった試験体については表1の「拡管加工性」の欄に記号「A」を、フィンが倒れていた試験体については同欄に記号「B」を記載した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示したように、突条部を有しない試験体2の濡れ縁の長さw、液溜面積S及び単位長さあたりの質量ωの値を基準にすると、試験体1は、濡れ縁の長さwの増加量が21%であるのに対し、液溜面積Sの減少量は2%、質量ωの増加量は1%にとどまっている。
【0063】
一方、突条部の幅が広い試験体3は、試験体1に比べて濡れ縁の長さwの増加量が少なく、液溜面積Sの減少量及び質量ωの増加量が大きい。これらの結果から、試験体1は、試験体3に比べて突条部の存在による液溜面積Sの減少を抑制しつつ、濡れ縁の長さwを大きくすることができたことが理解できる。それ故、試験体1は、試験体3に比べて蒸発熱伝達率及び凝縮熱伝達率が高くなるとともに、冷媒が蒸発する際の圧力損失が低くなると推測される。
【0064】
また、試験体4は、フィンの根元の幅W
fを試験体2よりも狭くしている。これにより、試験体2に比べて濡れ縁の長さwを21%増加させただけではなく、液溜面積Sを3%増加、質量ωを1%減少させることができた。これらの結果から、試験体4は、試験体1と同等の蒸発熱伝達率を有し、更に、凝縮熱伝達率をより高く、冷媒が蒸発する際の圧力損失をより低くできると推測される。
【0065】
しかし、試験体4は、上記式(3)を満足していないため、機械拡管加工後にフィンが倒れた。この結果から、上記式(3)を満足しない内面溝付管は、上記式(3)を満足する内面溝付管に比べて拡管加工性に劣ることが理解できる。また、上記式(3)を満足しない内面溝付管は、機械拡管加工が施された場合に、拡管加工の条件によってはフィンや突条部が変形し、熱伝達率の低下や冷媒が蒸発する際の圧力損失の増大を招くおそれがある。
【0066】
次に、機械拡管加工前の試験体1〜3を用い、蒸発熱伝達率、凝縮熱伝達率及び冷媒が蒸発する際の圧力損失の測定を行った。これらの値の測定には、
図3に示す測定装置5を使用した。測定装置5は、ガス状の冷媒を圧縮する圧縮器51と、圧縮された冷媒を凝縮し、液状の冷媒を得る凝縮器52と、液状の冷媒を減圧する膨張弁53と、減圧された液状の冷媒を蒸発させ、ガス状の冷媒を得る蒸発器54とを有している。冷媒は、測定装置5内を、圧縮器51、凝縮器52、膨張弁53、蒸発器54を順次通過する向きに流れている(矢印500)。
【0067】
蒸発熱伝達率の測定においては、有効長さ1500mmの試験体を蒸発器54に組み込み、冷媒を蒸発させる際の熱伝達率を測定した。また、この熱伝達率の測定と同時に、蒸発器54の入口541と出口542との圧力差を測定し、この値を圧力損失とした。冷媒としてはR32を使用し、蒸発器54の入口541における冷媒の乾き度を0.2、出口542における飽和温度を3℃、出口542における冷媒の過熱度を2℃とした。
【0068】
凝縮熱伝達率の測定においては、試験体を凝縮器52に組み込み、冷媒を凝縮させる際の熱伝達率を測定した。冷媒としてはR32を使用し、凝縮器52の入口521における冷媒の過熱度を23℃、入口521における飽和温度を40℃、出口522における冷媒の過冷却度を5℃とした。なお、通常、冷媒が凝縮する際の圧力損失は軽微であり、内面溝付管の性能にほとんど影響しないため、冷媒が凝縮する際の圧力損失の測定は行わなかった。
【0069】
これらの測定結果は、表2〜表4及び
図4〜
図6に示した通りであった。なお、いずれの測定においても、冷媒流量を10kg/hとした条件及び20kg/hとした条件の2種の条件で測定を行った。また、
図4〜
図6の横軸は冷媒流量(kg/h)の値であり、縦軸はそれぞれ蒸発熱伝達率(kW/m
2・K)、凝縮熱伝達率(kW/m
2・K)、冷媒蒸発時の圧力損失(kPa)の値である。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
表2及び
図4に示したように、試験体1の蒸発熱伝達率は、突条部3を有さない試験体2の1.3〜1.4倍となった。また、試験体1の蒸発熱伝達率は、試験体1に比べて突条部3の根元32の幅W
pが広い試験体3の1.1倍程度となった。これらの結果から、突条部3の根元32の幅W
pを狭くすることにより、内面溝付管1の蒸発熱伝達率を大幅に向上可能であることが理解できる。
【0074】
表3及び
図5に示したように、試験体1の凝縮熱伝達率は、試験体2の0.94〜0.98倍となり、突条部3を設けない場合に比べて凝縮熱伝達率が若干低下した。しかし、試験体1の凝縮熱伝達率は、試験体3の1.04〜1.05倍程度となった。これらの結果から、突条部3の根元32の幅W
pを狭くすることにより、内面溝付管1の凝縮熱伝達率の低下を抑制可能であることが理解できる。
【0075】
表4及び
図6に示したように、試験体1における冷媒が蒸発する際の圧力損失は、試験体2の1.04〜1.05倍となり、突条部3を設けない場合に比べて圧力損失が若干増加した。しかし、試験体1の圧力損失は、試験体3の0.93〜0.96倍程度となった。これらの結果から、突条部3の根元32の幅W
pを狭くすることにより、冷媒が蒸発する際の圧力損失の増大を抑制可能であることが理解できる。
【0076】
以上をまとめると、上記(1)式〜(2)式を満足するフィン2及び突条部3を有する試験体1は、上記(1)式〜(2)式を満足しない試験体3よりも冷媒が蒸発する際の圧力損失の増加及び凝縮熱伝達率の低下を抑制しつつ、突条部を有しない試験体2に比べて蒸発熱伝達率を大幅に向上させることができた。
【0077】
本発明に係る内面溝付管1は、上述した実施例及び実験例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。