特許第6802705号(P6802705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802705
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/18 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
   H01B7/18 Z
   H01B7/18 C
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-244763(P2016-244763)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-98144(P2018-98144A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 圭一
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−235687(JP,A)
【文献】 特開2008−139635(JP,A)
【文献】 特開平10−269858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚り合わされた複数の絶縁線心を含む線心撚体と前記線心撚体を覆うシースとを備えた電線の製造方法であって、
前記線心撚体の外周に直接接触するように保持糸を巻き付ける工程と、
加熱溶融されたシース材料を前記線心撚体及び前記保持糸を覆う管形状を有するように押出加工することによって前記シースを形成する工程と、を備え、
前記保持糸は、
前記シース材料の融点よりも高い融点を有する高融点糸と、前記シース材料の融点以下の融点を有する低融点糸と、が束ねられた糸であ
前記保持糸が、
前記高融点糸と前記低融点糸とが撚り合わされた撚り糸であり、且つ、前記保持糸を巻き付ける工程において前記撚り糸の撚りの向きと同じ向きに前記線心撚体の外周に螺旋状に巻き付けられる、
電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、
前記保持糸が、
該保持糸の軸線に直交する断面における前記高融点糸と前記低融点糸とが占める断面積の比が9:1〜5:5である、
電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚り合わされた複数の絶縁線心を含む線心撚体とその線心撚体を覆うシースとを備えた電線の製造方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の絶縁線心を有する電線の製造方法が提案されている。例えば、従来の電線の製造方法の一つ(以下「従来方法」という。)は、複数の絶縁線心を撚り合わせて線心撚体を形成する工程と、その線心撚体の外周に密着するように押え巻きテープを巻き付ける工程と、その押え巻きテープを覆うようにシースを形成する工程と、を備えている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−142070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来方法によって製造した電線を実際に使用する際、絶縁線心を電線の外部に露出させるべく、シース及び押え巻きテープを切り開いて除去する(いわゆる皮剥きを行う)ことになる。更に、そのように除去したシース及び押え巻きテープを回収して廃棄する(廃棄物を処分する)ことになる。従来方法によって製造した電線の構造上、これら処理(皮剥き及び廃棄物の処分)を排除することは困難である。
【0005】
しかし、電線を使用する際の利便性・作業性を向上させる観点から、これら処理が出来る限り簡略化されるように電線を構成する(製造する)ことが望ましい。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用時の利便性・作業性に優れる電線を製造可能な電線の製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係る電線の製造方法は、下記(1)〜()を特徴としている。
(1)
撚り合わされた複数の絶縁線心を含む線心撚体と前記線心撚体を覆うシースとを備えた電線の製造方法であって、
前記線心撚体の外周に直接接触するように保持糸を巻き付ける工程と、
加熱溶融されたシース材料を前記線心撚体及び前記保持糸を覆う管形状を有するように押出加工することによって前記シースを形成する工程と、を備え、
前記保持糸は、
前記シース材料の融点よりも高い融点を有する高融点糸と、前記シース材料の融点以下の融点を有する低融点糸と、が束ねられた糸であ
前記保持糸が、
前記高融点糸と前記低融点糸とが撚り合わされた撚り糸であり、且つ、前記保持糸を巻き付ける工程において前記撚り糸の撚りの向きと同じ向きに前記線心撚体の外周に螺旋状に巻き付けられる、
電線の製造方法であること。

上記(1)記載の製造方法において、
前記保持糸が、
該保持糸の軸線に直交する断面における前記高融点糸と前記低融点糸とが占める断面積
の比が9:1〜5:5である、
電線の製造方法であること。
【0008】
上記(1)の構成の電線の製造方法によれば、従来方法による押え巻きテープに代えて、低融点糸および高融点糸が束ねられた保持糸が用いられる。この保持糸を構成する糸の一部(低融点糸)は、シースを形成(押出成形)する工程において溶融する。その結果、本構成の製造方法により製造された電線には、保持糸として、シース形成時に溶融しなかった保持糸の他部(高融点糸)のみが残ることになる。
【0009】
そのため、電線の使用時(皮剥きを行う際)には、保持糸の他部(高融点糸)及びシースを除去すればよいことになる。よって、従来方法によって製造した電線に比べ、押え巻きテープ(保持糸に比べ、一般に、切除に大きな力を要し、廃棄物がかさばる)を使用しない分、切除処理(皮剥き)が容易になり且つ処分すべき廃棄物も低減される。
【0010】
したがって、本構成の電線の製造方法によれば、使用時の利便性・作業性に優れる電線を製造可能である。
【0011】
上記構成の電線の製造方法は、更に別の効果も有する。具体的には、本製造方法において用いられる保持糸は、従来方法の押え巻きテープと同様、線心撚体の撚りを維持するように線心撚体を保持する機能を有する。この線心撚体の保持に関し、シースが設けられる前に保持糸に求められる保持力と、シースが設けられた後に保持糸に求められる保持力とは、異なる。具体的には、前者の保持力(シース形成前)よりも後者の保持力(シース形成後)は小さくてもよい。この理由は、線心撚体を覆うように設けられたシースによっても、線心撚体の撚りが維持され得るためである。換言すると、シース形成後には、保持糸およびシースの双方によって線心撚体の撚りが維持されることになる。そのため、上述したように保持糸の一部(低融点糸)が溶融しても、線心撚体の撚りは維持される。よって、本製造方法は、電線としての機能(絶縁線心の撚り)の維持と、電線としての優れた利便性・作業性と、を両立可能な電線を製造できる。
【0012】
更に、上記構成の電線の製造方法では、保持糸として、高融点糸と低融点糸とが束ねられた糸が用いられる。これにより、例えば、高融点糸と低融点糸とが離れている場合(高融点糸と低融点糸とが線心撚体の別々の場所に単独で巻き付けられている場合)に比べ、この保持糸は、外部からの衝撃等への耐久性が高まることになる。この理由は、例えば、外部からの衝撃等を(単独の糸ではなく)複数の糸に分散させることにより、一本の糸あたりに及ぼされる衝撃等の大きさを小さくできるためである。よって、電線の製造過程等において、保持糸が意図せず断線すること等を防止できる。
【0013】
ところで、上記「線心撚体」は、絶縁線心とは別の構造物を含んでもよい。例えば、線心撚体は、絶縁線心の間に設けられる介在物を含んでもよい。更に、上記「保持糸」は、従来方法の押え巻きテープのように線心撚体の外周全体を覆い隠すように設けられる必要はなく、線心撚体の撚りを維持可能な程度に(例えば、螺旋状に)設けられていればよい。加えて、上記「シース」は、線心撚体及び保持糸に必ずしも密着する必要はなく、シースと線心撚体及び保持糸との間に他の層(例えば、電磁シールド層など)が設けられてもよい。
【0014】
更に、上記「線心撚体の外周に直接接触するように保持糸を巻き付ける工程」では、あらかじめ形成しておいた線心撚体の外周に保持糸を巻き付けてもよく、線心撚体の形成と保持糸の巻き付けとを一括して行ってもよい(例えば、線心撚体を形成しながら保持糸を巻き付けてもよい)。即ち、線心撚体の形成と保持糸の巻き付けとは、別々の工程として行われてもよく、一つの工程として行われてもよい。
【0015】
なお、上記構成の電線の製造方法によって製造された電線(結果物としての電線)は、撚り合わされた複数の絶縁線心を含む線心撚体と、線心撚体の外周に巻き付いた保持糸(高融点糸)と、線心撚体および保持糸を覆うシースと、を備えることになる。更に、この電線は、保持糸(高融点糸)に沿ってその保持糸を構成する樹脂よりも融点の低い樹脂の凝固体(低融点糸が溶融した後に凝固したもの)が存在する、又は、保持糸の周辺の部材中に(例えば、シース中に)その低融点樹脂(低融点糸を構成していた樹脂)が分散している(例えば、保持糸の周辺領域における低融点樹脂の濃度が、他の領域よりも高い)、との特徴を有することとなる。
【0016】
更に、上記()の構成の電線の製造方法によれば、保持糸が、高融点糸と低融点糸との撚り糸して構成される。り糸は、無撚り糸に比べ、高融点糸と低融点糸との分離が生じ難い分、上述した外部からの衝撃等への耐久性に優れる。更に、撚り糸は、無撚り糸に比べ、使用時のほつれ等が生じ難いため、取り扱いがより容易である。よって、保持糸として撚り糸を用いることが好ましい。
【0017】
更に、上記()の構成の電線の製造方法によれば、撚り糸の撚りの向き(具体的には、S撚りの向き又はZ撚りの向き)と同じ向きに保持糸を線心撚体に巻き付けることにより、撚り糸の撚りの逆向きに巻き付ける場合に比べ、保持糸(撚り糸)が撚られた状態が解消され難い。よって、保持糸として撚り糸を用いる利点(上述した衝撃等への耐久性など)がより確実に発揮される。
【0018】
上記()の構成の電線の製造方法によれば、保持糸の軸線に直交する断面における高融点糸と低融点糸とが占める断面積の比が9:1〜5:5の範囲に含まれる保持糸を用いて電線が製造されることにより、線心撚体の撚りを維持する効果(製造後の電線に残すべき高融点糸の割合)と、電線を使用する際の利便性・作業性を向上する効果(製造時に溶融させるべき低融点糸の割合)と、をより確実に両立できる。なお、本効果の詳細については、後述される。
【0019】
なお、高融点糸の太さと低融点糸の太さが同じである場合、上記断面積の比は、高融点糸の本数と低融点糸の本数の比と言い換え得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、使用時の利便性・作業性に優れる電線を製造可能な電線の製造方法、を提供できる。
【0021】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明に係る電線の製造方法を例示する一連の工程図である。図1(a)は線心撚体を形成する工程を示し、図1(b)は線心撚体に保持糸を巻き付ける工程を示し、図1(c)は線心撚体及び保持糸を覆うシースを形成する工程を示している。
図2図2は、図1に示される保持糸の構造を例示する概略図である。図2(a)は保持糸が撚り糸である場合の構造を示し、図2(b)は保持糸が無撚り糸である場合の構造を示している。
図3図3は、図1の製造方法により製造された電線のシースの一部を取り除いた状態を表す概略図である。
図4図4は、図1の製造方法により製造された電線の内部構成を示す概略図である。図4(a)は断面図であり、図4(b)は図4(a)のA部の拡大図である。
図5図5は、図1の製造方法により電線を製造する製造装置の構成を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電線(以下「電線1」という。)の製造方法について説明する。
【0024】
<電線の製造方法>
本実施形態に係る電線1は、図1(a)、図1(b)及び図1(c)に示す一連の工程により製造される。
【0025】
図1(a)に示す工程は、線心撚体10を形成する工程である。線心撚体10は、複数の絶縁線心20と、介在物30と、を交互撚り(SZ撚り)にて撚り合わせることにより形成される。絶縁線心20は、導体21と、導体21を覆う絶縁体22と、を有している(図4を参照)。線心撚体10に含まれる絶縁線心20の本数は、特に制限されない。なお、本例では、線心撚体10は3本の絶縁線心20を有している。
【0026】
具体的には、線心撚体10は、3本の絶縁線心20と介在物30とを、一方向(S方向)への撚り及び他方向(Z方向)への撚りを交互に繰り返すことによって交互撚りし(SZ撚りを行い)、一つの線心撚体10として束ねられる。これにより、線心撚体10は、長手方向に沿って、S撚り部Ts及びZ撚り部Tzが交互に設けられた状態となっている。なお、線心撚体10を構成する一線心(複数の絶縁線心20のうちの一つの線心)が1回転する際に進む長手方向の距離は、「撚り合わせピッチ長」と称呼される。
【0027】
図1(b)の工程は、線心撚体10に保持糸40を巻き付ける工程である。本工程において、図1(a)の工程にて形成された線心撚体10の外周には、保持糸40が直接接触するように巻き付けられる。保持糸40は、後述する保持糸巻付部64によって線心撚体10に巻き付ける際の遠心力によって作用する張力に耐え得る強度を有している。保持糸40は、線心撚体10の周りに螺旋状に巻かれている。保持糸40の螺旋ピッチ長Pは、線心撚体10の直径Dの1〜3倍であることが好ましい。このように巻かれた保持糸40により、線心撚体10の撚り合わせピッチ長が、線心撚体10の設計上の品質を満たす観点において十分な程度に保持されている。線心撚体10に巻き付ける保持糸40の数は、特に制限されない。例えば、保持糸40の数として、線心撚体10の撚りの維持および電線1の生産効率の観点から、3本または4本が挙げられる。なお、個々の保持糸40の巻き付けピッチは、線心撚体10の直径Dの2〜6倍であることが好ましい。
【0028】
図1(c)の工程は、線心撚体10の外側にシース50を形成する工程である。本工程において、図1(b)の工程にて保持糸40が巻かれた線心撚体10の外周がシース50によって覆われる。シース50は、例えば、ポリ塩化ビニル及びポリエチレン等の合成樹脂から形成される。シース50は、外周に保持糸40が巻かれた線心撚体10の外周に、加熱溶融されたシース材料を管形状を有するように押出加工することにより形成される。これにより、線心撚体10及び保持糸40がシース50によって保護される。
【0029】
図2に示すように、保持糸40は、高融点糸41と低融点糸42とが束ねられた糸である。高融点糸41は、シース材料の融点よりも高い融点を有する繊維(例えば、そのような融点を有するポリエステル等)から構成された糸である。低融点糸42は、シース材料の融点以下の融点を有する繊維(例えば、そのような融点を有するナイロン等)から構成された糸である。シース材料として一般に用いられる樹脂(ポリ塩化ビニル及びポリエチレン等)に対応する「高融点糸41と低融点糸42とが束ねられた糸」の一例として、ユニチカ株式会社製のエスポラン(登録商標)が挙げられる。
【0030】
保持糸40は、図2(a)に示す撚り糸でもよく、図2(b)に示す無撚り糸でもよい。但し、撚り糸は、無撚り糸に比べ、高融点糸41と低融点糸42との分離が生じ難い分、外部からの衝撃等への耐久性に優れる。更に、撚り糸は、無撚り糸に比べ、使用時のほつれ等が生じ難いため、取り扱いがより容易である。よって、保持糸40として撚り糸を用いることが好ましい。
【0031】
保持糸40が撚り糸である場合、撚り糸の撚りの向き(S撚りの向き又はZ撚りの向き)と同じ向きに保持糸40を線心撚体10に巻き付けることが好ましい。これにより、撚り糸の撚りの逆向きに巻き付ける場合に比べ、保持糸40が撚られた状態が解消され難くなる。一方、保持糸40が無撚り糸である場合、保持糸40を線心撚体10に巻き付ける向き(S撚りの向き又はZ撚りの向き)に特段の効果の差はない。
【0032】
図2では、便宜上、1本の高融点糸41と1本の低融点糸42とが束ねられている。しかし、保持糸40は、一又は複数の高融点糸41、及び、一又は複数の低融点糸42から構成されてもよい。具体的には、線心撚体の撚りを維持する効果と、電線を使用する際の利便性・作業性を向上する効果と、を両立する観点から、保持糸40の軸線に直交する断面における高融点糸41と低融点糸42とが占める断面積の比(両者の太さが同じであれば、本数の比)は、9:1〜5:5の範囲に含まれることが好ましい。この比は、以下、「構成比率」とも称呼される。
【0033】
<製造される電線の構造>
図1の方法により製造された電線1(結果物としての電線1)は、図3に示すように、線心撚体10と、保持糸40の一部である高融点糸41と、シース50とを備えている。高融点糸41と共に保持糸40を構成していた低融点糸42は、線心撚体10の外側にシース材料を押出加工する過程(図1(c)の工程)において溶融する。
【0034】
このように低融点糸42が溶融した結果、電線1は、保持糸40(高融点糸41)に沿って高融点糸41を構成する樹脂よりも融点の低い樹脂の凝固体(低融点糸42が溶融した後に凝固したもの)が存在する、又は、高融点糸41の周辺のシース50にその低融点樹脂(低融点糸42を構成していた樹脂)が分散する(例えば、高融点糸41の周辺領域における低融点樹脂の濃度が、他の領域よりも高い)、との特徴を有することとなる。
【0035】
図4に示すように、絶縁線心20とシース50とは少なくとも一部において密着している。換言すると、絶縁線心20とシース50との間に介在物30が存在しない箇所が存在する。これにより、絶縁線心20とシース50との間に介在物30が存在する場合に比べ、電線1を小径化できる。また、法規制などによって線心撚体10の外径に対するシース50の厚さが定められている場合、線心撚体10の外径が小さくなる分、シース50の外径を小さくできるため、シース50を形成するための材料の使用量(材料コスト、ひいては電線1の製造コスト)を低減できる。
【0036】
<製造装置>
次いで、上記の製造方法により電線1を製造する製造装置について説明する。
【0037】
図5に示すように、電線1を製造する製造装置60は、絶縁線心供給部61及び介在物供給部62を備えている。絶縁線心供給部61は一般的なリール等であり、絶縁線心供給部61から複数の絶縁線心20が繰り出される。介在物供給部62から、介在物30が繰り出される。
【0038】
絶縁線心供給部61及び介在物供給部62の下流側には、SZ撚り部63が設けられている。SZ撚り部63には、絶縁線心供給部61から繰り出される複数の絶縁線心20及び介在物供給部62から繰り出される介在物30が送り込まれる。SZ撚り部63は、一般的なSZ撚り機構を有し、複数の絶縁線心20と介在物30とを交互撚り(SZ撚り)にて撚り合わせ、線心撚体10を形成するようになっている。
【0039】
SZ撚り部63の下流側には、保持糸巻付部64及びシース形成部65が順に設けられている。保持糸巻付部64は、一般的な巻き付け機構を有し、SZ撚り部63から送り込まれる線心撚体10の周りに保持糸40を螺旋状に巻き付ける。シース形成部65は、一般的なシース形成機構を有し、保持糸40が巻き付けられた線心撚体10の周囲を覆うようにシース50を形成する。
【0040】
<電線の特性の評価>
発明者は、上述した電線1の特性を評価する試験を行った。
【0041】
具体的には、まず、上述した高融点糸41と低融点糸42との構成比率に関し、構成比率が異なる複数のサンプルについて、線心撚体10の撚りの維持性能、及び、製造した電線1を使用する際の作業性を評価した。なお、各サンプルにおいて、保持糸40として高融点糸41と低融点糸42との撚り糸が用いられている。本例では、融点糸41と低融点糸42との撚り糸として、上述したユニチカ株式会社製のエスポラン(登録商標)が用いられている。
【0042】
撚りの維持性能について、撚りをどの程度維持できるかとの観点から、A,Bの2段階にて評価した。本評価において、評価Aは実質的な撚り崩れが無い(線心撚体10の撚り合わせピッチ長の変化がない、又は、変化があっても撚り合わせピッチ長が線心撚体10の層心径の30倍以下に留まる)ことを表し、評価Bは実質的な撚り崩れがあること(線心撚体10の撚り合わせピッチ長が線心撚体10の層心径の30倍よりも大きくなる)ことを表す。但し、評価Bの場合であっても、上述した従来方法によって製造された電線に対する優位性に問題はない。
【0043】
電線使用時の作業性について、A〜Cの3段階にて評価した。本評価において、評価Aは電線1の皮剥き及び皮剥きによる廃棄物の処分が上述した従来方法によって製造された電線に比べて非常に容易であることを表し、評価Bは皮剥き及び廃棄物の処分が上述した従来方法による電線に比べて容易ではあるものの評価Aには劣ることを表し、評価Cは線心撚体10の撚り崩れに起因し作業性に劣ることを表す。但し、評価B,Cの場合であっても、上述した従来方法によって製造された電線に対する優位性に問題はない。なお、皮剥きとは、シース50及び高融点糸41を除去して線心撚体10などを露出させることを意味する。
【0044】
上述した試験の結果を、以下の表1に示す。なお、本試験において、高融点糸41と低融点糸42の「構成比率」は、撚り糸(上述したエスポラン)の品番を適宜選択することによって変化させている。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、発明者が行った試験の結果、撚りの維持性能について、サンプル番号1〜4のように構成比率が5:5以上(高融点糸41の割合が大きくなる)場合、製造後の電線1に残留する(溶融しない)高融点糸41の量が多いため、実質的な撚り崩れがないことが確認された(評価A)。一方、サンプル番号5,6のように構成比率が5:5よりも小さい(高融点糸41の割合が小さくなる)場合、実質的な撚り崩れがあることが確認された(評価B)。
【0047】
一方、電線使用時の作業性について、サンプル番号1のように構成比率が9:1よりも大きい(高融点糸41の割合が大きくなる)場合、残留する高融点糸41の量が多いことから、作業性が若干劣ることが確認された(評価B)。一方、サンプル番号2〜4のように構成比率が9:1〜5:5の範囲に含まれる場合、残留する高融点糸41の量が適度であることから、作業性に優れることが確認された(評価A)。これに対し、サンプル番号5,6のように構成比率が5:5よりも小さい(高融点糸41の割合が小さくなる)場合、上述した撚り崩れに起因して作業性が低下することが確認された(評価C)。
【0048】
以上の試験結果から、高融点糸41と低融点糸42との構成比率は、9:1〜5:5の範囲に含まれることが好ましいこと(総合評価A)が明らかとなった。なお、表1には、参考までに、構成比率が9:1よりも大きい例(総合評価B)および構成比率が5:5よりも小さい例(総合評価C)の総合評価についても、記載されている。
【0049】
以上に説明したように、本実施形態に係る電線1の製造方法では、従来方法による押え巻きテープに代えて、高融点糸41および低融点糸42が束ねられた保持糸40が用いられる。この保持糸40を構成する糸の一部(低融点糸42)は、シース50を形成(押出成形)する工程において溶融する。その結果、本製造方法により製造された電線1には、保持糸40として、シース形成時に溶融しなかった高融点糸41のみが残ることになる。
【0050】
そのため、電線1の使用時(皮剥きを行う際)には、高融点糸41及びシース50を除去すればよいことになる。よって、従来方法によって製造した電線に比べ、押え巻きテープ(保持糸40に比べ、一般に、切除に大きな力を要し、廃棄物がかさばる)を使用しない分、切除処理(皮剥き)が容易になり且つ処分すべき廃棄物も低減される。
【0051】
したがって、本製造方法によれば、使用時の利便性・作業性に優れる電線1を製造可能である。
【0052】
更に、保持糸40の軸線に直交する断面における高融点糸41と低融点糸42とが占める断面積の比が9:1〜5:5の範囲に含まれる保持糸40を用いて電線1が製造されることにより、線心撚体10の撚りを維持する効果と、電線1を使用する際の利便性・作業性を向上する効果と、をより確実に両立できる。
【0053】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0054】
例えば、本実施形態(図1)では、線心撚体10がSZ撚りされている。しかし、線心撚体10はS撚りされてもよく、Z撚りされてもよい。更に、本実施形態(図5)では、線心撚体10の形成と、この線心撚体10への保持糸40の巻き付けと、が別々の工程となっている。しかし、これら工程を一つにまとめ、線心撚体10の形成と保持糸40の巻き付けとを一括して行ってもよい。
【0055】
ここで、上述した本発明に係る電線の製造方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下(1)〜(4)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
撚り合わされた複数の絶縁線心(20)を含む線心撚体(10)と前記線心撚体を覆うシース(50)とを備えた電線(1)の製造方法であって、
前記線心撚体の外周に直接接触するように保持糸(40)を巻き付ける工程(図1(b))と、
加熱溶融されたシース材料を前記線心撚体及び前記保持糸を覆う管形状を有するように押出加工することによって前記シース(50)を形成する工程(図1(c))と、を備え、
前記保持糸(40)は、
前記シース材料の融点よりも高い融点を有する高融点糸(41)と、前記シース材料の融点以下の融点を有する低融点糸(42)と、が束ねられた糸である、
電線の製造方法。
(2)
上記(1)に記載の製造方法において、
前記保持糸(40)が、
前記高融点糸(41)と前記低融点糸(42)とが撚り合わされた撚り糸、又は、前記高融点糸と前記低融点糸とが撚り合わされることなく束ねられた無撚り糸、である、
電線の製造方法。
(3)
上記(2)に記載の製造方法において、
前記保持糸(40)が、
前記撚り糸であり、且つ、前記保持糸を巻き付ける工程において前記撚り糸の撚りの向きと同じ向きに前記線心撚体(10)の外周に螺旋状に巻き付けられる、
電線の製造方法。
(4)
上記(1)〜上記(3)の何れか一つに記載の製造方法において、
前記保持糸(40)が、
該保持糸の軸線に直交する断面における前記高融点糸(41)と前記低融点糸(42)とが占める断面積の比が9:1〜5:5である、
電線の製造方法。
【符号の説明】
【0056】
1 電線
10 線心撚体
20 絶縁線心
30 介在物
40 保持糸
41 高融点糸
42 低融点糸
50 シース
図1
図2
図3
図4
図5