(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802721
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】天井面への自動墨出し方法と自動墨出し用無人飛翔体
(51)【国際特許分類】
G01C 15/02 20060101AFI20201207BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20201207BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20201207BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20201207BHJP
B64D 47/00 20060101ALI20201207BHJP
B64C 13/18 20060101ALI20201207BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20201207BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
G01C15/02
G01C15/00 105R
B64C39/02
B64C27/08
B64D47/00
B64C13/18 Z
E01D19/12
E01D22/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-12815(P2017-12815)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-119902(P2018-119902A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150110
【氏名又は名称】株式会社竹中土木
(74)【代理人】
【識別番号】100090114
【弁理士】
【氏名又は名称】山名 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】平井 卓
(72)【発明者】
【氏名】倉知 星人
(72)【発明者】
【氏名】千葉 力
【審査官】
山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】
実開平04−134064(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0034775(US,A1)
【文献】
特開平06−011347(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/075428(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00−1/14
5/00−15/14
B64B 1/00−1/70
B64C 1/00−99/00
B64D 1/00−47/08
B64F 1/00−5/60
B64G 1/00−99/00
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無人飛翔体により既設構造物の天井面へ墨出しする天井面への墨出し方法であって、
枠体と、その枠体の中央で回転自在に支持された回転体とにより骨格をなし、前記枠体には、距離センサ及び、回転により揚力を発生して上昇し天井面に当該無人飛翔体を押し付け自在な複数のローターと、天井面に向けて印字自在な印字装置が取り付けられていると共に、前記回転体には、天井面へ接して同天井面を任意方向に走行可能な複数の車輪及びその車輪の動力源と、所望の墨出し位置へ前記車輪を移動させる制御を行うマイコン基盤が搭載されて成る無人飛翔体を有し、
前記天井面の基準面となる橋桁、壁等の壁部材から無人飛翔体までの距離を前記距離センサにより計測し、墨出し位置を前記マイコン基盤に指示するための座標確認ソフトウェアがインストールされて割付図の座標を入力したコンピュータ装置により、前記壁部材から所定距離に位置する墨出し位置へ、無人飛翔体を上昇させて天井面へ押し付ける工程と 前記ローターによる当該無人飛翔体の天井面への押し付け状態を維持しつつ、当該無人飛翔体を、前記天井面の前記壁部材から一定距離を保って当該壁部材に対して平行移動させながら前記印字装置で天井面の所望位置へ墨出しする作業と、当該壁部材に対して墨出ししないで所定位置まで垂直移動させる作業を、割付図に従って前記回転体の回転を制御しつつ繰り返し行うことにより、天井面に複数本の墨出し線を所定の間隔をあけて平行に引く工程と、から成ることを特徴とする、天井面への自動墨出し方法。
【請求項2】
前記無人飛翔体を、前記天井面の前記壁部材から一定距離を保って当該壁部材に対して平行移動させながら前記印字装置で天井面の所望位置へ墨出しする作業と、当該壁部材に対して墨出ししないで所定位置まで垂直移動させる作業を、当該壁部材と直交する方向に設けられた壁部材についても行うことにより、天井面に複数本の墨出し線を格子状に引く工程と、から成ることを特徴とする、請求項1に記載した天井面への自動墨出し方法。
【請求項3】
前記無人飛翔体は、前記天井面に当接可能な上下移動自在なアンカー部を有しており、前記無人飛翔体の回転体の回転制御は、前記アンカー部を前記天井面に当接するように上昇させて前記車輪と天井面との接触状態を解除してから行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載した天井面への自動墨出し方法。
【請求項4】
天井面に押し付けられながら同天井面へ墨出しする無人飛翔体であって、
当該無人飛翔体は、枠体と、同枠体の中央で回転自在に支持された回転体とにより骨格をなし、前記枠体には、当該枠体の一辺と平行に取り付けられた両端部に距離センサを備えたセンサ支持杆と、回転により揚力を発生して天井面に無人飛翔体を押し付け自在な複数のローターと、天井面に向けて印字自在な印字装置とが取り付けられ、前記回転体には、天井面へ接して同天井面を任意方向に走行可能な複数の車輪及びその車輪の動力源と、所望の墨出し位置へ前記車輪を移動させる制御を行うマイコン基盤とが搭載されており、
墨出し位置を前記マイコン基盤に指示するための座標確認ソフトウェアがインストールされたコンピュータ装置によって、前記距離センサが計測した天井面の基準面となる橋桁、壁等の壁部材から所定距離に位置する墨出し位置に当該無人飛翔体がローターによって天井面へ押し付けられた状態で、前記回転体で回転制御可能な車輪の移動により、前記壁部材に対して平行方向へ墨出し自在に構成されていることを特徴とする、天井面への自動墨出し用無人飛翔体。
【請求項5】
前記枠体に、アンカーリンク機構により上下移動自在なアンカー部と、当該アンカー部の上下位置をセンシングするフォトセンサが設置されていることを特徴とする、請求項4に記載した天井面への自動墨出し用無人飛翔体。
【請求項6】
前記印字装置は、印字の実行と停止を自動制御可能なインクジェット又はロールマーカーであることを特徴とする、請求項4又は5に記載した天井面への自動墨出し用無人飛翔
体。
【請求項7】
前記回転体に、天井面の前記壁部材に対し当該回転体が90度回転する位置をセンシングするフォトセンサが設置されていることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載した天井面への自動墨出し用無人飛翔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設構造物の天井面への自動墨出し方法と自動墨出し用無人飛翔体に関し、さらに言えば、橋梁の床版背面たる天井面にシート貼り付け等の補修工事を行う際、その位置を天井面に明示する墨出し作業を、無人飛翔体を利用して橋梁の橋桁からの距離を測定し、自動的に行う天井面への自動墨出し方法と同方法に用いる自動墨出し用無人飛翔体の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、老朽化している橋梁の床版の補修工事が増加している。例えば、
図8と
図11に示したような橋梁Bの床版背面(天井面30)を補修するに当たり、補強シートを貼り付ける作業時には、その貼り付け位置を明示するため、天井面30を予め測位して墨出しを行っている。この墨出し作業は、作業員が狭所での上向き姿勢で且つ足場上の危険で困難な作業となる。しかも、足場を構築した後でなければ、墨出しに必要な橋梁Bの床版の正確な寸法を調査できない。
【0003】
墨出し作業に関しては、例えば特許文献1に、回転量の検出センサが付帯された走行輪と自由輪を有する移動台車と、この移動台車上に搭載され直交2軸方向の任意方向に位置移動が可能とされたXY移動テーブルと、このXY移動テーブルの移動中心に設置され天井方向に延長されて回転可能に取り付けられた支柱部と、当該支柱部の回転中心からの距離を可変とされ天井面へのマーキングをなす墨出し部と、所定の位置情報が入力される制御部とを有し、墨出し部を作動可能とした天井墨出し作業装置が開示されている(同文献1の請求項1、
図1参照)。
【0004】
一方、最近では所謂ドローン(UAV)と称される無人飛翔体(無人飛行体)の技術が種々開発されてきている。例えば特許文献2には、電池と、前記電池から供給される電力で動作し複数のローターを回転させて当該無人飛行体を浮上及び飛行させる複数のモーターと、前記複数のモーターを制御して当該無人飛行体の飛行制御を行う制御部と、当該無人飛行体の高度を少なくとも検出する位置検出部とを備えた無人飛行体が開示されている(同文献2の請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2750660号公報
【特許文献2】特許第5887641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の天井墨出し作業装置は、天井面に照明や空調設備等の設置のための位置を円形状に墨出しする作業には適している。しかし、長い直線や格子状等の所望位置を明示する墨出し作業には適していない。また、天井方向に延長された回転可能な支柱部を、移動台車上のXY移動テーブルから天井面まで高く延ばしての墨出しは、作業を進める上で安定性に欠ける。しかも、その作業装置のXY移動テーブルが搭載された移動台車を、平坦な床面上に設置して移動させねばならず作業効率が悪い。
【0007】
特に、橋梁の床版に墨出しをする(墨出し線を引く)に際しては、足場を構築した後でないと、床版の寸法を正確に実測調査できない。正確な寸法調査を終了した後には、複数の作業員が狭い場所で天井に向かって苦しい上向き作業をすることになり大変面倒である。このように格子状等の墨出し作業は困難を極めるため、自動化して作業効率を高めたいという要望がある。
【0008】
一方、橋梁には橋桁があり、この橋桁からの距離をドローン(無人飛翔体)を利用した遠隔操作により計測し、当該ドローンにより天井の所望位置に自動的に直接墨出しを正確に行うことができれば、作業効率が高まることは明らかである。
【0009】
本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、天井面へのシートの貼り付け等の作業を行うに際し、事前に作業位置を天井面に明示する墨出しを、無人飛翔体を用いて、特には橋梁の橋桁からの距離を計測し、自動的に効率よく正確に行え、省人化が図れる天井面への自動墨出し方法と、同方法に用いる自動墨出し用無人飛翔体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る天井面への自動墨出し方法は、無人飛翔体により既設構造物の天井面へ墨出しする天井面の墨出し方法であって、
枠体と、その枠体の中央で回転自在に支持された回転体とにより骨格をなし、前記枠体には、距離センサ及び、回転により揚力を発生して上昇し天井面に当該無人飛翔体を押し付け自在な複数のローターと、天井面に向けて印字自在な印字装置が取り付けられていると共に、前記回転体には、天井面へ接して同天井面を任意方向に走行可能な複数の車輪及びその車輪の動力源と、所望の墨出し位置へ前記車輪を移動させる制御を行うマイコン基盤が搭載されて成る無人飛翔体を有し、
前記天井面の基準面となる橋桁、壁等の壁部材から無人飛翔体までの距離を前記距離センサにより計測し、墨出し位置を前記マイコン基盤に指示するための座標確認ソフトウェアがインストールされて割付図の座標を入力したコンピュータ装置により、前記壁部材から所定距離に位置する墨出し位置へ、無人飛翔体を上昇させて天井面へ押し付ける工程と
前記ローターによる当該無人飛翔体の天井面への押し付け状態を維持しつつ、当該無人飛翔体を、前記天井面の前記壁部材から一定距離を保って当該壁部材に対して平行移動させながら前記印字装置で天井面の所望位置へ墨出しする作業と、当該壁部材に対して墨出ししないで所定位置まで垂直移動させる作業を、割付図に従って前記回転体の回転を制御しつつ繰り返し行うことにより、天井面に複数本の墨出し線を所定の間隔をあけて平行に引く工程と、から成ることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した天井面への自動墨出し方法において、前記無人飛翔体を、前記天井面の前記壁部材から一定距離を保って当該壁部材に対して平行移動させながら前記印字装置で天井面の所望位置へ墨出しする作業と、当該壁部材に対して墨出ししないで所定位置まで垂直移動させる作業を、当該壁部材と直交する方向に設けられた壁部材についても行うことにより、天井面に複数本の墨出し線
を格子状に引く工程と、から成ることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した天井面への自動墨出し方法において、前記無人飛翔体は、前記天井面に当接可能な上下移動自在なアンカー部を有しており、前記無人飛翔体の回転体の回転制御は、前記アンカー部を前記天井面に当接するように上昇させて前記車輪と天井面との接触状態を解除してから行うことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載した発明に係る天井面への自動墨出し用無人飛翔体は、天井面に押し付けられながら同天井面へ墨出しする無人飛翔体であって、
当該無人飛翔体は、枠体と、同枠体の中央で回転自在に支持された回転体とにより骨格をなし、前記枠体には、当該枠体の一辺と平行に取り付けられた両端部に距離センサを備えたセンサ支持杆と、回転により揚力を発生して天井面に無人飛翔体を押し付け自在な複数のローターと、天井面に向けて印字自在な印字装置とが取り付けられ、前記回転体には、天井面へ接して同天井面を任意方向に走行可能な複数の車輪及びその車輪の動力源と、所望の墨出し位置へ前記車輪を移動させる制御を行うマイコン基盤とが搭載されており、
墨出し位置を前記マイコン基盤に指示するための座標確認ソフトウェアがインストールされたコンピュータ装置によって、前記距離センサが計測した天井面
の基準面となる橋桁、壁等の壁部材から所定距離に位置する墨出し位置に当該無人飛翔体がローターによって天井面へ押し付けられた状態で、前記回転体で回転制御可能な車輪の移動により、前記壁部材に対して平行方向へ墨出し自在に構成されていることを特徴とする、天井面への自動墨出し用無人飛翔体。
【0014】
請求項5に記載した発明は、請求項4に記載した天井面への自動墨出し用無人飛翔体において、前記枠体に、アンカーリンク機構により上下移動自在なアンカー部と、当該アンカー部の上下位置をセンシングするフォトセンサが設置されていることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載した発明は、請求項4又は5に記載した天井面への自動墨出し用無人飛翔体において、前記印字装置は、印字の実行と停止を自動制御可能なインクジェット又はロールマーカーであることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載した発明は、請求項4〜6のいずれか1項に記載した天井面への自動墨出し用無人飛翔体において、前記回転体に、天井面の前記壁部材に対し当該回転体が90度回転する位置をセンシングするフォトセンサが設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る天井面への自動墨出し方法と自動墨出し用無人飛翔体によれば、枠体に距離センサと、複数のローターと、天井面に印字自在な印字装置とが取り付けられていると共に、その枠体の中央で回転自在に支持された回転体には、天井面を任意方向に走行可能な車輪とその動力源と、車輪の移動を制御するマイコン基盤等とを搭載した無人飛翔体を運転し、地上から上昇させて既設構造物の天井面に押し付けつつ、基準面となる橋桁、壁等の壁部材に対し平行に直線移動させながらの天井面への墨出しを、割付図に従って印字装置で行う。そのため、天井面の補修工事の際に行われる事前の狭所で上向きの困難な墨出し作業を、自動的に効率よく正確に行えて、省人化に寄与する。よって、施工性、経済性、及び作業効率性に非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の天井面への自動墨出し用無人飛翔体を底面方向から示した全体図である。
【
図2】前記自動墨出し用無人飛翔体を示した立面図である。
【
図3】自動墨出し用無人飛翔体における橋桁から所定距離のセンシング状況を底面方向から模式的に示した説明図である。
【
図5】自動墨出し用無人飛翔体が天井面へ上昇し橋桁から所定距離をおいた状態を示した立面図である。
【
図6】自動墨出し用無人飛翔体が、橋桁に対して墨出ししないで所定位置まで垂直移動(矢印R参照)する状態を示した説明図である。
【
図7】自動墨出し用無人飛翔体が、
図6の状態から回転体(車輪)が右回りに90度回転し、橋桁に対して平行方向に移動しつつ墨出しを行う状態を示した説明図である。
【
図8】橋梁の床版への墨出し例を説明するための仰視図である。
【
図9】割付図の座標の入力工程を示したコンピュータ装置のディスプレイ図である。
【
図10】天井面への格子状の墨出し状態を示した上面図である。
【
図11】格子状の墨出しに沿って貼り付けられた炭素繊維シートを示した全体図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図示した本発明に係る天井面への自動墨出し方法と自動墨出し用無人飛翔体の実施形態を説明する。
【0020】
先ずは、この天井面への自動墨出し方法に用いられる自動墨出し用無人飛翔体Aの構成、機能について説明する。
図1に例示した自動墨出し用無人飛翔体Aは、コンパクトサイズで、既設構造物の天井面30へ押し付けられながら同天井面30に沿って水平移動して墨出しする構成である(
図5参照)。全体的な骨格は、枠体10と、同枠体10の中央で回転自在に支持された回転体20とにより成る。枠体10は、長さ390mmの縦材10aが、縦方向に2本平行に配置されると共に、同じく長さ390mmの横材10bが、横方向に2本平行に配置され、各端部同士が接続して四角形状に組み立てられている。
【0021】
そして、当該枠体10の内部スペースに向けて、各縦材10a、横材10bから内方に延びる複数の腕部18・・・が設けられ、中央に配置されたリング状の支持リング体16が前記複数の腕部18・・・に接続されて支持されている。支持リング体16は外径が310mmで、その内部構造は、内向きに開口して凹んだコ字状の溝部16aに形成されている(詳細図は省略)。よって、後述する回転体20が、前記枠体10の支持リング体16に回転自在に支持されている。具体的には、支持リング体16の外径310mmより若干小さな外径でディスク状の回転体20の外周が、支持リング体16の溝部16aに嵌り込んで支持され、回転体20が、枠体10とは別に独自に回転する構成となっている。
【0022】
前記枠体10の四隅に、アンカー部14が上向きの垂直方向にそれぞれ取り付けられており、各アンカー部14・・・は、
図2に示したようなアンカーリンク機構13により上下移動自在に構成されている。このアンカーリンク機構13は、前記アンカー部14の上端部を天井面30に十分に当接するように上昇させると前記車輪2と天井面30との接触状態を解除させる役割を果たす。また、当該アンカーリンク機構13の近傍には、アンカー部14の上下位置をセンシングするフォトセンサ15が設置されている。アンカー部14は、回転体20の後述する車輪2・・・が90度回転する際に位置ずれしないように、天井面30に枠体10を固定するもので、フォトセンサ15は当該アンカー部14の上下位置をセンシングするためのものである。
図1中符号17は、アンカー部14を上下方向に伸縮するDCモータを示している。
なお、前記アンカー部14は、本実施例ではバランスよく4個配設して実施しているが、個数は適宜増減可能である。また、前記4個のアンカー部14は、本実施例では同期制御可能な構成で実施されている。
【0023】
レーザー距離センサ12は、前記枠体10に取り付けられている。具体的には、長さ600mmのセンサ支持杆11の両端に、距離センサ12、12が各々設置された当該センサ支持杆11が、枠体10の一辺をなす縦材10a、ひいては橋桁31と平行(例えば
図1の左方の縦材1aから270mm)となる位置で、横材10bの下部に取り付けられている(
図2参照)。このレーザー距離センサ12は、0〜10Vアナログ電圧として出力するセンサで、その搭載された無人飛翔体Aから
図6等に例示した橋桁31までの距離を計測する。よって、当該無人飛翔体Aの位置座標S(
図9参照)を認識でき、距離センサ12搭載の無人飛翔体Aが、基準面Kとなる橋梁Bの橋桁31から一定距離を保って同橋桁31に対して平行方向に直線移動される構成である(
図7参照)。
上記した枠体10には、各縦材10a、10a、横材10b、10bの中央部とアンカー部14の先端部とを接続する補強材10cがそれぞれ取り付けられている(
図2参照)。
なお、本実施例では、基準面Kとして橋桁31(
図8参照)を採用しているが、橋桁31には限定されず、実施部位に応じて壁、垂下壁等の壁部材を基準面Kとすることも勿論できる。
また、
図3の説明図に示したように、距離センサ12、12の近傍における枠体10に、衝突感知センサ19、19をそれぞれ設ける形態で実施するのが好ましい。
【0024】
前記枠体10の外方にローター1がバランス良く4枚配設されている。具体的に、枠体10の四隅からそれぞれ外方に延設された支持部材7の先端にローター1が各々取り付けられている。各ローター1の下方には、脚部1aが取り付けられている。前記4枚羽根で構成されるローター1は、隣り合うローター1、1(羽根)同士で回転方向が逆回転の構成で実施され、回転により揚力を発生して上昇し、天井面30へ当該無人飛翔体Aを押し付け自在な構成で実施されている。
【0025】
また、前記枠体10の外方には墨出し用の印字装置4が取り付けられている。すなわち、
図1に示したように、枠体10をなす一つの縦材10aの中央から外方に延設された支持部材8の先端に印字装置4が取り付けられている。
墨出しする当該印字装置4としては、墨出し(印字)の実行と停止を自動制御可能なインクジェット又はロールマーカーが好適である。一例としてインクジェット4を採用する場合、当該インクジェット4のノズルが上向きに設置され、天井面30に向けて印字自在に構成されている。当該ノズルのヘッド寸法は、一例として、30×30×70mm程度であり、ドットのサイズは、1.5mm程度である。天井面30との離隔(距離)は10mmぐらいが好ましい。印字速度は、本実施例では最大700ドット/秒を採用し、コンクリート面に対して印字可能な性能とされている。
【0026】
前記インクジェット4へインクを供給して補充するインク供給装置45が下方の作業床32に設置され(
図5参照)、同インク供給装置45に接続されたインク供給チューブ46が無人飛翔体Aの前記インクジェット4に接続され、間断なく墨出し作業が行えるようになっている。なお、このインク供給装置45は印字操作のコントローラを兼ねている。
【0027】
上述した回転体20の構成、機能は次のとおりである。回転体20は透明なアクリル板で成り、同回転体20の中心部にPLC22が貫通状態で設置されている。このPLC22は、入力指令を
図5と
図9に示したようなコンピュータ装置40のタッチパネル(ディスプレイ44)を介した数値に従わせ、前記距離センサ12等や後述する動力源のモータ3、17を連携して制御するプログラマブル・コントローラである。
また回転体20の中心部には、アナログユニット23とEtherNet/IP24が設置されている。アナログユニット23は、距離センサ12のアナログ電圧をデジタル変換する増設ユニットである。EtherNet/IP24は、コンピュータ装置40のディスプレイ44たるタッチパネルと前記PLC22を、LANケーブルで接続するための増設ユニットである。
【0028】
回転体20の上面に、車輪(本実施例では固定輪)2が取り付けられている。この車輪2は、軽量なアルミ製で成り、回転体20の外周付近に左右対称配置で、かつ前記距離センサ12とは反対側の位置に、2個設置されている。よって、この車輪2が天井面30へ接して同天井面30を走行可能な構成とされている。具体的には、後述する回転体20の回転制御に伴って、当該車輪2、2は、橋桁31に対し平行方向又は垂直方向に移動自在となっている。また、この車輪2の動力源3として、左右のタイヤ2、2を別々に回転させることができ、橋桁31との平行を保ちながら走行させるステッピングモータ3が車輪2、2の近傍に備わっている。各ステッピングモータ3、3は、近傍にそれぞれ設置されたモータドライバ5、5によって独立に制御される。
図1中の符号21はフォトセンサを示している。このフォトセンサ21は、天井面30の所定の基準面K(例えば、橋桁31の内壁面31a)に対して回転体20が確実に90度回転する位置をセンシングするためのものである。
【0029】
また、回転体20の上部には、上述した車輪2と同車輪2の動力源3(
図1参照)、及び、複数のマイコン基盤(図示の便宜上省略)が搭載されている。マイコン基盤の一つは、距離センサ12による基準面K(橋桁31)からの現在位置の座標認識に基づいて、車輪2を所望の墨出し位置Pへ移動させる制御を行うものである。このマイコン基盤は、下記コンピュータ装置40からのリモートコントロールにより制御コマンドを受けて、車輪2を駆動する信号を出力する。前記ローター1の高度と揚力を保持する回転数と、当該無人飛翔体Aを空中で水平移動させるための制御を行う異なるマイコン基盤も搭載される。
【0030】
前記ローター1と車輪2の動力源3とインクジェット4を作動させる電源装置6が作業床32上に設置され(
図5参照)、送電ケーブル60を通じて電源が供給されている。前記したような外部固定電源によるほか、図示を省略したバッテリーを無人飛翔体Aに搭載させた各装置に付属させておき、電源を供給する構成としても実施可能である。
【0031】
前記コンピュータ装置40には、墨出し位置Pを前記マイコン基盤に指示するためのCAD等の座標確認ソフトウェア41がインストールされている。また、このコンピュータ装置40には、割付
図43の座標Sが入力される(
図9参照)。
なお、前記コンピュータ装置40と前記2種のマイコン基盤とは、ケーブル、或いは通信装置によりコンピュータ装置40からデータ伝送可能に接続されており、遠隔操作される。ここでいうコンピュータ装置40は、デスクトップ(
図9参照)やタブレットPC(
図5参照)、ノートブック等を含む広い概念を指す。
【0032】
次に、上記構成の無人飛翔体Aを用いた橋梁Bの床版背面(天井面30)への自動墨出し方法について、以下に説明する。
ちなみに、本実施例では、一例として、
図8に係る縦横方向に配設された橋桁31のうち、橋の延長方向に配設された橋桁31の内壁面31aを基準面Kとして平行方向に墨出しし、次に、当該橋桁31と直交方向に配設された橋桁31の内壁面31bを基準面Kとして平行方向に墨出しし、もって
図10に例示したように
、格子状に墨出し線Pを引いている。
なお、無人飛翔体Aはもとより、車輪2、アンカーリンク機構13、印字装置4等の制御は、図示を便宜上省略したリモートコントローラーで遠隔操作される。
【0033】
先ず、
図8に例示したような橋梁Bの天井面30へ墨出しを行うに際し、割付
図43を作成する(
図9参照)。なお、作業床32から天井面30までの高さは、例えば5〜10m程度である。
【0034】
次に、作業床32上の前記無人飛翔体Aを、リモートコントローラーによる遠隔操作により天井面30に向けて上昇させ、同天井面30へ押し付ける(
図5参照)。そして、
図6、
図7等に示したように、天井面30に押し付けられた無人飛翔体Aの距離センサ12、12により、前記橋桁31の内壁面31aから当該無人飛翔体A(インクジェット4)までの距離を計測させて、無人飛翔体Aの位置座標Sを認識させる。
【0035】
前記位置座標Sを認識させた後、墨出し位置Pを前記無人飛翔体Aのマイコン基盤に指示するため、コンピュータ装置40のタッチパネル式ディスプレイ44に、割付
図43の座標Sを入力する。そうすると、前記距離センサ12が計測した天井面30の基準面Kとなる橋桁31から所定距離に位置する墨出し位置Pへ、無人飛翔体Aが天井面30に押し付けられながら移動する(
図6の矢印Rで示した方向参照)。
【0036】
図6に示したように、橋桁31の内壁面31aから所望の墨出し位置Pへ無人飛翔体Aが垂直移動したら、枠体10のアンカーリンク機構13により、アンカー部14・・・を上方へ伸長させて枠体10を天井面30にしっかりと固定させ、車輪2と天井面30との接触状態を解除させた後、
図7に示したように、無人飛翔体Aの回転体20のみを右回りに90度回転させる。回転体20の車輪2、2が90度回転されたことを確認した後、アンカーリンク機構13によりアンカー部14を下方へ戻す。
そして、ローター1による当該無人飛翔体Aの天井面30への押し付け状態を維持しつつ、
図3と
図7に矢印Tで示した方向へと無人飛翔体Aを移動させる。そのとき無人飛翔体Aは、天井面30の橋桁31から一定距離を保ちつつ橋桁31に対し平行に直線移動しながら、無人飛翔体Aに搭載されたインクジェット4の上向きのノズルから天井面30に向けて、微量のインクをドットで多数噴射して天井面30の所望位置Pに墨出しする。
【0037】
このような、橋桁31(内側面31a)に対して平行に直線移動させながらの天井面30への墨出し作業と、橋桁31に対して垂直に墨出ししないで所定位置まで直線移動させながらの天井面30への墨出しの位置決め作業を、割付
図43に従って、前記回転体20の回転を制御しつつ必要に応じ繰り返し行って、
図8に係る縦横方向に配設された橋桁31のうち、橋の延長方向に配設された橋桁31の内壁面31aを基準面Kとした平行方向への墨出し作業を終了する。
【0038】
続いて、リモートコントローラーによる遠隔操作により無人飛翔体Aの全体の向きを90度変え、当該無人飛翔体Aを、当該橋桁31と直交方向に配設された橋桁31の内壁面31bに対峙するように天井面へ押し付ける(
図6、
図7参照)。そして、前記段落[0034]〜[0036]に記載した工程と同様の工程を割付
図43に従って行う。すなわち、橋桁31(内側面31b)に対して平行に直線移動させながらの天井面30への墨出し作業と、橋桁31に対して垂直に墨出ししないで所定位置まで直線移動させながらの天井面30への墨出しの位置決め作業を、割付
図43に従って、前記回転体20の回転を制御しつつ必要に応じ繰り返し行って、当該橋桁31の内壁面31bを基準面Kとした平行方向への墨出し作業を終了する。
【0039】
前記
図10は、前記工程を経て、縦と横に長い直線が交差する格子状の墨出し位置Pに墨出しを行った例を示している。同
図10中、黒く塗った四角部分を点検用の窓部35として確保しておく。それ以外の天井面30に、墨出し位置Pに沿って規則的に補強用の炭素繊維シート33が貼り付けられる(
図11参照)。
【0040】
したがって、上記した天井面の自動墨出し方法によれば、上記構成の無人飛翔体Aを上昇させて天井面30へ押し付けつつ、印字装置4で天井面30の墨出しを所望の位置に正確に軽便に行うことができる。よって、天井面30の補修工事の際に行われる事前の狭所で且つ上向きの困難な墨出し作業を、自動的に機械化して効率よく正確に行うことができる。
【0041】
以上に本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、
図1に破線で例示したように、前記センサ支持杆11(の上下の前記センサ12、12)と直交する配置にさらに前記距離センサ12、12を左右に設けて実施すると、前記段落[0038]の冒頭に記載したような、無人飛翔体Aの全体の向きを変える作業を無用にできるほか、直交方向に設けた橋桁31、31等の壁部材の距離を感知しながら天井面30に対し縦横方向にフレキシブルに墨出し作業を行うことができる等、自在性に富む墨出し作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ローター
2 車輪
3 動力源(ステッピングモータ)
4 印字装置(インクジェット)
5 モータドライバ
6 電源装置
7 支持部材
8 支持部材
10 枠体
10a 縦材(一辺)
10b 横材(一辺)
11 センサ支持杆
12 距離センサ
13 アンカーリンク機構
14 アンカー部
15 フォトセンサ
16 支持リング体
16a 溝部
17 DCモータ
18 腕部
19 衝突感知センサ
20 回転体
21 フォトセンサ
22 PLC
23 アナログ入力ユニット
24 EtherNet/IP
27 DCモータ
30 天井面(床版背面)
31 橋桁
31a 内壁面
31b 内側面
32 作業床
33 炭素繊維シート
35 窓部
40 コンピュータ装置
41 座標確認ソフトウェア
43 割付図
44 ディスプレイ
45 インク供給装置
A 無人飛翔体
B 橋梁
P 墨出し位置(墨出し線)
S 座標
K 基準面