(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の銀インク組成物、銀インク組成物の製造方法及び積層体の好ましい例について以下に説明する。ただし、本発明はこれら例のみに限定されることはなく、例えば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、追加、省略、置換、及びその他の変更(量、数、位置、サイズなど)が可能である。
【0017】
<銀インク組成物>
本発明の銀インク組成物は、式「−COOAg」で表される基を有するカルボン酸銀と、炭素数25以下のアミン化合物及び第4級アンモニウム塩、アンモニア、並びに前記アミン化合物又はアンモニアが酸と反応してなるアンモニウム塩からなる群から選択される1種以上の含窒素化合物と、シュウ酸、ヒドラジン及び下記一般式(5)で表される化合物からなる群から選択される1種以上の還元剤と、下記一般式(20)で表される、炭素数9以上のアセチレンアルコール類と、が配合されてなる。
H−C(=O)−R
21 ・・・・(5)
(式中、R
21は、炭素数20以下のアルキル基、アルコキシ基若しくはN,N−ジアルキルアミノ基、水酸基又はアミノ基である。)
【0018】
【化4】
(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基であり、ただし、R’及びR’’の少なくとも一方は前記アルキル基又はフェニル基である。)
【0019】
本発明の銀インク組成物は、上記のように特定の配合成分を組み合わせることで、従来の銀インク組成物よりも優れた保存安定性を有する。
【0020】
本発明の銀インク組成物は、液状であるものが好ましく、前記カルボン酸銀が均一に分散されたものが好ましい。
【0021】
[カルボン酸銀]
本発明におけるカルボン酸銀は、式「−COOAg」で表される基を有するものであり、式「−COOAg」で表される基の数は1個のみでもよいし、2個以上でもよい。また、カルボン酸銀中の式「−COOAg」で表される基の位置は特に限定されない。
本発明において、カルボン酸銀は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0022】
前記カルボン酸銀は、下記一般式(1)で表わされるβ−ケトカルボン酸銀(以下、「β−ケトカルボン酸銀(1)」と略記することがある)及び下記一般式(4)で表されるカルボン酸銀(以下、「カルボン酸銀(4)」と略記することがある)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
なお、本明細書においては、単なる「カルボン酸銀」との記載は、特に断りの無い限り、「β−ケトカルボン酸銀(1)」及び「カルボン酸銀(4)」だけではなく、これらを包括する、「式「−COOAg」で表される基を有するカルボン酸銀」を意味するものとする。
【0023】
【化5】
(式中、Rは1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R
1−CY
12−」、「CY
13−」、「R
1−CHY
1−」、「R
2O−」、「R
5R
4N−」、「(R
3O)
2CY
1−」若しくは「R
6−C(=O)−CY
12−」で表される基であり;
Y
1はそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子であり;R
1は炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;R
2は炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり;R
3は炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基であり;R
4及びR
5はそれぞれ独立に炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基であり;R
6は炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基、水酸基又は式「AgO−」で表される基であり;
X
1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N−フタロイル−3−アミノプロピル基、2−エトキシビニル基、又は一般式「R
7O−」、「R
7S−」、「R
7−C(=O)−」若しくは「R
7−C(=O)−O−」で表される基であり;
R
7は、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、チエニル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基である。)
【0024】
【化6】
(式中、R
8は炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基、カルボキシ基又は式「−C(=O)−OAg」で表される基であり、前記脂肪族炭化水素基がメチレン基を有する場合、1個以上の前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよい。)
【0025】
(β−ケトカルボン酸銀(1))
β−ケトカルボン酸銀(1)は、前記一般式(1)で表される。
式中、Rは1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R
1−CY
12−」、「CY
13−」、「R
1−CHY
1−」、「R
2O−」、「R
5R
4N−」、「(R
3O)
2CY
1−」若しくは「R
6−C(=O)−CY
12−」で表される基である。
【0026】
Rにおける炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状(脂肪族環式基)のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。また、前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。そして、前記脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましい。Rにおける好ましい前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
【0027】
Rにおける直鎖状又は分枝鎖状の前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、3−エチルブチル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1,1−ジメチルペンチル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、4,4−ジメチルペンチル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、4−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、1−プロピルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、5−エチルヘキシル基、1,1−ジメチルヘキシル基、2,2−ジメチルヘキシル基、3,3−ジメチルヘキシル基、4,4−ジメチルヘキシル基、5,5−ジメチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
Rにおける環状の前記アルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基等が挙げられる。
【0028】
Rにおける前記アルケニル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基の炭素原子間の1個の単結合(C−C)が二重結合(C=C)に置換された基等が挙げられる。
このような前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基(エテニル基、−CH=CH
2)、アリル基(2−プロペニル基、−CH
2−CH=CH
2)、1−プロペニル基(−CH=CH−CH
3)、イソプロペニル基(−C(CH
3)=CH
2)、1−ブテニル基(−CH=CH−CH
2−CH
3)、2−ブテニル基(−CH
2−CH=CH−CH
3)、3−ブテニル基(−CH
2−CH
2−CH=CH
2)、シクロヘキセニル基、シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0029】
Rにおける前記アルキニル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基の炭素原子間の1個の単結合(C−C)が三重結合(C≡C)に置換された基等が挙げられる。
このような前記アルキニル基としては、例えば、エチニル基(−C≡CH)、プロパルギル基(−CH
2−C≡CH)等が挙げられる。
【0030】
Rにおける炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。また、前記脂肪族炭化水素基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、すべての置換基が同一であってもよいし、すべての置換基が異なっていてもよく、一部の置換基のみが異なっていてもよい。
【0031】
Rにおけるフェニル基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、炭素数が1〜16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、前記脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合してなる一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基(−OH)、シアノ基(−C≡N)、フェノキシ基(−O−C
6H
5)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
置換基である前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜16である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0032】
RにおけるY
1は、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子である。そして、一般式「R
1−CY
12−」、「CY
13−」及び「R
6−C(=O)−CY
12−」においては、それぞれ複数個のY
1は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0033】
RにおけるR
1は、炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基(C
6H
5−)である。R
1における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR
2は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、例えば、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR
3は、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基である。R
3における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜16である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR
4及びR
5は、それぞれ独立に炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基である。すなわち、R
4及びR
5は、互いに同一でも異なっていてもよく、R
4及びR
5における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜18である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR
6は、炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基、水酸基又は式「AgO−」で表される基である。R
6における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0034】
Rは、上記の中でも、直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、一般式「R
6−C(=O)−CY
12−」で表される基、水酸基又はフェニル基であることが好ましい。そして、R
6は、直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、水酸基又は式「AgO−」で表される基であることが好ましい。
【0035】
一般式(1)において、X
1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基(C
6H
5−CH
2−)、シアノ基、N−フタロイル−3−アミノプロピル基、2−エトキシビニル基(C
2H
5−O−CH=CH−)、又は一般式「R
7O−」、「R
7S−」、「R
7−C(=O)−」若しくは「R
7−C(=O)−O−」で表される基である。
X
1における炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、例えば、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0036】
X
1におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
X
1におけるフェニル基及びベンジル基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ニトロ基(−NO
2)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基及びベンジル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0037】
X
1におけるR
7は、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、チエニル基(C
4H
3S−)、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基(ビフェニル基、C
6H
5−C
6H
4−)である。R
7における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜10である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。また、R
7におけるフェニル基及びジフェニル基が有する前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基及びジフェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
R
7がチエニル基又はジフェニル基である場合、これらの、X
1において隣接する基又は原子(酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、カルボニルオキシ基)との結合位置は、特に限定されない。例えば、チエニル基は、2−チエニル基及び3−チエニル基のいずれでもよい。
【0038】
一般式(1)において、2個のX
1は、2個のカルボニル基で挟まれた炭素原子と二重結合を介して1個の基として結合していてもよい。このようなX
1としては、例えば、式「=CH−C
6H
4−NO
2」で表される基等が挙げられる。
【0039】
X
1は、上記の中でも、水素原子、直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、ベンジル基、又は一般式「R
7−C(=O)−」で表される基であることが好ましく、少なくとも一方のX
1が水素原子であることが好ましい。
【0040】
β−ケトカルボン酸銀(1)は、2−メチルアセト酢酸銀(CH
3−C(=O)−CH(CH
3)−C(=O)−OAg)、アセト酢酸銀(CH
3−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)、2−エチルアセト酢酸銀(CH
3−C(=O)−CH(CH
2CH
3)−C(=O)−OAg)、プロピオニル酢酸銀(CH
3CH
2−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)、イソブチリル酢酸銀((CH
3)
2CH−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)、ピバロイル酢酸銀((CH
3)
3C−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)、カプロイル酢酸銀(CH
3(CH
2)
3CH
2−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)、2−n−ブチルアセト酢酸銀(CH
3−C(=O)−CH(CH
2CH
2CH
2CH
3)−C(=O)−OAg)、2−ベンジルアセト酢酸銀(CH
3−C(=O)−CH(CH
2C
6H
5)−C(=O)−OAg)、ベンゾイル酢酸銀(C
6H
5−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)、ピバロイルアセト酢酸銀((CH
3)
3C−C(=O)−CH
2−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)、イソブチリルアセト酢酸銀((CH
3)
2CH−C(=O)−CH
2−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)、2−アセチルピバロイル酢酸銀((CH
3)
3C−C(=O)−CH(−C(=O)−CH
3)−C(=O)−OAg)、2−アセチルイソブチリル酢酸銀((CH
3)
2CH−C(=O)−CH(−C(=O)−CH
3)−C(=O)−OAg)、又はアセトンジカルボン酸銀(AgO−C(=O)−CH
2−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)であることが好ましい。
【0041】
β−ケトカルボン酸銀(1)を用いて、乾燥処理や加熱(焼成)処理等の固化処理により形成された導電体(金属銀)においては、残存する原料や不純物の濃度をより低減できる。このような導電体においては、原料や不純物が少ない程、例えば、形成された金属銀同士の接触が良好となり、導通が容易となり、抵抗率が低下する。
【0042】
β−ケトカルボン酸銀(1)は、後述するように、当該分野で公知の還元剤等を使用しなくても、好ましくは60〜210℃、より好ましくは60〜200℃という低温で分解し、金属銀を形成できる。そして、β−ケトカルボン酸銀(1)は、還元剤と併用することで、より低温で分解して金属銀を形成する。還元剤については後ほど説明する。
【0043】
本発明において、β−ケトカルボン酸銀(1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0044】
(カルボン酸銀(4))
カルボン酸銀(4)は、前記一般式(4)で表される。
式中、R
8は炭素数1〜19の脂肪族炭化水素基、カルボキシ基(−COOH)又は式「−C(=O)−OAg」で表される基である。
R
8における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1〜19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。ただし、R
8における前記脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜15であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
【0045】
R
8における前記脂肪族炭化水素基がメチレン基(−CH
2−)を有する場合、1個以上の前記メチレン基はカルボニル基で置換されていてもよい。カルボニル基で置換されていてもよいメチレン基の数及び位置は特に限定されず、すべてのメチレン基がカルボニル基で置換されていてもよい。ここで「メチレン基」とは、単独の式「−CH
2−」で表される基だけでなく、式「−CH
2−」で表される基が複数個連なったアルキレン基中の1個の式「−CH
2−」で表される基も含むものとする。
【0046】
カルボン酸銀(4)は、ピルビン酸銀(CH
3−C(=O)−C(=O)−OAg)、酢酸銀(CH
3−C(=O)−OAg)、酪酸銀(CH
3−(CH
2)
2−C(=O)−OAg)、イソ酪酸銀((CH
3)
2CH−C(=O)−OAg)、2−エチルへキサン酸銀(CH
3−(CH
2)
3−CH(CH
2CH
3)−C(=O)−OAg)、ネオデカン酸銀(CH
3−(CH
2)
5−C(CH
3)
2−C(=O)−OAg)、シュウ酸銀(AgO−C(=O)−C(=O)−OAg)、又はマロン酸銀(AgO−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)であることが好ましい。また、上記のシュウ酸銀(AgO−C(=O)−C(=O)−OAg)及びマロン酸銀(AgO−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)の2個の式「−COOAg」で表される基のうち、1個が式「−COOH」で表される基となったもの(HO−C(=O)−C(=O)−OAg、HO−C(=O)−CH
2−C(=O)−OAg)も好ましい。
【0047】
カルボン酸銀(4)も、β−ケトカルボン酸銀(1)と同様に、乾燥処理や加熱(焼成)処理等の固化処理により形成された導電体(金属銀)において、残存する原料や不純物の濃度をより低減できる。そして、カルボン酸銀(4)も、還元剤と併用することで、より低温で分解して金属銀を形成する。
【0048】
本発明において、カルボン酸銀(4)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0049】
前記カルボン酸銀は、2−メチルアセト酢酸銀、アセト酢酸銀、2−エチルアセト酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、イソブチリル酢酸銀、ピバロイル酢酸銀、カプロイル酢酸銀、2−n−ブチルアセト酢酸銀、2−ベンジルアセト酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、ピバロイルアセト酢酸銀、イソブチリルアセト酢酸銀、アセトンジカルボン酸銀、ピルビン酸銀、酢酸銀、酪酸銀、イソ酪酸銀、2−エチルへキサン酸銀、ネオデカン酸銀、シュウ酸銀及びマロン酸銀からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
そして、これらカルボン酸銀の中でも、2−メチルアセト酢酸銀及びアセト酢酸銀は、後述する含窒素化合物(なかでもアミン化合物)との相溶性に優れ、銀インク組成物の高濃度化に、特に適したものとして挙げられる。
【0050】
銀インク組成物において、前記カルボン酸銀に由来する銀の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。前記銀の含有量がこのような範囲であることで、形成された導電体(金属銀)は品質により優れたものとなる。前記銀の含有量の上限値は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、銀インク組成物の取り扱い性等を考慮すると25質量%であることが好ましい。
なお、本明細書において、「カルボン酸銀に由来する銀」とは、特に断りの無い限り、銀インク組成物の製造時に配合されたカルボン酸銀中の銀と同義であり、配合後も引き続きカルボン酸銀を構成している銀と、配合後にカルボン酸銀の分解で生じた分解物中の銀と、配合後にカルボン酸銀の分解で生じた銀そのもの(金属銀)と、のすべてを含む概念とする。
【0051】
[含窒素化合物]
本発明における含窒素化合物は、炭素数25以下のアミン化合物(以下、「アミン化合物」と略記することがある)、炭素数25以下の第4級アンモニウム塩(以下、「第4級アンモニウム塩」と略記することがある)、アンモニア、炭素数25以下のアミン化合物が酸と反応してなるアンモニウム塩(以下、「アミン化合物由来のアンモニウム塩」と略記することがある)、及びアンモニアが酸と反応してなるアンモニウム塩(以下、「アンモニア由来のアンモニウム塩」と略記することがある)からなる群から選択される1種以上のものである。すなわち、配合される含窒素化合物は、1種のみでよいし、2種以上でもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0052】
(アミン化合物、第4級アンモニウム塩)
前記アミン化合物は、炭素数が1〜25であり、第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンのいずれでもよい。また、前記第4級アンモニウム塩は、炭素数が4〜25である。前記アミン化合物及び第4級アンモニウム塩は、鎖状及び環状のいずれでもよい。また、アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子(例えば、第1級アミンのアミノ基(−NH
2)を構成する窒素原子)の数は1個でもよいし、2個以上でもよい。
【0053】
前記第1級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいモノアルキルアミン、モノアリールアミン、モノ(ヘテロアリール)アミン、ジアミン等が挙げられる。
【0054】
前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、このようなアルキル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基と同様のものが挙げられる。前記アルキル基は、炭素数が1〜19の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。
好ましい前記モノアルキルアミンとして、具体的には、例えば、n−ブチルアミン、n−へキシルアミン、n−オクチルアミン、n−ドデシルアミン、n−オクタデシルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、3−アミノペンタン、3−メチルブチルアミン、2−ヘプチルアミン(2−アミノヘプタン)、2−アミノオクタン、2−エチルヘキシルアミン、1,2−ジメチル−n−プロピルアミン等が挙げられる。
【0055】
前記モノアリールアミンを構成するアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。前記アリール基は、炭素数が6〜10であることが好ましい。
【0056】
前記モノ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基は、芳香族環骨格を構成する原子として、ヘテロ原子を有するものであり、前記ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、ホウ素原子等が挙げられる。また、芳香族環骨格を構成する前記へテロ原子の数は特に限定されず、1個でもよいし、2個以上でもよい。2個以上である場合、これらへテロ原子は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、これらへテロ原子は、すべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部だけ異なっていてもよい。
前記ヘテロアリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、その環員数(環骨格を構成する原子の数)も特に限定されないが、3〜12員環であることが好ましい。
【0057】
前記ヘテロアリール基で、窒素原子を1〜4個有する単環状のものとしては、例えば、ピロリル基、ピロリニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピペリジニル基、ピラゾリジニル基、ピペラジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1個有する単環状のものとしては、例えば、フラニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1個有する単環状のものとしては、例えば、チエニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1〜2個及び窒素原子を1〜3個有する単環状のものとしては、例えば、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、モルホリニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1〜2個及び窒素原子を1〜3個有する単環状のものとしては、例えば、チアゾリル基、チアジアゾリル基、チアゾリジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3〜8員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、窒素原子を1〜5個有する多環状のものとしては、例えば、インドリル基、イソインドリル基、インドリジニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、テトラゾロピリジル基、テトラゾロピリダジニル基、ジヒドロトリアゾロピリダジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7〜12員環であることが好ましく、9〜10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1〜3個有する多環状のものとしては、例えば、ジチアナフタレニル基、ベンゾチオフェニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7〜12員環であることが好ましく、9〜10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1〜2個及び窒素原子を1〜3個有する多環状のものとしては、例えば、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7〜12員環であることが好ましく、9〜10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1〜2個及び窒素原子を1〜3個有する多環状のものとしては、例えば、ベンゾチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7〜12員環であることが好ましく、9〜10員環であることがより好ましい。
【0058】
前記ジアミンは、アミノ基を2個有していればよく、2個のアミノ基の位置関係は特に限定されない。好ましい前記ジアミンとしては、例えば、前記モノアルキルアミン、モノアリールアミン又はモノ(ヘテロアリール)アミンにおいて、アミノ基(−NH
2)を構成する水素原子以外の1個の水素原子が、アミノ基で置換されたもの等が挙げられる。
前記ジアミンは炭素数が1〜10であることが好ましく、より好ましいものとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン等が挙げられる。
【0059】
前記第2級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいジアルキルアミン、ジアリールアミン、ジ(ヘテロアリール)アミン等が挙げられる。
【0060】
前記ジアルキルアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1〜9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、ジアルキルアミン一分子中の2個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
好ましい前記ジアルキルアミンとして、具体的には、例えば、N−メチル−n−ヘキシルアミン、ジイソブチルアミン、ジ(2−エチルへキシル)アミン等が挙げられる。
【0061】
前記ジアリールアミンを構成するアリール基は、前記モノアリールアミンを構成するアリール基と同様であり、炭素数が6〜10であることが好ましい。また、ジアリールアミン一分子中の2個のアリール基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0062】
前記ジ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基は、前記モノ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基と同様であり、6〜12員環であることが好ましい。また、ジ(ヘテロアリール)アミン一分子中の2個のヘテロアリール基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0063】
前記第3級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいトリアルキルアミン、ジアルキルモノアリールアミン等が挙げられる。
【0064】
前記トリアルキルアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1〜19の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、トリアルキルアミン一分子中の3個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、3個のアルキル基は、すべてが同じでもよいし、すべてが異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。
好ましい前記トリアルキルアミンとして、具体的には、例えば、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0065】
前記ジアルキルモノアリールアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、ジアルキルモノアリールアミン一分子中の2個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
前記ジアルキルモノアリールアミンを構成するアリール基は、前記モノアリールアミンを構成するアリール基と同様であり、炭素数が6〜10であることが好ましい。
【0066】
本発明において、前記第4級アンモニウム塩としては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。
前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1〜19であることが好ましい。また、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム一分子中の4個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、4個のアルキル基は、すべてが同じでもよいし、すべてが異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。
前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムを構成するハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
好ましい前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムとして、具体的には、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0067】
ここまでは、主に鎖状のアミン化合物及び第4級有機アンモニウム塩について説明したが、前記アミン化合物及び第4級アンモニウム塩は、アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子が環骨格構造(複素環骨格構造)の一部であるようなヘテロ環化合物であってもよい。すなわち、前記アミン化合物は環状アミンでもよく、前記第4級アンモニウム塩は環状アンモニウム塩でもよい。この時の環(アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子を含む環)構造は、単環状及び多環状のいずれでもよく、その環員数(環骨格を構成する原子の数)も特に限定されず、脂肪族環及び芳香族環のいずれでもよい。
環状アミンであれば、好ましいものとして、例えば、ピリジン等が挙げられる。
【0068】
前記第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及び第4級アンモニウム塩において、「置換基で置換されていてもよい水素原子」とは、アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子に結合している水素原子以外の水素原子である。この時の置換基の数は特に限定されず、1個でもよいし、2個以上でもよく、前記水素原子のすべてが置換基で置換されていてもよい。置換基の数が複数の場合には、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、複数個の置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。また、置換基の位置も特に限定されない。
【0069】
前記アミン化合物及び第4級アンモニウム塩における前記置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、トリフルオロメチル基(−CF
3)等が挙げられる。ここで、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0070】
前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基が置換基を有する場合、前記アルキル基は、置換基としてアリール基を有する、炭素数が1〜9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は置換基として好ましくは炭素数が1〜5のアルキル基を有する、炭素数が3〜7の環状のアルキル基であることが好ましい。このような置換基を有するモノアルキルアミンとして、具体的には、例えば、2−フェニルエチルアミン、ベンジルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
また、置換基である前記アリール基及びアルキル基は、さらに1個以上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。このようなハロゲン原子で置換された置換基を有するモノアルキルアミンとしては、例えば、2−ブロモベンジルアミン等が挙げられる。ここで、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0071】
前記モノアリールアミンを構成するアリール基が置換基を有する場合、前記アリール基は、置換基としてハロゲン原子を有する、炭素数が6〜10のアリール基であることが好ましい。このような置換基を有するモノアリールアミンとして、具体的には、例えば、ブロモフェニルアミン等が挙げられる。ここで、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0072】
前記ジアルキルアミンを構成するアルキル基が置換基を有する場合、前記アルキル基は、置換基として水酸基又はアリール基を有する、炭素数が1〜9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。このような置換基を有するジアルキルアミンとして、具体的には、例えば、ジエタノールアミン、N−メチルベンジルアミン等が挙げられる。
【0073】
前記アミン化合物は、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−へキシルアミン、n−オクチルアミン、n−ドデシルアミン、n−オクタデシルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、3−アミノペンタン、3−メチルブチルアミン、2−ヘプチルアミン、2−アミノオクタン、2−エチルヘキシルアミン、2−フェニルエチルアミン、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、N−メチル−n−ヘキシルアミン、ジイソブチルアミン、N−メチルベンジルアミン、ジ(2−エチルへキシル)アミン、1,2−ジメチル−n−プロピルアミン、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン又はN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンであることが好ましい。
そして、これらアミン化合物の中でも、2−エチルヘキシルアミンは、前記カルボン酸銀との相溶性に優れ、銀インク組成物の高濃度化に特に適しており、さらに導電層の表面粗さの低減に特に適したものとして挙げられる。
【0074】
(アミン化合物由来のアンモニウム塩)
本発明において、前記アミン化合物由来のアンモニウム塩は、前記アミン化合物が酸と反応してなるアンモニウム塩である。前記酸は、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸でもよいし、酢酸等の有機酸でもよく、酸の種類は特に限定されない。
前記アミン化合物由来のアンモニウム塩としては、例えば、n−プロピルアミン塩酸塩、N−メチル−n−ヘキシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン塩酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
(アンモニア由来のアンモニウム塩)
本発明において、前記アンモニア由来のアンモニウム塩は、アンモニアが酸と反応してなるアンモニウム塩である。ここで酸としては、例えば、前記アミン化合物由来のアンモニウム塩の場合と同じもの等が挙げられる。
前記アンモニア由来のアンモニウム塩としては、例えば、塩化アンモニウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0076】
本発明においては、前記アミン化合物、第4級アンモニウム塩、アミン化合物由来のアンモニウム塩及びアンモニア由来のアンモニウム塩は、それぞれ1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
そして、前記含窒素化合物としては、前記アミン化合物、第4級アンモニウム塩、アミン化合物由来のアンモニウム塩及びアンモニア由来のアンモニウム塩からなる群から選択される1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0077】
銀インク組成物において、前記含窒素化合物の配合量は、前記カルボン酸銀の配合量1モルあたり0.3〜15モルであることが好ましく、0.3〜5モルであることがより好ましい。前記含窒素化合物の前記配合量がこのような範囲であることで、銀インク組成物は安定性がより向上し、導電体(金属銀)の品質がより向上する。さらに、高温による加熱処理を行わなくても、より安定して導電体を形成できる。
【0078】
[還元剤]
本発明における還元剤は、シュウ酸(HOOC−COOH)、ヒドラジン(H
2N−NH
2)及び下記一般式(5)で表される化合物(以下、「化合物(5)」と略記することがある)からなる群から選択される1種以上のものである。
H−C(=O)−R
21 ・・・・(5)
(式中、R
21は、炭素数20以下のアルキル基、アルコキシ基若しくはN,N−ジアルキルアミノ基、水酸基又はアミノ基である。)
すなわち、配合される還元剤は、1種のみでよいし、2種以上でもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0079】
R
21における炭素数20以下のアルキル基は、炭素数が1〜20であり、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。R
21における前記アルキル基としては、例えば、前記一般式(1)のRにおける前記アルキル基と同様のもの等が挙げられる。
【0080】
R
21における炭素数20以下のアルコキシ基は、炭素数が1〜20であり、このようなアルコキシ基としては、例えば、R
21における前記アルキル基が酸素原子に結合してなる一価の基等が挙げられる。
【0081】
R
21における炭素数20以下のN,N−ジアルキルアミノ基は、炭素数が2〜20であり、窒素原子に結合している2個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。N,N−ジアルキルアミノ基における前記アルキル基は、それぞれ炭素数が1〜19である。ただし、これら2個のアルキル基の炭素数の合計値は2〜20である。
窒素原子に結合している前記アルキル基は、それぞれ直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。このようなアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜19である点以外は、前記一般式(1)のRにおける前記アルキル基と同様のもの等が挙げられる。
【0082】
前記還元剤としてのヒドラジンは、一水和物(H
2N−NH
2・H
2O)であってもよい。
【0083】
前記還元剤で好ましいものとしては、例えば、ギ酸(H−C(=O)−OH);ギ酸メチル(H−C(=O)−OCH
3)、ギ酸エチル(H−C(=O)−OCH
2CH
3)、ギ酸ブチル(H−C(=O)−O(CH
2)
3CH
3)等のギ酸エステル;プロパナール(H−C(=O)−CH
2CH
3)、ブタナール(H−C(=O)−(CH
2)
2CH
3)、ヘキサナール(H−C(=O)−(CH
2)
4CH
3)等のアルデヒド;ホルムアミド(H−C(=O)−NH
2)、N,N−ジメチルホルムアミド(H−C(=O)−N(CH
3)
2)等のホルムアミド類(式「H−C(=O)−N(−)−」で表される基を有する化合物);シュウ酸等が挙げられる。
【0084】
銀インク組成物において、還元剤の配合量は、前記カルボン酸銀の配合量1モルあたり0.04〜3.5モルであることが好ましく、0.06〜2.5モルであることがより好ましい。還元剤の前記配合量がこのような範囲であることで、銀インク組成物は、より容易に、より安定して導電体(金属銀)を形成できる。
【0085】
[アセチレンアルコール類]
本発明におけるアセチレンアルコール類は、下記一般式(20)で表される、炭素数9以上のもの(以下、「アセチレンアルコール(20)」と略記することがある)である。
【0086】
【化7】
(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基であり、ただし、R’及びR’’の少なくとも一方は前記アルキル基又はフェニル基である。)
【0087】
式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。
R’及びR’’における前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。ただし、R’及びR’’の炭素数の合計値(R’の炭素数とR’’の炭素数との合計値)は6以上である。
すなわち、アセチレンアルコール(20)は、炭素数が9以上のものである。
【0088】
R’及びR’’における前記アルキル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基と同様のものが挙げられ、炭素数が1〜20であるものが好ましい。
R’及びR’’における直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基の炭素数は、1〜20であることが好ましい。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、3−エチルブチル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1,1−ジメチルペンチル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、4,4−ジメチルペンチル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、4−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、1−プロピルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、5−エチルヘキシル基、1,1−ジメチルヘキシル基、2,2−ジメチルヘキシル基、3,3−ジメチルヘキシル基、4,4−ジメチルヘキシル基、5,5−ジメチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
R’及びR’’における環状の前記アルキル基の炭素数は、3〜20であることが好ましい。このようなアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基等が挙げられる。
【0089】
R’及びR’’における前記アルキル基の炭素数は、1〜15であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8であることが特に好ましい。
【0090】
R’及びR’’における前記アルキル基は、少なくとも一方が直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、両方が直鎖状又は分岐鎖状であることがより好ましい。
【0091】
R’及びR’’におけるフェニル基の水素原子が置換されていてもよい前記置換基としては、例えば、炭素数が1〜16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、前記脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合してなる一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、シアノ基、フェノキシ基等が挙げられる。これら前記置換基は、Rにおけるフェニル基の水素原子が置換されていてもよい前記置換基と同様のものである。そして、置換基を有する前記フェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されず、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0092】
R’及びR’’の炭素数の合計値は6〜16であることが好ましく、6〜13であることがより好ましく、6〜11であることがさらに好ましく、6〜9であることが特に好ましい。
すなわち、アセチレンアルコール(20)の炭素数は、9〜19であることが好ましく、9〜16であることがより好ましく、9〜14であることがさらに好ましく、9〜12であることが特に好ましい。
【0093】
ただし、R’及びR’’の少なくとも一方は前記アルキル基又はフェニル基であり、R’及びR’’がともに水素原子となることはない。
【0094】
アセチレンアルコール(20)は、例えば、液状及び固形状のいずれでもよいが、取り扱いが容易であることから、液状であることが好ましい。
また、アセチレンアルコール(20)は、常圧下又は減圧下において、気化させることにより除去可能なものが好ましい。
【0095】
好ましいアセチレンアルコール(20)としては、例えば、3−エチル−1−ヘプチン−3−オール、4−エチル−1−オクチン−3−オール等が挙げられる。
【0096】
アセチレンアルコール(20)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合で、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0097】
アセチレンアルコール(20)の配合量は、前記カルボン酸銀の配合量1モルあたり0.003〜0.7モルであることが好ましく、例えば、0.01〜0.7モル、0.02〜0.7モル、及び0.02〜0.3モル等のいずれかであってもよい。アセチレンアルコール(20)の前記配合量がこのような範囲であることで、銀インク組成物の保存安定性がより向上する。
【0098】
本発明の銀インク組成物は、前記還元剤及びアセチレンアルコール(20)がともに配合されていることで、金属銀の中でも、特に細線状のパターンのものをより容易に形成できる。
【0099】
[その他の成分]
銀インク組成物は、前記カルボン酸銀、含窒素化合物、還元剤及びアセチレンアルコール(20)以外の、その他の成分が配合されてなるものでもよい。
銀インク組成物における前記その他の成分は、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。前記その他の成分としては、例えば、アセチレンアルコール(20)以外の他のアセチレンアルコール、前記他のアセチレンアルコール以外の溶媒等が挙げられ、配合成分の種類や量に応じて任意に選択できる。
銀インク組成物における前記その他の成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合で、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0100】
前記他のアセチレンアルコールは、炭素原子間の三重結合(「C≡C」)を有する、アセチレンアルコール(20)以外のアルコールである。他のアセチレンアルコールは、炭素原子間の二重結合(「C=C」)を有していてもよいし、有していなくてもよいが、有していないことが好ましい。
他のアセチレンアルコールが配合されてなる銀インク組成物を用いることにより、後述する各種印刷法を適用して形成した印刷パターンにおいて、かすれをより抑制できる。その結果、かすれがより抑制された金属銀を形成できる。
【0101】
前記他のアセチレンアルコールで好ましいものとしては、例えば、下記一般式(21)で表されるもの(以下、「アセチレンアルコール(21)」と略記することがある)が挙げられる。
【0102】
【化8】
(式中、R
9’及びR
9’’は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基であり、ただし、R
9’及びR
9’’の炭素数の合計値は0〜5である。)
【0103】
式中、R
9’及びR
9’’は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基であり、ただし、R
9’及びR
9’’の炭素数の合計値(R
9’の炭素数とR
9’’の炭素数との合計値)は0〜5である。
すなわち、アセチレンアルコール(21)は、炭素数が3〜8のものである。
【0104】
R
9’及びR
9’’における前記アルキル基は、上記のように、炭素数が限定される点を除けば、一般式(20)中のR’及びR’’におけるアルキル基と同様のものである。R
9’及びR
9’’における前記アルキル基の炭素数は、1〜5である。
【0105】
好ましいアセチレンアルコール(21)としては、例えば、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール等が挙げられる。
【0106】
アセチレンアルコール(21)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合で、その組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0107】
前記他のアセチレンアルコールを用いる場合、銀インク組成物において、他のアセチレンアルコールの配合量は、アセチレンアルコール(20)の配合量1モルあたり0.2〜11モルであることが好ましく、0.2〜10モルであることがより好ましく、0.2〜9モルであることが特に好ましい。他のアセチレンアルコールの前記配合量が前記下限値以上であることで、他のアセチレンアルコールを用いたことによる効果がより顕著に得られる。また、他のアセチレンアルコールの前記配合量が前記上限値以下であることで、アセチレンアルコール(20)を用いたことによる効果と、他のアセチレンアルコールを用いたことによる効果とが、よりバランスよく得られる。
【0108】
前記溶媒は、アセチレンアルコール(20)及び前記他のアセチレンアルコール以外のものであれば、特に限定されない。
前記溶媒としては、例えば、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン等の脂肪族炭化水素;エタノール、2−プロパノール等の飽和脂肪族アルコール;アセチレンアルコール(20)及び他のアセチレンアルコール以外の不飽和アルコール;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、グルタル酸モノメチル、グルタル酸ジメチル等のエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,2−ジメトキシエタン(ジメチルセロソルブ)等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン;アセトニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
前記不飽和アルコールは、炭素原子間の二重結合(「C=C」)を有し、炭素原子間の三重結合(「C≡C」)を有しない、アセチレンアルコール(20)及び他のアセチレンアルコール以外のものである。
前記脂肪族炭化水素は、炭素数が15以下であることが好ましい。
【0110】
銀インク組成物において、アセチレンアルコール(20)の配合量に対する前記溶媒の配合量の割合は、少ないほど好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0質量、すなわち、前記溶媒が配合されていないことが最も好ましい。
【0111】
銀インク組成物において、配合成分の総量に対する、前記他のアセチレンアルコール及び溶媒のいずれにも該当しないその他の成分の配合量の割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0質量、すなわち、このようなその他の成分を配合しなくても、銀インク組成物は十分にその効果を発現する。
【0112】
銀インク組成物は、すべての成分が溶解していてもよいし、一部又は全ての成分が溶解せずに分散した状態であってもよいが、すべての成分が溶解していることが好ましく、溶解していない成分は均一に分散していることが好ましい。
【0113】
<銀インク組成物の製造方法>
本発明の銀インク組成物の製造方法は、前記カルボン酸銀、含窒素化合物、還元剤及びアセチレンアルコール(20)を配合する工程(以下、「配合工程」と略記することがある)を有する。
【0114】
前記配合工程後は、得られた配合物をそのまま銀インク組成物としてもよいし、得られた配合物を所定の温度及び時間でさらに継続して撹拌する撹拌工程を行って得られたものを銀インク組成物としてもよいし、配合工程後のいずれかの段階で、得られたものを公知の方法で精製する精製工程を経たものを銀インク組成物としてもよい。本発明においては、特にカルボン酸銀としてβ−ケトカルボン酸銀(1)を用いた場合、前記配合工程において、導電性を阻害する不純物が生成しないか、又はこのような不純物の生成量を極めて少量に抑制できる。したがって、精製工程を行っていない銀インク組成物を用いても、十分な導電性を有する導電体(金属銀)が得られる。
【0115】
前記配合工程においては、すべての成分を添加してからこれらを混合してもよいし、一部の成分を順次添加しながら混合してもよく、すべての成分を順次添加しながら混合してもよい。
【0116】
前記配合工程においては、配合成分の添加順序は特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。ただし、前記還元剤は前記カルボン酸銀からの金属銀の生成を促進し、アセチレンアルコール(20)は銀インク組成物の保存安定性の向上により強く関与していると推測される。一方で、還元剤及びアセチレンアルコール(20)の種類によっては、これらの成分同士が直接反応する可能性もある。このような理由から、前記配合工程においては、前記還元剤をアセチレンアルコール(20)よりも先に前記カルボン酸銀に添加して、金属銀の生成を促進した後、得られた混合物にさらにアセチレンアルコール(20)を添加することが好ましい。このような添加方法としては、例えば、前記含窒素化合物に対して、前記カルボン酸銀、還元剤及びアセチレンアルコール(20)をこの順序で添加する方法が挙げられる。
前記他のアセチレンアルコールを用いる場合には、他のアセチレンアルコールも、アセチレンアルコール(20)と同様に取り扱うことが好ましい。還元剤及び他のアセチレンアルコールの種類によっては、これらの成分同士も直接反応する可能性がある。したがって、前記配合工程においては、アセチレンアルコール(20)の場合と同様に、他のアセチレンアルコールを添加することが好ましい。そして、他のアセチレンアルコールは、アセチレンアルコール(20)と同時に配合することが好ましい。
【0117】
前記配合工程においては、前記還元剤は滴下により配合することが好ましく、さらに滴下速度の変動を抑制することで、金属銀の表面粗さをより低減できる傾向にある。
また、前記配合工程においては、アセチレンアルコール(20)は滴下により配合することが好ましい。
前記他のアセチレンアルコールを用いる場合には、前記配合工程においては、他のアセチレンアルコールも滴下により配合することが好ましい。
【0118】
前記配合工程及び撹拌工程はいずれも、空気雰囲気下で行ってもよいが、前記配合工程及び撹拌工程の少なくとも一方は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、前記配合工程及び撹拌工程をともに前記不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
また、前記配合工程及び撹拌工程を、空気雰囲気下及び前記不活性ガス雰囲気下のいずれで行う場合であっても、空気及び前記不活性ガスは、乾燥剤等により水分の含有量が調節されたものが好ましい。
【0119】
配合成分の混合方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサー、三本ロール、ニーダー又はビーズミル等を使用して混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
銀インク組成物において、溶解していない成分を均一に分散させる場合には、例えば、上記の三本ロール、ニーダー又はビーズミル等を用いて分散させる方法を適用することが好ましい。
【0120】
前記配合工程、撹拌工程等の、銀インク組成物を得るまでの各工程における温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、−5〜60℃であることが好ましい。そして、前記温度は、配合成分の種類及び量に応じて、配合して得られた混合物が撹拌し易い粘度となるように、適宜調節するとよい。
【0121】
前記配合工程及び撹拌工程の合計時間は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、10分〜36時間であることが好ましい。
【0122】
[二酸化炭素]
銀インク組成物は、さらに二酸化炭素が供給されてなるものでもよい。このような銀インク組成物は高粘度となり、例えば、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、パッド印刷法等の、インクを厚盛りすることが必要な印刷法への適用に好適である。
【0123】
二酸化炭素は、銀インク組成物製造時のいずれの時期に供給してもよい。
そして、本発明においては、例えば、前記カルボン酸銀及び含窒素化合物が配合されてなる第1混合物に、二酸化炭素を供給して第2混合物とし、前記第2混合物に、さらに、前記還元剤及びアセチレンアルコール(20)を配合して、銀インク組成物を製造することが好ましい。また、前記その他の成分を配合する場合、これらは、第1混合物及び第2混合物のいずれか一方又は両方の製造時に配合でき、目的に応じて任意に選択できる。
【0124】
前記第1混合物は、配合成分が異なる点以外は、上記の銀インク組成物と同様の方法で製造できる。
【0125】
第1混合物は、すべての成分が溶解していてもよいし、一部又は全ての成分が溶解せずに分散した状態であってもよいが、すべての成分が溶解していることが好ましく、溶解していない成分は均一に分散していることが好ましい。
【0126】
第1混合物製造時の配合温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、−5〜30℃であることが好ましい。また、配合時間は、配合成分の種類や配合時の温度に応じて適宜調節すればよいが、例えば、0.5〜12時間であることが好ましい。
【0127】
第1混合物に供給される二酸化炭素(CO
2)は、ガス状及び固形状(ドライアイス)のいずれでもよく、ガス状及び固形状の両方でもよい。二酸化炭素が供給されることにより、この二酸化炭素が第1混合物に溶け込み、第1混合物中の成分に作用することで、得られる第2混合物の粘度が上昇すると推測される。
【0128】
二酸化炭素ガスの供給は、液体中にガスを吹き込む公知の各種方法で行えばよく、適した供給方法を適宜選択すればよい。例えば、配管の一端を第1混合物中に浸漬し、他端を二酸化炭素ガスの供給源に接続して、この配管を通じて二酸化炭素ガスを第1混合物に供給する方法等が挙げられる。この時、配管の端部から直接二酸化炭素ガスを供給してもよいが、例えば、多孔質性のものなど、ガスの流路となり得る空隙部が多数設けられ、導入されたガスを拡散させて微小な気泡として放出することが可能なガス拡散部材を配管の端部に接続し、このガス拡散部材を介して二酸化炭素ガスを供給してもよい。また、第1混合物の製造時と同様の方法で、第1混合物を撹拌しながら二酸化炭素ガスを供給してもよい。このようにすることで、効率的に二酸化炭素を供給できる。
【0129】
二酸化炭素ガスの供給量は、供給先の第1混合物の量や、目的とする銀インク組成物又は第2混合物の粘度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。例えば、20〜25℃における粘度が5Pa・s以上である銀インク組成物を100〜1000g程度得るためには、二酸化炭素ガスを100L以上供給することが好ましく、200L以上供給することがより好ましい。なお、ここでは銀インク組成物の20〜25℃における粘度について説明したが、銀インク組成物の使用時の温度は、20〜25℃に限定されるものではなく、任意に選択できる。また、本明細書において「粘度」とは、特に断りのない限り、超音波振動式粘度計を用いて測定したものを意味する。
【0130】
二酸化炭素ガスの流量は、必要とされる二酸化炭素ガスの供給量を考慮して適宜調節すればよいが、第1混合物1gあたり0.5mL/分以上であることが好ましく、1mL/分以上であることがより好ましい。流量の上限値は特に限定されないが、取り扱い性等を考慮すると、混合物1gあたり40mL/分であることが好ましい。
そして、二酸化炭素ガスの供給時間は、必要とされる二酸化炭素ガスの供給量や、流量を考慮して適宜調節すればよい。
【0131】
二酸化炭素ガス供給時の第1混合物の温度は、5〜70℃であることが好ましく、7〜60℃であることがより好ましく、10〜50℃であることが特に好ましい。前記温度が前記下限値以上であることで、より効率的に二酸化炭素を供給でき、前記温度が前記上限値以下であることで、不純物が少ないより良好な品質の銀インク組成物が得られる。
【0132】
二酸化炭素ガスの流量及び供給時間、並びに二酸化炭素ガス供給時の前記温度は、それぞれの値を相互に考慮しながら適した範囲に調節すればよい。例えば、前記温度を低めに設定しても、二酸化炭素ガスの流量を多めに設定するか、二酸化炭素ガスの供給時間を長めに設定することで、あるいはこの両方を行うことで、効率的に二酸化炭素を供給できる。また、二酸化炭素ガスの流量を少なめに設定しても、前記温度を高めにするか、二酸化炭素ガスの供給時間を長めに設定することで、あるいはこの両方を行うことで、効率的に二酸化炭素を供給できる。すなわち、二酸化炭素ガスの流量、二酸化炭素ガス供給時の前記温度として例示した上記数値範囲の中の数値を、二酸化炭素ガスの供給時間も考慮しつつ柔軟に組み合わせることで、良好な品質の銀インク組成物が効率的に得られる。
【0133】
二酸化炭素ガスの供給は、第1混合物を撹拌しながら行うことが好ましい。このようにすることで、供給した二酸化炭素ガスがより均一に第1混合物中に拡散し、より効率的に二酸化炭素を供給できる。
この時の撹拌方法は、二酸化炭素を用いない上記の銀インク組成物の製造時における前記混合方法の場合と同様でよい。
【0134】
ドライアイス(固形状二酸化炭素)の供給は、第1混合物中にドライアイスを添加することで行えばよい。ドライアイスは、全量を一括して添加してもよいし、分割して段階的に(添加を行わない時間帯を挟んで連続的に)添加してもよい。
ドライアイスの使用量は、上記の二酸化炭素ガスの供給量を考慮して調節すればよい。
ドライアイスの添加中及び添加後は、第1混合物を撹拌することが好ましく、例えば、二酸化炭素を用いない上記の銀インク組成物の製造時と同様の方法で撹拌することが好ましい。このようにすることで、効率的に二酸化炭素を供給できる。
撹拌時の温度は、二酸化炭素ガス供給時と同様でよい。また、撹拌時間は、撹拌温度に応じて適宜調節すればよい。
【0135】
第2混合物の粘度は、銀インク組成物又は第2混合物の取り扱い方法など、目的に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。例えば、銀インク組成物をスクリーン印刷法、フレキソ印刷法等の高粘度インクを使用する印刷法へ適用する場合には、第2混合物の20〜25℃における粘度は、3Pa・s以上であることが好ましい。なお、ここでは第2混合物の20〜25℃における粘度について説明したが、第2混合物の使用時の温度は、20〜25℃に限定されるものではなく、任意に選択できる。
【0136】
前記第2混合物には、さらに前記還元剤及びアセチレンアルコール(20)を配合し、さらに必要に応じて前記その他の成分を配合して、銀インク組成物とすることができる。前記還元剤及びアセチレンアルコール(20)は、この順に配合してもよいし、同時に配合してもよく、アセチレンアルコール(20)及び還元剤の順に配合してもよい。ただし、先に説明した理由で、前記還元剤をアセチレンアルコール(20)よりも先に第2混合物に添加して、金属銀の生成を促進した後、得られた混合物にさらにアセチレンアルコール(20)を添加することが好ましい。
このときの銀インク組成物は、配合成分が異なる点以外は、二酸化炭素を用いない上記の銀インク組成物と同様の方法で製造できる。そして、得られた銀インク組成物は、すべての成分が溶解していてもよいし、一部又は全ての成分が溶解せずに分散した状態であってもよいが、すべての成分が溶解していることが好ましく、溶解していない成分は均一に分散していることが好ましい。
【0137】
第2混合物への各配合成分の配合時から、銀インク組成物を得るまでの各工程における温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、−5〜60℃であることが好ましい。そして、この配合時の温度は、配合成分の種類及び量に応じて、配合して得られた混合物が撹拌し易い粘度となるように、適宜調節するとよい。
また、第2混合物への各配合成分の配合時と、それに続く撹拌時の合計時間は、配合成分の種類や配合時の温度に応じて適宜調節すればよいが、例えば、0.5〜12時間であることが好ましい。
【0138】
前記その他の成分は、先に説明したように、前記第1混合物及び第2混合物のいずれかの製造時に配合されてもよく、両方の製造時に配合されてもよい。
すなわち、前記その他の成分が溶媒である場合、第1混合物及び第2混合物を経て銀インク組成物を製造する過程において、アセチレンアルコール(20)の配合量に対する前記溶媒の配合量の割合([溶媒(質量)]/[アセチレンアルコール(20)(質量)]×100)は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0質量、すなわち溶媒を配合しなくても、銀インク組成物は十分にその効果を発現する。
【0139】
一方、前記その他の成分が、前記他のアセチレンアルコール及び溶媒のいずれにも該当しない場合、二酸化炭素以外の配合成分の総量に対する、前記その他の成分の配合量の割合([他のアセチレンアルコール及び溶媒のいずれにも該当しないその他の成分(質量)]/[カルボン酸銀、含窒素化合物、還元剤、アセチレンアルコール(20)、及びその他の成分(質量)]×100)は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0質量、すなわちその他の成分を配合しなくても、銀インク組成物は十分にその効果を発現する。
【0140】
二酸化炭素が供給されてなる銀インク組成物は、例えば、銀インク組成物をスクリーン印刷法、フレキソ印刷法等の高粘度インクを使用する印刷法へ適用する場合には、20〜25℃における粘度が、1Pa・s以上であることが好ましい。
【0141】
例えば、還元剤の配合時には、得られる配合物(銀インク組成物)は比較的発熱し易い。そして、還元剤の配合時の温度が高い場合、この配合物は、後述する銀インク組成物の加熱処理時と同様の状態になるため、還元剤によるカルボン酸銀の分解促進作用によって、カルボン酸銀の少なくとも一部において金属銀の形成が開始されることがあると推測される。このような金属銀を含有する銀インク組成物は、金属銀形成時において、金属銀を含有しない銀インク組成物よりも温和な条件で後処理を行うことにより、金属銀を形成できることがある。また、還元剤の配合量が十分に多い場合にも、同様に温和な条件で後処理を行うことにより、金属銀を形成できることがある。このように、カルボン酸銀の分解を促進する条件を採用することで、後処理として、より低温での加熱処理で、あるいは加熱処理を行わずに常温での乾燥処理のみで、金属銀を形成できることがある。また、このような金属銀を含有する銀インク組成物は、金属銀を含有しない銀インク組成物と同様に取り扱うことができ、特に取り扱い性が劣ることもない。
【0142】
なお、本発明における第2混合物は、上記のように二酸化炭素の供給によって、粘度が通常よりも高い。一方で、第2混合物への還元剤の配合時には、第2混合物又は還元剤の種類によっては、上記のようにカルボン酸銀の少なくとも一部において金属銀の形成が開始され、金属銀が析出することがある。ここで、第2混合物の粘度が高い場合には、析出した金属銀の凝集が抑制され、得られた銀インク組成物中での金属銀の分散性が向上する。このような銀インク組成物を用いて、後述する方法で金属銀を形成して得られた導電体は、粘度が低い、すなわち二酸化炭素が供給されていない混合物に還元剤が配合されて得られた銀インク組成物を用いた場合の導電体よりも、導電性が高く(体積抵抗率が低く)、表面粗さも小さくなり、より好ましい特性を有するものとなる。
【0143】
本発明の銀インク組成物は、従来の銀インク組成物よりも優れた保存安定性を有する。銀インク組成物の保存安定性は、例えば、銀インク組成物を二以上に分割して、得られた同じ組成の銀インク組成物を、互いに異なる期間だけ保存して、これら保存期間が異なる銀インク組成物を用いて金属銀を形成し、これら金属銀の体積抵抗率等の導電性の指標となる物性値を測定して、これら物性値の差の大小により確認できる。
ここで、比較対象となる二以上の銀インク組成物は、保存期間以外の保存条件が互いに同じであることが好ましい。
【0144】
<積層体>
本発明の銀インク組成物は、加熱(焼成)処理等の固化処理によって、導電性が高い金属銀の形成が可能である。例えば、本発明の銀インク組成物を基材上に付着させ、加熱処理して、前記カルボン酸銀を分解させることで、基材上に金属銀からなる層(以下、「銀層」と略記する)を備えた積層体が得られる。
【0145】
銀インク組成物は、例えば、印刷法、塗布法、浸漬法等の公知の方法で基材上に付着させることができる。
前記印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、ディップ式印刷法、インクジェット式印刷法、ディスペンサー式印刷法、ジェットディスペンサー式印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、パッド印刷法等が挙げられる。
前記塗布法としては、例えば、スピンコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、グラビアコーター等の各種コーターや、ワイヤーバー等を用いる方法等が挙げられる。
【0146】
銀層の形成時には、基材上に付着させる銀インク組成物の量、又は銀インク組成物における前記カルボン酸銀の配合量を調節することで、銀層の厚さを調節できる。
【0147】
基材上に付着させた銀インク組成物を乾燥処理する場合には、公知の方法で行えばよい。すなわち前記乾燥処理は、例えば、常圧下、減圧下及び送風条件下のいずれで行ってもよく、大気下及び不活性ガス雰囲気下のいずれでおこなってもよい。そして、乾燥温度も特に限定されず、加熱乾燥及び常温乾燥のいずれでもよい。加熱処理が不要な場合の好ましい乾燥方法としては、例えば、18〜30℃で大気下において乾燥させる方法等が挙げられる。
【0148】
基材上に付着させた銀インク組成物を加熱(焼成)処理する場合、その条件は、銀インク組成物の配合成分の種類に応じて適宜調節すればよい。通常は、加熱温度が60〜370℃であることが好ましく、70〜280℃であることがより好ましい。加熱時間は、加熱温度に応じて調節すればよいが、通常は、1分〜24時間であることが好ましく、1分〜12時間であることがより好ましい。前記カルボン酸銀の中でも、特にβ−ケトカルボン酸銀(1)は、例えば、酸化銀等の金属銀の形成材料とは異なり、当該分野で公知の還元剤等を使用しなくても、低温で分解する。そして、このような分解温度を反映して、前記銀インク組成物は、上記のように、従来のものより極めて低温で金属銀を形成できる。
【0149】
銀インク組成物を耐熱性が低い基材に付着させて加熱(焼成)処理する場合には、加熱温度は130℃未満であることが好ましく、125℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。
【0150】
銀インク組成物の加熱処理の方法は、特に限定されない。前記加熱処理は、例えば、電気炉による加熱、感熱方式の熱ヘッドによる加熱、遠赤外線照射による加熱、高熱ガスの吹き付けによる加熱等で行うことができる。また、前記加熱処理は、大気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、加湿条件下で行ってもよい。そして、前記加熱処理は、常圧下、減圧下及び加圧下のいずれで行ってもよい。
【0151】
本明細書において「加湿」とは、特に断りのない限り、湿度を人為的に増大させることを意味し、好ましくは相対湿度を5%以上とすることである。加熱処理時には、処理温度が高いことによって、処理環境での湿度が極めて低くなるため、5%という相対湿度は、明らかに人為的に増大されたものであるといえる。
【0152】
銀インク組成物の加熱処理を加湿条件下で行う場合の相対湿度は、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましく、90%以上であってもよいし、100%であってもよい。そして、加湿条件下での加熱処理は、100℃以上に加熱した高圧水蒸気の吹き付けにより行ってもよい。このように加湿条件下で加熱処理することにより、短時間でより高純度の金属銀を形成できる。
【0153】
銀インク組成物の加熱処理は、二段階で行ってもよい。例えば、一段階目の加熱処理では、金属銀の形成ではなく銀インク組成物の乾燥を主に行い、二段階目の加熱処理で、金属銀の形成を最後まで行う方法等が挙げられる。
一段階目の加熱処理において、加熱温度は、銀インク組成物の配合成分の種類に応じて適宜調節すればよいが、60〜120℃であることが好ましく、70〜120℃であることがより好ましく、80〜110℃であることが特に好ましい。また、加熱時間は、加熱温度に応じて調節すればよいが、通常は、5秒〜12時間であることが好ましく、30秒〜2時間であることがより好ましい。
二段階目の加熱処理において、加熱温度は、金属銀が良好に形成されるように、銀インク組成物の配合成分の種類に応じて適宜調節すればよいが、60〜280℃であることが好ましく、70〜260℃であることがより好ましい。また、加熱時間は、加熱温度に応じて調節すればよいが、通常は、1分〜12時間であることが好ましく、1分〜10時間であることがより好ましい。
銀インク組成物を耐熱性が低い基材に付着させて加熱(焼成)処理する場合には、一段階目及び二段階目の加熱処理における加熱温度は、130℃未満であることが好ましく、125℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。
【0154】
ここまでで説明した銀インク組成物の加熱処理は、いずれも気相中で行うものであるが、銀インク組成物の加熱処理を二段階で行う場合、二段階目の加熱処理は、気相中ではなく液相中で行ってもよい。一段階目の加熱処理を経て、完全に又はある程度乾燥した銀インク組成物は、加熱した液体と接触させることで、その形状を損なうことなく、二段階目の加熱処理を行うことができる。そして、銀インク組成物の、一段階目の加熱処理を行った後の二段階目の液相中での加熱処理は、加熱した液体に銀インク組成物を浸漬することで行うことが好ましい。この液相中での加熱処理における加熱温度及び加熱時間は、先に説明した二段階目の加熱処理における加熱温度及び加熱時間と同じである。
上記の加熱した液体は湯(加熱した水)であることが好ましく、二段階目の加熱処理は、一段階目の加熱処理を行った銀インク組成物を湯中に浸漬すること、すなわち湯煎によって行うことが好ましい。
二段階目の加熱処理を液相中で行った場合には、この加熱処理によって形成された金属銀を、さらに乾燥させればよい。
【0155】
銀インク組成物の二段階目の加熱処理を液相中で行う場合、銀インク組成物の一段階目の加熱処理は、非加湿条件下で行うことが好ましい。
なお、本明細書において「非加湿」とは、上述の「加湿」を行わないこと、すなわち、湿度を人為的に増大させないことを意味し、好ましくは相対湿度を5%未満とすることである。
【0156】
加湿条件下での加熱処理を採用する場合、銀インク組成物の加熱処理は、以下に示す二段階の方法で行うことが特に好ましい。すなわち、一段階目の加熱処理において、非加湿条件下で、上述のように金属銀の形成ではなく銀インク組成物の乾燥を主に行い、二段階目の加熱処理において、加湿条件下で、上述のように金属銀の形成を最後まで行うことにより、銀インク組成物の加熱処理を行うことが特に好ましい。
【0157】
二段階目の加熱処理を加湿条件下で行う場合、一段階目の非加湿条件下での加熱処理時の加熱温度は、60〜120℃であることが好ましく、70〜120℃であることがより好ましく、80〜110℃であることが特に好ましい。また、加熱時間は、5秒〜1時間であることが好ましく、30秒〜30分であることがより好ましく、30秒〜10分であることが特に好ましい。
一段階目の非加湿条件下での加熱処理に次いで行う、二段階目の加湿条件下での加熱処理時の加熱温度は、60〜140℃であることが好ましく、70〜130℃であることがより好ましい。また、加熱時間は、1分〜2時間であることが好ましく、1分〜1時間であることがより好ましく、1分〜30分であることが特に好ましい。
銀インク組成物を耐熱性が低い基材に付着させて加熱(焼成)処理する場合には、一段階目の非加湿条件下での加熱処理及び二段階目の加湿条件下での加熱処理における加熱温度は、いずれも130℃未満であることが好ましく、125℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。
【0158】
以上のように、金属銀の製造方法で好ましいものとしては、例えば、前記銀インク組成物を用いて、前記金属銀を形成する工程を有するものが挙げられ、中でも好ましい製造方法としては、例えば、前記金属銀を形成する工程において、前記銀インク組成物を、非加湿条件下で加熱処理した後、さらに加湿条件下で、又は加熱した液体と接触させて、加熱処理することで、前記金属銀を形成するものが挙げられる。
【0159】
本発明の銀インク組成物を用いて形成された金属銀は、導電性に優れ、その体積抵抗率は、例えば、好ましくは14.0μΩ・cm以下、より好ましくは13.5μΩ・cm以下、特に好ましくは13.0μΩ・cm以下となる。そして、前記金属銀の体積抵抗率の下限値は特に限定されないが、例えば、5.0μΩ・cmとなる。
例えば、製造直後からの保存期間が30日である銀インク組成物も、上記のような体積抵抗率の金属銀の形成が可能である。
【0160】
本発明の銀インク組成物は、製造直後からの保存期間が1日である場合も、導電性に優れた金属銀の形成が可能であり、体積抵抗率が、例えば、好ましくは13.5μΩ・cm以下、より好ましくは13.0μΩ・cm以下、特に好ましくは12.5μΩ・cm以下の金属銀の形成が可能である。そして、前記金属銀の体積抵抗率の下限値は特に限定されないが、例えば、4.5μΩ・cmとなる。
【0161】
本発明の銀インク組成物は、従来の銀インク組成物よりも優れた保存安定性を有する。そのため、長期間保存後の本発明の銀インク組成物から形成した金属銀は、製造直後の組成が同じである、保存期間が短い本発明の銀インク組成物から形成した金属銀と比較して、導電性(体積抵抗率)に大きな違いが見られない。
例えば、製造直後からの保存期間が1日である銀インク組成物を用いて形成された金属銀の体積抵抗率ρ
1(μΩ・cm)と、製造直後の組成が同じであり、製造直後からの保存期間が30日である銀インク組成物を用いて形成された金属銀の体積抵抗率ρ
2(μΩ・cm)と、を用いて、式「(ρ
2−ρ
1)/ρ
1×100」により算出される金属銀の体積抵抗率の変化率(%)は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下となる。
【0162】
金属銀が上述のような体積抵抗率及びその変化率を示すようにするためには、銀インク組成物の保存温度は、20℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることが特に好ましい。
【0163】
本発明の銀インク組成物を用いて形成された金属銀は、極めて高純度であり、金属銀の比率が、見かけ上金属銀だけからなるとみなし得る程度に十分に高く、例えば、好ましくは99質量%以上である。
一方、本発明の銀インク組成物を用いて形成された金属銀は、金属銀の比率の上限値を、例えば、99.9質量%、99.8質量%、99.7質量%、99.6質量%、99.5質量%、99.4質量%、99.3質量%、99.2質量%及び99.1質量%のいずれかとすることができる。
【0164】
前記金属銀の体積抵抗率は、例えば、金属銀(銀層)の純度及び厚さ等により調節できる。
【0165】
図1は、本発明の銀インク組成物を用いて得られた積層体の一実施形態を模式的に示す断面図である。なお、
図1は、例えば、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。これは、以降の図においても同様である。
ここに示す積層体1は、基材11の表面(一方の主面)11aに銀層12が積層されてなるものである。
【0166】
[基材]
基材11は、前記銀インク組成物を使用できるものであれば、特に限定されない。
基材11の材質として具体的には、例えば、ポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP);ポリ塩化ビニル(PVC);ポリ塩化ビニリデン(PVDC);ポリメチルペンテン(PMP);ポリシクロオレフィン;ポリスチレン(PS);ポリ酢酸ビニル(PVAc);ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂;AS樹脂;ABS樹脂;ナイロン6,6、ナイロン6等のポリアミド(PA);ポリイミド;ポリアミドイミド(PAI);ポリアセタール(POM);ポリエチレンテレフタレート(PET);ポリブチレンテレフタレート(PBT);ポリトリメチレンテレフタレート(PTT);ポリエチレンナフタレート(PEN);ポリブチレンナフタレート(PBN);ポリフェニレンスルファイド(PPS);ポリスルホン(PSF);ポリエーテルスルホン(PES);ポリエーテルケトン(PEK);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリカーボネート(PC);ポリウレタン;ポリフェニレンエーテル(PPE);変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE);ポリアリレート;エポキシ樹脂;メラミン樹脂;フェノール樹脂;尿素樹脂等の合成樹脂が挙げられる。
また、基材11の材質としては、上記以外にも、例えば、ガラス、シリコン等のセラミックス;紙等が挙げられる。
また、基材11は、ガラスエポキシ樹脂、ポリマーアロイ等の、2種以上の材質を併用したものでもよい。
【0167】
基材11は、目的に応じて任意の形状を選択でき、例えば、フィルム状又はシート状であることが好ましい。フィルム状又はシート状である基材11の厚さは、0.5〜5000μmであることが好ましく、0.5〜2500μmであることがより好ましい。基材11の厚さが前記下限値以上であることで、銀層の構造をより安定して保持でき、基材11の厚さが前記上限値以下であることで、銀層形成時の取り扱い性がより良好となる。
【0168】
基材11は、単層からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよい。基材11が複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよく、一部の層のみが異なっていてもよい。そして、複数層が互いに異なる場合、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。ここで、複数層が互いに異なるとは、各層の材質及び厚さの少なくとも一方が互いに異なることを意味する。
なお、基材11が複数層からなる場合には、各層の合計の厚さが、上記の好ましい基材11の厚さとなるようにするとよい。
【0169】
[銀層]
銀層12は、前記銀インク組成物を用いて形成された金属銀からなる。
基材11の一方の主面(表面)11aを上方から見下ろすように、積層体1を平面視したときの、銀層12の形状は、目的に応じて任意に設定でき、基材11の表面11aの全面に銀層12が設けられていてもよいし、基材11の表面11aのうち、一部のみに銀層12が設けられていてもよく、この場合、銀層12はパターニングされていてもよい。
パターニングされた銀層12は、例えば、配線として有用である。
【0170】
銀層12の厚さは、目的に応じて任意に設定できるが、0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜3μmであることがより好ましい。銀層12の厚さが前記下限値以上であることで、導電性をより向上させることができ、さらに、銀層12の構造をより安定して維持できる。また、銀層12の厚さが前記上限値以下であることで、積層体1をより薄層化できる。
【0171】
銀層12は、単層からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよい。銀層12が複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、基材11の場合と同様に構成できる。例えば、複数層からなる銀層12は、各層の合計の厚さが、上記の好ましい銀層12の厚さとなるようにするとよい。
【0172】
前記積層体は、
図1に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、他の構成が追加されたり、一部構成が適宜変更されたものでもよい。例えば、基材11上に銀層12以外のその他の層が設けられたものでもよく、前記その他の層としては、基材11と銀層12との間に設けられる受容層(図示略)、及び銀層12を被覆するオーバーコート層(図示略)等が挙げられる。前記受容層は、銀層と基材との密着性を向上させるものである。
また、ここでは、積層体1として基材11の一方の主面(表面)11a上に銀層12を備えたものを示しているが、本発明の積層体は、基材11の他方の主面(裏面)11b上にも同様に(基材11の両方の主面上に)銀層12を備えたものでもよい。
【0173】
前記積層体として、基材11上に銀層12以外のその他の層が設けられたものを製造する場合には、上述の製造方法において、所定のタイミングでその他の層を形成する工程を適宜追加して行えばよい。
【0174】
<<電子機器、透明導電膜>>
前記積層体は、各種電子機器、透明導電膜等を構成するのに好適である。
例えば、電子機器は、前記積層体を用い、前記基材を筐体(外装材)として備えるように構成できる。このような電子機器は、前記積層体中の基材で筐体(外装材)の少なくとも一部を構成した点以外は、公知の電子機器と同様の構成とすることができる。例えば、携帯電話機等の通信機器における外装材の平面又は曲面部分を前記基材とし、この外装材(基材)上に前記金属銀からなる細線(銀細線)を形成し、この細線を回路とすることで、前記積層体を回路基板として用いることができる。そして、例えば、前記積層体に加え、音声入力部、音声出力部、操作スイッチ、表示部等を組み合わせることにより、携帯電話機を構成できる。また、パターニングされた銀層をアンテナとすることで、前記積層体をアンテナ構造体とすることができ、前記アンテナ構造体を用いた点以外は、公知のデータ受送信体と同様の構成とすることで、新規のデータ受送信体とすることができる。例えば、前記積層体において、基材上に銀層と電気的に接続されたICチップを設けてアンテナ部とすることにより、非接触型データ受送信体を構成できる。
【0175】
また、透明導電膜は、前記積層体を用い、銀層を極微細配線又は極薄配線として備えるように構成できる。このような透明導電膜は、銀層を極微細配線又は極薄配線として備えた点以外は、公知の透明導電膜と同様の構成とすることができる。例えば、前記積層体をさらに透明基材等と組合せることにより、タッチパネルや光学ディスプレイを構成できる。
極微細配線の線幅は、1〜20μmであることが好ましく、1.3〜15μmであることがより好ましく、1.5〜13μmであることが特に好ましい。
また、極微細配線の断面形状は、好ましくは楕円の短軸方向のほぼ半分の領域が切り取られた半楕円形状である。
一方、極薄配線の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、7nm〜5μmであることがより好ましく、10nm〜1μmであることが特に好ましい。
極薄配線の断面形状は、前記極微細配線の断面形状と同様である。
前記透明導電膜は、銀層がこのような線幅及び厚さの少なくとも一方を満たしていることが好ましい。銀層がこのような線幅又は厚さであれば、目視によってその存在が認識困難となるので、透明導電膜として好ましいものとなる。
【0176】
また、前記積層体においては、銀層を低温で形成することも可能であり、基材等の材質を幅広く選択できるので、設計の自由度が飛躍的に向上し、電子機器、透明導電膜等をより合理的な構造とすることも可能である。
上記のような電子機器、透明導電膜等は、長期に渡って高い性能を維持することが可能である。
【実施例】
【0177】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0178】
[実施例1]
<銀インク組成物の製造>
ビーカー中に2−エチルヘキシルアミン(後述する2−メチルアセト酢酸銀に対して1.45倍モル量)を加え、メカニカルスターラーを用いて撹拌しながら、液温が50℃以下となるように、2−メチルアセト酢酸銀を添加した。次いで、ビーカーの開口部をカバーで塞いだ状態で、10mL/分の流量で窒素ガスをビーカー内に流しながら10分撹拌した後、温度が25℃である水浴中にビーカーを設置して、以降、この状態を保ったまま、シリンジポンプを用いてギ酸(2−メチルアセト酢酸銀に対して0.48倍モル量)を30分間かけて滴下した。最初の操作(配合成分の混合)を開始してから2時間後に、3−エチル−1−ヘプチン−3−オール(2−メチルアセト酢酸銀に対して0.036倍モル量)を1分間かけて滴下し、さらに5分撹拌して、銀インク組成物を得た。各配合成分の種類と配合比を表1に示す。表1中、「含窒素化合物(モル比)」とは、カルボン酸銀の配合量1モルあたりの含窒素化合物の配合量(モル数)([含窒素化合物のモル数]/[カルボン酸銀のモル数])を意味する。「還元剤(モル比)」も同様に、カルボン酸銀の配合量1モルあたりの還元剤の配合量(モル数)([還元剤のモル数]/[カルボン酸銀のモル数])を意味する。「アセチレンアルコール類(モル比)」も同様に、カルボン酸銀の配合量1モルあたりのアセチレンアルコール類の配合量(モル数)([アセチレンアルコール類のモル数]/[カルボン酸銀のモル数])を意味する。
【0179】
<積層体の製造>
上記で得られた銀インク組成物を、空気雰囲気下、遮光性を有する樹脂製容器中に入れ、蓋をして水分の侵入を防止し、5℃で1日放置した。
次いで、樹脂製容器中から一部の銀インク組成物を取り出し、ポリカーボネート製基材(厚さ2mm)の一方の主面(表面)上に、グラビアオフセット印刷法により、この取り出した銀インク組成物を用いて印刷を行い、印刷パターンを形成した。
次いで、オーブン内で印刷済みの前記基材を100℃で10分乾燥させ、さらに、100℃の水蒸気雰囲気下にこの基材を10分置いて加熱(焼成)処理することにより、厚さ0.2μm、幅200μm、長さ25mmの直線状銀細線を前記基材の表面上に形成し、積層体を得た。以下、この積層体を第1積層体と称する。
【0180】
さらに、一部を取り出した後の残りの銀インク組成物を、引き続き前記樹脂製容器中で水分の侵入を防止して、5℃で29日放置し、合計で30日に渡って保存した。
次いで、この30日保存後の銀インク組成物を用いて、上述の第1積層体の場合と同様に、基材の表面上に銀細線を形成し、積層体を得た。以下、この積層体を第2積層体と称する。
【0181】
<積層体の評価>
(銀細線の体積抵抗率の変化率の測定)
上記で得られた第1積層体及び第2積層体の銀細線について、線抵抗値R(Ω)、断面積A(cm
2)、及び線長L(=2.5cm)を測定し、式「ρ=R×A/L」により、第1積層体の銀細線の体積抵抗率ρ
11(μΩ・cm)、及び第2積層体の銀細線の体積抵抗率ρ
21(μΩ・cm)をそれぞれ算出した。なお、線抵抗値Rはデジタルマルチメータ(エーディーシー社製「7352」)を用いて2端子法で測定し、断面積Aはレーザ顕微鏡(キーエンス社製「VK−X100」)を用いて測定した。
さらに、式「(ρ
21−ρ
11)/ρ
11×100」により、銀細線の体積抵抗率の変化率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0182】
<積層体の製造及び評価>
[実施例2、比較例1〜3]
銀インク組成物製造時の配合成分を表1に示すとおりとした点以外は、実施例1と同じ方法で、銀インク組成物、第1積層体及び第2積層体を製造し、これら積層体を評価した。結果を表2に示す。
【0183】
【表1】
【0184】
【表2】
【0185】
上記結果から明らかなように、実施例1〜2では、第1積層体及び第2積層体のいずれにおいても、銀細線の体積抵抗率(ρ
11及びρ
21)が低く、かつ銀細線の体積抵抗率の変化率(%)が小さく、銀インク組成物の保存安定性が高いことが確認された。
これに対して、比較例1〜3では、上記実施例とは異なる種類のアセチレンアルコール類を用いたことにより、第2積層体の銀細線の体積抵抗率(ρ
21)と第1積層体の銀細線の体積抵抗率(ρ
11)との差が大きく、銀細線の体積抵抗率の変化率(%)が大きくなっており、銀インク組成物の保存安定性が低いことが確認された。特に、アセチレンアルコール類として、他の実施例及び比較例とは構造が大きく異なるものを用いた比較例3では、銀細線の体積抵抗率の変化率(%)が著しく大きく、表2中では「−」として示している。
【0186】
[実施例3]
<銀インク組成物の製造>
ビーカー中に2−エチルヘキシルアミン(後述する2−メチルアセト酢酸銀に対して1.45倍モル量)を加え、メカニカルスターラーを用いて撹拌しながら、液温が50℃以下となるように、2−メチルアセト酢酸銀を添加した。次いで、ビーカーの開口部をカバーで塞いだ状態で、10mL/分の流量で窒素ガスをビーカー内に流しながら10分撹拌した後、温度が25℃である水浴中にビーカーを設置して、以降、この状態を保ったまま、シリンジポンプを用いてギ酸(2−メチルアセト酢酸銀に対して0.50倍モル量)を30分間かけて滴下した。最初の操作(配合成分の混合)を開始してから2時間後に、4−エチル−1−オクチン−3−オール(2−メチルアセト酢酸銀に対して0.004倍モル量)及び3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール(2−メチルアセト酢酸銀に対して0.032倍モル量)を1分間かけて滴下し、さらに5分撹拌して、銀インク組成物を得た。各配合成分の種類と配合比を表3に示す。なお、表3中、配合成分の欄の「−」との記載は、その成分が未配合であることを意味する。
【0187】
<積層体の製造及び評価>
上記で得られた銀インク組成物を用いた点以外は、実施例1と同じ方法で、第1積層体及び第2積層体を製造し、これら積層体を評価した。結果を表4に示す。
【0188】
<積層体の製造及び評価>
[実施例4〜5]
銀インク組成物製造時の配合成分を表3に示すとおりとした点以外は、実施例3と同じ方法で、銀インク組成物、第1積層体及び第2積層体を製造し、これら積層体を評価した。結果を表4に示す。
【0189】
<積層体の製造及び評価>
[実施例6〜7、比較例4]
銀インク組成物製造時の配合成分を表3に示すとおりとした点以外は、実施例1と同じ方法で、銀インク組成物、第1積層体及び第2積層体を製造し、これら積層体を評価した。結果を表4に示す。
【0190】
【表3】
【0191】
【表4】
【0192】
上記結果から明らかなように、実施例3〜7では、第1積層体及び第2積層体のいずれにおいても、銀細線の体積抵抗率(ρ
11及びρ
21)が低く、かつ銀細線の体積抵抗率の変化率(%)が小さく、銀インク組成物の保存安定性が高いことが確認された。
これに対して、比較例4では、上記実施例とは異なる形態でアセチレンアルコール類を用いたことにより、第2積層体の銀細線の体積抵抗率(ρ
21)と第1積層体の銀細線の体積抵抗率(ρ
11)との差が大きく、銀細線の体積抵抗率の変化率(%)が大きくなっており、銀インク組成物の保存安定性が低いことが確認された。
【0193】
実施例3〜5では、アセチレンアルコール(20)とそれ以外の他のアセチレンアルコール(アセチレンアルコール(21))とを併用したが、他のアセチレンアルコールを併用していない実施例6〜7の場合と比べると、第1積層体及び第2積層体のいずれにおいても、銀細線のかすれがより抑制されていた。すなわち、アセチレンアルコール(20)と他のアセチレンアルコールとを併用した銀インク組成物を用いることにより、かすれがより抑制された印刷パターンを形成できることが確認された。