(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の硬化性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも称する。)は、カルボキシル基含有樹脂、熱硬化成分、難燃剤およびイオン捕捉剤を含む。特に本発明においては、上記イオン捕捉剤がハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤とハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤との混合物であることが必須であり、これらのイオン捕捉剤を用いることによって、イオンマイグレーション耐性などの絶縁信頼性と難燃性とを高度に両立させることができるようになる。
以下、各成分について詳述する。
【0016】
[カルボキシル基含有樹脂]
本発明の樹脂組成物に含まれるカルボキシル基含有樹脂としては、分子中にカルボキシル基を含有している公知慣用の樹脂化合物が使用できる。カルボキシル基の存在により、樹脂組成物をアルカリ現像性とすることができる。また、本発明の樹脂組成物を光硬化性にすることや耐現像性の観点から、カルボキシル基の他に、分子内にエチレン性不飽和結合を有することが好ましいが、エチレン性不飽和二重結合を有さないカルボキシル基含有樹脂のみを用いることもできる。カルボキシル基含有樹脂がエチレン性不飽和結合を有さない場合は、組成物を光硬化性とするために、分子中に1個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(光重合性化合物)を併用する必要がある。エチレン性不飽和二重結合としては、アクリル酸もしくはメタアクリル酸またはそれらの誘導体由来のものが好ましい。
【0017】
本発明の樹脂組成物に用いることができるカルボキシル基含有樹脂の具体例としては、以下に列挙するような化合物(オリゴマーおよびポリマーのいずれでもよい)が挙げられる。
【0018】
(1)(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸と、スチレン、α−メチルスチレン、低級アルキル(メタ)アクリレート、イソブチレン等の不飽和基含有化合物との共重合により得られるカルボキシル基含有樹脂。
【0019】
(2)脂肪族ジイソシアネート、分岐脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物と、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のカルボキシル基含有ジアルコール化合物およびポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、アクリル系ポリオール、ビスフェノールA系アルキレンオキシド付加体ジオール、フェノール性ヒドロキシル基およびアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物等のジオール化合物の重付加反応によるカルボキシル基含有ウレタン樹脂。
【0020】
(3)脂肪族ジイソシアネート、分岐脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物と、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、アクリル系ポリオール、ビスフェノールA系アルキレンオキシド付加体ジオール、フェノール性ヒドロキシル基およびアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物等のジオール化合物の重付加反応によるウレタン樹脂の末端に酸無水物を反応させてなる末端カルボキシル基含有ウレタン樹脂。
【0021】
(4)ジイソシアネートと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂の(メタ)アクリレートもしくはその部分酸無水物変性物、カルボキシル基含有ジアルコール化合物およびジオール化合物の重付加反応による感光性カルボキシル基含有ウレタン樹脂。
【0022】
(5)上記(2)または(4)の樹脂の合成中に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等の分子中に1つの水酸基と1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を加え、末端(メタ)アクリル化したカルボキシル基含有ウレタン樹脂。
【0023】
(6)上記(2)または(4)の樹脂の合成中に、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレート等のモル反応物など、分子中に1つのイソシアネート基と1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を加え、末端(メタ)アクリル化したカルボキシル基含有ウレタン樹脂。
【0024】
(7)2官能またはそれ以上の多官能(固形)エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を反応させ、側鎖に存在する水酸基に2塩基酸無水物を付加させた感光性カルボキシル基含有樹脂。
【0025】
(8)2官能(固形)エポキシ樹脂の水酸基をさらにエピクロロヒドリンでエポキシ化した多官能エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を反応させ、生じた水酸基に2塩基酸無水物を付加させた感光性カルボキシル基含有樹脂。
【0026】
(9)多官能オキセタン樹脂にジカルボン酸を反応させ、生じた1級の水酸基に2塩基酸無水物を付加させたカルボキシル基含有ポリエステル樹脂。
【0027】
(10)1分子中に複数のフェノール性水酸基を有する化合物と、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドおよび/またはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート化合物を反応させて得られる反応生成物に不飽和基含有モノカルボン酸で部分エステル化し、得られた反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂。
【0028】
(11)1分子中に複数のフェノール性水酸基を有する化合物と、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドおよび/またはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート化合物を反応させて得られる反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂。
【0029】
(12)上記(1)〜(11)の樹脂にさらにグリシジル(メタ)アクリレート、α−メチルグリシジル(メタ)アクリレート等の分子中に1つのエポキシ基と1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を付加してなる感光性カルボキシル基含有樹脂。
【0030】
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレートおよびそれらの混合物を総称する用語で、他の類似の表現についても同様である。
【0031】
上記のようなカルボキシル基含有樹脂は、バックボーン・ポリマーの側鎖に多数のカルボキシル基を有するため、アルカリ水溶液による現像が可能になる。
また、上記カルボキシル基含有樹脂の酸価は、20〜200mgKOH/gの範囲が好ましく、より好ましくは40〜150mgKOH/gの範囲である。カルボキシル基含有樹脂の酸価が上記の範囲内であると、アルカリ溶解性が良好で、アルカリ現像によるパターニングが容易となる。
【0032】
また、カルボキシル基含有樹脂の重量平均分子量は、樹脂骨格により異なるが、1,000〜100,000が好ましく、さらに3,000〜50,000が好ましい。分子量が上記の範囲内であると、アルカリ溶解性が良好で、アルカリ現像によるパターニングが容易となる。
【0033】
[熱硬化成分]
熱硬化成分は、熱によって、カルボキシル基と付加反応が可能な官能基を有するものである。熱硬化成分としては、例えば、環状(チオ)エーテル基を有する化合物が好ましく、エポキシ樹脂、多官能オキセタン化合物等が挙げられる。
【0034】
上記エポキシ樹脂は、エポキシ基を有する樹脂であり、公知のものをいずれも使用できる。分子中にエポキシ基を2個有する2官能性エポキシ樹脂、分子中にエポキシ基を多数有する多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。なお、水素添加されたエポキシ樹脂であってもよい。
【0035】
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビキシレノール型もしくはビフェノール型エポキシ樹脂またはそれらの混合物;ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジグリシジルフタレート樹脂、テトラグリシジルキシレノイルエタン樹脂、ナフタレン基含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートの共重合エポキシ樹脂、CTBN変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0036】
なお、熱硬化成分として、マレイミド化合物、ブロックイソシアネート化合物、アミノ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、カルボジイミド樹脂、シクロカーボネート化合物、エピスルフィド樹脂などの公知慣用の化合物を配合してもよい。
【0037】
このような熱硬化成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。熱硬化成分の配合量としては、上記カルボキシル基含有樹脂との当量比(カルボキシル基:エポキシ基などの熱反応性基)が1:0.1〜1:10であることが好ましい。このような配合比の範囲とすることにより、現像が良好となり、容易に微細パターンを形成できる。上記当量比は、1:0.2〜1:5であることがさらに好ましい。
【0038】
[難燃剤]
本発明の樹脂組成物を構成する難燃剤は、公知慣用の難燃剤を用いることができる。難燃剤としては、リン酸エステルおよび縮合リン酸エステル、リン元素含有(メタ)アクリレート、フェノール性水酸基を有するリン含有化合物、環状フォスファゼン化合物、ホスファゼンオリゴマー、ホスフィン酸金属塩等のリン含有化合物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル等のハロゲン化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物等の層状複水酸化物が挙げられる。上記難燃剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
[イオン捕捉剤]
本発明の樹脂組成物に含まれるイオン捕捉剤は、ハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤とハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤との混合物である。
本発明の樹脂組成物に含まれるハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤としては、ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイト様化合物を好適に用いることができる。ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイト様化合物は、例えば、正に荷電した基本層[Mg
1−XAl
X(OH)
2]
X+と負に荷電した中間層[(CO
3)
X/2・mH
2O]
X−からなる層状の無機化合物である。多くの2価、3価の金属がこれと同様の層状構造をとり、一般構造式は下記式(I)で示される。
【化1】
式中、M
2+は2価の金属陽イオン、M
3+は3価の金属陽イオン、A
n−はn価の陰イオンを表し、各元素および原子団の下付き添字は各元素および原子団の比率を表し、Xは0<X≦0.33である。mは
m≧0であるが、脱水により大きく変わる。
【0040】
ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイト様化合物の具体例としては、Indigirite Mg
2Al
2[(CO
3)
4(OH)
2]・15H
2O、Fe
2+4Al
2[(OH)
12CO
3]・3H
2O、Quintinite Mg
4Al
2(OH)
12CO
3・H
2O、Manasseite Mg
6Al
2[(OH)
16CO
3]・4H
2O、SjOegrenite Mg
6Fe
3+2[(OH)
16CO
3]・4H
2O、Zaccagnaite Zn
4Al
2(CO
3)(OH)
12・3H
2O、Desautelsite Mg
6Mn
3+2[(OH)
16CO
3]・4H
2O、Hydrotalcite Mg
6Al
2[(OH)
16CO
3]・4H
2O、Pyroaurite Mg
6Fe
3+2[(OH)
16CO
3]・4H
2O、Reevesite Ni
6Fe
3+2[(OH)
16CO
3]・4H
2O、Stichtite Mg
6Cr
2[(OH)
16CO
3]・4H
2O、Takovite Ni
6Al
2[(OH)
16CO
3]・4H
2Oなどが挙げられる。
【0041】
また、市販品としては、協和化学工業(株)製;アルカマイザー、DHT−4A、キョーワード500、キョーワード1000、堺化学(株)製STABIACEシリーズのHT−1、HT−7、HT−Pなどの合成ハイドロタルサイト様化合物が挙げられる。
これらのハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物に含まれるハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤としては、公知慣用のイオン捕捉剤を用いることができる。このハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤としては、陽イオン交換型、陰イオン交換型、両イオン交換型のいずれも用いることができる。
具体的には、Zr系化合物からなる無機粒子、Sb系化合物からなる無機粒子、Bi系からなる無機粒子等が挙げられる。また、Sb系化合物とBi系化合物の2元系からなる無機粒子、Mg系化合物とAl系化合物の2元系からなる無機粒子、Zr系化合物とBi系化合物の2元系からなる無機粒子、Zr系化合物とMg系化合物とAl系化合物の3元系からなる無機粒子等が挙げられる。なかでも難燃剤の効果を低下させない観点から、Zr系化合物からなる無機粒子、Zr系化合物とBi系化合物の2元系からなる無機粒子、Zr系化合物とMg系化合物とAl系化合物の3元系からなる無機粒子が好ましい。
このハイドロタルサイト系以外のイオン捕
捉剤の市販品としては、東亜合成(株)製の、IXE−100、IXE−300、IXE−500、IXE−550、IXE−800、IXE−600、IXE−6107、IXE−6136、IXEPLAS−A1、IXEPLAS−B1などが挙げられる。
これらのハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明においては、上記イオン捕捉剤がハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤とハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤との混合物であることが必須である。これらのイオン捕捉剤を用いることによって、イオンマイグレーション耐性などの絶縁信頼性と難燃性とを高度に両立することができる。これは、以下のような理由によるものと考えられる。絶縁信頼性、特にイオンマイグレーション耐性を向上させるためにハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤を配合すると、難燃性が低下してしまうが、難燃性が低下しない程度の量のハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤を配合した場合、イオンマイグレーション耐性が不十分となる。そこで、難燃性を有するハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤を併用すると、難燃性を維持しながら上記イオンマイグレーション耐性の不十分さを補うことができると考えられる。よって、本発明によれば、絶縁信頼性、特にイオンマイグレーション耐性と難燃性とを高度に両立させることができるようになった。
上記ハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤と上記ハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤との配合比率は、質量基準で100:10〜100:500の範囲、好ましくは100:50〜100:400の範囲、より好ましくは100:100〜100:400の範囲である。また、イオン捕捉剤の合計配合量は、固形分換算で樹脂組成物全体に対して、1〜50質量%、好ましくは2〜40質量%、より好ましくは2〜20質量%である。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、さらに、光重合開始剤およびエチレン性不飽和基を有する化合物のいずれか少なくとも1種を含有させることができる。
【0045】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、公知慣用のものを用いることができ、例えば、ベンゾイン化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、アセトフェノン系化合物、α−アミノアセトフェノン化合物、オキシムエステル化合物、チオキサントン系化合物等が挙げられる。
特に、後述する光照射後のPEB工程に用いる場合には、光塩基発生剤としての機能も有する光重合開始剤が好適である。なお、このPEB工程では、光重合開始剤と光塩基発生剤とを併用してもよい。
【0046】
光塩基発生剤としての機能も有する光重合開始剤は、紫外線や可視光等の光照射により分子構造が変化するか、または、分子が開裂することにより、後述する熱硬化成分の付加反応の触媒として機能しうる1種以上の塩基性物質を生成する化合物である。塩基性物質として、例えば2級アミン、3級アミンが挙げられる。
このような光塩基発生剤としての機能も有する光重合開始剤としては、例えば、α−アミノアセトフェノン化合物、オキシムエステル化合物や、アシルオキシイミノ基、N−ホルミル化芳香族アミノ基、N−アシル化芳香族アミノ基、ニトロベンジルカーバメート基、アルコオキシベンジルカーバメート基等の置換基を有する化合物等が挙げられる。中でも、オキシムエステル化合物、α−アミノアセトフェノン化合物が好ましく、オキシムエステル化合物がより好ましい。α−アミノアセトフェノン化合物としては、特に、2つ以上の窒素原子を有するものが好ましい。
【0047】
α−アミノアセトフェノン化合物は、分子中にベンゾインエーテル結合を有し、光照射を受けると分子内で開裂が起こり、硬化触媒作用を奏する塩基性物質(アミン)が生成するものであればよい。α−アミノアセトフェノン化合物の具体例としては、(4−モルホリノベンゾイル)−1−ベンジル−1−ジメチルアミノプロパン(商品名:イルガキュア369、BASFジャパン社製)や4−(メチルチオベンゾイル)−1−メチル−1−モルホリノエタン(商品名:イルガキュア907、BASFジャパン社製)、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン(商品名:イルガキュア379、BASFジャパン社製)などの市販の化合物またはその溶液を用いることができる。
【0048】
オキシムエステル化合物としては、光照射により塩基性物質を生成する化合物であればいずれをも使用することができる。オキシムエステル化合物としては、市販品として、BASFジャパン社製のCGI−325、イルガキュアーOXE01、イルガキュアーOXE02、アデカ社製N−1919、NCI−831などが挙げられる。また、特許第4,344,400号公報に記載された、分子内に2個のオキシムエステル基を有する化合物も好適に用いることができる。
【0049】
このような光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂組成物中の光重合開始剤の配合量は、固形分換算でカルボキシル基含有樹脂100質量部に対して0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜20質量部である。0.1〜30質量部の範囲であると、塗膜表面と深部の硬化バランスが良くなり、感度、解像性等をよくすることができる。また光硬化性が良くなり、絶縁信頼性、耐薬品性等の塗膜特性を向上させることができる。ただし、2層構造のカバーレイの接着層用樹脂組成物として用いる場合は、光重合開始剤を含まない構成が好ましい。
【0050】
(エチレン性不飽和基を有する化合物)
エチレン性不飽和基を有する化合物(以下、光重合性化合物とも称する)は、分子中に1個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物である。光重合性化合物は、活性エネルギー線照射によるエチレン性不飽和基の重合反応を助けるものである。エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリレート由来のものが好ましい。
【0051】
上記光重合性化合物としては、例えば、慣用公知のポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カーボネート(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。具体的には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどのヒドロキシアルキルアクリレート類;エチレングリコール、メトキシテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールのジアクリレート類;N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのアクリルアミド類;N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレートなどのアミノアルキルアクリレート類;ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス−ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどの多価アルコールまたはこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物、もしくはε−カプロラクトン付加物などの多官能アクリレート類;フェノキシアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、およびこれらのフェノール類のエチレンオキサイド付加物もしくはプロピレンオキサイド付加物などの多官能アクリレート類;グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどのグリシジルエーテルの多官能アクリレート類;前記に限らず、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートジオール、水酸基末端ポリブタジエン、ポリエステルポリオールなどのポリオールを直接アクリレート化、もしくは、ジイソシアネートを介してウレタンアクリレート化したアクリレート類およびメラミンアクリレート、および前記アクリレートに対応する各メタクリレート類の少なくとも何れか一種などが挙げられる。
【0052】
さらに、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂に、アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート樹脂などを光重合性化合物として用いてもよい。このようなエポキシアクリレート系樹脂は、指触乾燥性を低下させることなく、光硬化性を向上させることができる。
【0053】
上記の光重合性化合物の配合量は、固形分換算でカルボキシル基含有樹脂の100質量部に対して、1〜50質量部、より好ましくは、3〜30質量部の割合である。上記配合量が、1〜50質量部の範囲であると、光硬化性、タック性を良好にすることができる。
【0054】
(高分子樹脂)
本発明の樹脂組成物には、得られる硬化物の可撓性、指触乾燥性の向上を目的に慣用公知の高分子樹脂を配合することができる。高分子樹脂としてはセルロース系、ポリエステル系、フェノキシ樹脂系ポリマー、ポリビニルアセタール系、ポリビニルブチラール系、ポリアミド系、ポリアミドイミド系バインダーポリマー、ブロック共重合体、エラストマー等が挙げられる。上記高分子樹脂は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
(無機充填剤)
本発明の樹脂組成物には、無機充填剤を配合することができる。無機充填剤は、樹脂組成物の硬化物の硬化収縮を抑制し、密着性、硬度などの特性を向上させるために使用される。無機充填剤としては、例えば、硫酸バリウム、無定形シリカ、溶融シリカ、球状シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ノイブルグ等が挙げられる。上記無機充填剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0056】
(着色剤)
本発明の樹脂組成物には、着色剤を配合することができる。着色剤としては、赤、青、緑、黄、白、黒などの慣用公知の着色剤を使用することができ、顔料、染料、色素のいずれでもよい。
【0057】
(有機溶剤)
本発明の樹脂組成物には、樹脂組成物の調製のためや、基材やキャリアフィルムに塗布するための粘度調整のために、有機溶剤を使用することができる。
このような有機溶剤としては、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類、アルコール類、脂肪族炭化水素、石油系溶剤などを挙げることができる。このような有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0058】
(その他の任意成分)
本発明の樹脂組成物には、必要に応じてさらに、メルカプト化合物、密着促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの成分を配合することができる。これらは、電子材料の分野において公知の物を使用することができる。また、上記の樹脂組成物には、微粉シリカ、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤および/またはレベリング剤、シランカップリング剤、防錆剤などのような公知慣用の添加剤類を配合することができる。
【0059】
〔ドライフィルム〕
本発明のドライフィルムは、本発明の樹脂組成物からなる樹脂層を有する。本発明の樹脂組成物以外の樹脂組成物からなる層も有する多層構造のドライフィルムであってもよい。
ドライフィルム化に際しては、例えば、本発明の樹脂組成物を有機溶剤で希釈して適切な粘度に調整し、コンマコーター等の公知の手法でキャリアフィルム上に均一な厚さに塗布する。その後、通常、50〜130℃の温度で1〜30分間乾燥し、キャリアフィルム上に樹脂層を形成する。
【0060】
キャリアフィルムとしては、プラスチックフィルムが用いられる。キャリアフィルムの厚さについては特に制限はないが、一般に、10〜150μmの範囲で適宜選択される。キャリアフィルム上に樹脂層を形成した後、さらに、樹脂層の表面に剥離可能なカバーフィルムを積層してもよい。
【0061】
以上説明したような本発明の樹脂組成物またはドライフィルムは、プリント配線板の樹脂絶縁層、例えば、カバーレイや、ソルダーレジストに用いることができる。また、本発明の樹脂組成物は、2層以上の積層構造を有するカバーレイの、プリント配線板に接する樹脂層である接着層用樹脂組成物としても用いることができる。
【0062】
この2層以上の積層構造を有するカバーレイ(積層構造体)は、プリント配線板に接する樹脂層である接着層と、その上層の光照射によりパターンニングが可能である樹脂層である保護層とで構成されることが好ましい。この積層構造体の接着層として本発明の樹脂組成物を用いることにより、接着層と保護層とからなるカバーレイなどの積層構造体は、現像によりパターンを一括して形成することができ、しかもイオンマイグレーション耐性などの絶縁信頼性と難燃性とを高度に両立させることができる。
【0063】
ここで、上記保護層を構成する樹脂組成物は、カルボキシル基含有樹脂(アルカリ溶解性樹脂)と、光重合開始剤と、熱硬化成分とを含むものであり、特開2015−155199号公報に記載の組成物等などを用いることができる。カルボキシル基含有樹脂(アルカリ溶解性樹脂)としては、イミド環またはイミド前駆体骨格を有するカルボキシル基含有樹脂(アルカリ溶解性樹脂)が好ましい。
【0064】
〔プリント配線板の製造方法〕
次に、本発明の樹脂組成物からプリント配線板を製造する方法の一例を
図1および
図2の工程図に基づき説明する。なお、
図1および
図2では、樹脂層が積層構造である場合を示すが、1層のみからなる場合でもよい。
【0065】
図1の工程図に示すプリント配線板の製造方法は、導体回路を形成したプリント配線基板上に積層構造体の層を形成する工程(積層工程)、この積層構造体の層に活性エネルギー線をパターン状に照射する工程(露光工程)、および、この積層構造体の層をアルカリ現像して、パターン化された積層構造体の層を一括形成する工程(現像工程)を含む製造方法である。また、必要に応じて、アルカリ現像後、さらなる光硬化や熱硬化(ポストキュア工程)を行い、積層構造体の層を完全に硬化させて、信頼性の高いプリント配線板を得ることができる。
【0066】
図2の工程図に示すプリント配線板の製造方法は、導体回路を形成したプリント配線基板上に積層構造体の層を形成する工程(積層工程)、この積層構造体の層に活性エネルギー線をパターン状に照射する工程(露光工程)、この積層構造体の層を加熱する工程(加熱(Post Exposure Bake;PEB)工程)、および、積層構造体の層をアルカリ現像して、パターン化された積層構造体の層を形成する工程(現像工程)を含む製造方法である。また、必要に応じて、アルカリ現像後、さらなる光硬化や熱硬化(ポストキュア工程)を行い、積層構造体の層を完全に硬化させて、信頼性の高いプリント配線板を得ることができる。特に、樹脂層4(保護層)においてイミド環含有アルカリ溶解性樹脂を用いた場合には、この
図2の工程図に示す手順を用いることが好ましい。
【0067】
以下、
図1または
図2に示す各工程について、詳細に説明する。
[積層工程]
この工程では、導体回路2が形成されたプリント配線基板1に、樹脂組成物からなる樹脂層3(接着層)と、樹脂層3上の、樹脂組成物からなる樹脂層4(保護層)と、からなる積層構造体を形成する。ここで、積層構造体を構成する各樹脂層は、例えば、樹脂層3,4を構成する樹脂組成物を、順次、プリント配線基板1に塗布および乾燥することにより樹脂層3,4を形成するか、あるいは、樹脂層3,4を構成する樹脂組成物を2層構造のドライフィルムの形態にしたものを、プリント配線基板1にラミネートする方法により形成してもよい。
この樹脂層は、アルカリ現像型感光性樹脂組成物からなることが好ましい。アルカリ現像型感光性樹脂組成物としては、公知の樹脂組成物を使用することができ、例えば、カバーレイ用またはソルダーレジスト用の公知の樹脂組成物を使用できる。このように樹脂層を1層ではなく積層構造とすることにより、さらに耐衝撃性と屈曲性に優れた硬化物を得ることができる。
【0068】
樹脂組成物の配線基板への塗布方法は、ブレードコーター、リップコーター、コンマコーター、フィルムコーター等の公知の方法でよい。また、乾燥方法は、熱風循環式乾燥炉、IR炉、ホットプレート、コンベクションオーブン等、蒸気による加熱方式の熱源を備えたものを用い、乾燥機内の熱風を向流接触させる方法、およびノズルより支持体に吹き付ける方法等、公知の方法でよい。
ラミネートする方法の場合、まずは、樹脂組成物を有機溶剤で希釈して適切な粘度に調整し、キャリアフィルム上に塗布、乾燥して樹脂層を有するドライフィルムを作製する。次に、ラミネーター等により樹脂層が、配線基板と接触するように貼り合わせた後、キャリアフィルムを剥離する公知の方法が挙げられる。
【0069】
[露光工程]
この工程では、活性エネルギー線の照射により、樹脂層4に含まれる光重合開始剤をネガ型のパターン状に活性化させて、露光部を硬化する。露光機としては、直接描画装置、メタルハライドランプを搭載した露光機などを用いることができる。パターン状の露光用のマスクは、ネガ型のマスクである。
【0070】
露光に用いる活性エネルギー線としては、最大波長が350〜450nmの範囲にあるレーザー光または散乱光を用いることが好ましい。最大波長をこの範囲とすることにより、効率よく光重合開始剤を活性化させることができる。また、その露光量は膜厚等によって異なるが、通常は、100〜1500mJ/cm
2とすることができる。
【0071】
[PEB工程]
この工程では、露光後、樹脂層を加熱することにより、露光部を硬化する。この工程により、光塩基発生剤としての機能を有する光重合開始剤を用いるか、光重合開始剤と光塩基発生剤とを併用した組成物からなる樹脂層4の露光工程で発生した塩基によって、樹脂層を深部まで硬化できる。加熱温度は、例えば、80〜140℃である。加熱時間は、例えば、10〜100分である。本発明における樹脂組成物の硬化は、例えば、熱反応によるエポキシ樹脂の開環反応であるため、光ラジカル反応で硬化が進行する場合と比べてひずみや硬化収縮を抑えることができる。
【0072】
[現像工程]
この工程では、アルカリ現像により、未露光部を除去して、ネガ型のパターン状の絶縁膜、特には、カバーレイおよびソルダーレジストを形成する。現像方法としては、ディッピング等の公知の方法によることができる。また、現像液としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、アミン類、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)等のアルカリ水溶液、または、これらの混合液を用いることができる。
【0073】
[ポストキュア工程]
この工程は、現像工程の後に、樹脂層を完全に熱硬化させて信頼性の高い塗膜を得るものである。加熱温度は、例えば140℃〜180℃である。加熱時間は、例えば、20〜120分である。さらに、ポストキュアの前または後に、光照射してもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を、実施例、比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は下記実施例、比較例に限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0075】
(実施例1〜14、比較例1〜6)
<樹脂組成物の調製>
下記表1〜3に記載の配合に従って、実施例、比較例に記載の材料をそれぞれ配合、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールミルにて混練し、硬化性樹脂組成物を調製した。表中の値は、特に断りが無い限り質量部である。
【0076】
調製した硬化性樹脂組成物について、絶縁信頼性と難燃性を評価した。評価内容は以下のとおりである。
<絶縁信頼性>
L/S=50/50μmのパターンを形成した銅厚18μmのポリイミド基板(新日鐵化学(株)製エスパネックス)をメックブライトCB−801Yを用いて表面処理を行った。そのポリイミド基板に、実施例1〜14および比較例1〜6の硬化性樹脂組成物を、スクリーン印刷で全面塗布し、80℃・30分で乾燥し、室温まで放冷した。得られた基板にメタルハライドランプ搭載の露光装置(HMW−680−GW20)を用いて300mJ/cm
2の露光量で全面露光し、1質量%Na
2CO
3水溶液を用いて30℃・スプレー圧0.2MPaの条件で60秒間の現像処理を行った。この基板を150℃・60分で加熱硬化した後、電磁波シールド材をプレス圧着して絶縁信頼性の評価基板を作製した。
作製した評価基板について、Z軸方向にDC50Vのバイアス電圧を印加し、85℃、85%RHの恒温恒湿槽にて抵抗値を連続測定しショート発生の有無を確認することにより、イオンマイグレーション耐性を評価した。判定基準は以下のとおりである。
○:1000時間経過後においてショートの発生無し。
×:1000時間以内にショートの発生有り。
【0077】
<難燃性>
実施例1〜14および比較例1〜6の硬化性樹脂組成物を、50μm厚、25μm厚のポリイミドフィルム基材(東レ・デュポン(株)製200H、100H)に、スクリーン印刷で全面塗布し、80℃・15分で乾燥し、室温まで放冷した。裏面も同様に全面塗布し80℃・20分で乾燥させた。得られた両面塗布基材に対し、両面をメタルハライドランプ搭載の露光装置(HMW−680−GW20)を用いて300mJ/cm
2の露光量で全面露光し、1質量%Na
2CO
3水溶液を用いて30℃・スプレー圧2kg/cm
2の条件で60秒間の現像処理を行った。この両面塗布基材を150℃・60分で加熱硬化して難燃性の評価基板を作製した。
作製した評価基板について、UL94規格に準拠した薄材垂直燃焼試験を行い、難燃性を評価した。評価基準は、UL94規格に基づいて、難燃性を確認できたものを〇、難燃性の無いものを×と表記した。
【0078】
【表1】
*1:カルボキシル基含有変性エポキシアクリレート樹脂、不揮発分65.0質量%、固形分酸価100mgKOH/g(日本化薬(株)製)
*2:ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製)
*3:フェノキシホスファゼン(大塚化学(株)製)
*4:ホスフィン酸金属塩(クラリアント社製)
*5:オキシムエステル系光重合開始剤(BASFジャパン社製)
*6:ハイドロタルサイト化合物(協和化学工業(株)製)
*7:無機イオン捕
捉剤(両イオン交換型)(東亜合成(株)製)
*8:無機イオン捕
捉剤(両イオン交換型)(東亜合成(株)製)
*9:無機イオン捕
捉剤(陽イオン交換型)(東亜合成(株)製)
*10:無機イオン捕
捉剤(両イオン交換型)(東亜合成(株)製)
*11:ビスフェノールA−EO変性ジアクリレート(新中村化学工業(株)製)
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表1〜3に示す結果から明らかなように、実施例1〜14では、ハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤とともにハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤を併用しており、絶縁信頼性および難燃性が共に良好であった。一方、比較例1〜2では、イオン捕捉剤を含まないために絶縁信頼性が低下した。また、比較例3では、ハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤のみを使用しており、絶縁信頼性は得られているが難燃性が低下した。さらにまた、比較例4〜6では、ハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤のみを使用しており、絶縁信頼性が低下した。結果として、これら比較例では、絶縁信頼性と難燃性とを高度に両立することはできなかった。
【0082】
(実施例15、16、比較例7、8)
<積層構造体の形成>
(合成例1:イミド環を有するアルカリ溶解性樹脂の合成例)
撹拌機、窒素導入管、分留環および冷却環を取り付けたセパラブル3つ口フラスコに、3,5−ジアミノ安息香酸を12.2g、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを8.2g、NMPを30g、γ−ブチロラクトンを30g、4,4’−オキシジフタル酸無水物を27.9g、トリメリット酸無水物を3.8g加え、窒素雰囲気下、室温、100rpmで4時間撹拌した。次いで、トルエンを20g加え、シリコン浴温度180℃、150rpmでトルエンおよび水を留去しながら4時間撹拌して、イミド環含有アルカリ溶解性樹脂溶液を得た。その後、固形分が30質量%となるようにγ−ブチロラクトンを添加した。得られた樹脂溶液は、固形分酸価86mgKOH/g、Mw10000であった。
【0083】
<各層を構成する樹脂組成物の調整>
下記表4に記載の配合に従って、実施例および比較例に記載の材料をそれぞれ配合、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールミルにて混練し、接着層および保護層を形成するための樹脂組成物を調製した。表中の値は、特に断りがない限り質量部である。
なお、実施例15、16、比較例7、8の各積層構造体の接着層用樹脂組成物は、光重合開始剤を含まないこと以外は実施例2、3、比較例3、6の各樹脂組成物と同じ組成として用いた。
【0084】
<接着層の形成>
銅厚18μmの回路が形成されたフレキシブルプリント配線基材を用意し、メック社製のCZ−8100を使用して、前処理を行った。その後、前処理を行ったフレキシブルプリント配線基材に、各接着層用の樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が25μmになるように塗布した。その後、熱風循環式乾燥炉にて90℃/30分にて乾燥し、樹脂組成物からなる接着層を形成した。
【0085】
<保護層の形成>
上記接着層上に、各保護層用の樹脂組成物を、乾燥後の膜厚が10μmになるように塗布した。その後、熱風循環式乾燥炉にて90℃/30分にて乾燥し、樹脂組成物からなる保護層を形成した。
【0086】
このようにしてフレキシブルプリント配線基材上に実施例15、16、比較例7、8に記載された接着層と保護層からなる未硬化積層構造体を形成した。
【0087】
<フレキシブルプリント配線基板の作製>
上述のようにして未硬化積層構造体を形成した各フレキシブルプリント配線基材上の未硬化積層構造体に対し、まずメタルハライドランプ搭載の露光装置(HMW−680−GW20)を用いて500mJ/cm
2で全面露光した。その後、90℃で30分間PEB工程を行ってから、現像(30℃、0.2MPa、1質量%Na
2CO
3水溶液)を60秒で行い、150℃×60分で熱硬化することにより、硬化した積層構造体を形成したフレキシブルプリント配線基板を得た。
【0088】
<絶縁信頼性>
上記で得られた各フレキシブルプリント配線基板に対し、電磁波シールド材をプレス圧着して絶縁信頼性の評価基板を作製した。
作製した評価基板について、Z軸方向にDC50Vのバイアス電圧を印加し、85℃、85%RHの恒温恒湿槽にて抵抗値を連続測定しショート発生の有無を確認することにより、イオンマイグレーション耐性を評価した。判定基準は以下のとおりである。
○:1000時間経過後においてショートの発生無し。
×:1000時間以内にショートの発生有り。
【0089】
<難燃性>
上記で得られた各フレキシブルプリント配線基板について、UL94規格に準拠した薄材垂直燃焼試験を行い、難燃性を評価した。評価基準は、UL94規格に基づいて、難燃性を確認できたものを〇、難燃性の無いものを×と表記した。
【0090】
<屈曲性(MIT試験)>
上記で得られた各フレキシブルプリント配線基板に対し、MIT試験(R=0.38mm/宇部興産(株)製ユーピレックス12.5μmの基材使用)を実施し、屈曲性を評価した。120サイクル以上折り曲げられた場合を○とし、この場合、フレキシブル配線板としての屈曲性を満足できる。120サイクル未満の場合は×とした。
【0091】
得られた結果を、下記の表4中に示す。
【0092】
【表4】
*12:合成例1のポリイミド樹脂
*13:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量900)(三菱化学(株)製)
*14:ビスフェノールA型エポキシ樹脂,エポキシ当量190,質量平均分子量380(三菱化学(株)製)
【0093】
表4に示す結果から明らかなように、実施例15、16では、接着層用樹脂組成物中にハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤とともにハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤を併用しており、これを用いて形成した積層構造体を有するフレキシブルプリント配線基板は絶縁信頼性および難燃性が共に良好であり、屈曲性も良好であった。一方、比較例7では、接着層用樹脂組成物中にハイドロタルサイト系のイオン捕捉剤のみを使用しており、これを用いて形成した積層構造体を有するフレキシブルプリント配線基板は、絶縁信頼性は得られているが難燃性が低下した。また、比較例8では、接着層用樹脂組成物中にハイドロタルサイト系以外のイオン捕捉剤のみを使用しており、これを用いて形成した積層構造体を有するフレキシブルプリント配線基板は、絶縁信頼性が低下した。結果として、これら比較例では、フレキシブルプリント配線基板の絶縁信頼性と難燃性とを高度に両立することはできなかった。