(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802801
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】加圧水型原子炉から蒸気発生器を通して受動的に除熱するシステム
(51)【国際特許分類】
G21C 15/18 20060101AFI20201214BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
G21C15/18 R
G21C15/18 M
G21C15/18 B
G21D1/00 Q
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-549160(P2017-549160)
(86)(22)【出願日】2015年11月16日
(65)【公表番号】特表2017-538134(P2017-538134A)
(43)【公表日】2017年12月21日
(86)【国際出願番号】RU2015000780
(87)【国際公開番号】WO2016089249
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年11月8日
(31)【優先権主張番号】2014148909
(32)【優先日】2014年12月4日
(33)【優先権主張国】RU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517197118
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー サイエンティフィック リサーチ アンド デザイン インスティテュート フォー エナジー テクノロジーズ アトムプロエクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベズレプキン ウラジーミル ヴィクトロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】シドロフ ウラジーミル グリゴリエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】アレクセーエフ セルゲイ ボリソヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェトロフ セルゲイ ヴィクトロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ククテヴィッチ ウラジーミル オレゴヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】セマーシコ セルゲイ エヴゲニエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルダニツェ ティムラズ ゲオルギエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】イフコフ イゴール ミハイロヴィッチ
【審査官】
小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−008094(JP,A)
【文献】
特開2006−170532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/00−15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧水型原子炉から受動的に除熱するシステムであって、少なくとも1本の冷却材循環路を有し、前記冷却材循環路は、
前記原子炉からの熱を通す蒸気発生器(1)と、
前記蒸気発生器(1)よりも上で冷却水供給タンク(3)内に配置され、入口パイプライン(4)と出口パイプライン(5)とによって前記蒸気発生器(1)に接続されており、複数本の伝熱管(8)によって相互に接続されている下側ヘッダー(7)と上側ヘッダー(6)とを有する組み合わせ式の熱交換器(2)と、
前記出口パイプライン(5)に取り付けられている、呼び径が異なる複数の始動弁(13)と
を備え、
前記熱交換器(2)は、並列に配置された複数の部分に、L/D≦20(Lが各部分の半分の長さであり、Dがヘッダーの呼び径である。)を条件にして分割されており、
前記冷却材循環路のうち前記入口パイプライン(4)の部分と前記出口パイプライン(5)の部分とは並列するパイプラインの1組であって、それぞれの分岐が個別に、上方に位置する前記熱交換器(2)の各部分に接続されたものとして設計されており、
前記入口パイプライン(4)のうち上方の最初の分岐点(11)から最高点までの少なくとも一部が、水平方向に対して少なくとも10°の上り勾配を含み、
前記入口パイプライン(4)のうち上方の最初の分岐点(11)から最高点までは、上り勾配が水平方向に対して10°未満である部分を更に有し、その部分の長さLsec1及び径Dsec1がLsec1/Dsec1≦10の条件を満たし、
前記入口パイプライン(4)のうち最高点から前記上側ヘッダー(6)までの少なくとも一部は、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を含み、
前記入口パイプライン(4)のうち最高点から前記上側ヘッダー(6)までは、下り勾配が水平方向に対して10°未満である部分を更に含み、その部分の長さLsec2及び径Dsec2がLsec2/Dsec2≦10の条件を満たし、
前記出口パイプライン(5)のうち、前記下側ヘッダー(7)から、分岐の合流する点のうち最も上方にある合流点までの少なくとも一部が、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を含み、
前記出口パイプライン(5)のうち、前記下側ヘッダー(7)から、前記分岐の合流する点のうち最も上方にある合流点までは、下り勾配が水平方向に対して10°未満である部分を更に含み、その部分の長さLsec3及び径Dsec3がLsec3/Dsec3≦10の条件を満たし、
前記熱交換器(2)の各部分において、前記複数本の伝熱管(8)は、屈曲形状の端部と直線形状の中央部分とを有し、かつ、長さの異なる2種類の伝熱管(8a、8b)を含み、これらの2種類の伝熱管(8a、8b)が、ジグザグに配置されている
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記熱交換器(2)は、前記複数本の伝熱管における圧力損失ΔРtubeが、前記上側ヘッダーの長手方向に沿った圧力損失ΔРheadに対し、ΔРtube/ΔРhead≧1.5の条件を満たすように設計されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記入口パイプライン(4)の最高点が前記冷却水供給タンク(3)の外に位置することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記熱交換器(2)の各部分において隣接するいずれの2本の伝熱管(8)も間隔は50mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記熱交換器(2)の各部分において前記複数本の伝熱管(8)は、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記冷却材循環路を4本備えた請求項1から請求項5までのいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広くは原子力エネルギー分野に関し、特に、加圧水型原子炉から蒸気発生器を通して受動的に除熱するシステム(SG−PHRS)、すなわち循環路における冷却材(水)の自然循環によって原子炉を冷却するように設計されたシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術によれば、同様な受動式除熱システムは数多く存在しており、それぞれが異なる構成を開示している。
特許文献1に開示された緊急除熱システムは、蒸気配管、水配管、凝縮器/蒸発器、及び貫流式の蒸気発生器を備えている。さらに、給水タンクが凝縮器/蒸発器と並列して蒸気配管及び水配管に接続されている。凝縮器/蒸発器との位置関係により、給水タンクは最上部が凝縮器/蒸発器内の界面の最上部よりも下に位置する。
【0003】
特許文献2に記載された受動式反応炉冷却システムは、水冷式熱交換器と、排気管内に位置する空冷式熱交換器とを備えている。この空冷式熱交換器は、排気管内に設置された排出装置を含む。水冷式熱交換器によって生成された蒸気が排出装置の作動媒体である。
本発明に最も類似した技術は、特許文献3に開示されている、加圧水型原子炉から蒸気発生器を通して受動的に除熱するシステムである。このシステムは冷却材の循環路を備え、この循環路は蒸気発生器を含む。この蒸気発生器は、その上方に設置された冷却材供給タンクの中に位置する熱交換器と、入口パイプライン及び出口パイプラインにより接続されている。熱交換器の出口パイプラインには、呼び径の異なる2つの始動弁を有する起動装置が設置されている。熱交換器の表面積は以下の条件を満たす。
【0004】
【数1】
ここで、Q
phrs=G
steamrはシステムの出力する熱量であり、G
steamは循環路の入口における蒸気の流量であり、rは蒸気の潜熱であり、K
heは熱交換器の配管の熱伝達係数であり、Δt
heは原子炉格納容器内と大気圧下との間での飽和蒸気の温度差である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ロシア特許第78600号明細書
【特許文献2】ロシア特許第52245号明細書
【特許文献3】ロシア特許第96283号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の設計はいずれも、システムに十分な除熱能力を与えることができない。さらに、周知のシステムの熱交換回路には水撃現象(ウォーターハンマー)の可能性がある。
本発明の目的は、蒸気発生器を通した除熱を効率よく、且つ確実に行うシステムを提供することである。本発明の技術的効果は、除熱効率及び熱交換回路における流動安定性を高め、その結果、システムの動作の信頼性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的効果は以下の実施形態により実現される。加圧水型原子炉から蒸気発生器を通して受動的に除熱するシステムは、少なくとも1本の冷却材(水)循環路を有し、前記冷却材循環路は、前記原子炉からの熱を通す蒸気発生器と、前記蒸気発生器よりも上で冷却水供給タンク内に配置され、入口パイプラインと出口パイプラインとによって前記蒸気発生器に接続されており、複数本の伝熱管によって相互に接続されている下側ヘッダーと上側ヘッダーとを有する組み合わせ式の熱交換器と、前記出口パイプラインに取り付けられている、呼び径が異なる複数の始動弁とを備え、前記熱交換器は、並列に配置された複数の部分に、L/D≦20(Lが各部分の半分の長さであり、Dがヘッダーの呼び径である。)を条件にして分割されており、前記冷却材循環路のうち前記入口パイプラインの部分と前記出口パイプラインの部分とは並列するパイプラインの1組であって、それぞれの分岐が個別に、上方に位置する前記熱交換器の各部分に接続されたものとして設計されている。
【0008】
上記の技術的効果はまた、以下に特定される本発明の実施態様の選択肢のいずれにおいても実現される。
・前記熱交換器は、前記複数本の伝熱管における圧力損失ΔР
tubeが、前記上側ヘッダーの長手方向に沿った圧力損失ΔР
headに対し、ΔР
tube/ΔР
head≧1.5の条件を満たすように設計されている。
・前記入口パイプラインのうち共通配管の分岐点から最高点までの少なくとも一部が、水平方向に対して少なくとも10°の上り勾配を含む。
・前記入口パイプラインのうち共通配管の分岐点から最高点までは、上り勾配が水平方向に対して10°未満である部分を更に有し、その部分の長さL
sec1及び径D
sec1がL
sec1/D
sec1≦10の条件を満たす。
・前記入口パイプラインのうち最高点から前記上側ヘッダーまでの少なくとも一部は、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を含む。
・前記入口パイプラインのうち最高点から前記上側ヘッダーまでは、下り勾配が水平方向に対して10°未満である部分を更に含み、その部分の長さL
sec2及び径D
sec2がL
sec2/D
sec2≦10の条件を満たす。
・前記出口パイプラインのうち、前記下側ヘッダーから、分岐が共通配管へ合流する点までの少なくとも一部が、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を含む。
・前記出口パイプラインのうち、前記下側ヘッダーから、分岐が共通配管へ合流する点までは、下り勾配が水平方向に対して10°未満である部分を更に含み、その部分の長さL
sec3及び径D
sec3がL
sec3/D
sec3≦10の条件を満たす。
・前記入口パイプラインの最高点が前記冷却水供給タンクの外に位置する。
・前記熱交換器の各部分において前記複数本の伝熱管がジグザグに配置されている。
・前記熱交換器の各部分において隣接するいずれの2本の伝熱管も間隔は50mm以上である。
・前記熱交換器の各部分において前記複数本の伝熱管は、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を有する。
・前記システムは、それぞれが前記循環路を1本ずつ有する4本の独立した流路を備える。
【発明の効果】
【0009】
実験によれば、上記のシステムにおけるパラメータ間の関係は蒸気発生器からの除熱を最大限に効率化する。これは、システムの入口パイプラインと出口パイプラインとの設計、すなわち冷却材を熱交換器の各部分へ個別に供給し、且つ各部分から個別に除去するための構成が最適化され、各部分の半分の長さと熱交換器のヘッダーの呼び径との間の関係が適切に最小化され、伝熱管間の位置関係が最適化されるからである。
【0010】
熱交換器の各部分の半分の長さとヘッダーの呼び径との相関関係は、伝熱管間で分配される冷却材の流れの不均等性が最小化されるように、すなわち、いわゆる「ヘッダー効果」が抑制されるように設定される。配管における流れの均等な分配は、熱交換器のエネルギー効率及び性能の向上にとって重要な条件の一つである。熱交換器のヘッダーの流路間での冷却材の分配を改善するのに用いられる手法の一つは、ヘッダーにおける媒体の流れの圧力損失を抑制することである。これは、製造工程能力及びその他の設計特性の範囲内でヘッダーを短くし、且つその呼び径を拡大することで実現される。ヘッダーがL/D≦20という条件を満たすことで、ヘッダーの長手方向に沿った圧力損失が最小化され、伝熱管間に分配される冷却材の流れの均等性が最も高い。一方、L/Dが20を超える場合、熱交換器の流路間における媒体分布の均等性が損なわれる結果、冷却材の質量流量が不安定化し、ひいては熱交換器の出力する熱量が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】熱交換器の一部に入口パイプライン及び出口パイプラインが接続された箇所の構成を示す。
【
図4】事故の場合、原子炉施設が冷却される間における蒸気発生器内の圧力、熱交換器の出力熱量、及びSG−PHRS回路内の冷却材の流量の経時変化を表す時間関数の計算値(I)と実験値(II)とを示す。
【
図5】事故の場合、原子炉施設が冷却される間における炉心上部の圧力、炉心の出口における冷却材の温度、システムの流路の熱容量、及び燃料被覆管の最高温度の経時変化を表す時間関数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特許請求の範囲に記載のシステムは冷却材(水)の循環路の組み合わせである。本発明の好ましい実施形態において、このシステムは4本の完全に独立した流路から成り、各流路が1本ずつ循環路を有する。
循環路(
図1参照。)は、蒸気発生器(1)と、蒸気発生器(1)よりも上で冷却水供給タンク(3)内に配置された組み合わせ式の熱交換器(2)とを備えている。熱交換器(2)の各部分は、入口パイプライン(4)と出口パイプライン(5)とによって蒸気発生器(1)に接続されている。これにより、熱交換器(2)の内部空間は蒸気発生器(1)の蒸気室に連通する。すなわち、システムの循環路の内部空間は閉じている。
【0013】
熱交換器は16個の伝熱部分に並列に分割されている。各伝熱部分は2つに分かれている(
図2、
図3参照)。各伝熱部分の半分の長さLとヘッダーの呼び径Dとの間の関係は次の条件を満たす:L/D≦20。
熱交換器(2)の各部分(
図3の(a)、(c)参照。)は、複数本の伝熱管(8)により相互に接続された上側ヘッダー(6)と下側ヘッダー(7)、及び、これらのヘッダーに取り付けられ、これらを入口パイプライン(4)と出口パイプライン(5)とに接続している上側T字管継手(9)と下側T字管継手(10)とを有する。
【0014】
この好ましい実施形態においては、各伝熱管(8)は(各ヘッダーと接続している)屈曲形状の端部と直線形状の中央部分とを有する。この屈曲部分は、水平方向に対して少なくとも10°の下り勾配を含む。熱交換器の各伝熱部分は屈曲形状の異なる2種類の伝熱管(8)、すなわち「短い」伝熱管(8a)と「長い」伝熱管(8b)とを有する(
図3の(b)参照)。これらの伝熱管は交互に配置され、伝熱管列におけるジグザグ配置を構成している。
【0015】
レニングラード第二原子力発電所に対して実施される本発明の特定の形態においては、伝熱部分はタンク(3)の下部で水面(高さ5.8m)よりも下に位置する。各部分の伝熱管束は140本の屈曲形状の伝熱管(外径16mm、内径12mm)からなる。これらの伝熱管は、入口である上側ヘッダーと出口である下側ヘッダー(いずれも外径108mm、内径90mm)とに接続されている。上側ヘッダーと下側ヘッダーとの半分の長さはいずれも960mmである。隣接するいずれの2本の伝熱管も間隔は50mm以上である。上下のヘッダー間の距離は1.95mであり、伝熱管の平均長さは2.124mである。各部分の伝熱面積は14.1m
2である。したがって、本発明のこの特定の実施形態において、システムの各流路の総伝熱面積は239m
2である。
【0016】
分岐点を終点とする入口パイプライン(4)の主部は外径が273mmであり、内径が233mmである。分岐点を起点とする出口パイプライン(5)の主部は外径が108mmであり、内径が90mmである。
16個の並列な伝熱部分の動作中、ヘッダー効果を防ぐ目的でシステムの設計には、共通の分配ヘッダーと集約ヘッダーとがいずれも含まれていない。この目的に則って、循環路のうち入口パイプライン(4)と出口パイプライン(5)との部分は並列したパイプラインの1組であり、それぞれの分岐が個別に各伝熱部分に接続されている(
図1参照)。各伝熱部分は個別に、入口パイプライン(4)からの入口部分(14)と出口パイプライン(5)への出口部分(15)とを含む(
図2参照)。これらの部分(14)、(15)は、各伝熱部分を半分に分割している中央点においてヘッダー(6)、(7)に接続されている(
図2、
図3参照)。
【0017】
本発明の好ましい実施形態においては、入口パイプライン(4)は上側の分岐点(11)で2本に分岐し、各分岐がさらに2本に分岐し、それらの分岐の先も同様である。こうして、入口パイプラインは16本に分岐し、各分岐は、対応付けられた伝熱部分の上側T字管継手(9)に接続されている。入口パイプラインの最高点は冷却水供給タンクの外に位置する。上側T字管継手(9)と下側T字管継手(10)とには、結合によって16個の伝熱部分のそれぞれを形成している2つの部分(各伝熱部分の半分)が接続されている。
【0018】
出口パイプライン(5)は下側の分岐点(12)から上流において同様な分岐構造を含み、各分岐は伝熱部分の下側T字管継手(10)に接続されている。
伝熱管内における圧力損失ΔР
tubeと上側ヘッダーの長手方向に沿った圧力損失ΔР
headとの間の関係は次の条件を満たす:ΔР
tube/ΔР
head≧1.5。
入口パイプラインのうち共通配管の分岐点から最高点までは上り勾配を含み、最高点と上側ヘッダーとの間は下り勾配である。出口パイプラインもまた下り勾配を含む。パイプラインの傾斜角は水平方向に対して少なくとも10°である。これには例外があり、パイプラインのある部分の傾斜角は10°未満である。それらの部分では長さL
secと径D
secとの間の関係が次の条件を満たす:L
sec/D
sec≦10。
【0019】
出口パイプライン(5)には、呼び径の異なる2つの始動弁(13)、「大型」と「小型」とが並列に取り付けられている。これらの始動弁は、対応付けられた冷却モードではシステムを自動的に起動させ、待機モードではいずれも閉じられている。
本発明のある実施形態においては、「小型」の始動弁はDN50の呼び径を有し、57×5.5mmのバイパス管に実装されている。このバイパス管はT字管継手により出口パイプラインに接続されている。このバイパス管には、「小型」の始動弁よりも下流に、復水量制御用の手動式制御弁が設置されている。「小型」の始動弁としては電磁弁(ソレノイドバルブ)が使用される。この弁は通常は開かれている。
【0020】
「大型」の始動弁はDN100の呼び径を有し、出口パイプラインのうち、「大型」の始動弁を含むバイパス管との2つの接続点の間の部分に実装されている。この部分にもバイパス管と同様、復水量制御用の手動式制御弁が設置されている。「大型」の始動弁としては電動弁が使用される。この弁は通常は閉じられている。自動制御システム(APCS:automatic process control system)からの信号に応じて「大型」の始動弁は自動的に開く。「大型」の始動弁が開いているSG−PHRSの流路は1本当たりの最大熱容量が、タンクの水温30°Cではおよそ52MWである。同様の条件下で「小型」の始動弁が操作された場合、この流路の最大熱容量はおよそ28MWである。
【0021】
本発明のシステムは以下のように動作する。
動作を開始させる目的で始動弁(13)のいずれかが開かれる。これにより、蒸気発生器(1)の蒸気室から入口パイプライン(4)を通して熱交換器の各部分(2)へ供給される蒸気で冷却材の自然循環が始まる。この蒸気は熱交換器内で液化され、生成された凝縮液は出口パイプライン(5)を通して蒸気発生器(1)へ流される。熱交換器(2)の配管内で蒸気が液化される際、熱エネルギーが循環路内の冷却材からタンク(3)内の冷却水へ移動する。この冷却水が沸点まで加熱された後、タンク内の水から蒸気が生成されてシステムの環境へ放出される。こうして、熱が蒸気発生器からシステムの環境へ除去される。
【0022】
SG−PHRSのこの設計案の実施可能性と効率とを実験で正当化する目的で、NPO CKTIに建てられたSG−PHRSの大型の模型を用いて大がかりな調査が行われた。この模型における実物大の設備に対する流量と熱容量との相似比はおよそ1:110である。
図4は、電源喪失事故の場合において原子炉施設が冷却される状況のシミュレーションを対象とする調査結果を示す。シミュレートされた事故の処理時間に対する蒸気発生器の模型内の圧力の依存性を
図4の(a)が示し、熱容量の依存性を
図4の(b)が示し、冷却材の流量の依存性を
図4の(c)が示す。線IはKORSARコードを用いて計算された値を示し、線IIは実験データを示す。
【0023】
この調査の計算結果と実験結果とはいずれも次のことを示す。本発明のシステムは、冷却材の質量流量と温度とをいずれも変動させることなく確実に除熱し、蒸気発生器の圧力を着実に下げる。施設が始動する間と冷却される間とのいずれにおいてもウォーターハンマーが発生しない。さらに、実験データと計算データとはかなり一致している。
図5は、24時間の長期にわたる電源喪失という、設計基準を超える事故を対象とする計算結果を示す。事故の処理時間に対する炉心上部の圧力の依存性を
図5の(a)が示し、炉心出口における冷却材の温度の依存性を
図5の(b)が示し、SG−PHRSの流路の熱容量の依存性を
図5の(c)が示し、燃料被覆管の最高温度の依存性を
図5の(d)が示す。
【0024】
上記の計算及び実験による正当化が証明するとおり、上記のパラメータを有する本発明のシステムは、それが機能すべき場合である原子炉施設事故のすべての態様において、蒸気発生器から除熱する間、冷却材の自然循環を安定に保つ。したがって、本発明のシステムは、想定される事故のすべての態様において原子炉施設を効率的に、且つ確実に冷却する。このシステムが、電源喪失及び給水の完全停止を含む事故に適用されることにより、事故の発生時から24時間は、原子炉施設の自己完結的動作が保証される。