(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802815
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】ジクロロキノン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/313 20060101AFI20201214BHJP
C07C 69/757 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
C07C67/313
C07C69/757 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-3423(P2018-3423)
(22)【出願日】2018年1月12日
(65)【公開番号】特開2019-123673(P2019-123673A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2019年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】井口 和紀
(72)【発明者】
【氏名】尾迫 秀和
【審査官】
山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】
Synthesis,2008年,No.14,p.2303-2306
【文献】
Synthesis,2009年,No.16,p.2797-2801
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/00−69/96
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジクロロキノン誘導体の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される化合物に対し、1.0〜1.2モル当量のN−クロロスクシンイミドを有機酸中で反応させた後、引き続き、1.0〜1.2モル当量のトリクロロイソシアヌル酸を反応させる工程を有するジクロロキノン誘導体の製造方法。
(前記一般式(1)及び(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立にアルキル基を示す)
【請求項2】
前記有機酸が酢酸である請求項1に記載のジクロロキノン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロロキノン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記一般式(2)で表される化合物(スクシニロコハク酸類)は、赤〜紫色の有用な色材であるキナクリドン類の出発原料として非常に重要である。一方、スクシニロコハク酸類の酸化体である、下記一般式(1)で表されるジクロロキノン誘導体(ジハロキノン類)は、スクシニロコハク酸類に塩素ガスや臭素ガス等のハロゲンガスを作用させて製造されることが知られている。しかし、スクシニロコハク酸類にハロゲンガスを反応させる方法は、不純物が生じやすいとともに、その取り扱いに特別の配慮が必要なハロゲンガスを使用する方法であることから、さほど注目されている製造方法であるとは言えない。
【0003】
(前記一般式(1)及び(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立にアルキル基を示す)
【0004】
近年、ハロゲンガスを使用しない簡便な方法として、4モル当量のN−クロロスクシンイミドをスクシニロコハク酸類に作用させてジハロキノン類を合成する方法が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L.Hintermann and K.Suzuki,Synthesis,2008,No.14,p.2303−2306
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1で報告された方法は、基質であるスクシニロコハク酸類に対して、比較的高価なN−クロロスクシンイミドを相当過剰に反応させることが必要な方法である。このため、工業的に有利であるとは言えず、汎用性の高い製造方法ではなかった。
【0007】
また、一般式(1)で表されるジハロキノン類をキナクリドン類の製造中間体として用いると、塩素分子が脱離基として作用し、塩化水素の脱離に伴って反応が進行する。すなわち、非特許文献1で報告された方法を採用すると、最終生成物であるキナクリドン類の製造コストは、過剰に用いるN−クロロスクシンイミドのコストに依存することになる。このため、非特許文献1で報告された方法は、やはり工業的に有利な方法であるとは言えなかった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、汎用性が高く、工業的プロセスに容易に適用可能であるとともに、製造コスト面でも有利なジクロロキノン誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示すジクロロキノン誘導体の製造方法が提供される。
[1]下記一般式(1)で表されるジクロロキノン誘導体の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される化合物に対し、1.0〜1.2モル当量のN−クロロスクシンイミドを有機酸中で反応させた後、引き続き、1.0〜1.2モル当量のトリクロロイソシアヌル酸を反応させる工程を有するジクロロキノン誘導体の製造方法。
【0010】
(前記一般式(1)及び(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立にアルキル基を示す)
【0011】
[2]前記有機酸が酢酸である前記[1]に記載のジクロロキノン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、汎用性が高く、工業的プロセスに容易に適用可能であるとともに、製造コスト面でも有利なジクロロキノン誘導体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ジクロロキノン誘導体の製造方法>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のジクロロキノン誘導体の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」とも記す)は、下記一般式(1)で表されるジクロロキノン誘導体の製造方法である。そして、本発明の製造方法は、下記一般式(2)で表される化合物に対し、1.0〜1.2モル当量のN−クロロスクシンイミドを有機酸中で反応させた後、引き続き、1.0〜1.2モル当量のトリクロロイソシアヌル酸を反応させる工程(反応工程)を有する。以下、本発明の製造方法の詳細について説明する。
【0014】
(前記一般式(1)及び(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立にアルキル基を示す)
【0015】
トリクロロイソシアヌル酸は、例えば、プール等の殺菌剤として用いられることが知られている。また、安価であるとともに安定性に優れており、工業的に扱いやすい試薬である。そして、トリクロロイソシアヌル酸は、有効塩素率がより高い試薬である。例えば、N−クロロスクシンイミドの有効塩素率が51%であるのに対し、トリクロロイソシアヌル酸の有効塩素率は91%である(Organic Process Research and Development,2002,6,p.384−393)。
【0016】
本発明の製造方法では、一般式(2)で表される化合物を塩素化するための試薬(塩素化剤)として、N−クロロスクシンイミドとともにトリクロロイソシアヌル酸を用いる。N−クロロスクシンイミドだけでなく、トリクロロイソシアヌル酸を用いることで、高い製造収率を維持しつつ、高価であるとともに工業的にも不利なN−クロロスクシンイミドの使用量を低減することができる。
【0017】
反応工程では、まず、一般式(2)で表される化合物に対し、N−クロロスクシンイミドを有機酸中で反応させる。一般式(2)で表される化合物の具体例としては、下記式(2a)〜(2d)で表される化合物を挙げることができる。
【0019】
N−クロロスクシンイミドの量は、一般式(2)で表される化合物に対して、1.0〜1.2モル当量である。一般式(2)で表される化合物に対するN−クロロスクシンイミドの量が1.0モル当量未満であると、塩素化が不十分になる。一方、1.2モル当量超とするとコスト面で不利になる。
【0020】
一般式(2)で表される化合物にN−クロロスクシンイミドを反応させる際の温度及び時間は特に限定されず、適宜設定することができる。具体的には、60〜100℃の温度範囲で、30分〜10時間程度反応させればよい。
【0021】
反応工程では、N−クロロスクシンイミドを反応させた後、好ましくは反応生成物等を単離することなく、引き続きトリクロロイソシアヌル酸を反応させる。より具体的には、N−クロロスクシンイミドを反応させた反応系にトリクロロイソシアヌル酸を添加し、反応させればよい。N−クロロスクシンイミドを反応させずに、トリクロロイソシアヌル酸のみを一般式(2)で表される化合物に反応させても塩素化することはできず、一般式(1)で表される化合物を得ることはできない。
【0022】
トリクロロイソシアヌル酸の量は、一般式(2)で表される化合物に対して、1.0〜1.2モル当量である。一般式(2)で表される化合物に対するトリクロロイソシアヌル酸の量が1.0モル当量未満であると、塩素化が不十分になる。一方、1.2モル当量超とするとコスト面で不利になる。
【0023】
トリクロロイソシアヌル酸を反応させる際の温度及び時間は特に限定されず、適宜設定することができる。具体的には、60〜100℃の温度範囲で、1〜10時間程度反応させればよい。
【0024】
一般式(2)で表される化合物と、N−クロロスクシンイミド及びトリクロロイソシアヌル酸とは、有機酸中で反応させる。有機酸を溶媒として用いることで、無機酸を用いる場合に比して、目的物である一般式(1)で表される化合物の分解を抑制し、収率を向上させることができる。なお、一般式(1)で表される化合物の分解を抑制して収率を向上させる観点からは、実質的に水が存在しない、非水溶媒中で反応させることが好ましい。有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸などを挙げることができる。なかでも、水に溶けやすく、液体で扱いやすいことから酢酸が好ましい。トリクロロイソシアヌル酸を反応させた後は、必要に応じて精製等することで、目的とする一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。製造した化合物の構造は、いずれも
1H−NMR及び質量分析により同定した。
【0026】
(実施例1)
式(2a)で表される化合物250部及びN−クロロスクシンイミド154部を酢酸2500部に加え、80℃で30分加熱した。続けて、トリクロロイソシアヌル酸267部を加え、80℃で2時間さらに加熱した。冷却後に水を加えて反応を停止した。ろ過及び水で洗浄後、80℃で乾燥して、下記式(A)で表される化合物(A)247部(収率:77%)を得た。
【0027】
【0028】
(実施例2)
式(2a)で表される化合物250部に代えて、式(2b)で表される化合物282部を使用したこと以外は、前述の実施例1と同様にして、下記式(B)で表される化合物(B)272部(収率:77%)を得た。
【0029】
【0030】
(比較例1)
式(2a)で表される化合物250部及びN−クロロスクシンイミド617部を酢酸2500部に加え、80℃で2時間加熱した。冷却後に水を加えて反応を停止した。ろ過及び水で洗浄後、80℃で乾燥して、化合物(A)247部(収率:77%)を得た。
【0031】
(比較例2)
式(2a)で表される化合物250部及びトリクロロイソシアヌル酸358部を酢酸2500部に加え、80℃で2時間加熱した。冷却後に水を加えて反応を停止した。ろ過及び水で洗浄したが、化合物(A)の生成を確認することはできなかった。
【0032】
実施例及び比較例の詳細を表1に示す。
【0033】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法は、色材として有用なキナクリドン類を製造するための原料や中間体として用いられるジクロロキノン誘導体を工業的に製造する方法として好適である。