特許第6802829号(P6802829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6802829イオン交換樹脂、精製方法、及びイオン性樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802829
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】イオン交換樹脂、精製方法、及びイオン性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20201214BHJP
   C08F 12/26 20060101ALI20201214BHJP
   C08F 12/30 20060101ALI20201214BHJP
   C08F 8/34 20060101ALI20201214BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20201214BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20201214BHJP
   B01J 47/12 20170101ALI20201214BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20201214BHJP
【FI】
   C08J5/22 101
   C08J5/22CER
   C08J5/22CEZ
   C08F12/26
   C08F12/30
   C08F8/34
   B01J41/05
   B01J41/14
   B01J47/12
   B01J47/02
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-197181(P2018-197181)
(22)【出願日】2018年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-81885(P2019-81885A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2018年10月26日
(31)【優先権主張番号】62/579,880
(32)【優先日】2017年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591016862
【氏名又は名称】ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Rohm and Haas Electronic Materials LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイ・ルデンコ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト・ポーラース
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−349941(JP,A)
【文献】 特開昭55−131003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/22
B01J39/00−49/90
C08F6/00−246/00、301/00
C08C19/00−19/44、C08F6/00−246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂であって、架橋樹脂と、前記樹脂の炭素に共有結合した塩と、を含み、前記架橋樹脂が、架橋ポリ(スチレン)、架橋ポリ(ビニルフラン)、架橋ポリ(ビニルピリジン)、架橋ポリ(ビニルピロール)および架橋ポリ(ビニルチオフェン)からなる群から選択され、前記塩が、第1の非金属カチオン及び第1の対アニオンを含み、前記第1の非金属カチオンのオニウムカチオン原子が前記樹脂の炭素に結合されており、前記第1の対アニオンが、第2の非金属カチオン及びチオ硫酸対アニオンを含み、前記イオン交換樹脂が、本質的に金属を含まない、イオン交換樹脂。
【請求項2】
前記架橋樹脂が架橋ポリ(スチレン)である、請求項1に記載のイオン交換樹脂。
【請求項3】
前記第2の非金属カチオンが、任意で置換されたアンモニウムカチオンである、請求項1または2に記載のイオン交換樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン交換樹脂を含むイオン交換媒体。
【請求項5】
前記媒体が、ビーズ、膜、フィルター、イオン交換カラム、またはそれらの組み合わせである、請求項に記載のイオン交換媒体。
【請求項6】
溶媒及び不純物を含む組成物を、請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン交換樹脂と接触させ、それによって、前記組成物中の前記不純物の含有量を低減することを含む、精製方法。
【請求項7】
前記不純物が、過酸化水素または有機過酸化物である、請求項に記載の精製方法。
【請求項8】
前記不純物が、金属である、請求項に記載の精製方法。
【請求項9】
前記溶媒が、有機溶媒である、請求項6〜8のいずれかに記載の精製方法。
【請求項10】
前記有機溶媒が、ジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、メタノール、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、メチルtertブチルエーテル、イソアミルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチル−3−エトキシプロオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、ブチルセロソルブ、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項に記載の精製方法。
【請求項11】
イオン交換樹脂の製造方法であって、
(a)架橋樹脂と、前記架橋樹脂の炭素に共有結合した塩と、を含む、イオン性樹脂を提供することであって、前記架橋樹脂が、架橋ポリ(スチレン)、架橋ポリ(ビニルフラン)、架橋ポリ(ビニルピリジン)、架橋ポリ(ビニルピロール)および架橋ポリ(ビニルチオフェン)からなる群から選択され、前記塩が、第1の非金属カチオン及び第1の対アニオンを含み、前記第1の非金属カチオンのオニウムカチオン原子が前記樹脂の炭素に結合されている、提供することと、
(b)前記イオン性樹脂を、第2のカチオンと、チオスルフェート基を含む第2の対アニオンと、を含む、塩と接触させ、それによって、前記第1の対アニオン及び前記第2の対アニオンを交換することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記架橋樹脂が架橋ポリ(スチレン)である、請求項11に記載のイオン交換樹脂を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、概して、イオン性樹脂を用いる化学物質の精製に関する。より具体的には、本発明は、イオン交換樹脂、それらの製造方法、そのようなイオン交換樹脂から形成された精製媒体、及びそのようなイオン交換樹脂を使用する精製方法に関する。本発明は、エレクトロニクス産業において使用される材料の精製において、特に適用可能性を見出す。
【0002】
半導体製造業界においては、デバイス製造に使用されるプロセス材料、及びそれらに関連する原料は、過酸化水素または有機過酸化物のような過酸化物不純物を含む可能性がある。そのような過酸化物不純物は、化学的製造プロセスの結果として存在する可能性があり、または材料の貯蔵中に生成される可能性がある。エーテル及びエステルのような有機溶媒は、大気中の酸素の存在下で有機過酸化物生成を特に起こしやすい。そのようなことを起こしやすい溶媒の中には、乳酸エチル、PGME、及びPGMEAがあり、これらは、平版印刷材料に一般的に使用されている。
【0003】
半導体プロセス化学物質中の過酸化物の存在は、安全性の観点から問題となり得る。特に、過酸化物は、重度の火災及び爆発の危険を呈する可能性があり、さらに毒性及び腐食性である可能性がある。そのような安全上の危険性を呈することに加えて、プロセス材料中の過酸化物の存在は、生じる半導体デバイスに有害な影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
溶媒中の過酸化物の形成を最小限にするために、過酸化物抑制剤を溶媒に添加することが知られている。有機溶媒から過酸化物を除去するための過酸化物スカベンジャーの使用も知られている。(例えば、米国特許第3,221,030号参照)。しかしながら、添加剤である抑制剤またはスカベンジャーを溶媒、原料、及び組成物に添加することは、材料中に未反応の添加剤及び酸化副生成物を生じる可能性がある。そのような添加剤の存在は、プロセス材料の性能に悪影響を及ぼす可能性があり、特にプロセス化学物質中の不純物の低減の重要性が増している先端の半導体デバイス製造の場合には、無添加の添加剤を含まない材料が必要となることがある。
【0005】
半導体製造におけるさらなる問題は、プロセス化学物質中の金属汚染物質の存在に関する。金属材料は、例えば相互接続構造の形成におけるような、製造プロセスにおいてその役割を果たし、多くのプロセスにおける金属汚染は、例えば、低いデバイス歩留まり、及び電気的特性の変動に起因する不十分な性能の点で、形成されたデバイスに対して重大な問題を呈する可能性がある。したがって、プロセス化学物質中の金属汚染物質レベルを低減できることが望ましい。
【0006】
したがって、技術水準に関連する1つ以上の問題に対処する改善されたイオン性樹脂、精製媒体、及び精製方法に対する必要性が当該技術分野において存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様によると、イオン交換樹脂が提供される。イオン交換樹脂は、架橋樹脂と、樹脂の炭素に共有結合した塩と、を含み、塩は、第1の非金属カチオン及び第1の対アニオンを含み、第1の対アニオンは、第2の非金属カチオン及びチオ硫酸対アニオンを含み、イオン交換樹脂は、本質的に金属を含まない。
【0008】
本発明のさらなる態様によると、イオン交換媒体が提供される。イオン交換媒体は、本明細書において記載されるようなイオン交換樹脂を含み、例えば、ビーズ、膜、フィルター、イオン交換カラム、またはそれらの組み合わせの形態を採ることができる。
【0009】
本発明のさらなる態様によると、精製方法が提供される。精製方法は、溶媒及び不純物を含む組成物を、本明細書において記載されるようなイオン交換樹脂と接触させ、それによって、組成物中の不純物の含量を低減することを含む。
【0010】
本発明のさらなる態様によると、イオン交換樹脂の製造方法が提供される。方法は、
(a)架橋樹脂と、架橋樹脂の炭素に共有結合した塩と、を含む、イオン性樹脂を提供することであって、塩が、第1のカチオン及び第1の対アニオンを含む、提供することと、
(b)イオン性樹脂を、第2のカチオンと、チオスルフェート(thiosulfate group)を含む第2の対アニオンと、を含む塩と接触させることにより、第1の対アニオン及び第2の対アニオンを交換することと、を含む。
【0011】
本明細書において使用する用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が他のことを示さない限り、単数形及び複数形を含むことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明は、以下の図面を参照して説明され、類似の参照番号は類似の特徴を示す。
【0013】
図1】本発明によるイオン交換樹脂による処理前及び処理後のトリプロピレングリコールメチルエーテル(TPM)のGC−MSスペクトルを示す。
図2】本発明によるイオン交換樹脂による処理前及び処理後の乳酸エチルのGC−MSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
当該技術分野の現況に関連する1つ以上の問題を解決するために、組成物中に含まれる不純物の含量を低減することによって組成物を精製することができる新たなイオン交換樹脂が開発されている。イオン交換樹脂は、架橋樹脂と、樹脂の炭素に共有結合した塩と、を含む。塩は、第1の非金属カチオン及び第1の対アニオンを含む。第1の対アニオンは、第2の非金属カチオン及びチオ硫酸対アニオンを含む。
【0015】
架橋樹脂は、典型的には、架橋ポリ(スチレン)もしくは他の架橋ビニル芳香族ポリマー、例えばポリ(ビニルフラン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルピロール)、またはポリ(ビニルチオフェン)である。樹脂は、典型的には、架橋官能基を提供するために、例えば、マルチビニルベンゼン、マルチビニルフラン、マルチビニルピリジン、マルチビニルピロール、またはマルチビニルチオフェンのモノマーから選択される1つ以上のマルチビニル(すなわち、2つ以上のビニル基を含む)モノマーから形成される単位を含む。イオン交換樹脂は、例えば、マクロ多孔質またはゲルタイプであり得、そして好ましくはマクロ多孔質であり、1nm〜100ミクロン、好ましくは1ミクロン〜10ミクロンの典型的な孔径を有する。
【0016】
本発明のイオン交換樹脂は、典型的には前駆体樹脂の対アニオン、典型的にはClまたはOHを、チオ硫酸塩含有の第1の対アニオンへと交換することによるアニオン交換が可能である、前駆体アニオン性架橋樹脂の誘導体である。本発明のイオン性樹脂を誘導することができる前駆体アニオン性架橋樹脂は、典型的には、架橋樹脂の炭素に共有結合した第1の非金属カチオンを含む。この第1の非金属カチオンは、典型的には誘導体樹脂の一部として残る。第1の非金属カチオンが結合する樹脂の炭素は、特に限定されないが、スチレン系ポリマーの場合、芳香族環上の樹脂主鎖に対してパラ位に存在するのが典型的である。
【0017】
好適な第1の非金属カチオンは、例えば、オニウムカチオン、例えばアンモニウム、スルホニウム、ヨードニウム、ホスホニウム、及びアルソニウムのカチオン、ならびにイミニウン(iminiun)カチオンから選択される1つ以上のカチオンを含む。これらのカチオンのうち、アンモニウムカチオンが好ましい。第1の非金属カチオンに好適なそのようなカチオンは、以下の一般式のものを含む。
【0018】
【化1】
【0019】
式中、Rは、水素、置換もしくは非置換の、直鎖もしくは分枝鎖の、C1−C20アルキル、置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C3−C20アルキル、または置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C5−C20アリールから独立して選択され、1つ以上のアリール環の炭素は、N、O、またはSのようなヘテロ原子によって任意で置換され、1つ以上のR基は、単結合によって隣接するR基に任意で結合し、2つ以上のR基は共に環を任意で形成し、Rは、置換もしくは非置換の、直鎖もしくは分枝鎖の、C1−C20アルキル、置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C3−C20アルキル、または置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C5−C20アリールから独立して選択され、1つ以上のアリール環の炭素は、N、O、またはSのようなヘテロ原子によって任意で置換され、1つ以上のR基が単結合、または置換もしくは非置換の、C1−C4アルキレン架橋基のような架橋基によって隣接するR基に任意で結合し、架橋基の1つ以上の炭素原子は、NR、O、またはSのようなヘテロ原子によって任意で置換され、Rは水素、または置換もしくは非置換の、C1−C5アルキルであり、そしてRは、置換もしくは非置換の、直鎖もしくは分岐鎖の、C1−C20アルキル、置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C3−C20アルキル、または置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C5−C20アリールから選択され、1つ以上のアリール環の炭素は、N、O、またはSのようなヘテロ原子によって任意で置換される。本明細書において使用されるとき、「置換された」という用語は、1個以上の水素原子が非水素の置換基、例えばヒドロキシ、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、ヨウ素、もしくは臭素)、C1−C10アルキル、C5−C12アリール、C6−C14アラルキル、C1−C10アルコキシ、C6−C12アルコキシ、またはアルキルアミノによって置換されていることを意味する。
【0020】
第1の非金属カチオンとして使用する例示的なカチオンは、以下のものを含む。
【0021】
【化2】
【0022】
式中、波状の結合は、樹脂の炭素との共有結合を示す。
【0023】
本発明のイオン性樹脂を誘導することができる好適な前駆体アニオン性架橋樹脂は、市販されているか、または公知の技術によって調製することができる。好適な市販の樹脂は、例えばDowex(商標)Marathon(商標)MSA Chloride Form、Dowex(商標)Marathon(商標)11、及びDowex(商標)Marathon(商標)A(The Dow Chemical Company)、ならびにAmberlite(商標)IRA−400(Cl)、Amberlite(商標)IRA−402 (Cl)、Amberlite(商標)IRA−410(Cl)、Amberlite(商標)IRA−900(Cl)、及びAmberlite(商標)IRA−4200(Cl)(Rohm and Haas Company)を含む。好適な前駆体アニオン性架橋樹脂の製造方法はまた、例えば、米国特許第6756462号B2に記載されているように、文献公知である。
【0024】
第1の対アニオンは、第2の非金属カチオン及びチオ硫酸対アニオンを含む。第1及び第2の非金属カチオンの型は、互いに独立して選択することができる。好適な第2の非金属カチオンは例えば、オニウムカチオン、例えばアンモニウム、スルホニウム、ヨードニウム、ホスホニウム、及びアルソニウムのカチオン、ならびにイミニウン(iminiun)カチオンから選択される1つ以上のカチオンを含む。これらのカチオンのうち、アンモニウムカチオンが好ましい。第2の非金属カチオンに好適なそのようなカチオンは、以下の一般式のものを含む。
【0025】
【化3】
【0026】
式中、Rは、水素、置換もしくは非置換の、直鎖もしくは分枝鎖の、C1−C20アルキル、置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C3−C20アルキル、または置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C5−C20アリールから独立して選択され、1つ以上のアリール環の炭素は、N、O、またはSのようなヘテロ原子によって任意で置換され、1つ以上のR基は、単結合、または置換もしくは非置換の、C1−C4アルキレン架橋基のような架橋基によって隣接するR基に任意で結合し、架橋基の1つ以上の炭素原子は、NR、O、またはSのようなヘテロ原子によって任意で置換され、Rは水素、または置換もしくは非置換の、C1−C5アルキルであり、2つ以上のR基は共に環を任意で形成し、Rは、置換もしくは非置換の、直鎖もしくは分枝鎖の、C1−C20アルキル、置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C3−C20アルキル、または置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C5−C20アリールから独立して選択され、1つ以上のアリール環の炭素は、N、O、またはSのようなヘテロ原子によって任意で置換され、1つ以上のR基が単結合、または置換もしくは非置換の、C1−C4アルキレン架橋基のような架橋基によって隣接するR基に任意で結合し、架橋基の1つ以上の炭素原子は、NR、O、またはSのようなヘテロ原子によって任意で置換され、Rは水素、または置換もしくは非置換の、C1−C5アルキルであり、そしてRは、水素、置換もしくは非置換の、直鎖もしくは分岐鎖の、C1−C20アルキル、置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C3−C20アルキル、または置換もしくは非置換の、単環式もしくは多環式の、C5−C20アリールから選択される。本明細書において使用されるとき、「置換された」という用語は、1個以上の水素原子が非水素の置換基、例えばヒドロキシ、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、ヨウ素、もしくは臭素)、C1−C10アルキル、C5−C12アリール、C6−C14アラルキル、C1−C10アルコキシ、C6−C12アルコキシ、またはアルキルアミノによって置換されていることを意味する。
【0027】
第2の非金属カチオンとして使用する例示的なカチオンは、以下のものを含む。
【0028】
【化4】
【0029】
電子デバイス製造、特に先端の半導体デバイス製造における金属不純物は、製造プロセス及び生じるデバイスに悪影響を与える可能性がある。イオン交換樹脂中の金属の存在が精製される組成物を汚染する可能性があるので、イオン交換樹脂は本質的に金属を含まない。本明細書において使用されるとき、「本質的に金属を含まない」という用語は、イオン交換樹脂の総金属含有量が、イオン交換樹脂の全重量に基づいて、500ppm未満、好ましくは400ppm未満、より好ましくは300ppm未満、最も好ましくは200ppm未満または100ppm未満である。このような金属分析は、誘導結合プラズマ質量分析法ICP−MSによって実施することができる。好ましくは、イオン樹脂は、樹脂製造中または環境汚染からの汚染の結果として生じる可能性のある意図しない微量金属以外の金属を完全に含まない。
【0030】
本発明によるアニオン交換樹脂を製造する例示的なプロセスを以下に記載する。本発明のイオン交換樹脂は、上述した前駆体アニオン性架橋樹脂を最初に提供することによって製造することができる。前駆体アニオン交換樹脂は、水性溶媒、非金属カチオン及びチオ硫酸塩対アニオンを含むチオ硫酸塩(第1の対アニオン)、ならびに1つ以上の任意の追加成分を含む水性塩溶液によって処理することによって改質して、前駆体アニオン交換樹脂上のアニオンをチオ硫酸塩に置換することができる。チオ硫酸塩は、第1の対アニオンに関して上記した通りである。好適なチオ硫酸塩は、市販されているか、または当業者によって容易に作製することができる。本発明による好ましいイオン交換樹脂の調製のための例示的な反応スキームを以下に示す:
【0031】
【化5】
【0032】
水性溶媒は、水(100体積%)であってもよく、または主として水、例えば50体積%を超える、80体積%を超える、または90体積%を超える水であってもよい。水に加えて1つ以上の溶媒が使用される場合、そのような溶媒は、好ましくは、例えば水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、またはイソプロピルアルコールのようなアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、PGME、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びトリプロピレングリコールなどのグリコールエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのモノメチルエーテル、乳酸エチルなどのエステル、ならびにそれらの組み合わせから選択される。溶液中のチオ硫酸塩の濃度は、チオ硫酸塩組成物全体に基づいて、典型的には10〜30重量%、好ましくは20〜25重量%である。
【0033】
塩水溶液の任意の成分として、界面活性剤を使用することが所望される場合がある。好適な界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、例えばTRITON(登録商標)X−114、X−100、X−45、X−15などのオクチル及びノニルフェノールエトキシレート、ならびにTERGITOL(商標)TMN−6(The Dow Chemical Company, Midland, Michigan USA)などの分岐鎖第二級アルコールエトキシレートを含む。さらになお例示的な非イオン性界面活性剤は、アルコール(第一級及び第二級)エトキシレート、アミンエトキシレート、グルコシド、グルカミン、ポリエチレングリコール、ポリ(エチレングリコール−コ−プロピレングリコール)、またはMcCutcheon’s Emulsifiers and Detergents, North American Edition for the Year 2000 published by Manufacturers Confectioners Publishing Co. of Glen Rock, N.J.に開示される他の非イオン性界面活性剤を含む。アセチレンジオール誘導体である非イオン性界面活性剤もまた、好適であり得る。そのような界面活性剤は、Air Products and Chemicals, Inc.of Allentown, PAから市販されており、SURFYNOL(登録商標)及びDYNOL(登録商標)の商品名で販売されている。さらなる好適な界面活性剤は、トリブロックEO−PO−EOコポリマーPLURONIC(登録商標)25R2、L121、L123、L31、L81、L101、及びP123(BASF, Inc.)などの他のポリマー化合物を含む。そのような界面活性剤及び使用される場合の他の任意の添加剤は、典型的には、組成物中に、チオ硫酸塩組成物全体に基づいて、0.01〜5重量%のような少量で存在する。
【0034】
チオ硫酸塩は、溶媒、チオ硫酸塩、及び追加の任意の成分を混合物中に混合して塩及び任意の固体成分を溶媒に溶解することによって調製することができる。
【0035】
イオン交換樹脂は、チオ硫酸塩を前駆体樹脂のアニオンと交換するのに効果的な時間の間、前駆体架橋樹脂をチオ硫酸塩水溶液でスラリー化することによって調製することができる。前駆体樹脂の処理は、典型的には空気中または不活性ガス雰囲気、例えば窒素またはアルゴン中で実施される。処理時間は、典型的には2〜30時間、より典型的には4〜10時間である。その後、典型的には樹脂を水で洗浄して、未結合のチオ硫酸塩組成物及び反応生成物を除去する。水洗は、典型的には、撹拌しながら複数回、好ましくは10〜50回実施する。水対樹脂比は、典型的には200:1〜400:1である。処理された樹脂は好ましくは、例えばメタノール、エタノール、またはイソプロパノールのようなアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、PGME、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びトリプロピレングリコールなどのグリコールエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのモノメチルエーテル、乳酸エチルなどのエステル、ならびにそれらの組み合わせから選択される水混和性有機溶媒によって樹脂を洗浄することによって脱水される。洗浄及び/または脱水は、室温または25〜90℃のような高温で実施することができる。それに加えてまたは代替的に、典型的に25〜90℃の温度かつ10−9〜10−3torrの圧力で、樹脂を真空乾燥プロセスに供することができる。
【0036】
本発明のイオン交換樹脂は、溶媒から不純物を除去するためのイオン交換媒体として有用である。好適なイオン交換媒体は、例えば典型的には前駆体樹脂重合プロセスによって生じるようなビーズ、膜、フィルターイオン交換カラム、またはそれらの組み合わせを含む。イオン交換媒体及び精製方法は、当技術分野で一般に知られており、例えば、US6,756,462B2、US3,207,708B1、及びWO1999/009091A1に記載されている。
【0037】
本発明のイオン交換樹脂は、化学物質の精製に使用することができ、エレクトロニクス産業で使用される材料の精製に特に適用可能である。精製方法は、溶媒及び不純物を含む組成物を、本明細書において記載されるようなイオン交換樹脂と接触させ、それによって組成物中の不純物の含量を低減することを含む。イオン交換樹脂は、溶媒を含む化学組成物から過酸化物、例えば有機過酸化物もしくは過酸化水素、または金属などの不純物を除去するのに有用である。
【0038】
溶媒は、水、または有機溶媒、例えばジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、メタノール、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、メチルtertブチルエーテル、イソアミルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチル−3−エトキシプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、ブチルセロソルブ、及びそれらの組み合わせであり得る。
【0039】
処理すべき組成物は、組成物を樹脂によってスラリー化することによって、イオン交換樹脂のカラムに溶液を通過させることによって、本明細書において記載されるようなイオン交換樹脂と接触させるか、またはそうでなければ、組成物を、本発明のイオン交換樹脂を含むメンブレンまたはフィルターのような精製媒体と接触させる。精製のためのプロセス条件は、媒体の型に依存し、当該技術分野の技術水準の範囲内である。樹脂を含むイオン交換カラムの場合、例えば、カラムを通る組成物の通過速度は、典型的には、時間当たり約2〜20ベッド体積であり、周囲条件下で実施することができる。
【0040】
処理すべき組成物は、好ましくは非酸性物質(すなわち、遊離酸を本質的に含まない物質)、好ましくは高極性水性配合物ではない物質である。好適な電子材料は、例えば、非酸性である、有機溶媒、フォトレジスト組成物、トップコート組成物、有機溶媒現像剤、及びスピンオンカーボン(SOC)組成物を含む。処理すべき組成物は、樹脂を含むことができ、または樹脂を含まなくてもよい。そのような樹脂は、例えば、フォトレジスト組成物及び特定のトップコート組成物に典型的であるように、酸不安定基、例えば、第3級アルキルエステルを含むことができる。本発明によると、組成物または組成物の1つ以上の個々の成分は、組成物または成分をイオン交換樹脂と接触させることによって、過酸化物及び/または金属などの汚染物質を除去するために、処理することができる。
【0041】
以下の非限定的な実施例は、本発明を例示するものである。
【実施例】
【0042】
チオ硫酸塩樹脂の合成
【0043】
実施例1
10.712gのDowex(商標)Marathon(商標)MSAイオン交換樹脂(The Dow Chemical Company)及び19.7gのチオ硫酸アンモニウム(脱イオン水70ml中)を100mlのガラス瓶中で混合し、約2日間振とうした。生じた混合物をデカントし、樹脂を100mlの脱イオン水で10回洗浄した。樹脂を100mlの脱イオン水で12〜24時間振とうし、手順を3回繰り返した。デカントした後、樹脂を12〜24時間、高真空処理(20〜100mTorr)に供した。
【0044】
実施例2
78.196gのDowex(商標)Marathon(商標)MSAイオン交換樹脂(The Dow Chemical Company)及び122.606gのチオ硫酸アンモニウム(脱イオン水500ml中)を1Lのガラス瓶で混合し、約24時間振とうした。生じた上清をデカントし、樹脂を500mlの脱イオン水で40回洗浄した。樹脂の一部をアセトンですすいで水を除去し、次いで空気中で12〜24時間乾燥させた。
【0045】
溶媒からの過酸化物の除去
【0046】
実施例3
実施例1の1.863gの樹脂を100mlのガラス瓶中で79.8gのDOWANOL(商標)TPMグリコールエーテル(トリプロピレングリコールメチルエーテル)(The Dow Chemical Company)と混合し、混合物を約1日間振とうした。樹脂で処理されたTPMのサンプルをピペットによりボトルから取り出し、酸化還元電位差滴定により全過酸化物含量を分析した。処理のないTPMのサンプルも同様に全過酸化物含量について分析した。結果を表1に示す。
【0047】
実施例4
実施例1の1.0gの樹脂を77.7gの乳酸エチルと100mlのガラス瓶中で混合し、混合物を約1日間振とうした。樹脂で処理された乳酸エチルのサンプルをピペットによりボトルから取り出し、酸化還元電位差滴定により全過酸化物含量を分析した。処理のない乳酸エチルのサンプルも同様に全過酸化物含量について分析した。結果を表1に示す。
【0048】
実施例5
実施例2の1.033gの乾燥樹脂を100mlのガラス瓶中で100gのDOWANOL(商標)TPMグリコールエーテル(トリプロピレングリコールメチルエーテル)(The Dow Chemical Company)と混合し、混合物を約1日間振とうした。樹脂で処理されたTPMのサンプルをピペットによりボトルから取り出し、酸化還元電位差滴定により全過酸化物含量を分析した。処理のないTPMのサンプルも同様に全過酸化物含量について分析した。結果を表1に示す。
【0049】
実施例6
実施例2の3.677gの乾燥樹脂を100gの乳酸エチルと100mlのガラス瓶中で混合し、混合物を約1日間振とうした。乳酸エチルのサンプルをピペットによりボトルから取り出し、過酸化物含量を分析した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例7
実施例3及び5に記載されるような、樹脂処理なし及び樹脂処理後のTPMのサンプルを、樹脂による処理前及び処理後のTPMのフィンガープリンティングのためのガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)によって分析した。得られたスペクトルを図1に示す。スペクトルは実質的に同一であり、樹脂による処理がTPMの化学組成に実質的に影響しないことを示している。
【0052】
実施例8
実施例4及び6に記載されるような、樹脂処理なし及び樹脂処理後の乳酸エチルのサンプルを、樹脂による処理前及び処理後の乳酸エチルのフィンガープリンティングのためのガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)によって分析した。得られたスペクトルを図2に示す。スペクトルは実質的に同一であり、樹脂による処理が乳酸エチルの化学組成に実質的に影響しないことを示している。

図1
図2