特許第6802842号(P6802842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802842
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】透明電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20201214BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20201214BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20201214BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20201214BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20201214BHJP
   H01L 51/44 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
   H01B13/00 503B
   H05B33/14 A
   H05B33/28
   H05B33/26 Z
   H05B33/10
   !H01L31/04 130
【請求項の数】8
【全頁数】70
(21)【出願番号】特願2018-523618(P2018-523618)
(86)(22)【出願日】2017年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2017019387
(87)【国際公開番号】WO2017221623
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2020年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-125453(P2016-125453)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末松 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】小島 茂
(72)【発明者】
【氏名】波木井 健
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−164941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01L 51/50
H05B 33/10
H05B 33/26
H05B 33/28
H01L 51/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基板上に、パターン状に形成された金属細線と、当該金属細線上に形成された透明導電層とを有する透明電極の製造方法であって、
金属ナノ粒子含有組成物をパターン状に印刷する工程と、
パターン状に印刷した前記金属ナノ粒子含有組成物を乾燥する工程と、
乾燥させた前記金属ナノ粒子含有組成物にフラッシュ光を照射して焼成し、金属細線を形成する工程と、
前記金属細線上に、厚さ30〜300nmの範囲内の透明導電層を形成する工程と、
を有し、
前記金属細線を形成する工程では、酸素含有物質の濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で前記金属ナノ粒子含有組成物を焼成し、前記金属細線を形成することを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項2】
前記金属細線を形成する工程では、酸素(O)濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で前記金属ナノ粒子含有組成物を焼成し、前記金属細線を形成することを特徴とする請求項1に記載の透明電極の製造方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子含有組成物を乾燥する工程では、酸素(O)濃度を50〜5000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で乾燥することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明電極の製造方法。
【請求項4】
前記透明導電層の厚さが、50〜150nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の透明電極の製造方法。
【請求項5】
前記透明導電層に、金属酸化物が含有されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の透明電極の製造方法。
【請求項6】
前記透明樹脂基板と前記金属細線との間に、下地層を形成することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の透明電極の製造方法。
【請求項7】
前記下地層に、チオール基を有する化合物、並びにアミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリルアミドから選択される化合物が含有されていることを特徴とする請求項6に記載の透明電極の製造方法。
【請求項8】
前記チオール基を有する化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物と、1価若しくは多価のアルコール、又はアミンとの縮合物であることを特徴とする請求項7に記載の透明電極の製造方法。
【化1】
(一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表すが、その少なくとも一方は炭素数1〜10のアルキル基である。mは0〜2の整数であり、nは0又は1である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極の製造方法に関し、より詳しくは、導電性に優れ、かつ、有機電子デバイスに適用した際に整流特性に優れる透明電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセン素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)や有機太陽電池といった有機電子デバイスには、大型化、軽量化、フレキシブル化等が要求されている。特に、大型な有機電子デバイスには、高い発光効率や発電効率が求められるとともに、電気抵抗の低い透明電極が求められている。
【0003】
透明電極の電気抵抗を小さくする手段として、透明電極に金属ナノインクを焼成した金属細線を用いることが知られている。
ところで、有機電子デバイスの軽量化及びフレキシブル性の観点から、基板にはポリエチレンテレフタレート(PET)などのフィルム基板が用いられているが、金属ナノインクのみを加熱焼成するフラッシュ焼成を採用することで、フィルム基板へのダメージを少なくすることができる(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
金属細線を用いた透明電極では、金属細線を透明導電層で被覆することにより、面電極として機能する透明電極を形成できる。これにより有機電子デバイスに用いた際には均一な面発光が可能となる。また、金属細線の凹凸を透明導電層で埋めることにより、有機電子デバイスに用いた際に、整流特性に優れ、有機電子デバイスにリークを生じない透明電極を作製できる。特に、有機電子デバイスの透明性や透明電極の生産性の観点から、透明導電層には薄膜化が求められている。
【0005】
しかしながら、金属細線を用いた透明電極における透明導電層の薄膜化は、透明電極を有機電子デバイスに用いた際に整流特性の悪化を伴うといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−038749号公報
【特許文献2】特許第5408878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、導電性に優れ、かつ、有機電子デバイスに適用した際に整流特性に優れる透明電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、酸素含有物質の濃度を特定範囲内とする雰囲気下で金属ナノ粒子含有組成物をフラッシュ焼成し、金属細線を形成することにより、導電性に優れ、かつ、有機電子デバイスに適用した際に整流特性に優れる透明電極の製造方法を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.透明樹脂基板上に、パターン状に形成された金属細線と、当該金属細線上に形成された透明導電層とを有する透明電極の製造方法であって、
金属ナノ粒子含有組成物をパターン状に印刷する工程と、
パターン状に印刷した前記金属ナノ粒子含有組成物を乾燥する工程と、
乾燥させた前記金属ナノ粒子含有組成物にフラッシュ光を照射して焼成し、金属細線を形成する工程と、
前記金属細線上に、厚さ30〜300nmの範囲内の透明導電層を形成する工程と、
を有し、
前記金属細線を形成する工程では、酸素含有物質の濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で前記金属ナノ粒子含有組成物を焼成し、前記金属細線を形成することを特徴とする透明電極の製造方法。
【0011】
2.前記金属細線を形成する工程では、酸素(O)濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で前記金属ナノ粒子含有組成物を焼成し、前記金属細線を形成することを特徴とする第1項に記載の透明電極の製造方法。
【0012】
3.前記金属ナノ粒子含有組成物を乾燥する工程では、酸素(O)濃度を50〜5000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で乾燥することを特徴とする第1項又は第2項に記載の透明電極の製造方法。
【0013】
4.前記透明導電層の厚さが、50〜150nmの範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の透明電極の製造方法。
【0014】
5.前記透明導電層に、金属酸化物が含有されていることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の透明電極の製造方法。
【0015】
6.前記透明樹脂基板と前記金属細線との間に、下地層を形成することを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の透明電極の製造方法。
【0016】
7.前記下地層に、チオール基を有する化合物、並びにアミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリルアミドから選択される化合物が含有されていることを特徴とする第6項に記載の透明電極の製造方法。
【0017】
8.前記チオール基を有する化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物と、1価若しくは多価のアルコール、又はアミンとの縮合物であることを特徴とする第7項に記載の透明電極の製造方法。
【0018】
【化1】
【0019】
(一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表すが、その少なくとも一方は炭素数1〜10のアルキル基である。mは0〜2の整数であり、nは0又は1である。)
【発明の効果】
【0020】
本発明の上記手段により、導電性に優れ、かつ、有機電子デバイスに適用した際に整流特性に優れた透明電極の製造方法を提供することができる。
【0021】
本発明の効果の発現機構・作用機構については明確になっていないが、以下のように推察している。
【0022】
本発明の透明電極の製造方法は、酸素含有物質の濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で金属ナノ粒子含有組成物を焼成することを特徴とする。酸素含有物質の濃度を上記範囲内とすることにより、金属細線の急激な酸化や硫化を防止できる。その結果、透明導電層形成時の金属細線の高抵抗化を抑制でき、導電性に優れる透明電極を提供することができるものと考えられる。また、金属細線上の金属酸化物や金属硫化物の微小な結晶成長を抑制でき、金属細線の表面平滑性が向上し、有機電子デバイスに適用した際、整流特性に優れる透明電極を提供できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る透明電極の一例としての概略構成を示す断面図
図2】本発明に係る透明電極の他の一例としての概略構成を示す断面図
図3】本発明の透明電極の製造方法に適用可能な製造装置の模式図
図4】有機EL素子の一例としての概略構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の透明電極の製造方法は、金属細線を形成する工程において、酸素含有物質濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で金属ナノ粒子含有組成物を焼成し、金属細線を形成することを特徴とする。この特徴は、各請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0025】
本発明の実施態様としては、金属細線を形成する工程において、酸素(O)濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で金属ナノ粒子含有組成物を焼成し、金属細線を形成することが好ましい。
【0026】
また、整流特性を向上させる観点から、金属ナノ粒子含有組成物を乾燥する工程において、酸素(O)濃度を50〜5000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で乾燥することが好ましい。
【0027】
また、薄膜化及び整流特性を向上させる観点から、透明導電層の厚さは50〜150nmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
また、導電性及び整流特性を向上させる観点から、透明導電層に金属酸化物が含有されていることが好ましい。
【0029】
また、透明樹脂基板と金属細線及び透明導電層との密着性を向上させる観点から、当該透明樹脂基板と金属細線との間に下地層を形成することが好ましく、当該下地層に、チオール基を有する化合物、並びにアミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリルアミドから選択される化合物が含有されていることがより好ましい。
【0030】
また、透明樹脂基板と金属細線との密着性を向上させ、有機電子デバイスの性能向上の観点から、チオール基を有する化合物が上記一般式(I)で表される構造を有する化合物と、1価若しくは多価のアルコール、又はアミンとの縮合物であることが好ましい。
【0031】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「〜」は、その前後に記載される数値
を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0032】
《透明電極の構成》
本発明に係る透明電極は、少なくとも、透明樹脂基板(以下、単に基板ともいう。)上に、パターン状に形成された金属細線と、当該金属細線上に形成された透明導電層とが順次積層されて構成されている。透明導電層は、金属細線全体を被覆するように形成されていてもよい。
図1には、本発明に係る透明電極の一例としての概略断面図を示している。
図1に示すとおり、本発明に係る透明電極10は、透明樹脂基板1上に、パターン状に形成された金属細線2、当該金属細線2上に形成された透明導電層3を有している。
【0033】
本発明に係る透明電極10は、必要に応じて、その他の層が設けられていてもよい。
例えば、図2に示すとおり、透明樹脂基板1と金属細線2との間に下地層4が設けられていてもよい。
また、透明樹脂基板1と下地層4との間に、ガスバリアー層5が設けられていてもよいし、透明樹脂基板1の下地層4とは反対側の面上に、粒子含有層6が設けられていてもよい。粒子含有層6は、最も外側の層として配置されることが好ましい。
【0034】
《透明電極の製造方法》
以下、本発明の透明電極の製造方法について、透明樹脂基板上に、下地層、金属細線及び透明導電層を有する透明電極を例にとって、詳細に説明する。
【0035】
〈下地層の形成工程〉
下地層は、溶媒に樹脂とチオール基含有化合物等(詳細は後述する。)を分散させた下地層形成用分散液を調製し、この下地層形成用分散液を基板上に塗布することで形成する。
【0036】
下地層形成用分散液に用いる分散溶媒には特に制限はないが、樹脂の析出とチオール基含有化合物等の凝集が起こらない溶媒を選択することが好ましい。下地層に酸化物粒子が含有されている場合には、分散性の観点から、樹脂、チオール基含有化合物等、及び酸化物粒子を混合した液を超音波処理やビーズミル処理といった方法で分散させ、フィルター等でろ過することが、塗布乾燥後の基板上に酸化物の凝集物が発生することを防ぐことができるため好ましい。
【0037】
下地層の形成方法は、任意の適切な方法を選択することができ、例えば、塗工方法として、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷等の各種印刷方法に加えて、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法等の各種塗布法を用いることができる。
下地層を所定のパターンに形成する場合には、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法を用いることが好ましい。
【0038】
下地層は、基板上に上記塗工法を成膜した後、温風乾燥や赤外線乾燥等の公知の加熱乾燥法や、自然乾燥により乾燥して形成する。加熱乾燥を行う場合の温度は、使用する基板に応じて適宜選択することができるが、200℃以下の温度で行うことが好ましい。
また、選択する樹脂によっては、紫外線やエキシマ光等の光エネルギーによる硬化や、基板へのダメージの少ない熱硬化等の処理を行ってもよく、中でもエキシマ光により硬化することが好ましい態様である。
【0039】
また、下地層形成用分散液に用いる分散溶媒として、水等のヒドロキシ基を有する極性溶媒や、沸点が200℃以下の低沸点溶媒を選択する場合は、乾燥方法として赤外線照射による乾燥処理を行うことが好ましい。特に、波長制御赤外線ヒータ等により特定の波長領域を選択的に照射することが好ましい。特定の波長領域を選択的に用いることにより、基板の吸収領域の波長をカットすることができる。基板としてのポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)に対しては、赤外線ヒータから発せられる特定の波長の吸収が少ないため、基板に対する熱ダメージが少ない。特に光源のフィラメント温度が1600〜3000℃の範囲内にある赤外線ヒータを用いることが好ましい。ヒドロキシ基が赤外線ヒータから発せられる特定の波長に吸収を持つため、溶媒の乾燥が可能となる。
【0040】
ヒドロキシ基を有する極性溶媒としては、水(蒸留水、脱イオン水などの純水が好ましい)の他、メタノールやエタノール等のアルコール系溶媒、グリコール類、グリコールエーテル類、水とアルコールの混合溶媒等が挙げられる。
グリコールエーテル類系有機溶媒としては、具体的には、例えば、エチルカルビトール、ブチルカルビトールなどが挙げられる。
アルコール系有機溶媒としては、具体的には、例えば、上述のメタノール、エタノールの他、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ジアセトンアルコール、ブトキシエタノールなどが挙げられる。
【0041】
〈金属ナノ粒子含有組成物の印刷工程〉
金属ナノ粒子含有組成物の印刷工程では、印刷法により金属ナノ粒子含有組成物を下地層上にパターン状に印刷(塗布)する。
【0042】
金属ナノ粒子含有組成物には、少なくとも金属ナノ粒子と溶媒とが含有されているが、分散剤、粘度調整剤、バインダー等の添加剤が含有されてもよい。金属ナノ粒子含有組成物に含有される溶媒としては特に制限はないが、中赤外線照射により効率的に溶媒を揮発できる点で、ヒドロキシ基を有する化合物が好ましく、水、アルコール、グリコールエーテルが好ましい。
【0043】
金属ナノ粒子含有組成物に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ファルネソール、デデカジエノール、リナロール、ゲラニオール、ネロール、ヘプタジエノール、テトラデセノール、ヘキサデセネオール、フィトール、オレイルアルコール、デデセノール、デセノール、ウンデシレニルアルコール、ノネノール、シトロネロール、オクテノール、ヘプテノール、メチルシクロヘキサノール、メントール、ジメチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキセノール、テルピネオール、ジヒドロカルベオール、イソプレゴール、クレゾール、トリメチルシクロヘキセノール、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘプタンジオール、プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0044】
印刷法による金属ナノ粒子含有組成物のパターン形成には、一般的に電極パターン形成に使われる方法が適用可能である。具体的な例として、グラビア印刷法については特開2009−295980号公報、特開2009−259826号公報、特開2009−96189号公報、特開2009−90662号公報等に記載の方法が、フレキソ印刷法については特開2004−268319号公報、特開2003−168560号公報等に記載の方法が、スクリーン印刷法については特開2010−34161号公報、特開2010−10245号公報、特開2009−302345号公報等に記載の方法が、インクジェット印刷法については特開2011−180562号公報、特開2000−127410号公報、特開平8−238774号公報等に記載の方法が例として挙げられる。
【0045】
〈金属ナノ粒子含有組成物の乾燥工程〉
次に、下地層上に塗布された金属ナノ粒子含有組成物の乾燥処理を行う。乾燥処理は、公知の乾燥法を用いて行うことができる。乾燥法としては、例えば、空冷乾燥、温風等を用いた対流伝熱乾燥、赤外線等を用いた輻射電熱乾燥、ホットプレート等を用いた伝導伝熱乾燥、真空乾燥、マイクロ波を用いた内部発熱乾燥、IPA蒸気乾燥、マランゴニ乾燥、ロタゴニ乾燥、凍結乾燥等を用いることができる。
【0046】
乾燥処理は、酸素(O)濃度を50〜5000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で行うことが好ましい。酸素(O)濃度を当該範囲内として乾燥処理を行うことにより、予備的に、パターン状に印刷された金属ナノ粒子含有組成物表面に金属ナノ粒子含有組成物材料由来の金属酸化物を形成することができる。
上記雰囲気の調整には、乾燥不活性ガス、特にコストの観点から乾燥窒素ガスを用いることが好ましい。酸素濃度の調整は、室内に導入する酸素及び不活性ガスの流量比を調整することにより、行うことができる。
【0047】
加熱乾燥では、50〜200℃の温度範囲で、基板の変形がない温度で行うことが好ましい。基板の表面温度が、50〜150℃となる条件で加熱することがより好ましい。基板にPET基板を用いる場合は、100℃以下の温度範囲で加熱することが特に好ましい。乾燥時間は温度や使用する金属ナノ粒子の大きさにもよるが、10秒〜30分の範囲内であることが好ましく、生産性の観点から、10秒〜15分の範囲内であることがより好ましく、10秒〜5分の範囲内であることが特に好ましい。
【0048】
乾燥処理においては、赤外線照射による乾燥処理を行うことが好ましい。特に、波長制御赤外線ヒータ等により特定の波長領域を選択的に照射することが好ましい。特定の波長領域を選択的に用いることにより、基板の吸収領域のカットや、金属ナノ粒子含有組成物の溶媒に有効な特定の波長を選択的に照射することができる。特に光源のフィラメント温度が1600〜3000℃の範囲内にある赤外線ヒータを用いることが好ましい。
また、波長制御赤外線ヒータと上記酸素濃度を組み合わせて乾燥処理を行うことが、導電性及び整流特性の観点から、より好ましい。
【0049】
〈金属細線の形成工程(金属ナノ粒子含有組成物の焼成)〉
次に、乾燥させた金属ナノ粒子含有組成物の焼成処理を行い、金属細線を形成する。金属ナノ粒子含有組成物の焼成は、フラッシュランプを用いた光(フラッシュ光)を照射(フラッシュ焼成)することにより行う。これにより、透明電極の導電性を向上させることができる。
金属ナノ粒子含有組成物の焼成は、酸素含有物質の濃度が50〜2000体積ppmの範囲内である雰囲気下で行う。酸素含有物質の濃度が50体積ppmより小さいと、金属細線表面がほぼ金属酸化物で覆われていない状態になると推測され、そのため、透明導電層の形成により、急激に金属細線に酸化や硫化が起こり、金属細線の導電性が悪化してしまう。酸素含有物質の濃度が2000体積ppmより大きいと、金属ナノ粒子含有組成物表面に生じる金属酸化物の結晶成長を十分に抑制することができず、整流特性が低下してしまう。
上記雰囲気の調整には、乾燥不活性ガス、特にコストの観点から乾燥窒素ガスを用いることが好ましい。酸素含有物質の濃度の調整は、室内に導入する酸素含有物質及び不活性ガスの流量比を調整することにより、行うことができる。
【0050】
酸素含有物質としては、酸素(O)、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化窒素(NO)、五酸化二窒素(N)等が挙げられる。
また、2種類以上の酸素含有物質が含まれていてもよく、この場合、系内に含まれる酸素含有物質の濃度が、全体として、50〜2000体積ppmの範囲内となっていればよい。
金属ナノ粒子含有組成物の焼成は、酸素(O)濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で行うことが好ましい。
【0051】
フラッシュ焼成で用いられるフラッシュランプの放電管としては、キセノン、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の放電管を用いることができるが、キセノンランプを用いることが好ましい。
【0052】
フラッシュランプの好ましいスペクトル帯域としては、240〜2000nmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、フラッシュ焼成による基板の熱変形等のダメージが少ない。
【0053】
フラッシュランプの光照射条件は任意であるが、光照射エネルギーの総計が0.1〜50J/cmの範囲内であることが好ましく、0.5〜10J/cmの範囲内であることがより好ましい。光照射時間は、10μ秒〜100m秒の範囲内が好ましく、100μ秒〜10m秒の範囲内がより好ましい。また、光照射回数は1回でも複数回でもよく、1〜50回の範囲内で行うのが好ましい。これらの好ましい条件範囲でフラッシュ光照射を行うことにより、基板にダメージを与えることなく金属細線を形成できる。
【0054】
基板に対するフラッシュランプ照射は、基板の金属ナノ粒子含有組成物のパターンが形成されている側から行うことが好ましい。基板が透明な場合には、基板側から照射してもよく、基板の両面から照射してもよい。
【0055】
また、フラッシュ焼成の際の基板の表面温度は、基板の耐熱温度や、金属ナノ粒子含有組成物に含まれる溶媒の分散媒の沸点(蒸気圧)、雰囲気ガスの種類や圧力、金属ナノ粒子含有組成物の分散性や酸化性等の熱的挙動などを考慮して決定すればよく、室温(25℃)以上200℃以下で行うことが好ましい。
【0056】
フラッシュランプの光照射装置は上記の照射エネルギー、照射時間を満足するものであればよい。また、フラッシュ焼成は、上記の酸素含有物質の濃度の範囲内にある雰囲気下であれば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中で行うこともできる。
【0057】
〈透明導電層の形成工程〉
本発明に係る透明導電層は、後述するように、金属酸化物層又は有機導電層として構成される。
以下、透明導電層が、金属酸化物層である場合と、有機導電層である場合とに分けて説明する。
【0058】
(1)金属酸化物層の形成
金属酸化物層は、従来の金属酸化物層を成膜する場合と同様にして、各種のスパッタリング法やイオンプレーティング法等によって成膜することができる。
【0059】
スパッタリング法としては、例えば、DCスパッタリング、RFスパッタリング、DCマグネトロンスパッタリング、RFマグネトロンスパッタリング、ECRプラズマスパッタリング、イオンビームスパッタリング等が挙げられる。
また、スパッタリング法では、下記に示すような様々な条件を検討することで、IZOのように組成は同じでも、導電性とガスバリアー性を調節することが可能である。
【0060】
例えば、金属酸化物層は、スパッタリングの際のターゲット基板間距離を50〜100mmの範囲内とし、スパッタリングガス圧を0.5〜1.5Paの範囲内として、直流マグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。
【0061】
ターゲット基板間距離については、ターゲット基板間距離が50mmよりも短くなると、堆積するスパッタ粒子の運動エネルギーが大きくなるため、基板の受けるダメージが大きくなってしまう。また、膜厚も不均一となり膜厚分布が悪くなる。ターゲット基板間距離が100mmより長いと、膜厚分布はよくなるが、堆積するスパッタ粒子の運動エネルギーが低くなりすぎ、拡散による緻密化が起きにくく、金属酸化物層の密度が低くなるため好ましくない。
【0062】
スパッタリングガス圧については、スパッタリングガス圧が0.5Paより低いと堆積するスパッタ粒子の運動エネルギーが大きくなるため、基板の受けるダメージが大きくなってしまう。スパッタリングガス圧が1.5Paより高いと、成膜速度が遅くなるだけでなく、堆積するスパッタ粒子の運動エネルギーが低くなりすぎて、拡散による緻密化が起きず、金属酸化物層の密度が低くなるため好ましくない。
【0063】
(2)有機導電層の形成
有機導電層の形成方法としては、少なくとも導電性高分子と樹脂とからなる混合液を、金属細線上に塗布、乾燥することで形成することが好ましい。
塗布液中の固形分濃度は、0.5〜30質量%の範囲内であることが好ましく、1〜20質量%の範囲内であることが、液の停滞安定性、塗布膜の平滑性や、リーク防止効果の発現の視点で、より好ましい。
【0064】
塗布法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法等を用いることができる。
【0065】
次いで、塗布した塗布液に対し、適宜乾燥処理を施す。乾燥処理の条件として特に制限はないが、基板等が損傷しない範囲内の温度で乾燥処理することが好ましい。例えば、80〜150℃で、10秒〜30分の乾燥処理をすることができる。
また、上記した下地層の乾燥方法や金属ナノ粒子含有組成物の乾燥方法に記載の方法も好適に用いることができ、特に波長制御赤外線ヒータで乾燥処理することが好ましい。
【0066】
また、濡れ性の観点から、透明導電層は表面処理を施してもよく、表面処理については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。
【0067】
《透明電極の製造装置》
透明電極の製造装置としては、枚葉式、ロールtoロール方式が挙げられるが、生産性の観点から、ロールtoロール方式で製造することが好ましい。
以下、上記にて説明した透明電極の製造方法に適用可能な製造装置として、ロールtoロール方式を採用した製造装置について説明するが、これに特に限定されるものではない。
【0068】
図3に示す製造装置100は、送出しローラー20、第1成膜室30、第2成膜室40、第3成膜室50及び巻取りローラー60を備えて構成され、透明樹脂基板1は、この順に送出しローラー20から巻取りローラー60まで搬送される。
【0069】
第1成膜室30では、送出しローラー20から搬入された透明樹脂基板1上に下地層を形成する。第1成膜室は、上流側から下流側に向かって、塗布部31、乾燥部32、硬化部33を有している。塗布部31にて下地層形成用塗布液を透明樹脂基板1上に塗布し、乾燥部32及び硬化部33にて下地層形成用塗布液を乾燥・硬化することにより、下地層を形成する。硬化部33では、エキシマ光により硬化することが好ましい態様である。
【0070】
塗布部31と乾燥部32と硬化部33との間には、適宜隔壁を設けてもよい。
【0071】
次いで、第2成膜室40で下地層上に金属細線を形成する。第2成膜室40は、上流側から下流側に向かって、印刷部41、乾燥部42、焼成部43を有している。印刷部41にて下地層上に、金属ナノ粒子含有組成物をパターン状に印刷する。このパターン状に印刷した金属ナノ粒子含有組成物を乾燥部42にて乾燥する。この際、酸素(O)濃度を50〜5000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で乾燥することが好ましい。最後に、焼成部42にて乾燥した金属ナノ粒子含有組成物にフラッシュ光を照射し焼成することにより、金属細線を形成する。上述したように、金属ナノ粒子含有組成物の焼成は、酸素含有物質の濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で実施する。
【0072】
印刷部41と乾燥部42と焼成部43との間には、適宜隔壁や圧力調整室等を設けてもよく、特に、乾燥部42と焼成部43とで異なる酸素(あるいは酸素含有物質)濃度で乾燥、焼成を行う場合には、少なくとも乾燥部42と焼成部43との間に隔壁等を設けることが好ましい。
【0073】
次いで、第3成膜室50にて透明導電層を形成する。第3成膜室50は、少なくとも成膜部51を有しており、透明導電層が金属酸化物層である場合には、成膜部51にて金属細線上にスパッタリング法等により透明導電層を形成し、有機導電層である場合には、成膜部51にて金属細線上に塗布法により透明導電層を形成し、続けて乾燥部(図示略)にて塗布液を乾燥する。
【0074】
以上の工程を経た透明樹脂基板1は、巻取りローラー60に巻き取られ、透明樹脂基板1上に透明導電層まで形成された透明電極が作製される。
【0075】
《透明電極の構成層》
以下、本発明に係る透明電極を構成する各部材について説明する。
【0076】
〈金属細線(2)〉
本発明に係る金属細線は、金属を主成分とし、導電性を得ることができる程度の金属の含有比率で形成されている。金属細線中の金属の比率は、好ましくは50質量%以上である。
【0077】
金属細線は、金属材料を含有し、下地層上に開口部を有するようにパターン状に形成されている。開口部とは、金属細線を有さない部分であり、透明電極の透光性部分である。
【0078】
金属細線のパターン形状には特に制限はない。金属細線のパターン形状としては、例えば、ストライプ状(平行線状)、格子状、ハニカム状、ランダムな網目状等が挙げられるが、透明性の観点から、特にストライプ状であることが好ましい。
【0079】
また、開口部が占める割合(開口率)は、透明性の観点から80%以上であることが好ましい。例えば、線幅100μm、線間隔1mmのストライプ状パターンの開口率は、およそ90%である。
【0080】
金属細線の線幅は、好ましくは10〜200μmの範囲内であり、更に好ましくは10〜100μmの範囲内である。金属細線の線幅が10μm以上で所望の導電性が得られ、また、200μm以下とすることで透明電極の透明性が向上する。また、ストライプ状、格子状のパターンにおいては、金属細線の間隔は、0.5〜4mmの範囲内であることが好ましい。
【0081】
金属細線の高さ(厚さ)は、0.1〜5.0μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜2.0μmの範囲内であることがより好ましい。金属細線の高さが0.1μm以上で所望の導電性が得られ、また、5.0μm以下とすることで有機電子デバイスに用いる場合に、その凹凸差が機能層の層厚分布に与える影響を軽減できる。
【0082】
(1)金属ナノ粒子含有組成物
金属細線は、上述したように、金属又は金属の形成材料が配合された金属ナノ粒子含有組成物を調製し、塗布した後、乾燥処理や焼成処理等の後処理を適宜行い、形成する。
金属ナノ粒子に使用される金属としては、例えば、金、銀、銅及び白金等の金属あるいは、これらを主成分とした合金等が挙げられる。これらの中でも、光の反射率が優れ、得られる有機電子デバイスの効率をより一層向上できる観点から、金及び銀が好ましい。これらの金属又は合金は、いずれか1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0083】
金属ナノ粒子含有組成物としては、金属ナノ粒子の表面を保護剤で被覆し、溶媒に安定して独立分散させた構成の金属コロイドや金属ナノ粒子分散液であることが好ましい。
【0084】
金属ナノ粒子含有組成物における金属ナノ粒子の平均粒径としては、原子スケールから1000nm以下のものが好ましく適用できる。特に、金属ナノ粒子は、平均粒径が3〜300nmの範囲内であるものが好ましく、5〜100nmの範囲内であるものがより好ましく用いられる。特に、平均粒径3〜100nmの範囲内の銀ナノ粒子が好ましい。
【0085】
ここで、金属ナノ粒子及び金属コロイドの平均粒子径は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、上記分散体中の金属ナノ粒子の粒子径を測定して求めることができる。例えば、TEMの画像で観察される粒子のうち、重なっていない独立した300個の金属ナノ粒子の粒子径を計測して、平均粒子径を算出することができる。
【0086】
金属コロイドにおいて、金属ナノ粒子の表面を被覆する保護剤としては、有機π接合配位子が好ましい。金属ナノ粒子に有機π共役系配位子がπ接合することにより、金属コロイドに導電性が付与される。
【0087】
上記有機π接合配位子としては、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体及びポルフィリン誘導体からなる群から選ばれる一種又は二種以上の化合物が好ましい。
また、上記有機π接合配位子としては、金属ナノ粒子への配位や、分散媒中での分散性を向上させるために、置換基としてアミノ基、アルキルアミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ホスフィン基、ホスフォン酸基、スルフォン酸基、ハロゲン基、セレノール基、スルフィド基、セレノエーテル基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、及び、これらの塩から選ばれる少なくとも1種の置換基を有することが好ましい。
【0088】
また、有機π接合配位子として、国際公開第2011/114713号に記載の有機π共役系配位子を用いることができる。
【0089】
上記有機π接合配位子の具体的な化合物としては、下記のOTAN、OTAP及びOCANから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
OTAN:2,3,11,12,20,21,29,30−オクタキス[(2−N,N−ジメチルアミノエチル)チオ]ナフタロシアニン
OTAP:2,3,9,10,16,17,23,24−オクタキス[(2−N,N−ジメチルアミノエチル)チオ]フタロシアニン
OCAN:2,3,11,12,20,21,29,30−ナフタロシアニンオクタカルボン酸
【0090】
有機π接合配位子を含有する金属ナノ粒子分散液の調製方法としては、液相還元法が挙げられる。また、本実施形態の有機π接合配位子の製造及び有機π接合配位子を含有する金属ナノ粒子分散液の調製は、国際公開第2011/114713号の段落0039〜0060に記載の方法に準じて行うことができる。
【0091】
金属コロイドの平均粒子径は、通常は3〜500nmの範囲内であり、好ましくは5〜50nmの範囲内である。金属コロイドの平均粒子径が上記範囲内であると、粒子間の融着が起こりやすくなり、得られる金属細線の導電性を向上させることができる。
【0092】
金属ナノ粒子分散液において、金属ナノ粒子の表面を被覆する保護剤としては、200℃以下の低い温度にて配位子がはずれる保護剤を用いることが好ましい。これにより、低温又は低エネルギーにより、保護剤がはずれ、金属ナノ粒子の融着がおき、導電性を付与できる。
具体的には、特開2013−142173号公報、特開2012−162767号公報、特開2014−139343号公報、特許第5606439号公報などに記載の金属ナノ粒子分散液が例として挙げられる。
【0093】
金属の形成材料としては、例えば、金属塩、金属錯体、有機金属化合物(金属−炭素結合を有する化合物)等を挙げることができる。金属塩及び金属錯体は、有機基を有する金属化合物及び有機基を有しない金属化合物のいずれでもよい。金属ナノ粒子含有組成物に金属の形成材料を用いることで、材料から金属が生じ、この金属を含む金属細線が形成される。
【0094】
金属銀の形成材料としては、「AgX」で表される銀化合物と、アンモニウムカルバメート系化合物とを反応させて作製された有機銀錯体を用いることが好ましい。「AgX」において、nは1〜4の整数であり、Xは酸素、硫黄、ハロゲン、シアノ、シアネート、カーボネート、ニトレート、ニトライト、サルフェート、ホスフェート、チオシアネート、クロレート、パークロレート、テトラフルオロボレート、アセチルアセトネート、及び、カルボキシレートで構成された群から選択される置換基である。
【0095】
上記銀化合物としては、例えば、酸化銀、チオシアネート化銀、シアン化銀、シアネート化銀、炭酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、燐酸銀、過塩素酸銀、四フッ素ボレート化銀、アセチルアセトネート化銀、酢酸銀、乳酸銀、シュウ酸銀等を挙げることができる。銀化合物としては、酸化銀や炭酸銀を使用することが反応性や後処理面で好ましい。
【0096】
アンモニウムカルバメート系化合物としては、例えば、アンモニウムカルバメート、エチルアンモニウムエチルカルバメート、イソプロピルアンモニウムイソプロピルカルバメート、n−ブチルアンモニウムn−ブチルカルバメート、イソブチルアンモニウムイソブチルカルバメート、t−ブチルアンモニウムt−ブチルカルバメート、2−エチルヘキシルアンモニウム2−エチルヘキシルカルバメート、オクタデシルアンモニウムオクタデシルカルバメート、2−メトキシエチルアンモニウム2−メトキシエチルカルバメート、2−シアノエチルアンモニウム2−シアノエチルカルバメート、ジブチルアンモニウムジブチルカルバメート、ジオクタデシルアンモニウムジオクタデシルカルバメート、メチルデシルアンモニウムメチルデシルカルバメート、ヘキサメチレンイミニウムヘキサメチレンイミンカルバメート、モルホリウムモルホリンカルバメート、ピリジニュムエチルヘキシルカルバメート、トリエチレンジアミニウムイソプロピルバイカルバメート、ベンジルアンモニウムベンジルカルバメート、トリエトキシシリルプロピルアンモニウムトリエトキシシリルプロピルカルバメート等を挙げることができる。上記アンモニウムカルバメート系化合物のうち、1次アミン置換されたアルキルアンモニウムアルキルカルバメートは、反応性及び安定性面で2次又は3次アミンより優れるため好ましい。
【0097】
上記有機銀錯体は、特開2011−48795号公報に記載の方法により作製することができる。例えば、上記銀化合物の1種以上と、上記アンモニウムカルバメート系化合物の1種以上とを、窒素雰囲気の常圧又は加圧状態で、溶媒を使用せずに直接反応させることで合成できる。また、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール類、エチレングリコール、グリセリンのようなグリコール類、エチルアセテート、ブチルアセテート、カルビトールアセテートのようなアセテート類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、メチルエチルケトン、アセトンのようなケトン類、ヘキサン、ヘプタンのような炭化水素系、ベンゼン、トルエンのような芳香族、そしてクロロホルムやメチレンクロライド、カーボンテトラクロライドのようなハロゲン置換溶媒等の溶媒を使用して反応させることができる。
【0098】
有機銀錯体の構造は「Ag[A]」で表すことができる。なお、「Ag[A]」において、Aは上記アンモニウムカルバメート系化合物であり、mは0.7〜2.5である。
【0099】
上記有機銀錯体は、メタノールのようなアルコール類、エチルアセテートのようなエステル類、テトラヒドロフランのようなエーテル類溶媒など、有機銀錯体を製造する溶媒を含む多様な溶媒によく溶ける。このため、有機銀錯体は、金属ナノ粒子含有組成物として、塗布やプリンティング工程に容易に適用可能である。
【0100】
また、金属銀の形成材料としては、式「−COOAg」で表される基を有するカルボン酸銀が例示できる。カルボン酸銀は、式「−COOAg」で表される基を有していれば特に限定されない。例えば、式「−COOAg」で表される基の数は1個のみでもよいし、2個以上でもよい。また、カルボン酸銀中の式「−COOAg」で表される基の位置も特に限定されない。
【0101】
カルボン酸銀としては、特開2015−66695号公報に記載のβ−ケトカルボン酸銀、及び、カルボン酸銀(4)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。なお、金属銀の形成材料としては、β−ケトカルボン酸銀及びカルボン酸銀(4)だけではなく、これらを包括する、式「−COOAg」で表される基を有するカルボン酸銀を用いることができる。
【0102】
また、金属ナノ粒子含有組成物に金属の形成材料として上記カルボン酸銀を含む場合、カルボン酸銀とともに、炭素数25以下のアミン化合物及び第4級アンモニウム塩、アンモニア、並びにアミン化合物又はアンモニアが酸と反応してなるアンモニウム塩からなる群から選択される1種以上の含窒素化合物が配合されていることが好ましい。
【0103】
アミン化合物としては、炭素数が1〜25であり、第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンのいずれでもよい。また、第4級アンモニウム塩は、炭素数が4〜25である。アミン化合物及び第4級アンモニウム塩は、鎖状及び環状のいずれでもよい。また、アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子(例えば、第1級アミンのアミノ基「−NH」を構成する窒素原子)の数は1個でもよいし、2個以上でもよい。
【0104】
〈透明導電層(3)〉
本発明に係る透明導電層は、金属細線上に設けられており、金属細線表面全体を覆うようにして設けられていることが好ましい態様である。
透明導電層は、金属酸化物層又は有機導電層として構成される。
【0105】
本発明に係る透明導電層の厚さは、30〜300nmの範囲内である。本発明の製造方法により製造された透明電極は、透明導電層の厚さが上記範囲内であっても、十分に導電性を発揮することができる。透明導電層の厚さは、50〜150nmの範囲内であることがより好ましい。
【0106】
金属酸化物層及び有機導電層は、体積抵抗率が1×10−5〜1×10−2Ω・cmの範囲内である導電性の高い金属酸化物を用いて形成されることが好ましい。体積抵抗率は、JIS K 7194:1994の導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法に準拠して測定されたシート抵抗と、膜厚を測定して求めることができる。膜厚は、接触式表面形状測定器(例えばDECTAK)や光干渉表面形状測定器(例えばWYKO)を用いて測定できる。
また、金属酸化物層及び有機導電層は、導電性を担保する役割を有する観点から、シート抵抗が10000Ω/sq.以下であることが好ましく、2000Ω/sq.以下であることがより好ましい。
【0107】
(1)金属酸化物層
金属酸化物層に使用できる金属酸化物としては、透明性及び導電性に優れる材料であれば、特に限定されない。金属酸化物層に使用できる金属酸化物としては、例えば、ITO(スズドープ酸化インジウム)、IZO(酸化インジウム・酸化亜鉛)、IGO(ガリウムドープ酸化インジウム)、IWZO(酸化インジウム・酸化スズ)、ZnO(酸化亜鉛)、GZO(Gaドープ酸化亜鉛)、IGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物)等が挙げられる。
【0108】
特に、金属酸化物層に使用できる金属酸化物としては、IZO、IGO、IWZOが好ましい。中でも、IZOとしては、質量比In:ZnO=80〜95:20〜5で表される組成が好ましい。IGOとしては、質量比In:Ga=70〜95:30〜5で表される組成が好ましい。IWZOとしては、質量比In:WO:ZnO=95〜99.8:2.5〜0.1:2.5〜0.1で表される組成が好ましい。
【0109】
なお、透明電極において、金属酸化物層は複数設けられていてもよい。
【0110】
(2)有機導電層
有機導電層は、主に、導電性高分子とバインダーとから構成される。導電性高分子及びバインダーとしては、特許第5750908号公報及び特許第5782855号公報に記載の化合物を使用することができる。その他、有機導電層を形成する有機導電組成物の調製(方法)、有機導電層の形成(方法)等は、特許第5750908号公報及び特許第5782855号公報に記載の方法に準じて実施することができる。
【0111】
〈下地層(4)〉
本発明に係る下地層は、金属細線や透明導電層を形成するための下地となる層であり、基板と金属細線及び透明導電層との密着性を向上させるものである。
下地層には、チオール基を有する化合物、並びにアミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリルアミドから選択される化合物が含有されていることが好ましく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0112】
また、下地層には、上記化合物に加えて、無機粒子を含んでいてもよく、特に酸化物粒子を含んで形成されることが好ましい。下地層が酸化物粒子を含むことにより、金属細線や透明導電層との密着性が向上する。
【0113】
また、下地層には、金属細線や透明導電層との密着性向上以外の機能を付与することもできる。密着性以外の機能としては、光取出し機能を有することが好ましい。下地層に光取出し機能を付与するためには、下地層を構成する樹脂とともに、樹脂よりも屈折率の高い酸化物粒子を含むことが好ましい。この樹脂よりも屈折率の高い酸化物粒子が下地層内で光散乱粒子として機能することにより、下地層での光散乱が発生し、下地層に光取出し機能が付与される。
【0114】
下地層の厚さは、10〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜100nmの範囲内である。下地層の厚さが10nm以上であると、下地層自体が連続膜となり表面が平滑になり、有機電子デバイスへの影響が小さい。一方、下地層の厚さが1000nm以下であると、下地層に起因する透明電極の透明性の低下や下地層に由来する吸着ガスを減らすことができ、金属細線の抵抗悪化を抑制することができる。また、下地層の厚さが1000nm以下であれば、透明電極を屈曲した際の下地層の破損を抑制することができる。
【0115】
下地層の透明性は、用途によって任意に選択することができるが、透明性が高いほど透明電極への適用が良好となり、用途拡大の観点で好ましい。下地層の全光線透過率としては、少なくとも40%以上、好ましくは50%以上である。全光線透過率は、分光光度計等を用いた公知の方法に従って測定することができる。
【0116】
(チオール基を有する化合物)
チオール基(メルカプト基ともいう。)を有する化合物(以下、チオール基含有化合物ともいう。)としては、本発明の効果を阻害しない範囲において、特に限定されない。
本発明に係るチオール基含有化合物は、チオール基を2個以上有する多官能チオール基含有化合物であることが好ましい。これにより、より金属材料を含む金属細線との密着性を図ることができる。
【0117】
また、チオール基含有化合物としては、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物と、1価若しくは多価のアルコール、又はアミンとの縮合物であることが好ましい。
【0118】
【化2】
【0119】
一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表すが、その少なくとも一方は炭素数1〜10のアルキル基である。mは0〜2の整数であり、nは0又は1である。
【0120】
及びRにおける炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0121】
mは0〜2の整数であるが、好ましくは0又は1である。
nは0又は1であるが、好ましくは0である。
【0122】
上記一般式(I)で表される構造を有する化合物としては、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプト酪酸、2−メルカプトイソ酪酸、3−メルカプトイソ酪酸等が挙げられる。
【0123】
1価のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、2−メチル−2−ヘプタノール、2−メチル−3−ヘプタノール等が挙げられる。
【0124】
多価のアルコールとしては、グリコール類(ただし、アルキルレン基の炭素数は2〜10が好ましく、その炭素鎖は枝分かれしていてもよい。)、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
中でも、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールが好ましい。
【0125】
上記一般式(I)で表される構造を有する化合物と縮合するアルコールとしては、多官能チオール基含有化合物が得られることから、多価のアルコールが好ましい。
【0126】
アミンとしては、特に制限されるものではなく、また、第1〜3級アミンのいずれでもよいが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0127】
以下に、本発明に係る下地層に適用可能なチオール基含有化合物の具体例として、例示化合物SH−1〜SH−155、SE−1〜SE−84及びSA−1〜SA−34を示す。
【0128】
【化3】
【0129】
【化4】
【0130】
【化5】
【0131】
【化6】
【0132】
【化7】
【0133】
【化8】
【0134】
【化9】
【0135】
【化10】
【0136】
【化11】
【0137】
【化12】
【0138】
【化13】
【0139】
【化14】
【0140】
【化15】
【0141】
【化16】
【0142】
【化17】
【0143】
【化18】
【0144】
その他、チオール基含有化合物として、特許第4911666号公報及び特許第4917294号公報に記載されている化合物も好適に用いることができる。
【0145】
上記例示化合物SH−1〜SH−155、SE−1〜SE−84及びSA−1〜SA−34は、公知の方法により合成することができる。
【0146】
また、チオール基含有化合物としては、チオール基を有するシルセスキオキサン誘導体(以下、単にシルセスキオキサン誘導体ともいう。)を用いることも可能である。
シルセスキオキサン誘導体としては、特に制限されないが、下記一般式(A)で表されるかご型シロキサン構造を有する化合物であることが好ましい。
【0147】
【化19】
【0148】
一般式(A)中、Xは、下記X又はXを表すが、Xの少なくとも一つはXである。
【0149】
【化20】
【0150】
及びX中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基又は芳香族炭化水素環基を表す。Aは、炭素数1〜8の2価の炭化水素基を表す。
【0151】
及びXにおけるR〜Rで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。
【0152】
及びXにおけるR〜Rで表される芳香族炭化水素環基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
【0153】
におけるAで表される炭素数1〜8の2価の炭化水素基としては、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。これらの中でも、シルセスキオキサン誘導体の合成が容易な点で、−CHCH−、−CHCHCH−等の炭素数2又は3の直鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0154】
また、市販のシルセスキオキサン誘導体としては、荒川化学社製のコンポセラン(登録商標)SQ100シリーズ等も使用することができる。
【0155】
その他、本発明に適用可能なチオール基を有するシルセスキオキサン誘導体やその合成方法として、特開2015−59108号公報、特開2012−180464号公報等を参照することができる。
【0156】
(アミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリルアミド)
アミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリルアミドとしては、本発明の効果を阻害しない範囲において特に限定されないが、下記一般式(II)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0157】
【化21】
【0158】
一般式(II)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Qは、−C(=O)O−又は−C(=O)NRa−を表す。Raは、水素原子又はアルキル基を表す。Aは置換若しくは無置換のアルキレン基、又は−(CHCHRbNH)−CHCHRb−を表し、Rbは水素原子又はアルキル基を示し、xは平均繰り返しユニット数を表し、かつ、正の整数である。
【0159】
Raにおけるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜5の直鎖あるいは分岐アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。
【0160】
また、これらのアルキル基は、置換基で置換されていてもよい。これら置換基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基等で置換されてもよい。これらのうち好ましくは、ヒドロキシ基、アルキルオキシ基である。
【0161】
上記置換基としてのアルキル基は、分岐していてもよく、炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることが更に好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
上記シクロアルキル基の炭素数は、3〜20であることが好ましく、3〜12であることがより好ましく、3〜8であることが更に好ましい。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
上記アリール基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
上記へテロシクロアルキル基の炭素数は、2〜10であることが好ましく、3〜5であることが更に好ましい。へテロシクロアルキル基としては、ピペリジノ基、ジオキサニル基、2−モルホリニル基等が挙げられる。
上記へテロアリール基の炭素数は、3〜20であることが好ましく、3〜10であることが更に好ましい。へテロアリール基としては、チエニル基、ピリジル基が挙げられる。
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
上記アルコキシ基は、分岐していてもよく、炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることが更に好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられ、好ましくはエトキシ基である。
上記アルキルチオ基は、分岐していてもよく、炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることが更に好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。
上記アリールチオ基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
上記シクロアルコキシ基の炭素数は、3〜12であることが好ましく、より好ましくは3〜8である。シクロアルコキシ基としては、シクロプロポキシ基、シクロブチロキシ基、シクロペンチロキシ基、シクロヘキシロキシ基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。
上記アシル基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
上記アルキルカルボンアミド基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アルキルカルボンアミド基としては、アセトアミド基等が挙げられる。
上記アリールカルボンアミド基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アリールカルボンアミド基としては、ベンズアミド基等が挙げられる。
上記アルキルスルホンアミド基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。スルホンアミド基としては、メタンスルホンアミド基等が挙げられる。
上記アリールスルホンアミド基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アリールスルホンアミド基としては、ベンゼンスルホンアミド基、p−トルエンスルホンアミド基等が挙げられる。
上記アラルキル基の炭素数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることが更に好ましい。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
上記アルコキシカルボニル基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基等が挙げられる。
上記アリールオキシカルボニル基の炭素数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることが更に好ましい。アリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル基等が挙げられる。
上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素数は、8〜20であることが好ましく、8〜12であることが更に好ましい。アラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
上記アシルオキシ基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アシルオキシ基としては、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
上記アルケニル基の炭素数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等が挙げられる。
上記アルキニル基の炭素数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることが更に好ましい。アルキニル基としては、エチニル基等が挙げられる。
上記アルキルスルホニル基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等が挙げられる。
上記アリールスルホニル基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等が挙げられる。
上記アルキルオキシスルホニル基の炭素数は、1〜20あることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アルキルオキシスルホニル基としては、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等が挙げられる。
上記アリールオキシスルホニル基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールオキシスルホニル基としては、フェノキシスルホニル基、ナフトキシスルホニル基等が挙げられる。
上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることが更に好ましい。アルキルスルホニルオキシ基としては、メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基等が挙げられる。
上記アリールスルホニルオキシ基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることが更に好ましい。アリールスルホニルオキシ基としては、フェニルスルホニルオキシ基、ナフチルスルホニルオキシ基等が挙げられる。
置換基は、同一でも異なっていてもよく、これら置換基が更に置換されてもよい。
【0162】
Aにおけるアルキレン基は、炭素数1〜5が好ましく、より好ましくはエチレン基、プロピレン基である。これらのアルキレン基は、前述した置換基で置換されていてもよい。
Rbにおけるアルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。これらのアルキル基は前述の置換基で置換されていてもよい。
【0163】
平均繰り返しユニット数xとしては、正の整数であれば特に限定されないが、1〜20の整数であることが好ましい。
【0164】
ポリ(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリルアミドの重量平均分子量(Mw)としては、10000〜500000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、30000〜200000の範囲内である。重量平均分子量(Mw)が10000以上であれば、ポリ(メタ)アクリレート及びポリ(メタ)アクリルアミドを含む下地層が硬いため、経時変化や強制劣化条件での膜厚変化や他層との界面劣化を引き起こすことなく、電気的あるいは光学的な不具合が生じることがない。また、500000以下であれば、下地層形成用塗布液への溶解性や他の化合物との相溶性が良好で、更には、低温あるいは高温環境において硬さの異なる他層との剥離の問題が生じることがない。
【0165】
(1)アミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレート
アミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレートとしては、アミノエチル基を有する、(メタ)アクリレートの重合体又は共重合体が挙げられる。
(メタ)アクリレートとしては、一つ又は二つの(メタ)アクリロイル基を有する単官能又は2官能(メタ)アクリレートや、三つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0166】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のC1−24のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等の橋架け環式(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシC2−10アルキル(メタ)アクリレート又はC2−10アルカンジオールモノ(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート等のフルオロC1−10アルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、フェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアリールオキシ(ポリ)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールモノ(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基又は置換アミノ基を有する(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0167】
2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールS等)のC2−4アルキレンオキサイド付加体のジ(メタ)アクリレート、脂肪酸変性ペンタエリスリトール等の酸変性アルカンポリオールのジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレート等の橋架け環式ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0168】
さらに、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エポキシジ(メタ)アクリレート(ビスフェノールA型エポキシジ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシジ(メタ)アクリレート等)、ポリエステルジ(メタ)アクリレート(例えば、脂肪族ポリエステル型ジ(メタ)アクリレート、芳香族ポリエステル型ジ(メタ)アクリレート等)、(ポリ)ウレタンジ(メタ)アクリレート(ポリエステル型ウレタンジ(メタ)アクリレート、ポリエーテル型ウレタンジ(メタ)アクリレート等)、シリコーン(メタ)アクリレート等のオリゴマー又は樹脂も挙げられる。
【0169】
多官能(メタ)アクリレートとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物、例えば、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。さらに、これらの多官能(メタ)アクリレートにおいて、多価アルコールは、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)の付加体であってもよい。
【0170】
これらの多官能(メタ)アクリレートのうち、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3〜6官能(メタ)アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3〜4官能(メタ)アクリレートがより好ましい。
さらに、多官能(メタ)アクリレートは、アミンで変性されていない多官能(メタ)アクリレート(マイケル付加などによりアミン類が付加していない未変性多官能(メタ)アクリレート)が好ましい。
【0171】
これらの(メタ)アクリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0172】
以下に、本発明に係る下地層に適用可能なアミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリレートの具体例として、例示化合物PE−1〜PE−9を示す。なお、下記例示化合物におけるx及びyは、共重合体の重合比率を表す。その重合比率は、溶解性、電極性能等に応じて適宜調整することができ、例えば、x:y=10:90等とすることができる。
【0173】
【化22】
【0174】
上記例示化合物PE−1〜PE−9は、公知の方法により合成することができる。より具体的には、(i)(メタ)アクリレートをアミノエチル化した後、重合又は共重合する方法、(ii)(メタ)アクリレートを重合した後、アミノエチル化する方法が挙げられる。
以下に、その一例として、例示化合物PE−7の合成方法を示す。
【0175】
[合成例]例示化合物PE−7の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を備えたガラス製反応器に、トルエン80質量部を仕込み、内温を110℃まで加熱した。開始剤として2,2−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)1.2質量部を加え、メタクリル酸メチル100質量部及びアクリル酸18質量部からなる混合溶液を3時間で滴下し、更に4時間加熱を継続した。反応終了後、トルエンを加えてカルボキシ基含有ポリマー溶液を得た。
【0176】
上記カルボキシ基含有ポリマー溶液を120質量部、トルエン60質量部を仕込み、撹拌下40℃でエチレンイミン53.8質量部とトルエン30質量部の混合溶液を30分かけて滴下した。滴下後40℃で2時間反応させた後、内温を70℃まで昇温して、更に5時間撹拌し熟成を行った後、例示化合物PE−7を得た。
カルボキシ基のアミノ基への変性率は、ガスクロマトグラフィーの分析から算出した消費されたエチレンイミン量により算出したところ100%であった。
続いて未反応のエチレンイミンを減圧留去により除去した。減圧留去後のポリマー溶液を検出限界1ppm以下のガスクロマトグラフィーで分析したところ、エチレンイミンは検出されなかった。
【0177】
その他、特開平4−356448号公報、特開2003−41000号公報等に記載の方法も参照することができる。
【0178】
(2)アミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリルアミド
アミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリルアミドとしては、アミノエチル基を有する、(メタ)アクリルアミドの重合体又は共重合体が挙げられる。
【0179】
(メタ)アクリルアミドとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−ベンジル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N−トリル(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)(メタ)アクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)(メタ)アクリルアミド、N−(トリルスルホニル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0180】
以下に、本発明に係る下地層に適用可能なアミノエチル基を有するポリ(メタ)アクリルアミドの具体例として、例示化合物PA−1〜PA−12を示す。なお、下記例示化合物におけるx及びyは、共重合体の重合比率を表す。その重合比率は、例えば、x:y=10:90等とすることができる。
【0181】
【化23】
【0182】
上記例示化合物PA−1〜PA−12は、公知の方法により合成することができる。(メタ)アクリルアミドのアミノエチル化、あるいはポリ(メタ)アクリルアミド(単独重合体)のアミノエチル化は、上述の(メタ)アクリレートあるいはポリ(メタ)アクリレートのアミノエチル化と同様に行うことができる。
【0183】
(樹脂)
下地層を構成する樹脂としては、下地層を形成できるものであれば特に限定されない。
例えば、単量体の繰り返し構造を持つ公知の天然高分子材料や、合成高分子材料を使用することができる。これらは、有機高分子材料、無機高分子材料、有機無機ハイブリッド高分子材料、及び、これらの混合物等を使用することができる。これらの樹脂は、2種以上混合して使用することもできる。
【0184】
上記樹脂は、公知の方法により合成することができる。天然高分子材料は、天然原料からの抽出や、セルロース等のように微生物により合成することができる。合成高分子は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合、開環重合、重縮合、付加重合、付加縮合及びこれらのリビング重合等で得ることができる。
【0185】
また、これらの樹脂は、単独重合体でも共重合体でもよく、不斉炭素を有するモノマーを使用する場合、ランダム、シンジオタックチック、アイソタックチックのいずれかの規則性を持つことができる。また、共重合体の場合、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等の形態をとることができる。
【0186】
樹脂の形態は、樹脂自体が液体でも固体でもよい。また、樹脂は、溶媒に溶解しているか、溶媒中に均一に分散していることが好ましい。さらに、樹脂は、水溶性樹脂又は水分散性樹脂であってもよい。
【0187】
また、樹脂は、紫外線・電子線によって硬化する電離放射線硬化型樹脂や、熱により硬化する熱硬化性樹脂であってよく、ゾル−ゲル法により作製される樹脂であってもよい。さらに、樹脂は架橋していてもよい。
【0188】
上述の樹脂において、天然高分子及び合成高分子は、大木道則、大沢利昭、田中元治、千原秀昭編「化学大辞典」(東京化学同人、1989年刊)1551及び769ページのそれぞれの項に記載されているものを一例として使用することができる。
【0189】
具体的には、天然高分子材料としては、天然有機高分子材料が好ましく、綿、麻、セルロース、絹、羊毛などの天然繊維や、ゼラチンなどのたんぱく質、天然ゴムなどを挙げることができる。合成高分子材料としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリケトン樹脂などを挙げることができる。
【0190】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(1−ブテン)、ポリ4−メチルペンテン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリシクロペンテン、ポリノルボルネンなどが挙げられる。
ポリアクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
ポリビニル樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリイソブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
ポリエーテル樹脂としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレートなどが挙げられる。
ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11などが挙げられる。
フッ素樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0191】
なお、上述の水溶性樹脂とは、25℃の水100gに0.001g以上溶解する樹脂を意味する。溶解の度合いは、ヘイズメータ、濁度計等で測定することができる。水溶性樹脂の色は特に限定されないが、透明であることが好ましい。また、水溶性樹脂の数平均分子量は、3000〜2000000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは4000〜500000の範囲内、更に好ましくは5000〜100000の範囲内である。
【0192】
水溶性樹脂の数平均分子量、分子量分布の測定は、一般的に知られているゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により行うことができる。使用する溶媒は、バインダーが溶解すれば特に限りはないが、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン(CHCl)が好ましく、より好ましくはTHF、DMFであり、更に好ましくはDMFである。また、測定温度も特に制限はないが、40℃であることが好ましい。
【0193】
水溶性樹脂としては、具体的には、天然高分子材料、合成高分子材料として、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、フッ素系等の樹脂が挙げられ、例えば、カゼイン、デンプン、寒天、カラギーナン、セスロース、ヒドロキシルエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、プルラン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、水溶性ポリビニルブチラール等のポリマーを挙げることができる。
【0194】
上述の水分散性樹脂とは、水系溶剤に均一分散可能なものであり、水系溶剤中に凝集せずに、樹脂からなるコロイド粒子が分散している樹脂を意味する。コロイド粒子の大きさ(平均粒径)は、一般的に1〜1000nmの範囲内程度である。上記のコロイド粒子の平均粒径は、光散乱光度計により測定することができる。
【0195】
また、上記水系溶剤とは、蒸留水及び脱イオン水などの純水のみならず、酸、アルカリ、塩等を含む水溶液、含水の有機溶媒、更には親水性の有機溶媒等の溶媒であることを意味し、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。水分散性樹脂は、透明であることが好ましい。また、水分散性樹脂は、フィルムを形成する媒体であれば、特に限定はない。水分散性樹脂としては、例えば、水性アクリル系樹脂、水性ウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリアミド樹脂、水性ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0196】
水性アクリル樹脂としては、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸−スチレンの重合体、又は、その他のモノマーとの共重合体が挙げられる。また、水系溶媒への分散性を付与する機能を担う酸部分がリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等のイオンと対塩を形成したアニオン性、窒素原子を有するモノマーとの共重合体からなり、窒素原子が塩酸塩等を形成したカチオン性、ヒドロキシ基やエチレンオキシド等の部位を導入したノニオン系があるが、好ましくはアニオン性である。
【0197】
水性ウレタン樹脂としては、水分散型ウレタン樹脂、アイオノマー型水性ウレタン樹脂(アニオン性)等が挙げられる。水分散型ウレタン樹脂としては、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂が挙げられ、好ましくはポリエステル系ウレタン樹脂である。また、光学用途への使用では、芳香環を持たない無黄変イソシアネートを用いることが好ましい。
【0198】
アイオノマー型水性ウレタン樹脂としては、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂等が挙げられ、好ましくはポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂である。
【0199】
水性ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分とポリオール成分とから合成される。
多塩基酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタリンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバチン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよく、特に好適に用いることのできる多塩基酸成分としては、工業的に多量に生産されており、安価であることなどから、テレフタル酸やイソフタル酸が特に好ましい。
ポリオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールなどが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよく、特に好適に用いることのできるポリオール成分としては、工業的に量産され、安価であり、しかも、樹脂被膜の耐溶剤性や耐候性が向上するなど、諸性能にバランスがとれていることから、エチレングリコール、プロピレングリコール又はネオペンチルグリコールが特に好ましい。
【0200】
無機高分子材料としては、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリシラン、ポリゲルマン、ポリスタナン、ボラジン系ポリマー、ポリメタロキサン、ポリシラザン、チタンオリゴマー、シランカップリング剤などを挙げることができる。ポリシロキサンとしては、具体的に、シリコーン、シルセスキオキサン、シリコーン樹脂などを挙げることができる。
【0201】
有機無機ハイブリッド高分子材料としては、ポリカルボシラン、ポリシリレンアリレン、ポリシロール、ポリホスフィン、ポリホスフィンオキシド、ポリ(フェロセニルシラン)、シルセスキオキサンを基本骨格としたシルセスキオキサン誘導体、樹脂にシリカを複合化させた樹脂などを挙げることができる。
【0202】
シルセスキオキサンを基本骨格としたシルセスキオキサン誘導体としては、具体的に、光硬化型SQシリーズ(東亞合成株式会社)、コンポセランSQ(荒川化学株式会社)、Sila−DEC(チッソ株式会社)などを挙げることができる。また、樹脂にシリカを複合化させた樹脂としては、具体的に、コンポセランシリーズ(荒川化学株式会社)などを挙げることができる。
【0203】
また、樹脂としては、電離放射線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂等の硬化性樹脂を用いることができる。電離放射線硬化型樹脂とは、電離放射線硬化型樹脂組成物の通常の硬化方法、すなわち、電子線又は紫外線の照射によって硬化することができる樹脂である。
【0204】
例えば、電子線硬化の場合には、コックロフワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される10〜1000keVの範囲内、好ましくは30〜300keVの範囲内のエネルギーを有する電子線等が使用される。
【0205】
紫外線硬化の場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。紫外線照射装置としては、具体的には、100〜230nmの範囲内の真空紫外線を発する希ガスエキシマランプが挙げられる。エキシマランプは、光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域の単一波長でエネルギーを照射するため、照射光自体による照射対象物の温度上昇を抑えられる特徴を持っている。
【0206】
熱硬化型樹脂とは、加熱により硬化する樹脂であり、樹脂内には架橋剤が含まれていることがより好ましい。熱硬化型樹脂の加熱方法としては、従来公知の加熱方法を用いることができ、ヒータ加熱、オーブン加熱、赤外線加熱、レーザー加熱などを用いることができる。
【0207】
また、下地層に用いる樹脂には、表面エネルギー調整剤を添加してもよい。表面エネルギー調整剤を添加することで、金属細線と下地層との密着性、金属細線の線幅等を調整できる。
【0208】
(酸化物粒子)
下地層に添加することができる酸化物粒子としては、透明電極への適用が可能であれば特に限定されない。樹脂に酸化物粒子を添加することで、下地層の膜強度、伸縮性、屈折率等の物性を適宜調節でき、更には、金属細線との密着性も向上する。酸化物粒子としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、スズ、バリウム、タンタル等の金属の酸化物を挙げることができる。特に、酸化物粒子は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素又は酸化ジルコニウムのいずれかであることが好ましい。
【0209】
酸化物粒子の平均粒径は、5〜300nmの範囲内であることが好ましく、特に5〜100nmの範囲内であることが、透明電極に好適に用いることができるため好ましい。平均粒径が上記の範囲内にある酸化物粒子を用いると下地層の表面に十分な凹凸を作ることができ、金属細線との密着性が向上する。平均粒径が100nm以下であると表面が平滑になり、有機電子デバイスへの影響が少ない。
【0210】
酸化物粒子の平均粒径は、光散乱方式を用いた市販の測定装置を使用して簡便に計測することが可能である。具体的には、ゼータサイザー1000(マルバーン社製)を用いて、レーザードップラー法により、25℃、サンプル希釈液量1mlにて測定した値を用いることができる。
酸化物粒子は、下地層中に10〜70vol%の範囲内で含まれていることが好ましく、20〜60vol%の範囲内で含まれていることがより好ましい。
【0211】
上述の酸化チタン微粒子としては、特開昭59−223231号公報、特開平10−265223号公報、特開2009−179497号公報、特開2010−058047号公報、特開2008−303126号公報、国際公開第2001/016027号等に記載の合成方法や、「酸化チタン−物性と応用技術」(清野学著、技報堂出版(株)、p.255〜258)を参考にして合成することができる。
【0212】
また、酸化物粒子は、分散液とした場合の分散性や安定性向上の観点から、表面処理を施したものを用いてもよい。酸化物粒子に表面処理を行う場合において、表面処理の具体的な材料としては、酸化ケイ素や酸化ジルコニウム等の異種無機酸化物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、オルガノシロキサン、ステアリン酸等の有機酸等が挙げられる。これら表面処理材は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。中でも、分散液の安定性の観点から、表面処理材としては、異種無機酸化物及び金属水酸化物のうち少なくとも一方であることが好ましく、金属水酸化物がより好ましい。
【0213】
また、下地層は、酸化物粒子以外の無機化合物を含有していてもよい。無機化合物とは、一般に理解されているように有機化合物以外の化合物であり、具体的には、単純な一部の炭素化合物と、炭素以外の元素で構成される化合物である。下地層を構成する無機化合物の代表的な例としては、前述の金属酸化物のほか、金属、炭化物、窒化物、ホウ化物等を挙げることができる。
また、下地層は、下地層そのものに光学散乱層としての機能を付与してもよいし、下地層の上下層として光学散乱層を設けてもよい。これにより、有機電子デバイスの効率を向上させることができる。
【0214】
〈透明樹脂基板(1)〉
本発明に係る透明樹脂基板としては、高い光透過性を有していれば、特に制限はない。例えば、樹脂基板、樹脂フィルム等が好適に挙げられるが、生産性の観点や軽量性と柔軟性といった性能の観点から透明樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0215】
基板として使用できる樹脂としては特に制限はなく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルフォン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。これらの樹脂を単独で使用してもよいし、複数を併用してもよい。
また、基板は、未延伸フィルムでもよいし、延伸フィルムでもよい。
【0216】
基板は、透明性が高いと透明電極を有機電子デバイスの透明電極として使用することができるため好ましい。透明性が高いとは、JIS K 7361−1:1997(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率が50%以上であることをいい、80%以上であるとより好ましい。
【0217】
基板は、基板上に形成される下地層や、後述するガスバリアー層等との密着性を高めるため、表面活性化処理が施されていてもよい。また、耐衝撃性を高めるため、クリアハードコート層が設けられていてもよい。表面活性化処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等が挙げられる。
クリアハードコート層の材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等が挙げられ、中でも紫外線硬化型樹脂を好ましく使用できる。
【0218】
〈ガスバリアー層(5)〉
透明電極が適用される有機EL素子等の有機電子デバイスは、デバイス内部に微量の水分や酸素が存在すると容易に性能劣化が生じてしまう。このため、基板を通してデバイス内部に水分や酸素が侵入することを防止するため、水分や酸素に対して高い遮蔽能を有するガスバリアー層を設けることが好ましい。また、基板上にあらかじめガスバリアー層が形成されたガスバリアー性フィルムを、透明電極の基板として用いることもできる。
【0219】
ガスバリアー層の組成や構造及びその形成方法には特に制限はなく、シリカ等の無機化合物による層を真空蒸着やCVD法により形成することができる。例えば、以下に示すケイ素含有ポリマー改質層や、ケイ素化合物層、遷移金属酸化物層を、単独又は組み合わせてガスバリアー層を構成することができる。
【0220】
(ケイ素含有ポリマー改質層)
ガスバリアー層に適用されるケイ素含有ポリマー改質層は、繰り返し構造中にケイ素と酸素(Si−O)、ケイ素と窒素(Si−N)等の結合を有するケイ素含有ポリマーを改質処理することによって形成される。なお、改質処理によりケイ素含有ポリマーをシリカ等に転化させるが、ケイ素含有ポリマーの全てを改質する必要はなく、少なくとも一部、例えば紫外線照射面側が改質されていればよい。
【0221】
ケイ素含有ポリマー改質層の厚さは、目的に応じて適宜設定することができるが、一般的には、10nm〜10μmの範囲内とすることができる。
【0222】
ケイ素含有ポリマーの具体例としては、繰り返し構造中に、Si−O結合を有するポリシロキサン(ポリシルセスキオキサンを含む。)、Si−N結合を有するポリシラザン、Si−O結合とSi−N結合の両方を含むポリシロキサザン等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用することができる。また、異なる種類のケイ素含有ポリマーの層を積層することもできる。
【0223】
ポリシロキサンは、繰り返し構造中に、−〔RaSiO1/2〕−、−〔RbSiO〕−、−〔RcSiO3/2〕−、−〔SiO〕−等を含む。Ra、Rb及びRcは、それぞれ独立に、水素原子、1〜20の炭素原子を含むアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、不飽和アルキル基等)等の置換基を表す。
ポリシルセスキオキサンは、上記ポリシロキサンの中でもシルセスキオキサンと同じ構造を繰り返し構造中に含む化合物である。シルセスキオキサンは、上記−[RcSiO3/2]−で表される構造を有する化合物である。
【0224】
ポリシラザンの構造は、下記一般式(B)で表すことができる。
【0225】
一般式(B)
−[Si(R)(R)−N(R)]−
【0226】
一般式(B)中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。
【0227】
上記一般式(B)中のR、R及びRの全てが水素原子であるポリシラザンが、パーヒドロポリシラザンである。パーヒドロポリシラザンは、緻密な膜が得られる点で好ましい。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と、6員環及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は、数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体又は固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。
【0228】
一方、上記一般式(B)において、Siと結合する水素原子の一部がアルキル基等で置換されたポリシラザンがオルガノポリシラザンである。オルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基によって下層の基板との密着性が向上し、かつ硬くてもろい特性を有するポリシラザンに靭性を付与することができるため、膜を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられるという利点がある。したがって、用途に応じて適宜、パーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択するか、又は両者を混合して使用する。
【0229】
ポリシロキサザンは、繰り返し構造中に、−[(SiH(NH)]−と−[(SiHO]−で表される構造を含む。n、m及びrは、それぞれ独立に、1〜3を表す。
【0230】
低温でセラミック化するポリシラザンの他の例としては、上記一般式(B)で表される単位からなる主骨格を有するポリシラザンに、ケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(例えば、特開平5−238827号公報参照。)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−122852号公報参照。)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−240208号公報参照。)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(例えば、特開平6−299118号公報参照。)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(例えば、特開平6−306329号公報参照。)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(例えば、特開平7−196986号公報参照。)等が挙げられる。
【0231】
ケイ素含有ポリマー改質層は、上述したケイ素含有ポリマーを含有する塗布液を用いて塗膜を形成し、当該塗膜に改質処理を施すことにより形成することができる。
塗膜の形成方法としては、ロールコート法、フローコート法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、バーコート法、流延成膜法、インクジェット法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0232】
塗布液の調製には、ポリシラザンと容易に反応するアルコール系有機溶媒又は水分を含む有機溶媒の使用を避けることが好ましい。したがって、塗布液の調製に使用できる有機溶媒としては、例えば脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類等が挙げられる。具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素類、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素類、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、ポリシラザンの溶解度や有機溶媒の蒸発速度等の特性に合わせて選択し、複数の有機溶媒を混合してもよい。
【0233】
塗布液としては、ポリシラザンを有機溶媒中に溶解させた市販品を使用することができる。使用できる市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ社製のアクアミカNAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
【0234】
塗布液は、改質処理を促進する観点から、触媒を含有することもできる。
触媒としては、塩基性触媒が好ましく、例えばN,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N−複素環式化合物等が挙げられる。
【0235】
塗布液におけるケイ素含有ポリマーの含有量は、形成するケイ素含有ポリマー改質層の厚さや塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0236】
形成した塗膜には、塗膜中の有機溶媒を除去する観点から、加熱による乾燥処理を施すことができる。
加熱時の温度は、50〜200℃の範囲内とすることができる。加熱時間は、基板の変形等を防ぐため、短時間に設定することが好ましい。例えば、ガラス転移温度が70℃のポリエチレンテレフタレートを基板に用いる場合、乾燥処理時の温度は樹脂フィルムの変形を防止するため、150℃以下に設定することができる。
【0237】
また、形成した塗膜に、塗膜中の水分を取り除く観点から、低湿度環境に維持して除湿する乾燥処理を施すこともできる。
低湿度環境における湿度は温度により変化するので、温度と湿度の関係は露点温度の規定により決定することができる。好ましい露点温度は4℃以下(温度25℃/湿度25%)で、より好ましい露点温度は−8℃(温度25℃/湿度10%)以下、更に好ましい露点温度は−31℃(温度25℃/湿度1%)以下である。水分を取り除きやすくするため、減圧乾燥してもよい。減圧乾燥における圧力は、常圧〜0.1MPaの範囲内で選ぶことができる。
【0238】
塗膜の改質処理の方法としては、基板へのダメージが少ない公知の方法を使用することができ、低温処理が可能なプラズマ処理、オゾン処理、紫外線又は真空紫外線の照射処理等を用いることができる。なかでも、真空紫外線の照射処理は、ケイ素含有ポリマー改質層を形成してから遷移金属酸化物層を形成するまでの間の環境の影響によってガスバリアー性が低下しにくいことから、好ましい。
【0239】
真空紫外線照射処理は、ケイ素含有ポリマーを構成する原子間結合力より大きい100〜200nmの波長範囲にある真空紫外光の光エネルギーを用い、原子間の結合を光量子プロセスと呼ばれる、光子のみによる作用により直接切断するとともに、活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、約200℃以下の比較的低温の環境下でシリカ等に転化させる処理である。
【0240】
真空紫外光の光源としては、100〜200nmの波長の光を発生させるものであればよく、照射波長が、約172nmの希ガスエキシマランプ(例えば、エム・ディ・コム社製のXeエキシマランプ MODEL:MECL−M−1−200)、約185nmの低圧水銀蒸気ランプ、200nm以下の中圧及び高圧水銀蒸気ランプ等が挙げられる。
【0241】
エキシマランプの特徴としては、単一波長の光を放射し、発光効率が極めて高いこと、放射する光が短波長で照射対象の温度を低温状態に保てること、瞬時の点灯及び点滅が可能であること等が挙げられ、熱の影響を受けやすい基板にも適用しやすい光源である。
特に、Xeエキシマランプが放射する172nmという短い単一波長の真空紫外光は、酸素の吸収係数が大きく、微量な酸素から高濃度の活性酸素又はオゾンを発生させ、有機物の結合の解離能力が高いことから、短時間での改質処理を可能とする。
【0242】
真空紫外線の照射条件は、ケイ素含有ポリマー改質層より下の基板等を劣化させない範囲内で設定すればよい。
例えば、紫外線の照射時間は、基板や塗布液の組成、濃度等にもよるが、一般に0.1秒〜10分の範囲内であり、0.5秒〜3分の範囲内であることが好ましい。
なお、均一に紫外線を照射する観点から、光源からの紫外線を反射板で反射させた反射光をケイ素含有ポリマー改質層の塗膜に照射することが好ましい。
【0243】
真空紫外線の照度は、1mW/cm〜10W/cmの範囲内とすることができる。1mW/cm以上であれば、改質効率が向上し、10W/cm以下であれば、塗膜に生じ得るアブレーション、基板のダメージ等を低減することができる。
真空紫外線の照射エネルギー量(照射量)は、0.1〜10.0J/cmでの範囲内にすることができる。この範囲であれば、過剰な改質によるクラックの発生、基板の熱変形等を防止することができ、生産性も向上する。
【0244】
真空紫外線照射処理は、バッチ処理でも連続処理でもよい。バッチ処理の場合、真空紫外線の光源を備える紫外線焼成炉(例えば、アイグラフィクス社製の紫外線焼成炉)において処理することができる。連続処理の場合、基板を搬送して真空紫外線の光源を備えるゾーン内で連続的に紫外線を照射すればよい。
【0245】
真空紫外線照射時の反応には酸素が必要であるが、真空紫外線は酸素による吸収があり、改質効率が低下しやすいことから、できる限り酸素濃度及び水蒸気濃度の低い雰囲気内で真空紫外線の照射を行うことが好ましい。例えば、真空紫外線照射時の酸素濃度は、10〜20000体積ppm(0.001〜2体積%)の範囲内とすることができる。水蒸気濃度は、好ましくは1000〜4000体積ppmの範囲内である。
上記雰囲気の調整には、乾燥不活性ガス、特にコストの観点から乾燥窒素ガスを用いることが好ましい。酸素濃度の調整は、室内に導入する酸素ガス及び不活性ガスの流量比を調整することにより、行うことができる。
【0246】
(ケイ素化合物層)
ガスバリアー層としては、ガスバリアー性をより高める観点から、ケイ素含有ポリマー改質層の下に、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、炭化ケイ素等のケイ素化合物を含有するケイ素化合物層を更に配置することもできる。
【0247】
遷移金属酸化物層と隣接する層がケイ素含有ポリマー改質層であれば、このケイ素含有ポリマー改質層よりも下層を、ケイ素化合物層とケイ素含有ポリマー改質層との多層構造とすることもできる。多層構造によって、透明電極に浸入するガスに対するガスバリアー性をより高めることができ、導電性能の安定性をさらに高めることができる。
【0248】
ケイ素化合物層は、酸化ケイ素を原料とする真空蒸着法、ケイ素を含むターゲットを用いたマグネトロンスパッタ法、イオンプレーティング法の他、ポリシラザン等のケイ素含有ポリマー改質層に用いられるケイ素含有ポリマー(例えば、ヘキサメチルジシロキサン、パーヒドロポリシラザン等)、二酸化ケイ素等を原料としてプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成することができる。
【0249】
(遷移金属酸化物層)
遷移金属酸化物層は、ケイ素含有ポリマー改質層上に、遷移金属酸化物を用いて形成されている。遷移金属酸化物層がケイ素含有ポリマー改質層と隣接することによりケイ素含有ポリマー改質層の酸化を抑制し、ケイ素含有ポリマー改質層とともに非常に高いガスバリアー性を発揮することができる。
【0250】
遷移金属酸化物層に使用される遷移金属酸化物は、元素周期表における第3族から第12族までの金属の酸化物であり、そのうちの1種を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
より高い安定性を得る観点からは、遷移金属酸化物が、元素周期表における第5族の金属の酸化物であることが好ましい。第5族の金属としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられる。
【0251】
中でも、遷移金属酸化物が、酸化ニオブであることが好ましい。酸化ニオブが用いられた遷移金属酸化物層とケイ素含有ポリマー改質層とを組み合わせた透明電極は、導電性能の安定性が向上するだけでなく、入射光の透過率の角度依存性を減らすことができる。これは、低屈折率層と高屈折率層を積層させることで、光の多重干渉を生じさせ、反射率が低減すること、また屈折率差による光学的な挙動が変化していること等が要因と推察される。
【0252】
遷移金属酸化物層における遷移金属酸化物の含有量は、50〜100質量%の範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、遷移金属酸化物層中の遷移金属がケイ素含有ポリマー改質層との相互作用により、十分なガスバリアー性を得ることができる。
【0253】
遷移金属酸化物層の形成方法としては、遷移金属と酸素との組成比の調整がしやすいことから、蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の物理気相成長(PVD:Physical Vapor Deposition)法、プラズマCVD法等のCVD法、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法等が挙げられる。中でも、下層へのダメージがなく、生産性が高いスパッタ法が好ましい。
【0254】
スパッタ法としては、2極スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、デュアルマグネトロン(DM:Dual Magnetron)スパッタ法、反応性スパッタ法、イオンビームスパッタ法、電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法等を用いることができ、このうちの1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用しもよい。
ターゲットの印加方式は、ターゲット種に応じて適宜選択することができる。DC(直流)方式又はDM方式の場合には、そのターゲットに遷移金属を用い、酸素を原料ガスとして導入することにより、遷移金属酸化物の薄膜を形成することができる。RF(高周波)方式の場合は、遷移金属酸化物のターゲットを用いることができる。不活性ガスとしては、He、Ne、Ar、Kr、Xe等を用いることができ、中でも、Arが好ましい。
【0255】
遷移金属酸化物層は、単層であってもよいし、2層以上の多層構造であってもよい。多層構造の場合、各層に用いられる遷移金属酸化物は同じであってもよいし、異なっていてもよい。遷移金属酸化物層の厚さは、位置によらず均一なガスバリアー性を発揮する観点から、1〜200nmの範囲内にあることが好ましい。
【0256】
(ガスバリアー層形成工程)
本発明の透明電極の作製においては、必要に応じて基板上にガスバリアー層を形成してもよい。ガスバリアー層の形成は、上述の金属細線や透明導電層、下地層の形成前に行う。
【0257】
ガスバリアー層の形成は、上述のケイ素含有ポリマー改質層、ケイ素化合物層、遷移金属酸化物層を、単独又は組み合わせて真空蒸着やCVD法により形成することが好ましい。ケイ素含有ポリマー改質層、ケイ素化合物層及び遷移金属酸化物層の形成方法は、それぞれ上述の方法や条件を用いることができる。
【0258】
〈粒子含有層(6)〉
粒子含有層は、基板において、金属細線が形成される面(表面)と反対側の面(裏面)に設けられる。透明電極を重ねた際や、長尺の透明電極をロール状に巻回した際のように、透明電極同士が直接接触する状態となった場合において、透明電極が粒子含有層を有することにより、帯電や、透明電極同士の固着等を抑制することができる。
【0259】
粒子含有層は、粒子とバインダー樹脂とから構成される。粒子含有層は、バインダー樹脂100質量部に対して、粒子を1〜900質量部の範囲内で含有することが好ましい。
【0260】
(粒子)
粒子含有層を構成する粒子は、無機微粒子、無機酸化物粒子、導電性ポリマー粒子、導電性カーボン微粒子等が好ましい。中でも、ZnO、TiO、SnO、Al、In、MgO、BaO、MoO、V等の酸化物粒子、及び、SiO等の無機酸化物粒子が好ましい。特に、SnO、SiOが好ましい。
【0261】
(バインダー樹脂)
粒子含有層を構成するバインダー樹脂としては、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロース誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、コポリブチレン/テレ/イソフタレート等のポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルベンザール等のポリビニルアルコール誘導体、ノルボルネン化合物を含有するノルボルネン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート等のアクリル樹脂又はアクリル樹脂とその他樹脂との共重合体を用いることができるが、特にこれら例示する樹脂材料に限定されるものではない。この中では、セルロース誘導体、アクリル樹脂が好ましく、アクリル樹脂が最も好ましく用いられる。
【0262】
バインダー樹脂としては、重量平均分子量(Mw)が40万以上で、ガラス転移温度が80〜110℃の範囲内にある上記熱可塑性樹脂が、光学特性及び形成する粒子含有層の品質の点で好ましい。
【0263】
ガラス転移温度は、JIS K 7121に記載の方法で求めることができる。ここで使用するバインダー樹脂は、粒子含有層を構成する全樹脂質量の60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、必要に応じて活性線硬化性樹脂、あるいは熱硬化樹脂を適用することもできる。
【0264】
(粒子含有層の形成方法)
透明電極の作製においては、必要に応じて基板上(裏面側)に粒子含有層を形成してもよい。粒子含有層の形成は、上述の金属細線や透明導電層、下地層及びガスバリアー層の形成前に行う。
【0265】
粒子含有層の形成では、上述の粒子とバインダー樹脂とを、適当な有機溶剤に溶解して、溶液状態の粒子含有層形成用塗布液を調製し、これら湿式塗布方式により、基板上に塗布及び乾燥して、粒子含有層を形成する。
【0266】
粒子含有層形成用塗布液の調製に用いる有機溶剤としては、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類などを適宜混合して使用することができるが、有機溶剤は、特にこれらに限定されるものではない。
【0267】
炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられ、アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール等が挙げられ、ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸アミル、乳酸エチル、乳酸メチル等が挙げられ、グリコールエーテル(炭素数1〜4)類としては、例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル(略称:PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ(炭素数1〜4)アルキルエーテルエステル類としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、その他の溶媒として、例えば、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。特にこれらに限定されるものではないが、これらを適宜混合した溶媒も好ましく用いられる。
【0268】
粒子含有層形成用塗布液を基板上に塗布する方法として、ドクターコート、エクストルージョンコート、スライドコート、ロールコート、グラビアコート、ワイヤーバーコート、リバースコート、カーテンコート、押し出しコート、あるいは米国特許第2681294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート方法等が挙げられる。これら湿式塗布方法を適宜用いることにより、基板上に、乾燥膜厚が0.1〜20μmの範囲内、好ましくは0.2〜5μmの範囲内の粒子含有層を形成することができる。
【0269】
《有機電子デバイス(有機EL素子)》
次に、上述の透明電極を用いた有機電子デバイスの一例として、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の実施形態について説明する。
有機EL素子は、上述の透明電極を一方の電極(透明電極)とし、この透明電極上に、発光ユニットと他方の電極(対向電極)とが設けられた構成である。このため、以下の有機EL素子の説明では、上述の透明電極と同じ構成については、詳細な説明を省略する。
【0270】
〈有機EL素子の構成〉
有機EL素子の構成を図4に示す。図4に示す有機EL素子200は、透明電極10と、対向電極220とを備え、この電極間に有機機能層として発光ユニット210が設けられている。透明電極10は、上述の図2と同様の構成である。
【0271】
ここで、「発光ユニット」とは、少なくとも、各種有機化合物を含有する、発光層、正孔輸送層、電子輸送層等の有機機能層を主体として構成される発光体(単位)をいう。発光体は、陽極と陰極とからなる一対の電極の間に挟持されており、当該陽極から供給される正孔(ホール)と陰極から供給される電子とが当該発光体内で再結合することにより発光する。なお、有機EL素子は、所望の発光色に応じて、当該発光ユニットを複数備えていてもよい。
【0272】
有機EL素子200においては、透明電極10の金属細線2及び透明導電層3と対向電極220とで発光ユニット210が挟持されている部分のみが、有機EL素子200における発光領域となる。そして、有機EL素子200は、発生させた光(以下、発光光ともいう。)を、少なくとも透明電極10の透明樹脂基板1側から取り出すボトムエミッション型として構成されている。なお、透明(透光性)とは波長550nmでの光透過率が50%以上であることをいう。主成分とは、構成全体の中で占める割合が最も高い成分である。
【0273】
また、有機EL素子200において、透明電極10の金属細線2(あるいは透明導電層3)及び対向電極220の端部には、図示しない取出し電極が設けられている。透明電極10の金属細線2(あるいは透明導電層3)及び対向電極220と外部電源(図示略)とは、取出し電極を介して、電気的に接続される。
【0274】
有機EL素子200の層構造が限定されることはなく、一般的な層構造であってよい。例えば、透明電極10の金属細線2がアノード(すなわち陽極)として機能し、対向電極220がカソード(すなわち陰極)として機能する場合、発光ユニット210は、透明電極10の金属細線2側から順に正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層を積層した構成が例示されるが、このうち、少なくとも有機材料を用いて構成された発光層を有することが必須である。正孔注入層及び正孔輸送層は、正孔輸送注入層として設けられてもよい。電子輸送層及び電子注入層は、電子輸送注入層として設けられてもよい。また、これらの発光ユニット210のうち、例えば、電子注入層は無機材料で構成されていてもよい。
【0275】
発光ユニット210は、これらの層の他にも正孔阻止層や電子阻止層等が必要に応じて必要箇所に積層されていてもよい。さらに、発光層は、各波長領域の発光光を発生させる各色発光層を有し、これらの各色発光層を、非発光性の補助層を介して積層させた構造としてもよい。補助層は、正孔阻止層、電子阻止層として機能してもよい。さらに、カソードである対向電極220も、必要に応じた積層構造であってもよい。
【0276】
また、有機EL素子200は、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニット210を複数積層した、いわゆるタンデム構造の素子であってもよい。タンデム構造の代表的な素子構成としては、例えば、以下の構成を挙げることができる。
【0277】
陽極/第1発光ユニット/中間コネクタ層/第2発光ユニット/中間コネクタ層/第3発光ユニット/陰極
【0278】
ここで、上記第1発光ユニット、第2発光ユニット及び第3発光ユニットは、全て同じであっても、異なっていてもよい。また、二つの発光ユニットが同じであり、残る一つが異なっていてもよい。複数の発光ユニット210は、直接積層されていても、中間コネクタ層を介して積層されていてもよい。
【0279】
中間コネクタ層は、一般的に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層であれば、公知の材料構成を用いることができる。中間コネクタ層に用いられる材料としては、例えば、ITO、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO、TiN、ZrN、HfN、TiO、VO、CuI、InN、GaN、CuAlO、CuGaO、SrCu、LaB、RuO、Al等の導電性無機化合物層や、Au/Bi等の2層膜や、SnO/Ag/SnO、ZnO/Ag/ZnO、Bi/Au/Bi、TiO/TiN/TiO、TiO/ZrN/TiO等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0280】
発光ユニット210内の好ましい構成としては、例えば、上記の代表的な素子構成で挙げた構成から、陽極と陰極とを除いたもの等が挙げられるが、これらに限定されない。
タンデム型有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号明細書、米国特許第7420203号明細書、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、国際公開第2005/009087号、特開2006−228712号公報、特開2006−24791号公報、特開2006−49393号公報、特開2006−49394号公報、特開2006−49396号公報、特開2011−96679号公報、特開2005−340187号公報、特許第4711424号公報、特許第3496681号公報、特許第3884564号公報、特許第4213169号公報、特開2010−192719号公報、特開2009−076929号公報、特開2008−078414号公報、特開2007−059848号公報、特開2003−272860号公報、特開2003−045676号公報、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられる。
【0281】
(電極)
有機EL素子は、透明電極の導電層と対向電極とからなる一対の電極に挟持された発光ユニットを有する。透明電極の導電層と対向電極とは、いずれか一方が有機EL素子の陽極となり、他方が陰極となる。
【0282】
また、図4に示す有機EL素子200では、透明電極10の透明導電層3が透明導電材料により構成され、対向電極220が高反射材料により構成されている。なお、有機EL素子200が両面発光型の場合には、対向電極220も透明導電材料により構成される。
【0283】
(対向電極)
有機EL素子において、対向電極を陽極として用いる場合には、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。陽極を構成可能な電極物質の具体例としては、Au、Ag等の金属、CuI、ITO、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
【0284】
陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
【0285】
有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。陽極側から発光を取り出す場合には、光透過率を10%より大きくすることが望ましい。また、陽極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましい。厚さは材料にもよるが、通常10〜1000nmの範囲内、好ましくは10〜200nmの範囲内で選ばれる。
【0286】
また、有機EL素子において、対向電極を陰極として用いる場合には、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する。)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物が電極物質として用いられる。
陰極は、発光ユニットに電子を供給する陰極(カソード)として機能する電極膜である。陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。
【0287】
電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
【0288】
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物やアルミニウム等が好適である。
【0289】
陰極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましく、厚さは通常10nm〜5μmの範囲内、好ましくは50〜200nmの範囲内で選ばれる。また、陰極として上記金属を1〜20nmの厚さで作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0290】
(取出し電極)
取出し電極は、透明電極の導電層と外部電源とを電気的に接続するものであって、その材料としては特に限定されるものではなく公知の素材を好適に使用できるが、例えば、3層構造からなるMAM電極(Mo/Al・Nd合金/Mo)等の金属膜を用いることができる。
【0291】
(封止部材)
有機EL素子は、有機材料等を用いて構成された発光ユニットの劣化を防止することを目的として、封止部材で封止されていてもよい。封止部材は、有機EL素子の上面を覆う板状(フィルム状)の部材であって、接着部によって基板側に固定される。また、封止部材は、封止膜であってもよい。このような封止部材は、有機EL素子の電極端子部分を露出させ、少なくとも発光ユニットを覆う状態で設けられている。また、封止部材に電極を設け、有機EL素子の電極端子部分と、封止部材の電極とを導通させる構成でもよい。
【0292】
板状(フィルム状)の封止部材としては、具体的には、ガラス基板、ポリマー基板、金属基板等が挙げられ、これらの基板を更に薄型のフィルム状にして用いてもよい。ガラス基板としては、特に、ソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー基板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属基板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブデン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
特に、素子を薄膜化できるということから、封止部材としてポリマー基板や金属基板を薄型のフィルム状にして使用することが好ましい。
また、基板材料は、凹板状に加工して封止部材として用いてもよい。この場合、上述した基板部材に対して、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等の加工が施され、凹状が形成される。
【0293】
さらに、フィルム状としたポリマー基板は、JIS K 7126:1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/(m・24h・atm)以下、JIS K 7129:1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が、1×10−3g/(m・24h)以下であることが好ましい。
【0294】
また、封止部材を基板側に固定する接着部は、有機EL素子を封止するためのシール剤として用いられる。接着部としては、具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。
【0295】
また、接着部としては、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0296】
封止部材と透明電極との接着部分への接着部の塗布は、市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
なお、有機EL素子を構成する有機材料は、熱処理により劣化する場合がある。このため、接着部は、室温(25℃)から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、接着部中に乾燥剤を分散させておいてもよい。
【0297】
また、板状の封止部材と透明電極と間に隙間が形成される場合、この間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコーンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0298】
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0299】
一方、封止部材として封止膜を用いる場合、有機EL素子における発光ユニットを完全に覆い、かつ有機EL素子の電極端子部分を露出させる状態で、透明電極上に封止膜が設けられる。
【0300】
このような封止膜は、無機材料や有機材料を用いて構成される。特に、水分や酸素等、有機EL素子における発光ユニットの劣化をもたらす物質の浸入を抑制する機能を有する材料で構成される。このような材料としては、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等の無機材料が用いられる。さらに、封止膜の脆弱性を改良するために、これら無機材料からなる膜とともに、有機材料からなる膜を用いて積層構造としてもよい。
【0301】
これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0302】
(保護部材)
また、有機EL素子を機械的に保護するために、保護膜又は保護板等の保護部材(図示略)を設けてもよい。保護部材は、有機EL素子及び封止部材を、透明電極とで挟む位置に配置される。特に封止部材が封止膜である場合には、有機EL素子に対する機械的な保護が十分ではないため、このような保護部材を設けることが好ましい。
【0303】
以上のような保護部材は、ガラス板、ポリマー板、これよりも薄型のポリマーフィルム、金属板、これよりも薄型の金属フィルム、又はポリマー材料膜や金属材料膜が適用される。このうち、特に、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0304】
なお、上述の説明では、透明電極を適用した有機電子デバイスの一例として、本発明の透明電極を、透明電極として適用した有機EL素子について説明しているが、透明電極は有機光電変換素子やその他の有機電子デバイスにも、透明電極として適用可能である。
【0305】
〈有機電子デバイスの製造方法〉
次に、有機EL素子の製造方法の一例を説明する。
まず、上述の製造方法により透明電極を作製する。
次に、透明電極の導電層上に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の順に成膜し、発光ユニットを形成する。これらの各層の成膜方法としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、蒸着法、印刷法等があるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法又はスピンコート法が特に好ましい。さらに、層ごとに異なる成膜法を適用してもよい。これらの各層の成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度1×10−6〜1×10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、層厚0.1〜5μmの範囲内で、各条件を適宜選択することが好ましい。
【0306】
発光ユニットを形成した後、この上部に対向電極を蒸着法やスパッタ法などの適宜の成膜法によって形成する。この際、対向電極は、発光ユニットによって透明電極の導電層に対して絶縁状態を保ちつつ、発光ユニットの上方から基板の周縁に端子部分を引き出した形状にパターン形成する。これにより、有機EL素子が得られる。また、その後には、有機EL素子における取出し電極及び対向電極の端子部分を露出させた状態で、少なくとも発光ユニットを覆う封止部材を設ける。
【0307】
以上により、所望の有機EL素子が得られる。このような有機EL素子の作製においては、1回の真空引きで一貫して発光ユニットから対向電極まで作製するのが好ましいが、途中で真空雰囲気から基板を取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
【実施例】
【0308】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0309】
[実施例1]
《透明電極の作製》
以下のようにして、透明電極101〜133を作製した。
【0310】
〈透明電極101の作製〉
(1)透明樹脂基板の準備
透明樹脂基板として、株式会社きもと製のクリアハードコート層付きポリエチレンテレフタレート(PET/CHC)フィルム(G1SBF、厚さ125μm、屈折率1.59)を準備した。
【0311】
(2)ガスバリアー層の形成
次に、上記基板の表面(金属細線を形成する側の面)上に、ガスバリアー層を形成した。
具体的には、放電プラズマ化学気相成長装置(アプライドマテリアルズ社製プラズマCVD装置 Precision5000)に、基板をセットし、ロールtoロールで連続搬送させた。次に、成膜ローラー間に磁場を印加するとともに、各成膜ローラーに電力を供給して、成膜ローラー間にプラズマを発生させ、放電領域を形成した。次に、形成した放電領域に、成膜ガスとして、原料ガスであるヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスである酸素ガス(放電ガスとしても機能する。)の混合ガスを、ガス供給管から供給し、下記条件にて、厚さ120nmのガスバリアー層を成膜した。
【0312】
(成膜条件)
原料ガス(ヘキサメチルジシロキサン、HMDSO)の供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)
反応ガス(O)の供給量:500sccm
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度:0.8m/min
【0313】
(3)金属細線の形成
ガスバリアー層上に、金属ナノ粒子含有組成物として銀ナノ粒子分散液(FlowMetal SR6000、バンドー化学株式会社製)をインクジェット印刷法を用いて、50μm幅、1mmピッチで格子状に塗布してパターン形成した。インクジェット印刷法としては、インク液滴の射出量が4plのインクジェットヘッドを使用し、塗布速度と射出周波数を調整して、パターンを印刷した。インクジェット印刷装置としては、インクジェットヘッド(コニカミノルタ社製)を取り付けた卓上型ロボットShotmaster−300(武蔵エンジニアリング社製)を用い、インクジェット評価装置EB150(コニカミノルタ社製)にて制御した。
【0314】
次に、赤外線照射装置(アルティメットヒーター/カーボン,明々工業株式会社製)に、波長3.5μm以上の赤外線を吸収する石英ガラス板2枚を取り付け、ガラス板間に冷却空気を流した波長制御赤外線ヒータを用いて、大気下(酸素濃度約21万体積ppm)で、形成した金属ナノ粒子含有組成物のパターンの乾燥処理を行った。
【0315】
次に、250nm以下の短波長カットフィルターを装着したキセノンフラッシュランプ2400WS(COMET社製)を用いて、酸素濃度20体積ppm、水蒸気濃度20体積ppm(酸素含有物質濃度40体積ppm)の雰囲気下で、光照射エネルギーの総計が3.5J/cmのフラッシュ光を、照射時間2m秒で金属ナノ粒子含有組成物のパターン側から1回照射して、乾燥後の金属ナノ粒子含有組成物のパターンの焼成処理を行い、金属細線を形成した。
【0316】
(4)透明導電層の形成
金属細線上に、金属酸化物層としてのIZO(質量比In:ZnO=90:10)膜を厚さ100nmで形成し、透明電極101を作製した。
IZO膜は、アネルバ社のL−430S−FHSスパッタ装置を用い、Ar:20sccm、O:3sccm、スパッタ圧:0.25Pa、室温(25℃)下、ターゲット側電力:1000W、ターゲット−基板距離:86mmで、RFスパッタにて作製した。
【0317】
〈透明電極102〜115の作製〉
透明電極101の作製において、金属ナノ粒子含有組成物の焼成処理時における酸素濃度及び水蒸気濃度を表1に記載のとおりに変更した以外は同様にして、透明電極102〜115を作製した。
【0318】
〈透明電極116〜120の作製〉
透明電極107の作製において、金属ナノ粒子含有組成物の乾燥処理時における酸素濃度を表1に記載のとおりに変更した以外は同様にして、透明電極116〜120を作製した。
【0319】
〈透明電極121の作製〉
透明電極107の作製において、金属ナノ粒子含有組成物の乾燥処理として80℃のホットプレートで30分間行った以外は同様にして、透明電極121を作製した。
【0320】
〈透明電極122の作製〉
透明電極107の作製において、金属ナノ粒子含有組成物の乾燥処理を赤外線照射装置(アルティメットヒーター/カーボン,明々工業株式会社製)を用いて行った以外は同様にして、透明電極122を作製した。
【0321】
〈透明電極123〜126の作製〉
透明電極117の作製において、透明導電層の厚さを表2に記載のとおりに変更した以外は同様にして、透明電極123〜126を作製した。
【0322】
〈透明電極127及び128の作製〉
透明電極117の作製において、透明導電層におけるIZOをGZO(Gaドープ酸化亜鉛)、IGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物)にそれぞれ変更した以外は同様にして、透明電極127及び128を作製した。
【0323】
〈透明電極129の作製〉
透明電極117の作製において、透明導電層を以下のようにして形成した以外は同様にして、透明電極129を作製した。
【0324】
(透明導電層の形成)
金属細線上に、下記塗布液Aを、押し出し法を用いて、乾燥膜厚300nmになるように押し出しヘッドのスリット間隙を調整して塗布し、110℃、5分で加熱乾燥し、導電性ポリマーと水溶性ポリマーP−1(ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート))からなる透明導電層を形成した。水溶性ポリマーP−1は、特許第5750908号公報の段落0156に記載の方法により合成した。
塗布液Aは、別途調製した溶液Aと溶液Bとを混合して調製した。
【0325】
〔溶液A〕
ポリチオフェン:PEDOT−PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%、H.C.Starck社製) 1.59g
P−1(固形分20%水溶液) 0.35g
〔溶液B〕
ジメチルスルホキシド(DMSO、導電性ポリマー溶液質量の10分の1量) 0.16g
化合物1(P−1のヒドロキシ基数の20分の1モル) 0.008g
【0326】
【化24】
【0327】
〈透明電極130の作製〉
透明電極117の作製において、ガスバリアー層と金属細線との間に、以下のようにして下地層を形成した以外は同様にして、透明電極130を作製した。
【0328】
(下地層の形成)
基板のガスバリアー層を形成した面上に、ハイセラテックIR(宇部日東化成社製)と、1当量のA−TMM−3LM−N(ペンタエリスリトールトリアクリレート(トリエステル57%)、新中村化学工業(株)社製)とを混合し、固形分が0.2質量%になる量の重合開始剤イルガキュア184(BASF社製)を混合して、メチルイソブチルケトン(MIBK)で固形分3質量%の希釈液を調製した。これをスピンコーターを用いて2000rpmで成膜後、上述の赤外線照射装置で乾燥した。その後、後述の有機EL素子作製時における封止内に下地層が収まるように外周部をふき取り、エキシマランプにて硬化(装置:株式会社エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL MECL−M−1−200、照射波長:172nm、ランプ封入ガス:Xe、エキシマランプ光強度:130mW/cm(172nm)、試料と光源との距離:2mm、ステージ加熱温度:70℃、照射装置内の酸素濃度:20.0%、照射エネルギー:1J/cm)を行い、厚さ100nmの下地層を形成した。
【0329】
〈透明電極131〜133の作製〉
透明電極130の作製において、下地層材料であるハイセラテックIRをそれぞれカレンズMTBD1(昭和電工(株)社製、例示化合物SE−20)、カレンズMTPE1(昭和電工(株)社製、例示化合物SE−50)、カレンズMTNR1(昭和電工(株)社製、例示化合物SE−71)に変更した以外は同様にして、透明電極131〜133を作製した。
【0330】
《有機EL素子の作製》
以下のようにして、評価用の有機EL素子101〜133を作製した。
【0331】
〈有機EL素子101の作製〉
(1)発光ユニット及び対向電極の形成
まず、真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、有機機能層の各層を構成する下記材料を、各々素子作製に最適の量を充填した。蒸着用るつぼは、モリブデン製又はタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0332】
真空度1×10−4Paまで減圧した後、化合物M−2の入った蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明電極101(透明導電層側)上に蒸着し、厚さ40nmの正孔注入輸送層を形成した。
次に、化合物BD−1及び化合物H−1を、化合物BD−1が5質量%の濃度になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、厚さ15nmの青色発光を呈する蛍光発光層を形成した。
次に、化合物GD−1、化合物RD−1及び化合物H−2を、化合物GD−1が17質量%、RD−1が0.8質量%の濃度になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、厚さ15nmの黄色を呈するリン光発光層を形成した。
その後、化合物E−1を蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、厚さ30nmの電子輸送層を形成した。
以上により、有機機能層を作製した。
【0333】
さらに、LiFを厚さ1.5nmで形成した後に、アルミニウムを110nm蒸着して対向電極と、その取出し電極を形成し、有機EL素子101を作製した。
【0334】
【化25】
【0335】
(2)封止
(2.1)接着剤組成物の調製
ポリイソブチレン系樹脂(A)として「オパノールB50(BASF製、重量平均分子量(Mw)=340000)」100質量部、ポリブテン樹脂(B)として「日石ポリブテン グレードHV−1900(新日本石油社製、重量平均分子量(Mw)=1900)」30質量部、ヒンダードアミン系光安定剤(C)として「TINUVIN765(BASF・ジャパン製、3級のヒンダードアミン基を有する。)」0.5質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)として「IRGANOX1010(BASF・ジャパン製、ヒンダードフェノール基のβ位が二つともターシャリーブチル基を有する。)」0.5質量部、及び環状オレフィン系重合体(E)として「Eastotac H−100L Resin(イーストマンケミカル.Co.製)」50質量部を、トルエンに溶解し、固形分濃度約25質量%の接着剤組成物を調製した。
【0336】
(2.2)封止部材の作製
まず、厚さ100μmのアルミニウム(Al)箔が張り合わされた厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し封止部材とした。次に、調製した上記接着剤組成物の溶液を乾燥後に形成される接着層の厚さが20μmとなるように封止部材のアルミニウム側(ガスバリアー層側)に塗工し、120℃で2分間乾燥させて接着層を形成した。
次に、形成した接着層面に対して、剥離シートとして、厚さ38μmの剥離処理をしたポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離処理面を貼付して、封止部材を作製した。
【0337】
上述の方法で作製した封止部材を、窒素雰囲気下で24時間以上放置した。
放置後、剥離シートを除去し、80℃に加熱した真空ラミネーターで有機EL素子101の対向電極を覆う形でラミネートした。さらに、120℃で30分加熱し、封止部材により有機EL素子101を封止した。
【0338】
〈有機EL素子102〜133の作製〉
有機EL素子101の作製において、透明電極101を透明電極102〜133に変更した以外は同様にして、有機EL素子102〜133を作製した。
【0339】
《評価》
作製した透明電極101〜133及び有機EL素子101〜133について、下記の各評価を行った。
評価結果を表1及び2に示す。
【0340】
〈導電性の評価〉
作製した各透明電極について、JIS K 7194:1994に準拠して、抵抗率計(ロレスタGP(MCP−T610型):(株)ダイヤインスツルメンツ社製)を用いて表面抵抗を測定し、導電性を評価した。
【0341】
〈整流比の測定〉
作製した各有機EL素子について、同一作製手順にてそれぞれ10個ずつ作製し、整流比を測定した上で平均値を求め、以下の指標で整流比として評価した。
【0342】
整流比=+4V印加時の電流値/−4V印加時の電流値
5: 整流比が1.0×10以上
4: 整流比が1.0×10以上1.0×10未満
3: 整流比が1.0×10以上1.0×10未満
2: 整流比が1.0×10以上1.0×10未満
1: 整流比が1.0×10以上1.0×10未満
0: 整流比が1.0×10未満
【0343】
【表1】
【0344】
【表2】
【0345】
〈まとめ〉
表1及び2から明らかなように、本発明の透明電極の製造方法により製造された透明電極、及びこれを備える有機EL素子は、比較例としての透明電極と比べて、導電性及び整流特性に優れていることが確認された。
以上から、金属ナノ粒子含有組成物をパターン状に印刷し、金属細線を形成する工程と、金属細線を乾燥する工程と、フラッシュ光を照射して金属細線を焼成する工程と、金属細線上に、厚さ30〜300nmの範囲内の透明導電層を形成する工程と、を有し、金属細線を焼成する工程では、酸素含有物質の濃度を50〜2000体積ppmの範囲内とする雰囲気下で焼成する透明電極の製造方法が、導電性に優れ、かつ、有機電子デバイスに適用した際に整流特性に優れる透明電極を提供することに有用であることがわかる。
【0346】
また、有機EL素子107、121及び122を比較すると、波長制御IR乾燥を行った有機EL素子107が、ホットプレート乾燥やIR乾燥を行った有機EL素子121、122と比較して、最も整流比に優れる結果であった。詳細な理由は不明だが、波長制御IR乾燥を用いて作製した金属細線が、金属細線上の金属酸化物や金属硫化物の微小な結晶成長を抑制でき、表面平滑性に優れているためと推測している。
【0347】
また、有機EL素子117及び130〜133について、金属細線まで作製した段階で、金属細線の強度(基板と金属細線との密着性)をテープ剥離法により評価したところ、下地層を設けた有機EL素子130〜133は、有機EL素子117と比較して、金属細線パターンの剥離が少なく、基板と金属細線間の密着性に優れていた。
なお、密着性の評価は、具体的には、金属細線上にSTフィルム(パナック0.1N/25mm)を用いて圧着/剥離を10回繰り返し、金属細線パターンの脱落を目視観察して行った。また、透明導電層まで作製した有機EL素子117及び130〜133についても密着性評価を行ったところ、同様の結果が得られ、金属細線パターンの剥離が少なく、基板と金属細線間の密着性に優れていた。
【0348】
[実施例2]
実施例1の透明電極101〜133の作製において、ガスバリアー層を形成する前に、ガスバリアー層を形成する面とは反対側の面に、以下のようにして粒子含有層を形成したサンプルをそれぞれ作製した。
各サンプルについて、実施例1と同様にして、導電性及び整流特性について評価したところ、実施例1と同様の結果を得ることができた。
また、同一のサンプルを重ねて、透明電極同士が直接接触する状態としたときに、帯電や透明電極同士の固着を抑制できることが確認された。
【0349】
(粒子含有層の形成)
(1)コロイダルシリカ含有単量体の調製
溶媒として酢酸エチルを用いて分散したコロイダルシリカ(SiO成分30質量%、平均粒子径20nm、日産化学(株)製)130質量部に、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI、分子量155、昭和電工(株)製)30質量部と、触媒としてジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ(DBTDL)0.1質量部とを加えて、室温(25℃)で24時間撹拌した。赤外分光法(IR)によりイソシアネート基の反応の確認を行い、エバポレーターで溶媒である酢酸エチルを除去して、コロイダルシリカ含有単量体を得た。
【0350】
(2)粒子含有層調製液の調製
上記で製造したコロイダルシリカ含有単量体(不揮発分:36質量%)100質量部に、Li/CFSOのメチルエチルケトン溶液(不揮発分:50質量%、三光化学工業(株)製)5質量部を混合して撹拌した。開始剤としては、Irgacure907(BASFジャパン社製)1質量部を加え、粒子含有層調製液を調製した。
【0351】
(3)粒子含有層の形成
次に、樹脂基板上に、調製した粒子含有層調製液を、硬化後の厚さが10μmとなる条件で、塗布及び乾燥した。この後、80W/cmの水銀灯を用い、300mJの条件で紫外線照射処理を行い、粒子含有層を形成した。
【産業上の利用可能性】
【0352】
本発明は、導電性に優れ、かつ、有機電子デバイスに適用した際に整流特性に優れる透明電極の製造方法を提供することに、特に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0353】
1 透明樹脂基板
2 金属細線
3 透明導電層
4 下地層
5 ガスバリアー層
6 粒子含有層
10 透明電極
20 送出しローラー
30 第1成膜室
31 塗布部
32 乾燥部
33 硬化部
40 第2成膜室
41 印刷部
42 乾燥部
43 焼成部
50 第3成膜室
51 成膜部
60 巻取りローラー
100 製造装置
200 有機EL素子
210 発光ユニット
220 対向電極
図1
図2
図3
図4