(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802857
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】発電施設の化学制御システム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/02 20060101AFI20201214BHJP
G21D 3/08 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
G21C17/02 300
G21D3/08 G
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-551155(P2018-551155)
(86)(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公表番号】特表2020-514675(P2020-514675A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(86)【国際出願番号】RU2017000473
(87)【国際公開番号】WO2019004856
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2019年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】517197118
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー サイエンティフィック リサーチ アンド デザイン インスティテュート フォー エナジー テクノロジーズ アトムプロエクト
(73)【特許権者】
【識別番号】517423567
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“サイエンス アンド イノヴェーションズ”
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリスキー ウラジミール ゲオールギエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】プロホロフ ニコライ アレクサンドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラエフ ヒョードル ウラジーミロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】スチャシュキン パーベル セメノヴィチ
【審査官】
中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−098648(JP,A)
【文献】
特開平03−146900(JP,A)
【文献】
特開平03−179246(JP,A)
【文献】
特開平05−092798(JP,A)
【文献】
特表2012−513006(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0299115(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/02
G21D 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と化学試薬とを注入するアクチュエータを制御する中央コンピュータに出力端が接続された測定データ処理伝送装置へ電気的に接続された少なくとも1つの冷却材用電気化学センサーを備えた発電施設の化学制御システムであって、
前記電気化学センサーは流れ式であって、サンプリング管によって前記発電施設の処理系統へ接続された水力式入口と、冷却材の供給経路で第1熱交換器と第1絞り装置とへ直列に、かつ水力学的に接続された水力式出口とを含み、
前記サンプリング管は、冷却材のサンプルを冷却材用電気化学センサーへ送るように構成されており、
前記冷却材の供給経路は、前記第1絞り装置を経由する冷却材のサンプルの流れを反転できるように構成された管とバルブを有している
システム。
【請求項2】
前記電気化学センサーは、前記発電施設の1次処理系に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記電気化学センサーは、前記発電施設の2次処理系に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記電気化学センサーは、分極抵抗に対する流れ式センサーとして形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記電気化学センサーは、電気化学ポテンシャルに対する流れ式センサーとして形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
第2熱交換器と第2絞り装置との間、または当該絞り装置の下流に、溶存酸素センサー、溶存水素センサー、電気伝導度センサー、またはpHセンサーの少なくともいずれかを更に備え、
前記第2熱交換器は前記処理系統と水力学的に接続されており、
前記溶存酸素センサー、溶存水素センサー、電気伝導度センサー、またはpHセンサーの少なくともいずれかは、前記中央コンピュータへ出力端が接続された第2測定データ処理伝送装置と電気的に接続されている
ことを徴とする請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力産業に関し、特に、冷却水に対して化学的制御手段を利用する発電施設の設備の信頼性を確保する処理制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷式の原子炉を備えた原子炉発電施設(NPP)を含む発電施設は、高度に技術的で複雑な設備に関係している。これらの設備のエネルギー源が制御された核分裂反応である場合、発電施設の動作の安全性と信頼性との確保に、注意がより一層払われる。原子炉発電施設の1次と2次との循環系で必要な水質を維持することが、NPPの安全で、信頼のおける、費用効率の高い稼働を保証するための本質的な条件の1つである(非特許文献1参照)。化学制御システムは、処理経路の水媒体の定格のパラメータと診断に必要なパラメータとの測定値に基づいて、冷却水の化学的条件に関する最新情報を確実に受けるように設計されている。冷却水の化学的性質の指標の管理は、化学制御システムから得られるデータに基づいている。測定された水質の指標の範囲または構成により、現時点における処理経路中の冷却水の化学的条件と、これらの経路中にある設備の腐食とに関連する調査に十分な情報の取得が保証される。化学制御データの収集、処理、保管、および表示は、現在のハードウェア、ソフトウェア製品においてシステムレベルのアプリケーションによって確実に行われる(非特許文献2参照)。
【0003】
配管を監視して腐食から保護するある技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術は、配管と、2ないし8本の独立した制御流路と、防止剤注入用のアクチュエータとを備えている。各制御流路は、腐食測定変換器とセンサーインタフェース装置とを備えた腐食率センサーを含む。アクチュエータは、ディスペンサとディスペンサインタフェース装置とを含む。マイクロコントローラはシステムの各流路に集積されており、コンピュータによって情報を制御し、処理し、保管する装置に接続されている。
【0004】
この開示されたシステムの欠点は、発電施設、たとえばロシア型加圧水型原子炉(VVER)、加圧水型原子炉(PWR)の1次循環系と2次循環系とが設計上の出力で動作することに対する信頼性を、その動作が過渡状態、または清掃、動作不能、停電の状態においては保証しない点にある。このシステムには、配管の経路を比較した上で同じ発電施設内であっても、充填される媒体の状態と処理経路の水力学的特性とに関するパラメータが本質的には違うことが考慮されていない。
【0005】
水冷式の原子炉の冷却水に対するある化学制御システムが開示されている(特許文献2参照)。このシステムでは、電気化学ポテンシャルセンサーが冷却水の中に設置され、定電位電解装置(ポテンショスタット)に接続されている。この装置の出力端は、メモリユニットとモニタとを備えたコンピュータに接続されている。このコンピュータは、気体または化学試薬注入用のアクチュエータに接続されている。
【0006】
この開示されたシステムの欠点は、中性子線領域に直に置かれているだけでなく、蒸発が活発な領域にセンサーが配置されている点にある。周知のとおり、センサーの絶縁物質と導電性ワイヤーとを含む多くの物質は、中性子線に曝されると、物理的、機械的性質が変わる。開示されたシステムのセンサーが信頼性を保って動作する期間は明らかに、同様な設備がその限界を超えて動作する期間と比べても、中性子線領域の中のものよりも短い。また、センサーは、燃料の再充填を目的とする電力ユニットの停止期間でしか交換可能ではない。さらに、蒸発の活発な領域では、測定値、特に溶解した気体の濃度が大きく揺らぐ。これらの値を単に平均することは、水素と他の試薬との実際に注入されるべき量の過小評価につながる。これは、溶解した気体が泡へ移行し、試薬が腐食物に捕獲され、更に凝集して燃料の熱交換面の上に堆積することによる。結果的には、水素とその他の試薬との測定制御は、控えめに見ても、開示されたシステムのセンサーの出力値における分散に関する不確定さだけ過大評価となる。
【0007】
発電施設のある化学制御システムが開示されている。このシステムは、本発明によるものと最も多くの特徴が一致するので、プロトタイプとみなされる(特許文献3参照)。このプロトタイプのシステムでは冷却材用の電気化学センサーが炉心に設置されている。センサーは、潜在的な腐食を計算する目的で測定データ処理伝送装置へ接続されている。この装置の出力端は中央コンピュータシステムに接続されている。このシステムは、水素と化学試薬との注入用のアクチュエータを操作する。このシステムはまた、溶解酸素センサー、過酸化水素センサー、電気伝導度センサー、およびpHセンサーを含んでいてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】ロシア連邦特許第2200895号明細書
【特許文献2】特許第2581833号公報
【特許文献3】欧州特許第0661538号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】NP001-15 “General Safety Provisions for Nuclear Power Plants” at https://www.seogan.ru/np-001-15
【非特許文献2】STO 1.1.1.03.004.0980-2014 “Water Chemistry of the Primary Circuit during Commissioning of the Nuclear Power Plant Unit under AES2006 Project. Coolant Quality Standards and Supporting Means”. STO 1.1.1.03.004.0979-2014 “Water Chemistry of the Secondary Circuit during Commissioning of the Nuclear Power Plant Unit under AES-2006 Project. Working Medium Quality Standards and Supporting Means” at http://www.snti.ru/snips_rd3.htm
【非特許文献3】STO 1.1.1.02.013.0715-2009 “Water Chemistry of the Main Process Circuit and Auxiliary Systems of Nuclear Power Plants with RBMK-1000 Reactors” at http://www.snti.ru/snips_rd3.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に開示の冷却材用の電気化学センサーは、炉心内の位置が輸送のタイムラグ(サンプリング点からサンプルが出力されてからセンサーに捕らえられるまでの時間)を最小化する。この開示されたシステムの欠点は、炉心の強力な放射場という条件下でセンサーとシステムの要素との動作時間は、同様な装置が限界を超えて動作する時間よりも短く、センサーとシステムの要素との交換が、燃料の再充填を目的とする電力ユニットの停止期間でしか可能でない点である。システムのすべての要素は誘導放射能の高さにより、分極抵抗センサーの電極を含めて交換されるべきである。それらを交換する際にセンサーの表面状態の定期的な更新を同時に行うことは、腐食摩耗の予測の信頼性を低下させる。全体の腐食が時間の2乗で進む一方、媒体の腐食に関する性質は変わらずに残るからである。交換後の電極は表面の酸素膜が、長期間にわたって経路内の設備の表面上に形成されたものとは大きく異なり、冷却水の化学的性質が揺らぐ場合、その電極の応答機能は、量的な特性の選択と、冷却水のパラメータを最適化する手段の利用との具体化に対する信頼性が損なわれる。
【0011】
本発明の目的は、処理経路中の水媒体の定格パラメータと診断パラメータとを、発電状態、過渡状態、清掃、動作不能、停電のいずれの状態においても信頼のおける値に維持したまま、センサーを確実に長寿命化させる発電施設の化学制御システムを開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記の目的を解決する手段として、発電施設の化学制御システムは、水素と化学試薬とを注入するアクチュエータ用の中央プログラマブルコントローラ(CPC)に出力端が接続された測定データ処理伝送装置へ電気的に接続された少なくとも1つの冷却材用電気化学センサーを備えている。この電気化学センサーは流れ式であって、その水力式入口はサンプリング管によって発電施設の処理系統へ接続され、水力式出口は、冷却材の流れを反転させることの可能な供給経路で第1熱交換器と第1絞り装置とへ直列に、かつ水力学的に接続されている。
【0013】
電気化学センサーを炉心の放射線が極めて強い領域から除去することにより、センサーが長寿命化される。この場合、センサーを通過する冷却水のサンプルは、冷却水の温度を下げる第1熱交換器と、圧力と流量とを抑える絞り装置とを通して排水管へ排出される。冷却水サンプルの流量の低下を避けることにより、鉄の腐食生成物が絞り装置を緩やかに目詰まりさせて絞り装置の開口部の直径を狭めることに起因する輸送のタイムラグの延長を避ける目的で、絞り装置には、冷却材の流れを反転させることの可能な供給経路が設置される。この経路が電気化学センサーにおけるサンプルの一定の流量を維持する。この反転経路は、緊急遮断を含め、原子炉が(起動時、停止時の)過渡状態で稼働する際、すなわち発電ユニットの容量が変化する際には特に重要である。原子炉/蒸気発生器の出力変化またはポンプの切り換わりは、冷却水中の不溶物である腐食生成物の堆積量の増加を伴う。これらは静止状態では、表面の柔らかい、保護酸化膜にはくっつきにくい堆積物を形成する。この場合でも、反転可能な経路は電気化学センサーにおける一定流量のサンプルを確実に維持する。これにより、処理経路では、水媒体の定格パラメータと診断パラメータとの信頼のおける値が確実に得られる。
【0014】
電気化学センサーは、分極抵抗に対する流れ式センサーとして形成されていてもよい。
【0015】
電気化学センサーは、電気化学ポテンシャルに対する流れ式センサーとして形成されていてもよい。
【0016】
電気化学センサーは、発電施設の1次処理系に取り付けられていてもよい。
【0017】
電気化学センサーは、発電施設の2次処理系に取り付けられていてもよい。
【0018】
発電施設の化学制御システムは、第2熱交換器と第2絞り装置との間、またはこの絞り装置の下流に、溶存酸素センサー、溶存水素センサー、電気伝導度センサー、またはpHセンサーの少なくともいずれかを更に備えていてもよい。第2熱交換器は処理経路と水力学的に接続されている。
【0019】
発電施設のこの化学制御システムでは冷却材用の電気化学センサーが、様々な発電施設の処理経路に設置可能である。これらの施設には、沸騰水型原子炉(BWR)、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK)等の沸騰水式原子炉の循環系、PWR、VVERを備えたNPPの1次循環系、2次循環系、火力発電所の循環系が含まれる。しかし、以下では、あくまでも一例として、加圧水型軽水炉の1次循環系に対する発電施設の化学制御システムが検討される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】発電施設の化学制御システムを備えた加圧水型軽水炉の1次循環系の水力学的回路図を示す。
【
図2】発電施設の化学制御システムの電気回路図を示す。
【
図3】反転可能な冷却材の供給経路を備えた絞り装置の回路図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
化学制御システムを備えた発電施設の1次循環系(
図1参照。)は、加圧器(2)を含む原子炉圧力容器(1)、加熱された冷却水を蒸気発生器(4)へ供給するための配管(3)、蒸気発生器から冷却水を戻す配管(5)、主循環ポンプ(6)、そこから原子炉圧力容器(1)への配管(7)から成る。1次循環系の冷却水の化学的性質を管理するシステムは、原子炉圧力容器(1)を放出補給システムへ接続する出口管(8)と入口管(9)とを含む。放出補給システムは、再生熱交換器(10)、イオン交換フィルターに基づく冷却水浄化システム(11)、および補給ポンプ(12)から成る。原子炉圧力容器(1)は、サンプリング管(13)により流れ式センサー(14)へ水力学的に接続されている。このセンサーは冷却水の電気化学的指標を対象とするものであり、たとえば、分極抵抗センサー“S1”(15)と電気化学ポテンシャルセンサー“S2”(16)とを含む。これらのセンサーは第1熱交換器(17)および第1絞り装置(18)と直列に、水力学的に接続されている。第1絞り装置は、冷却水が反転可能な供給経路(19)を含む。S1(15)とS2(16)とは、それらの構造と動作条件とによって、直列(
図1に示されている。)にも並列にも接続可能である。第1絞り装置(18)は、たとえば、入口ノズルと出口ノズルとを含むハウジングとして形成可能である。このハウジングには絞り穴の集合が設置されている(図には示されていない)。第1絞り装置(18)の水力式出口は第1排水管(20)に接続されている。ユニット(14)である分極抵抗センサー“S1”(15)と電気化学ポテンシャルセンサー“S2”(16)とは第1測定データ処理伝送装置“U1”(21)と電気的に接続されている(
図2参照)。この装置は出力端が中央コンピュータCPC(22)、水素注入用アクチュエータ“AD1”(23)、および化学試薬注入用アクチュエータ“AD2”(24)に接続されている。CPC(22)はモニタ(25)を備えている。このモニタを通してオペレータが、発電ユニットの稼働中、測定データを視覚的に制御して管理上の決定を下す。S1(15)とS2(16)、第1熱交換器(17)、反転可能な経路(19)を含む第1絞り装置(18)、および測定データ処理伝送装置“U1”(21)は原子炉の密封経路の中に位置し、稼働時にはメンテナンスができない。発電施設の化学制御システムは、たとえば、溶解酸素センサー“S3”(26)、溶解水素センサー“S4”(27)、電気伝導度センサー“S5”(28)、およびpHセンサー“S6”(29)を含んでいても良い(
図1参照)。これらのセンサーは第2熱交換器(30)と第2絞り装置(31)との間に設置されている。第2絞り装置は構造が第1絞り装置(18)に従う(
図1参照)。その他に、これらのセンサーは第2絞り装置よりも下流側に設置されていても良い。S3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)は、これらの構造と動作条件とによって、(
図1に示されているように)並列接続であっても、直列接続であっても良い。第2熱交換器(30)の入口は、取り外されたサンプリング管(13)または(
図1に示されているように)別のサンプリング管(32)によって、原子炉圧力容器(1)へ水力学的に接続可能である。第2排水管(33)は、S3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)を通過した冷却水のサンプル用に設計されている。S3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)は、第2測定データ処理伝送装置“U2”(34)へ電気的に接続されている(
図2参照)。U2(34)の出力端は、中央コンピュータ(22)へ接続されている。S3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)は原子炉の密封経路の外側に位置するので、稼働中にもメンテナンス可能である。第2熱交換器(30)内でサンプルを冷やすことにより、低温で動作するセンサーS3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)にも許容可能な動作条件が得られる。さらに、第2絞り装置(31)との組み合わせにより、サンプル媒体の圧力を抑え、その流量を安定化させることができる。これにより、技術的要請に従って、使用済みのサンプルを第2排水管(33)へ排出することが確実に可能である。
図3は、第1絞り装置(18)が含む冷却水が反転可能な供給経路(19)を更に詳細に示す。この反転経路(19)は、冷却水のサンプルを反転可能に供給するための管(35、36)と、第1絞り装置(18)におけるサンプルの流れを確実に反転させるバルブ(37、38、39、40)とを含む。サンプルの流れが第1絞り装置(18)を通して第1排水管(20)へ向かう場合(
図1、
図2)、バルブ(37、38)が開き、バルブ(39、40)が閉じる。バルブ(37、38)が閉じ、バルブ(39、40)が開く場合、サンプルの反転流が第1絞り装置(18)を通る。
【0022】
この化学制御システムは次のように動作する。1次循環系の冷却水は、標準的なサンプリング点からサンプリング管(13)を通して、冷却水の電気化学的指標用流れ式センサーの1組(14)へ自動的に流れる。これらのセンサーには、分極抵抗センサーS1(15)と電気化学ポテンシャルセンサーS2(16)とが含まれる。サンプル流は第1熱交換器(17)と第1絞り装置(18)とを通る。第1絞り装置は、冷却水が反転可能な供給経路(19)を含む。この経路は第1絞り装置(18)の清掃に利用される。第1熱交換器(17)と第1絞り装置(18)とはサンプルに最適な温度、圧力、流量を与えて排水管(20)へ流す。S1(15)とS2(16)とからの信号は測定データ処理伝送装置U1(21)へ、更にCPC(22)へ送られる。同時に、使用中の冷却水が管(32)または管(13)を通して第2熱交換器(30)へ流れ、室温でS3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)を通る。これらのセンサーは、処理経路の媒体の性質に関連する定格パラメータと診断パラメータとを測定する。その後、サンプルの流れは第2絞り装置(31)を通り、排水管(33)へ入る。S3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)からの信号はU2(34)へ、更にCPC(22)へ送られる。CPC(22)では、S1(15)、S2(16)、S3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)の測定結果が処理されて、発電ユニットの稼働中、管理上の決定を正当化するのに利用される。時には、反転経路(19)のバルブ(37、38、39、40)を使ってサンプル流の方向を変えることにより、第1絞り装置(18)の内面が清掃され、表面にわずかに付着した鉄の腐食生成物が除去される。第1絞り装置(18)におけるサンプルの流量を定常状態における初期値の半分だけ減らして、その流れの方向を変えること、さらに、各過渡状態の終了時にはそれを制限することが推奨される。第1絞り装置(18)の通常の排水では、センサーS1(15)、S2(16)、S3(26)、S4(27)、S5(28)、S6(29)への輸送のタイムラグとサンプル流の安定性とを保つことができる。これにより、稼働中、過度状態、清掃中、動作不能状態、および停電状態において、処理経路中の水媒体の定格パラメータと診断パラメータとの信頼のおける値が確実に得られる。処理経路中の水媒体の定格パラメータと診断パラメータとの値を、充填されている媒体の腐食作用が最小限になるという条件によって選択し、それらの値をある限度内に維持することは、発電ユニットの安全な稼働に必要である。パラメータの値が設定された境界を超えて変位する場合には、その破れが所定時間内に修正されるように操作が行われる。処理経路におけるパラメータの測定値が変位する原因を除去することが所定時間内では不可能な場合には、発電ユニットを一時停止させ、または更なる稼働を中止するという決定がされる(非特許文献2参照)。
【0023】
以下、発電施設のこの化学制御システムの有効性について具体例を示す。このシステムは、発電施設の循環系を流れる冷却水の電気化学パラメータに対するセンサーを含む。これらは、熱交換器、および冷却水を反転可能な供給経路を含む絞り装置と複合体を形成している。
【0024】
例。腐食を監視する複合体の典型例は、(黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉)RBMK−1000を備えた発電ユニットの1つに取り付けられている。この発電ユニットは、循環系が単一の沸騰水型原子炉である。冷却材は軽水(H
2O)であり、複数の動力源に接続された循環系を流れる。動力源には、チャンネル式原子炉、タービン、および主循環ポンプが含まれる。この循環系の経路図は、
図1に示されているものと同様である(符号1、4、6参照)。自動サンプリングのしくみと、サンプルを発電施設の化学制御システムへ供給するしくみとのいずれも同様である(
図1の符号13、16−20参照)。化学制御システムの典型的な構成の第1候補は、電気化学ポテンシャルセンサーの電極、熱交換器/冷却器、および絞り穴の集合としての絞り装置を含む1つのセルで構成されていた。この集合は、圧力を8ないし0.15MPa低下させ、かつ冷却水のサンプルの流量を約20dm
3/hに維持するように設計されていた。電気化学ポテンシャルは典型的な測定変換器を用いて測定され、4−20mAの信号に変換された。この信号は記録システムへ送られ、典型的な記録図に記録された。冷却水の化学的性質は通常の文書(非特許文献3参照。)に従っていた。この性質を表すパラメータは発電中では次の範囲内で変化した:酸素濃度25−40μg/kg、水素濃度0−2μg/kg、鉄の腐食生成物の濃度7−10μg/kg、比電気伝導率0.08−0.27μS/cm。試運転の第1段階の間、通常出力での発電ユニットの稼働状態下では、サンプルの流量が低下した。複合体を流れる冷却水のサンプルは流量が200時間後には半分(10dm
3/h以下)だけ減り、800時間後には3dm
3/hまで減った。これは、サンプリング点からセンサーまでのサンプリング管の長さが10mである場合、輸送タイムラグが6倍、最長約5分まで延びることに相当する。輸送タイムラグの延長は、処理経路中の水媒体の定格パラメータと診断パラメータとの値の信頼性については負の効果である。冷却水のサンプルの流量は次の処理の結果、17−19dm
3/hまで回復した:動力源が複数の循環系から複合体を切り離す、複合体から絞り穴の集合を除去する、鉄の腐食生成物から成る堆積物を絞り穴の内面から機械的に除去する、絞り穴の集合を組み立てる、絞り穴の集合を複合体の水力学的回路へ取り付けて試運転する。サンプルの流量を定期的に監視すると、その流量は、試験の初期での値とほとんど同じ割合で次第に減っていた。複合発電設備の1つでは、複合サイクルにおけるガスタービンユニットのドラム形ボイラーへの給水用調整弁にも同様に、鉄の腐食生成物が磁化した鉄の酸化物として堆積物を形成することが記録された。バルブの堆積物を清掃することが、少なくとも月に1度は必要であった。これらの欠点を除去する目的で複合体の水力学的経路が更新され、冷却水を反転可能な供給経路が、
図3に示されている絞り装置と同様な装置に配置された。更新後の複合体は、発電ユニットが定格出力の状態で、起動期間(48−144時間)から停止期間(48−100時間)までの間の長時間(短くとも5000時間)の試験運転が可能であった。この間、水質測定器の値は次の範囲内で変化した:酸素濃度25−140μg/kg、水素濃度0−4μg/kg、鉄の腐食生成物の濃度20−100μg/kg、比電気伝導率0.28−0.77μS/cm。絞り装置において冷却水の流れの方向をタイミング良く切り換えることにより、流量を測定値の信頼性に関する許容範囲内15−18dm
3/hに維持することができた。