(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802867
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】温度を表示する歯内充填材料
(51)【国際特許分類】
A61K 6/54 20200101AFI20201214BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20201214BHJP
A61K 6/68 20200101ALI20201214BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20201214BHJP
【FI】
A61K6/54
A61K6/60
A61K6/68
A61K6/70
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-32353(P2019-32353)
(22)【出願日】2019年2月26日
(62)【分割の表示】特願2017-552480(P2017-552480)の分割
【原出願日】2016年4月6日
(65)【公開番号】特開2019-73565(P2019-73565A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2019年3月14日
(31)【優先権主張番号】62/143,919
(32)【優先日】2015年4月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バーガー,トッド
(72)【発明者】
【氏名】バラッツ,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ヴァスール,ジャクリン
【審査官】
榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−210305(JP,A)
【文献】
国際公開第99/027895(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0004071(US,A1)
【文献】
国際公開第2008/008184(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/182570(WO,A1)
【文献】
特開平11−228329(JP,A)
【文献】
特開昭58−124710(JP,A)
【文献】
特開2002−205909(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0194895(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0281241(US,A1)
【文献】
米国特許第06602516(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/90
A61C 13/00−13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガッタパーチャ成分と第1の温度表示成分と第2の温度表示成分とを含む、歯根管を充填するための組成物であって、
前記第1の温度表示成分および前記第2の温度表示成分は、互いに異なる少なくとも2つの温度範囲で温度表示をもたらし、
前記第1の温度表示成分は、約40〜約50℃の温度に達すると色を変化させ、前記第2の温度表示成分は、約60〜約70℃の温度に達すると色を変化させ、
前記温度表示成分は、サーモクロミック染料または酸化ビスマスである、
組成物。
【請求項2】
前記ガッタパーチャ成分が1,4−ポリイソプレンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第1の温度表示成分がサーモクロミック染料である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記サーモクロミック染料が前記組成物の約1重量%〜約70重量%という量で存在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記第1の温度表示成分がサーモクロミック染料であり、前記第2の温度表示成分が酸化ビスマスである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
温められると表面に浮き出て前記組成物に光沢のある表面を生じさせるワックスをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
放射線不透過剤をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2015年4月7日に出願された米国仮出願第62/143,919号の非仮出願である。
【0002】
技術分野
本発明は歯内充填材料に関する。より具体的には、本発明は、温度変化の指標として色の変化を示す充填材料に関する。
【背景技術】
【0003】
ガッタパーチャ(パラキウム(Palaquium))は、台湾から南はマレー半島および東はソロモン諸島に至るまでの東南アジアおよび北オーストラリアに固有の熱帯樹の属である。同じ用語が、これらの樹木の樹液から(特に、種パラキウム・グッタ(Palaquium gutta)から)生産される非弾性の天然ラテックスを指すために使用される。化学的には、ガッタパーチャは、ポリテルペン、イソプレンのポリマー、またはポリイソプレン、具体的には(トランス−1,4−ポリイソプレン)、である。公知のガッタパーチャ組成物およびその特定の使用の例は、例えば特許出願公開WO2014182570A1に開示されており、これは、そのような開示のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
ガッタパーチャは生物学的に不活性であるため、ガッタパーチャは人体内での使用に適している。ガッタパーチャは、様々な歯科用途において使用されている。1900年代には、この材料は、空洞を充填するために使用された。1900年代初めには、この材料は、根管治療において使用された。ガッタパーチャは、それが徐々に代替材料に取って代わられた20世紀途中になっても主力のままであった。バラタ(balata)と呼称される、より安価な類似の天然材料がガッタパーチャの代わりに使用されることが多い。この2種の材料は、ほぼ同一であり、バラタは、ガッタバラタ(gutta-ballata)と呼称されることがある。簡潔にするために、このような材料は全て、本開示の目的上、用語「ガッタパーチャ」に包含されることになる。
【0005】
根管治療を受けた後に歯根内部の空隙を充填するか埋めるのに使用される材料は、歯科分野において「合成物(synthetic)」と呼称されることが多い。需要が増加し、天然材料の利用可能性が低下するにつれて、合成物は、より容易に利用できるようになった。限定されるものではないが、その不活性と生体適合性、融点および可鍛性を含む、その物理的特性および化学的特性により、合成物は、歯内治療学において使用される重要な材料となっている。やはり簡潔にするために、合成物も、本明細書では用語「ガッタパーチャ」に包含される。従来の根管充填材料のいずれも、本明細書では用語「ガッタパーチャ」の範囲内に属するということが理解されるであろう。
【0006】
ガッタパーチャ(より具体的にはトランス−1,4,ポリイソプレン)は元々、根管を充填するための低温材料として使用された。この材料は、円錐形の先端となるように丸められて根管を充填した。シーラントの使用を追加して、この先端の周囲の空隙を充填した。最終的に、材料が加熱された。加熱された(融解した)ガッタパーチャが流動して根管内の空隙および空洞を充填した。加熱は、三次元的に充填すること、空隙が実質的に存在しないことを可能にしたため、好ましかった。加熱されたガッタパーチャの使用により、温度、流速および粘着性など、新規の調整可能なパラメータが導入された。
【0007】
根管を充填する際、加熱されたガッタパーチャは通常、2つの方法のうちの一方によって供給される。それは、電子的供給装置を用いて配置できるか、または歯内治療用キャリア(endodontic carrier)上に配置できる。これらの方法は両方とも、それを熱い状態で根管内に供給し、これらの方法は両方とも、従来、金属充填機または歯内治療用キャリアのいずれかを用いた圧縮を必要とする。さらに、これらの方法は、材料が圧縮に理想的な温度の範囲内にあることを必要とする。
【0008】
現在、歯科医師または歯内治療医師は、ガッタパーチャが配置のための正しい温度に加熱されているかどうかを判定するために、表面の見た目または手袋をはめた指で触れた際の感触に依存している。医師は、ガッタパーチャを見れば、材料が加熱されているかどうかが分かるが(材料がより「膨らんだ状態(plump)」になることが多い)、それが現在正しい温度であるかどうかは分からない。材料が熱すぎれば、材料が上手く配置されない可能性があり、根管は適切に充填されないであろう。同様に、材料が冷たすぎれば、材料は流動しないか適切に配置されないであろう。医師が材料を根管内に配置しようと試みても、それが空隙を充填しないか根管を完全には充填しないことを見出すであろう。
【0009】
本発明はこれらの難点を克服し、容易な配置を可能にするとともに温度の推定を手順から実質的に省くであろう正確なリアルタイムの温度の指標を医師に与える。これにより、材料が適切に配置され、歯内治療学的に準備された根管を要求通りに充填することが保証されるであろう。
【発明の概要】
【0010】
発明の開示
本発明によれば、歯根管を充填するためのガッタパーチャ組成物は、温度表示成分を含む。この成分は、例えば、ロイコ染料(Leuco dye)であってよい。ガッタパーチャ組成物はトランス1−4,ポリイソプレンを含んでよく、温度表示添加物は、ガッタパーチャ組成物の約1重量%〜約70重量%という量で存在する。ガッタパーチャ組成物はまた、放射線不透過剤(radiopacifier)を含んでもよい。
【0011】
本発明の別の実施形態において、歯根管を充填するための組成物は、異なる温度範囲を表示する2つの異なる温度表示成分を含む。2つの異なる温度表示成分は、例えば、ロイコ染料および酸化ビスマスであってよい。
【0012】
本発明のさらなる実施形態において、温度表示成分は、表面に浮き出るワックスであって温かい時にガッタパーチャに光沢のある表面を生じさせるワックスであってよい。このような材料は、異なる温度を表示する染料または酸化ビスマスなどの第2の温度表示成分と共に使用されてよい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための好ましい実施形態
本発明によれば、相対的な色表示によって材料の現在の温度を表示する歯内充填材料が提供される。医師は自身の指でガッタパーチャに触れてガッタパーチャが熱くて柔らかいことを確認することが多いということが観察されたため、本発明の温度表示材料は、充填装置と共に使用するために開発された。オーブンまたは他の従来の加熱方法もしくは加熱装置がガッタパーチャを適切に加熱したという証明を提供すること、および準備された根管内にガッタパーチャを挿入する前に異物または細菌によるガッタパーチャのいかなる不必要な汚染も避けることが望まれた。
【0014】
温度を表示するガッタパーチャは、DENTSPLY SIRONA(York, PA)から入手可能であるThermafil gutta−perchaなどの他の従来の充填材料と同じ物理的特性および熱的特性を有するユニークな調合物である。これらのガッタパーチャ材料は、アルファ相プロセス(alpha phase process)が完了すると、良好な粘着性および流動性を有する。アルファ相プロセスは、高温(115〜160℃)で長時間(8〜12時間)焼くことである。多くの標準的なガッタパーチャ調合物は分離し、さらにはこれらの温度において褐色の油を生じる。残ったガッタパーチャ自体は脆くなる。
【0015】
本発明によれば、ガッタパーチャは、分離することも褐色の油を生じることもなくアルファ相プロセスを乗り切り、ガッタパーチャは脆くならない。アルファ相プロセスの後の本発明のガッタパーチャ材料の熱的特性は変化している。メルトフローは劇的に(180℃において5g以下/10分から50g超/10分に)増加する。従来の材料に対しての変更点には、以下の調合物のセクションで示される特定の比率の加工助剤が包含される。
【0016】
本発明の材料の別の発明的特徴は、温度表示特性である。以下は、これらのガッタパーチャ調合物の実施例である。
【実施例】
【0017】
実施例1:従来のガッタパーチャ材料において使用される放射線不透過剤の大部分を酸化ビスマスに置き換える。
標準的なガッタパーチャでは、酸化亜鉛および硫酸バリウムを使用して6mmAl(アルミニウムのmm)という放射線不透過性を生じさせる。酸化ビスマスは、良好な放射線不透過剤であることが知られている。しかし、酸化ビスマスはまた、温度の指示薬でもある。低温において、酸化ビスマスは弱い黄色である。高温において、酸化ビスマスは鮮やかな黄色である。
【0018】
実施例2:従来の着色剤をサーモクロミック染料に置き換える。
標準的なガッタパーチャでは赤色着色剤を使用して、標準的でよく知られているピンク色をそれに与えることが多い。本発明において使用されるサーモクロミック染料は、特定の温度において有色から透明に変化するように設計されている。それらのサーモクロミック染料は、好ましくは、40〜50℃および60〜70℃という2つの温度範囲に分けられる。これらの温度範囲は、ガッタパーチャ充填材料には理想的である。ガッタパーチャは、約42℃で融解し始める。40〜50℃の染料は、ガッタパーチャが融解したことを示し、60〜70℃の染料は、ガッタパーチャが、融解に必要とされるよりも遥かに熱いということを示す。
【0019】
色:
【表1】
【0020】
別の例示的な調合物を以下の表1に示す。
【表2】
【0021】
まず、トランス−14−ポリイソプレンを130℃のオーブン内で7.5時間焼く。その後、焼いたポリイソプレンを少なくとも24時間冷却した。ポリイソプレンを71℃のオーブン内に30分間入れた後、ポリイソプレンを球に成形し、オーブン内に戻した。30分後、ポリイソプレンをオーブンから取り出し、60℃に設定して加熱された2本ロールミル上に置いた。その後、ミル上のポリイソプレンに少しずつ酸化亜鉛を添加した。酸化亜鉛を全て組み込んだら、材料を少なくとも5回、クロスカットした。その後、酸化亜鉛と同じ方法でQCR TP047K(47C Black Thermo)を添加した。それを全て添加したら、着色剤を完全に混ぜ込むために、再度、調合物を少なくとも5回、クロスカットした。その後、少なくとも3回、調合物に荷重(pigged)した後、ミルから取り出し、リリースライナーで覆われた平面上に置いて、少なくとも24時間、冷却した。
【0022】
その後、表1で作製された材料を、呼び径1mmおよび長さ14mmのペレットにした。その後、ペレットをキャリアに適用した。このプロセスを用いて、完成した充填物を作製できる。
【0023】
上記の実施例で作製したペレットをカートリッジに装填し、DENTSPLY International(York, PA)から入手可能であるCalamusブランドの充填装置などの充填装置において使用することもできる。
【0024】
表1は、本発明の実施例を提示する。表2は、同様の機能を有するいくつかの実施例を提示する。
【0025】
【表3】
【0026】
実施例1は既に説明されている。実施例2は、材料が温かくて柔らかい時を識別するだけでなく、材料が熱すぎて粘性が低すぎる可能性がある時も識別するというユニークな特性を有する。この材料は、60℃付近でバスカラー(bas color)である。47℃〜69℃では、この材料は、ロイコ染料 69℃の色である。そして、ガッタパーチャは、最適な特性を伴う最適な温度である。この材料が47℃未満まで冷えると、色は、ロイコ染料 47℃とロイコ染料 69℃との混合(赤と青=紫)に変化する。
【0027】
実施例3は、酸化ビスマスも温度変化を表示し、放射線不透過剤としての役割も兼ねるということを説明している。
【0028】
実施例4は、浮き出たワックスの融解によってガッタパーチャが加熱されるということを示す。これは、表面にガラスのような見た目をもたらすであろう。
【0029】
従って、望ましい発明的な特徴を有する歯内充填材料が本発明によって提供されたということは明らかである。本発明は、単に例示を目的とするに過ぎない実施例および説明によって本明細書で特徴付けられている。