(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記メタセシス重合触媒が一般式(5)又は一般式(6)で表される化合物である、請求項2に記載のノルボルネン系架橋重合体の絶縁材料としての使用。
【化1】
(一般式(5)において、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、NR
12、PR
12又はAsR
12であり、R
12は、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基;であり、R
1及びR
2は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよく、
X
1は、任意のアニオン性配位子を示し、
L
1は、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表し、
R
1、R
2、X
1及びL
1は、それぞれ単独で、及び/又は任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよく、
R
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、又は炭素数6〜20のヘテロアリール基であり、R
7及びR
8は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよく、
R
9、R
10及びR
11は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基;であり、R
9、R
10及びR
11は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【化2】
(一般式(6)において、mは、0又は1であり、
Qは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、メチレン基、エチレン基又はカルボニル基であり、
【化3】
は、単結合又は二重結合であり、
R
1は、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基;であり、R
1は、置換基を有していてもよく、
X
1及びX
2は、それぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を示し、
L
1は、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表し、
R
1、X
1、X
2及びL
1は、それぞれ単独で、及び/又は任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよく、
R
13〜R
21は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基;であり、R
13〜R
21は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のノルボルネン系架橋重合体は、ジシクロペンタジエン系単量体単位、テトラシクロドデセン系単量体単位及びトリシクロペンタジエン系単量体単位からなる群から選択される少なくとも1種を50質量%以上含有してなり、ガラス転移温度(Tg)が240℃以上というものである。
【0008】
本発明において、ジシクロペンタジエン系単量体単位、テトラシクロドデセン系単量体単位及びトリシクロペンタジエン系単量体単位とは、各々の単量体を開環重合して得られる単位をいう。
【0009】
本発明において、ジシクロペンタジエン系単量体とは、ジシクロペンタジエン、またはその構造中の水素の一部が置換基で置換された3環体の化合物である。テトラシクロドデセン系単量体とは、テトラシクロドデセン、またはその構造中の水素の一部が置換基で置換された4環体の化合物である。トリシクロペンタジエン系単量体とは、トリシクロペンタジエン、またはその構造中の水素の一部が置換基で置換された5環体の化合物である。
【0010】
これらの単量体は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜5のアルキル基;ビニル基等の炭素数2〜5のアルケニル基;エチリデン基等の炭素数1〜5のアルキリデン基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基等の置換基を有していてもよい。
更に、これらの単量体は、置換基として、水酸基、エステル基(−C(O)O−)、エーテル基(−O−)、エポキシ基、シアノ基、ハロゲン原子等の極性基を有していてもよい。
特に、用いる単量体が、水酸基、エポキシ基およびシアノ基などの極性基を有すると、本発明のノルボルネン系架橋重合体を、例えば、パワー半導体などの封止材料として用いる場合、封止対象である半導体素子との密着性が向上し、絶縁性能が充分に発揮されるため好適である。
【0011】
ジシクロペンタジエン系単量体の具体例としては、ジシクロペンタジエン、2−メチルジシクロペンタジエン、2,3−ジメチルジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロキシジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンモノエポキシド、ビニルノルボルネン、及び5−エチリデンノルボルネンなどが例示される。
【0012】
テトラシクロドデセン系単量体の具体例としては、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、及びメタノテトラフルオロフルオレンなどが例示される。
【0013】
トリシクロペンタジエン系単量体の具体例としては、3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-4,9:5,8-ジメタノ-1H-ベンゾ[f]インデン及び1,4:4a,4b,5,8,8a,9a-オクタヒドロ-1,4:5,8-ジメタノ-1H-フルオレン(これらの慣用名はいずれもトリシクロペンタジエン)、並びにトリシクロペンタジエンモノエポキシドなどが例示される。
【0014】
本発明に用いられる単量体としては、吸湿性が低く、高強度の重合体が得られることから、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-4,9:5,8-ジメタノ-1H-ベンゾ[f]インデン、及び1,4:4a,4b,5,8,8a,9a-オクタヒドロ-1,4:5,8-ジメタノ-1H-フルオレンが特に好ましい。
以上の単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0015】
本発明のノルボルネン系架橋重合体は、ジシクロペンタジエン系単量体単位、テトラシクロドデセン系単量体単位及びトリシクロペンタジエン系単量体単位からなる群から選択される少なくとも1種を50質量%以上含有してなるものであるが、該重合体の耐熱性をより向上させる観点から、その含有量としては、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%である。
本発明のノルボルネン系架橋重合体としては中でも、耐熱性と絶縁性とをバランス良く向上させる観点から、トリシクロペンタジエン系単量体単位を、50質量%以上含有してなるものが好ましく、60〜100質量%含有してなるものがより好ましく、70〜100質量%含有してなるものが特に好ましい。
本発明のノルボルネン系架橋重合体は、例えば、後述する製造方法により製造されるが、重合反応の際に気泡が発生し、得られる重合体中に気泡が含まれることがある。重合体中に気泡が存在すると、その絶縁性が低下する。意外にも、トリシクロペンタジエン系単量体を多く含む配合物を用いて重合反応を行った場合、気泡の発生が抑制され、そのようにして得られる重合体の中でも、特にトリシクロペンタジエン系単量体単位を上記範囲で含有する、本発明のノルボルネン系架橋重合体には気泡が実質的に含まれないことから、耐熱性と絶縁性とがバランス良く向上するものと推定される。
【0016】
なお、本発明のノルボルネン系架橋重合体は、ジシクロペンタジエン系単量体単位、テトラシクロドデセン系単量体単位又はトリシクロペンタジエン系単量体単位以外に、ジシクロペンタジエン系単量体、テトラシクロドデセン系単量体又はトリシクロペンタジエン系単量体と共重合可能なその他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体単位の含有量としては、高い耐熱性を維持する観点から、40質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。その他の単量体としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、及びシクロドデセン等の単環の環状オレフィンが挙げられる。
【0017】
本発明のノルボルネン系架橋重合体は、後述するように、前記した、ジシクロペンタジエン系単量体、テトラシクロドデセン系単量体及びトリシクロペンタジエン系単量体からなる群から選択される少なくとも1種を塊状開環重合すると共に架橋して得られるが、そのガラス転移温度(Tg)は240℃以上であり、従来のノルボルネン系架橋重合体に比べて非常に高い。これまで、ノルボルネン系単量体を塊状開環重合させると、重合反応と共に充分な架橋が生じ、重合後の加熱は、得られた重合体を劣化させることはあれ、なんらの利点もないと考えられていたところ、意外にも、得られた重合体をさらに所定温度で加熱することで、より一層架橋が進行するものと推定され、予想外に高いガラス転移温度を有するノルボルネン系架橋重合体が得られた。本発明のノルボルネン系架橋重合体のガラス転移温度としては、好ましくは250℃以上、より好ましくは270℃以上である。なお、ガラス転移温度は高いほど好ましいが、通常、その上限は330℃程度である。
【0018】
なお、本発明のノルボルネン系架橋重合体のガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DMA)の引っ張りモードにて、室温から昇温レート5℃/min、測定周波数1Hzの条件下でtanδを測定し、tanδが最大値をとる温度として求めることができる。前記装置としては、例えば、セイコーインスツル株式会社製、製品名「DMS6100」を用いることができる。
【0019】
本発明のノルボルネン系架橋重合体は絶縁材料として好適に用いられるが、中でも、トリシクロペンタジエン系単量体単位を50質量%以上含有してなるものは、通常、測定温度23℃での1分間耐電圧が60kV/mm以上、好ましくは70kV/mm以上であり、高耐熱性を有すると共に優れた絶縁性を有しており、例えば、パワー半導体の封止材料として非常に好適に用いられる。当該1分間耐電圧の上限としては通常、100kV/mm程度である。
なお、1分間耐電圧は後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0020】
本発明のノルボルネン系架橋重合体は、上記した、ジシクロペンタジエン系単量体、テトラシクロドデセン系単量体及びトリシクロペンタジエン系単量体からなる群から選択される少なくとも1種と、メタセシス重合触媒と、を含有してなる配合物を、前記メタセシス重合触媒の失活温度未満の温度で加熱して一次硬化させる工程(1)、並びに工程(1)により得られた硬化物を前記メタセシス重合触媒の失活温度以上の温度で加熱して二次硬化させる工程(2)を含む方法によって効率よく製造することができる。なお、配合物には、前記したその他の単量体が含まれていてもよい。
【0021】
工程(1)において用いられる配合物には、上記の単量体成分とともに、メタセシス重合触媒が含有される。
【0022】
前記の通り、トリシクロペンタジエン系単量体単位を50質量%以上含有する、本発明のノルボルネン系架橋重合体では、耐熱性と絶縁性とがバランス良く向上する。かかる重合体を効率的に製造する観点から、前記配合物としては、それに含まれる全単量体中、トリシクロペンタジエン系単量体を通常、50質量%以上、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%含有するものが好適に用いられる。なお、配合物に含まれる各単量体の組成と、得られるノルボルネン系架橋重合体中の各単量体単位の組成とは、実質的に同じである。
【0023】
本発明において用いられるメタセシス重合触媒は、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオンおよび/または化合物が結合してなる錯体である。遷移金属原子としては、第5,6および8族(長周期型周期表、以下同様)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、第6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。これら遷移金属原子の中でも、第8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。すなわち、本発明に使用されるメタセシス重合触媒としては、ルテニウム又はオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。ルテニウムカルベン錯体は、塊状開環重合時の触媒活性に優れるため、得られる重合体には未反応のモノマーに由来する臭気が少なく、生産性良く良質な重合体が得られる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。
【0024】
ルテニウムカルベン錯体としては、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【0026】
上記一般式(1)及び(2)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。R
1及びR
2が互いに結合して環を形成した例としては、フェニルインデニリデン基などの、置換基を有していてもよいインデニリデン基が挙げられる。
【0027】
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数2〜20のアルキニルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜8のアルキルチオ基、カルボニルオキシ基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数1〜20のアルキルスルフィニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホン酸基、炭素数6〜20のアリールスルホン酸基、ホスホン酸基、炭素数6〜20のアリールホスホン酸基、炭素数1〜20のアルキルアンモニウム基、及び炭素数6〜20のアリールアンモニウム基等を挙げることができる。これらの、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、及び炭素数6〜10のアリール基等を挙げることができる。
【0028】
X
1及びX
2は、それぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を示す。アニオン性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、ハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0029】
L
1及びL
2は、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。ヘテロ原子含有カルベン化合物及びヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ化合物である。触媒活性向上の観点からヘテロ原子含有カルベン化合物が好ましい。ヘテロ原子とは、周期律表第15族及び第16族の原子を意味し、具体的には、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ヒ素原子、及びセレン原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子、及び硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。
【0030】
前記ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記一般式(3)又は(4)で示される化合物が好ましく、触媒活性向上の観点から、下記一般式(3)で示される化合物が特に好ましい。
【0032】
上記一般式(3)及び(4)中、R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20個の有機基;を表す。ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0033】
また、R
3、R
4、R
5及びR
6は任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0034】
なお、本発明の効果がより一層顕著になることから、R
5及びR
6が水素原子であることが好ましい。また、R
3及びR
4は、置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、置換基として炭素数1〜10のアルキル基を有するフェニル基がより好ましく、メシチル基が特に好ましい。
【0035】
前記中性電子供与性化合物としては、例えば、酸素原子、水、カルボニル類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、イミン類、芳香族類、環状ジオレフィン類、オレフィン類、イソシアニド類、及びチオシアネート類等が挙げられる。
【0036】
上記一般式(1)及び(2)において、R
1、R
2、X
1、X
2、L
1及びL
2は、それぞれ単独で、及び/又は任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0037】
また、本発明で用いるルテニウムカルベン錯体としては、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物の中でも、本発明のノルボルネン系架橋重合体の耐熱性と絶縁性とをバランス良く向上させる観点から、上記一般式(1)で表される化合物が好ましく、中でも、以下に示す一般式(5)又は一般式(6)で表される化合物であることがより好ましい。かかる化合物をメタセシス重合触媒として用いることで重合反応が適度に進行して気泡の発生が抑制され、本発明のノルボルネン系架橋重合体の耐熱性と絶縁性とがバランス良く向上するものと推定される。
【0040】
上記一般式(5)中、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、NR
12、PR
12又はAsR
12であり、R
12は、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基;であるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、Zとしては酸素原子が好ましい。
【0041】
なお、R
1、R
2、X
1及びL
1は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様であり、それぞれ単独で、及び/又は任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成しても良いが、X
1及びL
1が多座キレート化配位子を形成せず、かつ、R
1及びR
2は互いに結合して環を形成していることが好ましく、置換基を有していてもよいインデニリデン基であることがより好ましく、フェニルインデニリデン基であることが特に好ましい。
【0042】
また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子又は珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0043】
上記一般式(5)中、R
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、又は炭素数6〜20のヘテロアリール基で、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基又は炭素数6〜10のアリール基を挙げることができ、環を形成する場合の環は、芳香環、脂環およびヘテロ環のいずれであってもよいが、芳香環を形成することが好ましく、炭素数6〜20の芳香環を形成することがより好ましく、炭素数6〜10の芳香環を形成することが特に好ましい。
【0044】
上記一般式(5)中、R
9、R
10及びR
11は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0045】
R
9、R
10及びR
11は、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であることが特に好ましい。
【0046】
なお、上記一般式(5)で表わされる化合物の具体例及びその製造方法としては、例えば、国際公開第03/062253号(特表2005−515260)に記載のもの等が挙げられる。当該化合物の触媒失活温度は、通常、230℃以下である。
【0049】
上記一般式(6)中、mは、0又は1である。mは1が好ましく、その場合、Qは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、メチレン基、エチレン基又はカルボニル基であり、好ましくはメチレン基である。
【0051】
は、単結合または二重結合であり、好ましくは単結合である。
【0052】
R
1、X
1、X
2及びL
1は、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様であり、それぞれ単独で、及び/又は任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成しても良いが、X
1、X
2及びL
1が多座キレート化配位子を形成せず、かつ、R
1は水素原子であることが好ましい。
【0053】
R
13〜R
21は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子又は珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)の場合と同様である。
【0054】
R
13は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、R
14〜R
17は、好ましくは水素原子であり、R
18〜R
21は、好ましくは水素原子又はハロゲン原子である。
【0055】
なお、上記一般式(6)で表わされる化合物の具体例及びその製造方法としては、例えば、国際公開第11/079799(特表2013−516392)に記載のもの等が挙げられる。当該化合物の触媒失活温度は、通常、230℃以下である。
【0056】
メタセシス重合触媒の使用量は、反応に使用する全単量体1モルに対して、好ましくは0.01ミリモル以上であり、より好ましくは0.1〜50ミリモル、さらに好ましくは0.1〜20ミリモルである。
【0057】
配合物は、上記の単量体成分及びメタセシス重合触媒以外のその他の成分を含有するものであってもよく、このようなその他の成分としては、活性剤、重合遅延剤、充填材、ラジカル発生剤、改質剤、老化防止剤、着色剤、光安定剤、及び難燃剤などが挙げられる。
【0058】
活性剤は、上述したメタセシス重合触媒の共触媒として作用し、上述したメタセシス重合触媒の重合活性を向上させる化合物である。このような活性剤としては、特に限定されないが、その具体例としては、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド、アルコキシアルキルアルミニウムハライド等の有機アルミニウム化合物;テトラブチル錫等の有機スズ化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジメチルモノクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、テトラクロロシラン、ビシクロヘプテニルメチルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、ジヘキシルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、メチルトリクロロシラン等のクロロシラン化合物;等が挙げられる。
【0059】
活性剤の使用量は、特に限定されないが、メタセシス重合触媒1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは1モル以上であり、使用量の上限は、好ましくは100モル以下、より好ましくは20モル以下である。活性剤の使用量が少なすぎると、重合活性が低くなりすぎて、反応に要する時間が長くなるため生産効率が低下し、逆に、使用量が多すぎると、反応が激しくなり過ぎてしまい、所望の重合体が得難くなる傾向がある。
【0060】
重合遅延剤は、単量体成分とメタセシス重合触媒とを混合して配合物を調製する際、その調製中に重合が開始してしまうことを抑制するためのものである。このような重合遅延剤としては、ホスフィン類、ホスファイト類、ビニルエーテル誘導体、エーテル、エステル、ニトリル化合物、ピリジン誘導体、アルコール類、アセチレン類及びα−オレフィン類などが挙げられる。
【0061】
重合遅延剤の使用量は、特に限定されないが、メタセシス重合触媒100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、5000質量部以下であり、より好ましくは15〜1800質量部であり、より好ましくは50〜900質量部、さらに好ましくは150〜500質量部である。
【0062】
充填材としては、特に限定されないが、例えば、アスペクト比が5〜100の繊維状充填材や、アスペクト比が1〜2の粒子状充填材が挙げられる。また、これら繊維状充填材と粒子状充填材を組み合わせて用いることもできる。
【0063】
繊維状充填材の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、塩基性硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、テトラポット型酸化亜鉛、石膏繊維、ホスフェート繊維、アルミナ繊維、針状炭酸カルシウム、針状ベーマイトなどを挙げることができる。なかでも、少ない添加量で剛性を高めることができ、しかも塊状開環重合反応を阻害しないという点より、ウォラストナイトが好ましい。
【0064】
粒子状充填材の具体例としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、グラファイト、酸化アンチモン、赤燐、各種金属粉、クレー、各種フェライト、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。これらの中でも、塊状開環重合反応を阻害しないので、シリカ、アルミナおよび水酸化アルミニウムが好ましい。
【0065】
また、上記充填材は、その表面を疎水化処理したものであることが好ましい。疎水化処理した充填材を用いることにより、配合物中における充填材の凝集・沈降を防止でき、また、得られる重合体中における充填材の分散を均一にすることができる。疎水化処理に用いられる処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸、油脂、界面活性剤、ワックス等を挙げることができる。なお、充填材の疎水化処理は、配合物を調製する際に、前記処理剤を充填剤と同時に混合することによっても可能である。
【0066】
配合物中の充填材の配合量は、用いる全単量体成分100質量部に対して、10〜1000質量部であることが好ましく、100〜500質量部であることがより好ましい。充填材の配合量を上記範囲とすることにより、得られる重合体の強度を高めることができる。
【0067】
ラジカル発生剤としては、公知の、有機過酸化物、ジアゾ化合物及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられる。中でも、有機過酸化物が好ましい。
【0068】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;などが挙げられる。メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類が好ましい。
配合物中のラジカル発生剤の配合量としては、通常、用いる全単量体成分100質量部に対して、0.5〜2.0質量部である。
【0069】
その他の改質剤等も公知であり、所望量を配合物に適宜配合して用いることができる。
【0070】
配合物は、公知の方法に従い、メタセシス重合触媒、ジシクロペンタジエン系単量体、テトラシクロドデセン系単量体及びトリシクロペンタジエン系単量体からなる群から選択される少なくとも1種、及び所望により、その他の単量体及び/又はその他の成分を混合することにより、調製することができる。なお、配合物は、室温において、用いる単量体成分の融点に従い、固体状又は液状を示す。
【0071】
また、配合物は、冷却固化してなるものであってもよい。「冷却固化」とは、冷却下に固めることを意味する。かかる配合物は、例えば、以下の2つの方法により調製することができる。
【0072】
第1の方法では、予め凝固点以下に冷却して固形状とした単量体成分と、メタセシス重合触媒と、所望により添加されるその他の成分とを、該単量体成分が実質的に融解しない温度下で冷却しながら混合し、得られた混合物を、例えば、打錠機やプレス成形機にて冷却下に加圧成形して冷却固化することにより、配合物を調製する。各成分を混合する際の温度は、用いる単量体成分にもよるが、通常、25℃以下が好ましい。
【0073】
第2の方法では、液状の単量体成分と、メタセシス重合触媒と、所望により添加されるその他の成分とを、得られる混合物が液状を保つ温度下で混合し、単量体成分の塊状開環重合が実質的に進行する前に、例えば、後述の成形型を利用して冷却固化することにより、配合物を調製する。各成分を混合する際の温度は、用いる単量体成分にもよるが、通常、30〜60℃が好ましい。
なお、いずれの方法においても、冷却固化する際の冷却温度としては、用いる単量体成分にもよるが、通常、−60〜0℃が好ましい。
【0074】
工程(1)では、配合物をメタセシス重合触媒の失活温度未満の温度で加熱して一次硬化させる。メタセシス重合触媒の失活温度は、個々の触媒の種類によって異なるが、供給業者の取り扱い説明書を参照することにより、あるいは実験的に求めることができる。また、複数のメタセシス重合触媒を用いる場合、失活温度が最も低い触媒が、失活温度の対象となる。工程(1)では、使用するメタセシス重合触媒の失活温度よりも好ましくは10℃低い温度、より好ましくは20℃低い温度、さらに好ましくは30℃低い温度で加熱する。工程(1)における加熱温度の具体的な温度範囲としては、通常、25℃以上、220℃未満であり、25〜210℃が好ましく、60〜200℃がより好ましい。一次硬化のための加熱時間としては、通常、1秒〜20分、好ましくは10秒〜5分である。
【0075】
配合物を一次硬化させる際、単量体成分が塊状開環重合すると共に架橋反応が進行し、硬化物が得られる。
【0076】
工程(1)において、配合物を一次硬化させる方法に限定はないが、例えば、(a)配合物を支持体上に塗布し、次いで塊状開環重合する方法、(b)配合物を成形型の空間部に注入又は載置し、次いで塊状開環重合する方法、(c)配合物を繊維状強化材に含浸させ、次いで塊状開環重合する方法などが挙げられる。
【0077】
(a)の方法によれば、フィルム状、板状等の硬化物が得られる。該硬化物の厚みは、通常15mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。
支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、及びナイロンなどの樹脂からなるフィルムや板;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などの金属材料からなるフィルムや板;などが挙げられる。なかでも、樹脂フィルム又は金属箔の使用が好ましい。これら樹脂フィルム又は金属箔の厚さは、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。
【0078】
支持体上に配合物を塗布する方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0079】
支持体上に塗布された配合物を所望により乾燥させ、次いで加熱して塊状開環重合させる。加熱方法としては、加熱プレート上に支持体に塗布された配合物を載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、熱したローラーを押圧する方法、加熱炉を用いる方法などが挙げられる。
【0080】
(b)の方法によって得られる硬化物の形状は、成形型により任意に設定できる。例えば、フィルム状、柱状、その他の任意の立体形状などが挙げられる。
本方法においては、用いるメタセシス重合触媒が活性剤(共触媒)を必要とするものであるか否かにより、以下の2つの方法により、配合物の調製を行うのが好ましい。
【0081】
すなわち、用いるメタセシス重合触媒が活性剤を必要としないものである場合には、単量体成分を含有するプレ配合物(i)と、メタセシス重合触媒を含有するプレ配合物(ii)とを混合すればよい。プレ配合物(ii)は、例えば、メタセシス重合触媒を少量の適当な溶媒に溶解又は分散して調製することができる。当該溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類などが挙げられる。
【0082】
一方、メタセシス重合触媒が活性剤を必要とするものである場合には、単量体成分とメタセシス重合触媒とを含有するプレ配合物(以下、「A液」という場合がある。)と、単量体成分と活性剤とを含有するプレ配合物(以下、「B液」という場合がある。)と、を混合すればよい。この際、単量体成分のみからなるプレ配合物(以下、「C液」という場合がある。)を併用してもよい。
【0083】
なお、その他の成分を配合する場合、当該成分は、任意のプレ配合物に配合することができる。
【0084】
配合物を成形型の空間部に注入又は載置し、次いで塊状開環重合する方法としては、例えば、RIM成形法、RTM法、ポッティング法、(固体、液体)トランスファー成形法、圧縮成形法、印刷成形法、真空注型法などが挙げられる。以下、配合物が液状である場合に好適に用いられるRIM成形法について説明する。
【0085】
RIM成形法では、配合物を成形型内で塊状開環重合させるために、通常、反応射出成形(RIM)装置として、公知の衝突混合装置を用いる。衝突混合装置に、前記の通りの、2以上のプレ配合物〔プレ配合物(i)及びプレ配合物(ii)、又は「A液」、「B液」及び「C液」〕を、それぞれ別個に導入すると、ミキシングヘッドで瞬間的に混合されて配合物が調製され、この配合物はそのまま成形型内に注入され、当該型内で加熱されて塊状開環重合が生じ、硬化物が得られる。なお、衝突混合装置に代えて、ダイナミックミキサーやスタティックミキサー等の低圧注入機を使用することも可能である。
【0086】
前記成形型としては、特に限定されないが、通常、雄型と雌型とで形成される割型構造の型を用いるのが好ましい。また、用いる型は、必ずしも剛性の高い高価な金型である必要はなく、樹脂製の型などを用いることができる。金型の材質としては、特に限定されないが、スチール、アルミニウム、亜鉛合金、ニッケル、銅、クロム等が挙げられ、鋳造、鍛造、溶射、電鋳等のいずれの方法で製造されたものでもよく、また、メッキされたものであってもよい。
【0087】
成形型の温度としては、好ましくは10〜150℃、より好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃である。型締め圧力は通常0.01〜10MPaの範囲である。塊状開環重合の時間は適宜選択すればよいが、プレ配合物の注入終了後、通常1秒〜20分、好ましくは10秒〜5分である。
【0088】
塊状開環重合の終了後、成形型を型開きして脱型することにより、硬化物を得ることができる。
【0089】
本発明のノルボルネン系架橋重合体の製造方法は、工程(1)の一次硬化を行って得られる硬化物を、工程(2)において、用いたメタセシス重合触媒の失活温度以上の温度で加熱して二次硬化させることを大きな特徴の一つとする。かかる二次硬化を行うことにより、意外にも、得られる重合体のガラス転移温度が大きく上昇し、得られるノルボルネン系架橋重合体の耐熱性が大きく向上することになる。
【0090】
工程(2)では、工程(1)で得られた硬化物を、用いたメタセシス重合触媒の失活温度以上の温度で加熱して二次硬化させる。
工程(2)における硬化物の加熱は、使用したメタセシス重合触媒の失活温度よりも、好ましくは60℃高い温度、より好ましくは70℃高い温度、さらに好ましくは80℃高い温度で行う。工程(2)における加熱温度の具体的な温度範囲としては、通常、250℃以上、350℃未満、好ましく280〜330℃、より好ましくは300〜310℃である。
また、工程(2)における硬化物の加熱時間としては、通常、10〜120分間、好ましくは20〜90分間、より好ましくは30〜60分間である。
【0091】
以上により、本発明のノルボルネン系架橋重合体を得ることができる。本発明のノルボルネン系架橋重合体は、ガラス転移温度が240℃以上という耐熱性に非常に優れた性質を有する。このような本発明のノルボルネン系架橋重合体は、他の機械物性(例えば、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度)を良好に保ちながら、優れた耐熱性を有するものであり、このような特性を生かし、バンパーやエアデフレクター等の自動車用途、ホイルローダーやパワーショベル等の建設・産業機械用途、ゴルフカートやゲーム機等のレジャー用途、医療機器等の医療用途、大型パネルや椅子等の産業用途、シャワーパンや洗面ボウル等の住宅設備用途などに用いることができる。また、本発明のノルボルネン系架橋重合体は高耐熱性を有する絶縁材料として好適であり、電気絶縁封止材や電気絶縁構造物等の電気絶縁用途等に用いることができる。特に、トリシクロペンタジエン系単量体単位を50質量%以上含有してなる、本発明のノルボルネン系架橋重合体は、非常に耐熱性に優れると共に絶縁性に優れており、自動車等のエンジンカバー用途や、パワー半導体などの封止材料といった電気絶縁用途など、高い耐熱性や絶縁性が要求される用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。なお、「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0093】
実施例1
(触媒液の調製)
メタセシス重合触媒として、下記式(7)で示すルテニウム触媒(VC843、分子量843、Strem Chemicals社製)0.6部、及び2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT、老化防止剤)15部をシクロペンタノン82部に溶解させ、次いで、3,4−ジメチルピリジン2.2部、及びフェニルトリクロロシラン0.1部を混合することで、触媒液を得た。
【0094】
なお、上記ルテニウム触媒の失活温度を実験的に求めたところ、220℃であった。当該実験は、DSC(示差走査熱量測定装置)にて昇温レート10℃/minで測定を行い、その発熱ピークから求めることが出来る。
【0095】
【化6】
【0096】
(サンプル板の成形)
単量体として、40℃に加温したジシクロペンタジエン(分子量132.2)100部に、重合遅延剤としてトリフェニルホスフィン0.5部、及び上記にて調製した触媒液3.3部を添加し、これらを混合して配合物(固体状)を調製した。なお、用いた全単量体1モルに対するメタセシス重合触媒の使用量は0.03ミリモルであった。
【0097】
金型として、内部に縦250mm×横200mm×厚さ0.5mmの空間を有するアルミニウム製雌型を準備し、上記にて得られた配合物を金型上に置き、縦250mm×横200mmの金属板を雌型に被せ、工程(1)としてプレス成形機にて温度70℃、圧力5M
Paにて5分間加熱することで塊状開環重合反応を行って硬化物を得た〔工程(1)〕。
【0098】
上記反応後、直ちに金型温度を300℃まで加熱し、300℃を1時間維持して二次硬化を行い〔工程(2)〕、ノルボルネン系架橋重合体を得た。
【0099】
得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.05であり、ガラス転移温度は259℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0100】
なお、上記評価は、引張強度(JIS K7161)、曲げ強度及び曲げ弾性率(JIS K7171)、並びにアイゾット衝撃強度(JIS K7110)の各方法に従って行った。
【0101】
比較例1
工程(2)における加熱温度を300℃から200℃に変更したこと以外は実施例1と同じ条件でノルボルネン系架橋重合体を製造した。得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.04であり、ガラス転移温度は142℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0102】
実施例2
ジシクロペンタジエンの代わりにテトラシクロドデセン(分子量160.3)を用いた以外は実施例1と同様にしてノルボルネン系架橋重合体を得た。なお、用いた全単量体1モルに対するメタセシス重合触媒の使用量は0.04ミリモルであった。
【0103】
得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.05であり、ガラス転移温度は267℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0104】
比較例2
工程(2)における加熱温度を300℃から200℃に変更したこと以外は実施例2と同じ条件でノルボルネン系架橋重合体を製造した。得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.05であり、ガラス転移温度は213℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0105】
実施例3
ジシクロペンタジエンの代わりにトリシクロペンタジエン(分子量198.3)を用いた以外は実施例1と同様にしてノルボルネン系架橋重合体を得た。なお、用いた全単量体1モルに対するメタセシス重合触媒の使用量は0.05ミリモルであった。
【0106】
得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.06であり、ガラス転移温度は281℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0107】
比較例3
工程(2)における加熱温度を300℃から200℃に変更したこと以外は実施例3と同じ条件でノルボルネン系架橋重合体を製造した。得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.03であり、ガラス転移温度は231℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0108】
実施例4
(プレ配合物)
反応射出成形用プレ配合物として、
A液:RIMTEC社製、商品名「PENTAM(登録商標)A液」
Moを中心原子とするメタセシス重合触媒と、
ジシクロペンタジエンを主成分とする単量体成分と、からなる。
B液:RIMTEC社製、商品名「PENTAM(登録商標)B液」
活性剤と、
ジシクロペンタジエンを主成分とする単量体成分と、からなる。
を用いた。
なお、上記A液に含まれるメタセシス重合触媒の失活温度を、実施例1と同様にして実験的に求めたところ、220℃であった。
【0109】
(サンプル板の成形)
内部に縦500mm×横500mm×厚さ4mmの空間を有する鋳鋼にメッキをかけた雌型と、これと対をなす鍛造アルミニウム製雄型からなる平板成形品反応射出成形用金型を準備し、雌型を75℃、雄型を40℃に加温した。
なお、この反応射出成形用金型は、側面中央部に配合物注入孔を有する構造となっている。
【0110】
A液50部及びB液50部をミキシングヘッド内で混合圧力5M
Paで衝突混合させ、得られた配合物(液状)を、注入速度0.5kg/sで前記注入孔より反応射出成形用金型内に注入し、塊状開環重合反応を90秒間行ない、硬化物を得た〔工程(1)〕。
その後、金型温度を300℃まで加熱し、300℃を1時間維持して二次硬化を行い〔工程(2)〕、ノルボルネン系架橋重合体を得た。
【0111】
得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.06であり、ガラス転移温度は244℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0112】
比較例4
工程(2)における加熱温度を300℃から200℃に変更したこと以外は実施例4と同じ条件でノルボルネン系架橋重合体を製造した。得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.05であり、ガラス転移温度は145℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1より、実施例及び比較例の両方において、工程(1)における加熱温度はメタセシス重合触媒の失活温度未満として硬化物を得たが、実施例では、その後の工程(2)において、該失活温度以上の温度で加熱することにより、得られたノルボルネン系架橋重合体のガラス転移温度が大きく上昇したことが分かる。
【0115】
実施例5
ジシクロペンタジエンの代わりに、トリシクロペンタジエン80部とジシクロペンタジエン20部とからなる混合物を用いた以外は実施例1と同様にしてノルボルネン系架橋重合体を得た。なお、用いた全単量体1モルに対するメタセシス重合触媒の使用量は0.05ミリモルであった。
【0116】
得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.06であり、ガラス転移温度は281℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。また、該重合体中における気泡の存在の有無の確認、および該重合体の1分間耐電圧(23℃)の測定を行った。結果を表2に示す。
【0117】
比較例5
工程(2)における加熱温度を300℃から200℃に変更したこと以外は実施例5と同じ条件でノルボルネン系架橋重合体を製造した。得られたノルボルネン系架橋重合体の比重は1.03であり、ガラス転移温度は231℃であった。そして、得られたノルボルネン系架橋重合体について、23℃における、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及びアイゾット衝撃強度の測定をそれぞれ行った。また、該重合体中における気泡の存在の有無の確認、および該重合体の1分間耐電圧(23℃)の測定を行った。結果を表2に示す。
【0118】
なお、気泡の存在の有無の確認は、得られたノルボルネン系架橋重合体を目視観察し、内部の気泡の存在の有無を確認することにより行った。1分間耐電圧の測定はJIS−C2110−1(2010)に従って行った。具体的には、ノルボルネン系架橋重合体からなる厚さ0.2mmの膜を電極間に形成し、測定温度23℃にて、電極間で短絡(ショート)するまで電圧の昇圧と1分間の電圧保持を繰り返し、その際、電圧を測定し、短絡するまでの電圧の最大値を膜厚で除することにより求めた。なお、ノルボルネン系架橋重合体からなる膜は、本発明のノルボルネン系架橋重合体の製造方法に従って電極間に形成した。
【0119】
【表2】
【0120】
表2より、用いた全単量体中、トリシクロペンタジエン系単量体が80%含まれる配合物を用い、工程(2)においてメタセシス重合触媒の失活温度以上の温度で二次硬化することにより得られた、実施例5のノルボルネン系架橋重合体では、同じ配合物を用いたが、工程(2)においてメタセシス重合触媒の失活温度未満の温度で二次硬化することにより得られた、比較例5のノルボルネン系架橋重合体と比べ、1分間耐電圧はほぼ同程度であったが、ガラス転移温度が大きく上昇していることが分かる。