(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802908
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置を運転するための制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1761 20060101AFI20201214BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
B60T8/1761
B60T13/74 D
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-510660(P2019-510660)
(86)(22)【出願日】2017年6月8日
(65)【公表番号】特表2019-524554(P2019-524554A)
(43)【公表日】2019年9月5日
(86)【国際出願番号】EP2017063942
(87)【国際公開番号】WO2018036675
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2019年2月21日
(31)【優先権主張番号】102016215698.5
(32)【優先日】2016年8月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー,パトリック クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ゲルデス,マンフレッド
【審査官】
山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】
特表2016−529157(JP,A)
【文献】
特開2012−250709(JP,A)
【文献】
特開2008−239142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
B60T 13/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置(12)のための制御装置(10)であって、
電子回路装置(14)を有していて、該電子回路装置(14)は、電気機械式のブレーキ倍力装置(12)によって生ぜしめようとする目標ブレーキ圧(ptarget)に関連した目標値(ptarget,Fsupport)を、ブレーキシステムのブレーキ操作部材の操作によって調節可能な運転者制動力伝達部材と電気機械式のブレーキ倍力装置(12)によって調節可能な倍力装置力伝達部材との間の差分ストローク(ΔS)に関連した、少なくとも1つの提供されたセンサ信号(16)を少なくとも考慮して決定し、かつ電気機械式のブレーキ倍力装置(12)を前記決定された目標値(ptarget,Fsupport)を考慮して制御するために設計されている形式のものにおいて、
前記電子回路装置(14)が、少なくともブレーキシステム内で実行されるアンチロック制御中に、追加的に、前記差分ストローク(ΔS)が所定の通常値範囲外にあるかどうかを算出するために設計されていて、少なくとも前記差分ストローク(ΔS)が前記所定の通常値範囲外にある限り、前記決定された目標値(ptarget)と、前記ブレーキシステムの少なくとも部分体積内にある実際圧力(psensor)に関連する提供された実際値(psensor)との間の少なくとも差分(Δp)を考慮して、前記目標値(ptarget,Fsupport)のための修正値(Δptarget)を決定し、かつ前記決定された修正値(Δptarget)を追加的に考慮して前記電気機械式のブレーキ倍力装置(12)を制御するために設計されており、
少なくとも実行されるアンチロック制御中で、前記差分ストローク(ΔS)が前記所定の通常値範囲外にある限り、前記電子回路装置(14)は、前記決定された目標値(ptarget)と前記実際値(psensor)との間の差分(Δp)が、所定の最短時間(τ)の間、所定の最大偏差内で変化するかどうかを算出し、前記差分(Δp)が少なくとも前記所定の最短時間(τ)の間、所定の最大偏差内で変化する限りにおいてのみ、前記目標値(ptarget,Fsupport)のための前記修正値(Δptarget)を少なくとも前記差分(Δp)を考慮して決定するために設計されている、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置(12)のための制御装置(10)。
【請求項2】
前記制御装置(10)が記憶装置(22)を有していて、該記憶装置(22)に、前記差分(Δp)に依存する前記修正値(Δptarget)のための特性曲線(k)が記憶されており、前記電子回路装置(14)は、前記目標値(ptarget,Fsupport)のための前記修正値(Δptarget)を少なくとも前記差分(Δp)および記憶された前記特性曲線(k)を考慮して決定するために設計されていることを特徴とする、請求項1記載の制御装置(10)。
【請求項3】
前記記憶装置(22)に記憶された、前記差分(Δp)の値のための前記特性曲線(k)が、所定の第1の限界値(Δpmin)および所定の第2の限界値(Δpmax)内でゼロに等しい、請求項2記載の制御装置(10)。
【請求項4】
車両のためのブレーキシステムにおいて、
請求項1から3までのいずれか1項記載の制御装置(10)と、
電気機械式のブレーキ倍力装置(12)と、
アンチロック制御を実行可能な少なくとも1つのブレーキ圧変換ユニットと、
を有している、車両のためのブレーキシステム。
【請求項5】
アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置(12)を運転するための方法であって、
前記電気機械式のブレーキ倍力装置(12)によって生ぜしめようとする目標ブレーキ圧(ptarget)に関連した目標値(ptarget,Fsupport)を、少なくとも前記ブレーキシステムのブレーキ操作部材の操作によって調節された運転者制動力伝達部材と前記電気機械式のブレーキ倍力装置によって調節された倍力装置力伝達部材との間の差分ストローク(ΔS)を考慮して決定するステップと、
決定された前記目標値(ptarget,Fsupport)を考慮して前記電気機械式のブレーキ倍力装置(12)を制御するステップと、
を有する方法において、
少なくとも前記ブレーキシステム内で実行されるアンチロック制御中に、前記差分ストローク(ΔS)が所定の通常値範囲外にあるかどうかを算出し、前記差分ストローク(ΔS)が前記所定の通常値範囲外にある限り、追加的なステップを実行し、
前記目標値(ptarget,Fsupport)のための修正値(Δptarget)を、決定された目標値(ptarget)と、前記ブレーキシステムの少なくとも部分体積内にある実際圧力(psensor)に関連した実際値(psensor)との間の少なくとも差分(Δp)を考慮して決定し、
前記電気機械式のブレーキ倍力装置(12)を、決定された前記修正値(Δptarget)を追加的に考慮し、
少なくとも実行される前記アンチロック制御中で、前記差分ストローク(ΔS)が前記所定の通常値範囲外にある限り、前記目標値(ptarget)と前記実際値(psensor)との間の前記差分(Δp)が少なくとも所定の最短時間(τ)の間、所定の最大偏差内で変化するかどうかを算出し、前記差分(Δp)が少なくとも前記所定の最短時間(τ)の間、前記所定の最大偏差内で変化する限りにおいてのみ、前記目標値(ptarget,Fsupport)のための前記修正値(Δptarget)を少なくとも前記差分(Δp)を考慮して決定する、
ことを特徴とする、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置(12)を運転するための方法。
【請求項6】
少なくとも実行される前記アンチロック制御中で、前記差分ストローク(ΔS)が前記所定の通常値範囲外にある限り、前記決定された目標値(ptarget)と、前記ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダ内の、実際値(psensor)としてのマスタブレーキシリンダ内圧に関連した実際値(psensor)との間の少なくとも差分(Δp)を考慮して、前記目標値(ptarget,Fsupport)のための前記修正値(Δptarget)を決定する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも実行される前記アンチロック制御中で、前記差分ストローク(ΔS)が前記所定の限界差分ストロークを越える限り、前記目標値(ptarget,Fsupport)のための前記修正値(Δptarget)を、少なくとも前記差分(Δp)および、前記差分(Δp)に依存する前記修正値(Δptarget)のための所定の特性曲線(k)を考慮して決定する、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記目標値(ptarget,Fsupport)のための前記修正値(Δptarget)を決定するための特性曲線(k)として、前記差分(Δp)の値を所定の第1の限界値(Δpmin)および所定の第2の限界値(Δpmax)内でゼロに割り当てる特性曲線(k)を使用する、請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置のための制御装置に関する。同様に、本発明は車両のためのブレーキシステムに関する。さらに、本発明は、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置を運転するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気機械式のブレーキ倍力装置並びにこのブレーキ倍力装置を運転するための方法および装置が記載されている。電気機械式のブレーキ倍力装置を開ループ制御/閉ループ制御するために、このブレーキ倍力装置のモータが、電気機械式のブレーキ倍力装置を搭載したブレーキシステムの入力ロッドと電気機械式のブレーキ倍力装置の倍力装置体との間の差分ストロークを決定するための差分ストロークセンサの信号を用いて制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国実用新案登録第202010017605号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明は、請求項1の特徴を有する、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置のための制御装置、請求項5の特徴を有する、車両のためのブレーキシステム、および請求項6の特徴を有する、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置を運転するための方法を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、電気機械式のブレーキ倍力装置(例えばiBooster等)の従来の欠点を避けるための可能性を提供する。このような電気機械式のブレーキ倍力装置は、その比較的高い伝達比および比較的大きい伝動装置摩擦に基づいて、一般的に高い保持能力を有しており、従って従来技術によれば、隣接するマスタブレーキシリンダ内および/またはこのマスタブレーキシリンダに接続された少なくとも1つのマスタブレーキシリンダ管路内の高い圧力にフレキシブルに反応することが全く/ほとんどできない。特に、アンチロック制御(ABS制御)の場合、しばしば比較的短時間の間に比較的多くのブレーキ液体積が少なくとも1つのポンプによって、接続されたマスタブレーキシリンダの方向にポンプピングされ、これによって、マスタブレーキシリンダおよびこのマスタブレーキシリンダに接続された少なくとも1つのマスタブレーキシリンダ管路が圧力にさらされる。大抵の場合、運転者はマスタブレーキシリンダに接続されたブレーキ操作部材(例えばブレーキペダル)の操作によって同時に、さらにマスタブレーキシリンダ内に制動力を発生させ、この場合、運転者は電気機械式のブレーキ倍力装置の相応の運転によって、力的に支援される。従って、従来では電気機械式のブレーキ倍力装置の運転は、従来技術によればブレーキシステムを損傷させ得る「マスタブレーキシリンダ内および/または少なくとも1つのマスブレーキシリンダ管路内での不都合な圧力上昇」をもたらす。しかしながら、本発明は、電気機械式のブレーキ倍力装置の運転を、ちょうど実行されるアンチロック制御に適合させるための可能性を提供する。この場合、本発明は、ブレーキシステム内の圧力を上昇させるために電気機械式のブレーキ倍力装置によって比較的高い倍力装置力がもたらされる/もたらされるべきときにだけ、電気機械式のブレーキ倍力装置の運転を、実行されるアンチロック制御に適合させる必要がある、ということを考慮する。従って、実行されるアンチロック制御に電気機械式のブレーキ倍力装置の運転を不必要に適合/低下させることに基づく過少制動を、これが不必要な状況では甘受する必要はない。
【0006】
従って、本発明は、アンチロック制御を実行するためのブレーキシステムの過少制動または過負荷を阻止するために役立つ。本発明によって過少制動が回避されたことにより、運転者はその車両を、アンチロック制御中においてもより迅速に制動し/停止状態にもたらすことができる。しかも、ブレーキシステムの過負荷が回避されたことによってブレーキシステムの耐用年数が上昇し、修理コストが節約される。
【0007】
本発明のその他の利点は、電気機械式のブレーキ倍力装置の運転を、実行されるアンチロック制御に必要に応じて適合させることが、電気機械式のブレーキ倍力装置の算出された/推定された倍力装置力を考慮して行われるのではなく、運転者制動力伝達部材と倍力装置力伝達部材(若しくは差分ストロークに関連した少なくとも1つのセンサ信号)との間の差分ストロークを考慮して行われる、という点にある。倍力装置力の算出された/推定された値はしばしば公差を含んでいるのに対して、差分ストローク(若しくは差分ストロークに関連した少なくとも1つのセンサ信号)は、通常は、比較的公差なしに算出/推定される。
【0008】
制御装置の好適な実施例によれば、電子回路装置は、少なくとも実行されるアンチロック制御中で、差分ストロークが所定の通常値範囲外にある限り、決定された目標値と実際値との間の差分が、少なくとも所定の最短時間だけ、大きくても所定の最大偏差で変化するかどうかを算出するために設計されている。差分が少なくとも所定の最短時間だけ所定の最大偏差で変化する限りにおいてのみ、電子回路装置は、目標値のための修正値を少なくとも差分を考慮して決定するために設計されている。これによって、制御装置のこの実施例は、短時間発生する差分に基づく不必要な干渉を避けるために、差分の“zeitliche Filterung「時間フィルタリング」”を提供する。
【0009】
これに対して選択的にまたは補足的に、制御装置は記憶装置を有していて、この記憶装置に、差分に依存する修正値のための特性曲線が記憶されている。場合によっては、電子回路装置は、目標値のための修正値を、少なくとも差分および記憶された特性曲線を考慮して決定するために設計されている。
【0010】
例えば、記憶装置に記憶された、差分の値のための特性曲線は、所定の第1の限界値および所定の第2の限界値内でゼロに等しくてよい。従って、差分は所定の低い差分範囲内で許容されるので、運転者は、マスタブレーキシリンダ内で生ぜしめられる圧力をさらにその運転者制動力によって制御/変化させることができる。
【0011】
前記利点は、このような形式の制御装置を備えた車両のためのブレーキシステム、電気機械式のブレーキ倍力装置、およびアンチロック制御を実行することができる少なくとも1つのブレーキ圧変換ユニットにおいても保証されている。
【0012】
さらに、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置を運転するための、対応する方法の実行も前記利点を提供する。この方法は、制御装置の前記実施例に従ってさらに改良可能であることを明確に指摘しておく。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1a】アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置を運転するための方法の1実施例を説明するフローチャートである。
【
図1b】アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置を運転するための方法の1実施例を説明する構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のその他の特徴および利点を以下に図面を用いて説明する。
【0015】
図1aおよび
図1bは、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置を運転するための方法の1実施例を説明するフローチャートおよび構造図を示す。
【0016】
ここに記載した方法によって運転される電気機械式のブレーキ倍力装置とは、電動機を備えたブレーキ倍力装置であると解釈される。好適な形式で、電気機械式のブレーキ倍力装置は、マスタブレーキシリンダの少なくとも1つのピストンが電気機械式のブレーキ倍力装置のモータの運転によって調節可能/調節されるように、アンチロック制御を実行するために設計されたブレーキシステムのマスタブレーキシリンダに前方接続されており、それによって、マスタブレーキシリンダ内のマスタブレーキシリンダ内圧が上昇可能/上昇される。電気機械式のブレーキ倍力装置は特に“iBooster「電気液圧式ブースタ」”であってよい。しかしながら、ここに記載した方法の実施可能性は、電気機械式のブレーキ倍力装置の所定の型式に限定されるものではない、ということを指摘しておく。同様に、以下に記載した方法の実施可能性は、電気機械式のブレーキ倍力装置を搭載したブレーキシステムの特別なブレーキシステム型式にも、また電気機械式のブレーキ倍力装置を装備した車両/自動車の特別な車両型式/自動車型式にも限定されない。
【0017】
方法ステップS1で、電気機械式のブレーキ倍力装置によってもたらそうとする目標ブレーキ圧p
targetに関連した目標値p
targetが決定される。
図1aおよび
図1bの例では、目標値p
targetとして目標ブレーキ圧p
targetが(電気機械式のブレーキ倍力装置によって加えようとする相応の目標倍力装置力F
supportと共に)決定される。しかしながら、目標ブレーキ圧p
targetの代わりに、電気機械式のブレーキ倍力装置によってもたらそうとする目標ブレーキ圧p
targetに関連した別の値も目標値p
targetとして方法ステップS1で決定されてよい、ということを指摘しておく。
【0018】
目標値p
targetの決定は、ブレーキシステムのブレーキ操作部材の操作によって(このブレーキシステムを搭載した車両/自動車の運転者による)調節可能/調節された運転者制動力伝達部材と、電気機械式のブレーキ倍力装置(のモータ)によって調節可能/調節された倍力装置力伝達部材との間の差分ストロークΔSを少なくとも考慮して行われる。差分ストロークΔSは、(ブレーキ操作部材の操作によってもたらされた)運転者制動力伝達部材の調整ストロークと、(電気機械式のブレーキ倍力装置のモータによってもたらされた)倍力装置力伝達部材の移動ストロークとの間の差/差異と表現してもよい。運転者制動力伝達部材とは、ブレーキ操作部材の操作によってもたらされた運転者制動力をマスタブレーキシリンダの少なくとも1つのピストンに伝達可能な、電気機械式のブレーキ倍力装置/ブレーキシステムの構成部材であると解釈されてよい。運転者制動力伝達部材は、例えば入力ロッドであってよい。相応に、倍力装置力伝達部材とは、電気機械式のブレーキ倍力装置のモータによってもたらされた(実際)倍力装置力をマスタブレーキシリンダの少なくとも1つのピストンに伝達可能な、電気機械式のブレーキ倍力装置/ブレーキシステムの構成部材であると解釈されてよい。特に倍力装置力伝達部材は、電気機械式のブレーキ倍力装置の弁体(valve body)および/または倍力装置体(boost body)であってよい。
【0019】
しかしながら、ここに記載された方法では、少なくともブレーキシステムで実行されるアンチロック制御中に方法ステップS2も実行される。方法ステップS2では、差分ストロークΔSが所定の通常値範囲/通常ブレーキ強さ範囲外にあるかどうかが算出される。通常値範囲/通常ブレーキ強さ範囲は、運転者がそのブレーキシステムのホイールブレーキシリンダ内で比較的低い/小さいブレーキ圧(若しくはその車両/自動車の比較的小さい制動/減速)を要求する走行状態における差分ストロークΔSのための値を有している。これにより、方法ステップS2によって、実行されるアンチロック制御中に運転者が比較的高いブレーキ圧または比較的強い制動/減速(例えばフルブレーキ)を要求する走行状態が検知され得る。
【0020】
運転者が、実行されるアンチロック制御中に比較的低いブレーキ圧だけを要求する場合、運転者は例えばブレーキペダルを軽く踏み込むだけであり、従って、同時に実行されるアンチロック制御に基づいてマスタブレーキシリンダおよび/またはこのマスタブレーキシリンダに結合された少なくとも1つのマスタブレーキシリンダ管路内に高い圧力が発生することを考慮する必要はほとんどない。従って、高い圧力/圧力ピークによるブレーキシステムの損傷の心配はない。従って、電気機械式のブレーキ倍力装置の無制限な運転により運転者を力的に強く支援することが、このような状況では好適であり、運転者のための制動快適性を高めるのに役立つ。
【0021】
しかしながら、例えば運転者が非常に強くブレーキペダルを踏み込むことによる、強いブレーキ圧の要求中に、アンチロック制御が実行されると、(運転者の強いブレーキ操作と同時にマスタブレーキシリンダ内にブレーキ液が圧送されることに基づいて)マスタブレーキシリンダ内および/またはこのマスタブレーキシリンダに結合された少なくとも1つのマスタブレーキシリンダ管路内に高い圧力/圧力ピークが発生する。しかしながらこのような状況は、方法ステップS2によって検知され、電気機械式のブレーキ倍力装置の運転をタイミングよく適合させることによって、ブレーキシステムに損傷が発生しないように保証され得る。
【0022】
好適な形式で、方法ステップS2の実行時に、差分値ΔSが考慮/評価され、電気機械式のブレーキ倍力装置の運転者制動力または(実際)倍力装置力は考慮/評価されない。運転者制動力の測定は、しばしば追加的なセンサを必要とする。しかも、運転者制動力は通常は、比較的限られた精度でしか推定され得ない。電気機械式のブレーキ倍力装置の(実際)倍力装置力の直接の測定はほとんど不可能である。電気機械式のブレーキ倍力装置の(実際)倍力装置力は、(特に迅速に変化する回転数および/または大きい温度変動の場合)推定エラーを甘受しなければ推定することができない。特に、電気機械式のブレーキ倍力装置における製造公差は、(実際)倍力装置力の推定の品質に重要な影響を有している。追加的に、通常は、摩擦を伴う伝動装置が電気機械式のブレーキ倍力装置に後置接続されており、この場合、摩擦は、負荷時および実際の環境条件にしばしば強く依存している。従って、この段落に記載された、運転者制動力および/または(実際)倍力装置力の測定/推定時における問題点は、方法ステップS2で、差分ストロークΔSを考慮/評価することによって回避される。
【0023】
差分ストロークΔSを評価するために考慮される通常値範囲/通常ブレーキ強さ範囲は、例えば閾値ΔS
minによって予め設定されていてよい。(従って、方法ステップS2で決定された修正ファクタk
ΔSは、閾値ΔS
minより小さい差分ストロークΔSのためにはゼロに等しく、閾値ΔS
minよりも大きい差分ストロークΔSのためには1に等しいと決定され得る。)閾値ΔS
minの大きさは、例えば±0.5mmであってよい。このような形式の閾値ΔS
minによって、過剰に高い圧力/圧力ピークによるブレーキシステムの損傷を阻止するために電気機械式のブレーキ倍力装置の運転を適合/低下させることが有利である走行状態が確実に検知/フィルタアウトされ得る。しかしながら、方法ステップS2の実行可能性は閾値ΔS
minの所定の数値に限定されない、ということを指摘しておく。
【0024】
差分ストロークΔSが、所定の通常値範囲内にある限り、例えば正の閾値ΔS
minより小さいかまたは負の閾値ΔS
minよりも大きい限り、この方法は方法ステップS3で継続されてよい。しかしながら差分ストロークΔSが、所定の通常値範囲外にある限り、例えば正の閾値ΔS
minより大きいかまたは負の閾値ΔS
minより小さい限り、この方法は少なくとも方法ステップS4で継続される。
【0025】
方法ステップS4で、決定された目標値p
targetと、ブレーキシステムの少なくとも部分体積内に存在する実際圧力p
sensorに関連した実際値p
sensorとの間の少なくとも1つの差分Δpを考慮して、目標値p
targetのための修正値Δp
targetが決定される。特に、目標値p
targetのための修正値Δp
targetは、決定された目標値p
targetと、ブレーキシステムのマスタブレーキシリンダ内に存在するマスタブレーキシリンダ内圧(実際圧力p
sensorとしての)に関連した実際値p
sensorとの間の少なくとも1つの差分Δpを考慮して決定され得る。
【0026】
例えば、目標値p
targetのための修正値Δp
targetの決定は、少なくとも1つの差分Δpと、この差分Δpに依存する修正値Δp
targetのための所定の特性曲線kとを考慮して決定され得る。特性曲線kは好適には、所定の第1の限界値Δp
min内および所定の(より大きい)第2の限界値Δp
max内で(決定された目標値p
targetと実際値p
sensorとの間の)差分Δpの値に関して、ゼロに等しい。従って、運転者は、この限界値Δp
minおよびΔp
max内のマスタブレーキシリンダ圧力に、運転者制動力によって妨げられることなく影響を与える可能性を有している。好適な形式で、特性曲線kは、第2の限界値Δp
maxよりも大きい(決定された目標値p
targetと実際値p
sensorとの間の)差分Δpの値のために正確に単調に上昇し、第1の限界値Δp
minよりも小さい差分Δpの値のために正確に単調に降下する。従って、(決定された目標値p
targetと実際値p
sensorとの間の)差分Δpに依存して、方法ステップS4で、圧力上昇値または圧力降下値を、目標値p
target/目標ブレーキ圧p
targetを変えるための修正値Δp
targetとして決定することができる。
【0027】
ここに記載した方法において、オプション的な方法ステップS5で、修正値Δp
targetが、目標倍力装置力F
supportの力修正値ΔF
supportに(つまり目標倍力装置力F
supportのための圧力上昇値または圧力降下値に)変換される。別の方法ステップS6で、修正値としての力修正値ΔF
supportに応じて目標倍力装置力F
supportが新たに決定される。(選択的に、目標値p
target/目標ブレーキ圧p
targetも修正値Δp
targetに応じて新たに決定されてよい。)方法ステップS6とは異なり、方法ステップS3で(差分ストロークΔSが所定の通常値範囲内にある場合)、目標倍力装置力F
support(若しくは目標値p
target/目標ブレーキ圧p
target)の新たな決定が行われないことが決定される。方法ステップS3または方法ステップS6の後で、方法ステップS7で、それぞれの目標倍力装置力F
support(若しくはそれぞれの目標値p
target/それぞれの目標ブレーキ圧p
target)を考慮して電気機械式のブレーキ倍力装置が制御される。
【0028】
オプション的な形式で、方法ステップS4の前に、さらに方法ステップS8が実行されてもよい。この方法ステップS8で、(目標値p
targetと実際値p
sensorとの間の)差分Δp若しくは差分Δpと修正ファクタk
ΔSとの積が、少なくとも所定の最短時間τだけ、高くても所定の最大偏差で変化するかどうかが算出される。この場合、差分Δpが少なくとも所定の最短時間τだけ、高くても所定の最大偏差で変化する限り、目標値p
targetのための修正値Δp
targetが、少なくとも差分Δp(若しくは“時間フィルタ処理された”差分Δp
filter)を考慮して決定される。方法ステップS8によって、不必要な干渉を避けるために、差分Δpの短時間の極端な値がフィルタアウトされ得る。(車両慣性は、自動的に短時間の偏差を抑制することができる。)最短時間τは、例えば0.3秒であってよい。所定の最大偏差はゼロであってもよいので、方法ステップS8で、(目標値p
targetと実際値p
sensorとの間の)差分Δpが少なくとも所定の最短時間τだけ一定であるかどうかが検査される。
【0029】
ここに記載された方法は、過負荷または過少制動を避けるために、公差の補正を行う。この方法は、簡単な調整法と呼ばれており、この調整法によって、電気機械式のブレーキ倍力装置の運転を、実行されるアンチロック制御および運転者の比較的強い制動に適合させられる。しかしながらそれと同時に、この補正は運転者に、マスタブレーキシリンダ内圧を広い範囲内でその運転者制動力によって制御する可能性も提供する。
【0030】
図2は、制御装置の1実施例の概略図を示す。
【0031】
図2に概略的に示された制御装置10は、電気機械式のブレーキ倍力装置12と協働するために構成されている。制御装置10は電気機械式のブレーキ倍力装置12の下部ユニットとして構成されているかまたはこのブレーキ倍力装置12とは別個に構成されていてよい。制御装置10の構成可能性は、電気機械式のブレーキ倍力装置12の所定の型式に限定されるものではない。同様に、制御装置10は、アンチロック制御を実行するために設計された多くの様々なブレーキシステム型式、および多くの様々な車両型式/自動車型式に使用されてよい。
【0032】
制御装置10は電子回路装置14を有しており、この電子回路装置14は、電気機械式のブレーキ倍力装置12によって生ぜしめようとする目標ブレーキ圧に関連した目標値を、ブレーキシステムの(図示していない)ブレーキ操作部材の操作によって調節可能な運転者制動力伝達部材と、電気機械式のブレーキ倍力装置によって調節可能な倍力装置力伝達部材との間の差分ストロークに関連した、少なくとも1つの提供されたセンサ信号16を少なくとも考慮して決定するために、および電気機械式のブレーキ倍力装置12を少なくとも1つの制御信号18によって、決定された目標値を考慮して制御するために、設計されている。例えば、運転者制動力伝達部材および倍力装置力伝達部材(いずれも図示されていない)のための例は既に上記で挙げられている。
【0033】
少なくともブレーキシステム内で実行されるアンチロック制御中に、電子回路装置14は追加的に、差分ストロークが所定の通常値範囲外にあるかどうかを算出するために設計されている。少なくとも差分ストロークが所定の通常値範囲外にある限り、電子回路装置14は、決定された目標値と、ブレーキシステムの少なくとも部分体積内に存在する実際圧力に関連する提供された実際値20との間の少なくとも1つの差分を考慮して、目標値のための修正値を決定し、電気機械式のブレーキ倍力装置12を(少なくとも1つの制御信号18によって)決定された修正値を追加的に考慮しながら制御するために設計されている。
【0034】
好適な形式で、制御装置10は記憶装置22を有しており、この記憶装置22に、差分に依存した修正値のための特性曲線が記憶されている。この場合、電子回路装置14は、目標値のための修正値を、少なくとも差分および記憶された特性曲線を考慮して決定するために設計されている。好適な特性曲線の一例は既に上記されている。
【0035】
別の好適な実施形態として、電子回路装置14は、決定された目標値と実際値との間の差分が少なくとも所定の最短時間だけ、大きくとも所定の最大偏差で変化するかどうかを算出するために設計されていてもよい。次いで、目標値のための修正値は少なくとも差分を考慮して、この差分が少なくとも所定の最短時間だけ、大きくとも所定の最大偏差で変化するときにのみ決定される。前記方法の別の方法ステップも、制御装置10/その電子回路装置14によって実施可能である。
【0036】
制御装置は、既に挙げた上記利点も提供する。これらの利点は、制御装置10と電気機械式のブレーキ倍力装置12と、アンチロック制御を実行可能である少なくとも1つの(図示していない)ブレーキ圧変換ユニットとを有する車両/自動車のためのブレーキシステムによっても実現可能である。少なくとも1つのブレーキ圧変換ユニットは、例えば少なくとも1つのリターンポンプであってよい。
【符号の説明】
【0037】
10 制御装置
12 ブレーキ倍力装置
14 電子回路装置
16 センサ信号
18 制御信号
20 実際値
22 記憶装置
F
support 目標倍力装置力、目標値
k 特性曲線
k
ΔS 修正ファクタ
p
sensor 実際圧力、実際値
p
target 目標ブレーキ圧、目標値
S1,S2,S3,S4,S5,S6 方法ステップ
ΔF
support 力修正値
Δp 差分
Δp
filter 時間フィルタ処理された差分
Δp
max 第2の限界値
Δp
min 第1の限界値
Δp
target 修正値
ΔS 差分ストローク、差分値
ΔS
min 閾値
τ 最短時間