特許第6802920号(P6802920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802920
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】フライの縁縫い装置
(51)【国際特許分類】
   D05B 35/10 20060101AFI20201214BHJP
   D05B 35/06 20060101ALI20201214BHJP
   D05B 39/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   D05B35/10
   D05B35/06
   D05B39/00
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-519807(P2019-519807)
(86)(22)【出願日】2017年5月22日
(86)【国際出願番号】JP2017018996
(87)【国際公開番号】WO2018216061
(87)【国際公開日】20181129
【審査請求日】2019年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅川 道
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/032615(WO,A1)
【文献】 特開平7−289764(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0115710(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 35/10
D05B 35/06
D05B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差する方向に真っすぐ延長する横辺(3a)と縦辺(3c)とが湾曲辺(3b)で接合された縁を備える下側のフライ本体(3)に対して上側のスライドファスナー(2)を重ね合わせたフライ(1)であって、前記縦辺(3c)の延長方向を前記スライドファスナー(2)の長手方向に揃えると共に、前記スライドファスナー(2)に対してその幅方向の両側に前記フライ本体(3)のうち前記横辺(3a)が延長する方向の両端部がはみ出す前記フライ(1)を縫製対象物とし、
前記フライ(1)を載せるテーブル(13)、
前記テーブル(13)と協働して前記フライ(1)を挟むクランプ装置(20)、
前記フライ本体(3)を縁縫いすると共に前記テーブル(13)に設置されるミシン(15)、
前記テーブル(13)との協働により前記フライ(1)を挟んだ状態のクランプ装置(20)を搬送するクランプ装置用の搬送装置(16)を備え、
クランプ装置用の前記搬送装置(16)は、縁縫い前の前記フライ(1)を挟んだ状態の前記クランプ装置(20)を前記ミシン(15)に向かって直線的に搬送する縁縫い前用搬送と、縁縫い中の前記フライ(1)を挟んだ状態の前記クランプ装置(20)を前記フライ本体(3)の縁の形状に対応させて搬送する縁縫い用搬送とを連続して行うものであり、
縁縫い用搬送は、前記湾曲辺(3b)の形状に対応させて前記クランプ装置(20)を搬送するものであることを特徴とするフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項2】
縁縫い用搬送は、前記湾曲辺(3b)の形状と前記縦辺(3c)の形状に対応させて前記クランプ装置(20)を連続して搬送することを特徴とする請求項1に記載のフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項3】
前記ミシン(15)は、前記フライ(1)を搬送する専用の搬送部を備え、
クランプ装置用の前記搬送装置(16)が前記湾曲辺(3b)の形状に対応させて前記クランプ装置(20)を搬送した後に、前記専用の搬送部が前記縦辺(3c)の形状に対応させて前記フライ(1)を搬送することを特徴とする請求項2に記載のフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項4】
前記クランプ装置(20)は、前記フライ(1)を押さえるホルダー(21)と、前記ホルダー(21)を前記テーブル(13)の上面に対して接近および離隔させるホルダー駆動部を備え、
前記ホルダー(21)は、前記スライドファスナー(2)のテープ(4)を押さえるテープ押さえ部(22)を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項5】
前記ホルダー(21)は、前記スライドファスナー(2)の止具(7)を押さえる止具押さえ部(23)を備えることを特徴とする請求項4に記載のフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項6】
前記止具押さえ部(23)は、前記テーブル(13)と協働して前記止具(7)を挟むように上から押さえる上押さえ部(23a)と、前記止具(7)を前記幅方向側から押さえる側方押さえ部(23b)を備えることを特徴とする請求項5に記載のフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項7】
交差する方向に真っすぐ延長する横辺(3a)と縦辺(3c)とが湾曲辺(3b)で接合された縁を備える下側のフライ本体(3)に対して上側のスライドファスナー(2)を重ね合わせたフライ(1)であって、前記縦辺(3c)の延長方向を前記スライドファスナー(2)の長手方向に揃えると共に、前記スライドファスナー(2)に対してその幅方向の両側に前記フライ本体(3)のうち前記横辺(3a)が延長する方向の両端部がはみ出す前記フライ(1)を縫製対象物とし、
前記フライ(1)を載せるテーブル(13)、
前記テーブル(13)に設置されると共に前記フライ(1)を縁縫いするミシン(15)であって前記テーブル(13)との協働により前記フライ(1)を挟むミシンフット(15a)を備える前記ミシン(15)、
前記テーブル(13)上の縁縫い前の前記フライ(1)を前記ミシン(15)に向かって直線的に搬送する縁縫い前用搬送装置、
縁縫い中の前記フライ(1)を前記フライ本体(3)の縁の形状に対応させて搬送する縁縫い用搬送装置、
前記テーブル(13)上の縁縫い前の前記フライ本体(3)に対して前記スライドファスナー(2)の1枚のテープ(4)における長手方向の一端部であって縁縫い側の一端部を前記ミシンフット(15a)よりも上側に離隔させるテープ離隔装置(30,30A,30B)を備えることを特徴とするフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項8】
前記テープ離隔装置(30)は、前記フライ本体(3)と前記テープ(4)の間に挿入するための挿入片(31)、前記フライ本体(3)と前記テープ(4)との間の第1の位置および前記フライ本体(3)と前記テープ(4)との間から離れた第2の位置に前記挿入片(31)を移動させる挿入片駆動部(32)を備えることを特徴とする請求項7記載のフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項9】
前記テープ離隔装置(30A)は、前記テープ(4)を吸引する吸引装置であることを特徴とする請求項7記載のフライ(1)の縁縫い装置。
【請求項10】
前記テープ離隔装置(30B)は、前記テープ(4)を上から摘まむチャック装置であることを特徴とする請求項7記載のフライ(1)の縁縫い装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製対象物としてのフライであって、スライドファスナーと、スライドファスナーが取り付けられた生地としてのフライ本体とを備えるフライの縁を縫うための装置、つまりフライの縁縫い装置に関する。なお縁縫いとは、フライ本体の縁がほつれないように、縁をかがり縫いすることをいう。
【背景技術】
【0002】
フライは、例えばズボンの前立ての場合には、全体的に長方形状であると共にその一つの角部を円弧状にしたフライ本体と、フライ本体に取り付けられたスライドファスナーとを備えるものが存在する。そして従来のフライの縁縫い装置の一例として、フライとしての前立をミシンとしての縁縫い部の方へ向かって直線的に供給する直線供給部と、直線供給部から前立を受け取ると共に回動して縁縫部の方へ前立を供給する回動供給部と、前立を送り出しながら前立を縁縫いする縁縫部(ミシン)とを備えるものが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−70579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで前立のようなフライ(フライ本体)は柔軟なので、直線供給部や回動供給部で押さえられることによって微妙に変形する。また上記した縁縫い装置は、直線供給部から回動供給部に前立を渡すときに、前立を押さえる位置が変わるものである。そうすると、押える位置が変わる前後では前立の姿勢が微妙に変わることがあり、前立の縁縫いの品質に悪影響を与えることがあった。そのため上記した縁縫い装置は実際には使用されていなかった。したがって縁縫いするためにフライを搬送するときに、フライの姿勢をできるだけ同じ状態に保つようすることが望まれる。
【0005】
また上記した特許文献1には開示されていないが、フライを縁縫いするときには、スライドファスナーの2枚のテープの一方の端部をフライ本体と一緒に望ましくは縫うが、他方の端部を一緒に縫わないようにしなければならない。より詳しく以下の通りである。ミシンは、ミシンフットの下を通過した生地を縫うものである。したがって縁縫いのときに他方(縫わない方)のテープがフライ本体と一緒にミシンフットの下を通過しないように、言い換えれば他方のテープがミシンフットの上を通過するようにしなければならない。そうしないとフライをズボンに縫う作業がし難くなるからである。なおズボンに縫う作業とは、ズボンの2枚の生地のうち一方の生地に対してフライ本体(一方のテープが縫製されたもの)を縫い、他方の生地に対して他方のテープを縫う作業である。
【0006】
本発明は上記実情を考慮して創作されたものであり、その目的は上記した問題の少なくとも一つを解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフライの縁縫い装置は以下のフライを縫製対象物とする。フライは、交差する方向に真っすぐ延長する横辺と縦辺とが湾曲辺で接合された縁を備える下側のフライ本体に対して上側のスライドファスナーを重ね合わせたものであって、フライ本体の縦辺の延長方向をスライドファスナーの長手方向に揃えると共に、スライドファスナーに対してその幅方向の両側にフライ本体のうち横辺が延長する方向の両端部がはみ出すものである。
【0008】
そして本発明のフライの縁縫い装置は、フライを載せるテーブル、テーブルと協働してフライを挟むクランプ装置、フライ本体を縁縫いすると共にテーブルに設置されるミシン、テーブルとの協働によりフライを挟んだ状態のクランプ装置を搬送するクランプ装置用の搬送装置を備えるものである。クランプ装置用の搬送装置は、縁縫い前のフライを挟んだ状態のクランプ装置をミシンに向かって直線的に搬送する縁縫い前用搬送と、縁縫い中のフライを挟んだ状態のクランプ装置をフライ本体の縁の形状に対応させて搬送する縁縫い用搬送とを連続して行うものである。そのうえで縁縫い用搬送は、湾曲辺の形状に対応させてクランプ装置を搬送するものである。
【0009】
またクランプ装置用の搬送装置による縁縫い用搬送は、湾曲辺の形状に対応させてクランプ装置を搬送した後に、別の搬送をするか否かを問わない。ただし縁縫いの品質を良好にするには次のようにすることが望ましい。
すなわち縁縫い用搬送は、湾曲辺の形状と縦辺の形状に対応させてクランプ装置を連続して搬送することである。
【0010】
またフライを搬送するものは、クランプ装置用の搬送装置だけとは限らない。フライを搬送する具体的な一例としては、次のものがある。
すなわちミシンは、フライを搬送する専用の搬送部を備えるものとする。そしてクランプ装置用の搬送装置が湾曲辺の形状に対応させてクランプ装置を搬送した後に、専用の搬送部が縦辺の形状に対応させてフライを搬送するものである。
【0011】
またクランプ装置は次のものが望ましい。
すなわちクランプ装置は、フライを押さえるホルダーと、ホルダーをテーブルの上面に対して接近および離隔させるホルダー駆動部を備えるものである。そしてホルダーは、スライドファスナーのテープを押さえるテープ押さえ部を備えるものである。
【0012】
またホルダーがフライを押さえたときにフライの姿勢を安定させるには、ホルダーは次のようなものが望ましい。
すなわちホルダーは、スライドファスナーの止具を押さえる止具押さえ部を備えるものである。
【0013】
また止具押さえ部は次のものが望ましい。
すなわち止具押さえ部は、テーブルと協働して止具を挟むように上から押さえる上押さえ部と、止具を幅方向側から押さえる側方押さえ部を備えるものである。
【0014】
また上記した本発明のフライの縁縫い装置はフライを押さえながら搬送することに関するものであったが、以下の本発明のフライの搬送装置は縁縫いするときにフライのテープが邪魔にならないようにすることに関するものである。
すなわち本発明のフライの搬送装置は、フライを載せるテーブル、テーブルに設置されると共にフライを縁縫いするミシンであってテーブルとの協働によりフライを挟むミシンフットを備えるミシン、テーブル上の縁縫い前のフライをミシンに向かって直線的に搬送する縁縫い前用搬送装置、縁縫い中のフライをフライ本体の縁の形状に対応させて搬送する縁縫い用搬送装置、テーブル上の縁縫い前のフライ本体に対してスライドファスナーの1枚のテープにおける長手方向の縁縫い側の一端部をミシンフットよりも上側に離隔させるテープ離隔装置を備えるものである。
【0015】
またテープ離隔装置の具体的な構成は、以下の1)〜3)の例である。
1)テープ離隔装置は、フライ本体とテープの間に挿入するための挿入片、フライ本体とテープの間の第1の位置およびフライ本体とテープの間から離れた第2の位置に挿入片を移動させる挿入片駆動部を備えるものである。
2)テープ離隔装置は、テープを吸引する吸引装置である。
3)テープ離隔装置は、テープを上から摘まむチャック装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフライの縁縫い装置は、クランプ装置でフライを挟んだまま縁縫い前用搬送と縁縫い用搬送を連続して行うものであれば、縁縫い前用搬送と縁縫い用搬送を別々の装置で行うものに比べて、クランプ装置に対するフライの姿勢を同じ状態に保つことができ、フライの縁縫いの品質を向上することができる。
【0017】
またフライの縁縫い装置は、クランプ装置による縁縫い用搬送が、湾曲辺の形状と縦辺の形状に対応させてクランプ装置を連続して搬送するものであれば、その湾曲辺の部分と縦辺の部分の範囲においてフライの縁縫いの品質を向上させることができる。
【0018】
またフライの縁縫い装置は、クランプ装置のホルダーがテープ押さえ部を備えるものであれば、フライ本体を押さえるものに比べれば、押さえる部分のフライの厚みが厚いので押さえやすくなり、ホルダーで押さえたときにフライの姿勢を安定させることができる。
【0019】
またフライの縁縫い装置は、ホルダーが止具押さえ部を備えるものであれば、テープ押さえ部だけでフライを押さえるものに比べれば、フライを押さえる箇所が増え、ホルダーで押さえたときにフライの姿勢を安定させることができる。
【0020】
またフライの縁縫い装置は、止具押さえ部が上押さえ部と側方押さえ部を備えるものであれば、止具を押さえる箇所が増え、ホルダーで押さえたときにフライの姿勢を安定させることができる。
【0021】
また本発明のフライの縁縫い装置は、テープ離隔装置を備えるものであれば、テーブル上の縁縫い前のフライに対してスライドファスナーの1枚のテープの一端部をミシンフットよりも上側に離隔させるので、縁縫い中にミシンフットの上にテープの一端部を通過させることになり、フライを縁縫いするときにテープが邪魔にならないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第一実施形態のフライの縁縫い装置を示す平面図である。
図2】第一実施形態のフライの縁縫い装置における姿勢保持装置の使用状態を上方から見た状態を示す斜視図である。
図3】姿勢保持装置を下方から見た状態を示す斜視図である。
図4】姿勢保持装置の平面図である。
図5】姿勢保持装置の底面図である。
図6】姿勢保持装置の背面図である。
図7】(A)(B)(C)図はフライを押さえている状態およびテープの一端部を上方に離隔した状態を示す平面図、正面図、テープの一端部とミシンフットとの関係を示す正面図である。
図8】姿勢保持装置と姿勢保持装置用の搬送装置を示す斜視図である。
図9】(A)(B)図は姿勢保持装置のクランプ装置の他の例を示す説明図である。
図10】(A)(B)図は姿勢保持装置のクランプ装置の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一実施形態のフライの縁縫い装置はフライを縫製対象物とする。図1に示すようにフライ1は、縫製対象物となる前の段階では長尺物1Aの一部である。また長尺物1Aはその長手方向に複数のフライ1を連続して配置したものである。そして長尺物1Aを隣り合うフライ1,1の間の位置で切断することによって、フライ1が形成される。
【0024】
言い換えれば長尺物1Aは、長尺なファスナーチェーン2Aと、ファスナーチェーン2Aに対してその下側に重ね合わせられると共にその長手方向に間隔をあけて縫製された複数枚のフライ本体3を備える。
【0025】
ファスナーチェーン2Aは、その長手方向に複数のスライドファスナー2を連続して配置したものである。そしてファスナーチェーン2Aを隣り合うスライドファスナー2,2の間の位置で切断することによって、スライドファスナー2が形成される。またこのように切断することによって、スライドファスナー2とその下側のフライ本体3とが一体化されたフライ1が形成される。
【0026】
スライドファスナー2は細長いものである。したがってスライドファスナー2は厚み方向の他に、互いに直交する長手方向と幅方向とを備える。またスライドファスナーの幅方向の長さはスライドファスナーの長手方向の長さよりも短い。
またスライドファスナー2は、幅方向に対向して配置される一対のテープ4,4と、一対のテープ4,4の幅方向に対向する側縁部に対して固定された一対のエレメント列5,5と、一対のエレメント列5,5に対して移動可能に案内されると共に一対のエレメント列5,5を開閉するスライダー6と、一対のエレメント列5,5における長手方向の両端にスライダー6の移動を止める第1・第2の止具7,8とを備える。
【0027】
一対のテープ4,4のうち一方は、幅方向のうち対向する側縁部とは反対側の側縁部を長手方向に沿って縫糸4aでフライ本体3に縫製され、一対のテープ4,4のうち他方は、フライ本体3に縫製されることなく、単に重なっている。以後、縫糸4aで縫製されたテープ4を縫製側のテープ4、縫製されていないテープ4を非縫製側のテープ4と称して区別することもある。
【0028】
第1の止具7は、一対のエレメント列5,5が開く方向にスライダー6を移動させたときに、スライダー6に衝突するものである。また第1の止具7は一対のテープ4,4に対して固定されており、一対のテープ4,4を連結するものである。
【0029】
第2の止具8は、一対のエレメント列5,5が閉じる方向にスライダー6を移動させたときに、スライダー6に衝突するものである。また第2の止具8は一方のテープ4に対して固定されている。
【0030】
なおエレメント列5には、間隔をあけて一列に配置された多数のエレメントであってテープに対してその対向する側縁部側において長手方向に沿って固定された多数のエレメントから構成されるものや、コイル状またはジグザグ状に曲げられたモノフィラメントであって多数のエレメントに相当するエレメント部が連続するモノフィラメントから構成されるものが存在する。
【0031】
フライ本体3は柔軟な生地である。また本実施形態ではフライ本体3は、長方形状であり、一方向で対向する二辺と、他方向で対向する二辺とを備える。より詳しく言えばフライ本体3は細長い長方形状であり、2つの長辺と2つの短辺を備えるものである。またフライ本体3は4つの角部を備えるものである。そして図2に示すようにフライ本体3は縁縫い(縁をかがり縫い)される前には4つの角部のうち1つを滑らかに湾曲する形状に切断されるものである。
4つの角部のうち切断されるのは、短辺が延長する方向(以後、短辺方向と言う。)に関しては上側のスライドファスナー2に対して縫製側のテープ4が位置する方向側の角部であって、長辺が延長する方向(以後、長辺方向と言う。)に関しては第1の止具7が位置する側の角部である。そしてフライ本体3だけでなく縫製側のテープ4もフライ本体3と一緒に切断される。
滑らかに湾曲する形状とは、図示の例では円の1/4に相当する軌跡、つまり円弧状である。また滑らかに湾曲する形状には図示しないが楕円の1/4に相当する軌跡、つまり楕円弧状も含まれる。ちなみに円や楕円の中心は、フライ本体側に位置するものであり、円弧状や楕円弧状の両端点の接線はその両側に位置する長辺と短辺になる。
【0032】
以後、フライ本体の縁に関しての用語を次のように定める。滑らかに湾曲する形状の部分を湾曲辺3bと言う。湾曲辺3bの一端点の接線である長辺を縦辺3cと言う。また湾曲辺3bの他端点の接線である短辺を横辺3aと言う。したがってフライ本体3の縁の一部は、交差する方向、より詳しく言えば直交する方向に真っすぐ延長する横辺3a・縦辺3cが湾曲辺3bで滑らかに接合されたものである。またフライ本体3の縁は、長辺・短辺・縦辺3c・横辺3a・湾曲辺3bで形成される。
【0033】
またフライ本体3は、長辺方向の長さをスライドファスナー2の長手方向の長さよりも短くすると共に、短辺方向の長さをスライドファスナー2の幅方向の長さよりも長くしてある。このようなフライ本体3の短辺方向の中間部の上にスライドファスナー2を重ね合わせてあるので、スライドファスナー2に対してその幅方向の両側にフライ本体3のうち短辺方向(横辺3aが延長する方向)の両端部がはみ出すものとなっている。またフライ本体3に対してその長辺方向の両側にスライドファスナー2の長手方向の両端部がはみ出すものとなっている。ちなみにスライドファスナー2の長手方向のうち第1の止具7側のはみ出し長さは、第2の止具8側のはみ出し長さよりも短く、それゆえ第1の止具7側に関して、一対のテープ4,4の長手方向の一端とフライ本体3の長辺方向の一端(横辺3a側の一端)とはほぼ同じ位置になっている。またフライ本体3の長辺方向(縦辺3cの延長方向)がスライドファスナー2の長手方向に揃えてある。この揃え方は、目視したときに平行であると判断できる程度であれば良く、厳密なものではない。
【0034】
以上述べたフライ1を縁縫いするのが本発明の第一実施形態のフライの縁縫い装置である。図1に示すように第一実施形態のフライの縁縫い装置は、長尺物1Aをその長手方向に搬送する長尺物用の搬送装置(図示せず)、搬送される長尺物1Aを隣り合うフライ1,1の間の位置で切断するカッター装置11、長尺物1Aから切り離されたフライ1を掴んで運ぶグリッパー装置12、グリッパー装置12で運ばれたフライ1を載せるテーブル13、テーブル13上のフライ1の姿勢を縁縫い用に保持する姿勢保持装置14、フライ本体3の縁縫いをすると共にテーブル13に設置されるミシン15、フライ1と一緒に姿勢保持装置14を搬送する姿勢保持装置用の搬送装置16を備える。
【0035】
テーブル13は上面を平面とする。またテーブル13は平面視してL字状であり、直交する方向に延長する二枚の板部13a,13bを備えるものである。そして二枚の板部13a,13bが交差する部分にミシン15が設置されている。またテーブル13のうちミシン15を設置する部分にはその板の厚み方向に貫通する貫通穴13cが形成されており、フライ1を搬送する搬送部としての図示しない送り歯の一部が貫通穴13cに配置されている。そして送り歯はミシン15の図示しないミシン針の上下動に合わせて、フライ1を搬送する。
【0036】
以後、方向について次のように定める。テーブル13を平面視したときのL字状に直交する方向(二枚の板部13a,13bが延長する方向)は、直交する2つの直線方向である。このうち一つの直線方向を前後方向とし、もう一つの直線方向を左右方向とする。前後方向とは図1での上下方向である。前方向は図1での下方向であり、後方向は図1での上方向である。左右方向とは図1での左右方向である。左方向とは図1での左方向であり、右方向とは図1での右方向である。
【0037】
ミシン15は、テーブル13の上方において上下動可能に支持されたミシンフット15aであってテーブル13との協働によってフライ1を押さえるミシンフット15aと、上下動するミシン針と、フライ1を搬送する送り歯と、平面視した状態でミシンフット15aの周囲に配置されると共にフライ1を切断するカッター15bを備える。
ミシンフット15aは板状である。またミシンフット15aは、平面視してテーブル13の直交する方向のうち一方の直線方向に沿って延長するもので、図示の例では左右方向に沿って延長する。そして一方の直線方向の一方側部分(フライ1を搬送する方向に関しての下流側の部分)15a1をフライを押さえる部分とし、一方の直線方向の他方側部分(フライ1を搬送する方向に関しての上流側の部分)15a2をフライ1を一方側部分15a1に案内する部分とする。そして他方側部分15a2を、その他方(上流)に向かうにつれて(一方側部分15a1から離れるにつれて)上方へ向かう形状にしてある。
【0038】
姿勢保持装置用の搬送装置16は図8に示すように4軸の多関節ロボット16である。より詳しく言えば多関節ロボット16は、テーブル13の周囲に配置された図示しないフレームに固定する固定部16aと、固定部16aの上側に一端部を配置された第1のリンク部16bであって固定部16aに対して図示しない垂直な第1の軸を支点にして回転可能に支持された第1のリンク部16bと、第1のリンク16bの他端部の上側に一端部を配置された第2のリンク部16cであって第1のリンク部16bに対して図示しない垂直な第2の軸を支点にして回転可能に支持された第2のリンク部16cと、第2のリンク部16cの他端部から垂下するロッド16dであってその中心線としての図示しない垂直な第3の軸を中心線にして回転可能(自転可能)に支持されたロッド16dを備える。また多関節ロボット16は、第1や第2の軸を支点にして第1、第2のリンク部16b,16cを回転するための図示しない駆動部や、ロッド16dを回転するための図示しない駆動部を備える。
【0039】
また多関節ロボット16は、ロッド16dを昇降可能に駆動するための図示しない昇降用の駆動部であって、図示しない水平方向の第4の軸を支点にして回転する部分によりロッド16dを昇降させる昇降用の駆動部を備える。そしてロッド16dと昇降用の駆動部は、姿勢保持装置14の一部(後述するクランプ装置20の駆動部)を構成するものである。またロッド16dの下端部には姿勢保持装置14の本体部(クランプ装置20の駆動部を除いた部分)が固定されている。
【0040】
図1に示すように多関節ロボット16は、縁縫い前のフライ1を挟んだ状態の姿勢保持装置14(クランプ装置20)をミシン15(ミシンフット15a)に向かって直線的に搬送する縁縫い前用搬送と、縁縫い中のフライ1を挟んだ状態の姿勢保持装置14(クランプ装置20)をフライ本体3の縁の形状に対応させて搬送する縁縫い用搬送とを連続して行うものである。つまり多関節ロボット16は縁縫い前用搬送装置と縁縫い用搬送装置とが一体になったものである。
また縁縫い前用搬送は後方から前方への直線的な搬送であり、フライ1の長手方向における第1の止具7側の端部がミシンフット15aの周囲であってミシンフット15aに対して上流側(図1での左側)に搬送されるものである。
縁縫い用搬送はフライ1の縁部を横辺3a・湾曲辺3b・縦辺3cの順にこれらの形状に対応させて連続して縁縫いするための搬送である。
横辺3aの形状に対応させて縁縫いするための搬送と、縦辺3cの形状に対応させて縁縫いするための搬送とは、直線的な搬送であり、図1での左側への搬送である。
湾曲辺3bの形状に対応させて縁縫いするための搬送は、平面視するとほぼ半円を描くような回転方向の搬送である。
【0041】
図2図6に示すように姿勢保持装置14は、テーブル13と協働してフライ1を挟むクランプ装置20と、テーブル13上の縁縫い前のフライ1に対して非縫製側のテープ4における長手方向の一端部であって縁縫い側(第1の止具側)の一端部をミシンフット15aよりも上側に離隔させるテープ離隔装置30とを備える。
【0042】
クランプ装置20は、フライ1を押さえるクランプ装置本体部としてのホルダー21と、ホルダー21をテーブル13上のフライ1に対してテープ4の厚み方向(上下方向)に接近および離隔させるホルダー駆動部とを備える。ホルダー駆動部は、前述したように多関節ロボット16の一部(ロッド16dと、ロッド16dを昇降する昇降用の駆動部)である。
【0043】
ホルダー21は、スライドファスナー2の2枚のテープ4,4を別々に押さえる2本のテープ押さえ部22,22、第1の止具を押さえる止具押さえ部23、2本のテープ押さえ部22,22と止具押さえ部23とを固定するホルダープレート24、ホルダープレート24とロッド16dを連結する連結部25を備える。またホルダー21は、ホルダープレート24の厚み方向の一面側に連結部25を備えると共に、ホルダープレート24の厚み方向の他面側に2本のテープ押さえ部22,22と止具押さえ部23とを備える。そして2本のテープ押さえ部22,22は間隔をあけて平行に配置されると共に、その間隔の延長線上に止具押さえ部23は配置される。
なお以後、ホルダー21はテーブル13上のフライ1を押さえた初期の状態を基準にして方向を説明する。
【0044】
連結部25は、ホルダープレート24の上面に連結される第1の連結部25a、ロッド16dの下端部に連結される第2の連結部25b、下側の第1の連結部25aと上側の第2の連結部25bとの上下間において第1の連結部25aと第2の連結部25bとを接合する接合部25cを備える。
第1の連結部25aは、その内面にロッド16dの一部を収容するもので、上下方向に貫通する円筒状である。
第2の連結部25bは割締め機構である。第2の連結部25bは、平面視するとC字状であり、口径方向の内面側にロッド16dの一部を収容するものである。また第2の連結部25bは、C字状の円周方向の両端部において互いの対向する方向に貫通する貫通穴25d,25eを備えている。そして第2の連結部25bは、貫通穴25d,25eを利用してC字状の円周方向の両端部をネジ対偶で連結することによりC字状の口径を狭め、口径方向の内面側でロッド16dを締め付けるものである。ネジ対偶とは図示の例では片方の貫通穴25eに形成された雌ネジと、この雌ネジに螺合するボルト25fである。
接合部25cは、第2の連結部25bにおけるC字状の円周方向の中間部と第1の連結部25aとを上下に接合するものである。
【0045】
テープ押さえ部22は、棒状(より詳しく言えば角棒状)であり、テーブル13の上面に対向する面を下面とするものである。そして下面はテーブル13の上面と平行な平面にしてある。
【0046】
ホルダープレート24は厚み方向を上下方向とするものであり、ホルダープレート24の下面はテーブル13の上面に対向する面である。また下方から視ると、ホルダープレート24は、直交する二面24a,24bを備え、このうち一面である左側面24aを前後方向に平行な面とし、もう一面である後面24bを左右方向に平行な面とする。またホルダープレート24は、後面24bよりも左右方向の長さが短く且つ左右方向に平行な前面24c、前面24cと左側面24aを繋ぐ斜面24dを備える。斜面24dは前方へ向かうにつれて右側へ向かう面である。したがってホルダープレート24は、前面24cと左側面24aとが交差する角部を面取りしたような形状である。
【0047】
ホルダープレート24は、その下面に対して2本のテープ押さえ部22,22を平行に配置した状態で固定してある。より詳しく言えばホルダープレート24は、その下面において直交する二面の一方(左側面24a)に対して平行に2本のテープ押さえ部22,22を配置してあり、且つ当該左側面24aを1本のテープ押さえ部22の左側面と同一平面に位置するように揃えてある。またホルダープレート24は、その下面において直交する二面の他方(後面24b)を、2本のテープ押さえ部22,22の後面と同一平面に位置するように揃えてある。また2本のテープ押さえ部22,22は前後方向の長さが異なるものである。そして2本のテープ押さえ部22,22のうちホルダープレート24の側面に揃えた方のテープ押さえ部22は、もう一方のテープ押さえ部22よりも前後方向の長さを長くしてあり、その前端部をもう一方のテープ押さえ部22に対して前方に突出する状態に配置してある。
【0048】
また棒状である2本のテープ押さえ部22,22は互いの棒が延長する方向に対して直交する方向に(左右方向)に間隔をあけてあり、その間隔は、一対のテープ4,4のうち対向する側縁部(エレメント列5が位置する側縁部)とは反対側の縁部を押さえるように設定してある。そしてホルダープレート24の下面のうち当該間隔に対して前方に離れた部分には止具押さえ部23が固定されている。
【0049】
止具押さえ部23は、テーブル13と協働して第1の止具7を挟むようにして上から押さえる上押さえ部23aと、第1の止具7を幅方向側(湾曲辺3bの側)から押さえる側方押さえ部23bを備える。
【0050】
また図6に示すように側方押さえ部23bは、前後方向から視てL字状であり、ホルダープレート24の下面に固定する固定片23b1と、固定片23b1の左端部(背面から視た図6での固定片23b1の右端部)から下方に垂下する垂下片23b2を備える。
また図5に示すように下方から視た場合に側方押さえ部23bは非長方形状である。より詳しく言えば側方押さえ部23bは、互いに左右方向に延長すると共に平行な前面23cと後面23dと、互いに前後方向に延長すると共に平行な左側面23eと右側面23fと、前面23cと左側面23eを斜めに繋ぐ斜面23hを備える。
この斜面23hは前方へ向かうにつれて右側へ向かう面である。また斜面23hは固定片23b1と垂下片23b2の双方に亘って形成されている。したがって側方押さえ部23bは、前面23cと左側面23eとが交差する角部を面取りしたような形状である。また下方から視て側方押さえ部23bの斜面23hは、ホルダープレート24の斜面24dに対してホルダープレート24の中央部側に且つ平行に配置されている。
【0051】
上押さえ部23aは直方体状のブロックで、その下面をテーブル13の上面と平行な平面としてある。また上押さえ部23aの下面は長方形状で、より詳しく言えば前後方向の長さを左右方向の長さよりも長くしたものである。また上押さえ部23aの前面23a1はホルダープレート24の前面24cと同一平面に位置するように揃えてある。なお上押さえ部23aの下面は側方押さえ部23b(垂下片23b2)の下面よりも上方に位置し、側方押さえ部23b(垂下片23b2)の下面はテープ押さえ部22の下面よりも上方に位置する。
【0052】
なお上記したホルダー21の材質に関して、テープ押さえ部22・上押さえ部23aは例えば樹脂製(望ましくは弾性を備えた樹脂製)とし、それ以外(ホルダープレート24・連結部25・側方押さえ部23b)は例えば金属製とする。
【0053】
図2〜6に示すようにテープ離隔装置30は、フライ1とテープ4の間に挿入するための挿入片31、挿入片31を移動させると共にホルダープレート24に固定される挿入片駆動部32、挿入片31を移動可能に案内すると共にその移動方向を安定させるガイド33を備えるものである。
【0054】
ガイド33は、一直線に延長するガイドレール33a、ガイドレール33aに沿って移動可能な移動子33bを備える。移動子33bは、ガイドレール33aを通す貫通穴33b1を備える。この貫通穴33b1の貫通方向はガイドレール33aの延長方向である左右方向に一致する。
【0055】
ガイドレール33aは、ホルダープレート24の一部である。つまりホルダープレート24はホルダー21の他の部品(テープ押さえ部22・止具押さえ部23・連結部25)および挿入片駆動部32を固定するための固定板部24pと、固定板部24pに対して側方に突出するガイドレール33aとを備えるものである。
【0056】
挿入片駆動部32はシリンダー装置であり、図4に示すようにホルダープレート24の上面に固定されるシリンダーケース32a、シリンダーケース32aの内面に沿って往復動可能な図示しないピストン、シリンダーケース32aの内側から外側に突出すると共にピストンに固定されるピストンロッド32bを備える。なお挿入片駆動部32は、ホルダープレート24の上面にシリンダーケース32aに隣接するよう固定されるブロック34を備える。このブロック34にシリンダーケース32aが固定されており、それによってシリンダーケース32aはホルダープレート24に固定されている。
ピストンロッド32bはシリンダーケース32aの外側に突出する先端部に移動子33bを固定してある。また移動子33bに対して挿入片31が固定され、挿入片31はホルダープレート24の前方に配置される。そして挿入片駆動部32は、エレメント列用の間隔の延長線の方向に対して交差する方向(より詳しく言えば直交する方向)に且つテーブル13の上面に対して平行な状態で挿入片31を直線往復動させる。挿入片31が直線往復動するときの移動範囲のうち一方の限界位置は、テーブル13の上に載ったフライ1(より詳しく言えば、クランプ装置20に押さえられたフライ1)における非縫製側のテープ4とフライ本体3との間の位置であり、第1の位置と称する。また挿入片31が直線往復動するときの移動範囲のうち他方の限界位置は、第1の位置から離れた位置、つまり非縫製側のテープ4とフライ本体3との間から側方に離れた位置であり、第2の位置と称する。
【0057】
挿入片31は、左右方向に延長するもので、延長する方向の一端部である右端部を移動子33bに固定する固定部31aとし、他端部である左端部を非縫製側のテープ4とフライ本体3との間に挿入する挿入部31bとする。なお挿入片31の先部側とは、固定部側に対して挿入部31b側のことをいう。
挿入部31bは、テープ押さえ部22に対して前方、より詳しく言えば止具押さえ部23に対して前方において左右方向に延長するものである。
また挿入部31bの上面31b1は、先端に向かうにつれて下方に向かう斜面にしてある。また挿入部31bの下面はテーブル13の上面に対して平行な平面にしてある。したがって挿入部31bの上下方向の厚みは先端に向かって徐々に薄くなっている。しかも図6に示すように挿入片31(挿入部31b)の下面は、テープ押さえ部22及び移動子33bの各下面よりも間隔Gの分だけ低くなっている。この間隔Gはテープ4の厚みの寸法よりも少し短く設定されている。
また平面視すると挿入部31bは、ホルダープレート側の面である後面31b2を、ピストンロッド32bの突出方向である右方向に向かうにつれて挿入片駆動部32に接近する斜面としてある。
【0058】
上記した第一実施形態の縁縫い装置の縁縫い方法は以下の1)〜9)の工程を経るものである。この縁縫い方法を主に図1に基づいて説明する。
1)まず図示しない長尺物用の搬送装置によって長尺物1Aがその長手方向に搬送され、テーブル13の方へ向かってくる。
2)次にカッター装置11が隣り合うフライ1,1の間の位置で長尺物1Aを切断する。
3)長尺物1Aから切り離されたフライ1をグリッパー装置12が掴んでテーブル13へ運んで、テーブル13の上に載せる。詳しくはテーブル13のうち前後方向に延長する板部13aの前部にフライ1を載せる。このときテーブル13の前部に対して側方に且つ上方に離れた位置に姿勢保持装置14が待機している。
4)多関節ロボット16が姿勢保持装置14をフライ1の上に移動させてから降下させ、それによって姿勢保持装置14(クランプ装置20)がフライ1をテーブル13と協働して挟む。このときフライ1は、一対のテープ4,4が別々にテープ押さえ部22によって押さえられ、それによって各テープ押さえ部22とテーブル13の間にフライ本体3とテープ4が挟まれたものとなっている。またフライ1は、第1の止具7が止具押さえ部23によって押さえられ、それによって上押さえ部23aとテーブル13の間には第1の止具7が挟まれ、側方押さえ部23bに対して側方(上押さえ部23a側)には第1の止具7が接する状態で配置されたものとなっている。このとき姿勢保持装置14(テープ離隔装置30)の挿入片31は、非縫製側のテープ4に対して側方(図1での右側)に離れた第2の位置(初期位置)でフライ本体3の上に載った状態になっている。
5)姿勢保持装置14(テープ離隔装置30)が挿入片駆動部32としてのシリンダーを駆動させ、図7(A)(B)に示すように挿入片31の挿入部31bがフライ1と非縫製側のテープ4の間の第1の位置に挿入される。このとき非縫製側のテープ4における長手方向の縁縫い側の一端部、つまり第1の止具側の端部は図7(C)に示すように、縁縫い前のフライ本体3に対してミシンフット15aよりも上側に離隔される。より詳しく言えば、非縫製側のテープ4における長手方向の縁縫い側の一端部、つまり第1の止具側の端部は、その下面のうち幅方向のうちミシンフット15a側の端を、ミシンフット15aの上端(ミシンフット15aのうちフライ1を搬送する方向に関しての上流側の部分15a2の上端)よりも上側に離隔される。
6)多関節ロボット16が縁縫い前用搬送を行う。つまり多関節ロボット16が縁縫い前のフライ1を挟んだ状態の姿勢保持装置14(クランプ装置20)をミシン15に向かって直線的に搬送する。そうすると、フライ1がL字状のテーブル13の交差する部分に向かって前方に真っ直ぐ移動し、ミシン15のミシンフット15aの真下にフライ1の縁縫い側の一端部、つまり第1の止具側の端部が配置される。より詳しく言えば、フライ1の第1の止具側の一端部のうちミシンフット15aの真下に配置されるのは、フライ本体3のうち一対のテープ4,4よりも幅方向にはみ出している部分であって且つ縫製側のテープ4に対して非縫製側のテープ4の方にはみ出している部分である。
7)ミシンフット15aが降下してフライ本体3をテーブル13との協働によって挟む。
8)ミシン15が駆動を開始し、ミシン針が上下動する。また多関節ロボット16が縁縫い用搬送を行う。
8−1)まず多関節ロボット16が、縁縫い前のフライ1を挟んだ状態の姿勢保持装置14(クランプ装置20)を右側に直線的に搬送する。そうすると非縫製側のテープ4のうち第1の止具側の一端部がミシンフット15aの上を通過すると共に、フライ本体3が横辺3aに沿って縁縫いされる。
8−2)次に多関節ロボット16が、フライ1を挟んだ状態の姿勢保持装置14を平面視するとほぼ半円を描くように移動させる。そうするとミシンフット15aの隣りのカッター15bがフライ本体3の前記した1つの角部を縫製側のテープ4と一緒に切断し、それによってフライ本体3の湾曲辺3bが形成される。またフライ本体3が縫製側のテープ4と一緒に湾曲辺3bに沿って縁縫いされる。
8−3)次に多関節ロボット16が、フライ1を挟んだ状態の姿勢保持装置14を右側に直線的に移動させる。そうするとフライ本体3が縦辺3cに沿って縁縫いされる。なお図1での符号4bは縁縫いされた縫糸である。
9)ミシン針の上下動が停止し、ミシンフット15aが上昇し、多関節ロボット16が姿勢保持装置14を上昇させてから初期位置に戻し、テープ離隔装置30の挿入片駆動部が駆動して挿入片31を初期位置である第2の位置に戻す。以上の1)〜9)の工程が繰り返されることによって、フライ1は次々に縁縫いされる。
【0059】
上記した第一実施形態の縁縫い装置は以下の効果を有する。
第一実施形態の縁縫い装置は、クランプ装置20でフライ1を挟んだまま縁縫い前用搬送と縁縫い用搬送を連続して行うので、縁縫い前用搬送と縁縫い用搬送を別々の装置で行うものに比べて、クランプ装置20に対するフライ1の姿勢を同じ状態に保つことができ、フライ1の縁縫いの品質を向上することができる。
また第一実施形態の縁縫い装置は、クランプ装置20による縁縫い用搬送が、横辺3a・湾曲辺3b・縦辺3cの各形状に対応させてクランプ装置20を連続して搬送するものなので、縁縫いした範囲(横辺3a・湾曲辺3b・縦辺3cの部分の範囲)においてフライ1の縁縫いの品質を向上させることができる。
また第一実施形態の縁縫い装置は、クランプ装置20のホルダー21がテープ押さえ部22でテープ4を押さえるので、フライ本体3を押さえるものに比べれば、押さえる部分のフライ1の厚みが厚いので押さえやすくなり、ホルダー21で押さえたときにフライ1の姿勢を安定させることができる。しかも第一実施形態の縁縫い装置は、一対のテープ押さえ部22,22によってフライ1を2つのテープ4,4において押さえるので、1つのテープ押さえ部でフライを押さえるものに比べれば、ホルダー21で押さえたときにフライ1の姿勢を安定させることができる。ちなみにクランプ装置20が一対のテープ4,4を押さえる部分は、その長手方向のうち一対のエレメント列5,5の側方である。
また第一実施形態の縁縫い装置は、ホルダー21が止具押さえ部23を備えるので、テープ押さえ部22だけでフライを押さえるものに比べれば、フライ1を押さえる箇所が増え、ホルダー21で押さえたときにフライ1の姿勢を安定させることができる。
また第一実施形態の縁縫い装置は、止具押さえ部23が上押さえ部23aと側方押さえ部23bを備えるので、第1の止具7を押さえる箇所が増え、ホルダー21で押さえたときにフライ1の姿勢を安定させることができる。また湾曲辺3bを縁縫いするために多関節ロボット16がほぼ半円状の回転運動をするときに、その回転運動の半径方向の外側に側方押さえ部23bは配置されることになり、遠心力よって第1の止具7には回転運動の半径方向の外側に移動しようとする。しかし側方押さえ部23bがその移動を阻止するので、縫製中のフライ1の姿勢を安定させることができる。
また第1の実施形態の縁縫い装置は、ホルダープレート24や上押さえ部23aを面取りするような形状としてあるので、回転運動をするときに、ホルダープレート24や上押さえ部23aがミシンフット15aに接触し難い。
また第一実施形態の縁縫い装置は、テープ離隔装置30を備えており、テーブル13上の縁縫い前のフライ1に対して非縫製側のテープ4における第1の止具側の一端部をテープ離隔装置30でミシンフット15aよりも上側に離隔させるので、縁縫い中にミシンフット15aの上に非縫製側のテープ4の一端部を通過させることになり、フライ1を縁縫いするときに非縫製側のテープ4を縫製せずに済むし、非縫製側のテープ4が邪魔にならない。ちなみにフライ1をクランプ装置20で押さえた場合、非縫製側のテープ4のうち長手方向における第1の止具側の端部は、テープ押さえ部22や止具押さえ部23で押さえられず、テープ4の厚み方向(上下方向)に自由に変位可能となっているので、テープ離隔装置30で上側に変位させることができる。
また第一実施形態の縁縫い装置は、テープ押さえ部22の下面よりも挿入片31(挿入部31b)の下面を低くしてあるので、非縫製側のテープ4とフライ本体3との間に挿入部31bが挿入し易くなる。
また第一実施形態の縁縫い装置は、姿勢保持装置14がクランプ装置20とテープ離隔装置30を備えるものなので、縁縫い前搬送と縁縫い用搬送とをまとめて行えることができる。
【0060】
本発明の第二・第三実施形態の縁縫い装置は、姿勢保持装置において第一実施形態の縁縫い装置と相違するものである。より詳しく言えば第一実施形態での姿勢保持装置14は、テープ離隔装置30とクランプ装置20を一体化したものであったが、第二・第三実施形態での姿勢保持装置は、テープ保持装置とクランプ装置を別々に分離されたものとしてある。
【0061】
たとえば図9には第二実施形態の縁縫い装置のテープ離隔装置30Aが示されている。テープ離隔装置30Aは、テーブルの上方からテープ4を吸引する吸引装置である。より詳しく言えばテープ離隔装置30Aは、非縫製側のテープ4を先端から吸引するパイプ35と、パイプ35の他端に接続される図示しない送風機を備える。送風機はパイプ側から吸い込んだ空気を外部に吐き出すものである。また第二実施形態の縁縫い装置は、テープ離隔装置30Aのパイプ35をクランプ装置と一緒に縁縫い前用搬送および縁縫い用搬送する専用の搬送装置を備えるものである。
【0062】
また図10には第三実施形態のテープ離隔装置30Bが示されている。テープ離隔装置30Bは、テープ4を上から摘まむチャック装置である。より詳しく言えばテープ離隔装置30Bは、テーブル13の上方に配置される一対の爪部36,36であって互いの下端部で非縫製側のテープ4を摘まむ一対の爪部36,36と、一対の爪部36,36を互いの上端部で開閉可能に支持する支持部37と、一対の爪部36,36を開閉する図示しない駆動部とを備えるものである。また第三実施形態の縁縫い装置も、テープ離隔装置30Bをクランプ装置と一緒に縁縫い前用搬送および縁縫い用搬送する専用の搬送装置を備えるものである。
【0063】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば縫製対象物としてのフライ本体3は、縦辺3cと横辺3aとが直交する方向に延長するものに限らず、交差する方向に延長するものであっても良い。またフライ本体3の縦辺3cに対して幅方向に対向する辺(長辺)は、縦辺3cに対して平行でなくても良い。同様にフライ本体3の横辺3aに対して長手方向に対向する辺(短辺)は、横辺3aに対して平行でなくても良い。
【0064】
また姿勢保持装置用の搬送装置は上記実施形態では多関節ロボット16であったが、本発明ではこれに限らず、例えばテーブルの周囲に配置したレールと、そのレールに沿って姿勢保持装置を駆動させる駆動装置を備えるものであっても良い。
【0065】
また縁縫い用搬送は、上記実施形態では多関節ロボット16が行うものであったが、本発明ではこれに限らず、ミシン15の図示しない送り歯が行うものであっても良い。この場合、送り歯はフライ1を搬送する専用の搬送部になる。そして送り歯がフライ1を搬送しているときには、多関節ロボット16は姿勢保持装置14をフライ1から離した状態にする。
【符号の説明】
【0066】
1A 長尺物
1 フライ
2A ファスナーチェーン
2 スライドファスナー
3 フライ本体
3a 横辺
3b 湾曲辺
3c 縦辺
4 テープ
4a 縫糸
4b 縫糸
5 エレメント列
6 スライダー
7 第1の止具
8 第2の止具
11 カッター装置
12 グリッパー装置
13 テーブル
13a 板部
13b 板部
13c 貫通穴
14 姿勢保持装置
15 ミシン
15a ミシンフット
15a1 一方側部分
15a2 他方側部分
15b カッター
16 搬送装置(多関節ロボット)
16a 固定部
16b 第1のリンク部
16c 第2のリンク部
16d ロッド
20 クランプ装置
21 ホルダー
22 テープ押さえ部
23 止具押さえ部
23a 上押さえ部
23a1 前面
23b 側方押さえ部
23b1 固定片
23b2 垂下片
23c 前面
23d 後面
23e 左側面
23f 右側面
23h 斜面
24 ホルダープレート
24a 左側面
24b 後面
24c 前面
24d 斜面
24p 固定板部
25 連結部
25a 第1の連結部
25b 第2の連結部
25c 接合部
25d 貫通穴
25e 貫通穴
25f ボルト
30,30A,30B テープ離隔装置
31 挿入片
31a 固定部
31b 挿入部
31b1 上面
31b2 後面
32 挿入片駆動部
32a シリンダーケース
32b ピストンロッド
33 ガイド
33a ガイドレール
33b 移動子
33b1 貫通穴
34 ブロック
35 パイプ
36 爪部
37 支持部
G 間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10