特許第6802932号(P6802932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6802932液圧式車両ブレーキと電気機械式ブレーキ装置とを備える車両のブレーキシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802932
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】液圧式車両ブレーキと電気機械式ブレーキ装置とを備える車両のブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/22 20060101AFI20201214BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20201214BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20201214BHJP
   B60T 1/06 20060101ALI20201214BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   B60T17/22 C
   B60T13/74 D
   B60T13/74 G
   B60T8/00 Z
   B60T1/06 G
   B60T17/18
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-542671(P2019-542671)
(86)(22)【出願日】2018年2月12日
(65)【公表番号】特表2020-506845(P2020-506845A)
(43)【公表日】2020年3月5日
(86)【国際出願番号】EP2018053411
(87)【国際公開番号】WO2018153710
(87)【国際公開日】20180830
【審査請求日】2019年8月7日
(31)【優先権主張番号】201710096466.X
(32)【優先日】2017年2月22日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ベールレ―ミラー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】マンヘルツ,エディト
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイス,カール―ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジゾン
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−163486(JP,A)
【文献】 特開2010−162952(JP,A)
【文献】 特開2002−246226(JP,A)
【文献】 特開2004−010041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00−17/22
B60T 1/00−7/10
B60T 7/12−8/1769
B60T 13/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧に影響を及ぼすための電動アクチュエータ(10)を有する液圧式車両ブレーキ(1)と、少なくとも1つの電気ブレーキモータ(13)を有する電気機械式ブレーキ装置と、を備える車両のブレーキシステムにおいて、液圧を発生させる駐車位置にロックするためのロック機構(40)が前記液圧式車両ブレーキ(1)の前記電動アクチュエータ(10)に、または前記電動アクチュエータ(10)により操作可能な伝達装置に割り当てられ
前記液圧式車両ブレーキ(1)の前記電動アクチュエータ(10)は、前記伝達装置をなす伝動装置(35)を駆動する電気モータ(36)を備え、前記ロック機構(40)により前記電気モータ(36)または前記伝動装置(35)をロック可能であり、
前記ロック機構(40)は、解放位置と係止位置との間で変位可能な係止爪(41)を有する電磁調整装置を備え、
前記ロック機構(40)の前記係止爪(41)は、前記係止位置にあるとき、前記伝動装置(35)の伝動装置歯車(38)をブロックすることを特徴とする、ブレーキシステム。
【請求項2】
前記係止爪(41)を前記係止位置の方向に負荷する永久磁石(45)が前記電磁調整装置に配置されていることを特徴とする、請求項に記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前記ロック機構(40)の前記係止爪(41)は、前記係止位置にあるとき、前記電気モータ(36)のモータ軸(37)と回転不能に接続されている歯車(46)をブロックすることを特徴とする、請求項またはに記載のブレーキシステム。
【請求項4】
前記モータ軸(37)と接続された歯車(46)は、前記歯車(46)を液圧が高くなる方向にのみさらに回転させることが可能であるように鋸歯プロファイルを有することを特徴とする、請求項に記載のブレーキシステム。
【請求項5】
前記モータ軸(37)と接続された前記歯車(46)は、対称三角形プロファイルを有する歯を備えていることを特徴とする、請求項に記載のブレーキシステム。
【請求項6】
前記液圧に影響を及ぼすための前記電動アクチュエータ(10)は、ブレーキペダル(6)により負荷することができるブレーキ倍力装置(10)の一部であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキシステム。
【請求項7】
前記ロック機構(40)を手動で操作するための操作スイッチが設けられていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキシステム。
【請求項8】
閉ループまたは開ループ制御装置(11)であって、請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキシステムの一部、または調整可能なすべてのコンポーネントを制御するための、閉ループまたは開ループ制御装置。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキシステムの一部、または調整可能なすべてのコンポーネントを制御するための少なくとも2つの制御装置の組合せであって、第1制御装置は電気機械式ブレーキ装置を制御し、第2制御装置は、液圧式車両ブレーキ(1)の電動アクチュエータ(10)とロック機構(40)とを制御する、組合せ。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキシステムにおいて駐車ブレーキ力を発生させる方法であって、車両の駐車後に、前記液圧を高めるために液圧式車両ブレーキ(1)の電動アクチュエータ(10)が操作され、所定の液圧に達した後に、前記電動アクチュエータ(10)の現在位置が前記ロック機構(40)によりブロックされる、方法。
【請求項11】
前記液圧式車両ブレーキ(1)の前記電動アクチュエータ(10)が操作され、前記ロック機構(40)は、要求される駐車ブレーキ力を電気機械式ブレーキ装置によって提供できない場合にのみ起動されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記駐車の終了とともに、前記ロック機構(40)を前記解放位置へ変位させることによって前記液圧式車両ブレーキ(1)の前記電動アクチュエータ(10)のブロックが解除されることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の液圧式車両ブレーキと電気機械式ブレーキ装置とを備える車両のブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において、液圧式車両ブレーキと、電気ブレーキモータを有する電気機械式駐車ブレーキ装置とを備える車両のブレーキシステムが記載される。ブレーキ装置の電気ブレーキモータは、液圧式車両ブレーキのホイールブレーキに統合されており、電気ブレーキモータは、ブレーキピストンをブレーキディスクの方向に変位させ、このブレーキピストンは、車両ブレーキが操作されると、液圧によるブレーキ圧によっても負荷される(beaufschlagen)。
【0003】
車両を駐車する場合には、要求される駐車ブレーキ力を発生させるために、電気ブレーキモータを有する駐車ブレーキ装置が操作される。駐車ブレーキ力が要求された力のレベルに達しない場合、特許文献1では、追加的に液圧式車両ブレーキを操作して追加的ブレーキ力を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102004004992号明細書
【発明の概要】
【0005】
本発明による車両のブレーキシステムは、液圧式車両ブレーキと、少なくとも1つの電気ブレーキモータを有する、特に2つの電気ブレーキモータを有する電気機械式ブレーキ装置とを備えている。液圧式車両ブレーキは、通常の運転走行において車両の制動操作のために要求されるブレーキ力を達成するために操作される。液圧式車両ブレーキにおいて発生させる液圧は、ホイールブレーキユニットにおけるブレーキピストンに作用する。少なくとも1つの電気ブレーキモータを有する電気機械式ブレーキ装置は、主として車両の駐車時に車両を継続的に(dauerhaft)固定する駐車ブレーキ力を電気機械式で発生させるために操作される。有利な一実施形態において、電気機械式ブレーキ装置の電気ブレーキモータは、液圧式車両ブレーキと同じブレーキピストンに作用する。
【0006】
液圧式車両ブレーキは、液圧に影響を及ぼすことができる電動アクチュエータを有する。アクチュエータは電気的に制御可能であり、アクチュエータの電気的制御により車両ブレーキにおける液圧を高めることができる。電動アクチュエータは、例えば運転者がブレーキペダルの操作により車両ブレーキにおける液圧に影響を及ぼすために用いられるブレーキ倍力装置の一部である。ブレーキ倍力装置は、運転者が発生させた液圧を、電動アクチュエータを使って倍力する(verstaerken)。
【0007】
さらに、本発明によるブレーキシステムは、液圧式車両ブレーキの電動アクチュエータに、またはアクチュエータにより操作可能な伝達装置に割り当てられたロック機構を備えている。ロック機構を使用して、車両が駐車位置にあるときアクチュエータをブロックする(blockieren)ことにより液圧を保持することができる。この場合、ロック機構には、ロック後に液圧を継続的に維持するためのエネルギー供給の必要がないという利点がある。なぜならアクチュエータ、またはアクチュエータの下流に接続された伝達装置のロックが機械式で行われるからである。それにより車両の駐車中、電気機械式ブレーキ装置の電気コンポーネントまたは制御装置の機能性に左右されることなく、十分に高い駐車ブレーキ力が継続的に保証される。したがってロック機構は、液圧式車両ブレーキと電気機械式ブレーキ装置との間に機械的な結合を作り出し、特に電気機械式ブレーキ装置のコンポーネントもしくは割り当てられた制御装置に不具合が生じた場合に駐車ブレーキ力の継続的な発生を可能にする。電動アクチュエータは、特に自律的に、したがって運転者による操作なしに制御可能である。
【0008】
有利な一実施形態では、液圧式車両ブレーキの電動アクチュエータは、伝達装置をなす伝動装置を駆動する電気モータを備えている。ロック機構により電気モータまたは伝動装置をロック可能である。電気モータおよび伝動装置が、ブレーキペダルにより負荷される(beaufschlagenden)ブレーキ倍力装置(iブースタ)の構成要素であることが有利である。電動アクチュエータは、ブレーキペダルによるブレーキ倍力装置の操作とは独立して制御可能であり、それにより運転者が行動しなくても電動アクチュエータを制御することができ、それにより高い液圧を発生させ、続いてこの液圧がロック機構の操作およびアクチュエータのブロックにより現状のまま固定される(eingefroren)。
【0009】
さらに別の合目的的な一実施形態では、ロック機構は、解放位置と係止位置との間で変位可能な係止爪を有する電磁調整装置を備える。調整装置の作動は通電によって行われ、それに続いて係止爪を変位させる電磁力が生成される。調整装置に通電すると係止爪の解放位置から、電動アクチュエータがロックされる係止位置への移行が行われることが有利である。さらに調整装置を相応に逆に通電することによって逆方向の、すなわち係止位置から解放位置への変位をももたらすことが有利であり得る。
【0010】
電磁調整装置において、係止爪を係止位置の方向に負荷する(beaufschlagen)永久磁石が設けられていてもよい。この実施形態には、係止爪を解放位置から係止位置へ移行運動させるためにのみ電磁調整装置の通電が必要であるという利点がある。係止爪が係止位置に達した後、係止爪は永久磁石によって係止位置に保たれ、電磁調整装置において電流をオフにすることができ、このことが係止爪を解放位置へ戻すことはない。これによって継続的な通電をしなくてもロック機構の係止爪が係止位置にとどまることが保証されている。
【0011】
さらに別の合目的的な一実施形態では、ロック機構の係止爪は、係止位置にあるとき伝動装置の伝動装置歯車をブロックする。この伝動装置歯車は、電気モータの下流に接続されていて、特に電気モータとブレーキ倍力装置との間の伝達経路に位置する。係止爪は、係止位置にあるとき伝動装置歯車の歯プロファイルに入り込み、それにより液圧が低減される方向の伝動装置歯車の回転運動がブロックされる。伝動装置歯車は、電気モータのモータ軸と回転不能に接続されていてもよい。
【0012】
ブレーキ倍力装置は、特にタンデムシリンダとしての形態のマスタシリンダを備えることが有利であり、マスタシリンダを介して液圧式車両ブレーキの1つまたは2つのブレーキ回路に液圧が供給される。マスタブレーキシリンダは、ブレーキペダルによって変位され、その際、ブレーキペダルにより作用が及ぼされる制御ロッドがマスタブレーキシリンダを変位させる。これに加えて、電気モータによって伝動装置を介して駆動される軸方向に固定されているが回転可能なスピンドルナットに支持されたスピンドルの軸方向の変位運動によりマスタブレーキシリンダが変位可能であってもよい。それにより、電気モータの回転運動が伝動装置とスピンドルナットとを介してスピンドルの軸方向の変位運動に変換され、この軸方向の変位運動は倍力運動(Verstaerkungsbewegung)としてマスタブレーキシリンダに作用する。
【0013】
係止爪が電気モータまたは伝動装置をブロックすることにより、スピンドルの現在の軸方向位置が動き止めされ(arretieren)、この位置での液圧が現状のまま固定される。
【0014】
伝動装置歯車を係止爪によりブロックすることに代えて、伝動装置の一部ではなく、歯列に係止爪がロック係合する歯車が電気モータのモータ軸に回転不能に直接着座することも可能である。この実施形態には、伝動装置が、もしくは電気モータと伝動装置との間の接続がロック機構に依存せず、かつその影響を受けないという利点がある。ロック機構の係止爪に割り当てられた追加的歯車をモータ軸に配置しさえすればよい。
【0015】
さらに別の合目的的な一実施形態では、モータ軸に回転不能に着座する歯車は、鋸歯プロファイルを有している。この鋸歯プロファイルは、歯車を液圧が高くなる方向にのみさらに回転させることが可能であり、これに対して逆方向にはブロックされるように形成されている。歯車の歯は、鋸歯プロファイルに対応して周方向に傾けられた鋸歯を有し、それにより歯車は、周方向にさらに回転した場合に係止爪の下を通り抜け、これに対して回転方向が反転すると、係止爪は鋸歯の急峻な歯面に当接し、歯車の通り抜けを不可能にする。
【0016】
これに代わる一実施形態では、モータ軸と接続された歯車が、対称三角形プロファイルを有する歯を備えている。この実施形態には、係止爪が係止位置にあるとき、達成された高いブレーキ圧が現状のまま固定されているが、電気モータを能動的に逆転させると歯車が係止爪の下を通り抜け、それによって液圧を低下させることができるという利点がある。逆に、電気モータを相応に制御することによって、歯車が相応の回転方向で係止爪の下を通り抜けることでブレーキ圧を高めることが可能である。
【0017】
さらに別の合目的的な実施形態では、ブレーキシステムは、ロック機構を手動でオンにし、場合によってはそれに加えてオフにすることもできる操作スイッチを有する。操作スイッチは、特に、運転者が駐車ブレーキ機能を作動させることができる駐車ブレーキスイッチから独立している。
【0018】
これに代わる一実施形態において、ロック機構は、運転者による手動ではなく、特に、ブレーキシステムの、特に電気機械式ブレーキ装置の電気コンポーネントに不具合があることが制御装置において認識された場合に、自動で、制御装置の制御信号を介して起動される。
【0019】
駐車ブレーキ力を発生させる方法では、車両の駐車後に、液圧を高めるために液圧式車両ブレーキの電動アクチュエータが操作される。所定の液圧に達した後に、電動アクチュエータの現在位置がロック機構によりブロックされる。アクチュエータの操作およびアクチュエータのブロックは、電気機械式ブレーキ装置のコンポーネントに不具合が生じた場合に行われることが好ましい。これに代えて、電気機械式ブレーキ装置が正常に機能できる場合でも液圧式車両ブレーキの電動アクチュエータを操作すること、およびロック機構を使用してアクチュエータの位置を動き止めすることも可能である。
【0020】
電気機械式ブレーキ装置における不具合は、例えば、現在達成可能な駐車ブレーキ力の大きさによって確認することができる。要求される駐車ブレーキ力を電気機械式ブレーキ装置によって提供することができない場合(このことは、例えば電気ブレーキモータのモータ電流をもとに確認できる)、電動アクチュエータが操作され、ロック機構が起動される。
【0021】
さらに別の合目的的な実施形態では、駐車の終了とともにロック機構による電動アクチュエータのブロックが解除される。このためにロック部材、特にロック機構の係止爪が係止位置から解放位置へ変位される。
【0022】
ブレーキシステムの構成要素である閉ループもしくは開ループ制御装置でいくつかの方法ステップが実行される。これは例えば、場合によってはロック機構の制御も行われるESP制御装置(電子安定性プログラム)である。これに加えて、またはこれに代えて、これは電気的に制御可能なアクチュエータを備えるブレーキ倍力装置の制御装置であってもよいし、あるいはその他の制御装置であってもよい。ロック機構をブレーキ倍力装置の制御装置により、あるいはそれ以外の、例えばエアバッグの、または車両のステアリングシステムの制御装置により制御することが可能であり、場合によっては合目的的である。特に、電気機械式ブレーキ装置を担当する制御装置が機能しなくなった場合には、ロック機構を別の正常な制御装置により制御することができる。
【0023】
他の利点および合目的的な実施形態は、他の請求項、図面の説明、および図面から読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ブレーキ倍力装置を有する液圧式車両ブレーキの模式図であり、車両リアアクスルにおける車両ブレーキのホイールブレーキ装置が、電気ブレーキモータを有する電気機械式ブレーキ装置を追加的に備えている。
図2】電気ブレーキモータを有する電気機械式ブレーキ装置の断面図である。
図3】電気モータによる倍力器(elektromotorische Verstaerkung)と伝動装置歯車に作用するロック機構とを有するブレーキ倍力装置の断面図である。
図4図3に相当するブレーキ倍力装置の断面図であり、ブレーキ倍力装置の電気モータのモータ軸に着座する歯車にロック機構が作用する。
図5】鋸歯プロファイルを有する実施形態による歯車の図である。
図6】対称三角形プロファイルを有する歯を備える実施形態による歯車の図である。
図7】ロック機構を手動でロックおよびアンロックするためのフローチャートである。
図8】ロック機構を自動でロックおよびアンロックするためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図において同じ部材には同じ参照符号が付されている。
【0026】
図1に示された車両の液圧式車両ブレーキ1は、液圧下のブレーキ液を車両の各車輪におけるホイールブレーキ装置9に供給し、ホイールブレーキ装置を制御するためのフロントアクスルブレーキ回路2とリアアクスルブレーキ回路3とを備えている。ブレーキ回路は、それぞれ1つの前輪と、この前輪の対角線上に配置された後輪とを有する2つのダイアゴナルブレーキ回路(Diagonalbremskreise)として形成されていてもよい。
【0027】
2つのブレーキ回路2、3は共通のマスタブレーキシリンダ4に連結されており、このマスタブレーキシリンダは、タンデムシリンダとして形成されていて、ブレーキ液リザーバタンク5を介してブレーキ液が供給される。マスタブレーキシリンダ4内のマスタブレーキシリンダピストンは、運転者によってブレーキペダル6を介して操作され、運転者によって行われるペダルストロークがペダルストロークセンサ7により測定される。伝動装置を介してマスタブレーキシリンダ4を操作する、例えば電気モータを備えたブレーキ倍力装置10(iブースタ)がブレーキペダル6とマスタブレーキシリンダ4との間に設けられている。ブレーキ倍力装置10は、ブレーキ液圧に影響を及ぼすためのアクティブブレーキコンポーネントである。
【0028】
ペダルストロークセンサ7により測定されたブレーキペダル6の変位運動は、センサ信号としてブレーキシステムの制御装置11に伝送され、この制御装置において、ブレーキ倍力装置10を制御するための制御信号が生成される。ホイールブレーキ装置9へのブレーキ液の供給は、各ブレーキ回路2、3において、他のユニットとともにブレーキ液圧装置8の一部をなすいくつかの切替弁を介して行われる。さらに、ブレーキ液圧装置8には電子安定性プログラム(ESP)の構成要素である液圧ポンプが属する。液圧ポンプも、ブレーキ液圧に影響を及ぼすためのアクティブブレーキコンポーネントである。
【0029】
図2において、車両のリアアクスルにおける車輪に配置されているホイールブレーキ装置9が詳しく示されている。ホイールブレーキ装置9は、液圧式車両ブレーキ1の一部であり、リアアクスルブレーキ回路からブレーキ液22が供給される。ホイールブレーキ装置9は、電気機械式ブレーキ装置をさらに有し、この電気機械式ブレーキ装置は、好ましくは車両を停止状態に固定するための駐車ブレーキもしくはパーキングブレーキとして用いられるが、特に、速度制限値未満の比較的低い車両速度で車両が移動する場合に車両の制動操作のために用いることもできる。このようなホイールブレーキ装置9は、場合によっては車両のフロントアクスルの車輪に配置されていてもよい。
【0030】
電気機械式ブレーキ装置は、ブレーキディスク20を上から掴む挟み具(Zange)19を有するブレーキキャリパ12を備えている。ブレーキ装置は、ブレーキモータ13として直流電気モータを用いるモータ伝動装置ユニットを操作部(Stellglied)として備え、ブレーキモータのロータ軸がスピンドル14を回転駆動し、スピンドルにはスピンドルナット15が回転不能に支持されている。スピンドル14が回転すると、スピンドルナット15は軸方向に変位される。スピンドルナット15は、ブレーキピストン16によってブレーキディスク20に押し付けられるブレーキパッド17の支持体であるブレーキピストン16内を移動する。ブレーキディスク20の向かい側には、挟み具19で定置に保持されているさらに別のブレーキパッド18が設けられている。ブレーキピストン16は、その外側を取り囲むシールリング23によって、収容ハウジングに対して圧密に密閉されている。
【0031】
スピンドル14が回転運動すると、スピンドルナット15がブレーキディスク20の方向に軸方向で前方へ、もしくはスピンドル14が逆に回転運動すると、エンドストッパ21に達するまで軸方向で後方へブレーキピストン16内を移動することができる。スピンドルナット15は、クランプ力を発生させるために、ブレーキピストン16の内端面を負荷し(beaufschlagen)、それによってブレーキ装置において軸方向に摺動し得るように支持されたブレーキピストン16がブレーキパッド17とともに、ブレーキディスク20の対面する端面に押し付けられる。スピンドルナット15は、ブレーキモータとブレーキピストンとの間の伝達部材である。
【0032】
液圧ブレーキ力のために、液圧式車両ブレーキ1からのブレーキ液22の液圧がブレーキピストン16に作用する。車両が停止状態にあるときでも、液圧が電気機械式ブレーキ装置の操作を効果的に支援し、それによって総ブレーキ力は、電気モータにより提供される割合分と液圧の割合分とから構成される。車両の走行中、ブレーキ力を発生させるために、液圧式車両ブレーキのみがアクティブであるか、または液圧式車両ブレーキと電気機械式ブレーキ装置とがアクティブであるか、または電気機械式ブレーキ装置のみがアクティブである。液圧式車両ブレーキ1の調整可能なコンポーネントと電気機械式ホイールブレーキ装置9とを制御するための制御信号は制御装置11において生成される。
【0033】
図3において、iブースタとしての形態のブレーキ倍力装置10の断面図が示されている。ブレーキ倍力装置10は、ブレーキ回路2、3に液圧を供給するためのタンデムシリンダとして形成されたマスタブレーキシリンダ30を備えている。マスタブレーキシリンダ30は、ブレーキペダル6(図1)に属するロッド32と接続されている制御ロッド31を介して操作される。ブレーキペダルを操作すると、制御ロッド31が軸方向に摺動し、高い液圧を発生させるためにマスタブレーキシリンダ30が操作される。
【0034】
ブレーキ倍力装置10は、さらに、電気モータ36と伝動装置35とを含む電気機械式倍力器を有している。制御ロッド31は、スピンドルナット34に支持されているスピンドル33に収容されており、スピンドル33とスピンドルナット34とはねじを介して結合されている。スピンドルナット34は、回転可能に支持されているが、軸方向にはハウジングに固定配置されており、伝動装置35によって駆動される。電気モータ36が回転すると、モータ軸37に回転不能に着座する伝動装置歯車38を介してモータ軸37の回転運動が伝動装置35へ伝達され、この伝動装置の回転運動が、出力側でスピンドルナット34へ伝達される。スピンドルナット34の回転運動は、マスタブレーキシリンダ30に作用するスピンドル33の軸方向の変位運動に変換される。
【0035】
ブレーキ倍力装置10には、さらに、電気モータ36と伝動装置35とを特定位置で動き止めもしくはロックすることを可能にするロック機構40が割り当てられている。このことは、特に車両が停止状態にあるときに液圧式車両ブレーキにおける特定の液圧を現状のまま固定することを可能にし、それによって継続的に液圧式車両ブレーキにより駐車ブレーキ力が生成される。
【0036】
ロック機構40は、解放位置と係止位置との間で並進的に変位可能な係止爪41を有する電磁調整装置を備えている。係止爪41の変位方向は、電気モータ36のモータ長手軸線に対して直交するとともに、マスタブレーキシリンダ30の調整方向に対して直交する。図3において、係止爪41は、伝動装置歯車38が係止爪41によって影響が及ぼされない引っ込められた解放位置に変位されている。ロック機構40を操作すると、係止爪41は、係止爪41が伝動装置歯車38の歯列に係合して動き止めする係止位置へ変位され、それによって現状のまま固定された液圧を低下させるために電気モータ36と、したがってスピンドル33の戻り変位(Zurueckverstellen)が不可能にされている。
【0037】
ロック機構40は電磁的に形成されており、かつ通電可能なリングコイル42を有し、このリングコイルに通電されると、係止爪41に着座するアーマチュア43が係止位置の方向で軸方向に変位される。係止爪41を含めたアーマチュア43には、ばね要素44によって解放位置へと力が加えられる。リングコイル42に通電されると、アーマチュア43がばね要素44の力に抗して解放位置から係止位置へ変位される。
【0038】
ロック機構40は、さらに、ロック機構40において伝動装置歯車38に向いた側に配置された永久磁石45を備えている。係止位置に達するとともに、アーマチュア43は永久磁石45に当接し、この永久磁石により吸引される。永久磁石45の磁力は、リングコイル42の通電をオフにした後でもアーマチュア43がばね力44に逆らって係止位置に保持されるのに十分な大きさである。
【0039】
係止位置を解除するために、リングコイル42に逆方向に通電し、それによってアーマチュア43が発生した磁界により係止位置から解放位置へ変位される。
【0040】
ロック機構40の制御は、ブレーキ倍力装置の制御装置により行われる。
【0041】
図4に示されたブレーキ倍力装置10は、図3によるものと基本的に同じ構造を有している。しかし、ロック機構40を用いて電気モータ36もしくは伝動装置35をブロックする構造上の形態が異なる。モータ軸37には伝動装置歯車38が着座し、この伝動装置歯車を介してモータ軸37の駆動運動が伝動装置35へ伝達される。その一方で、より大きい軸方向距離をおいて追加的な歯車46がモータ軸37に着座する。この歯車は、モータ軸37と回転不能に接続されており、モータ軸37の自由端面に隣接して設けられている。追加的歯車46はブロックするために用いられ、ロック機構40の係止爪41と協働する。係止位置において、係止爪41が歯車46の歯列に係合し、これによって電気モータ36の回転運動をブロックする。
【0042】
電気モータ36の回転運動のブロックは、電気モータの両回転方向に行うことができる。これに対して、図5において、モータ軸に着座する歯車46の一変形形態が示されており、この歯車の歯列は、周方向に斜めに延びる歯を有する鋸歯プロファイル47として形成されている。係止爪41は、その先端に傾斜させたプロファイル48を有し、このプロファイルは、鋸歯プロファイル47のより大きく傾斜させた面に適合させてある。このことによって、締結方向(Zuspannrichtung)であるとともに、より高い液圧を発生する回転方向49に歯車46が通り抜けることが可能になる。したがって係止爪41が係止位置にあるときでも液圧を高めることが可能である。これに対して、逆の回転方向には歯車46の回転運動がブロックされ、それによって液圧が継続的に現状のまま固定されている。
【0043】
図6による変形形態において、歯車46の歯プロファイル47が対称三角形プロファイルとして形成されている。係止爪41の先端も対称三角形プロファイル48を有する。この実施形態は、係止爪41が係止位置にあるときでも、電気モータ36を操作した場合に歯車46を両方向に回転させることを可能にする。電気モータ36によって生成されるモータトルクは、係止爪41が入り込む状態で歯車46が両回転方向に通り抜けることができるのに十分な高さである。したがって、係止爪が入り込むにもかかわらず、液圧を高めることと、液圧を低下させることとが可能である。
【0044】
図7において、ロック機構を手動でロックおよびアンロックするための、したがって係止爪を解放位置と係止位置との間で移行させるためのフローチャートが示されている。第1ステップ60における方法の開始後、次のステップ61において、ロック機構を手動で操作するための操作スイッチが操作されているか否かという質問が行われる。操作スイッチが非操作状態である場合、ノー分岐(「N」)に従って再びステップ61による質問の初めに戻り、この質問が規則的な間隔で新たに行われる。これに対して、ステップ61における質問の結果が、継続的な駐車ブレーキ力を発生させるべく操作スイッチが操作されたことを示す場合、Y1分岐に従って次のステップ62へ進み、ロック機構が起動され、それにより係止爪が解放位置から係止位置へ変位され、電気モータをブロックする。続いてステップ64において方法が終了する。
【0045】
これに対してステップ61における質問の結果が、すでに駐車状態であることから出発して、操作スイッチを相応に操作することによってロック機構が解除されるべきであることを示す場合、Y2分岐に従って次のステップ63へ進み、ロック機構が解除される。それに応じて係止爪が係止位置から解放位置へ移行され、続いてステップ64において方法が終了する。
【0046】
図8において、駐車ブレーキスイッチに依存して制御されるロック機構を自動でロックおよびアンロックするための方法ステップを有するフローチャートが示されている。駐車ブレーキスイッチは、電気機械式ブレーキ装置を作動もしくは停止させるために運転者によって操作される。
【0047】
ステップ70における方法の開始後、次のステップ71においてESP制御装置が利用可能であるかどうかという質問が続く。そうである場合、イエス分岐(「Y」)に従って次のステップ72へ進み、そこで車両の点火がオフにされたかどうか質問される。そうではない場合、ノー分岐に従ってステップ71へ戻り、ESP制御装置が利用可能であるか否かという質問が規則的な間隔で新たに行われる。これに対して、ステップ72における質問が、点火がオフにされたということになった場合、イエス分岐に続いて、次のステップ73へ進み、ロック機構40は、ESP制御装置の制御によりロック位置へ変位され、それにより係止爪が解放位置から係止位置へ移行される。それにより、液圧式車両ブレーキにおける液圧が現状のまま固定され、次のステップ74で方法が終了する。
【0048】
これに対して、ステップ71における質問が、ESP制御装置が利用可能でないということになった場合、ノー分岐に続いて、次のステップ75へ進み、ここで、点火がオフにされているかどうかが質問される。オフにされている場合、イエス分岐に続いてステップ73へ進み、上記の方法でロック機構が起動される。そうではない場合、ノー分岐に続いて、次のステップ76へ進み、このステップで駐車ブレーキスイッチの状態が読み取られる。
【0049】
ステップ77において、駐車ブレーキスイッチが、ロック機構をアンロックするため、および係止爪を解放位置へ移行させるために操作されるかどうかが質問される。そうではない場合、ノー分岐に従って再びステップ76へ戻り、そこで新たに周期的な間隔で駐車ブレーキスイッチの現在状態が読み取られる。これに対してステップ77における質問の結果が、駐車ブレーキスイッチがロック機構をアンロックするために操作されたことを示す場合、イエス分岐に従ってステップ78へ進み、ロック機構のアンロックが行われる。続いてステップ75へ戻り、モータの点火がオフにされているかどうか規則的に質問される。
【0050】
同様にステップ76における駐車ブレーキスイッチの状態の読み取りに続いて行われるステップ79において、駐車ブレーキスイッチがロック機構をロックする方向に操作されているかどうか質問が行われる。ロックする方向に操作されていない場合、ノー分岐に続いて再びステップ76へ戻り、周期的間隔で駐車ブレーキスイッチの状態が読み取られる。これに対して、ステップ79における質問の結果が、ロック機構がロックする方向に操作されるべきであることを示す場合、イエス分岐に従ってステップ80へ進み、そこでロック機構が起動され、それにより係止爪が解放から係止位置へ変位される。続いてステップ81へ進み、点火がオフにされているかどうか質問される。そうではない場合、再びステップ76へ戻り、周期的な間隔で駐車ブレーキスイッチの状態が読み取られる。これに対してステップ81における質問の結果が、点火がオフにされていることを示す場合、ステップ74へ進み、方法が終了する。
【符号の説明】
【0051】
1 車両ブレーキ
2 フロントアクスルブレーキ回路
3 リアアクスルブレーキ回路
4 マスタブレーキシリンダ
5 ブレーキ液リザーバタンク
6 ブレーキペダル
7 ペダルストロークセンサ
8 ブレーキ液圧装置
9 ホイールブレーキ装置
10 ブレーキ倍力装置
11 制御装置
12 ブレーキキャリパ
13 ブレーキモータ
14 スピンドル
15 スピンドルナット
16 ブレーキピストン
17 ブレーキパッド
18 ブレーキパッド
19 挟み具
20 ブレーキディスク
21 エンドストッパ
22 ブレーキ液
23 シールリング
30 マスタブレーキシリンダ
31 制御ロッド
32 ロッド
33 スピンドル
34 スピンドルナット
35 伝動装置
36 電気モータ
37 モータ軸
38 伝動装置歯車
40 ロック機構
41 係止爪
42 リングコイル
43 アーマチュア
44 ばね要素
45 永久磁石
46 追加的歯車
47 鋸歯プロファイル
48 三角形プロファイル
49 回転方向
60、61、62、63、64 ステップ
70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8