(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(脱アンモニア処理方法)
本発明は、好気条件下で脱アンモニア能を有するシュードモナス・モーニーを用いることを特徴とする、脱アンモニア処理方法を提供する。
本発明の方法に用いるシュードモナス・モーニー(Pseudomonas mohnii)は、好気条件下で脱アンモニア能を有する。シュードモナス・モーニーに関して、脱アンモニア能とは、被処理物のアンモニア性窒素を、菌体内で窒素(N
2)へと変換できる能力を指す。
脱アンモニア処理とは、被処理物からアンモニアを除去すること、好ましくは被処理物のアンモニアを窒素にすること、より好ましくは亜硝酸及び硝酸を発生させることなくアンモニアを窒素に変換することを指す。
本発明の脱アンモニア能を有するシュードモナス・モーニーは、アンモニア性窒素を、菌体内で窒素(N
2)へと変換できる能力を有している為、本発明の菌株のみで、他の硝化菌又は脱窒菌を用いることなくアンモニア含有被処理水からアンモニアを除去することができる。ただし、これは他の菌と組み合わせてはならないという意味ではなく、必要に応じて他の硝化菌及び/又は脱窒菌等の他の菌と組み合わせてもよい。
【0011】
シュードモナス属は、グラム陰性の鞭毛を持つ好気性桿菌である。一般的に、シュードモナス族は従属栄養細菌であり、脱窒能を有する菌を含む。脱窒能を有するシュードモナス属細菌としては、例えば、シュードモナス・エアルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・デニトリフィカンス(Pseudomonas denitrificans)等が挙げられる。これらの脱窒菌は、嫌気条件下で硝酸イオンを窒素(N
2)にすることはできるが、アンモニウムイオンを亜硝酸イオンにする硝化を行うことはできない。
本発明のシュードモナス・モーニーは、意外にも好気条件下で脱アンモニア能を有しているため、上記菌とは異なり、直接アンモニア性窒素を取り込んで窒素(N
2)へと変換することができる。また、本発明のシュードモナス・モーニーは、上記変換の際に亜硝酸性窒素や硝酸性窒素を菌体外へと放出しない。よって、本発明の脱アンモニア処理方法によれば、周辺環境(例えば、周辺の土壌、地下水、河川又は海洋)を汚染することなしに、脱アンモニア処理を行うことができる。
【0012】
好気条件とは、菌が大気と接触可能な状態、又は菌が接する液の溶存酸素量が0.5 mg/L以上、例えば 1mg/L以上、より具体的には1.5mg/L以上、より具体的には2.0 mg/L以上、より具体的には5mg/L以上の条件を指す。溶存酸素量の上限は特に限定されないが、例えば20 mg/L、より具体的には15mg/Lであり得る。酸素濃度は、例えば飽和酸素濃度の1〜60%、より具体的には2〜50%、より具体的には3〜30%、より具体的には5〜20%であり得る。好気条件は、例えばシュードモナス・モーニーを含む液に適切に通気を行い及び/又は該液と大気下で適切に震盪若しくは攪拌することにより達成し得る。本発明の脱アンモニア処理方法は、好気条件において脱アンモニアを行うため、嫌気条件を別途用意しなくてもよく、したがって簡便に脱アンモニアを行うことができる。なお、嫌気条件とは、菌が大気と接触できない条件、又は菌が接する液の溶存酸素量が0.5 mg/L未満の条件を指す。
【0013】
1つの具体的実施形態において、本発明の脱アンモニア処理方法は、シュードモナス・モーニーを、アンモニア含有被処理水と好気条件下で接触させる工程を含む水処理方法である。好気条件下での接触は、例えばアンモニア含有被処理水にシュードモナス・モーニーと被処理水との混合液を攪拌し、又は混合液に通気することにより行うことができる。接触は、例えば被処理水にシュードモナス・モーニーを添加することにより行ってもよいし、シュードモナス・モーニーを含む固相に被処理水を通すことにより行ってもよい。
このように、本発明のシュードモナス・モーニーを好気条件下でアンモニア含有被処理水と接触させることで、被処理水中の脱アンモニアを行うことができる。
これらの脱アンモニア処理は、実質的に好気条件下のみで行われてもよい。「脱アンモニア処理が実質的に好気条件下でのみ行われる」とは、被処理物中のアンモニア性窒素の50%以上、例えば60%以上、より具体的には70%以上、より具体的には80%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上が好気条件下で脱アンモニア処理に付されることをいう。
【0014】
被処理物は、アンモニア(又はアンモニウムイオン)を含有するものであれば特に限定されないが、例えば、アンモニア含有水、有機性廃棄物又は土壌等が挙げられる。
アンモニア含有被処理水は、アンモニア又はアンモニウムイオンを含んでいれば特に限定されないが、例えば化学工場、食品加工工場等から排出される下水や廃水、又は水生動物の飼育・養殖に用いられた水などが挙げられる。
有機性廃棄物は、アンモニア又はアンモニウムイオンを含めば特に限定されないが、例えば、家庭や農場又は食品加工工場などから排出される生ゴミ、木くずや燃えがら、家畜の糞尿などのバイオマス又は汚泥等が挙げられる。
【0015】
本発明の脱アンモニア処理方法は、被処理物の脱臭に用いてもよい。有機性廃棄物などの被処理物の多くは、その処理・分解工程で多量のアンモニア性窒素を含む。これらのアンモニア性窒素は一部がアンモニアの状態のまま大気中へと放出されることにより、悪臭を放つ。本発明の脱アンモニア法によれば、被処理物からアンモニアに起因する悪臭を取り除くことができる。
【0016】
本発明の脱アンモニア処理方法は、実質的に、好気条件下で脱アンモニア能を有するシュードモナス・モーニーのみを用いて行うことができる。ここで「脱アンモニア処理が、実質的に、好気条件下で脱アンモニア能を有するシュードモナス・モーニーのみで行われる」とは、被処理物中のアンモニア性窒素の50%以上、例えば60%以上、より具体的には70%以上、より具体的には80%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上が前記菌の脱アンモニア能により窒素に変換されることをいう。よって、本発明の脱アンモニア処理方法において、本発明の菌株の脱アンモニア能を損なわない範囲で他の微生物が存在していてもよい。
【0017】
(脱アンモニア能を有するシュードモナス・モーニー)
本発明のシュードモナス・モーニーは、以下の性質を有する。
(1) 好気条件下で脱アンモニア能を有する。
(2) 脱アンモニアに際して、亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素を菌体外へ放出しない。
(3) 配列番号1に示す16S rDNA配列と98.4%以上の同一性を有するDNAを含む16S rDNA遺伝子を有する
(4) 日本細菌学会によるBSL(バイオセーフティレベル)が1であり、病原性を有さない。
【0018】
本発明の脱アンモニア能を有するシュードモナス・モーニーの1つの具体例は、2020年 4月2日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に受
託番号NITE
P-03214で受
託された細菌、Pseudomonas mohnii No. 4 (本明細書において、単に「CR04株」と表すこともある)又はその変異株である。CR04株は、好気性の細菌で、桿状の細胞形態であるという特徴を有する。
本株はBSLが1である病原性を持たない菌株であるため、人が直接触れうるような環境でも用いることができる。
CR04株は、配列番号1に示す16S rDNAの部分塩基配列を有する。
CR04株は、後述のように好気条件下で高い脱アンモニア能を有しているので、脱アンモニア処理を簡便に行うために用いることができるCR04株は上記脱アンモニアや水処理法に好適に用いることができる。
CR04株は、例えば、pH7.0、ペプトン0.5%、酵母エキス0.2%、ブドウ糖1%の組成の液体培地で好気条件下にて培養することができる。
CR04株の変異株は、人工的に変異させた株であっても、自然に変異した株であってもよく、好気条件下で脱アンモニア能を有していればよい。
CR04株の変異株であって好気条件下で脱アンモニア能を有する変異体も本発明のシュードモナス・モーニーに含まれる。変異体は、より好ましくは上記CR04株の性質(1)〜(4)の少なくとも1つ、より好ましくは2つ、より好ましくは3つ、より好ましくは全てを有する。
【0019】
(水処理装置)
本発明は、好気条件下で脱アンモニア能を有するシュードモナス・モーニーを含み、アンモニア含有被処理水を収容することができる処理槽と、前記処理槽にアンモニア含有被処理水を導入する導入手段と、前記処理槽内の前記被処理水を曝気する曝気機構を備えることを特徴とする水処理装置も提供する。
本発明の処理装置は、必要に応じてその他の装置を加えてもよい。例えば、水処理中のアンモニア含有被処理水のpHの状態や酸素濃度を計測するセンサーや、被処理水を攪拌する攪拌機、処理槽を震盪させる震盪機又は処理槽を加熱又は冷却する温度調節装置が取り付けられていてもよい。
さらに、これらのセンサーや曝気装置などの制御を行う制御装置を備えていてもよい。
【0020】
水処理装置は、人によって持ち運びが可能であっても、工場等の設備として固定されていてもよい。
処理槽の形状、大きさは特に限定されず、当業者が必要に応じて適切に設計し得る。形状は、例えば円筒状、直方体状、半球状などであり得る。大きさは、持ち運び可能な大きさ(例えばバケツ程度)から、大型プール(例えば、下水処理場プールまで)可能である。工場の設備等に用いる場合は、別途配管などを備え付けてもよい。
【0021】
処理槽は水処理装置から取り外すことができてもよい。取り外しが可能になることで、使用後の処理槽の洗浄が容易になることがある。処理槽の容積は10l程度であってもよいし、1000lを越えていてもよい。処理槽には別途攪拌装置が備え付けられていてもよい。攪拌装置を付けることの利点は、好気性微生物を攪拌しながら培養するときの一般的な利点と同じであり、例えば処理槽の底に沈んだ菌を攪拌して菌体周辺の好気性を改善させることで脱アンモニア処理効率を向上さたり、処理中の被処理水の状態を均一にすることができる。処理槽の攪拌は震盪機によって行ってもよい。震盪機によって処理槽を揺らすことで処理槽内の被処理水を攪拌できる。処理槽には別途排出口が備え付けられていてもよい。排出口が備え付けられることにより、処理槽内の処理水を容易に排出することができる。処理槽は蓋のない形状であっても、蓋を有していてもよい。蓋を有する場合は、蓋に通気可能なフィルターが備え付けられていてもよい。
【0022】
被処理水導入手段の形態は特に限定されない。例えば、処理槽に被処理水導入手段として被処理水導入口が設けられ、この被処理水導入口に配管がつながれることで被処理水を導入してもよいし、被処理水貯蔵槽又は沈殿槽を別途設けてそこから直接処理槽へ被処理水を導入できるようにしてもよい。被処理水導入手段には開閉機構が備え付けられていてもよい。開閉機構を開け閉めすることで被処理水の導入を制御することができる。
【0023】
曝気装置は、処理槽内の被処理水を好気条件にすることができれば特に限定されない。曝気装置としては、処理槽内に空気を送り込める配管であっても、回転羽根のような攪拌装置であっても、それらの組み合わせであってもよい。配管であれば、別途空気を送り込むポンプを配管に取り付け、作動させることでポンプから配管へ空気を送り込むことで処理槽内に空気を送り込むことができる。配管には、配管内への被処理水の逆流を防ぐ弁が備え付けられていてもよい。回転羽根のような攪拌装置であれば、処理槽の上部に回転羽根を備え付け、回転羽根の部分に液面が来るように被処理水を充填し、回転羽根を回転させることで混合液の攪拌と曝気を行ってもよい。被処理水と空気とを十分に混合し、被処理水を好気条件にすることができる能力を持つのであれば、攪拌機又は震盪機が曝気装置を兼ねてもよい。
【0024】
センサーとしては、処理槽内の被処理水の酸素濃度、pH、粘度、温度、圧力又は被処理水量を測定するセンサーが挙げられる。
【0025】
温度調節装置としては、ヒーター又はクーラーが挙げられる。温度調節装置を備えることで処理槽内の温度を脱アンモニアに好適な温度範囲内に調節することができる。ヒーターやクーラーとしては、一般的に用いられる加熱・冷却装置を用いることができる。
【0026】
制御装置は、処理槽への被処理水の導入、曝気機構の動作、処理槽からの処理水の排水を制御し得る。制御装置としては、一般的なコンピュータシステムでもよいし、簡単な電気配線にスイッチが備え付けられたようなものでもよい。制御装置は、曝気機構、開閉機構及び/又はセンサーと電気的に接続されていてもよい。制御装置は、センサーからの信号に基づいて開閉機構の開閉を制御してもよい。制御装置は表示装置を備え、センサーから収集した情報を表示してもよい。制御装置は入力装置を備えていてもよい。入力装置としては例えばマウスやキーボードなどが挙げられる。
【0027】
記憶装置には制御装置のコンピュータシステムを制御するプログラムが保存されていてもよい。プログラムには、被処理水の温度、pH、酸素濃度等に関する閾値が設定されていて、閾値によって制御装置に接続された各装置を自動で操作してもよい。例えば、35℃の温度に閾値を設定し、閾値以上になったときにクーラーを起動して冷却するように設定しておけば、温度が35℃以上になる事を防ぐことができる。
【0028】
水処理装置には、前培養装置が備え付けられていてもよい。前培養装置で菌を培養し、培養液を水処理装置に導入してもよい。前培養装置には、上記温度制御装置、曝気装置、攪拌装置、震盪機又は開閉機構が備え付けられ、制御装置で制御されていてもよい。
【0029】
図1に本発明の水処理装置の1例を示す。本発明の装置形態は以下の装置例に限定されない。
図1に記載の水処理装置100は、処理槽10と、処理槽10に備え付けられた被処理水導入口12及び排出口28と、前培養装置22と、前培養装置22に備え付けられた培養液導入口24と、被処理水導入口12、培養液導入口24及び排出口28に備え付けられた開閉機構26と、ポンプ14と、ポンプ14と接続する曝気装置16と、センサー18と、制御装置20を有し、曝気装置16及びセンサー18は処理槽10内に設置され、ポンプ14、センサー18及び開閉機構26は制御装置20と電気的に接続している。
【0030】
図1に示す装置は、例えば、以下のような手順で用いることができる。
(1) 前培養装置22に本発明のシュードモナス・モーニーを導入して前培養を行い、シュードモナス・モーニーを増殖させる。
(2) 前培養装置22に備え付けられた開閉機構26を開き、前培養液を培養液導入口24から処理槽10に導入する。
(3) 被処理水導入口12に備え付けられた開閉機構26を開き、処理槽10に被処理水を入れ前培養液と混合させる。
(4) ポンプ14を作動させて曝気装置16より空気の導入を開始して混合液を曝気する。前培養液と被処理水を混合することで、被処理水の脱アンモニアを行う。
(5) センサー18を作動させて被処理水の状態をモニターし、脱アンモニアが終了した段階で排出口28に備え付けられた開閉機構26を開き、排出口28から処理水を排出し、処理水を回収する。
菌体の導入方法については、前培養装置22の代わりに貯蔵タンクを取り付けて別途準備した菌体を格納してもよいし、直接菌体を処理槽に導入してもよい。上記の手順は、制御装置20により制御されていてもよい。
【0031】
上記水処理装置例のように、本発明の水処理装置は好気性条件下の処理槽のみを反応槽として有し、嫌気槽を含まなくてもよい。本発明のシュードモナス・モーニーは、前述のように好気性条件下で脱アンモニア能を有しているので、嫌気槽のような嫌気性条件の反応槽なしに脱アンモニアを行うことができる。
【0032】
(組成物)
本発明は、上記細菌を含む組成物も提供する。
組成物は、本発明のシュードモナス・モーニーを含んでいれば形態は特に限定されず、固体であっても、液体であってもよい。固体形態としては、例えば粉末、顆粒、錠剤又はカプセルが挙げられる。この作業は通常の製剤化手段を用いることができる。また、後述の固定化担体の形態であってもよい。組成物が液体であれば、フィルムなどによりパックされていてもよい。
【0033】
組成物には、菌以外に添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、例えば、結合剤(アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガント、ポリビニルピロリドンなど)、充填剤(乳糖、砂糖、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシンなど)、崩壊剤(結晶セルロースなど)、保存剤(p-ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはプロピル、ソルビン酸、トコフェロールなど)、増粘剤(メチルセルロースなど)、酸化防止剤(ビタミンC、ビタミンEなど)、香料(合成香料、天然香料、エステル類など)、懸濁化剤(ゼラチンなど)等が挙げられる。
【0034】
組成物には、本発明の菌以外に他の菌を含んでいてもよい。他の菌としては、本発明のシュードモナス・モーニー以外の硝化菌や脱窒菌が挙げられる。
【0035】
組成物は、脱アンモニアに用いることができ、例えば上記装置に添加してもよい。組成物は、本発明のシュードモナス・モーニーを含むので、被処理水の脱アンモニアを行うことができる。
上記装置への添加の他に、例えば、脱アンモニアによる脱臭を目的として用いてもよいし、有機性廃棄物、土壌又は水槽水の脱アンモニアを目的として用いてもよい。
【0036】
アンモニア性窒素を含む廃水や、コンポスターで堆肥化を行っている生ゴミなどは、アンモニアによる悪臭を発する。本発明の組成物は、好気条件下で脱アンモニア能を有する細菌を含む為、悪臭の原因となるアンモニア性窒素を除くことができる。
【0037】
本発明の組成物は、脱アンモニアを目的として土壌に散布してもよい。本発明のシュードモナス・モーニーは、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素を菌体外へと放出せず、生成物として窒素(N
2)を放出するものであるため、水質汚染の原因とならない。そのため、組成物を、アンモニア性窒素を多量に含む土壌に適用することで、周辺の水質を汚染することなく土壌のアンモニア性窒素を除去することができる。土壌のアンモニア性窒素を除去することによって、塩基性に傾いた土壌を改善することができる。
土壌への適用方法は特に限定されない。例えば、液体の場合には、散布機などで散布してもよいし、固体の場合には撒いてもよい。あるいは、ドローン等の飛行装置に菌体溶液を搭載して空中から散布してもよい。散布時に、菌以外の化合物や薬品等を混ぜてもよい。菌以外の化合物や薬品としては、例えばカリウムやリン系の肥料、シュードモナス・モーニーに影響を与えない抗菌剤や農薬などが挙げられる。
散布する土壌も特に限定されず、畑、水田又は森林等であってもよい。畑や水田は、休耕田のように使用していない状態であっても、実際に作物が植えられている状態であってもよい。
【0038】
本発明の組成物は、水生動物の飼育又は養殖に用いた水(例えば観賞魚用水槽内の水)の脱アンモニアを目的として用いてもよい。
一般的に、水槽などの貯留水で水生動物(例えば観賞魚)を飼育・養殖すると、動物が排出するアンモニアによる水質の悪化が問題となる。本発明の組成物は、好気条件下でアンモニア性窒素を窒素(N
2)まで変換することができるため、水質を簡便に改善するのに適している。
【0039】
本発明の組成物は、細菌を担体に固定化した形態であってもよい。
本発明の細菌を担体に固定化することで、細菌の管理が容易になる。担体の原料は、上記細菌を固定化できれば特に限定されないが、例えば、活性炭素、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリ乳酸、2-ヒドロキシメチルアクリレート、ナイロン、フェノール樹脂、セラミックス、ゼラチン、炭素繊維等が挙げられる。担体の原料は、担体を再回収することが目的であれば経時劣化を起こさない材質が好ましいし、土壌などに散布することを意図している場合は生分解性の物質で構成されていることが好ましい。
【0040】
担体の形状は特に限定されない。形状は、例えばペレット状、フレーク状、球状、ブロック状、棒状、筒状、シート状又は繊維状であってもよい。担体の表面は多孔質であってもなくてもよいが、多孔質であれば、担体の表面積を増やすことができる。
担体の大きさは特に限定されないが、大きさは、例えば担体が球状であれば、直径1〜20mmの大きさであることが好ましい。直径が1mm以下であると、担体が小さすぎて取り扱いが難しくなる可能性がある。直径が20mmを越えると、空間に占める担体の表面積が小さくなり、効率が低下する可能性がある。
【0041】
細菌を固定化した担体の製造方法は、例えば担体と本発明の細菌とを混合して培養し、担体に細菌を付着させることによって得ることができる。担体は、本株との混合前にオートクレーブなどによって滅菌されていてもよい。作製した固定化担体は、そのまま使用してもよく、乾燥させて保存してもよい。
【0042】
細菌を固定化した担体は、上記の組成物と同様に被処理水、有機性廃棄物、土壌又は水槽の水などの脱アンモニアに用いてもよいし、脱アンモニアによる脱臭に用いてもよいし、脱アンモニアによる水質改善を目的として用いてもよい。
【0043】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1:脱アンモニア能を有する細菌のスクリーニングと同定
汚泥を対象にスクリーニングを行い、脱アンモニア能を有する細菌の単離を行った。
以下に記載する培地の作製方法や、微生物の培養方法等は、一般的な微生物の培養に用いられる方法で行った。
M9 minimal Salts. 5X (SIGMA-ALDRICH JAPAN社製) 粉末56.4gを1lの水に懸濁し、M9最少培地濃縮溶液(pH7.0 : 以下濃縮溶液)を作製した。この濃縮溶液を加水して5倍に希釈し、更に寒天粉末を添加してシャーレに注ぎM9寒天培地プレートを作製した。
汚泥を生理食塩水で100倍程度に希釈し、希釈汚泥を調製した。
M9寒天培地プレートに、希釈汚泥100μlを塗抹し、28℃で48時間程度培養した。培養を終了したM9寒天培地プレート上に出現したコロニーを目視で確認し、得られた各コロニーに対して平板画線法を用いてM9寒天培地プレートに再度塗抹し、上記条件と同様に培養することで種々の菌を単離した。
【0045】
上記濃縮溶液を加水して50倍に希釈し、この希釈溶液20mlを50ml容のガラス製試験管に入れ、これにSUS管を通したバイオシリコン(信越ポリマー社製)を装着した。SUS管にシリコンチューブを取り付け、このシリコンチューブに滅菌フィルター(Merck社製)を装着した。この滅菌フィルターに更にシリコンチューブを接続し、エアーポンプをシリコンチューブに接続した。上記形態を
図2に示す。これに、汚泥から得られた菌を加え、室温(25℃程度)で培養した。培養中、試験管にはエアーポンプから滅菌フィルターを通して空気を培地に送り、曝気した。培養中の培養液のアンモニア性窒素濃度(ppm)を2時間毎に測定した。比較として菌体を加えないコントロール試料に対しても同様の実験を行った。これにより、得られた菌の中から、脱アンモニア性を有する株No. 4株を獲得した。この株とコントロールとの上記試験の結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
なお、特に記述しない限り、窒素化合物濃度の分析は、株式会社ガンマー分析センター(大阪市淀川区三国本町2丁目10番13号)に依託し、JIS法等に準拠する公定分析法に従い測定した。
【0047】
得られたNo.4株を顕微鏡で観察すると(
図3)、桿菌であった。
このNo. 4株をテクノスルガ・ラボ社に委託し、16S rDNAによる系統解析を行った。これにより、配列番号1で示される配列が得られた。この配列に対して、テクノスルガ・ラボ社が保有するテクノスルガ・ラボ微生物同定システムにて解析をかけた。これらの解析により、本発明のNo.4がPseudomonas mohnii (シュードモナス・モーニー)の新株であると同定した。そしてNo. 4株をPseudomonas mohnii No. 4株とした(以後CR04株)。本株はBSL1に該当する菌種であり、病原性は有していない。
本菌株は、30℃での培養が至適温度であり、37℃ではほとんど増殖しない。また、5%以上のNaCl濃度の環境下では増殖できないという特徴を有する。
この株を2020年4月2日に独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に寄託した。受
託番号はNITE
P-03214である。
【0048】
実施例2:CR04株の脱アンモニア能の検証
実施例1にて同定したCR04株について、脱アンモニア能を検証した。
(1) CR04株の前培養
CR04株を、pH7.0、ペプトン0.5%、酵母エキス0.2%、ブドウ糖1%の組成の液体培地に植菌し、28℃で18時間振盪培養し、前培養液とした。
【0049】
(2) 窒素化合物量の測定
この前培養液0.5mlを、100mlの測定用培地(表2)に植菌した。
【0050】
【表2】
【0051】
上記測定用培地は、培地の作製から約1ヶ月おいてから用いた。上記測定用培地100 mlを、
図2と同様の形態の装置の培養槽のみを50 ml容試験管から100 ml 容試験管に変えたものに充填して用いた。
培養は室温(約25℃)で行い、曝気して好気条件で行った。培養試験は2度行い、培養時間はそれぞれ24時間と48時間とした。培養後の培養液を回収し、窒素化合物量を測定した。各試験でサンプルは2つずつ用意し、その平均値を測定値とした。対象として、植菌していないコントロール試験も行い、同様に窒素化合物量を測定した。24時間の結果を表3に、48時間の結果を表4に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
上記表3及び表4より、培養後の24時間で溶液中のアンモニア性窒素量は大幅に減少し、48時間で完全になくなっていることが分かる。また、24時間、48時間の培養のいずれの場合でも、亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素は検出されなかった。このことより本菌株は、アンモニアを処理する能力を有し、また、アンモニアを処理する際、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N
2O)を中間体とし、最終的に窒素(N
2)とすることが示唆された。このことから本発明のように脱アンモニア能を有するシュードモナス・モーニーを好気条件下で用いることで、アンモニア処理が可能となることが示された。