【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、多孔質樹脂成形体の更なる用途拡大のため、空孔径が傾斜して分布するという新たな機能をもった多孔質樹脂成形体を製造することを考えた。
例えば、表面は大径の空孔を有する樹脂とし、内部を小径の空孔を有する樹脂とする等、多孔質樹脂成形体内で空孔の直径や密度を傾斜的に変化させることができれば、緩衝特性や肌触りの向上、防振・吸音特性の広帯域化などが可能となり、医療器具、産業・生活支援ロボット、車両・鉄道部品等を高機能化することが期待できる。
【0009】
また、導電性多孔質樹脂成形体からなる応力・ひずみセンサ材料の空孔の径を傾斜して分布させることにより、センシング可能な応力・ひずみ範囲の増加が期待できる。これにより、様々な対象物への適応が必要とされるロボットハンド等への応用が可能となる。
【0010】
しかしながら、上述したフィラー抽出法では、空孔径を傾斜して分布させることができず、傾斜多孔質樹脂成形体を製造することは困難であった。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、空孔径が傾斜して分布した多孔質樹脂成形体、及びその製造に用いる樹脂組成物を提供することを解決すべき課題としている。また、空孔径が傾斜して分布した導電性多孔質樹脂成形体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、流動性を有するプレポリマー内での粒子の沈降速度の違いを利用することを考えた。一般的に、流体中での粒子の沈降速度は次のストークスの式に従うことが知られている。
【数1】
【0013】
ここで、v
s、D
p、ρ
p、ρ
f、g、ηはそれぞれ粒子の沈降速度、粒子の直径、粒子の密度、流体の密度、重力加速度、および流体の粘度である。この式から分かるように、粒子の沈降速度は粒子と流体の密度差、および粒子径の二乗に比例する。
【0014】
この法則を利用し、沈降速度および粒子径が異なる複数種類の水溶性粒子を同時にプレポリマーに添加することで、プレポリマー下部にそれぞれ直径の異なる水溶性粒子からなる複数の沈殿層を形成させる。そして、これを硬化させた後に、水溶性粒子を溶出除去すれば、空孔径が傾斜して分布した多孔質樹脂成形体を得ることができる。
【0015】
すなわち、本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法は、流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とを混合して該水溶性粒子を該プレポリマー中に分散させる分散工程と、該プレポリマー中に分散した該水溶性粒子を重力又は遠心力によって沈降させる沈降工程と、該プレポリマーを硬化させる硬化工程と、硬化した該プレポリマー中の該水溶性粒子を水によって溶解除去する粒子溶解工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法では、まず、流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とを混合して該水溶性粒子を該プレポリマー中に均等に分散させる(分散工程)。そして、プレポリマー中に分散した該水溶性粒子を重力又は遠心力によって沈降させる(沈降工程)。この際、沈降速度の異なる少なくとも2種類の水溶性粒子のうち、沈降速度の速い粒子は先に沈んで積層され、沈降速度の遅い粒子は後から沈んで積層される。その後、プレポリマーは硬化され積層構造が固定化された成形体となる(硬化工程)。硬化工程における硬化を促進させるために、プレポリマーには硬化剤が添加されていることが好ましい。最後に、硬化した該プレポリマー中の該水溶性粒子を水によって溶解除去することにより(粒子溶解工程)、水溶性粒子の存在していたところが空孔となるため、空孔径が傾斜して分布した多孔質樹脂成形体となる。
【0017】
上記の水溶性粒子としては、粒子溶解工程において水によって溶解除去できる粒子であれば用いることができるが、作業時間の短縮の観点から、常温で水100gあたりに1g以上可溶なものが好ましい。この様な水溶性粒子として、例えば、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、炭酸アンモニウム塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、等の水溶性無機塩や、ペントース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ヘキトース、スクロース、ラクツトース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、デンプン、グリコーゲン、シュウ酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、マロン酸、マロン酸ナトリウム、マロン酸カリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、グルタル酸、グルタル酸ナトリウム、グルタル酸カリウム、アジピン酸、アジピン酸ナトリウム、アジピン酸カリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、フマル酸、フマル酸ナトリウム、フマル酸カリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、尿素等の水溶性有機化合物が挙げられる。
【0018】
本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法においては、前記分散工程において、プレポリマーに有機溶媒を含有させておくこともできる。こうであれば、プレポリマーの粘度を有機溶媒の添加量によって調節することができるため、水溶性粒子の沈降速度を調節することが可能となり、ひいては傾斜多孔質樹脂成形体中の空孔径の分布を制御することが可能となる。
【0019】
また、本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法においては、前記分散工程において、導電性粒子を添加しておくこともできる。こうすれば、得られる傾斜多孔質成形体に導電性粒子と空孔とが含まれる複合体となる。このため、圧縮した場合に径の大きい空孔がまず先に潰れ、後から径の小さい空孔が潰れることとなる。空孔が潰れた場合には導電性粒子同士が接触して電気抵抗率が低下するため、電気抵抗率が広い範囲において単調に減少することとなる。このため、従来のセンサ材料と比較して測定可能範囲の広い、応力・ひずみセンサ材料となる。
【0020】
本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法では、流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とが混合されている樹脂組成物が用いられる。プレポリマーは硬化時に収縮が少なく、柔軟性が高い樹脂となるものが好ましい。こうしたプレポリマーを用いることで、水溶性粒子の溶出除去が行いやすくなり、傾斜多孔質樹脂成形体を容易に作製することができる。さらに、2液反応・常温硬化型のプレポリマーであることが好ましい。これは、プレポリマーにヘキサン等の有機溶媒を加えて粘度を下げ、水溶性粒子の沈降速度を調整する場合、プレポリマーを加熱して硬化させることが難しくなるためである。プレポリマーの例にはシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴムなどが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0021】
また、沈降工程において水溶性粒子を含むプレポリマーに振動を加えることが望ましい。これにより高密度の水溶性粒子が下層に移動するため、空孔径が傾斜して分布する多孔質樹脂成形体を再現性良く作製することができる。
【0022】
本発明の樹脂組成物に含まれている水溶性粒子は、平均粒子径が100μm以上1000μm以下の水溶性粒子(A)と、平均粒子径が50μm以上300μm以下の水溶性粒子(B)と、を含有していることが好ましい。水溶性粒子(A)と水溶性粒子(B)の平均粒子径がこの範囲であれば、両水溶性粒子の沈降速度に適度な差が生ずるため、空孔径を傾斜して分布させることが容易となる。
また、水溶性粒子(A)の平均粒子径が1000μmより大きくなると、水溶性粒子を均一かつ大量に生産することが難しくなり、さらには、製造された多孔質樹脂成形体の切削加工が難しくなり、寸法精度が低下する。
一方、水溶性粒子(B)は平均粒子径が50μmより小さいと、沈降工程における沈降速度が遅くなり、いつまでもプレポリマー中で分散しているため、粒子間の接触が少なくなるため、プレポリマーの硬化後の粒子溶解工程において、水洗浄で抽出除去することが難しくなる。
【0023】
また、(A)と(B)の密度差は0.5g/cm
3以上であることが好ましい。これにより両者の沈降速度の差が大きくなり、空孔径が大きく傾斜して分布する傾斜多孔質樹脂成形体を作製することができる。さらに好ましくは、水溶性粒子(A)と(B)の密度差は1.0g/cm
3以上であることが望ましい。これにより、水溶性粒子(A)と(B)の間の粒子径の差が小さい場合でも沈降速度に差が生じ、傾斜多孔質樹脂成形体を作製できるようになる。
【0024】
本発明の樹脂組成物に含まれている水溶性粒子としては、水溶性粒子(A)として塩化ナトリウム粒子、水溶性粒子(B)としてグラニュー糖という組み合わせで好適に用いることができる。これらの水溶性粒子は粒子径を制御することが比較的容易であり、また安価に入手できる。
【0025】
また、本発明の樹脂組成物に含まれている水溶性粒子の総体積比率はプレポリマーに対し、10%以上350%以下であることが好ましい。10%より小さい場合は沈降工程において水溶性粒子の沈殿層が薄くなり、空孔径の傾斜が一方に偏りすぎてしまうおそれがある。また350%より大きい場合は、水溶性粒子を摩耗させることなく均一に撹拌することが困難になるため、規則的に傾斜した空孔径を分布させることが難しくなるおそれがある。1種類あたりの水溶性粒子の体積比率は、水溶性粒子全体の体積比率の10%以上であることが好ましい。10%より小さい場合は、該当する水溶性粒子の沈殿層が薄くなり、空孔径を傾斜して分布させることが困難となるおそれがある。
【0026】
また、本発明の樹脂組成物には有機溶媒を含有させることができる。こうであれば、プレポリマーの粘度を有機溶媒の添加量によって調節することができるため、水溶性粒子の沈降速度を調節することが可能となるため、ひいては傾斜多孔質樹脂成形体中の空孔径の分布を制御することが可能となる。有機溶媒をプレポリマーに加える場合、粘度を1000mPa・s以下まで低下させることが好ましい。プレポリマーの密度・粘度を低下させることで、水溶性粒子の沈降速度が増加し、規則的に沈殿しやすくなる。
【0027】
有機溶媒の例としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、アルコールエステル類、ケトンエステル類、エーテル類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、エステルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化炭化水素類、有機ハロゲン化物等が挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物には導電性粒子を添加しておくこともできる。こうすれば、得られる傾斜多孔質成形体は、樹脂中に導電性粒子が分散しつつ、空孔の径が傾斜して分布している導電性傾斜多孔質樹脂成形体となる。このため、この導電性傾斜多孔質樹脂成形体を圧縮した場合に、径の大きい空孔が最初に潰れ、その次に径の小さい空孔が潰れるため、導電性粒子同士の接触が徐々に増加し、電気抵抗率が広い範囲において単調に減少する(
図2参照)。このため、従来のセンサ材料と比較して測定可能範囲の広い、応力・ひずみセンサ材料となる。
【0029】
導電性粒子の平均粒子径は10nm以上150μm以下であることが好ましい。10nm以上であれば導電性粒子が凝集し難く、プレポリマー内での均一な分散が容易となる。また、150μm以下であれば沈降速度が速くなりすぎず、分散工程における均一な分散が容易となる。
【0030】
導電性粒子としては電気抵抗率が低く、水に溶解しないものであれば特に限定はなく、金属粒子や炭素粒子等を用いることができる。この中でも、炭素粒子はプレポリマーへの分散性が良好であり、比較的安価に入手することができるため、好適である。
【0031】
導電性粒子が炭素粒子である場合において、その体積比率はプレポリマーに対し、0.5%以上8%以下であることが好ましい。0.5%以上であれば電気抵抗率が大きくなりすぎないため、応力・ひずみセンサ材料として好適に用いることができる。また炭素粒子の体積比率が8%以下であれば、プレポリマーの粘度が高くなりすぎず、均一な撹拌が容易になる。