特許第6802956号(P6802956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6802956傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法、及びそれに用いる樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802956
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法、及びそれに用いる樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20201214BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20201214BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20201214BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C08J9/26 101
   C08J9/26CFH
   C08L83/04
   C08K3/16
   C08K5/05
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-172638(P2016-172638)
(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-39862(P2018-39862A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】591270556
【氏名又は名称】名古屋市
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】吉村 圭二郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 万敬
【審査官】 鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−120141(JP,A)
【文献】 特開2003−313343(JP,A)
【文献】 特開昭55−032651(JP,A)
【文献】 特開平05−325647(JP,A)
【文献】 特開2004−352830(JP,A)
【文献】 特開2003−231771(JP,A)
【文献】 特開平03−174457(JP,A)
【文献】 特開2001−126539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/26
C08K 3/16
C08K 5/05
C08L 83/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とを混合して該水溶性粒子を該プレポリマー中に分散させる分散工程と、
該プレポリマー中に分散した該水溶性粒子を重力又は遠心力によって沈降させる沈降工程と、
該プレポリマーを硬化させる硬化工程と、
硬化した該プレポリマー中の該水溶性粒子を水によって溶解除去する粒子溶解工程と、を備え、
前記分散工程において、プレポリマーに有機溶媒を含有させておくことを特徴とする傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とを混合して該水溶性粒子を該プレポリマー中に分散させる分散工程と、
該プレポリマー中に分散した該水溶性粒子を重力又は遠心力によって沈降させる沈降工程と、
該プレポリマーを硬化させる硬化工程と、
硬化した該プレポリマー中の該水溶性粒子を水によって溶解除去する粒子溶解工程と、を備え、
前記分散工程において、前記プレポリマーに水不溶性の導電性粒子を添加することを特徴とする傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2の製造方法に用いる傾斜多孔質樹脂成形体用の樹脂組成物であって、
流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とが混合されおり、
前記水溶性粒子は、少なくとも、平均粒子径が100μm以上1000μm以下の水溶性粒子(A)と、平均粒子径が50μm以上300μm以下の水溶性粒子(B)と、を含有しており、
前記水溶性粒子(A)の密度が、前記水溶性粒子(B)の密度よりも0.5g/cm以上高いことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
前記請求項1又は2の製造方法に用いる傾斜多孔質樹脂成形体用の樹脂組成物であって、
流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とが混合されおり、
前記水溶性粒子は、少なくとも、平均粒子径が100μm以上1000μm以下の水溶性粒子(A)と、平均粒子径が50μm以上300μm以下の水溶性粒子(B)と、を含有しており、
前記水溶性粒子(A)が塩化ナトリウム、前記水溶性粒子(B)がグラニュー糖であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
前記請求項1又は2の製造方法に用いる傾斜多孔質樹脂成形体用の樹脂組成物であって、
流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とが混合されており、
前記プレポリマーは有機溶媒を含有していることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
前記請求項1又は2の製造方法に用いる傾斜多孔質樹脂成形体用の樹脂組成物であって、
流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とが混合されており、
前記プレポリマーには水不溶性の導電性粒子が添加されていることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項7】
前記導電性粒子は平均粒子径が10nm以上150μm以下であることを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記導電性粒子は炭素粒子からなることを特徴とする請求項6又は7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記炭素粒子の前記プレポリマーに対する体積比率が0.5%以上8%以下であることを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
樹脂中に空孔と導電性粒子とが分散しており、該空孔の径が傾斜して分布している導電性傾斜多孔質樹脂成形体からなるセンサ材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空孔径が傾斜して分布している多孔質樹脂成形体を製造する方法、及びそれに用いる樹脂組成物に関する。ここで「空孔径が傾斜して分布している」とは、多孔質樹脂成形体中において、一定の方向に向かって連続的(あるいは離散的)に空孔径が異なるようにされていることをいう。
【背景技術】
【0002】
多孔質樹脂成形体とは、内部に独立又は連続した空孔を持つ樹脂成形体であり、軽量構造材、緩衝材、断熱材、吸音材、制振材等、様々な産業分野において利用されている。
【0003】
多孔質樹脂成形体の作製方法は数多く提案されており、その代表的なものとして、フィラー抽出法がある(非特許文献1)。フィラー抽出法とは、プレポリマーに予め水溶性粒子を混練、分散させ、プレポリマーを硬化させた後に、これを水中で洗浄することによって水溶性粒子を溶出除去し、連続した空孔を有する多孔質樹脂成形体を製造する方法である。
【0004】
フィラー抽出法等により得られる連続空孔を有した多孔質樹脂成形体は、優れた吸音、防振、ガス透過、透湿、緩衝特性を有し、またそのフィット性(肌ざわり)から、人体に密着して使用するプロテクター等への応用も期待されている。
【0005】
また、このような多孔質樹脂成形体に導電性粒子を添加して得られる導電性多孔質樹脂成形体は、応力・ひずみセンサ材料として期待されている(特許文献1、非特許文献2,3)。すなわち、この導電性多孔質樹脂成形体を利用した応力・ひずみセンサ材料は、応力を受けて変形する際に、内部で空孔が潰れて導電パスが増加し、電気抵抗率が減少するという原理が利用されている(図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5ー325647
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「多孔質体の性質とその応用技術」1999フジテクノシステム: pp189−193
【非特許文献2】K. Yoshimura, K. Nakano, K. Okamoto, T. Miyake, Mechanical and electrical properties in porous structure of Ketjenblack/silicone−rubber composites, Sens. Actuat A− Phys, 2012. 180 : pp55−62.
【非特許文献3】K. Yoshimura, K. Nakano, Y. Hishikawa, Flexible tactile sensor materials based on carbon microcoil/silicone−rubber porous composites, Composites Science and Technology, 2016. 123 : pp241−249
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、多孔質樹脂成形体の更なる用途拡大のため、空孔径が傾斜して分布するという新たな機能をもった多孔質樹脂成形体を製造することを考えた。
例えば、表面は大径の空孔を有する樹脂とし、内部を小径の空孔を有する樹脂とする等、多孔質樹脂成形体内で空孔の直径や密度を傾斜的に変化させることができれば、緩衝特性や肌触りの向上、防振・吸音特性の広帯域化などが可能となり、医療器具、産業・生活支援ロボット、車両・鉄道部品等を高機能化することが期待できる。
【0009】
また、導電性多孔質樹脂成形体からなる応力・ひずみセンサ材料の空孔の径を傾斜して分布させることにより、センシング可能な応力・ひずみ範囲の増加が期待できる。これにより、様々な対象物への適応が必要とされるロボットハンド等への応用が可能となる。
【0010】
しかしながら、上述したフィラー抽出法では、空孔径を傾斜して分布させることができず、傾斜多孔質樹脂成形体を製造することは困難であった。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、空孔径が傾斜して分布した多孔質樹脂成形体、及びその製造に用いる樹脂組成物を提供することを解決すべき課題としている。また、空孔径が傾斜して分布した導電性多孔質樹脂成形体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、流動性を有するプレポリマー内での粒子の沈降速度の違いを利用することを考えた。一般的に、流体中での粒子の沈降速度は次のストークスの式に従うことが知られている。
【数1】
【0013】
ここで、v、D、ρ、ρ、g、ηはそれぞれ粒子の沈降速度、粒子の直径、粒子の密度、流体の密度、重力加速度、および流体の粘度である。この式から分かるように、粒子の沈降速度は粒子と流体の密度差、および粒子径の二乗に比例する。
【0014】
この法則を利用し、沈降速度および粒子径が異なる複数種類の水溶性粒子を同時にプレポリマーに添加することで、プレポリマー下部にそれぞれ直径の異なる水溶性粒子からなる複数の沈殿層を形成させる。そして、これを硬化させた後に、水溶性粒子を溶出除去すれば、空孔径が傾斜して分布した多孔質樹脂成形体を得ることができる。
【0015】
すなわち、本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法は、流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とを混合して該水溶性粒子を該プレポリマー中に分散させる分散工程と、該プレポリマー中に分散した該水溶性粒子を重力又は遠心力によって沈降させる沈降工程と、該プレポリマーを硬化させる硬化工程と、硬化した該プレポリマー中の該水溶性粒子を水によって溶解除去する粒子溶解工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法では、まず、流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とを混合して該水溶性粒子を該プレポリマー中に均等に分散させる(分散工程)。そして、プレポリマー中に分散した該水溶性粒子を重力又は遠心力によって沈降させる(沈降工程)。この際、沈降速度の異なる少なくとも2種類の水溶性粒子のうち、沈降速度の速い粒子は先に沈んで積層され、沈降速度の遅い粒子は後から沈んで積層される。その後、プレポリマーは硬化され積層構造が固定化された成形体となる(硬化工程)。硬化工程における硬化を促進させるために、プレポリマーには硬化剤が添加されていることが好ましい。最後に、硬化した該プレポリマー中の該水溶性粒子を水によって溶解除去することにより(粒子溶解工程)、水溶性粒子の存在していたところが空孔となるため、空孔径が傾斜して分布した多孔質樹脂成形体となる。
【0017】
上記の水溶性粒子としては、粒子溶解工程において水によって溶解除去できる粒子であれば用いることができるが、作業時間の短縮の観点から、常温で水100gあたりに1g以上可溶なものが好ましい。この様な水溶性粒子として、例えば、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、炭酸アンモニウム塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、等の水溶性無機塩や、ペントース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ヘキトース、スクロース、ラクツトース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、デンプン、グリコーゲン、シュウ酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、マロン酸、マロン酸ナトリウム、マロン酸カリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、グルタル酸、グルタル酸ナトリウム、グルタル酸カリウム、アジピン酸、アジピン酸ナトリウム、アジピン酸カリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、フマル酸、フマル酸ナトリウム、フマル酸カリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、尿素等の水溶性有機化合物が挙げられる。
【0018】
本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法においては、前記分散工程において、プレポリマーに有機溶媒を含有させておくこともできる。こうであれば、プレポリマーの粘度を有機溶媒の添加量によって調節することができるため、水溶性粒子の沈降速度を調節することが可能となり、ひいては傾斜多孔質樹脂成形体中の空孔径の分布を制御することが可能となる。
【0019】
また、本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法においては、前記分散工程において、導電性粒子を添加しておくこともできる。こうすれば、得られる傾斜多孔質成形体に導電性粒子と空孔とが含まれる複合体となる。このため、圧縮した場合に径の大きい空孔がまず先に潰れ、後から径の小さい空孔が潰れることとなる。空孔が潰れた場合には導電性粒子同士が接触して電気抵抗率が低下するため、電気抵抗率が広い範囲において単調に減少することとなる。このため、従来のセンサ材料と比較して測定可能範囲の広い、応力・ひずみセンサ材料となる。
【0020】
本発明の傾斜多孔質樹脂成形体の製造方法では、流動性を有するプレポリマーと、該プレポリマー中での沈降速度が異なる少なくとも2種類の水溶性粒子とが混合されている樹脂組成物が用いられる。プレポリマーは硬化時に収縮が少なく、柔軟性が高い樹脂となるものが好ましい。こうしたプレポリマーを用いることで、水溶性粒子の溶出除去が行いやすくなり、傾斜多孔質樹脂成形体を容易に作製することができる。さらに、2液反応・常温硬化型のプレポリマーであることが好ましい。これは、プレポリマーにヘキサン等の有機溶媒を加えて粘度を下げ、水溶性粒子の沈降速度を調整する場合、プレポリマーを加熱して硬化させることが難しくなるためである。プレポリマーの例にはシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴムなどが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0021】
また、沈降工程において水溶性粒子を含むプレポリマーに振動を加えることが望ましい。これにより高密度の水溶性粒子が下層に移動するため、空孔径が傾斜して分布する多孔質樹脂成形体を再現性良く作製することができる。
【0022】
本発明の樹脂組成物に含まれている水溶性粒子は、平均粒子径が100μm以上1000μm以下の水溶性粒子(A)と、平均粒子径が50μm以上300μm以下の水溶性粒子(B)と、を含有していることが好ましい。水溶性粒子(A)と水溶性粒子(B)の平均粒子径がこの範囲であれば、両水溶性粒子の沈降速度に適度な差が生ずるため、空孔径を傾斜して分布させることが容易となる。
また、水溶性粒子(A)の平均粒子径が1000μmより大きくなると、水溶性粒子を均一かつ大量に生産することが難しくなり、さらには、製造された多孔質樹脂成形体の切削加工が難しくなり、寸法精度が低下する。
一方、水溶性粒子(B)は平均粒子径が50μmより小さいと、沈降工程における沈降速度が遅くなり、いつまでもプレポリマー中で分散しているため、粒子間の接触が少なくなるため、プレポリマーの硬化後の粒子溶解工程において、水洗浄で抽出除去することが難しくなる。
【0023】
また、(A)と(B)の密度差は0.5g/cm以上であることが好ましい。これにより両者の沈降速度の差が大きくなり、空孔径が大きく傾斜して分布する傾斜多孔質樹脂成形体を作製することができる。さらに好ましくは、水溶性粒子(A)と(B)の密度差は1.0g/cm以上であることが望ましい。これにより、水溶性粒子(A)と(B)の間の粒子径の差が小さい場合でも沈降速度に差が生じ、傾斜多孔質樹脂成形体を作製できるようになる。
【0024】
本発明の樹脂組成物に含まれている水溶性粒子としては、水溶性粒子(A)として塩化ナトリウム粒子、水溶性粒子(B)としてグラニュー糖という組み合わせで好適に用いることができる。これらの水溶性粒子は粒子径を制御することが比較的容易であり、また安価に入手できる。
【0025】
また、本発明の樹脂組成物に含まれている水溶性粒子の総体積比率はプレポリマーに対し、10%以上350%以下であることが好ましい。10%より小さい場合は沈降工程において水溶性粒子の沈殿層が薄くなり、空孔径の傾斜が一方に偏りすぎてしまうおそれがある。また350%より大きい場合は、水溶性粒子を摩耗させることなく均一に撹拌することが困難になるため、規則的に傾斜した空孔径を分布させることが難しくなるおそれがある。1種類あたりの水溶性粒子の体積比率は、水溶性粒子全体の体積比率の10%以上であることが好ましい。10%より小さい場合は、該当する水溶性粒子の沈殿層が薄くなり、空孔径を傾斜して分布させることが困難となるおそれがある。
【0026】
また、本発明の樹脂組成物には有機溶媒を含有させることができる。こうであれば、プレポリマーの粘度を有機溶媒の添加量によって調節することができるため、水溶性粒子の沈降速度を調節することが可能となるため、ひいては傾斜多孔質樹脂成形体中の空孔径の分布を制御することが可能となる。有機溶媒をプレポリマーに加える場合、粘度を1000mPa・s以下まで低下させることが好ましい。プレポリマーの密度・粘度を低下させることで、水溶性粒子の沈降速度が増加し、規則的に沈殿しやすくなる。
【0027】
有機溶媒の例としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、アルコールエステル類、ケトンエステル類、エーテル類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、エステルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化炭化水素類、有機ハロゲン化物等が挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物には導電性粒子を添加しておくこともできる。こうすれば、得られる傾斜多孔質成形体は、樹脂中に導電性粒子が分散しつつ、空孔の径が傾斜して分布している導電性傾斜多孔質樹脂成形体となる。このため、この導電性傾斜多孔質樹脂成形体を圧縮した場合に、径の大きい空孔が最初に潰れ、その次に径の小さい空孔が潰れるため、導電性粒子同士の接触が徐々に増加し、電気抵抗率が広い範囲において単調に減少する(図2参照)。このため、従来のセンサ材料と比較して測定可能範囲の広い、応力・ひずみセンサ材料となる。
【0029】
導電性粒子の平均粒子径は10nm以上150μm以下であることが好ましい。10nm以上であれば導電性粒子が凝集し難く、プレポリマー内での均一な分散が容易となる。また、150μm以下であれば沈降速度が速くなりすぎず、分散工程における均一な分散が容易となる。
【0030】
導電性粒子としては電気抵抗率が低く、水に溶解しないものであれば特に限定はなく、金属粒子や炭素粒子等を用いることができる。この中でも、炭素粒子はプレポリマーへの分散性が良好であり、比較的安価に入手することができるため、好適である。
【0031】
導電性粒子が炭素粒子である場合において、その体積比率はプレポリマーに対し、0.5%以上8%以下であることが好ましい。0.5%以上であれば電気抵抗率が大きくなりすぎないため、応力・ひずみセンサ材料として好適に用いることができる。また炭素粒子の体積比率が8%以下であれば、プレポリマーの粘度が高くなりすぎず、均一な撹拌が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】従来の導電性多孔質樹脂成形体を用いた応力・ひずみセンサ材料の原理を示す模式図である。
図2】本発明の導電性傾斜多孔質樹脂成形体を用いた応力・ひずみセンサ材料の原理を示す模式図である。
図3】実施例1の傾斜多孔質樹脂成形体の製造工程を示す模式図である。
図4】実施例1の傾斜多孔質樹脂成形体断面及びそれに用いた塩化ナトリウム粒子(A),(B)の光学顕微鏡写真である。
図5】実施例2の傾斜多孔質樹脂成形体断面及びそれに用いた塩化ナトリウム粒子及びグラニュー糖粒子の光学顕微鏡写真である。
図6】実施例3の傾斜多孔質樹脂成形体断面及びそれに用いた硫酸ナトリウム粒子及び尿素粒子の光学顕微鏡写真である。
図7】実施例4及び実施例5の傾斜多孔質樹脂成形体断面の光学顕微鏡写真である。
図8】実施例6及び実施例7の傾斜多孔質樹脂成形体断面の光学顕微鏡写真である。
図9】実施例8及び実施例9の導電性傾斜多孔質樹脂成形体断面の光学顕微鏡写真である。
図10】実施例10及び11の導電性傾斜多孔質樹脂成形体断面の光学顕微鏡写真である。
図11】実施例12の導電性傾斜多孔質樹脂成形体断面の光学顕微鏡写真である。
図12】比較例1及び比較例2の多孔質樹脂成形体断面の光学顕微鏡写真である。
図13】比較例3及び比較例4の導電性多孔質樹脂成形体断面の光学顕微鏡写真である。
図14】圧縮ひずみと圧縮応力との関係を示すグラフである。
図15】圧縮ひずみと電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図16】実施例9について電気抵抗を測定しながら圧縮試験を行ったときの経過を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<実施例>
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0034】
(実施例1)
・分散工程S1
図3(A)に示すように、シリコーン樹脂プレポリマー(信越シリコーン・KE−108)100容量部に対し、塩化ナトリウム粒子(A)(平均粒子径700μm)100容量部と、塩化ナトリウム粒子(B)(平均粒子径60μm)100容量部と、ヘキサン230容量部とを混合分散した後、10秒間の真空脱泡処理を行ったものを実施例1の樹脂組成物とした。真空脱泡処理は、塩化ナトリウム粒子に付着した気泡が除去するために行うものであり、これにより塩化ナトリウム粒子が浮上することが防止された。
【0035】
・沈降工程S2
分散工程S1で得られた混合物を常温で静置することによって、塩化ナトリウム粒子(A)及び塩化ナトリウム粒子(B)を沈降させた(図3(B)参照)。ここで、塩化ナトリウム粒子(A)は、塩化ナトリウム粒子(B)よりも平均粒子径が大きいため、ストークスの式から分かるように、沈降速度が速くなり、先に沈降する。このため、ビーカーの底には、まず塩化ナトリウム粒子(A)の層が形成され、その上に塩化ナトリウム粒子(B)の層が積層される。
【0036】
・硬化工程S3
さらに、塩化ナトリウム粒子(A)の層、及び塩化ナトリウム粒子(B)の層が積層された状態で静置されることにより、ヘキサンが揮発して除去される。そしてさらに静置することにより、プレポリマーに含まれている硬化剤の効果が発揮されて、プレポリマーが硬化する(図3(C)参照)。
【0037】
・粒子溶解工程S4
こうして得られた硬化物を取り出し(図3(D)参照)、流水中で軽く揉みながら水洗することにより、硬化物中の塩化ナトリウムを除去し、乾燥させて実施例1の傾斜多孔質樹脂成形体1を得た(図3(E)参照)。
【0038】
(実施例2〜7)
実施例2、及び実施例4〜7では平均粒子径が700μmの塩化ナトリウム粒子及び平均粒子径が200μmのグラニュー糖、及びヘキサンを様々な添加割合で用い、その他については実施例1と同様にして傾斜多孔質樹脂成形体を製造した。
また、実施例3では平均粒子径が500μmの硫酸ナトリウム粒子及び平均粒子径が300μmの尿素粒子を用い、その他については実施例1と同様にして傾斜多孔質樹脂成形体を製造した。
【0039】
実施例1〜7の傾斜多孔質樹脂成形体に用いた水溶性粒子(A)(B)の種類及び添加量並びにヘキサンの添加量を表1に示す。また、実施例1〜7の傾斜多孔質樹脂成形体の空孔の傾斜の分布をマイクロスコープで観察した結果を表1及び図4〜8に、電気抵抗率をマルチメータによって測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0040】
・評 価
実施例1の傾斜多孔質樹脂成形体及びそれに用いた塩化ナトリウム粒子(A)(B)の光学顕微鏡写真を図4に示す。図4から、実施例1の傾斜多孔質樹脂成形体1は、一端から他端に向かって大きな空孔から徐々に小さな空孔となり、さらには、空孔が存在しない層が存在しており、空孔径が傾斜して分布していることが確認された。
この結果は次のように説明される。すなわち、平均粒子径が塩化ナトリウム粒子(A)では700μmであるのに対し、塩化ナトリウム粒子(B)では60μmと小さいため、比重が同じであっても、粒子径の大きな塩化ナトリウム粒子(A)の方が沈降工程S2において、粒子径の小さな塩化ナトリウム粒子(B)よりも速く沈降する。このため、下層に塩化ナトリウム粒子(A)層が形成され、その上に塩化ナトリウム粒子(B)層が形成される(図3(B)参照)。そしてヘキサンが気化し、さらに硬化剤によってシリコーン樹脂プレポリマーが硬化し、これを水洗することにより下層に径の大きな空孔層(A)が形成され、その上に径の小さな空孔層(B)が形成され(図3(E)参照)、空孔が傾斜して分布する傾斜多孔質樹脂成形体となったのである。
【0041】
また、水溶性粒子(A)として塩化ナトリウム粒子を用い、水溶性粒子(B)としてグラニュー糖粒子を用いた実施例2、及び実施例4〜7においても、空孔が傾斜して分布する傾斜多孔質樹脂成形体となった(図5、7、及び8参照)。水溶性粒子(A)として硫酸ナトリウム粒子を用い、水溶性粒子(B)として尿素粒子を用いた実施例3においても同様に、空孔が傾斜して分布する傾斜多孔質樹脂成形体となった(図6参照)。これらのことから、異なる種類の水溶性粒子を用いた場合でも、傾斜多孔質樹脂成形体が作製できることが確認された。
【0042】
(実施例8〜12)
実施例8〜12では、シリコーン樹脂プレポリマー100容量部に対して平均粒子径が700μmの塩化ナトリウム粒子を100容量部、平均粒子径が200μmのグラニュー糖粒子を100容量部、及びヘキサンを所定量(実施例8及び実施例12では230容量部、実施例9及び10では310容量部、実施例11では460容量部)添加し、さらに導電性粒子として各種炭素粒子を添加(表2参照)して樹脂組成物とした。その他については実施例1と同様にして導電性傾斜多孔質樹脂成形体を製造した。
【0043】
実施例8〜12の導電性傾斜多孔質樹脂成形体の空孔の傾斜の分布をマイクロスコープで観察した結果を表2及び図9〜11に、電気抵抗率をマルチメータで測定した結果を表2に示す。
【表2】
【0044】
表2及び図9〜11に示すように、実施例8〜12の導電性傾斜多孔質樹脂成形体1は、一端から他端に向かって大きな空孔から徐々に小さな空孔となり、さらには空孔が存在しない層が存在していることが確認された。
また、電気抵抗率を測定した結果、導電性粒子を添加した実施例8では6.6×10、実施例9では4.7×10、実施例10では2.4×10、実施例11では8.6×10、実施例12では1.3×10となり、いずれもマルチメータで測定できる程度の電気抵抗率を有することが分かり、応力センサやひずみセンサの材料として使用可能であることが分かった。
【0045】
(比較例1〜4)
比較例1及び比較例2では、ただ1種類の水溶性粒子(比較例1では平均粒子径が700μmの塩化ナトリウム粒子、比較例2では平均粒子径が200μmのグラニュー糖粒子)をシリコーン樹脂100容量部に対して200容量部用い、その他については実施例1と同様にして多孔質樹脂成形体を作製した。
また、比較例3及び比較例4では、ただ1種類の水溶性粒子(比較例3では平均粒子径が700μmの塩化ナトリウム粒子、比較例4では平均粒子径が200μmのグラニュー糖粒子)を200容量部用い、導電性粒子として炭素粒子を3容量部添加し、その他については実施例9と同様にして導電性多孔質樹脂成形体を作製した。
【表3】
【0046】
比較例1〜4の多孔質樹脂成形体の空孔の傾斜の分布をマイクロスコープで観察した結果を表3、及び図12及び図13に、電気抵抗率をマルチメータで測定した結果を表3に示す。単一の水溶性粒子を用いて多孔質樹脂成形体を作製した比較例1〜4では、空孔が均一に分布しており、空孔径の傾斜は認められなかった(図12及び図13参照)。
【0047】
<圧縮ひずみと圧縮応力、及び圧縮ひずみと電気抵抗率の関係>
上述のようにして製造した実施例9の導電性傾斜多孔質樹脂成形体、並びに比較例3及び比較例4の導電性多孔質樹脂成形体について、電気抵抗を測定しながら圧縮試験を行った。
【0048】
圧縮ひずみと圧縮応力との関係を図14に、圧縮ひずみと電気抵抗率との関係を図15に示す。また、実施例9における試験時の写真を図16に示す(なお、空孔の形状を見やすくするため、断面を着色した)。
実施例9の導電性傾斜多孔質成形体の応力−ひずみ曲線は、低ひずみ領域(0−10%)では比較例3に、高ひずみ領域(70%以上)では比較例4に、それぞれ近い挙動を示した。
【0049】
こうした挙動を示す理由は、次のように考えられる。
すなわち、実施例9の導電性多孔質成形体は大径の空孔(φ700μm)を有する部分と、小径の空孔(φ200μm)とが存在している。一方、比較例3の導電性多孔質成形体は大径の空孔(φ700μm)を有しており、比較例4の導電性多孔質成形体は小径の空孔(φ200μm)を有している。
ここで、実施例9の導電性多孔質成形体に応力を付与していった場合、図16にも示されているように、低ひずみ領域で大径の空孔(φ700)が、高ひずみ領域で小径の空孔(φ200)が、それぞれ多く潰れる。このため、低ひずみ領域では比較例3の導電性多孔質成形体と同様の挙動を示し、高ひずみ領域で比較例4の導電性多孔質成形体と同様の挙動を示したのである。こうして、実施例9の導電性傾斜多孔質材料は、圧縮ひずみの増加に伴い内部の変形挙動が変化するため、従来の多孔質材料とは異なった力学的特性を示したのである。
【0050】
また、大径の空孔(φ700μm)を有する比較例3の導電性多孔質成形体、及び小径の空孔(φ200μm)を有する比較例4の導電性多孔質成形体は、低いひずみ領域(0−20%)での電気抵抗率の変化は大きいが、それより高いひずみ領域では電気抵抗率の変化が小さくなった。これに対し、実施例9の傾斜多孔質成形体では0−80%の広いひずみ領域で直線的に電気抵抗率が減少した。
これは単一の空孔からなる比較例3及び比較例4の導電性多孔質成形体では空孔の潰れに伴う導電パスの生成が低いひずみ領域でほとんど行われるのに対し、導電性傾斜多孔質成形体では、広いひずみ領域に渡って、大径の空孔から小径の空孔の順に空孔が潰れていき、導電パスが少しずつ生成されていくためであると考えられる。
また、以上の結果から、本発明の導電性傾斜多孔質成形体を用いることにより、緩衝特性や肌触りを制御したり、応力・ひずみセンサとして測定可能範囲を広げたりすること等が期待できるといえる。
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16