(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素および酸素を燃料として電気エネルギを得る装置である。燃料電池は、一般に、複数の燃料電池セル(以下、セルとも称する)が積層された積層体と、積層体を積層方向に加圧して締結する締結装置等を具備する燃料電池スタックとして使用される。この燃料電池スタックは、締結の終了後にスタックケース(以下、ケースとも称する)内に収納される。
【0003】
上記燃料電池スタックの製造工程において、通常、燃料電池スタックを構成する各セルの発電性能を検査するための発電検査が行われる。この発電検査を行う装置として、例えば特許文献1に提案されている。下記特許文献1では、燃料電池を構成する各燃料電池セルの間に電圧測定用の中間板を挟み、当該中間板及びセルを積層した積層体に対して締結装置により積層方向に荷重を加えて発電検査を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池スタックは、通常数百枚程度のセルが積層されるものであるので、数十枚程度のセルを積層した状態(小ロット)で発電検査を実施する場合には、発電検査装置等を含む設備数が増加し、コスト増を招いてしまう。この問題を解決することを意図して、小ロットではなくセルを数百枚程度積層した燃料電池スタックとして発電検査を行うという考え方もあるが、燃料電池スタックをケースに納める前の状態では発電検査を行うことができない。なぜなら、発電を実施するために、セルを積層した積層体に均一に荷重を付与し、それを保持しておく強固な構造が必要であるが、この強固な構造を保持するためには燃料電池スタックをケースに納めることが従来では必要となっているからである。このように燃料電池スタックをケースに納めてから発電検査を行う場合には、検査結果の異常が発生したときに、戻り工数として手直し作業(例えばケース抜き取り等)に時間がかかり、工数の増加を招いてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、発電検査を行う際の工数の増加を抑えながら、コストの低減を図ることができる燃料電池の検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る燃料電池の検査装置は、燃料電池の発電検査を行う検査装置であって、燃料電池セルを複数積層した積層体の外側に設けられ、積層方向に内部を貫通する切欠部が形成されたエンドプレートと、切欠部に挿通させた締結シャフトによって積層体を加圧した状態を保持するための荷重保持機構と、積層体に反応ガス又は冷却水を導入する導入管とを備え、導入管は、前記切欠部に挿通されている。
【0008】
この態様によれば、エンドプレートに形成された切欠部を通して積層体を加圧する締結シャフト及び締結シャフトによって加圧した状態を保持するための荷重保持機構が設けられているので、積層体としてのスタック構造を保持することができる。更に、エンドプレートに形成された切欠部に、発電検査を行うために必要な反応ガス又は冷却水を積層体に導入する導入管が挿通されているので、積層体をスタックケースに納める前の状態で反応ガス又は冷却水を供給して発電検査を実施することができる。このように、荷重保持機構により積層体として締結状態を保持して発電検査を行うことができるので、例えば小ロット(数十枚程度のセルを積層した状態)で発電検査を行う場合と比較して設備数を低減でき、コストの低減を図ることができる。また、スタックケースに納める前の状態で発電検査を行うことができるので、検査結果の異常が発生した場合に、戻り工数としての手直し作業(例えばスタックケース抜き取り等を含む)を減らすことができ、工数の増加を抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発電検査を行う際の工数の増加を抑えながら、コストの低減を図ることができる燃料電池の検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0012】
図1〜
図3を参照しながら、本実施形態に係る燃料電池の検査装置として用いられるセルパレット構造について説明する。
図1は、セルパレット構造の締結前の状態(締結シャフトにより積層体を加圧する前)を説明するための図である。
図1では図面が複雑になるため発電用検査装置として一般的に用いられる周辺機器(発電評価装置等)の図示を省略している。
図2は、
図1のA方向からみたセルパレット構造の説明図である。
図3は、
図1のB方向からみたセルパレット構造の説明図である。なお、
図3では、説明の便宜上、
図1に示した支持治具131やスタックマニホールド150等の図示を省略している。
【0013】
図1に示すセルパレット構造100は、積層体10の締結状態を保持しながら反応ガス(水素ガス、空気)及び冷却水の供給を可能にする構造を備えたものである。
図1に示すように、セルパレット構造100は、積層体10と、エンドプレート110a、110bと、締結シャフト130と、配管(
図3に示すガス供給配管140a、ガス排出配管140b、冷却水配管140c)とを備える。なお、
図1では、
図3に示す配管(ガス供給配管140a、ガス排出配管140b、冷却水配管140c)の図示を省略している。
【0014】
積層体10は、燃料電池を構成する各燃料電池セル(以下、セル)を複数積層したものである。なお、本実施形態では、各々のセル間に中間板を挟み、この中間板を利用した発電検査は行わない。セル間に中間板を挟んで発電検査を実施する場合、発電検査工程終了後、締結を解除、中間板を取り出すことが必要となるが、このような中間板を配置して発電検査を実施する構成と比較して、本実施形態では、発電検査後に締結を解除せずにケーシングができる(検査結果に異常がある場合には、分解することができる)という利点がある。
【0015】
なお、積層体10に含まれる各セルは電解質膜、アノード及びカソードを備える。電解質膜は、固体高分子電解質樹脂、例えばフッ素系樹脂を用いて形成されてプロトン伝導性を備え、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノードおよびカソードは、例えば白金、あるいは白金合金等の触媒を担持した導電性粒子、例えばカーボン粒子を、プロトン伝導性を有するアイオノマーで被覆して形成された電極触媒層である。電解質膜は、その両側に接合されたアノードとカソードと共に膜電極接合体(MEA)を構成する。セルは、このMEAを一対のセパレータで挟持した構成を備える。アノード側セパレータは、アノードに供給すべき燃料ガスとしての水素の流路と冷却水流路とを備え、カソード側セパレータは、カソードに供給すべき酸化剤ガスとしての空気の流路と図示しない冷却水流路とを備える。なお、本実施形態におけるセルパレット構造100におけるセルの積層数は、任意に設定可能である。
【0016】
積層体10の積層方向(セルを積層する方向)外側には、エンドプレート110a、110bが配置されている。
図1では、符号110bがガス導入側のエンドプレート(
図3参照)を示し、符号110aが加圧側のエンドプレート(
図2参照)を示す。エンドプレート110a、110bは、剛性を確保するため、例えば鋼等の金属によって形成されている。本実施形態では、エンドプレート110a、110bには、締結シャフト用の切欠き112が形成されている。切欠き112は、
図2及び
図3に示すように、エンドプレート110a、110bの内部を積層方向に貫通して形成されている。なお、略矩形状のエンドプレート110a、110bの四隅近傍には、締結シャフト130によって積層体10に荷重を付与した状態を保持するための拘束ロッド120が配置されている。
【0017】
図1〜
図3に示す各々の切欠き112は、略矩形状のエンドプレート110a、110bを平面視でみたときに、U字状に形成されている。
図1〜
図3では、U字状の切欠き112が3つ設けられた例が示されているが、これに限定されるわけではない。本実施形態における切欠き112は、以下で説明する締結シャフト130等を挿通可能な形状を有していれば、その形状や大きさ、個数等は適宜変更することができる。
【0018】
締結シャフト130は、積層体10を加圧するための部材である。締結シャフト130は、エンドプレート110aに形成された切欠き112に挿通可能なように、例えば棒状に形成される。本実施形態では、一方のエンドプレート110a(
図2に示す加圧側のエンドプレート)に形成された複数の切欠き112に締結シャフト130を通して(
図1の矢印に示す方向(積層方向)へ締結シャフト130を動かして)積層体10を加圧し、他方のエンドプレート110b(
図3に示すガス導入側のエンドプレート)側に配置された支持治具131により支持する。このように、支持治具131により積層体10の一方側(エンドプレート110b側)を支持し、この状態で、切欠き112を通した締結シャフト130によって積層体10の他方側(エンドプレート110a側)から加圧する。積層体10を積層方向に加圧してその加圧状態を良好に保持する観点から、支持治具131における荷重支持シャフト132は、切欠き112を通して導入される締結シャフト130と対応する位置(積層方向にみたときに実質的に同じ位置)に設けられていることが好ましい。
【0019】
なお、
図1及び
図2の例では、棒状の締結シャフト130が3本設けられているが、切欠き112を通して積層体10を積層方向に加圧する機能を有していれば、その形状や個数は図示の例に限定されるわけではなく、適宜変更可能である。
【0020】
図3に示すガス供給配管140aは、積層体10に燃料(水素ガス、酸化剤ガス)を供給するための配管である。ガス供給配管140aは、エンドプレート110bに形成された切欠き112を通して積層体10に接続されている。より詳細には、ガス供給配管140aは、スタックマニホールド150(
図1参照)に形成された複数のマニホールド(燃料ガス、酸化剤ガスを供給するためのマニホールド)に接続されており、当該マニホールドを介して積層体10(積層体10を構成する各々のセル)に燃料ガス、酸化剤ガスを供給する。このように、
図1に示す積層体10の端部(ガス導入側の端部)に配置されるスタックマニホールド150は、積層体10に、燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水を供給及び排出するための複数のマニホールドを備えている。
【0021】
なお、
図3に示すガス供給配管140aの配置はその一例であり、図示の例に限定されない。例えば、ガス供給配管140aの一方を切欠き112に挿通させ、他方を、エンドプレート110bの外側を通すように、
図3に破線で示す符号140aの位置にガス供給配管を配置しても良い。以下で説明するガス排出配管140bについても同様に、
図3に破線で示す符号140bの位置にガス供給配管を配置しても良い。
【0022】
エンドプレート110bに形成された切欠き112には、積層体10から排出されたガスを排出するためにガス排出配管140bを挿通させても良い。このガス排出配管140bは、スタックマニホールド150(
図1参照)に形成された複数のマニホールド(図示は省略するが、燃料ガス、酸化剤ガスを排出するためのマニホールド)に接続されており、当該マニホールドを介して積層体10から排出された燃料ガス、酸化剤ガスを排出する。ガス排出配管140bは、その設置箇所が特に限定されるものではないが、例えば、
図3に示すように、ガス供給配管140aを挿通させた切欠き112と同じ箇所に挿通させても良い。
【0023】
エンドプレート110bに形成された切欠き112には、積層体10に冷却水を導入及び排出するための冷却水配管140cを挿通させても良い。この冷却水配管140cは、スタックマニホールド150(
図1参照)に形成された複数のマニホールド(冷却水用のマニホールド)に接続されており、当該マニホールドを介して冷却水を供給又は排出する。
【0024】
なお、エンドプレート110bに形成された切欠き112に、配管(ガス供給配管140a、ガス排出配管140b、冷却水配管140c)を挿通させて積層体10に反応ガス又は冷却水を供給する場合、これら配管を急角度で曲げると圧力損失が発生するため、エンドプレート110bと、(積層体10の一端側に配置された)スタックマニホールドとの間には、配管取り回しのための空間を確保することが好ましい。
【0025】
また
図3に示したガス供給配管140a、ガス排出配管140b、冷却水配管140cの配置等は、その一例として示したものであり、図示の例に限定されない。図示した態様の他に、例えば、ガス供給配管140aとガス排出配管140bの配置を入れ替えたり、冷却水配管140cとガス供給配管140aとの配置を入れ替えたりしても良く、それぞれの配置や形状、大きさ等は、適宜変更することが可能である。
【0026】
以上説明した、本実施形態によれば、エンドプレート110a、110bに形成された切欠部112を通して積層体10を加圧する締結シャフト130が設けられているので、この締結シャフト130により積層体10に対して積層方向に荷重を付与することができる。そして、この締結シャフト130で付与した荷重を、セルパレット構造の荷重保持機構(例えば4本の拘束ロッド120、エンドプレート110a、110b、及び、台形ネジ(図示略)を含む荷重を保持するための部材)で保持し、締結シャフト130挿通箇所の切欠部112を、発電工程ではガス供給配管140a等の挿通箇所として利用している。このようにガス供給配管140a等を配置して発電を実施し、発電検査を行うことができるので、例えば小ロット(数十枚程度のセルを積層した状態)で発電検査を実施する構成と比較して設備数を低減でき、コストの低減を図ることができる。また、例えば燃料電池スタックをケースに納めることでその強固な構造を保持し、発電検査を実施する従来の構成と比較して、検査結果の異常が発生した場合に、戻り工数としての手直し作業(例えばスタックケース抜き取り等を含む)を減らすことができ、工数の低減を図ることができる。
【0027】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。