(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のエッチングステップの後に、少なくともフッ酸を含むエッチング液によって前記エッチング予定位置をエッチングする第2のエッチングステップをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のガラス基板製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を用いて、本発明に係る液晶パネルの製造方法の一実施形態を説明する。
図1(A)は、本発明の一実施形態に係る液晶パネル10の概略構成を示している。同図に示すように、液晶パネル10は、アレイ基板12およびカラーフィルタ基板14が液晶層等の中間層を挟んで貼り合わされるように構成されている。アレイ基板12およびカラーフィルタ基板14の構成は、公知の構成と同様の構成が採用可能であるため、ここでは説明を省略する。
【0018】
アレイ基板12は、カラーフィルタ基板14と貼り合わされる領域から延び出すように設けられた電極端子部122を有している。この電極端子部122には、複数の電気回路が接続され、液晶パネル10と、それらの電気回路とが筐体に収納されることによって、例えば、
図1(B)に示すようなスマートフォン100が構成される。
【0019】
続いて、液晶パネル10を製造する方法の一例について説明する。
図2(A)および
図2(B)に示すように、一般的に、液晶パネル10は、これを複数含んだ多面取り用ガラス母材50として製造される。そして、この多面取り用ガラス母材50を分断することによって、単個の液晶パネル10が得られる。
【0020】
この実施形態では、便宜上、6つの液晶パネル10が3行2列のマトリクス状に配置され、かつ、表面に透明性薄膜(ITO膜や有機導電膜等の透明性導電膜、または透明保護膜等)17が形成された多面取り用ガラス母材50に対する処理について説明する。ただし、多面取り用ガラス母材50に含まれる液晶パネル10の数はこれに限定されるものではなく、適宜増減することが可能である。
【0021】
多面取り用ガラス母材50は、まず、
図3(A)および
図3(B)に示すように、液晶パネル10の形状(輪郭)に対応する形状切断予定線に沿って改質ライン20が形成される。この改質ライン20は、例えば、ピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザ等のパルスレーザから照射される光ビームパルス(ビーム径は1〜5μm程度)によって形成される複数のフィラメント層を配列したフィラメントアレイである(
図4(A)および
図4(B)参照。)。改質ライン20は、例えば、
図4(A)および
図4(B)に示すように、複数の貫通孔または改質層を有するミシン目状を呈している。改質ライン20は、多面取り用ガラス母材50における他の箇所よりもエッチングされ易い性質を有している。もちろん、改質ライン20の形状は、この形状には限定されるものではなく、これ以外の形状を呈するものであっても良い。
【0022】
アレイ基板12、カラーフィルタ基板14、および透明性薄膜17を同時に1つのレーザビームによって処理すると液晶層に不具合が生じる可能性がある。このため、本実施形態においては、
図3(C)および
図3(D)に示すようなレーザ加工を採用することにより、このような不具合の発生を抑制することが可能となる。すなわち、
図3(C)に示すように、アレイ基板12側からアレイ基板12のみに改質ライン20が形成されるように焦点調整および強度調整をした上でレーザを照射し、液晶層近傍にエネルギが伝達しにくくすると良い。この状態で、物理的作用または熱的作用を加えることによって多面取り用ガラス母材50の分断が可能であれば、レーザ加工はここで終了する。
【0023】
一方で、この状態では多面取り用ガラス母材50の分断が困難な場合には、
図3(D)に示すように、今度は反対側となるカラーフィルタ基板14側からカラーフィルタ基板14のみに改質ライン20を形成するように焦点調整および強度調整をした上でレーザを照射すると良い。
図3(D)に示す処理を行うことにより、レーザ加工の工程数が増加するものの、液晶層における不具合の発生を抑制しつつ、多面取り用ガラス母材50の分断を容易に行うことが可能になる。
【0024】
ピコレーザからの光ビームは、適宜、集光領域を調整することが好ましい。例えば、レーザ光の集光領域を中間層に到達しないように調整することによって、エッチング処理におけるエッチング液の過浸透によって端子配線が腐食するようなことが防止される。
【0025】
多面取り用ガラス母材50において形状切断予定線に沿って改質ライン20が形成された後には、多面取り用ガラス母材50は、
図5(A)および
図5(B)に示すように、両方の主面に耐エッチング性を備えた耐エッチングフィルム16が貼付される。ここでは、耐エッチングフィルム16として、厚みが50〜75μmのポリエチレンを採用している。ただし、耐エッチングフィルム16の構成はこれには限定されない。例えば、ポリプロピレンやポリ塩化ビニルやオレフィン系樹脂等のように、ガラスをエッチングするエッチング液に対する耐性を備えたものであれば適宜選択して採用することも可能である。
【0026】
耐エッチングフィルム16の貼付が完了すると、続いて、
図5(C)に示すように、取り出すべき液晶パネル10の形状に対応する形状切断予定線に沿って耐エッチングフィルム16に対するレーザビームの照射が行われる。このレーザビームの照射によって、耐エッチングフィルム16が形状切断予定線に沿って除去される。そして、形状切断予定線に沿って耐エッチングフィルム16の開口部が形成されることになり、その結果、
図3(C)に示した構成と同様に、多面取り用ガラス母材50の改質ライン20の形成位置が外部に露出することになる。
【0027】
上述のレーザ加工が終わると、
図6に示すように、多面取り用ガラス母材50は、エッチング装置300に導入され、フッ酸およびエッチング阻害物質を含有するエッチング液による第1のエッチングステップが施され、必要に応じて、フッ酸および塩酸等を含む通常のエッチング液による第2のエッチングステップ(任意的処理)が施される。通常、フッ酸1〜10重量%、塩酸5〜20重量%程度を含むエッチング液が用いられ、必要に応じて適宜、界面活性剤等が併用されるが、第1のエッチングステップでは通常のエッチング液にさらにエッチング阻害物質を含有させている。
【0028】
エッチング阻害物質の例として、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリや、酸化チタン、塩化アルミニウム、ホウ酸、二酸化珪素等のフッ素錯化剤が挙げられる。エッチング阻害物質は、主としてフッ酸と強酸からなるエッチング液のエッチング速度(エッチングレート)を減じる作用を奏する。通常は、フッ酸濃度やフッ素濃度と、エッチング速度とが正の相関を有しており、フッ酸濃度やフッ素濃度の増加に伴ってエッチング速度が速くなる。
【0029】
ところが、フッ酸の物質量に対して0.05〜5.00モル当量程度のエッチング阻害物質を含有させることにより、フッ酸濃度やフッ素濃度を高くしてもエッチング速度を0.01〜3.00μm/min程度に低く抑えることができ、このような状態を形成することによってウエットエッチングの等方性の影響を最小限に抑制した異方性エッチングが実現していると出願人は推測している。
【0030】
フッ酸とエッチング阻害物質との化合物として、これまで好適に異方性エッチングが実現できたものの例として、フッ化チタン酸(H
2TiF
6)、フッ化アンモニウム(NH
4F)、テトラフルオロホウ酸(HBF
4)、ヘキサフルオロリン酸(HPF
6)、ヘキサフルオロケイ酸(H
2SiF
6)、ヘキサフルオロアルミン酸(H
3AlF
6)、ヘキサフルオロアンチモン酸(HSbF
6)、六フッ化砒素酸(HAsF
6)、六フッ化ジルコン酸(H
2ZrF
6)、テトラフルオロベリリウム酸(H
2BeF
4)、ヘプタフルオロタンタル酸(H
2TaF
7)などやこれらの塩が挙げられる。
【0031】
エッチング装置300では、搬送ローラによって多面取り用ガラス母材50を搬送しつつ、エッチングチャンバ内で多面取り用ガラス母材50の片面または両面にエッチング液を接触させることによって、多面取り用ガラス母材50に対するエッチング処理が行われる。なお、エッチング装置300におけるエッチングチャンバの後段には、多面取り用ガラス母材50に付着したエッチング液を洗い流すための洗浄チャンバが設けられているため、多面取り用ガラス母材50はエッチング液が取り除かれた状態でエッチング装置300から排出される。
【0032】
多面取り用ガラス母材50にエッチング液を接触させる手法の一例として、
図7(A)に示すように、エッチング装置300の各エッチングチャンバ302において、多面取り用ガラス母材50に対してエッチング液をスプレイするスプレイエッチングが挙げられる。また、スプレイエッチングに代えて、
図7(B)に示すように、オーバーフロー型のエッチングチャンバ304において、オーバーフローしたエッチング液に接触しながら多面取り用ガラス母材50が搬送される構成を採用することも可能である。
【0033】
さらには、
図7(C)に示すように、エッチング液が収納されたエッチング槽306に、キャリアに収納された単数または複数の多面取り用ガラス母材50を浸漬されるディップ式のエッチングを採用することも可能である。
【0034】
いずれの場合であっても、エッチング処理中に、形状切断予定線が厚み方向に貫通して、多面取り用ガラス母材50が分断してしまわないようにすることが重要である。このため、エッチング処理中(特にエッチング処理の後半部分)においては、エッチングレートを遅くして、エッチング量を正確に制御する必要がある。
【0035】
エッチング処理の全体においてエッチングレートを遅くするのではなく、当初は速めのエッチングレートを採用しつつ段階的に遅くしていくようにすれば、エッチング処理の時間を短縮することが可能である。例えば、エッチング装置300の後段に進むにつれてエッチング液におけるフッ酸濃度を低下させるような構成を採用すると良い。
【0036】
多面取り用ガラス母材50がエッチング装置300を通過すると、改質ライン20がエッチングされる。改質ライン20では、他の箇所よりも速くエッチング液が浸透し、このラインに沿ってガラスが溶解されることによって、改質ライン20によってカラーフィルタ基板を切断し易くなる。また、レーザ照射時においてキズ等が発生していた場合であっても、このキズが消失し易くなる。
【0037】
エッチング処理が終了すると、貼付されていた耐エッチングフィルム16が剥離される。続いて、多面取り用ガラス母材50に対して、
図8(A)〜
図8(C)に示すように、カラーフィルタ基板14におけるアレイ基板12の電極端子部122に対向する領域を取り除くための端子部切断溝30を形成する処理が行われる。この実施形態では、スクライブホイール(ホイールカッタ)250によって、カラーフィルタ基板14におけるアレイ基板12の電極端子部122に対向する領域の内側に端子部切断溝30が形成される。端子部切断溝30は、カラーフィルタ基板14におけるアレイ基板12の電極端子部122に対向する領域を取り除くため端子部切断予定線に沿って形成される。
【0038】
スクライブホイール250による端子部切断溝30の形成が終わると、多面取り用ガラス母材50の分断および電極端子部122に対向する領域の除去に移行する。多面取り用ガラス母材50において、レーザのフィラメント加工によって改質ライン20が形成され、この改質ラインをさらにエッチングすることにより、わずかな機械的圧力のみで、多面取り用ガラス母材50を改質ライン20において分割することができる。例えば、多面取り用ガラス母材50に微小な押圧力や引っ張り力を加えたり、微小な超音波振動を与えたりすることによって、
図9に示すように、多面取り用ガラス母材50を汚損することなく、分断することが可能である。
【0039】
あえて、エッチング処理によって完全には切断してしまわないため、エッチング中に分離された液晶パネル10端面どうしが衝突して破損するといった不具合の発生が防止される。また、エッチング処理後の不完全に切断された状態の多面取り用ガラス母材50のまま(大判の状態のまま)、運搬することも可能になる。さらに、エッチング液が電極端子部に到達することがないため、耐エッチング性を備えたマスキング剤によって電極端子部を保護することが不要になる。また、液晶パネル10の端面における少なくとも中央部以外はエッチング処理が施されているため、レーザ加工のみで切断を行った場合に比較して液晶パネルの強度(例えば、曲げ強度)が高くなる。
【0040】
図10(A)〜
図10(C)は、分断後の液晶パネル10の概略構成を示している。同図に示すように、液晶パネル10の端面は主面に対してほぼ直角になっている。すなわち、板厚のアレイ基板12およびカラーフィルタ基板14の各端面に発生するテーパ幅(
図10(C)におけるL1〜L4)をほぼゼロ(具体的には、30μm以下)に抑えることが可能である。
【0041】
このように、液晶パネル10を製造するにあたって、サイドエッチングの影響がほとんど発生しないため、液晶パネル10どうしを近接配置した多面取り用ガラス母材50の設計することができる。一方で、エッチング阻害物質を含有するエッチング液による処理(第1のエッチングステップ)の比率を少なくし、フッ酸および塩酸等を含むエッチング液による処理(第2のエッチングステップ)の比率を多くすることによって、テーパ幅L1〜L4の値を大きくすることが可能である。必要となる端面の形状や必要なエッチングレート等を考慮して、エッチング阻害物質を含有するエッチング液による処理の比率を適宜調整すると良い。
【0042】
続いて、
図11〜
図14を用いて、穿孔処理に係る別の実施形態について説明する。
図11は、複数の貫通孔を備えるガラスインターポーザを製造するためのガラス基板510に対する加工処理の一ステップを示している。この実施形態では、ガラスインターポーザを製造する際に、ガラス基板510に対して、改質ステップおよびエッチングステップが少なくとも施される。
【0043】
ガラス基板510の種類は、ガラスである限り、特に限られないが、ガラスインターポーザのように、半導体素子のパッケージに使用される場合は、無アルカリガラスが好ましい。これはアルカリ含有ガラスの場合、ガラス中のアルカリ成分が析出し、半導体素子に悪影響を及ぼすおそれがあるためである。また、ガラス基板510の厚さは、特に限られず、ガラス基板10は、例えば0.1mm〜2.0mmの厚さにおいて好適に処理を行うことができている。
【0044】
改質ステップにおいては、ガラス基板510における複数の貫通孔の形成予定位置に対して、レーザヘッド512からレーザ光が照射される。この照射されるレーザ光は、ガラス基板510の厚み方向にわたってエネルギ密度が相対的に高い焦線を形成するための光学系ユニット514を経由する。
【0045】
光学系ユニット514は、単一または複数の光学要素(レンズ等)によって構成されており、レーザヘッド512からのレーザ光を、ガラス基板510の厚み方向において所定範囲内の長さを有するレーザ光の焦線へと集束させるように構成されている。
【0046】
このため、このレーザ光がガラス基板510に照射されることにより、ガラス基板510における貫通孔形成予定位置が厚み方向の全域にわたって改質され、例えば、ボイド状の改質部102が形成される。ガラス基板510に複数の改質部102を形成するためには、ガラス基板510をXY平面上において移動するようなステージを用いても良いし、レーザヘッド512および光学系ユニット514を備えたレーザ加工装置がこれらの部材をXY方向に移動させる駆動機構を設けるようにしても良い。
【0047】
レーザ光は、ガラス基板510の貫通孔の形成予定位置をエッチングされ易い性質に改質できる限り、その種類および照射条件は限られない。この実施形態では、レーザヘッド512から、短パルスレーザ(例えばピコ秒レーザ、フェムト秒レーザ)から発振されるレーザ光が照射されているが、例えば、CO
2レーザ、UVレーザ等を用いても良い。この実施形態では、レーザ光の平均レーザエネルギが、約30μJ〜300μJ程度になるように出力制御が行われている。
【0048】
改質ステップの後には、ガラス基板510における貫通孔形成予定位置に形成された改質部をエッチングすることによって、改質部102を溶解し、貫通孔形成予定位置に貫通孔が形成される。
【0049】
図12(A)〜
図12(C)を用いて、改質ステップおよびその後のエッチングステップについて説明する。
図12(A)は、上述した改質ステップを示している。レーザヘッド512から出射したレーザ光は、光学系ユニット514によって、ガラス基板510における貫通孔形成予定位置に集光され、貫通孔形成予定位置の厚み方向に焦線が形成される。光学系ユニット514は、例えば、レーザ光を拡散する拡散レンズや集光する集光レンズ等を少なくとも備えており、例えば、レーザ光を上述の焦線上の複数の点で結像するように集光することができる。
【0050】
その結果、
図12(B)に示すように、ガラス基板10の貫通孔成予定位置における厚み方向の全域にわたって改質部102が形成される。改質部102は、レーザ光からのエネルギを受けることによって他の部分よりもエッチングされ易い性質を示すようになる。この改質部102にエッチング液を接触させることにより、改質部102が溶解されて、その結果、
図12(C)に示すように貫通孔形成予定位置に貫通孔104が形成されることになる。
【0051】
エッチングステップにおいては、
図13(A)に示すように、ガラス基板510は、エッチング装置520に導入され、フッ酸および塩酸等を含むエッチング液によってエッチング処理が施される。エッチング装置520では、搬送ローラによってガラス基板510を搬送しつつ、エッチングチャンバ522内でガラス基板510の片面または両面にエッチング液を接触させることによって、ガラス基板510に対するエッチング処理が行われる。
【0052】
ここでは、
図13(B)に示すように、エッチング装置520の各エッチングチャンバ522において、ガラス基板510に対してエッチング液をスプレイするスプレイエッチングが行われる。エッチング液としては、例えば、フッ酸1〜10重量%、塩酸5〜20重量%、および上述のエッチング阻害物質を含むエッチング液が用いられる。なお、エッチング装置520におけるエッチングチャンバ522の後段には、ガラス基板510に付着したエッチング液を洗い流すための洗浄チャンバが設けられているため、ガラス基板510はエッチング液が取り除かれた状態でエッチング装置520から排出される。
【0053】
エッチング液をスプレイする手法以外にも、ガラス基板510をエッチング液に浸漬することによってガラス基板10にエッチング液を接触させることも可能である。ただし、細い貫通孔の内部にエッチング液を浸透させる観点からすると、
図13(A)および
図13(B)に示すようなエッチング液をスプレイする方式を採用することが好ましい。
【0054】
エッチング液を十分な圧力でガラス基板510にスプレイすることによって、通常は、ガラス基板510の改質部102が適切に溶解されて、
図12(C)に示すようにガラス基板510に貫通孔104が形成される。この実施形態では、スプレイする際の吐出圧力は、例えば、0.05Mpa〜0.10Mpa、各スプレイノズルから噴射するエッチング液の量は1.25〜2.50リットル/分程度で処理を行うと好適な結果が得られた。
【0055】
従来のエッチング液による処理においては、エッチング液のスプレイ圧力や濃度や粘度、または改質部102のサイズによっては、
図14(A)に示すように、中央部に狭窄部を有する貫通孔105が形成されてしまうことがあった。このような貫通孔105は、インターポーザの用途に用いた場合に導通不良等の不具合を生じる可能性があるため、あまり好ましくないと言える。
【0056】
この実施形態においては、エッチング阻害物質を含むエッチング液を適宜用いることによって、
図14(B)に示すように、ガラス基板510の厚み方向の中央部に狭窄部が形成されにくくなっている。
このように、エッチング阻害物質を含むエッチング液を用いることによってウエットエッチングの等方性に起因するサイドエッチングの影響がほとんど発生しないため、狭窄部のない貫通孔を形成することができる。一方で、エッチング阻害物質を含有するエッチング液による処理(第1のエッチングステップ)の比率を少なくし、通常のエッチング液による処理(第2のエッチングステップ)の比率を多くすることによって、狭窄部の形状を調整することが可能である。必要となる貫通孔の形状や必要なエッチングレート等を考慮して、第1のエッチングステップおよび第2のエッチングステップの比率を適宜調整すると良い。上述したように、第2のエッチングステップは任意的処理なので、比率をゼロにすることも可能である。
【0057】
上述の方法を採用して形成された貫通孔は、スプレイエッチングによってマイクロクラックが微小化または消滅している。このため、貫通孔の形状を好適に保つことができるだけではなく、ガラスインターポーザの強度を保つことができるというメリットもある。また、ここでは、ガラス基板510をガラスインターポーザとして用いる例を説明したが、ガラス基板510の用途はこれに限定されない。例えば、MEMSパッケージングやライフサイエンス向けマイクロチップデバイス等にも適用可能である。
【0058】
ここで、
図15を用いて、上述の実施形態における異方性エッチングのメカニズムを説明する。同図に示すように、フルオロ錯体(ここでは、フッ化チタン酸)は、化学的平衡状態において、エッチング処理によるフッ酸の消費に伴って、ガラス基板の主面から離れた位置において、活性種であるフッ酸を放出し易い。この結果、ガラス基板の主面から離れた位置にまでフッ酸が届き易くなる。このため、ガラス基板の主面に垂直な方向(例:厚み方向、深さ方向)のエッチングが進行し易くなる。
【0059】
ガラス基板の主面付近でフッ酸が連続的に消費されるとガラスの主面に平行な方向(例:幅方向)のエッチングを進行し、等方性エッチングの影響が発生し易くなるが、エッチング阻害物質の作用によって、等方性エッチングの影響を最小限に抑制することが可能になると推測している。
【0060】
続いて、実際に実施例を用いて、本願発明の実施形態に係るエッチング阻害物質を含むガラス用エッチング液の作用効果を説明する。まず、
図16(A)〜
図16(D)を用いて、ガラス用エッチング液の作用効果を検証するための実験手法について説明する。
図16(A)に示すように、エッチング処理に先立って、まず、レーザ光の平均レーザエネルギが、約250μJ程度になるように出力制御を行った上で、厚み200μm程度のガラス基板に改質孔を形成した。
【0061】
続いて、下記表1に示す組成のエッチング液(40℃)でそれぞれ約40分間エッチング処理を行った。
図16(B)は、比較例に係るエッチング液によってエッチングを行った後のガラス基板を示しており、
図16(C)は、各実施例に係るエッチング液によってエッチングを行った後のガラス基板を示している。
【表1】
【0062】
比較例1に係るエッチング液は、エッチングレートが1.0μm程度になるように調整されたフッ酸濃度0.90mol/Lを含むエッチング液である。
【0063】
一方で、実施例1〜実施例6は、フッ酸に対してエッチング阻害物質として、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、二酸化珪素、ホウ酸、および塩化アルミニウムそれぞれ加えたエッチング液である。これらのエッチング阻害物質を加えるとエッチング速度が低下するため、エッチングレートが1.0μm/分程度になるようにフッ酸濃度は比較例1に係るエッチング液よりもそれぞれ高くなっている。
【0064】
エッチング処理後において、
図16(D)に示すように、形成された孔の幅(比較例の場合はW0、実施例の場合はW1)および孔の深さDを計測し、深さの値Dを幅の値(W0またはW1)で除して得られた値を「異方性度数」とした。この異方性度数の値が大きいほど、異方性エッチングが実現していると言える。なお、エッチング後のガラス基板の測定は、光学顕微鏡を用いて行った。
【0065】
表1に示すように、比較例1に係るエッチング液で得られた異方性度数は3.1であった。通常、等方性エッチングの場合は、異方性度数が1となるが、ここではレーザ加工によって改質孔が形成されているため、エッチング阻害物質を加えなくても1を大きく超える異方性度数が得られている。
【0066】
さらに、エッチング阻害物質をそれぞれ加えた実施例1〜実施例6に係るエッチング液で得られた異方性度数は、いずれも比較例1に係るエッチング液で得られた異方性度数よりも高い値が得られている。これにより、エッチング阻害物質によって、より一層異方性エッチングが実現していることが分かる。
【0067】
ここで、表2を用いて、別の実験結果を説明する。
【表2】
【0068】
比較例2に係るエッチング液は、フッ酸濃度0.10mol/Lに調整されたエッチング液である。実施例7〜12に係るエッチング液は、フッ酸の物質量に対して0.10モル当量のエッチング阻害物質(水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、二酸化珪素、ホウ酸、および塩化アルミニウム)を加えてなるものである。
【0069】
表2に示すように、比較例2に係るエッチング液で得られた異方性度数は3.0であった。一方で、エッチング阻害物質をそれぞれ加えた実施例7〜実施例12に係るエッチング液で得られた異方性度数は、いずれも比較例2に係るエッチング液で得られた異方性度数よりも高い値(最大で6.8)が得られている。この表2に係る実験結果からも、エッチング阻害物質によって、より一層異方性エッチングが実現していることが分かる。
【0070】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。