特許第6803040号(P6803040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6803040-不動態化処理装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803040
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】不動態化処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/73 20060101AFI20201214BHJP
   C23C 22/06 20060101ALI20201214BHJP
   C23F 15/00 20060101ALI20201214BHJP
   A61B 17/28 20060101ALI20201214BHJP
   A61B 17/3211 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C23C22/73 A
   C23C22/06
   C23F15/00
   A61B17/28
   A61B17/3211
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-200362(P2016-200362)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-62679(P2018-62679A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(74)【代理人】
【識別番号】100110685
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 方宜
(72)【発明者】
【氏名】芝 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕一
(72)【発明者】
【氏名】谷野 雅昭
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−167566(JP,A)
【文献】 特表2003−524500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−22/86
C23F 15/00
A61B 17/28
A61B 17/3211
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を不動態化処理する装置であって、
処理液を貯留して被処理物が浸漬される処理槽と、
前記処理槽内の処理液を加熱する加熱手段と、
前記処理槽内の気体を外部へ吸引排出して前記処理槽内を減圧する減圧手段と、
減圧された前記処理槽内へ気体を導入して前記処理槽内を復圧する復圧手段と、
前記各手段を制御して、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧した後、前記復圧手段により前記処理槽内を復圧する動作を含んで、被処理物を不動態化処理する制御手段とを備え
前記復圧手段として、前記処理槽内の気相部に外気を導入する気相給気手段と、前記処理槽内の液相部に外気を導入する液相給気手段との内、一方または双方を備え、
前記制御手段は、前記加熱手段により前記処理槽内の処理液を設定温度まで加熱した後、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、前記気相給気手段または前記液相給気手段による給気を開始する動作を含んで、被処理物を不動態化処理する
ことを特徴とする不動態化処理装置。
【請求項2】
前記気相給気手段と前記液相給気手段との双方を備え、
前記制御手段は、前記加熱手段により前記処理槽内の処理液を設定温度まで加熱中、前記減圧手段による減圧と前記液相給気手段による液相部への給気とを繰り返して、前記処理液を撹拌し、
前記制御手段は、前記加熱手段により前記処理槽内の処理液を設定温度まで加熱した後、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、前記気相給気手段による気相部への給気を開始する動作を含んで、被処理物を不動態化処理する
ことを特徴とする請求項1に記載の不動態化処理装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記減圧手段による処理液の減圧沸騰と、前記復圧手段による処理液の沸騰停止とを設定回数繰り返した後、所定温度で所定時間、被処理物を処理液に浸漬する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の不動態化処理装置。
【請求項4】
前記被処理物は、医療器具であり、
前記処理液は、水に食品添加物からなる処理剤を混入した水溶液である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の不動態化処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具などの各種物品を不動態化処理する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1の段落[0002]に開示されるように、ステンレス鋼などの耐食性を向上させるために、硝酸を用いた不動態化処理が知られている。具体的には、30%程度の硝酸溶液を60℃前後まで加熱しておき、この硝酸溶液にステンレス鋼を1時間ほど浸漬して不動態化処理するのが一般的とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−113485号公報(段落[0002])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被処理物には、様々な形態のものがあり、たとえば隙間や穴などを有し、それに起因して空気溜まりも生じ得る。そのため、被処理物を処理液に浸漬するだけでは、処理液との接触が十分になされず、所期の不動態化処理を細部まで図れないおそれがある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、被処理物を容易に確実に不動態化処理できる不動態化処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、被処理物を不動態化処理する装置であって、処理液を貯留して被処理物が浸漬される処理槽と、前記処理槽内の処理液を加熱する加熱手段と、前記処理槽内の気体を外部へ吸引排出して前記処理槽内を減圧する減圧手段と、減圧された前記処理槽内へ気体を導入して前記処理槽内を復圧する復圧手段と、前記各手段を制御して、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧した後、前記復圧手段により前記処理槽内を復圧する動作を含んで、被処理物を不動態化処理する制御手段とを備え、前記復圧手段として、前記処理槽内の気相部に外気を導入する気相給気手段と、前記処理槽内の液相部に外気を導入する液相給気手段との内、一方または双方を備え、前記制御手段は、前記加熱手段により前記処理槽内の処理液を設定温度まで加熱した後、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、前記気相給気手段または前記液相給気手段による給気を開始する動作を含んで、被処理物を不動態化処理することを特徴とする不動態化処理装置である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、処理槽内に処理液を貯留して被処理物を浸漬した状態で、処理槽内を減圧した後、復圧する動作が実施される。これにより、処理液を流動させることができると共に、空気溜まりをなくして、被処理物を容易に確実に不動態化処理することができる。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、処理槽内を減圧して処理液を沸騰させ、その沸騰中に、処理槽内の気相部または液相部に給気する動作が実施される。減圧沸騰中に気相部に給気する場合、それまでの沸騰により液中に生じていた蒸気泡は凝縮し、この凝縮時の圧力波や圧力差で処理液を撹拌および移送して、被処理物に処理液を確実に接触させることができる。また、被処理物が穴を有する場合、処理液の減圧沸騰により、穴には蒸気溜まりを生じるが、気相部への給気により、そのような蒸気溜まりを消滅させて、被処理物に処理液を確実に接触させることができる。一方、減圧沸騰中に液相部に給気する場合、沸騰中の液相部に導入された空気泡は、沸騰蒸気が入り込むことで爆発的に膨張し、この大きな気泡が液相部を上昇することで、処理液は大きく噴き上げられた後、落下する。この爆発的な噴上げとそれに続く落下とによって、処理槽内の処理液を大きく揺動させて、被処理物に処理液を確実に接触させることができる。なお、気相部と液相部との内、いずれに給気する場合でも、事前に処理液を設定温度まで加熱しておくことで、安定した確実な減圧沸騰と不動態化処理を実現することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記気相給気手段と前記液相給気手段との双方を備え、前記制御手段は、前記加熱手段により前記処理槽内の処理液を設定温度まで加熱中、前記減圧手段による減圧と前記液相給気手段による液相部への給気とを繰り返して、前記処理液を撹拌し、前記制御手段は、前記加熱手段により前記処理槽内の処理液を設定温度まで加熱した後、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、前記気相給気手段による気相部への給気を開始する動作を含んで、被処理物を不動態化処理することを特徴とする請求項1に記載の不動態化処理装置である。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、処理液を設定温度まで加熱中、処理槽内の減圧と処理槽内の液相部への給気とを繰り返して、処理液を撹拌することができる。これにより、処理液を温度ムラなく、設定温度まで加熱することができる。その後、処理槽内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、処理槽内の気相部に給気して、被処理物を不動態化処理することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記制御手段は、前記減圧手段による処理液の減圧沸騰と、前記復圧手段による処理液の沸騰停止とを設定回数繰り返した後、所定温度で所定時間、被処理物を処理液に浸漬することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の不動態化処理装置である。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、処理槽内の処理液の減圧沸騰と、処理槽内の復圧による処理液の沸騰停止とを設定回数繰り返すと共に、その後、所定温度で所定時間放置することで、被処理物を容易に確実に不動態化処理することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記被処理物は、医療器具であり、前記処理液は、水に食品添加物からなる処理剤を混入した水溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の不動態化処理装置である。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、被処理物が医療器具であっても、食品添加物からなる処理剤を用いることで、安全である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の不動態化処理装置によれば、被処理物を容易に確実に不動態化処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施例の不動態化処理装置を示す概略図であり、一部を断面にして示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施例の不動態化処理装置1を示す概略図であり、一部を断面にして示している。
【0024】
本実施例の不動態化処理装置1は、処理液を貯留して被処理物(図示省略)が浸漬される処理槽2と、この処理槽2内の処理液を加熱する加熱手段3と、処理槽2内の処理液の撹拌手段としての液相給気手段4と、処理槽2内の気体を外部へ吸引排出して処理槽2内を減圧する減圧手段5と、減圧された処理槽2内へ気体を導入して処理槽内を復圧する復圧手段(気相給気手段6および液相給気手段4)と、これら各手段を制御して被処理物を不動態化処理する制御手段(図示省略)とを備える。
【0025】
被処理物は、特に問わないが、たとえば鉗子やメスなどの医療器具である。被処理物は、一部または全部が、処理液との接触により不動態化される金属製であり、典型的にはステンレス製である。
【0026】
処理槽2は、内部空間の減圧に耐える中空容器であり、扉(図示省略)で開閉可能とされる。典型的には、処理槽2は、上方へ開口した処理槽本体と、この処理槽本体の開口部を気密に閉じる扉とから構成される。
【0027】
処理槽2内には、中途まで処理液が貯留される。その結果、処理槽2内は、気相部と液相部とに分かれる。処理槽2には、処理槽2内の気相部の圧力を検出する圧力センサ7と、処理槽2内の液相部の温度を検出する温度センサ8とが設けられる。その他、所望により、水位センサ(図示省略)も設けられる。
【0028】
処理槽2には、被処理物が収容されると共に、その被処理物が浸漬されるまで処理液が貯留される。その際、処理槽2には、予め設定濃度に調整された処理液が供給されてもよいが、本実施例では、給水手段9による水と給液手段10による処理剤とが供給されて、処理槽2内で混合されて設定濃度の処理液とされる。
【0029】
処理液は、被処理物との接触により、被処理物を不動態化処理、つまり被処理物の表面に薄い不動態膜(耐食性の酸化被膜)を形成するための液体である。本実施例では、水に処理剤を混入した設定濃度(たとえば処理剤がクエン酸の場合は1重量%以上)の水溶液とされる。処理剤は、従来公知の硝酸などでもよいが、被処理物が医療器具の場合、食品添加物からなるものが好ましい。食品添加物からなる処理剤として、たとえば、クエン酸またはアスコルビン酸を挙げることができる。なお、本実施例では、処理剤(典型的にはクエン酸)は、所定濃度(前記設定濃度よりも高濃度)の水溶液とされる。
【0030】
給水手段9は、処理槽2内に水を供給する手段である。この水として、水道水、軟水または純水などを用いることができる。いずれにしても、給水源からの給水路11が処理槽2に接続されており、その給水路11には給水弁12が設けられている。給水弁12の開閉により、処理槽2内への給水を制御することができる。但し、給水弁12に代えてまたはこれに加えて、給水路11に給水ポンプを設け、この給水ポンプの発停により、処理槽2内への給水を制御してもよい。あるいは、場合により、給水弁12の開度を調整したり、給水ポンプをインバータ制御したりしてもよい。
【0031】
給液手段10は、処理槽2内に処理剤を供給する手段である。本実施例では、処理剤の貯留タンク13が給液路14を介して処理槽2に接続されており、その給液路14には給液弁15が設けられている。減圧手段5により処理槽2内を所定に減圧した状態で給液弁15を開けると、処理槽2の内外の差圧を利用して、所定量の処理剤を貯留タンク13から処理槽2内へ供給することができる。但し、給液弁15に代えてまたはこれに加えて、給液路14に給液ポンプを設け、この給液ポンプにより、処理槽2内への給液を制御してもよい。いずれにしても、処理槽2内において、処理剤の濃度が設定範囲に収まるように、給水手段9による給水量と、給液手段10による給液量とが調整される。
【0032】
加熱手段3は、処理槽2内の貯留液を加熱する手段である。加熱手段3は、その構成を特に問わないが、本実施例では電気ヒータ16から構成される。電気ヒータ16は、通常オンオフ制御されるが、場合により出力を制御されてもよい。但し、加熱手段3は、電気ヒータ16ではなく、たとえば蒸気ヒータから構成されてもよい。蒸気ヒータを用いる場合、蒸気ヒータへの給蒸の有無または量が制御される。
【0033】
撹拌手段は、処理槽2内の貯留液を撹拌する手段である。撹拌手段は、その構成を特に問わないが、本実施例では液相部への給気手段とされる。つまり、本実施例では、液相給気手段4が撹拌手段を兼ねる。液相給気手段4により、処理槽2内の底部から貯留液中に気体を導入することで、貯留液の撹拌を図ることができる。
【0034】
減圧手段5は、処理槽2内の気体を外部へ吸引排出して、処理槽2内を減圧する手段である。具体的には、減圧手段5は、真空発生装置17を備え、この真空発生装置17は、排気路18を介して、処理槽2内の気相部に接続されている。真空発生装置17は、その具体的構成を特に問わないが、典型的には水封式の真空ポンプを備え、この真空ポンプより上流側に、排気路18内の蒸気を凝縮させる熱交換器をさらに備えてもよい。
【0035】
気相給気手段6は、処理槽2内の気相部に外気を導入して、処理槽2内を復圧する手段である。具体的には、気相給気手段6は、処理槽2内への気相給気路19に、気相給気弁20が設けられて構成される。処理槽2内が減圧された状態で気相給気弁20を開けると、処理槽2の内外の差圧により、気相給気路19を介して処理槽2内の気相部へ外気を導入することができる。なお、気相給気路19にフィルタを設けておき、このフィルタを介した空気を処理槽2内へ供給してもよい。
【0036】
液相給気手段4は、処理槽2内の液相部に外気を導入して、処理槽2内を復圧する手段である。具体的には、液相給気手段4は、処理槽2内への液相給気路(図示省略)に、液相給気弁(図示省略)が設けられて構成される。処理槽2内が減圧された状態で液相給気弁を開けると、処理槽2の内外の差圧により、液相給気路を介して処理槽内の液相部へ外気を導入することができる。なお、液相給気路にフィルタを設けておき、このフィルタを介した空気を処理槽2内へ供給してもよい。また、処理槽2内には、液相部となる位置で且つ被処理物よりも下方(つまり典型的には処理槽2内の底部)に、空気噴出部材21を設けておき、この空気噴出部材21の穴から空気を噴出させるのがよい。
【0037】
制御手段は、前記各センサ7,8の検出信号や経過時間などに基づき、前記各手段3〜6,9,10を制御する制御器(図示省略)である。具体的には、制御器は、給水弁12、給液弁15、電気ヒータ16、真空発生装置17、気相給気弁20、液相給気弁の他、圧力センサ7および温度センサ8などに接続されている。そして、制御器は、以下に述べるように、所定の手順(プログラム)に従い、処理槽2内の被処理物の不動態化処理を図る。
【0038】
以下、本実施例の不動態化処理装置1の運転方法、言い換えれば不動態化処理方法の一例について説明する。
【0039】
運転開始前、前記各手段3〜6,9,10は停止している。具体的には、各弁12,15,20は閉じた状態にあり、電気ヒータ16および真空発生装置17は停止している。その状態で、被処理物を処理槽2内に収容して、処理槽2の扉を気密に閉じる。そして、ユーザにより所定の運転開始ボタンが押されると、運転が開始される。つまり、制御器は、前記各手段を制御して、処理槽2内に処理液を貯留して被処理物を浸漬することで、被処理物を不動態化処理する。その間、減圧手段5により処理槽2内を減圧した後、復圧手段6,4により処理槽2内を復圧する動作を含んで、被処理物を不動態化処理するのが好ましい。詳細は後述するが、減圧手段5による減圧は、処理槽2内の処理液を沸騰させない範囲で行ってもよいし、処理槽2内の処理液を沸騰させるまで行ってもよい。また、処理槽2内の減圧と復圧とは、複数回行ってもよい。
【0040】
本実施例では、典型的には、給水動作、給液動作、加熱動作、本処理動作、排水動作を、順次に実行して、被処理物を不動態化処理する。
【0041】
≪給水動作≫
給水動作では、被処理物が浸漬される設定水位まで、給水手段9により処理槽2内に給水する。処理槽2内に所望量の水が貯留されると、給水手段9による給水を停止する。給水手段9による給水中、減圧手段5を停止した状態で気相給気弁20を開けておいてもよいが、本実施例では、次の給液動作に備えて、気相給気弁20を閉じた状態で減圧手段5を作動させて、処理槽2内の減圧が図られる。
【0042】
≪給液動作≫
給液動作では、給水動作で開始した減圧手段5の作動を継続し、処理槽2内をまずは所定圧力まで減圧する。そして、処理槽2内が所定圧力以下になると、給液弁15を開ける。これにより、貯留タンク13内の処理剤が、処理槽2内へ供給される。そして、所定時間の経過後、給液弁15を閉じる。処理剤の供給量は、処理槽2内の圧力に応じて、給液弁15を開放する時間で調整できる。なお、ここでは、処理剤はクエン酸であるとして説明するが、後述する温度条件や時間条件などは、処理剤に応じて適宜変更される。
【0043】
≪加熱動作≫
加熱動作では、加熱手段3により、処理槽2内の貯留液を設定温度まで加熱する。加熱目標温度としての設定温度は、適宜に設定されるが、通常、70℃以上100℃以下の範囲で設定され、好ましくは80℃以上95℃以下で設定される。
【0044】
加熱動作では、減圧手段5による減圧と液相給気手段4による液相部への給気とを繰り返して、貯留液の撹拌を図るのがよい。具体的には、処理槽2内の貯留液を沸騰させない範囲で、減圧手段5により処理槽2内を減圧し、その後、液相給気弁を開けて液相部に外気を導入して、処理槽2内の貯留液を撹拌するのがよい。これにより、給水手段9による水と給液手段10による処理剤との混合を図ると共に、その混合液としての処理液を温度ムラなく加熱することができる。なお、処理槽2内への給気中、減圧手段5は停止させてもよいし、作動を継続してもよい(以下、特に明記する場合を除き同様)。処理槽2内の貯留液が設定温度になると、加熱手段3を停止する。但し、後続の本処理動作においても、加熱手段3により、基本的には(減圧沸騰による冷却中を除き)、処理槽2内の貯留液を設定温度に維持するのが好ましい。
【0045】
≪本処理動作≫
本処理動作では、処理槽2内の処理液に被処理物を浸漬した状態で、設定時間(典型的には60分以上)保持して、被処理物を不動態化処理する。その間、本実施例では、減圧手段5による減圧と、復圧手段6,4(気相給気手段6または液相給気手段4)による復圧とを、少なくとも一回実行する。そのような減復圧動作として、たとえば以下のいずれかのパターンを挙げることができる。これらのパターンは、本処理動作の前半(特に開始直後)にだけ行ってもよいし、本処理動作中に継続してまたは間欠的に行ってもよい。また、いずれかのパターンのみを行う他、複数のパターンを設定順序で行ってもよい。
【0046】
なお、減復圧動作を本処理動作の開始直後にだけ行う場合、本処理動作は、減圧手段5による減圧と、復圧手段6,4による復圧とを、設定回数(一回または複数回)繰り返した後、減圧手段5を停止した状態で、所定温度で所定時間、被処理物を処理液に浸漬する処理ということもできる。この場合において、所定時間の起算点は、本処理動作の開始時点であってもよい。
【0047】
第一パターン(無沸騰パターン)では、減圧手段5により、処理槽2内の貯留液を沸騰させない範囲で、処理槽2内を目標圧力(または目標時間)まで減圧後、気相給気手段6または液相給気手段4により、処理槽2内を大気圧またはそれ未満で設定された規定圧力(または規定時間)まで復圧する。処理槽2内の減圧と復圧とにより、処理液を流動させることができる。特に、液相部へ給気して復圧する場合には、処理液を大きく流動させることができる。また、たとえば、被処理物に隙間や穴などが存在し、そこに空気が残留していても、減圧による膨張で空気を排除することができ、その後の復圧により隙間や穴などに処理液を導入することができる。このようにして、被処理物の細部にまで処理液を導入して接触させることができる。なお、処理槽2内の減圧と、処理槽2内の復圧とを、設定回数(または設定時間)繰り返してもよい。
【0048】
第二パターン(気相給気パターン)では、減圧手段5により処理槽2内を減圧して処理液を沸騰させた後、気相給気手段6により気相部に給気して復圧する。特に、減圧手段5により処理槽2内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、気相給気手段6により気相部への給気を開始するのが好ましい。また、処理槽2内の減圧と、気相部への給気とを、繰り返してもよい。
【0049】
たとえば、次のように処理することができる。すなわち、所定の終了条件を満たすまで(たとえば液温が目標温度になるまで)、減圧手段による処理槽2内からの排気を継続して処理槽2内の圧力を低下させる過程で、この減圧による貯留液の沸騰中に気相給気手段6により処理槽2内を貯留液の沸騰が止むまで瞬時に一時的に復圧することを繰り返してもよい。その後、処理槽2内の貯留液を再び設定温度まで加熱し、同様の処理を繰り返してもよい。
【0050】
減圧沸騰中に気相部に給気する場合、それまでの沸騰により液中に生じていた蒸気泡は瞬時に凝縮し、この凝縮時の圧力波や圧力差で処理液を撹拌および移送して、被処理物に処理液を確実に接触させることができる。また、被処理物が穴を有する場合、処理液の減圧沸騰により、穴には蒸気溜まりを生じるが、気相部への給気により、そのような蒸気溜まりを瞬時に消滅させて、被処理物に処理液を確実に接触させることができる。
【0051】
第三パターン(液相給気パターン)では、減圧手段5により処理槽2内を減圧して処理液を沸騰させた後、液相給気手段4により液相部に給気して復圧する。特に、減圧手段5により処理槽2内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、液相給気手段4により液相部への給気を開始するのが好ましい。また、処理槽2内の減圧と、液相部への給気とを、繰り返してもよい。
【0052】
たとえば、次のように処理することができる。すなわち、減圧手段5により処理槽2内を減圧して貯留液を沸騰させ、この沸騰中に、処理槽2内からの排気を継続したまま、液相給気手段4により処理槽2の内外の差圧を利用して処理槽2内の液相部に外気を導入する。そして、処理槽2内の貯留液を再び設定温度まで加熱し、同様の処理を繰り返してもよい。
【0053】
減圧沸騰中に液相部に給気する場合、沸騰中の液相部に導入された空気泡は、沸騰の核として、沸騰蒸気が入り込むことで爆発的に膨張する。具体的には、まず、本実施例では、液相給気手段4による液相部への給気は、処理槽2の内外の差圧により自然になされるので、液中に導入された気泡の圧力は、最初の気泡が気相部に達するまで、処理槽2内の圧力そのものとなる。従って、液中に導入された気泡は、減圧下の処理槽2内において膨張すると共に、液体の沸騰蒸気が入り込むことでさらに膨張しつつ、液相部を上昇する。そして、この大きな気泡が液相部を上昇することで、処理液は大きく噴き上げられた後、落下する。この爆発的な噴上げとそれに続く落下とによって、処理槽2内の処理液を大きく揺動させて、被処理物に処理液を確実に接触させることができる。
【0054】
以上の各パターンを用いつつ、本処理工程がなされる。たとえば、減圧手段5による処理液の減圧沸騰と、復圧手段6,4による処理液の沸騰停止とが、一以上で予め定められた設定回数だけ繰り返された後、所定温度で所定時間、被処理物を処理液に浸漬して、本処理工程がなされる。そして、いずれのパターンを用いる場合でも、本処理動作では、最終的には、減圧手段5を停止すると共に液相給気弁を閉じた状態で、気相給気弁20を開けて、処理槽2内は大気圧まで復圧された状態とされる。
【0055】
≪排水動作≫
排水動作では、処理槽2の底部からの排水路(図示省略)に設けた排水弁を開けることで、処理槽2内から排水する。処理槽2内からの排水後、排水弁を閉めて、一連の運転を終了する。なお、排水後、減圧手段5により処理槽2内を減圧することで、被処理物の液切りを図った後、減圧手段5を停止して気相給気手段6により処理槽2内を大気圧まで復圧してもよい。
【0056】
排水動作において、処理槽2内の処理液は外部へ排水されるが、その排水は、中和装置(図示省略)において中和された後、排水されるのが好ましい。中和装置は、処理槽2内において処理液に中和剤を投入する構成でもよいし、処理槽2内からの排水系統において排水中に中和剤を混入する構成でもよい。後述するように、不動態化処理の前または後に、被処理物の洗浄や濯ぎが可能な不動態化処理装置1の場合、洗浄剤としてアルカリ性洗剤を備えることがあるが、そのアルカリ性洗剤を処理液の中和剤として用いてもよい。
【0057】
上述した一連の不動態化処理工程により、被処理物は、不動態化処理される。被処理物が、たとえばマルテンサイト系ステンレスSUS420J2を用いた医療器具(医療用鋼製小物)である場合、この素材はステンレス材としては比較的錆を生じ易いが、上述した不動態化処理を施すことで、腐食環境に強い不動態化皮膜の強化が図られる。これにより、耐食性を向上させ、長期間使用することが可能となる。従って、医療器具の買い替えコストを抑えることもできる。
【0058】
上述した一連の動作からなる不動態化処理工程の前には、被処理物の洗浄工程や濯ぎ工程を実施してもよい。また、不動態化処理工程の後には、被処理物の濯ぎ工程などを実施してもよい。その場合、不動態化処理装置1には、被処理物の不動態化処理機能だけでなく、洗浄機能や濯ぎ機能が付与されることになる。言い換えれば、不動態化処理装置1は、不動態化処理機能付き洗浄装置として構成されてもよい。
【0059】
不動態化処理装置1に洗浄機能を付与する場合、給液手段10として、処理剤の貯留タンク13以外に、洗浄剤(たとえばアルカリ性洗剤、酵素配合洗剤)の貯留タンク13を設けるのが好ましい。その場合、各貯留タンク13は、それぞれ給液路14を介して処理槽2に接続され、各給液路14に給液弁15が設けられる。
【0060】
そして、被処理物を洗浄するには、前述した不動態化処理の場合と同様に、典型的には、給水動作、給液動作、加熱動作、本処理動作、排水動作を、順次に実行して、被処理物を洗浄する。但し、給液動作では、処理剤に代えて洗浄剤が供給され、処理槽2内には洗浄液が貯留される。そして、この洗浄液を加熱後に、処理槽2内を減復圧するなどして被処理物を洗浄後、洗浄液を排水すればよい。個々の動作は、不動態化処理の場合と同様であるから、説明を省略する。
【0061】
なお、洗浄工程では、給液動作を省略してもよい。つまり、洗浄剤を投入することなく、給水手段9による水だけで被処理物を洗浄してもよい。そして、好ましくは、その後、洗浄剤を投入して、洗浄液により被処理物を洗浄するのがよい。
【0062】
不動態化処理装置1に濯ぎ機能を付与する場合、給液手段10として、処理剤の貯留タンク13以外に、濯ぎ剤(たとえば潤滑防錆剤)の貯留タンク13を設けるのが好ましい。その場合、各貯留タンク13は、それぞれ給液路14を介して処理槽2に接続され、各給液路14に給液弁15が設けられる。
【0063】
そして、被処理物を濯ぎするには、前述した不動態化処理の場合と同様に、典型的には、給水動作、給液動作、加熱動作、本処理動作、排水動作を、順次に実行して、被処理物を濯ぎする。但し、給液動作では、処理剤に代えて濯ぎ剤が供給され、処理槽2内には濯ぎ液が貯留される。そして、この濯ぎ液を加熱後に、処理槽2内を減復圧するなどして被処理物を濯ぎ後、濯ぎ液を排水すればよい。個々の動作は、不動態化処理の場合と同様であるから、説明を省略する。
【0064】
なお、濯ぎ工程では、給液動作を省略してもよい。つまり、濯ぎ剤を投入することなく、給水手段9による水だけで被処理物を濯ぎしてもよい。そして、好ましくは、その後、濯ぎ剤を投入して、濯ぎ液により被処理物を濯ぎするのがよい。たとえば、不動態化処理工程後になされる濯ぎ工程では、まずは給水手段9による水のみで濯ぎし、その後、濯ぎ剤として潤滑防錆剤を用いて仕上げ処理するのがよい。
【0065】
ところで、本発明の不動態化処理方法は、上述した不動態化処理装置1を用いる場合に限らず、実施することもできる。いずれにしても、上述したのと同様に、処理槽2内に処理液を貯留して被処理物を浸漬した状態で、処理槽2内を減圧した後、復圧する動作を含んで、被処理物を不動態化処理すればよい。特に、処理槽2内を減圧して処理液を沸騰させた後、処理槽2内を復圧する動作を含んで、被処理物を不動態化処理するのがよい。
【0066】
一例として、処理槽2内の処理液を設定温度まで加熱した後、処理槽2内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、処理槽2内の気相部または液相部への給気を開始する動作を含んで、被処理物を不動態化処理する。その際、好適には、処理槽2内の処理液を設定温度まで加熱中、処理槽2内の減圧と処理槽2内の液相部への給気とを繰り返して、処理液を撹拌する。そして、処理槽2内の処理液を設定温度まで加熱した後、処理槽2内を減圧して処理液を沸騰させ、この沸騰中に、処理槽2内の気相部への給気を開始する動作を含んで、被処理物を不動態化処理するのがよい。なお、処理槽2内の処理液の減圧沸騰と、処理槽2内の復圧による処理液の沸騰停止とを設定回数繰り返した後、所定温度で所定時間、被処理物を処理液に浸漬するのもよい。
【0067】
そして、不動態化処理する前には、前述したとおり、洗浄工程や濯ぎ工程を実行可能とされてもよい。あるいは、不動態化処理した後に、前述したとおり、洗浄工程や濯ぎ工程を実行可能とされてもよい。いずれの場合も、洗浄工程では、処理槽2内に洗浄液を貯留し、この洗浄液に被処理物を浸漬して洗浄する。また、濯ぎ工程では、処理槽2内に濯ぎ液を貯留し、この濯ぎ液に被処理物を浸漬して濯ぎする。
【0068】
本発明の不動態化処理装置および方法は、前記実施例に限定されず、適宜変更可能である。特に、不動態化処理装置1は、処理液を貯留して被処理物が浸漬される処理槽2と、この処理槽2内の気体を外部へ吸引排出して処理槽2内を減圧する減圧手段5と、減圧された処理槽2内へ気体を導入して処理槽2内を復圧する復圧手段6,4と、前記各手段を制御して、減圧手段5により処理槽2内を減圧した後、復圧手段6,4により処理槽2内を復圧する動作を含んで、被処理物を不動態化処理する制御手段とを備えるのであれば、その他の構成および制御は適宜に変更可能である。また、同様に、不動態化処理方法は、処理槽2内に処理液を貯留して被処理物を浸漬した状態で、処理槽2内を減圧した後、復圧する動作を含んで、被処理物を不動態化処理するのであれば、その他は特に問わない。
【0069】
たとえば、前記実施例では、不動態化処理装置1は、給水手段9と給液手段10とを備え、給水手段9による水に給液手段10により処理剤を混入して処理液としたが、処理槽2内には予め調製した処理液を供給可能としてもよい。
【0070】
また、給液手段10で処理剤を投入するのではなく、処理剤は手動で処理槽2に投入するようにしてもよい。つまり、運転開始に先立って、被処理物を処理槽2内に収容する際、固体(たとえばタブレット状)または粉体状などの処理剤(たとえばクエン酸)を処理槽2内に投入するようにしてもよい。
【0071】
また、前記実施例では、減圧下の処理槽2内の復圧手段として、気相給気手段6と液相給気手段4との双方を設けたが、これらはいずれか片方のみを設けるだけでもよい。
【0072】
また、前記実施例では、気相給気手段6および液相給気手段4は、それぞれ処理槽2の内外の差圧により処理槽2内へ給気する構成としたが、場合により、ポンプやブロワなどにより、処理槽2内へ空気を押し込むようにしてもよい。しかも、処理槽2内の復圧のために処理槽2内へ送り込む流体は、空気に限らず、たとえば窒素のような不活性気体を用いてもよい。
【0073】
また、前記実施例では、不動態化処理工程において、給水動作、給液動作、加熱動作、本処理動作、排水動作を順次に実行したが、少なくとも本処理動作を行えばよく、たとえば加熱動作は場合により省略可能である。また、不動態化処理工程では、処理液を設定温度に保持したが、この設定温度は途中で変更してもよい。そして、洗浄工程、濯ぎ工程、不動態化処理工程などの相互間においても、設定温度を変更してもよいのはもちろんである。
【0074】
さらに、不動態化処理工程の前後に行う洗浄工程や濯ぎ工程について、前記実施例では、処理槽2内を減復圧して被処理物を洗浄したが、場合により、超音波洗浄やシャワー洗浄を行ってもよい。超音波洗浄を行う場合、処理槽2に超音波振動子を設けておき、被処理物の洗浄時などに超音波振動子を作動させればよい。また、シャワー洗浄を行う場合、処理槽2の上部や側面などにシャワーノズルを設けておき(この場合、被処理物は液体に浸漬されない)、そこから被処理物へ向けて洗浄液などを噴出させればよい。なお、場合により、不動態化処理工程においても、前記実施例で述べた減復圧動作に代えてまたはそれに加えて、超音波振動子を作動させたり、あるいは、処理液を被処理物にシャワーノズルから噴出させたりしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 不動態化処理装置
2 処理槽
3 加熱手段
4 液相給気手段(復圧手段)
5 減圧手段
6 気相給気手段(復圧手段)
7 圧力センサ
8 温度センサ
9 給水手段
10 給液手段
11 給水路
12 給水弁
13 貯留タンク
14 給液路
15 給液弁
16 電気ヒータ
17 真空発生装置
18 排気路
19 気相給気路
20 気相給気弁
21 空気噴出部材
図1