【0016】
本発明の食品輸送用容器は、第1のハイドロゲルシート1、第2のハイドロゲルシート2、及び第3のハイドロゲルシート3からなる食品鮮度保持用シートに加え、食品Fを保持するための緩衝シート4を備えるものとすることができる。緩衝シート4は、輸送時に食品輸送用容器を通じて食品にかかる衝撃を緩衝する役割を果たす。
図1では、食品輸送用容器中、緩衝シート4は、食品鮮度保持用シートと食品Fとの間に配置されている。
この緩衝シート4は、それ自体が水蒸気透過性である材料で構成されていてもよいが、水蒸気が通過し得る大きさの孔(図示せず)を有するものとすることもできる。
図1では、食品F(例えばオウトウ)の突出した部分(オウトウの果梗)を通すことのできる円形の孔5が、緩衝シート4が設けられている。緩衝シート4にはこのような孔を、水蒸気通過のための孔と併用してあるいは別個に設けることができる。
緩衝シート4は、保持する食品Fの寸法及び形状に適合した凹部6を有するものとすることができる。これにより、緩衝シート4が保持する果実などの食品F同士が、輸送中の振動や衝撃などにより相互に接触して損傷する事態を回避することが可能となる。
緩衝シート4は、3Dプリンターを使用して作製した鋳型を用いて成形することが可能である。3Dプリンターを使用することにより、食品Fの寸法及び形状に適合した凹部6を形成し、水蒸気通過用の孔5の大きさを特に湿度の制御に最適なものとすることが容易になるとともに、鋳型を使って緩衝シート4を効率よく、安価に大量に製造することが可能となる。
緩衝シート4用の材料は、食品安全性を担保することのできるものであれば特に制限はないが、食品輸送用容器には輸送時に最大30G、7日間程度の連続的な衝撃がかかる場合があると考えられることから、このような衝撃に耐えうるものが望ましい。また、上記のように、鋳型を用いて成形可能な材料を使用するのが望ましい。緩衝シート4用の材料として、シリコーンやエポキシ樹脂などを好適に使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
図1に示すような本発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器を、まず外装パックの中に食品鮮度保持用シートを作製し、その上に、鋳型を用いて成型した緩衝シートを配置することにより作製した。
【0026】
(食品鮮度保持用シートの作製)
次のような方法により、一般的に流通しているオウトウ200g用パック(小さな恋人(登録商標)(JA全農山形))を外装パックとして使用し、この中に、1層目〜3層目が順次積層された3層のハイドロゲルシートからなる食品鮮度保持用シートを作製した。
【0027】
(1)1層目
50ミリリットルビーカーに蒸留水25ミリリットル、ポリビニルアルコール(粘度22.0〜27.0(mPa・S))0.5g、ソルビン酸カリウム0.5gを加え、100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、15分間完全に溶解するまで攪拌して、ポリビニルアルコール・ソルビン酸カリウム混合溶液を調製した。次いで、500ミリリットルビーカーに蒸留水25ミリリットル、寒天1.0gを加え、100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、2分間溶解するまで攪拌した。ここに、先に調製したポリビニルアルコール・ソルビン酸カリウム混合溶液25ミリリットルを加え、更に4分間攪拌した後、活性炭0.5gを加えて2分間攪拌した。このようにして得られた混合液を、外装パック中に注ぎ込むことにより、1層目のハイドロゲルシートを作製した。
この1層目のハイドロゲルの組成比は、水95%:寒天2%:ポリビニルアルコール1%:ソルビン酸カリウム1%:活性炭1%である。
【0028】
(2)2層目
500ミリリットルビーカーに蒸留水50ミリリットル、ソルビン酸カリウム0.5g、寒天0.5gを加え、100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、4分間溶解するまで攪拌した後、架橋ポリアクリル酸ナトリウム(粒径90〜850μm、密度0.54g/mL)0.5gを加え、50秒間攪拌した。このようにして得られた混合液を、吸水・膨潤する前にすばやく、外装パック中に作製した1層目のハイドロゲルシートの上部に注ぎ込むことにより、1層目のハイドロゲルシートの上部に2層目のハイドロゲルシートが積層された、複合化ハイドロゲルシートを作製した。
この2層目のハイドロゲルの組成比は、:水97%:寒天1%:ソルビン酸カリウム1%:ポリアクリル酸ナトリウム1%である。
【0029】
(3)3層目
50ミリリットルビーカーに水25ミリリットル、ポリビニルアルコール(粘度22.0〜27.0(mPa・S))0.5g、ソルビン酸カリウム0,5gを加え、100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、15分間溶解するまで攪拌して、ポリビニルアルコール・ソルビン酸カリウム混合溶液を調製した。次いで、500ミリリットルビーカーに蒸留水25ミリリットル、寒天1.0gを加え100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、2分間溶解するまで攪拌した。ここに、先に調製したポリビニルアルコール・ソルビン酸カリウム混合溶液25ミリリットルを加え、更に4分間攪拌した後、活性炭0.5gを加え2分間攪拌し。このようにして得られた混合液を、外装パック中に作製した複合化ハイドロゲルゲルシートの最上部に注ぎ込むことにより、3層複合化ハイドロゲルシートを作製した。
この3層目のハイドロゲルの組成比は、水95%:寒天2%:ポリビニルアルコール1%:ソルビン酸カリウム1%:活性炭1%である。
【0030】
得られた3層複合化ハイドロゲルシート中に積層されている1層目、2層目及び3層目のハイドロゲルシートの厚さは、いずれも3mm程度である。
得られた3層複合化ハイドロゲルシートが収容された外装パックを、冷蔵庫(1〜4℃)中に4時間放置し、ゲルが完全に硬化するまで冷却して、本発明による食品鮮度保持用シートを得た。
【0031】
(食品鮮度保持用シートの機械的強度の評価)
得られた食品鮮度保持用シートの機械的強度を、次のような方法により評価した。
食品鮮度保持用シートから、8mmの抜き型で、高さ10.69mmの円柱状の試験片を抜き取った。この試験片について、AND社製卓上型引張試験機(STA-1150)を用いて、圧縮試験を行った。圧縮速度は、10mm/secとした。極小ひずみ領域(<0.2%)における、応力・ひずみ曲線の傾きから、ヤング率を算出した。
ヤング率の平均値は0.03MPaと算出された。これは、本発明による食品鮮度保持用シートが、梱包材料に使用可能な機械的強度を有することを示している。
【0032】
(緩衝シート成型用鋳型の作製)
図2に示すような鋳型を、まず3D−CADソフトウェア(OpenSCAD)を用いて3Dプリンター用のSTLファイルを作成して130×80×15mmの大きさで設計し、次いで、3Dプリンター(Makerbot Replicator 2)を使用して、汎用のPLA樹脂(ポリ乳酸)を材料として用いて造形して作製した。
【0033】
(緩衝シートの作製)
梱包材料に使用可能な力学強度及びゴム弾性を有するものであって、食品安全性が保証されている市販の食品用シリコーン材料(HTV2000)を用意した。シリコーン樹脂・主剤(HTV2000(A))17ミリリットル及びシリコーン樹脂・硬化剤(HTV2000(B))17ミリリットルを、ビーカーにて室温で攪拌した。得られた高粘度液体を、3Dプリンターを使用して作製した鋳型に注ぎ、スパチュラで全体的にシリコーン樹脂の量が均等になるよう調整した。室温で6時間放置することにより、シリコーン樹脂の硬化反応を促進した。鋳型とシリコーン樹脂間の溝にミクロスパーテルを挿入し、樹脂の形が崩れないように取り出して、目的の緩衝シートを得た。
図3に、得られた緩衝シートの上面図及び斜視図を示す。
緩衝シートには、四角形の孔が設けられている。これは、緩衝シートの下に配置する食品鮮度保持用シートから、緩衝シートが保持する食品への水蒸気の通過を可能にするとともに、緩衝シートの軽量化を図るためのものである。緩衝シートはまた、保持する食品の寸法及び形状に適合した凹部を有している。これにより、緩衝シートが保持する果実などの食品同士の接触による損傷を回避することが可能となる。緩衝シートはさらに、例えばオウトウの果梗のように、食品の突出した部分を通すことのできる円形の孔を有している。
【0034】
[実施例1及び比較例1]
(食品鮮度保持用シート及び食品輸送用容器の保湿・保冷性能の評価)
得られた食品鮮度保持用シート及び緩衝シート並びに保護フィルムを外装パックの中に配置して作製した、
図1に示すような食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器(ただし、保護フィルム7を設けないもの)について、はじめに食品を入れる前の空の状態で、その保湿・保冷性能を評価した(実施例1)。
すなわち、食品輸送用容器の緩衝シートの上に温湿度計(株式会社KNラボラトリーズ製ハイグロクロン)を配置し、食品輸送用容器を3℃に設定した冷蔵庫内に24時間保持し、その後30℃に設定した保温庫内へ移動させて24時間保持し、この間の緩衝シート表面の温湿度の変化を監視した。
比較のため、本発明による食品鮮度保持用シート等を用いない従来の食品輸送用容器についても、同様の評価を行った(比較例1)。
【0035】
結果を
図4に示す。
温度に関する結果を見ると、従来の食品輸送用容器の場合(図中点線)、容器を3℃の冷蔵庫から30℃の保温庫に移動させたのち2時間程度で、容器内の温度も30℃に達しているのに対し、本発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器(図中実線)では、緩衝シート表面の温度が30℃に達するのに7時間以上要している。したがって、本発明による食品鮮度保持用シート及び食品輸送用容器が、高い保冷性能を有することは明らかである。
また、湿度に関する結果を見ると、従来の食品輸送用容器の場合(図中点線)、食品輸送用容器を3℃の冷蔵庫内に入れると直ちに湿度が20%RH未満まで著しく低下しているのに対し、本発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器(図中実線)では、70%RH以上の高い水準で湿度が保持されている。さらに、30℃の保温庫に移動させた後、従来の食品輸送用容器の場合、湿度は30%RHの水準を下回っているのに対し、発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器では、60%RH以上の湿度が保持されている。したがって、本発明による食品鮮度保持用シート及び食品輸送用容器が、高い保湿性能(ないし水蒸気供給性能)を有することも明らかである。
【0036】
[実施例2及び比較例2]
(果実を用いた食品輸送用容器の性能評価)
食品鮮度保持用シートが1層目のみからなるものである点を除き、実施例1と同様の食品輸送用容器を用意し、これに山形県産オウトウ(紅秀峰、2Lサイズ(25〜28mm)200g)を入れ、オウトウ入りの容器8パックを一般的な化粧段ボール1箱に詰めたものを4箱用意した。これを用いて、山形県―台湾(台北市)の小口試験輸出をすることにより、果実を用いた食品輸送用容器の性能評価を行った(実施例2)。
比較のため、本発明による食品鮮度保持用シート等を用いない従来の食品輸送用容器についても、同様の評価を行った(比較例2)。
具体的には、実施例1(及び比較例1)と同様の手法により、輸送中の食品輸送用容器中の温度及び湿度の変化を測定した。輸送の際、国内検疫・通関、積み替え時、台北でのトラック輸送以外の工程、すなわち、国内のトラック輸送、成田空港倉庫保管、航空輸送、台北倉庫保管は、すべて冷蔵条件で行った。
【0037】
温度についての結果を
図5、湿度についての結果を
図6に、それぞれ示す。図中の矢印は、それぞれ、国内のトラック輸送(冷蔵)(101)、国内検疫・通関(102)、成田空港倉庫保管(冷蔵)(103)、航空輸送(冷蔵)(104)、台北でのトラック輸送(105)、台北倉庫保管(106)を表す。
温度に関する結果を見ると、従来の食品輸送用容器(図中点線)に比べて、本発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器(図中実線)の方が、冷蔵条件へ移行した後の食品輸送用容器内の温度の低下が速やかに起こる一方、冷蔵条件を脱した後の食品輸送用容器内の温度の上昇は緩やかであることが認められる。したがって、本発明による食品鮮度保持用シート及び食品輸送用容器が、果実の輸送の際に高い保冷性能を有することは明らかである。
一方、湿度に関する結果を見ると、本発明による食品鮮度保持用シートの使用の有無によらず、食品輸送用容器内は概ね90%RH以上の高湿度条件を保持している。ただし、次の鮮度保持性能評価についての結果から考察すると、本発明による食品鮮度保持用シートを用いない食品輸送用容器の場合、果実が水蒸気供給源となることによって、食品輸送用容器内の高湿度条件が保持されているものと考えられる。
【0038】
次に、台北市において、輸送後(収穫から7日後)の果実の外観、損傷率及び鮮度評価を行うことにより、食品輸送用容器の鮮度保持性能について評価した。
はじめに、輸送後の果実の外観を確認した。実施例2の食品輸送用容器内の果実の輸送後の外観を、
図7に示す。
図7に見られるように、果実は食品輸送用容器内で、出荷前の果実位置をほぼ維持している。加速度計(株式会社スリック製G-MEN DR100)を用いて輸送時に食品輸送用容器の底面にかかる衝撃の大きさを監視したところ、特にトラック輸送時の衝撃加速度が大きく、最大で28Gにも及ぶことが確認された。実施例2の食品輸送用容器は、容器の底面に大きな衝撃がかかるような場合であっても、出荷前の果実位置をほぼ維持していることが理解される。
【0039】
次いで、果実の商品価値の有無に影響する腐敗等の損傷率について評価した。損傷率は、商品価値の有無の判断基準から、カビ等の腐敗の個体数が全体に占める割合により算出した。
実施例2の食品輸送用容器の場合、損傷率は0.2%と極めて低く、比較例2の食品輸送用容器の場合が1.5%であったことから、優位な差が認められた。
【0040】
さらに、実施例2及び比較例2の食品輸送用容器を用いて輸送した後の、果実の鮮度を評価した。果実の鮮度評価は、果実個体数N=478について、非特許文献1に記載されているように、次の4項目に関して以下のような基準で採点した結果の合計を鮮度指標とすることにより行った。鮮度指標が大きいほど、食品輸送用容器の鮮度保持性能は低いこととなる。
(1)軸萎縮
無(0点)、果梗の1/2が萎凋(1点)、果梗の全体が萎凋(2点)、果梗が褐変(3点)
(2)押し傷
無(0点)、軽微(1点)、甚大(2点)
(3)光沢
有(0点)、劣化(1点)、無(2点)
(4)内部うるみ
無(0点)、〜50%水浸状部有(1点)、50〜80%水浸状部有(2点)、80%以上水浸状部有(3点)
【0041】
図8に、実施例2及び比較例2の食品輸送用容器を用いて輸送した後の果実の鮮度指数についての結果を示す。いずれの評価項目においても、実施例2の食品輸送用容器は比較例2の食品輸送用容器に比べて鮮度指数が小さく、高い鮮度保持性能を有するものであることがわかる。