特許第6803066号(P6803066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803066食品鮮度保持用シート及び該シートを備えた食品輸送用容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803066
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】食品鮮度保持用シート及び該シートを備えた食品輸送用容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/34 20060101AFI20201214BHJP
   B65D 81/38 20060101ALI20201214BHJP
   A23B 7/153 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   B65D85/34
   B65D81/38 Q
   A23B7/153
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-219711(P2016-219711)
(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公開番号】特開2018-76103(P2018-76103A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】東原 知哉
(72)【発明者】
【氏名】宮 瑾
(72)【発明者】
【氏名】牧野 真人
(72)【発明者】
【氏名】出口 慶拓
【審査官】 杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−133902(JP,A)
【文献】 特開平06−313064(JP,A)
【文献】 実開平04−136483(JP,U)
【文献】 特開2011−073734(JP,A)
【文献】 特開2013−043667(JP,A)
【文献】 特開2012−214531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00−7/16
B65D 65/40
B65D 81/38
B65D 85/34
B65D 85/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品鮮度保持用シートであって、
第1のハイドロゲルシート
を備え、
前記第1のハイドロゲルシートは、第1のアガロース又はその誘導体、前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得るポリマー、及び水を含み、
さらに、
前記第1のハイドロゲルシートに積層された第2のハイドロゲルシート
を備え、
前記第2のハイドロゲルシートは、第2のアガロース又はその誘導体、架橋した水溶性ポリマーの塩、及び水を含む、
ことを特徴とする、前記食品鮮度保持用シート。
【請求項2】
前記第1のアガロース又はその誘導体が寒天であることを特徴とする、請求項1に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項3】
前記第1のハイドロゲルシートが、該第1のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%の前記第1のアガロース又はその誘導体を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項4】
前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、ポリリン酸、ポリスチレンスルホン酸、及びこれらのポリマーを構成するモノマーの共重合体からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項5】
前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマーが、1000以上の重量平均分子量を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項6】
前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマーが、10000以上の重量平均分子量を有することを特徴とする、請求項5に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項7】
前記第1のハイドロゲルシートが、該第1のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%の前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項8】
前記第1のハイドロゲルシートが、該第1のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、90〜99.9重量%の水を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項9】
前記第2のアガロース又はその誘導体が寒天であることを特徴とする、請求項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項10】
前記第2のハイドロゲルシートが、該第2のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%の前記第2のアガロース又はその誘導体を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項11】
前記架橋した水溶性ポリマーの塩が、高吸水性樹脂であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項12】
前記架橋した水溶性ポリマーの塩が、架橋したポリメタクリル酸塩、ポリリン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、及びこれらの水溶性ポリマーの塩を構成するモノマーの共重合体からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項13】
前記第2のハイドロゲルシートが、該第2のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%の前記架橋した水溶性ポリマーの塩を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項14】
前記第2のハイドロゲルシートが、該第2のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、90〜99.9重量%の水を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項15】
さらに、
前記第2のハイドロゲルシートの、前記第1のハイドロゲルシートと対向する面とは反対の面に積層された第3のハイドロゲルシート
を備え、
前記第3のハイドロゲルシートは、前記第1のアガロース又はその誘導体、前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマー、及び水を含む
ことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シート。
【請求項16】
食品輸送用容器であって、請求項1〜1のいずれか1項に記載の食品鮮度保持用シートを備えることを特徴とする、前記食品輸送用容器。
【請求項17】
さらに、食品を保持するための緩衝シートを備えることを特徴とする、請求項1に記載の食品輸送用容器。
【請求項18】
前記緩衝シートが、水蒸気が通過し得る大きさの孔を有することを特徴とする、請求項1に記載の食品輸送用容器。
【請求項19】
前記緩衝シートが、食品の寸法及び形状に適合した凹部を有することを特徴とする、請求項17又は18に記載の食品輸送用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品鮮度保持用シート及び該シートを備えた食品輸送用容器に関する。特に、本発明は、オウトウなどの果物や野菜などの青果、鮮魚、精肉などの生鮮食品及び加工食品を保管・輸送する際に、食品を保冷・保湿することにより、長期間(少なくとも7日間程度)にわたって食品の鮮度を保持することを可能にする、食品鮮度保持用シート及び該シートを備えた食品輸送用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工業技術・製品流通において、地域間の垣根が低くなり、グローバル化が身近になってきている。一方、農産物、特に採れたて・フレッシュ感の重要な青果物については、鮮度低下を防止して鮮度を保持することの難しさにより、長距離輸送を前提とする海外輸出量が大きく制限されている。鮮度低下の原因には、輸送および保管中の青果物の乾燥、呼吸による変化、エチレン等の植物ホルモンによる追熟、物理的衝撃による損傷等がある。
青果物の呼吸量を制御して、代謝を遅らせることにより、鮮度低下の問題を改善する試みとしては、例えば住友ベークライト(株)のP−プラス(登録商標)のように、包装フィルムに特殊な孔を施した、いわゆるMA(Modified Atmosphere)包装がある。
【0003】
また、青果物の海外輸出におけるトラック、船舶、航空機等による運送中の衝撃に対応するために、近年、耐衝撃性の高いパッケージ技術が開発されている。
例えば、特開2011−073734号公報は、底板および側板を有する上面開口有底箱体にその上面開口部を閉鎖するように果実収納フィルム部材を装着し、果実収納薄フィルムの果実収納凹部に果実を収納した状態において、上面開口有底箱体の底板と果実収納凹部との間に空間が介在するように構成したものであることを特徴とする果実収納フィルム部材を使用した果実収納容器を開示している。このような容器としては、イチゴの新型緩衝包装容器である大石産業(株)製「ゆりかーご」(登録商標)がある。
また、特開2011−143929号公報は、果物を載置収納したトレーが伸縮性フィルムシート上から容器本体部内に装填されるとともに、カバー部側に張設された伸縮フィルムシートをトレーと共に装填された果物上に圧接してカバー部を容器本体部に施蓋し、容器本体部側の伸縮性フィルムとカバー部側の伸縮性フィルムとにより果物とトレーの動きを抑止することを特徴とする果物用包装装置を開示している。このような容器としては、日本トーカンパッケージ(株)製「フルテクター」(登録商標)や、(独)農研機構 生物系特定産業技術研究支援センターで開発された個別包装容器などがある。
【0004】
さらに、果物の中でも保管・輸送の難しいオウトウ品種に着目すると、そのパッケージ技術としては、山形県農業総合研究センター園芸試験場で開発された新型包装がある(下記非特許文献1)。
これら新型の耐衝撃性パッケージシステムの開発により、振動や衝撃による食品に対する外部ストレスが軽減し、輸送時の果実などの食品の損傷は、ある程度解決されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−073734号公報
【特許文献2】特開2011−143929号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「山形県農業研究報告」第7号(平成27年3月)49−64頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば果物についての輸送・鮮度保持評価は、収穫から3日程度の比較的短時間内で行われるのが通常である。また、評価のための資料として使用する果物は、一般的に国内で流通しているものとは異なる園芸試験場で栽培されたものであるのが通常である。このため、一般的に国内で流通しているオウトウなどの果物について、少なくとも7日間程度を要する海外輸出に関して、輸送・鮮度保持評価は行われていないのが現状である。
【0008】
本発明は、一般的に国内で流通しているオウトウなどの果物をはじめとする生鮮食品等を、海外輸出に必要とされる程度の長期間にわたって鮮度保持することを可能にする、食品鮮度保持用シート及び該シートを備えた食品輸送用容器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アガロース(又はその誘導体)と水素結合を形成し得るポリマーを含むハイドロゲルシートを用いることにより、上記課題を解決することができ、さらに、これに架橋した水溶性ポリマーの塩を含むハイドロゲルシートを積層することにより、さらに向上した性能を有する食品鮮度保持用シートが得られることを見出した。
いかなる理論にも拘束されるものではないが、アガロース(又はその誘導体)と水素結合を形成し得るポリマーを使用することにより、ゲル強度の向上したハイドロゲルシートが得られ、さらに、架橋した水溶性ポリマーの塩を含むハイドロゲルシートが止水効果を発揮することにより、保冷・保湿性能の優れた食品鮮度保持用シートが得られるものと考えられる。
【0010】
すなわち、本発明は、食品鮮度保持用シートであって、第1のハイドロゲルシートを備え、前記第1のハイドロゲルシートは、第1のアガロース又はその誘導体、前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得るポリマー、及び水を含むことを特徴とする、前記食品鮮度保持用シートである。
本発明の食品鮮度保持用シートにおいて、前記第1のアガロース又はその誘導体が寒天であるのが望ましい。
また、前記第1のハイドロゲルシートが、該第1のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%の前記第1のアガロース又はその誘導体を含むのが望ましい。
さらに、前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、ポリリン酸、ポリスチレンスルホン酸、及びこれらのポリマーを構成するモノマーの共重合体からなる群から選ばれるのが望ましい。
また、前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマーが、1000以上、好ましくは10000以上の重量平均分子量を有するのが望ましい。
また、前記第1のハイドロゲルシートが、該第1のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%の前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマーを含むのが望ましい。
さらに、前記第1のハイドロゲルシートが、該第1のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、90〜99.9重量%の水を含むのが望ましい。
【0011】
本発明の食品鮮度保持用シートにおいて、さらに、前記第1のハイドロゲルシートに積層された第2のハイドロゲルシートを備え、前記第2のハイドロゲルシートは、第2のアガロース又はその誘導体、架橋した水溶性ポリマーの塩、及び水を含むものとすることもできる。
本発明の食品鮮度保持用シートにおいて、前記第2のアガロース又はその誘導体が寒天であるのが望ましい。
また、前記第2のハイドロゲルシートが、該第2のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%の前記第2のアガロース又はその誘導体を含むのが望ましい。
さらに、前記架橋した水溶性ポリマーの塩が、高吸水性樹脂であるのが望ましい。
また、前記架橋した水溶性ポリマーの塩が、架橋したポリメタクリル酸塩、ポリリン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、及びこれらの水溶性ポリマーの塩を構成するモノマーの共重合体からなる群から選ばれるのが望ましい。
さらに、前記第2のハイドロゲルシートが、該第2のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%の前記架橋した水溶性ポリマーの塩を含むのが望ましい。
また、前記第2のハイドロゲルシートが、該第2のハイドロゲルシート全体の重量を基準として、90〜99.9重量%の水を含むのが望ましい。
本発明の食品鮮度保持用シートにおいて、前記第1のハイドロゲルシートが食品に対向するように、前記第1のハイドロゲルシートに第2のハイドロゲルシートが積層されているものとすることができる。
本発明の食品鮮度保持用シートにおいて、さらに、前記第2のハイドロゲルシートの、前記第1のハイドロゲルシートと対向する面とは反対の面に積層された第3のハイドロゲルシートを備え、前記第3のハイドロゲルシートは、前記第1のアガロース又はその誘導体、前記第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得る前記ポリマー、及び水を含むものとすることもできる。
【0012】
本発明はまた、上記食品鮮度保持用シートを備えることを特徴とする食品輸送用容器である。
本発明の食品輸送用容器において、さらに、食品を保持するための緩衝シートを備えることとすることができる。
この場合において、前記緩衝シートが、水蒸気が通過し得る大きさの孔を有するのが望ましい。
また、前記緩衝シートが、食品の寸法及び形状に適合した凹部を有するのが望ましい。
さらに、前記緩衝シートが、3Dプリンターを使用して作製した鋳型を用いて成形したものであるのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保冷・保湿性能の優れた食品鮮度保持用シート及び該シートを備えた食品輸送用容器を提供することにより、一般的に国内で流通しているオウトウなどの果物をはじめとする生鮮食品等を、海外輸出に必要とされる程度の長期間にわたって鮮度保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の食品鮮度保持用シート、及び該食品鮮度保持用シートを備える食品輸送用容器の一形態の断面模式図である。
図2】本発明の食品輸送用容器に使用する緩衝シートを成型するため鋳型の斜視模式図である。
図3図2の鋳型で得られた緩衝シートの上面図及び斜視図である。
図4】実施例1及び比較例1の食品鮮度保持用シートを備える食品輸送用容器の保湿・保冷性能の評価結果を示すグラフである。
図5】実施例2及び比較例2の食品鮮度保持用シートを備える食品輸送用容器の保冷性能の評価結果を示すグラフである。
図6】実施例2及び比較例2の食品鮮度保持用シートを備える食品輸送用容器の保湿性能の評価結果を示すグラフである。
図7】実施例2の食品輸送用容器内の果実の輸送後の外観を示す図である。
図8】実施例2及び比較例2の食品輸送用容器を用いて輸送した後の果実の鮮度指数についての結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1を参照して、図1は、本発明の食品鮮度保持用シート、及び該食品鮮度保持用シートを備える食品輸送用容器の一形態の断面模式図である。
本発明の食品鮮度保持用シートは、第1のハイドロゲルシート1と、第1のハイドロゲルシート1に積層された第2のハイドロゲルシート2とを備えるものである。
本発明の食品鮮度保持用シートにおいて、第1のハイドロゲルシート1が食品Fに対向するように、第1のハイドロゲルシート1に第2のハイドロゲルシート2が積層されているものとすることができる。
また、本発明の食品鮮度保持用シートにおいて、さらに、第2のハイドロゲルシート2の、第1のハイドロゲルシート1と対向する面とは反対の面に積層された第3のハイドロゲルシート3を備えるものとすることができる。この場合において、第3のハイドロゲルシート3としては、第1のハイドロゲルシート1と同一または類似のものを使用することができる。
【0016】
本発明の食品輸送用容器は、第1のハイドロゲルシート1、第2のハイドロゲルシート2、及び第3のハイドロゲルシート3からなる食品鮮度保持用シートに加え、食品Fを保持するための緩衝シート4を備えるものとすることができる。緩衝シート4は、輸送時に食品輸送用容器を通じて食品にかかる衝撃を緩衝する役割を果たす。図1では、食品輸送用容器中、緩衝シート4は、食品鮮度保持用シートと食品Fとの間に配置されている。
この緩衝シート4は、それ自体が水蒸気透過性である材料で構成されていてもよいが、水蒸気が通過し得る大きさの孔(図示せず)を有するものとすることもできる。図1では、食品F(例えばオウトウ)の突出した部分(オウトウの果梗)を通すことのできる円形の孔5が、緩衝シート4が設けられている。緩衝シート4にはこのような孔を、水蒸気通過のための孔と併用してあるいは別個に設けることができる。
緩衝シート4は、保持する食品Fの寸法及び形状に適合した凹部6を有するものとすることができる。これにより、緩衝シート4が保持する果実などの食品F同士が、輸送中の振動や衝撃などにより相互に接触して損傷する事態を回避することが可能となる。
緩衝シート4は、3Dプリンターを使用して作製した鋳型を用いて成形することが可能である。3Dプリンターを使用することにより、食品Fの寸法及び形状に適合した凹部6を形成し、水蒸気通過用の孔5の大きさを特に湿度の制御に最適なものとすることが容易になるとともに、鋳型を使って緩衝シート4を効率よく、安価に大量に製造することが可能となる。
緩衝シート4用の材料は、食品安全性を担保することのできるものであれば特に制限はないが、食品輸送用容器には輸送時に最大30G、7日間程度の連続的な衝撃がかかる場合があると考えられることから、このような衝撃に耐えうるものが望ましい。また、上記のように、鋳型を用いて成形可能な材料を使用するのが望ましい。緩衝シート4用の材料として、シリコーンやエポキシ樹脂などを好適に使用することができる。
【0017】
本発明の食品輸送用容器はさらに、食品鮮度保持用シートと緩衝シート4との間に配置された保護フィルム7を備えるものとすることができる。保護フィルム7は、食品鮮度保持用シートとして食品安全性の高い物を採用すれば、特に必要とされるものではないが、例えば食品Fの突出した部分が孔5を通して緩衝シート4から食品鮮度保持用シートへ延びる場合、食品鮮度保持用シートの上に保護フィルム7を設けることにより、食品Fの突出部分が食品鮮度保持用シートと直接接触するのを避けることができる。保護フィルム7用の材料は、EVAL(登録商標)フィルムのような食品安全性を担保することのできるものであれば、特に制限はない。
本発明の食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器は、まず外装パック8の中に食品鮮度保持用シートを作製し、その上に、保護フィルム7、鋳型を用いて成型した緩衝シート4を配置することにより、作製することができる。外装パック8としては、市販され一般に流通している食品用のパッケージを使用することができる。
【0018】
第1のハイドロゲルシート1は、第1のアガロース又はその誘導体、該第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得るポリマー、及び水を含むものである。
一方、第2のハイドロゲルシート2は、第2のアガロース又はその誘導体、架橋した水溶性ポリマーの塩、及び水を含むものである。
【0019】
第1のアガロース又はその誘導体と、第2のアガロース又はその誘導体とは、同じものであっても異なるものであってもよい。本発明に使用するアガロース又はその誘導体としては、水とゲル形成しやすく、食品安全性が担保されているものが望ましい。本発明において使用可能なアガロース又はその誘導体の例として、1→3結合β-D-ガラクトースと1→4結合3,6−アンヒドロ-α-L-ガラクトースから構成される共重合体において、その共重合比が20:80〜80:20であるものが挙げられる。本発明に使用するアガロース又はその誘導体としては、寒天が望ましい。
また、第1のハイドロゲルシート1及び第2のハイドロゲルシート2において、アガロース又はその誘導体の含有量は同じであっても異なっていてもよい。いずれの場合も、各ハイドロゲルシート全体の重量を基準として、0.1〜10重量%のアガロース又はその誘導体が含まれるものとするのが望ましい。
【0020】
また、第1のハイドロゲルシート1及び第2のハイドロゲルシート2は、いずれも水を含む。水は、特に制限はないが、蒸留水であるのが好ましい。
また、第1のハイドロゲルシート1及び第2のハイドロゲルシート2において、水の含有量は同じであっても異なっていてもよい。いずれの場合も、各ハイドロゲルシート全体の重量を基準として、90〜99.9重量%の水が含まれるものとするのが望ましい。
【0021】
本発明の食品鮮度保持用シートが備える第1のハイドロゲルシート1は、上記のとおり、第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成し得るポリマーを含む。このようなポリマーを使用することにより、ゲル強度の向上したハイドロゲルシートが得られるものと考えられる。
このようなポリマーは、第1のアガロース又はその誘導体と水素結合を形成して、所謂物理ゲル(弱結合ゲル)を構成するようなものであれば、特に制限はない。このようなポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、ポリリン酸、ポリスチレンスルホン酸、及びこれらのポリマーを構成するモノマーの共重合体からなる群から選ばれるものを使用するのが望ましい。
また、ゲル強度の向上の観点から、このようなポリマーとしては、1000以上、好ましくは10000以上の重量平均分子量を有するものを使用するのが望ましい。
また、第1のハイドロゲルシート1が、第1のハイドロゲルシート1全体の重量を基準として、このようなポリマーを0.1〜10重量%含むのが望ましい。
【0022】
本発明の食品鮮度保持用シートが備える第2のハイドロゲルシート2は、上記のとおり、架橋した水溶性ポリマーの塩を含む。架橋した水溶性ポリマーの塩を使用することにより、ハイドロゲルシートが止水効果を発揮することが可能となるものと考えられる。これは、架橋した水溶性ポリマーの塩を含む第2のハイドロゲルシート2内外の浸透圧差による効果であると考えられ、ハイドロゲルシートの止水効果により、果実に水滴が付着することによる腐敗等を防ぐことが期待できる。
本発明で使用する架橋した水溶性ポリマーの塩は、化学ゲル(強結合ゲル)を構成するようなものであれば、特に制限はない。
さらに、架橋した水溶性ポリマーの塩は、高吸水性樹脂であるのが望ましい。ここで、「高吸水性樹脂」は、JIS7223(1996)、JIS7224(1996)で規定されているものを意味する。
このような架橋した水溶性ポリマーの塩としては、架橋したポリメタクリル酸塩、ポリリン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、及びこれらの水溶性ポリマーの塩を構成するモノマーの共重合体からなる群から選ばれるものを使用するのが望ましい。
さらに、第2のハイドロゲルシート2が、第2のハイドロゲルシート2全体の重量を基準として、このような架橋した水溶性ポリマーの塩を0.1〜10重量%含むのが望ましい。
【0023】
本発明の食品鮮度保持用シートは、ハイドロゲルシートを順次積層することにより作製することができるが、その際、外装パック8を作製用容器として使用するのが便宜である。
第1のハイドロゲルシート1及び第2のハイドロゲルシート2から構成される食品鮮度保持用シートをその底部に備える食品輸送用容器を製造する場合、外装パック8にまず第2のハイドロゲルシート2を作製し、次いでその上に、第1のハイドロゲルシート1を積層する。食品鮮度保持用シートがさらに第3のハイドロゲルシート3を備えるものである場合には、はじめに第3のハイドロゲルシート3を外装パック8に作製し、次いで第2のハイドロゲルシート2、第1のハイドロゲルシート1を順次積層する。
さらに、各ハイドロゲルシートは、追加の成分を含むことができる。
例えば、活性炭のように、脱臭効果、抗菌効果を目的として、成分を追加することができる。また、ソルビン酸、ソルビン酸K(カリウム)のように、細菌やカビの発生・増殖を抑える働きがある成分を追加して、食品の腐敗を防止することも可能である。その他、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ε-ポリリジン、プロタミン、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸のエステル体、ヒノキチオール等の保存料なども、追加の成分として使用可能である。
【実施例】
【0024】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
図1に示すような本発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器を、まず外装パックの中に食品鮮度保持用シートを作製し、その上に、鋳型を用いて成型した緩衝シートを配置することにより作製した。
【0026】
(食品鮮度保持用シートの作製)
次のような方法により、一般的に流通しているオウトウ200g用パック(小さな恋人(登録商標)(JA全農山形))を外装パックとして使用し、この中に、1層目〜3層目が順次積層された3層のハイドロゲルシートからなる食品鮮度保持用シートを作製した。
【0027】
(1)1層目
50ミリリットルビーカーに蒸留水25ミリリットル、ポリビニルアルコール(粘度22.0〜27.0(mPa・S))0.5g、ソルビン酸カリウム0.5gを加え、100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、15分間完全に溶解するまで攪拌して、ポリビニルアルコール・ソルビン酸カリウム混合溶液を調製した。次いで、500ミリリットルビーカーに蒸留水25ミリリットル、寒天1.0gを加え、100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、2分間溶解するまで攪拌した。ここに、先に調製したポリビニルアルコール・ソルビン酸カリウム混合溶液25ミリリットルを加え、更に4分間攪拌した後、活性炭0.5gを加えて2分間攪拌した。このようにして得られた混合液を、外装パック中に注ぎ込むことにより、1層目のハイドロゲルシートを作製した。
この1層目のハイドロゲルの組成比は、水95%:寒天2%:ポリビニルアルコール1%:ソルビン酸カリウム1%:活性炭1%である。
【0028】
(2)2層目
500ミリリットルビーカーに蒸留水50ミリリットル、ソルビン酸カリウム0.5g、寒天0.5gを加え、100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、4分間溶解するまで攪拌した後、架橋ポリアクリル酸ナトリウム(粒径90〜850μm、密度0.54g/mL)0.5gを加え、50秒間攪拌した。このようにして得られた混合液を、吸水・膨潤する前にすばやく、外装パック中に作製した1層目のハイドロゲルシートの上部に注ぎ込むことにより、1層目のハイドロゲルシートの上部に2層目のハイドロゲルシートが積層された、複合化ハイドロゲルシートを作製した。
この2層目のハイドロゲルの組成比は、:水97%:寒天1%:ソルビン酸カリウム1%:ポリアクリル酸ナトリウム1%である。
【0029】
(3)3層目
50ミリリットルビーカーに水25ミリリットル、ポリビニルアルコール(粘度22.0〜27.0(mPa・S))0.5g、ソルビン酸カリウム0,5gを加え、100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、15分間溶解するまで攪拌して、ポリビニルアルコール・ソルビン酸カリウム混合溶液を調製した。次いで、500ミリリットルビーカーに蒸留水25ミリリットル、寒天1.0gを加え100℃に加熱したホットプレート上でメカニカルスターラーを用い、2分間溶解するまで攪拌した。ここに、先に調製したポリビニルアルコール・ソルビン酸カリウム混合溶液25ミリリットルを加え、更に4分間攪拌した後、活性炭0.5gを加え2分間攪拌し。このようにして得られた混合液を、外装パック中に作製した複合化ハイドロゲルゲルシートの最上部に注ぎ込むことにより、3層複合化ハイドロゲルシートを作製した。
この3層目のハイドロゲルの組成比は、水95%:寒天2%:ポリビニルアルコール1%:ソルビン酸カリウム1%:活性炭1%である。
【0030】
得られた3層複合化ハイドロゲルシート中に積層されている1層目、2層目及び3層目のハイドロゲルシートの厚さは、いずれも3mm程度である。
得られた3層複合化ハイドロゲルシートが収容された外装パックを、冷蔵庫(1〜4℃)中に4時間放置し、ゲルが完全に硬化するまで冷却して、本発明による食品鮮度保持用シートを得た。
【0031】
(食品鮮度保持用シートの機械的強度の評価)
得られた食品鮮度保持用シートの機械的強度を、次のような方法により評価した。
食品鮮度保持用シートから、8mmの抜き型で、高さ10.69mmの円柱状の試験片を抜き取った。この試験片について、AND社製卓上型引張試験機(STA-1150)を用いて、圧縮試験を行った。圧縮速度は、10mm/secとした。極小ひずみ領域(<0.2%)における、応力・ひずみ曲線の傾きから、ヤング率を算出した。
ヤング率の平均値は0.03MPaと算出された。これは、本発明による食品鮮度保持用シートが、梱包材料に使用可能な機械的強度を有することを示している。
【0032】
(緩衝シート成型用鋳型の作製)
図2に示すような鋳型を、まず3D−CADソフトウェア(OpenSCAD)を用いて3Dプリンター用のSTLファイルを作成して130×80×15mmの大きさで設計し、次いで、3Dプリンター(Makerbot Replicator 2)を使用して、汎用のPLA樹脂(ポリ乳酸)を材料として用いて造形して作製した。
【0033】
(緩衝シートの作製)
梱包材料に使用可能な力学強度及びゴム弾性を有するものであって、食品安全性が保証されている市販の食品用シリコーン材料(HTV2000)を用意した。シリコーン樹脂・主剤(HTV2000(A))17ミリリットル及びシリコーン樹脂・硬化剤(HTV2000(B))17ミリリットルを、ビーカーにて室温で攪拌した。得られた高粘度液体を、3Dプリンターを使用して作製した鋳型に注ぎ、スパチュラで全体的にシリコーン樹脂の量が均等になるよう調整した。室温で6時間放置することにより、シリコーン樹脂の硬化反応を促進した。鋳型とシリコーン樹脂間の溝にミクロスパーテルを挿入し、樹脂の形が崩れないように取り出して、目的の緩衝シートを得た。
図3に、得られた緩衝シートの上面図及び斜視図を示す。
緩衝シートには、四角形の孔が設けられている。これは、緩衝シートの下に配置する食品鮮度保持用シートから、緩衝シートが保持する食品への水蒸気の通過を可能にするとともに、緩衝シートの軽量化を図るためのものである。緩衝シートはまた、保持する食品の寸法及び形状に適合した凹部を有している。これにより、緩衝シートが保持する果実などの食品同士の接触による損傷を回避することが可能となる。緩衝シートはさらに、例えばオウトウの果梗のように、食品の突出した部分を通すことのできる円形の孔を有している。
【0034】
[実施例1及び比較例1]
(食品鮮度保持用シート及び食品輸送用容器の保湿・保冷性能の評価)
得られた食品鮮度保持用シート及び緩衝シート並びに保護フィルムを外装パックの中に配置して作製した、図1に示すような食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器(ただし、保護フィルム7を設けないもの)について、はじめに食品を入れる前の空の状態で、その保湿・保冷性能を評価した(実施例1)。
すなわち、食品輸送用容器の緩衝シートの上に温湿度計(株式会社KNラボラトリーズ製ハイグロクロン)を配置し、食品輸送用容器を3℃に設定した冷蔵庫内に24時間保持し、その後30℃に設定した保温庫内へ移動させて24時間保持し、この間の緩衝シート表面の温湿度の変化を監視した。
比較のため、本発明による食品鮮度保持用シート等を用いない従来の食品輸送用容器についても、同様の評価を行った(比較例1)。
【0035】
結果を図4に示す。
温度に関する結果を見ると、従来の食品輸送用容器の場合(図中点線)、容器を3℃の冷蔵庫から30℃の保温庫に移動させたのち2時間程度で、容器内の温度も30℃に達しているのに対し、本発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器(図中実線)では、緩衝シート表面の温度が30℃に達するのに7時間以上要している。したがって、本発明による食品鮮度保持用シート及び食品輸送用容器が、高い保冷性能を有することは明らかである。
また、湿度に関する結果を見ると、従来の食品輸送用容器の場合(図中点線)、食品輸送用容器を3℃の冷蔵庫内に入れると直ちに湿度が20%RH未満まで著しく低下しているのに対し、本発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器(図中実線)では、70%RH以上の高い水準で湿度が保持されている。さらに、30℃の保温庫に移動させた後、従来の食品輸送用容器の場合、湿度は30%RHの水準を下回っているのに対し、発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器では、60%RH以上の湿度が保持されている。したがって、本発明による食品鮮度保持用シート及び食品輸送用容器が、高い保湿性能(ないし水蒸気供給性能)を有することも明らかである。
【0036】
[実施例2及び比較例2]
(果実を用いた食品輸送用容器の性能評価)
食品鮮度保持用シートが1層目のみからなるものである点を除き、実施例1と同様の食品輸送用容器を用意し、これに山形県産オウトウ(紅秀峰、2Lサイズ(25〜28mm)200g)を入れ、オウトウ入りの容器8パックを一般的な化粧段ボール1箱に詰めたものを4箱用意した。これを用いて、山形県―台湾(台北市)の小口試験輸出をすることにより、果実を用いた食品輸送用容器の性能評価を行った(実施例2)。
比較のため、本発明による食品鮮度保持用シート等を用いない従来の食品輸送用容器についても、同様の評価を行った(比較例2)。
具体的には、実施例1(及び比較例1)と同様の手法により、輸送中の食品輸送用容器中の温度及び湿度の変化を測定した。輸送の際、国内検疫・通関、積み替え時、台北でのトラック輸送以外の工程、すなわち、国内のトラック輸送、成田空港倉庫保管、航空輸送、台北倉庫保管は、すべて冷蔵条件で行った。
【0037】
温度についての結果を図5、湿度についての結果を図6に、それぞれ示す。図中の矢印は、それぞれ、国内のトラック輸送(冷蔵)(101)、国内検疫・通関(102)、成田空港倉庫保管(冷蔵)(103)、航空輸送(冷蔵)(104)、台北でのトラック輸送(105)、台北倉庫保管(106)を表す。
温度に関する結果を見ると、従来の食品輸送用容器(図中点線)に比べて、本発明による食品鮮度保持用シートを備えた食品輸送用容器(図中実線)の方が、冷蔵条件へ移行した後の食品輸送用容器内の温度の低下が速やかに起こる一方、冷蔵条件を脱した後の食品輸送用容器内の温度の上昇は緩やかであることが認められる。したがって、本発明による食品鮮度保持用シート及び食品輸送用容器が、果実の輸送の際に高い保冷性能を有することは明らかである。
一方、湿度に関する結果を見ると、本発明による食品鮮度保持用シートの使用の有無によらず、食品輸送用容器内は概ね90%RH以上の高湿度条件を保持している。ただし、次の鮮度保持性能評価についての結果から考察すると、本発明による食品鮮度保持用シートを用いない食品輸送用容器の場合、果実が水蒸気供給源となることによって、食品輸送用容器内の高湿度条件が保持されているものと考えられる。
【0038】
次に、台北市において、輸送後(収穫から7日後)の果実の外観、損傷率及び鮮度評価を行うことにより、食品輸送用容器の鮮度保持性能について評価した。
はじめに、輸送後の果実の外観を確認した。実施例2の食品輸送用容器内の果実の輸送後の外観を、図7に示す。
図7に見られるように、果実は食品輸送用容器内で、出荷前の果実位置をほぼ維持している。加速度計(株式会社スリック製G-MEN DR100)を用いて輸送時に食品輸送用容器の底面にかかる衝撃の大きさを監視したところ、特にトラック輸送時の衝撃加速度が大きく、最大で28Gにも及ぶことが確認された。実施例2の食品輸送用容器は、容器の底面に大きな衝撃がかかるような場合であっても、出荷前の果実位置をほぼ維持していることが理解される。
【0039】
次いで、果実の商品価値の有無に影響する腐敗等の損傷率について評価した。損傷率は、商品価値の有無の判断基準から、カビ等の腐敗の個体数が全体に占める割合により算出した。
実施例2の食品輸送用容器の場合、損傷率は0.2%と極めて低く、比較例2の食品輸送用容器の場合が1.5%であったことから、優位な差が認められた。
【0040】
さらに、実施例2及び比較例2の食品輸送用容器を用いて輸送した後の、果実の鮮度を評価した。果実の鮮度評価は、果実個体数N=478について、非特許文献1に記載されているように、次の4項目に関して以下のような基準で採点した結果の合計を鮮度指標とすることにより行った。鮮度指標が大きいほど、食品輸送用容器の鮮度保持性能は低いこととなる。
(1)軸萎縮
無(0点)、果梗の1/2が萎凋(1点)、果梗の全体が萎凋(2点)、果梗が褐変(3点)
(2)押し傷
無(0点)、軽微(1点)、甚大(2点)
(3)光沢
有(0点)、劣化(1点)、無(2点)
(4)内部うるみ
無(0点)、〜50%水浸状部有(1点)、50〜80%水浸状部有(2点)、80%以上水浸状部有(3点)
【0041】
図8に、実施例2及び比較例2の食品輸送用容器を用いて輸送した後の果実の鮮度指数についての結果を示す。いずれの評価項目においても、実施例2の食品輸送用容器は比較例2の食品輸送用容器に比べて鮮度指数が小さく、高い鮮度保持性能を有するものであることがわかる。
【符号の説明】
【0042】
1 第1のハイドロゲルシート
2 第2のハイドロゲルシート
3 第3のハイドロゲルシート
4 緩衝シート
5 孔
6 凹部
7 保護フィルム
8 外装パック
F 食品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8