特許第6803067号(P6803067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人加計学園の特許一覧

<>
  • 特許6803067-頭蓋骨接合部材 図000003
  • 特許6803067-頭蓋骨接合部材 図000004
  • 特許6803067-頭蓋骨接合部材 図000005
  • 特許6803067-頭蓋骨接合部材 図000006
  • 特許6803067-頭蓋骨接合部材 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803067
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】頭蓋骨接合部材
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20201214BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20201214BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20201214BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   A61L27/12
   A61L27/54
   A61L27/58
   A61L27/50
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-228643(P2016-228643)
(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公開番号】特開2018-82963(P2018-82963A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻極 秀次
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敏之
(72)【発明者】
【氏名】高畠 清文
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−124241(JP,A)
【文献】 特表2003−507132(JP,A)
【文献】 International Journal of Medical Sciences,2016年 6月,Vol.13,p.466-476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00−27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−リン酸三カルシウムからなる頭蓋骨接合部材であって、
前記部材は一面から他面まで垂直方向に連通する複数の連通孔が設けられており、前記連通孔の孔径が100〜600μmであり、
硬膜と骨膜とが最短距離で結ばれる仮想軸と前記連通孔の向きとが略平行となるように骨欠損部に前記部材を配置することにより前記連通孔の全てに骨組織が形成されて頭蓋骨を再建するために用いられることを特徴とする、頭蓋骨接合部材。
【請求項2】
前記部材の厚みが、1〜20mmである請求項1に記載の頭蓋骨接合部材。
【請求項3】
前記部材の気孔率が20〜60%である請求項1又は2に記載の頭蓋骨接合部材。
【請求項4】
前記連通孔と連通孔との間の壁面の厚さが400μm未満である請求項1〜3のいずれかに記載の頭蓋骨接合部材。
【請求項5】
前記連通孔の内部にBMPが充填されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の頭蓋骨接合部材。
【請求項6】
前記連通孔を設けた後に、1000〜1400℃で焼成する工程を有する請求項1〜5のいずれかに記載の頭蓋骨接合部材の製造方法。
【請求項7】
前記焼成する工程の後に、BMPを0.1〜1000μg/mL含む媒体に前記部材を含浸させる請求項6に記載の頭蓋骨接合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−リン酸三カルシウムからなる頭蓋骨接合部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、生体の様々な部位を支持及び保護する上で非常に重要な役割を果たしている。特に、生体にとって重要な脳は頭蓋骨に覆われることにより保護されている。外傷や腫瘍切除後などにより頭蓋骨が欠損した場合は、脳に対する保護のためにも、早期に再建することが求められている。また、皮膚の陥没等の外見上の変形が起こってしまうため、審美上の理由からも、早期の再建が望まれている。
【0003】
頭蓋骨の再建方法としては、自家骨(自分の骨)、樹脂、金属、及びバイオセラミックスなどにより欠損部の補填、再建を行う方法が挙げられる。自家骨を用いた再建方法では、頭蓋骨、腸骨及び肋骨等の一部を採取して、欠損部に補填し、頭蓋骨を再建する。患者自身の組織を用いるため、人工骨と比較すると補填後の安定性に優れる。一方で、採取部位に骨欠損による変形や傷跡が残り、痛みを伴うため、患者への負担も大きいとされている。
【0004】
チタン等の金属は生体親和性を有し、頭蓋骨の再建に用いる際の強度面で優れているとされている。しかし、非吸収性で生体内に残存し、体内への移植後、異物反応が見られることがあるとされている。
【0005】
ハイドロキシアパタイトやリン酸三カルシウム(TCP)等のバイオセラミックスを用いた再建方法では、成形体、線維状、網状及び粉体等の形態で欠損部に補填し、頭蓋骨の再建を行う。これらは生体親和性が非常に高く、体内へ移植した際に吸収性が高く、骨に置換されていくことが報告されている。また、これらの人工骨が多孔体であることが好ましいとの報告も多くなされている。
【0006】
特許文献1では、気孔率50〜90%、連通する気孔径50〜1000μmと5μm以下の気孔を有するリン酸カルシウム多孔体又は多孔質顆粒を骨欠損部に充填し、生体内吸収性有機材料等で上面を覆うことで頭蓋骨の再建を行っている。しかし、特許文献1の再建部材は粒子体または顆粒状の足場材料であるため、生体内で足場材料が流出しやすい問題があった。
【0007】
特許文献2には、膨張性材料からなるプラグインプラントが記載されており、生体吸収性ポリカプロラクトンなどの膨張性材料からなるフィラメント層を積層した多孔質構造が示されている。特許文献2によれば、当該プラグインプラントは容易に使用することができ、さらに骨に取り付けるための手段が必要ないとされている。しかしながら、当該プラグインプラントの孔は3次元的に連通しており、インプラントの表面積が大きいために骨組織の再生に時間がかかるおそれがあり、頭蓋骨における骨組織の再生が必ずしも十分とはいえなかった。
【0008】
特許文献3には、構造化された多孔率を有するモネタイトの三次元マトリクスであって、三次元マトリクスの構造内に、直径が350〜650μmである垂直な円筒形のマクロ孔を有し、マクロ孔が一端から他端へ向かってマトリクスを縦方向へ貫通し、各マクロ孔は0.4〜0.6mmの距離で離れていることを特徴とする三次元マトリクスが記載されている。特許文献3によれば、これらのマトリクスは、生体適合性、再吸収、骨誘導および血管再生(revascularization)などの有利な特性を有しているので、細胞の定着(colonization)および増殖にとって最高の足場となりえるため、これらのマトリクスを組織工学及び骨再生に用いることが可能であるとされている。しかしながら、当該三次元マトリクスはモネタイトからなるため強度が十分でなく、マクロ孔の孔径やピッチに制限があった。また、当該三次元マトリクスを頭蓋骨欠損へ適用するには力学的な強度が十分ではなく、マクロ孔の配向については検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−10310号公報
【特許文献2】特表2007−512083号公報
【特許文献3】特表2011−529429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、生体親和性が良好であり、骨組織の形成に優れた頭蓋骨接合部材を提供することを目的とする。また、そのような頭蓋骨接合部材の好適な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、β−リン酸三カルシウム(以下、β−TCPとする)からなる頭蓋骨接合部材であって、部材は一面から他面まで垂直方向に連通する複数の連通孔が設けられており、連通孔の孔径が100〜1500μmであり、硬膜と骨膜とが最短距離で結ばれる仮想軸と連通孔の向きとが略平行となるように骨欠損部に部材を配置することにより頭蓋骨を再建するために用いられることを特徴とする、頭蓋骨接合部材によって解決される。
【0012】
このとき、部材の厚みが、1〜20mmであることが好ましい。また、部材の気孔率が20〜60%であることが好ましい。
【0013】
またこのとき、連通孔と連通孔との間の壁面の厚さが400μm未満であることも好ましい。また、連通孔の内部にBMPが充填されてなることも好ましい。
【0014】
上記課題は、連通孔を設けた後に、1000〜1400℃で焼成する工程を有する頭蓋骨接合部材の製造方法を提供することによっても解決される。このとき、焼成する工程の後に、BMPを0.1〜1000μg/mL含む媒体に部材を含浸させることが好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の頭蓋骨接合部材は、生体親和性が良好であり、骨組織の形成に優れている。これにより、頭蓋骨欠損部を有する患者の脳の保護に有効であり、再建が難しいとされている頭蓋骨においても早期に骨再生することが可能となる。本発明の製造方法によれば、そのような頭蓋骨接合部材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1及び2における頭蓋骨接合部材を用いた頭蓋骨再生結果の写真
図2】比較例1及び2における頭蓋骨接合部材を用いた頭蓋骨再生結果の写真
図3】参考例におけるTCP成形体の断面図及び焼成後の表面写真
図4】参考例における焼成処理後の成形体の骨再生結果の写真
図5】参考例における焼成処理後の成形体のX線回折結果
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本発明の頭蓋骨接合部材は、β−TCPからなり、前記部材は一面から他面まで垂直方向に連通する複数の連通孔が設けられており、前記連通孔の孔径が100〜1500μmであり、硬膜と骨膜とが最短距離で結ばれる仮想軸と前記連通孔の向きとが略平行となるように骨欠損部に前記部材を配置することにより頭蓋骨を再建するために用いられることを特徴とする。
【0019】
本発明では、硬膜と骨膜とが最短距離で結ばれる仮想軸と前記連通孔の向きとが略平行となるように骨欠損部に前記部材を配置することが重要である。このように配置することで、頭蓋骨板間層に対し連通孔の向きが略垂直となり、このときの連通孔を垂直連通孔ということがある。
【0020】
後述する実施例と比較例の対比からもわかるように、β−TCPからなり、孔径が100〜1500μmの連通孔を複数有する頭蓋骨接合部材であっても、硬膜と骨膜とが最短距離で結ばれる仮想軸と前記連通孔の向きとが略垂直となるように骨欠損部に部材を配置した比較例1及び2では、良好な骨形成が確認されなかった。このように配置することで、頭蓋骨板間層に対し連通孔の向きが略水平となり、このときの連通孔を水平連通孔ということがある。これに対し、骨欠損部において、硬膜と骨膜とが最短距離で結ばれる仮想軸と連通孔の向きとが略平行となるように頭蓋骨接合部材を配置した実施例1及び2では、良好な骨形成が確認された。実施例1及び2の結果からわかるように、頭蓋骨における骨欠損部位では、硬膜側から骨膜側へ向かって骨形成が進むことが確認された。本発明の頭蓋骨接合部材により硬膜と骨膜とが垂直連通孔を通じて直線的に結ばれ、連通孔内へ骨芽細胞が十分に供給され、骨組織の形成に優れていることがわかる。
【0021】
本発明の頭蓋骨接合部材は、β−TCPからなるものであるが、β−TCPを主成分とするものであればよく、一部にα−TCPを含んでいてもよい。主成分とは、通常、60質量%以上である。生体吸収性が優れるため、頭蓋骨接合部材が実質的にβ−TCPのみからなることが好ましい。
【0022】
本発明の連通孔の孔径は、100〜1500μmである。連通孔の孔径が100μm未満の場合、骨形成される際に、軟骨が形成されやすくなるおそれがある。連通孔の孔径は200μm以上であることが好ましい。また、連通孔の孔径が1500μmより大きい場合、骨形成がされにくく、部材を足場とした骨再建が行われないおそれがある。連通孔の孔径が1200μm以下であることが好ましく、600μm以下であることがより好ましく、450μm以下であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の頭蓋骨接合部材に形成される連通孔の形状は特に限定されず、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形等が挙げられる。連通孔の形状が円でない場合、円相当径を孔径とする。
【0024】
本発明の頭蓋骨接合部材の厚みは、頭蓋骨の厚みに合わせて適宜調整されるが、1〜20mmであることが好ましい。厚みが1mm未満の場合、頭蓋骨欠損部へ適用した際の強度が不足するおそれがある。1〜10mmであることがより好ましい。
【0025】
本発明の頭蓋骨接合部材の気孔率は、20〜60%であることが好ましい。気孔率が20%未満の場合には、連通孔に骨形成は行われるが、頭蓋骨形成部材全体に対する骨の割合が低く、生体へ吸収されるまでの時間が長くなるおそれがある。一方、気孔率が60%より大きい場合には、頭蓋骨接合部材の形状を保持することが困難となるおそれがあり、また、頭部に配置した際に、外部からの力で変形しやすくなるおそれがある。
【0026】
本発明の頭蓋骨接合部材における連通孔と連通孔の間の壁面の厚さは400μm未満であることが好ましい。壁面の厚さが400μm以上である場合には、頭蓋骨形成部材全体に対する骨の割合が低く、生体へ吸収されるまでの時間が長くなるおそれがある。壁面の厚さは300μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることが更に好ましい。壁面の厚さは、連通孔の製造の容易性から50μm以上であることが好ましい。
【0027】
本発明の頭蓋骨接合部材の連通孔の内部に、細胞外マトリクス等の充填剤が充填されていることが好ましい。細胞外マトリクスとしては、特に限定されないが、コラーゲンI、フィブロネクチン、ラミニン、マトリゲル(登録商標)などが挙げられる。充填剤中に部材を浸漬することで充填剤を連通孔の内部に充填することができ、浸漬させたものをさらに遠心分離機にかけるか、あるいは減圧脱気するなどの処理をすることが好ましい。
【0028】
本発明の頭蓋骨接合部材の連通孔の内部に、さらに骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、以下、BMP)などの骨形成因子が充填されていることが好ましい。これにより、骨組織の形成がより良好となる利点を有する。利用が可能な具体的なBMPとしては特に限定されないが、たとえばBMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−9、BMP−10、BMP−11、BMP−12、BMP−13、BMP−14、BMP−15、BMP−3bなどが挙げられる。中でも、BMP−2、BMP−4、BMP−7がより好ましい。BMPの配合量が多い方が、骨形成促進効果が大きくなる。BMPの含有量としては、頭蓋骨接合部材1cmに対し、1〜500μg含有することが好ましく、10〜200μg含有することがより好ましい。
【0029】
本発明の頭蓋骨接合部材は、頭蓋骨の骨欠損部に適合するように、大型の多孔部材から削り出して用いたり、小型の多孔部材を適宜組み合わせて用いることができる。本発明の頭蓋骨接合部材の大きさは、頭蓋骨の骨欠損部に合わせて調整される。
【0030】
本発明の頭蓋骨接合部材の製造方法は、特に限定されない。一般的に、焼成温度が高温になるとα型の結晶構造が現れる。骨接合部材として焼成する場合には、β型の結晶構造を保つことのできる最も高温での焼成が好適である。β−TCP部材に連通孔を形成した後、1000〜1400℃で焼成する工程を有する方法が好適である。1000℃未満で焼成した場合には、頭部へ配置した際に生体内で強い炎症反応が引き起こされるおそれがあり、骨形成が生じないおそれがある。焼成温度は1150℃以上であることが好ましい。また、1400℃を超える温度で焼成した場合には、頭部へ配置した際に生体内で強い炎症反応が引き起こされるおそれがあり、骨形成時の足場とされる前に分解されてしまうおそれがある。焼成温度は1300℃以下であることが好ましい。なお、連通孔の作製方法は特に限定されず、押出成形やプレス成形、射出成形あるいは機械的に穿孔する方法、若しくは少なくとも一つの貫通孔を有する棒状体を束ねる方法などが挙げられる。
【0031】
本発明の頭蓋骨接合部材の製造方法は、前記焼成する工程の後に、BMPを0.1〜1000μg/mL含む媒体に前記部材を含浸させることが好ましい。骨組織の形成がより良好となる観点から、BMPの濃度は20μg/mL以上であることがより好ましく、50μg/mL以上であることが更に好ましい。一方、コスト高となる観点から、BMPの濃度は100μg/mL以下であることがより好ましい。BMPを含む媒体としては、前述の細胞外マトリクス等を好適に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0033】
[頭蓋骨再建試験]
実施例1
CaHPO・2HOパウダーとCaCOを1:2の比率で混合したものに水を加えて、ボールミルで24時間粉砕混練してスラリーを得た。前記スラリーを乾燥させ、垂直方向に連通する直径330μmの連通孔を91個有する長さ3.95mmx幅3.95mm、厚さ2mmの長方体のTCP前駆体からなる成形体を得た。前記成形体を1200℃まで50℃h−1の速度で昇温し、その温度で1時間保持して焼成処理を行い、β−TCPからなる頭蓋骨接合部材を得た。前記頭蓋骨接合部材の連通孔と連通孔の間の壁面の厚さは約100μmであり、気孔率は49.8%であった。前記頭蓋骨接合部材をオートクレーブで殺菌処理した後、マトリゲル(登録商標)(BD Bioscience社製)の中に浸漬させて遠心分離機にかけ、頭蓋骨接合部材の連通孔内にマトリゲル(登録商標)を充填させた。
【0034】
8週齢雄性ウィスター系ラットの頭蓋骨欠損モデルを用いて検討を行った。ラットの頭部の皮膚を切開した後、頭蓋骨をダイヤモンドバーを用いて切削し、硬膜を温存して約5×5mmの骨組織欠損を左右に1つずつ作成した。頭蓋骨接合部材をオートクレーブで殺菌処理し、連通孔の向きが、硬膜と骨膜とが最短距離で結ばれる仮想軸と略平行になるように骨欠損部位に配置し、頭部皮膚を縫合した。
【0035】
頭蓋骨接合部材を埋入後、3週間目にラットを安楽死させ、周囲の頭蓋骨組織と共に頭蓋骨接合部材を摘出した。摘出した組織は4%パラフォルムアルデヒドで一晩固定し、続いて10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液にて脱灰、定法にてパラフィンブロックを作成し、ヘマトキシリン・エオジンで染色(HE染色)の後、組織学的に観察を行った。結果を図1−a、bに示す。
【0036】
実施例2
殺菌処理後の頭蓋骨接合部材の連通孔内に80μg/mL濃度のBMP−2を混和したマトリゲル(登録商標)(BD Bioscience社製)を充填した以外は実施例1と同様にして、頭蓋骨再建試験を行った。頭骸骨接合部材全体のBMP含有量は、約1.24μgであった。結果を図1−c、dに示す。
【0037】
比較例1
長さ3.95mm×幅3.95mm、厚さ5mmとした以外は実施例1と同様にして長方体のTCP前駆体からなる成形体を得た。実施例1と同様にして1200℃で焼成処理した前記成形体を、幅2mmの位置で切断面が連通孔と平行になるように切断して2等分し、β−TCPからなる頭蓋骨接合部材を得た。オートクレーブで殺菌処理した前記頭蓋骨接合部材を、連通孔の向きが硬膜と骨膜とが最短距離で結ばれる仮想軸と略垂直になるように骨欠損部位に配置した以外は、実施例1と同様にして頭蓋骨再建試験を行った。このとき、連通孔は頭骸骨板間層に連通孔が連絡している状態、すなわち水平連通孔となっている。結果を図2−a、bに示す。
【0038】
比較例2
殺菌処理後の頭蓋骨接合部材の連通孔内に80μg/mL濃度のBMP−2を混和したマトリゲル(登録商標)(BD Bioscience社製)を充填した以外は比較例1と同様にして、頭蓋骨再建試験を行った。結果を図2−c、dに示す。
【0039】
[頭蓋骨再建における組織観察結果]
実施例1のように配置された頭蓋骨接合部材では、BMPの添加がない条件においても、骨組織の形成が認められた(図1−a、b)。骨組織は硬膜側から形成されており、連通孔内の骨膜近傍にまで骨組織の形成が認められた。連通孔内に炎症反応はほとんど認められず、孔の全ての内壁に添加するように良好な骨組織が形成されていた。
【0040】
実施例1のように配置され、さらにBMPが添加されている頭蓋骨接合部材(実施例2)では、実施例1よりも旺盛な骨組織の形成が認められた(図1−c、d)。骨組織は全ての連通孔で孔全体を充填するように形成されており、骨組織の形成は外側の骨膜にほぼ達していた。また、骨髄組織の形成も確認された。
【0041】
これらに対し、比較例1のように配置された頭蓋骨接合部材では、BMPの添加がない条件においても骨組織の形成は認められたが、硬膜近傍のみであった(図2−a、b)。骨膜側の孔内には骨組織の形成が認められなかった。
【0042】
また、比較例1のように配置され、さらにBMPが添加されている頭蓋骨接合部材(比較例2)では、比較例1よりも骨組織の形成される量は増加したが、全ての孔に骨形成は認められなかった(図2−c、d)。
【0043】
参考例1
CaHPO・2HOパウダーとCaCOを1:2の比率で混合したものに水を加えて、ボールミルで24時間粉砕混練してスラリーを得た。前記スラリーを乾燥させ、直径330μmの貫通孔を91個有する長さ3.95mmx幅3.95mm、厚さ1mmの長方体のTCP前駆体からなる成形体を得た(気孔率:49.8%)。得られた前記成形体を1100℃まで50℃h−1の速度で昇温し、その温度で1時間保持して焼成処理を行った。
【0044】
[X線回折の測定]
前記焼成処理を行った成形体(1100TCP)について、XRD(BRUKER D8 Advance)を用いて、X線回折を測定した(X線:Cu-Kα線、出力:40KV、40mA)。スキャン角度の範囲は20°〜60°、スキャンスピードは2°min-1であった。回折パターンはJoint Committee on Powder Diffraction Standards Powder Diffraction Filesのデータベースと比較した。
【0045】
[表面形態の観察]
焼成処理後の成形体に白金コーティングを行い、SEM(Philips XL30W10D)を用いて表面構造を観察した。結果を図3に示す。
【0046】
[骨再生試験]
2匹の健康な4週齢雄性ウィスター系ラットを用いて試験を行った。外耳道に骨欠損部を設け、骨欠損部を補うように成形体(1200TCP)を埋入した。4週間後、成形体(1200TCP)をラットから取り出し、中性緩衝ホルマリン中で固定した。そのサンプルを10%EDTA溶液中で2週間浸漬し、カルシウムを除去した。引き続き、サンプルをパラフィン中に埋め込み、切片をHE染色し、組織学的に観察を行った。結果を図4に示す。
【0047】
参考例2〜6
前記焼成処理の温度を表1に示すように変更した以外は、参考例1と同様にして焼成処理を行い、評価した。結果を表1及び図3〜5に示す。
【0048】
[X線回折結果]
参考例1〜6のX線回折結果より、焼成処理後の成形体の組成が焼成温度に依存することがわかった(表1)。焼成温度が1100、1150、1200℃のサンプルでは、焼成後の成形体の組成としてβ−TCPのピークのみが検出された(図5−a)。焼成温度が1250℃のサンプルでは、焼成後の成形体の組成として主にβ−TCPのピークが検出され、少しα−TCPのピークも検出された(図5−b)。焼成温度が1500℃のサンプルでは、β−TCPのピークは確認されず、α−TCPのピークのみ検出された(図5−c)。
【0049】
[骨再生試験結果]
成形体の焼成処理温度が高くなるほど、粒子の数が減少し、粒子径が大きくなり、表面が滑らかになっていることがわかる(図3-b)。各処理温度のサンプルを生体内に埋入したところ、1100TCPでは炎症細胞の浸潤などの異物反応が確認された。組成中にβ-TCPのみが確認された条件のうち、もっとも高温で処理された1200TCPでは炎症反応は減少し、新しい骨細胞が確認された(図4)。組成中にα−TCPが確認された1250TCPでは、再び炎症反応が確認された。1500TCPは4週間の間に埋入されたサンプルが溶解していた(図4)。したがって、1200℃で焼成して得られる成形体を用いることが、最も好適な実施態様であることがわかる。
【0050】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5