(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電子輸送材料を含む第3層が、第1層における第2層との積層面の反対側の面に積層されており、前記第3層内の電子輸送材料の電子伝導帯電位が、前記第1層内の熱励起電子及び正孔を生成する半導体の伝導帯電位と同じか、又は正である、請求項1又は2に記載の温度勾配を必要としない熱電発電素子。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔1〕熱電発電素子
本発明の熱電発電素子は、熱励起電子及び正孔を生成する熱電変換材料を含む第1層、及び電荷輸送イオン対が移動できる固体電解質または電解質溶液を含む第2層、が積層している。そして、第1層内の熱電変換材料の価電子帯電位が第2層内の前記電荷輸送イオン対の酸化還元電位よりも正であり、第1層と第2層の界面で、電荷輸送イオン対のうちより酸化されやすいイオンが酸化されて、他方のイオンとなる。
また、本発明の熱電発電素子は、電子輸送材料を含む第3層を有してもよく、前記第3層は、第1層における第2層との積層面の反対側の面に積層されており、前記電子輸送材料の電子伝導帯電位が、熱励起電子及び正孔を生成する半導体の伝導帯電位と同じか、又は正である。
すなわち、本発明の熱電発電素子は、(A)熱励起電子及び正孔を生成する熱電変換材料を含む第1層、及び、電荷輸送イオン対が移動できる固体電解質または電解質溶液を含む第2層が積層された熱電発電素子、及び(B)熱電変換材料を含む第1層、電荷輸送イオン対が移動できる固体電解質または電解質溶液を含む第2層、及び、第1層に、第2層と反対側に接する電子輸送材料を含む第3層が積層された熱電発電素子の2つの態様を含む。
本明細書において「熱電変換材料」は、熱により熱励起電子及び正孔を生成することのできる材料を意味する。具体的には、熱励起電子及び正孔を生成する半導体を挙げることができる。また、本明細書において「電荷輸送イオン対」は、価数が異なる安定な2つのイオンであり、一方のイオンが酸化または還元されて他方のイオンとなり、電子および正孔を運ぶことができるイオン対を意味する。価数が異なる同じ元素のイオンであっても良い。
前記第1層は正孔及び電子を生成する熱電変換材料を含む熱電変換層でもよく、前記第2層は正孔伝達性材料を含む正孔輸送層でもよく、前記第3層は、電子輸送材料を含む電子輸送層でもよい。前記熱電変換材料は好ましくは半導体であり、前記正孔伝達性材料は好ましくは電解質であり、電子輸送材料は好ましくは半導体又は金属である。
また、本発明の熱電発電素子は、(1)正孔及び電子を生成する熱電変換材料を含む熱電変換層、及び(2)電子輸送材料を含む電子輸送層及び/又は正孔伝達性材料を含む正孔輸送層を含む熱電発電素子でもよい。
【0011】
基本的には、それぞれの態様の熱電発電素子に正極電極及び負極電極を設け、熱を付与することにより、熱電変換材料が発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成している状態となり、正極電極及び負極電極に電位差が生じて、電圧を発生させることができる。一般的な半導体の例として、
図2に示すβ−FeSi
2の励起電子密度の温度依存性で判るように、半導体の励起電子密度は、温度上昇とともに増加する。発電に十分な熱励起電子及び正孔の数とは、実際には単位体積当たりの電子密度で表されるが、太陽電池に用いられる半導体における光励起電子数と同程度あれば良く、例えば、太陽電池に用いられるアモルファスシリコンでの光励起電子密度である10
15/m
3(非特許文献2)が挙げられる。すなわち、本発明に用いる熱電変換材料において、熱励起電子密度が10
15/m
3以上となる条件で、発電を行うことができる。実際には、この条件に加えて、熱電変換材料の価電子帯電位と第2層内の電荷輸送イオン対の酸化還元電位との電位差、第1層内での電子移動速度、及び第2層内での各電荷輸送イオンの移動し易さ(電子輸送材料を含む第3層が積層された熱電発電素子の場合は、さらに、熱電変換材料の伝導帯電位と第3層内の電子輸送材料の電子伝導帯電位との電位差、第3層内での電子移動速度)が関係し発生電流の大きさが決定される。しかしながら、熱励起電子密度が10
15/m
3となる温度が重要であり、そして熱電変換材料の励起熱電子及び正孔の数がある値以上であることが重要である。具体的には、実施例4及び5において、第1層に熱電変換材料としてゲルマニウムを含む熱電発電素子を80℃に置くことによって発生電流が確認されたが、80℃におけるゲルマニウムの熱励起電子及び正孔は約10
18/m
3である。また、実施例6においては、第1層に熱電変換材料としてβ−FeSi
2を含む熱電発電素子を190℃に置くことによって発生電流が確認されたが、190℃におけるβ−FeSi
2の熱励起電子及び正孔は約10
21/m
3である。ここに記載した熱励起電子及び正孔数は、以下の計算式を用いて計算したものである。
【数1】
ここでN
c、N
vはそれぞれ伝導帯・価電子帯の有効状態密度、E
gはバンドギャップ、kはボルツマン定数、Tは温度である。
本発明の熱電発電素子が実際に発電する温度は、第1層内の熱電変換材料の発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生じる温度であることのほか、材料固有の電子移動のし易さや、第2層(または第2層及び第3層)との組み合わせによる第1層との界面で電子移動のし易さによって決まる。
【0012】
《第1層》
本発明の熱電発電素子を構成する第1層は、熱電変換材料を含む。第1層は、熱電変換材料が、適当な温度を付与されることにより発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成できる限りにおいて、熱電変換材料以外の成分を含むことができる。前記成分としては、限定されるものではないが、熱電変換材料を結合させるバインダー(ポリビニルアルコール、メチルセルロース、アクリル樹脂、寒天など)、熱電変換材料の成形を助ける焼結助剤(酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化カルシウムなど)などを挙げることができる。また、製造工程で用いる溶媒が残存していても良い。本発明に用いる第1層は実質的に熱電変換層として機能するものである。
【0013】
第1層は、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、放電プラズマ焼結法、圧縮成形法、スパッタリング法、真空蒸着法、又はスピンコート法によって作製することができる。スピンコート法を用いる場合、β−FeSi
2をアセトンなどの極性溶媒に分散し、その溶液を、第3層又は第2層にスピンコートすることにより、第1層を作製することができる。また、別の方法としてβ−FeSi
2を放電プラズマ焼結法により作製し、得られたβ−FeSi
2の粉体と導電性バインダー(例えば、高温導電コーティング)とを第3層又は第2層にスキージしてもよい。
【0014】
(熱電変換材料)
第1層に含まれる熱電変換材料は、適当な温度を付与されることにより熱励起電子及び正孔を生成できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば、金属半導体、テルル化合物半導体、シリコンゲルマニウム(Si-Ge)化合物半導体、シリサイド化合物半導体、スクッテルダイト化合物半導体、クラスレート化合物半導体、ホイスラー化合物半導体、ハーフホイスラー化合物半導体、金属酸化物半導体、有機半導体及びその他の半導体を挙げることができる。本発明に用いる半導体は熱電変換材料として機能するものである。
金属半導体としては、Si半導体、Ge半導体を挙げることができる。
テルル化合物半導体としては、Bi−Te化合物(例えば、Bi
2Te
3、Sb
2Te
3、CsBi
4Te
6、Bi
2Se
3、Bi
0.4Sb
1.6Te
3、Bi
2(Se,Te)
3、(Bi,Sb)
2(Te,Se)
3、(Bi,Sb)
2Te
3、又はBi
2Te
2.95Se
0.05)、Pb−Te化合物(例えば、PbTe、又はPb
1−xSn
xTe)、SnTe、Ge−Te、AgSbTe
2、Ag−Sb−Ge−Te化合物(例えば、GeTe−AgSbTe
2(TAGS))、Ga
2Te
3、(Ga
1−xIn
x)
2Te
3、Tl
2Te−Ag
2Te、Tl
2Te−Cu
2Te、Tl
2Te−Sb
2Te
3、Tl
2Te−Bi
2Te
3、Ti
2Te−GeTe、Ag
8Tl
2Te
5、Ag
9TlTe
5、Tl
9BiTe
6、Tl
9SbTe
6、Tl
9CuTe
5、Tl
4SnTe
3、Tl
4PbTe
3、又はTl
0.02Pb
0.98Teを挙げることができる。
シリコンゲルマニウム(Si-Ge)化合物半導体としては、Si
xGe
1−x、又はSiGe−GaPを挙げることができる。
シリサイド化合物半導体としては、β−FeSi
2化合物(例えば、β−FeSi
2、Fe
1−xMn
xSi
2、Fe
0.95Mn
0.05Si
(2−y)Al
y、FeSi
(2−y)Al
y、Fe
1−yCo
ySi
2)、Mg
2Si、MnSi
1.75−x、Ba
8Si
46、Ba
8Ga
16Si
30、又はCrSi
2を挙げることができる。
スクッテルダイト化合物半導体としては、式TX
3(式中、TはCo、Fe、Ru、Os、Rh、及びIrからなる群から選択される遷移金属であり、XはP、As、及びSbからなる群から選択されるプニクトゲンである)で表される化合物、前記化合物の派生物である式RM
4X
12(式中、RはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群から選択される希土類であり、MはFe、Ru、Os、及びCoからなる群から選択され、XはP、As、及びSbからなる群から選択される)で表される化合物、Yb
yFe
4−xCo
xSb
12、(CeFe
3CoSb
12)
1−x(MoO
2)
x又は(CeFe
3CoSb
12)
1−x(WO
2)
xを挙げることができる。
クラスレート化合物半導体としては、式M
8X
46(Mは、Ca、Sr、Ba、及びEuからなる群から選択され、XはSi、Ge、及びSnからなる群から選択される)で表される化合物、前記化合物の派生物である式(II)
8(III)
16(IV)
30(式中、IIはII族元素であり、IIIはIII族元素であり、IVはIV属元素である)で表される化合物を挙げることができる。前記式(II)
8(III)
16(IV)
30の化合物としては、例えばBa
8Ga
xGe
46−x、Ba
8−x(Sr,Eu)
xAu
6Ge
40、又はBa
8−xEu
xCu
6Si
40)を挙げることができる。
ホイスラー化合物半導体としては、Fe
2VAl、(Fe
1−xRe
x)
2VAl、又はFe
2(V
1−x−yTi
xTa
y)Alを挙げることができる。
ハーフホイスラー化合物半導体としては、式MSiSn(式中、MはTi、Zr、及びHfからなる群から選択される)で表される化合物、式MNiSn(式中、MはTi又はZrである)で表される化合物、式MCoSb(式中、MはTi、Zr、及びHfからなる群から選択される)で表される化合物、又は式LnPdX(式中、LnはLa、Gd、及びErからなる群から選択され、XはBi又はSbである)で表される化合物を挙げることができる。
金属酸化物半導体としては、In
2O
3−SnO
2、(CaBi)MnO
3、Ca(Mn、In)O
3、Na
xV
2O
5、V
2O
5、ZnMnGaO
4およびその派生物、LaRhO
3、LaNiO
3、SrTiO
3、SrTiO
3:Nb、Bi
2Sr
2Co
2O
y、Na
xCoO
2、NaCo
2O
4、CaPd
3O
4、式Ca
aM
1bCo
cM
2dAg
eO
f(式中、M
1はNa、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Bi、Yおよび希土類から成る群から選択される一種または二種以上の元素であり、M
2は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Nb、TaおよびBiから成る群から選択される一種または二種の元素であり、2.2≦a≦3.6、0≦b≦0.8、2≦c≦4.5、0≦d≦2、0≦e≦0.8、8≦f≦10である)で表される化合物、ZnO、Na(Co,Cu)
2O
4、ZnAlO、Zn
1−xAl
xO、又はLa
1.98Sr
0.02CuO
4を挙げることができる。
有機半導体としては、有機ペロブスカイト、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、又はポリピロールを挙げることができる。
その他の熱電変換化合物としては、Co及びSbを含む合金(例えば、CoSb
3、CeFe
3CoSb
12、CeFe
4CoSb
12、又はYbCo
4Sb
12)、Zn及びSbを含む合金(例えば、ZnSb、Zn
3Sb
2、又はZn
4Sb
3)、Bi及びSbを含む合金(例えば、Bi
88Sb
12)、CeInCu
2、(Cu,Ag)
2Se、Gd
2Se
3、CeRhAs、又はCeFe
4Sb
12、Li
7.9B
105、BaB
6、SrB
6、CaB
6、AlPdRe化合物(例えば、Al
71Pd
20(Re
1−xFe
x)
9)、AlCuFe準結晶、Al
82.6−xRe
17.4Si
x1/1−立法近似結晶、YbAl
3、YbMn
xAl
3、β−CuAgSe、B
4C/Ba
3C、(Ce
1−xLa
x)Ni
2、又は(Ce
1−xLa
x)In
3を挙げることができる。
【0015】
熱電変換材料に付与する温度は、それぞれの熱電変換材料において発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成する温度を適宜選択することができる。換言すれば、本発明においては、熱電変換材料が発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成する温度を熱電変換材料に付与することにより、熱電発電素子に電圧を発生させることができる。発電に十分な熱励起電子及び正孔の数とは、実際には電子密度で表され、太陽電池に用いられる半導体における光励起電子数と同程度あれば良く、例えば、太陽電池に用いられるアモルファスシリコンでの光励起電子数である10
16/m
3が挙げられる。すなわち、本発明に用いる熱電変換材料において、熱励起電子密度が10
15/m
3以上となる温度で、発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成することが可能であり、その温度以上で発電を行うことができる。
一般的な半導体の例として、
図2に示すβ−FeSi
2の励起電子密度の温度依存性から判るように、半導体の励起電子密度は、温度上昇とともに増加する。特定温度における励起電子密度すなわち熱励起電子及び正孔の数は、前記の「熱励起電子数」を求める計算式から材料固有の値として求まる。従って、当業者であれば、本発明の属する分野の技術常識と本明細書の記載から、「熱励起電子密度が10
15/m
3以上となる温度」を計算することができる。
例えば、実施例4および5で熱電変換材料として用いているゲルマニウムは、発電が起こる80℃で約10
18/m
3の熱励起電子及び正孔を生成する。一方、半導体であるβ−CuAgSeは、10℃で、約10
18/m
3の熱励起電子及び正孔を生成する。このことから、β−CuAgSeを熱電変換材料として用いれば、室温によっても発電する可能性がある。
それぞれの熱電変換材料に付与する温度の上限は、特に限定されるものではない。熱電変換材料は、温度の上昇により熱励起電子及び正孔の生成数が増加する。従って、熱電変換材料に付与する温度の上限は、熱変換材料の融点、又はそれを用いた熱電発電装置、サーモ電池、若しくは熱電発電モジュールの物理的な上限温度によって規定される。
【0016】
また、熱電変換材料が熱励起電子及び正孔を生成できる温度範囲は、実験によって特定することもできる。本発明に用いる熱電変換材料と熱電発電素子の使用温度は、用いる半導体固有の当該温度における熱励起電子及び正孔数に依るが、その選択は、抵抗値または電気伝導率を測定することで、求めることができる。具体的には、参考例1に示すように、例えばβ−FeSi
2を加熱することによって、β−FeSi
2の温度を上昇させ、β−FeSi
2の抵抗値を測定することで温度範囲を特定してもよい。
図3に示すように、β−FeSi
2の電気伝導率は190℃を超えると、急激に上昇する。電気伝導率が急激に上昇することから、この温度近傍で発電に十分な数の熱励起電子及び正孔が生成されることがわかる。従って、当業者は、参考例1の実験を行うことにより、その熱電変換材料が発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成できるか否かを特定することが可能であり、更に熱電変換材料が発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成する温度範囲を特定することが可能である。
【0017】
《第2層》
本発明の熱電発電素子を構成する第2層は、固体電解質または電解質溶液を含む。
【0018】
第2層は電荷輸送イオン対が移動できる限りにおいて限定されるものではない。すなわち、第2層は、熱電変換材料で生成された正孔を輸送できる限りにおいて、限定されるものではなく、固体電解質または電解質溶液以外の成分を含むことができる。前記成分としては、限定されるものではないが、例えば第2層を作製する場合に電解質を溶解又は分散する極性溶媒(水、メタノール、トルエン、テトラヒドロフランなど)、電解質を結合させるバインダー(ポリビニルアルコール、メチルセルロース、アクリル樹脂、寒天など)、正孔伝達性材料の成形を助ける焼結助剤(酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化カルシウムなど)などを挙げることができる。本発明に用いる第2層は実質的に正孔輸送層として機能するものである。
なお、「電荷輸送イオン対」は価数が異なる安定な2つのイオンであり、一方のイオンが酸化または還元されて他方のイオンとなり、電子と正孔を運ぶことができる。更に、第2層は、電荷輸送イオン対以外のイオンを含んでもよい。
【0019】
第2層は、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、スパッタリング法、真空蒸着法、ゾルゲル法、又はスピンコート法によって作製することができる。例えば、後述のCuZr
2(PO
4)
3はゾルゲル法によって作製し、得られたゾルをスキージ法を用いて、層状の第2層を調製した。
また、電解質が電解質溶液(液体電解質)の場合、第2層は液相となる。第2層が液相の場合、熱電発電素子における第2層は、熱電発電装置やサーモ電池、又は熱電発電モジュールの作製時に調製することが好ましい。すなわち、電解質溶液(液体電解質)を保持するための槽を設けることによって、第2層を作製することができる。
【0020】
(電解質)
電解質としては、固体電解質又は電解質溶液を含む。電解質は、電荷輸送イオン対の2つのイオンを輸送できる限りにおいて限定されるものではない。
すなわち、第2層に用いる電解質は、熱電発電素子に使用される熱電変換材料の価電子帯電位に対して、酸化還元電位が適当な位置にあり、電荷輸送イオン対が電解質内を行き来できる限りにおいて、特に限定されるものではない。なお、電解質は、熱電変換材料が発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成する温度において、物理的及び化学的に安定であるものが好ましい。
【0021】
電解質としては、その態様の違いにより、固体電解質、又は電解質溶液(液体電解質)であってよい。ここで、電解質は温度の違いにより、電解質溶液(液体電解質)の態様であったり、固体電解質の態様であったりする。すなわち、電解質溶液(液体電解質)に含まれる化合物と固体電解質に含まれる化合物とは、重複するものである。また、電解質は、溶融塩、イオン液体、又は深共晶溶媒などを含む。溶融塩とは、陽イオンと陰イオンからなる塩で、溶融状態にあるものを意味するが、溶融塩の中でも比較的融点の低いもの(例えば、100℃以下のもの、又は150℃以下のもの)をイオン液体と称するが、本明細書では、溶融塩も固体の状態のものは固体電解質とし、溶液状のものは電解質溶液(液体電解質)とする。以下に電解質溶液(液体電解質)、固体電解質、及び溶融塩について、具体的に例示するが、これらは重複することがある。
電解質溶液は、第1層内の熱電変換材料が発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成する温度において、溶液(液体)の状態のものを使用する。具体的には、電解質溶液として、限定されるものではないが、メトキシドイオン、水素イオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、フッ素イオン、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、炭酸水素イオン、臭素イオンを挙げることができる。
固体電解質は、第1層内の熱電変換材料が発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成する温度において、電荷輸送イオン対が内部を移動できる固体状態のものを使用する。高温固体電解質を用いることにより、高温で熱励起電子及び正孔を生成する熱電発電素子体を用いる熱電発電素子に用いることができる。具体的には、固体電解質としては、限定されるものではないが、ナトリウムイオン伝導体、銅イオン伝導体、リチウムイオン伝導体、銀イオン伝導体、水素イオン伝導体、ストロンチウムイオン伝導体、アルミニウムイオン伝導体、フッ素イオン伝導体、塩素イオン伝導体、又は酸化物イオン伝導体などを挙げることができる。具体的な固体電解質としては、例えばRbAg
4I
5、Li
3N、Na
2O・11Al
2O
3、Sr−βアルミナ、Al(WO
4)
3、PbF
2、PbCl
2、(ZrO
2)
0.9(Y
2O
3)
0.1、(Bi
2O
3)
0.75(Y
2O
3)
0.25、CuZr
2(PO
4)
3、CuTi
2(PO
4)
3、Cu
xNb
1−xTi
1+x(PO
4)
3、H
0.5Cu
0.5Zr
2(PO
4)
3、Cu
1+xCr
xTi
2−x(PO
4)
3、Cu
0.5TiZr(PO
4)
3、CuCr
2Zr(PO
4)
3、Cu
2ScZr(PO
4)
3、CuSn
2(PO
4)
3、CuHf
2(PO
4)
3、Li
7La
3Zr
2O
12、Li
7La
3Zr
2−xNb
xO
12、Li
7La
3Zr
2−xTaxO
12、Li
5La
3Ta
2O
12、Li
0.33La
0.55TiO
3、Li
1.5Al
0.5Ge
1.5P
3O
12、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7P
3O
12、Li
3PO
4(LiPON)、Li
4SiO
4−Li
3PO
4、Li
4SiO
4、又はLi
3BO
3などを挙げることができる。
また、固体電解質又は電解質溶液として、溶融塩を用いることができる。比較的低温で用いる熱電発電素子の場合、イオン液体を用いることも可能である。イオン液体として、深共晶溶媒(Deep Eutectic Solvents:DES)を用いることができる。
溶融塩としては、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、モルフォリニウムカチオン、スルホニウムカチオン及びアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1つのカチオン、及びカルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ハロゲンアニオン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及びビス(フルオロスルホニル)イミドからなる群から選択される少なくとも1つのアニオンを含むものを挙げることができる。本発明における電解質は、正孔伝達性材料として機能するものである。
【0022】
《第1層及び第2層の界面でのイオンの酸化反応》
本発明においては、第1層内の熱電材料の価電子帯電位が第2層(電解質)内の電荷輸送イオン対の酸化還元電位よりも正である。従って、本発明の第1層及び第2層の界面では、電荷輸送イオン対のうちより酸化されやすいイオンが酸化され、他方のイオンとなる。電解質内の電荷輸送イオン対の酸化還元電位と熱電変換材料の価電子帯電位との電位差は、本発明の効果が得られる限りにおいて限定されるものではないが、好ましくは0〜1.0Vであり、より好ましくは0.05〜0.5Vであり、更に好ましくは0.05〜0.3Vである。例えば、β−FeSi
2の価電子帯電位に対するCuZr
2(PO
4)
3(Cusicon、銅イオン伝導体)の酸化還元電位の電位差は約0.05Vである。
電荷輸送イオン対の酸化還元電位及び熱電変換材料の価電子帯電位が測定されているものについては、当業者はそれらの酸化還元電位及び価電子帯電位の値に従って、熱電変換材料に対する適当なイオンを適宜選択し、当該イオンが移動可能な電解質を選択することができる。また、熱電変換材料の価電子帯電位及び電荷輸送イオン対の酸化還元電位が不明な材料については、熱電変換材料の価電子帯電位及びイオンの酸化還元電位を測定することが可能である。従って、当業者であれば選択された熱電変換材料に応じて、適切な電荷輸送イオン対電解質を適宜選択することができる。
また、「第1層内の熱電変換材料の価電子帯電位が第2層(電解質)内の電荷輸送イオン対の酸化還元電位よりも正である」とは、「熱電変換材料の価電子帯電位に対して、酸化還元電位が適当な位置にある」ことを意味する。
【0023】
《第3層》
本発明の熱電発電素子は、第1層に積層された第3層を有することができる。第3層は第1層及び第2層の積層面(界面)の反対側に積層される。第3層は、電子輸送材料を含む。第3層は、熱電変換材料で生成された熱励起電子を輸送できる限りにおいて、電子輸送材料以外の成分を含むことができる。前記成分としては、限定されるものではないが、電子輸送材料を結合させるバインダー(ポリビニルアルコール、メチルセルロース、アクリル樹脂、寒天など)、電子輸送材料の成形を助ける焼結助剤(酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化カルシウムなど)などを挙げることができる。また、製造工程で用いる溶媒が残存していても良い。本発明に用いる第3層は実質的に電子輸送層として機能するものである。
本発明の熱電発電素子においては、前記電子輸送材料の電子伝導帯電位が第1層内の熱電変換材料の伝導帯電位と同じであるか、又は正である。従って、電子輸送材料は熱励起電子を輸送することができる。
【0024】
第3層は、例えばスキージ法、スクリーン印刷法、スパッタリング法、真空蒸着法、単結晶成長法、又はスピンコート法によって作製することができる。スピンコート法を用いる場合、オキサジアゾール誘導体をアセトンなどの極性溶媒に溶解し、その溶液を、基板又は第1層などにスピンコートすることにより、第3層を作製することができる。例えば、後述のn型シリコンの第3層は単結晶成長法によって得ることができ、このn型シリコンの第3層を基板として、第1層を積層することができる。
【0025】
(電子輸送材料)
第3層に用いる電子輸送材料は、その電子伝導帯電位が、第1層内の熱電変換材料の伝導帯電位に対して、同じであるか又は正である限りにおいて特に限定されるものではない。第3層内の電子輸送材料の電子伝導帯電位と第1層内の熱電変換材料の伝導帯電位との電位差は、本発明の効果が得られる限りにおいて限定されるものではないが、好ましくは0.01〜1Vであり、より好ましくは0.01〜0.5Vであり、更に好ましくは0.01〜0.3Vであり、最も好ましくは0.05〜0.2Vである。例えば、β−FeSi
2の伝導帯電位に対するn型シリコンの伝導帯電位、すなわち電子伝導帯電位の電位差は約0.01Vである。
熱電変換材料の伝導帯電位及び電子輸送材料の電子伝導帯電位が測定されているものについて、当業者は、それらの電位の値に従って、第1層内の熱電変換材料に対する適切な電子輸送材料を適宜選択することができる。また、半導体の伝導帯電位及び電子輸送材料の電子伝導帯電位が不明な材料については、それらの電位を、例えば電気化学測定や逆光電子分光法XPSによって、測定することが可能である。従って、当業者であれば熱電発電素子に用いる第1層内の熱電変換材料に応じて、適切な電子輸送材料を適宜選択することができる。
【0026】
電子輸送材料としては、半導体又は金属を挙げることができる。具体的な電子輸送材料としては、例えばニオブ、チタン、亜鉛、錫、バナジウム、インジウム、タングステン、タンタル、ジルコニウム、モリブデン及びマンガンからなる群から選択される少なくとも1種を含むN型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属、又は電子輸送性有機物を挙げることができる。より具体的にはたとえば、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛または、SrTiO
3を挙げることができる。また、電子輸送性有機物としては、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、π電子共役化合物、界面活性剤、具体的にはたとえばオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ペリレン誘導体、又はキノリノール金属錯体、シアノ基含有ポリフェニレンビニレン、ホウ素含有ポリマー、バソキュプロイン、バソフェナントレン、ヒドロキシキノリナトアルミニウム、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレン誘導体、ホスフィンオキサイド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、フルオロ基含有フタロシアニン、フラーレンおよびその誘導体、フェニレンビニレン系ポリマー、ペリレンテトラカルボン酸イミド誘導体を挙げることができる。半導体としては、前記「第1層」の項に記載の「半導体」を電子輸送材料として用いることができる。
【0027】
《熱電発電素子》
本発明の熱電発電素子の構成及びその発電のメカニズムを、
図1を用いて説明する。熱電発電素子には、熱電変換材料を含む第1層を挟んで、電子輸送材料を含む第3層及び電解質を含む第2層が存在する。第3層に電極(負極)を設け、第2層に電極(正極)を設け、そしてそれぞれの電極を接続し負荷をかけることによって、負極から正極に電子が流れる。
具体的には、熱電変換材料は、一定の温度以上で発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生成することができる物質である。従って、熱電変換材料に適当な温度が付与されると、発電に十分な数の熱励起電子及び正孔が生成する。第1層に隣接する第3層に含まれる電子輸送材料の電子伝導帯電位は、熱電変換材料の伝導帯電位に対して電位が正にあるため、電子が第1層から第3層に移動し、更に電極に移動する。一方、第1層に隣接する第2層に含まれる電解質の酸化還元電位は、第1層内の熱電変換材料の価電子帯電位に対して電位が負にあるため、正孔が第1層から電極(正極)に運ばれる。すなわち、電解質において、イオンの酸化還元が起こり、電子が電極から第1層に運ばれ、正孔が第1層から電極(正極)に運ばれる。このようなメカニズムにより、負極から正極に電子が移動し、電気を発生させることができる。従って、このような条件を満足する熱電変換材料、電子輸送材料、及び電解質を組み合わせることによって、増感型熱電発電素子を作製することができる。
【0028】
《第1層及び第2層による発電の機構》
実施例3に示すように、第3層が欠如している第1層及び第2層のみでも、発電することが可能である。第1層及び第2層による発電の場合、第1層の熱電変換材料から、直接、電極に電子が輸送されることによって、発電する。
【0029】
〔2〕発電方法
本発明の発電方法は、前記熱電発電素子を、前記第1層内の熱励起電子及び正孔を生成する熱電変換材料の熱励起電子密度が10
15/m
3となる温度以上の環境下に置いて発電する。
本発明の発電方法において、熱励起電子密度は好ましくは10
15/m
3以上であり、より好ましくは10
18/m
3以上であり、更に好ましくは10
20/m
3以上であり、最も好ましくは10
22/m
3以上である。熱励起電子密度が高いほど、高い発電効率を得ることができる。熱励起電子密度は熱電変換材料によって異なるが、熱励起電子密度は、前記「〔1〕熱電発電素子」の項に記載の式によって計算することができる。
また、本発明の発電方法における温度は、熱励起電子密度が好ましくは10
15/m
3となる温度であり、より好ましくは10
18/m
3以上となる温度であり、更に好ましくは10
20/m
3以上となる温度であり、最も好ましくは10
22/m
3以上となる温度である。発電の温度は、基本的には熱電変換材料によって異なるが、前記の熱励起電子密度の計算、及び/又は前記「〔1〕熱電発電素子」の項に記載の「熱電変換材料が熱励起電子及び正孔を生成できる温度範囲」を実験によって測定することによって、決定することができる。
すなわち、当業者であれば、本発明の属する分野の技術常識と本明細書の記載から、発電の温度を適宜決定することができる。また、本発明の発電方法の発電温度は、好ましくは電荷輸送イオン対が電解質内を行き来できる温度である。
具体的な温度としては、限定されるものではないが、例えば50℃以上であり、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは80℃以上であり、更に好ましくは100℃以上である。温度の上限も電荷輸送イオン対が電解質内を行き来できる温度である限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば1500℃以下であり、好ましくは1000℃以下である。
なお、本発明の熱電発電素子が実際に発電する温度は、第1層内の熱電変換材料の発電に十分な数の熱励起電子及び正孔を生じる温度であることのほか、材料固有の電子移動のし易さや、第2層(または第2層及び第3層)との組み合わせによる第1層との界面で電子移動のし易さによって決まるが、これらの条件は適宜検討することが可能である。
【0030】
〔3〕熱電発電装置、サーモ電池及び熱電発電モジュール
本発明の熱電発電装置は、本発明の熱電発電素子を含み、好ましくは正極電極及び/又は負極電極を含む。また、本発明のサーモ電池は、本発明の熱電発電素子を含み、好ましくは正極電極及び/又は負極電極を含む。更に、本発明の熱電発電モジュールは、本発明の熱電発電素子を含み、好ましくは正極電極及び/又は負極電極を含む。本発明の熱電発電装置、サーモ電池及び熱電発電モジュールにおいて用いる熱電発電素子の第3層が負極電極の役割を担うことが可能であり、第2層が正極電極の役割を担うことが可能である。但し、熱電発電装置、サーモ電池及び熱電発電モジュールにおいては、正極電極及び負極電極を有することが好ましい。
本明細書において「サーモ電池」とは、本発明の熱電発電素子を含み、熱電発電素子の半導体(熱電変換材料)に、熱励起電子及び正孔を生成できる温度が付与されることにより、発電する電池を意味する。すなわち、サーモ電池とは、「熱源があれば発電する電池」であり、従来の「高温部と低温部により発電する電池」とは異なる。
【0031】
《電極》
正極電極及び負極電極は、電子を輸送できる限りにおいて限定されるものではないが、例えば、チタン、金、白金、銀、銅、錫、タングステン、ニオブ、タンタル、ステンレス、アルミニウム、グラフェン、モリブデン、インジウム、バナジウム、ロジウム、ニオビウム、クロム、ニッケル、カーボン、それらの合金又はそれらの組合せを挙げることができる。なお、正極電極及び負極電極に、同じ材料を用いてもよい。
正極電極及び負極電極は、導線の態様で設けてもよく、また、正極電極層又は負極電極層として、設けてもよい。正極電極層又は負極電極層の場合、真空蒸着法又はスピンコート法などによって、製造することができる。正極電極を熱電発電素子の第3層側に負極電極を設け、第2層側に正極電極を設けることにより、負極から正極に電子が移動し、電気を発生させることができる。
【0032】
〔4〕熱電発電方法
本発明の熱電発電方法は、前記熱電発電モジュールを熱発生場所に設置する工程、及び熱により前記熱電発電モジュールを加熱し、電力を発生させる工程、を含む。
【0033】
《熱電発電モジュール設置工程》
熱電発電モジュール設置工程においては、本発明の熱電発電モジュールを熱発生場所に設置する。
熱発生場所は、熱電変換材料において、発電に十分な数の励起電子及び正孔を生成する温度以上の熱を発生する場所であれば、特に限定されない。しかしながら、効率的に発電できることから、比較的高い温度の場所が好ましく、従って熱発生場所としては、例えば地熱発生場所、又は工場などの排熱発生場所を挙げることができる。
地熱は、土壌中の熱に限るものではなく、地熱によって温められた熱水又は蒸気を含む。更に、地熱には、地熱によって温められた海、湖、又は河川などの熱水又は蒸気を含む。
排熱は、特に限定されるものではないが、例えば、鉄鋼炉、ごみ焼却場、変電所、地下鉄、又は自動車などの排熱を挙げることができる。特に、大きなエネルギーを有する鉄鋼炉、またごみ焼却場の排熱は、そのエネルギーを利用することなく放出されており、本発明の熱電発電方法により再利用することが好ましい。
【0034】
《電力発生工程》
電力発生工程においては、本発明の熱電発電モジュールを加熱することにより、電力を発生させる。前記熱発生場所から発生する熱により、熱電発電モジュールの熱電変換材料が、発電に十分な数の励起電子及び正孔を発生する温度以上で加熱されることにより、熱電発電モジュールから電力を発生させることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
《参考例1》
β−FeSi
2焼結体(0.8cm角、厚み2mm)をホットプレート上に設置し、四端子法にて抵抗値の温度依存性を測定した。昇温と共に抵抗値の減少が確認され、その値から計算される電気伝導率の上昇が確認された(
図3)。また、190℃を超えると、電気導電率が急激に増加した。この減少の急激な変化は、190℃を超えた時点で、β−FeSi
2焼結体において、数多くの熱励起電子及び正孔が発生したことを意味している。
【0037】
《実施例1》
1.68gのα−Fe
2Si
5粉末を250kgfで1min一軸加圧することでφ15mmの成形体を作製し、800℃、30min、55MPaの条件でSPS焼結を行いβ−FeSi
2を得た。また、CuO、ZrOCl・8H
2O、(NH
4)H
2PO
4を化学量論比になるように秤量し、蒸留水、CuOに関してはHNO
3水溶液に溶解させたのちに混合、撹拌させた。80℃で1日半乾燥させたのちに、800℃で8h加熱しCuZr
2(PO
4)
3(Cusicon、銅イオン伝導体)を得た。
1.0cm×1.0cm角に切断したn型シリコン(n−Si)(100)(ρ=1−10Ω)を5分間HF処理した後、SPS焼結法により得られたβ−FeSi
2を粉砕した粉末0.0309gを導電性バインダー(パイロダクト597)0.0785gと混合して接着させた。その後室温で2h、93℃で2h乾燥させた後、20mmΦの金型にCusiconを入れたのちに、β−FeSi
2とn−Siとをβ−FeSi
2が下になるように設置し、50MPaで3min加圧した。余分なCusiconを取り除いたところ、Cusiconは0.1929gとなった。得られた試料を400℃で6時間焼結した。昇温、降温速度は2℃/minとした。
焼結した試料は、Cusicon側、n−Si側に電極として導電性Agペーストを用いてPt線を取り付けた。スライドガラスで挟み、絶縁性接着剤アロンセラミックスで補強した。同様に室温、93℃で2hずつ乾燥させた。
電気炉内に作製した試料を設置した。Cusicon側を作用電極、n−Si側を対極としたところ、室温での自然電位は0.035Vであり、電圧を自然電位としたときの電流変化を、2端子法により測定した。昇温速度は5℃/minとした。600℃まで昇温した。温度に依存した整流性のある発生電流が確認された(
図4)。
CV曲線は、600℃に保持した状態で測定した。Scan rateは10mV/secとした。その結果、第3層/第1層/第2層で電池特性を得ることができた(
図5)。
また、上記接続にて、室温および600℃にて電気化学インピーダンス測定を行った(
図6)。600℃において抵抗値の減少が確認された。
【0038】
《実施例2》
1.0cm×0.5cm角に切断したn−Si(100)(ρ=1−10Ω)を5分間HF処理した後、導電性Agペースト0.0785gを塗布し、実施例1と同じ工程のSPS焼結法により得られたβ−FeSi
2を粉砕した粉末0.0309gを接着させた。その後室温で2h、93℃で2h乾燥させた後、20mmΦの金型にβ−FeSi
2と、n−Siとを、β−FeSi
2が上になるように設置したのちに実施例1と同じ工程で作製したCusiconを入れ、50MPaで3min加圧した。余分なCusiconを取り除いたところ、Cusiconは0.1929gとなった。得られた試料を400℃で6時間焼結した。昇温、降温速度は2℃/minとした。
焼結した試料は、Cusicon側、n−Si側に電極としてAgペーストを用いてPt線を取り付けた。スライドガラスで挟み、絶縁性接着剤アロンセラミックスで補強した。同様に室温、93℃で2hずつ乾燥させた。
電気炉内に作製した試料を設置した。Cusicon側を作用電極、n−Si側を対極とし、昇温速度は5℃/minとして600℃まで加熱した。600℃に保持した状態で、電流を100nAに固定して電圧の経時変化の測定を行い、この系で、一定電流で6時間以上発電が続くことを確認した(
図7)。その後、Scan rate 10mV/secで0.1Vから−0.1VまでCV測定を行った。その結果、第3層/第1層/第2層で電池特性を得ることができた。
【0039】
《実施例3》
第1層及び第2層の組合せの実施例として、β−FeSi
2及びCusiconでの測定結果を示す。
10mmΦの金型に実施例1と同じ工程のSPS焼結法により得られたβ−FeSi
2を粉砕した粉末0.0797を入れ、タッピングを行ってなだらかにした後に、実施例1と同じ工程で作製したCusiconを0.2356gを入れ、100MPaで5分間加圧した。得られた試料を400℃で6時間焼結した。昇温、降温速度は2℃/minとした。
焼結した試料は、Cusicon側、β−FeSi
2側に電極として導電性Agペーストを用いてPt線を取り付けた。さらに、スライドガラスで挟み、絶縁性接着剤アロンセラミックスで補強した後に室温、93℃で時間ずつ乾燥させた。
電気炉内に作製した試料を設置し、600℃で保持した状態で、Cusicon側を作用電極、β−FeSi
2側を対極として、電位走査速度10mV/secでCV測定を行った(
図8)。その結果、第1層/第2層で600℃で電池特性を得ることができた。
【0040】
《実施例4》
本実施例では、半導体(第1層)としてゲルマニウム、電解質(第2層)として塩化ヘキサアンミンコバルト(III)水溶液を用いて、熱電発電素子を作製した。
25×15×0.5mmのゲルマニウム半導体に直径6mm孔をもつカプトンテープ(12.5×15×0.1mm厚)のスペーサーを接着し、脱気した(0.15M硫酸ナトリウム+4mMヘキサアンミンコバルト)水溶液を2.4mL滴下し、25×15mmのITO透明電極で挟み込んだ。スペーサーは高温耐性粘着テープであるため、挟み込むだけで電池ができあがった。露出した透明電極の導電面には白金をスパッタした。できあがった電池をホットプレート上に設置し、全体が80℃になった後、80℃に保持して、作用極をゲルマニウム半導体、対極を透明電極として、電位走査速度100mV/secで測定した(
図9)。開放電圧は0.68Vであった。
【0041】
《実施例5》
本実施例では、半導体(第1層)としてゲルマニウム、電解質(第2層)として酸化硫酸バナジウム(IV)n水和物水溶液を用いて、熱電発電素子を作製した。
酸化硫酸バナジウムVOSO
4・nH
2O(n=3〜4)0.0570gを1Mの硫酸水溶液に溶かし、得られた0.05Mのバナジウム溶液を脱気した。上面積半分にPtスパッタを施したITO基板(1.5×2.5cm)を硫酸洗浄した後、残り半分に直径6mmの孔が空いた絶縁テープを貼り、その孔にバナジウム水溶液を2.4μL滴下した。ITO基板と同じサイズの、硫酸洗浄したゲルマニウムウェハーを孔の上にかぶせ、80℃に保持して、作用電極をゲルマニウム、対極電極をPt側として、電位走査速度は100mV/secでCV測定を行った(
図10)。開放電圧は0.23Vであった。
【0042】
《実施例6》
本実施例では、半導体(第1層)としてβ−FeSi
2、電解質(第2層)としてRbCuCl
2、電子輸送材料(第3層)としてn−Siを用いて、熱電発電素子を作製した。
10×10×0.525mmのn−Siを5分間フッ酸処理した。n−Si上に銀ペーストを用いて、実施例1と同じ工程のSPS焼結法により得られたβ−FeSi
2粉末を接着し、室温、93℃で2時間ずつ乾燥させた。直径10mmΦ、厚さ15mmのRbCuCl
2成形体を、n−Si/β−FeSi
2接合体のβ−FeSi
2上に設置して、スライドガラスで挟み、絶縁性接着剤を用いることで固定し、電池とした。n−Si側には銀ペーストを塗布することで、RbCuCl
2側には白金をスパッタすることで電極とし、白金線を用いて測定装置に繋げた。できあがった電池を電気炉内に設置し、190℃に保持した状態で、作用極をn−Si、対極をRbCuCl
2として、電位走査速度10mV/secで測定した(
図11)。開放電圧は0.25Vであった。