【文献】
渋谷京亮,三井アウトレットパーク木更津,近代建築,日本,株式会社近代建築社,2012年 5月 5日,第66巻第5号,pp. 72-77
【文献】
河合陽一郎 外4名,愛・地球博記念公園 地球市民交流センター,近代建築,日本,株式会社近代建築社,2011年 3月 5日,第65巻第3号,pp. 92-97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の方法において,前記傾斜屋根の上端部の下面に当たる風を傾斜屋根の下面に沿って地表面へ導き,前記傾斜屋根の下端部に当該傾斜屋根の下面に沿って流れる風を当該下面から剥離させる下向きの突起部又は拡幅部を設けてなる屋外地表面の風呼び込み方法。
請求項1に記載の方法において,前記傾斜屋根の上端に上空域の風向と平行な風当たり部又は前記遮蔽物の屋上面を接続し,前記風当たり部の上面又は遮蔽物の屋上面に当たる風をコアンダ効果により傾斜屋根の上面に沿って地表面へ導いてなる屋外地表面の風呼び込み方法。
請求項3に記載の方法において,前記傾斜屋根の中間部に当該傾斜屋根の上面に沿って流れる風を剥離させない角度の下向きの折れ曲げ部を設けてなる屋外地表面の風呼び込み方法。
請求項1から4の何れかに記載の方法において,前記傾斜屋根の下流側の風の流路に当該傾斜屋根の下端部より高い位置から流路に沿って下向き又は上向きに傾斜させた風送り屋根を設け,当該風送り屋根の下方に呼び込んだ風を通過させることにより風速を高めてなる屋外地表面の風呼び込み方法。
請求項6に記載の構造において,前記傾斜屋根の上端部の下面に当たる風を傾斜屋根の下面に沿って地表面へ導き,前記傾斜屋根の下端部に当該傾斜屋根の下面に沿って流れる風を当該下面から剥離させる下向きの突起部又は拡幅部を設けてなる屋外地表面の風呼び込み構造。
請求項6に記載の構造において,前記傾斜屋根の上端に上空域の風向と平行な風当たり部又は前記遮蔽物の屋上面を接続し,前記風当たり部の上面又は遮蔽物の屋上面に当たる風をコアンダ効果により傾斜屋根の上面に沿って地表面へ導いてなる屋外地表面の風呼び込み構造。
請求項8に記載の構造において,前記傾斜屋根の中間部に当該傾斜屋根の上面に沿って流れる風を剥離させない角度の下向きの折れ曲げ部を設けてなる屋外地表面の風呼び込み構造。
請求項6から9の何れかに記載の構造において,前記傾斜屋根の下流側の風の流路に当該傾斜屋根の下端部より高い位置から流路に沿って下向き又は上向きに傾斜させた風送り屋根を設け,当該風送り屋根の下方に呼び込んだ風を通過させることにより風速を高めてなる屋外地表面の風呼び込み構造。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図14のような風の道3を確保する方法によれば,都市空間の広い範囲に涼しい局地風Bを届けることが期待できる。しかし,風の道3から外れた建物等の間に風Bの届かない街路等の空間が残りうる問題点がある。風の道3から外れた地区においても,風の流れを阻害しないように建物の配置を工夫して風通しを確保すれば,風の道3から波及する冷気を活用することができる(非特許文献1参照)。しかし,建物全てを配置替えすることは実際上不可能であり,例えば
図13に示すように中低層商業ビル等の建物1,2で囲まれた街路Lが発生しうる。図示例のように建物1,2によって風の通りが阻害された街路Lの地表面Eは,夏季に気温が上昇して快適性が失われやすく,人が集まりにくい環境となり,建物1,2の商業施設としての集客にも影響を及ぼす。
【0008】
図13のような建物1,2で囲まれた街路Lは人の通路となっているので,上述した特許文献1のように風向調整手段を設置することも難しい。また,特許文献1は建物1,2の外周に流れている低層の風を呼び込む方法であるが,低層の風は弱いことが多く,風向調整手段を設置しても風を呼び込むことは難しい。上述したように都市空間内であっても上空域Uには局地風Bが流入していることが多いので,そのような上空域Uの風Bを地表面Eに呼び込むことができれば,
図13のような建物1,2で囲まれた街路Lの夏季における体感温度の上昇を抑えることが期待できる。
【0009】
そこで本発明の目的は,建物等によって風の通りが阻害された屋外地表面に上空域の風を呼び込む方法及び構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
図1(A)及び(B)の実施例を参照するに,本発明による屋外地表面の風呼び込み方法は,建物その他の遮蔽物1,2により風の通りが阻害された屋外地表面Eの上方に,
遮蔽物1,2より高い風Bの通る上空域Uの高さからその上空域Uの風向に沿って地表面E付近まで下向きに傾斜させた平面状又は曲面状の傾斜屋根10を設け,傾斜屋根10により上空域Uの風Bを地表面Eへ呼び込んでなるものである。
【0011】
また,
図1(A)及び(B)の実施例を参照するに,本発明による屋外地表面の風呼び込み構造は,
建物その他の遮蔽物1,2より高い風Bの通る上空域Uの高さからその上空域Uの風向に沿って地表面E付近まで下向きに傾斜させて設けた平面状又は曲面状の傾斜屋根10,及び傾斜屋根10を
遮蔽物1,2により風の通りが阻害された屋外地表面Eの上方に支持する支持部材12を備え,傾斜屋根10により上空域Uの風Bを地表面Eへ呼び込んでなるものである。
【0012】
好ましい実施例では,
図1(C)に示すように,傾斜屋根10の上端部の下面に当たる風Bを傾斜屋根10の下面に沿って地表面Eへ導き,傾斜屋根10の下端部に傾斜屋根10の下面に沿って流れる風Bをその下面から剥離させる下向きの突起部又は拡幅部15を設ける。
【0013】
他の好ましい実施例では,
図2(A)及び(B)に示すように,傾斜屋根10の上端に上空域Uの風向と平行な風当たり部16又は遮蔽物1の屋上面1aを接続し,風当たり部16の上面又は遮蔽物1の屋上面1aに当たる風Bをコアンダ効果により傾斜屋根10の上面に沿って地表面Eへ導く。この場合は,
図2(C)に示すように,傾斜屋根10の中間部に傾斜屋根10の上面に沿って流れる風Bを剥離させない角度γの下向きの折れ曲げ部17を設けることができる。
【0014】
更に好ましい実施例では,
図3(A)に示すように,傾斜屋根10の下流側の風の流路に,傾斜屋根10の下端部より高い位置から流路に沿って下向き又は上向きに傾斜させた風送り屋根20を設け,その風送り屋根20の下方に呼び込んだ風Bを通過させることにより風速を高める。
【発明の効果】
【0015】
本発明による屋外地表面の風呼び込み方法及び構造は,建物その他の遮蔽物1,2により風の通りが阻害された屋外地表面Eの上方に,
遮蔽物1,2より高い風Bの通る上空域Uの高さからその上空域Uの風向に沿って地表面E付近まで下向きに傾斜させた平面状又は曲面状の傾斜屋根10を設け,傾斜屋根10により上空域Uの風Bを地表面Eへ呼び込むので,次の有利な効果を奏する。pp
【0016】
(イ)夏季に都市の上空域Uに流れる涼しい海風Bを屋外地表面Eへ呼び込むことにより,風の通りが阻害された地表面E付近の体感温度を下げて夏季の暑さ和らげ,快適性を向上させることができる。
(ロ)傾斜屋根10は,下面又は上面の何れを流れる風Bも地表面Eへ導くことができ,現場上空の風の状況に応じて高さや位置,傾斜角度を適宜調整することも可能である。
(ハ)傾斜屋根10の下面に沿って風Bを呼び込む場合は,傾斜屋根10の下端部に下向きの突起部又は拡幅部15を設けて風Bの流線を地表面Eへ向けると同時に,傾斜屋根10の下面から風Bを剥離することにより風Bの乱れを生じさせ,その乱れの渦によって風Bを地表面Eへ一層近付けることできる。
【0017】
(ニ)また,傾斜屋根10の上面に沿って風Bを呼び込む場合は,傾斜屋根10の中間部に下向きの折れ曲げ部17を設けることにより,風Bをより地表面Eに近い低い場所へ呼び込むことができる。
(ホ)地表面Eに呼び込んだ風Bは,傾斜屋根10の下端部から再び上昇・散逸しうるが,傾斜屋根10の下流側の風の流路に沿って下向き又は上向きに傾斜する風送り屋根20を設けることにより,呼び込んだ風Bの速度を高めて上昇・散逸を抑えることができる。
(ヘ)傾斜屋根10及びその下流側の風送り屋根20を所要間隔で複数設置することにより,面的に広がる地表面Eの全体に風Bを呼び込むこともできる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は,建物1,2によって風の通りが阻害された屋外街路の地表面Eに本発明の風呼び込み構造を適用した実施例を示す。
図1(A)は,
図13の場合と同様に建物1,2に囲まれた街路を示しており,上空域Uには局地風Bが流れているが,地表面Eでは建物1,2その他の遮蔽物によって風の通りが阻害されて弱まっている。そのような街路に本発明を適用することにより,街路の地表面E付近,例えば人の体感温度に影響のある地上から3m程度ないしそれより低い領域に風Bを呼び込む。以下,図示例を参照して本発明の作用を説明するが,本発明の適用対象は建物に囲まれた空間に限定されるわけではなく,様々な理由で風の流れが阻害された地表面Eに広く適用できる。
【0020】
図示例の風呼び込み構造は,地表面Eの少なくとも一部分を覆う傾斜屋根10と,その傾斜屋根10を地表面Eの上方に支持する支持部材12とを有している。傾斜屋根10の一例は,
図1(B)に示すように,風Bの通る上空域Uの高さから風向に沿って地表面E付近まで下向きに傾斜させた平面状部材である。例えば傾斜屋根10の上端部の高さH1を周囲の建物1の屋上面1aの高さH0よりも高く突出させ(H1>H0),上空域Uの高さH1の風Bを傾斜屋根10の上端部の下面側に当て,その風Bを建物1と傾斜屋根10との間隙を介して地表面E付近の高さH2の下端部まで傾斜屋根10の下面に沿って導く。傾斜屋根10の下端部の高さH2は,地表面E上の人や乗り物の通行を妨げない高さ,例えば3〜10m程度とすることができる。ただし,傾斜屋根10は,その表面に沿って風Bを導くことができれば平面状である必要はなく,例えば
図1(F)に示すように傾斜屋根10を曲面状とすることも可能である。
【0021】
支持部材12は,
図1(B)に示すように傾斜屋根10を地表面Eの上方に支持する柱状部材とすることができ,傾斜屋根10の上端が上空部Uの風Bと当たるように適当な高さとする。地表面Eに代えて又は加えて,支持部材12により傾斜屋根10を周囲の建物1,2に支持することも可能である。好ましくは,図示例のように支持部材12に高さ調節手段14を含め,上空部Uの風Bの状況に応じて傾斜屋根10の高さを調節可能とする。また,支持部材12に移動手段を含め,傾斜屋根10を表面E上で移動可能又は撤去可能とすることも可能である。傾斜屋根10を固定とするのではなく,支持部材12の高さや位置を可変とすることで,弱風時にはより高い上空の風Bを取り込み,強風時には降ろし又は撤去することにより傾斜屋根10の周囲に生じるビル風等の影響を防ぐことができる。
【0022】
図1(B)において,傾斜屋根10の下端部からの風の吹き出しは傾斜角度αによっても変わるので,風を吹き出すべき地表面Eの位置に応じて傾斜角度αを適当に設計することができる。上空部Uの風Bの状況に応じて角度αを変更する手段を設けることも可能である。また,傾斜屋根10の材質等にもとくに制限はなく,例えば金属,木,合成樹脂等の剛性材製とするが,ヨットの帆のように布製(人工繊維製,天然繊維製,炭素繊維製等)とすることもできる。この場合は,その布を地表面Eの上方に張る部材を支持部材12とすることができる。傾斜屋根10の色も適宜選択可能であり,例えば太陽光を遮る色とし,或いは透光性又は透明としてもよい。
【0023】
好ましくは,
図1(C)に示すように,傾斜屋根10の下端部に下向きの突起部15を設け,その突起部15によって傾斜屋根10の下面に沿って流れる風Bを下面から剥離させる。
図1(B)に示すように傾斜屋根10の下面に沿って呼び込まれた風Bは,そのまま下端部から放出しても,剥離によって生じた負圧に引っ張られて傾斜屋根10の下端部から上昇して地表面Eに向かわない場合がある(後述する
図4(B)も参照)。夏季の体感温度を下げるためには,傾斜屋根10により呼び込んだ風Bを地表面Eにできるだけ近付けることが有効である。
【0024】
傾斜屋根10の下端部の下向きの突起部15は,
図1(D)に示すように,風の流れを地表面Eへ向けると同時に,傾斜屋根10の表面から剥離させることによって突起部15の背後に乱れ(剥離域R)を生じさせる。その剥離域Rの渦による負圧によって剥離した風が地表面Eへ引き込まれると同時に,剥離によって増加した乱れによりコアンダ効果が高まることによって風が地表面Eへ向くように作用する(後述する
図4(C)も参照)。突起部15の突出長さPによって剥離した風Bの向きを変えることができるが,突出長さPが大きくなりすぎると風Bが弱くなるおそれもあるので,剥離した風Bが所望の強さで地表面Eにできるだけ近付くように突出長さPを設計することが望ましい。また,突起部15に突出長さPを調節する手段を含め,例えば上空部Uの風Bの状況に応じて突出長さPを調整することにより,傾斜屋根10の下端部からの風吹き出し向きを切り替えることも可能である。
【0025】
突起部15に代えて,
図1(E)に示すように,傾斜屋根10の下端部に厚さ方向の幅を拡げた拡幅部15を設け,その拡幅部15によって風Bを傾斜屋根10の表面から剥離させることも可能である。或いは,
図1(F)に示すように,傾斜屋根10の下端部を下向きに曲げ,その下向き曲面によって風Bを傾斜屋根10の下面から剥離させることも有効である。
【0026】
図2は,本発明の風呼び込み構造の他の実施例を示す。
図2の実施例では,上空域Uの風Bを傾斜屋根10の上端部の上面側に当て,その風Bをコアンダ効果によって傾斜屋根10の上面に沿って地表面E付近まで導いている。コアンダ効果とは,乱れを持つ風の流れが周りの空気を取り込む(連行する)ことにより壁の表面に沿って流れようとする,又は,壁に近付こうとする性質である(非特許文献2参照)。
図2の実施例では傾斜屋根10の上面が壁に相当し,傾斜屋根10を適当な傾斜角度βとすることにより,傾斜屋根10の上面に当たった上空域Uの風Bはコアンダ効果によって傾斜屋根10の上面に沿って又は上面に近付くように流れようとする。
図1のような傾斜屋根10の下面に沿った呼び込みに代えて,
図2のように上空域Uの風Bを傾斜屋根10の上面に沿って呼び込むことにより,傾斜屋根10の直下の地表面Eには風を呼び込めないものの,呼び込んだ風Bを地表面Eに近付けると共に地表面Eに沿った広い範囲に流すことができる(後述する
図5(B)参照)。
【0027】
上空域Uの風Bを傾斜屋根10の上面側に沿って流すため,例えば
図2(B)に示すように,傾斜屋根10の上端を周囲の建物1の屋上面1aに接続し,建物1の屋上面1aと傾斜屋根10とで連続した凸状曲面を形成することにより,屋上面1aに当たる風Bをコアンダ効果によって傾斜屋根10の上面に沿って地表面E付近の下端部まで導く。この場合の傾斜屋根10の屋上面1aに対する傾斜角度βは,屋上面1aと傾斜屋根10とがコアンダ効果を生じやすい曲面となるように,例えば10〜15°程度とすることが望ましい(非特許文献3及び4参照)。この場合の支持部材12は,傾斜屋根10の上端と建物1の屋上面1aとを結合する部材として機能する。
【0028】
或いは,
図2(A)に示すように,傾斜屋根10の上端に上空域Uの風向と平行な風当たり部16を接続し,風当たり部16と傾斜屋根10とで連続した凸状曲面が形成することにより,風当たり部16の上面に当たる風Bをコアンダ効果により傾斜屋根10の上面に沿って導くことも考えられる。図示例の風当たり部16は,例えば上空域Uの風向と平行な平面状部材とすることができ,傾斜角度βを10〜15°程度で傾斜屋根10と一体的に接続することができる。傾斜屋根10の風当たり部16の風向長さSが短すぎると風の乱れを生じ,コアンダ効果によって風Bを導くことが難しくなるので,コアンダ効果を生じるために十分な長さSの風当たり部16を設計することが望ましい。
【0029】
図2(A)の風当たり部16を接続した傾斜屋根10は,支持部材12によって地表面Eの上方に支持する。
図2(B)の場合と異なり,傾斜屋根10と建物1とは結合されていないので,
図1の場合と同様に,高さ調節手段14及び移動手段を支持部材12に含めることにより,上空部Uの風Bの高さに応じて傾斜屋根10及び風当たり部16の高さや位置を調節することができる。また,
図2(A)のように風当たり部16を接続した傾斜屋根10は,その上面に沿って上空域Uの風をコアンダ効果によって地表面Eへ導くと同時に,
図1(B)の場合と同様に,その下面に当たる風を建物1と傾斜屋根10との間隙を介して地表面Eに導くことも期待できる。
【0030】
好ましくは,
図2(C)に示すように,傾斜屋根10の中間部に下向きの折れ曲げ部17を設け,その折り曲げ部17により傾斜屋根10の上面に沿って流れる風Bをより低い場所(地表面Eに近い場所)へ呼び込む。例えば屋上面1aに対する傾斜屋根10の傾斜角度βをコアンダ効果が得やすい10〜15°程度とし,その傾斜屋根10の上流側に対する下流側の折り曲げ部17の傾斜角度γを同様にコアンダ効果が得やすい10〜15°程度とする。折り曲げ部17によって風の流れを傾斜屋根10の上面に沿わせながらより地表面Eへ向け,傾斜屋根10の下端部10から放出された風Bを地表面Eに沿って遠くまで送ることができる(後述する
図5(C)参照)。必要に応じて,傾斜屋根10に対する折り曲げ部17の折り曲げ角度γを調節可能としてもよい。
【0031】
[実験例1]
図1に示す風呼び込み構造の効果を確認するため,
図4(A)に示すように建物1,2によって風の通りが阻害された屋外地表面Eにおいて,建物1,2の屋根上2m高さで秒速5mの上空域Uの風Bを想定し,その上空域Uの風Bを
図1の傾斜屋根10によって地表面Eへ呼び込むと共に,その傾斜屋根10の下流側の地表面Eに所要間隔D2,D3で水平な風送り屋根30,30を設置した場合の風速分布を数値流体力学(CFD)シミュレーションにより算出する実験を行った。実験結果を
図4(B)に示す。
図4(B)の風速分布表示において,白色に近い部分は風速が大きいことを表し,黒色に近付くほど風速が遅くなることを表している。
【0032】
図4(B)の実験結果は,
図1(B)のように傾斜屋根10の上端部の下面側に上空域Uの風Bを当て,その風Bを傾斜屋根10の下面に沿って下端部まで導くことにより,地表面E付近に風Bを呼び込むことができることを示している。ただし,下端部から放出された風Bは剥離により生じた負圧に引っ張られて傾斜屋根10の下端部から上昇してしまい,地表面Eに向かわせることはできていない。従って,
図1(B)のような構造によって地上3m程度にまで風Bを呼び込むためには,傾斜屋根10の下端部の高さH2を地上3m程度に設計することが有効である。
【0033】
続いて,
図1(C)のように傾斜屋根10の下端部に下向きの突起部15を設けた場合の風速分布を数値流体力学シミュレーションにより算出する実験を行った。実験結果を
図4(C)に示す。
図4(C)の実験結果は,傾斜屋根10の下端部に下向きの突起部15を設けることにより,傾斜屋根10の下端部まで導いた風Bを地表面Eへ向けて噴き出すことができ,地上3mより低い地表面Eにまで風Bを呼び込むことができることを示している。
【0034】
図4(D)は,上述した
図4(B)及び
図4(C)のシミュレーションによる地表面Eの各地点の風速を示している。同グラフにおいて,横軸は地表面E上の基準点(2つの水平な風送り屋根30のうち上流側の中央部)と各地点との間の距離を表し,縦軸は各地点における地上高さ1.5mの風速(正の風速差は左向きの風,負の風速差は右向きの風)を表す。このグラフから,
図1(C)のような突起部15付き傾斜屋根10を用いることにより,建物1,2の屋根上2m高さの上空域Uと同程度の強さの風(秒速5m程度)を地表面E付近の地上高さ1.5mまで呼び込むことができることが確認できた。
【0035】
[実験例2]
図2に示す風呼び込み構造の効果を確認するため,
図5(A)に示すように建物1の屋上面1aに上端を接続した傾斜屋根10を上流側に設置すると共に,その下流側に水平な風送り屋根30,30を設置し,建物1,2の屋根上2m高さの上空域Uに秒速5mで吹く風Bを呼び込んだ場合の風速分布を数値流体力学(CFD)シミュレーションにより算出する実験を行った。実験結果を
図5(B)に示す。同図の風速分布表示においても,白色に近い部分は風速が大きいことを表し,黒色に近付くほど風速が遅くなることを表している。
【0036】
図5(B)の実験結果は,
図2(B)のように傾斜屋根10の上端部の上面側に上空域Uの風Bを当て,その風Bをコアンダ効果によって傾斜屋根10の上面に沿って下端部まで導くことにより,地表面E付近に風Bを呼び込むことができることを示している。
図4(B)との比較から分かるように,上空域Uの風Bを傾斜屋根10の上面に沿って導いた場合も,傾斜屋根10の下端部から放出された風Bを地表面Eに向かわせ,地上3m程度にまで風Bを呼び込むことができる。更に,傾斜屋根10で呼び込んだ風Bを水平な風送り屋根30,30の下方へ導くことにより,風Bの上昇・散逸を抑えながら,風Bを地表面Eに沿った広い範囲に流すことができる。
【0037】
続いて,
図2(C)のように傾斜屋根10の中間部に下向きの折れ曲げ部17を設けた場合の風速分布を数値流体力学シミュレーションにより算出する実験を行った。実験結果を
図5(C)に示す。
図5(D)は,上述した
図5(B)及び
図5(C)のシミュレーションによる地表面Eの各地点の風速を,上空域Uの風速(秒速5m)を基準として表したグラフを示す。
図4(D)の場合と同様に,
図5(D)のグラフの横軸は地表面E上の基準点(2つの水平な風送り屋根30のうち上流側の中央部)と各地点との間の距離を表し,縦軸は各地点における地上高さ1.5mの風速(正の風速差は左向きの風,負の風速差は右向きの風)を表す。
【0038】
図5(C)及び
図5(D)の実験結果は,傾斜屋根10の中間部の折れ曲がり部17によって傾斜屋根10の上面に沿って流れる風Bをより低い場所へ呼び込むことができ,そのような折れ曲がり部17を設けない場合(
図5(B))に比して,傾斜屋根10の下端部から放出された風Bを地表面Eにより近付けることができることを示している。また,風Bの上昇・散逸を抑えながら,風Bを地表面Eに沿った広い範囲に流すことができることを示している。
【0039】
こうして本発明の目的である「建物等によって風の通りが阻害された屋外地表面に上空域の風を呼び込む方法及び構造」の提供を達成することができる。
【0040】
なお,上述したように傾斜屋根10を移動式又は撤去式とすることによって強風時等に傾斜屋根10の周囲に生じる不規則な風の発生を防ぐこともできるが,例えば
図12に示すように,周囲の建物1の屋上に設置した遮蔽板18によって強風時等に傾斜屋根10の周囲に生じる不規則な風の発生を防ぐこともできる。すなわち,周囲の遮蔽物の屋上等に遮蔽板18を取り外し可能に設置できる場合は,傾斜屋根10を固定式としても,弱風時には遮蔽板18を取り外して高い上空の風Bを取り込み,強風時には遮蔽板18を設置して傾斜屋根10により発生する不規則な風の影響を防ぐことができる。
【実施例1】
【0041】
図3は,傾斜屋根10の下流側の風の流路に,
図1及び
図2のような水平な風送り屋根30に代えて,流路に沿って下向き又は上向きに傾斜させた風送り屋根20を設けた実施例を示す。
図4及び
図5のシミュレーション結果から分かるように,本発明では傾斜屋根10によって上空域Uの風Bを地表面E付近まで呼び込み,好ましくは人の体感温度に影響のある地上3m程度より下方にまで呼び込むことができるが,呼び込んだ風Bは再び上昇・散逸してしまう。呼び込んだ風Bを地表面Eに沿って広い範囲に届けるためには,呼び込んだ風Bの風速を高めて上昇・散逸をできるだけ抑えることが望ましい。
図3に示すように,傾斜屋根10の下流側の風の流れに沿って下向き又は上向きに傾斜させた風送り屋根20を設け,傾斜屋根10により呼び込んだ風Bを風送り屋根20の下方に通過させることにより,呼び込んだ風Bの速度を高めることができる。
【0042】
図3(A)は,上述した
図1(C)の下端突起部15付き傾斜屋根10の下流側の空気流路に,上流端を傾斜屋根10の下端部より高くし,下流側を風の流れに沿って下向きに傾斜させた風送り屋根20aを設けた実施例を示す。傾斜屋根10の下端部から噴き出した風を風送り屋根20aの上流端に送り込み,風送り屋根20aの下流側を下向きに傾斜させて風の流路断面積を徐々に狭めることにより,風送り屋根20aの下方を吹き抜ける風Bの風速が縮流効果によって高まる。縮流効果(ノズル効果)は風送り屋根20aの流路方向の長さ及び下向きの傾斜角度εにより変わるが,傾斜角度εが大きすぎると風送り屋根20aの下方に取り込まれる風量が減少しうるので,地表面Eにおいて快適な風速・風量の風が作り出せるように風送り屋根20aの流路方向の長さ及び下向きの傾斜角度εを数値計算又は実験により設計することができる。
【0043】
図3(A)の風送り屋根20aは支持部材22により地表面Eの上方に支持されているが,
図1の傾斜屋根10の場合と同様に,風送り屋根20aを周囲の建物1,2に支持することも可能である。また,図示例のように支持部材22に高さ調節手段24を含め,必要に応じて風送り屋根20aの高さを調節することができる。更に,支持部材22に移動手段,及び傾斜角度を変更する手段を含め,必要に応じて風送り屋根20aの位置や傾斜角度を可変とすることも可能である。
【0044】
[実験例3]
図3(A)の風送り屋根20aによる風加速効果を確認するため,
図6(A)に示すように,
図1(C)の傾斜屋根10の下流側に
図3(A)の風送り屋根20aを設置した場合の風速分布を数値流体力学シミュレーションにより算出する実験を行った。実験結果を
図6(B)に示す。また,
図6(B)のシミュレーションによる地表面E付近の各地点の風速(地上高さ1.5mの風速)を,
図4(C)のシミュレーションによる風速と比較したグラフを
図6(C)に示す。
図6(B)の風速分布の表示方法,
図6(C)の縦軸及び横軸の表示方法は,何れも上述した
図4及び
図5の場合と同様である。
【0045】
図6(B)及び
図6(C)の実験結果は,
図3(A)のように風の流れに沿って下流側を下向きに傾斜させた風送り屋根20aの下方を通過させることにより,
図1(C)のように地表面Eと平行(水平)な風送り屋根30の下方を通過させた場合に比して,傾斜屋根10により呼び込んだ地表面E上の風Bの速度を高めることができることを示している。なお,
図6の実験では,風送り屋根20aの下流側に水平な風送り屋根30を設けているが,風送り屋根30も風送り屋根20と同様に風の流れに沿って下向きに傾斜させることにより,地表面E上の風Bの速度を更に高めることも期待できる。
【0046】
図7(A)は,
図2(B)の傾斜屋根10の下流側に
図3(A)の風送り屋根20aを設置した場合の風速分布を数値流体力学シミュレーションにより算出した実験を示し,
図7(B)はその実験結果を示す。更に,
図7(B)のシミュレーションによる地表面E付近の各地点の風速(地上高さ1.5mの風速)を,
図5(B)のシミュレーションによる風速と比較したグラフを
図7(C)に示す。
図7(B)及び(C)の実験結果からも,上述した
図6の実験結果と同様に,
図3(A)の下向き傾斜の風送り屋根20aの下方を通過させることにより,地表面E上の風Bの風速を高めることができることを確認することができる。
【実施例2】
【0047】
図3(B)は,上述した
図1(C)の下端突起部15付き傾斜屋根10の下流側に,傾斜屋根10の下端部の高さから流路に沿って上向きに傾斜させた風送り屋根20bを設けた実施例を示す。傾斜屋根10の下端部から噴き出した風を風送り屋根20bの上流端に送り込み,風送り屋根20bの下流側を上向きに傾斜させて風の流路断面積を徐々に拡げることにより,
図3(D)に示すように風の流れの剥離を発生させて再循環領域R(剥離域)を形成する。この再循環領域Rの負圧によって,風送り屋根20bの上流端(ディフューザーの入口)から風Bが吸い込まれるように風送り屋根20bの下方へ流れ込み,風送り屋根20bの下方(ディフューザーの内部)において風速が高まる効果(ディフューザー効果)が得られる。
【0048】
図3(B)の風送り屋根20bによる風加速効果(ディフューザー効果)は,風送り屋根20bの流路方向の長さ及び上向きの傾斜角度δによって変わるので,風送り屋根20bの下方において快適な風速の風が作り出せるように風送り屋根20bの流路方向の長さ及び上向きの傾斜角度δを数値計算又は実験により設計することが望ましい。なお,図示例の風送り屋根20bは支持部材22により地表面Eに支持しているが,上述した
図3(A)の場合と同様に,風送り屋根20bを周囲の建物1,2に支持することも可能であり,支持部材22に高さ調節手段24,移動手段,傾斜角度を変更する手段等を含めることも可能である。
【0049】
[実験例4]
図3(B)の風送り屋根20bによる風加速効果を確認するため,
図8(A)に示すように,
図1(C)の傾斜屋根10の下流側に
図3(B)の風送り屋根20bを設置した場合の風速分布を数値流体力学シミュレーションにより算出する実験を行った。実験結果を
図8(B)に示す。また,
図8(B)のシミュレーションによる地表面E付近の各地点の風速(地上高さ1.5mの風速)を,
図4(C)のシミュレーションによる風速と比較したグラフを
図8(C)に示す。
図8(B)の風速分布の表示方法,
図8(C)の縦軸及び横軸の表示方法は上述した
図4及び
図5の場合と同様である。
【0050】
図8(B)及び
図8(C)の実験結果は,
図3(B)のように風の流れに沿って上向きに傾斜させた風送り屋根20bを用いることにより,
図1(C)のような水平な風送り屋根30を用いた場合に比して,地表面E上の風Bの速度を高めることができることを示している。すなわち,風送り屋根20の下方において通過する風を上空部Uと同様の風速(秒速5m程度)に維持することができ,上空域Uの涼しい風Bを地表面Eの広い範囲に届けることができる。また,
図6と
図8との比較から,
図3(B)のような上向き傾斜の風送り屋根20bを用いることにより,
図3(A)のような下向き傾斜の風送り屋根20aを用いた場合よりも優れた風Bの加速効果が得られることが分かる。この実験結果から,
図1の傾斜屋根10と
図3(B)の風送り屋根20bとの組合せにより,上空域の涼しい風Bを地表面Eの広い範囲に呼び込むことができ,地表面Eの体感温度の抑制と快適性の向上に極めて有効であることが確認できた。
【0051】
また
図9(A)は,
図2(B)の傾斜屋根10の下流側に
図3(B)の風送り屋根20bを設置した場合の風速分布を数値流体力学シミュレーションにより算出した実験を示し,
図9(B)はその実験結果を示す。更に,
図9(B)のシミュレーションによる地表面E付近の各地点の風速(地上高さ1.5mの風速)を,
図5(B)のシミュレーションによる風速と比較したグラフを
図9(C)に示す。
図9(B)及び(C)の実験結果からも,上述した
図8の場合と同様に,
図2の傾斜屋根10と
図3(B)の風送り屋根20bとの組合せが,上空域の涼しい風Bを地表面Eの広い範囲に呼び込み,地表面Eの体感温度の抑制と快適性の向上に極めて有効であることが確認できる。
【実施例3】
【0052】
図3(C)は,上述した
図1(C)の下端突起部15付き傾斜屋根10の下流側に,風の流れに沿って上向きに傾斜させた屋根と下向きに傾斜させた屋根とを下端部同士で連結させ,中間部を最も低くしたV字型の風送り屋根20cを設けた実施例を示す。傾斜屋根10の下端部から噴き出した風を風送り屋根20cの上流端に送り込み,風送り屋根20cの下方の風の流路断面積を中間部において狭めることにより,上述した風送り屋根20aによる縮流効果(ノズル効果)と風送り屋根20bによる再循環領域Rの負圧形成効果(ディフューザー効果)とを組み合わせた効果によって風送り屋根20cの下方を吹き抜ける風Bの風速が高まる。すなわち,傾斜屋根10により地表面E付近に呼び込んだ風を風送り屋根20cの下方に通過させることにより,呼び込んだ風Bの風速を高めることができる。
【0053】
図3(C)の風送り屋根20cによる風加速効果も,流路方向の長さ,上流部の下向きの傾斜角度ε,及び下流部の上向きの傾斜角度δによって変わるので,風送り屋根20cの下方において快適な風速の風が作り出せるように,風送り屋根20cの流路方向の長さ,下向きの傾斜角度ε,及び上向きの傾斜角度δを数値計算又は実験により設計することが望ましい。また,上述した
図3(A)及び(B)の場合と同様に,風送り屋根20cも地表面Eに代えて地表面E周囲の建物1,2に支持することが可能であり,支持部材22に高さ調節手段24,移動手段,傾斜角度を変更する手段等を含めることも可能である。
【0054】
[実験例5]
図3(C)の風送り屋根20cによる風加速効果を確認するため,
図10(A)に示すように,
図1(C)の傾斜屋根10の下流側に
図3(C)の風送り屋根20cを設置した場合の風速分布を数値流体力学シミュレーションにより算出する実験を行った。実験結果を
図10(B)に示す。また,
図10(B)のシミュレーションによる地表面E付近の各地点の風速(地上高さ1.5mの風速)を,
図4(C)のシミュレーションによる風速と比較したグラフを
図10(C)に示す。
図10(B)及び
図10(C)の実験結果は,
図3(C)のように中間部において風の流路断面積を狭めた風送り屋根20cを用いた場合にも,
図1(C)のように水平な風送り屋根30を用いた場合に比して,地表面E上の風Bの速度を高めることができることを示している。
【0055】
また
図11(A)は,
図2(B)の傾斜屋根10の下流側に
図3(C)の風送り屋根20cを設置した場合の風速分布を数値流体力学シミュレーションにより算出した実験を示し,
図11(B)はその実験結果を示す。更に,
図11(B)のシミュレーションによる地表面E付近の各地点の風速(地上高さ1.5mの風速)を,
図5(B)のシミュレーションによる風速と比較したグラフを
図11(C)に示す。
図11(B)及び(C)の実験結果からも,上述した
図10の実験結果と同様に,
図3(C)のような風送り屋根20cの下方を通過させることにより,地表面E上の風Bの風速を高めることができることを確認できる。