(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。
【0016】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。また、組成物中の各成分の量は、特に断らない限り、各成分に複数の種類の物質が含まれる場合に複数の種類の物質を合計した量で表す。
また、本明細書において、「金型清掃用樹脂組成物」を、単に「樹脂組成物」と称する場合がある。
さらに、本明細書において、「成形金型の内部表面」とは、成形金型により成形される被成形物と接する領域を意味する。なお、本明細書中では、「成形金型」を、単に「金型」と称する場合がある。
【0017】
[金型清掃用樹脂組成物]
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、メラミン系樹脂と、金属石鹸と、繊維状無機化合物と、針葉樹パルプとを含み、前記金属石鹸の含有量が前記金型清掃用樹脂組成物100質量部に対して1.6質量部以上5.0質量部以下である。本発明の金型清掃用樹脂組成物は、必要に応じて、更に他の成分を用いて構成されてもよい。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、メラミン系樹脂と特定の量の金属石鹸と繊維状無機化合物と針葉樹パルプとを含むため、流動性と金型清掃性能とを良好に維持し、かつ清掃後に成形金型から汚染物質が付着した樹脂組成物を除去する工程でのチッピングの抑制が期待される。これは、例えば以下のように考えることができる。
【0019】
通常、メラミン系樹脂を含む金型清掃用樹脂組成物において、金属石鹸を多量に加えると、金型清掃用樹脂組成物の内部強度が極端に低下し、金型清掃後の金型清掃用樹脂組成物の取り出し作業時に金型清掃用樹脂組成物が脆くなる(チッピングが起きる)ため、作業性が著しく低下する。樹脂組成物の内部強度の低下は、パルプ等の添加物により抑制できることが知られている。しかしながら、たとえばパルプ単独または繊維状無機化合物単独で用いた場合では、金型清掃用樹脂組成物内でパルプまたは繊維状無機化合物の絡み合いが不十分であり内部強度が依然として低い。さらに、広葉樹パルプと繊維状無機化合物とを組み合わせて用いた場合、広葉樹パルプの繊維が短く細いため、これらを組み合わせて用いても互いの絡み合いが不十分であり内部強度が依然として低い。詳細なメカニズムは不明だが、本発明の樹脂組成物は、針葉樹パルプと繊維状無機化合物とを組み合わせて用いるため、針葉樹パルプと繊維状無機化合物とが金型清掃用樹脂組成物内で互いに絡み合い、金型清掃用樹脂組成物100質量部に対して1.6質量部以上という多量の金属石鹸を含んでも内部強度が十分となり、清掃後の成形金型からの除去工程でのチッピングの発生を抑制できる。
なお、樹脂組成物の内部強度は、たとえばテンシロンを用いて樹脂組成物の曲げ強度を測定することで評価できる。
【0020】
[メラミン系樹脂]
本発明の樹脂組成物は、メラミン系樹脂を含む。
メラミン系樹脂とは、メラミン樹脂、メラミン−フェノール共縮合樹脂、またはメラミン−ユリア共縮合樹脂をいう。
本発明では、これらの中から1種以上を選択して用いる。
【0021】
前記メラミン樹脂は、トリアジン類と、アルデヒド類との縮合物である。前記トリアジン類は、たとえばメラミン、ベンゾグアナミンおよびアセトグアナミンが挙げられる。前記アルデヒド類は、たとえばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドが挙げられる。
なお、本明細書において、メラミンとホルムアルデヒドとの縮合物を、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂と称する。
【0022】
前記メラミン−フェノール共縮合樹脂は、トリアジン類と、フェノール類と、アルデヒド類との共縮合物である。前記フェノール類は、たとえばフェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノールおよびブチルフェノールが挙げられる。
【0023】
前記メラミン−ユリア共縮合樹脂は、トリアジン類と、ユリア類と、アルデヒド類との共縮合物である。
前記メラミン−フェノール共縮合樹脂及び前記メラミン−ユリア共縮合樹脂においては、原料中のトリアジン類とフェノール類との合計量、あるいは原料中のトリアジン類とユリア類との合計量のうち、トリアジン類は例えば30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であり、100質量%未満である。
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、メラミン系樹脂以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の種類の樹脂、例えば、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、及びゴム類からなる群より選択される一つ以上を含むことができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、メラミン系樹脂を含むため、成形金型の内部表面上に存在する汚染物質に対し優れた金型清掃性能を発揮する。メラミン系樹脂は、極性の高いメチロール基を有している。本発明の樹脂組成物は、極性の高いメチロール基が、熱硬化性樹脂組成物を含む封止成形材料に由来する汚染物質に作用して、優れた金型清掃性能を示す。
また、メラミン系樹脂が熱に対して安定なため、金型清掃時の成形金型の一般的な温度である160〜190℃付近においても、本発明の樹脂組成物は、安定した金型清掃性能を示す。
【0025】
[金属石鹸]
本発明の樹脂組成物は、金属石鹸を含む。
金属石鹸とは、炭素数12〜20の脂肪酸と、アルミニウム、カルシウム、亜鉛およびマグネシウムから選択される金属と、から構成される脂肪酸の金属塩である。
本発明の樹脂組成物が含む金属石鹸は、清掃時に樹脂組成物の流動性が向上しメラミン系樹脂が成形金型の内部表面上に存在する汚染物質に作用しやすくなる滑剤としての効果と、成形金型の内部表面上に存在する汚染物質との親和性を高め、汚染物質に直接作用する洗浄剤としての効果とを示す。
【0026】
本発明の樹脂組成物が含む金属石鹸は、たとえばステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムが挙げられる。
【0027】
本発明の樹脂組成物が含む金属石鹸の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して1.6質量部以上5.0質量部以下である。より好ましくは、樹脂組成物100質量部に対して1.8質量部以上3質量部以下であり、さらに好ましくは1.8質量部以上2.3質量部以下である。
樹脂組成物が含有する金属石鹸の量が過剰であると、金型清掃工程において、成形金型の内部表面上に金属石鹸が過剰に付着、残存し、新たな汚染物質となる。つまり、金属石鹸が過剰である樹脂組成物は、清掃とは逆の作用、つまり成形金型の内部表面上を汚染する作用を示す。
本発明の樹脂組成物は、金属石鹸の含有量が1.6質量部以上のため、前述した滑剤効果と洗浄剤効果とにより従来の樹脂組成物よりも格段に優れた清掃性能を示し、また5.0質量部以下のため、金型清掃時に金属石鹸が成形金型の内部表面上に残存せず、清掃性能が良好であるとともに、樹脂組成物の内部強度が低下せず、清掃後にチッピングが起きない。
【0028】
なお、特開平8−57865号(特許文献1)には、清掃性能の向上のため、金属石鹸に代表される滑剤の含有量が、樹脂組成物100質量部に対し1.5質量部以下が好ましいと記載されている。本発明者は、本発明の樹脂組成物が含む金属石鹸の含有量が、たとえば樹脂組成物100質量部に対し1.6質量部以上であっても、十分に金型清掃が行える理由を以下のように考えている。
本発明の樹脂組成物は、針葉樹パルプと繊維状無機化合物とを含むため、前述したようにこれらの絡み合いの効果により内部強度が十分である。そのため、内部強度を弱める方向に作用する金属石鹸を多量に含んでも内部強度が低下しない。
【0029】
本発明の樹脂組成物が含む金属石鹸は、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛に代表される脂肪酸亜鉛であることが好ましい。前記金属石鹸が脂肪酸亜鉛であれば、成形金型の内部表面上に存在する汚染物質への親和性が高く、金型清掃性能が高いため好ましい。
【0030】
なお、本発明の樹脂組成物が含む金属石鹸の種類および含有量は、蛍光X線分析法およびガスクロマトグラフィー質量分析法により金属種および脂肪酸を確認し求められる。
【0031】
[繊維状無機化合物]
本発明の樹脂組成物は、繊維状無機化合物を含む。
繊維状無機化合物とは、たとえばガラス繊維、金属繊維、セラミックス繊維のような繊維状の無機化合物(無機繊維)である。
前記金属繊維は、たとえばスチールファイバー、ステンレスファイバーが挙げられる。
前記セラミックス繊維は、たとえばアルミナ繊維、シリカ繊維、チタン酸カリウム繊維、炭酸カルシウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、炭化ケイ素繊維、ジルコニア繊維、窒化ケイ素繊維、硫酸マグネシウム繊維、酸化亜鉛繊維が挙げられる。
前記繊維状無機化合物の形状は、特に限定されないが、断面が真円状でも扁平状でもよい。また、代表的な前記繊維状無機化合物の平均繊維長は5μm〜30μmの範囲であり、平均繊維径は0.1μm〜1.0μmの範囲であり、アスペクト比は10〜60の範囲である。なお、繊維状無機化合物の繊維長、繊維径、及びアスペクト比は、電子顕微鏡を用いて確認できる。
前記繊維状無機化合物は、単独で用いてもよく、複数の種類の繊維状無機化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の樹脂組成物が含む繊維状無機化合物は、清掃時に成形金型の内部表面上に存在する汚染物質へ作用し、樹脂組成物と汚染物質とが接着する作用効果と、樹脂組成物中の内部強度を高める作用効果とを示す。
【0033】
本発明の樹脂組成物が含む繊維状無機化合物(無機繊維)は、セラミックス繊維が好ましい。
前記繊維状無機化合物がセラミックス繊維であれば、前述した作用効果が特に優れ、かつ清掃時の繊維状無機化合物による清掃金型表面への傷つきが極めて小さいため好ましい。
なお、前記セラミックス繊維の表面は、たとえばエポキシシラン系、アミノシラン系、メタクリロキシシラン系等のシランカップリング剤や各種樹脂を用いて表面処理されることが好ましい。本発明の樹脂組成物は、表面処理されたセラミックス繊維を含むことで、繊維状無機化合物とメラミン系樹脂との密着性が向上し、樹脂組成物の内部強度がより一層向上する。
【0034】
前記セラミックス繊維は、たとえばホウ酸アルミニウム繊維である四国化成工業株式会社製 商品名アルボレックスY、アルボレックスM20、アルボレックスYS3A、アルボレックスYS2B、アルボレックスYS4、チタン酸カリウム繊維である大塚化学ホールディングス株式会社製 商品名ティスモD、ティスモL、ティスモD101、ティスモD102、硫酸マグネシウム繊維である宇部興産株式会社製 商品名モスハイジ、炭酸カルシウム繊維である丸尾カルシウム株式会社製、商品名ウイスカルA、アルミナ−シリカ繊維である株式会社ITM製、商品名FXLバルクファイバーがそれぞれ市販されている。
【0035】
本発明の樹脂組成物が含む繊維状無機化合物は、チタン酸カリウム繊維及びホウ酸アルミニウム繊維からなる群より選択される少なくとも一つを含むことが特に好ましい。すなわち、本発明の樹脂組成物は、前記セラミックス繊維として、チタン酸カリウム繊維及びホウ酸アルミニウム繊維からなる群より選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
前記繊維状無機化合物がチタン酸カリウム繊維及びホウ酸アルミニウム繊維からなる群より選択される少なくとも一つを含めば、前述した作用効果、特に内部強度の向上によるチッピング発生の抑制効果が極めて優れる。また、化学的、熱的に安定であるため、樹脂組成物の製造時、貯蔵時および樹脂組成物を用いた清掃時に安定した作用効果を奏する。さらに、チタン酸カリウム繊維及びホウ酸アルミニウム繊維はいずれも針葉樹パルプとの絡み合いが十分であり、樹脂組成物の内部強度がより一層向上するため好ましい。
【0036】
発明の樹脂組成物が含む繊維状無機化合物の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して1.0質量部以上30.0質量部以下の範囲が好ましく、1.0質量部以上10.0質量部以下の範囲がより好ましく、3.0質量部以上6.0質量部以下の範囲がさらに好ましい。前記範囲が1.0質量部以上であれば、清掃時に成形金型の内部表面上に存在する汚染物質へ作用し、樹脂組成物と汚染物質とが接着する作用効果と、樹脂組成物中の内部強度を高める作用効果を十分に奏するため好ましく、また30.0質量部以下であれば、樹脂組成物の流動性が十分となり、金型のパッケージの隅々まで充填するため好ましい。
【0037】
[針葉樹パルプ]
本発明の樹脂組成物は、針葉樹パルプを含む。
針葉樹パルプとは、アカマツ、エゾマツ、トドマツ、ベイマツ、モミ、カラマツ、パイン、ベイツガ、ベイトウヒなどの針葉樹を原料とするパルプである。
針葉樹パルプは繊維が太く長く、強い強度をもつという特徴がある。一方、広葉樹パルプは、繊維が短く細く表面が滑らかとの特徴がある。従来の金型清掃用樹脂組成物は、流動性を向上させるために、広葉樹パルプが広く用いられている。
本発明の樹脂組成物は、前述したように針葉樹パルプと繊維状無機化合物とを含むため、針葉樹パルプと繊維状無機化合物との絡み合いにより内部強度が向上し、内部強度を弱める方向に作用する金属石鹸を多量に含んでも内部強度が低下せず、清掃後の成形金型からの除去工程でのチッピング発生を抑制できる。
前記針葉樹パルプは市販品が入手可能であり、たとえば日本製紙株式会社製のNSPP1(商品名)等が挙げられる。
【0038】
なお、本発明の樹脂組成物は、本発明の優れた作用効果が失われない範囲で、針葉樹パルプに加えて、広葉樹パルプ、藁パルプ、竹パルプ、コットンパルプなどの繊維状有機化合物を含んでもよい。
【0039】
本発明の樹脂組成物において、前記針葉樹パルプは、メラミン系樹脂が含浸したパルプとして用いることが、樹脂組成物中での分散性が向上し、金型清掃性能のばらつき、内部強度のばらつきが低下するため好ましい。ここで、メラミン系樹脂が含浸したパルプとは、メラミン系樹脂量の少なくとも一部が針葉樹パルプの繊維間の間隙に入り込んだ状態;及びメラミン系樹脂量の少なくとも一部が針葉樹パルプの繊維の表面の一部または全部を被覆した状態からなる群より選択される少なくとも一つにあることを指す。
パルプをメラミン系樹脂で含浸処理する場合、ここで「メラミン系樹脂の少なくとも一部」とは、メラミン系樹脂が複数種類のメラミン系樹脂からなる混合物である場合は、当該混合物の全体に比しての一部を意味し、当該混合物全体と同じ組成を有するものである。
メラミン系樹脂は水溶液の状態で使用するのが好ましい。たとえば、前記メラミン系樹脂含浸パルプは、パルプをメラミン系樹脂水溶液に含浸した後に乾燥して得られる。
【0040】
前記針葉樹パルプのサイズは、特に限定されないが、樹脂組成物の内部強度がより一層向上するため、繊維長で5μm〜1000μmの範囲が好ましく、10μm〜200μmの範囲がより好ましい。パルプの繊維長は、例えばISO16065−2に対応するJIS P8226−2の規定に準拠した方法で測定することができる。
また、前記針葉樹パルプの含有量は、金型清掃工程での樹脂組成物の流動性が向上するため、樹脂組成物100質量部に対して、2質量部以上50質量部以下が好ましく、2質量部以上10質量部以下がより好ましい。
なお、本発明の樹脂組成物が含む針葉樹パルプおよび繊維状無機化合物は、樹脂組成物の内部強度を高める作用効果に加え、金型清掃工程で成形金型の内部表面上に存在する汚染物質に物理的に作用する、いわゆる研磨効果による清掃性能も示す。特に、本発明の樹脂組成物は、針葉樹パルプおよび繊維状無機化合物が適度に絡みあっているため、前述した研磨効果が従来の樹脂組成物よりも優れる。
【0041】
[その他の添加剤]
本発明の樹脂組成物は、本発明の優れた作用効果が失われない範囲で、その他の添加剤を含んでもよい。
具体的には、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、更に、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂類、ゴム類を含んでもよい。また、たとえば、金属石鹸以外の滑剤、着色剤、抗酸化剤に代表される各種の添加剤を含んでもよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、硬化触媒を含んでもよい。前記硬化触媒は、無水フタル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、スルファミン酸、蓚酸、安息香酸、トリメリット酸、p−トルエンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つの有機酸であれば、メラミン系樹脂との反応性の観点から好ましい。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、研磨効果により金型清掃性能を改善できるため、繊維状無機化合物以外の無機充填材を含んでもよい。
前記無機充填材は、炭化ケイ素、酸化ケイ素(シリカ)、炭化チタン、酸化チタン、炭化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウムを例示できる。特に研磨効果が優れるため、酸化ケイ素が好ましい。
なお、これらの無機充填材の組成は、前記繊維状無機化合物の組成と同一であってもよい。
【0044】
[樹脂組成物の調製方法]
本発明の樹脂組成物は、たとえば、前記メラミン系樹脂、前記金属石鹸、前記繊維状無機化合物、前記針葉樹パルプ、必要に応じて用いるその他の添加物を、ニーダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ボールミル、ロール練り機、らいかい機、タンブラー等を用いて、ほぼ均一に混合することにより、調製する。
【0045】
[樹脂組成物の使用方法]
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、トランスファー型成形機に用いられるトランスファータイプの金型清掃用樹脂組成物に好適である。
本発明の樹脂組成物は、通常、タブレット状に加工して、成形金型の内部表面上(成形金型内)の清掃作業に用いられる。詳しくは、成形金型の上にリードフレームを配置した後、タブレット状の樹脂組成物をポット部に挿入し、型締めした後、プランジャーで押し流す。この際、ポット部の樹脂組成物は、ランナー部を経由し、ゲート部を通り、キャビティ内部に流れ込む。所定の成形時間が経過した後、金型を開き、リードフレームと一体となった成形物、すなわち、汚染物質を含む樹脂組成物の成形物を取り除くことで行われる。
本発明の樹脂組成物は、集積回路等の封止成形作業における成形金型の内部表面上に存在する汚染物質を除去するのに好適に用いられる。なお、前記成形金型の材質は、例えば、鉄やクロムなどである。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、及びポリイミド樹脂に代表される熱硬化性樹脂組成物を含む封止成形材料に由来する汚染物質を、成形金型の内部表面上から取り除くのに適している。
特に、鉛、アンチモン、ハロゲン化合物に代表される、環境負荷が大きい配合物を含まないグリーンコンパウンドと呼ばれる封止成形材料を用いた成形後の成形金型内の清掃においても、本発明の樹脂組成物は優れた清掃性能を発揮する。
【0047】
グリーンコンパウンドと呼ばれる金属水酸化物系難燃剤、有機リン系難燃剤を含む封止成形材料またはエポキシ樹脂設計や配合で難燃化を達成できる封止成形材料は、従来の封止成形材料よりも金型への密着性が高く、金型清掃がより困難であった。
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物100質量部に対して金属石鹸を1.6質量部以上含むことにより、清掃性能と作業性とが共に優れるため、グリーンコンパウンドと呼ばれる封止成形材料の封止成形後の成形金型内清掃に適している。
【0048】
[実施例]
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[針葉樹パルプとメラミン−ホルムアルデヒド樹脂とを含むメラミン系樹脂の調製]
(製造例1)
メラミン480質量部と、ホルムアルデヒド(37質量%水溶液)522質量部とを加熱反応し、公知の方法でメラミン−ホルムアルデヒド樹脂を作り、得られた樹脂液に針葉樹パルプ(日本製紙株式会社製 商品名NSPP1)248質量部を加えて混練した後、減圧乾燥、粉末化して、針葉樹パルプ含有メラミン−ホルムアルデヒド樹脂を得た。
【0050】
(製造例2)
メラミン346質量部とホルムアルデヒド(37質量%水溶液)522質量部及びフェノール131質量部とを加熱反応し、公知の方法でメラミン−フェノール共縮合樹脂を作り、得られた樹脂液に針葉樹パルプ248質量部(日本製紙株式会社製 商品名:NSPP1)を加えて混練した後、減圧乾燥、粉末化して、針葉樹パルプ含有メラミン−フェノール共縮合樹脂を得た。
【0051】
(製造例3)
メラミン480質量部と、ホルムアルデヒド(37質量%水溶液)522質量部とを加熱反応し、公知の方法でメラミン−ホルムアルデヒド樹脂を作り、得られた樹脂液に広葉樹パルプ(日本製紙株式会社製 商品名LDPT)248質量部を加えて混練した後、減圧乾燥、粉末化して、広葉樹パルプ含有メラミン−ホルムアルデヒド樹脂を得た。
【0052】
[金型清掃用樹脂組成物の調製]
(実施例1)
製造例1の針葉樹パルプとメラミン−ホルムアルデヒド樹脂とを含むメラミン系樹脂30質量部(うちメラミン−ホルムアルデヒド樹脂として22質量部、針葉樹パルプとして8質量部)およびメラミン系樹脂(製品名:ニカレヂンS−166、日本カーバイド工業株式会社製)50質量部と、シリカ(製品名:純硅石粉、瀬戸窯業原料株式会社製)20質量部と、チタン酸カリウム繊維(製品名:ティスモD、大塚化学株式会社製)5.0質量部と、ミリスチン酸亜鉛1.8質量部と、をボールミルに仕込み、粉砕した。次いで、エチレンビスステアリン酸アミド0.4質量部をナウターミキサーにて加え、実施例1の樹脂組成物を得た。このようにして得た樹脂組成物をタブレット成形して、金型清掃評価に用いた。
なお、樹脂組成物100質量部に対する金属石鹸の量は、1.7質量部である。
【0053】
(実施例2)
表1に記載した組成のとおり、金属石鹸であるミリスチン酸亜鉛を2.0質量部用いて、樹脂組成物100質量部に対する金属石鹸の量を1.9質量部にした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0054】
(実施例3)
表1に記載した組成のとおり、金属石鹸であるミリスチン酸亜鉛を5.0質量部用いて、樹脂組成物100質量部に対する金属石鹸の量を4.5質量部にした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0055】
(実施例4)
表1に記載した組成のとおり、金属石鹸であるラウリン酸亜鉛を2.0質量部用いて、樹脂組成物100質量部に対する金属石鹸の量を1.9質量部にした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0056】
(実施例5)
表1に記載した組成のとおり、金属石鹸であるステアリン酸亜鉛を2.0質量部用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0057】
(実施例6)
表1に記載した組成のとおり、ホウ酸アルミニウム繊維(四国化成工業株式会社製 商品名アルボレックスY)を用い、金属石鹸であるミリスチン酸亜鉛を2.0質量部用い、硬化触媒である安息香酸を0.1質量部用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0058】
(実施例7)
表1に記載した組成のとおり、製造例2のメラミン系樹脂30質量部を用い、ホウ酸アルミニウム繊維(四国化成工業株式会社製 商品名アルボレックスY)を用い、金属石鹸であるミリスチン酸亜鉛を2.0質量部用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0059】
(実施例8)
表1に記載した組成のとおり、繊維状無機化合物であるホウ酸アルミニウム繊維(四国化成工業株式会社製 商品名:アルボレックスY)を用い、金属石鹸であるミリスチン酸亜鉛を2.0質量部用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0060】
(比較例1)
表1に記載した組成のとおり、金属石鹸であるミリスチン酸亜鉛を1.6質量部用いて、樹脂組成物100質量部に対する金属石鹸の量を1.5質量部にした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0061】
(比較例2)
表1に記載した組成のとおり、金属石鹸であるミリスチン酸亜鉛を5.7質量部用いて、樹脂組成物100質量部に対する金属石鹸の量を5.1質量部にした以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0062】
(比較例3)
表1に記載した組成のとおり、製造例3のメラミン系樹脂すなわち広葉樹パルプを含むメラミン系樹脂を用いた以外は、実施例7と同様にして樹脂組成物を得た。
【0063】
(比較例4)
表1に記載した組成のとおり、繊維状無機化合物を用いない以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を得た。
【0065】
[評価]
実施例および比較例のそれぞれの樹脂組成物について、金型清掃性能と金型離型性とを以下に示す方法で評価した。
実施例および比較例の樹脂組成物の組成と評価とを表1にまとめた。
グリーンコンパウンドと呼ばれるエポキシ樹脂成形材料(日立化成株式会社製、商品名CEL−9240HF10)を用い、トランスファー型自動成形機(金型温度:175℃、トランスファー圧:8.7MPa、トランスファー時間:6.5秒、硬化時間:80秒)で、QFP(Quad Flat Package)を500ショット成形し、成形金型の内部表面上を汚れさせた。
内部表面上に汚染物質が存在するこの成形金型を用い、硬化時間を180秒とした以外は上記のエポキシ樹脂成形材料の成形条件と同様にして、各実施例または各比較例の樹脂組成物を繰り返し成形し、金型清掃をおこなった。そして、成形金型の内部表面上に存在する汚染物質が完全に除去できるまでに要したショット数を測定し、このショット数を、樹脂組成物の金型清掃性能を評価するための指標とした。汚染物質が完全に除去できたか否かは、目視にて判断した。
評価に際しては、特に、成形金型のキャビティのゲート部やコーナー部に付着した汚染物質が除去できているかに注目した。今回の評価に用いた成形金型のゲート部は、幅が800μmで、高さが300μmであった。ショット数は、小さいほど金型清掃性能が優れていることを示す。また、1〜3ショットを合格とした。
あわせて、樹脂組成物を用いた清掃工程で、1ショット後に、樹脂組成物のチッピングの有無を目視にて確認し、作業性を評価した。成形後の樹脂組成物の成形金型からの除去工程で、樹脂組成物のチッピング(欠け)が無く金型清掃の作業性が良好であれば「無」とし、チッピングが有り作業性に難が生じれば「有」とした。
【0066】
実施例および比較例のそれぞれの樹脂組成物について、上記の評価方法で金型清掃性能を評価した。実施例1〜8、比較例2〜4のそれぞれの樹脂組成物において、清掃完了までに必要なショット数は3回以下であった。したがって、すべての実施例および比較例2〜4の樹脂組成物は優れた清掃性能を示した。
一方、比較例1の樹脂組成物のショット数は4回であり、いずれの実施例よりも多かった。
この結果からわかるように、本発明の樹脂組成物は、メラミン系樹脂と金属石鹸と繊維状無機化合物と針葉樹パルプを含み、なおかつ金属石鹸の含有量が金型清掃用樹脂組成物100質量部に対して1.6質量部以上5.0質量部以下であるため、優れた清掃性能を示す。
【0067】
また、実施例および比較例のそれぞれの樹脂組成物について、上記の評価方法でチッピングの有無を評価した。すべての実施例および比較例1の樹脂組成物を用いた金型清掃工程では、成形後の樹脂組成物にチッピングが無く、作業性が良好であった。一方、比較例2〜4のそれぞれの樹脂組成物を用いた金型清掃工程では、チッピングが生じ作業性が低下した。
つまり、グリーンコンパウンドの成形後の金型清掃において、すべての実施例の樹脂組成物は清掃性能と清掃後の成形金型からの除去工程での作業性とが優れていた。また、比較例の樹脂組成物は、清掃性能と清掃後の成形金型からの除去工程での作業性との少なくとも一方が劣っていた。
この結果からわかるように、本発明の樹脂組成物は、メラミン系樹脂と金属石鹸とを含み、なおかつ繊維状無機化合物と針葉樹パルプとを含むため、金属石鹸の含有量が樹脂組成物100質量部に対して1.6質量部以上5.0質量部以下と比較的多量であっても清掃後の成形金型からの除去工程における作業性が良好である。
【0068】
実施例2、実施例3及び比較例2のそれぞれの樹脂組成物を用いた清掃時の作業性について、より詳細に評価した。
清掃におけるチッピングは、樹脂組成物が硬化してなる成形物の内部強度が弱いことに起因している。成形物の内部強度は、曲げ強さで表すことができ、また曲げ強さとチッピングの有無とには強い相関関係がある。
それぞれの成形物の曲げ強さはJIS K 6911 熱硬化性プラスチック一般試験方法にしたがい、以下の手順で測定した。まず、トランスファー成形機と試験片成形用金型を用い、成形温度170℃、成形時間3分で金型清掃用樹脂組成物を成形し、高さ(h)4mm、幅(W)10mm、長さ80mmの試験片を得た。引張圧縮試験機を用いて、支点間距離(L
v)64mm、荷重速度2mm/minで試験片に荷重を加え、試験片が折れたときの荷重Pを測定した。式 σ
fB=3PL
v/2Wh
2より、曲げ強さ(σ
fB)を計算した。その結果、実施例2、実施例3及び比較例2の成形物の曲げ強さは、それぞれ180MPa、140MPa、105MPaであった。
上記の結果によれば、清掃時にチッピングが生じない実施例2、実施例3の成形物は、曲げ強さが適度に大きいのに対し、清掃時にチッピングを生じた比較例2の成形物は、曲げ強さが小さい値を示した。また、実施例2の成形物は、実施例3の成形物よりも大きい曲げ強さを示した。
【0069】
以上、実施例および比較例で示したとおり、清掃性能と清掃後の成形金型からの除去工程での作業性とが共に優れる金型清掃用樹脂組成物を提供できた。特に、清掃が困難であるグリーンコンパウンドの成形後の金型清掃においても、本発明の樹脂組成物は優れた性能を示した。