【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のフォトマスクを作製する工程では、低反射膜の表面に直接レジストを塗布していたが、低反射膜とレジストとの密着性が十分ではなく、遮光膜と低反射膜のエッチング工程における仕上がり寸法の変動や、微細なパターンや応力が集中しやすい特定のパターンなどにおいては現像中にレジストパターンが剥離または消失し、パターン寸法精度の劣化や欠陥が発生する場合があった。これは、低反射膜が金属酸化物で構成されるために表面は親水性であり、有機物からなるレジストの濡れ性(密着性)が悪くなるためである。
【0007】
低反射膜の表面とレジストとの密着性を改善する方法として、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理とよばれる表面処理剤によるフォトマスクブランクスの表面の親油化、ブランクスの脱水べーク処理(デハイドレーションベーク)等が知られている。
【0008】
しかしながら、HMDS処理は、専用廃液処理や気密性の高い廃棄処理が必要であるため、特に大画面のフラットパネルディスプレイ装置の製造に用いられるような大型のフォトマスクブランクスに対しては、HMDS処理は困難である。また、脱水べーク処理(デハイドレーションベーク)に関しても、大型のフォトマスクブランクスに対し、クリーンな環境下で180℃以上の高温を達成するのは現実的でない。
【0009】
本明細書の発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、レジストとの密着性を改善できるフォトマスクブランクスを提供すること、および、レジストとの密着性を改善できるフォトマスクを作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一様態に係るフォトマスクブランクスは、
透明基板上に、
遮光膜を備え、
前記遮光膜上に低反射膜を備え、
前記低反射膜の表面に、
前記遮光膜に含まれる金属と同種の金属で構成された透過率に影響しな
い金属薄膜層を備えていることを特徴とする。
【0011】
このフォトマスクブランクスを用いてフォトマスクを作製すると、レジストが親水性の高い低反射膜と直接接することがなく、水素結合が発生せず表面が疎水性(親油性)の金属薄膜層と接することとなる。その結果、フォトマスクブランクスとレジストとの密着性が高まり、レジストと基板との界面に少なくとも表面張力の小さい液の浸入を防ぐことができるため、パターン欠陥の発生が抑えられる。そして、そのフォトマスクを用いてパターニングを行えば、従来よりもパターン寸法(CD:Critical Dimension) 精度を向上させることができる。
【0012】
ここで、単層の金属薄膜層は、透過率に影響しないことが必要であることから、0.5nm〜10nm程度の金属薄膜層であることが好ましく、例えばクロム(Cr)膜などが例示される。フォトマスクブランクスにおける遮光膜にクロム膜、低反射膜に酸化クロム膜を同一の成膜チャンバー内で形成することが可能であり、その場合、そのまま同一の成膜チャンバー内で更に最表面に単層の薄いクロム膜を形成することは極めて容易であるからである。ただし、他の透過率に影響を及ぼさない程度の単層の金属薄膜層であれば、一般に親水性を有さないことから、クロム膜以外の他の金属膜を排除するものではない。また、「単層の金属薄膜層」の中に、成膜雰囲気で混入する例えば酸素、窒素、炭素等の微量の不可避不純物が含まれていても構わない。
【0013】
後述の実施形態で説明するように、このフォトマスクブランクスを使用する際には、最表面に形成される「単層の金属薄膜層」は透過率に影響しない程度の薄膜であるため、下層の低反射膜の低反射特性にも影響せず、フォトマスク製造工程のレジストパターン形成時の露光処理において、低反射膜の効果を損なうことが無い。また、「単層の金属薄膜層」は、遮光膜上の領域に形成されているため、フォトマスク使用時にも除去することなくそのまま用いることができる。
【0014】
本発明の一様態に係る他のフォトマスクブランクスは、
透明基板上に、
遮光膜と低反射膜との2層構造膜、半透過膜又は位相シフト膜を備え、
前記低反射膜、半透過膜又は位相シフト膜の表面に、
透過率に影響しない
島状の金属薄膜層を備えていることを特徴とする。
【0015】
近年のフォトマスクブランクスには、半透過膜や位相シフト膜が用いられるものも存在する。遮光膜とは異なり、半透過膜や位相シフト膜は、一定の透過性を必要とする膜であり、また低反射特性を有するため、透過率に影響を与える低反射膜を形成する必要がなく、ゆえに、フォトマスクブランクスの構成は上記のようになる。なお、単層の金属薄膜層の構成については上述の構成をそのまま適用することができる。
【0016】
このフォトマスクブランクスを用いてフォトマスクを作製すると、レジストが親水性の半透過膜や位相シフト膜と直接接することがなくなるため、レジストとの密着性が高まり、パターン欠陥の発生が抑えられる。
【0017】
本発明の一様態に係る他のフォトマスクブランクスは、
透明基板上に、
膜厚方向において金属
クロムと酸素との比率を変化させた組成傾斜膜を備え、
前記組成傾斜膜の表面に透過率に影響しな
い金属
クロム薄膜層を備えていることを特徴とする。
【0018】
透明基板上に、膜厚方向において金属と酸素との比率を変化させた組成傾斜膜を形成することで、基板側に遮光性を有する組成膜、表面側に低反射特性を有する組成膜を、反応性スパッタ法や蒸着法により、同一の成膜チャンバ内で形成することができるためである。さらに、組成傾斜膜の表面上に、同一の成膜チャンバ内で単層の金属薄膜層も可能である。
連続的な成膜により不要な異物(パーティクル)の混入を防止したり、製品納期の短縮または製造コストの低減に寄与することも可能である。
【0019】
本発明の一様態に係る他のフォトマスクブランクスは、
前記透明基板と前記遮光膜との界面に、金属酸化膜からなる層を備えていることを特徴とする。
【0020】
このような構成とすることにより、透明基板と遮光膜との密着性を向上させることができ、このフォトマスクブランクスを用いてフォトマスクを作製すると、良好な寸法精度を得ることができる。
【0021】
本発明の一様態に係るフォトマスクは、
透明基板上に、
遮光膜のパターンを備え、
前記遮光膜のパターン上に低反射膜のパターンを備え、
前記低反射膜のパターンの表面に
、前記遮光膜に含まれる金属と同種の金属で構成された透過率に影響しな
い金属薄膜層のパターンを備え
ていることを特徴とする。
【0022】
レジストと金属薄膜層との密着性が向上し、さらに金属薄膜層は、透過率に影響を与えず、低反射膜の露光時の特性に影響を与えないため、寸法精度の良好なフォトマスクを提供することができる。
【0023】
本発明の一様態に係る他のフォトマスクは、
透明基板上に、
遮光膜と低反射膜との2層構造膜、半透過膜又は位相シフト膜のパターンを備え、
前記低反射膜、半透過膜又は位相シフト膜のパターンの表面に、透過率に影響しない
島状の金属薄膜層のパターンを
備えていることを特徴とする。
【0024】
このようなフォトマスクの構成とすることにより、半透過膜又は位相シフト膜上に形成された金属薄膜層は、透過率に影響を与えないため、半透過膜又は位相シフト膜の光学的特性を劣化させず、レジストとの密着性を向上し、その結果、パターン寸法精度の良いハーフトーンマスクや位相シフトマスクを提供することができる。
【0025】
本発明の一様態に係る他のフォトマスクは、
透明基板上に、
膜厚方向において金属
クロムと酸素との比率を変化させた組成傾斜膜のパターンを備え、
前記組成傾斜膜の表面に透過率に影響しな
い金属
クロム薄膜層のパターンを備えていることを特徴とする。
【0026】
このような構成とすることにより、フォトマスクの異物による欠陥の発生を低減し、フォトマスクの製造コストの低減も可能となる。
【0027】
本発明の一様態に係る他のフォトマスクは、
前記透明基板と前記遮光膜のパターンとの界面に、金属酸化膜からなる層のパターンを備えていることを特徴とする。
【0028】
このような構成のフォトマスクとすることにより、遮光膜のパターンと透明基板との密着性が向上し、良好な寸法精度を得ることができる。
【0029】
本発明の一様態に係るフォトマスクの製造方法は、
透明基板上に、遮光膜を形成する工程と、
前記遮光膜上に低反射膜を形成する工程と、
前記低反射膜の表面に、
前記遮光膜に含まれる金属と同種の金属で構成された透過率に影響しな
い金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上に接するようにレジストを形成する工程と、
前記レジストを露光、現像し、レジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記金属薄膜層、前記低反射膜および前記遮光膜をエッチングする工程とを含むことを特徴とする。
【0030】
このようなフォトマスクの製造方法とすることにより、金属薄膜層がレジストとの密着性を向上し、エッチング工程において遮光膜パターンの寸法の変動や欠陥の発生を防止することができ、寸法精度の良いフォトマスクを得ることができる。
【0031】
本発明の一様態に係る他のフォトマスクの製造方法は、
透明基板上に、
遮光膜と低反射膜との2層構造膜、半透過膜又は位相シフト膜を形成する工程と、
前記
低反射膜、半透過膜又は位相シフト膜の表面に、透過率に影響しな
い島状の金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層上に接するようにレジストを形成する工程と、
前記レジストを露光、現像し、レジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記金属薄膜層および前記半透過膜又は位相シフト膜をエッチングする工程とを含むことを特徴とする。
【0032】
このようなフォトマスクの製造方法とすることにより、前記半透過膜又は位相シフト膜の寸法の変動や欠陥の発生を防止することができ、寸法精度の良いフォトマスクを得ることができる。