特許第6803186号(P6803186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6803186マスクブランク用基板、多層反射膜付き基板、マスクブランク、転写用マスク及び半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803186
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】マスクブランク用基板、多層反射膜付き基板、マスクブランク、転写用マスク及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20201214BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20201214BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20201214BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   G03F1/24
   G03F1/60
   C03C19/00 Z
   C03C17/36
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-192636(P2016-192636)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-54960(P2018-54960A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】若杉 敏彦
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−082746(JP,A)
【文献】 特開2016−145927(JP,A)
【文献】 特開2010−194705(JP,A)
【文献】 特開2008−151916(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0081943(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00
C03C 15/00−23/00
B24B 7/24
B24B 41/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記主表面を、所定の大きさの加工スポットを所定のスキャンピッチでスキャンすることにより、前記主表面を局所加工する工程を含み、
前記主表面を局所加工する工程の前に、前記主表面の表面形状を測定し、測定した結果に基づいて前記加工スポットの大きさ又は前記スキャンピッチを変更する位置を決定し、
前記主表面の加工開始から加工終了までの間に、前記加工スポットの大きさ及び前記スキャンピッチのうち少なくとも1つを変更することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項2】
前記主表面を局所加工する工程における加工は、前記基板の前記主表面に対して、磁性体粒子を含む研磨液を介在させた状態で磁力を印加可能な研磨部材を近接させ、前記研磨液に前記研磨部材から磁力を印加し、前記研磨液を前記主表面に接触させることによって加工スポットを形成し、前記主表面と前記研磨部材とを相対回転運動させることにより行われることを特徴とする請求項1に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項3】
前記加工スポットの大きさは、前記研磨部材と前記基板との距離、前記相対回転運動の回転数、前記研磨液に印加する磁力の大きさ、及び前記研磨液の粘度から選択される少なくとも一つを変えることにより変更されることを特徴とする請求項に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の製造方法によって得られた基板の前記主表面の一つの上に、裏面導電膜を形成することを含むことを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の製造方法によって得られた基板の前記主表面の一つの上に、多層反射膜を形成することを含むことを特徴とする多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の製造方法によって得られた基板の前記主表面上、又は、請求項に記載の多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、転写パターン用薄膜を形成することを含むことを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項7】
請求項に記載のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの前記転写パターン用薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを含むことを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の転写用マスクの製造方法によって製造された転写用マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク用基板の製造方法、多層反射膜付き基板の製造方法、このマスクブランク用基板又は多層反射膜付き基板を用いたマスクブランクの製造方法、このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法、及びこの転写用マスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化が進んでいる。例えば、半導体デザインルール1x世代(ハーフピッチ(hp)14nm、10nm等)では、マスクブランクとして、EUV(Extreme Ultra Violet)露光用の反射型マスクブランク、ArFエキシマレーザー露光用のバイナリ型マスクブランク及び位相シフトマスクブランクなどがある。
【0003】
先端世代のマスクブランク用基板では、その第1主表面、すなわち転写パターンを形成する側の表面に、高い平坦度が要求されている。また、EUV露光用の反射型マスクブランクでは、第1主表面に加え、その面とは反対側の第2主表面に対しても、高い平坦度が要求されている。
【0004】
半導体デザインルール1x世代で使用されるEUV露光用の反射型マスクブランクの製造に用いられるマスクブランク用基板の主表面(すなわち、転写パターンを形成する側の表面)は、基板の周縁領域を除外した132mm×132mmの領域について平坦度30nm以下の平坦性が求められ、ArFエキシマレーザー露光用のバイナリーマスクブランク及び位相シフトマスクブランクの製造に用いられるマスクブランク用基板の主表面は、基板の周縁領域を除外した142mm×142mmの領域について平坦度0.2μm以下の平坦性が求められている。
【0005】
この平坦度に対する要求を満足するため、例えば、特許文献1に開示されているような、研磨布などの研磨パッドと、研磨砥粒を含む研磨液とを用いてマスクブランク用基板の表裏両面を研磨する両面研磨が用いられている。
【0006】
しかし、半導体デバイスの微細化に伴って、平坦度の要求水準が上がってきたため、従来の両面研磨装置によるマスクブランク用基板の研磨では、平坦度要求を満足することが難しくなっている。このため、特許文献2から4に示すように、基板の主表面の形状を測定し、相対的に凸形状になっている箇所に対して、磁性研磨スラリーによる磁気粘弾性流体研磨法(MRF:Magneto Rheological Finishing)、プラズマエッチング、又はガスクラスターイオンビームエッチングによる表面加工を行うことで、基板表面を平坦化する局所加工の技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−40267号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0081943号明細書
【特許文献3】特開2002−318450号公報
【特許文献4】特開2007−287737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先端世代のマスクブランク用基板の主表面には、平坦度が高いことが要求されている。このような基板では、特に基板の裏面のローカルスロープアングル(local slope angle)は、0.6μrad以下であることが要求されている。ローカルスロープアングルは、PV(Peak-to-Valley)値の測定と同様に、例えば走査領域を20mm×20mmの矩形領域として、142mm×142mmを含む測定領域内を走査領域ごとに走査して基板の表面形状を測定したときに、最小二乗平面のような表面形状の測定点の偏差を最小にする平面と、測定された表面形状とがなす角度の最大値のことをいう。ローカルスロープアングルは、例えば、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格のSEMI P37-1102に規定されている。
【0009】
基板の主表面の平坦度を高めるため、例えば、磁気粘弾性流体研磨法(Magnet Rheological Finishing:MRF)が用いられている。本発明者らは、MRFを行った際に、加工開始領域である基板の主表面の端面近傍に異常な加工が行われる場合があることを見出した。本明細書では、この異常な加工が行われた基板の領域のことを異常加工領域という。基板に異常加工領域が形成されると、ローカルスロープアングルが大きくなってしまうという問題がある。なお、このような異常加工領域が生じるという現象はMRFによる研磨に限られず、他の局所加工方法、例えば、局所化学機械研磨法(LCMP)、ガスクラスターイオンビームエッチング法(GCIB)、ドライケミカル平坦化法(DCP)、EEM、イオンビーム加工法(IBF)、プラズマCVM及びローカルウェットエッチング(LWE)などの局所加工方法でも、この現象が生じる可能性がある。
【0010】
そこで、本発明は、小さいローカルスロープアングルの主表面を有するマスクブランク用基板の製造方法を提供することを目的とする。具体的には、本発明は、基板の主表面の端面近傍の異常加工領域の発生を抑制したマスクブランク用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、小さいローカルスロープアングルの主表面を有するマスクブランクの製造方法、及びそのマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、上記転写用マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、マスクブランク用基板の主表面の局所加工の際に、加工スポット又はスキャンピッチを変更することにより、異常加工領域の発生を抑制することができることを見出し、本発明に至った。なお、一般的に、加工スポットとは、ある局所加工装置を用いて加工を行う際の、単位時間加工量のことをいう。単位時間加工量を変化させるためには、加工をする部分の面積を変化させることが一般的であることから、本明細書において、加工スポットとは、基板を平面視したときの加工をする部分の面積(場合によっては、加工をする部分の寸法)のことも意味するものとする。また、本明細書において、加工スポットとは、ある局所加工装置を用いて加工を行う際に、基板の加工を行う能力のある部分のことを意味する場合がある。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0014】
(構成1)
本発明の構成1は、主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記主表面を、所定の大きさの加工スポットを所定のスキャンピッチでスキャンすることにより、前記主表面を局所加工する工程を含み、
前記主表面の加工開始から加工終了までの間に、前記加工スポットの大きさ及び前記スキャンピッチのうち少なくとも1つを変更することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
【0015】
本発明の構成1によれば、小さいローカルスロープアングルの主表面を有するマスクブランク用基板の製造方法を提供することができる。具体的には、基板の主表面の端面近傍の異常加工領域の発生を抑制したマスクブランク用基板の製造方法を提供することができる。
【0016】
(構成2)
本発明の構成2は、前記主表面を局所加工する工程の前に、前記主表面の表面形状を測定し、測定した結果に基づいて前記加工スポットの大きさ又は前記スキャンピッチを変更する位置を決定することを特徴とする構成1のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0017】
本発明の構成2によれば、主表面を局所加工する工程の前に測定した表面形状の結果に基づいて加工スポットの大きさ又は前記スキャンピッチを変更する位置を決定することにより、基板の主表面の端面近傍の異常加工領域の発生を抑制することを確実にし、主表面の端面近傍以外の領域の加工速度を向上することができる。
【0018】
(構成3)
本発明の構成3は、前記主表面を局所加工する工程における加工が、前記基板の前記主表面に対して、磁性体粒子を含む研磨液を介在させた状態で磁力を印加可能な研磨部材を近接させ、前記研磨液に前記研磨部材から磁力を印加し、前記研磨液を前記主表面に接触させることによって加工スポットを形成し、前記主表面と前記研磨部材とを相対回転運動させることにより行われることを特徴とする構成1又は2のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0019】
本発明の構成3によれば、磁気粘弾性流体研磨法(MRF)によりマスクブランク用基板の主表面を局所加工することにより、優れた平坦度の主表面を得ることができる。
【0020】
(構成4)
本発明の構成4は、前記加工スポットの大きさが、前記研磨部材と前記基板との距離、前記相対回転運動の回転数、前記研磨液に印加する磁力の大きさ、及び前記研磨液の粘度から選択される少なくとも一つを変えることにより変更されることを特徴とする構成3のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0021】
本発明の構成4によれば、磁気粘弾性流体研磨法(MRF)において、研磨部材と基板との距離、相対回転運動の回転数、研磨液に印加する磁力の大きさ、及び研磨液の粘度から選択される少なくとも一つを変えることにより、異常加工領域の発生を抑制するための加工スポットの大きさの変更を、確実にすることができる。
【0022】
(構成5)
本発明の構成5は、構成1〜4のいずれかのマスクブランク用基板の製造方法によって得られた基板の前記主表面の一つの上に、裏面導電膜を形成することを含むことを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
【0023】
本発明の構成5によれば、主表面の一つである裏面に裏面導電膜を形成することにより、転写用マスクを露光装置にセットするときに静電チャックすることができる。また、本発明により、裏面の異常加工領域の発生を抑制することができるので、ローカルスロープアングルが小さい裏面を有するマスクブランク用基板を得ることができる。
【0024】
(構成6)
本発明の構成6は、構成1〜5のいずれかのマスクブランク用基板の製造方法によって得られた基板の前記主表面の一つの上に、多層反射膜を形成することを含むことを特徴とする多層反射膜付き基板の製造方法である。
【0025】
本発明の構成6によれば、マスクブランク用基板の主表面の一つの上に、多層反射膜を形成することにより、EUV露光用の反射型マスクブランクの原料となる多層反射膜付き基板を得ることができる。
【0026】
(構成7)
本発明の構成7は、構成1〜4のいずれかのマスクブランク用基板の製造方法によって得られた基板の前記主表面上、又は、構成6の多層反射膜付き基板の製造方法によって得られた多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、転写パターン用薄膜を形成することを含むことを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0027】
本発明の構成7の製造方法により製造されるマスクブランクを用いることにより、透過型マスク又はEUV露光用の反射型マスクを製造することができる。
【0028】
(構成8)
本発明の構成8は、構成7のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの前記転写パターン用薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを含むことを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
【0029】
本発明の構成8により、基板の主表面の端面近傍の異常加工領域の発生を抑制した転写用マスクを製造することができる。
【0030】
(構成9)
本発明の構成9は、構成8の転写用マスクの製造方法によって製造された転写用マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。
【0031】
本発明の構成9によれば、基板の主表面の端面近傍の異常加工領域の発生を抑制した転写用マスクを用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、小さいローカルスロープアングルの主表面を有するマスクブランク用基板の製造方法を提供することができる。具体的には、本発明によれば、基板の主表面の端面近傍の異常加工領域の発生を抑制したマスクブランク用基板の製造方法を提供することができる。
【0033】
また、本発明によれば、小さいローカルスロープアングルの主表面を有するマスクブランクの製造方法、及びそのマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法を提供することができる。さらに本発明によれば、上記転写用マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態の平坦度制御工程における磁気粘弾性流体研磨法(MRF)による加工状態を説明する概略図であり、(a)は正面方向断面模式図を、(b)は側面方向断面模式図の例を示す。
図2】MRF加工装置の磁性研磨スラリーを、基板に接触させた状態の断面模式図である。
図3】MRF加工装置の磁性研磨スラリーを、基板の端面付近に接触させた状態の断面模式図である。
図4図4(a)は、本発明の一実施形態に係るマスクブランク用基板を示す斜視図である。図4(b)は、本実施形態のマスクブランク用基板を示す断面模式図である。
図5】MRF加工装置で基板を研磨する際の、加工スポットの動きの例を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板(単に「基板」という場合がある。)の製造方法である。
【0036】
まず、本発明の製造方法により製造されるマスクブランク用基板について説明する。本発明のマスクブランク用基板は、EUV(Extreme Ultra Violet)露光用の反射型マスク、ArFエキシマレーザー露光用のバイナリ型マスク及び位相シフトマスクなど製造のために用いることができる。
【0037】
図4(a)は、本発明の導電膜付き基板50等の製造に用いることのできるマスクブランク用基板1の一例を示す斜視図である。図4(b)は、図4(a)に示すマスクブランク用基板1の断面模式図である。
【0038】
マスクブランク用基板1(又は、単に基板1と称す場合がある。)は、矩形状の板状体であり、2つの対向主表面102と、端面101とを有する。2つの対向主表面102は、この板状体の上面及び下面であり、互いに対向するように形成されている。また、2つの対向主表面102の少なくとも一方は、転写パターンが形成されるべき主表面102である。また、転写パターンが形成されるべき主表面102とは反対側の主表面102を、裏面という場合がある。
【0039】
端面101は、この板状体の側面であり、対向主表面102の外縁に隣接する。端面101は、平面状の端面部分101d、及び曲面状の端面部分101fを有する。平面状の端面部分101dは、一方の対向主表面102の辺と、他方の対向主表面102の辺とを接続する面であり、側面部101a、及び面取斜面部101bを含む。側面部101aは、平面状の端面部分101dにおける、対向主表面102とほぼ垂直な部分(T面)である。面取斜面部101bは、側面部101aと対向主表面102との間における面取りされた部分(C面)であり、側面部101aと対向主表面102との間に形成される。
【0040】
曲面状の端面部分101fは、基板1を平面視したときに、基板1の角部110a近傍に隣接する部分(R部)であり、側面部101c及び面取斜面部101eを含む。ここで、基板1を平面視するとは、例えば、対向主表面102と垂直な方向から、基板1を見ることである。また、基板1の角部110aとは、例えば、対向主表面102の外縁における、2辺の交点近傍である。2辺の交点とは、2辺のそれぞれの延長線の交点であってよい。本例において、曲面状の端面部分101fは、基板1の角部110aを丸めることにより、曲面状に形成されている。
【0041】
本発明の製造方法は、基板の主表面102を、所定の大きさの加工スポットを所定のスキャンピッチでスキャンすることにより、主表面102を局所加工する工程(単に「局所加工工程」という場合がある。)を含む。本発明の製造方法は、主表面102の加工開始から加工終了までの間に、加工スポットの大きさ及びスキャンピッチのうち少なくとも1つを変更することを特徴とする。
【0042】
一般的に、加工スポット4とは、ある局所加工装置を用いて加工を行う際の、単位時間加工量のことをいう。本明細書において、加工スポット4とは、基板を平面視したときの加工をする部分の面積(場合によっては、加工をする部分の寸法)のことも意味するものとする。また、後述のように、本明細書において、加工スポット4とは、ある局所加工装置を用いて加工を行う際に、基板の加工を行う能力のある部分のことを意味する場合がある。
【0043】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法(単に、「本発明の製造方法」という場合がある。)において、基板の主表面102を加工するための局所加工方法は特に限定されない。本発明の製造方法は、加工中に基板の主表面の端面近傍に異常加工領域が発生するような局所加工方法の場合に、好ましく用いることができる。本発明の製造方法に用いる局所加工方法としては、例えば、磁気粘弾性流体研磨法(Magnet Rheological Finishing:MRF)、局所化学機械研磨法(Local Chemical Mechanical Polishing:LCMP)、ガスクラスターイオンビームエッチング法(Gas Cluster Ion Beam etching:GCIB)、局所プラズマエッチングを用いたドライケミカル平坦化法(Dry Chemical Planarization:DCP)、EEM(Elastic Emission Machining)、イオンビーム加工法(Ion Beam Figuring:IBF)、プラズマCVM法(Plasma Chemical Vaporization Machining)及びローカルウェットエッチング法(Local Wet Etching:LWE)などを用いることができる。
【0044】
ここで、磁気粘弾性流体研磨法(MRF)は、磁性流体に研磨スラリーを混合させた磁性研磨スラリーを、被加工物に高速で接触させるとともに、接触部分の滞留時間をコントロールすることにより、局所的に研磨を行う局所加工方法である。MRFは、加工工具の磨耗や形状変化による加工精度の劣化がなく、さらに、ガラス基板を高荷重で押圧する必要がないので、加工面の傷や研磨によって生成される表面変位層における潜傷が少ない。また、MRFは、ガラス基板の移動速度を制御することにより容易に加工量を調節することができる。加工面の傷が少ないと、後述の仕上げ研磨の加工取り代を少なくでき、局所加工工程で形成した加工表面形状からの変化が少なくなるので、MRFは本発明に特に適している。MRFの詳細については、後述する。
【0045】
局所化学機械研磨法(LCMP)は、小径研磨パッド及びコロイダルシリカなどの研磨砥粒を含有する研磨スラリーを用い、小径研磨パッドと被加工物との接触部分の滞留時間をコントロールすることにより、主に被加工物表面の凸部分を研磨加工する局所加工方法である。
【0046】
ガスクラスターイオンビームエッチング法(GCIB)は、ガスクラスターイオンビームを被加工物に照射してエッチング加工する局所加工方法である。ガスクラスターイオンビームは、次のようにして行うことができる。まず、常温常圧で気体の反応性物質(ソースガス)を、真空装置内に断熱膨張させつつ噴出させてガスクラスタを生成する。このガスクラスタに電子線を照射してイオン化させ、ガスクラスターイオンを生成する。このガスクラスターイオンを、高電界で加速することによって、ガスクラスターイオンビームを発生する。
【0047】
ドライケミカル平坦化法(DCP)は、局所的にプラズマエッチングし、凸度に応じてプラズマエッチング量をコントロールすることにより、局所的にドライエッチングを行う局所加工方法である。
【0048】
EEMは、被加工物表面との反応性を持った微粒子を超純水の流れを利用して加工物表面に供給し、両表面の原子間で起こる化学反応により、加工物表面を加工する局所加工方法である。
【0049】
イオンビーム加工法(IBF)は、イオンビームを被加工物表面に照射し、スパッタリングによって材料を局所的に除去する局所加工方法である。
【0050】
プラズマCVM法は、大気圧プラズマを用いたプラズマエッチングにより、被加工物表面を加工する局所加工方法である。
【0051】
ローカルウェットエッチング法(LWE)は、エッチャントの供給部と吸引部を同軸状に配したノズルを用いて局在的な液相エッチング領域を形成し、ノズルもしくは被加工物を速度制御走査することにより被加工物表面を加工する局所加工方法である。
【0052】
以下、局所加工方法がMRFの場合を例に、本発明の製造方法について説明する。
【0053】
図1は、本実施形態の平坦度制御工程におけるMRFによる加工状態を説明する概略図であり、(a)は正面方向断面模式図を、(b)は側面方向断面模式図を示している。
【0054】
図1に示すように、MRFでは、鉄(図示せず)を含む磁性流体21中に含有させた研磨砥粒(図示せず)を、磁場により、被加工物である基板1に高速で接触させるとともに、接触部分の滞留時間を制御することにより、局所的に基板1を研磨加工する。すなわち、回転自在に支持された円盤状の研磨部材3(電磁石3)に、磁性流体21と研磨スラリー22の混合液(磁性研磨スラリー2)を投入して、その先端を局所加工の加工スポット4とし、除去すべき凸部分11を加工スポット4に接触させている。このようにすると、円盤上の磁場に沿って基板1側に研磨スラリー22が多く分布し、電磁石3側に磁性流体21が多く分布して、ほぼ二層状態をなして流れる。この状態の一部分を局所的に研磨加工する加工スポット4とし、基板1の表面と接触させることにより、基板1の表面を研磨することができる。MRFでは、凸部分11を局所的に研磨し、数十nmの平坦度に制御することができる。
【0055】
図2(a)に、MRF加工装置の磁性研磨スラリー2を、基板1に接触させた状態の断面模式図を示す。図2(a)は電磁石3の回転軸に対して垂直な平面における断面模式図である。図2(a)に示すように、加工スポット4は、磁性研磨スラリー2が基板1の主表面102に接触する部分に対応する磁性研磨スラリー2の部分である。電磁石3と基板1との距離dを変化させることにより、図2(a)に示す加工スポット4の長さLを変化させることができる。なお、長さLが長くなれば加工スポット4の大きさも大きくなることから、加工スポット4の長さLのことを「加工スポット4の大きさ」ともいう。
【0056】
図2(b)に、図2(a)の加工スポット4に対応する、加工スポット4の仮想的な平面模式図を示す。加工スポット4は、加工スポット4の中央部分である正常加工部41と、加工スポット4の両端部分である端部42とに分けることができる。一般的に、加工スポット4の端部42は、磁性研磨スラリー2の基板1への接触状態が、正常加工部41とは異なる。そのため、加工スポット4の端部42での研磨速度は、正常加工部41に比べて遅くなる。
【0057】
図3(a)に、MRF加工装置の磁性研磨スラリー2を、基板1の主表面102の端面101近傍に接触させた状態の断面模式図を示す。図3(a)も、図2(a)と同様に、研磨部材3(電磁石3)の回転軸に対して垂直な平面における断面模式図である。本明細書において、図3(a)の場合、加工スポット4は、基板1の端面101が存在しないと仮定(すなわち、加工スポット4が接触する主表面102がすべて存在すると仮定)した場合に、磁性研磨スラリー2が基板1の主表面102に接触することになる部分に対応する磁性研磨スラリー2の部分のことをいう。すなわち、図3(a)の場合、加工スポット4とは、MRF加工装置を用いて基板1の加工を行う際に、基板1の有無にかかわらず、基板1の加工を行う能力のある部分のことである。したがって、電磁石3と基板1との距離d、電磁石3と基板1との相対回転運動の回転数、磁性研磨スラリー2に印加する磁力の大きさ、及び磁性研磨スラリー2の粘度などの研磨条件が図2の場合と同じならば、図3(a)に示す場合においても、加工スポット4の長さL(加工スポット4の大きさ)は、図2に示す加工スポット4と同一である。
【0058】
図3(b)に、図3(a)の加工スポット4に対応する、加工スポット4の仮想的な平面模式図を示す。加工スポット4は、加工スポット4の中央部分である正常加工部41と、回転方向下手側の加工スポット4の端部42とを有することができる。さらに、図3(b)に示す加工スポット4の場合には、基板1が存在せず加工に寄与しない無基板部43及び基板1の端面101の影響を大きく受ける異常加工部44を有する。図3(a)に示すように、MRF加工装置による基板1の研磨中、電磁石3の回転により磁性研磨スラリー2の一部が基板1の端面101に回り込むため、端面101付近の基板1の主表面102の研磨の状態は、正常加工部41の研磨の状態と比べて大きく異なる。一般的に、異常加工部44における基板1の加工速度は、正常加工部41における基板1の加工速度と比べて速くなる。そのため、異常加工部44による加工のため、基板1の端面101付近の主表面102に、加工溝といわれる異常に深い加工が行われる領域が発生するという問題を生じることがある。本明細書では、異常加工部44による基板1の加工によって、基板1の主表面102に上述のような異常な加工が発生する領域のことを、異常加工領域という。異常加工領域が発生すると、ローカルスロープアングルを所定の範囲に制御することが困難になる。
【0059】
本発明者らは、マスクブランク用基板1の製造方法において、主表面102を局所加工する工程の際に、主表面102の加工開始から加工終了までの間に、加工スポット4の大きさ及びスキャンピッチのうち少なくとも1つを変更することにより、異常加工領域の発生を抑制し、加工溝などの異常に深い加工が行われるという問題を抑制することができることを見出し、本発明に至った。異常加工領域の発生を抑制することにより、マスクブランク用基板1の主表面102のローカルスロープアングルを小さくし、所定の範囲に制御することが可能になる。
【0060】
なお、加工溝の発生は、基板1の端面101に研磨液2が衝突することによって生じると考えられるが、その推論に拘束されるものではない。本発明者らは、主表面102を局所加工する工程において、主表面102の加工開始から加工終了までの間に、加工スポット4の大きさ及びスキャンピッチのうち少なくとも1つを変更することにより、異常加工部44において、加工溝のような異常加工領域の発生を抑制することができることを見出した。なお、異常加工部44による異常な加工の影響は、加工溝の発生だけではなく、逆に、異常加工部44による加工速度が、正常加工部41と比べて遅くなる場合もある。このような場合であっても、主表面102の加工開始から加工終了までの間に、加工スポット4の大きさ及びスキャンピッチのうち少なくとも1つを変更することにより、異常加工部44において、異常な加工が行われることを抑制することができる。
【0061】
本発明の製造方法は、磁気粘弾性流体研磨法(MRF)、局所化学機械研磨法(LCMP)、ガスクラスターイオンビームエッチング法(GCIB)、ドライケミカル平坦化法(DCP)、EEM、イオンビーム加工法(IBF)、プラズマCVM及びローカルウェットエッチング(LWE)などの局所加工法の場合に用いることができる。本発明の製造方法は、基板1などの被加工物と、研磨部材3の表面が直接接触せずに、両者の間に流体が存在し、基板1に対して研磨部材3表面が垂直方向に回転するタイプの局所加工装置により基板1を加工する際に、好ましく用いることができる。具体的には、本発明の製造方法は、局所加工方法がMRFの場合に特に好ましく用いることができる。
【0062】
異常加工部44による加工速度が正常加工部41の加工速度と比べて速い場合、一般に、加工スポット4の大きさを小さくすると、異常加工部44において、加工溝のような異常な加工が行われる異常加工領域の発生を抑制することができる。しかしながら、加工スポット4の大きさを小さくすると、加工速度が低下する。そのため、異常加工部44による加工の際に、加工スポット4を小さくし、その他の部分の加工の際には加工スポット4の大きさを変更して大きくすることにより、局所加工工程全体として、速い加工速度を保ったまま、異常な加工を抑制することができる。
【0063】
加工スポット4の大きさは、例えばMRFによる研磨(表面加工)の場合、通常、加工スポット4の長さ(L)が5〜20mmである。この場合、異常加工部44が生じるような研磨の際の加工スポット4の長さ(L)を、通常の加工スポットの長さ(L)を1としたときに、0.1〜0.8倍、好ましくは0.25〜0.6倍にすることにより、異常な研磨を抑制することができる。加工スポット4の長さ(L)を例えば0.56倍にすると、研磨の加工速度は1/3程度となる。したがって、異常加工部44が生じるような研磨を終了した後に、速やかに加工スポット4の大きさを通常の大きさに変更することにより、局所加工工程全体として、速い加工速度を保ったまま、異常な研磨を抑制することができる。
【0064】
なお、異常加工部44による加工速度が正常加工部41の加工速度と比べて速い場合、異常加工部44による加工の際に、加工スポット4を大きくし、その後、加工スポット4の大きさを小さくすることにより、異常加工領域の発生を抑制することができる。
【0065】
異常加工部44による異常な加工を抑制するために、スキャンピッチを変更することができる。なお、加工スポット4の大きさの変更と、スキャンピッチの変更は、併用することができる。スキャンピッチを小さくすると、1ヶ所に留まる時間が短くなるので、異常な加工の発生を減少させることができる。
【0066】
通常、基板1の局所加工の際、加工スポット4が移動することより、基板1の表面全体にわたって所定の加工をすることができる。局所加工の際、加工スポット4は、例えば横方向へ、基板1の一端から他端へと移動しながら加工した後、縦方向の位置をずらして他端から一端へと移動しながら加工する。このときの縦方向の位置のずれの大きさをスキャンピッチという。図5に、スキャンピッチを符号Pとして例示する。通常のスキャンピッチPを1としたときに、0.1〜0.8倍、好ましくは0.2〜0.5倍にすることにより、異常な加工を抑制することができる。
【0067】
異常加工部44による加工速度が正常加工部41の加工速度と比べて速い場合、加工スポット4の大きさを小さくした場合と同様に、スキャンピッチPを小さくすることにより、異常加工部44による異常な加工を抑制することができる。なお、スキャンピッチPを小さくした場合には、スキャン速度(横方向の移動速度)を速くすることにより、スキャンピッチPの低下による加工速度の低下を補償することが可能である。
【0068】
なお、異常加工部44による加工速度が正常加工部41の加工速度と比べて遅い場合、異常加工部44による加工の際に、スキャンピッチPを大きくし、その後、スキャンピッチPを小さくすることにより、異常加工領域の発生を抑制することができる。
【0069】
上述の基板1の加工では、主表面102の端面101近傍を最初に局所加工する場合を例に説明した。主表面102の端面101近傍は、異常加工領域になる恐れがあるので、異常加工部44による加工速度が正常加工部41の加工速度と比べて速い場合、異常な加工を抑制するために、加工開始時に加工スポット4及び/又はスキャンピッチPを小さくする必要がある。その後、加工スポット4が正常に加工できる領域に達した後、加工スポット4及び/又はスキャンピッチPを大きくし、加工速度を速くし、通常の大きさとすることができる。
【0070】
場合によっては、基板1の局所加工の際に、基板1の中心部分から加工することもある。このようなときには、異常加工部44による加工速度が正常加工部41の加工速度と比べて速い場合、通常の加工スポット4及び/又はスキャンピッチPで加工した後、加工スポット4が異常加工領域に達したときに、加工スポット4及び/又はスキャンピッチPを小さくする必要がある。
【0071】
上述のように、加工スポット4の大きさ及びスキャンピッチPの大きさの変更は、基板1の加工の状況に応じて行うことができる。また、主表面102の加工開始から加工終了までの間に、加工スポット4の大きさ又はスキャンピッチPを2回以上変更してもよい。
【0072】
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法では、基板1の主表面102を局所加工する工程の前に、基板1の主表面102の表面形状を測定し、測定した結果に基づいて加工スポット4の大きさ又はスキャンピッチPを変更する位置を決定することが好ましい。
【0073】
基板1の主表面102の表面形状の測定した結果から、局所加工工程中、どの部分で異常な加工が発生するのかを予測することができる。この予測に基づいて加工スポット4の大きさ又はスキャンピッチPを変更する位置を決定することにより、基板1の主表面102の端面101近傍の異常加工領域の発生を抑制することを確実にし、主表面102の端面101近傍以外の領域の加工の加工速度を向上することができる。
【0074】
また、通常の加工スポット4の大きさ又はスキャンピッチPでダミー基板の主表面を局所加工することにより、予め異常加工が発生する領域を特定し、特定した箇所の加工スポット4の大きさ又はスキャンピッチPを変更してもよい。
【0075】
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法は、局所加工工程での局所加工方法が磁気粘弾性流体研磨法(MRF)の場合に特に好ましく用いることができる。具体的には、MRFでは、基板1の主表面102に対して、磁性体粒子を含む研磨液2を介在させた状態で磁力を印加可能な研磨部材3を近接させ、研磨液2に研磨部材3から磁力を印加し、研磨液2を主表面102に接触させることによって加工スポット4を形成し、主表面102と研磨部材3とを相対回転運動させることにより基板1の研磨を行う。磁気粘弾性流体研磨法(MRF)によりマスクブランク用基板1の主表面102を研磨することにより、優れた平坦度の主表面102を得ることができる。
【0076】
本発明の、MRFによる研磨工程(局所加工工程)を含むマスクブランク用基板1の製造方法について説明する。本実施形態のマスクブランク用基板1の製造方法では、以下に述べるステップS1からステップS6までの工程を含む。
【0077】
<基板準備工程(ステップS1)>
基板準備工程(ステップS1)は、ガラス基板1を準備する工程である。
【0078】
ガラス基板1としては、マスクブランクとして用いられるものであれば特に限定されず、反射型マスクブランク、バイナリ型マスクブランク、位相シフトマスクブランク、及びナノインプリント用マスクブランクのいずれの製造に使用するものであってもよい。ガラスとしては、例えば、SiO−TiO系ガラス、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、及び無アルカリガラスなどが挙げられる。
【0079】
EUVマスクブランク用ガラス基板1の場合は、露光時の熱による被転写パターンの歪みを抑えるために、約0±1.0×10−7/℃の範囲内、より好ましくは、約0±0.3×10−7/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するガラス材料が使用される。
【0080】
EUV用マスクブランクでは、ガラス基板1上に多数の膜が形成されるため、その基板1には、膜応力による変形を抑制できる剛性の高いガラス材料が使用される。特に、約65GPa以上の高いヤング率を有するガラス材料を用いることが好ましい。例えば、SiO−TiO系ガラス、合成石英ガラスなどのアモルファスガラスや、β−石英固溶体を析出した結晶化ガラスが用いられる。
【0081】
透過型マスクブランクに使用する基板1材料は、使用する露光波長に対して透光性を有する材料である必要がある。このため、ArFエキシマレーザー露光用のバイナリ型マスクブランク及び位相シフトマスクブランクに使用する基板1材料は、例えば、合成石英ガラスが好ましい。
【0082】
<主表面研磨工程(ステップS2)>
主表面研磨工程(ステップS2)は、基板準備工程(ステップS1)で準備したガラス基板1の一方の主表面102面又は両方の主表面102を精密研磨する工程である。
【0083】
一般的に、主表面研磨工程(ステップS2)は、ガラス基板1の両面を粗研磨する粗研磨加工工程と、粗研磨されたガラス基板1の片面又は両面を精密研磨する精密研磨工程とを有し、段階的な研磨が行われる。この際、粗研磨加工工程では、比較的研磨砥粒の大きい酸化セリウムを分散させた研磨剤が使用され、精密研磨工程では、比較的研磨砥粒の小さいコロイダルシリカを分散させた研磨剤が使用される。
【0084】
<第1の表面形状測定工程(ステップS3)>
第1の表面形状測定工程(ステップS3)は、主表面研磨工程(ステップS2)で研磨されたガラス基板1の主表面102の凹凸形状(平坦度及びローカルスロープアングル)を測定する工程である。
【0085】
ガラス基板1の主表面102の凹凸形状の測定には、通常、光学干渉計が使用される。光学干渉計は、コヒーレントな光をガラス基板1の主表面102に照射して反射させ、ガラス基板1の主表面102の高さの差を反射光の位相のずれとして観測するものであり、フリンジ観察干渉計や位相シフト干渉計がある。また、位相シフト干渉計には、参照面をピエゾPZT走査により干渉計測を行う機械シフト干渉計と、光源として波長変調レーザーを用いて干渉計測を行う波長シフト干渉計とがある。
【0086】
上記光学干渉計によって測定された凹凸形状の測定結果は、コンピュータなどの記録媒体に保存される。
【0087】
<局所加工工程(ステップS4)>
局所加工工程(ステップS4)は、第1の表面形状測定工程(ステップS3)で測定したガラス基板1の主表面102の凹凸形状に基づき、所定の加工取り代に応じた加工条件で表面加工する工程である。
【0088】
図1は、本実施形態の平坦度制御工程におけるMRFによる加工状態を説明する概略図であり、(a)は正面方向断面模式図を、(b)は側面方向断面模式図を示している。同図において、MRFによれば、鉄(図示せず)を含む磁性流体21中に含有させた研磨砥粒(図示せず)を、磁場により、被加工物であるマスクブランク用基板1に高速で接触させるとともに、接触部分の滞留時間を制御することにより、局所的に研磨加工(局所加工)している。
【0089】
すなわち、回転自在に支持された円盤状の研磨部材3(電磁石3)に、磁性流体21と研磨スラリー22の混合液(磁性研磨スラリー2)を投入して、その先端を局所加工の加工スポット4とし、除去すべき凸部分11を加工スポット4に接触させている。このようにすると、円盤上の磁場に沿って磁性研磨スラリー2が、マスクブランク用基板1側に研磨スラリー22が多く分布し、研磨部材3(電磁石3)側に磁性流体21が多く分布する、ほぼ二層状態をなして流れる。この状態の一部分を局所的に研磨加工する加工スポット4とし、マスクブランク用基板1の表面と接触させることにより、凸部分11を局所的に研磨し数十nmの平坦度に制御する。
【0090】
本発明の基板1の製造方法では、局所加工工程(ステップS4)において、上述のように、主表面102の研磨開始から研磨終了までの間に、加工スポット4の大きさ及び前記スキャンピッチPのうち少なくとも1つを変更することに特徴がある。
【0091】
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法は、加工スポット4の大きさは、研磨部材3と基板1との距離、相対回転運動の回転数、研磨液2に印加する磁力の大きさ、及び研磨液2の粘度から選択される少なくとも一つを変えることにより変更されることが好ましい。
【0092】
磁気粘弾性流体研磨法(MRF)において、加工スポット4の大きさは、研磨部材3と基板1との距離、相対回転運動の回転数、研磨液2に印加する磁力の大きさ、及び研磨液2の粘度から選択される少なくとも一つを変えることにより変更することができる。研磨部材3と基板1との距離は、MRF加工装置の研磨部材3及び/又は基板1載置台の位置を移動することにより、研磨部材3と基板1との想定的位置関係を変化させることにより、変更することができる。研磨部材3と基板1との相対回転運動の回転数は、MRF加工装置の電磁石3等の研磨部材3の回転を変化させることにより、変更することができる。研磨液2に印加する磁力の大きさは、MRF加工装置の研磨部材3である電磁石3に対して印加する電力を変えることにより、変更することができる。研磨液2の粘度は、研磨液2の組成、例えば研磨液2中の研磨材の濃度を変えることにより、変更することができる。MRF加工装置において、研磨部材3と基板1との距離の変更は、比較的容易なので、加工スポット4の大きさは、研磨部材3と基板1との距離を変えることにより、変更することが好ましい。
【0093】
マスクブランク用基板1に要求される平坦度は、マスクブランクにおいて使用される露光光源の波長や微細化の世代に応じて決められており、この要求平坦度に応じて、局所加工工程における平坦度制御の基準値が決定される。
【0094】
例えば、EUVマスクブランク用基板1の場合は、平坦度制御の基準値を約30nm以下、好ましくは16nm以下として、MRFによる局所加工が行われる。
【0095】
なお、マスクブランク用基板1は、上述のMRFによる局所加工工程の後、塩酸を含む洗浄液を用いて洗浄される。この工程によって、磁性流体21に含有されている鉄成分は取り除かれる。鉄イオンと、酸の対イオンで形成される中和塩の中で、塩化物イオンとの中和塩である塩化鉄は、水に対する溶解度が高い。このため、鉄成分がマスクブランク用基板1にめりこんだ状態で付着している場合であっても、マスクブランク用基板1に付着した磁性研磨スラリー2の鉄成分をほとんど溶解除去することができる。ここで、洗浄液に含まれる酸は、塩酸以外の強酸、例えば、硫酸や硝酸などの強い酸性の酸を用いてもよいが、鉄成分の洗浄力としては、塩酸が最も優れる。
【0096】
洗浄液に含まれる塩酸の濃度は、0.05〜30wt%がよい。塩酸の濃度を0.05wt%未満とすると十分な洗浄力が得られない。また、洗浄液に含まれる塩酸の濃度が30wt%を超えると、洗浄装置内に多量のミストが発生し、洗浄後のマスクブランク用基板1に再付着する。
【0097】
洗浄液に過酸化水素水を加えることがさらに好ましい。このように、過酸化水素水を加えることにより、鉄成分を溶解させる力が大きくなり洗浄力を高めることができる。
【0098】
<第2の表面形状測定工程(ステップS5)>
第1の表面形状測定工程(ステップS3)と同様の手法で、第1主表面102(表面)及び第2主表面102(裏面)の表面形状を測定する。
【0099】
そして、表面形状の測定結果に基づき、後述の仕上げ研磨工程(ステップS6)で仕上げ研磨を行うときの研磨条件を決定する。
【0100】
<仕上げ研磨工程(ステップS6)>
仕上げ研磨工程(ステップS6)は、所定の最終表面形状になるように行われる研磨である。
【0101】
仕上げ研磨工程での研磨方法は、表面粗さ(平滑性)が改善される研磨方法であれば特に制限はない。例えば、研磨方法として、研磨パッドなどの研磨用工具面をガラス基板1の主表面102と接触させて研磨する方法である酸化セリウムやコロイダルシリカなどの研磨砥粒を用いたポリッシングやラッピングや、ガラス基板1の主表面102と研磨用工具面が直接接触することなく、両者の間に介在する加工液の作用で研磨を行う非接触研磨、例えば、フロートポリッシング法、EEM(Elastic Emission Machining)法、触媒基準エッチング法などが挙げられる。
【0102】
仕上げ研磨後、アルカリ洗浄液などを用いてガラス基板1の洗浄を行う。
【0103】
以上の工程を経て、マスクブランク用基板1が製造される。
【0104】
なお、主表面研磨工程(ステップS2)から仕上げ研磨工程(ステップS6)までの工程は、少なくともマスクブランク用基板1の一つの主表面102に対して行われる。例えば、これらの工程を、このガラス基板1を用いて転写用マスクを製造するときに転写パターンを形成する側の主表面102(第1の主表面102)に対して行うことができる。また、EUVマスクブランク用基板1のように第1の主表面102及び第2の主表面102(裏面)とも高い平坦度が要求される場合は、主表面研磨工程(ステップS2)から仕上げ研磨工程(ステップS6)までの工程を、第1の主表面102及び第2の主表面102(裏面)の両主表面102に対して行うことができる。また、小さいローカルスロープアングルが要求される第2の主表面102(裏面)のみに、上述の工程による研磨を行うことができる。
【0105】
本発明は、上述のマスクブランク用基板1の製造方法によって得られた基板1の主表面102の一つの上に、裏面導電膜を形成することを特徴とするマスクブランク用基板1の製造方法である。マスクブランク用基板1の裏面の上に裏面導電膜を形成することにより、転写用マスクを露光装置にセットするときに静電チャックすることができる。また、本発明により、裏面の異常加工領域の発生を抑制することができるので、ローカルスロープアングルが小さい裏面を有するマスクブランク用基板1を得ることができる。
【0106】
なお、本明細書において、例えば、「マスクブランク用基板1の主表面102の上に、裏面導電膜を形成する(有する)」とは、裏面導電膜が、マスクブランク用基板1の主表面102に接して配置されることを意味する場合の他、マスクブランク用基板1と、裏面導電膜との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0107】
本発明は、上述のマスクブランク用基板1の製造方法によって得られた基板1の主表面102の一つの上に、多層反射膜を形成することを特徴とする多層反射膜付き基板の製造方法である。マスクブランク用基板1の主表面102の一つの上に、多層反射膜を形成することにより、EUV露光用の反射型マスクブランクの原料となる多層反射膜付き基板を得ることができる。
【0108】
上述の製造方法で製造したマスクブランク用基板1の主表面102上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に40から60周期程度積層した多層反射膜を形成し、多層反射膜付き基板を製造するか、さらに、この多層反射膜上に保護膜を形成して、多層反射膜付き基板を製造することができる。ここで、多層膜を構成する材料の組み合わせとしては、高屈折率層としてケイ素(Si)、低屈折率層としてモリブデン(Mo)を用いたMo/Siの他、Ru/Si、Mo/Be、Mo化合物/Si化合物、Si/Nb、Si/Mo/Ru、Si/Mo/Ru/Mo、及びSi/Ru/Mo/Ruなどがある。特にMo/Si周期多層膜は、波長13.5nmのEUV光に対する反射率が高いので、EUVリソグラフィ用反射膜として好適な多層膜である。なお、保護膜としては、ルテニウム(Ru)、又はケイ素(Si)を用いることが好ましい。多層膜及び保護膜の形成には、スパッタリング法が好んで用いられるが、スパッタリング法に限るものではない。
【0109】
本発明の多層反射膜付き基板は、上述の製造方法により得られたマスクブランク用基板1を用いて製造することができるので、主表面102の端面101近傍の異常加工領域の発生を抑制した多層反射膜付き基板を得ることができる。
【0110】
本発明は、上述のマスクブランク用基板1の主表面102上、又は、上述の多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、転写パターン用薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。本発明の製造方法により製造されるマスクブランクを用いることにより、透過型マスク又はEUV露光用の反射型マスクを製造することができる。
【0111】
本発明のマスクブランクは、透過型マスクブランクと反射型マスクブランクとに分類される。本発明のマスクブランクは、いずれのマスクブランクにも適用できる。
【0112】
反射型マスクブランクの製造方法では、上述の多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、保護膜、及び転写パターン用薄膜としての吸収体膜を形成し、又は多層反射膜付き基板の保護膜上に、転写パターン用薄膜としての吸収体膜を形成し、さらに多層反射膜を形成した側とは反対側の主表面102(裏面)に裏面導電膜を形成して、反射型マスクブランクを製造する。なお、吸収体膜上にはレジスト膜が形成されてもよい。
【0113】
ここで、吸収体膜としては、Ta系材料、Cr系材料などが用いられる。ここで、Ta系材料は、例えば、TaとBを含む材料、又はTaとBとNを含む材料などである。Cr系材料は、例えば、Crに窒素、酸素、炭素、及びフッ素から選択される少なくとも1つの元素が添加された材料などである。
【0114】
裏面導電膜としては、導電性、膜応力、及び欠陥品質の観点から、CrN又はTaNを材料として用いることが好ましい。
【0115】
なお、これらの薄膜は、例えば、DCスパッタ、RFスパッタ、イオンビームスパッタリングなどのスパッタリング法で形成することができる。
【0116】
透過型マスクブランクの製造方法では、上述のマスクブランク用基板1の主表面102上に、転写パターン用薄膜としての遮光膜を形成してバイナリ型マスクブランクを製造し、又は転写パターン用薄膜としての光半透過膜を形成してハーフトーン型位相シフトマスクブランクを製造し、又は転写パターン用薄膜として光半透過膜、遮光膜を順次形成してハーフトーン型位相シフトマスクブランクを製造する。なお、これらのパターン形成用薄膜の上にはレジスト膜が形成されてもよい。
【0117】
ここで、遮光膜としては、一般に、Cr膜、Crと酸素、窒素、炭素、及びフッ素から選択される少なくとも一つとを含むCr系材料膜、MoSi膜、MoSiと酸素、窒素、及び炭素から選択される少なくとも一つとを含むMoSi系材料膜、並びにこれらの積層膜などが挙げられる。
【0118】
位相シフト膜としては、位相シフト機能のみを有するSiO膜の他に、位相シフト機能及び光透過率調整機能(減光機能)を有する金属シリサイド酸化物膜、金属シリサイド窒化物膜、金属シリサイド酸化窒化物膜、金属シリサイド酸化炭化物膜、金属シリサイド酸化窒化炭化物膜(金属:Mo、Ti、W、Taなどの遷移金属)、CrO膜、CrF膜、及びSiON膜などのハーフトーン膜が挙げられる。
【0119】
本発明のマスクブランクは、上述の製造方法により得られたマスクブランク用基板1を用いて製造することができるので、主表面102の端面101近傍の異常加工領域の発生を抑制したマスクブランクを得ることができる。
【0120】
本発明は、上述のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの転写パターン用薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを含む、転写用マスクの製造方法である。
【0121】
反射型の転写用マスクである反射型マスクにおいては、マスクブランク用基板1上に多層反射膜、吸収体膜、レジスト膜が形成された反射型マスクブランクのレジスト膜に、描画・現像処理等を経て所望のレジストパターンを形成した後、このレジストパターンをマスクにして吸収体膜をエッチング除去し、最後にレジスト膜を除去することで、多層反射膜上に吸収体膜パターンが形成された反射型マスクを得る。
【0122】
透過型の転写用マスクであるバイナリ型マスクにおいては、マスクブランク用ガラス基板1上に遮光膜、レジスト膜が形成されたマスクブランクの前記レジスト膜に、描画・現像処理等を経て所望のレジストパターンを形成した後、このレジストパターンをマスクにして遮光膜をエッチング除去し、最後にレジスト膜を除去することで、マスクブランク用ガラス基板1上に遮光膜パターンが形成されたバイナリ型マスクを得る。
【0123】
透過型の転写用マスクであるハーフトーン型位相シフトマスクにおいては、マスクブランク用ガラス基板1上にハーフトーン膜、遮光膜、及びレジスト膜が形成されたハーフトーン型位相シフトマスクブランクのレジスト膜に、描画・現像処理等を経て所望のレジストパターンを形成する。その後、このレジストパターンをマスクにして遮光膜をエッチング除去し、遮光膜パターンを形成する。次に、この遮光膜パターンをマスクにしてハーフトーン膜をエッチング除去し、しかる後にレジスト膜を剥離する。その後、レジスト膜を塗布形成し、このレジスト膜に、描画・現像処理等を経て遮光帯パターンを形成し、最後にレジスト膜を除去することで、マスクブランク用ガラス基板1上にハーフトーン膜パターンが形成されたハーフトーン型位相シフトマスクを得る。
【0124】
本発明の転写用マスクは、上述の製造方法により得られたマスクブランク用基板1を用いて製造することができるので、主表面102の端面101近傍の異常加工領域の発生を抑制した転写用マスクを製造することができる。
【0125】
本発明は、上述の転写用マスクの製造方法によって製造された転写用マスクを用い、半導体基板1上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。主表面102の端面101近傍の異常加工領域の発生を抑制した転写用マスクを用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【実施例】
【0126】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0127】
(実施例1)
A.マスクブランク用基板1の製造
1.基板準備工程(ステップS1)
マスクブランク用基板1を製造するにあたって、基板準備工程(ステップS1)として、6025サイズ(152mm×152mm×6.35mm)のTiO−SiO低熱膨張ガラス基板1(単に「基板1」ともいう。)を準備した。
【0128】
2.研磨工程(ステップS2)
次に、研磨工程(ステップS2)として、準備したTiO−SiOガラス基板1の主表面102(第1の主表面102)及び裏面(第2の主表面102)を研磨した。ここで、この研磨は、以下に示す粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、及び超精密研磨加工工程からなる。
【0129】
(1)粗研磨加工工程
端面101の面取加工及び研削加工を終えた上記ガラス基板1を両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で粗研磨を行った。10枚セットを2回行い、合計20枚のガラス基板1の粗研磨を行った。なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)を含有する水溶液
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
【0130】
粗研磨後、ガラス基板1に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板1を洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0131】
(2)精密研磨加工工程
粗研磨を終えたガラス基板1を両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で精密研磨を行った。10枚セットを2回行い、合計20枚のガラス基板1の精密研磨を行った。なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:酸化セリウム(平均粒径1μm)を含有する水溶液
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
【0132】
精密研磨後、ガラス基板1に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板1を洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0133】
(3)超精密研磨加工工程
精密研磨を終えたガラス基板1を再び両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で超精密研磨を行った。10枚セットを2回行い、合計20枚のガラス基板1の超精密研磨を行った。なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨スラリー:コロイダルシリカを含有するアルカリ性水溶液(pH10.2)
(コロイダルシリカ含有量50wt%)
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
研磨スラリー供給温度:25℃
【0134】
超精密研磨後、ガラス基板1を水酸化ナトリウムのアルカリ洗浄液が入った洗浄槽に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0135】
3.第1の表面形状測定工程(ステップS3)
以下の工程は、20枚のガラス基板1の内の1枚を例に挙げて示すが、同様の工程を残り19枚のガラス基板1に対しても行った。
【0136】
超精密研磨加工工程後のガラス基板1の第1の主表面102及び裏面(第2の主表面102)に対する凹凸形状を、平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用いて測定した。凹凸形状測定は、ガラス基板1の周縁領域を除外した148mm×148mmの領域に対して、1024×1024の地点で行った。
【0137】
ガラス基板1の周縁領域を除外した148mm×148mmの領域において、第1主表面102及び第2主表面102の平坦度は、290nmであった。
【0138】
また、走査領域を20mm×20mmの矩形領域として、ガラス基板1の142mm×142mmを含む測定領域内を走査領域ごとに走査して、第2主表面102(裏面)のローカルスロープアングルを測定したところ、10μradだった。
【0139】
また、ガラス基板1の第1の主表面102及び第2の主表面102の凹凸形状の測定結果を、コンピュータに保存した。凹凸形状の測定結果に基づき、第1の主表面102及び第2の主表面102の局所的な必要加工量を算出した。
【0140】
4.局所加工工程(ステップS4)
その後、ガラス基板1の第1の主表面102及び第2の主表面102について、必要加工量に応じた局所的な表面加工の加工条件を設定した。設定方法は以下の通りである。事前にダミー基板1を用いて、実際の加工と同じようにダミー基板1を、一定時間基板1移動させずにある地点(スポット)で加工し、その形状を平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)にて測定し、単位時間当たりにおけるスポットでの加工体積を算出した。そして、単位時間当たりにおけるスポットでの加工体積と、上述したように算出した必要加工量に従い、ガラス基板1をラスタ走査する際の走査スピード(スキャン速度)を決定した。
【0141】
その後、ガラス基板1の第1の主表面102及び第2の主表面102を、基板1仕上げ装置(QED Technologies社製)を用いて、研磨スラリー加工法である磁気粘弾性流体研磨法(MRF)により、設定した加工条件に従い、局所的に表面加工した。研磨剤は酸化セリウム研磨粒子含有磁性研磨スラリー2を用い、電磁石3への通電電流、ホイール回転速度及び圧力等は適宜調整した。ここで、最大の加工取り代は150nmであり、加工時間は30分であった。
【0142】
ただし、実施例1では、図5に示すように、ガラス基板1の研磨開始直後、主表面102の端面101近傍の研磨の際には、上述したダミー基板1を用いて算出した通常の加工スポット4の大きさ(加工スポット4の長さL)を1とした場合、その0.56倍の加工スポット4aの長さ(0.56L)になるように、電磁石3(研磨部材3)とガラス基板1との距離を調整した。図5に示すように、加工スポット4の長さ0.56Lにした状態で、主表面102の端面101近傍を水平方向に研磨し、基板の縦方向の端面101近傍まで達した後、加工スポット4をスキャンピッチPだけ基板1内部方向に移動させ、水平方向の逆方向に研磨を行った。実施例1では、この研磨を、スキャンピッチPの移動を50回行うまで繰り返し、その後、加工スポット4の長さをLに変更した(図5の加工スポット4b参照)。その加工スポット4の大きさで、基板1の残部を研磨した。
【0143】
その後、ガラス基板1を、濃度約10wt%の塩酸水溶液(温度約25℃)が入った洗浄槽に約10分間浸漬させた。
【0144】
その後、純水によるリンス、イソプロピルアルコール(IPA)による乾燥を行った。
【0145】
5.第2の表面形状測定工程(ステップS5)
第1の表面形状測定工程(ステップS3)と同様に、ガラス基板1の第1の主表面102及び第2の主表面102の凹凸形状を測定した。測定結果によると、基板1の主表面102の端面101近傍には、異常な加工(研磨)が行われている異常加工領域は存在しなかった。また、第2の主表面102(裏面)のローカルスロープアングルを測定したところ、1.2μradだった。両主表面102とも所定の平坦度内に収まっており、異常加工領域が存在しなかったため、次の仕上げ研磨工程(ステップS6)に進んだ。
【0146】
6.仕上げ研磨工程(ステップS6)
まず、平坦度改善工程である局所加工工程によって荒れたガラス基板1の主表面102及び裏面の平滑性を高めるために、研磨スラリーを用いて行う低荷重の機械的研磨により微小量だけガラス基板1の第1の主表面102(表面)及び第2の主表面(裏面)を研磨した。この研磨は、基板1の大きさよりも大きい研磨パッドが張り付けられた上下の研磨定盤の間にキャリアで保持されたガラス基板1をセットし、コロイダルシリカ砥粒を含有する研磨スラリーを供給しながら、ガラス基板1を、上下の研磨定盤内で自転しながら公転することによって行った。加工圧力、上下定盤の各回転数及び研磨時間は、適宜調整して行った。ここで、加工取り代は200nmであり、加工時間は30分であった。
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
研磨剤:コロイダルシリカ砥粒(平均粒径50nm)
加工液:アルカリ水溶液(NaOH)+研磨剤(濃度:約2wt%)、pH=11
研磨定盤回転数:約1〜50rpm
加工圧力:約0.1〜10kPa
研磨時間:約1〜10分
【0147】
その後、ガラス基板1を、水酸化ナトリウムのアルカリ洗浄液に浸漬し、超音波を印加して洗浄を行った。
【0148】
このようにして、実施例1のマスクブランク用基板1を作製した。
【0149】
作製されたマスクブランク用基板1の平坦度の測定結果によると、基板1の主表面102の端面101近傍には、異常な加工(研磨)が行われている異常加工領域は存在しなかった。また、第2の主表面102のローカルスロープアングルを測定したところ、0.5μradだった。
【0150】
また、残り19枚のガラス基板1に対し同様の工程でマスクブランク用基板1を製造したところ、基板1の主表面102の端面101近傍には、異常な加工(研磨)が行われている異常加工領域は存在しなかった。また、残り19枚のガラス基板の第2の主表面102のローカルスロープアングルを測定したところ、15枚が使用に耐える所定の範囲内の値(0.6μrad以下)だった。
【0151】
B.多層反射膜付き基板の製造
次に、このようにして作製された実施例1のマスクブランク用基板1のうち、ローカルスロープアングルが所定の範囲内の値である15枚について、それらの主表面上に、イオンビームスパッタリング法により、シリコン膜(Si)からなる膜厚4.2nmの高屈折率層と膜厚2.8nmのモリブデン膜(Mo)からなる低屈折率層とを交互に、高屈折率層と低屈折率層とを1ペアとし、40ペア積層して、膜厚280nmの多層反射膜を形成した。
【0152】
その後、この多層反射膜上に、イオンビームスパッタリング法により、ルテニウム(Ru)からなる保護膜(膜厚2.5nm)を形成した。
【0153】
このようにして、実施例1の多層反射膜付き基板を作製した。
【0154】
得られた多層反射膜付き基板についてEUV光(波長13.5nm)の反射率をEUV反射率測定装置により測定した。
【0155】
ガラス基板1の主表面102の高い平滑性により、保護膜表面も高い平滑性を保っており、反射率は64%と高反射率であった。また、位相欠陥検査も合わせて行ったが、高い平滑性を持つため、検査時のバックグラウンドノイズが少なく、高感度な位相欠陥検査を行うことができた。
【0156】
実施例1の方法により、第1主表面、第2主表面とも高い平坦度を有し、保護膜表面の平滑度が高く、EUV光に対して高い反射率を備え、且つ高感度な欠陥検査が可能な多層反射膜付き基板が得られた。また、実施例1の多層反射膜付き基板1の主表面102の端面101近傍には、異常な加工(研磨)が行われている異常加工領域は存在しなかった。
【0157】
C.反射型マスクブランクの製造
次に、このようにして作製された実施例1の多層反射膜付き基板の保護膜上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素窒化物(TaBN)からなる膜厚50nmの下層吸収体層を形成し、さらに、下層吸収体膜上に、ホウ化タンタル(TaB)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと酸素(O)ガスとの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行い、タンタルホウ素酸化物(TaBO)からなる膜厚20nmの上層吸収体層を形成することにより、下層吸収体層と上層吸収体層とからなる吸収体膜(膜厚70nm)を形成した。
【0158】
その後、多層反射膜付き基板の多層反射膜を形成していない裏面上に、クロム(Cr)ターゲットを使用し、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N)ガスとの混合ガス雰囲気中での反応性スパッタリングにより、クロム窒化物(CrN)からなる膜厚20nmの裏面導電膜を形成した。
【0159】
このようにして、平坦度が高く、主表面102(裏面)の端面101近傍に異常加工領域が存在しない、実施例1のEUV露光用の反射型マスクブランクを作製した。
【0160】
D.反射型マスクの製造
次に、このようにして作製された実施例1の反射型マスクブランクの吸収体膜上に、電子線描画(露光)用化学増幅型レジストをスピンコート法により塗布し、加熱及び冷却工程を経て、膜厚が150nmのレジスト膜を形成した。
【0161】
その後、形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
【0162】
その後、このレジストパターンをマスクにして、吸収体膜のドライエッチングを行って、保護膜上に吸収体膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとしては、塩素(Cl)ガスを用いた。
【0163】
その後、残存するレジストパターンを剥離し、洗浄を行った。
【0164】
このようにして、平坦度の高く、両主表面102の端面101近傍に異常加工領域が存在しない、実施例1のEUV露光用の反射型マスクを作製した。
【0165】
E.半導体デバイスの製造
上述の方法によって製造した実施例1のEUV露光用の反射型マスクを使用して、EUV露光装置を用いた露光により、反射型マスク上に形成された吸収体膜パターンを、半導体基板1上に形成したレジスト膜に転写した。その結果、半導体デバイスに形成される転写パターンの寸法精度や位置精度は向上し、所望の特性を持った半導体デバイスを高い歩留まりで製造することができた。
【0166】
(実施例2)
実施例2のマスクブランク用基板1、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスクを、基本的に実施例1と同様に、製造した。ただし、実施例2のマスクブランク用基板1の製造の際に、局所加工工程(ステップS5)において、ガラス基板1の加工(研磨)開始直後、主表面102の端面101近傍の加工(研磨)の際の加工スポット4を、通常の加工スポット4の大きさ(加工スポット4の長さL)とし、スキャンピッチを、通常の加工(研磨)のスキャンピッチPの1/3(すなわち、P/3)として、150往復水平方向に研磨し、その後、スキャンピッチを通常の加工(研磨)のスキャンピッチPにした。
【0167】
実施例2のマスクブランク用基板1の主表面102の端面101近傍には、実施例1の場合と同様に、異常な加工(研磨)が行われている異常加工領域は存在しなかった。また、主表面102(裏面)のローカルスロープアングルを測定したところ、0.6μradだった。
【0168】
実施例2のEUV露光用の反射型マスクを使用して、EUV露光装置を用いた露光により、反射型マスク上に形成された吸収体膜パターンを、半導体基板1上に形成したレジスト膜に転写した。その結果、半導体デバイスに形成される転写パターンの寸法精度や位置精度は向上し、所望の特性を持った半導体デバイスを高い歩留まりで製造することができた。
【0169】
(比較例1)
比較例1のマスクブランク用基板1、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスクを、基本的に実施例1と同様に、製造した。ただし、比較例1のマスクブランク用基板1の製造の際に、局所加工工程(ステップS5)において、ガラス基板1の加工(研磨)開始直後、主表面102の端面101近傍の加工(研磨)の際の加工スポット4を、通常の加工スポット4の大きさ(加工スポット4の長さL)とし、スキャンピッチを、通常の加工(研磨)のスキャンピッチPとして、加工スポット4の大きさ及びスキャンピッチの変更は行わず、基板1全体にわたって通常の局所加工を行った。
【0170】
比較例1のマスクブランク用基板1の主表面102の端面101近傍には、実施例1及び2の場合とは異なり、異常な加工(研磨)が行われている異常加工領域が存在した。また、主表面102(裏面)のローカルスロープアングルを測定したところ、1.5μradであり、使用に耐える値ではなかった。
【0171】
比較例1のEUV露光用の反射型マスクを使用して、EUV露光装置を用いた露光により、反射型マスク上に形成された吸収体膜パターンを、半導体基板1上に形成したレジスト膜に転写した。その結果、半導体デバイスに形成される転写パターンの寸法精度や位置精度が不十分であり、所望の特性を持った半導体デバイスを高い歩留まりで製造することができなかった。
【符号の説明】
【0172】
1 基板
2 磁性研磨スラリー(研磨液)
3 研磨部材(電磁石)
4 加工スポット
11 凸部分
21 磁性流体
22 研磨スラリー
41 正常加工部
42 端部
43 無基板部
44 異常加工部
101 端面
101a、101c 側面部
101b、101e 面取斜面部
101d、101f 端面部分
102 主表面
110a 角部
d 電磁石と基板との距離
L 加工スポットの長さ(大きさ)
P スキャンピッチ
図1
図2
図3
図4
図5