特許第6803196号(P6803196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803196
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】顕微鏡装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20201214BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   G02B21/06
   G01N21/64 E
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-210761(P2016-210761)
(22)【出願日】2016年10月27日
(65)【公開番号】特開2018-72511(P2018-72511A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】本田 進
【審査官】 堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−099986(JP,A)
【文献】 特開2014−112122(JP,A)
【文献】 特開2015−225120(JP,A)
【文献】 特開2007−127524(JP,A)
【文献】 特開2007−127740(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0313315(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本に照明光および刺激光を照射する一方、前記標本からの観察光を集光する対物レンズと、
該対物レンズにより前記標本に前記照明光を照射させるとともに、前記対物レンズにより集光された前記観察光に基づき前記標本の画像情報を取得する観察光学系と、
前記対物レンズにより照射される前記刺激光を走査する走査部を備え、該走査部により前記標本上における前記刺激光の照射位置を走査させて前記標本に光刺激を与える第1刺激光学系と、
前記対物レンズの瞳共役位置に配置されかつ該対物レンズにより照射される前記刺激光の位相を変調可能な位相変調素子を備え、該位相変調素子により前記標本上における前記刺激光の照射位置を選択的に切り替えて前記標本に光刺激を与える第2刺激光学系と、
前記第1刺激光学系の光路および前記第2刺激光学系の光路の少なくとも一方を選択する光路選択部とを備え
前記第2刺激光学系が、前記位相変調素子により位相が変調された前記刺激光に含まれる0次光を遮光する遮光部材を備え、
前記走査部が、前記遮光部材により前記0次光が遮光される前記標本上の領域において前記刺激光を走査させる顕微鏡装置。
【請求項2】
標本に照明光および刺激光を照射する一方、前記標本からの観察光を集光する対物レンズと、
該対物レンズにより前記標本に前記照明光を照射させるとともに、前記対物レンズにより集光された前記観察光に基づき前記標本の画像情報を取得する観察光学系と、
前記対物レンズにより照射される前記刺激光を走査する走査部を備え、該走査部により前記標本上における前記刺激光の照射位置を走査させて前記標本に光刺激を与える第1刺激光学系と、
前記対物レンズの瞳共役位置に配置されかつ該対物レンズにより照射される前記刺激光の位相を変調可能な位相変調素子を備え、該位相変調素子により前記標本上における前記刺激光の照射位置を選択的に切り替えて前記標本に光刺激を与える第2刺激光学系と、
前記第1刺激光学系の光路および前記第2刺激光学系の光路の少なくとも一方を選択する光路選択部とを備え
前記走査部が、前記観察光学系の観察視野のうち、前記標本上の前記第2刺激光学系による刺激領域の外側の領域において前記刺激光を走査させる顕微鏡装置。
【請求項3】
前記第2刺激光学系が、前記位相変調素子により位相が変調された前記刺激光に含まれる0次光を遮光する遮光部材を備え、
前記走査部が、前記遮光部材により前記0次光が遮光される前記標本上の領域において前記刺激光を走査させる請求項に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記走査部が、前記観察光学系の観察視野のうち、前記標本上の前記第2刺激光学系による刺激領域の外側の領域において前記刺激光を走査させる請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記第2刺激光学系が、前記刺激光として極短パルスレーザにより前記標本に光刺激を与える請求項1から請求項のいずれかに記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
前記第1刺激光学系および前記第2刺激光学系が、共通の光源から発せられる前記刺激光により前記標本に光刺激を与える請求項1から請求項のいずれかに記載の顕微鏡装置。
【請求項7】
前記光路選択部が、前記刺激光を反射する反射部材を備え、前記刺激光の光路上における前記反射部材の挿脱の切り替えに応じて、前記第1刺激光学系の光路と前記第2刺激光学系の光路とを択一的に選択する請求項1から請求項のいずれかに記載の顕微鏡装置。
【請求項8】
前記光路選択部が、光源から発せられる複数波長の前記刺激光を波長に応じて分岐するダイクロイックミラーを備え、該ダイクロイックミラーにより、前記第1刺激光学系の光路と前記第2刺激光学系の光路の両方を前記刺激光の波長に応じて選択する請求項1から請求項のいずれかに記載の顕微鏡装置。
【請求項9】
前記光路選択部が、前記共通の光源から発せられる前記刺激光の光路を分岐および合成する偏光ビームスプリッタと、該偏光ビームスプリッタに入射する前記刺激光の偏光成分を調整する波長板とを備える請求項に記載の顕微鏡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、標本における任意の全ての領域や複数の領域をタイムラグ無く同時に刺激したり、任意の領域ごとに強く刺激したりする顕微鏡装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の顕微鏡装置は、ガルバノミラーにより任意の領域ごとに刺激光を照射する第1の刺激光学系と、光を反射または透過する微小素子が複数配列されたディジタルマイクロミラーデバイス(DMD)により任意の全ての領域や複数の領域に同時に刺激光を照射する第2の刺激光学系とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5591007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の顕微鏡装置は、DMDの微小素子を選択的にオンオフさせることにより、DMDに入射する刺激光の中から利用する刺激光のみを選択して標本に照射し、利用しない刺激光は捨てているため、利用しない刺激光が無駄になり、刺激光量が不足するという問題がある。
【0005】
本発明は、光量を損失することなく標本における複数の領域をタイムラグ無く同時に刺激したり、任意の領域ごとに強く刺激したりすることができる顕微鏡装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の参考例としての発明の一態様は、標本に照明光および刺激光を照射する一方、前記標本からの観察光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより前記標本に前記照明光を照射させるとともに、前記対物レンズにより集光された前記観察光に基づき前記標本の画像情報を取得する観察光学系と、前記対物レンズにより照射される前記刺激光を走査する走査部を備え、該走査部により前記標本上における前記刺激光の照射位置を走査させて前記標本に光刺激を与える第1刺激光学系と、前記対物レンズの瞳共役位置に配置されかつ該対物レンズにより照射される前記刺激光の位相を変調可能な位相変調素子を備え、該位相変調素子により前記標本上における前記刺激光の照射位置を選択的に切り替えて前記標本に光刺激を与える第2刺激光学系と、前記第1刺激光学系の光路および前記第2刺激光学系の光路の少なくとも一方を選択する光路選択部とを備える顕微鏡装置である。
【0007】
本態様によれば、観察光学系により、対物レンズを介して、標本に照明光が照射されるとともに標本からの観察光が集光されて、標本の画像情報が取得されることで、画像情報に基づいて標本を観察することができる。また、光路選択部により第1刺激光学系の光路が選択されて、走査部により標本上において刺激光の照射位置が走査されることで、標本の任意の領域ごとに光刺激を与えることができる。また、光路選択部により第2刺激光学系の光路が選択されて、位相変調素子により標本上において刺激光の照射位置が選択的に切り替えられることで、標本の任意の全ての領域や複数の領域に同時に光刺激を与えることができる。
【0008】
この場合において、第2刺激光学系は、位相変調素子により、刺激光の位相を変調することによって標本上の照射位置を選択的に切り替えるので、DMDを用いた場合のように刺激光の一部が利用されずに無駄になるということがない。したがって、光量を損失することなく標本における複数の領域をタイムラグ無く同時に刺激したり、任意の領域ごとに強く刺激したりすることができる。
【0009】
本発明の第1態様は、標本に照明光および刺激光を照射する一方、前記標本からの観察光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより前記標本に前記照明光を照射させるとともに、前記対物レンズにより集光された前記観察光に基づき前記標本の画像情報を取得する観察光学系と、前記対物レンズにより照射される前記刺激光を走査する走査部を備え、該走査部により前記標本上における前記刺激光の照射位置を走査させて前記標本に光刺激を与える第1刺激光学系と、前記対物レンズの瞳共役位置に配置されかつ該対物レンズにより照射される前記刺激光の位相を変調可能な位相変調素子を備え、該位相変調素子により前記標本上における前記刺激光の照射位置を選択的に切り替えて前記標本に光刺激を与える第2刺激光学系と、前記第1刺激光学系の光路および前記第2刺激光学系の光路の少なくとも一方を選択する光路選択部とを備え、前記第2刺激光学系が、前記位相変調素子により位相が変調された前記刺激光に含まれる0次光を遮光する遮光部材を備え、前記走査部が、前記遮光部材により前記0次光が遮光される前記標本上の領域において前記刺激光を走査させるである。
【0010】
位相変調素子により位相が変調された刺激光の軸中心には、位相変調の影響を受けない0次光が含まれる。そのため、標本における刺激光中の0次光が照射される位置付近は、所望の強度分布で光刺激することができない。そこで、位相変調素子により位相が変調された刺激光中の0次光を遮光部材により遮光することで、所望しない強度分布による光刺激を防ぐことができる。また、遮光部材により0次光が遮光される標本上の領域については、第1刺激光学系の走査部により刺激光が走査されることで、標本上の所望の領域にもれなく光刺激を与えることができる。
【0011】
本発明の第2態様は、標本に照明光および刺激光を照射する一方、前記標本からの観察光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより前記標本に前記照明光を照射させるとともに、前記対物レンズにより集光された前記観察光に基づき前記標本の画像情報を取得する観察光学系と、前記対物レンズにより照射される前記刺激光を走査する走査部を備え、該走査部により前記標本上における前記刺激光の照射位置を走査させて前記標本に光刺激を与える第1刺激光学系と、前記対物レンズの瞳共役位置に配置されかつ該対物レンズにより照射される前記刺激光の位相を変調可能な位相変調素子を備え、該位相変調素子により前記標本上における前記刺激光の照射位置を選択的に切り替えて前記標本に光刺激を与える第2刺激光学系と、前記第1刺激光学系の光路および前記第2刺激光学系の光路の少なくとも一方を選択する光路選択部とを備え、前記走査部が、前記観察光学系の観察視野のうち、前記標本上の前記第2刺激光学系による刺激領域の外側の領域において前記刺激光を走査させる顕微鏡装置である。
【0012】
位相変調素子は、刺激領域を広くすると分解能が低下し、刺激領域を狭くすると分解能が向上する。このように構成することで、位相変調素子の分解能を確保するために刺激領域を狭くした場合であっても、第2刺激光学系による刺激領域と観察光学系の観察視野との差の領域について第1刺激光学系の走査部により刺激光が走査されるので、標本上の所望の領域にもれなく光刺激を与えることができる。
【0013】
上記態様においては、前記第2刺激光学系が、前記刺激光として極短パルスレーザにより前記標本に光刺激を与えることとしてもよい。
このように構成することで、第2刺激光学系により標本に光刺激を与える場合に、より効果的にマルチフォトン効果を発生させることができる。
【0014】
上記態様においては、前記第1刺激光学系および前記第2刺激光学系が、共通の光源から発せられる前記刺激光により前記標本に光刺激を与えることとしてもよい。
このように構成することで、刺激光学系ごとに光源を用意しなくて済み、光源の数が少なくなる分だけ安価にすることができる。
【0015】
上記態様においては、前記光路選択部が、前記刺激光を反射する反射部材を備え、前記刺激光の光路上における前記反射部材の挿脱の切り替えに応じて、前記第1刺激光学系の光路と前記第2刺激光学系の光路とを択一的に選択することとしてもよい。
【0016】
このように構成することで、反射部材が、刺激光の光路上に挿入されることにより第1刺激光学系の光路と第2刺激光学系の光路の一方が選択され、刺激光の光路上から反射部材が脱離されることにより第1刺激光学系の光路と第2刺激光学系の光路の他方が選択される。したがって、刺激光の光量損失を低減して、第1刺激光学系および第2刺激光学系により、標本に交互に光刺激を与えることができる。
【0017】
上記態様においては、前記光路選択部が、光源から発せられる複数波長の前記刺激光を波長に応じて分岐するダイクロイックミラーを備え、該ダイクロイックミラーにより、前記第1刺激光学系の光路と前記第2刺激光学系の光路の両方を前記刺激光の波長に応じて選択することとしてもよい。
このように構成することで、第1刺激光学系と第2刺激光学系とで別々の波長の刺激光により標本に同時に光刺激を与えることができる。
【0018】
上記態様においては、前記光路選択部が、前記共通の光源から発せられる前記刺激光の光路を分岐および合成する偏光ビームスプリッタと、該偏光ビームスプリッタに入射する前記刺激光の偏光成分を調整する波長板とを備えることとしてもよい。
このように構成することで、波長板による刺激光の偏光成分の調整割合に応じて、第1刺激光学系および第2刺激光学系の一方により標本に光刺激を与えたり、これらの両方により標本に同時に光刺激を与えたりすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光量を損失することなく標本における複数の領域をタイムラグ無く同時に刺激したり、任意の領域ごとに強く刺激したりすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る顕微鏡装置を示す概略構成図である。
図2図1の顕微鏡装置における投影関係を説明する図である。
図3】観察光学系の観察視野と第1刺激光学系の刺激領域(第1刺激領域)との関係の一例を示す図である。
図4】観察光学系の観察視野と第2刺激光学系の刺激領域(第2刺激領域)との関係の一例を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態の変形例に係る顕微鏡装置の一例の一部を示す概略構成図である。
図6】本発明の第1実施形態の変形例に係る顕微鏡装置の他の一例の一部を示す概略構成図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る顕微鏡装置を示す概略構成図である。
図8図7の顕微鏡装置の第1刺激光学系による刺激領域と第2刺激光学系による刺激領域との関係の一例を示す図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る顕微鏡装置の一部を示す概略構成図である。
図10図9の顕微鏡装置のλ/2板による刺激光の偏光方向の一例を示す図である。
図11】本発明の第3実施形態の変形例に係る顕微鏡装置のλ/4板による刺激光の偏光方向の一例を示す図である。
図12】本発明の第4実施形態に係る顕微鏡装置を示す概略構成図である。
図13】本発明の第5実施形態に係る顕微鏡装置を示す概略構成図である。
図14】本発明の各実施形態の変形例に係る顕微鏡装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る顕微鏡装置について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置1は、図1に示すように、標本Sに励起光(照明光)および刺激光を照射する一方、標本Sからの蛍光(観察光)を集光する対物レンズ3と、標本Sの画像情報を取得する観察光学系5と、標本Sに光刺激を与える第1刺激光学系7および第2刺激光学系9と、第1刺激光学系7の光路および第2刺激光学系9の光路の一方を選択する光路選択部11とを備えている。
【0022】
観察光学系5は、標本Sを励起して蛍光を発生させるための励起光を発生する観察光源(Laser)13と、観察光源13から発せられた励起光を2次元的に走査させるスキャンユニット15と、スキャンユニット15により走査された励起光を集光する瞳投影レンズ17と、瞳投影レンズ17により集光された励起光を平行光に変換する結像レンズ19と、結像レンズ19により平行光に変換された励起光を対物レンズ3に向けて反射する反射ミラー21と、対物レンズ3により集光される標本Sからの蛍光を励起光の光路から分岐させる励起ダイクロイックミラー23と、励起ダイクロイックミラー23により分岐された蛍光を検出する検出器25とを備えている。
【0023】
観察光源13としては、例えば、多光子励起を生じさせる近赤外域の極短パルスレーザ光(励起光)を発振する近赤外パルスレーザを採用することができる。
【0024】
スキャンユニット15は、例えば、近接ガルバノミラースキャナ(互いに近接配置された一対のガルバノミラー(図示略)を備え、これら一対のガルバノミラーの中間に対物レンズ3の瞳位置の共役位置が位置しているガルバノスキャナ)を用いることができる。一対のガルバノミラーは、それぞれ励起光の光軸に交差する軸回りに揺動角度を制御可能に設けられており、これら一対のガルバノミラーの揺動角度を変更制御することにより励起光を2次元的に走査させることができるようになっている。
【0025】
励起ダイクロイックミラー23は、反射ミラー21により対物レンズ3に向けて反射されてきた励起光を透過させる一方、対物レンズ3により集光されて励起光の光路を戻る標本Sからの蛍光を検出器25に向けて反射するようになっている。また、励起ダイクロイックミラー23は、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9からの刺激光を透過させるようになっている。
【0026】
検出器25としては、例えば、光電子増倍管(PMT:Photomultiplier Tube)を用いることができる。
【0027】
第1刺激光学系7および第2刺激光学系9は、互いに共通の構成として、標本Sを刺激するための刺激光を発生する刺激光源(Laser)27と、刺激光源27から発せられた刺激光の波長、位置(SIFT)、傾き(TILT)およびビーム径などを調整するアライメント機構29と、刺激光を集光する瞳投影レンズ31と、瞳投影レンズ31により集光された刺激光の光路を観察光学系5の光路に合成する合成ダイクロイックミラー33とを備えている。
【0028】
刺激光源27としては、例えば、多光子励起を生じさせる近赤外域の極短パルスレーザ光(刺激光)を発振する近赤外パルスレーザを採用することができる。これにより、第2刺激光学系9により標本Sに光刺激を与える場合に、より効果的にマルチフォトン効果を発生させることができる。
【0029】
合成ダイクロイックミラー33は、観察光学系5の瞳投影レンズ17と結像レンズ19との間の光路上に配置されている。この合成ダイクロイックミラー33は、観察光学系5の瞳投影レンズ17からの励起光を結像レンズ19に向けて透過させる一方、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9の瞳投影レンズ31からの励起光を結像レンズ19に向けて反射するようになっている。
【0030】
第1刺激光学系7は、アライメント機構29を通過した刺激光を走査させる走査部35を備えている。走査部35は、例えば、スキャンユニット15と同様の近接ガルバノミラースキャナである。
【0031】
第2刺激光学系9は、アライメント機構29を通過した刺激光のビーム径を変更可能なビームエキスパンダ37と、ビームエキスパンダ37を通過した刺激光を反射する反射ミラー39と、反射ミラー39により反射された刺激光の位相を変調可能な空間光位相変調器(位相変調素子、Spatial Light Modulator、以下「SLM」という。)41と、SLM41により位相が変調された刺激光を瞳投影レンズ31にリレーする第1リレーレンズ43および第2リレーレンズ45とからなるリレー光学系と、これらリレーレンズ43,45によりリレーされる刺激光を反射する反射ミラー47とを備えている。また、第2刺激光学系9には、SLM41により位相が変調された刺激光に含まれる0次光を遮光するマスク(遮光部材)49が備えられている。
【0032】
ビームエキスパンダ37は、例えば、SLM41の有効領域に合わせて刺激光のビーム径を拡大するようになっている。
SLM41は、対物レンズ3の瞳位置と光学的に共役な位置に配置されている。また、SLM41は、図示しない制御装置により制御されて、入射した刺激光の波面形状を位相変調により変化させて反射または透過するようになっている。また、SLM41は、位相変調量に応じて刺激光の照射位置を切り替えることができるようになっている。これにより、SLM41は、標本S上での刺激光の強度分布を3次元的に変化させて、標本Sに所望の3次元的なパターンの刺激光を照射することができるようになっている。例えば、SLM41は、標本S上の1点に刺激光を照射したり、標本S上の3次元的な多点に刺激光を同時に照射したりすることができる。
【0033】
マスク49は、例えば、SLM41と反射ミラー47との間の光路上に配置されている。また、マスク49は、SLM41からの刺激光が第1リレーレンズ43により結像する位置に配置され、さらに、第2リレーレンズ45および瞳投影レンズ31、結像レンズ19、対物レンズ3からなる後段の光学系により、マスク49に標本Sが投影されるようになっている。
【0034】
SLM41により位相が変調された刺激光の軸中心には位相変調の影響を受けない0次光が含まれているため、標本Sにおける0次光の照射位置付近には、所望の強度分布で光刺激することができない。マスク49により、SLM41により位相変調が施された刺激光に含まれる0次光を除去することで、所望しない照明パターンによる光刺激を防ぐことができる。
【0035】
光路選択部11は、アライメント機構29と走査部35との間の光路上に挿脱可能に配置される第1ミラー(反射部材)51と、第2リレーレンズ45と瞳投影レンズ31との間の光路上に挿脱可能に配置される第2ミラー53とを備えている。この光路選択部11は、第1ミラー51を光路上から脱離させた場合は第2ミラー(反射部材)53が光路上に挿入され、第1ミラー51を光路上に挿入した場合は第2ミラー53が光路上から脱離されるようになっている。
【0036】
第1ミラー51が光路上から脱離されて第2ミラー53が光路上に挿入されると、アライメント機構29を通過した刺激光がそのまま第1刺激光学系7の走査部35に入射し、走査部35により走査された刺激光が第2ミラー53により反射されて瞳投影レンズ31に入射する。これにより、第1刺激光学系7によって標本Sに刺激光を照射することができる。
【0037】
一方、第1ミラー51が光路上に挿入されて第2ミラー53が光路上から脱離されると、アライメント機構29を通過した刺激光が第1ミラー51により反射されて第2刺激光学系9のビームエキスパンダ37に入射し、反射ミラー39、SLM41を介してリレーレンズ43,45によりリレーされた刺激光がそのまま瞳投影レンズ31に入射する。これにより、第2刺激光学系9によって標本Sに刺激光を照射することができる。
【0038】
このように構成された顕微鏡装置1は、図2に示すように、観察光学系5のスキャンユニット15と第1刺激光学系7の走査部35が1次瞳共役位置に配置されており、結像レンズ19と瞳投影レンズ17により対物瞳がスキャンユニット15に投影されるとともに、結像レンズ19と瞳投影レンズ31により対物瞳が走査部35に投影されるようになっている。
【0039】
また、SLM41が2次瞳共役位置に配置されており、結像レンズ19、瞳投影レンズ31、第2リレーレンズ45および第1リレーレンズ43により対物瞳がSLM41に投影されるようになっている。また、対物レンズ3、結像レンズ19、瞳投影レンズ31および第2リレーレンズ45により、標本位置がマスク49の位置に投影されるようになっている。
【0040】
観察光学系5のスキャンユニット15と第1刺激光学系7の走査部35は、光学的に等価な配置となっている。これにより、図3に示すように、標本Sにおける観察光学系5の観察視野と第1刺激光学系7の刺激領域(図3において「第1刺激領域」と表記する。)とが同一となっている。すなわち、第1刺激光学系7は、走査部35により、観察光学系5の観察視野の全域に亘り刺激光を走査させることができ、これにより、観察視野の中心を含む全域に光刺激を与えることができる。
【0041】
第2刺激光学系9においては、SLM41に対する投影倍率によって刺激領域が変化し、刺激領域が増大するほど刺激ポイントごとの分解能が低下する。本実施形態においては、刺激ポイントごとの分解能を確保するため、例えば、図4に示すように、第2刺激光学系9の刺激領域(図4において「第2刺激領域」と表記する。)は、観察光学系5の観察視野よりも狭く設定されている。
【0042】
また、マスク49により0次光が遮光される標本S上の領域、すなわち、観察光学系5の観察視野の中心付近には、SLM41により位相が変調された刺激光が照射されないようになっている。したがって、第2刺激光学系9は、観察光学系5の観察視野よりも狭い領域で、かつ、観察視野の中心付近を除く領域に光刺激を与えることができる。
【0043】
このように構成された顕微鏡装置1の作用について説明する。
まず、本実施形態に係る顕微鏡装置1により標本Sを多光子励起観察する場合について説明する。この場合は、観察光学系5の観察光源13から励起光を発生させる。
【0044】
観察光源13から発せられた励起光は、スキャンユニット15により走査された後、瞳投影レンズ17、合成ダイクロイックミラー33、結像レンズ19および反射ミラー21を介して励起ダイクロイックミラー23を透過し、対物レンズ3により標本Sに照射される。これにより、スキャンユニット15の一対のガルバノミラーの動作に応じて標本S上で励起光が2次元的に走査される。
【0045】
励起光が走査されることにより標本Sにおいて発生した蛍光は、対物レンズ3により集光されてレーザ光の光路を戻り、励起ダイクロイックミラー23により反射されて、検出器25により検出される。すなわち、標本Sからの蛍光は、スキャンユニット15に戻らずに検出器25により検出される(ノンデスキャン検出方式)。
【0046】
検出器25により蛍光が検出されたら、例えば、検出された蛍光の強度情報とその検出時のスキャンユニット15による励起光の走査位置情報とに基づいて、図示しないPC(Personal Computer)等により標本Sの2次元的な蛍光画像を生成する。これにより、蛍光画像に基づいて標本Sを観察することができる。
【0047】
次に、本実施形態に係る顕微鏡装置1により標本Sに光刺激を与える場合について説明する。
第1刺激光学系7により標本Sを光刺激する場合は、光路選択部11の第1ミラー51を光路上から脱離させる一方、第2ミラー53を光路上に挿入し、この状態で、刺激光源27から刺激光を発生させる。
【0048】
刺激光源27から発せられた刺激光は、アライメント機構29により波長、ビーム径、傾きおよび位置等が調整された後、そのまま第1刺激光学系7の走査部35に入射して走査される。走査部35により走査された刺激光は、光路選択部11の第2ミラー53により反射されて、瞳投影レンズ31、合成ダイクロイックミラー33、結像レンズ19および反射ミラー21を介して励起ダイクロイックミラー23を透過し、対物レンズ3により標本Sに照射される。これにより、走査部35の一対のガルバノミラーの動作に応じて標本S上で刺激光を2次元的に走査させ、標本Sの任意の領域ごとに光刺激を与えることができる。
【0049】
次に、第2刺激光学系9により標本Sに光刺激を与える場合は、光路選択部11の第1ミラー51を光路上に挿入する一方、第2ミラー53を光路上から脱離させ、この状態で、刺激光源27から刺激光を発生させる。
【0050】
刺激光源27から発せられた刺激光は、アライメント機構29により波長、ビーム径、傾きおよび位置等が調整された後、光路選択部11の第1ミラー51により反射されて第2刺激光学系9のビームエキスパンダ37によりビーム径が拡大され、反射ミラー39を介してSLM41に入射する。
【0051】
SLM41に入射した刺激光は、位相変調により波面が変化されて射出され、リレーレンズ43,45によりリレーされる。そして、刺激光は、そのまま瞳投影レンズ31、合成ダイクロイックミラー33、結像レンズ19および反射ミラー21を介して励起ダイクロイックミラー23を透過し、対物レンズ3により標本Sに照射される。これにより、SLM41の位相変調量に応じたパターンで標本Sに刺激光を照射し、標本Sの任意の全ての領域や複数の領域に同時に光刺激を与えることができる。
【0052】
ここで、第1刺激光学系7は、図3に示すように、観察光学系5の観察視野の中心を含む全域に光刺激を与えることができるが、走査部35の走査範囲に応じて標本Sの任意の領域ごとにしか刺激光を照射することができない。一方、第2刺激光学系9は、SLM41による位相変調量に応じて任意の複数の領域に同時に刺激光を照射することができるが、図4に示すように、観察光学系5の観察視野よりも狭い領域で、かつ、観察視野の中心付近を除く領域にしか刺激光を照射することができない。
【0053】
そこで、例えば、複数の領域にタイムラグ無く同時に光刺激を与える場合は、第2刺激光学系9により刺激光を照射することが有効であり、また、任意の領域ごとに強い光刺激を与えたり、第2刺激光学系9の刺激領域よりも外側や観察視野の中心付近など、第2刺激光学系9では刺激光を照射することができない領域に光刺激を与えたりする場合は、第1刺激光学系7により刺激光を照射することが有効となる。
【0054】
したがって、光路選択部11により第1刺激光学系7の光路と第2刺激光学系9の光路とを切り替えることで、標本Sにおける所望の領域に所望のタイミングで光刺激を与えることができる。
【0055】
この場合において、第2刺激光学系9が、SLM41により刺激光の位相を変調することによって標本S上の照射位置を選択的に切り替えるので、DMD(ディジタルマイクロミラーデバイス)を用いた場合のように刺激光の一部が利用されずに無駄になるということがない。
【0056】
したがって、本実施形態に係る顕微鏡装置1によれば、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9により、光量を損失することなく標本Sにおける複数の領域をタイムラグ無く同時に刺激したり、任意の領域ごとに強く刺激したりすることができる。
【0057】
また、本実施形態においては、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9が、共通の刺激光源27から発せられる刺激光により標本Sに光刺激を与えることで、刺激光学系7,9ごとに光源を用意しなくて済み、光源の数が少なくなる分だけ安価にすることができる。
【0058】
本実施形態は以下のように変形することができる。
本実施形態においては、単一波長の刺激光を発生する刺激光源27を採用するとともに、刺激光を反射する第1ミラー51および第2ミラー53を備える光路選択部11を採用することとしたが、これに代えて、複数波長の刺激光を発生する刺激光源を採用するとともに、刺激光を分岐または合成するダイクロイックミラーを備える光路選択部を採用することとしてもよい。
【0059】
この場合、例えば、図5に示すように、波長がブロードバンドの刺激光源55を採用することとしてもよい。また、刺激光源55からの刺激光を波長に応じて透過または反射して、第1刺激光学系7の光路と第2刺激光学系9の光路とに分岐する第1ダイクロイックミラー57と、第1刺激光学系7からの刺激光を反射または第2刺激光学系9からの刺激光を透過して、第1刺激光学系7の光路と第2刺激光学系9の光路とを合成する第2ダイクロイックミラー58とを備える光路選択部59を採用することとしてもよい。
【0060】
また、例えば、図6に示すように、異なる波長の2つの刺激光を同時に射出する波長変換型レーザ光源61を採用するとともに、第1刺激光学系7の光路と第2刺激光学系9の光路とを合成するダイクロイックミラー62を備える光路選択部63を採用することとしてもよい。
【0061】
波長変換型レーザ光源61は、例えば、単一波長の刺激光を発生する発振部65と、アライメント機構29と、発振部65からアライメント機構29を介して入射される刺激光の一部を透過率に応じて透過させ、残りを反射するハーフミラー67と、ビームエキスパンダ37と、反射ミラー39と、ハーフミラー67からビームエキスパンダ37および反射ミラー39を介して入射される刺激光の波長を変調する波長変調素子(OPO:Optical Parametric Oscillator)69とを備えることとしてもよい。そして、ハーフミラー67を透過した波長の刺激光が第1刺激光学系7の走査部35に入射し、ハーフミラー67により反射されて波長変調素子69により波長を変調された刺激光が第2刺激光学系9のSLM41に入射することとしてもよい。
【0062】
本変形例によれば、図5および図6のいずれの構成においても、第1刺激光学系7と第2刺激光学系9とで別々の波長の刺激光により標本Sに同時に光刺激を与えることができる。
【0063】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る顕微鏡装置について説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置71は、図7に示すように、光路選択部11に代えて、第1刺激光学系7の光路と第2刺激光学系9の光路の両方を選択する光路選択部73を備える点で第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る顕微鏡装置1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
光路選択部73は、刺激光の光路を分岐させる第1ハーフミラー75と、刺激光の光路を合成する第2ハーフミラー77とを備えている。
第1ハーフミラー75は、アライメント機構29を通過した刺激光の一部を透過率に応じて透過させて第1刺激光学系7の走査部35に入射させる一方、残りを反射して第2刺激光学系9のビームエキスパンダ37に入射させるようになっている。
【0065】
第2ハーフミラー77は、第1刺激光学系7の走査部35からの刺激光を反射して瞳投影レンズ31に入射させる一方、第2刺激光学系9のリレーレンズ43,45からの刺激光を透過させて瞳投影レンズ31に入射させるようになっている。
【0066】
また、第1刺激光学系7は、刺激光の光路を遮断可能なシャッタ79を備えている。シャッタ79は、例えば、光路選択部73の第1ハーフミラー75と第1刺激光学系7の走査部35との間の光路上に配置されており、開閉することにより、第1ハーフミラー75と走査部35との間の光路を開放または遮断するようになっている。
【0067】
このように構成された顕微鏡装置71の作用について説明する。
観察光学系5による標本Sの観察については第1実施形態と同様であるので説明を省略し、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9による標本Sの光刺激について説明する。
【0068】
第1刺激光学系7および第2刺激光学系9により標本Sに光刺激を与える場合は、シャッタ79を開いて光路を開放した状態で、刺激光源27から刺激光を発生させる。刺激光源27から発せられた刺激光は、アライメント機構29により波長、ビーム径、傾きおよび位置等が調整された後、光路選択部73の第1ハーフミラー75により、その透過率に応じて一部が透過して残りが反射される。
【0069】
第1ハーフミラー75を透過した刺激光は、シャッタ79を通過して第1刺激光学系7の走査部35により走査され、光路選択部73の第2ハーフミラー77により反射されて瞳投影レンズ31に入射する。
【0070】
一方、第1ハーフミラー75により反射された刺激光は、第2刺激光学系9のビームエキスパンダ37によりビーム径が拡大されて反射ミラー39により反射された後、SLM41により位相が変調されてリレーレンズ43,45によりリレーされ、光路選択部73の第2ハーフミラー77を透過して瞳投影レンズ31に入射する。
【0071】
光路選択部73の第2ハーフミラー77により瞳投影レンズ31に入射されて光路が合成された第1刺激光学系7からの刺激光と第2刺激光学系9からの刺激光は、それぞれ合成ダイクロイックミラー33、結像レンズ19および反射ミラー21を介して励起ダイクロイックミラー23を透過し、対物レンズ3により標本Sに照射される。
【0072】
これにより、第1刺激光学系7と第2刺激光学系9とにより標本Sに同時に光刺激を与えることができる。例えば、図8に示すように、第2刺激光学系9により観察光学系5の観察視野の中心付近を除く領域に刺激光を照射するとともに、第1刺激光学系7により観察光学系5の観察視野の中心付近に刺激光を照射すれば、観察光学系5の観察視野の中心を含むすべての領域に同時に光刺激を与えることができる。
【0073】
観察光学系5の観察視野の中心付近に光刺激を与えない場合は、例えば、シャッタ79を閉じて第1刺激光学系7の光路を遮断することとしてもよいし、シャッタ79を開いて第1刺激光学系7の光路を開放したまま、走査部35により観察光学系5の観察視野外に向けて刺激光を走査させることとしてもよい。
【0074】
また、照射時間を考慮して、第2刺激光学系9のSLM41による光刺激の強度を強くすることとしてもよい。また、第1刺激光学系7の光路と第2刺激光学系9の光路のどちらかにNDフィルタ(Neutral Density Filter)を設けることとしてもよい。
【0075】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る顕微鏡装置について説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置81は、図9に示すように、光路選択部11に代えて、第1刺激光学系7の光路と第2刺激光学系9の光路の両方を選択する光路選択部83を備える点で第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る顕微鏡装置1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0076】
光路選択部83は、刺激光源27からの刺激光を分岐および合成する第1偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarizing Beam Splitter)85および第2偏光ビームスプリッタ(PBS)87と、刺激光の偏光方向を変更するλ/2板89とを備えている。
【0077】
λ/2板89は、アライメント機構29と光路選択部83の第1偏光ビームスプリッタ85との間の光路上に配置されている。このλ/2板89は、刺激光源27から発せられた直線偏光の刺激光を図10に示すように斜めの直線偏光に変更するようになっている。また、λ/2板89は、その角度を調整することにより、刺激光のS偏光とP偏光の偏光成分の分割割合を変更することができるようになっている。
【0078】
第1偏光ビームスプリッタ85は、λ/2板89からの刺激光の内、例えば、P偏光成分(図9において紙面に平行な偏光成分)を第1刺激光学系7の走査部35に向けて透過させ、S偏光成分(図9において紙面に垂直な偏光成分)を第2刺激光学系9のビームエキスパンダ37に向けて反射することにより、これらの光路を分岐させるようになっている。例えば、第2刺激光学系9のSLM41により標本Sに照射する刺激光の量を多くする場合は、S偏光成分の割合が多くなるようにλ/2板89の角度を調整することとすればよい。
【0079】
第2偏光ビームスプリッタ87は、第1刺激光学系7の走査部35により走査された刺激光(P偏光成分、図9において紙面に平行な偏光成分)を透過する一方、第2刺激光学系9のSLM41により位相が変調された刺激光(S偏光成分、図9において紙面に垂直な偏光成分)を反射することにより、これらの光路を合成するようになっている。
【0080】
このように構成された顕微鏡装置81の作用について説明する。
観察光学系5による標本Sの観察については第1実施形態と同様であるので説明を省略し、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9による標本Sの光刺激について説明する。
【0081】
刺激光源27から発せられた刺激光は、アライメント機構29により波長、ビーム径、傾きおよび位置等が調整された後、λ/2板89により斜めの直線偏光に変更されて、光路選択部83の第1偏光ビームスプリッタ85に入射する。第1偏光ビームスプリッタ85に入射した刺激光の内のP偏光成分は、第1偏光ビームスプリッタ85を透過して第1刺激光学系7の走査部35により走査され、第2偏光ビームスプリッタ87を透過して第2刺激光学系9の光路と合成される。
【0082】
一方、第1偏光ビームスプリッタ85に入射した刺激光の内のS偏光成分は、第1偏光ビームスプリッタ85により反射されて第2刺激光学系9のビームエキスパンダ37によりビーム径が拡大された後、反射ミラー39を介してSLM41により位相が変調される。SLM41により位相が変調された刺激光は、リレーレンズ43,45によりリレーされた後、光路選択部83の第2偏光ビームスプリッタ87により反射されて第1刺激光学系7の光路と合成される。
【0083】
光路選択部83の第2偏光ビームスプリッタ87により光路が合成された第1刺激光学系7からの刺激光と第2刺激光学系9からの刺激光は、それぞれ反射ミラー21を介して励起ダイクロイックミラー23を透過し、対物レンズ3により標本Sに照射される。
【0084】
以上説明したように、本実施形態に係る顕微鏡装置81によれば、λ/2板89による刺激光の偏光成分の分割割合に応じて、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9の一方により標本Sに光刺激を与えたり、これらの両方により標本Sに同時に光刺激を与えたりすることができる。
【0085】
本実施形態においては、λ/2板89を採用することとしたが、これに代えて、例えば、刺激光源27から発せられた直線偏光の刺激光を図11に示すように円偏光に変更するλ/4板(図示略)を採用することとしてもよい。
【0086】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態に係る顕微鏡装置について説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置91は、図12に示すように、光路選択部11に代えて、刺激光の光路を選択する複数の素子を切り替え可能な光路選択部93を備える点で第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る顕微鏡装置1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0087】
光路選択部93は、刺激光を反射する第1ミラー51および第2ミラー53と、刺激光を透過率に応じて透過または反射する第1ハーフミラー75および第2ハーフミラー77と、刺激光をその波長に応じて透過または反射する第1ダイクロイックミラーおよび第2ダイクロイックミラー(いずれも図示略)と、これら第1ミラー51、第1ハーフミラー75および第1ダイクロイックミラーをアライメント機構29と第1刺激光学系7の走査部35との間の刺激光の光路上に選択的に配置する第1ターレット(図示略)と、第2ミラー53、第2ハーフミラー77および第2ダイクロイックミラーを第2リレーレンズ45と瞳投影レンズ17との間の光路上に選択的に配置する第2ターレット(図示略)とを備えている。
【0088】
第1ターレットおよび第2ターレットは、刺激光の光路を開放する孔部(図示略)を有している。この光路選択部93は、第1ミラー51を刺激光の光路上に配置する場合は、第2ターレットの孔部が光路上に配置され、第2ミラー53を刺激光の光路上に配置する場合は、第1ターレットの孔部が光路上に配置されるようになっている。また、光路選択部93は、第1ハーフミラー75を光路上に配置する場合は第2ハーフミラー77が光路上に配置され、第1ダイクロイックミラーを光路上に配置する場合は第2ダイクロイックミラーが光路上に配置されるようになっている。
【0089】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡装置91によれば、光路選択部93により刺激光の光路上に配置する素子を切り替えることで、第1実施形態または第2実施形態の構成と同様の方法により標本Sに光刺激を与えることができる。
【0090】
〔第5実施形態〕
次に、本発明の第5実施形態に係る顕微鏡装置について説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置101は、図13に示すように、観察光学系5に代えて、観察光源13の代わりに水銀ランプのような照明光源105を採用するとともに、検出器25の代わりにCCD(Charge Coupled device)111を採用する観察光学系103を備える点で第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る顕微鏡装置1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0091】
観察光学系103は、照明光源105から発せられた照明光を集光して平行光にする照明レンズ107と、照明レンズ107により平行光にされた照明光を標本Sに照射する一方、標本Sから戻る観察光を集光する対物レンズ3と、対物レンズ3により集光されて照明光の光路を戻る観察光を照明光の光路から分岐させる励起ダイクロイックミラー23と、励起ダイクロイックミラー23により照明光の光路から分岐された観察光をCCD111の撮像面に結像させる結像レンズ109とを備えている。
【0092】
第1刺激光学系7および第2刺激光学系9は、瞳投影レンズ31により集光された刺激光を反射する反射ミラー113と、反射ミラー113により反射された刺激光を平行光に変換する結像レンズ19と、結像レンズ19により平行光に変換された刺激光の光路を観察光学系103の光路に合成する合成ダイクロイックミラー33とを備えている。
【0093】
合成ダイクロイックミラー33は、観察光学系103の励起ダイクロイックミラー23と対物レンズ3との間の光路上に配置されており、刺激光を反射する一方、照明光および観察光を透過させる特性を有している。図13に示す例では、第1ミラー51および第2ミラー53を備える光路選択部11を採用している。
【0094】
このように構成された顕微鏡装置101の作用について説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置101により標本Sを観察する場合は、観察光学系103の照明光源105から照明光を発生させる。照明光源105から発せられた照明光は、照明レンズ107により集光されて励起ダイクロイックミラー23により反射され、合成ダイクロイックミラー33を透過して対物レンズ3により標本Sに照射される。
【0095】
照明光が照射されることにより標本Sから戻る観察光は、対物レンズ3により集光されて照明光の光路を戻り、合成ダイクロイックミラー33および励起ダイクロイックミラー23を透過して、結像レンズ109によりCCD111の撮像面に結像される。これにより、CCD111により像が撮影されて標本Sの画像が取得される。
【0096】
次に、顕微鏡装置101により標本Sに光刺激を与える場合は、刺激光源27から刺激光を発生させる。刺激光源27から発せられた刺激光は、光路選択部11により択一的に選択される第1刺激光学系7の光路または第2刺激光学系9の光路を通過し、瞳投影レンズ31、反射ミラー113および結像レンズ19を介して合成ダイクロイックミラー33により観察光学系103の光路に合成され、対物レンズ3により集光されて標本Sに照射される。これにより、第1刺激光学系7または第2刺激光学系9によって、標本S上の領域に光刺激が与えられる。
【0097】
本実施形態に係る顕微鏡装置101によれば、CCD111によって取得される標本Sの画像により、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9によって光刺激が与えられた標本Sの反応を観察することができる。この場合において、第1実施形態と同様に、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9により、光量を損失することなく標本Sにおける複数の領域をタイムラグ無く同時に刺激したり、任意の領域ごとに強く刺激したりすることができる。
【0098】
本実施形態においては、励起ダイクロイックミラー23と対物レンズ3との間の光路上に合成ダイクロイックミラー33を配置することとしたが、これに代えて、励起ダイクロイックミラー23と結像レンズ109との間の光路上や、結像レンズ109とCCD111との間の光路上に合成ダイクロイックミラー33を配置することとしてもよい。ただし、刺激光が励起ダイクロイックミラー23を透過しなくて済む位置、すなわち、励起ダイクロイックミラー23と対物レンズ3との間の光路上に合成ダイクロイックミラー33を配置する構成は、刺激光の光量損失が少なく、最も現実的である。
【0099】
上記各実施形態は以下のように変形することができる。
すなわち、図14に示すように、観察光学系5、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9を階層状態に積み重ねて配置することとしてもよい。このようにすることで、設置面積が観察光学系5、第1刺激光学系7および第2刺激光学系9の1つ分の大きさで足り、顕微鏡装置1の周りの省スペース化を図ることができる。図14は、第1実施形態の顕微鏡装置1を適用した例を示している。
【0100】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の各実施形態に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0101】
1,71,81,91,101 顕微鏡装置
3 対物レンズ
5,103 観察光学系
7 第1刺激光学系
9 第2刺激光学系
11,59,63,73,83,93 光路選択部
27,55 刺激光源(光源)
35 走査部
41 SLM(位相変調素子)
49 マスク(遮光部材)
51 第1ミラー(反射部材)
53 第2ミラー(反射部材)
57 第1ダイクロイックミラー(ダイクロイックミラー)
58 第2ダイクロイックミラー(ダイクロイックミラー)
85 第1偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ)
87 第2偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ)
89 λ/2板(波長板)
S 標本
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14