特許第6803197号(P6803197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803197
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/96 20060101AFI20201214BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20201214BHJP
   B60T 8/175 20060101ALI20201214BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   B60T8/96ZYW
   B60T8/1755 Z
   B60T8/175
   B60T17/18
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-211616(P2016-211616)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-69913(P2018-69913A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】堀口 陽宣
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−187506(JP,A)
【文献】 特開2011−131635(JP,A)
【文献】 特開2004−142629(JP,A)
【文献】 特開平09−109866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T7/12−8/1769
8/32−8/96
15/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪側を駆動する前輪側駆動手段と、
前記前輪側駆動手段と独立した後輪側を駆動する後輪側駆動手段と、
前輪側のスリップを防止する前輪側トラクションコントロール手段と、
前記前輪側トラクションコントロール手段と独立した後輪側のスリップを防止する後輪側トラクションコントロール手段と、
前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段の少なくとも一方の異常を検出するトラクションコントロール異常検出手段と、
車両の運転状態に基づいて目標とする走行状態を設定し、前記目標とする走行状態と実際の走行状態との差が予め設定する制御閾値以上となった場合に、車両を前記目標とする走行状態とするために必要なヨー方向の目標制御量を算出し、特定の車輪を選択して前記目標制御量に応じた制動力を付加して車両にヨーモーメントを生じさせる横すべり防止制御手段と、
前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合は、前記横すべり防止制御手段の前記制御閾値を前記横すべり防止制御手段が介入しやすくなる方向に補正する制御閾値補正手段と、
前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合は、前記横すべり防止制御手段の前記目標制御量に応じた制動力が大きくなる方向に補正する制御量補正手段と、
を備え
前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合、前記制御閾値補正手段で補正された前記制御閾値を用いて前記横すべり防止制御手段の介入を判定し、前記横すべり防止制御手段を介入させると判定した場合、前記制御量補正手段で補正された前記制動力を前記特定の車輪に付加して車両にヨーモーメントを生じさせる
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前輪側を駆動する前輪側駆動手段と、
前記前輪側駆動手段と独立した後輪側を駆動する後輪側駆動手段と、
前輪側のスリップを防止する前輪側トラクションコントロール手段と、
前記前輪側トラクションコントロール手段と独立した後輪側のスリップを防止する後輪側トラクションコントロール手段と、
前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段の少なくとも一方の異常を検出するトラクションコントロール異常検出手段と、
車両の運転状態に基づいて目標とする走行状態を設定し、前記目標とする走行状態と実際の走行状態との差が予め設定する制御閾値以上となった場合に、車両を前記目標とする走行状態とするために必要なヨー方向の目標制御量を算出し、特定の車輪を選択して前記目標制御量に応じた制動力を付加して車両にヨーモーメントを生じさせる横すべり防止制御手段と、
前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合は、前記横すべり防止制御手段の前記目標制御量に応じた制動力が大きくなる方向に補正する制御量補正手段と、
を備え
前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出し、前記横すべり防止制御手段を介入させる場合、前記制御量補正手段で補正された前記制動力を前記特定の車輪に付加して車両にヨーモーメントを生じさせる
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御閾値補正手段による前記横すべり防止制御手段の前記制御閾値の補正は、前記トラクションコントロール異常検出手段で異常が検出された車輪側のトラクションコントロール手段によるトルクダウン量と操舵角と車速の少なくとも一つに応じて行われることを特徴とする請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御量補正手段による前記横すべり防止制御手段の前記目標制御量に応じた制動力の補正は、前記トラクションコントロール異常検出手段で異常が検出された車輪側のトラクションコントロール手段によるトルクダウン量と操舵角と車速の少なくとも一つに応じて行われることを特徴とする請求項1又は請求項記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合、前記横すべり防止制御手段は、前輪側と後輪側とで前記トラクションコントロール異常検出手段で異常が検出された側の車輪には制動力を付加しないことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪側と後輪側とで独立して制御自在な車輪のスリップを防止するトラクションコントロールと、車体の横すべり防止機能を備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、車両の運動性能の向上、また、走行安定性や安全性を向上するために様々な車両挙動制御装置が搭載されてきている。例えば、特開2000−318590号公報(以下、特許文献1)では、車両がグリップ状態にあるか否かを判別し、車両がグリップ状態にあると判別されたときには横すべり防止制御(車両の横すべり状態が推定されたときには旋回外側前輪に制動力を付与する横すべり防止制御)を禁止するが、車両がグリップ状態にあると判別された場合であっても駆動輪である左右の後輪に制動力を付与するトラクションコントロールが行われているときには横すべり防止制御を許可するようにして、駆動輪に制動力を付与することによる加速スリップ抑制制御が実行されている状況に於いても車両の横すべりを確実に防止する車両の挙動制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−318590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前輪側と後輪側とで独立して制御自在なトラクションコントロールを搭載した車両において、後輪側のトラクションコントロールに異常が生じた場合、後輪側のスリップが急激に増加し、車両の走行安定性が著しく悪化する虞がある。逆に、前輪側のトラクションコントロールに異常が生じた場合、前輪側のスリップが急激に増加し、操舵性が著しく悪化する虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、前輪側と後輪側とで独立して制御自在なトラクションコントロールを搭載した車両において、たとえ前輪側、或いは後輪側のトラクションコントロールに異常が生じても、車体の横すべり防止機能を適切に作動させて、車両挙動の安定性と車両の運動性能を十分に維持することができる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の制御装置の一態様は、前輪側を駆動する前輪側駆動手段と、前記前輪側駆動手段と独立した後輪側を駆動する後輪側駆動手段と、前輪側のスリップを防止する前輪側トラクションコントロール手段と、前記前輪側トラクションコントロール手段と独立した後輪側のスリップを防止する後輪側トラクションコントロール手段と、前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段の少なくとも一方の異常を検出するトラクションコントロール異常検出手段と、車両の運転状態に基づいて目標とする走行状態を設定し、前記目標とする走行状態と実際の走行状態との差が予め設定する制御閾値以上となった場合に、車両を前記目標とする走行状態とするために必要なヨー方向の目標制御量を算出し、特定の車輪を選択して前記目標制御量に応じた制動力を付加して車両にヨーモーメントを生じさせる横すべり防止制御手段と、前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合は、前記横すべり防止制御手段の前記制御閾値を前記横すべり防止制御手段が介入しやすくなる方向に補正する制御閾値補正手段と、前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合は、前記横すべり防止制御手段の前記目標制御量に応じた制動力が大きくなる方向に補正する制御量補正手段とを備え、前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合、前記制御閾値補正手段で補正された前記制御閾値を用いて前記横すべり防止制御手段の介入を判定し、前記横すべり防止制御手段を介入させると判定した場合、前記制御量補正手段で補正された前記制動力を前記特定の車輪に付加して車両にヨーモーメントを生じさせる。
また、本発明の車両の制御装置の他の一態様は、前輪側を駆動する前輪側駆動手段と、前記前輪側駆動手段と独立した後輪側を駆動する後輪側駆動手段と、前輪側のスリップを防止する前輪側トラクションコントロール手段と、前記前輪側トラクションコントロール手段と独立した後輪側のスリップを防止する後輪側トラクションコントロール手段と、前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段の少なくとも一方の異常を検出するトラクションコントロール異常検出手段と、車両の運転状態に基づいて目標とする走行状態を設定し、前記目標とする走行状態と実際の走行状態との差が予め設定する制御閾値以上となった場合に、車両を前記目標とする走行状態とするために必要なヨー方向の目標制御量を算出し、特定の車輪を選択して前記目標制御量に応じた制動力を付加して車両にヨーモーメントを生じさせる横すべり防止制御手段と、前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出した場合は、前記横すべり防止制御手段の前記目標制御量に応じた制動力が大きくなる方向に補正する制御量補正手段とを備え、前記トラクションコントロール異常検出手段が前記前輪側トラクションコントロール手段と前記後輪側トラクションコントロール手段のどちらかの異常を検出し、前記横すべり防止制御手段を介入させる場合、前記制御量補正手段で補正された前記制動力を前記特定の車輪に付加して車両にヨーモーメントを生じさせる。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両の制御装置によれば、前輪側と後輪側とで独立して制御自在なトラクションコントロールを搭載した車両において、たとえ前輪側、或いは後輪側のトラクションコントロールに異常が生じても、車体の横すべり防止機能を適切に作動させて、車両挙動の安定性と車両の運動性能を十分に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の一形態に係る車両の制駆動系の概略構成図である。
図2】本発明の実施の一形態に係る車両挙動制御プログラムのフローチャートである。
図3】本発明の実施の一形態に係るアンダーステア傾向抑制制御閾値補正係数の特性説明図で、図3(a)はトルクダウン量に応じたアンダーステア傾向抑制制御閾値補正係数の特性説明図、図3(b)は操舵角に応じたアンダーステア傾向抑制制御閾値補正係数の特性説明図、図3(c)は車速に応じたアンダーステア傾向抑制制御閾値補正係数の特性説明図である。
図4】本発明の実施の一形態に係るアンダーステア傾向抑制制御量の補正量の特性説明図で、図4(a)はトルクダウン量に応じたアンダーステア傾向抑制制御量の補正量の特性説明図、図4(b)は操舵角に応じたアンダーステア傾向抑制制御量の補正量の特性説明図、図4(c)は車速に応じたアンダーステア傾向抑制制御量の補正量の特性説明図である。
図5】本発明の実施の一形態に係るオーバーステア傾向抑制制御閾値補正係数の特性説明図で、図5(a)はトルクダウン量に応じたオーバーステア傾向抑制制御閾値補正係数の特性説明図、図5(b)は操舵角に応じたオーバーステア傾向抑制制御閾値補正係数の特性説明図、図5(c)は車速に応じたオーバーステア傾向抑制制御閾値補正係数の特性説明図である。
図6】本発明の実施の一形態に係るオーバーステア傾向抑制制御量の補正量の特性説明図で、図6(a)はトルクダウン量に応じたオーバーステア傾向抑制制御量の補正量の特性説明図、図6(b)は操舵角に応じたオーバーステア傾向抑制制御量の補正量の特性説明図、図6(c)は車速に応じたオーバーステア傾向抑制制御量の補正量の特性説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
図1において、符号1は車両を示し、この車両1の左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrは、それぞれ図示しないサスペンションを介して車体に支持されている。尚、本実施形態では、車両の旋回方向により、左前輪2flと右前輪2frの一方は旋回内側前輪2fiとなり、他方は旋回外側前輪2foとなる。同様に、車両の旋回方向により、左後輪2rlと右後輪2rrの一方は旋回内側後輪2riとなり、他方は旋回外側後輪2roとなる。
【0011】
左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrのホイール内部には、左前輪インホイールモータ3fl、右前輪インホイールモータ3fr、左後輪インホイールモータ3rl、右後輪インホイールモータ3rrが、それぞれの車輪に対して動力伝達自在に組み込まれている。
【0012】
そして、本実施の形態では、前輪側駆動手段としての前輪側のインホイールモータ3fl、3frと後輪側駆動手段としての後輪側のインホイールモータ3rl、3rrのトルクを独立して制御することにより、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrに発生させる、後述する駆動力、および、回生制動力(回生ブレーキ)をそれぞれ前後独立して制御自在に構成されている。
【0013】
前輪側のインホイールモータ3fl、3frは、これらに対応して設けられた前輪側インバータ4fと接続され、後輪側のインホイールモータ3rl、3rrは、これらに対応して設けられた前輪側インバータ4rと接続されており、バッテリ5から供給される直流電力を交流電力に変換して、その交流電力を各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rrに供給する。これにより、前輪側のインホイールモータ3fl、3frと、後輪側のインホイールモータ3rl、3rrは、前輪側と後輪側とで独立して駆動制御され、前輪側の車輪2fl、2frと後輪側の車輪2rl、2rrは、独立して駆動力が付与される。
【0014】
また、各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rrは、発電機としても機能し、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrの回転エネルギにより発電し、発電電力をインバータ4f、4rを介してバッテリ5に回生することが自在になっており、この各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rrの発電により発生する回生エネルギが、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrに対して回生制動力(回生ブレーキ)を付与する。
【0015】
一方、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrには、それぞれ、摩擦ブレーキ機構6fl、6fr、6rl、6rrが設けられており、これら摩擦ブレーキ機構6fl、6fr、6rl、6rrは、例えば、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ等の公知のブレーキ装置である。
【0016】
これらの摩擦ブレーキ機構6fl、6fr、6rl、6rrは、ブレーキ駆動部7と接続されており、ブレーキ駆動部7から供給される油圧によりホイールシリンダのピストンが作動して各車輪2fl、2fr、2rl、2rrに対して制動力(液圧ブレーキ)を付与する。
【0017】
ブレーキ駆動部7は、昇圧ポンプ、アキュムレータ等からなる液圧発生装置、ブレーキ作動油の圧力を調整して摩擦ブレーキ機構6fl、6fr、6rl、6rrのホイールシリンダに供給する圧力調整制御弁、摩擦ブレーキ機構6fl、6fr、6rl、6rrにブレーキ作動油を供給する油圧回路の開閉を行う開閉制御弁等を備えるハイドロリックユニットである。
【0018】
そして、上述の前後輪側のインバータ4f、4r、ブレーキ駆動部7は、制御ユニット10にそれぞれ接続されている。
【0019】
制御ユニット10は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータで構成され、各種プログラムを実行して各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rr、および、摩擦ブレーキ機構6fl、6fr、6rl、6rrの作動を独立して制御する。このため、制御ユニット10には、ドライバのアクセル操作量を検出するアクセルセンサ11、ドライバのブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ12、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrの車輪速度ωfl、ωfr、ωrl、ωrrを検出する車輪速センサ13fl、13fr、13rl、13rr、操舵角δfを検出する操舵角センサ14、ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ15が接続されている。また、制御ユニット10には、各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rrに流れる電流値、電圧値を表す信号、その他センサ、スイッチからの信号等が入力される。
【0020】
そして、制御ユニット10は、上述の各信号に基づき、ドライバのアクセル操作量に応じた要求駆動力(目標駆動力)や、ドライバのブレーキ操作量に応じた要求制動力(目標制動力)、すなわち、車両1を走行または制動させるために必要とされる要求制駆動力を、予め設定しておいたマップ、テーブル等を参照して、所定に算出し、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrの各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rrで発生させる各輪要求制駆動力に配分する。尚、要求制駆動力の値が正の場合は、駆動力要求されている場合であり、要求制駆動力が負の場合は、制動力が要求されている場合である。
【0021】
制御ユニット10は、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrの要求制駆動力に応じた電流が各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rrに流れるように制御信号(例えば、PWM制御信号)を生成してインバータ4f、4rに出力する。制御ユニット10は、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrの要求制駆動力が負の場合には、各車輪2fl、2fr、2rl、2rrの要求制駆動力を、予め実験、計算等により設定しておいた比率に従って、各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rrで発生させる回生ブレーキと、摩擦ブレーキ機構6fl、6fr、6rl、6rrで発生させる液圧ブレーキとに配分する。この際、制御ユニット10は、回生ブレーキを発生させるための制御信号をインバータ4f、4rに出力し、液圧ブレーキを発生させるための制御信号をブレーキ駆動部7に出力する。これにより、各インホイールモータ3fl、3fr、3rl、3rrでは目標とする回生ブレーキを発生し、摩擦ブレーキ機構6fl、6fr、6rl、6rrでは目標とする液圧ブレーキを発生する。
【0022】
また、制御ユニット10は、基準車速(例えば、4輪の平均車輪速)と前輪2fl、2frの車輪速度ωfl、ωfrに基づき前輪2fl、2frのそれぞれのスリップ状態(例えば、スリップ率=(車輪速度−基準速度)/車輪速度)を算出し、前輪2fl、2frの少なくとも一方の車輪のスリップ率が予め設定しておいた閾値を超えた場合に、このスリップした車輪のスリップ率に応じたトルクダウン量を、予め実験、計算等により設定しておいたマップや演算により算出し、前輪側インバータ4fに出力してトルクダウンさせる、前輪側トラクションコントロール手段としての機能を有している。更に、制御ユニット10は、基準車速と後輪2rl、2rrの車輪速度ωrl、ωrrに基づき後輪2rl、2rrのそれぞれのスリップ状態(例えば、スリップ率)を算出し、後輪2rl、2rrの少なくとも一方の車輪のスリップ率が予め設定しておいた閾値を超えた場合に、このスリップした車輪のスリップ率に応じたトルクダウン量を、予め実験、計算等により設定しておいたマップや演算により算出し、後輪側インバータ4rに出力してトルクダウンさせる、前輪側トラクションコントロール手段とは独立した後輪側トラクションコントロール手段としての機能を有している。
【0023】
また、制御ユニット10は、車両の運転状態に基づいて目標とする走行状態を設定し、目標とする走行状態と実際の走行状態との差が予め設定する制御閾値以上となった場合に、車両を目標とする走行状態とするために必要なヨー方向の目標制御量を算出し、特定の車輪を選択して目標制御量に応じた制動力を付加して車両にヨーモーメントを生じさせる横すべり防止制御手段としての機能を有している。この際、制御ユニット10は、上述の前輪2fl、2fr側のスリップ状態と後輪2rl、2rr側のスリップ状態を監視し、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールのどちらかの異常を検出した場合は、横すべり防止制御の制御閾値を横すべり防止制御が介入しやすくなる方向に補正すると共に、横すべり防止制御の目標制御量に応じた制動力が大きくなる方向に補正する。このように、制御ユニット10は、トラクションコントロール異常検出手段、制御閾値補正手段、制御量補正手段としての機能を有して構成されている。
【0024】
次に、制御ユニット10で実行される本実施の形態の車両挙動制御を、図2のフローチャートで説明する。
【0025】
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールが、図示しない、トラクションコントロールのON/OFFスイッチ等でOFFされておらず、トラクションコントロールが有効か否か判定される。
【0026】
このS101の判定の結果、トラクションコントロールが、図示しないON/OFFスイッチ等でOFFされており、トラクションコントロールがOFF状態となっている場合は、そのままプログラムを抜ける一方、トラクションコントロールがON状態で有効な場合は、S102に進む。
【0027】
S102に進むと、4輪2fl、2fr、2rl、2rrのスリップ率(=(車輪速度−基準速度)/車輪速度)を算出し、最大の値を最大スリップ率λmaxとし、この最大スリップ率λmaxとなった車輪を特定する。
【0028】
次いで、S103に進み、最大スリップ率λmaxとトラクションコントロール異常判定閾値(λ+Δλ)との比較を行う(λ、Δλは予め実験、計算等により設定しておいた値である)。ここで、トラクションコントロール異常判定閾値(λ+Δλ)の、特に「Δλ」の値は、制御応答遅れ分を考慮して設定される値である。具体的には、制御が正常であっても路面摩擦係数の変化等により、瞬間的に「λ」を超えるスリップが発生することがあるため、設定しておくものである。
【0029】
このS103の比較の結果、λmax≦(λ+Δλ)の場合は、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールの何れも正常であるとして、そのままプログラムを抜ける。
【0030】
逆に、λmax>(λ+Δλ)の場合は、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールのどちらかが異常であると判定してS104に進む。
【0031】
尚、本実施の形態では、最大スリップ率λmaxとトラクションコントロール異常判定閾値(λ+Δλ)とを比較することにより、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールの異常を判定する構成で説明しているが、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールに設けた異常検出システムと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールに設けた異常検出システムの作動によって判定するようにしても良い。また、本実施の形態では、λmax>(λ+Δλ)となった場合に前輪2fl、2fr側トラクションコントロールと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールのどちらかが異常であると判定するようになっているが、他に、λmax>λが設定時間継続した場合に異常状態と判定するようにしても良い。
【0032】
S103の判定で、λmax>(λ+Δλ)となって、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールのどちらかが異常であると判定されてS104に進むと、異常と判定されたλmaxの車輪は前輪2fl、2fr側か後輪2rl、2rr側か、すなわち、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールが異常状態か後輪2rl、2rr側トラクションコントロールが異常状態か判定される。
【0033】
そして、S104の判定の結果、λmax>(λ+Δλ)となっている車輪が前輪2fl、2fr側の場合は、S105で前輪2fl、2fr側トラクションコントロールフェールと判定し、S105−S111の処理が行われ、λmax>(λ+Δλ)となっている車輪が後輪2rl、2rr側の場合は、S112で後輪2rl、2rr側トラクションコントロールフェールと判定し、S112−S118の処理が行われる。
【0034】
S105で前輪2fl、2fr側トラクションコントロールフェールと判定されてS106に進むと、車両の運転状態に基づく目標とする走行状態として、目標ヨーレートγtを、例えば、以下の(1)式により算出する。
【0035】
γt=(1/(1+A・V))・(V/l)・δf …(1)
ここで、Aは車両固有のスタビリティファクタ、Vは車速(例えば、各車輪の車輪速度ωfl、ωfr、ωrl、ωrrの平均値)、lはホイールベースである。
【0036】
次いで、S107に進み、ヨーレート偏差Δγを、例えば、以下の(2)式により算出する。
【0037】
Δγ=γ−γt …(2)
次に、S108に進み、車両のアンダーステア傾向を防止するために、横すべり防止制御が介入する制御閾値Dγuを、例えば、以下の(3)式により算出する。
【0038】
Dγu=Gtu・Gδu・Gvu・Dbu …(3)
ここで、Dbuは、予め実験、計算等により設定しておいた、車両のアンダーステア傾向を防止するために、横すべり防止制御が介入する基本制御閾値であり、通常の横すべり防止制御で設定される値である。また、Gtu、Gδu、Gvuは、それぞれ、予め実験、計算等によりマップ等で設定しておいた、1以下の補正ゲインであり、トラクションコントロールの異常による急なスリップの発生や、車両挙動の安定性の急な低下や、安全性の低下を防止するべく、横すべり防止制御が通常より介入しやすくなる方向に設定されている。具体的には、Gtuは図3(a)の特性図に示すように、トラクションコントロールによるトルクダウン量が大きくなるほど、制御閾値Dγuが小さくなるように設定される。Gδuは図3(b)の特性図に示すように、操舵角δfが大きくなるほど、制御閾値Dγuが小さくなるように設定される。Gvuは図3(c)の特性図に示すように、車速Vが高くなるほど、制御閾値Dγuが小さくなるように設定される。
【0039】
次いで、S109に進むと、ヨーレートγと目標ヨーレートγtとヨーレート偏差Δγと制御閾値Dγuとが参照され、|γ|<|γt|で車両がアンダーステア傾向であっても、|Δγ|<Dγuの場合は、横すべり防止制御の介入の必要がないと判定され、そのままプログラムを抜ける。一方、|γ|<|γt|で車両がアンダーステア傾向であって、|Δγ|≧Dγuの場合は、目標ヨーレートγt(目標とする車両挙動)と実ヨーレート(実際の車両挙動)との差が大きくなり、車両のアンダーステア傾向を防止するために、横すべり防止制御を介入させるべきと判定され、S110に進む。尚、S109の判定の結果、|γ|≧|γt|で、車両がオーバーステア傾向の場合は、そのままプログラムを抜ける。
【0040】
S109で、|γ|<|γt|で、かつ、|Δγ|≧Dγuの条件が成立してS110に進むと、横すべり防止制御の車両のアンダーステア傾向を防止する制御量としての制動力Fuを、例えば、以下の(4)式により算出する。
【0041】
Fu=Kfu・Δγ+ΔFtu+ΔFδu+ΔFvu …(4)
ここで、「Kfu・Δγ」の演算項は、予め実験、計算等により設定しておいた、車両のアンダーステア傾向を防止するために、横すべり防止制御が介入するヨーレート偏差Δγに応じた基本制御量であり、通常の横すべり防止制御で設定される値である。また、ΔFtu、ΔFδu、ΔFvuは、それぞれ、予め実験、計算等によりマップ等で設定しておいた、制動力Fuの補正量(制動力)であり、トラクションコントロールの異常による急なスリップの発生や、車両挙動の安定性の急な低下や、安全性の低下を防止するべく、横すべり防止制御が、通常より大きなヨーモーメントを発生できる方向に設定されている。具体的には、ΔFtuは、図4(a)の特性図に示すように、トラクションコントロールによるトルクダウン量が大きくなるほど、制動力Fuが大きくなるように設定される。ΔFδuは、図4(b)の特性図に示すように、操舵角δfが大きくなるほど、制動力Fuが大きくなるように設定される。ΔFvuは、図4(c)の特性図に示すように、車速Vが高くなるほど、制動力Fuが大きくなるように設定される。
【0042】
次いで、S111に進むと、S110で算出した制御量としての制動力Fuを、旋回内側後輪に発生させるようにブレーキ駆動部7に出力してプログラムを抜ける。
【0043】
すなわち、本実施の形態の横すべり防止制御は、アンダーステア傾向を防止する際には、旋回内側後輪に制動力を付加することで車両にヨーモーメントを発生させるようになっている。このため、S104で前輪2fl、2fr側トラクションコントロールに異常が発生していると判定された場合のアンダーステア防止制御は、この前輪2fl、2fr側を用いることなく、異常のない後輪2rl、2rr(旋回内側後輪2ri)側に制動力を付加することで行われ、確実に横すべり防止制御が実行されるようになっている。前輪2fl、2fr側のトラクションコントロールが異常な場合は、前輪2fl、2frのスリップが増加して車両のアンダーステア傾向が懸念されるが、特に横すべり防止制御のアンダーステア傾向を防止する制御の介入閾値を制御が介入しやすくなる方向に、また、制御量も大きくなるように補正し、異常のない後輪2rl、2rr(旋回内側後輪2ri)側により制御するようにして、前輪2fl、2fr側のトラクションコントロールの異常に備えることができるようになっている。
【0044】
一方、S104の判定の結果、λmax>(λ+Δλ)となっている車輪が後輪2rl、2rr側と判定されて、S112で後輪2rl、2rr側トラクションコントロールフェールと判定され、S113に進むと、車両の運転状態に基づく目標とする走行状態として、目標ヨーレートγtを、例えば、前述の(1)式により算出する。
【0045】
次いで、S114に進み、ヨーレート偏差Δγを、前述の(2)式により算出する。
【0046】
次に、S115に進み、車両のオーバーステア傾向を防止するために、横すべり防止制御が介入する制御閾値Dγoを、例えば、以下の(5)式により算出する。
【0047】
Dγo=Gto・Gδo・Gvo・Dbo …(5)
ここで、Dboは、予め実験、計算等により設定しておいた、車両のオーバーステア傾向を防止するために、横すべり防止制御が介入する基本制御閾値であり、通常の横すべり防止制御で設定される値である。また、Gto、Gδo、Gvoは、それぞれ、予め実験、計算等によりマップ等で設定しておいた、1以下の補正ゲインであり、トラクションコントロールの異常による急なスリップの発生や、車両挙動の安定性の急な低下や、安全性の低下を防止するべく、横すべり防止制御が通常より介入しやすくなる方向に設定されている。具体的には、Gtoは図5(a)の特性図に示すように、トラクションコントロールによるトルクダウン量が大きくなるほど、制御閾値Dγoが小さくなるように設定される。Gδoは図5(b)の特性図に示すように、操舵角δfが大きくなるほど、制御閾値Dγoが小さくなるように設定される。Gvoは図5(c)の特性図に示すように、車速Vが高くなるほど、制御閾値Dγoが小さくなるように設定される。
【0048】
次いで、S116に進むと、ヨーレートγと目標ヨーレートγtとヨーレート偏差Δγと制御閾値Dγoとが参照され、|γ|>|γt|で車両がオーバーステア傾向であっても、|Δγ|<Dγoの場合は、横すべり防止制御の介入の必要がないと判定され、そのままプログラムを抜ける。一方、|γ|>|γt|で車両がオーバーステア傾向であって、|Δγ|≧Dγoの場合は、目標ヨーレートγt(目標とする車両挙動)と実ヨーレート(実際の車両挙動)との差が大きくなり、車両のオーバーステア傾向を防止するために、横すべり防止制御を介入させるべきと判定され、S117に進む。尚、S116の判定の結果、|γ|≦|γt|で、車両がアンダーステア傾向の場合は、そのままプログラムを抜ける。
【0049】
S116で、|γ|>|γt|で、かつ、|Δγ|≧Dγoの条件が成立してS117に進むと、横すべり防止制御の車両のオーバーステア傾向を防止する制御量としての制動力Foを、例えば、以下の(6)式により算出する。
【0050】
Fo=Kfo・Δγ+ΔFto+ΔFδo+ΔFvo …(6)
ここで、「Kfo・Δγ」の演算項は、予め実験、計算等により設定しておいた、車両のオーバーステア傾向を防止するために、横すべり防止制御が介入するヨーレート偏差Δγに応じた基本制御量であり、通常の横すべり防止制御で設定される値である。また、ΔFto、ΔFδo、ΔFvoは、それぞれ、予め実験、計算等によりマップ等で設定しておいた、制動力Foの補正量(制動力)であり、トラクションコントロールの異常による急なスリップの発生や、車両挙動の安定性の急な低下や、安全性の低下を防止するべく、横すべり防止制御が、通常より大きなヨーモーメントを発生できる方向に設定されている。具体的には、ΔFtoは、図6(a)の特性図に示すように、トラクションコントロールによるトルクダウン量が大きくなるほど、制動力Foが大きくなるように設定される。ΔFδoは、図6(b)の特性図に示すように、操舵角δfが大きくなるほど、制動力Foが大きくなるように設定される。ΔFvoは、図6(c)の特性図に示すように、車速Vが高くなるほど、制動力Foが大きくなるように設定される。
【0051】
次いで、S118に進むと、S117で算出した制御量としての制動力Foを、旋回外側前輪に発生させるようにブレーキ駆動部7に出力してプログラムを抜ける。
【0052】
すなわち、本実施の形態の横すべり防止制御は、オーバーステア傾向を防止する際には、旋回外側前輪に制動力を付加することで車両にヨーモーメントを発生させるようになっている。このため、S104で後輪2rl、2rr側トラクションコントロールに異常が発生していると判定された場合のオーバーステア防止制御は、この後輪2rl、2rr側を用いることなく、異常のない前輪2fl、2fr(旋回外側前輪2fo)側に制動力を付加することで行われ、確実に横すべり防止制御が実行されるようになっている。後輪2rl、2rr側のトラクションコントロールが異常な場合は、後輪2rl、2rrのスリップが増加して車両のオーバーステア傾向が懸念されるが、特に横すべり防止制御のオーバーステア傾向を防止する制御の介入閾値を制御が介入しやすくなる方向に、また、制御量も大きくなるように補正し、異常のない前輪2fl、2fr(旋回外側前輪2fo)側により制御するようにして、後輪2rl、2rr側のトラクションコントロールの異常に備えることができるようになっている。
【0053】
このように、本発明の実施の形態によれば、前輪2fl、2fr側と後輪2rl、2rr側とで独立して制御自在なトラクションコントロールと、車体の横すべり防止制御を備え、前輪2fl、2fr側のスリップ状態と後輪2rl、2rr側のスリップ状態を監視し、前輪2fl、2fr側トラクションコントロールと後輪2rl、2rr側トラクションコントロールのどちらかの異常を検出した場合は、横すべり防止制御の制御閾値を横すべり防止制御が介入しやすくなる方向に補正すると共に、横すべり防止制御の目標制御量に応じた制動力が大きくなる方向に補正する。具体的には、前輪2fl、2fr側のトラクションコントロールが異常な場合は、前輪2fl、2frのスリップが増加して車両のアンダーステア傾向が懸念されるが、特に横すべり防止制御のアンダーステア傾向を防止する制御の介入閾値を制御が介入しやすくなる方向に、また、制御量も大きくなるように補正し、異常のない後輪2rl、2rr(旋回内側後輪2ri)側により制御するようにして、前輪2fl、2fr側のトラクションコントロールの異常に備えることができるようになっている。逆に、後輪2rl、2rr側のトラクションコントロールが異常な場合は、後輪2rl、2rrのスリップが増加して車両のオーバーステア傾向が懸念されるが、特に横すべり防止制御のオーバーステア傾向を防止する制御の介入閾値を制御が介入しやすくなる方向に、また、制御量も大きくなるように補正し、異常のない前輪2fl、2fr(旋回外側前輪2fo)側により制御するようにして、後輪2rl、2rr側のトラクションコントロールの異常に備えることができるようになっている。このため、前輪2fl、2fr側と後輪2rl、2rr側とで独立して制御自在なトラクションコントロールを搭載した車両において、たとえ前輪2fl、2fr側、或いは後輪2rl、2rr側のトラクションコントロールに異常が生じても、車体の横すべり防止機能を適切に作動させて、車両挙動の安定性と車両の運動性能を十分に維持することが可能となる。
【0054】
尚、本実施の形態では、各輪が、それぞれインホイールモータで駆動され、前輪2fl、2fr側と後輪2rl、2rr側とで独立したトラクションコントロールを備えた車両を例に説明したが、車両の形式はこれに限ること無く、例えば、前輪側がエンジンにより駆動され、後輪側が電動モータにより駆動されるハイブリッド車、逆に、前輪側が電動モータにより駆動され、後輪側がエンジンにより駆動されるハイブリッド車等であっても、前輪2fl、2fr側と後輪2rl、2rr側とで独立したトラクションコントロールを備えた車両であれば本発明は適用できることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2fl、2fr、2rl、2rr 車輪
3fl、3fr、3rl、3rr インホイールモータ
4f、4r インバータ
5 バッテリ
6fl、6fr、6rl、6rr 摩擦ブレーキ機構
7 ブレーキ駆動部
10 制御ユニット(前輪側トラクションコントロール手段、後輪側トラクションコントロール手段、横すべり防止制御手段、トラクションコントロール異常検出手段、制御閾値補正手段、制御量補正手段)
11 アクセルセンサ
12 ブレーキセンサ
13fl、13fr、13rl、13rr 車輪速センサ
14 操舵角センサ
15 ヨーレートセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6