(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の時表示部材および前記複数の分表示部材のうちいずれか1つの部材に当接する当接部、および前記部材の変位する方向と交差する方向に沿って前記当接部を変位させる動力部を有する駆動部と、
前記当接部の変位により前記部材を変位させるカム機構と、
を備えることを特徴とする請求項8に記載の時計。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、時刻を点字により表示する場合には、少なくとも時分を表す4桁の数字を表すために、点字を4文字配置しなければならない。このため、使用者は、正確な時刻を調べる際に、点字を4文字識別する必要がある。したがって、従来技術にあっては、視覚障害者に対して時刻を正確かつ迅速に認識させるという点で改善の余地がある。
【0005】
そこで本発明は、視覚障害者に対して時刻を正確かつ迅速に認識させることができる時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の時計は、外部に露出した表示領域に並んで配置された複数の時表示部材を有し、所定の前記時表示部材が前記所定の時表示部材以外の前記時表示部材に対して変位する時表示部と、前記表示領域に並んで配置された複数の分表示部材を有し、所定の前記分表示部材が前記所定の分表示部材以外の前記分表示部材に対して変位する分表示部と、
前記表示領域に前記周方向に並んで配置された複数の指標と、を備え
、前記複数の指標は、12時の位置に設けられ、三角形状に形成された指標と、6時の位置に設けられ、菱形状に形成された指標と、を有する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、使用者に表示領域を触れさせることで、表示領域に並んで配置された複数の時表示部材のうち変位した所定の時表示部材、および表示領域に並んで配置された複数の分表示部材のうち変位した所定の分表示部材を把握させることができる。このため、表示する時刻の時に対応して変位する所定の時表示部材、および分に対応して変位する所定の分表示部材を、各時刻に対応して予め設定しておくことで、使用者が視覚に頼ることなく時刻を認識することができる。しかも、変位した時表示部材および分表示部材の位置を把握するだけで時刻を認識できるので、時刻が4文字の点字で表示される従来技術と比較して、使用者が時刻を迅速に認識することができる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確かつ迅速に認識させることができる。
【0008】
上記の時計において、前記複数の時表示部材、および前記複数の分表示部材は、
前記周方向に並んで配置されている、ことが望ましい。
【0009】
本発明によれば、一般的なアナログ式時計のように時針および分針の周方向の位置を把握することで時刻を認識する構成と同様に、変位した時表示部材および分表示部材の周方向の位置を把握するだけで時刻を認識できる。したがって、直感的に時刻を認識することが可能となるので、視覚障害者に対して時刻をより迅速に認識させることができる。
【0010】
上記の時計において、前記分表示部は、前
記軸方向から見て、前記時表示部よりも外側に配置されている、ことが望ましい。
【0011】
一般的なアナログ式時計では、分針が時針よりも長く形成されている。すなわち、分針の先端は、時針の先端よりも回転軸から離れた位置に位置する。
本発明によれば、周方向に並んで配置された複数の分表示部材を有する分表示部が、周方向に並んで配置された複数の時表示部材を有する時表示部よりも外側に配置されているので、変位した所定の時表示部材および所定の分表示部材に触れた際に、いずれが分表示部材であるかを、一般的なアナログ式時計の時針と分針との位置関係に対応付けて直感的に識別することができる。したがって、視覚障害者に対して時刻をより迅速に認識させることができる。
【0012】
上記の時計において、
前記複数の指標のうち隣り合う一対
の指標は、互いに異なる形状に形成されている、ことが望ましい。
【0013】
本発明によれば、使用者に指標を触れさせて指標の形状を識別させることで、指標の形状の差異により、触れた指標の周方向における位置を把握させることができる。これにより、変位した所定の時表示部材や所定の分表示部材を把握する際に周囲の指標の形状を識別することで、所定の時表示部材や所定の分表示部材の周方向の位置を把握できる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確に認識させることができる。
【0014】
上記の時計において、
前記複数の指標は、mを1から5、および7から11の自然数とした場合、m時の位置に設けられた指標を有し、nを2から5、および8から11の自然数とした場合、n時の位置に設けられた前記指標は、
(n−1)時の位置に設けられた前記指標よりも、前記所定軸に直交する径方向の寸法が大きくなるように形成されている、ことが望ましい。
【0015】
本発明によれば、第1の指標および第2の指標において、時計回り方向の下流側に位置する指標の方が上流側に位置する指標よりも径方向の寸法が大きくなるように並ぶ。このため、使用者に第1の指標および第2の指標の形状を識別させることで、時計回り方向および反時計回り方向を直感的に把握させることができる。したがって、視覚障害者に対して時刻をより迅速に認識させることができる。
【0016】
上記の時計において、前記時表示部は、12個の前記時表示部材を有し、前記分表示部は、60個の前記分表示部材を有する、ことが望ましい。
【0017】
本発明によれば、時を1時間刻みで表示できるとともに、分の1分刻みで表示できる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確に認識させることができる。
【0018】
上記の時計において、外部から操作可能な操作入力部材を備え、前記所定の時表示部材および前記所定の分表示部材は、前記操作入力部材が操作された場合に変位する、ことが望ましい。
【0019】
本発明によれば、操作入力部材が操作されていない場合に、時表示部材および分表示部材を変位させる電力が消費されることを抑制できる。したがって、消費電力が小さく、電池寿命の長い時計とすることができる。
【0020】
上記の時計において、前記所定の時表示部材、および前記所定の分表示部材は、前記表示領域が面する方向に向かって突出する、ことが望ましい。
【0021】
本発明によれば、所定の時表示部材や所定の分表示部材が表示領域において窪むように変位する構成と比較して、使用者が表示領域に触れた際に変位した所定の時表示部材や所定の分表示部材を容易に把握することができる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確かつ迅速に認識させることができる。
【0022】
上記の時計において、前記複数の時表示部材および前記複数の分表示部材のうちいずれか1つの部材に当接する当接部、および前記部材の変位する方向と交差する方向に沿って前記当接部を変位させる動力部を有する駆動部と、前記当接部の変位により前記部材を変位させるカム機構と、を備えることが望ましい。
【0023】
本発明によれば、複数の時表示部材および複数の分表示部材のうちいずれか1つの部材を変位させるカム機構は、前記部材の変位する方向と交差する方向に沿って変位する当接部により前記部材を変位させるので、前記部材を変位させる部品が前記部材の変位する方向に沿って変位する構成と比較して、前記部材を変位させる機構を前記部材の変位する方向に小さく形成することができる。したがって、時計を小型化することができる。
【0024】
上記の時計において、前記動力部は、形状記憶合金により形成されるとともに、電流が流れることで伸縮する、ことが望ましい。
【0025】
本発明によれば、動力部の伸縮する方向を当接部の変位する方向に一致させるように動力部を配置した上で動力部に電流を流すことにより、当接部を変位させることができる。このため、簡素な構成で駆動部を構成することができ、例えば磁力により時表示部材や分表示部材を変位させる構成と比較して、駆動部を小型化することが可能となる。したがって、時計をより小型化することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、使用者に表示領域を触れさせることで、表示領域に並んで配置された複数の時表示部材のうち変位した所定の時表示部材、および表示領域に並んで配置された複数の分表示部材のうち変位した所定の分表示部材を把握させることができる。このため、表示する時刻の時に対応して変位する所定の時表示部材、および分に対応して変位する所定の分表示部材を、各時刻に対応して予め設定しておくことで、使用者が視覚に頼ることなく時刻を認識することができる。しかも、変位した時表示部材および分表示部材の位置を把握するだけで時刻を認識できるので、時刻が4文字の点字で表示される従来技術と比較して、使用者が時刻を迅速に認識することができる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確かつ迅速に認識させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態に係る時計の斜視図である。なお、
図1では、10時25分を表示している場合を図示している。
図1に示すように、時計1は、時刻を表示する表示盤2と、表示盤2を保持するケース3と、ケース3の内部に収容された制御部4と、を備えている。なお、以下の説明では、時計1を腕に装着して使用するにあたって、使用者が視認する側を表側と称し、その反対側を裏側と称する。
【0029】
ケース3は、表側を開口させるとともに、内部に制御部4を収容可能となっている。ケース3の表側開口部3aは、表裏方向から見て円形状に形成されている。ケース3には、バンドを取り付けるための一対のバンド取付部11が形成されている。ケース3の側面には、ボタン12(操作入力部材)が設けられている。ボタン12は、外部から操作可能に形成されている。ボタン12は、後述する時刻表示を行う際に用いられる。なお、以下の説明では、表側開口部3aの表裏方向に延びる中心軸O回りの周方向を単に「周方向」と称し、表裏方向に直交して中心軸Oから放射状に延びる方向を「径方向」と称する。また、図中矢印CWは、周方向のうち、表側から見た時計回り方向を示している。
【0030】
表示盤2は、使用者に指で触れさせることにより、使用者に時刻(時および分)を認識させる。表示盤2は、軸方向から見てケース3の表側開口部3aの中心軸Oと同軸の円形状に形成され、ケース3の表側開口部3aに固定されている。表示盤2の表側に面する箇所は、外部に露出した表示領域2aとなっている。表示領域2aは、使用者が時刻を認識する際に指で触れる部分である。
【0031】
表示盤2は、基板20と、使用者に時を認識させる時表示部21と、使用者に分を認識させる分表示部22と、基板20の表面20aに配置された複数(本実施形態では12個)の指標23a〜23lと、を備えている。
【0032】
基板20は、表示盤2の表示領域2aの一部を構成している。基板20の表面20aは、表裏方向に直交する平面状に形成されている。基板20は、周方向に沿って延びる円環状に形成された外側基板20bと、表裏方向から見て中心軸Oと同軸であって、外側基板20bの内径よりも小径の円形状に形成された内側基板20cと、を含んでいる。
内側基板20cには、後述する時表示部材30が配置される複数(本実施形態では12個)の配置部20dが形成されている。配置部20dは、時表示部材30に対応する形状に、表裏方向に貫通、または裏側に向かって窪んでいる。
【0033】
複数の指標23a〜23lは、外側基板20bにおける表面20aに設けられている。各指標23a〜23lは、基板20の表面20aから表側に突出している。指標23a〜23lは、中心軸Oの周囲における所定時刻位置に配置されている。本実施形態では、複数の指標23a〜23lは、径方向の同じ位置において、周方向に等間隔(30°ピッチ)で設けられている。なお、指標23a〜23lは、アナログ式時計の目盛りや略字と称することもある。
【0034】
複数の指標23a〜23lのそれぞれは、隣り合う一対の指標同士が互いに異なる形状となるように形成されている。なお、言うまでもないが、複数の指標23a〜23lのそれぞれを、隣り合う一対の指標同士が互いに同じ、比例、または相似した形状としてもよい。
12時の位置に設けられた指標23aは、表裏方向から見て二等辺三角形状に形成され、二等辺三角形の頂点(2本の等辺が共有する頂点)が径方向内側を向くように配置されている。
【0035】
1時の位置から5時の位置に亘って設けられた5個の指標23b〜23fは、それぞれ表裏方向から見て径方向に沿って延びる矩形状に形成されている。2時の位置から5時の位置に亘って設けられた各指標23c〜23fは、反時計回り方向(時計回り方向上流側)に隣り合う他の指標よりも径方向の寸法が大きくなるように形成されている。具体的に、2時の位置に設けられた指標23cは、1時の位置に設けられた指標23bよりも径方向の寸法が大きくなるように形成されている。3時の位置に設けられた指標23dは、2時の位置に設けられた指標23cよりも径方向の寸法が大きくなるように形成されている。4時の位置に設けられた指標23eは、3時の位置に設けられた指標23dよりも径方向の寸法が大きくなるように形成されている。5時の位置に設けられた指標23fは、4時の位置に設けられた指標23eよりも径方向の寸法が大きくなるように形成されている。
【0036】
6時の位置に設けられた指標23gは、表裏方向から見て菱形状に形成され、菱形の一方の対角線が径方向に沿うように配置されている。
7時の位置から11時の位置に設けられた5個の指標23h〜23lは、それぞれ中心軸Oを挟んで反対側に位置する指標23b〜23fと同形状に形成されている。8時の位置から11時の位置に亘って設けられた各指標23i〜23lは、2時の位置から5時の位置に亘って設けられた指標23c〜23fと同様に、反時計回り方向に隣り合う指標よりも径方向の寸法が大きくなるように形成されている。
【0037】
図2は、時表示部材および駆動部の斜視図である。
図1および
図2に示すように、時表示部21は、表裏方向から見て内側基板20cの外周縁よりも径方向内側に配置されている。時表示部21は、表示領域2aにおいて周方向に等間隔で並んで配置された複数(本実施形態では12個)の時表示部材30と、時表示部材30を表裏方向に沿って変位させる時表示部材30と同数の駆動部31と、を有する。時表示部21は、所定の時表示部材30が他の時表示部材30に対して変位することで、時表示部21に触れる使用者に時を認識させる。
【0038】
時表示部材30は、表裏方向に厚みを有する部材である。時表示部材30は、例えば樹脂材料やセラミックス等の絶縁材料により形成されている。時表示部材30は、表裏方向から見て径方向内側から外側に向かうに従い周方向の幅が漸次広がるように形成されている。具体的に、時表示部材30は、表裏方向から見て等脚台形状に形成され、台形の一対の脚がそれぞれ径方向に沿って延びる状態で配置されている。時表示部材30は、径方向の寸法が周方向の最大寸法よりも十分に大きくなるように形成されている。時表示部材30の表側を向く面は、変位前の状態において、基板20の表面20aと平行に形成されている。時表示部材30は、その一部が基板20の表面20aよりも表側に突出するように、内側基板20cの配置部20dに配置されている。
【0039】
図2に示すように、時表示部材30には、軸挿通孔32と、溝部33と、が形成されている。
軸挿通孔32は、時表示部材30の径方向内側の端部であって、基板20の表面20aよりも裏側に位置する箇所に形成されている。軸挿通孔32は、表裏方向から見た時表示部材30の周方向中心部を通る中心線に対して直交する方向に貫通している。軸挿通孔32には、不図示の軸部材が挿通される。時表示部材30は、前記軸部材により基板20に対して回動可能に軸支されるとともに、図示しない付勢部材により径方向外側の端部が裏側に向かう方向に付勢されている。
【0040】
溝部33は、時表示部材30の裏面に形成されている。溝部33は、表裏方向から見た時表示部材30の周方向中心部において径方向に沿って一定の幅で延びている。溝部33の底面は、径方向内側に位置し径方向に沿って延びる第1底面33aと、径方向外側に位置し径方向内側から外側に向かうに従い表側に向かって一定の角度で傾斜した第2底面33bと、を有する。すなわち、溝部33のうち径方向内側の箇所は、略一定の深さで延在し、溝部33のうち径方向外側の箇所は、径方向内側から外側に向かうに従い漸次深くなっている。
【0041】
駆動部31は、時表示部材30に当接する当接部34と、当接部34を変位させる伸縮部35(動力部)と、を有する。当接部34は、半球状に形成され、球面部34aを表側に向けるとともに平面部34bを裏側に向けた状態で配置されている。当接部34の表裏方向から見た外径は、溝部33の幅よりも小さくなっている。当接部34は、球面部34aを溝部33の第2底面33bに当接または近接させた状態で、溝部33内における径方向外側の端部に配置されている。当接部34は、裏側への変位を規制された状態で配置されている。
【0042】
伸縮部35は、Ni−Ti合金等の形状記憶合金により形成されている。本実施形態では、伸縮部35は、バイオメタル(登録商標)により形成されている。伸縮部35は、コイル状に形成され、伸縮方向を溝部33の延在方向に一致させた状態で、溝部33内に配置されている。伸縮部35の径方向外側の端部は、当接部34に接続されている。伸縮部35の径方向内側の端部は、基板20(
図1参照)に対して固定されている。伸縮部35の両端部は、それぞれ制御部4(
図1参照)に電気的に接続されている。伸縮部35は、電流が流れることで発熱して初期状態から径方向に縮み、冷却すると径方向に伸びて初期状態に戻る。
【0043】
図3および
図4は、
図2のIII−III線における部分断面図である。
図3は伸縮部35が初期状態にある場合を図示し、
図4は伸縮部35が径方向に縮んだ状態にある場合を図示している。なお、
図3および
図4では、基板20の表面20aの位置を二点鎖線で示している。
図3および
図4に示すように、伸縮部35が径方向に縮むと、当接部34は径方向内側に向かって変位する。ここで、当接部34の表側を向く球面部34aは、溝部33の第2底面33bに接触または近接している。また、第2底面33bは、径方向内側から外側に向かうに従い表側に向かって傾斜している。このため、当接部34が径方向内側に向かって変位すると、当接部34は、球面部34aに当接する第2底面33bを表側に向かって押圧する。これにより、時表示部材30は、上述した付勢部材による付勢力に抗しつつ基板20(
図1参照)に対して回動し、表示領域2aから突出するように変位する。すなわち、時表示部材30の第2底面33b、および駆動部31の当接部34は、当接部34の径方向の変位により時表示部材30を表裏方向に変位させるカム機構を構成している。
【0044】
図1に示すように、分表示部22は、時表示部21よりも径方向の外側の位置に配置されている。分表示部22は、表裏方向から見て外側基板20bの内周縁と内側基板20cの外周縁との間に隙間なく配置されている。分表示部22は、表示領域2aにおいて周方向に密に並んで配置された複数(本実施形態では60個)の分表示部材40と、分表示部材40を表裏方向に沿って変位させる分表示部材40と同数の駆動部(不図示)と、を有する。なお
図1では、見やすくするために変位していない複数の分表示部材40を一体的に図示している。分表示部22は、所定の分表示部材40が他の分表示部材40に対して変位することで、分表示部22に触れる使用者に現在時刻の分を認識させる。なお、分表示部材40は、表裏方向から見た形状以外、上述した時表示部材30と同様に形成されているので、以下の分表示部材40の説明では、主に表裏方向から見た形状について説明する。また、分表示部22の駆動部は、時表示部21の駆動部31と同様に形成されているので、時表示部21の駆動部31(
図2参照)と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0045】
分表示部材40は、表裏方向に厚みを有する部材である。分表示部材40は、表裏方向から見て径方向内側から外側に向かうに従い周方向の幅が漸次広がるように形成されている。具体的に、分表示部材40は、表裏方向から見て等脚台形状に形成され、台形の一対の脚がそれぞれ径方向に沿って延びる状態で配置されている。分表示部材40は、径方向の寸法が周方向の最大寸法よりも十分に大きくなるように形成されている。表裏方向から見た分表示部材40の径方向内側の端縁は、内側基板20cの外周縁に沿う円弧状に形成されている。表裏方向から見た分表示部材40の径方向外側の端縁は、外側基板20bの内周縁に沿う円弧状に形成されている。分表示部材40は、一部が基板20の表面20aよりも表側に突出するように配置されている。分表示部材40の表側を向く面は、変位前の状態において、基板20の表面20aと平行に形成されるとともに、時表示部材30の表側を向く面と表裏方向における同じ位置に位置している。
【0046】
制御部4は、計時機能を有する回路が設けられたプリント基板や電池等を備えている。具体的に、プリント基板には、発振回路や分周回路、ROM(Read Only Memory、読み出し専用メモリ)、RAM(Random Access Memory、ランダムアクセスメモリ)、CPU等が実装されている。制御部4は、例えば電波時計の送信局や、GPS(Global Positioning System)の人口衛星から時刻情報を受信するように構成されていてもよい。制御部4は、不図示の導線等を介して、時表示部21の各伸縮部35、および分表示部22の各駆動部31の伸縮部35に電気的に接続されている。
【0047】
以下、本実施形態の時計1の動作について説明する。
制御部4は、使用者によりボタン12が操作された場合に、現在時刻に対応する時表示部材30および分表示部材40を表側に向かって変位させる。具体的に、制御部4は、複数の時表示部材30のうち現在時刻の時に対応する位置にある時表示部材30のみを、他の時表示部材30よりも表側に変位させるべく、変位対象の時表示部材30を変位させる駆動部31の伸縮部35に所定時間通電する。同時に、制御部4は、複数の分表示部材40のうち現在時刻の分に対応する位置にある分表示部材40のみを、他の分表示部材40よりも表側に変位させるべく、変位対象の分表示部材40を変位させる駆動部31の伸縮部35に所定時間通電する。
【0048】
上述したように、駆動部31の伸縮部35に電流を流すと、時表示部材30や分表示部材40が表側に変位する。例えば
図1に示す状態では、10時の位置に対応する時表示部材30が他の時表示部材30に対して表側に変位し、25分の位置に対応する分表示部材40が他の分表示部材40に対して表側に変位している。この状態で、使用者が表示盤2の表示領域2aに触れることで、視覚に頼ることなく現在時刻を認識することが可能となる。
【0049】
制御部4は、ボタン12が操作されてから所定時間経過すると、駆動部31の伸縮部35への通電を停止する。これにより、伸縮部35の発熱が停止して冷却され、伸縮部35が径方向に延びる。すると、時表示部材30および分表示部材40は、それぞれ上述した付勢部材(不図示)により、他の時表示部材30や分表示部材40と表裏方向における同じ位置に復元する。
以上により時計1の時刻表示の動作が完了する。
【0050】
このように、本実施形態では、外部に露出した表示領域2aに並んで配置された複数の時表示部材30を有し、所定の時表示部材30が他の時表示部材30に対して変位する時表示部21と、表示領域2aに並んで配置された複数の分表示部材40を有し、所定の分表示部材40が他の分表示部材40に対して変位する分表示部22と、を備える構成とした。この構成によれば、使用者に表示領域2aを触れさせることで、表示領域2aに並んで配置された複数の時表示部材30のうち変位した時表示部材30、および表示領域2aに並んで配置された複数の分表示部材40のうち変位した分表示部材40を把握させることができる。このため、表示する時刻の時に対応して変位する時表示部材30、および分に対応して変位する分表示部材40を、各時刻に対応して予め設定しておくことで、使用者が視覚に頼ることなく時刻を認識することができる。しかも、変位した時表示部材30および分表示部材40の位置を把握するだけで時刻を認識できるので、時刻が4文字の点字で表示される従来技術と比較して、使用者が時刻を迅速に認識することができる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確かつ迅速に認識させることができる。
【0051】
しかも、複数の時表示部材30、および複数の分表示部材40は、周方向に並んで配置されているので、一般的なアナログ式時計のように時針および分針の周方向の位置を把握することで時刻を認識する構成と同様に、変位した時表示部材30および分表示部材40の周方向の位置を把握するだけで時刻を認識できる。したがって、直感的に時刻を認識することが可能となるので、視覚障害者に対して時刻をより迅速に認識させることができる。
【0052】
また、従来技術の視覚障害者用の時計として、従来のアナログ式時計と同様に時針および分針を備え、時針および分針に触れさせることで時刻を認識させる時計がある。この場合、使用者の接触により時針や分針の変形や回転等が生じ、正確な時刻を表示することができなくなる可能性がある。本実施形態では、時針および分針を用いることなく時刻を表示できるので、従来技術と比較して優れた信頼性を有する時計1とすることができる。
【0053】
また、一般的なアナログ式時計では、分針が時針よりも長く形成されている。すなわち、分針の先端は、時針の先端よりも回転軸から離れた位置に位置する。
本実施形態では、周方向に並んで配置された複数の分表示部材40を有する分表示部22が、周方向に並んで配置された複数の時表示部材30を有する時表示部21よりも外側に配置されている。このため、変位した時表示部材30および分表示部材40に触れた際に、いずれが分表示部材40であるかを、一般的なアナログ式時計の時針と分針との位置関係に対応付けて直感的に識別することができる。したがって、視覚障害者に対して時刻をより迅速に認識させることができる。
【0054】
また、複数の指標23a〜23lは、隣り合う指標同士が互いに異なる形状となるように形成されているので、使用者に指標を触れさせて指標の形状を識別させることで、指標の形状の差異により、触れた指標の周方向における位置を把握させることができる。これにより、変位した時表示部材30や分表示部材40を把握する際に周囲の指標の形状を識別することで、変位した時表示部材30や分表示部材40の周方向の位置を把握できる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確に認識させることができる。
【0055】
また、複数の指標23a〜23lのうち指標23c〜23f,23i〜23lのそれぞれは、表側から見て周方向における反時計回り方向に隣り合う指標よりも、径方向の寸法が大きくなるように形成されている。このため、指標23b〜23f,23h〜23lにおいて、時計回り方向の下流側に位置する指標の方が上流側に位置する指標よりも径方向の寸法が大きくなるように並ぶ。このため、使用者に指標23b〜23f,23h〜23lの形状を識別させることで、時計回り方向および反時計回り方向を直感的に把握させることができる。したがって、視覚障害者に対して時刻をより迅速に認識させることができる。
【0056】
また、時表示部21は、12個の時表示部材30を有し、分表示部22は、60個の分表示部材40を有するので、時を1時間刻みで表示できるとともに、分の1分刻みで表示できる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確に認識させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、時計1は、外部から操作可能なボタン12を備え、時表示部材30および分表示部材40は、ボタン12が操作された場合に変位する構成とした。この構成によれば、ボタン12が操作されていない場合に時表示部材30および分表示部材40を変位させる電力が消費されることを抑制できる。したがって、消費電力が小さく、電池寿命の長い時計1とすることができる。
【0058】
また、時表示部材30および分表示部材40は、表側に向かって突出するので、時表示部材および分表示部材が窪むように変位する構成と比較して、使用者が表示領域2aに触れた際に変位した時表示部材30や分表示部材40を容易に把握することができる。したがって、視覚障害者に対して時刻を正確かつ迅速に認識させることができる。
【0059】
しかも、本実施形態では、時計1は、複数の時表示部材30のそれぞれに当接する当接部34、および時表示部材30の変位する方向(すなわち表裏方向)と交差する方向(径方向)に沿って当接部34を変位させる伸縮部35を有する駆動部31と、当接部34の変位により時表示部材30を変位させるカム機構と、を備える。この構成によれば、カム機構は、径方向に沿って変位する当接部34により時表示部材30を変位させるので、時表示部材30を変位させる部品が表裏方向に沿って変位する構成と比較して、時表示部材30を変位させる機構を表裏方向に小さく形成することができる。分表示部材40を変位させる駆動部31およびカム機構についても同様である。したがって、表裏方向に厚みを有する時計1の厚みを薄くして、時計1を小型化することができる。
【0060】
さらに、伸縮部35は、形状記憶合金により形成されるとともに、電流が流れることで伸縮するので、伸縮部35の伸縮する方向を当接部34の変位する方向に一致させるように伸縮部35を配置した上で伸縮部35に電流を流すことにより、当接部34を変位させることができる。このため、簡素な構成で駆動部31を構成することができ、例えば磁力により時表示部材30を変位させる構成と比較して、駆動部31を小型化することが可能となる。分表示部材40を変位させる駆動部31についても同様である。したがって、時計1の厚みを薄くして、時計1を小型化することができる。
【0061】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、使用者に時刻を認識させる際に、現在時刻に対応する位置にある時表示部材30および分表示部材40を他の時表示部材30や分表示部材40に対して表示領域2aから突出する方向(表側)に向かって変位させている。しかしながらこれに限定されず、例えば、現在時刻に対応する位置にある時表示部材および分表示部材を他の時表示部材や分表示部材に対して凹む方向(裏側)に向かって変位させてもよい。また、現在時刻に対応する位置にある時表示部材および分表示部材を他の時表示部材や分表示部材に対して径方向の外側に向かって変位させてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、使用者に時刻を認識させる際に、現在時刻に対応する位置にある時表示部材30および分表示部材40のみを他の時表示部材30や分表示部材40に対して変位させている。しかしながらこれに限定されるものではなく、例えば、現在時刻および12時以降の経過時刻に対応する全ての時表示部材30と、現在時刻および毎時0分以降の経過時刻に対応する全ての分表示部材40と、を変位させてもよい。具体的に、例えば10時25分を表示する場合、12時から10時に対応する11個の時表示部材30と、0分から25分に対応する26個の分表示部材40と、を変位させてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、駆動部31において当接部34を径方向に沿って変位させる動力部として、形状記憶合金によりコイル状に形成された伸縮部35を用いているが、これに限定されない。動力部として、例えばボイスコイルモータ等を用いてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、カム機構により時表示部材30や分表示部材40を表裏方向に変位させているが、これに限定されない。時表示部材や分表示部材を変位させる動力源として、例えば熱変化により表裏方向に曲がるバイメタル、または電界作用でその形や大きさを変更できる電気活性ポリマーを用いてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、時表示部21が複数の時表示部材30により形成されているが、これに限定されない。時表示部は、表裏方向に変位可能に形成された複数の指標により形成されていてもよい。また、時表示部は、複数の時表示部材30、および表裏方向に変位可能に形成された複数の指標により形成されていてもよい。
【0066】
また、時計1は、ボタン12が操作された場合に、所定の時表示部材30および所定の分表示部材40を変位させると同時に、音声や振動等により時刻を通知するように構成されていてもよい。
また、時表示部材および分表示部材は、各別に点灯可能に形成され、制御部は、変位する時表示部材および分表示部材を点灯するように制御してもよい。これにより、弱視者に対して視覚および触覚の両方で時刻を認識させることができる。
【0067】
また、時計1は、スマートフォン等の外部機器と通信可能に形成され、外部機器に対して時計1のメンテナンス時期やバッテリ残量、時計1を装着している人の体温、脈拍数、地図位置等の情報を表示させるように形成されていてもよい。
【0068】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。