(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、携帯端末の測位結果を用いて交通量を推定する技術には、特許文献1の技術のように端末に搭載されたGPS測位手段を用いて生成された端末の位置履歴を用いるものと、特許文献2の技術のように携帯端末と通信接続する基地局での通信履歴を用いるものとが存在する。
【0008】
ここで、道路や鉄道等の路線・経路における交通量を調査する場合、例えば特定の道路区間での交通規制による他区間への影響を調べる場合のように、広い地域範囲における各経路の交通量を把握しなければならないことが多い。さらに、交通量の絶対値を把握することを考えると、端末の位置測位データは大量に必要となる。
【0009】
しかしながら、携帯端末毎にアドオンするアプリを要するGPS測位結果は、通常、広い地域範囲において予め大量に取得することができない。従って、このようなGPS測位結果を利用して、例えば1つの地域に分布する各路線・経路における交通量の絶対値を推定することは非常に困難となる。
【0010】
一方、携帯端末と通信接続する基地局を用いた位置測位結果は、そのようなアプリを必要とせず、たしかに広い地域範囲において大量に取得することが可能となっている。ところが、基地局を用いた位置測位結果は低精度であるので、例えば交通規制対象の道路区間と、鉄道等の隣接する公共交通路線との識別が困難となるケースがしばしば発生する。その結果、対象経路における交通量の推定結果の精度も大きく低下する問題が生じてしまうのである。
【0011】
そこで、本発明は、考慮すべき地域範囲における各経路での通行状況も勘案した上で、対象経路の通行量をより高い精度で推定することができる装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、通行体と同行する携帯端末の通信履歴から、対象経路における通行量を推定する通行量推定装置であって、
取得された当該通信履歴に基づいて、1つの移動の開始位置を含む位置範囲に係る情報Oと、この1つの移動の終了位置を含む位置範囲に係る情報Dとを生成するOD生成手段と、
当該対象経路を含む位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群であって当該通信履歴より生成された通信位置情報ログ群から、情報Oに相当するO位置範囲と、このO位置範囲から当該対象経路を通って至ることになる情報Dに相当するD位置範囲とを決定するOD位置範囲決定手段と、
決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該位置範囲を通る当該通行体が当該対象経路を使用する割合である使用割合に係る情報であって、
当該携帯端末に搭載された測位手段、又は当該対象経路を含む地域に設置された当該通行体を検出可能な検出手段から取得される実際の測定
に係る情報としての測位情報ログ群から導出され
た使用割合に係る情報を対応付けて保存する使用割合保存手段と、
決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、当該組に相当する通信位置情報ログ群に係る端末の集計数と、当該組の位置範囲に対応付けられた使用割合に係る情報とに基づいて、当該対象経路を通行した通行体の当該組での数を算出し、算出された当該通行体の当該組毎の数から当該対象経路における実際に係る通行量を決定する通行量決定手段と
を有する通行量推定装置が提供される。
【0013】
本発明によ
れば、また、通行体と同行する携帯端末の通信履歴から、対象経路における通行量を推定する通行量推定装置
であって、
取得された当該通信履歴に基づいて、1つの移動の開始位置を含む位置範囲に係る情報Oと、該1つの移動の終了位置を含む位置範囲に係る情報Dとを生成するOD生成手段と、
当該対象経路を含む位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群であって当該通信履歴より生成された通信位置情報ログ群から、情報Oに相当するO位置範囲と、該O位置範囲から当該対象経路を通って至ることになる情報Dに相当するD位置範囲とを決定するOD位置範囲決定手段と、
当該携帯端末に搭載された測位手段、又は当該対象経路を含む地域に設置された当該通行体を検出可能な検出手段から取得される測位情報ログ群であって当該通行体における位置シーケンスである測位情報ログ群に基づいて、1つの移動の開始位置を含む小位置範囲に係る情報Oと、該1つの移動の終了位置を含む小位置範囲に係る情報Dとを生成する小OD生成手段と、
当該対象経路を含む小位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す測位情報ログ群から、情報Oに相当するO小位置範囲と、該O位置範囲から当該対象経路を通って至ることになる情報Dに相当するD小位置範囲とを決定するOD小位置範囲決定手段と、
決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該位置範囲に含まれる
小位置範囲のいずれかが当該対象経路に係るO小位置範囲又はD小位置範囲
となった回数を算出し、算出された当該
回数に基づいて、
当該位置範囲を通る当該通行体が当該対象経路を使用する割合である使用割合に係る情報を
、当該位置範囲に対応付けて決定する使用割合決定手段と
、
決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、当該組に相当する通信位置情報ログ群に係る端末の集計数と、当該組の位置範囲に対応付けられた使用割合に係る情報とに基づいて、当該対象経路を通行した通行体の当該組での数を算出し、算出された当該通行体の当該組毎の数から当該対象経路における通行量を決定する通行量決定手段と
を有する通行量推定装置が提供される。
【0014】
また、上記の実施形態において、使用割合決定手段は、
決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該対象経路について決定された当該位置範囲に含まれる
小位置範囲のいずれかが当該対象経路に係るO小位置範囲又はD小位置範囲
となった回数を算出し、算出された当該
回数に基づいて当該対象経路の通行数を算出し、
決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該位置範囲群内に含まれる対象経路以外の別経路について決定された当該位置範囲に含まれるO小位置範囲又はD小位置範囲の数を算出し、算出された当該数に基づいて当該別経路の通行数を算出し、
算出された当該対象経路の通行数と、算出された当該別経路の通行数とに基づいて、当該対象経路の使用割合に係る情報を決定することも好ましい。
【0015】
さらに、本発明による通行量推定装置の他の実施形態として、本装置は、
予め取得された経路地図情報に基づいて、1つの経路についての迂回経路を検索する迂回経路検索手段と、
当該1つの経路における通行が制限された場合における、検索された迂回経路での通行量の変化を、当該1つの経路について決定された通行量と、当該迂回経路について決定された通行量とに基づいて推定する通行影響推定手段と
を更に有することも好ましい。
【0016】
本発明によれば、さらに、通行体と同行する携帯端末の通信履歴から、対象経路における通行量を推定する通行量推定装置であって、
取得された当該通信履歴に基づいて、1つの移動の開始位置を含む位置範囲に係る情報Oと、該1つの移動の終了位置を含む位置範囲に係る情報Dとを生成するOD生成手段と、
当該対象経路を含む位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群であって当該通信履歴より生成された通信位置情報ログ群から、情報Oに相当するO位置範囲と、該O位置範囲から当該対象経路を通って至ることになる情報Dに相当するD位置範囲とを決定するOD位置範囲決定手段と、
決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該位置範囲を通る当該通行体が当該対象経路を使用する割合である使用割合に係る情報を対応付けて保存する使用割合保存手段と、
決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、当該組に相当する通信位置情報ログ群に係る端末の集計数と、当該組の位置範囲に対応付けられた使用割合に係る情報とに基づいて、当該対象経路を通行した通行体の当該組での数を算出し、算出された当該通行体の当該組毎の数から当該対象経路における通行量を決定する通行量決定手段と、
予め取得された経路地図情報に基づいて、1つの経路を含む位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群から決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、
当該1つの経路についての迂回経路を検索
する迂回経路検索手段と、
当該1つの経路における通行が制限された場合における、検索された迂回経路での通行量の変化を、決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、当該組に係る決定された通行量と、当該組について決定された迂回経路
について決定された通行量とに基づいて
推定する通行影響推定手段と
を有する通行量推定装置が提供される。
【0017】
本発明によれば、さらにまた、通行体と同行する携帯端末の通信履歴から、対象経路における通行量を推定する通行量推定装置であって、
取得された当該通信履歴に基づいて、1つの移動の開始位置を含む位置範囲に係る情報Oと、該1つの移動の終了位置を含む位置範囲に係る情報Dとを生成するOD生成手段と、
当該対象経路を含む位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群であって当該通信履歴より生成された通信位置情報ログ群から、情報Oに相当するO位置範囲と、該O位置範囲から当該対象経路を通って至ることになる情報Dに相当するD位置範囲とを決定するOD位置範囲決定手段と、
決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該位置範囲を通る当該通行体が当該対象経路を使用する割合である使用割合に係る情報を対応付けて保存する使用割合保存手段と、
決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、当該組に相当する通信位置情報ログ群に係る端末の集計数と、当該組の位置範囲に対応付けられた使用割合に係る情報とに基づいて、当該対象経路を通行した通行体の当該組での数を算出し、算出された当該通行体の当該組毎の数から当該対象経路における通行量を決定する通行量決定手段と、
予め取得された経路地図情報に基づいて、1つの経路についての迂回経路を検索する迂回経路検索手段と、
当該1つの経路における通行が制限された場合における、検索された迂回経路での通行量の変化を、当該1つの経路について決定された通行量と、当該迂回経路について決定された通行量とに基づいて推定する通行影響推定手段と
を有し、
当該1つの経路及び当該迂回経路は各々、1つの道路区間であり、
当該使用割合に係る情報は、自動車で移動する割合である自動車移動割合であり、
前記通行影響推定手段は、当該1つの道路区間の通行が規制された場合における当該迂回経路での通行量を、当該迂回経路について決定された通行量に当該1つの
経路について決定された通行量を加算した量であると推定する
ことを特徴とす
る通行量推定装置。
【0018】
本発明によれば、また、通行体と同行する携帯端末の通信履歴から、対象経路における通行量を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
取得された当該通信履歴に基づいて、1つの移動の開始位置を含む位置範囲に係る情報Oと、この1つの移動の終了位置を含む位置範囲に係る情報Dとを生成するOD生成手段と、
当該対象経路を含む位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群であって当該通信履歴より生成された通信位置情報ログ群から、情報Oに相当するO位置範囲と、このO位置範囲から当該対象経路を通って至ることになる情報Dに相当するD位置範囲とを決定するOD位置範囲決定手段と、
決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該位置範囲を通る当該通行体が当該対象経路を使用する割合である使用割合に係る情報であって、
当該携帯端末に搭載された測位手段、又は当該対象経路を含む地域に設置された当該通行体を検出可能な検出手段から取得される実際の測定
に係る情報としての測位情報ログ群から導出され
た使用割合に係る情報を対応付けて保存する使用割合保存手段と、
決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、当該組に相当する通信位置情報ログ群に係る端末の集計数と、当該組の位置範囲に対応付けられた使用割合に係る情報とに基づいて、当該対象経路を通行した通行体の当該組での数を算出し、算出された当該通行体の当該組毎の数から当該対象経路における実際に係る通行量を決定する通行量決定手段と
してコンピュータを機能させる通行量推定プログラムが提供される。
【0019】
本発明によれば、さらに、通行体と同行する携帯端末の通信履歴から、対象経路における通行量を推定する装置に搭載されたコンピュータにおいて実施される通行量推定方法であって、
取得された当該通信履歴に基づいて、1つの移動の開始位置を含む位置範囲に係る情報Oと、該1つの移動の終了位置を含む位置範囲に係る情報Dとを生成するステップと、
当該対象経路を含む位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群であって当該通信履歴より生成された通信位置情報ログ群から、情報Oに相当するO位置範囲と、このO位置範囲から当該対象経路を通って至ることになる情報Dに相当するD位置範囲とを決定するステップと、
決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該位置範囲を通る当該通行体が当該対象経路を使用する割合である使用割合に係る情報であって、
当該携帯端末に搭載された測位手段、又は当該対象経路を含む地域に設置された当該通行体を検出可能な検出手段から取得される実際の測定
に係る情報としての測位情報ログ群から導出され
た使用割合に係る情報を対応付けて保存するステップと、
決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、当該組に相当する通信位置情報ログ群に係る端末の集計数と、当該組の位置範囲に対応付けられた使用割合に係る情報とに基づいて、当該対象経路を通行した通行体の当該組での数を算出し、算出された当該通行体の当該組毎の数から当該対象経路における実際に係る通行量を決定するステップと
を有する通行量推定方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の装置、プログラム及び方法によれば、考慮すべき地域範囲における各経路での通行状況も勘案した上で、対象経路の通行量をより高い精度で推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
図1は、実空間での携帯端末の滞在及び移動の例を概略的に示す模式図である。
【0024】
図1によれば、携帯端末2を所持若しくは携帯した又は身近に設置したユーザが、自宅から勤務先の会社まで、経路A(鉄道)、経路B(高速道路)及び経路C(一般道)のうちのいずれかを介して通勤を行っている。
【0025】
携帯端末2は、ユーザと同行可能な通信端末であって、例えば、スマートフォン、タブレット型コンピュータ、ウェアラブル端末又は携帯電話機等とすることができる。本実施形態において、携帯端末2は、どの位置にあってもいずれかの基地局3の配下にあり、当該基地局3と無線での通信を行い続けている。なお、携帯端末2が例えば円滑なハンドオーバを目的として一時に複数の基地局と交信し、そのうち例えば最も信号強度の高い基地局と通信を行うことも好ましい。
【0026】
基地局3は、広域無線通信網(携帯電話網)に接続されており、自身の配下にある携帯端末2毎に、通信した際の日時刻(例えば通信を開始又は終了した日時刻)を含む情報を取得する。このような情報の取得は、通話、メールの送受信や、ウェブ(Web)ページの閲覧、さらには、携帯端末2にインストールされたアプリケーションとサーバとの間の通信や、アプリケーション若しくはコンテンツのダウンロードやアップロード等の際に実施される。
【0027】
また、
図1には示されていないが、これらの多数の基地局3と通信接続されていてこれらの局を統合する通信設備装置1(
図2)が設置されている。通信設備装置1は、基地局3と通信を行う携帯端末2毎に、通信した際の日時刻の情報と、通信対象となった基地局3の情報とを含む通信レコード(通信ログ)を常時収集することができる。この通信レコードを時系列でまとめたものが通信履歴となる。一般に、通信履歴は、空間的粒度が粗く且つ時間間隔が一定でない基地局の位置情報を含む。ここで、「空間的粒度が粗く」とは、位置情報の間の実空間での(地理的な)距離が比較的長いことを意味する。また、「時間間隔が一定でない」とは、位置情報に対応付けられた日時刻情報の間の時間間隔が通信タイミングに依存してばらついていることを意味する。
【0028】
ここで、(
図1では1人しか示されていないが、実際には)多数のユーザは、
図1に示すような通勤の間に、経路A〜Cのいずれを利用する場合であっても「滞在」及び「移動」を行うことになる。このような「滞在」及び「移動」についての場所及び時刻が、上記のような特徴を有する通信履歴を用いて推定可能となっている。例えば、後にその内容を説明するが、本出願人の出願による特開2014−116808公報や、特開2016−48529号公報に滞在移動判定技術が開示されている。
【0029】
本発明による通行量推定装置としての通信設備装置1(
図2)は、このような通信履歴から導出された多数のユーザについての「滞在」及び「移動」に係る情報から、経路A〜Cの各々を通行するユーザ(携帯端末2)の数、すなわち経路毎の通行量(交通量)を推定することを可能とする。具体的に、この通信設備装置1は、通行量を推定する対象である対象経路を含む位置範囲群(位置範囲(例えば一メッシュ単位)を互いに隣接させて配置させたもの)を設定した上で、まず、
(A)取得された通信履歴に基づいて、1つの移動の開始位置を含む位置範囲に係る「情報O」と、この1つの移動の終了位置を含む位置範囲に係る「情報D」とを生成し、
(B)対象経路を含む位置範囲群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群であって通信履歴より生成された通信位置情報ログ群から、「情報O」に相当するO位置範囲と、このO位置範囲から対象経路を通って至ることになる「情報D」に相当するD位置範囲とを決定する。
【0030】
通信設備装置1は、さらに、
(C)決定されたO位置範囲及びD位置範囲の各位置範囲について、当該位置範囲を通る通行体(ユーザやユーザの使用する移動手段)が対象経路を使用する割合である「使用割合」に係る情報を対応付けて保存しており、
(D)決定されたO位置範囲とD位置範囲との組毎に、当該組に相当する通信位置情報ログ群に係る端末の集計数と、当該組の位置範囲に対応付けられた「使用割合」に係る情報とに基づいて、対象経路を通行した通行体(ユーザ等)の当該組での数を算出し、算出された通行体(ユーザ等)の当該組毎の数から対象経路における通行量を決定するのである。
【0031】
このように、通信設備装置1では、通常、空間的粒度が粗く且つ時間間隔が一定でないが広域において万遍なく分布している(多数のユーザの)通信履歴を利用して、個別の移動単位を示す「情報O」と「情報D」との組を、考慮すべき地域範囲全体で取得することができる。ここで、この組(以後、場合によってはこの組をODセットと呼ぶ)と、この組に対応付けられた「使用割合」に係る情報を用いることによって、考慮すべき地域範囲における各経路での通行状況も勘案した上で、対象経路の通行量をより高い精度で推定することが可能となるのである。
【0032】
例えば、
図1において、経路B(高速道路)の通行量を推定する場合、携帯端末2の通信履歴から取得される情報だけでは、経路B(高速道路)における携帯端末2(を含む自動車)の通行を、経路A(鉄道)や経路C(一般道)における携帯端末2の通行と区別することは一般に困難である。すなわち、通常、1つの地域から他の地域へ移動するための複数の経路は、互いに隣接しているか少なくとも遠隔していない。従って、経路間の多くの部分は、通信履歴から算出される低精度の測位結果では分離して把握することが非常に困難となる。
【0033】
これに対し、通信設備装置1では、他経路(経路Aや経路C)を通行する状況を反映している経路Bの「使用割合」を使用することによって、位置分解能の十分ではない通信履歴から取得されるODセットからでも、経路Bの通行量を推定することが可能となるのである。
【0034】
ちなみに、通信設備装置1は、上記の「使用割合」として、例えば予めの簡易な交通量実地調査やアンケート調査等によって推測された値を使用することも可能である。また、当該地域での交通事情やその他の事情を勘案し、所定値を予め設定して使用してもよい。しかしながら、通信設備装置1は、より精度の高い有意な通行量を推定すべく、
(E)携帯端末2に搭載された例えばGPS測位部等の測位手段、又は対象経路を含む地域に設置された通行体(ユーザやユーザの使用する移動手段)を検出可能な検出手段から取得される測位情報ログ群に基づいて、上記の「使用割合」に係る情報を決定する
ことも好ましい。
【0035】
ここで、例えば携帯端末2によるGPS測位結果を利用する場合、このGPS測位結果は、通信履歴(基地局)による測位結果と比較して、より少量しか取得することができないが、一方でより高い位置精度を有している。このようなGPS測位結果から、各経路における通行量の絶対値を推定することは非常に困難であるが、一方で、1つの経路における又は各経路における「使用割合」ならば、GPS測位結果の高い位置精度によって十分に精度良く求めることができるのである。
【0036】
このように、上記構成(E)をも採用した通信設備装置1は、GPS測位結果のような高精度であるが比較的少量の測位結果と、通信履歴(基地局)に基づく測位結果のような低精度ではあるが比較的大量の測位結果とを複合的に利用することによって、対象経路又は各経路における通行量(交通量)を高い精度で推定することを可能にしているのである。
【0037】
図2は、本発明による通行量推定装置の一実施形態における機能構成を示す機能ブロック図である。
【0038】
図2に示した通信設備装置1は、本発明による通行量推定装置の一実施形態であり、広域無線通信網(携帯電話網)に接続されて設置され、基地局3から通信履歴を適宜収集することができる。なお、本発明による通行量推定装置は、外部から取得した通信履歴を入力して対象経路の通行量を推定することが可能なコンピュータとすることも可能である。この場合、広域無線通信網(携帯電話網)に接続されていなくてもよい。
【0039】
図2によれば、通信設備装置(通行量推定装置)1は、通信インタフェース部101と、通信履歴蓄積部102と、測位履歴蓄積部103と、経路地図情報蓄積部104と、入出力部としてのディスプレイ・キーボード(DP・KB)105と、プロセッサ・メモリとを有する。ここで、プロセッサ・メモリは、装置1の主機能部であるコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって、通行量推定機能を実現させる。
【0040】
さらに、プロセッサ・メモリは、機能構成部として、位置情報履歴生成部111と、基地局位置情報管理部112と、滞在移動推定部113と、OD生成部114と、OD位置範囲決定部115と、測位位置履歴生成部116と、小OD生成部117と、OD小位置範囲決定部118と、使用割合決定・保存部119と、通行量決定部120と、迂回経路探索部131と、通行影響推定部132と、アプリケーション処理部133とを有する。なお、
図2における各機能構成部を矢印で接続した処理の流れは、本発明による通行量推定定方法の一実施形態としても理解される。
【0041】
通信履歴蓄積部102は、携帯端末2を配下に接続する基地局3から、携帯端末2(端末識別子(ID))毎に、通信に係る日時刻(時刻情報)と、通信に係る基地局3の基地局IDとを対応付けた、下記に示すような通信レコード(通信ログ)を、通信インタフェース部101を介して収集し、保存・管理する。
通信レコード(端末ID,日時刻,基地局ID)
【0042】
ここで、通信レコードを日時刻について時系列順に並べたものが通信履歴となる。なお、通信に係る日時刻は、通信の接続開始日時刻としてもよく、通信の切断日時刻としてもよい。また、通信に係る日時刻として、通信の接続開始日時刻と、当該通信の切断日時刻とを共に通信レコードに含めてもよい。さらに、通信レコードの変更態様として、端末ID毎に、通信に係る基地局からの電波信号強度RSSI(Received Signal Strength Indication)や往復遅延時間RTD(Round Trip Delay time)等の無線情報が更に対応付けられていることも好ましい。
【0043】
基地局位置情報管理部112は、基地局IDと、「基地局に係る位置情報」とを対応付けた基地局情報ファイルを記憶し管理する。ここで、「基地局に係る位置情報」は、
(a)基地局3の設置位置を示す基地局位置情報
としてもよく、
(b)基地局3の設置位置に基づいて導出される、携帯端末2の所在位置の測位結果を示す位置情報
とすることもできる。以下、上記(a)の基地局位置情報を用いて滞在移動判定の説明を行うが、代わりに上記(b)の位置情報を同様に用いて同判定を行うこともできる。
【0044】
ここで、上記の位置情報(b)は、例えば、基地局3の設置位置と、基地局3からの電波信号の放射方位(電波放射角)と、基地局3及び携帯端末2の間でのRSSI又はRTDとから導出可能である。
【0045】
位置情報履歴生成部111は、基地局位置情報管理部112で管理されている基地局情報ファイルを用い、通信履歴において、通信レコード毎に基地局IDに対応する基地局に係る位置情報(基地局位置情報)を更に対応付け、「通信位置情報ログ群」を生成する。
【0046】
滞在移動推定部113は、位置情報履歴生成部111で生成された「通信位置情報ログ群」に基づいて、各携帯端末2(各端末ID)における「滞在」及び「移動」の場所及び時刻を推定する。次に、この「滞在」及び「移動」情報の推定について説明する。
【0047】
図3は、滞在移動推定部113における滞在及び移動の推定処理を説明するためのテーブル及び模式図である。
【0048】
図3(A)には、位置情報履歴生成部111で生成された「通信位置情報ログ群」の一実施例が示されている。同図のテーブルによれば、例えば、携帯端末001は、2016年7月31日20時11分15秒に緯度37.21度及び経度139.31度の位置にある基地局0008と通信したことが理解される。ここで、本出願人の出願による特開2014−116808公報や、特開2016−48529号公報に開示された、このような通信位置情報ログ群を用いた滞在移動推定技術を以下に説明する。
【0049】
最初に、特開2014−116808公報に開示された滞在移動推定技術では、
(a)通信位置情報ログ群を、所定の時間窓(時間区間)に分割し、
(b)時間窓毎に、基地局位置情報に基づく位置の確率分布が、単峰性である場合には「滞在」と判定し、そうでない場合には「移動」と判定し、
(c)「滞在」と判定された時間窓の基地局位置情報を収集し、
(d)「滞在」と判定された各時間窓の複数の位置情報の重心を「滞在地」としている。
【0050】
一方、特開2016−48529号公報に開示された滞在移動推定技術では、
(a)通信位置情報ログ毎に、通信位置情報ログ群に含まれる日時刻に基づいて、当該通信位置情報ログについての比較対象となる比較対象通信位置情報ログを決定し、
(b)滞在判定対象の通信位置情報ログについて決定された比較対象通信位置情報ログに係る位置情報の示す位置が、当該滞在判定対象の通信位置情報ログに係る位置情報の示す位置を中心とした所定距離範囲に含まれる場合、当該滞在判定対象の通信位置情報ログに係る携帯端末のユーザの状態を「滞在」であると判定し、
(c)滞在判定対象の通信位置情報ログから順次、滞在と判定された通信位置情報ログを日時刻について遡って、滞在と判定された通信位置情報ログが自身の1つ前に存在しない最後の通信位置情報ログを求め、当該滞在判定対象の通信位置情報ログについて、当該最後の通信位置情報ログから、当該滞在判定対象の通信位置情報ログの1つ前に存在する通信位置情報ログまでの通信位置情報ログを、比較対象通信位置情報ログであると決定している。
【0051】
また、より単純な滞在移動判定方法としては、通信位置情報ログ群において、
(a)判定対象の通信位置情報ログから見て、所定時間範囲内に所定距離範囲内の通信位置情報ログが存在すれば、当該判定対象の通信位置情報ログに対して「滞在」との判定を行い、
(b)互いに当該所定距離範囲内にある通信位置情報ログに係る基地局位置情報から「滞在地」を決定し、
(c)「滞在」と判定されなかった通信位置情報ログに対して「移動」との判定を行う
ことも可能である。なお当然に、滞在移動推定部113では、その他の公知の滞在移動推定方法を採用することも可能である。
【0052】
以上に説明したような滞在移動推定(判定)を行うことによって、1つの携帯端末2(端末ID)について、例えば、
図3(B)に示すような滞在・移動に係る情報が取得される。
図3(B)の例では、この携帯端末2は、滞在1→移動1→滞在2→移動2→滞在3→移動3→滞在4→移動4→滞在5といった形で滞在と移動とを繰り返している。ここで、各「移動」における出発及び到着地点の位置情報も取得されている。具体的には、例えば「移動1」については、「移動1の出発地点」及び「移動1の到着地点」(=「移動2の出発地点」)の位置情報(例えば緯度及び経度)が決定しているのである。
【0053】
ここで、後に詳細に説明するが、OD生成部114(
図2)は、このような滞在移動推定結果から、1つの移動の開始位置を含む位置範囲(大メッシュ)に係る「情報O」と、この1つの移動の終了位置を含む位置範囲(大メッシュ)に係る「情報D」とを生成するのである。
【0054】
図2に戻って、測位履歴蓄積部103は、GPS測位部を備えておりGPS測位結果をGPS測位レコード(ログ)として取りまとめるアプリを搭載した携帯端末2から、当該レコード(ログ)を、通信インタフェース部101を介して収集し、保存・管理する。GPS測位レコードは、例えば、携帯端末2(端末ID)毎に、測位した日時刻(時刻情報)と、測位結果情報(例えば緯度経度情報)とを対応付けた、下記のようなログとすることができる。
GPS測位レコード(端末ID,日時刻,緯度経度情報)
【0055】
測位位置履歴生成部116は、測位履歴蓄積部103に蓄積されたGPS測位レコードを日時刻について時系列順に並べて「測位情報ログ群」を生成する。この「測位情報ログ群」は、各携帯端末2(各端末ID)についての刻々の測位結果(所在位置)の時系列データ(携帯端末2の位置シーケンスデータ)となっている。
【0056】
経路地図情報蓄積部104は、道路、鉄道、航路等、携帯端末2のユーザが利用し得る移動経路の地理情報(位置情報)である経路地図情報を、例えば外部のサーバから通信インタフェース部101を介して収集し、保存・管理する。この経路地図情報は、例えば事業者が通信ネットワークを介して提供する公知の地図データ、例えばDRM(Digital Road Map)とすることができる。
【0057】
ちなみに、このような経路地図情報として、具体的には、所定の地域範囲、例えば日本国内に存在する高速道路、一般道、鉄道路線や、航路等の通行経路を地図上で構成する連続した位置データ群を、当該経路のIDに対応付けたデータを含むものであってもよい。または、当該経路に沿って伸長した所定の幅の位置範囲を、当該経路のIDに対応付けたデータを含んでいてもよい。いずれにしても、経路地図情報は、地図上での1つの位置又は位置範囲を指定すれば、当該位置を含む通行経路を特定することが可能な情報となっていることも好ましい。
【0058】
同じく
図2において、小OD生成部117は、「測位情報ログ群」に基づいて、1つの移動の開始位置を含む小位置範囲(小メッシュ)に係る「情報O」と、この1つの移動の終了位置を含む小位置範囲(小メッシュ)に係る「情報D」とを生成する。
【0059】
次いで、OD小位置範囲決定部118は、通行量を推定する対象である対象経路を含む小位置範囲(小メッシュ)群内を通ることになる位置シーケンスを示す「測位情報ログ群」から、「情報O」に相当するO小位置範囲(O小メッシュ)と、このO位置範囲から対象経路を通って至ることになる「情報D」に相当するD小位置範囲(D小メッシュ)とを決定する。以下、図を用いて、上記の小OD生成部117及びOD小位置範囲決定部118で実行される、対象経路の「使用割合」を決定するための準備となる処理について説明する。
【0060】
図4及び
図5は、小OD生成部117及びOD小位置範囲決定部118における処理の一実施形態を説明するための模式図及びフローチャートである。
【0061】
図4(A)に示すように、「使用割合」を決定する準備を行うため、最初に、通行量を推定する対象である対象経路を含む小位置範囲(小メッシュ)群Aを決定する。ここで、本実施形態において、対象経路及びその隣接経路を含む所定の地域範囲全体には、隣接する複数のメッシュ単位である小メッシュ(小位置範囲)が順次配列して(メッシュをなして)当該地域範囲をカバーする小メッシュ群が設定されている。
【0062】
また、ここで予め、所定の通行量推定対象期間(例えば**年**月〜**年**月)における多数の携帯端末2(端末ID)についての「測位情報ログ群」に基づいて、
(a)1つの移動の開始位置を含む小メッシュ(小位置範囲)に係る「情報O」と、
(b)この1つの移動の終了位置を含む小メッシュ(小位置範囲)に係る「情報D」と
を生成しておく。ちなみに、設定される通行量推定対象期間は、例えば、対象経路が高速道路であって交通規制期間が存在する場合に、この交通規制期間の前月での同期間又は前年での同期間とすることができる。いずれにしても通行量推定の目的等に応じて適宜設定されるべき期間となる。
【0063】
ここで、生成された「情報O」は、例えば、この1つの移動の主体である携帯端末2の端末IDと、この1つの移動の開始位置を含む小メッシュに付与された小メッシュIDとが対応付けられたデータを含むものとすることができる。また、「情報D」は、例えば、この1つの移動の主体である携帯端末2の端末IDと、この1つの移動の終了位置を含む小メッシュに付与された小メッシュIDとが対応付けられたデータを含んでいてもよい。
【0064】
次いで、決定された小位置範囲(小メッシュ)群Aを通ることになる位置シーケンスを示す「測位情報ログ群」から、「情報O」に相当するO小位置範囲(O小メッシュ)と、このO位置範囲から対象経路を通って至ることになる「情報D」に相当するD小位置範囲(D小メッシュ)とを決定する。さらに、小メッシュ毎に、「情報O」に該当した回数及び「情報D」に該当した回数を集計する。
【0065】
ここで、1つの携帯端末2(端末ID)の測位情報ログ群が、小メッシュ群Aを通る(位置シーケンスを示す)場合とは、このログ群の中に、ログ内の位置情報が小メッシュ群A内の位置であると判定されるログが所定数(例えば2つ)以上存在する場合とすることができる。ここで、所定数以上連続して存在することを条件としてもよく、所定数を1つとして1つでも該当するログがあれば通っていると判定することも可能である。
【0066】
以上に説明した処理をまとめると、
図4(B)のフローチャートのようになる。すなわち、
(S11)対象経路を含む小メッシュ群Aを決定する。
(S12)小メッシュ群Aを通った全携帯端末2のGPS測位情報ログ群を抽出する。
(S13)抽出されたGPS測位情報ログ群から、情報O及び情報Dを小メッシュ単位で決定する。
(S14)小メッシュ群Aを通った全携帯端末2について、小メッシュ毎に、情報O又は情報Dに係るメッシュとなった回数を集計する。
【0067】
次に、
図5(A)に示すように、対象経路に対する上記処理と同様の処理を、対象経路に隣接する隣接経路(別経路)に対して実施する。ここで、隣接経路(別経路)は、対象経路を含む位置範囲(大メッシュ)群Cを決定した上で、この位置範囲(大メッシュ)群C内に含まれる経路を、経路地図蓄積部104(
図2)に保存された経路地図情報から抽出することによって取得される。
【0068】
ちなみに、本実施形態において、対象経路及びその隣接経路を含む所定の地域範囲全体には、隣接する複数のメッシュ単位である大メッシュ(位置範囲)が順次配列して(メッシュをなして)当該地域範囲をカバーする大メッシュ群が設定されている。
【0069】
以上、隣接経路(別経路)に対する処理をまとめると、
図5(B)のフローチャートのようになる。すなわち、
(S22)大メッシュ群Cに含まれる隣接経路を抽出する。
(S23)隣接経路を含む小メッシュ群Bを決定する。
(S24)小メッシュ群Bを通った全携帯端末2のGPS測位情報ログ群を抽出する。
(S25)抽出されたGPS測位情報ログ群から、情報O及び情報Dを小メッシュ単位で決定する。
(S26)小メッシュ群Bを通った全携帯端末2について、メッシュ毎に、情報O又は情報Dに係るメッシュとなった回数を集計する。
(S27)他の隣接経路が存在するか否かを判定する。ここで、真の判定(存在するとの判定)を行った場合、ステップS23に戻り、この「他の隣接経路」について同様の処理を行う。
【0070】
図2に戻って、OD生成部114は、「測位情報ログ群」に基づいて、1つの移動の開始位置を含む位置範囲(大メッシュ)に係る「情報O」と、この1つの移動の終了位置を含む位置範囲(大メッシュ)に係る「情報D」とを生成する。
【0071】
ここで、生成された「情報O」は、例えば、この1つの移動の主体である携帯端末2の端末IDと、この1つの移動の開始位置を含む大メッシュに付与された大メッシュIDとが対応付けられたデータを含むものとすることができる。また、「情報D」は、例えば、この1つの移動の主体である携帯端末2の端末IDと、この1つの移動の終了位置を含む大メッシュに付与された大メッシュIDとが対応付けられたデータを含んでいてもよい。
【0072】
次いで、OD位置範囲決定部115は、対象経路を含む位置範囲(大メッシュ)群C内を通ることになる位置シーケンスを示す「通信位置情報ログ群」から、「情報O」に相当するO位置範囲と、このO位置範囲から対象経路を通って至ることになる「情報D」に相当するD位置範囲とを決定する。
【0073】
同じく
図2において、使用割合決定・保存部119は、決定されたO位置範囲(O大メッシュ)及びD位置範囲(D大メッシュ)の各位置範囲(大メッシュ)について、当該位置範囲(大メッシュ)に含まれるO小位置範囲(O小メッシュ)又はD小位置範囲(D小メッシュ)の数を算出し、算出された数に基づいて、(携帯端末2と同行する)通行体が対象経路を使用する割合である「使用割合」に係る情報を決定する。また、位置範囲(大メッシュ)毎に、決定された「使用割合」に係る情報を保存する。以下、
図6を用いてこの「使用割合」の決定処理について説明する。
【0074】
図6は、使用割合決定・保存部119における使用割合決定処理の一実施形態を説明するための模式図及びフローチャートである。
【0075】
使用割合を決定する処理においては、最初に、
図6(A)に示すように、決定されたO大メッシュ(O位置範囲)及びD大メッシュ(D位置範囲)の各大メッシュ(位置範囲)について、
(a)対象経路について決定された位置範囲(大メッシュ)に含まれるO小メッシュ(O小位置範囲)又はD小メッシュ(D小位置範囲)の数を算出し、算出された数に基づいて対象経路の通行数を算出し、
(b)対象経路以外の抽出された隣接経路(別経路)について決定された位置範囲(大メッシュ)に含まれるO小メッシュ(O小位置範囲)又はD小メッシュ(D小位置範囲)の数を算出し、算出された数に基づいてこの隣接経路の通行数を算出し、
(c)算出された対象経路の通行数と、算出された隣接経路の通行数とに基づいて、対象経路の使用割合に係る情報を決定する。
【0076】
具体例として、同じく
図6(A)に示すように、250m×250mの正方形エリアをなす1つの大メッシュが、50m×50mの正方形エリアをなす小メッシュを25個包含するようなメッシュ構成を考える。ここで、この1つの大メッシュがO大メッシュである場合に、
(a)このO大メッシュに含まれる25個の小メッシュのいずれかが、対象経路に係るO小メッシュとなった回数が29回であってD小メッシュとなった回数が31回であるとすると、対象経路の通行数は60(=29+31)回となり、
(b)このO大メッシュに含まれる25個の小メッシュのいずれかが、隣接経路に係るO小メッシュとなった回数が22回であってD小メッシュとなった回数が18回であるとすると、対象経路の通行数は40(=22+18)回となる。
【0077】
(c)次いで、上記(a)及び(b)で算出された通行数から、対象経路の使用割合は、次式
(1) (対象経路の使用割合)=
(対象経路の通行数)/((対象経路の通行数)+(他の全ての隣接経路の通行数))
を用いて、0.6(=60/(60+40))、すなわち60%に決定される。
【0078】
なお、上記(a)及び(b)では、1つの大メッシュに含まれる小メッシュの数を算出する際、O小メッシュとD小メッシュとは区別せずにカウントされている。この場合、使用割合を導出するに当たり、通行体が経路を通った際の向き(O→Dの向き)を考慮せずに処理を進めていることになる。
【0079】
これに対し、変更態様として、O大メッシュに含まれる小メッシュ数の算出の際には、O小メッシュのみをカウントし、D大メッシュに含まれる小メッシュ数の算出の際には、D小メッシュのみをカウントすることも可能である。この場合、通行体が経路を通った際の向き(O→Dの向き)までを考慮した使用割合が導出される。例えば、対象路線が高速道路である場合、上り車線(路線)の使用割合と、下り車線(路線)の使用割合とを区別して導出可能となる。
【0080】
以上に説明した使用割合の算出処理をまとめると、
図5(B)のフローチャートのようになる。すなわち、
(S31)1つの大メッシュを抽出する。
(S32)抽出された大メッシュに含まれる小メッシュ群を決定する。
(S33)決定された小メッシュ群における対象経路を通った端末数(情報O又は情報Dに係る小メッシュとなった回数)を算出する。
(S34)決定された小メッシュ群における隣接経路を通った端末数(情報O又は情報Dに係る小メッシュとなった回数)を算出する。ここで、隣接経路が複数存在する場合は、各隣接経路について、当該端末数を算出する。
(S35)対象経路を通った端末数と、隣接経路を通った端末数とから対象経路の使用割合を算出し保存する。
(S36)使用割合を算出していない大メッシュが存在するか(残っているか)否かを判定する。ここで、真の判定(存在するとの判定)を行った場合、ステップS31に戻り、この新たな大メッシュについて同様の処理を行う。
【0081】
図2に戻って、通行量決定部120は、決定されたO位置範囲(O大メッシュ)とD位置範囲(D大メッシュ)との組(ODセット)毎に、当該組に相当する通信位置情報ログ群に係る携帯端末2の集計数と、当該組の位置範囲に対応付けられた使用割合に係る情報とに基づいて、対象経路を通行した通行体の当該組(ODセット)での数を算出し、算出された通行体の組(ODセット)毎の数から対象経路における通行量を決定する。
【0082】
具体的には、例えば、対象経路の通行量推定期間における、1つのODセットにおける端末集計数が400台であって、この1つのODセットのO大メッシュ及びD大メッシュにおける対象経路の使用割合がそれぞれ70%及び50%であるとすると、この1つのODセットに係る対象経路の通行量は、240(=400×(0.7+0.5)/2)台であると決定される。
【0083】
ここで、1つのODセットにおける使用割合は、上記の例のようにO大メッシュでの値とD大メッシュでの値との相加平均とすることができるが、これに限定されるものではなく、例えば、O大メッシュとD大メッシュとの間で、それぞれが含むO小メッシュ数及びD小メッシュ数やそれぞれの地理的な事情等によって異なる重み係数を設定し、重み付け平均を用いて使用割合を算出してもよい。また、その他種々の平均を採用することが可能である。
【0084】
迂回経路探索部131は、予め経路地図蓄積部104に保存された経路地図情報に基づいて、1つの経路についての迂回経路を検索する。具体的に、本実施形態においては、1つの経路を含む位置範囲(大メッシュ)群内を通ることになる位置シーケンスを示す通信位置情報ログ群から決定されたO位置範囲(O大メッシュ)とD位置範囲(D大メッシュ)との組(ODセット)毎に、迂回経路を検索する。
【0085】
なお、迂回経路探索部131における迂回経路探索の方法としては、公知の実施可能な種々の方法を採用することができる。例えば、特開2013−73492号公報には、模擬道路網内の起点から終点までの経路を探索し、模擬車両を走行させることによって実施される交通評価方法が開示されている。具体的には、
(a)起点から模擬車両の位置までの経路の走行距離又は旅行時間の実績値を算出し、
(b)模擬車両の位置から終点までの経路の走行距離又は旅行時間の予測値を算出し、
(c)上記起点までの経路を通行不可に設定した場合に、実績値と予測値との合計値に対する実績値の割合が所定の閾値より大きいときは、上記終点に近い地点までの通行可能な経路を探索し、当該閾値より小さいときは、上記起点までの経路を探索している。
【0086】
さらに、特開2009−210467号公報に開示された経路探索方法では、
(a)道路の車線規制に関する車線規制情報を受信し、
(b)受信された車線規制情報に基づき、目的地までの経路の候補となる道路に対しその道路において通行規制されている車線数に応じた重みを与え、
(c)設定された重みを加味して目的地までの経路を探索し、
(d)全車線が通行規制されている道路は回避するように経路を探索している。
【0087】
同じく
図2において、通行影響推定部132は、1つの経路における通行が制限された場合における、検索された迂回経路での通行量の変化を、この1つの経路について決定された通行量と、迂回経路について決定された通行量とに基づいて推定する。具体的に、本実施形態においては、決定されたO位置範囲(O大メッシュ)とD位置範囲(D大メッシュ)との組(ODセット)毎に、当該組に係る決定された通行量と、当該組について決定された迂回経路とに基づいて、迂回経路での通行量の変化を推定する。
【0088】
図7は、通行量決定部120、迂回経路探索部131及び通行影響推定部132における処理を概略的に示す模式図である。
【0089】
図7に示したように、本実施形態では、道路区間である経路Xと、経路Xの迂回道路区間である迂回経路Yとにおいて、経路Xにつき道路工事による全面交通規制(通行止め)が行われた際の迂回経路Yでの交通量の変化を予測(推定)する。この予測(推定)処理においては、最初に、通行量決定部120によって、経路Xの通行量が推定される。この通行量を推定する期間は、適宜設定可能であるが、例えば予定されている交通規制期間がある月の一か月間として、この期間の前年同月の期間とすることも好ましい。
【0090】
ここで、経路Xの通行量を推定する際に使用される経路Xの使用割合は、道路区間である経路X以外に使用される道路区間が通常存在しない場合(例えば迂回経路Y及びその他の経路が鉄道路線である場合)、自動車で移動する割合である自動車移動割合と捉えることもできる。ちなみに、本実施形態では、出発地や目的地と、その場所に至る移動手段との間には相関関係があることを利用して、このような移動手段を特定することも好ましい。例えば、駅を発着地とする移動区間の場合、電車(鉄道)を移動手段とする確率が高く、駅から離れた施設(例えば、卸売市場や物流センター)を発着地とする移動区間の場合、自動車を移動手段とする確率が高いという特性を利用してもよい。
【0091】
次いで、迂回経路探索部131によって、経路Xの迂回道路区間である迂回経路Yが検索される。その後、通行影響推定部132は、経路Xの通行が全面規制された場合における迂回経路Yでの通行量を、迂回経路Yについて決定された通行量に対し、経路Xについて決定された通行量を加算した量に決定するのである。以下、以上に概略的に説明した通行影響推定処理の一実施形態を、
図8のフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0092】
図8は、本発明に係る通行影響推定処理の一実施形態を示すフローチャートである。
【0093】
(S41)規制経路X(
図7)を含む大メッシュ群Dを決定する。
(S42)大メッシュ群D内に測位位置が含まれる1つの携帯端末2の通信位置情報ログ群を抽出する。
(S43)抽出された通信位置情報ログ群から、情報O及び情報Dを大メッシュ単位で決定する。すなわち、大Oメッシュ及び大Dメッシュの組(ODセット)を決定する。
(S44)他の通信端末2(端末ID)の通信位置情報ログ群が存在するか否かを判定する。ここで真の判定(存在するとの判定)が行われた場合、ステップS42に移行し、この新たな通信端末2(端末ID)の通信位置情報ログ群に係る上記と同様の処理を実行する。
【0094】
(S45)一方、ステップS44で偽の判定、すなわち大メッシュ群Dに係る通信位置情報ログ群が全て処理されたとの判断がなされた場合、これらの大メッシュ群Dを通った全ての携帯端末2(端末ID)について、ODセット(O大メッシュ及びD大メッシュの組)毎に端末数を集計する。
(S46)迂回経路未探索のODセットOD
iを1つ抽出する。
(S47)抽出されたODセットOD
iについて予め算出された規制経路Xの使用割合に基づいて、ODセットOD
iにおける規制経路Xの通行量N
iを算出する。
【0095】
(S48)抽出されたODセットOD
iについて1つの迂回経路Y
iを決定する。迂回経路Y
iは複数検索されてもよいが、本実施形態では最適とされる(例えば通行所要時間が最短の)1つが検索される。ちなみに複数検索される場合、次のステップS49における通行量N
iの加算は、所定の割合(例えば通行所要時間に応じた割合)をもってこれらの迂回経路に分配する形で行われてもよい。
(S49)決定された迂回経路Y
iを構成する各経路区間の(予め算出された)通行量に、通行量N
iを加算する。
(S50)迂回経路未決定のODセットは存在するか否かを判定する。ここで真の判定(存在するとの判定)が行われた場合、ステップS46に移行し、この新たなODセットに係る上記と同様の処理を実行する。一方、偽の判定、すなわち、決定された全てのODセットについて迂回経路への影響を決定する処理が行われたとの判断がなされた場合、本実施形態の通行影響推定処理が終了する。
【0096】
このような処理を行うことによって、規制経路Xを通行する多数の携帯端末2(のユーザ)が同区間の交通規制の場合に取り得る複数の迂回経路Y
iを全て勘案することができ、これにより、取り得る迂回経路での通行量の変化をより正確に推定することが可能となるのである。ちなみに、このような通行影響推定結果は、通信インタフェース部101を介して外部の情報処理装置、例えば各携帯端末2等に送信されて利用されることも好ましい。また、この装置1のディスプレイ105に表示されてもよい。
【0097】
図2に戻って、アプリケーション処理部133は、通行量決定部120で決定された対象経路における推定対象期間での通行量の情報を利用して、交通規制時の他経路での通行影響調査以外の用途についての処理を実行する。例えば、キーボード105を介して指定された1つの地域における高速道路区間、一般道区間、及び種々の交通機関の路線区間について、同じくキーボード105を介して指定された過去の一期間における刻々の通行量を、ディスプレイ105に表示された経路地図上に提示して、地域における交通状況を「見える化」してもよい。
【0098】
また、表示された経路地図に、実測された現在の通行量を、過去の対応する期間(例えば前年同月の期間)での通行量と対比しながら表示することも可能である。例えば、実際に交通規制が行われている状況において、各通行経路における通行量の変化を刻々と提示してもよい。さらに、過去の対応する期間(例えば前年同月の期間)での通行量と対比することによって、交通規制を行うべき最適な期間(例えば懸案の道路区間での通行量の増加分が最小となる期間)を決定し、工事計画に資することもできる。さらに、新たな道路の設置を含む都市計画の参考データとして、過去に新設された道路による各通行経路での通行量の変化の情報を提示することも可能となる。
【0099】
以上、詳細に説明したように、本発明による装置、プログラム及び方法によれば、通常、空間的粒度が粗く且つ時間間隔が一定でないが広域において万遍なく分布している通信履歴を利用し、さらに、考慮すべき地域範囲における各経路での通行状況にも関係する「使用割合」に係る情報を用いることによって、対象経路の通行量をより高い精度で推定することが可能となる。
【0100】
また、携帯端末に搭載された例えばGPS測位部等の測位手段、又は対象経路を含む地域に設置された通行体を検出可能な検出手段から取得される測位情報ログ群に基づいて、上記の使用割合に係る情報を決定することも可能である。例えば、GPS測位結果は、通信履歴(基地局)による測位結果と比較して、より少量しか取得することができないが、一方でより高い位置精度を有している。従って、十分に精度の良い「使用割合」に係る情報を決定することができるのである。
【0101】
このように、測位精度と取得ログ数とに関して互いに相違する複数種の測位手段による位置情報ログを用い、それぞれの測位手段の長所を利用することによって、例えば広範な地域範囲内に存在する各通行経路の通行量(交通量)を高い精度で推定(予測)することができるのである。例えば、広範なエリアの道路区間を対象とした高精度の交通規制シミュレーションが可能となり、都市計画や、工事計画等を適切に進めることも可能となる。
【0102】
以上に述べた本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲内での種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。以上に述べた説明はあくまで例示であって、何ら制約を意図するものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物によってのみ制約される。