特許第6803207号(P6803207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803207
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】PRENCSO含有物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20201214BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20201214BHJP
【FI】
   A23L19/00 A
   !A23L33/105
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-223325(P2016-223325)
(22)【出願日】2016年11月16日
(65)【公開番号】特開2017-93430(P2017-93430A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2019年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-224585(P2015-224585)
(32)【優先日】2015年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 守紘
(72)【発明者】
【氏名】鴨井 享宏
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−033022(JP,A)
【文献】 特開平10−057011(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0082282(US,A1)
【文献】 「《低温調理で》新たまねぎのまるごとスープ」、Nadia、[online]、2015年04月30日、[2020年7月27日検索]、URL<https://oceans-nadia.com/user/22084/recipe/127299>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生のタマネギを、pHが9.0以下の条件下、50℃超、90℃以下の温度で加熱し、アリイナーゼ及び催涙因子合成酵素の活性を低減又消失させる工程、アリイナーゼ処理に付す工程を含む、タマネギ加工品の製造方法。
【請求項2】
55℃以上、70℃以下の温度で加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
pHが7.0未満である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
pHが1.5以上、5.0以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
加熱されたタマネギを粉砕する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アリイナーゼ処理に付す工程が、粉砕されたタマネギにアリイナーゼを添加する工程である、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRENCSO含有量の高いタマネギ加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タマネギは古くから世界中で広く食されている野菜の一つであり、人に対して有効な生理作用を示すことに関して多くの報告がある(非特許文献1)。特に、タマネギに含まれるtrans−1−propenyl cysteine sulfoxide(以下、「PRENCSO」と記載する)は健康機能性を有することが確認されており(特許文献1)、機能性素材として期待されている成分である。
【0003】
しかしながら、タマネギの調理や加工に伴って細胞破砕が引き起こされると、タマネギに含まれるPRENCSOはアリイナーゼと接触し、スルフェン酸(1−propenyl sulfenic acid)、ピルビン酸、アンモニアへと直ちに分解される。次いで、生成されたスルフェン酸は催涙因子合成酵素(以下、「LFS」と記載する)の働きによって、辛み成分でもあり催涙因子(以下、「LF」と記載する)でもあるpropanethial−S−oxide)へと異性化される(非特許文献2)。したがって、タマネギよりPRENCSOを取得・摂取することは容易ではない。
【0004】
一方、これまでにPRENCSOを単独で取得する方法が開発・報告されている。
【0005】
非特許文献3には、タマネギよりメタノールやクロロホルムなどの有機溶媒を用いてPRENCSOを抽出する方法が開示されている。しかしながら、当該手法により得られた抽出物は、有機溶媒も含まれ得ることから、飲食品として利用することは適当ではない。
【0006】
非特許文献4には、タマネギを200℃のオーブンや沸騰水中で、又はマイクロ波で加熱することにより、アリイナーゼを失活させ、PRENCSOを取得する方法が開示されている。また、特許文献2には、タマネギを電子レンジで加熱した後、ミキサーで粗砕し遠心分離したものをPRENCSO供給源として利用できることが開示されている。しかしながら、高温での加熱によりPRENCSOはシクロアリインへの変化が促進されることからPRENCSO含量が低減してしまい、PRENCSOを効率的に取得することは難しい。
【0007】
特許文献3には、タマネギよりイオン交換樹脂を用いてPRENCSOを分離する方法が開示されている。しかしながら、当該手法においてはアリイナーゼを失活させるために、有機溶媒を使用すること、またイオン交換樹脂を用いることから製造コストが高いといった問題を有する。
【0008】
したがって、当該分野においてはタマネギよりPRENCSOを簡便かつ効率的に取得することを可能とする新たな手法が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−210918号公報
【特許文献2】特開2012−111742号公報
【特許文献3】特開2014−005296号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Phytother.Res.16,603−615(2002)
【非特許文献2】Nature 419,685(2002)
【非特許文献3】J.Sci.Food.Agric.,34,1229−1235(1983)
【非特許文献4】J.Agric.Food Chem.,55,1280−1288(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、タマネギよりPRENCSOを簡便かつ効率的に取得することを可能とする新たな手法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、生のタマネギをpHが9.0以下の条件下、50℃超、90℃以下の温度で加熱することにより、アリイナーゼ及びLFSの活性を抑制し、PRENCSO含有量の高いタマネギ加工品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1] 生のタマネギを、pHが9.0以下の条件下、50℃超、90℃以下の温度で加熱し、アリイナーゼ及び催涙因子合成酵素の活性を低減又消失させる工程を含む、タマネギ加工品の製造方法。
[2] 55℃以上、70℃以下の温度で加熱する、[1]の方法。
[3] pHが7.0未満である、[1]又は[2]の方法。
[4] pHが1.5以上、5.0以下である、[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] 加熱されたタマネギを粉砕する工程を含む、[1]〜[4]のいずれかの方法。[6] 粉砕されたタマネギにアリイナーゼを添加する工程を含む、[5]の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タマネギよりPRENCSOを簡便かつ効率的に取得することを可能とする手法を提供することができ、アリイナーゼ及びLFSの活性が抑制された、PRENCSO含有量の高いタマネギ加工品を製造することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、pH及び加熱処理温度が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュースにおけるLFS活性の測定結果を示すグラフ図である。
図2図2は、pH及び加熱処理温度が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュースにおけるシクロアリイン及びPRENCSO含量の測定結果を示すグラフ図である。
図3図3は、加熱処理時間が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュースにおけるLFS活性の測定結果を示すグラフ図である。
図4図4は、加熱処理時間が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュースにおけるシクロアリイン及びPRENCSO含量の測定結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)タマネギ
本発明において「タマネギ」とは、PRENCSOを含有する限り、タマネギ植物体や当該植物体の部分であってもよく、「植物体の部分」としては、タマネギの鱗茎(一般に、「バルブ」または「球」と呼ばれる部分)、鞘葉、葉、茎、芽などが挙げられるが、これらに限定はされない。好ましくは「タマネギ」とは、タマネギの鱗茎である。
【0017】
タマネギの種類は特に限定されず、既存の一般的な春播き栽培タマネギ(例えば、北もみじ2000、北もみじ、札幌黄、ポールスター、ツキヒカリ、北見黄、月光22号、オホーツク等)、秋播き栽培タマネギ(例えば、大阪丸、泉南甲高、泉州中甲黄、さつき、もみじ等)、ならびにそれらの変異株を利用することができる。
【0018】
本発明において「タマネギ」は、加熱処理に付されていない、所謂、生のタマネギを利用する。
【0019】
本発明において「タマネギ」は、切断処理や破砕処理等の物理的な処理に付されたものであってもよいが、タマネギの細胞破砕により、タマネギに含まれるPRENCSOはアリイナーゼと接触し直ちに分解されることから、これらの処理は最小限に止めることが好ましい。一方、タマネギのサイズが大きい場合には、小さい場合と比べて熱伝達が悪く、加熱処理の効率性が低下するため、タマネギは物理的な処理に付してサイズを小さくするほうが好ましい場合がある。例えば、タマネギがタマネギの鱗茎であれば、2〜64分の1、2〜32分の1、4〜16分の1、または4〜8分の1より選択される大きさにカットしたものを利用することができる。タマネギは、低温処理に付しアリイナーゼなどの酵素活性を低下させた状態で、物理的な処理に付すことができる。低温処理としては、酵素活性を低下させるものであればよく特に限定はされないが、氷浴や凍結などが挙げられる。
【0020】
(2)加熱工程
本発明においてタマネギの加熱は、タマネギを水溶液中に含め湯浴することにより行うことができる。
【0021】
水溶液のpH値は、9.0以下、8.0以下、8.0未満、7.0以下、7.0未満、6.0以下、6.0未満、又は5.0以下の範囲より選択することができる。水溶液のpH値は、好ましくは7.0未満、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは3.0以下とすることができる。水溶液のpH値を低下させることによって、残存するPRENCSO量を増やし、シクロアリインの生成量を抑えることができる。pHの下限は1.5以上とすることができる。
【0022】
水溶液のpH値は、飲食品の製造において一般的に利用されるpH調整剤を用いて調整することができ、このようなpH調整剤としては、リン酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、アジピン酸等を利用することができる(これらに限定はされない)。なお、水溶液のpH値は、タマネギを水溶液中に含め湯浴する前であって、下記目的の温度にある水溶液にて測定された値を指す。
【0023】
水溶液の温度は、50℃超、90℃以下の範囲より選択することができる。水溶液の温度が50℃以下である場合にはアリイナーゼやLFSなどの酵素の活性を十分に抑制することができない。したがって、温度の下限は例えば、55℃以上、60℃以上、65℃以上、又は70℃以上とすることができる。また、水溶液の温度が90℃を超える場合には、PRENCSOからシクロアリインへの変化が進みやすくなる。したがって、温度の上限は例えば、85℃以下、80℃以下又は75℃以下とすることができる。水溶液の温度は、好ましくは55℃以上、70℃以下の範囲とすることができる。特に好ましくは、70℃である。
【0024】
加熱する時間は、タマネギにおけるアリイナーゼやLFSなどの酵素活性を十分に抑制することができる時間であればよい。このような時間は、用いるタマネギの大きさや形態などの要因により変化し得るものであるが、加熱後のタマネギに残存するアリイナーゼやLFSの酵素活性に基づいて適宜決定することができる。アリイナーゼの活性は、加熱後のタマネギに残存するPRENCSO量を定量することにより測定することができる。PRENCSO量の定量は下記実施例に詳述するようにHPLC法に基づいて行うことができる。残存PRENCSO量の消失が認められない時間や、より長時間(例えば、2〜4時間)加熱処理した場合と比べて残存PRENCSO量の大幅な変動が認められない(すなわち、アリイナーゼの失活により残存PRENCSO量の低下が生じないと判断される)時間を加熱処理の時間として決定することができる。LFSの酵素活性は、加熱後のタマネギを破砕し、これに所定量の精製アリイナーゼ溶液及び所定量の精製PRENCSO溶液を加えて酵素基質反応させ、生成されるLF量を定量することにより測定することができる。LF量の定量は下記実施例に詳述するようにHPLC法に基づいて行うことができる。より長時間(例えば、2〜4時間)加熱処理した場合と比べてLF生成量に大幅な変動が認められない(すなわち、LFSの失活によりLF生成の増大が生じないと判断される)時間を加熱処理の時間として決定することができる。アリイナーゼやLFSの酵素活性の測定は毎回行う必要はなく、一度、加熱処理の時間が決定されれば、決定された時間に基づいて加熱処理を行うことができる。例えば、用いるタマネギが20分の1の大きさにカットされたタマネギの鱗茎であれば、加熱処理を30分以上、好ましくは60分以上とすることができる。60分以上の加熱処理を行うことにより、アリイナーゼやLFSの酵素活性を十分に失活させることができる。
【0025】
なお、加熱する時間は、タマネギが上記所定の温度に達した水溶液中にて湯浴する時間を意味する。
【0026】
(3)タマネギ加工品
「タマネギ加工品」とは、タマネギを特定の方法で処理して得られた調製物を意味し、物理的な処理、加熱処理、酵素処理等の一又は複数の処理に付されて得られたタマネギ調製物が挙げられる。
【0027】
上記加熱処理の工程の後、回収されたタマネギは、アリイナーゼ及びLFSの活性が低減又消失されており、かつPRENCSO含有量の高いタマネギ加工品として利用することができる。
【0028】
当該タマネギ加工品は、下記実施例に詳述されるように、タマネギ及びタマネギと等量の加熱処理に用いられる水溶液を含めた量に基づく場合、およそ0.001〜0.045重量%、好ましくは、0.025〜0.045重量%(湿重量)のPRENCSOを含有する。
【0029】
当該タマネギ加工品はさらに粉砕処理に付し、粉砕物の形態としてもよい。粉砕処理は常法に従って行うことができ、ホモジナイザー、ミキサー等の通常の粉砕装置を用いて行うことができる。
【0030】
また、当該タマネギ加工品は、さらにアリイナーゼ処理に付し、アリイナーゼ処理物の形態としてもよい。本発明者はこれまでに、LFS非存在下にてPRENCSOをアリイナーゼ分解反応に付すことにより、シクロオキシゲナーゼ−1(COX−1)阻害活性を有するZwiebelane isomerと呼ばれる化合物を生産できることを確認している(特開2016−000726号公報)。このような化合物としては、式1:
で表される平面構造を有する化合物や、式2(a):
、又は式2(b):
で表される平面構造を有する化合物が挙げられる。
【0031】
上記加熱処理の工程の後得られたタマネギ加工品は、LFSの活性が低減又消失されており、かつPRENCSO含有量の高いものであることから、アリイナーゼと反応させることにより上記化合物を生産することができる。
【0032】
これら化合物の生産は、上記加熱処理の工程の後、回収されたタマネギを粉砕して調製された粉砕物、好ましくは当該粉砕物から固形物を取り除いた溶液に、アリイナーゼを添加して処理することにより行うことができる。添加されるアリイナーゼの起源は特に限定されず、タマネギ、ニンニク、ネギ、ニラ、ラッキョなどのネギ属の他、アブラナ科のブロッコリーやカリフラワー、マメ科の灌木Albizzia lophantha等に由来するものを使用することができる。
【0033】
アリイナーゼによる処理条件は特に限定されないが、アリイナーゼの特性は由来によって異なるため、反応条件を使用する個々のアリイナーゼの特性に合わせるとPRENCSOの分解を効率化できる。例えば、アリイナーゼがニンニク由来の場合は、至適pHの範囲は広いのでpHは5〜8の範囲でよく、温度は37℃が最適である。一方、タマネギ由来のアリイナーゼを使う場合は、pHを7.5〜8.6にすると酵素活性が最適化され、Welsh onionの葉由来のアリイナーゼを用いる場合は、pHを7.0にすると最適化される(出典:香辛料成分の食品機能 岩井和夫、中谷延二 編集、(株)光生館 P174−175(1989))。なお、アリイナーゼは、ピリドキサールリン酸を補酵素とするため、アリイナーゼと共にピリドキサールリン酸を添加しても、アリイナーゼの活性を最適化するのに役立つ。
【0034】
このようにして得られた、アリイナーゼで分解処理して得られた、上記化合物を含むアリイナーゼ処理物も、本発明におけるタマネギ加工品として利用することができる。
【0035】
本発明におけるタマネギ加工品は、PRENCSO含有の高い植物素材として、またCOX−1阻害活性を有する化合物を含有する植物素材として、医薬品、飲食品などの用途に利用することができ、当該タマネギ加工品は、飲食品や医薬品などの最終的な形態において許容される成分と共に組成物の形態とすることができる。
【実施例】
【0036】
実施例1:加熱タマネギジュースの調製(pHおよび加熱温度の検討)
(1−1.加熱タマネギジュースの調製)
タマネギ球3個を氷浴上で冷却したのち、それぞれ繊維に沿って20等分にカットした。1つのタマネギから1片ずつとり、合計3片のカットタマネギをレトルトパウチに入れた。このパウチを20個用意した。これらパウチに、タマネギ片と等量の10mMクエン酸溶液を加えてpH1.5又はpH9.0とし、あるいは、10mMクエン酸緩衝液を加えてpH3.0、pH5.0、又はpH7.0として、その後シールして密封した。
【0037】
次に、それぞれのパウチを30℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、又は90℃の湯浴に浸し、2時間加熱処理した。
【0038】
加熱処理終了後、パウチを水冷して室温に戻したのちに開封し、小型ミキサーで破砕した。破砕物をろ過し、ろ液を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.0になるように調製した。得られた溶液を遠心チューブに採り、15000rpmで5分間遠心分離して不溶物を沈殿させ、得られた上清を加熱タマネギジュースとした。
【0039】
この加熱タマネギジュースについて以下のLFS活性測定、シクロアリイン含量測定、及びPRENCSO含量測定を行った。
【0040】
(1−2.LFS活性測定)
上記1−1.で得られた、pH及び加熱温度が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュース(10μl)に、ニンニクアリイナーゼ(250U/ml)40μlとPRENCSO溶液(20mg/ml)20μlを加え、室温で3分間それぞれ反応させた。次いで、得られた反応液(2μl)をそれぞれHPLCにアプライし、催涙成分の生成量を定量した。
【0041】
なお、分析にはODSカラム(4.6φ×250mm)[Thermo Fisher Scientific]を用いた。移動相には30%(v/v)の酸性MeOHを、流速は0.6ml/min、カラム温度は35℃、検出は254nmとした。
【0042】
結果を図1に示す。
【0043】
50℃以下の加熱温度では、LFSを完全に失活させることはできなかった。水溶液のpH値が低い場合(pH1.5、pH3)を除き、LFSは依然として十分に高い活性を保持していた。
【0044】
55℃の加熱温度では、水溶液のpH値が高い場合(pH7、pH9)には、LFSは依然として高い活性を保持していたが、pH値が低い場合(pH1.5、pH3、pH5)においては活性の顕著な低下又は失活が認められた。
【0045】
60℃の加熱温度では、水溶液のpH値が高い場合(pH7、pH9)において低い活性が残存するが、いずれのpH条件においても活性の顕著な低下又は失活が認められた。
【0046】
一方、65℃以上の加熱温度では、いずれのpH条件においてもLFS活性の顕著な低下又は失活が認められた。
【0047】
(1−3.シクロアリイン及びPRENCSOの含量測定)
上記1−1.で得られた、pH及び加熱温度が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュースをポアサイズ0.45μmのディスクフィルターでろ過し、得られたろ液について、HPLC−1120 Compact LC(Agilent Technologies社)を用いて下記の条件にて、シクロアリイン及びPRENCSOの含量測定を行った。
【0048】
[HPLC条件]
HPLC:Agilent Technologies 1120 Compact LC、
カラム:SHISEIDO CAPCELL PAK SCX UG80,250mm×4.6mm,5μm、
カラムオーブン:45℃、
移動相:10mMリン酸カリウムバッファー(pH2.5)(100%)、
流速:1.2ml/分、
検出:210nm
【0049】
結果を図2に示す。
【0050】
50℃以下の加熱温度では、アリイナーゼが失活されず、いずれのpH条件においても加熱タマネギジュース中のPRENCSOは全て分解されたことが確認された。
【0051】
一方、55℃以上の加熱温度では、アリイナーゼの失活により、加熱タマネギジュース中にPRENCSOが残存していることが確認できた。
【0052】
また、55℃以上の加熱温度条件下において、加熱タマネギジュースのpH値が高いほど、PRENCSOが分解してシクロアリインへと変化し、PRENCSO含量比の低下が認められる一方で、シクロアリイン含量比の増大が確認された。
【0053】
したがって、PRENCSOを豊富に含む又はPRENCSO含量比の高い加熱タマネギジュースは、酸性下で50℃より高い温度で加熱して調製することにより得られることが明らかとなった。
【0054】
より詳細には、55℃の加熱温度においては、いずれのpH条件においてもPRENCSOの残存が認められたが、特にpH1.5以上、かつpH5.0以下の条件においては、pH7.0以上の条件下と比べて、顕著に高いPRENCSO含量を示した。
【0055】
また、60℃及び65℃の加熱温度においては、いずれのpH条件においてもPRENCSOの残存が認められたが、pH7.0以上の条件下では、PRENCSO含量と比べてシクロアリイン含量が顕著に高いことが確認された。
【0056】
さらに、70℃の加熱温度、pH1.5以上、かつpH9.0以下の条件において、また、90℃の加熱温度、pH1.5以上、かつpH5.0以下の条件において加熱処理することにより、PRENCSOを豊富に含む加熱タマネギジュースが得られた。特に、70℃の加熱温度、pH5.0以下の条件下では、PRENCSO量がシクロアリイン量を上回り、さらに、70℃の加熱温度、pH3.0以下の条件下では、PRENCSO量がシクロアリイン量を大きく上回った。
【0057】
実施例2:加熱タマネギジュースの調製(加熱時間の検討)
(2−1.加熱タマネギジュースの調製)
タマネギ球3個を氷浴上で冷却したのち、それぞれ繊維に沿って20等分にカットした。1つのタマネギから1片ずつとり、合計3片のカットタマネギをレトルトパウチに入れた。このパウチを5個用意した。これらパウチに、タマネギ片と等量の10mMクエン酸緩衝液を加えてpH3.0とし、その後シールして密封した。次に、それぞれのパウチを70℃の湯浴に浸し、5分間、30分間、60分間、120分間、240分間加熱処理した。
【0058】
加熱処理終了後、パウチを水冷して室温に戻したのちに開封し、小型ミキサーで破砕した。破砕物をろ過し、ろ液を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.0になるように調製した。得られた溶液を遠心チューブに採り、15000rpmで5分間遠心分離して不溶物を沈殿させ、得られた上清を加熱タマネギジュースとした。
【0059】
この加熱タマネギジュースについて以下のLFS活性測定、シクロアリイン含量測定、及びPRENCSO含量測定を行った。
【0060】
(2−2.LFS活性測定)
上記2−1.で得られた、加熱処理時間が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュース(10μl)について、上記1−2.と同様の方法でLFS活性を測定した。
【0061】
結果を図3に示す。
【0062】
加熱処理時間が長くなるにつれ、LFS活性は著しく失活することが確認できた。2時間加熱処理した場合には、5分間加熱処理した場合の10000倍以上LFS活性が低下し、催涙成分はほとんど生成しないことが確認された。
【0063】
(2−3.シクロアリイン及びPRENCSOの含量測定)
上記2−1.で得られた、加熱処理時間が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュースについて、上記1−3.と同様の方法でシクロアリイン及びPRENCSOの含量測定を行った。
【0064】
結果を図4に示す。
【0065】
5分間の加熱処理時間では、アリイナーゼが失活されず、加熱タマネギジュース中のPRENCSOは全て分解されたことが確認された。
【0066】
一方、30分間以上の加熱処理時間では、アリイナーゼの失活により、加熱タマネギジュース中にPRENCSOが残存していることが確認できた。
【0067】
図3に示すように、LFSを完全に失活させるためには60分以上の加熱が望ましい。しかし、加熱するタマネギの大きさによって、最適な加熱時間は異なるため、タマネギ片が小さければ、より短時間の加熱で、PRENCSO含量の多い加熱タマネギジュースを得ることができる。
図1
図2
図3
図4