【実施例】
【0036】
実施例1:加熱タマネギジュースの調製(pHおよび加熱温度の検討)
(1−1.加熱タマネギジュースの調製)
タマネギ球3個を氷浴上で冷却したのち、それぞれ繊維に沿って20等分にカットした。1つのタマネギから1片ずつとり、合計3片のカットタマネギをレトルトパウチに入れた。このパウチを20個用意した。これらパウチに、タマネギ片と等量の10mMクエン酸溶液を加えてpH1.5又はpH9.0とし、あるいは、10mMクエン酸緩衝液を加えてpH3.0、pH5.0、又はpH7.0として、その後シールして密封した。
【0037】
次に、それぞれのパウチを30℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、又は90℃の湯浴に浸し、2時間加熱処理した。
【0038】
加熱処理終了後、パウチを水冷して室温に戻したのちに開封し、小型ミキサーで破砕した。破砕物をろ過し、ろ液を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.0になるように調製した。得られた溶液を遠心チューブに採り、15000rpmで5分間遠心分離して不溶物を沈殿させ、得られた上清を加熱タマネギジュースとした。
【0039】
この加熱タマネギジュースについて以下のLFS活性測定、シクロアリイン含量測定、及びPRENCSO含量測定を行った。
【0040】
(1−2.LFS活性測定)
上記1−1.で得られた、pH及び加熱温度が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュース(10μl)に、ニンニクアリイナーゼ(250U/ml)40μlとPRENCSO溶液(20mg/ml)20μlを加え、室温で3分間それぞれ反応させた。次いで、得られた反応液(2μl)をそれぞれHPLCにアプライし、催涙成分の生成量を定量した。
【0041】
なお、分析にはODSカラム(4.6φ×250mm)[Thermo Fisher Scientific]を用いた。移動相には30%(v/v)の酸性MeOHを、流速は0.6ml/min、カラム温度は35℃、検出は254nmとした。
【0042】
結果を
図1に示す。
【0043】
50℃以下の加熱温度では、LFSを完全に失活させることはできなかった。水溶液のpH値が低い場合(pH1.5、pH3)を除き、LFSは依然として十分に高い活性を保持していた。
【0044】
55℃の加熱温度では、水溶液のpH値が高い場合(pH7、pH9)には、LFSは依然として高い活性を保持していたが、pH値が低い場合(pH1.5、pH3、pH5)においては活性の顕著な低下又は失活が認められた。
【0045】
60℃の加熱温度では、水溶液のpH値が高い場合(pH7、pH9)において低い活性が残存するが、いずれのpH条件においても活性の顕著な低下又は失活が認められた。
【0046】
一方、65℃以上の加熱温度では、いずれのpH条件においてもLFS活性の顕著な低下又は失活が認められた。
【0047】
(1−3.シクロアリイン及びPRENCSOの含量測定)
上記1−1.で得られた、pH及び加熱温度が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュースをポアサイズ0.45μmのディスクフィルターでろ過し、得られたろ液について、HPLC−1120 Compact LC(Agilent Technologies社)を用いて下記の条件にて、シクロアリイン及びPRENCSOの含量測定を行った。
【0048】
[HPLC条件]
HPLC:Agilent Technologies 1120 Compact LC、
カラム:SHISEIDO CAPCELL PAK SCX UG80,250mm×4.6mm,5μm、
カラムオーブン:45℃、
移動相:10mMリン酸カリウムバッファー(pH2.5)(100%)、
流速:1.2ml/分、
検出:210nm
【0049】
結果を
図2に示す。
【0050】
50℃以下の加熱温度では、アリイナーゼが失活されず、いずれのpH条件においても加熱タマネギジュース中のPRENCSOは全て分解されたことが確認された。
【0051】
一方、55℃以上の加熱温度では、アリイナーゼの失活により、加熱タマネギジュース中にPRENCSOが残存していることが確認できた。
【0052】
また、55℃以上の加熱温度条件下において、加熱タマネギジュースのpH値が高いほど、PRENCSOが分解してシクロアリインへと変化し、PRENCSO含量比の低下が認められる一方で、シクロアリイン含量比の増大が確認された。
【0053】
したがって、PRENCSOを豊富に含む又はPRENCSO含量比の高い加熱タマネギジュースは、酸性下で50℃より高い温度で加熱して調製することにより得られることが明らかとなった。
【0054】
より詳細には、55℃の加熱温度においては、いずれのpH条件においてもPRENCSOの残存が認められたが、特にpH1.5以上、かつpH5.0以下の条件においては、pH7.0以上の条件下と比べて、顕著に高いPRENCSO含量を示した。
【0055】
また、60℃及び65℃の加熱温度においては、いずれのpH条件においてもPRENCSOの残存が認められたが、pH7.0以上の条件下では、PRENCSO含量と比べてシクロアリイン含量が顕著に高いことが確認された。
【0056】
さらに、70℃の加熱温度、pH1.5以上、かつpH9.0以下の条件において、また、90℃の加熱温度、pH1.5以上、かつpH5.0以下の条件において加熱処理することにより、PRENCSOを豊富に含む加熱タマネギジュースが得られた。特に、70℃の加熱温度、pH5.0以下の条件下では、PRENCSO量がシクロアリイン量を上回り、さらに、70℃の加熱温度、pH3.0以下の条件下では、PRENCSO量がシクロアリイン量を大きく上回った。
【0057】
実施例2:加熱タマネギジュースの調製(加熱時間の検討)
(2−1.加熱タマネギジュースの調製)
タマネギ球3個を氷浴上で冷却したのち、それぞれ繊維に沿って20等分にカットした。1つのタマネギから1片ずつとり、合計3片のカットタマネギをレトルトパウチに入れた。このパウチを5個用意した。これらパウチに、タマネギ片と等量の10mMクエン酸緩衝液を加えてpH3.0とし、その後シールして密封した。次に、それぞれのパウチを70℃の湯浴に浸し、5分間、30分間、60分間、120分間、240分間加熱処理した。
【0058】
加熱処理終了後、パウチを水冷して室温に戻したのちに開封し、小型ミキサーで破砕した。破砕物をろ過し、ろ液を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.0になるように調製した。得られた溶液を遠心チューブに採り、15000rpmで5分間遠心分離して不溶物を沈殿させ、得られた上清を加熱タマネギジュースとした。
【0059】
この加熱タマネギジュースについて以下のLFS活性測定、シクロアリイン含量測定、及びPRENCSO含量測定を行った。
【0060】
(2−2.LFS活性測定)
上記2−1.で得られた、加熱処理時間が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュース(10μl)について、上記1−2.と同様の方法でLFS活性を測定した。
【0061】
結果を
図3に示す。
【0062】
加熱処理時間が長くなるにつれ、LFS活性は著しく失活することが確認できた。2時間加熱処理した場合には、5分間加熱処理した場合の10000倍以上LFS活性が低下し、催涙成分はほとんど生成しないことが確認された。
【0063】
(2−3.シクロアリイン及びPRENCSOの含量測定)
上記2−1.で得られた、加熱処理時間が異なる条件下で調製された各加熱タマネギジュースについて、上記1−3.と同様の方法でシクロアリイン及びPRENCSOの含量測定を行った。
【0064】
結果を
図4に示す。
【0065】
5分間の加熱処理時間では、アリイナーゼが失活されず、加熱タマネギジュース中のPRENCSOは全て分解されたことが確認された。
【0066】
一方、30分間以上の加熱処理時間では、アリイナーゼの失活により、加熱タマネギジュース中にPRENCSOが残存していることが確認できた。
【0067】
図3に示すように、LFSを完全に失活させるためには60分以上の加熱が望ましい。しかし、加熱するタマネギの大きさによって、最適な加熱時間は異なるため、タマネギ片が小さければ、より短時間の加熱で、PRENCSO含量の多い加熱タマネギジュースを得ることができる。