(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基材と重合性組成物(A)との界面が、分子内に酸性基を少なくとも1つ有する接着性単量体(c)を含む接着性組成物(B)で接着された、請求項1に記載の歯科用補綴物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯科用補綴物について説明する。歯科用補綴物とは、一般的に、歯冠修復物、歯列矯正用製品、インプラント用製品と呼ばれるものである。
図1に、第1実施形態に係る本発明に係る歯科用補綴物の概略断面図を示す。歯科用補綴物10は、基材1と、基材1の少なくとも一部を被覆する樹脂層2と、を備える。基材1は、例えば、フレームと呼ばれるものである。
図1に示す基材1は、患者の支台歯を被覆する被覆冠としての形態を有する。樹脂層2は、基材1の表面のうち、口腔内への露出面の少なくとも一部を被覆すると好ましい。樹脂層2は、当該露出面とは反対側の面、例えば支台歯側の面、の少なくとも一部に配することもできる。
図2に、第2実施形態に係る歯科用補綴物の概略断面図を示す。
図2に示す第2実施形態においては、歯科用補綴物10は、基材1の両面に樹脂層2を有している。樹脂層2と基材1とは、物理的に接着していることが好ましい。
【0013】
以下に、基材1について説明する。基材1はジルコニア(ZrO
2;酸化ジルコニウム)を含む。基材1は、ジルコニアを主成分として含む。ジルコニアを焼結した後、基材1はジルコニア焼結体を含む。
【0014】
ジルコニア焼結体は、主として、ジルコニア結晶粒子が焼結されたものである。そのため、本明細書では、焼結前のジルコニアについて説明するが、当該説明は、別途記載する場合を除いて、問題がない場合、「ジルコニア」を「ジルコニア焼結体」と読み替えても差し支えない。また、その逆も同様である。例えば、ジルコニア焼結体は、ジルコニア及びその安定化剤を含有することができる。すなわち、焼結前の基材1は、ジルコニア及びその安定化剤を含有することができる。
【0015】
安定化剤としては、例えば、酸化イットリウム(Y
2O
3)(以下、「イットリア」という。)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(マグネシア;MgO)、酸化セリウム(セリア;CeO
2)、酸化ランタン(La
2O
3)等の酸化物が挙げられる。特に、安定化剤としてイットリアが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
安定化剤がイットリアを含有する場合、イットリアの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、3モル%〜6モル%であると好ましく、4モル%〜6モル%であるとより好ましい。この含有率によれば、単斜晶への相転移を抑制すると共に、ジルコニア焼結体の透明性を高めることができる。イットリアを安定化剤として使用することで、イットリア安定化ジルコニア(YSZ:Yttria?Stabilized Zirconia))が得られる。
【0017】
ジルコニアが酸化カルシウムを含有する場合、酸化カルシウムの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、1モル%以下であると好ましく、0.3モル%以下であるとより好ましい。
【0018】
ジルコニアが酸化マグネシウムを含有する場合、酸化マグネシウムの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、1モル%以下であると好ましく、0.3モル%以下であるとより好ましい。
【0019】
ジルコニアが酸化セリウムを含有する場合、酸化セリウムの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、1モル%以下であると好ましく、0.3モル%以下であるとより好ましい。
【0020】
ジルコニア中における安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。
【0021】
ジルコニア焼結体には、成形したジルコニア粒子を常圧下ないし非加圧下において焼結させた焼結体のみならず、HIP(Hot Isostatic Pressing;熱間静水等方圧プレス)処理等の高温加圧処理によって緻密化させた焼結体も含まれる。
【0022】
ジルコニア焼結体は、好ましくは、部分安定化ジルコニア及び完全安定化ジルコニアの少なくとも一方をマトリックス相として有する。ジルコニア焼結体において、ジルコニアの主たる結晶相は正方晶及び立方晶の少なくとも一方である。ジルコニアは、正方晶及び立方晶の両方を含有してもよい。ジルコニア焼結体は単斜晶を実質的に含有しないと好ましい。なお、安定化剤を添加して部分的に安定化させたジルコニアは、部分安定化ジルコニア(PSZ;Partially Stabilized Zirconia)と呼ばれ、完全に安定化させたジルコニアは完全安定化ジルコニアと呼ばれる。
【0023】
基材1の形状及び大きさ(寸法)は、用途、患者の口腔環境等に応じて適宜選択することができる。
【0025】
本発明の歯科用補綴物は、前記基材の上に、重合性単量体(a)と重合開始剤(b)を含む重合性組成物(A)の重合硬化物である樹脂層を含む。前記基材の一部又は全部が前記樹脂層に被覆されている。当該樹脂層は、前記基材の上に前記重合性組成物(A)を塗布し、重合硬化させることによって得られる。
【0026】
前記重合性単量体(a)としては、歯科用組成物に使用される公知の重合性単量体が何ら制限無く用いられる。かかる重合性単量体(a)の具体例としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。特に、(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミドが好適に用いられる。前記(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド系の重合性単量体としては、単官能(メタ)アクリレート、単官能(メタ)アクリルアミド等の単官能性単量体、二官能(メタ)アクリレート、三官能以上の(メタ)アクリレート等の多官能性単量体が挙げられる。好適な重合性単量体の例を以下に示す。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリル及びアクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイル及びアクリロイルを意味する。
【0027】
(a−1)単官能(メタ)アクリレート単量体及び単官能(メタ)アクリルアミド単量体
イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0028】
(a−2)二官能(メタ)アクリレート単量体
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルアクリレート(2,2−ビス[4−〔3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(2,2−ビス[4−〔3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、通称Bis−GMA)、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
(a−3)三官能以上の(メタ)アクリレート単量体
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、2,2,6,6−テトラキス(アクリロイルオキシメチル)−4−オキサヘプタン−1,7−ジオール1−(メタ)アクリラート等が挙げられる。特に、取り扱い性及び安全性の観点から、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
前記重合性単量体(a)においては、三官能以上の(メタ)アクリレート単量体(a−3)が好ましい。
【0031】
前記重合性単量体(a)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。例えば、多官能(メタ)アクリレート単量体は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。多官能(メタ)アクリレート単量体の含有量は、多官能(メタ)アクリレート単量体と単官能(メタ)アクリレート単量体との合計量100重量部に対して、10〜80重量部の範囲にあることが好ましく、30〜75重量部がより好ましく、50〜70重量部が更に好ましい。多官能(メタ)アクリレート単量体の含有量が前記合計量100重量部に対して10重量部未満の場合、重合時の表面乾燥性が低下し、硬化後の耐着色性又は滑沢耐久性が低下することがある。多官能(メタ)アクリレート単量体の含有量が前記合計量100重量部に対して80重量部を超えた場合は、塗布時操作性が悪くなり、被着体表面に塗布しにくくなることがある。
【0032】
重合開始剤(b)としては、一般的に使用可能な重合開始剤から選択して使用でき、特に歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。なかでも、光重合開始剤(b−1)又は化学重合開始剤(b−2)を、1種単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用できる。
【0033】
光重合開始剤(b−1)としては、α−ジケトン類、ケタール類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキサイド類、α−アミノアセトフェノン類が挙げられる。
【0034】
α−ジケトン類としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオンが挙げられる。
【0035】
ケタール類としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが挙げられる。
【0036】
チオキサントン類としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンが挙げられる。
【0037】
アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(ベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、トリス(2,4−ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、トリス(2−メトキシベンゾイル)ホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、特公平3−57916号公報に開示の水溶性のアシルホスフィンオキサイド化合物が挙げられる。
【0038】
α−アミノアセトフェノン類としては、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1が挙げられる。
【0039】
光重合開始剤(b−1)は、1種単独を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。光重合開始剤(b−1)の配合量は、重合性組成物(A)中の重合性単量体(a)の全量100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.05〜7重量部がより好ましく、0.1〜5重量部が最も好ましい。
【0040】
光重合開始剤(b−1)はそれのみを単独で使用してもよく、光硬化性を促進させるために、第3級アミン類、アルデヒド類、チオール基を有する化合物等の重合促進剤と併用してもよい。
【0041】
第3級アミン類としては、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N,N−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕−N−メチルアミン、N−メチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、N−エチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミンモノ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミントリ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン等の脂肪族第3級アミン;4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸ブチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸ブトキシエチル、N−メチルジエタノールアミン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン等の芳香族第3級アミンが挙げられる。
【0042】
アルデヒド類としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドが挙げられる。
【0043】
チオール基を有する化合物としては、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸が挙げられる。
【0044】
重合促進剤は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。重合促進剤の配合量は、重合性組成物(A)中の重合性単量体(a)の全量100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.05〜7重量部がより好ましく、0.1〜5重量部が最も好ましい。
【0045】
化学重合開始剤(b−2)としては、酸化剤と還元剤からなるレドックス系の重合開始剤が好ましい。レドックス系の重合開始剤を使用する場合は、重合性組成物(A)の包装形態を酸化剤と還元剤とが離間されるように2分割以上にする必要がある。
【0046】
レドックス系の重合開始剤の酸化剤としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類等の有機過酸化物が挙げられる。
【0047】
ジアシルパーオキサイド類の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシエステル類の具体例としては、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシケタール類の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。ケトンパーオキサイド類の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイドが挙げられる。ハイドロパーオキサイド類の具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−ジイソプロピルベンゼンパーオキサイドが挙げられる。
【0048】
レドックス系の重合開始剤の還元剤としては、芳香族第3級アミン、脂肪族第3級アミン並びにスルフィン酸及びその塩が好ましい。
【0049】
芳香族第3級アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジブチルアニリン、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸n−ブトキシエチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0050】
脂肪族第3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレートが挙げられる。
【0051】
スルフィン酸及びその塩としては、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸カルシウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムが挙げられる。
【0052】
酸化剤及び還元剤は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。酸化剤及び還元剤の配合量は、重合性組成物(A)中の重合性単量体(a)の全量100重量部に対して、いずれも、0.01〜10重量部が好ましく、0.05〜7重量部がより好ましく、0.1〜5重量部が最も好ましい。
【0053】
本発明の歯科用補綴物において、重合性単量体(a)として基材と重合性組成物(A)との界面をより強固に接着するため、分子内に酸性基を少なくとも1つ有する接着性単量体(c)(以下、酸性基を有する接着性単量体(c)ともいう。)を含む接着性組成物(B)(プライマー組成物(B)ともいう。)で前記基材と重合性組成物(A)との界面が接着されることが好ましい。酸性基を有する接着性単量体(c)とは、リン酸残基、ホスホン酸基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基、カルボン酸残基又はスルホン酸残基等の酸性基を有する重合性単量体であり、具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0054】
リン酸基含有重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−ブロモエチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート等、及びこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0055】
ホスホン酸基含有重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホノアセテート、及びこれらの酸塩化物等が挙げられる。
【0056】
ピロリン酸基含有重合性単量体としては、例えば、ピロリン酸ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕等、及びこれらの酸塩化物が挙げられる。チオリン酸残基を有する重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等、及びこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0057】
カルボン酸基含有重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、コハク酸モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)、イソフタル酸モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、4−ビニル安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物、5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等及びこれらの酸塩化物が挙げられる。スルホン酸基含有重合性単量体としては、p−スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0058】
これらの化合物の中でも、界面の接着力に優れる点でリン酸基含有重合性単量体又はホスホン酸基含有重合性単量体が好ましく、なかでも、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネートが好ましい。これらの酸性基を有する接着性単量体(c)は1種又は2種以上を併用してもよい。
【0059】
接着性組成物(B)における酸性基を有する接着性単量体(c)の含有量は、特に限定されないが、接着性組成物(B)の全重量(100重量%)に対して0.1〜10重量%が好ましく、1〜5重量%がより好ましく、1〜3重量%が最も好ましい。
【0060】
本発明の重合性組成物(A)は、機械的強度と耐摩耗性を上げるために、また、塗布時の塗布性、流動性等を調整するために、フィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、無機フィラー、有機フィラー又は無機/有機複合フィラーを用いることができる。
【0061】
無機フィラーとしては、シリカ、カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al
2O
3、B
2O
3、TiO
2、ZrO
2、BaO、La
2O
3、SrO
2、CaO、P
2O
5等を含有するセラミック或いはガラスが好ましい。かかるガラスの具体例としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、バイオガラスが挙げられる。さらに、無機フィラーとして、結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウムも好ましい。
【0062】
有機フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートとポリエチルメタクリレートの共重合体、多官能メタクリレートの重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴムが挙げられる。
【0063】
無機/有機複合フィラーとしては、有機フィラーに無機フィラーを分散させたもの、無機フィラーの表面を種々の重合性単量体(a)にてコーティングしたものが挙げられる。
【0064】
重合性組成物(A)の流動性を調整したり、その塗布性を向上させたりするために、フィラーをシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理した上で重合性組成物(A)に配合するようにしてもよい。この場合に用いる表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0065】
フィラーは、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。フィラーの配合量は、重合性組成物(A)の全重量(100重量%)に対して50重量%以下であるが、30重量%以下が好ましい。フィラーの配合量が50重量%を越えると塗布性や流動性が低下する場合がある。
【0066】
本発明で用いられる重合性組成物(A)には、必要に応じ、着色材、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光顔料等を本発明の効果を損なわない程度で適宜添加してもよい。
【0067】
歯科用補綴物10は、異なる組成を有する2種以上の樹脂層2を有することができる。2種以上の樹脂層2は、基材1上にて積層させることができる。なお、樹脂層2に着色剤が含まれていてもよいが、以下の樹脂層2の透明度に関する説明においては、樹脂層2に着色剤等が添加されていない形態について説明する。
【0068】
基材1の表面を樹脂層で被覆することで、基材単独の場合よりも透光性が向上する。樹脂層の厚みが薄すぎると透光性の向上効果が十分発現せず、一方で樹脂層の厚さが厚すぎると透光性が低下する傾向が出てくる。そこで、基材1上における樹脂層2の厚さ(異なる組成を有する2種以上の樹脂層を有する場合は合計厚さ)は、1〜500μmであり、7〜100μmであると好ましく、7〜80μmであるとより好ましく、7〜50μmであるとさらに好ましい。樹脂層2の厚さは、最も厚い部分の厚さであると好ましい。
【0069】
以下に、歯科用補綴物の透明度(透明感)について説明する。基材及び歯科用補綴物の透明度(透明感)は、L*a*b*表色系(JIS Z 8781−4:2013)における色度(色空間)のL*値を用いて表すことができる。色度の測定方法は、後述する
図3に示される。試料の背景(下敷き)を白色にして(試料に対して測定装置と反対側を白色にして)測定したL*a*b*表色系のL*値を第1のL*値とする。第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景(下敷き)を黒色にして(試料に対して測定装置と反対側を黒色にして)L*a*b*表色系のL*値を第2のL*値とする。本開示においては、第1のL*値と第2のL*値との差(第1のL*値から第2のL*値を控除した値)を△Lと表記する。色度測定の際に背景(下敷き)とする黒色及び白色は、塗料に関する測定に使用する隠ぺい率測定紙(JIS K 5600:1999)を使用することができる。
【0070】
本発明の歯科用補綴物においては、樹脂層2側から見た該歯科用補綴物の透明度は、基材1単体の透明度よりも高い。また、樹脂層2側から見た歯科用補綴物の光沢は、基材1単体の光沢よりも高いと好ましい。歯科用補綴物20の透明度は、上述の△Lで表記することができる。△Lが大きければ歯科用補綴物20の透明度が高いことを示し、△Lが小さければ歯科用補綴物20の透明度が低いことを示す。基材1が、6モル%のイットリアを含有する厚さ1.2mmのジルコニアであり、樹脂層2の厚さが30μmであるとき、基材単体の△L(「△L
1」と表記する)に対する歯科用補綴物の△L(「△L
2」と表記する)の変動率は、2.5%以上であると好ましく、3.0%以上であるとより好ましく、4.0%以上であるとより好ましく、9.0%以上であるとさらに好ましい。また、△L
2は、樹脂層2が基材1の測定装置21側の面に形成されているときの値である。
【0071】
図3に、色度(色空間)の測定方法を説明するための概略図を示す。歯科用補綴物20の色度を測定する際には、樹脂層2側の面を測定装置21に向ける。白色又は黒色の下敷き22は、基材1の下に配置する。△L
2と△L
1を比較することにより、基材1に樹脂層2を設けることによって透明度の変動率を知ることができる。上述の△L
1対する△L
2の変動率は以下の式から算出することができる。
[△Lの変動率]=(△L
2−△L
1)/△L
1×100(%)
【0072】
図3は、歯科用補綴物10の色度の測定方法を図示するが、基材1単体及び樹脂層2単体の色度の測定方法も同様である。
【0073】
次に、歯科用補綴物10の製造方法について説明する。
【0074】
まず、所定の形状及び寸法を有する基材を作製する。例えば、公知の方法を用いて上述のジルコニアを含む基材で患者の歯科用補綴物を作製する。次に、重合性組成物(A)を基材に塗布する。重合性組成物(A)を塗布する範囲には、必要に応じてあらかじめ接着性組成物(B)を基材に塗布する。塗布は、例えば、筆を用いて行うことができる。重合性組成物(A)を塗布する基材の領域は、患者の口腔環境に応じて適宜選択することができる。重合性組成物(A)を塗布する領域は、口腔内に露出する領域であると好ましい。重合性組成物(A)を塗布する領域は、支台歯に面する領域であってもよい。次に、重合性組成物(A)を塗布した基材を重合する。重合条件は、例えば、500nmの波長域の光を発する照射器を用いて90秒間とすることができる。複数の重合性組成物(A)の重合硬化物である樹脂層を形成する場合には、同じ工程を繰り返すことができる。さらに必要に応じて形態修正し、研磨を施すことによって、本発明の歯科用補綴物を得ることができる。
【0075】
またさらに、基材と重合性組成物(A)との界面が、酸性基を有する接着性単量体(c)を含む接着性組成物(B)で接着される方法も好ましく用いられる。塗布性のしやすさや接着性の面から、酸性基を有する接着性単量体(c)と揮発性有機溶剤(d)を含むプライマー組成物(B)をあらかじめ基材に塗布した後に、重合性組成物(A)を塗布する方法も好ましく用いられる。前記プライマー組成物(B)に含まれる揮発性有機溶剤(d)の例としては、常圧での沸点が150℃以下のものが好ましく、100℃以下のものがより好ましい。常圧での沸点が150℃を超える揮発性溶剤を用いた場合には、表面滑沢性組成物の表面硬化性が低下する場合がある。揮発性有機溶剤としては、エタノール、メタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。なかでも、重合性単量体と同時に硬化させることができる点で、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、さらに毒性が低く、沸点が低い点で、メチルメタクリレートが特に好ましい。
【0076】
揮発性有機溶剤(d)は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。揮発性溶剤の配合量は、塗布性や操作性の点で、プライマー組成物(B)の全重量(100重量%)に対して90〜99.9重量%が好ましく、95〜99重量%がより好ましく、97〜99重量%が最も好ましい。
【0077】
本発明の歯科用補綴物は、基材単体の場合よりも透明度を高めることができる。また、本発明の歯科用補綴物は、基材単体よりも高い光沢性を有することができる。これにより、本発明の歯科用補綴物は、基材単体よりも、より天然歯に近い外観を有することができる。
【0078】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0079】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、実施例中の透光性及び厚みは、以下の方法により測定した。
【0080】
基材であるジルコニアセラミック材料の組成、及び歯科用補綴物の透明度及び光沢について以下に説明する。
【0081】
[参考例1]
本発明の歯科用補綴物に相当する試料を作製して、△Lの変動率を測定した。まず、安定化剤としてイットリアを6モル%含有するジルコニア粉末を直径約18mmの円柱状金型に、焼結後の基材の厚みが1.2mmとなるようにジルコニア粉末を入れた。次に、ジルコニア粉末を30kNで成形した後、170MPaでCIP(Cold Isostatic PRESSING;冷間静水等方圧プレス)処理を1分間施して成形物を作製した。
【0082】
次に、SKメディカル社製焼成炉F1を使用して当該成形物を1550℃で2時間焼成して、ジルコニアから構成される基材を作製した。次に、50μmのアルミナ粒子を用いて0.2MPaの圧力で基材の一方の面をサンドブラスト処理して、基材上に重合性組成物(A)を被覆するための前準備を行った。このサンドブラスト処理によって、処理面はつや消し状態となった。次に、アセトン中で基材を超音波洗浄した後、乾燥させた。
【0083】
得られた基材について色度を測定した。色度測定機(Konica Minolta社製 SPECTROPHOTOMETER CM-3610A)及び解析ソフト(Konica Minolta社製 SpectraMagic NX)を用いて、上述の第1のL*値(白色背景)、及び第2のL*値(黒色背景)を測定し、第1のL*値と第2のL*値の差である△L
1を算出した。黒色及び白色の背景(下敷き)には、塗料に関する測定に使用する隠ぺい率測定紙(JIS K 5600:1999)を使用した。測定結果を下記の表1に示す。
【0084】
[参考例2]
基材表面を機械的に研磨し、表面を滑沢にすることにより得られる透光性向上効果との区別を行うため、基材は参考例1と同じ厚さ1.2mmとし、参考例1のつや消し状態の基材を、さらに最終仕上げとして基材の両面を2000番のサンドペーパーで研磨処理し、上述の方法にて第1のL*値(白色背景)、及び第2のL*値(黒色背景)を測定し、第1のL*値と第2のL*値の差である△L
2を算出し、△L
1に対する△L
2での変動率を上述の式に基づき算出した。測定結果を下記表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
[実施例1〜6]
接着性プライマー組成物(B)として以下の組成物を作製した。即ち、酸性基を含む重合性単量体(c)として、10−メタクリロキシデシルジハイドロジェンホスフェート(通称、MDP)を0.3重量部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシラン(通称、3−MPS)を1重量部、エタノールを100重量部を均一に混合溶解した。
【0087】
また、重合性組成物(A)として、以下の組成物を作製した。即ち、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを50重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート20重量部、メチルメタクリレート(通称、MMA)30重量部、光重合開始剤(b−1)として、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(通称、Lucirin−TPO)1.5重量部をそれぞれ均一に混合溶解した。
【0088】
次に、参考例1と同様の方法により作製した基材上の一方のサンドブラスト処理面に、上記の接着性プライマー組成物(B)を塗布し、エタノールを乾燥させた後に、同じく上記の重合性組成物(A)を筆で均一に塗布した。歯科用光重合照射器(αライトIII;モリタ製作所)を用いて、90秒間光重合することにより硬化させ、歯科用補綴物に相当する試料を作製した。基材を除く重合後の厚さは、筆を使用した塗布が可能な7〜100μmとなるように塗布し、歯科用補綴物に相当する試料を作製した。試料における接着性プライマー組成物(B)を含む重合性組成物の重合硬化物の厚さを下記の表2に示す。
【0089】
各試料について、基材の△L
1と同様の測定方法で△L
2を測定した。測定結果を表2に示す。変動率は、上述の計算式に基づいて算出したものを示す。実施例1〜6及び比較例1〜2の変動率に対する樹脂の厚さのばらつきによる影響はないものとする。また、目視により、歯科用補綴物の重合性組成物の重合硬化物側から見た光沢についても確認した。光沢については、歯科技工有資格者による目視評価により、基材1のみからなる歯科用補綴物よりも高い光沢を有しているものを「良好」と判定した。
【0090】
【表2】
【0091】
実施例1〜6において、変動率の上昇が見られた。この数値は、ジルコニア焼結体の値は勿論、ジルコニア焼結体の表面を研磨処理した際の変動率を上回る。したがって、実施例1〜6の樹脂層は、天然歯の光のふるまいを模した歯科用補綴物として好適に適用可能であることがわかる。
【0092】
[実施例7及び8]
歯科用補綴物における基材中の安定化剤の含有率による△Lの変動率への影響について試験した。安定化剤の含有率の異なる歯科用補綴物の試料を作製し、各試料の色度を測定して変動率を算出した。安定化剤の含有率以外の歯科用補綴物の作製方法及び色度の測定方法は上記実施例と同じである。基材の安定化剤として、イットリアを使用した。樹脂層の厚さは30μmとした。表3に、測定結果を示す。
【0093】
【表3】
【0094】
いずれの含有率においても変動率の改善が見られた。
【0095】
[比較例1及び2]
基材としてアルミナ(特許文献4にあるビタ社製 商品名:インセラム)を使用したこと以外は実施例2及び3と同様にして試料を作製した。得られた透光性の変動率及び光沢について評価した結果を下記の表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
[実施例9]
実施例1〜6においては基材の片面に樹脂層を有する歯科用補綴物を作製したが、実施例9においては基材の両面に樹脂層を有する歯科用補綴物を作製して、△Lの変動率への影響について試験した。樹脂層の厚さは片面につき15μmとした。基材中のイットリア含有率は6モル%とした。それ以外は、実施例1〜6と同様である。表5に、測定結果を示す。
【0098】
樹脂層を基材の両面に形成しても変動率の改善が見られた。特に、イットリア含有率が同じで、樹脂層を片面に形成した実施例2の変動率よりも実施例9においては変動率が高くなった。これより、樹脂層を基材の両面に形成しても変動率の改善が見込まれるものと考えられる。
【0099】
【表5】