【文献】
MOODY, G.E. et al., Generation of a fully human Gas6 neutralizing antibody with anti-tumor activity in vivo., Cancer Res., 2013.04.15, Vol.73, Suppl.8, Abstract No.5158
【文献】
FISHER, P.W. et al., A novel site contributing to growth-arrest-specific gene 6 binding to itsreceptors as revealed by a human monoclonal antibody., Biochem. J., 2005.05.01, Vol.387 No.3, pages 727-735
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒトGas6のアミノ酸配列の314、315及び316番目のアミノ酸残基のうち、少なくとも一つのアミノ酸残基に結合するモノクローナル抗体または該抗体断片であって、モノクローナル抗体が、下記(a)又は(b)の抗体である、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(a)抗体の重鎖(以下、H鎖と略記する)可変領域(以下、VHと略記する)の相補性決定領域(complementarity determining region; CDR、以下CDRと略記する)1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号79、80及び81に記載されるアミノ酸配列であって、かつ軽鎖(以下、L鎖と略記する)可変領域(以下、VLと略記する)のCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号82、83及び84に記載されるアミノ酸配列である抗体。
(b)抗体のVHのCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号85、86及び87に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号88、89及び90に記載されるアミノ酸配列である抗体。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ヒトGas6のアミノ酸配列の314、315及び316番目のアミノ酸残基のうち、少なくとも1つのアミノ酸残基に結合するモノクローナル抗体または該抗体断片に関する。具体的には、ヒトGas6のアミノ酸配列のSHBGドメインに存在する314、315及び316番目のアミノ酸残基のうち、少なくとも1つのアミノ酸残基に結合するモノクローナル抗体または該抗体断片、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を含むヒトGas6の314、315及び316番目のアミノ酸残基のうち、少なくとも1つのアミノ酸残基に結合するモノクローナル抗体または該抗体断片に関する。本発明の抗体としては、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を含むヒトGas6の314番目のアミノ酸残基に結合する抗体、315番目のアミノ酸残基に結合する抗体、316番目のアミノ酸残基に結合する抗体、314及び315番目のアミノ酸残基に結合する抗体、314及び316番目のアミノ酸残基に結合する抗体、315及び316番目のアミノ酸残基に結合する抗体または314、315及び316番目のアミノ酸残基に結合する抗体があげられる。
【0015】
また、本発明の抗体として具体的には、下記(a)〜(e)から選ばれるいずれか一つの抗体があげられる。
(a) 抗体の重鎖可変領域(Heavy chain variable region)(以下、VHと称する)の相補性決定領域(Complementarity Determining Region)(以下、CDRと称する)1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号79、80及び81に記載されるアミノ酸配列であって、かつ軽鎖可変領域(Light chain variable region)(以下、VLと称する)のCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号82、83及び84に記載されるアミノ酸配列である抗体。
(b)抗体のVHのCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号85、86及び87に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号88、89及び90に記載されるアミノ酸配列である抗体。
(c) 前記(a)または(b)に記載の抗体と、ヒトGas6への結合について競合する抗体 (d)前記(a)または(b)に記載の抗体が結合するエピトープを含むエピトープに結合する抗体。
(e)前記(a)または(b)に記載の抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体。
【0016】
本発明において、上記(a)に記載の抗体のうち、抗体のVHのCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号79、80及び81に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号82、83及び84に記載されるアミノ酸配列である抗体の一態様としては、マウス抗ヒトGas6モノクローナル抗体KM5320-mKG1、抗ヒトGas6マウス-ラットキメラKM5320-rKG1および抗ヒトGas6ヒト化抗体hzKM5320などが挙げられる。
【0017】
本発明において、上記(a)に記載の抗体のうち、抗体のVHのCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号85、86及び87に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのCDR1〜3のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号88、89及び90に記載されるアミノ酸配列である抗体の一態様としては、マウス抗ヒトGas6モノクローナル抗体KM5321-mKG1、抗ヒトGas6マウス-ラットキメラ抗体KM5321-rKG1、抗ヒトGas6ヒト化抗体hzKM5321などが挙げられる。
【0018】
また、本発明の上記(c)の抗体とは、上記(a)に記載の抗体を第1抗体、及び第1抗体が結合するエピトープを第1エピトープとした場合、当該第1エピトープを含む、第2エピトープに結合する第2抗体のことをいう。
【0019】
また、本発明の抗体として、具体的には、下記(a)〜(e)から選ばれるいずれか一つの抗体も挙げられる。
(a)抗体のVHのアミノ酸配列が配列番号69に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのアミノ酸配列が配列番号72に記載されるアミノ酸配列である抗体。
(b)抗体のVHのアミノ酸配列が配列番号75に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのアミノ酸配列が配列番号78に記載されるアミノ酸配列である抗体。
(c)抗体のVHのアミノ酸配列が配列番号135に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのアミノ酸配列が配列番号123に記載されるアミノ酸配列である抗体。
(d)抗体のVHのアミノ酸配列が配列番号195に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのアミノ酸配列が配列番号174に記載されるアミノ酸配列である抗体。
(e)抗体のVHのアミノ酸配列が配列番号186に記載されるアミノ酸配列であって、かつVLのアミノ酸配列が配列番号180に記載されるアミノ酸配列である抗体。
【0020】
上記(a)の抗体の一態様としては、KM5320-mKG1、KM5320-rKG1などが挙げられる。上記(b)の抗体の一態様としては、KM5321-mKG1、KM5321-rKG1などが挙げられる。上記(c)の抗体の一態様としては、抗ヒトGas6ヒト化抗体hzKM5320 LV5HV2などが挙げられる。上記(d)の抗体の一態様としては、抗ヒトGas6ヒト化抗体hzKM5321 LV6HV2bなどが挙げられる。上記(e)の抗体の一態様としては、抗ヒトGas6ヒト化抗体hzKM5321 LV7bHV0などが挙げられる。
【0021】
本発明において、Growth Arrest-Specific 6 (Gas6)は、AXL receptor kinase ligand (AXLLG)またはAXL stimulatory factor(AXSF)ともいう。
本発明においてヒトGas6としては、配列番号4に記載のアミノ酸配列もしくはNCBIアクセッション番号NP_000811のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号4に記載のアミノ酸配列またはNCBIアクセッション番号NP_000811のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸が欠失、置換あるいは付加されたアミノ酸配列から成り、かつヒトGas6の機能を有するポリペプチド、または配列番号4に記載のアミノ酸配列またはNCBIアクセッション番号NP_000811のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列から成りかつヒトGas6の機能を有するポリペプチドなどがあげられる。
【0022】
配列番号4に記載のアミノ酸配列またはNCBIアクセッション番号NP_000811で示されるアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸が欠失、置換あるいは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、部位特異的変異導入法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、Nucleic acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431 (1985)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)]などを用いて、例えば配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAに、部位特異的変異を導入することにより得ることができる。
【0023】
欠失、置換または付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1個〜数10個、例えば、1〜20個、より好ましくは1個〜数個、例えば、1〜5個のアミノ酸である。
【0024】
ヒトGas6をコードする遺伝子としては、配列番号3に記載の塩基配列、NCBIアクセッション番号NM_000820の塩基配列があげられる。配列番号3に記載の塩基配列もしくはNM_000820の塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列から成り、かつヒトGas6の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、配列番号3に記載の塩基配列もしくはNM_000820の塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有する塩基配列、好ましくは80%以上の相同性を有する塩基配列、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列から成り、かつヒトGas6の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子または配列番号3に記載の塩基配列、もしくはNM_000820の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAから成り、かつヒトGas6の機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子なども本発明のヒトGas6をコードする遺伝子に含有される。
【0025】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、配列番号3に記載の塩基配列またはNM_000820の塩基配列を含むDNAをプローブに用いた、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、サザンブロット・ハイブリダイゼーション法またはDNAマイクロアレイ法などにより得られるハイブリダイズ可能なDNAのことをいう。具体的には、ハイブリダイズしたコロニーあるいはプラーク由来のDNA、または該配列を有するPCR産物もしくはオリゴDNAを固定化したフィルターもしくはスライドガラスを用いて、0.7〜1.0 mol/Lの塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーション法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University, (1995)]を行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150 mmol/L塩化ナトリウム、15 mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターまたはスライドガラスを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイズ可能なDNAとしては配列番号3に記載の塩基配列、またはNM_000820の塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するDNA、好ましくは80%以上の相同性を有するDNA、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するDNAをあげることができる。
【0026】
真核生物のタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列には、しばしば遺伝子の多型が認められる。本発明において用いられる遺伝子に、このような多型によって塩基配列に小規模な変異を生じた遺伝子も本発明のヒトGas6をコードする遺伝子に含有される。
【0027】
本発明における相同性の数値は、特に明示した場合を除き、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、塩基配列については、BLAST[J. Mol. Biol., 215, 403 (1990)]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値など、アミノ酸配列については、BLAST2[Nucleic Acids Res.,25, 3389 (1997)、Genome Res., 7, 649 (1997)、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Education/BLASTinfo/information3.htmL]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値などがあげられる。
【0028】
デフォルトのパラメータとしては、G(Cost to open gap)が塩基配列の場合は5、アミノ酸配列の場合は11、-E(Cost to extend gap)が塩基配列の場合は2、アミノ酸配列の場合は1、-q (Penalty for nucleotide mismatch)が-3、-r(reward for nucleotide match)が1、-e(expect value)が10、-W(wordsize)が塩基配列の場合は11残基、アミノ酸配列の場合は3残基、-y[Dropoff(X)for blast extensions in bits]がblastn の場合は20、blastn以外のプログラムでは7、-X(X dropoff value for gapped alignment in bits)が15および-Z(final X dropoff value for gapped alignment in bits)がblastn の場合は50、blastn以外のプログラムでは25である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/htmL/blastcgihelp.htmL)。
【0029】
配列番号4に記載のアミノ酸配列またはNCBIアクセッション番号NP_000811のアミノ酸配列の部分配列を含むポリペプチドは、当業者に公知の方法によって作製することができる。具体的には、配列番号4のアミノ酸配列をコードするDNAの一部を欠失させ、これを含む発現ベクターを導入した形質転換体を培養することにより作製することができる。また、上記と同様の方法により、配列番号4に記載のアミノ酸配列またはNCBIアクセッション番号NP_000811のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを得ることができる。さらに、配列番号4に記載のアミノ酸配列もしくはNCBIアクセッション番号NP_000811のアミノ酸配列から成るポリペプチド、または配列番号4に記載のアミノ酸配列もしくはNCBIアクセッション番号NP_000811のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換あるいは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)法、t-ブチルオキシカルボニル(tBoc)法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0030】
本発明におけるモノクロ−ナル抗体としては、ハイブリドーマにより産生される抗体、または抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により産生される遺伝子組換え抗体をあげることができる。
【0031】
モノクローナル抗体とは、単一クローンの抗体産生細胞が分泌する抗体であり、ただ一つのエピトープ(抗原決定基ともいう)を認識し、モノクローナル抗体を構成するアミノ酸配列(一次配列)が均一である。
【0032】
エピトープとは、モノクローナル抗体が認識し、結合する単一のアミノ酸配列、アミノ酸配列から成る立体構造、翻訳後修飾により修飾されたアミノ酸配列および該アミノ酸配列から成る立体構造などがあげられる。
翻訳後修飾により修飾されたアミノ酸配列としては、糖鎖がOH置換基を有するTyrおよびSerに結合したO結合型糖鎖、NH
2置換基を有するGlnおよびAsnに結合したN結合型糖鎖ならびに硫酸分子がOH置換基を有するTyrに結合した硫酸基などが結合したアミノ酸配列があげられる。
【0033】
本発明の抗体が結合するヒトGas6上に存在するアミノ酸残基またはエピトープとしては、Gas6受容体との結合部分のエピトープ、ヒトGas6のSHBGドメインに存在するエピトープ、ヒトGas6のアミノ酸配列のSHBGドメインに存在する314、315及び316番目から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基を含むエピトープ、ヒトGas6のアミノ酸配列のSHBGドメインに存在する314、315及び316番目からなるエピトープが挙げられる。
【0034】
本発明の抗体がヒトGas6に結合することは、固相サンドイッチ法などを用いたラジオイムノアッセイ、または酵素免疫測定法(ELISA)などを用いたヒトGas6に対する公知の免疫学的検出法、またはBicacoreシステム(ジーイーヘルスケア社製)などを用いた表面プラズモン共鳴法などで確認することができる。また、公知の免疫学的検出法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition, Academic Press (1996)、Antibodies-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)、単クローン抗体実験マニュアル,講談社サイエンティフィック (1987)]などを組み合わせて確認することもできる。
【0035】
本発明の抗体が結合するヒトGas6のアミノ酸残基またはエピトープは、ヒトGas6の一部のドメインを欠失させた欠損体、他のタンパク質由来のドメインと置換させた変異体およびヒトGas6の部分ペプチド断片等を用いて抗体の結合実験を行うことにより決定することができる。または、本発明の抗体が結合するヒトGas6のアミノ酸残基またはエピトープは、タンパク質分解酵素にて消化したヒトGas6のペプチド断片に本発明の抗体を添加し、既知の質量分析法を用いてエピトープマッピングを行うことによっても決定することができる。
【0036】
また、本発明の抗体として具体的には、ヒトGas6のアミノ酸配列の314、315及び316番目のアミノ酸残基のうち、少なくとも1つのアミノ酸残基に結合した結果、ヒトGas6に対して結合活性及び中和活性を有する抗体が挙げられる。
【0037】
ヒトGas6の機能としては、Gas6がGas6受容体に結合し、当該受容体を活性化させた結果、細胞内シグナル伝達の活性化、細胞増殖の亢進を引き起こすことが知られている。
本発明において、Gas6受容体として具体的にはAxl、Sky、Mer TK等が挙げられる。
【0038】
本発明において中和活性とは、ヒトGas6の機能を阻害することであって、上述のGas6受容体活性化及び、活性化に伴う種々の反応を阻害する活性をいう。具体的には、Gas6とGas6受容体の結合を阻害した結果、Gas6受容体の活性を阻害する活性、Gas6添加によるGas6受容体発現細胞内でのシグナル伝達の活性化を抑制する活性、またはGas6添加によるGas6受容体発現細胞の細胞増殖の亢進を抑制する活性などが挙げられる。
【0039】
本発明の抗体が、Gas6に特異的に結合すること、及びGas6とGas6受容体の結合を阻害する活性を有することは、ELISAなどの公知の免疫学的検出法、Biacore(登録商標)システム(ジーイーヘルスケア社製)などを用いた表面プラズモン共鳴法またはこれらの組み合わせることにより確認することができる。
【0040】
本発明の抗体がGas6結合によるGas6受容体発現細胞内でのシグナル伝達の活性化を抑制する活性を有することは、公知のレポーターアッセイを用いて特定の遺伝子産物の発現量を検出したり、ウエスタンブロット法もしくはフローサイトメーターなどを用いて特定のシグナル伝達物質のリン酸化レベルを検出することにより確認できる。または、マイクロアレイを用いて、遺伝子の活性化状態または発現量を網羅的に検出することなどによっても確認することができる。
【0041】
本発明の抗体が、Gas6によるGas6受容体発現細胞の細胞増殖の亢進を抑制する活性を有することは、公知の細胞増殖アッセイ法を用いて確認することができる。公知の細胞増殖アッセイ法とは具体的にはMTTやWST-1などのテトラゾリウム塩を使用して細胞生存活性を測定する方法または[
3H]-チミジンなどの放射性同位体を使用して細胞内でのDNA合成を測定する方法などが挙げられる。
【0042】
本発明において、本発明のモノクローナル抗体が有する高い結合活性又は高い中和活性とは、公知の抗ヒトGas6抗体または市販されている抗ヒトGas6抗体が有するhGas6への結合活性又は中和活性と比べて、結合活性又は中和活性が強いことをいう。具体的には、本発明の抗hGas6モノクローナル抗体は、抗hGas6モノクローナル抗体WG1(US7,547,767)と比べて、hGas6への高い結合活性及び高い中和活性を有することをいう。
【0043】
抗体分子はイムノグロブリン(以下、Igと表記する)とも称され、ヒト抗体は、分子構造の違いに応じて、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4およびIgMのアイソタイプに分類される。アミノ酸配列の相同性が比較的高いIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を総称してIgGともいう。
【0044】
抗体分子は重鎖(Heavy chain、以下H鎖と記す)および軽鎖(Light chain、以下L鎖と記す)と呼ばれるポリペプチドより構成される。また、H鎖はN末端側よりH鎖可変領域(VHとも表記される)、H鎖定常領域(CHとも表記される)、L鎖はN末端側よりL鎖可変領域(VLとも表記される)、L鎖定常領域(CLとも表記される)の各領域により、それぞれ構成される。CHは各サブクラスごとに、α、δ、ε、γおよびμ鎖がそれぞれ知られている。CHはさらに、N末端側よりCH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメインの各ドメインにより構成される。ドメインとは、抗体分子の各ポリペプチドを構成する機能的な構造単位をいう。また、CH2ドメインとCH3ドメインを併せてFc領域または単にFcという。CLは、Cλ鎖およびCκ鎖が知られている。
【0045】
本発明におけるCH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメインおよびFc領域は、EUインデックス[Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services (1991)]により、N末端からのアミノ酸残基の番号で特定することができる。具体的には、CH1はEUインデックス118〜215番のアミノ酸配列、ヒンジはEUインデックス216〜230番のアミノ酸配列、CH2はEUインデックス231〜340番のアミノ酸配列、CH3はEUインデックス341〜447番のアミノ酸配列とそれぞれ特定される。
【0046】
本発明の抗体としては、特に遺伝子工学的に作製されたマウス抗体、ラット抗体、ヒト型キメラ抗体(以下、単にキメラ抗体とも略記する)、ヒト化抗体[ヒト型相補性決定領域(Complementarity Determining Region; CDR)移植抗体ともいう]およびヒト抗体などの遺伝子組換え抗体も含まれる。
【0047】
キメラ抗体とは、ヒト以外の動物(非ヒト動物)の抗体のVHおよびVLと、ヒト抗体のCHおよびCLからなる抗体を意味する。非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ラビット等、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
【0048】
ハイブリドーマとは、非ヒト動物に抗原を免疫して取得されたB細胞と、マウスなどに由来するミエローマ細胞とを細胞融合させて得られる、所望の抗原特異性を有したモノクローナル抗体を産生する細胞をいう。したがって、ハイブリドーマが産生する抗体を構成する可変領域は、非ヒト動物抗体のアミノ酸配列からなる。
【0049】
ヒト型キメラ抗体は、モノクローナル抗体を生産する非ヒト動物細胞由来のハイブリドーマより、該モノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0050】
ヒト化抗体とは、非ヒト動物抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの対応するCDRに移植した抗体をいう。VHおよびVLのCDR以外の領域はフレームワーク領域(以下、FRと表記する)と称される。
【0051】
ヒト化抗体は、非ヒト動物抗体のVHのCDRのアミノ酸配列と任意のヒト抗体のVHのFRのアミノ酸配列からなるVHのアミノ酸配列をコードするcDNAと、非ヒト動物抗体のVLのCDRのアミノ酸配列と任意のヒト抗体のVLのFRのアミノ酸配列からなるVLのアミノ酸配列をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト化抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0052】
本発明のヒト化抗体としては、具体的には、KM5320に関しては、CDR1〜3がそれぞれ配列番号79〜81で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVHを含み、かつCDR1〜3がそれぞれ配列番号82〜84で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVLを含むヒト化抗体が挙げられる。KM5321に関しては、CDR1〜3がそれぞれ配列番号85〜87で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVHを含み、かつCDR1〜3がそれぞれ配列番号88〜90で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVLを含むヒト化抗体が挙げられる。
【0053】
本発明のヒト化抗体として、具体的には、KM5320に関して、以下の(a)VL及び(b)VHの少なくとも一方を含むヒト化抗体が、KM5321に関して、以下の(c)VL及び(d)VHの少なくとも一方を含むヒト化抗体が挙げられる。
【0054】
(a)配列番号105で表わされるアミノ酸配列、又は配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のVal、15番目のLeu、46番目のLeu、73番目のLeu、78番目のLeu、及び87番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
【0055】
(b)配列番号129で表わされるアミノ酸配列、又は配列番号129で表わされるアミノ酸配列の2番目のVal、9番目のSer、20番目のVal、38番目のArg、46番目のGlu、77番目のSer、93番目のVal、及び95番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVH
【0056】
(c)配列番号156で表わされるアミノ酸配列、又は配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeu、13番目のAla、15番目のVal、43番目のAla、64番目のGly、73番目のLeu、78番目のLeu、85番目のThr、及び104番目のValから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
【0057】
(d)配列番号186で表わされるアミノ酸配列、又は配列番号186で表わされるアミノ酸配列の2番目のVal、9番目のSer、38番目のArg、46番目のGlu、79番目のSer、93番目のVal、及び112番目のValから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVH
【0058】
更に、本発明のKM5320ヒト化抗体に含まれるVLとしては、以下の(1)〜(7)のVLが好ましい。
(1)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のVal、15番目のLeu、46番目のLeu、73番目のLeu、78番目のLeu、及び87番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(2)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のVal、46番目のLeu、73番目のLeu、78番目のLeu、及び87番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(3)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の46番目のLeu、73番目のLeu、及び87番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(4)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の15番目のLeu、及び73番目のLeuが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(5)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の78番目のLeu、及び87番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(6)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の78番目のLeuが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(7)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の87番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
【0059】
前記VLのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、15番目のLeuをAlaに、46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0060】
6個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、15番目のLeuをAlaに、46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列が挙げられる。
【0061】
5個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、15番目のLeuをAlaに、46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、15番目のLeuをAlaに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の15番目のLeuをAlaに、46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
【0062】
4個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、及び78番目のLeuをValに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、15番目のLeuをAlaに、73番目のLeuをPheに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
【0063】
3個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の15番目のLeuをAlaに、46番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の15番目のLeuをAlaに、46番目のLeuをValに、及び78番目のLeuをValに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、及び78番目のLeuをValに置換したアミノ酸配列
【0064】
2個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の78番目のLeuをValに、及び87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の15番目のLeuをAlaに、及び73番目のLeuをPheに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の46番目のLeuをValに、及び78番目のLeuをValに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、及び15番目のLeuをAlaに置換したアミノ酸配列
【0065】
1個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の46番目のLeuをValに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の78番目のLeuをValに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号105で表わされるアミノ酸配列中の87番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
【0066】
また、本発明のKM5320ヒト化抗体に含まれるVHとしては、以下の(1)〜(8)のVHが好ましい。
(1)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の2番目のVal、9番目のSer、20番目のVal、38番目のArg、46番目のGlu、77番目のSer、93番目のVal、及び95番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(2)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の9番目のSer、20番目のVal、38番目のArg、46番目のGlu、93番目のVal、及び95番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(3)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の9番目のSer、46番目のGlu、93番目のVal、及び95番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(4)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の46番目のGlu、93番目のVal、及び95番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(5)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の2番目のVal、20番目のVal、及び95番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(6)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の9番目のSer、38番目のArg、及び46番目のGluが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(7)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の93番目のVal、及び95番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(8)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の46番目のGluが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
【0067】
前記VHのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、20番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、77番目のSerをThrに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0068】
8個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、20番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、77番目のSerをThrに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列が挙げられる。
【0069】
6個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、20番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、77番目のSerをThrに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、20番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、77番目のSerをThrに、及び93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、20番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、77番目のSerをThrに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
【0070】
4個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、20番目のValをIleに、46番目のGluをLysに、及び93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、46番目のGluをLysに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、20番目のValをIleに、46番目のGluをLysに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
【0071】
3個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)から選ばれる1つのアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、20番目のValをIleに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、及び46番目のGluをLysに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、46番目のGluをLysに、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
【0072】
2個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、及び38番目のArgをLysに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、20番目のValをIleに、及び77番目のSerをThrに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、46番目のGluをLys、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、93番目のValをThrに、及び95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
【0073】
1個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1) 配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、20番目のValをIleに置換したアミノ酸配列
(2) 配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、38番目のArgをLysに置換したアミノ酸配列
(3) 配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、46番目のGluをLysに置換したアミノ酸配列
(4) 配列番号129で表わされるアミノ酸配列中の、95番目のTyrをPheに置換したアミノ酸配列
【0074】
また、本発明のKM5320ヒト化抗体の具体例としては、以下の(1)〜(3)のヒト化抗体などが挙げられる。
(1)抗体のVHが配列番号135で表わされるアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが配列番号123で表わされるアミノ酸配列を含むヒト化抗体
(2)抗体のVHが
図8に示されるいずれかのアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが配列番号123で表わされるアミノ酸配列を含むヒト化抗体
(3)抗体のVHが配列番号135で表わされるアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが
図7に示されるいずれかのアミノ酸配列を含むヒト化抗体
【0075】
更に、本発明のKM5321ヒト化抗体に含まれるVLとしては、以下の(1)〜(7)のVLが好ましい。
(1)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeu、13番目のAla、15番目のVal、43番目のAla、64番目のGly、73番目のLeu、78番目のLeu、85番目のThr、及び104番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(2)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAla、15番目のVal、64番目のGly、73番目のLeu、78番目のLeu、85番目のThr、及び104番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(3)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAla、15番目のVal、43番目のAla、73番目のLeu、78番目のLeu、及び85番目のThrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(4)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAla、15番目のVal、73番目のLeu、及び78番目のLeuが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(5)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の15番目のVal、78番目のLeu、及び85番目のThrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(6)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAla、及び43番目のAlaが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(7)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の43番目のAlaが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
【0076】
前記VLのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeuをValに、13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをThrに、85番目のThrをAspに、及び104番目のValをLeuに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0077】
9個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeuをValに、13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをThrに、85番目のThrをAspに、及び104番目のValをLeuに置換したアミノ酸配列が挙げられる。
【0078】
7個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeuをValに、13番目のAlaをValに、64番目のGlyをSerに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをThrに、85番目のThrをAspに、及び104番目のValをLeuに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをThrに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeuをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、78番目のLeuをThrに、85番目のThrをAspに、及び104番目のValをLeuに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeuをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをThrに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
【0079】
6個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeuをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、85番目のThrをAspに、及び104番目のValをLeuに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、78番目のLeuをThrに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをThrに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをThrに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
【0080】
4個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の4番目のLeuをValに、13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、及び43番目のAlaをProに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、73番目のLeuをPheに、及び78番目のLeuをThrに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、73番目のLeuをPheに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
【0081】
3個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、及び73番目のLeuをPheに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、73番目のLeuをPheに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の15番目のValをThrに、78番目のLeuをThrに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の43番目のAlaをProに、73番目のLeuをPheに、及び78番目のLeuをThrに置換したアミノ酸配列
【0082】
2個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、及び15番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに、及び43番目のAlaをProに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の15番目のValをThrに、及び85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の43番目のAlaをProに、及び64番目のGlyをSerに置換したアミノ酸配列
【0083】
1個の改変が導入されたVLのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の13番目のAlaをValに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の43番目のAlaをProに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の73番目のLeuをPheに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号156で表わされるアミノ酸配列中の85番目のThrをAspに置換したアミノ酸配列
【0084】
また、本発明のKM5321ヒト化抗体に含まれるVHとしては、以下の(1)〜(8)のVHが好ましい。
(1)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の2番目のVal、9番目のSer、38番目のArg、46番目のGlu、79番目のSer、93番目のVal、及び112番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(2)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の2番目のVal、38番目のArg、46番目のGlu、79番目のSer、及び112番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(3)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の2番目のVal、9番目のSer、79番目のSer、及び112番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(4)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の9番目のSer、46番目のGlu、及び93番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(5)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の38番目のArg、46番目のGlu、及び93番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(6)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の38番目のArg、及び46番目のGluが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(7)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の9番目のSer、及び93番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(8)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の46番目のGluが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
【0085】
前記VHのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、79番目のSerをAlaに、93番目のValをThrに、及び112番目のValをIleに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0086】
7個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、79番目のSerをAlaに、93番目のValをThrに、及び112番目のValをIleに置換したアミノ酸配列が挙げられる。
【0087】
5個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、及び112番目のValをIleに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、79番目のSerをAlaに、及び112番目のValをIleに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、79番目のSerをAlaに、及び93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、93番目のValをThrに、及び112番目のValをIleに置換したアミノ酸配列
【0088】
4個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、79番目のSerをAlaに、及び112番目のValをIleに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、及び79番目のSerをAlaに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、及び93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、46番目のGluをLysに、79番目のSerをAlaに、及び112番目のValをIleに置換したアミノ酸配列
【0089】
3個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、46番目のGluをLysに、及び93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、2番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、及び46番目のGluをLysに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、及び79番目のSerをAlaに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、及び93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
【0090】
2個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、38番目のArgをLysに、及び46番目のGluをLysに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、及び93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに、及び38番目のArgをLysに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、79番目のSerをAlaに、及び93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
【0091】
1個の改変が導入されたVHのアミノ酸配列としては、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)のアミノ酸配列が挙げられる。
(1)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、9番目のSerをProに置換したアミノ酸配列
(2)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、38番目のArgをLysに置換したアミノ酸配列
(3)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、46番目のGluをLysに置換したアミノ酸配列
(4)配列番号186で表わされるアミノ酸配列中の、93番目のValをThrに置換したアミノ酸配列
【0092】
また、本発明のKM5321ヒト化抗体の具体例としては、以下の(1)〜(6)のヒト化抗体などが挙げられる。
(1)抗体のVHが配列番号195で表わされるアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが配列番号174で示されるアミノ酸配列を含むヒト化抗体
(2)抗体のVHが
図10に示されるいずれかのアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが配列番号174で表わされるアミノ酸配列を含むヒト化抗体
(3)抗体のVHが配列番号195で表わされるアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが
図9に示されるいずれかのアミノ酸配列を含むヒト化抗体
(4)抗体のVHが配列番号186で表わされるアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが配列番号180で表わされるアミノ酸配列を含むヒト化抗体
(5)抗体のVHが
図10に示されるいずれかのアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが配列番号180で表わされるアミノ酸配列を含むヒト化抗体
(6)抗体のVHが配列番号186で表わされるアミノ酸配列及び/又は抗体のVLが
図9に示されるいずれかのアミノ酸配列を含むヒト化抗体
【0093】
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーおよびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体等も含まれる。
【0094】
ヒト抗体は、ヒトイムノグロブリン遺伝子を保持するマウス(Tomizuka K. et. al., Proc Natl Acad Sci U S A. 97, 722-7, 2000.)に所望の抗原を免疫することにより、取得することが出来る。また、ヒト由来のB細胞から抗体遺伝子を増幅したphage displayライブラリーを用いることにより、所望の結合活性を有するヒト抗体を選択することで、免疫を行わずにヒト抗体を取得することができる(Winter G. et. al., Annu Rev Immunol.12:433-55. 1994)。さらに、EBウイルスを用いてヒトB細胞を不死化することにより、所望の結合活性を有するヒト抗体を生産する細胞を作製し、ヒト抗体を取得することができる(Rosen A. et. al., Nature 267, 52-54.1977)。
【0095】
ヒト体内に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血から単離したリンパ球を、EBウイルス等を感染させることによって不死化した後、クローニングすることにより、該抗体を産生するリンパ球を得ることができ、該リンパ球を培養した培養物中より該抗体を精製することができる。
【0096】
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、scFv等の抗体断片を表面に発現させたファージのライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、更に遺伝子工学的手法により、2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
【0097】
ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が宿主動物の染色体内に組込まれた動物をいう。具体的には、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞を他のマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体産生トランスジェニック動物を作製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物からのヒト抗体の作製方法は、通常のヒト以外の哺乳動物で行われているハイブリドーマ作製方法によりヒト抗体産生ハイブリドーマを取得し、培養することで培養物中にヒト抗体を産生蓄積させることができる。
【0098】
本発明の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列としては、ヒト抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列、非ヒト動物抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列、あるいは非ヒト動物抗体のCDRを、任意のヒト抗体のフレームワークに移植したヒト化抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列のいずれでもよい。具体的には、ハイブリドーマが産生する非ヒト動物抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列、ヒト化抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列、ヒト抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列などがあげられる。
【0099】
本発明の抗体におけるCLのアミノ酸配列としては、ヒト抗体のアミノ酸配列または非ヒト動物抗体のアミノ酸配列のいずれでも良いが、ヒト抗体のアミノ酸配列のCκあるいはCλが好ましい。
【0100】
本発明の抗体のCHとしては、イムノグロブリンに属すればいかなるものでもよいが、好ましくはIgGクラスに属するサブクラス、γ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)のいずれも用いることができる。
【0101】
本発明の抗体としては、Fcと抗体断片とが結合したFc融合タンパク質、Fcと天然に存在するリガンドまたは受容体とが結合したFc融合タンパク質(イムノアドヘシンともいう)、複数のFc領域を融合させたFc融合タンパク質等も本発明に包含される。また、抗体を安定化させるためおよび血中半減期を制御するために、アミノ酸残基を改変したFc領域なども本発明の抗体に用いることができる。
【0102】
本発明の抗体又は該抗体断片は、翻訳後修飾されたいかなるアミノ酸残基を含む抗体をも包含する。翻訳後修飾としては、例えばH鎖のC末端におけるリジン残基の欠失[リジン・クリッピング(lysine clipping)]、及びポリペプチドのN末端におけるグルタミン残基のピログルタミン(pyroGlu)への変換などがあげられる[Beck et al, Analytical Chemistry, 85, 715-736(2013)]。
【0103】
本発明において抗体断片としては、Fab、Fab'、F(ab')
2、scFv、diabody、dsFv、複数のCDRを含むペプチドなどがあげられる。
Fabは、IgG抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合(S-S結合)で結合した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0104】
F(ab')
2は、IgGをタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のS-S結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
Fab'は、上記F(ab')
2のヒンジ領域のS-S結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0105】
scFvは、1本のVHと1本のVLとを4個のGlyおよび1個のSer残基からなるリンカー(G4S)を任意の個数つなげたリンカーペプチドなどの適当なペプチドリンカー(P)を用いて連結した、VH-P-VLないしはVL-P-VHポリペプチドで、抗原結合活性を有する抗体断片である。
Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片で、同じ抗原に対する2価の抗原結合活性または異なる抗原に対する特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0106】
dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを該システイン残基間のS-S結合を介して結合させたものをいう。
【0107】
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、CDR同士を直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。本発明の改変抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法、またはtBoc法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0108】
本発明のモノクローナル抗体には、本発明のヒトGas6に結合するモノクローナル抗体またはその抗体断片に放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、タンパク質、または抗体医薬などを化学的あるいは遺伝子工学的に結合させた抗体の誘導体を包含する。
【0109】
抗体の誘導体は、本発明のヒトGas6に結合するモノクローナル抗体またはその抗体断片のH鎖あるいはL鎖のN末端側、C末端側、抗体分子中の適当な置換基あるいは側鎖、ならびに糖鎖などに、放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、免疫賦活剤、タンパク質、抗体医薬、または核酸医薬などを化学的手法[抗体工学入門, 地人書館 (1994)]により結合させることにより製造することができる。
【0110】
また、本発明のヒトGas6に結合するモノクローナル抗体またはその抗体断片をコードするDNAと、結合させたいタンパク質または抗体医薬をコードするDNAを連結させて発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを適当な宿主細胞へ導入し、発現させる遺伝子工学的手法より製造することができる。
【0111】
放射性同位元素としては、
111In、
131I、
125I、
90Y、
64Cu、
99Tc、
77Luまたは
211Atなどがあげられる。放射性同位元素は、クロラミンT法などによって抗体に直接結合させることができる。また、放射性同位元素をキレートする物質を抗体に結合させてもよい。キレート剤としては、1-イソチオシアネートベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)などがあげられる。
【0112】
低分子の薬剤としては、アルキル化剤、ニトロソウレア剤、代謝拮抗剤、抗生物質、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン療法剤、ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤、P糖蛋白阻害剤、白金錯体誘導体、M期阻害剤、あるいはキナーゼ阻害剤などの抗癌剤[臨床腫瘍学, 癌と化学療法社 (1996)]、またはハイドロコーチゾン、プレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート、ペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、マレイン酸クロルフェニラミン、あるいはクレマシチンのような抗ヒスタミン剤などの抗炎症剤[炎症と抗炎症療法, 医歯薬出版株式会社 (1982)]などがあげられる。
【0113】
抗癌剤としては、アミフォスチン(エチオール)、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、ストレプトゾシン、シクロフォスファミド、イホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、ゲムシタビン(ゲムザール)、ダウノルビシン、プロカルバジン、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、フルオロウラシル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、ダウノマイシン、ペプロマイシン、エストラムスチン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテア)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、10-ヒドロキシ-7-エチル-カンプトテシン(SN38)、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、メスナ、イリノテカン(CPT-11)、ノギテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、ヒドロキシカルバミド、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパラガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、タモキシフェン、ゴセレリン、リュープロレニン、フルタミド、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル、ハイドロコーチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ビンデシン、ニムスチン、セムスチン、カペシタビン、トムデックス、アザシチジン、UFT、オキザロプラチン、ゲフィチニブ(イレッサ)、イマチニブ(STI571)、エルロチニブ、FMS-like tyrosine kinase 3(Flt3)阻害剤、vascular endothelial growth facotr receptor(VEGFR)阻害剤、fibroblast growth factor receptor(FGFR)阻害剤、イレッサ、タルセバなどのepidermal growth factor receptor(EGFR)阻害剤、ラディシコール、17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、ラパマイシン、アムサクリン、オール-トランスレチノイン酸、サリドマイド、レナリドマイド、アナストロゾール、ファドロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、金チオマレート、D-ペニシラミン、ブシラミン、アザチオプリン、ミゾリビン、シクロスポリン、ラパマイシン、ヒドロコルチゾン、ベキサロテン(ターグレチン)、タモキシフェン、デキサメタゾン、プロゲスチン類、エストロゲン類、アナストロゾール(アリミデックス)、ロイプリン、アスピリン、インドメタシン、セレコキシブ、ペニシラミン、金チオマレート、マレイン酸クロルフェニラミン、クロロフェニラミン、クレマシチン、トレチノイン、ベキサロテン、砒素、ボルテゾミブ、アロプリノール、カリケアマイシン、イブリツモマブチウキセタン、タルグレチン、オゾガミン、クラリスロマシン、ロイコボリン、ケトコナゾール、アミノグルテチミド、スラミン、メイタンシノイドまたはその誘導体、などがあげられる。
【0114】
低分子の薬剤と抗体とを結合させる方法としては、グルタールアルデヒドを介して薬剤と抗体のアミノ基間を結合させる方法、または水溶性カルボジイミドを介して薬剤のアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法などがあげられる。
【0115】
高分子の薬剤としては、ポリエチレングリコール(以下、PEGと表記する)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、またはヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどがあげられる。これらの高分子化合物を抗体またはその抗体断片に結合させることにより、(1)化学的、物理的あるいは生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、(3)免疫原性の消失または抗体産生の抑制、などの効果が期待される[バイオコンジュゲート医薬品, 廣川書店 (1993)]。例えば、PEGと抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などがあげられる[バイオコンジュゲート医薬品, 廣川書店 (1993)]。PEG化修飾試薬としては、リジンのε-アミノ基への修飾剤(特開昭61-178926)、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカルボキシル基への修飾剤(特開昭56-23587)、またはアルギニンのグアニジノ基への修飾剤(特開平2-117920)などがあげられる。
【0116】
免疫賦活剤としては、イムノアジュバントとして知られている天然物でもよく、具体例としては、免疫を亢進する薬剤が、β(1→3)グルカン(レンチナン、シゾフィラン)、またはαガラクトシルセラミド(KRN7000)などがあげられる。
【0117】
タンパク質としては、NK細胞、マクロファージ、または好中球などの免疫担当細胞を活性化するサイトカインあるいは増殖因子、または毒素タンパク質などがあげられる。
【0118】
サイトカインあるいは増殖因子としては、例えば、インターフェロン(以下、IFNと記す)-α、IFN -β、IFN -γ、インターロイキン(以下、ILと記す)-2、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、またはマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)などがあげられる。毒素タンパク質としては、リシン、ジフテリアトキシン、またはONTAKなどがあげられ、毒性を調節するためにタンパク質に変異を導入したタンパク毒素も含まれる。
【0119】
抗体医薬としては、抗体の結合によりアポトーシスが誘導される抗原、腫瘍の病態形成に関わる抗原または免疫機能を調節する抗原、病変部位の血管新生に関与する抗原に対する抗体があげられる。
【0120】
抗体の結合によりアポトーシスが誘導される抗原としては、cluster of differentiation(以下、CDと記載する)19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD37、CD53、CD72、CD73、CD74、CDw75、CDw76、CD77、CDw78、CD79a、CD79b、CD80(B7.1)、CD81、CD82、CD83、CDw84、CD85、CD86(B7.2)、human leukocyte antigen(HLA)-Class II、またはEpidermal Growth Factor Receptor(EGFR)などがあげられる。
【0121】
腫瘍の病態形成に関わる抗原または免疫機能を調節する抗体の抗原としては、CD4、CD40、CD40リガンド、B7ファミリー分子(CD80、CD86、CD274、B7-DC、B7-H2、B7-H3、またはB7-H4)、B7ファミリー分子のリガンド(CD28、CTLA-4、ICOS、PD-1、またはBTLA)、OX-40、OX-40リガンド、CD137、tumor necrosis factor(TNF)受容体ファミリー分子(DR4、DR5、TNFR1、またはTNFR2)、TNF-related apoptosis-inducing ligand receptor(TRAIL)ファミリー分子、TRAILファミリー分子の受容体ファミリー(TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRAIL-R3、またはTRAIL-R4)、receptor activator of nuclear factor kappa B ligand(RANK)、RANKリガンド、CD25、葉酸受容体、サイトカイン[IL-1α、IL-1β、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-13、transforming growth factor(TGF)β、またはTNFαなど]、これらのサイトカインの受容体、ケモカイン(SLC、ELC、I-309、TARC、MDC、またはCTACKなど)、またはこれらのケモカインの受容体があげられる。
【0122】
病変部位の血管新生を阻害する抗体の抗原としては、vascular endothelial growth factor(VEGF)、angiopoietin、fibroblast growth factor(FGF)、EGF、hepatocyte growth factor (HGF)、platelet-derived growth factor(PDGF)、insulin-like growth factor(IGF)、erythropoietin(EPO)、TGFβ、IL-8、ephrin、SDF-1、またはこれらの受容体などがあげられる。
【0123】
タンパク質または抗体医薬との融合抗体は、モノクローナル抗体または抗体断片をコードするcDNAにタンパク質または抗体医薬に含まれる抗体をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物あるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入することにより発現させ、融合抗体を製造することができる。
【0124】
核酸医薬としては、遺伝子の機能を制御することによって生体に作用するsmall interference ribonucleic acid (siRNA)やmicroRNAなどの核酸を含む医薬品があげられる。例えば、Th17細胞のマスター転写因子RORγtを抑制する核酸医薬とのコンジュゲートが考えられる。
【0125】
本発明の抗体の誘導体を検出方法、測定方法もしくは診断方法に使用する場合、または本発明の抗体の誘導体を検出用試薬、測定用試薬もしくは診断薬として使用する場合に、当該抗体に結合する薬剤としては、通常の免疫学的検出または測定法で用いられる標識体があげられる。標識体としては、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、あるいはルシフェラーゼなどの酵素、アクリジニウムエステル、あるいはロフィンなどの発光物質、またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、あるいはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(RITC)などの蛍光物質などがあげられる。
【0126】
また、本発明は、ヒトGas6に結合するモノクローナル抗体またはその抗体断片を有効成分として含有する、ヒトGas6関連疾患の治療薬に関する。また、本発明は、ヒトGas6に結合するモノクローナル抗体またはその抗体断片を投与することを含む、ヒトGas6関連疾患の治療方法に関する。
【0127】
ヒトGas6関連疾患としては、ヒトGas6又はヒトGas6受容体が関与する疾患であればいかなるものでもよく、例えば腎疾患や癌疾患が挙げられる。腎疾患としては、糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎症などが挙げられる。糸球体腎炎としては、進行性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸体腎炎などが挙げられる。また、癌疾患として具体的には、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、腎癌、グリオブラストーマ などが挙げられる。他の疾患としては、血栓塞栓症、虚血性疾患、静脈血栓塞栓症、動脈血栓症、静脈血栓症、肺塞栓症、再狭窄、糖尿病性血管障害または同種移植アテローム性動脈硬化症などが挙げられる。
【0128】
本発明の抗体または該抗体断片を含有する治療剤は、有効成分としての該抗体または該抗体断片のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
【0129】
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内あるいは静脈内などの非経口投与があげられ、好ましくは静脈内投与をあげられる。投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、またはテープ剤などがあげられる。
【0130】
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、および体重などにより異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg〜10 mg/kgである。
【0131】
本発明はヒトGas6に結合するモノクローナル抗体または該抗体断片を含有する、Gas6の検出もしくは測定用試薬、またはヒトGas6に結合するモノクローナル抗体または該抗体断片を用いたGas6の検出もしくは測定方法に関する。本発明においてヒトGas6を検出または測定する方法としては、任意の公知の方法があげられる。例えば、免疫学的検出または測定方法などがあげられる。
【0132】
免疫学的検出または測定方法とは、標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を検出または測定する方法である。免疫学的検出または測定方法としては、放射性物質標識免疫抗体法(RIA)、酵素免疫測定法(EIAまたはELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、発光免疫測定法(luminescent immunoassay)、ウェスタンブロット法または物理化学的手法などがあげられる。
【0133】
本発明はヒトGas6に結合するモノクローナル抗体又は該抗体断片を有効成分として含有する、Gas6関連疾患の診断薬、またはヒトGas6に結合するモノクローナル抗体又は該抗体断片を用いてGas6の検出または測定をすることを含む、Gas6関連疾患の診断方法に関する。本発明のモノクローナル抗体または該抗体断片を用いて、上記の方法に従いヒトGas6が発現した細胞を検出または測定することにより、ヒトGas6が関連する疾患を診断することができる。
【0134】
本発明においてヒトGas6を検出または測定する対象となる生体試料としては、組織、細胞、血液、血漿、血清、膵液、尿、糞便、組織液、または培養液など、ヒトGas6又はヒトGas6が発現している細胞を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。
【0135】
本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片を含有する診断薬は、目的の診断法に応じて、抗原抗体反応を行なうための試薬、該反応の検出用試薬を含んでもよい。抗原抗体反応を行なうための試薬としては、緩衝剤、塩などがあげられる。検出用試薬としては、該モノクローナル抗体またはその抗体断片を認識する標識された二次抗体、または標識に対応した基質などの通常の免疫学的検出または測定法に用いられる試薬があげられる。
【0136】
また、本発明はGas6関連疾患の治療薬もしくは診断薬の製造のための、抗ヒトGas6モノクローナル抗体または該抗体断片の使用に関する。
以下に、本発明の抗体の製造方法、疾患の治療方法、および疾患の診断方法について、具体的に説明する。
【0137】
1.抗体の製造方法
(1)抗原の調製
抗原となるヒトGas6は、ヒトGas6全長またはその部分長をコードするcDNAを含む発現ベクターを、大腸菌、酵母、昆虫細胞、または動物細胞などに導入したヒトGas6発現細胞から精製することで得られる。また、ヒトGas6を多量に発現している各種ヒト細胞株、ヒト細胞、ヒト組織などからヒトGas6を精製することによっても得ることが出来る。さらに、Fmoc法、またはtBoc法などの化学合成法によりヒトGas6の部分配列を有する合成ペプチドを調製し、抗原に用いることもできる。ヒトGas6またはヒトGas6の部分配列を有する合成ペプチドには、C末端もしくはN末端にFLAGもしくはHisなどの公知のタグが付加されていてもよい。
【0138】
本発明で用いられるヒトGas6は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)やCurrent Protocols In Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)などに記載された方法などを用い、例えば以下の方法により、該ヒトGas6をコードするDNAを宿主細胞中で発現させて、製造することができる。
【0139】
まず、ヒトGas6をコードする部分を含む完全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製する。上記完全長cDNAの代わりに、完全長cDNAをもとにして調製された、ポリペプチドをコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を用いてもよい。次に、得られた該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、ポリペプチドを生産する形質転換体を得ることができる。
【0140】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞における自律複製または染色体中への組込みが可能で、ポリペプチドをコードするDNAを転写できる位置に、適当なプロモーターを含有しているものであればいずれも用いることができる。
宿主細胞としては、大腸菌などのエシェリヒア属などに属する微生物、酵母、昆虫細胞、または動物細胞など、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。
【0141】
大腸菌などの原核生物を宿主細胞として用いる場合、組換えベクターは、原核生物中で自律複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、ヒトGas6をコードする部分を含むDNA、および転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。また、該組換えベクターには、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。さらに、該組換えベクターには、プロモーターを制御する遺伝子を含んでいてもよい。
【0142】
該組換えベクターとしては、リボソーム結合配列であるシャイン・ダルガルノ配列(SD配列ともいう)と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
また、該ヒトGas6をコードするDNAの塩基配列としては、宿主内での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することができ、これにより目的とするヒトGas6の生産率を向上させることができる。
【0143】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(以上、ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、pKK233―2(ファルマシア社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200[Agricultural Biological Chemistry, 48, 669 (1984)]、pLSA1[Agric. Biol. Chem., 53, 277 (1989)]、pGEL1[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306 (1985)]、pBluescript II SK(-)(ストラタジーン社製)、pTrs30[大腸菌JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrs32[大腸菌JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pGHA2[大腸菌IGHA2(FERM BP-400)より調製、特開昭60-221091]、pGKA2[大腸菌IGKA2(FERM BP-6798)より調製、特開昭60-221091]、pTerm2 (US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400[J. Bacteriol., 172, 2392 (1990)]、pGEX(ファルマシア社製)、pETシステム(ノバジェン社製)、またはpME18SFL3などがあげられる。
【0144】
プロモーターとしては、使用する宿主細胞中で機能を発揮できるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、またはT7プロモーターなどの、大腸菌やファージなどに由来するプロモーターを挙げることができる。また、Ptrpを2つ直列させたタンデムプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーター、またはlet Iプロモーターなどの人為的に設計改変されたプロモーターなども用いることができる。
【0145】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌XL1-Blue、大腸菌XL2-Blue、大腸菌DH1、大腸菌MC1000、大腸菌KY3276、大腸菌W1485、大腸菌JM109、大腸菌HB101、大腸菌No.49、大腸菌W3110、大腸菌NY49または大腸菌DH5αなどがあげられる。
【0146】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、使用する宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)、Gene, 17, 107 (1982)、Molecular & General Genetics, 168, 111 (1979)]があげられる。
【0147】
動物細胞を宿主として用いる場合、発現ベクターとしては、動物細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、pcDNAI、pCDM8(フナコシ社製)、pAGE107 [特開平3-22979;Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、pAS3-3(特開平2-227075)、pCDM8[Nature, 329, 840 (1987)]、pcDNAI/Amp(インビトロジェン社製)、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103[J. Biochemistry, 101, 1307 (1987)]、pAGE210、pME18SFL3、pKANTEX93(WO97/10354)、N5KG1val(US6,001,358)、INPEP4(Biogen-IDEC社製)およびトランスポゾンベクター(WO2010/143698)などがあげられる。
【0148】
プロモーターとしては、動物細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のimmediate early(IE)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター、またはモロニーマウス白血病ウイルスのプロモーターあるいはエンハンサーがあげられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0149】
宿主細胞としては、ヒト白血病細胞Namalwa細胞、サル細胞COS細胞、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞CHO細胞(Journal of Experimental Medicine, 108, 945 (1958); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 60 , 1275 (1968); Genetics, 55, 513 (1968); Chromosoma, 41, 129 (1973); Methods in Cell Science, 18, 115 (1996); Radiation Research, 148, 260 (1997); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216 (1980); Proc. Natl. Acad. Sci., 60, 1275 (1968); Cell, 6, 121 (1975); Molecular Cell Genetics, Appendix I, II (pp. 883-900);)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと表記する)が欠損したCHO細胞(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216(1980))、CHO-K1(ATCC CCL-61)、DUkXB11 (ATCC CCL-9096)、Pro-5(ATCC CCL-1781)、CHO-S(Life Technologies, Cat # 11619)、Pro-3、ラットミエローマ細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(またはYB2/0ともいう)、マウスミエローマ細胞NSO、マウスミエローマ細胞SP2/0-Ag14、シリアンハムスター細胞BHKまたはHBT5637(特開昭63-000299)、などがあげられる。
【0150】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、リン酸カルシウム法(特開平2-227075)、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)]などがあげられる。
【0151】
以上のようにして得られるヒトGas6をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターを保有する微生物、または動物細胞などの由来の形質転換体を培地中で培養し、培養液中に該ヒトGas6を生成蓄積させ、該培養液から採取することにより、ヒトGas6を製造することができる。該形質転換体を培地中で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0152】
真核生物由来の細胞で発現させた場合には、糖あるいは糖鎖が付加されたヒトGas6を得ることができる。
【0153】
また、Gas6のGlaドメインにγ‐カルボキシグルタミン酸残基(Gla)が結合したGas6タンパク質を作製するために、グルタミン酸残基のγ‐カルボキシル化に関与する酵素であるビタミンKエポキシドレダクターゼ(VKOR)やγ‐グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)を導入した細胞を用いることもできる。好ましくは、還元型ビタミンKの誘導を促進するためにビタミンKエポキシドレダクターゼコンプレックスサブユニット1(VKORC1)及びGGCXの両方を導入した細胞を用いることが好ましい。
【0154】
また、VKOR、VKORC1及びGGCXとしては、効率的にGas6へGla残基を導入できればいずれの酵素でもよく、ヒト、ラット、マウスなどいずれの種の酵素を用いてもよく、使用する宿主細胞に合わせて選択して使用することができる。好ましくは、ヒト又はラットのVKORC1及びGGCXの遺伝子を導入した細胞を用いて、Gla化されたGas6を作製することができる。
【0155】
誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドなどを、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはインドールアクリル酸などを培地に添加してもよい。
【0156】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association, 199, 519 (1967)]、EagleのMEM培地[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変MEM培地[Virology, 8, 396 (1959)]、199培地[Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950)]、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)培地、またはこれら培地に牛胎児血清(FBS)などを添加した培地などがあげられる。培養は、通常pH6〜8、30〜40℃、5% CO2存在下などの条件下で1〜7日間行う。また、培養中に必要に応じて、カナマイシン、ペニシリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。
【0157】
ヒトGas6をコードする遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、分泌生産または融合タンパク質発現などの方法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]を用いることができる。
ヒトGas6の生産方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、または宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、使用する宿主細胞や、生産させるヒトGas6の構造を変えることにより、適切な方法を選択することができる。
【0158】
ヒトGas6が宿主細胞内又は宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法[J. Biol. Chem., 264, 17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 86, 8227 (1989)、Genes Develop., 4, 1288 (1990)]、特開平05-336963、またはWO94/23021などに記載の方法を用いることにより、ヒトGas6を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
【0159】
また、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子などを用いた遺伝子増幅系(特開平2-227075)を利用してヒトGas6の生産量を上昇させることもできる。
得られたヒトGas6は、例えば、以下のようにして単離、精製することができる。
【0160】
ヒトGas6が細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後に細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、またはダイノミルなどを用いて細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安などによる塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)などのレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)などのレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロースなどのレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、または等電点電気泳動などの電気泳動法などの手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0161】
ヒトGas6が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、上記と同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として該ヒトGas6の不溶体を回収する。回収した該ヒトGas6の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈または透析することにより、該ヒトGas6を正常な立体構造に戻した後、上記と同様の単離精製法によりポリペプチドの精製標品を得ることができる。
【0162】
ヒトGas6またはその糖修飾体などの誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清において該ヒトGas6またはその糖修飾体などの誘導体を回収することができる。該培養物を上記と同様に遠心分離などの手法により処理することにより可溶性画分を取得し、該可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0163】
また、本発明において用いられるヒトGas6は、Fmoc法、またはtBoc法などの化学合成法によっても製造することができる。また、アドバンストケムテック社製、パーキン・エルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジインストルメント社製、シンセセル−ベガ社製、パーセプチブ社製、または島津製作所社製などのペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0164】
(2)動物の免疫と融合用抗体産生細胞の調製
3〜20週令のマウス、ラットまたはハムスターなどの動物に、(1)で得られる抗原を免疫して、その動物の脾、リンパ節、末梢血中の抗体産生細胞を採取する。また、マウスGas6ノックアウトマウスを被免疫動物として用いることもできる。
【0165】
免疫は、動物の皮下あるいは静脈内あるいは腹腔内に、例えば、フロインドの完全アジュバント、または水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチンなどの適当なアジュバントとともに抗原を投与することにより行う。抗原が部分ペプチドである場合には、BSA(ウシ血清アルブミン)、またはKLH(Keyhole Limpet hemocyanin)などのキャリアタンパク質とコンジュゲートを作製し、これを免疫原として用いる。
【0166】
抗原の投与は、1回目の投与の後、1〜2週間おきに5〜10回行う。各投与後3〜7日目に眼底静脈叢より採血し、その血清の抗体価を酵素免疫測定法[Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)]などを用いて測定する。免疫に用いた抗原に対し、その血清が十分な抗体価を示した動物を融合用抗体産生細胞の供給源とする。
【0167】
抗原の最終投与後3〜7日目に、免疫した動物より脾臓などの抗体産生細胞を含む組織を摘出し、抗体産生細胞を採取する。脾臓細胞を用いる場合には、脾臓を細断、ほぐした後、遠心分離し、さらに赤血球を除去して融合用抗体産生細胞を取得する。
【0168】
(3)骨髄腫細胞の調製
骨髄腫細胞としては、マウスから得られた株化細胞を用い、例えば、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[Current Topics in Microbiology and Immunology, 18, 1 (1978)]、P3-NS1/1-Ag41(NS-1)[European J. Immunology, 6, 511 (1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)[Nature, 276, 269 (1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J. Immunology, 123, 1548 (1979)]、またはP3-X63-Ag8(X63)[Nature, 256, 495 (1975)]などが用いられる。
【0169】
該骨髄腫細胞は、正常培地[グルタミン、2-メルカプトエタノール、ジェンタマイシン、FBS、および8-アザグアニンを加えたRPMI1640培地]で継代し、細胞融合の3〜4日前に正常培地に継代し、融合当日2×107個以上の細胞数を確保する。
【0170】
(4)細胞融合とモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの調製
(2)で得られる融合用抗体産生細胞と(3)で得られる骨髄腫細胞をMinimum Essential Medium(MEM)培地またはPBS(リン酸二ナトリウム1.83g、リン酸一カリウム0.21g、食塩7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)でよく洗浄し、細胞数が、融合用抗体産生細胞:骨髄腫細胞=5〜10:1になるよう混合し、遠心分離した後、上清を除く。沈澱した細胞群をよくほぐした後、ポリエチレングリコール−1000(PEG-1000)、MEM培地およびジメチルスルホキシドの混液を37℃で、攪拌しながら加える。さらに1〜2分間毎にMEM培地1〜2 mLを数回加えた後、MEM培地を加えて全量が50 mLになるようにする。遠心分離後、上清を除く。沈澱した細胞群をゆるやかにほぐした後、融合用抗体産生細胞にHAT培地[ヒポキサンチン、チミジン、およびアミノプテリンを加えた正常培地]中にゆるやかに細胞を懸濁する。この懸濁液を5% CO
2インキュベーター中、37℃で7〜14日間培養する。
【0171】
培養後、培養上清の一部を抜き取り、後述のバインディングアッセイなどのハイブリドーマの選択方法により、ヒトGas6を含む抗原に反応し、ヒトGas6を含まない抗原に反応しない細胞群を選択する。また、後述の競合アッセイなどにより、ヒトGas6とAxlなどのGas6受容体との結合を阻害する抗ヒトGas6抗体を産生するハイブリドーマ細胞群を選択する。次に、限界希釈法によりクローニングを行い、安定して強い抗体価の認められたものをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマとして選択する。
【0172】
(5)精製モノクローナル抗体の調製
プリスタン処理[2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(Pristane)0.5 mLを腹腔内投与し、2週間飼育する]した8〜10週令のマウスまたはヌードマウスに、(4)で得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを腹腔内に注射する。10〜21日でハイブリドーマは腹水癌化する。このマウスから腹水を採取し、遠心分離して固形分を除去後、40〜50% 硫酸アンモニウムで塩析し、カプリル酸沈殿法、DEAE-セファロースカラム、プロテインA−カラムあるいはゲル濾過カラムによる精製を行ない、IgGあるいはIgM画分を集め、精製モノクローナル抗体とする。
【0173】
また、(4)で得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、10%FBSを添加したRPMI1640培地などで培養した後、遠心分離により上清を除き、Hybridoma SFM培地に懸濁し、3〜7日間培養する。得られた細胞懸濁液を遠心分離し、得られた上清よりプロテインA-カラムまたはプロテインG-カラムによる精製を行ない、IgG画分を集め、精製モノクローナル抗体を得ることもできる。なお、Hybridoma SFM培地には5%ダイゴGF21を添加することもできる。
【0174】
抗体のサブクラスの決定は、サブクラスタイピングキットを用いて酵素免疫測定法により行う。タンパク質量の定量は、ローリー法または280 nmでの吸光度より算出する。
【0175】
(6)モノクローナル抗体の選択
モノクローナル抗体の選択は以下に示す酵素免疫測定法によるバインディングアッセイまたは競合アッセイなどにより行う。これらの方法以外に、Biacore(登録商標)によるKinetics解析などによりモノクローナル抗体を選択することもできる。また、公知の方法[The Prostate, 67, 1163 (2007)]により、抗体の標的抗原を同定することでモノクローナル抗体を選択することもできる。
【0176】
(6-a)バインディングアッセイ
抗原としては、(1)で得られるヒトGas6をコードするcDNAを含む発現ベクターを大腸菌、酵母、昆虫細胞、あるいは動物細胞などに導入して得られたリコンビナントタンパク質、またはヒト組織から得た精製ポリペプチドあるいは部分ペプチドなどを用いる。抗原がリコンビナントタンパク質である場合には、FLAGまたはHisなどのタグが付加されていてもよい。抗原が部分ペプチドである場合には、BSAまたはKLHなどのキャリアタンパク質とコンジュゲートを作製して、これを用いる。
【0177】
抗原を96ウェルプレートなどのプレートに分注し、固相化した後、第1抗体として血清、ハイブリドーマの培養上清または精製モノクローナル抗体などの被験物質を分注し、反応させる。PBSまたはPBS-Tweenなどで、よく洗浄した後、第2抗体としてビオチン、酵素、化学発光物質または放射線化合物などで標識した抗イムノグロブリン抗体を分注して反応させる。PBS-Tweenでよく洗浄した後、第2抗体の標識物質に応じた反応を行ない、免疫原に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を選択する。
【0178】
また、本発明のヒトGas6に結合するモノクローナル抗体が結合するエピトープを含むエピトープに結合する抗体は、上述のバインディングアッセイ系で取得された抗体のエピトープを公知の方法で同定し、同定したエピトープを含む合成ペプチド等を作製し、免疫することで取得することができる。
【0179】
更に、本発明のヒトGas6に結合するモノクローナル抗体が結合するエピトープと、同じエピトープに結合する抗体は、上述のバインティングアッセイ系で取得された抗体のエピトープを同定し、同定したエピトープの部分的な合成ペプチド、またはエピトープの立体構造に擬態させた合成ペプチド等を作製し、免疫することで、取得することができる。
【0180】
(6-b)競合アッセイ
(1)に記載の方法に準じて、ヒトAxl細胞外ドメインとヒトIgG1重鎖定常領域融合タンパク質(hAxl-hFc)を調整する。hAxl-hFcは、ヒトAxl細胞外ドメインとIgG1重鎖定常領域との間に適当な制限酵素認識配列を有していてもよい。得られたhAxl-hFcを96ウェルプレートに分注し、固相化する。次に、ハイブリドーマ培養上清または精製モノクローナル抗体などの被験物質及び(1)で得られるタグ付きhGas6の混合溶液をウェルに分注し、反応させる。PBSまたはPBS-Tweenなどでよく洗浄した後、検出用抗体としてビオチン、酵素、化学発光物質または放射線化合物などで標識した上記タグに対する抗体を分注して反応させる。PBS-Tweenでよく洗浄した後、検出用抗体の標識物質に応じた反応を行い、hGas6とhAxl-hFcとの結合を阻害するモノクローナル抗体を選択する。
【0181】
(6-c)Biacore(登録商標)によるカイネティクス解析
Biacore(登録商標) T100を用い、抗原と被験物質の間の結合におけるカイネティクスを測定し、その結果を機器付属の解析ソフトウエアで解析をする。抗マウスIgG抗体をセンサーチップCM5にアミンカップリング法により固定した後、ハイブリドーマ培養上清または精製モノクローナル抗体などの被験物質を流し、適当量結合させ、更に濃度既知の複数濃度の抗原を流し、結合、解離を測定する。得られたデータを機器付属のソフトウエアを用い、1:1バインディングモデルによりカイネティクス解析を行い、各種パラメータを取得する。または、ヒトGas6、該部分ペプチド、該部分ペプチドをキャリアタンパク質とコンジュゲートしたものをセンサーチップ上に、例えばアミンカップリング法により固定した後、濃度既知の複数濃度の精製モノクローナル抗体を流し、結合および解離を測定する。得られたデータを機器付属のソフトウエアを用い、バイバレントバインディングモデルによるカイネティクス解析を行い、各種パラメータを取得する。
【0182】
2.遺伝子組換え抗体の作製
遺伝子組換え抗体の作製例として、以下にヒト型キメラ抗体およびヒト化抗体の作製方法を示す。
【0183】
(1)遺伝子組換え抗体発現用ベクターの構築
遺伝子組換え抗体発現用ベクターは、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAが組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAをそれぞれクローニングすることにより構築することができる。
【0184】
ヒト抗体のC領域は任意のヒト抗体のCHおよびCLを用いることができる。例えば、ヒト抗体のγ1サブクラスのCHおよびκクラスのCLなどを用いる。ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAには、cDNAを用いるが、エキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることもできる。動物細胞用発現ベクターには、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107[Cytotechnol., 3, 133 (1990)]、pAGE103[J. Biochem., 101, 1307 (1987)〕、pHSG274[Gene, 27, 223 (1984)]、pKCR[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 1527 (1981)]、pSG1bd2-4[Cytotechnol., 4, 173 (1990)]、またはpSE1UK1Sed1-3[Cytotechnol., 13, 79 (1993)]などを用いる。動物細胞用発現ベクターのうちプロモーターとエンハンサーには、SV40の初期プロモーター[J. Biochem., 101, 1307 (1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスLTR[Biochem. Biophys. Res. Commun., 149, 960 (1987)]、または免疫グロブリンH鎖のプロモーター[Cell, 41, 479 (1985)]とエンハンサー[Cell, 33, 717 (1983)]などを用いる。
【0185】
遺伝子組換え抗体発現用ベクターには、遺伝子組換え抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、動物細胞内での抗体H鎖およびL鎖の発現量のバランスが均衡するなどの点から、抗体H鎖およびL鎖が同一のベクター上に存在するタイプ(タンデム型)の遺伝子組換え抗体発現用ベクター[J.Immunol. Methods, 167, 271(1994)]を用いるが、抗体H鎖およびL鎖が別々のベクター上に存在するタイプを用いることもできる。タンデム型の遺伝子組換え抗体発現用ベクターには、pKANTEX93(WO97/10354)、pEE18[Hybridoma, 17, 559 (1998)]などを用いる。
【0186】
(2)ヒト以外の動物由来の抗体のV領域をコードするcDNAの取得およびアミノ酸配列の解析
非ヒト抗体のVH及びVLをコードするcDNAの取得およびアミノ酸配列の解析は以下のようにして行うことができる。
【0187】
非ヒト抗体を産生するハイブリドーマ細胞よりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージまたはプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、マウス抗体のC領域部分またはV領域部分をコードするDNAをプローブとして用い、VHあるいはVLをコードするcDNAを有する組換えファージまたは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージまたは組換えプラスミド上の目的とするマウス抗体のVHあるいはVLの全塩基配列をそれぞれ決定し、塩基配列よりVHまたはVLの全アミノ酸配列をそれぞれ推定する。
【0188】
非ヒト抗体を産生するハイブリドーマ細胞を作製するヒト以外の動物には、マウス、ラット、ハムスター、またはラビットなどを用いるが、ハイブリドーマ細胞を作製することが可能であれば、いかなる動物も用いることができる。
【0189】
ハイブリドーマ細胞からの全RNAの調製には、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法[Methods in Enzymol., 154, 3 (1987)]、またはRNA easy kit(キアゲン社製)などのキットなどを用いる。
【0190】
全RNAからのmRNAの調製には、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]、またはOligo-dT30<Super> mRNA Purification(登録商標) Kit(タカラバイオ社製)などのキットなどを用いる。また、Fast Track mRNA Isolation(登録商標) Kit(インビトロジェン社製)、またはQuickPrep mRNA Purification(登録商標) Kit(ファルマシア社製)などのキットを用いてハイブリドーマ細胞からmRNAを調製することもできる。
【0191】
cDNAの合成およびcDNAライブラリーの作製には、公知の方法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1, John Wiley & Sons (1987-1997)]、またはSuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(インビトロジェン社製)、あるいはZAP-cDNA Synthesis(登録商標) Kit(ストラタジーン社製)などのキットなどを用いる。
【0192】
cDNAライブラリーの作製の際、ハイブリドーマ細胞から抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターには、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP Express[Strategies, 5, 58 (1992)]、pBluescript II SK(+)[Nucleic Acids Research, 17, 9494 (1989)]、λZAPII(Stratagene社製)、λgt10、λgt11[DNA Cloning:A Practical Approach, I, 49 (1985)]、Lambda BlueMid(クローンテック社製)、λExCell、pT7T3-18U(ファルマシア社製)、pCD2[Mol. Cell. Biol., 3, 280 (1983)]、またはpUC18[Gene, 33, 103 (1985)]などを用いる。
【0193】
ファージまたはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌には、該cDNAライブラリーを導入、発現および維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1-Blue MRF’[Strategies, 5, 81 (1992)]、C600[Genetics, 39, 440 (1954)]、Y1088、Y1090[Science, 222, 778 (1983)]、NM522[J. Mol. Biol., 166, 1 (1983)]、K802[J. Mol. Biol., 16, 118 (1966)]、またはJM105[Gene, 38, 275 (1985)]などを用いる。
【0194】
cDNAライブラリーからの非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAクローンの選択には、アイソトープあるいは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法、またはプラーク・ハイブリダイゼーション法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]などを用いる。
【0195】
また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNAまたはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction法[以下、PCR法と表記する、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition , Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1, John Wiley & Sons (1987-1997)]を行うことよりVHまたはVLをコードするcDNAを調製することもできる。
【0196】
選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断後、pBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法などにより該cDNAの塩基配列を決定する。塩基配列解析方法には、例えば、ジデオキシ法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463 (1977)]などの反応を行った後、ABI PRISM3700(PEバイオシステムズ社製)またはA.L.F.DNAシークエンサー(ファルマシア社製)などの塩基配列自動分析装置などを用いる。
【0197】
決定した塩基配列からVHおよびVLの全アミノ酸配列をそれぞれ推定し、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services (1991)]と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列をコードしているかをそれぞれ確認する。分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVLの完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services (1991)]と比較することにより、分泌シグナル配列の長さおよびN末端アミノ酸配列を推定でき、更にはそれらが属するサブグループを知ることができる。また、VHおよびVLの各CDRのアミノ酸配列についても、既知の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services (1991)]と比較することによって見出すことができる。
【0198】
また、得られたVHおよびVLの完全なアミノ酸配列を用いて、例えば、SWISS-PROTまたはPIR-Proteinなどの任意のデータベースに対してBLAST法[J. Mol. Biol., 215, 403 (1990)]などの相同性検索を行い、VHおよびVLの完全なアミノ酸配列が新規なものかを確認できる。
【0199】
(3)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、それぞれ非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAをそれぞれクローニングすることで、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
【0200】
非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAの3’末端側と、ヒト抗体のCHまたはCLの5’末端側とを連結するために、連結部分の塩基配列が適切なアミノ酸をコードし、かつ適当な制限酵素認識配列になるように設計したVHおよびVLのcDNAを作製する。作製されたVHおよびVLのcDNAを、(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現する様にそれぞれクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築する。
【0201】
また、非ヒト抗体VHまたはVLをコードするcDNAを、適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAを用いてPCR法によりそれぞれ増幅し、(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターにクローニングすることもできる。
【0202】
(4)ヒト化抗体のV領域をコードするcDNAの構築
ヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAは、以下のようにして構築することができる。
【0203】
非ヒト抗体のVHまたはVLのCDRのアミノ酸配列を移植するための、ヒト抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列をそれぞれ選択する。選択するFRのアミノ酸配列には、ヒト抗体由来のものであれば、いずれのものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のFRのアミノ酸配列、またはヒト抗体のFRの各サブグループの共通アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services (1991)]などを用いる。抗体の結合活性の低下を抑えるため、元の抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(少なくとも60%以上)のFRのアミノ酸配列を選択する。
【0204】
次に、選択したヒト抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列に、もとの抗体のCDRのアミノ酸配列をそれぞれ移植し、ヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をそれぞれ設計する。設計したアミノ酸配列を抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services (1991)]を考慮してDNA配列に変換し、ヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列をそれぞれ設計する。
【0205】
設計したDNA配列に基づき、100塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR反応を行う。この場合、PCR反応での反応効率及び合成可能なDNAの長さから、好ましくはVH、VL各々について各6本の合成DNAを設計する。さらに、両端に位置する合成DNAの5’または3’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、ヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAを、(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターへ容易にクローニングすることができる。
【0206】
PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにそれぞれクローニングし、(2)に記載の方法と同様の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。
【0207】
または、設計したDNA配列に基づき、VH全長およびVL全長を各々1本の長鎖DNAとして合成したものを、上記PCR増幅産物に代えて用いることもできる。さらに、合成長鎖DNAの両端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、ヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAを、(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターへ容易にクローニングすることができる。
【0208】
(5)ヒト化抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト化抗体は、非ヒト抗体のVHおよびVLのCDRのみをヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元の非ヒト抗体に比べて低下する[BIO/TECHNOLOGY, 9, 266 (1991)]。ヒト化抗体では、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列の中で、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基、CDRのアミノ酸残基と相互作用するアミノ酸残基、および抗体の立体構造を維持し、間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらのアミノ酸残基を元の非ヒト抗体のアミノ酸残基に置換することにより、低下した抗原結合活性を上昇させることができる。
【0209】
抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を同定するために、X線結晶解析[J. Mol. Biol., 112, 535 (1977)]またはコンピューターモデリング[Protein Engineering, 7, 1501 (1994)]などを用いることにより、抗体の立体構造の構築および解析を行うことができる。また、それぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討することを繰り返し、試行錯誤することで必要な抗原結合活性を有するヒト化抗体を取得できる。
【0210】
ヒト抗体のVH及びVLのFRのアミノ酸残基は、改変用合成DNAを用いて(4)に記載のPCR反応を行うことにより、改変させることができる。PCR反応後の増幅産物について(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の改変が施されたことを確認する。
【0211】
(6)ヒト化抗体発現ベクターの構築
(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、構築した遺伝子組換え抗体のVHまたはVLをコードするcDNAをそれぞれクローニングし、ヒト化抗体発現ベクターを構築することができる。
【0212】
例えば、(4)および(5)で得られるヒト化抗体のVHまたはVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’または3’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(1)で得られるヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにそれぞれクローニングする。
【0213】
(7)遺伝子組換え抗体の一過性発現
(3)および(6)で得られる遺伝子組換え抗体発現ベクター、またはそれらを改変した発現ベクターを用いて遺伝子組換え抗体の一過性発現を行い、作製した多種類のヒト型キメラ抗体、ヒト化抗体の抗原結合活性を効率的に評価することができる。
【0214】
発現ベクターを導入する宿主細胞には、遺伝子組換え抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、例えばCOS-7細胞[American Type Culture Collection(ATCC)番号:CRL1651]を用いる[Methods in Nucleic Acids Res., CRC press, 283 (1991)]。
【0215】
COS-7細胞への発現ベクターの導入には、DEAE-デキストラン法[Methods in Nucleic Acids Res., CRC press (1991)]、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)]などを用いる。
【0216】
発現ベクターの導入後、培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量および抗原結合活性は酵素免疫抗体法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition, Academic Press (1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)、単クローン抗体実験マニュアル, 講談社サイエンティフィック (1987)]などを用いて測定する。
【0217】
(8)遺伝子組換え抗体を安定に発現する形質転換株の取得と遺伝子組換え抗体の調製
(3)および(6)で得られた遺伝子組換え抗体発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより遺伝子組換え抗体を安定に発現する形質転換株を得ることができる。
宿主細胞への発現ベクターの導入には、エレクトロポレーション法[特開平2-257891、Cytotechnology, 3, 133 (1990)]などを用いる。
【0218】
遺伝子組換え抗体発現ベクターを導入する宿主細胞には、遺伝子組換え抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。例えば、CHO-K1(ATCC CCL-61)、DUKXB11 (ATCC CCL-9096)、Pro-5(ATCC CCL-1781)、CHO-S(Life Technologies, Cat # 11619)、ラットミエローマ細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(ATCC番号:CRL1662、またはYB2/0ともいう)、マウスミエローマ細胞NS0、マウスミエローマ細胞SP2/0-Ag14(ATCC番号:CRL1581)、マウスP3X63-Ag8.653細胞(ATCC番号:CRL1580)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(Dihydroforate Reductase、以下、dhfrと表記する)が欠損したCHO細胞[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216 (1980)]などを用いる。
【0219】
また、細胞内糖ヌクレオチドGDP-フコースの合成に関与する酵素などのタンパク質あるいはN−グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素などのタンパク質、または細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースのゴルジ体への輸送に関与するタンパク質などの活性が低下または欠失した宿主細胞、例えばα1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(WO2005/035586、WO02/31140)、レクチン耐性を獲得したLec13[Somatic Cell and Molecular genetics, 12, 55 (1986)]などを用いることもできる。
【0220】
発現ベクターの導入後、遺伝子組換え抗体を安定に発現する形質転換株は、G418硫酸塩(以下、G418と表記する)などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択する(特開平2-257891)。
【0221】
動物細胞培養用培地には、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX-CELL301培地(ジェイアールエイチ社製)、IMDM培地(インビトロジェン社製)、Hybridoma-SFM培地(インビトロジェン社製)、またはこれら培地にFBSなどの各種添加物を添加した培地などを用いる。得られた形質転換株を培地中で培養することで培養上清中に遺伝子組換え抗体を発現蓄積させる。培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量および抗原結合活性はELISA法などにより測定できる。また、dhfr遺伝子増幅系(特開平2-257891)などを利用して、形質転換株の産生する遺伝子組換え抗体の発現量を向上させることができる。
【0222】
遺伝子組換え抗体は、形質転換株の培養上清よりプロテインA-カラムを用いて精製する[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press (1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)]。また、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよび限外濾過などのタンパク質の精製で用いられる方法を組み合わすこともできる。
【0223】
精製した遺伝子組換え抗体のH鎖、L鎖或いは抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法[Nature, 227, 680 (1970)]、またはウェスタンブロッティング法[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press (1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]など用いて測定することができる。
【0224】
3.精製モノクローナル抗体またはその抗体断片の活性評価
精製した本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片の活性評価は、以下のように行うことができる。
【0225】
ヒトGas6に対する結合活性は、前述の1-(6a)記載のバインディングアッセイおよび(6c)記載のBiacore(登録商標)システムなどを用いた表面プラズモン共鳴法を用いて測定する。また、蛍光抗体法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373 (1993)]などを用いて測定できる。
【0226】
ヒトGas6とGas6受容体との結合阻害活性は、例えば、前述の1-(6b)記載の競合アッセイを用いて測定することができる。
【0227】
4.本発明の抗ヒトGas6モノクローナル抗体またはその抗体断片を用いた疾患の治療方法
本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片は、ヒトGas6依存的な細胞増殖、病変などGas6が関連する疾患であれば、いずれのヒトGas6関連疾患の治療に用いることができる。
【0228】
本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片を含有する治療剤は、有効成分としての該抗体または該抗体断片のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の方法により製造した医薬製剤として提供される。
【0229】
投与経路には、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内もしくは静脈内などの非経口投与があげられ、投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、またはテープ剤などがあげられる。
経口投与に適当な製剤は、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、または顆粒剤などである。
【0230】
乳剤またはシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトールあるいは果糖などの糖類、ポリエチレングリコールあるいはプロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油あるいは大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、またはストロベリーフレーバーあるいはペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造する。
【0231】
カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖あるいはマンニトールなどの賦形剤、デンプンあるいはアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムあるいはタルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースあるいはゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤またはグリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造する。
【0232】
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤または噴霧剤などである。
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、またはその両者の混合物からなる担体などを用いて製造する。
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて製造する。
【0233】
噴霧剤は受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片を微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせる担体などを用いて製造する。担体としては、例えば乳糖またはグリセリンなどを用いる。また、エアロゾルまたはドライパウダーとして製造することもできる。
さらに、上記非経口剤においても、経口投与に適当な製剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0234】
5.本発明の抗ヒトGas6モノクローナル抗体またはその抗体断片を用いた疾患の診断方法
本発明のモノクローナル抗体または該抗体断片を用いて、ヒトGas6またはヒトGas6が発現した細胞を検出または測定することにより、ヒトGas6関連疾患を診断することができる。
ヒトGas6関連疾患である腎または癌疾患の診断は、例えば患者体内に存在するヒトGas6を免疫学的手法により検出または測定して行うことができる。また、患者体内の細胞に発現しているヒトGas6をフローサイトメトリーなどの免疫学的手法を用いて検出することにより診断を行うことができる。
【0235】
免疫学的手法とは、標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を検出または測定する方法である。例えば、放射性物質標識免疫抗体法、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、ウエスタンブロット法または物理化学的手法などを用いる。
【0236】
放射性物質標識免疫抗体法は、例えば、抗原または抗原を発現した細胞などに、本発明の抗体または該抗体断片を反応させ、さらに放射線標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、シンチレーションカウンターなどで測定する。
【0237】
酵素免疫測定法は、例えば、抗原または抗原を発現した細胞などに、本発明の抗体または該抗体断片を反応させ、さらに標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、発色色素を吸光光度計で測定する。例えばサンドイッチELISA法などを用いる。酵素免疫測定法で用いる標識体としては、公知[酵素免疫測定法, 医学書院 (1987)]の酵素標識を用いることができる。
【0238】
例えば、アルカリフォスファターゼ標識、ペルオキシダーゼ標識、ルシフェラーゼ標識、またはビオチン標識などを用いる。サンドイッチELISA法は、固相に抗体を結合させた後、検出または測定対象である抗原をトラップさせ、トラップされた抗原に第2の抗体を反応させる方法である。該ELISA法では、検出または測定したい抗原を認識する抗体または抗体断片であって、抗原認識部位の異なる2種類の抗体を準備し、そのうち、第1の抗体または抗体断片を予めプレート(例えば、96ウェルプレート)に吸着させ、次に第2の抗体または抗体断片をFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼなどの酵素、またはビオチンなどで標識しておく。上記の抗体が吸着したプレートに、生体内から分離された、細胞またはその破砕液、組織またはその破砕液、細胞培養上清、血清、胸水、腹水または眼液などを反応させた後、標識したモノクローナル抗体または抗体断片を反応させ、標識物質に応じた検出反応を行う。濃度既知の抗原を段階的に希釈して作成した検量線より、被験サンプル中の抗原濃度を算出する。サンドイッチELISA法に用いる抗体としては、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれを用いてもよく、Fab、Fab’、またはF(ab)
2などの抗体フラグメントを用いてもよい。サンドイッチELISA法で用いる2種類の抗体の組み合わせとしては、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体または抗体断片の組み合わせでもよいし、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体または抗体断片との組み合わせでもよい。
【0239】
蛍光免疫測定法は、文献[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition,Academic Press (1996)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック (1987)]などに記載された方法で測定する。蛍光免疫測定法で用いる標識体としては、公知[蛍光抗体法, ソフトサイエンス社 (1983)]の蛍光標識を用いることができる。例えば、FITCまたはRITCなどを用いる。
【0240】
発光免疫測定法は文献[生物発光と化学発光 臨床検査42, 廣川書店 (1998)]などに記載された方法で測定する。発光免疫測定法で用いる標識体としては、公知の発光体標識があげられ、アクリジニウムエステル、ロフィンなどを用いる。
【0241】
ウエスタンブロット法は、抗原または抗原を発現した細胞などをSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)-PAGE(ポリアクリルアミドゲル)[Antibodies - A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory (1988)]で分画した後、該ゲルをポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜またはニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜に抗原を認識する抗体または抗体断片を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼなどの酵素標識、またはビオチン標識などを施した抗マウスIgG抗体または結合断片を反応させた後、該標識を可視化することによって測定する。
【0242】
一例を以下に示す。配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現している細胞や組織を溶解し、還元条件下でレーンあたりのタンパク量として0.1〜30μgをSDS-PAGE法により泳動する。泳動されたタンパク質をPVDF膜にトランスファーし、1〜10%BSAを含むPBS(以下、BSA-PBSと表記する)に室温で30分間反応させブロッキング操作を行う。ここで本発明のモノクローナル抗体を反応させ、0.05〜0.1%のTween-20を含むPBS(以下、Tween-PBSと表記する)で洗浄し、ペルオキシダーゼ標識したヤギ抗マウスIgGを室温で2時間反応させる。Tween-PBSで洗浄し、ECL Western Blotting Detection Reagents(アマシャム社製)などを用いてモノクローナル抗体が結合したバンドを検出することにより、配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチドを検出する。ウェスタンブロッティングでの検出に用いられる抗体としては、天然型の立体構造を保持していないポリペプチドに結合できる抗体が用いられる。
【0243】
物理化学的手法は、例えば、抗原であるヒトGas6と本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片とを結合させることにより凝集体を形成させて、この凝集体を検出することにより行う。この他に物理化学的手法として、毛細管法、一次元免疫拡散法、免疫比濁法あるいはラテックス免疫比濁法[臨床検査法提要, 金原出版 (1998)]などを用いることもできる。ラテックス免疫比濁法は、抗体または抗原を感作させた粒径0.1〜1μm程度のポリスチレンラテックスなどの担体を用い、対応する抗原あるいは抗体により抗原抗体反応を起こさせると、反応液中の散乱光は増加し、透過光は減少する。この変化を吸光度あるいは積分球濁度として検出することにより被験サンプル中の抗原濃度などを測定する。
【0244】
ヒトGas6が発現している細胞の検出または測定は、公知の免疫学的検出法を用いることができるが、中でも、免疫沈降法、免疫細胞染色法、免疫組織染色法または蛍光抗体染色法などを用いることが好ましい。
【0245】
免疫沈降法は、ヒトGas6を発現した細胞などを本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片と反応させた後、プロテインG-セファロースなどのイムノグロブリンに特異的な結合能を有する担体を加えて抗原抗体複合体を沈降させる。または以下のような方法によっても行うことができる。ELISA用96ウェルプレートに上述した本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片を固相化した後、BSA-PBSによりブロッキングする。抗体が、例えばハイブリドーマ培養上清などの精製されていない状態である場合には、抗マウスイムノグロブリン、抗ラットイムノグロブリン、プロテイン-Aまたはプロテイン-GなどをあらかじめELISA用96ウェルプレートに固相化し、BSA-PBSでブロッキングした後、ハイブリドーマ培養上清を分注して結合させる。次に、BSA-PBSを捨てPBSでよく洗浄した後、ヒトGas6を発現している細胞や組織の溶解液を反応させる。よく洗浄した後のプレートより免疫沈降物をSDS-PAGE用サンプルバッファーで抽出し、上記のウェスタンブロッティングにより検出する。
【0246】
免疫細胞染色法または免疫組織染色法は、抗原を発現した細胞または組織などを、場合によっては抗体の通過性を良くするため界面活性剤やメタノールなどで処理した後、本発明のモノクローナル抗体と反応させ、さらにFITCなどの蛍光標識、ペルオキシダーゼなどの酵素標識またはビオチン標識などを施した抗イムノグロブリン抗体またはその結合断片と反応させた後、該標識を可視化し、顕微鏡にて顕鏡する方法である。また、蛍光標識の抗体と細胞を反応させ、フロ−サイトメーターにて解析する蛍光抗体染色法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition,Academic Press (1996)、単クローン抗体実験マニュアル, 講談社サイエンティフィック (1987)]により検出を行うことができる。特に、ヒトGas6に結合する、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片は、蛍光抗体染色法により天然型の立体構造を保持して発現している細胞の検出ができる。
【0247】
また、蛍光抗体染色法のうち、FMAT8100HTSシステム(アプライドバイオシステム社製)などを用いた場合には、形成された抗体−抗原複合体と、抗体−抗原複合体の形成に関与していない遊離の抗体または抗原とを分離することなく、抗原量または抗体量を測定できる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0248】
[実施例1]Gas6ノックアウト(以下 、KOと記載する)マウスの入手
タコニック社よりGas6へテロKOマウスの精子を購入した。購入したGas6ヘテロKOマウスのバックグラウンドは129/SvEv-C57BL/6であった。日本クレア社にて、当該Gas6へテロKOマウスの精子をC57BL/6NJclマウスの卵子と体外受精させた後、レシピエントマウスに受精卵を移植して仔を得た。得られた仔に対し、公知の方法でジェノタイピングを行いGas6遺伝子がノックアウトされていることを確認し、Gas6 ホモKOマウスを得た。
【0249】
[実施例2]各種Gas6組換え体の作製
免疫及びスクリーニングに使用するために、以下に記載する方法で、C末端にFLAG-tagを付加したヒト、カニクイサル、ラット及びマウスのGas6組換えタンパク質を作製した。以下、それぞれhGas6-F、cGas6-F、rGas6-F、及びmGas6-Fと記す。
【0250】
(1)hGas6-F発現ベクターの構築
hGas6-F遺伝子配列が組み込まれた動物細胞発現ベクターは、ヒトGas6の遺伝子配列(配列番号3、GenBankアクセッション番号:NM_000820)が組み込まれたプラスミド(Invitrogen社製)から以下のように作製した。
【0251】
hGas6-F遺伝子を含むDNA断片は、上記プラスミドを鋳型とし、プライマー1、2(配列番号1、2)を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した。PCRは、鋳型プラスミド、各10 pmolの上記2種類のプライマー、及びKOD FX(東洋紡社製)を含む20 μLの反応液を調製し、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間、58℃で30秒間、及び68℃で2.5分間を1サイクルとして30サイクル反応させた。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)を用いて約2kbpの増幅DNA断片(hGas6-F遺伝子を含むDNA断片)を回収した。得られた増幅DNA断片を、ZERO BLUNT TOPO PCR CLONING KIT(インビロジェン社製)を用いてpCR4-Blunt-TOPOベクターに挿入し、プラスミドpCR4-hGas6-Fを含む反応液を得た。当該反応液を用いて通常の方法で大腸菌DH5α株(TOYOBO社製)を形質転換、得られた形質転換体より、プラスミドpCR4-hGas6-Fを抽出した。得られたpCR4-hGas6-Fについては、PCRに起因する変異がない挿入遺伝子配列を有するクローンを選択し、以降の実験に使用した。
【0252】
次に、pCR4-hGas6-Fを制限酵素EcoRI及びBamHIで酵素処理した。反応液をアガロースゲル電気泳動に供した後、QIAquick Gel Extraction Kit を用いて約2 kbpのDNA断片(以下、hGas6-F- EcoRI-BamHIと記す)を回収した。同様に、動物細胞発現用ベクターpKANTEX93(WO97/10354)をEcoRI及びBamHIで酵素処理した。反応液をアガロースゲル電気泳動に供した後、QIAquick Gel Extraction Kit を用いて約9.3kbpのDNA断片(以下、pKANTEX93-EcoRI-BamHIと記す)を回収した。得られた2種類のDNA断片をLigation High ver.2(東洋紡社製)を用いて連結させ、当該反応液を用いて大腸菌DH5α株(TOYOBO)を形質転換した。得られた形質転換体よりhGas6-F動物細胞発現ベクターであるpKANTEX-hGas6-Fを得た。
【0253】
(2)cGas6-F発現ベクターの構築
cGas6-F遺伝子が組み込まれた動物細胞発現ベクターを、以下の方法で構築した。まず最初にカニクイサルGas6遺伝子のクローニングを行った。カニクイサルGas6遺伝子を含むDNA断片はPCRにより増幅した。PCRは、鋳型であるカニクイサル肺由来のcDNA(CytoMol社製)、各10 pmolのプライマー3、4(配列番号5、6)、KOD-plus-(東洋紡社製)、及び2%DMSOを含む20 μLの反応液を調製し、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間、65℃で30秒間、及び68℃で2.5分間を1サイクルとして35サイクル行った。以降は(1)と同様の方法で、pCR4-Blunt-TOPOベクターに増幅DNA断片(cGas6遺伝子を含むDNA断片)を挿入したプラスミドpCR4-cGas6を得た。得られたプラスミドについて通常の方法でシーケンス解析を行い、得られたカニクイサルGas6の塩基配列を配列番号7に、当該塩基配列から推定されるカニクイサルGas6のアミノ酸配列を配列番号8に示した。
【0254】
続いて、cGas6-F遺伝子を含むDNA断片をPCR法により増幅させ、動物細胞発現用ベクターpKANTEX93に組み込んだ。PCRは、鋳型であるpCR4-Gas6、各10 pmolのプライマー5、6(配列番号9、10)、及びPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を含む20 μLの反応液を調製し、94℃で5分間保温した後、98℃で10秒間、68℃で2分20秒間を1サイクルとして35サイクルを行った。
【0255】
得られたPCR産物及びpKANTEX93から、(1)と同様の方法で制限酵素消化したDNA断片(cGas6-F-EcoRI-BamHI及び pKANTEX93-EcoRI-BamHI)を回収した。得られた2種類のDNA断片を、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社製)を用いて連結させ、(1)と同様の方法でcGas6-F動物細胞発現用ベクターpKANTEX-cGas6-Fを取得した。得られたベクターについては、PCRに起因する変異がない挿入遺伝子を有するクローンを選択し、以降の実験に使用した。
【0256】
(3)rGas6-F発現ベクターの構築
rGas6-F遺伝子が組み込まれた動物細胞発現ベクターを以下の方法で作製した。
rGas6-F遺伝子を含むDNA断片は、PCR法により増幅させた。PCRは、鋳型であるラット心臓又は肝臓由来のcDNA(タカラバイオ社製)、各10 pmolのプライマー7、8(配列番号11、12)、及びKOD FX(東洋紡社製)を含む20 μLの反応液を調製し、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間、58℃で30秒間、及び68℃で2.5分間を1サイクルとして30サイクル行った。
【0257】
(1)と同様の方法で、pCR4-Blunt-TOPOベクターにPCRで増幅させたDNA断片(rGas6-F遺伝子を含むDNA断片)を挿入し、プラスミドpCR4-rGas6-Fを得た。得られたプラスミドが有するラットGas6の塩基配列は、GenBankアクセッション番号:NM_057100で示されるラットGas6の塩基配列(配列番号13)と一致し、PCRに起因する遺伝子変異が生じていないことを確認した。
得られたpCR4-rGas6-Fをもとにして、(1)と同様の方法で、pKANTEX93にrGas6-F遺伝子を挿入し、rGas6-F動物細胞発現ベクターであるpKANTEX-rGas6-Fを得た。
【0258】
(4)mGas6-F発現ベクターの構築
mGas6-F遺伝子が組み込まれた動物細胞発現ベクターを、以下に記載する方法で作製した。
mGas6-F遺伝子を含むDNA断片をPCRにより増幅させた。PCRは、鋳型であるマウス腎臓又は肺由来のcDNA(ambion社製)、各10 pmolのプライマー7、9(配列番号11及び15)のプライマー、及びKOD FX(東洋紡社製)を含む20 μLの反応液を調製し、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間、58℃で30秒間、及び68℃で2.5分間を1サイクルとして30サイクル行った。(1)と同様の方法で、pCR4-Blunt-TOPOベクターにPCRで増幅させたDNA断片(mGas6-F遺伝子を含むDNA断片)を挿入し、プラスミドpCR4-mGas6-Fを得た。得られたプラスミドが有するマウスGas6の塩基配列は、GenBankアクセッション番号:NM_019521で示されるマウスGas6の塩基配列(配列番号16)と一致し、PCRに起因する遺伝子変異が生じていないことを確認した。得られたpCR4-mGas6-Fをもとにして、(1)と同様の方法でpKANTEX93にmGas6-F遺伝子を挿入し、mGas6-F動物細胞発現ベクターであるpKANTEX-mGas6-Fを得た。
【0259】
(5)hGas6-F安定発現細胞株の樹立
hGas6-Fの安定発現細胞株を樹立するため、(1)で作製したhGas6-F発現ベクターpKANTEX-hGas6-Fを、エレクトロポレーション法[サイトテクノロジー、3,133(199)]を用いて、以下のようにしてdhfrが欠損したCHO細胞[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216(1980)]に導入した。
細胞の培養は、通常継代には基礎培地[10% 透析FBS(GIBCO社製)、1×HT溶液(invitrogen社製)、50μg/mL Gentamicin(ナカライテスク社製)を含むIMDM(Invitrogen社製)]を使用した。遺伝子導入後の細胞の選抜時には50 nM、200 nMもしくは500 nMのmethotrexate hydrate(Sigma-Aldrich社製)(以下、MTXと記載する)を含む基礎培地(MTX培地)を使用した。いずれの細胞も、37℃、5% CO
2条件下で静置培養した。
【0260】
10μg のpKANTEX-hGas6-Fを含むプラスミド溶液[(1)で得られたpKANTEX-hGas6-Fを滅菌水に溶解させた溶液]をエレクトロポレーション用キュベット(Bio-Rad社製)に添加した。該キュベットにK-PBS[137 mmol/LのKCl、2.7 mmol/LのNaCl、8.1 mmol/LのNa
2HPO
4、1.5 mmol/LのKH
2PO
4、4.0 mmol/LのMgCl
2を混合させた溶媒]で調製した8×10
6個/mLの細胞懸濁液を加え、混和した後、Gene Pulser(BIO-RAD)を用いてパルス電圧350V、電気容量250μFの条件にて遺伝子導入を行った。
【0261】
遺伝子導入後の細胞懸濁液を50 mLのHT溶液を含まない基礎培地に懸濁させ、96ウェルプレート5枚に100μL/ウェルで播種した。培養開始14日後に培地を50 nM MTX培地に、22日目に200 nM MTX培地に交換し、MTX耐性細胞株の選抜を行った。培養35日目に、コロニーが確認できた細胞株について、human Gas6 ELISA kit(R&D社製)を用いて、培養上清中のhGas6-Fの発現量を測定した。hGas6-Fの発現量が高い株を24ウェルプレートに拡大し、培養開始42日後に培地を500 nM MTX培地に交換した。500nM MTX耐性細胞株について、上記と同様の方法で、培養上清のhGas6-Fの発現量を測定し、最もhGas6-Fの発現量が高い株をhGas6-F安定発現細胞株として選択した。
【0262】
(6)cGas6-F、rGas6-F、及びmGas6-F安定発現細胞株の作製
(2)〜(4)で作製したpKANTEX-cGas6-F、pKANTEX-rGas6-F、及びpKANTEX-mGas6を、(5)と同様の方法で宿主細胞に導入し、cGas6-F、rGas6-F及びmGas6-F安定発現細胞株を樹立した。
上記のベクターは、いずれも制限酵素MulIを用いて酵素処理することにより線状化させた。フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿によって該線状化ベクターを精製し、滅菌水に溶解させて実験に供した。
培養上清中のcGas6-Fの発現量は、human Gas6 ELISA kit(R&D社製)を用いて測定した。また、rGas6-F及びmGas6-Fの発現量は、mouse Gas6 ELISA kit(R&D社製)を用いて測定した。
【0263】
(7)ラットVKOR及びヒトGGCX発現タンデムベクターの構築
活性型Gas6タンパク質を取得するためには、Gas6のGlaドメインに含まれるグルタミン酸残基のγ位の炭素が、Gla化修飾関連酵素であるGGCXによりカルボキシル化される必要がある。また、GGCXの活性化には、還元ビタミンKが必須であり、還元ビタミンKは、VKOR(vitamin K epoxide reductase complex subunit 1)によりビタミンKエポキシドが還元されてできる[Journal of Thrombosis and Haemostasis 3, 1873-1878(2005)]。そこで、活性型Gas6を得るため、ヒトGGCX(以下、hGGCXと記載する)及びラットVKOR(以下、rVKORと記載する)発現ベクターを作製した。
【0264】
まず(1)と同様の方法でrVKOR遺伝子をpCR4-Blunt-TOPOベクターに組み込み、プラスミドpCR4-rVKORを取得した。PCRは、鋳型であるラット肝臓由来のcDNA(タカラバイオ社製)、各10 pmolのプライマー10、11(配列番号18、19)のプライマー及びKOD-plus-(東洋紡社製)を含む反応液を調製して実験に供した。得られたプラスミドが有するrVKOR遺伝子配列は、GenBankアクセッション番号NM_203335で示されるラットVKORの塩基配列(配列番号20)と一致し、PCRに起因する遺伝子変異は生じていないことを確認した。
【0265】
制限酵素HindIII及びSmaIで酵素処理したpCR4-rVKORを、同制限酵素で処理したpAGE249発現ベクター(J. Biol. Chem., 278, 3466-3473,2003)に、(1)と同様の方法で挿入してpAGE-rVKORを得た。pAGE-rVKORを制限酵素ClaIで酵素処理し、5’末端をリン酸化した二種の合成オリゴDNA(プライマー18、19)(配列番号38,39)をアニーリングさせ、(1)と同様の方法でpAGE-rVKOR にXhoI酵素サイトを挿入したベクターpAGE-rVKOR(XhoI)を得た。
【0266】
(1)と同様の方法で、hGGCX遺伝子をpCR4-Blunt-TOPOベクターに組み込んだプラスミドpCR4-hGGCXを取得した。PCRは、ヒト肝臓由来のcDNA(ambion社製)を鋳型とし、10 pmolのプライマー12、13(配列番号22、23)のプライマー及びKOD-plus-(東洋紡社製)を含む反応液を調製して実験に供した。得られたプラスミドが有するhGGCX遺伝子配列は、GenBankアクセッション番号NM_000821で示されるhGGCX遺伝子配列(配列番号24)の145番目のシトシンがアラニンに置換された配列であった。しかし、これらの塩基配列によってコードされるhGGCXのアミノ酸配列は同一であったため、取得したプラスミドを以降の実験に使用した。
【0267】
制限酵素SalI及びSmaIで酵素消化したpCR4-hGGCXを、同制限酵素で処理したpAGE249発現ベクターに(1)と同様の方法で挿入してpAGE- hGGCXを得た。
pAGE-rVKOR(XhoI)とpAGE-hGGCXをそれぞれXhoIで酵素処理し、(1)と同様の方法でpAGE249由来のプロモーター領域を含むhGGCX断片をpAGE-rVKOR(XhoI)に挿入してpAGE-VKOR-hGGCXを得た。
【0268】
(8)各種Gas6-F安定発現細胞株へのpAGE-VKOR-hGGCXの導入
活性型の各種Gas6-Fの安定発現株を作製するため、(5)と同様の方法で、(5)及び(6)で作製した各種Gas6-F安定発現細胞株に(7)で作製したGla化修飾関連酵素発現ベクターpAGE-VKOR-hGGCXを導入した。
【0269】
遺伝子導入後の細胞懸濁液を、10 mLの500 nM MTX培地に懸濁し、125 cm
2フラスコに播種した。翌日に、培地をMTX・ハイグロマイシン培地[500 μg/mLのハイグロマイシン(Wako社製)を含む500 mM MTX培地]に交換し、培養開始約1カ月後に175cm
2フラスコに拡大培養した。得られた細胞株を活性型の各種Gas6-F安定発現細胞株と記載する。
【0270】
(9)各種Gas6-Fの精製
(8)で樹立した活性型の各種Gas6-F安定発現細胞株を、MTX・ハイグロマイシン培地に懸濁し、接着細胞用フラスコで3日間培養した。次に、培地を無血清培地[EX-CELL 302(Sigma-Aldrich社製)に6mM L-Glutamine(インビトロジェン社製)、100 ng/mL ビタミンK3(ナカライテスク社製)、500 nM MTX、500 μg/mL ハイグロマイシン、100nM 3,3',5-Triiodo-L-thyronine sodium salt(Sigma-Aldrich社製)および50μg/mL Gentamicinを添加した培地]に交換し、5日間培養した後、培地を回収した。回収した培地を遠心分離し、得られた培養上清を0.22 μmフィルター(Thermo Scientific社製)を用いて滅菌濾過した。
【0271】
回収した培養上清を用いて各種Gas6-Fを精製した。精製にはANTI-FLAG M2 Affinity Gel (Sigma-Aldrich社製)を充填したオープンカラムを使用した。カラムに培養上清を添加した後、平衡化緩衝液[50 mM Tris(ナカライテスク社製)、150 mM NaCl(ナカライテスク社製)、0.5% ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ナカライテスク社製)(pH8.2)]を用いてカラムを洗浄した。続いて、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを含まない平衡化緩衝液を用いてカラムを洗浄した後、溶出緩衝液[0.1 Mグリシン(ナカライテスク社製)(pH3.5)もしくは、3 M塩化マグネシウム(ナカライテスク社製)]を用いて各種Gas6-Fを溶出させた。得られた各種Gas6-F溶液は、NAP(GEヘルスケア社製)を用いて、緩衝液をGas6用緩衝液(20 mM Tris,150 mM NaCl、pH 8.2)に置換し、0.22 μmフィルターを用いて滅菌ろ過した後、試験に用いた。
【0272】
タンパク質の吸光係数は、モル吸光係数を分子量で割ることで算出した(Protein Science, 4, 2411-2423(1995))。hGas6-F及びcGas6-Fの吸光係数は0.95であった。また、rGas6-F及びmGas6-Fの吸光係数は0.89であった。タンパク質溶液中のタンパク濃度は、Nanodrop(Thermo Scientific社製)を用いて測定した。
【0273】
[実施例3]Axl細胞外ドメインとIgG1重鎖定常領域との複合体の作製
(1)ヒトAxl細胞外ドメインとヒトIgG1重鎖定常領域との複合体(以下、hAxl-hFcと記す)発現ベクターの構築
hAxl-hFc遺伝子配列が組み込まれた動物細胞発現用ベクターを以下の方法で作製した。
【0274】
hAxl-hFcを含む遺伝子配列(配列番号28)の全合成を行い、pMD19-hAxl-hFcを得た(タカラバイオ社)。配列番号28に表わされる塩基配列は、5’末端からBglII及びMluI制限酵素認識配列、ヒトAxlの細胞外ドメインをコードする塩基配列(配列番号26で表わされるヒトAxl全長をコードする塩基配列のうち、1〜1314番目までの塩基配列)、BamHI、SalI及びEcoRI制限酵素認識配列ならびにヒトIgG1重鎖定常領域をコードする塩基配列からなる。
【0275】
pMD19-hAxl-hFc及び動物細胞発現ベクターpKTABEX-Tc26.2(WO2013/005649)を制限酵素BglII及びBamHIで酵素処理し、反応液をアガロースゲル電気泳動に供した後、QIAquick Gel Extraction Kit を用いてそれぞれ約2 kbpのDNA断片(以下、hAxl-hFc-BglII-BamHIと記す)及び約9.6kbpのDNA断片(以下、pKTABEX -BglII-BamHIと記す)を得た。
【0276】
上記2種類のDNA断片をLigation High ver.2(東洋紡社製)を用いて結合させ、、実施例2(1)と同様の方法でhAxl-hFc組換え体発現ベクターpKTABEX-hAxl-hFcを得た。
【0277】
(2)サルAxl細胞外ドメインとヒトIgG1重鎖定常領域との複合体(以下、cAxl-hFcと記す)発現ベクターの構築
cAxl-hFcの調製に必要となる発現ベクターを構築した。最初に実施例2(1)と同様の方法で、カニクイサルAxl遺伝子をpCR4-Blunt-TOPOベクターに組み込んだプラスミドを取得した。PCRは、鋳型であるカニクイサル腎臓由来のcDNA(CytoMol社製)、各10 pmolのプライマー14、15(配列番号30、31)、KOD-FX(東洋紡社製)、及び2%DMSOを含む20 μLの反応液を調製し、94℃で2分間保温した後、94℃で15秒間、60℃で30秒間、及び68℃で3.5分間を1サイクルとして30サイクル行った。得られたプラスミドが有するカニクイサルAxlの塩基配列を配列番号32に示した。また、当該塩基配列より推定されるカニクイサルAxlのアミノ酸配列を配列番号33に示した。
【0278】
続いて、得られたプラスミドを鋳型としてPCRを行うことにより、カニクイサルAxl細胞外ドメインをコードする塩基配列を含むDNA断片を増幅させた。PCRは、鋳型プラスミド、プライマー16、17(配列番号34、35)を各10 pmolおよびPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を含む20 μLの反応液を調製し、94℃で5分間保温した後、94℃で15秒間、55℃で10秒間、68℃で1分40秒間を1サイクルとして30サイクル行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)を用いて約1.3kbp のDNA断片(以下、cAxl-BglII-EcoRIと記す)を得た。
【0279】
また、(1)で作製したpKTABEX-hAxl-hFcを、制限酵素BglII及びEcoRIで酵素処理した。反応液をアガロースゲル電気泳動に供した後、QIAquick Gel Extraction Kit を用いて約9.6kbpのDNA断片(以下、pKTABEX-hFc-BglII-EcoRIと記す)を得た。
【0280】
最後に、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社製)を用いてpKTABEX-hFc-BglII-EcoRIにcAxl-BglII-EcoRIを挿入し、cAxl-hFc組換え体発現ベクターpKTABEX-cAxl-hFcを得た。pKTABEX-cAxl-hFcが有する cAxl-hFcの塩基配列を配列番号36に、当該塩基配列から推定されるcAxl-hFcのアミノ酸配列を配列番号37に示した。
【0281】
(3)ラットAxl細胞外ドメインとヒトIgG1重鎖定常領域との複合体(以下、rAxl-hFcと記す)発現ベクターの構築
rAxl-hFcの調製に必要となる発現ベクターを以下に記載する方法で構築した。GenScript社にて、ラットAxlの細胞外ドメインの塩基配列を全合成し、pUC57プラスミドに組み込んだpUC57-rAxlを得た。ラットAxlの細胞外ドメインの塩基配列は、配列番号40で表わされるラットAxlの塩基配列(GenBankアクセッション番号NM_0317941)の1〜1329番目の塩基を使用した。
【0282】
続いて、pUC57-rAxlをもとにして、(2)と同様の方法で、rAxl-hFc組換え体発現ベクターpKTABEX-rAxl-hFcを得た。PCRは、鋳型としてpUC57-rAxl、各10 pmolのプライマー20、21(配列番号42、 43)、及びPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を含む20 μLの反応液を調製し、94℃で5分間保温した後、94℃で15秒間、55℃で10秒間、68℃で1分40秒間を1サイクルとして30サイクル行った。rAxl-hFcの塩基配列を配列番号40に、当該塩基配列から推定されるrAxl-hFcのアミノ酸配列を配列番号41に示した。
【0283】
(4)マウスAxl細胞外ドメインとマウスIgG1重鎖定常領域との複合体(以下、mAxl-mFcと記す)発現ベクターの構築
mAxl-mFcの調製に必要となる発現ベクターを以下に記載する方法で構築した。タカラバイオ社にて、配列番号48で示したmAxl-mFcを含む塩基配列を全合成し、pMD19プラスミドに組み込んだpMD19-mAxl-mFcを得た。mAxl-mFcは、5’末端からBglII及びMluI認識配列、マウスAxlの細胞外ドメインをコードする塩基配列(配列番号46で示されるマウスAxlの塩基配列のうち、1〜1329番目の塩基配列)、BamHI、SalI及びEcoRI認識配列ならびにマウスIgG1重鎖定常領域をコードする塩基配列からなる。 pMD19-mAxl-mFcを制限酵素BglII及びBamHIで酵素処理し、(1)と同様の方法でpKTABEX-Tc26.2に挿入し、mAxl-mFc組換え体発現ベクターpKTABEX- mAxl-mFcを得た。
【0284】
(5)hAxl-hFc及びmAxl-mFc安定発現細胞株の作製
hAxl-hFc及びmAxl-mFcの安定発現株を作製するため、宿主細胞に発現ベクターを導入した。hAxl-hFc及びmAxl-mFc発現用宿主細胞としてCHO-K1(理研)を用いた。細胞培養については、通常継代には、4 mM L-Glutamine(invitrogen社製)及び50μg/mL Gentamicin(ナカライテスク社製)を含むEX-CELL 325 PF(ニチレイバイオサイエンス社製)(基礎培地)を使用した。また、遺伝子導入株の選抜時には3μg/mL Cycloheximide Ready Made Solution (SIGMA社製)を含む基礎培地(CHX培地)を使用した。いずれの細胞も、37℃、5% CO
2条件下で振とう培養した。
【0285】
細胞への遺伝子導入は、実施例2(5)と同様の方法で行った。
(1)で取得した10μg のpKTABEX-hAxl-hFc、20μgのトランスポゼース発現ベクター(WO2010/143698)(以下、TPEX_pMugと記載する)を含む溶液をエレクトロポレーション用キュベット(Gene Pulser cuvette,Bio-Rad社製)に添加した。PBSで調製した4×10
6 個/mLのCHO-K1細胞懸濁液を該キュベットに400μL加えた。キュベット中の細胞懸濁液を混和した後、Gene Pulser(BIO-RAD)を用いてパルス電圧300 V、電気容量500μFの条件にて遺伝子導入を行った。
【0286】
遺伝子導入後、キュベット中の細胞を20 mLの基礎培地に懸濁させ、96ウェルプレート1枚に200μL/ウェルで播種した。培養開始4日後に培地をCHX培地に交換し、遺伝子導入株の選抜を行った。培養29日目に培地が黄色く変色した細胞株を24ウェルに拡大し、更に3日間培養した上清を用いてhAxl-hFcの発現量を以下に記載する方法で測定した。
【0287】
hAxl-hFcの発現量を測定するために、以下のELISAを行った。96ウェルプレート(Nunc社製)に、1次抗体として、PBSで750倍希釈したGoat anti-human IgG(H&L)(American Qualex社製)を50μL/ウェルで分注し、4℃で一晩静置して固相化した。プレートを0.05〜0.1%のTween-20を含むPBS(以下、Tween20-PBSと表記する)(Wako社製)で5回洗浄し、1%BSAを含むPBS(以下、1% BSA-PBSと表記する)(ナカライテスク社製)を100μL/ウェルでELISAプレートに分注し、室温にて2時間静置することによりブロッキングを行った。プレートをTween20-PBS(Wako社製)で5回洗浄し、検体として1% BSA-PBSにて希釈した培養上清を50μL/ウェルで分注し、1時間静置した。標準品には公知のヒトIgG1抗体を用いた。Tween20-PBS(Wako社製)で5回洗浄した後、2次抗体として、1% BSA-PBSにて2000倍に希釈したGoat anti-human IgG(H&L)-HRP(American Qualex社製)を50μL/ウェルで分注し、1時間静置した。Tween20-PBSによる洗浄後、ABTS(2,2-Azino-bis(3-ethylbenzothiazoline)-6-sulfonic acid)(Thermo Fisher社製)を50μL/ウェルで分注して発色させた。5% SDS溶液を50μL/ウェルで分注し発色を停止した。サンプル波長415 nm、リファレンス波長490 nmにおける吸光度(415 nm-490 nm)をプレートリーダーを用いて測定した。
【0288】
hAxl-hFc発現量が高い株を6ウェルプレートから125 mL三角フラスコへと順次拡大し、再びhAxl-hFc発現量を測定した。その結果、最も発現量が高い細胞株をhAxl-hFc安定発現細胞株として選択した。
【0289】
同様に、(4)で取得したpKTABEX-mAxl-mFcを用いて、mAxl-mFc安定発現細胞株を得た。mAxl-mFcの発現量は、上記と同様にELISA法にて測定を行った。1次抗体として、PBSで100倍希釈したPolyclonal Rabbit Anti-mouse Immunoglobulins (Dako社製)を使用し、2次抗体として1% BSA-PBSにて400倍に希釈したPolyclonal Rabbit Anti-mouse Immunoglobulins HRP (Dako社製)を使用した。標準品には公知のマウスIgG1抗体を用いた。
【0290】
(6)cAxl-hFc及びrAxl-hFc一過性発現細胞株の作製
cAxl-hFc及びrAxl-hFcの一過性発現株を作製するため、宿主細胞に発現ベクターを導入した。
cAxl-hFc及びrAxl-hFc発現用宿主細胞としてCHO-S(Life Tecnologies社製)を用いた。細胞の継代には4 mM L-Glutamine(invitrogen社製)を含むFree Style CHO(invitrogen社製)を使用し、37℃、5% CO
2条件下で振とう培養した。
【0291】
(2)で作製した1.25mg のpKTABEX-cAxl-hFcを20mLのOpti-Pro SFM(invitrogen社製)に、また、1.25mLのFreeStyle MAX Reagent(invitrogen社製)を20mLのOptipro SFMにそれぞれ溶解し、室温で5分間放置した。上記二液を混合し、室温で15分間放置した。該混合溶液をCHO-S培養液に滴下し、cAxl-hFc一過性発現細胞株を得た。同様にして、(3)で作製したpKTABEX-rAxl-hFcを用いて、rAxl-hFc一過性発現細胞株を得た。
【0292】
(7)各種Axl-hFc及びmAxl-mFcの精製
(5)で取得したhAxl-hFc及びmAxl-mFc安定発現細胞株を、公知のタンパク質発現用の培地に懸濁し、三角フラスコで7日間培養した後、培養上清を回収した。回収した培養上清を遠心分離し、得られた培養上清を0.22 μmフィルターを用いてろ過することでhAxl-hFcを含む培養上清を調製した。同様の手法で、mAxl-mFcを含む培養上清を調製した。
【0293】
また、(6)で取得したcAxl-hFc及びrAxl-hFc一過性発現細胞株を4 mMのL-Glutamine(invitrogen社製)を添加したFree Style CHO(invitrogen社製)に懸濁し、三角フラスコで5日間培養した後、培養上清を回収した。回収した培養上清を遠心分離し、得られた培養上清を0.22 μmフィルターを用いてろ過することでcAxl-hFcを含む培養上清を調製した。同様の手法で、rAxl-hFcを含む培養上清を調製した。
【0294】
調製した培養上清から、通常の方法により各種Axl-Fcを精製した。レジンはHiTrap MabSelect SuRe (GE ヘルスケア社製)を使用した。得られた精製タンパク質溶液は0.22 μmフィルターを用いて滅菌ろ過した後、試験に用いた。実施例2(9)に記載の方法を用いて、各タンパク質の吸光係数を算出した。 hAxl-hFc、mAxl-mFc、cAxl-hFcおよびrAxl-hFcの吸光係数は、それぞれ1.38、1.54、1.42および1.8であった。
【0295】
[実施例4]先行抗ヒトGas6モノクローナル抗体の作製
(1)CNTO抗体発現ベクターの作製
US7547767特許明細書に記載されている抗Gas6モノクローナル抗体WG1のVH及びVLの塩基配列(US7547767特許明細書のSEQ ID NO:25、27)をもとにして、当該抗体(以下、CNTO抗体と記載する)の発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。IDT社にて、CNTO抗体のVH及びVLの塩基配列の全合成を行い、適当なプラスミドに組み込んだ。CNTO抗体のVH及びVLの塩基配列を、それぞれ配列番号61、63に記載した。また、CNTO抗体のVH及びVLのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号62、64に記載した。US7547767において配列番号25で表わされるWG1のVHの塩基配列の305番目がNと記載されていたため、カバットのヒト抗体配列情報(Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept Health and Human Services(1991))および305番目の塩基とコドンを形成する304、306番目の塩基配列より、305番目の塩基としてチミジンを使用した。発現用ベクターpKANTEX93(WO97/10354)の適当な位置に公知の方法でCNTO抗体の遺伝子配列を挿入し、CNTO抗体発現ベクターであるpKANTEX-CNTOを構築した。
【0296】
(2)CNTO抗体安定発現細胞株の作製
実施例2(5)と同様の方法で、dhfrが欠損したCHO細胞に、(1)で調製したpKANTEX-CNTOを導入し、CNTO抗体安定発現細胞株を作製した。
【0297】
(3)CNTO抗体の精製
(2)で取得したCNTO抗体安定発現細胞株を、500 nM MTX培地に懸濁し、接着細胞用フラスコで3日間培養した。次に、培地をEX-CELL 302(6mM L-Glutamine、100nM 3,3',5-Triiodo-L-thyronine sodium salt、50μg/mL Gentamicinを含む)に交換し、5日間培養した後、培養上清を回収した。回収した培養上清を遠心分離し、上清を0.22 μmフィルターを用いてろ過することでCNTO抗体を含む培養上清を調製した。
調製した培養上清より、通常の方法でCNTO抗体を精製した。レジンはMabSelect SuRe (GE ヘルスケア社製)を使用した。得られたCNTO抗体は、0.22 μmフィルターを用いて滅菌ろ過した後、試験に用いた。CNTO抗体の吸光係数は、1.43であった。
【0298】
[実施例5]抗ヒトGas6モノクローナル抗体の作製
(1)動物への免疫と抗体産生細胞の調製
実施例2(9)で作製したhGas6-FまたはrGas6-Fを、実施例1で得られたKOマウスに免疫した。マウスの免疫には、アジュバントとして水酸化アルミニウム(Antibodies A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,p99,1988)、及び百日咳ワクチン(ナカライテスク社製)を用いた。
【0299】
具体的には、1匹あたり80 μLの水酸化アルミニウム、及び5 μLの百日咳ワクチンを使用し、hGas6-Fまたは rGas6-Fとの懸濁液を調製した。1匹あたり30 μgのhGas6-FまたはrGas6-Fが投与されるよう、該懸濁液をKOマウスの腹腔内に投与した。
【0300】
アジュバントは初回の免疫のみ使用し、免疫は最終ブーストを含めて計4回行った。hGas6-Fのみを免疫に用いた群と、rGas6-FとhGas6-Fとを交互に投与する群に分けて、各4匹ずつ免疫を行った。最終免疫の4日後に脾臓を摘出した。摘出した脾臓を MEM培地(インビトロジェン社製)中で細断した後、脾細胞画分を遠心分離(1200 rpm、5分間)により回収した。得られた脾細胞画分は、赤血球を含むことから、RED Blood Cell Lysing Buffer(シグマ社製)を添加し、37℃で反応させて赤血球を除去した。得られた脾細胞は、MEM培地で2回洗浄した後、細胞融合に供した。
【0301】
(2)マウス骨髄腫細胞の調製
8-アザグアニン耐性マウス 骨髄腫細胞株P3X63Ag8U.1(P3-U1:ATCCより購入)を、10%FCS(MOREGATE BIOTECH社製)を含むRPMI1640(Wako社製)にて培養し、細胞融合の親株として用いた。
【0302】
(3)ハイブリドーマの作製
(1)で得られたマウス脾細胞と(2)で得られた骨髄腫細胞を8:1の割合で混合し、遠心分離(1200 rpm、5分間)した。得られた沈殿画分(細胞群)に対して、0.5 mLのポリエチレングリコール−1000(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を、穏やかに揺らしながら、徐々に加えた。次に、37℃の水浴の中で該細胞液に1 mL のMEMを1分間隔で5回加え、最後に45 mL のMEMを加えた。その後、遠心分離(900rpm、5分間)した。得られた沈殿画分(細胞群)を、HAT培地(10%ウシ胎児血清を添加したRPMI1640培地に、HAT Media Supplement(インビトロジェン社製)を添加した培地)に懸濁させ、脾細胞数を1.5×10
7個/plateに調製した。該細胞懸濁液を96ウェルプレートに200 μLずつ播種し、37℃、5% CO
2の条件下で培養した。ウェル内の細胞がスクリーニングに適した細胞数になる前日に、HAT培地を用いて培地を交換した。
【0303】
(4)ハイブリドーマのスクリーニング
(3)で作製したハイブリドーマについて、ヒト及びラットのGas6とAxlとの結合を阻害する抗体を産生するハイブリドーマを、以下に記載する競合ELISA法にて選択した。
【0304】
まず、96ウェルのELISA用プレート(Nunc社製)に、2 μg/mL のhAxl-hFc溶液(実施例3(7)で取得したhAxl-hFc溶液を、PBS(ナカライテスク社製)で希釈した溶液)を50 μL/ウェルで分注し、4℃で一晩静置して吸着させた。該プレートをTween20-PBSで5回洗浄した後、1% BSA-PBS(ナカライテスク社製)を300 μL/ウェル加え、室温で1時間静置してブロッキングし、Tween20-PBS(Wako社製)で5回洗浄した。
【0305】
次に、以下の方法で調製した反応液を該プレートに50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した後、Tween20-PBSで5回洗浄した。反応液は、100 ng/mL のhGas6-F溶液(実施例2(9)で得られたhGas6-F溶液を1% BSA-PBS で希釈した溶液)を、ハイブリドーマの培養上清又はハイブリドーマ用培地(陰性対照)と等量ずつ混合し、4℃で30分静置することで調製した。
【0306】
次に、検出用抗体として1% BSA-PBSで2000倍希釈したMonoclonal ANTI-FLAG M2-Peroxidase (HRP) antibody produced in mouse(Sigma-Aldrich)を、50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した。このプレートをTween20-PBSで5回洗浄し、TMB(Sigma-Aldrich社製)を50 μL/ウェル添加して反応させた。適当な時点で1N 塩酸(Wako社製)を50 μL/ウェル添加して反応を停止させ、各ウェルの溶液について、サンプル波長450 nm、リファレンス波長570 nmにおける吸光度(450 nm-570 nm)をプレートリーダーを用いて測定した。
【0307】
本測定系においては、hGas6とhAxlとの結合を阻害する抗体がハイブリドーマ培養上清中に含まれていた場合、該培養上清を添加したウェルの吸光度は、陰性対照を添加したウェルの吸光度よりも低下する。そこで、陰性対照を添加したウェルよりも吸光度が低いウェルを選択し、当該ウェルに添加した培養上清に対応するハイブリドーマを選択した。
【0308】
同様の方法で、rGas6とrAxlとの結合を阻害する抗体を産生するハイブリドーマを選択した。サンプルとして実施例2(9)、実施例3(7)で得られたrGas6-F、rAxl-hFcを使用した。
【0309】
(5)固相抗原を用いたGas6結合活性測定ELISA
以下に記載する抗原結合ELISA法により、(4)で選択したハイブリドーマの培養上清中の抗体が、hGas6-F及びrGas6-Fに結合し、hGas6と相同性の高いヒトProteinS及びFLAG-tag(BAP-F)には結合しないことを確認した。
【0310】
ELISA用プレートに吸着させる抗原として、実施例2(9)で精製したhGas6-F、rGas6-F、hGas6と相同性の高いHuman Protein S(ヒト血清由来、Enzyme Research Laboratories社製)又はCarboxy-terminal FLAG-BAP Fusion Protein (以下、BAP-Fと記載する)(Sigma-Aldrich社製)を使用した。
【0311】
まず、96ウェルのELISA用プレート(Nunc社製)に、2 μg/mLの上記抗原溶液(各抗原をPBS(ナカライテスク社製)で調製したもの)を50 μL/ウェルで分注し、4℃で一晩静置して吸着させた。Tween20-PBSで5回洗浄した後、1% BSA-PBS(ナカライテスク社製)を300 μL/ウェル加え、室温で1時間静置してブロッキングし、Tween20-PBS(Wako社製)で5回洗浄した。次に、被験物質としてハイブリドーマの培養上清を50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した後、Tween20-PBSで5回洗浄した。次に、1% BSA-PBSを用いて2000倍に希釈したpolyclonal goat anti-mouse immunoglobulins/HRP(Dako,P0447)を、50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した。プレートをTween20-PBSで5回洗浄し、TMB(Sigma-Aldrich社製)を50 μL/ウェル添加して反応させ、適当なところで、1N 塩酸(Wako社製)を50 μL/ウェル添加して反応を停止させ、サンプル波長450 nm、リファレンス波長570 nmにおける吸光度(450 nm-570 nm)をプレートリーダー(Spectra Max, Molecular Devices社製)を用いて測定した。
【0312】
(6)ハイブリドーマのクローン化
(4)及び(5)で選択したハイブリドーマは、クローニング用培地(10%ウシ胎児血清、1% HT Supllement(インビトロジェン社製)、 0.2% Gentamicin Sulfate Solution(ナカライテスク社製)を添加した、エスクロン・クローニングメデューム(エーディア社製))を用いて限界希釈し、96ウェルプレートに播種しクローン化を行った。クローン化は1回のみ行った。以上の操作により、ヒト及びラットGas6に結合し、さらにヒト及びラットGas6とAxlとの結合を阻害する活性を有する抗体を産生するハイブリドーマを二株単離した。
【0313】
(7)ハイブリドーマからの抗体取得
(6)で単離したハイブリドーマを、細胞密度が1×10
7個/100 mLとなるように浮遊フラスコに播種した。培地には5%のFetal Bovine Serum-Ultra Low IgG (インビトロジェン社製)を含むHybridoma SFM培地(インビトロジェン社製)を用いた。細胞を37℃で7日間静置培養した後、細胞を含む培地を回収した。回収した培地を遠心分離し、得られた培養上清を0.22 μmフィルターを用いてろ過した。
【0314】
フィルターでろ過した培養上清より、通常の方法を用いてハイブリドーマ由来の抗ヒトGas6マウスモノクローナル抗体 KM5320抗体(以下、KM5320-mKG1抗体とも記載する)、KM5321抗体(以下、KM5321-mKG1抗体とも記載する)を精製した。レジンはProtein G Sepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare社製)を使用した。得られた抗体溶液は、0.22 μmフィルターを用いて滅菌した後、実験に用いた。実施例2(9)に記載の方法で吸光係数を算出すると、 KM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体の吸光係数は、それぞれ1.54と1.45であった。
【0315】
[実施例6]浮遊抗原を用いたGas6結合活性評価
以下に記載する競合ELISA法を用いて、より天然に近い状態の各種Gas6に対する取得抗体の結合性を確認した。
【0316】
まず、96ウェルのELISA用プレート(Nunc社製)に、2 μg/mL の抗FLAG抗体[Monoclonal ANTI-FLAG M2 antibody produced in mouse(Sigma-Aldrich社製)を、PBS(ナカライテスク社製)で希釈したもの]を50 μL/ウェルで分注し、4℃で一晩静置して吸着させた。固相化液を取り除いた後、1% BSA-PBS(ナカライテスク社製)を300 μL/ウェル加え、室温で1時間静置してブロッキングし、Tween20-PBS(Wako社製)で5回洗浄した。
【0317】
次に、1μg/mL の各種Gas6-F又はBAP-F溶液[実施例2(9)で得られた各種Gas6-F溶液又はBAP-F(Sigma-Aldrich社製)を、1% BSA-PBS で希釈したもの] 50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した後、Tween20-PBSで5回洗浄した。続いて、KM5320-mKG、KM5321-mKG及びCNTO抗体をBiotin Labeling Kit-NH2(DOJINDO社製)でビオチン化し、1% BSA-PBSで適当な濃度に調製したものを50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した。このプレートをTween20-PBSで5回洗浄した後、1% BSA-PBSで200倍希釈したStreptavidin HRP Conjugate(R&D社製)を50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した。このプレートをTween20-PBSで5回洗浄し、TMB(Sigma-Aldrich社製)を50 μL/ウェル添加して反応させ、適当なところで、1N 塩酸(Wako社製)を50 μL/ウェル添加して反応を停止させ、サンプル波長450 nm、リファレンス波長570 nmにおける吸光度(450 nm-570 nm)を、プレートリーダーを用いて測定した。
【0318】
また、取得抗体のヒトプロテインSへの結合活性は、実施例5(5)と同様の方法で測定した。サンプルには、被験物質として上記で調製したビオチン化KM5320-mKG、KM5321-mKG及びCNTO抗体を1%BSA-PBSで適当な濃度に希釈して使用した。二次検出試薬として、1% BSA-PBSで200倍希釈したStreptavidin HRP Conjugate(R&D社製)を使用した。
【0319】
結果を
図1に記載する。KM5320-mKG1抗体、及びKM5321-mKG1抗体は、ヒトGas6-F、サルGas6-F、ラットGas6-F及びマウスGas6-Fに結合し、ヒトProtein S及びBAP-Fには結合しなかった。この結果より、KM5320-mKG1抗体及びKM5321-mKG1抗体は、ヒトGas6、サルGas6、ラットGas6、及びマウスGas6に特異的に結合する抗体であることが示された。
【0320】
また、KM5320-mKG1抗体及びKM5321-mKG1抗体のヒトGas6-Fに対する結合活性は、抗体濃度0.0003μg/mL で検出され、0.04μg/mLで最大活性に達した。一方、CNTO抗体のヒトGas6-Fに対する結合活性は、抗体濃度0.04μg/mLで検出され、5μg/mLでもKM5320-mKG1抗体及びKM5321-mKG1の最大活性の半分以下の活性しか示さなかった(
図1-A)。この結果より、KM5320-mKG1抗体及びKM5321-mKG1抗体は、CNTO抗体よりも強力に各種Gas6に結合することが示された。
【0321】
[実施例7]抗Gas6モノクローナル抗体のGas6とAxlとの結合阻害活性評価
KM5320-mKG1抗体、 KM5321-mKG1抗体及びCNTO抗体について、実施例5(4)と同様の方法で、各種Gas6とAxlとの結合阻害活性を測定した。反応液には、100 ng/mLの各種Gas6-F溶液(実施例2(9)で得られた各種Gas6-F溶液を1% BSA-PBSで希釈した溶液)と最終濃度の2倍濃度の各抗体溶液(実施例4(3)及び実施例5(7)で得られた抗体溶液を1% BSA-PBSで希釈したもの)を等量ずつ混合したものを用いた。
【0322】
結果を
図2に記載する。KM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体は、ヒト、サル、ラット、及びマウスGas6とそれぞれの種由来のAxlとの結合を阻害した。KM5320-mKG1抗体では、50 ng/mLのヒトGas6に対し、約200 ng/mLの抗体を添加した際に、ヒトGas6とヒトAxlとの結合をほぼ完全に阻害した。ヒトGas6の分子量が約70 kDa、抗体の分子量が約140〜150 kDaであることから、この結果は、抗体とGas6が2:1のモル濃度比であるときに、KM5320-mKG1抗体は、ヒトGas6とヒトAxlとの結合を完全に阻害することが示された。同様に、KM5321-mKG1抗体では、50 ng/mLのヒトGas6に対し、約60 ng/mLの抗体を添加した際に、ヒトGas6とヒトAxlとの結合をほぼ完全に阻害した。この結果より、抗体とGas6が1:2のモル濃度比であるときに、KM5321-mKG1抗体は、ヒトGas6とヒトAxlとの結合を完全に阻害することが示された。1分子の抗体には最大2分子の抗原が結合するため、KM5321-mKG1抗体は非常に強い結合活性を有することが示された。
【0323】
一方、CNTO抗体は、検討した抗体濃度において、各種Gas6とAxlとの結合を全く阻害しなかった。
以上より、KM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体は、CNTO抗体よりも強力な中和活性を有することが示された。
【0324】
[実施例8]Gas6依存的な細胞内シグナルに対する取得抗体の作用
Gas6の受容体としては、Axlの他に、Sky及びMerが知られている。Gas6が細胞上に発現した当該受容体に結合すると、細胞内では当該受容体を介したシグナル伝達経路が活性化される。この細胞内シグナル伝達に対する取得抗体の作用を確認するため、Gas6受容体の強制発現細胞株を用いたレポーターアッセイを実施した。
【0325】
当該Gas6受容体の強制発現細胞株には、Gas6受容体の下流シグナル伝達に関与する転写因子の1つである、Egr1(Early Growth Responese 1)の認識配列を含むベクターを導入した。また、ベクター中のEgr1認識配列の下流にはルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだ。本測定系では、Gas6が上記の細胞株上のGas6受容体に結合すると、細胞内でシグナル伝達経路が活性化され、Egr-1の発現が増加する。Egr1はEgr1認識配列に結合し、ルシフェラーゼ遺伝子の発現を増加させる。したがって、生合成されたルシフェラーゼの発光強度を検出することにより、Gas6添加による細胞内シグナル伝達経路の活性化状態を確認することができる。
【0326】
(1)Gas6受容体発現ベクターの構築
まず、ヒトAxlの発現ベクターを構築した。
当該ベクターは、配列番号26で表わされるヒトAxlの遺伝子配列(GeneCopoeia社製)(GenBankアクセッション番号NM_021913)が組み込まれたプラスミドを鋳型として以下に記載する方法で作製した。鋳型プラスミド、各10 pmolのプライマー22、23(配列番号50、51)およびPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を含む20 μLの反応液を調製し、94℃で5分間保温した後、98℃で10秒間、55℃で5秒間、72℃で3分30秒間を1サイクルとして30サイクルのPCRを行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)を用いて約2.7kbpの増幅DNA断片(hAxlの塩基配列を含むDNA断片)を回収した。また、公知の適当な動物細胞発現ベクターをEcoRI及びBamHIで酵素消化し、アガロースゲル電気泳動に供した後、QIAquick Gel Extraction Kit を用いて目的のDNA断片を回収した。得られた2種類のDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社製)を用いて結合させ、hAxl組換え体発現ベクターを得た。得られた発現ベクター中に含まれるヒトAxl遺伝子配列について解析したところ、配列番号26で表わされるヒトAxl遺伝子の1546番目のシトシンがチミジンに置換されていた。しかし、いずれの塩基配列についても、推定されるアミノ酸配列が同一(GenBankアクセッション番号NP_068713)であり、同じ塩基配列の遺伝子多型が存在することから、本配列を以降の実験に使用した。
【0327】
同様の方法でヒトSky遺伝子を適当な公知の動物細胞発現ベクターに組み、ヒトSky組換え体発現ベクターを調製した。PCRの鋳型として、配列番号52で表わされるヒトSky遺伝子配列(GenBankアクセッション番号NM_006293))が組み込まれたプラスミド(インビトロジェン社製)を使用した。PCRには、上記の鋳型プラスミド、各10 pmolのプライマー24、25(配列番号54、55)およびPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を含む20 μLの反応液を調製し、98℃で10分間保温した後、98℃で10秒間、55℃で5秒間、72℃で1分30秒間を1サイクルとして30サイクルのPCRを行った。得られた発現ベクターに含まれるヒトSkyの塩基配列について解析したところ、配列番号52で表わされるヒトSkyの塩基配列の2168番目のチミジンがシトシンに置換されていた。しかし、いずれの塩基配列についても、推定されるアミノ酸配列が同一(GenBankアクセッション番号NP_06284)であり、同じ塩基配列の遺伝子多型が存在することから、本配列を使用することとした。
【0328】
同様の方法でヒトMer遺伝子を適当な公知の動物細胞発現ベクターに組み込み、ヒトMer組換え体発現ベクターを調製した。PCRの鋳型プラスミドとして、配列番号56で表わされるヒトMer遺伝子配列、(GenBankアクセッション番号NM_006343))が組み込まれたプラスミド(GeneCopoeia社製)を使用した。PCRは、上記の鋳型プラスミド、各10 pmolのプライマー26、27(配列番号58、59)およびPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を含む20 μLの反応液を調製し、98℃で10分間保温した後、98℃で10秒間、55℃で5秒間、72℃で5秒間を1サイクルとして30サイクルのPCRを行った。
【0329】
(2)宿主細胞へのGas6受容体発現ベクター及びルシフェラーゼレポーターベクターの導入
上記(1)で作製した3種類のGas6受容体発現ベクター及びレポーターベクターを以下に記載する方法で宿主細胞HEK293F細胞(インビトロジェン社)に導入した。細胞培養の培地は、FreeStyle 293 Expression Medium(invitrogen社製)を使用し、37℃、5% CO
2条件下で振とう培養した。レポーターベクターは、マウスのEgr1認識配列(配列番号60)をルシフェラーゼレポーターベクターであるpGL3ベクター(プロメガ社製)に挿入したpGL3-mEgr1を使用した(Nature 444,770-774,2006、PNAS85(21),7857-61,1988)。
【0330】
各Gas6受容体発現ベクター及びpGL3-mEgr1をOpti-Pro SFM(invitrogen社製)に、また、293fectin Transfection Reagent(invitrogen社製)をOptipro SFMにそれぞれ溶解し、室温で5分間放置した。上記二液を混合し、室温で20分間放置した後、HEK293F細胞培養液に滴下し、5時間振とう培養した。こうして得られた細胞株をそれぞれ、ヒトAxl-mEgr1転写因子プロモーターのレポーター細胞株、ヒトSky-mEgr1転写因子プロモーターのレポーター細胞株、ヒトMer-mEgr1転写因子プロモーターのレポーター細胞株と記載する。
【0331】
(3)レポーターアッセイ
(2)で作製した3種のGas6受容体(Axl、SkyまたはMer)-mEgr1転写因子プロモーターのレポーター細胞株を1.6×10
4個/ウェルとなるように96ウェル黒色プレートに80μLずつ播種した。次に、80μg/mL(最終濃度の10倍濃度)のKM5320-mKG1又はKM5321-mKG1を含む培地[実施例5(7)で得た抗体溶液をFreeStyle 293 Expression Medium(invitrogen社製)で希釈したもの]を10μL/ウェルで添加し、一時間静置培養した。アイソタイプコントロールとして、上記と同様の方法で調整した80μg/mLのIgG1 isotype control (purified mouse monoclonal IgG1、R&D社製)を含む培地を10μL/ウェルで添加した。
【0332】
続いて、20μg/mL(最終濃度の10倍濃度)のhGas6-Fを含む培地[実施例2(9)で調製したhGas6-F 溶液をFreeStyle 293 Expression Mediumで希釈したもの]を10μL/ウェルで添加し、静置培養した。また、陰性対照として上記細胞株と培地のみを添加したウェルも用意した。12〜14時間後に化学発光試薬(Steady Glo Luciferase assay system、プロメガ社製)を100 μL/ウェルで添加し、ルミノメーター(Veritas社製)を用いて各ウェルの発光強度を測定した。
【0333】
結果を
図3に記載する。hGas6-FとIsotype control を添加した時は、いずれのGas6受容体強制発現細胞においても、培地のみを添加した時と比べて発光強度が3倍程度増加した。一方、hGas6-FとKM5320-mKG1またはKM5321-mKG1を添加した時は、培地のみを添加した時と同程度の発光強度を示した。
【0334】
上述したように、本測定系では細胞内シグナル伝達経路の活性化に応じて、検出されるルシフェラーゼの発光強度が増加する。したがって、ヒトGas6を各種Gas6受容体強制発現細胞株に添加すると、細部内シグナル伝達経路が活性化されること、およびKM5320-mKG1、KM5321-mKG1はいずれも当該活性化を阻害することが示された。
【0335】
また、実施例7と同様の方法で計算すると、KM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体はいずれも、抗体とGas6が2:1のモル濃度で、Gas6による細胞内シグナル伝達経路の活性化を完全に阻害した。このことから、KM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体は非常に強い中和活性を有することが示された。
【0336】
[実施例9]ヒト腎メサンギウム細胞におけるリン酸化シグナルに対する本願発明の抗ヒトGas6モノクローナル抗体の作用
実施例8よりも生体に近い条件下で、Gas6とGas6受容体の結合により生じる細胞内シグナルに対する取得抗体の作用を確認した。Gas6の結合によりGas6受容体が活性化されると、当該受容体発現細胞内でAktがリン酸化されることが知られている。そのため、各Gas6受容体を天然に発現しているヒト腎メサンギウム細胞(Sciencell社製、以下、単にヒトメサンギウム細胞と記載する)を使用して、以下に記載する方法でGas6添加によるAktのリン酸化レベルを検出した。
【0337】
ヒトメサンギウム細胞にAxl、Sky、Merの各Gas6受容体が発現していることは、公知の方法でFACS解析を行うことにより確認した。FACS解析について、各Gas6受容体の検出には、それぞれ、Anti-Axl antibody (abcam社製、MM0098-2N33)、Human Dtk MAb (R&D社製、Clone 96201)、Human Mer MAb (R&D社製、Clone 125518)を用いた。二次抗体にはAlexa Fluor 488 goat anti-mouse IgG (H+L) Antibody(invitrogen社製)を用いた。
【0338】
ヒトメサンギウム細胞をMesangial Cell Medium (Sciencell社製、以下、MCMと記す)に2% FBS及び1% mesangial cell growth supplement(MCMに添付のもの)を添加した培地に懸濁し、0.5×10
4個/ウェルとなるように12ウェルプレートに播種して、37℃、5% CO
2条件下で静置培養した。2日後に、培地を添加物を含まないMCMに交換して静置培養した。1日後に、ウェルをMCMで一回洗浄し、400μL/ウェルのMCMを新たに添加した。
【0339】
次に、MCMで最終濃度の10倍濃度となるように希釈した実施例4(3)で調製した抗体サンプル、hAXL-hFc及びアイソタイプコントロール抗体を50μL/ウェルで添加し、一時間静置培養した。アイソタイプコントロール抗体(陰性対照)にはIgG1 isotype control (purified mouse monoclonal IgG1、R&D社製)を用いた。続いて、MCMで最終濃度(0.1μg/mL)の10倍濃度となるように希釈した、hGas6-FもしくはMCMのみを50μL/ウェル添加し、10分間静置培養した。氷上で培地を除去し、Protease inhibitor cocktail(シグマアルドリッチ社製)を含むPBSで洗浄後、Protease inhibitor cocktailと2-メルカプトエタノール(ナカライテスク社製)を含むPBSで5倍希釈したLane Marker Non-Reducing Sample Buffer(Thermo Fisher社製)を120μL/ウェル添加した。
【0340】
各ウェル中のサンプルを回収し、95℃で10分間加熱した。加熱後のサンプルをe・パジェル(5〜20%、ATTO社製)に供した後、SDSアクリルアミドゲル電気泳動法によりタンパク質を分離した。分離後、タンパク質をセミドライブロット法でPVDF膜に転写し、ウエスタンブロッティングを行った。一次抗体には、抗Akt抗体(Cell Signaling社製、#4691)を1000倍希釈、もしくは抗Phospho-Akt(Ser273) 抗体(Cell Signaling社製、#4060)を2000倍希釈したものを用いた。二次抗体には抗ラビットIgG抗体-HRP(dako社製、P0448)を用いた。上記抗体の希釈には、5%のECL Blocking Agent(GEヘルスケア社製)を含む1×TBST(Santa Cruz社製)を使用した。発色基質にはECL Select Western Blotting Detection Reagent(GEヘルスケア社製)を用い、ImageQuant LAS500(GEヘルスケア社製)を用いて化学発光を検出した。
【0341】
結果を
図4に記載する。メサンギウム細胞にhGas6を添加すると、Aktのリン酸化レベルが亢進した。一方、hAXL-hFc、KM5320-mKG1抗体及びKM5321-mKG1抗体は、いずれもhGas6によるAktのリン酸化レベルの亢進を、濃度依存的に抑制した。また、Isotype control は、hGas6によるAktのリン酸化レベルの亢進を抑制しなかった。
【0342】
この結果より、KM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体は、元々Gas6受容体を発現しているヒトメサンギウム細胞においても、hGas6添加により生じる細胞内シグナル伝達経路の活性化を阻害することが示された。
【0343】
[実施例10]本願発明の抗ヒトGas6モノクローナル抗体と抗ヒトGas6モノクローナル抗体CNTO抗体との競合阻害実験
取得抗体とCNTO抗体が競合してヒトGas6に結合するか否かを、競合ELISAを用いて確認した。
【0344】
競合ELISAは以下に記載する方法で行った。96ウェルのELISA用プレート(Nunc社製)に、Monoclonal ANTI-FLAG M2 antibody produced in mouse(Sigma-Aldrich社製)を、PBS(ナカライテスク社製)で2 μg/mLに調製したものを50 μL/ウェルで分注し、4℃で一晩静置して吸着させた。固相化液を取り除いた後、1% BSA-PBS(ナカライテスク社製)を300 μL/ウェル加え、室温で1時間静置してブロッキングし、Tween20-PBS(Wako社製)で5回洗浄した。次に、hGas6-Fを1% BSA-PBS で1μg/mLの濃度に調製したものを50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した。
【0345】
次に、実施例4(3)で調製したCNTO抗体をBiotin Labeling Kit-NH2(DOJINDO社製)でビオチン化し、最終濃度(2μg/mL)の二倍濃度となるように1% BSA-PBSで希釈して、ビオチン化CNTO抗体溶液を調整した。また、被験物質として実施例5(7)で調製した未標識のKM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体、及び実施例4(3)で調製した未標識のCNTO300を最終濃度の二倍濃度となるように1% BSA-PBSで希釈し、それぞれをビオチン化CNTO抗体溶液と等量ずつ混合し、室温で1時間静置した。プレートを、Tween20-PBSで5回洗浄した後、上記の混合サンプルを50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した。
【0346】
上記のプレートをTween20-PBSで5回洗浄した後、1% BSA-PBSで200倍希釈したStreptavidin HRP Conjugate(R&D社製)を50 μL/ウェルで分注し、室温で1時間静置した。プレートをTween20-PBSで5回洗浄し、TMB(Sigma-Aldrich社製)を50 μL/ウェル添加して発色させ、適当な発色が得られたところで、1N 塩酸(Wako社製)を50 μL/ウェル添加し、サンプル波長450 nm、リファレンス波長570 nmにおける吸光度(450 nm-570 nm)をプレートリーダーを用いて測定した。
【0347】
結果を
図5に記載する。CNTO抗体を被験物質とした場合は、陰性対照よりも吸光度が低下した。一方、KM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体を被験物質とした場合は、陰性対照と同程度の吸光度であった。被験物質である上記の未標識のGas6モノクローナル抗体が、ビオチン化CNTO抗体と競合してヒトGas6に結合するとき、検出される吸光度が陰性対照よりも低下する。従って、KM5320-mKG1抗体及びKM5321-mKG1抗体とCNTO抗体とは、競合せずにhGas6に結合することが示された。
【0348】
[実施例11]抗ヒトGas6モノクローナル抗体のVH及びVLをコードする遺伝子配列の単離
(1)抗ヒトGas6モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞からの総RNAの調製
5×10
6個のKM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体をそれぞれ産生するハイブリドーマより、RNAeasy Mini kit(QIAGEN社製)及びQIA shredder(QIAGEN社製)を用いて、総RNAを調製した。
【0349】
(2)抗ヒトGas6モノクローナル抗体のVH及びVLの遺伝子クローニング
(1)で取得した1 μgの総RNAから、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を用いて、cDNAを作製した。得られたcDNAを鋳型として、キット添付のユニバーサルプライマーA mix(フォワードプライマーを含有する)と、マウスIgG1重鎖定常領域をコードするリバースプライマー(プライマー28(配列番号65))及びPrimeSTAR Max DNA Polymerase (タカラバイオ社製)を含む25μLの反応液を調製し、PCRを行った。PCRは、98℃で10秒間保温した後、98℃で10秒間、55℃で5秒間、及び72℃で5秒間を1サイクルとして30サイクル行い、各抗体のVHの遺伝子を含むDNA断片を増幅した。
【0350】
また、ユニバーサルプライマーAとマウスIg(κ)特異的なプライマー(プライマー29(配列番号66))を用いて同様にPCRを行い、各抗体のVLの遺伝子を含むDNA断片を増幅した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)を用いて増幅DNA断片を回収した。得られた増幅DNA断片を、ZERO BLUNT TOPO PCR CLONING KIT(インビロジェン社製)を用いてpCR4-Blunt-TOPOベクターに挿入し、実施例2(1)と同様の方法でプラスミドを取得した。得られたプラスミドの塩基配列を解析し、cDNAの5’末端に開始コドンと推定されるATG配列が存在する完全長のVH cDNA、及びVL cDNAが取得されたことを確認した。
【0351】
(3)抗ヒトGas6モノクローナル抗体V領域の遺伝子配列の解析
(2)で得られたKM5320-mKG1抗体のVHの全塩基配列を配列番号67に、該配列から推定された、シグナル配列を含んだVHの全アミノ酸配列を配列番号68に、配列番号68に示したアミノ酸配列からシグナル配列を除いたアミノ酸配列を配列番号69にそれぞれ示した。また、KM5320-mKG1抗体のVLの全塩基配列を配列番号70に、該配列から推定された、シグナル配列を含んだVLの全アミノ酸配列を配列番号71に、配列番号71に示したアミノ酸配列からシグナル配列を除いたアミノ酸配列を配列番号72にそれぞれ示した。
【0352】
KM5321-mKG1抗体のVHの全塩基配列を配列番号73に、該配列から推定された、シグナル配列を含んだVHの全アミノ酸配列を配列番号74に、配列番号74に示したアミノ酸配列からシグナル配列を除いたアミノ酸配列を配列番号75にそれぞれ示した。また、KM5321-mKG1抗体のVLの全塩基配列を配列番号76に、該配列から推定された、シグナル配列を含んだVLの全アミノ酸配列を配列番号77に、配列番号77に示したアミノ酸配列からシグナル配列を除いた配列を配列番号78にそれぞれ示した。
【0353】
既知のマウス抗体の配列データ[SEQUENCES of Proteins ofImmunological Interest、US Dept.Health and Human Services(1991)]との比較から、単離した各々のcDNAは分泌シグナル配列を含むKM5320-mKG1抗体、KM5321-mKG1抗体をコードする完全長cDNAであることを確認した。
【0354】
各モノクローナル抗体のVH及びVLのCDRを、既知の抗体のアミノ酸配列と比較することにより同定した。KM5320-mKG1抗体のVHのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号79、80及び81に、VLのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号82、83及び84にそれぞれ示した。KM5321-mKG1抗体のVHのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号85、86及び87に、VLのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号88、89及び90にそれぞれ示した。
【0355】
[実施例12]抗ヒトGas6マウス-ラットキメラ抗体の調製
以下に記載する方法で抗Gas6マウスモノクローナル抗体 KM5320-mKG1抗体及びKM5321-mKG1抗体からマウス-ラットIgG1キメラ抗体(以下、単にラットキメラ抗体と略記する)を作製した。以下、それぞれのラットキメラ抗体をKM5320-rKG1抗体及びKM5321-rKG1抗体と記載する。
【0356】
(1)ラットキメラ抗体発現ベクターの構築
公知の適当な動物細胞発現ベクターの適当な位置に、KM5320-rKG1抗体の重鎖全長の塩基配列(配列番号91)および軽鎖全長の塩基配列(配列番号93)を通常の方法を用いてタンデムに組み込んだ。配列番号91で表わされるKM5320-rKG1抗体の重鎖全長の塩基配列は、KM5320抗体のVHの全塩基配列(配列番号67)およびラットIgG1重鎖定常領域を含む遺伝子配列からなる。また、配列番号93で表わされるKM5320-rKG1抗体の軽鎖全長の塩基配列は、KM5320抗体のVLの全塩基配列(配列番号70)とラットIg(κ)定常領域を含む遺伝子配列からなる。
【0357】
同様にして、公知の適当な動物細胞発現ベクターの適当な位置に、KM5321-rKG1抗体の重鎖全長の塩基配列(配列番号95)および軽鎖全長の塩基配列(配列番号97)を通常の方法を用いてタンデムに組み込んだ。配列番号95で表わされるKM5321-rKG1抗体の重鎖全長の塩基配列は、KM5321抗体のVHの全塩基配列(配列番号73)およびラットIgG1重鎖定常領域を含む遺伝子配列からなる。また、配列番号97で表わされるKM5321-rKG1抗体の軽鎖全長の塩基配列は、KM5321抗体のVLの全塩基配列(配列番号76)およびラットIg(κ)定常領域を含む遺伝子配列からなる。
【0358】
(2)ラットキメラ抗体安定発現細胞株の作製
(1)で作製した発現ベクターを、実施例2(5)および通常の方法に準じて、CHO-K1細胞(European Collection of Cell Cultures;ECACC)に導入し、ラットキメラ抗体安定発現細胞株を作製した。
【0359】
(3)ラットキメラ抗体の精製
(2)で作製したラットキメラ抗体安定発現細胞を、公知のタンパク質発現用の培地で数日間培養し、培養上清を回収した。実施例3(7)および公知の方法に準じて、回収した培養上清よりKM5320-rKG1及びKM5321-rKG1を精製した。実施例2(9)に記載の方法に準じて抗体の吸光度を測定すると、KM5320-rKG1抗体の吸光係数は1.54、KM5321-rKG1抗体の吸光係数は、1.45であった。
【0360】
得られたラットキメラ抗体については、実施例6および実施例7と同様の方法で、hGas6に対する結合活性およびhGas6とhAxl-Fcとの結合を阻害する活性が、それぞれの親抗体と同等であることを確認した。
【0361】
[実施例13]抗ヒトGas6モノクローナル抗体のエピトープ解析
取得抗体のエピトープを解析するため、ヒトGas6ドメイン欠損体および当該タンパク質のアミノ酸の一部をアラニンに置換した変異タンパク質を調製し、取得抗体の結合活性の変化を確認した。
【0362】
(1)ヒトGas6変異体(ドメイン欠損体)発現ベクターの調製
hGas6からGlaドメインを除去し、かつC末端にFLAGタグ及びHisタグを付加したGas6変異体(以下、hGas6-FHと記載する)を取得するために、以下に記載した方法で当該タンパク質の発現ベクターを作製した。
【0363】
ジェンスクリプト社にて、配列番号99で表わされる塩基配列(hGas6-delta)を全合成し、適当なプラスミドに組み込んだ。配列番号99で表わされる塩基配列は、5’末端からEcoRI認識配列、hGas6-FHの塩基配列およびBamHI認識配列からなる。hGas6-FHの塩基配列は、配列番号3に表わされるhGas6の塩基配列のうち、91番目から273番目までの塩基配列を除去し、3’末端に公知のFLAGタグおよびHisタグをコードする塩基配列を結合させた塩基配列である。
【0364】
得られたプラスミド及び動物細胞発現用ベクターINPEP4(Biogen-IDEC社製)をEcoRI及びBamHIで酵素処理し、実施例2(1)と同様の方法で、hGas6-FH発現ベクターであるINPEP-hGas6-FHを得た。
【0365】
(2)ヒトGas6変異体(アラニン置換体)発現ベクターの調製
(1)に記載したhGas6-FHのアミノ酸配列のうち、配列番号4で表わされるヒトGas6の全長アミノ酸配列の314番目のロイシン、315番目のグルタミン、316番目のプロリンと対応するアミノ酸を全てアラニンに置換した変異体(以下hGas6-FH-L314A,Q315A,P316Aまたは単にアラニン置換体と記載する)の発現ベクターを作製した。
【0366】
上記のアラニン変異体を発現するベクターは、以下に記載する方法で(1)で作製したINPEP-hGas6-FHへ部位特異的変異導入を行うことにより作製した。 鋳型であるINPEP-hGas6-FH、各10 pmolのプライマー30、31(配列番号101、102)及びPrimeSTAR Max DNA Polymerase (タカラバイオ社製)を含む25μLの反応液を調製してPCRを行った。PCRは98℃で10秒間保温した後、98℃で10秒間、55℃で5秒間、及び72℃で5秒間を1サイクルとして30サイクル行い、各変異体の塩基配列を含むDNA断片を増幅した。PCR産物にDpnIを添加し、37℃で1時間制限酵素処理することにより、変異が挿入されていない鋳型ベクターの消化を行った。DpnI消化後のPCR産物を大腸菌DH5αに導入し、得られた形質転換体より、所望の変異が挿入された遺伝子を有するプラスミドを得た。
【0367】
(3)ヒトGas6変異体一過性発現細胞株の調製
ヒトGas6変異体(hGas6-Fおよびアラニン置換体)の発現細胞株の調製には、Expi293細胞(invitrogen社製)を用いた。細胞培養の培地にはExpi293
TM Expression Medium(invitrogen社製)を使用し、37℃、5% CO
2条件下で振とう培養した。Expi293細胞に、(1)、(2)で作製した各種ヒトGas6変異体発現ベクターを導入し、各種ヒトGas6変異体の一過性発現細胞株を得た。細胞への発現ベクターの導入には、ExpiFectamine 293 Transfection Kit(invitrogen社製)を添付文書に従って使用した。
【0368】
(4)各種ヒトGas6変異体を含む培養上清からのヒトGas6変異体精製
(3)で取得した各種ヒトGas6変異体一過性発現細胞株を、ExpiFectamine 293 Transfection Kit(invitrogen社製)の添付文書に従い、4日間培養して培地を回収した。回収した培地を遠心分離し、得られた培養上清を0.22 μmフィルターを用いてろ過することで、各種ヒトGas6変異体を含む培養上清を調製した。
【0369】
培養上清は、実施例2(9)と同様の方法でANTI-FLAG M2 Affinity Gel (Sigma-Aldrich社製)を用いて精製した。溶出緩衝液には3 M塩化マグネシウム(ナカライテスク社製)を使用し、得られたヒトGas6変異体溶液の緩衝液はPBS(ナカライテスク社製)に置換して、0.22 μmフィルターを用いて滅菌ろ過した後、試験に用いた。
【0370】
(5)各種ヒトGas6変異体に対する取得抗体の結合活性評価
取得抗体が結合するGas6のエピトープを決定するため、(4)で精製した各種ヒトGas6変異体に対する結合活性を実施例6に記載の方法に準じて評価した。実験はN=2で行い、得られた吸光度の平均値が0.1以下のときを結合しない、2以上のときを結合すると判定した。
【0371】
抗原サンプルには、実施例2(9)で調製したhGas6-F及び(3)で調製した各種ヒトGas6変異体を使用した。抗体サンプルには実施例12(3)で調製したKM5320-rKG1及びKM5321-rKG1抗体をBiotin Labeling Kit - NH2(DOJINDO社製)でビオチン化したものを、1% BSA-PBSで1μg/mLとなるように希釈して用いた。また、陽性対照としてanti-human Gas6(R&D社製,DY885)を1% BSA-PBSで0.2ng/mLとなるように希釈して用いた。
【0372】
結果を表1に記載する。抗体が各抗原に結合したときを○、結合しなかったときを×で表わした。
【0373】
【表1】
【0374】
KM5320-rKG1及びKM5321-rKG1抗体は、hGas6-F及びhGas6-FHに同程度の強さで結合した。一方、これらの抗体は、hGas6-FH-L314A,Q315A,P316Aに結合しなかった。以上より、KM5320-rKG1及びKM5321-rKG1抗体は、配列番号4で表わされるヒトGas6の全長アミノ酸配列のうち、314番目のロイシン、315番目のグルタミン、316番目のプロリンの少なくともいずれもか一つに結合することが示された。
【0375】
[実施例14]抗ヒトGas6モノクローナル抗体の癌細胞株の増殖抑制活性評価
Gas6依存的な癌細胞増殖に対する抗ヒトGas6モノクローナル抗体の作用を確認するため、3種類のヒト癌細胞株を用いて細胞増殖アッセイを行った。
膵臓癌細胞株Panc-1細胞(American Type Culture Collection)、悪性黒色腫細胞株A375細胞(大日本製薬)、胃癌細胞株MKN7細胞(理研セルバンク)を用いて増殖アッセイを行った。各細胞におけるGas6受容体の発現の有無は、フローサイトメーターを用いて実施例9と同様の方法で測定し、それぞれ、AxlとMer、AxlとSky、AxlとSkyが発現していることを確認した。
【0376】
Panc-1細胞、A375細胞をDMEM(life technologies社製)に10% FBS(life technologies社製)を添加した培地に懸濁、MKN7細胞をRPMI 1640(life technologies社製)に10% FBSを添加した培地に懸濁した。各細胞懸濁液を、それぞれ2.0×10
4、1.0×10
4、0.6×10
4個/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種して、37℃、5% CO
2条件下で静置培養した。1日後に、培地をFBS無添加のものに交換して静置培養した。1日後に培地を捨て、FBS無添加の培地で下記最終濃度に調整した被験体を200μl/ウェルずつ添加して静置培養した。被験体は最終濃度1μg/mlのhGas6-Fならびに最終濃度20μg/mlのhAxl-hFc、KM5320-rKG1抗体、KM5321-rKG1抗体、および公知の方法で作製した抗dinitrophenylhydrazine(DNP)抗体(Motoki K et.al.,Clin.Cancer Res.11,3126-3135,2005)を使用した。また、陰性対照として上記培地で20倍希釈したPBSを使用した。3日後に培地を捨て、CellTiter-Glo Substrate(プロメガ社製)に付属しているCellTiter-Glo Bufferで溶解したCellTiter-Glo Reagentを50μl/ウェル添加し、シェーカーで1分間撹拌、室温で10分間静置した後、発光を検出した。
【0377】
Panc-1細胞について得られた結果を
図6に記載する。Panc-1細胞にhGas6を添加すると、PBSを添加した時よりも細胞数が約2倍に増加した。これに対し、KM5320-rKG1とKM5321-rKG1は、hGas6による細胞増殖の亢進をPBSと同程度にまで抑制した。抗DNP抗体はhGas6による細胞増殖の亢進に影響しなかった。また、Panc-1細胞以外の他の2細胞株についても同様の結果であった。これらの結果より、KM5320-rKG1とKM5321-rKG1は、Gas6受容体を発現している癌細胞株においても、hGas6依存的な細胞増殖を抑制することが示された。
【0378】
[実施例15]KM5320、KM5321ヒト化抗体の軽鎖および重鎖可変領域の設計
(1) KM5320ヒト化抗体のVLおよびVHのアミノ酸配列の設計
以下に記載する方法で、KM5320ヒト化抗体の各種VLおよびVHのアミノ酸配列を設計した。以降の記述では様々なVL、VHのアミノ酸配列を有するKM5320ヒト化抗体の総称として、hzKM5320抗体と記載する。
【0379】
最初に、KM5320抗体のCDRのアミノ酸配列の移植に適した既知のヒト抗体のFRのアミノ酸を選択するため、The National Center for Biotechnology Informationが提供するBLASTPデータベースにより、VLおよびVHのそれぞれについて、KM5320抗体のフレームワーク(以下、FRと記載する)のアミノ酸配列と相同性の高い既知のヒト抗体のFRのアミノ酸配列を検索した。
【0380】
その結果、GenBankアクセッションナンバーAAW69164.1(anti-tetanus toxoid immunoglobulin light chain variable region)およびDDBJアクセッションナンバーBAC01510.1(immunoglobulin heavy chain VHDJ region)で表わされるアミノ酸配列(以下、それぞれAAW69164.1、BAC01510.1と記載する)のFRのアミノ酸配列が、それぞれKM5320抗体のVLおよびVHのFRのアミノ酸配列と最も相同性が高かった。
【0381】
よって、AAW69164.1のFRのアミノ酸配列の適切な位置に、それぞれ配列番号82、83、84で表わされるKM5320のVLのCDR1〜3のアミノ酸配列を移植し、hzKM5320 LV0(配列番号105)を設計した。また、BAC01510.1のFRのアミノ酸配列の適切な位置に、それぞれ配列番号79、80、81で表わされるKM5320 VH のCDR1〜3のアミノ酸配列を移植し、hzKM5320 HV0(配列番号129)を設計した。
【0382】
上記のとおり設計したhzKM5320 LV0およびhzKM5320 HV0は、選択したヒト抗体のFRのアミノ酸配列に、マウスモノクローナル抗体であるKM5320由来のCDRのアミノ酸配列のみを移植したアミノ酸配列である。
【0383】
しかし、一般的に、ヒト化抗体を作製する場合には、単にげっ歯類由来抗体のCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のFRのアミノ酸配列へ移植するのみでは、ヒト化抗体の結合活性が低下してしまうことが多い。このような結合活性の低下を回避するため、CDRのアミノ酸配列の移植とともに、ヒト抗体とげっ歯類抗体で異なっているFRのアミノ酸残基のうち、抗体の結合活性に影響を与えると考えられるアミノ酸残基を改変することが行われている。
【0384】
そこで、本実施例においても、抗体の結合活性に影響を与えると考えられるFRのアミノ酸残基を以下のようにして同定し、改変した。
【0385】
まず、上記で設計したhzKM5320 LV0およびhzKM5320 HV0をそれぞれVL、VHに有する抗体をhzKM5320 LV0HV0抗体または単にhzKM5320 LV0HV0と記載する。他のhzKM5320抗体についても同様の方法で記載する。hzKM5320 LV0HV0抗体の可変領域の三次元構造をコンピューターモデリングの手法を用いて構築した。三次元構造座標作製および三次元構造の表示には、Discovery Studio(アクセルリス社)を用いた。また、KM5320抗体の可変領域の三次元構造のコンピューターモデルも同様にして構築した。
【0386】
更に、hzKM5320 LV0HV0抗体のVLおよびVHのFRのアミノ酸配列の中で、KM5320抗体と異なっているアミノ酸残基を、KM5320抗体の同じ部位に存在するアミノ酸残基に置換したアミノ酸配列を作製し、同様に三次元構造モデルを構築した。
【0387】
これら作製したKM5320抗体、hzKM5320 LV0HV0抗体および改変体の可変領域の三次元構造を比較し、抗体の結合活性に影響を与えると予測されるアミノ酸残基を同定した。
【0388】
その結果、hzKM5320 LV0HV0抗体の可変領域のFRのアミノ酸残基の中で、抗原結合部位の三次元構造を変化させ、抗体の結合活性に影響を与えると考えられるアミノ酸残基として、VLでは、配列番号105で表わされるアミノ酸配列の2番目のVal、15番目のLeu、46番目のLeu、73番目のLeu、78番目のLeu、及び87番目のTyrを、VHは、配列番号129 で表わされるアミノ酸配列の2番目のVal、9番目のSer、20番目のVal、38番目のArg、46番目のGlu、77番目のSer、93番目のVal、及び95番目のTyrを、ぞれぞれ選択した。
【0389】
これらの選択したアミノ酸残基のうち、少なくとも1つ以上のアミノ酸残基を、KM5320抗体の同じ部位に存在するアミノ酸残基へ置換し、様々な改変を有するヒト化抗体のVLおよびVHを設計した。
【0390】
具体的には、VLについては、配列番号105で表わされるアミノ酸配列の2番目のValをIleに、15番目のLeuをAlaに、46番目のLeuをValに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをValに、および87番目のTyrをPheに置換するアミノ酸改変のうち、少なくとも1つの改変を導入した。
【0391】
これにより、hzKM5320抗体のVLとして、hzKM5320 LV0(配列番号105)、LV1a(配列番号108)、LV1b(配列番号111)、LV2a(配列番号114)、LV2b(配列番号117)、LV3(配列番号120)、LV5(配列番号123)およびLV6(配列番号126)を設計し、それぞれのアミノ酸配列を
図7に示した。
【0392】
また、VHについては、配列番号129で表わされるアミノ酸配列の2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、20番目のValをIleに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、77番目のSerをThrに、93番目のValをThrに、および95番目のTyrをPheに置換するアミノ酸改変のうち、少なくとも1つの改変を導入した。
【0393】
これにより、hzKM5320抗体のVHとして、hzKM5320 HV0(配列番号129)、HV1(配列番号132)、HV2(配列番号135)、HV3a(配列番号138)、HV3b(配列番号141)、HV3c(配列番号144)、HV4(配列番号147)、HV6(配列番号150)およびHV8(配列番号153)を設計し、それぞれのアミノ酸配列を
図8に示した。
【0394】
(2) KM5321 ヒト化抗体のVLおよびVHのアミノ酸配列の設計
KM5321ヒト化抗体の各種VLおよびVHのアミノ酸配列についても、実施例15(1)と同様の方法で設計した。以降の記述では、以降の記述では様々なVL、VHのアミノ酸配列を有するKM5321ヒト化抗体の総称として、hzKM5321抗体と記載する。
【0395】
GenBankアクセッションナンバーAAW67414.1(rotavirus-specific intestinal-homing antibody light chain variable region)で表わされるヒト抗体のVLのFRのアミノ酸配列の適切な位置に、KM5321抗体のVLのCDR1〜3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号88、89、90)を移植することで、hzKM5321 LV0(配列番号156)を設計した。
【0396】
また、EMBLアクセッションナンバーCAJ13496.1(immunoglobulin heavy chain variable region)で表わされるヒト抗体のFRのアミノ酸配列の適切な位置に、KM5321抗体VHのCDR1〜3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号85、86、87)を移植することで、hzKM5321 HV0(配列番号186)を設計した。
【0397】
hzKM5321抗体の結合活性に影響を与えると考えられるFRのアミノ酸残基についても、hzKM5320抗体の場合と同様の手法でVL、VHに関してぞれぞれ選択した。選択したアミノ酸残基のうち、少なくとも1つ以上のアミノ酸配列をKM5321抗体の同じ部位に存在するアミノ酸残基へ置換し、様々な改変を有するヒト化抗体のVLおよびVHを設計した。
【0398】
具体的には、VLについては、配列番号156で表わされるアミノ酸配列の4番目のLeuをValに、13番目のAlaをValに、15番目のValをThrに、43番目のAlaをProに、64番目のGlyをSerに、73番目のLeuをPheに、78番目のLeuをThrに、85番目のThrをAspに、および104番目のValをLeuに置換するアミノ酸改変のうち、少なくとも1つの改変を導入した。
【0399】
これにより、hzKM5321抗体のVLとして、hzKM5321 LV0(配列番号156)、LV1a(配列番号159)、LV1b(配列番号162)、LV1c(配列番号165)、LV3(配列番号168)、LV4(配列番号171)、LV6(配列番号174)、LV7a(配列番号177)、LV7b(配列番号180)およびLV9(配列番号183)を設計し、それぞれのアミノ酸配列を
図9に示した。
【0400】
また、VHについては、配列番号186で表わされるアミノ酸配列の2番目のValをIleに、9番目のSerをProに、38番目のArgをLysに、46番目のGluをLysに、79番目のSerをAlaに、93番目のValをThrに、および112番目のValをIleに置換するアミノ酸改変のうち、少なくとも1つの改変を導入した。
【0401】
これにより、hzKM5321抗体のVHとして、hzKM5321 HV0(配列番号186)、HV1(配列番号189)、HV2a(配列番号192)、HV2b(配列番号195)、HV3a(配列番号198)、HV3b(配列番号201)、HV4a(配列番号204)、HV4b(配列番号207)、HV5(配列番号210)およびHV7(配列番号213)を設計し、それぞれのアミノ酸配列を
図10に示した。
【0402】
以降の記述においては、hzKM5321 LV0およびhzKM5321 HV0をそれぞれVL、VHに有する抗体をhzKM5321 LV0HV0抗体またはhzKM5321 LV0HV0と記載する。その他のhzKM5321抗体についても同様の方法で記載する。
【0403】
(3)ヒト化抗体の可変領域遺伝子の設計
ヒト化抗体(hzKM5320, hzKM5321抗体)の可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、動物細胞で高頻度に使用されるコドンを用いて設計した。これら塩基配列を用いて、ヒト化抗体の発現ベクターを構築し、ヒト化抗体を発現させた。
【0404】
[実施例16]hzKM5320、hzKM5321抗体の発現ベクターの構築
表2に示したhzKM5320、hzKM5321抗体の発現ベクターを、以下に記載する方法で構築した。
【0405】
【表2】
【0406】
まず、表3に記載した各ヒト化抗体のシグナル配列を含む可変領域アミノ酸配列をコードする塩基配列について、必要な遺伝子断片をFasmac社にて合成した。
【0407】
【表3】
【0408】
上記の合成遺伝子断片と、適当な抗体分泌シグナルを導入したヒトκ鎖定常領域の発現ベクター(EcoNI/BsiWI処理)およびヒト重鎖定常領域の発現ベクター(FspAI/NheI処理)とを用いて、In-Fuision HD Cloning Kit(クロンテック社)によりベクターへのサブクローニングを行った。大腸菌 DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社)を形質転換して、得られたプラスミドのシーケンスを確認した。正しい塩基配列が挿入されたプラスミドを産生する大腸菌のコロニーを選抜し、NucleoBond Xtra Midi EFキット(タカラバイオ社)を用いてプラスミドを調製した。
【0409】
EU index S228P、L235E及びR409Kのアミノ酸残基置換を含む変異ヒトIgG4定常領域を含む抗ヒトGas6ヒト化抗体を発現させるために、ヒト重鎖定常領域の発現ベクターとして、N5KG1ベクター(米国特許第6,001,358号)中の軽鎖定常領域および重鎖定常領域をコードする塩基配列を、制限酵素Bgl2およびBamHIを用いて除去し、この部分を上記の変異ヒトIgG4の定常領域をコードする塩基配列に置換したベクターを使用した。
【0410】
[実施例17]hzKM5320、hzKM5321抗体の一過性発現および精製
作製したヒト化抗体を、Expi293F Expression System Kit(Life Technologies社製)を使用して一過性に発現させた。プラスミドの導入の方法は添付書類に従った。軽鎖の発現ベクターと重鎖の発現ベクターは、1:2の比率で混合して導入した。
【0411】
プラスミド導入後の細胞を、120 mLの培養液中 で、37℃、5% CO
2、125 rpmの条件下で、3日間培養した。その後、細胞培養液の遠心分離を行い、0.2 μmフィルター(Thermo Scientific社)を通して培養上清を回収した。
【0412】
培養上清からMabSelect SuRe(GE Healthcare社製)を用いたアフィニティー精製により、精製抗体を取得した。具体的には、カラムに充填したレジンをPBSで平衡化した後、当該カラムに培養上清を添加し、PBSで2回洗浄し、Washバッファー1(PBS with 1 M NaCl)、Washバッファー2(20 mM クエン酸、50 mM NaCl, pH 5.0)で各1回洗浄後、溶出バッファー(20 mM クエン酸、50 mM NaCl, pH 3.4)を用いて抗体を溶出した。得られた抗体溶液に中和バッファー(1 M リン酸-NaOH, pH 7.0)を1/10 量加えて中和し、NAP25(GE Healthcare社製)を用いて抗体溶液の溶媒を保存バッファー(10 mMクエン酸、150 mM NaCl、pH 6.0)に置換した。バッファー置換後の抗体溶液について、Amicon Ultra-4 Centrifugal Filter Units(ミリポア社製)を用いて限外濾過による濃縮を行い、Nanodrop(Thermo Scientific社)を使用して吸光度A
280 を測定し、抗体溶液の濃度の測定と調整を行った。
【0413】
[実施例18]Biacore(登録商標)によるhzKM5320、hzKM5321抗体のヒトGas6タンパク質への結合活性評価
実施例16に記載の方法に準じて、KM5320およびKM5321の可変領域アミノ酸配列を、EU index S228P、L235E、R409Kのアミノ酸残基置換を含む変異ヒトIgG4定常領域に結合させたヒト型キメラ抗体(以下それぞれKM5320キメラ抗体、KM5321キメラ抗体と記載する)を作製した。これらキメラ抗体と、実施例17で得られたhzKM5320、hzKM5321抗体のヒトGas6に対する結合活性を比較することを目的とし、実施例2で作製したヒトGas6を用いて、表面プラズモン共鳴法(SPR法)による結合性試験を実施した。測定機器として、Biacore(登録商標)T100(GE Healthcare社製)を使用した。
【0414】
Anti-human IgG antibodyを、Human Antibody Capture Kit(GE Healthcare社製)を用いて、添付文書に従いCM5センサーチップ(GE Healthcare社製)に固定化した。フローセルに、1 μg/mLに調製した被験抗体を10 μL/minの流速で10秒間添加した。次いで、アナライトとして10 μg/mLより5回の段階希釈で3倍ずつ希釈したヒトGas6タンパク質溶液(0.1% BSAを含むHBS-EP+で希釈)を30 μL/min分の流速で添加し、各抗体とアナライトとの結合反応を2分間、解離反応を10分間測定した。測定はシングルサイクルカイネティクス法で行った。得られたセンサーグラムは、Bia Evaluation Software(GE Healthcare社製)を用いて解析し、各抗体の速度論定数を算出した。
【0415】
本測定の予備試験において、長時間にわたって数多くの抗体の結合活性を測定している間に、同じ抗体であっても、測定の前半より後半で測定されたka値の方が低下することが明らかになった。この現象は、アナライトとして使用したヒトGas6タンパク質が、測定中に徐々にバイアルに吸着され、実質的な濃度が減少するために生じていると考えられた。アナライトのバイアルへの吸着が測定結果に与える影響を排除するため、本測定では、バイアルにヒトGas6タンパク質溶液を添加した後十分時間静置し、ヒトGas6タンパク質のバイアルへの吸着がプラトーに達した状態で、各抗体への結合活性の測定を開始した。
【0416】
算出されたKM5320キメラ抗体およびhzKM5320抗体のヒトGas6に対する結合速度定数(ka)の最小値、解離速度定数(kd)および解離定数[kd/ka=KD]の最大値を表4に記載した。KM5321キメラ抗体およびhzKM5321抗体についても同様の方法で結合活性を測定し、得られた結果を表6に記載した。
【0417】
また、KM5320キメラ抗体、hzKM5320 LV5HV2抗体およびhzKM5320 LV1bHV0抗体についてのみ、再度SPR法での結合性試験を行い、ka、kdおよびKDを算出した結果を表5に記載した。再試験では、上述した試験のようにバイアルに添加したアナライトを十分時間静置するのではなく、測定する抗体の数とアナライトの濃度のバリエーションを減らし、短時間(数時間以内)で測定を行った。アナライトは、10 μg/mLより3回の段階希釈で3倍ずつ希釈したGas6タンパク質溶液(0.1% BSAを含むHBS-EP+で希釈)を使用した。これにより、アナライトのバイアルへの吸着を最小限にし、上述の試験よりも正確なka、KDの値を算出することができる。
【0418】
KM5321キメラ抗体およびhzKM5321 LV6HV2b抗体およびhzKM5321 LV7bHV0抗体についても同様の方法で結合活性を再度測定し、得られた結果を表7に記載した。
【0419】
表4より、KM5320キメラ抗体と各種hzKM5320抗体のka値はいずれも同程度であった。hzKM5320 LV0HV0抗体はKM5320キメラ抗体と比べてkd値が約6倍に増加しており、それに伴いKD値も10倍以上増加していたが、他のhzKM5320抗体のうち半数以上の抗体では、KM5320キメラ抗体に対するKD値の増加が2倍程度に抑制されていた。
【0420】
また、表6よりKM5321キメラ抗体と各種hzKM5321抗体のka値はいずれも同程度であった。hzKM5321 LV0HV0抗体はKM5321キメラ抗体と比べてkd値、KD値が約3倍に増加したが、他のhzKM5321抗体のうち3分の1以上の抗体では、KM5321キメラ抗体に対するKD値の増加が2倍程度に抑制されていた。
【0421】
以上より、KM5320、KM5321抗体のCDRをヒト抗体のFRに移植しただけのhzKM5320 LV0HV0抗体、hzKM5321 LV0HV0抗体では、KM5320、KM5321キメラ抗体と比べてGas6タンパク質に対する結合活性が大幅に低下することが明らかになった。しかし、hzKM5320 LV0HV0、hzKM5321 LV0HV0抗体のFRのアミノ酸残基の一部を、KM5320抗体、KM5321抗体のFRの同じ場所に存在するアミノ酸残基に置換することにより、上記した抗体の結合活性の低下が抑制され、KM5320、KM5321キメラ抗体の50%程度の結合活性を保持している複数のヒト化抗体が作製できた。
【0422】
また、表5より、KM5320キメラ抗体のKD値が0.73 nMであるのに対し、hzKM5320 LV5HV2抗体のKD値は1.29 nMであり、表4の結果と同様に、hzKM5320 LV5HV2抗体は、KM5320キメラ抗体の50%以上の結合活性を保持していることが確認できた。さらに表7より、KM5321キメラ抗体のKD値が0.2 nMであるのに対し、hzKM5321 LV6HV2b抗体のKD値が0.48 nM、hzKM5321LV7bHV0抗体のKD値が0.40 nMであり、これらのヒト化抗体は、KM5321キメラ抗体の50%程度の結合活性を保持していることが再度確認できた。
【0423】
【表4】
【0424】
【表5】
【0425】
【表6】
【0426】
【表7】
【0427】
[実施例19]ELISAによるhzKM5320、hzKM5321抗体のヒトGas6タンパク質への結合活性評価
実施例6に記載した方法に準じて、hzKM5320抗体とhzKM5321抗体のヒトGas6タンパク質への結合活性をELISAで測定した。キメラ抗体及びヒト化抗体は定常領域がヒト由来抗体であるため、2次抗体として1% BSA-PBSで3000倍希釈したGoat anti Human IgG(H&L) Ads to Ms,Rb,Bv,Ho Horseradish Peroxidase(American Qualex社製、A110PD) を含む溶液を使用した。測定値のバックグラウンドを低減させるため、2次抗体希釈液は、抗DNPマウスIgG1抗体50μg/mLと混合したものを室温で1時間インキュベートしたものを使用した。得られた結果を
図11に示す。
図11のグラフについて、抗体毎に各濃度における吸光値からLogistic曲線によるカーブフィッティングを行い、統計解析言語R(Ver. 3.02)を用いてKM5320、KM5321キメラ抗体およびhzKM5320、hzKM5321抗体の結合のEC
50値およびそのSE値を算出した。結果を表8に示す。hzKM5320 LV5HV2抗体は、KM5320キメラ抗体と同程度の結合活性を示した。また、hzKM5321 LV6HV2b、LV7bHV0抗体も、KM5321キメラ抗体と同程度の結合活性を示した。
【0428】
【表8】
【0429】
[実施例20]hzKM5320、hzKM5321抗体のヒトGas6タンパク質とAxlとの結合阻害活性評価
実施例7と同様の方法で、hzKM5320、hzKM5321抗体のヒトGas6タンパク質とAxlとの結合阻害活性を測定した。得られた結果を
図12に示す。
図12のグラフについて、抗体毎に各濃度におけるELISAの吸光値からLogistic曲線によるカーブフィッティングを行い、統計解析言語Rを用いてKM5320、KM5321キメラ抗体およびhzKM5320、hzKM5321抗体の結合阻害のIC
50値およびそのSE値を算出した。結果を表9に示す。hzKM5320 LV5HV2抗体は、KM5320キメラ抗体の7割程度の結合阻害活性を維持していることが明らかになった。また、hzKM5321 LV6HV2b抗体およびhzKM5321 LV7bHV0抗体は、KM5321キメラ抗体と同程度の結合阻害活性維持していることが明らかになった。
【0430】
【表9】