【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
ヘルペスウイルス及びそれによる感染症に対するビフィズス菌の有効性を明らかにすべく、以下のような実験を行った。
【0033】
(ビフィズス菌)
なお、用いたビフィズス菌は、ヒト乳児糞便より単離されるビフィドバクテリウム・ロンガム BR−108株(Bifidobacterium longum BR−108)であり、2012年4月13日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE、〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に寄託された菌である(受託番号:NITE P−1317)。そして、この菌を加熱殺菌し、凍結乾燥及び粉砕処理を施したもの(Combiファンクショナルフーズ事業部製造、製品名:BR−108(登録商標))を、後述の通り、マウスに摂取させた。
【0034】
(ヘルペスウイルス)
また、用いたヘルペスウイルスは、HSV−2 UW268株(富山県衛生研究所提供)である。当該ウイルス株は、Vero細胞に0.01PFU/cellで感染させ、20〜24時間後に−80℃に移し、その後凍結融解を3回繰り返した。次いで、培養物を50mlの遠心チューブに入れ、4℃で1500回転/分、10分間の遠心を行い、その上清を1.5mlマイクロチューブに1mlずつ分注し、−80℃で保存して維持した。そして、その内の1本を取り出して、Vero細胞を用いてプラークアッセイを行い、ウイルス量(PFU)を測定し、後述の感染に供した。
【0035】
そして、これらビフィズス菌及びHSV−2を用い、以下のような実験を行った。すなわち、先ず、後述のHSV−2接種の7日前に、BALB/cマウス(6週齢、雌)を以下の群に10匹ずつ分け、ビフィズス菌(BR−108)の摂取を開始した。
A:陰性対照群(生理食塩水)(「対照群」とも称する)
B:BR−108(0.42x10
9個/日)摂取群(「BR4億個」とも称する)
C:BR−108(2.1x10
9個/日)摂取群(「BR20億個」とも称する)
D:BR−108(10.5x10
9個/日)摂取群(「BR100億個」とも称する)。
【0036】
なお、BR−108を生理食塩水にて懸濁させたものを、経口にて、各群における1日あたりの摂取量が各々前記量になるよう、1日2回(午前9時と午後6時)に分けて、マウスに摂取させた。また、これらマウスには、発情周期を同期化させ、性器のHSV−2感染への感受性を増加させるために、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(medroxyprogesterone 17−acetate、3mg/個体)を、HSV−2接種の6日前及び1日前に皮下注射した。
【0037】
また、ヘルペスウイルス感染症は、免疫機能の低下により、発症、再発、重症化、長期化が生じ易くなる。そこで、これら各マウス摂取群においては、免疫抑制剤 5−FU(5−fluorouracil、1回あたりの摂取量:0.25mg/0.1ml/個体)を、HSV−2接種の7日前〜当該接種の13日後まで、1日置きに皮下注射し、免疫低下群(各群5匹ずつ)も各々用意した。
【0038】
そして、これらマウスの性器にHSV−2(1x10
4PFU/20μl/個体)を局所接種した。次いで、当該接種3日後に、冷PBS(100μl)で性器を局所洗浄し、そのウイルス量を下記プラークアッセイによって測定した。得られた結果を
図1に示す。
【0039】
<プラークアッセイ>
回収した前記局所洗浄液を、PBSにて先ず適宜希釈した。得られた希釈液100μlを、35mmディッシュに単層状に培養したVero細胞に加え、室温で1時間インキュベートし、感染させた。次に、0.8%メチルセルロース及び2%牛胎児血清を加えたMEM培地を重層し(2ml/dish)、37℃で2日間培養した。当該培養後、培地を除去し、クリスタルバイオレットにて固定・染色を施した。そして、顕微鏡下でプラーク数を測定し、その測定数からプラーク形成単位(plaque−forming unit、PFU)を算出した。
【0040】
<病変スコアに基づく評価>
また、HSV−2接種後、ヘルペス症状と死亡例とを記録し、下記病変スコア(lesion score)に基づき評価した。得られた結果を
図2に示す。
0:無症状
1:軽度の発赤
2:中等度の発赤と腫脹
3:滲出液を伴う発赤と腫脹
4:後肢の麻痺
5:死亡。
【0041】
図1に示す通り、HSV−2を接種してから3日後の性器における当該ウイルス量を測定した結果、ビフィズス菌(BR−108)を摂取させることによって、ウイルス量は低減することが明らかになった。さらに、その低減に関しては、用量依存性を示す傾向にあることも認められた。また、免疫抑制剤処理によって、その低減は若干緩和されることも示された。
【0042】
さらに、
図2に示す通り、ビフィズス菌を摂取させることによって、HSV−2接種後1週間の性器ヘルペス症状の急速な進展が抑制(遅延)されることも明らかになった。特に、HSV−2を接種してから6日後の時点では、ビフィズス菌を摂取していない対照群において病変スコアは2.5以上に達していたにも関わらず、ビフィズス菌を1日あたり100億個摂取している群におけるそれは「ゼロ」(無症状の状態)に抑えられていた。また、その用量依存性については、中・高用量(BR20億個、BR100億個)は、低用量(BR4億個)に比べて、症状の進行をより強く抑制する傾向にあることが認められた。なお、性器ヘルペス症状の抑制に関し、免疫抑制剤処理による明らかな影響は認められなかった。また、最終的(対照群においてはHSV−2接種後9日迄、ビフィズス菌摂取群においてはHSV−2接種後12日迄)には、いずれの投与群においても死亡率は100%となった。
【0043】
なお、ヘルペスウイルスの再発の過程、すなわち潜伏感染状態から回帰発症に至る過程において、発症するか否かは増殖してくるウイルス量が大きな決定因子となることが知られている。そして、この時に、ビフィズス菌を投与し、
図1に示すように体内のウイルス産生量を低下させることによって、発症させずに済むことが予測される。したがって、再発の予防も期待できる。また、
図2に示すモデル動物実験においては、対照群のマウスが全例死亡するという条件を設定したため、ヒトでの回帰発症時のウイルス量に比べて多大な負荷がかかったと考えられる。
【0044】
<抗HSV活性の検出>
上述の通り、ビフィズス菌を経口にて摂取させることによって、ヘルペスウイルスの量を低減させ、またヘルペスウイルス感染症の進行を抑制することが可能となることが明らかになった。そこで次に、かかるビフィズス菌によるウイルス増殖抑制効果がどのような作用機序にて奏されるのかを明らかにすべく、以下の実験を行った。
【0045】
すなわち、本発明者らは、ビフィズス菌由来の抗ウイルス活性成分が吸収されて血中に移行してウイルス増殖抑制に寄与するという経路が関与するという可能性を想定し、かかる想定のもと、ビフィズス菌の経口投与後0.5から8時間経過した時点で血清を採取し、その抗HSV活性の有無を評価した。
【0046】
より具体的には、以下の手順にて抗HSV活性の検出を行った。
1)先ず、BALB/cマウス(雌、6週齢)にBR−108(1.0x10
10個/0.4ml/day)又はアシクロビル(ACV)(1mg/0.4ml/day)を、ウイルス感染7日前から3日後まで、1日2回(9時、18時)経口投与した。なお、各投与群について、n=3x7回のサンプリングを行った。また対照として未処置のマウス3匹も用意した。
2)前記各マウスの性器に、HSV−2(2x10
4PFU/20μl/mouse)を局所接種した。
3)感染3日後の朝にも、BR−108又はアシクロビルを投与した。そして、その30分、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間後に、各マウスから血液を採取し、それらから血清を分離した。
4)次いで、得られた各血清を培地で10倍希釈して、100μl/mlとした。
5)また、48−well platesにVero細胞を培養し、翌日、HSV−2(0.1PFU/ml)を加え、室温で1時間インキュベーションし、感染させた。
6)PBSで洗浄した後、上記1)の血清希釈液を200μl/well加え、37℃にてインキュベーションした。
7)該インキュベーションを開始してから24時間後に、培養物(細胞及び培地)を回収して、−80℃で凍結保存した。
8)凍結融解を3回行い、PBSで10
1〜10
5倍に適宜希釈した。次いで、その希釈液を、Vero細胞(35−mm dishes)を用いたプラークアッセイに供した。0時間区には、上記3)におけるサンプリング当日30分の時点で無処置のマウスから採取した血清を用いた。対照区には、血清の代わりにPBSを用いた。
9)そして、前記アッセイにおける対照区のプラーク数を100%とした時の各血清のプラーク数を%で求め、BR−108又はACVを経口投与されたマウスから分離した血清の抗HSV−2活性を経時的に評価した。得られた結果を下記表1及び
図3に示す。なお、表1中の数値は、各群3匹の血清におけるプラーク数(%)の平均値±SD(標準偏差)を示す。また、
図3は表1に記載のそれら数値をグラフにしたものである。
【0047】
【表1】
【0048】
表1及び
図3に示した結果から明らかなように、ACVの経口投与群(#2)では、投与後2時間にわたって抗HSV−2活性が強まり、その後徐々に活性が弱まり、6時間後には活性が消失した。これに対して、ビフィズス菌投与群(#1)では、投与して6時間後から抗ウイルス活性が高くなり、8時間後以降も持続していた。
【0049】
かかる結果から、ビフィズス菌及びその代謝産物等に由来する生理活性物質が、血中に移行することにより、その抗HSV活性が奏されたことが考えられる。また、その抗HSV活性は持続的な活性であることも明らかになった。特に、ヘルペスウイルス感染症の既存薬であるACVの抗ウイルス活性が低減した頃に、ビフィズス菌のそれは亢進するため、かかる既存薬との併用により、より効率的かつ効果的なヘルペスウイルス感染症の改善及び予防が可能となる。