特許第6803247号(P6803247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803247ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803247
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/745 20150101AFI20201214BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20201214BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20201214BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20201214BHJP
   A23K 10/18 20160101ALI20201214BHJP
【FI】
   A61K35/745
   A61P31/22
   C12N1/20 E
   A23L33/135ZNA
   A23K10/18
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-12905(P2017-12905)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2017-137303(P2017-137303A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-14817(P2016-14817)
(32)【優先日】2016年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1317
(73)【特許権者】
【識別番号】391003912
【氏名又は名称】コンビ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 京子
(72)【発明者】
【氏名】牧岡 祐子
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−526752(JP,A)
【文献】 特開平04−335885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィズス菌を有効成分として含み、前記ビフィズス菌が、受託番号:NITE P−1317で寄託されているビフィドバクテリウム・ロンガム BR−108株である、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための組成物。
【請求項2】
前記ヘルペスウイルス感染症が単純ヘルペスウイルス2型による感染症である、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
経口摂取用組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための組成物に関する。より詳しくは、ビフィズス菌を有効成分として含む、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルペスウイルス感染症は、ヘルペスウイルス感染によって引き起こされる疾患であり、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)感染によって引き起こされる口唇ヘルペス、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)による感染によって引き起こされる性器ヘルペス等が挙げられる。
【0003】
このように、これら疾患は各々異なるヘルペスウイルスが原因で発症するが、潜伏感染と再発という点において共通している。すなわち、ヘルペスウイルスは、体表面での初期感染後、神経節に潜伏し、ストレス等にて宿主の免疫機能が低下した時に再発することが知られている。
【0004】
また、ヘルペスウイルス感染症に対しては、アシクロビル、パラシクロビル等の核酸アナログがその治療に用いられており(非特許文献1〜3)、さらに再発防止のため、感染者への継続投与も認められている。しかし、これらの治療方法については副作用もいくつか報告されており、また薬価が高く、患者への身体面及び経済的な面での負担が大きいことが問題となっている。さらに、継続投与により、その治療が長期に及ぶ場合には、ヘルペスウイルスが薬剤耐性能を獲得してしまう可能性が高い。そのため、かかる核酸アナログに代わる代替医療が求められている。
【0005】
したがって、安価で安全性高く、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための物質の探索、開発が求められているが、未だこのような物質は得られていないのが現状である。
【0006】
ところで、近年、ビフィズス菌等の腸内細菌について、疾病の予防効果や疾病の症状の改善効果等を検証し、安全性の高い医薬や飲食品として利用しようとする試みがなされている。しかしながら、これまで、ビフィズス菌等について様々な疾患に対する症状改善効果が報告されているが、いまだヘルペスウイルス感染症の治療に応用した例は報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.E Straus, Hら、N.Engl.J.Med.、1984年、310巻、1545〜1550ページ
【非特許文献2】J.M.Douglasら、N.Engl.J.Med.,1984年、310巻、1551〜1556ページ
【非特許文献3】L.G.Kaplowitzら、JAMA、1991年、265巻、747〜751ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するために有効であり、また高い安全性を有する安価な物質を見出すことにある。さらに、該物質を有効成分として含むヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ヘルペスウイルス感染動物モデルにおけるビフィズス菌の有効性を検討した。具体的には、このモデルマウスに、ビフィズス菌の一例としてビフィドバクテリウム・ロンガム(BR−108株)を経口摂取させ、当該マウスにおけるウイルス量及びその症状の程度を評価した。その結果、ビフィズス菌の摂取により、ウイルス量は低減され、またその感染症状の進行が抑制されることが明らかになった。また、かかるビフィズス菌の抗ウイルス活性は持続的なものであることも明らかになった。さらに、モデルマウスの免疫機能を低下させても、その抑制効果にさしたる影響がなかったことから、宿主の免疫機能低下時に生じるヘルペスウイルス感染症の再発を予防するという点においても、ビフィズス菌は有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
(1) ビフィズス菌を有効成分として含む、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための組成物。
(2) 前記ビフィズス菌がビフィドバクテリウム・ロンガムである、(1)に記載の組成物。
(3) 前記ヘルペスウイルス感染症が単純ヘルペスウイルス2型による感染症である、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4) 経口摂取用組成物である、(1)〜(3)のうちのいずれか一に記載の組成物。
【0011】
なお、ビフィズス菌は、後述のBR−108株のように、正常な乳幼児のフローラ(糞便等)において優位に存在する菌であるため、その安全性は確立しているといえる。また、その培養方法も確立しているので、安価に提供することも可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物を摂取することによって、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防を図ることができる。また、本発明の組成物の有効成分は、ビフィズス菌であり、安価で安全性が高い。さらに、本発明の組成物は、日常的に容易に摂取することができ、ひいては継続して長期に容易に摂取することもできる。また、ビフィズス菌によるヘルペスウイルス感染症に対する抑制効果は持続的なものであり、さらに宿主の免疫機能低下時においても、ビフィズス菌によるヘルペスウイルス感染症に対する抑制効果は維持されている。したがって、ヘルペスウイルス感染症の再発を抑制する上でも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)を接種したマウスの性器における、接種してから3日後の当該ウイルス量を測定した結果を示すグラフである。「BR4億個」、「BR20億個」及び「BR100億個」は、前記HSV−2接種マウスに1日あたりビフィズス菌(BR−108株)4億個、20億個及び100億個を各々摂取させた結果を示す。また「対照群」は、ビフィズス菌を摂取させなかった前記HSV−2接種マウスの結果を示す。さらに、「+」は、免疫抑制剤にて処置した前記HSV−2接種マウスの結果を示し、「−」は、免疫抑制剤にて処置しなかった前記HSV−2接種マウスの結果を示す。また、棒グラフ及びそれに付したバーは、mean±SD(平均値±標準偏差)であることを示す。さらに「アスタリスク」は、免疫抑制剤にて処置しなかった対照群と比較して統計上の有意差が認められたことを示し(P<0.05)、「シャープ」は、免疫抑制剤にて処置した対照群と比較して統計上の有意差が認められたことを示す(P<0.05)。なお、統計上の有意差はDunnet検定及びMann−Whitney U検定によって評価した。
図2】HSV−2を接種したマウスにおける、病変スコア(平均値)の経時変化を示すグラフである。なお、グラフ中の表記は図1のそれらと同様である。
図3】ビフィズス菌又はアシクロビル(ACV)摂取後の、HSV−2を接種したマウス血中におけるウイルス量(抗ウイルス活性)の経時変化を示すグラフである。縦軸は、対照区の血中ウイルス量を100%とした時の各マウスにおけるそれの割合(%)を示す。横軸の時間は、ビフィズス菌又はACVをマウスに摂取させてからの時間を示す。また、棒グラフ及びそれに付したバーは、mean±SDであることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ビフィズス菌を有効成分として含む、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための組成物を提供する。
【0015】
本発明において、「ヘルペスウイルス感染症」とは、ヘルペスウイルス科に属するウイルスによって引き起こされるウイルス感染症を意味し、このようなウイルスとしては、例えば、アルファヘルペスウイルス亜科に属するヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)、ヒトヘルペスウイルス3(HHV−3、水痘・帯状疱疹ウイルス、VZV))、ベータヘルペスウイルス亜科に属するヘルペスウイルス(ヒトヘルペスウイルス5(HHV−5、サイトメガロウイルス、CMV)、ヒトヘルペスウイルス6(HHV−6)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV−7))、ガンマヘルペスヘルペスウイルス亜科に属するヘルペスウイルス(ヒトヘルペスウイルス4(HHV−4、エプスタイン・バール・ウイルス、EBV)、ヒトヘルペスウイルス8(HHV−8、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス))が挙げられる。
【0016】
本発明において、「改善」には、ヘルペスウイルス感染症を完全に治療することの他、症状を緩和し、またその進行を抑制することも含まれる。「予防」にはヘルペスウイルス感染症の発症を抑制する又は遅延させ、またその再発を抑制することが含まれる。さらに、改善又は予防には、ヘルペスウイルス感染症の原因であるヘルペスウイルスの量を低減することも含まれる。また、ヘルペスウイルス感染症の改善又は予防の作用は、例えば、後述の実施例に示すように、プラークアッセイによるウイルス量の測定や病変スコアを用いた症状の程度の数値化により、評価することができる。
【0017】
本発明の組成物の有効成分である「ビフィズス菌」としては、ビフィドバクテリウム属に属する細菌であればよく、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・カテヌラツム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・サーモフィルム(Bifidobacterium thermophilum)が挙げられるが、ヘルペスウイルス感染症の改善又は予防の作用を有する限り、特に制限されない。
【0018】
本発明の組成物に用いるビフィズス菌は、好ましくは、ビフィドバクテリウム・ロンガムであり、特に好ましくは、ビフィドバクテリウム・ロンガム BR−108株である。なお、BR−108株(BR−108)は、乳児糞便より単離されるビフィドバクテリウム・ロンガムであり、2012年4月13日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE、〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に寄託された菌である(受託番号:NITE P−1317)。また、当該ビフィズス菌は、配列番号:1において示されるヌクレオチド配列を、16SrRNA遺伝子の配列として有する細菌でもある。
【0019】
また、上記ビフィズス菌は、1種のみを本発明の組成物に用いることもできるが、2種以上の菌種を配合して本発明の組成物に用いることもできる。さらに、本発明の組成物において、ビフィズス菌は、生菌として、また、死菌体として用いることができる。死菌体は、耐熱性に優れ、品質が安定しており、無味無臭である点で、本発明の組成物の有効成分として好ましい。本発明の組成物における死菌体としては、加熱殺菌した菌体を用いることができる。加熱殺菌した菌体は、ビフィズス菌を常法に従って培養して得られた培養物から、例えば、濾過、遠心分離等の方法により菌体を回収し、水洗後、水等に懸濁して120℃以下(好ましくは80〜120℃)、30分以内(3秒〜30分間)加熱処理した後、必要に応じて濃縮、乾燥(凍結乾燥等)及び粉砕処理することにより調製できる。なお、ビフィドバクテリウム・ロンガム BR−108株の加熱殺菌菌体の微細粉末は、製品名「BR−108(登録商標)」(Combiファンクショナルフーズ事業部製造)として市販されている。また、本発明の組成物において有効成分として含まれるビフィズス菌は、前述の通り菌体であってもよく、該細菌に含まれる物質、該細菌の分泌産物、該細菌による代謝産物であってもよい。
【0020】
本発明の組成物は、ヘルペスウイルス感染症の改善又は予防のための医薬組成物、飲食品(動物用飼料を含む)、あるいはモデル動物実験等に用いられる試薬の形態であり得る。
【0021】
本発明における組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤等として、経口的または非経口的に使用することができる。本発明は、腸内細菌であるビフィズス菌を有効成分とする組成物であり、経口により、非侵襲的かつ簡便に摂取させることができる。すなわち、本発明の組成物の好ましい摂取の方法は、経口による摂取である。
【0022】
これら製剤化においては、薬理学上若しくは飲食品として許容される担体、具体的には、生理食塩水、滅菌水、植物油、溶剤、賦形剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる。
【0023】
本発明の組成物を医薬組成物として用いる場合には、ヘルペスウイルス感染症の改善や予防に用いられる公知の物質と併用してもよい。かかる公知の物質としては、例えば、アシクロビル、パラシクロビル、シドフォビル、ファムシクロビル、フォミビルセン、ホスカルネット、ガンシクロビル、イドクスウリジン、ペンシクロビル、トリフルリジン、バルガンシクロビル、及びビダラビンといった、核酸アナログ、DNA合成阻害剤等が挙げられる。また、後述の実施例において示す通り、アシクロビルの抗ウイルス活性が低減した頃に、ビフィズス菌のそれは亢進するため、かかるヘルペスウイルス感染症の改善や予防に用いられる公知の物質との併用により、本発明においては、より効率的かつ効果的なヘルペスウイルス感染症の改善及び予防が可能となる。
【0024】
本発明の組成物を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、栄養補助食品、病者用食品、あるいは動物用飼料であり得る。本発明の飲食品は、上記のような組成物として摂取することができる他、種々の飲食品として摂取することもできる。飲食品の具体例としては、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト等の発酵食品、発酵飲料;食用油、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリン等の油分を含む製品;スープ類、乳飲料、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料、ドリンク剤、ゼリー状飲料、機能性飲料等の液状食品;飯類、麺類、パン類等の炭水化物含有食品;ハム、ソーセージ等の畜産加工食品;かまぼこ、干物、塩辛等の水産加工食品;漬物等の野菜加工食品;ゼリー等の半固形状食品;みそ等の発酵食品;洋菓子類、和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、冷菓、氷菓等の各種菓子類;カレー、あんかけ、中華スープ等のレトルト製品;インスタントスープ,インスタントみそ汁等のインスタント食品や電子レンジ対応食品等が挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状またはゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。なお、本発明における飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術により実施することができる。当該飲食品においては、ヘルペスウイルス感染症の改善又は予防に有効な1種もしくは2種以上の成分(例えば、栄養素等)を添加してもよい。また、当該改善等以外の機能を発揮する他の成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0025】
本発明の組成物は、ヒトを含む動物を対象として使用することができるが、ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物等を対象とすることができる。具体的には、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒル、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、マウス、ラット、サル等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0026】
また、本発明の組成物の対象としては、その発症の如何を問わず、ヘルペスウイルスに感染している動物が挙げられ、また予防の観点からは、ヘルペスウイルスに感染していない又はその感染の疑いのある動物に、本発明の組成物を投与し又は摂取させてもよい。さらに、再発予防の観点からは、その症状がでていないヘルペスウイルスを保因する動物にも、本発明の組成物は好適に用いることができる。
【0027】
本発明の組成物を投与又は摂取する場合、その投与量または摂取量は、対象の年齢、体重、ヘルペスウイルス感染症の症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品等)等に応じて、適宜選択される。例えば、1日当たりのビフィズス菌の投与量又は摂取量は、一般に、0.5×10個/kg体重〜50×10/kg体重であり、好ましくは、2×10個/kg体重〜50×10個/kg体重である。
【0028】
また、本発明は、このように、ビフィズス菌又はそれを有効成分として含む組成物を対象に投与すること又は摂取させることを特徴とする、対象におけるヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するための方法をも提供するものである。
【0029】
なお、ビフィズス菌又はそれを有効成分として含む組成物の投与又は摂取量としては上述の通りであるが、1日当り1回又は複数回(例えば、2回)に分けて投与又は摂取させてもよい。また、投与又は摂取の期間は、ヘルペスウイルス感染症の改善の程度に応じて中止することもできるが、上述の通り、再発予防の観点から、中止することなく継続して投与又は摂取させることが望ましい。なお、「継続」については、毎日継続でもよく、間隔を空けての継続でもよいが、効果の点で毎日継続してビフィズス菌又はそれを有効成分として含む組成物を投与又は摂取することが好ましい。
【0030】
本発明の組成物の製品(医薬品、飲食品、試薬)又はその説明書は、ヘルペスウイルス感染症を改善又は予防するために用いられる旨の表示を付したものであり得る。また、飲食品に関しては、形態及び対象者等において一般食品との区別がつくよう、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)として健康機能の表示を、本発明の組成物の製品等に付したものであり得る。ここで「製品又は説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装等に表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物等に表示を付したことを意味する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
ヘルペスウイルス及びそれによる感染症に対するビフィズス菌の有効性を明らかにすべく、以下のような実験を行った。
【0033】
(ビフィズス菌)
なお、用いたビフィズス菌は、ヒト乳児糞便より単離されるビフィドバクテリウム・ロンガム BR−108株(Bifidobacterium longum BR−108)であり、2012年4月13日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE、〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に寄託された菌である(受託番号:NITE P−1317)。そして、この菌を加熱殺菌し、凍結乾燥及び粉砕処理を施したもの(Combiファンクショナルフーズ事業部製造、製品名:BR−108(登録商標))を、後述の通り、マウスに摂取させた。
【0034】
(ヘルペスウイルス)
また、用いたヘルペスウイルスは、HSV−2 UW268株(富山県衛生研究所提供)である。当該ウイルス株は、Vero細胞に0.01PFU/cellで感染させ、20〜24時間後に−80℃に移し、その後凍結融解を3回繰り返した。次いで、培養物を50mlの遠心チューブに入れ、4℃で1500回転/分、10分間の遠心を行い、その上清を1.5mlマイクロチューブに1mlずつ分注し、−80℃で保存して維持した。そして、その内の1本を取り出して、Vero細胞を用いてプラークアッセイを行い、ウイルス量(PFU)を測定し、後述の感染に供した。
【0035】
そして、これらビフィズス菌及びHSV−2を用い、以下のような実験を行った。すなわち、先ず、後述のHSV−2接種の7日前に、BALB/cマウス(6週齢、雌)を以下の群に10匹ずつ分け、ビフィズス菌(BR−108)の摂取を開始した。
A:陰性対照群(生理食塩水)(「対照群」とも称する)
B:BR−108(0.42x10個/日)摂取群(「BR4億個」とも称する)
C:BR−108(2.1x10個/日)摂取群(「BR20億個」とも称する)
D:BR−108(10.5x10個/日)摂取群(「BR100億個」とも称する)。
【0036】
なお、BR−108を生理食塩水にて懸濁させたものを、経口にて、各群における1日あたりの摂取量が各々前記量になるよう、1日2回(午前9時と午後6時)に分けて、マウスに摂取させた。また、これらマウスには、発情周期を同期化させ、性器のHSV−2感染への感受性を増加させるために、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(medroxyprogesterone 17−acetate、3mg/個体)を、HSV−2接種の6日前及び1日前に皮下注射した。
【0037】
また、ヘルペスウイルス感染症は、免疫機能の低下により、発症、再発、重症化、長期化が生じ易くなる。そこで、これら各マウス摂取群においては、免疫抑制剤 5−FU(5−fluorouracil、1回あたりの摂取量:0.25mg/0.1ml/個体)を、HSV−2接種の7日前〜当該接種の13日後まで、1日置きに皮下注射し、免疫低下群(各群5匹ずつ)も各々用意した。
【0038】
そして、これらマウスの性器にHSV−2(1x10PFU/20μl/個体)を局所接種した。次いで、当該接種3日後に、冷PBS(100μl)で性器を局所洗浄し、そのウイルス量を下記プラークアッセイによって測定した。得られた結果を図1に示す。
【0039】
<プラークアッセイ>
回収した前記局所洗浄液を、PBSにて先ず適宜希釈した。得られた希釈液100μlを、35mmディッシュに単層状に培養したVero細胞に加え、室温で1時間インキュベートし、感染させた。次に、0.8%メチルセルロース及び2%牛胎児血清を加えたMEM培地を重層し(2ml/dish)、37℃で2日間培養した。当該培養後、培地を除去し、クリスタルバイオレットにて固定・染色を施した。そして、顕微鏡下でプラーク数を測定し、その測定数からプラーク形成単位(plaque−forming unit、PFU)を算出した。
【0040】
<病変スコアに基づく評価>
また、HSV−2接種後、ヘルペス症状と死亡例とを記録し、下記病変スコア(lesion score)に基づき評価した。得られた結果を図2に示す。
0:無症状
1:軽度の発赤
2:中等度の発赤と腫脹
3:滲出液を伴う発赤と腫脹
4:後肢の麻痺
5:死亡。
【0041】
図1に示す通り、HSV−2を接種してから3日後の性器における当該ウイルス量を測定した結果、ビフィズス菌(BR−108)を摂取させることによって、ウイルス量は低減することが明らかになった。さらに、その低減に関しては、用量依存性を示す傾向にあることも認められた。また、免疫抑制剤処理によって、その低減は若干緩和されることも示された。
【0042】
さらに、図2に示す通り、ビフィズス菌を摂取させることによって、HSV−2接種後1週間の性器ヘルペス症状の急速な進展が抑制(遅延)されることも明らかになった。特に、HSV−2を接種してから6日後の時点では、ビフィズス菌を摂取していない対照群において病変スコアは2.5以上に達していたにも関わらず、ビフィズス菌を1日あたり100億個摂取している群におけるそれは「ゼロ」(無症状の状態)に抑えられていた。また、その用量依存性については、中・高用量(BR20億個、BR100億個)は、低用量(BR4億個)に比べて、症状の進行をより強く抑制する傾向にあることが認められた。なお、性器ヘルペス症状の抑制に関し、免疫抑制剤処理による明らかな影響は認められなかった。また、最終的(対照群においてはHSV−2接種後9日迄、ビフィズス菌摂取群においてはHSV−2接種後12日迄)には、いずれの投与群においても死亡率は100%となった。
【0043】
なお、ヘルペスウイルスの再発の過程、すなわち潜伏感染状態から回帰発症に至る過程において、発症するか否かは増殖してくるウイルス量が大きな決定因子となることが知られている。そして、この時に、ビフィズス菌を投与し、図1に示すように体内のウイルス産生量を低下させることによって、発症させずに済むことが予測される。したがって、再発の予防も期待できる。また、図2に示すモデル動物実験においては、対照群のマウスが全例死亡するという条件を設定したため、ヒトでの回帰発症時のウイルス量に比べて多大な負荷がかかったと考えられる。
【0044】
<抗HSV活性の検出>
上述の通り、ビフィズス菌を経口にて摂取させることによって、ヘルペスウイルスの量を低減させ、またヘルペスウイルス感染症の進行を抑制することが可能となることが明らかになった。そこで次に、かかるビフィズス菌によるウイルス増殖抑制効果がどのような作用機序にて奏されるのかを明らかにすべく、以下の実験を行った。
【0045】
すなわち、本発明者らは、ビフィズス菌由来の抗ウイルス活性成分が吸収されて血中に移行してウイルス増殖抑制に寄与するという経路が関与するという可能性を想定し、かかる想定のもと、ビフィズス菌の経口投与後0.5から8時間経過した時点で血清を採取し、その抗HSV活性の有無を評価した。
【0046】
より具体的には、以下の手順にて抗HSV活性の検出を行った。
1)先ず、BALB/cマウス(雌、6週齢)にBR−108(1.0x1010個/0.4ml/day)又はアシクロビル(ACV)(1mg/0.4ml/day)を、ウイルス感染7日前から3日後まで、1日2回(9時、18時)経口投与した。なお、各投与群について、n=3x7回のサンプリングを行った。また対照として未処置のマウス3匹も用意した。
2)前記各マウスの性器に、HSV−2(2x10PFU/20μl/mouse)を局所接種した。
3)感染3日後の朝にも、BR−108又はアシクロビルを投与した。そして、その30分、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間後に、各マウスから血液を採取し、それらから血清を分離した。
4)次いで、得られた各血清を培地で10倍希釈して、100μl/mlとした。
5)また、48−well platesにVero細胞を培養し、翌日、HSV−2(0.1PFU/ml)を加え、室温で1時間インキュベーションし、感染させた。
6)PBSで洗浄した後、上記1)の血清希釈液を200μl/well加え、37℃にてインキュベーションした。
7)該インキュベーションを開始してから24時間後に、培養物(細胞及び培地)を回収して、−80℃で凍結保存した。
8)凍結融解を3回行い、PBSで10〜10倍に適宜希釈した。次いで、その希釈液を、Vero細胞(35−mm dishes)を用いたプラークアッセイに供した。0時間区には、上記3)におけるサンプリング当日30分の時点で無処置のマウスから採取した血清を用いた。対照区には、血清の代わりにPBSを用いた。
9)そして、前記アッセイにおける対照区のプラーク数を100%とした時の各血清のプラーク数を%で求め、BR−108又はACVを経口投与されたマウスから分離した血清の抗HSV−2活性を経時的に評価した。得られた結果を下記表1及び図3に示す。なお、表1中の数値は、各群3匹の血清におけるプラーク数(%)の平均値±SD(標準偏差)を示す。また、図3は表1に記載のそれら数値をグラフにしたものである。
【0047】
【表1】
【0048】
表1及び図3に示した結果から明らかなように、ACVの経口投与群(#2)では、投与後2時間にわたって抗HSV−2活性が強まり、その後徐々に活性が弱まり、6時間後には活性が消失した。これに対して、ビフィズス菌投与群(#1)では、投与して6時間後から抗ウイルス活性が高くなり、8時間後以降も持続していた。
【0049】
かかる結果から、ビフィズス菌及びその代謝産物等に由来する生理活性物質が、血中に移行することにより、その抗HSV活性が奏されたことが考えられる。また、その抗HSV活性は持続的な活性であることも明らかになった。特に、ヘルペスウイルス感染症の既存薬であるACVの抗ウイルス活性が低減した頃に、ビフィズス菌のそれは亢進するため、かかる既存薬との併用により、より効率的かつ効果的なヘルペスウイルス感染症の改善及び予防が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明したように、本発明によれば、ビフィズス菌を経口にて摂取させることによって、ヘルペスウイルスの量を低減させ、またヘルペスウイルス感染症の進行を抑制することが可能となる。さらに、かかる効果は、宿主の免疫機能の低下にもあまり影響を受けることなく発揮され、また持続的なものである。そのため、ビフィズス菌の摂取は、ヘルペスウイルス感染症の再発予防においても有効である。なお、ビフィズス菌は、安全性高く、安価に提供され得る物質である。
【0051】
したがって、ビフィズス菌を有効成分とする本発明の組成物は、ヘルペスウイルス感染症の改善又は予防において有用である。
【受託番号】
【0052】
(1)識別の表示:Bifidobacterium longum BR−108
(2)受託番号:NITE P−1317
(3)受託日:2012年4月13日
(4)寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]