特許第6803263号(P6803263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803263
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/06 20060101AFI20201214BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20201214BHJP
【FI】
   B60K17/06 C
   B60K17/06 H
   F16H57/04 K
   F16H57/04 J
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-35726(P2017-35726)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140702(P2018-140702A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】塚原 譲
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 春樹
【審査官】 鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−090622(JP,U)
【文献】 特開2005−219688(JP,A)
【文献】 特開2008−265452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/06
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプから圧送する作動油や潤滑油を、油圧制御弁を備えるバルブブロック及び複数の油路を介してトランスミッションケースに内装する油圧クラッチに供給し、この油圧クラッチによって歯車変速装置を変速する作業車両において、前記トランスミッションケースの第1の支持壁と、油圧クラッチを支持する伝動軸と、この伝動軸の一端を支持する第2の支持壁と、上記第1と第2の支持壁に亘って架設する油路シャフトの各々に複数の送油孔を穿設し、これらの送油孔を互いに連通させて複数の油路を構成するにあたり、前記油路シャフトに穿設する複数の送油孔を、軸心方向の横孔と、外周面の左右端寄りに形成する環状溝から横孔に連通する縦孔によって構成すると共に、この左右の環状溝を油路シャフトの夫々の端面から略同一寸法隔てて形成し、以って、油路シャフトを第1と第2の支持壁に前後逆向きに架設しても、油圧クラッチに向けて作動油や潤滑油を支障なく供給することができるように構成することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記油路シャフトに穿設する横孔の末端に横孔の内径よりも大きいプラグの取付孔を設け、この取付孔にプラグを取り付けて末端を閉鎖し、また、プラグによって閉鎖しない末端は取付孔を設けずプラグの取り付けを不能にして、プラグの誤装着を防止するように構成することを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッションケースに油圧クラッチ式の歯車変速装置を内装する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両としての農業用のトラクタは、エンジンの動力をトランスミッションケースに内装する変速装置や差動装置を介して前輪や後輪に伝達して走行を行うと共に、トランスミッションケースに同じく内装するPTO変速装置を介して、例えば、トラクタの後部に連結する作業機を駆動する。
【0003】
また、トランスミッションケースに内装するこれらの変速装置は、クラッチハウジングケースに内装する主クラッチを、そのクラッチペダルを踏み込んで切断した状態で、例えば、常時噛み合い式(コンスタントメッシュ:constant mesh)の歯車変速装置を、シフトフォークのスライド操作により手動で切り換える機械式の歯車変速装置や、油圧クラッチの選択接合により歯車の噛み合い状態を変更する油圧クラッチ式の歯車変速装置等が採用される。
【0004】
なお、後者の油圧クラッチ式では、クラッチペダルを踏み込んで主クラッチを切断しなくとも(ノンクラッチで)変速することができて、変速操作をスムーズに行うことができる。しかし、このものでは油圧クラッチや油圧制御回路等を備えるので、前者の機械式に比べて一般的に高価になる。
【0005】
そして、ユーザーの好みによって機械式歯車変速装置を採用する仕様と、油圧クラッチ式歯車変速装置を採用する仕様の何れかを選択できるように2種類以上のトラクタを用意する必要があり、この場合、仕様が異なるとしてもトランスミッションケースを相互に兼用して用いることができるようにすると、新たな金型を用いてトランスミッションケースを別々に製作するものより大幅なコストダウンを図ることが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
一方、前述の油圧クラッチ式の歯車変速装置を構成する場合、油圧ポンプから圧送する作動油を油圧制御弁及び油路を介してトランスミッションケースに内装する油圧クラッチに供給する必要がある。この場合、油圧制御弁から油圧クラッチまでの距離が離れていると、両者を繋ぐ油路をトランスミッションケースの外面に設ける外部配管や油圧ホースを用いて行う。
【0007】
また、上記油路の配管長を短くしたり、複数の油圧クラッチ式変速装置の油圧制御弁を集約して配置することを目的に、単一のバルブブロックに複数の油圧制御弁を設け、このバルブブロックを油圧クラッチ式変速装置を内装するトランスミッションケースの側壁の外面に取り付け、また、側壁を通す複数の導管部材ないしパイプと、側壁内に設ける軸受枠体の作動油通路等によって、油圧クラッチに作動油を供給する油路を構成することが知られている(特許文献2参照)。
【0008】
さらに、このものの第2の実施例では、第1及び第2の軸受枠体間に架け渡した複数のパイプによって、第1の軸受枠体から離れた第2の軸受枠体に設ける油圧クラッチに作動油を供給すること、即ち、作動油の油路をトランスミッションケース内において、その内部配管(パイプ)によって行うことが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−105911号公報
【特許文献2】特開平11−291777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のようにトランスミッションケースに油圧クラッチ式の歯車変速装置を内装する作業車両においては、主に機械式歯車変速装置等を採用するトランスミッションケースを兼用して用いることがコストダウンを図るうえで有効である。また、トランスミッションケースを兼用する場合、トランスミッションの基本的な伝動形態は変更せず、例えば、油圧クラッチ式に変更する歯車変速装置に係る部分のみの変更に止め、残る大半の変速装置はそのまま踏襲すれば、既に検証された変速装置を用いて信頼性の高いトランスミッションに構成することができる。
【0011】
そのため、それまで機械式で構成していた歯車変速装置のみを、その伝動形態を大幅に変更することなく油圧クラッチ式に変更しようとする場合、シフトフォークのスライド操作により切り換えていた機械式歯車変速装置を、作動油の給排によって油圧クラッチの断続を行う形態に変更することになる。即ち、油圧ポンプから圧送する作動油を、油圧制御弁及び油路を介してトランスミッションケースに内装する油圧クラッチに供給しなければならない。
【0012】
そこで、油圧制御弁からトランスミッションケースに内装する油圧クラッチに作動油を供給する油路を従来のように、トランスミッションケース側壁の外面に配管や油圧ホースを用いて行うようにすることが考えられる。しかし、トランスミッションケースの左右外側方には、機械式歯車変速装置を操作するシフトフォークを作動させる変速レバーの連繋機構や、他の油圧機器への配管、或いは電装関係のハーネス等を配策しているため、係る箇所に新たな油圧配管や油圧ホースを設けると、その配管強度の懸念やハーネス類との接触による不具合の発生が懸念される。
【0013】
一方、先行技術文献2に記載されているように、油圧制御弁を設けたバルブブロックを油圧クラッチ式変速装置を内装するトランスミッションケースの側壁の外面に取り付けると、油圧制御弁と油圧クラッチとの間の油路の配管長を短くすることができるが、油圧ポンプからバルブブロックに至る油圧配管や油圧ホースを、トランスミッションケース側壁の外面に相変わらず設けることになると共に、トランスミッションケースの左右外側方に燃料タンクを設けた場合、この燃料タンクを取り外さなければ、油圧制御弁等のメンテナンスを行うことができないといったマイナス面がある。
【0014】
従って、トランスミッションケース側壁の外面に新たな配管や油圧ホース、或いは油圧制御弁等を設けることなく、油圧クラッチに作動油を確実に導くことが要求され、その解決方法として、先行技術文献2の第2の実施例に例示される、作動油の油路をトランスミッションケース内において、その内部配管によって行うことが一つのヒントとなる。
【0015】
しかし、作動油の油路をトランスミッションケース内において、その内部配管によって行う場合、先行技術文献2のように第1及び第2の軸受枠体間に架け渡した複数のパイプによって油路を構成すると、複数のパイプを必要として部品点数が多くなると共に、第1及び第2の軸受枠体間に複数のパイプを精度よく組み込む工数が発生し、その内部配管構造には改良の余地がある。
【0016】
そこで、本発明は、上述のような問題点に鑑み、機械式で構成していた変速装置を油圧クラッチ式に変更する場合に、トランスミッションケース内の変速装置の伝動形態を大幅に変更することなく、また、油圧ポンプから圧送する作動油や潤滑油を油圧クラッチに供給する油路を、内部油路によって行うようにして、そのコストダウンを図りながら信頼性のある作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、油圧ポンプから圧送する作動油や潤滑油を、油圧制御弁を備えるバルブブロック及び複数の油路を介してトランスミッションケースに内装する油圧クラッチに供給し、この油圧クラッチによって歯車変速装置を変速する作業車両において、前記トランスミッションケースの第1の支持壁と、油圧クラッチを支持する伝動軸と、この伝動軸の一端を支持する第2の支持壁と、上記第1と第2の支持壁に亘って架設する油路シャフトの各々に複数の送油孔を穿設し、これらの送油孔を互いに連通させて複数の油路を構成するにあたり、前記油路シャフトに穿設する複数の送油孔を、軸心方向の横孔と、外周面の左右端寄りに形成する環状溝から横孔に連通する縦孔によって構成すると共に、この左右の環状溝を油路シャフトの夫々の端面から略同一寸法隔てて形成し、以って、油路シャフトを第1と第2の支持壁に前後逆向きに架設しても、油圧クラッチに向けて作動油や潤滑油を支障なく供給することができるように構成することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、前記油路シャフトに穿設する横孔の末端に横孔の内径よりも大きいプラグの取付孔を設け、この取付孔にプラグを取り付けて末端を閉鎖し、また、プラグによって閉鎖しない末端は取付孔を設けずプラグの取り付けを不能にして、プラグの誤装着を防止するように構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の作業車両によれば、油圧ポンプから圧送する作動油や潤滑油を、油圧制御弁を備えるバルブブロック及び複数の油路を介してトランスミッションケースに内装する油圧クラッチに供給する際に、トランスミッションケースの第1の支持壁と、油圧クラッチを支持する伝動軸と、この伝動軸の一端を支持する第2の支持壁と、上記第1と第2の支持壁に亘って架設する油路シャフトの各々に複数の送油孔を穿設し、これらの送油孔を互いに連通させて複数の油路を構成する。
【0023】
そのため、トランスミッションケースの第1の支持壁に臨む箇所に油圧制御弁を備えるバルブブロックを設け、また、第1の支持壁から離れた第2の支持壁に、油圧クラッチを設ける伝動軸の一端を支持させても、第1の支持壁の送油孔と第2の支持壁の送油孔を油路シャフトの送油孔を介して連通させて、油圧制御弁を備えるバルブブロックから離れた油圧クラッチに作動油や潤滑油を供給することができる。
【0024】
従って、油圧制御弁を備えるバルブブロックの設置箇所と共に、油圧クラッチ式歯車変速装置の設置箇所の自由度を増すことができるから、それまで機械式で構成していた歯車変速装置のみを、その伝動形態を大幅に変更することなく油圧クラッチ式に変更することができ、これによりトランスミッションケースを仕様の違いに拘わらず兼用して用いることができて、コストダウンを図ることができる。
【0025】
また、作動油や潤滑油の油路をトランスミッションケース内において、その内部油路によって行うことができるから、トランスミッションケースの側壁に新たな配管や油圧ホース、或いは油圧制御弁等を設けることなく、油圧クラッチに作動油や潤滑油を確実に供給することができる。
【0026】
さらに、油路シャフトは複数の送油孔を備えて、作動油や潤滑油を油圧クラッチに供給するから、従来のように第1及び第2の軸受枠体(支持壁)間に架け渡した複数のパイプによって油路を構成するもののように、作動油や潤滑油のための複数のパイプを必要とせず、単一部品の油路シャフトとして、この油路シャフトを第1と第2の支持壁に亘って架設すればよいから、組み立て工数を減らしてコストダウンを図ることができる。
【0031】
そして、油路シャフトに穿設する複数の送油孔を、軸心方向の横孔と、外周面の左右端寄りに形成する環状溝から横孔に連通する縦孔によって構成すると共に、この左右の環状溝を油路シャフトの夫々の端面から略同一寸法隔てて形成し、以って、油路シャフトを第1と第2の支持壁に前後逆向きに架設しても、油圧クラッチに向けて作動油や潤滑油を支障なく供給することができるように構成すると、第1と第2の支持壁に亘って油路シャフトを架設する際に油路シャフトの向きを考慮する必要がなく、組立性を向上させることができる。
【0032】
そのうえ、油路シャフトに穿設する横孔の末端に横孔の内径よりも大きいプラグの取付孔を設け、この取付孔にプラグを取り付けて末端を閉鎖し、また、プラグによって閉鎖しない末端は取付孔を設けずプラグの取り付けを不能にして、プラグの誤装着を防止するように構成すると、第1と第2の支持壁に設ける油路シャフトの取付穴の最奥部に油溜りを設け、この油溜りと油路シャフトの横孔を連通させて一つの油路として活用することができる。そして、この場合、横孔の末端に設ける横孔の内径よりも大きいプラグの取付孔の有無によって、プラグの誤装着を簡単に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】トラクタの側面図である。
図2】トラクタの底面側から見た斜視図である。
図3】トランスミッションの展開図である。
図4】前後進切換装置の展開図である。
図5】油圧回路図である。
図6】クラッチハウジングケースに内装する変速装置を示す断面斜視図である。
図7】中間支持板(第2の支持壁)の斜視図である。
図8】中間支持板(第2の支持壁)を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
図9】油路シャフトの架設状態を示す断面図である。
図10】油路シャフトの斜視図である。
図11】油路シャフトの送油孔の連通方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2に示すように作業車両としてのトラクタ1は、前方からエンジン2、クラッチハウジングケース3、センターケース4、デファレンシャルケース5等を一体的に連結して車体(機体)を構成する。また、車体の前部側には、前照灯6やグリル7を前面に備えてエンジン2やバッテリー等の補器類を覆うボンネット8と、ボンネット8下方の左右のサイドカバー9を設ける。
【0035】
さらに、エンジン2に固定して前方に延びるフロントブラケット10には、フロントアクスルケース11を左右揺動自在に軸支する。このフロントアクスルケース11の左右端には前車軸ケース(キングピンケース及びファイナルケース)12を取り付ける。また、前車軸ケース12は前輪13を取り付ける前車軸14を軸支し、操縦部に設けるステアリングホイール15によって左右の前輪13をパワステアリングユニットAを介して操舵する。
【0036】
一方、車体の後部側にはデファレンシャルケース5の左右に連結したリアアクスルケース(不図示)を設け、このリアアクスルケースに軸支した後車軸16に左右の後輪17を取り付ける。また、車体の後部には、トップリンク18及び左右のロワリンク19からなる周知の三点リンク機構を設ける。
【0037】
この三点リンク機構は、モーアやロータリ耕耘装置等の作業機を連結するものであり、作業機はデファレンシャルケース5の上部に取り付ける油圧ハウジング20の左右のリフトアーム21と、左右のリフトアーム21の先端と左右のロワリンク19の中途にそれぞれ一端を連結するリフトロッド(不図示)を介して昇降する。また、デファレンシャルケース5の後部に軸支するPTO軸(動力取出軸)22からエンジン動力を作業機に伝達する。
【0038】
さらに、エンジン2より後方の車体には、フロア23を防振具を介して取り付ける。このフロア23の前部寄りのステアリングコラムにはステアリングホイール15を設け、また、計器盤等を備えるメーターパネル24と、その下方側を覆うリヤパネルカバー25を設ける。さらに、フロア23の後端に設けるシート下部カバー上に運転席26を設け、運転席26の側方には後輪17の前方から上方に亘る範囲を覆う左右のフェンダ27を設ける。
【0039】
そして、運転席26の後部寄りには、リアアクスルケースに防振具を介して取り付ける左右の下部支柱(不図示)と、この下部支柱の上部に取り付ける逆U字状のロールバー28によって構成する安全フレームを設ける。なお、29はフロア23から垂下した乗降時の踏み台となるサブステップ、30はクラッチハウジングケース3とサブステップ29との間に設ける燃料タンク(図2においては不図示)、31は左右のフェンダ27の上部寄りに設ける乗降時のアシストグリップである。
【0040】
また、運転席26周りの操縦部には各種の操作具を設ける。即ち、リヤパネルカバー25の左上部寄りに前後進切換レバー32を、右側のステアリングコラムにはエンジンコントロールレバー33を設ける。また、フロア23の前部寄りの左側にはクラッチペダル34を設け、他側には図示しない左右のブレーキペダルを設ける。さらに、左右のフェンダ27と運転席26との間には、サイドパネル(不図示)を設け、このサイドパネルに作業機を昇降させる油圧コントロールレバー、PTO変速レバー、車速を変更する主変速レバー、副変速レバー等を設ける。
【0041】
次に、トラクタ1のトランスミッションについて説明すると、図3の展開図に示すようにトランスミッションは、エンジン2の動力を後車軸16、或いは前車軸14に伝達する走行系伝動装置と、作業機を駆動するPTO軸22に伝達するPTO系伝動装置を備え、これらの伝動装置は、エンジン2の後部に一体的に連結するクラッチハウジングケース3、センターケース4、及びデファレンシャルケース5によって構成するトランスミッションケースTに内装する。
【0042】
そして、上記クラッチハウジングケース3の前部側には、エンジン2の出力軸に連結したフライホイール35と主クラッチを構成する乾式単板クラッチ36を設け、この乾式単板クラッチ36は、クラッチペダル34に連繋するクラッチレバー37及びリリースハブ38によって、二重軸の外軸となる走行系の第1ドライブシャフト39に対する動力伝達を断続する。なお、内軸となるPTO系ドライブシャフト40は、フライホィール35を介してエンジン2の動力をそのまま伝達する。
【0043】
また、クラッチハウジングケース3の仕切壁(第1の支持壁)3aを挟んで、その後方には常時噛み合い式の歯車変速装置で構成する主変速装置41と、油圧クラッチ式の前後進切換装置(歯車変速装置)42を設ける。
【0044】
この内、主変速装置41は、第1ドライブシャフト39と第1セレクトシャフト43との間に常時噛み合う4つの歯車列44a,45a、44b,45b、44c,45c、44d,45dを設けると共に、従動側の対となる歯車45a,45b、45c,45d間に夫々、主変速レバーの人為的な操作によってシフトフォークを用いて前後にスライドさせる、シンクロメッシュ式のスリーブ46a、46bを設ける。
【0045】
従って、主変速装置41は、エンジン2の回転を4段に変速して、第1セレクトシャフト43にエンジン2の動力を伝達する機械的な歯車変速装置で構成する。なお、上記第1ドライブシャフト39と第1セレクトシャフト43は、仕切壁3aと中間支持板(第2の支持壁)47にベアリングを介して軸支し、この内、中間支持板47は、仕切壁3aから後方に所定距離離間させて、クラッチハウジングケース3の内壁に一体成型するボス部(不図示)にボルトで後方側から取り付ける。
【0046】
また、油圧クラッチ式の前後進切換装置42は、図3及び図4に示すように第1セレクトシャフト43の後部と、このセレクトシャフト43の後部に連なる第2ドライブシャフト48に前進駆動歯車49と後進駆動歯車50を設ける。また、バックシャフト51に後進駆動歯車50に噛み合うアイドル歯車52を遊転自在に設ける。さらに、前進油圧クラッチFと後進油圧クラッチRを備えるシャトルシャフト(伝動軸)53を設ける。
【0047】
なお、第1セレクトシャフト43の後部寄りと、このセレクトシャフト43の後部に連なる第2ドライブシャフト48の後端部、及びシャトルシャフト53の両端部は、中間支持板(第2の支持壁)47と、この中間支持板47から後方に所定距離離間させて、クラッチハウジングケース3の後端面にボルトで取り付ける後部支持板(第3の支持壁)54にベアリングを介して軸支する。また、バックシャフト51の後端部は、後部支持板54に回り止めして取り付ける。
【0048】
そして、前進油圧クラッチFと後進油圧クラッチRは、2パック式の湿式多板クラッチ55で構成し、この湿式多板クラッチ55は、そのボス部55bをシャトルシャフト53にスプライン結合して連結するクラッチドラム55aを備え、このクラッチドラム55aの中央に設けるフランジ部55cを挟んでその前後にクラッチハブ55d、55dを設ける。
【0049】
また、前後に開放するクラッチドラム55aの内側に設けるスプライン部と、クラッチハブ55dに形成するスプライン部に夫々係合し、その軸方向に互い違いに配置するクラッチ板55e、55fを設ける。さらに、クラッチドラム55a内にクラッチ板55e、55fに対向する前後のピストン55gと、ピストン55gのリターンスプリング55hを夫々設ける。
【0050】
なお、前後のクラッチハブ55dは、前進従動歯車56と後進従動歯車57を一体に備え、シャトルシャフト53にベアリングを介して支持する。さらに、この前進従動歯車56は、前述の前進駆動歯車49と常時噛み合い、後進従動歯車57はアイドル歯車52と噛み合い、前後のクラッチハブ55d、55dは正・逆回転する。
【0051】
そして、クラッチドラム55aのフランジ部55cとピストン55gとの間に画成される油室に、ボス部55bに設ける油穴55iを通して作動油を供給すると、クラッチ板55e、55fが軸方向に圧接されて、クラッチハブ55dとクラッチドラム55aとの間のトルク伝達が行われる。
【0052】
従って、前進油圧クラッチFに作動油を供給すると、シャトルシャフト53に正回転が伝達され、後進油圧クラッチRに作動油を供給すると、シャトルシャフト53に逆回転が伝達され、また、前進油圧クラッチF及び後進油圧クラッチRに対する作動油の供給を断つと、シャトルシャフト53への伝動が断たれ、これをもって前後進切換装置42が構成される。
【0053】
なお、上記クラッチドラム55aのボス部55bには潤滑用の油穴55jを設けており、潤滑油が油穴55jに供給されると、潤滑油はクラッチ板55e、55fを潤滑した後、クラッチドラム55aのスプライン溝を通って、その開放端からトランスミッションケースT内に排出される。また、シャトルシャフト53には、前進油圧クラッチFと後進油圧クラッチRに作動油を供給する2の送油孔53a、53bと、両者のクラッチに潤滑油を供給する1つの送油孔53cを設ける。
【0054】
また、クラッチハウジングケース3の後部支持板54とセンターケース4の支持壁4a間には、常時噛み合い式の歯車変速装置で構成する超低速変速装置58を設ける。即ち、超低速変速装置58は、後部支持板54と支持壁4aにベアリングを介して軸支する第3ドライブシャフト59と、第2セレクトシャフト60との間に常時噛み合う2つの歯車列61a〜61f、62a,62bと、第2セレクトシャフト60に設ける歯車61f、62b間にスリーブ63を設け、これにより超低速変速装置主変速装置58は、シャトルシャフト53から伝達される回転を超低速と標準速の2段に変速して、第2セレクトシャフト60に伝達する。
【0055】
さらに、デファレンシャルケース5の前面にボルトで取り付ける前部支持板64とデファレンシャルケース5の仕切壁5a間には、常時噛み合い式の歯車変速装置で構成する副変速装置65を設ける。即ち、副変速装置65は、前部支持板64と仕切壁5aにベアリングを介して軸支し、また、第2セレクトシャフト60に連結するサブシャフト66と、ピニオンシャフト67との間に常時噛み合う2つの歯車列68a,68b、69a,69bと、ピニオンシャフト67に設ける従動側の歯車68b、69b間に副変速レバーで操作されるスリーブ70を設け、これにより副変速装置65は、第2セレクトシャフト60から伝達された回転を低速と高速の2段に変速して、ピニオンシャフト67に伝達する。
【0056】
そして、ピニオンシャフト67は、その後端に設けるベベル歯車67aによって後輪17の差動装置71を作動させ、さらに、左右のリアアクスルケースに設ける左右のブレーキと後車軸16を介して後輪17を駆動し、或いは制動する。また、ピニオンシャフト67の前端に設ける歯車72は、センターケース4に内装する前輪倍速装置73にエンジン動力を伝達する。
【0057】
また、前輪倍速装置73は、後部支持板54と前部支持板64にベアリングを介して軸支する第4ドライブシャフト74と、この第4ドライブシャフト74に設ける歯車72と噛み合う従動歯車75及び駆動歯車76、77と、センターケース4の底面に設ける開口を塞ぐ蓋78にベアリングを介して軸支するQTシャフト79と、QTシャフト79に回転自在に支持して駆動歯車76、77の夫々と常時噛み合う従動歯車80、81と、前後進切換装置42に設ける油圧クラッチと同様な2パック式の湿式多板クラッチ82で構成する。
【0058】
そして、この湿式多板クラッチ82の前後2つの油圧クラッチに共に作動油を供給しない状態では、QTシャフト79が駆動されず、トラクタ1は後輪17のみを駆動する2輪駆動状態となる。また、前方側の油圧クラッチに作動油を供給すると、QTシャフト79は標準速で駆動され、その後、QTシャフト79に連結する4WDシャフト83、プロペラシャフト84、フロントアクスルケース11に内装する前輪12の差動装置、及び前車軸14等を介して、前輪12を後輪17の周速と略同じ周速で駆動する4輪駆動状態となる。
【0059】
一方、後方側の油圧クラッチに作動油を供給すると、QTシャフト79は倍速で駆動され、その後、QTシャフト79に連結する4WDシャフト83、プロペラシャフト84、フロントアクスルケース11に内装する前輪12の差動装置、及び前車軸14等を介して、前輪12を後輪17の周速の略2倍となる周速で駆動する倍速駆動状態となる。なお、上記倍速駆動状態は、例えば、前輪12を所定の切れ角以上に操舵した場合に、4輪駆動状態から自動的に切換えるものであり、これによりトラクタ1は小回り旋回させることができる。
【0060】
以上、トランスミッションケースTに内装する走行系の伝動装置について説明したが、次に、同じくトランスミッションケースTに内装するPTO系の伝動装置について簡単に説明する。即ち、エンジン2の動力が伝達されるPTO系ドライブシャフト40は、クラッチハウジングケース3から最終的にデファレンシャルケース5の後部まで延長することになるが、その中間のセンターケース4においてPTOクラッチ85を介装する。
【0061】
そして、このPTOクラッチ85はシングルの湿式多板クラッチで構成し、作動油を供給するとPTOクラッチ85は入りとなり、作動油を供給しないとPTOクラッチ85は切りとなる。また、デファレンシャルケース5の後部側の仕切壁5bと、後面の開口を塞ぐ蓋86との間にベアリングを介して軸支するドライブシャフト87とPTO軸(動力取出軸)22を、また、仕切壁5bと蓋80との間にアイドル歯車88を回転自在に支持するリターンPTOシャフト89を回転不能に取り付ける。
【0062】
さらに、これらのシャフトに常時噛み合う4つの歯車列90a,90b、91a,91b、92a,92b、91a,88,93と、PTO軸(動力取出軸)22に設ける従動側の対をなす歯車90b,93、91b,92bの間に、夫々PTO変速レバーによって操作するスリーブ94、95を設け、これによりPTO変速装置96を構成する。
【0063】
そして、このPTO変速装置96は、エンジン回転を正転3段と逆転1段に変速して、PTO軸22の後端から作業機に向けて動力を伝達する。なお、以上説明したPTO系の伝動装置によって、走行状態に関係なくPTOクラッチ85を電磁弁によって断続して、PTO軸22の回転・停止を独立して行うことができるインディペンデントPTOを構成する。
【0064】
次に、トラクタ1の油圧回路を図5に基づいて説明すると、エンジン2に付設して駆動する
2つの油圧ポンプ97、98は、作動油タンクとして機能するトランスミッションケースTのデファレンシャルケース5からオイルフィルタ99を経由して、トランスミッションケースTの右側に沿って設けるホースを用いて作動油を吸い込む。また、一方の油圧ポンプ97は、クラッチハウジングケース3の前部寄りの右側壁に取り付ける油圧取出ブロック100に配管によって作動油を導き、この油圧取出ブロック100から外部の油圧機器に作動油を供給可能になす。
【0065】
また、油圧取出ブロック100から油圧ハウジング20の右側壁に取り付けるフローデバイダバルブ101に作動油を配管によって導き、以下、図示しないが、このフローデバイダバルブから3位置電磁方向切換弁を介して前輪倍速装置73の湿式多板クラッチ82を作動させる。さらに、フローデバイダバルブ101から同じく油圧ハウジング20の右側壁に取り付けたプライオリティバルブに配管によって作動油を導く。
【0066】
そして、このプライオリティバルブから電磁制御弁を介してリフトアーム21を回動するリフトシリンダを作動させ、或いは左右何れか一方のリフトロッドに介装するリフトロッドシリンダを3位置電磁方向切換弁を介して作動させる。また、他方の油圧ポンプ98は、配管によって作動油を分流弁102に導き、この分流弁102は、クラッチハウジングケース3の仕切壁(第1の支持壁)3aの上方に位置するクラッチハウジングケース3の上面に取り付けるバルブブロック103に付設する。
【0067】
また、分流弁102の一方からバルブブロック103に設ける内部油路を介して、バルブブロック103に付設する油圧制御弁に作動油を導き、この油圧制御弁を介して前後進切換装置42の湿式多板クラッチ55から構成する前進油圧クラッチFと後進油圧クラッチRに作動油を、バルブブロック103の出口ポートP1、P2から供給する。なお、油圧制御弁は電磁比例パイロット減圧弁104で構成し、この電磁比例パイロット減圧弁104を前進油圧クラッチF用と後進油圧クラッチR用に2つ用いる。
【0068】
また、同じく分流弁102の一方から分岐させた作動油は、センターケース4の右側壁に取り付けるINDバルブアッシー105に配管によって導き、INDバルブアッシー105の2位置電磁方向切換弁106を介してPTOクラッチ85を作動させる。なお、INDバルブアッシー105のリリーフ弁107は、その余剰油を潤滑油としてPTOクラッチ85に供給する。
【0069】
さらに、分流弁102の他方から分流した作動油は、ホースによってオービットロール型のパワーステアリングユニットAに導き、このパワーステアリングユニットAはステアリングホイール15によって操作し、また、パワーステアリングユニットAにホースを介して接続する複動型のパワーステアリングシリンダ108を作動させて前輪13を操舵する。
【0070】
なお、パワーステアリングユニットAのリターンホース109はその中途で分岐109aし、その一方を主変速装置41の従動側歯車45a〜45dを支持するニードルベアリングに向けて戻り油を供給し、これにより歯車45a〜45dの支持部を強制潤滑する。
【0071】
また、パワーステアリングユニットAのリターンホース109の他方は、一旦バルブブロック103に戻り、さらに、バルブブロック103の出口ポートP3から、その戻り油を前後進切換装置42の前進油圧クラッチFと後進油圧クラッチRに潤滑油として供給する。なお、パワーステアリングユニットAの戻り油の潤滑油としての圧力を補償するリリーフバルブ110からの余剰油と、前進油圧クラッチFや後進油圧クラッチRから排出される油は合流させてトランスミッションケースT内に排出する。
【0072】
次に、本発明の特徴とする油圧制御弁(電磁比例パイロット減圧弁104)を備えるバルブブロック103から前後進切換装置42の前進油圧クラッチF及び後進油圧クラッチRに作動油や潤滑油を供給する油路について説明する。即ち、図6乃至図9に示すように、バルブブロック103の下面に設ける前進油圧クラッチF及び後進油圧クラッチRに対する2つの作動油を供給する出口ポートP1、P2と、潤滑油を供給する1つの出口ポートP3を、クラッチハウジングケース3の仕切壁(第1の支持壁)3aに上下方向として穿設する3つの送油孔111(111a,111b,111c)の入口ポートに接合して夫々互いに連通させる。
【0073】
また、クラッチハウジングケース3の仕切壁(第1の支持壁)3aの後面側と中間支持板(第2の支持壁)47の前面側に取付穴3b、47aを夫々設け、この前後の取付穴3b、47aに油路シャフト112を前後方向として挿入し、仕切壁3aと中間支持板47に亘って油路シャフト112を架設する。なお、上記取付穴3b、47aは、夫々の壁面から突出するボス部に設け、その取付穴3b、47aの奥側は壁によって閉じている。
【0074】
そして、上記油路シャフト112は、図10に示すように機械加工によって軸心方向に穿設する3つの横孔112a、112b、112cと、外周面の左端寄りと右端寄りに夫々形成する2つの環状溝112d,112e、112f,112gと、環状溝から横孔に連通する左右2つずつの縦孔112h,112i、112j,112kと、環状溝の左右に設けるOリング取付溝112l,112m,112n、112o,112p,112qを左右3つずつ設ける。
【0075】
また、前記クラッチハウジングケース3の仕切壁3aに上下方向として穿設する3つの送油孔111の夫々の出口ポートは、取付穴3bの最奥部3c(油溜部)と油路シャフト112を挿入した際の環状溝112d,112eに連通する位置に開口する。なお、取付穴3bに油路シャフト112を挿入する際にはOリング取付溝にOリング113を挿入して、取付穴3bの油溜部3cと夫々の環状溝112d,112eの間を油密とし、また、油路シャフト112を挿入する際にOリング113が通過する送油孔111a,111bの出口ポートは、ラウンド加工してOリング113の損傷を防止する。
【0076】
さらに、仕切壁3aの取付穴3bに油路シャフト112の前端側を挿入した後、油路シャフト112の後端側が中間支持板47の取付穴47aに嵌合するように、後方側から中間支持板47をあてがって取り付ける。そして、中間支持板47の取付穴47aにも仕切壁3aの取付穴3bと同様に、取付穴47aの最奥部47b(油溜部)と油路シャフト112の環状溝112f,112gに臨む位置に3つの送油孔114(114a,114b,114c)の入口ポートを設ける。
【0077】
従って、クラッチハウジングケース3の仕切壁3aに設ける3つの送油孔111から導かれた作動油や潤滑油は、油路シャフト112に設ける横孔112a、112b、112cや縦孔112h,112i、112j,112kからなる3つの送油孔を通って、中間支持板47の3つの送油孔114の入口ポートに導かれる。
【0078】
なお、前記油路シャフト112は、左右の環状溝112d,112e、112f,112gを油路シャフト112の夫々の端面から略同一寸法隔てて形成している。そのため、この油路シャフト112を前後の取付穴3b、47aに前後逆向きに架設しても、クラッチハウジングケース3の仕切壁3aに設ける3つの送油孔111と中間支持板47の3つの送油孔114との間の連通関係は維持されて、前進油圧クラッチFと後進油圧クラッチRに向けて作動油や潤滑油を支障なく供給することができ、組立工程において油路シャフト112の向きを考慮する必要がなく、組立性が向上する。
【0079】
また、油路シャフト112に設ける横孔112a、112b、112cには、この横孔の内径よりも大きいプラグの取付孔112rを設け、この取付孔112rにプラグ115を取り付けて末端を閉鎖し、また、プラグ115によって閉鎖しない末端は取付孔112rを設けずプラグ115の取り付けを不能にする。そのため、油路シャフト112の組立工程におけるプラグ115の誤装着を防止することができる。
【0080】
より詳細に説明すると、クラッチハウジングケース3の仕切壁3aに設ける3つの送油孔111と中間支持板47の3つの送油孔114と、この間の油路シャフト112に設ける3つの横孔112a、112b、112cとの連通方法は、図11の模式図に示すように油路シャフト112の向きを前後逆向きにしても支障なく行うことを前提として3通りが考えられる。
【0081】
例えば、本発明の実施例に示す(a)の場合は、前方から順に潤滑油、前進油圧クラッチFの作動油、そして、最後に後進油圧クラッチRの作動油というように設定して、それに応じて横孔100a、100b、100cにプラグの取付孔112rを設けるか否か、そして、プラグ115の装着の有無を決定する。また、このように決定すると油路シャフト112の向きを前後逆向きとした(a’)の場合にも当初設定した順に潤滑油及び作動油を導くことができる。
【0082】
そして、残る2通りの連通方法を採用しても、油路シャフト112の向きを前後逆向きとしたの場合にも支障なく潤滑油及び作動油を導くことができるものであり、従って、これらの何れかの方法を用いて、横孔112a、112b、112cの末端にプラグ115を左右2つずつ設けるかを決定すればよい。
【0083】
なお、油路シャフト112に環状溝と縦孔を左右夫々3つ設け、横孔100a、100b、100cの末端にプラグ115を全て装着しても支障なく潤滑油及び作動油を導くことができる。しかし、この場合は環状溝と縦孔とOリング取付溝の数が増して加工工数が増えると共に、プラグ115やOリング113の使用数が増えるのでコストアップとなる虞があり、採用し難いものとなる。
【0084】
次に、中間支持板47の送油孔114から前進油圧クラッチFと後進油圧クラッチRに作動油や潤滑油に導く油路について説明すると、図7に示すように油路シャフト112の後端を取り付ける取付穴47aは、中間支持板47の前方側に突出するボス部47cに形成する。また、前後進切換装置42のシャトルシャフト53は、その前端側の軸支部から延長する油圧の受継部を設け、さらに、中間支持板47の前方側に突出するボス部47cの内部に設ける収容穴に、この油圧受継部を収容する。
【0085】
そして、中間支持板47のボス部47cと他方のボス部47dとを繋ぐ連結壁部47eを中間支持板47に設け、この連結壁部47eの内部に中間支持板47の3つの送油孔114を穿設する。そして、この送油孔114の出口ポートをシャトルシャフト53の油圧受継部を収容する収容穴に設け、シャトルシャフト53の送油孔53a、53b、53cに連通させる。
【0086】
なお、その際の連通方法は、先に説明したクラッチハウジングケース3の仕切壁3aに設ける3つの送油孔111と油路シャフト112に設ける3つの横孔112a、112b、112cとの連通方法と同様であるので、図示並びに説明を省略する。また、以上によって、前進油圧クラッチF及び後進油圧クラッチRに作動油や潤滑油を供給する油路は完結するが、係る油路を構成するうえでの付帯事項を次に説明する。
【0087】
即ち、前記油路シャフト112はクラッチハウジングケース3の内部に設けるが、油路シャフト112を設けるクラッチハウジングケース3には主変速装置41を内装し、油路シャフト112は、この主変速装置41等と干渉しない位置に設ける必要がある。
【0088】
そこで、この場合、主変速装置41の第1ドライブシャフト39がクラッチハウジングケース3の上部側中央寄りに、また、第1セレクトシャフト43がそれより下方の右側寄りにあり、さらに、スリーブ46a、46bを操作するシフトフォーク116のレール117が下部側左側寄りにあるから、油路シャフト112は、比較的空き空間となるレール117上方の左側寄りに配置して、これら変速装置との干渉を防止する。
【0089】
但し、後部側のスリーブ46bを操作するシフトフォーク116は、中間支持板47の前方側に突出するボス部47dに干渉するため、このシフトフォーク116のみボス部47dの下方を迂回する形状に変更して対応する。
【0090】
そして、以上のように構成するトラクタ1は、それまで機械式で構成していた前後進切換装置を油圧クラッチ式にするから、前進、バックを頻繁に行って作業を行う際に、前後進切換レバー32の操作のみで、殊更クラッチペダル34を踏み込むことなくノンクラッチで行うことができ、作業に伴う疲労を軽減して作業を能率的に行うことができる。
【0091】
また、前後進切換装置のクラッチ部分のみを油圧クラッチに変更し、トランスミッションの伝動形態は略そのままとするから、従来の変速装置やトランスミッションケースを兼用して用い、大幅なコストダウンを図ることができる。
【0092】
さらに、油圧クラッチF,Rの制御弁を備えるバルブブロック103を、メンテナンス性に優れたクラッチハウジングケース3の上面に設け、ここから離れた箇所に設ける油圧クラッチF,Rに対して、新たに配管を行って作動油を供給するに当たり、従来の外部配管から内部配管に変更することによって安価に、また信頼性のある油路に構成することができる。
【0093】
なお、以上説明した実施形態では、油路シャフト112を用いて作動油を供給する油圧クラッチを前後進切換装置の前進油圧クラッチF及び後進油圧クラッチRとしたが、例えば、従来の外部配管を用いて作動油を供給するPTOクラッチ85や、前輪倍速装置73の湿式多板クラッチ82としてもよく、或いは機械式とする主・副変速装置やPTO変速装置を油圧クラッチ式とした場合に、これらの油圧クラッチに対する作動油の配管構造として用いることができる。
【0094】
また、油路シャフト112を架設する仕切壁3aと中間支持板47は、トランスミッションケースTの内部に一体成型する壁であったり、後付けする取付板であったりするが、トランスミッションの構成上、両者とも一体成型する壁としたり、後付けする取付板とすることもでき、本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0095】
1 トラクタ(作業車両)
3a 仕切壁(第1の支持壁)
42 前後進切換装置(歯車変速装置)
47 中間支持板(第2の支持壁)
53 シャトルシャフト(伝動軸)
98 油圧ポンプ
103 バルブブロック
104 電磁比例パイロット減圧弁(油圧制御弁)
112 油路シャフト
T トランスミッションケース
F 前進油圧クラッチ(油圧クラッチ)
R 後進油圧クラッチ(油圧クラッチ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11