【実施例】
【0038】
<合成例1>
<メトキシジエチレングリコールモノアクリレート単独重合体の合成>
単量体としてメトキシジエチレングリコールモノアクリレート15gを四つ口フラスコに秤量し、ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを15mg添加し、1,4−ジオキサン60gに常温で溶解した。開始剤の溶解確認後、オイルバスで75℃に昇温し、75℃に到達後、8時間重合反応を行った。重合反応終了後、1,000mLの反応液を約1,000mLヘキサンで希釈洗浄して有機相を取り除いて生成物を回収し、これを70mLのテトラヒドロフランに再溶解して、再度n−ヘキサンで洗浄することで生成物を回収し、一昼夜減圧乾燥することで目的のオキシアルキレン重合体を得た。
1H−NMR測定により、生成物がメトキシジエチレングリコールモノアクリレート単独重合体であることを確認した。またGPCの分子量分析の結果では、数平均分子量(Mn)は13,000であった。さらに重合体が1質量%の水溶液を調製し、波長500nmにおけるUV測定により、その水溶液中の重合体のLCSTが43.1℃であることを確認した。
なお上述のように、本発明におけるLCST(下限臨界共有温度)は、1質量%水溶液を昇温速度1℃/minで昇温したときの、波長500nmにおける透過率が50%となる温度をいう。LCSTの測定には、日本分光株式会社製 紫外可視分光光度計 V−650を用い、光路長1.0cmのセルに1重量%の水溶液3mLを入れ、昇温速度1℃/minで昇温させたときの水溶液の透過率の値に基づき、測定した。
本発明に用いる水溶性アクリル重合体(P)においては、これらの式(2)で表される単量体の1種以上を選択して(共)重合して、そのLCSTが25〜45℃になるようにする。このLCSTの範囲は、好ましくは30〜45℃、より好ましくは33〜43℃である。共重合体のLCSTの設計は、単独重合体の加重平均値から予測して、所要の単量体配合比率を見積もることができる。
【0039】
<合成例2>
<エトキシトリエチレングリコールモノアクリレート単独重合体の合成>
原料としてエトキシトリエチレングリコールモノアクリレートを用いた他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定によりエトキシトリエチレングリコールモノアクリレート単独重合体であることを確認した。数平均分子量(Mn)は14,000であり、LCSTは33.8℃であった。
【0040】
<合成例3>
<メトキシトリエチレングリコールモノメタクリレート単独重合体の合成>
原料として、メトキシトリエチレングリコールモノメタクリレートを用いた他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定によりメトキシトリエチレングリコールモノメタクリレート単独重合体であることを確認した。数平均分子量(Mn)は105,000であり、LCSTは42.5℃であった。
【0041】
<合成例4>
<メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート − メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体(50/50)の合成>
原料として、メトキシジエチレングリコールモノメタクリレートを6.9gとメトキシトリエチレングリコールモノアクリレート8.1gとして合計15gとした他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート−メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体(メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート/メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート=47/53;モル比)であることを確認した。数平均分子量(Mn)は48,000であり、LCSTは37.2℃であった。
【0042】
<合成例5>
<メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート − メトキシトリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体(60/40)の合成>
原料としてメトキシジエチレングリコールモノメタクリレート8.2gとメトキシトリエチレングリコールモノメタクリレート6.8gとして合計15gとした他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート−メトキシトリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体(メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート/メトキシトリエチレングリコールモノメタクリレート=58/42;モル比)であることを確認した。数平均分子量(Mn)は188,000であり、LCSTは35.1℃であった。
【0043】
<合成例6>
<メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート − メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体(40/60)の合成>
原料としてメトキシジエチレングリコールモノメタクリレート5.5gとメトキシトリエチレングリコールモノアクリレート9.5gとして合計15gとした他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート−メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体(メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート/メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体=35/65;モル比)であることを確認した。数平均分子量(Mn)は7,000であり、LCSTは37.2℃であった。
【0044】
<合成例7>
<メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート − メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体(50/50、低分子量体)の合成>
原料としてメトキシジエチレングリコールモノメタクリレート3.5gとメトキシトリエチレングリコールモノアクリレート4.0gとして合計7.5gとし、開始剤30mgとした他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート−メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体(メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート/メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体=47/53;モル比)であることを確認した。数平均分子量(Mn)は17,000であり、LCSTは37.2℃であった。
【0045】
<比較合成例1>
<メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート単独重合体の合成>
原料としてメトキシトリエチレングリコールモノメタクリレートを用いた他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体であることを確認した。数平均分子量(Mn)は12,000であり、LCSTは63.8℃であった。
【0046】
<比較合成例2>
<2−メトキシエチルビニルエーテル単独重合体の合成>
原料として2−メトキシエチルビニルエーテルモノマー15gを乾燥酢酸エチル15gで希釈して四つ口フラスコに秤量し、重合開始剤としての1−ブトキシエチルアセテート40mMのトルエン溶液15mLを加え、乾燥トルエン180mL中でアルゴン気流下、0℃に冷却した後、撹拌しながらルイス酸としてEt
1.5AlCl
1.5の1Mトルエン溶液3.75mLを添加した。これを0℃で30分撹拌後、反応液にエタノールを22.5mL添加し、反応停止した。重合反応終了後、反応液をトルエンで希釈して洗浄し、有機相から溶媒を留去し生成物を得た。次いで、80℃の温水で3回洗浄を行った。生成物を回収し、一昼夜減圧乾燥して目的のオキシアルキレン重合体を得た。得られたポリマーの構造は、
1H−NMR測定により2−メトキシエチルビニルエーテル単独重合体であることを確認した。数平均分子量(Mn)は26,000であり、LCSTは69.0℃であった。
【0047】
<比較合成例3>
<メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート − メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体(20/80、低分子量)の合成>
原料としてメトキシジエチレングリコールモノメタクリレート1.3gとメトキシトリエチレングリコールモノアクリレート6.2gとして合計7.5gとし、開始剤を30mgとした他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート−メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体(メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート/メトキシトリエチレングリコールモノアクリレート共重合体=15/85;モル比)であることを確認した。数平均分子量(Mn)は4,000であり、LCSTは52.0℃であった。
【0048】
<比較合成例4>
<メトキシテトラエチレングリコールモノアクリレート単独重合体の合成>
原料としてメトキシテトラエチレングリコールモノアクリレートを用いた他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシテトラエチレングリコールモノアクリレート単独重合体であることを確認した。数平均分子量(Mn)は87,000であり、LCSTは75℃以上であった。
【0049】
<比較合成例5>
<メトキシテトラエチレングリコールモノメタクリレート単独重合体の合成>
原料としてメトキシテトラエチレングリコールモノメタクリレートを用いた他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシテトラエチレングリコールモノメタクリレート単独重合体であることを確認した。数平均分子量(Mn)は122,000であり、LCSTは75℃以上であった。
<比較合成例6>
<メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート単独重合体の合成>
原料としてメトキシジエチレングリコールモノメタクリレートを用いた他は、合成例1と同様に行った。
1H−NMR測定により、生成物が、メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート単独重合体であることを確認した。数平均分子量(Mn)は、25,000であり、LCSTは23.5℃であった。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表中の略号の意味は次の通りである。
※ Mn: 数平均分子量
※※LCST: 下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature)
【0053】
<実施例1>
<蛋白吸着抑制溶液の調製>
合成例1の重合体をダルベッコリン酸緩衝液(Sigma−Aldrich社製、以後D−PBSと略称する)に0.1質量%となるように混合、ボルテックスミキサーで1時間攪拌溶解し、蛋白質吸着抑制剤塗布液とした。塗布液は室温において透明であり、投入した重合体の全量が溶解したものと考えられた。
【0054】
<蛋白質吸着抑制効果の評価>
上記実施例1の蛋白質吸着抑制剤塗布液について、以下のような方法によって、その蛋白質吸着抑制効果を測定した。
MaxiSoap plate(Thermofisher Scientific社製ポリスチレン製プレート)に、蛋白質吸着抑制剤塗布液を200μL/wellにて分注し、室温で2時間静置した。その後、アスピレーターで溶液を完全に除去し、一方はそのまま(表3中、「未洗浄時」と表記した欄に結果を記載)、もう一方は、直ちにD−PBSを200μL/wellに分注、アスピレータで液を除く操作をそれぞれ5回、繰り返した(表3中、「洗浄後」と表記した欄に結果を記載)。続いて、D−PBSで20,000倍希釈したPOD−IgG(ペルオキシダーゼ標識免疫グロブリンG、Biorad社製)を100μL/wellに分注し、室温で2時間静置した。その後、ツイーン20を0.05%の濃度で含有するD−PBSを200μL/wellに分注、アスピレータで溶液を完全に除去した。この操作を4回繰り返し、プレート表面の洗浄を行った。洗浄後に、TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を用いて調製した発色液100μL/wellを加え、室温で7分間反応させた。発色反応を1mol/Lの硫酸溶液を50μL/wellに分注することで停止させ、450nmの吸光度を測定し、吸着した蛋白質を検出した。吸光度が小さいほど蛋白質の吸着が抑制されていることを示す。吸光度測定には、Spectra Max M3(Molecular Device社製)を使用した。評価結果を表3に示した。
【0055】
本発明に係る蛋白質吸着抑制剤の効果について、
図1の概略図に基づき説明する。例えば、免疫反応容器10の壁面12を基材としたときに、
図1の左側では、抗原14等の測定対象の検体が、抗体16に吸着されている。これに対し、蛋白質吸着抑制剤18が吸着抑制効果を奏する場合には、
図1の右側の抗体16のように、抗原14等の検体の吸着が防止されると考えられる。詳細を後述するように、本発明の蛋白質吸着抑制剤によれば、
図1の右側に示されているように、検体の抗体16への吸着が効果的に抑制される。
【0056】
<耐洗浄性の評価>
また、蛋白質吸着抑制剤塗布液の耐洗浄性については、上記「未洗浄時」と、上記「洗浄後」の「蛋白質の吸着率の差」に基づいて、評価した。この「蛋白質の吸着率の差」(Δ%)の値が小さい吸着抑制剤は、洗浄されても基材の表面に良く保持されていたといえ、良好な耐洗浄性を示すものといえる。
【0057】
<実施例2〜実施例7>
合成例2〜7重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして蛋白質吸着抑制剤塗布液を調製した。各塗布液は室温において透明であり、それぞれ投入した重合体の全量が溶解したものと考えられた。さらに、実施例1と同様にして蛋白質吸着抑制効果および耐洗浄性を評価した。結果を表3に示した。
【0058】
<実施例8>
合成例4の重合体をダルベッコリン酸緩衝液(Sigma−Aldrich社製、以後D−PBSと略称する)に0.04質量%となるように混合、ボルテックスミキサーで1時間攪拌溶解し、蛋白質吸着抑制剤塗布液とした。塗布液は室温において透明であり、投入した重合体の全量が溶解したものと考えられた。それ以外は、実施例1と同様にして評価を実施した。
<比較例1〜5>
合成例1の重合体の代わりに比較合成例1〜5の化合物を使用した以外は、実施例1と同様にして溶液を調整した。各溶液は室温において透明であり、それぞれ投入した重合体の全量が溶解したものと考えられた。さらに、実施例1と同様にして蛋白質吸着抑制効果および耐洗浄性を評価した。結果を表4に示した。
<比較例6>
合成例1の重合体の代わりに比較合成例6の化合物を使用したが、濁りが生じたため、タンパク質吸着抑制効果、及び耐洗浄性の試験は中止した。
合成例1の重合体の代わりに、アルブミン ウシ血清由来のたんぱく質(BSA)を使用した以外は、実施例1と同様にして蛋白吸着抑制溶液を調整した。さらに、実施例1と同様にして蛋白質吸着抑制効果および耐洗浄性を評価した。結果を表4に示した。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
本発明の蛋白質吸着抑制剤で処理を行った基材(実施例1〜8)は、これ以外のオキシアルキレン基含有アクリル重合体で処理を行った基材(比較例1〜5)に比較して非特異的蛋白吸着抑制能に有していた。このような結果は、本発明に係るアクリル重合体(P)の水溶液に接触させることで、当該アクリル重合体(P)の被覆層を表面に生じて、この被覆層により蛋白質吸着が抑制されたものと考えられる。
すなわち、各実施例の蛋白質吸着抑制剤は、比較例の蛋白質吸着抑制剤に比べて、「未洗浄時」と「洗浄後」のいずれにおいても、「蛋白質の吸着率」の値が全般的に低かったため、本発明の蛋白質吸着抑制剤が、非特異的蛋白吸着抑制能に優れていることが確認された。
さらに、本発明の蛋白質吸着抑制剤が、優れた耐洗浄性を有することが確認された。すなわち、本発明の各実施例においては、各蛋白質吸着抑制剤の水溶液と基材を接触させて除去した後に、更に洗浄を行った場合についても、未洗浄時との蛋白質の吸着率の差に相当する耐洗浄性(Δ%)の値が小さく、このことは、洗浄されても基材の表面に吸着抑制剤が良く保持されていたことを示す。これに対し、各比較例においては、耐洗浄性(Δ%)の値が大きかったことから、洗浄により吸着抑制剤が基材の表面から脱離し易いことが確認された。とくには実施例4、5、7、および8で示される被覆層を表面に備える基材はより優位に蛋白吸着抑制能力、ならびに耐洗浄を有していた。
なお、参考比較例として結果を表4に示したBSAは、蛋白吸着抑制剤および耐洗浄性に優れていることが知られている。このような参考比較例と比べても、各実施例の蛋白質吸着抑制剤は、吸着抑制効果においてほぼ同等である上に、耐久洗浄性がより高いことが分かる。特に、実施例4、5、7、および8の蛋白質吸着抑制剤は、参考例であるBSAよりも洗浄後の蛋白質吸着抑制能が優れている。以上のように、本発明の蛋白質吸着抑制剤を用いることにより、分析精度の安定性の向上が可能であることが確認された。