(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フロー隔離流体コネクタは、(a)前記流体スイッチが前記脱着位置に位置し且つ(b)前記溶媒が前記溶媒源から前記フローインジェクタに流れる時に、前記脱着チャンバからの脱着溶液が前記フローインジェクタに流れる前記溶媒に拡散することを低減または回避するような寸法に構成されている、請求項1に記載のシステム。
前記フロー隔離流体コネクタは、収容されたSPME装置によって流体的に封止されるような大きさに構成され、脱着中に前記脱着チャンバを前記フローインジェクタから流体的に隔離する、請求項1に記載のシステム。
前記検出装置は、前記フローインジェクタの下流に配置されており、脱着された前記分析物を検出するための質量分析計、イオン移動度分光計、または電気化学もしくは光学分光法に基づいた検出装置である、請求項6に記載のシステム。
前記溶媒源は、前記溶媒に圧力を加えることができるポンプを介して、前記フローインジェクタに流体的に接続され、前記溶媒を前記フローインジェクタに搬送する、請求項1に記載のシステム。
【背景技術】
【0002】
背景
以下の段落は、議論されたものが先行技術であるかまたは当業者の知識の一部であることを認めるものではない。
【0003】
固相マイクロ抽出(SPME)は、吸着剤で被覆した基材を用いて、試料から分析物を抽出するためのサンプリング技術である。吸着剤に吸着された分析物を検出するために、SPME装置は、質量分析計などの分離および/または検出装置の注入ポートに移動される。分析物は、SPME装置の吸着剤被覆から脱着され、分離および/または検出装置に提供される。
【0004】
序論
以下の部分は、本明細書を読者に紹介することを意図しているが、発明を限定するものではない。1つまたは複数の発明は、以下にまたは本明細書の他の部分に記載された装置の要素または方法の工程の組み合わせまたは部分組み合わせに存在し得る。本発明者らは、本明細書に開示された発明を特許請求の範囲に記載していなくても、これらの発明に対する権利を放棄または否認しない。
【0005】
SPME装置上に吸着された分析物を検出装置に脱着することは、しばしば、一定流量の担体流において行われる。例えば、エレクトロスプレーイオン化−質量分析計(ESI−MS)への脱着は、溶媒源からの溶媒をエレクトロスプレーニードルに一定的に流し、溶媒がニードルを通過するときに当該溶媒を霧化し、霧化された溶媒の成分を質量分析計に供給する。SPME装置が溶媒流に配置された場合、分析物は、溶媒によって脱着され、脱着された分析物は、溶媒によって質量分析計に搬送され、検出される。他の検出装置を使用する同様の技術は、流動している担体流を用いて、分析物をSPME装置から検出装置に搬送する。
【0006】
いくつかのシステムおよび方法は、連続流の溶媒を用いて脱着を行う。この場合、脱着が瞬間的でなく、いくつかの分析物が他の分析物よりも遅い速度で脱着する可能性があるまたは分析物が搬送中に分散する可能性があるため、広い幅の抽出クロノグラムを生成してしまう。例えば、SPME装置は、脱着溶液を効率的に混合することができない抽出チャンバに配置される可能性がある。このような抽出チャンバにおいて、脱着された分析物の一部は、抽出チャンバを通過する溶媒に吸い込まれる脱着溶液で質量分析計に搬送されるが、他の脱着された分析物は、流動溶媒からさらに離れ、流動溶媒に吸い込まれる前に、実質的に流れていない脱着溶液によって先に拡散してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、脱着チャンバ内の脱着溶液を、実質的に希釈されていない液体プラグとして検出装置のフローインジェクタに搬送するための方法およびシステムが依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本開示は、固相マイクロ抽出(SPME)装置上に吸着された分析物を脱着および検出するためのシステムを提供する。このシステムは、約50μL未満のボイド容積を規定すると共に、SPME装置を収容するような大きさに構成された脱着チャンバを備える。また、このシステムは、脱着チャンバと流体接続されているフローインジェクタを備える。脱着チャンバとフローインジェクタとは、少なくともフロー隔離流体コネクタによって流体的に接続される。このシステムは、フローインジェクタと流体接続されている溶媒源と、流体スイッチとを備える。流体スイッチは、脱着位置と、検出位置とを有する。脱着位置において、流体スイッチは、脱着チャンバ内の脱着溶液を隔離すると共に、フローインジェクタから溶媒を噴霧することを可能にする。検出位置において、流体スイッチは、フローインジェクタと脱着チャンバとの間の流体接続を維持すると共に、溶媒流を遮断してフローインジェクタから溶媒源を隔離することによって、フロー隔離流体コネクタを介して、脱着チャンバ内の脱着溶液を実質的に希釈されていない液体プラグとしてフローインジェクタに搬送する。
【0009】
本開示に係るシステムの1つの特定例において、フロー隔離流体コネクタは、(a)流体スイッチが脱着位置に位置し且つ(b)溶媒が溶媒源からフローインジェクタに流れる時に、脱着チャンバからの脱着溶液がフローインジェクタに流れる溶媒に拡散することを低減または回避するような寸法に構成されている。例えば、フロー隔離流体コネクタは、脱着チャンバの断面よりも小さい断面を有してもよく、および/またはフロー隔
離流体コネクタは、
フロー隔離流体コネクタの一端を通過する液体が
フロー隔離流体コネクタの他端の液体に影響を与えないようにその断面よりも十分に大きい長さを有してもよい。
【0010】
本開示に係るシステムの別の特定例において、フロー隔離流体コネクタは、収容されたSPME装置によって流体的に封止されるような大きさに構成されてもよい。これによって、脱着チャンバは、脱着中にフローインジェクタから流体的に隔離される。この構成を用いて、各脱着チャンバのフロー隔離流体コネクタを順次に開放することにより、同一の流動溶媒システムに接続された複数の脱着チャンバを順次に空にすることによって、システムのデューティサイクルを増加させることができる。
【0011】
別の態様において、本開示は、固相マイクロ抽出(SPME)装置上に吸着された分析物を脱着および検出するための方法を提供する。この方法は、分析物の少なくとも一部をSPME装置から脱着チャンバ内の脱着溶液に脱着するステップを含み、脱着チャンバ内の脱着溶液は、実質的にフローインジェクタに流れない。この方法は、実質的に脱着チャンバ内の脱着溶液の全体を、実質的に希釈されていない液体プラグとしてフローインジェクタにフラッシュするステップを含む。脱着溶液は、フローインジェクタによって、検出装置に噴霧される。
【0012】
本開示に係る方法の1つの特定例において、脱着チャンバは、フローインジェクタに流体的に接続され、方法は、分析物を脱着チャンバ内の脱着溶液に脱着すると共に、フローインジェクタからの溶媒を霧化するステップをさらに含む。脱着チャンバ内の脱着溶液を霧化されている溶媒から流体的に分離するのに十分な速度で、フローインジェクタから溶媒を噴霧してもよい。脱着チャンバ内の脱着溶液は、(a)フローインジェクタに供給される溶媒の流量を減少させることによって、または(b)フローインジェクタを溶媒源から流体的に隔離することによって、噴霧ガスによって生成された吸引力で脱着チャンバ内の脱着溶液をフローインジェクタに流体力学的に駆動することによって、フローインジェクタにフラッシュされてもよい。
【0013】
本開示に係る方法の別の特定例において、脱着チャンバは、分析物を脱着チャンバ内の脱着溶液に脱着している間に、フローインジェクタに流体的に接続されていない。このような例において、脱着チャンバ内の脱着溶液をフローインジェクタにフラッシングするステップは、脱着チャンバとフローインジェクタとの間の流体接続を形成することを含む。SPME装置を用いて、SPME装置から分析物を脱着している間に、フローインジェクタに流体的に接続された開口を封止することによって、脱着チャンバとフローインジェクタとの間の流体接続を切断することができる。このような方法において、脱着チャンバとフローインジェクタとの間の流体接続を形成するステップは、開口を開放することを含むことができる。この方法は、各フローインジェクタに流体的に接続された各開口を開放することにより、同一の流動溶媒システムに接続された複数の脱着チャンバを順次に空にすることによって、脱着溶液をフローインジェクタに搬送することをさらに含むことができる。このような方法は、SPME装置からの分析物の脱着が分析物の検出よりも長い時間を要する場合に、デューティサイクルおよび処理量を増加させる。
【0014】
添付の図面を参照して、本開示の実施形態を単なる例として説明する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
一般に、本開示は、固相マイクロ抽出(SPME)装置上に吸着された分析物を脱着および検出するためのシステムおよび方法を提供する。このシステムおよび方法は、脱着チャンバ内の脱着溶液を、実質的に希釈されていない液体プラグとして検出装置のフローインジェクタに搬送する。
【0017】
このシステムは、約50μL未満のボイド容積(void volume)を規定すると共に、SPME装置を収容するような大きさに構成された脱着チャンバを含む。
【0018】
「ボイド容積」という用語は、SPME装置が脱着チャンバにあるときに、脱着溶媒に利用可能な容積を指すと理解すべきである。望ましくは、このボイド容積は、できるだけ小さい。その理由は、より大きいボイド容積に比べて、より小さいボイド容積がより速く平衡に達することができ、非平衡脱着の場合、ボイド容積を減少させることによって、より大きいボイド容積に比べて、所定の脱着時間でより濃縮した脱着溶媒を得ることができる。いくつかの例において、ボイド容積は、約3μL〜約50μLの間の任意の容積、例えば、3μL、4μL、5μL、10μL、20μL、30μL、40μL、または50μLであってもよい。
【0019】
SPME装置は、固体または液体の抽出相で塗布された基材であり、「吸着剤」とも呼ばれる。基材は、例えば、ニードルであってもよい。例示的なSPME装置は、米国特許第7232689号、第7259019号、第7384794号、第7479390号、第8008064号、第8080407号、第8114660号および第8598325号並びに米国特許公開番号US2015/0318158およびUS2015/0318160に開示されている。
【0020】
また、システムは、脱着チャンバと流体接続されているフローインジェクタを含む。フローインジェクタは、液体を取り込み、取り込んだ液体を流動している搬送流、例えば搬送ガスに注入するためのインジェクタ、例えばニードルを指すと理解すべきである。搬送流は、分析物を検出装置に搬送する。検出装置に応じて、液体は、イオン化されてもよく、および/または少なくとも部分的に気化されてもよい。いくつかの例において、フローインジェクタは、噴霧ニードル(nebulizing needle)であってもよい。他の例において、フローインジェクタは、エレクトロスプレーニードル(electrospray needle)であってもよい。
【0021】
脱着チャンバおよびフローインジェクタは、少なくともフロー隔離流体コネクタによって流体的に接続される。「フロー隔離」という表現は、SPME装置から分析物を脱着している時に、脱着チャンバ内の流体がシステムの残りの部分に流れている流体と混合することを低減または防止するような大きさおよび/または形状に構成された流体コネクタを指すと理解すべきである。
フロー隔離流体コネクタによって、検出工程中に脱着チャンバ内の溶液は、フローインジェクタに流れる。検出工程中に、脱着溶液は、脱着チャンバの外側の流体と混合してもよいが、好ましくは、脱着チャンバの外側の流体と最小限の混合でフローインジェクタに搬送される。
【0022】
脱着工程中に脱着チャンバ内の脱着溶液をシステムの残りの部分に流れている流体から隔離することによって、脱着溶液中の分析物の濃度を、例えば平衡濃度に達するまで経時的に増加させることができる。また、脱着工程中に脱着チャンバ内の脱着溶液をシステムの残りの部分に流れている流体から隔離することは、検出システムの安定性を高めることができる。約50μL未満のボイド容積において、脱着溶液をシステムの残りの部分の流体から隔離すると、分析物は、わずか10秒で平衡濃度に達することができる。SPME装置を脱着チャンバ内で振動することによって、および/または脱着溶媒またはSPME装置を加熱してシステム内の物質移動を加速することによって、平衡に達するのに要する時間を短縮することができる。「隔離」および「分離」という用語は、流体、溶媒または溶液を説明するために使用された場合に同等であり、流体、溶媒または溶液がシステム内の他の流体と混合することを低減または防止することを意味すると理解すべきである。
【0023】
また、このシステムは、フローインジェクタと流体接続されている溶媒源と、少なくとも脱着位置および検出位置を有する流体スイッチとを含む。脱着位置において、流体スイッチは、脱着チャンバ内の脱着溶液を隔離すると共に、フローインジェクタから溶媒を噴霧することを可能にする。検出位置において、流体スイッチは、フローインジェクタと脱着チャンバとの間の流体接続を維持すると共に、溶媒流を遮断してフローインジェクタから溶媒源を隔離することによって、フロー隔離流体コネクタを介して、脱着チャンバ内の脱着溶液を実質的に希釈されていない液体プラグとしてフローインジェクタに搬送する。
【0024】
本開示の文脈において、「実質的に希釈されていない液体プラグ」という表現は、脱着チャンバ内の脱着溶液の少なくとも90%が、単一体積の流体でフローインジェクタに搬送され、且つフローインジェクタに到達した流体プラグ内の分析物濃度が、脱着チャンバから出た流体プラグ内の分析物濃度の少なくとも90%であると理解すべきである。
【0025】
本開示に係るシステムの一例において、フロー隔離流体コネクタは、(a)流体スイッチが脱着位置に位置し且つ(b)溶媒が溶媒源からフローインジェクタに流れる時に、脱着チャンバからの脱着溶液がフローインジェクタに流れる溶媒に拡散することを低減または回避するような寸法に構成されている。フロー隔離流体コネクタは、脱着チャンバの断面よりも十分に小さい断面を有してもよく、または、フロー隔
離流体コネクタは、
フロー隔離流体コネクタの一端を通過する液体が
フロー隔離流体コネクタの他端の液体に影響を与えないよう
にフロー隔離
流体コネクタの断面よりも十分に大きくてもよく、またはその両方である。「十分に小さい断面」および「フロー隔離
流体コネクタの長さが十分に大きい」という表現は、
フロー隔離流体コネクタの一端の流体が
フロー隔離流体コネクタの他端の流体との相互作用を防止または低減するような寸法に構成された流体コネクタを指すと理解すべきである。断面が十分に小さいおよび/または十分に長い
フロー隔離流体コネクタは、
フロー隔離流体コネクタの第1端部の流体の乱流が第2端部の流体に与える影響を低減または防止することができるため、第1端部の流体から第2端部の流体を隔離することができる。
【0026】
本開示に係るシステムの別の例において、フロー隔離流体コネクタは、収容されたSPME装置によって流体的に封止されるような大きさに構成される。脱着中に、流体コネクタを封止すると、脱着チャンバをフローインジェクタから流体的に隔離する。この例示的なシステムは、約50μL未満のボイド容積を規定すると共に、追加のSPME装置を収容するような大きさに構成された少なくとも1つの追加の脱着チャンバをさらに含むことができる。この追加の脱着チャンバは、収容された追加のSPME装置によって流体的に封止されるような大きさに構成された追加のフロー隔離流体コネクタを介して、第1脱着チャンバと並列に接続されてもよい。したがって、この例示的なシステムは、複数のSPME装置から分析物を脱着することができ、他のSPME装置が脱着を行っている間に複数のSPME装置の1つから脱着流体を導入することができる。このように、複数の脱着チャンバを並行に含むシステムは、単回の脱着および検出操作に必要な時間を変えずに、全体的な処理量を増加させることができ、よって、デューティサイクルを増加させることができる。
【0027】
本開示に係るシステムにおいて、フローインジェクタは、エレクトロスプレーニードル(electrospray needle)、サーモスプレーネブライザ(thermospray nebulizer)、マイクロエレクトロスプレーニードル(microelectrospray needle)、大気圧化学イオン化ネブライザ(atmospheric pressure chemical ionization nebulizer)、イオン移動度分光分析(IMS)ネブライザ(ion-mobility spectrometry nebulizer)、誘導結合プラズマ(ICP)ネブライザ(inductively coupled plasma nebulizer)、または溶媒流を検出装置に向かって駆動するための圧力差を生成する任意の装置である。
【0028】
本開示に係るシステムにおける検出装置は、フローインジェクタの下流に配置されており、脱着された分析物を検出するための質量分析計(例えば、IMS、電気化学、または分光法に基づいた検出)であってもよい。
【0029】
本開示に係るシステムで使用された検出装置は、脱着チャンバよりも低い圧力で動作することができる。この圧力は、大気圧であってもよい。動作中、フローインジェクタは、局部的な低圧を生成してもよく、または溶媒源に圧力を加えてもよい。いずれの場合、フローインジェクタから検出装置に溶媒を吸い込むための圧力差が生成される。流体スイッチが脱着位置に位置するとき、フローインジェクタから検出装置に吸い込まれた溶媒は、脱着チャンバ内の溶媒である。
【0030】
本開示に係るシステムは、フローインジェクタからの溶媒を霧化するためのガス源を含むことができる。ガスは、不活性ガスであってもよい。また、システムは、収容されたSPME装置を振動させる攪拌器、脱着チャンバを加熱するための加熱器、またはその両方を含むことができる。SPME装置を攪拌し、脱着チャンバ内の脱着流体を加熱することによって、分析物の脱着速度を増加させることができる。
【0031】
別の態様において、本開示は、固相マイクロ抽出(SPME)装置上に吸着された分析物を脱着および検出するための方法を提供する。この方法は、SPME装置からの分析物の少なくとも一部を脱着チャンバ内の脱着溶液に脱着するステップを含む。脱着チャンバ内の脱着溶液は、脱着中にフローインジェクタに実質的に流れない。この方法は、実質的に脱着チャンバ内の脱着溶液の全体を、実質的に希釈されていない液体プラグとしてフローインジェクタにフラッシュするステップを含む。SPME装置は、脱着チャンバに残されてもよく、または脱着チャンバから取り外されてもよい。SPME装置を取り外すと、脱離チャンバをより効率的に空にすることができる。この方法は、フローインジェクタを介して、脱着溶液を検出装置に噴霧するステップを含む。「実質的にフローインジェクタに流れない」という表現は、脱着溶液がフローインジェクタに流れる流体から流体的に隔離されていることを意味すると理解すべきである。
【0032】
脱着チャンバは、フローインジェクタに流体的に接続されてもよい。方法は、分析物を脱着チャンバ内の脱着溶液に脱着すると共に、フローインジェクタからの溶媒を霧化するステップをさらに含むことができる。脱着チャンバ内の脱着溶液を霧化されている溶媒から流体的に分離するのに十分な速度で、フローインジェクタから溶媒を噴霧してもよい。溶媒を噴霧することによって、フローインジェクタから流体を押し出す。フローインジェクタから押し出されている流体の流量とシステムに供給されている流体の流量との間に差がある場合、流体は、(フローインジェクタからの流量がより大きい場合に)脱着チャンバから押し出され、(システムへの流量がより大きい場合に)脱着チャンバに駆動され、次の脱着のためにチャンバを充填する。さらに、脱着チャンバを通過する流体の流量は、脱着チャンバの入口における流体の混合に影響を与えることがある。いくつかの例において、サブマイクロリットル容積を有するフロー
隔離流体コネクタを通過する少なくとも約0.4cm/sの流体速度は、脱着チャンバ内の脱着溶媒を流体的に隔離する。したがって、脱着チャンバがフローインジェクタと流体接続されている場合、溶媒を噴霧する速度は、脱着チャンバに流入および流出する流体の流れに影響を与える。
【0033】
脱着チャンバ内の脱着溶液は、(a)フローインジェクタに供給される溶媒の流量を減少させることによって、または(b)フローインジェクタを溶媒源から流体的に隔離することによって、フローインジェクタにフラッシュすることができる。いずれの場合も、脱着チャンバ内の脱着溶液は、噴霧ガスによって生成された吸引力によって、フローインジェクタに流体力学的に駆動される。脱着チャンバは、(a)霧化されている溶媒の流量に比べて、フローインジェクタに供給される溶媒の流量を増加させることによって、または(b)フローインジェクタに供給される溶媒の流量に比べて、霧化されている溶媒の流量を減少させることによって、再充填されてもよい。
【0034】
別の例示的な方法において、脱着チャンバは、分析物を脱着チャンバ内の脱着溶液に脱着している間に、フローインジェクタに流体的に接続されていない。方法は、脱着チャンバとフローインジェクタとの間の流体接続を形成することによって、脱着チャンバ内の脱着溶液をフローインジェクタにフラッシングするステップを含む。例えば、SPME装置は、SPME装置から分析物を脱着している間に、フローインジェクタに流体的に接続された開口を封止することによって、脱着チャンバとフローインジェクタとの間の流体接続の切断を容易にするような形状にすることができる。この場合、脱着チャンバとフローインジェクタとの間の流体的に接続を形成することは、SPME装置によって封止された開口を開放することを含むことができる。この方法は、例えば、脱着溶媒が脱着チャンバに流体力学的に駆動された後に、脱着チャンバからSPME装置を除去するステップと、再び開口を封止するように、別のSPME装置を脱着チャンバに挿入するステップとを含むことができる。方法は、溶媒源から供給された溶媒で脱着チャンバを再充填するステップを含むことができる。
【0035】
この方法は、複数のSPME装置を同時に脱着するように動作することができる。例えば、この方法は、少なくとも2つのSPME装置から分析物を脱着、フラッシュおよび噴霧するステップを含むことができる。SPME装置のうちの1つから脱着された分析物をフローインジェクタにフラッシュして、検出装置によって検出すると共に、他のSPME装置からの分析物をそれぞれの脱着チャンバで脱着することができる。
【0036】
方法は、脱着チャンバを加熱するステップ、SPME装置を振動させるステップ、またはその両方を含むことができる。これによって、分析物の脱着速度を高めることができる。場合によって、検出に十分な量の分析物を脱着するために、脱着を5〜20秒間行うことができる。いくつかの方法において、例えば比較的に厚い被覆を使用する方法において、20秒超えるように脱着を行う。
【0037】
本開示に係るシステムおよび方法は、脱着中に流体的に隔離されていない脱着チャンバを備えるシステムおよび方法に比べて、より高い感度、より狭い幅のクロノグラム、より再現性のある脱着容積および/またはより再現性のある結果を得ることができる。
【0038】
脱着中に脱着チャンバが流体的に分離されていないシステムにおいて、SPME被覆の一部に吸着された分析物は、SPME被覆の別の部分に吸着された分析物よりも、より長い時間で検出装置に搬送されることがある。例えば、脱着された分析物の一部は、吸引流のみによって検出装置に搬送されるが、脱着された分析物の他の部分は、まず、拡散によって一部の拡散チャンバに到達し、その後、吸引流によって検出装置に搬送される。本開示に係るシステムおよび方法は、実質的に単一の流体プラグで脱着溶媒を搬送するため、流体プラグの前部の分析物と流体プラグの後部の分析物とが検出器に到達する時間差は、脱着チャンバの容積および流量のみに依存する。
【0039】
既知の寸法を有する脱着チャンバを使用する場合、(脱着中に脱着チャンバが流体的に隔離されるため)脱着溶媒の容積が経時的に変化しないため、より再現性のある脱着容積を得ることができ、より再現性のある脱着結果をもたらすことができる。
【0040】
脱着チャンバのボイド容積を減らすことは、希釈率を減らす。本開示に係る脱着チャンバは、約7μLの容積を有し、SPMEファイバが3μLを占める場合に約4μLのボイド容積を有するが、従来の開放ポートプローブ(OPP)の総容積(すなわち、ギャップおよびドームの容積)は、5秒間の脱着を行った場合に30〜40μLである。
【0041】
本開示に係るシステムで使用され得る脱着チャンバおよびフロー隔離流体コネクタの一例が、
図1に示されている。脱着チャンバ(10)は、フロー隔離
流体コネクタ(12)を介して、フローインジェクタ(図示せず)に流体的に接続される。矢印によって示されるように、流体は、溶媒源から流れ、
フロー隔離流体コネクタ(12)の開口(14)を通って、脱着チャンバ(10)内の溶媒を著しく乱すことなくフローインジェクタに入る。1つの特定例の寸法が
図1に示されているが、これらの寸法は、単なる例示であり、脱着チャンバおよび/または流体コネクタのサイズおよび形状は、上記の議論を考慮して変更され得ることを理解すべきである。
【0042】
本開示に係るシステムにおいて使用され得る脱着チャンバおよびフロー隔離
流体コネクタの別の例が、
図2に示されている。脱着チャンバ(20)は、フロー隔離
流体コネクタ(22)を介して、フローインジェクタ(図示せず)に流体的に接続される。流体は、流入通路(26A)を介して
フロー隔離流体コネクタ(22)の開口(28)を通って、脱着チャンバ(20)内の溶媒を著しく乱すことなく基部(24)の上方に流れ、流出通路(26B)を介して下方のフローインジェクタに入る。流入通路(26A)と流出通路(26B)とは、流体的に接続されており、同心のシリンダを配置することによって形成されてもよい。すなわち、流入通路(26A)は、2つのシリンダの間の空間によって規定され、流出通路(26B)は、内側のシリンダの内部空間によって規定される。
図2に示すフロー隔離
流体コネクタ(22)は、約0.25μLの容積を有し、
図2に示す脱着チャンバ(20)は、約7μLの容積を有する。
【0043】
図2の流路およびフロー
隔離流体コネクタ内の溶媒の定常状態下の流体速度は、
図3に示されている。濃い色は、より速い流体速度を示し、薄い色は、より遅い流体速度を示す。
図3を生成するために計算された流量プロファイルは、
図2に示される実施形態の2次元バージョンに基づくものであった。
図3の最も濃い部分における流体速度は、約0.4cm/sの速度であり、最も薄い部分における流体速度は、約0.05cm/sの速度である。例えば、フローインジェクタのベンチュリ効果によって生成された吸引条件およびポンプの流量条件を調整することによって、通路を通って流れる流体は、平衡状態に達し、フローインジェクタによって一定の速度で注入されると共に、脱着チャンバ内で流体の滞留容積を達成することができる。このことは、エレクトロスプレープロセスを妨げることなく、SPMEファイバを脱着チャンバ内に配置できることを示す
図3に示す流動線および速度勾配によって証明される。
【0044】
本開示に係るシステムの概略図は、
図4に示されている。図示では、脱着チャンバ(30)には、SPMEファイバ(32)が挿入されている。SPMEファイバは、抽出被覆(34)を有する。脱着チャンバ(30)は、エレクトロスプレーニードル(36)に流体的に接続される。エレクトロスプレーニードルは、溶媒からの帯電成分(40)からなるエレクトロスプレー円錐(38)を形成する。また、脱着チャンバは、管路または通路(42)に流体的に接続される。これによって、エレクトロスプレーニードル(36)によって生成された流体に比べて、管路(42)からの流体の流量を増加させることによって、溶媒を脱着チャンバに供給することができる。また、チャンバは、任意の流体センサ(44)を含む。この流体センサは、脱着チャンバの充填を自動的に停止することができる。また、
図4は、乾燥ガス流(46)および質量分析計(48)を示している。質量分析計(48)は、噴射された帯電成分(40)を検出するための装置である。
【0045】
図5は、
図4に示すシステムと同様のシステムを示す概略図である。そのため、同様の参照番号が使用されている。しかしながら、
図5のシステムは、脱着チャンバ(30)を、エレクトロスプレーニードル(36)に流れる流体からより良好に流体的に隔離するための狭窄オリフィス(50)をさらに含む。いくつかの例において、脱着チャンバ(30)、エレクトロスプレーニードル(36)の一部およびオリフィス(50)を示す
図6に示されるように、SPME装置を挿入することによって、オリフィス(50)を閉塞または封止することができる。この例示において、流体が管路または通路(42)を通って流れているときでも、オリフィス(50)を封止するようにSPME装置を移動することによって、脱着溶媒がエレクトロスプレーニードル(36)内に流入することを防止または低減することができる。オリフィス(50)から離れるようにSPME装置を移動することによって、脱着チャンバを開放し、脱着溶液は、エレクトロスプレーニードルに流入することができる。管路または通路(42)からの流体の流量を減少または停止させることによって、エレクトロスプレーニードルに流入する脱着溶液の流量を増加させることができる。
【実施例】
【0046】
LC−MSグレードのメタノール(MeOH)、アセトニトリル(ACN)、水およびイソプロパノール(IPA)は、Fisher Scientific(登録商標)によって提供された。コデイン、コカイン、ブプレノルフィン、クレンブテロール、セルトラリン、オキシコドンおよびサルブタモールは、Sigma Aldrich(登録商標)(オークビル、ON、カナダ)から購入した。評価された抽出用のファイバは、社内手順を用いて製造された。使用された被覆は、アクリロニトリルモノマーに(親水性および親油性をバランスした)HLB粒子(10重量%)を懸濁した分散液を用いて、SPME表面を塗布し、150℃で重合させることによって調製された5μmのHLB粒子およびポリアクリロニトリル(PAN)との混合物であった。厚さ20μmおよび長さ4mmの被覆を形成するように、ファイバを塗布した。実験は、SCIEX社からの三段四重極API−4000に行われた。
【0047】
図1に示す脱着チャンバを使用した。この脱着チャンバは、改変開放ポートプローブ(OPP)と呼ばれてもよい。この脱着チャンバは、化学不活性を保証するために、テフロン(登録商標)から作製された。脱着チャンバは、直径1mmおよび長さ1cmを有し、約7μLの容積を有する穴を含む。脱着チャンバは、直径0.5mmの流量絞り穴に接続されている。この流量絞り穴は、ポンプの流れに対して追加の背圧を発生する。滞留容積を減少させるために、改変OPPの継手と脱着チャンバとの間の間隔を最小限にした(1mm未満)。ポンプの流れをバイパスし、チャンバを効率的にフラッシュするために、システムを6ポート弁に接続した。
【0048】
改変開放ポートプローブ(OPP)内の噴霧ガス(窒素)のESI−MS流動条件として、ガス1は、90PSIであり、ガス2は、70PSIであり、カーテンガスは、20PSIであり、エレクトロスプレー装置の電圧は、5500Vであった。
【0049】
観察されたMS/MSトランジションは、表1に示される。
【0050】
【表1】
【0051】
50ng/mLの各化合物のリン酸緩衝液(PBS)を標準溶液として用いて、改変OPPを試験した。SPMEファイバを用いて、1500rpmおよび10分間で、300μLの試料からこれらの化合物を抽出した。SPMEファイバを脱着チャンバに5秒間配置することによって、これらの化合物を脱着した。その後、チャンバからSPMEファイバを取り出し、バルブを3秒間フラッシュ位置に切り替えた。フラッシュ位置では、溶媒源からのメタノールは、脱着チャンバを通過せず、廃棄物に能動的に圧送される。フラッシュ位置では、脱着チャンバ内の流体を流体力学的に駆動する力は、エレクトロスプレー装置によるベンチュリ吸引力のみである。したがって、約7μLのプラグは、希釈されることなく、質量分析計に直接に注入される。ガス1の圧力を90PSIから80PSIに下げることにより、ベンチュリ吸引力を3秒間減少させ、バルブを脱着位置に切り替えることによって、脱着チャンバを再充填した。チャンバをさらなる実験のために用意した。
【0052】
上記の方法およびシステムを用いて、抽出および検出されたコカインを示すイオンクロノグラフは、
図7に示され、従来の開放ポートプローブを用いて、抽出および検出されたコカインを示すイオンクロノグラフは、
図8に示される。
図7のピークプロファイルは、非常に鋭く、2〜3秒のFWHMを有する。対照的に、
図8のピークプロファイルは、あんまり鋭くなく、6秒のFWHWを有する。これは、1〜2桁の感度の増加に相当する。
【0053】
脱着時間の長さを評価した。5秒および10秒の脱着時間を評価した。4回の反復的な抽出および脱着のピーク高さ、標準偏差および相対標準偏差(%RSD)は、表2に示される。10秒の脱着時間は、より良い回収面積を示したが、試験化合物に対して有意な改善ではなかった。より長い時間の脱着は、例えば、脱着速度が低い化合物を脱着する場合または厚い被覆を有するSPME装置から脱着を行う場合に使用することができる。
【0054】
【表2】
【0055】
上記の記載において、説明の目的で、実施例に対する完全な理解を提供するために、多くの詳細が記載されている。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細は必要ではないことが明らかであろう。したがって、記載されたものは、説明された実施例の応用の単なる例示であり、上記の教示に照らして多くの修正および変形が可能である。
【0056】
上記の説明は、例示を提供する。当業者であれば、特定の実施例に変更および変形を施すことができることを理解できるであろう。したがって、特許請求の範囲は、本明細書に記載された特定の実施例に限定されず、明細書の全体と一致するように解釈されるべきである。