(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
特定の実施形態の説明
定義
アシルアミノ酸:「アシルアミノ酸」という用語は、本明細書において用いる場合、脂肪酸部分に対して共有結合されているアミノ酸を指す。いくつかの実施形態では、アミノ酸および脂肪酸は、脂肪酸のカルボン酸基とアミノ酸のアミノ基との間で形成されたアミド結合を介して共有結合されている。いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸中に利用されるかまたは含まれる脂肪酸部分または実体は、β−ヒドロキシル基を含み;いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸中に利用されるか、または含まれる脂肪酸部分または実体は、β−ヒドロキシル基を含まない。いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸中で利用されるかまたは含まれる脂肪酸部分は、β−アミノ基を含み;いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸中に利用されるかまたは含まれる脂肪酸部分または実体は、β−アミノ基(aminno group)を含まない。いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸中に利用さ
れるかまたは含まれる脂肪酸部分は、β位で未修飾である。
【0015】
アミノ酸:本明細書において用いる場合、「アミノ酸」という用語は、その広義の意味では、ペプチド合成(例えば、リボソームまたは非リボソーム合成)で利用され得る、任意の化合物および/または物質を指す。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、例えば、1つまたは複数のペプチド結合の形成を通じてポリペプチド鎖中に組み込まれ得る任意の化合物および/または物質である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、ペプチドシンテターゼの基質である任意の化合物および/または物質である;いくつかのこのような実施形態では、アミノ酸は、その上でペプチドシンテターゼがアシル実体を、例えば、アミド結合の形成を通じて連結し得る、任意の化合物および/または物質である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、一般的構造H
2N−C(H)(R)−COOHを有する。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、合成のアミノ酸である;いくつかの実施形態では、アミノ酸は、D−アミノ酸である;いくつかの実施形態では、アミノ酸は、L−アミノ酸である。「標準的なアミノ酸」とは、天然に存在するペプチド中で共通して見出される任意の20個の標準的なLアミノ酸を指す。「標準的でないアミノ酸」とは、それが合成的に調製されるか、または天然の供給源から得られるかにかかわらず、標準的なアミノ酸以外の任意のアミノ酸のことを指す。いくつかの実施形態では、ポリペプチドにおけるカルボキシ末端および/またはアミノ末端のアミノ酸を含むアミノ酸は、上記の一般的構造と比較して構造的な修飾を含有してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、アミノ酸は、一般的構造と比較して、メチル化、アミド化、アセチル化、および/または置換によって修飾されてもよい。いくつかの実施形態では、このような修飾は、例えば、それ以外では同一の未修飾のアミノ酸を含有しているものと比較した場合、修飾されたアミノ酸を含有しているポリペプチドの循環半減期を変更し得る。いくつかの実施形態では、このような修飾は、それ以外は同一の未修飾のアミノ酸を含有しているものと比較した場合、修飾されたアミノ酸を含有しているポリペプチドの関連の活性を有意に変更しない。文脈上明らかであるとおり、いくつかの実施形態では、「アミノ酸」という用語は、遊離のアミノ酸を指して用いられる;いくつかの実施形態では、この用語は、ポリペプチドのアミノ酸残基を指して用いられる。いくつかの実施形態では、「天然に存在する」アミノ酸は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンを含む、ほとんどの生物のポリペプチドの構築ブロックである20個のアミノ酸の標準的な群のうち1つである。特定の実施形態では、「天然に存在する」アミノ酸とは、用いられる頻度が低く、かつ通常は、20個の標準的な群には含まれないが、にもかかわらず1つまたは複数の生物によってなお用いられ、特定のポリペプチドに組み込まれるアミノ酸であり得る。例えば、コドンUAGおよびUGAは正常には、ほとんどの生物中の終止コドンをコードする。しかし、いくつかの生物では、コドンUAGおよびUGAは、アミノ酸セレノシステインおよびピロリジンをコードする。したがって、特定の実施形態では、セレノシステインおよびピロリジンは天然に存在するアミノ酸である。
【0016】
関連した(associated with):2つの事象または実体は、一方の存在、レベルおよび/または形態が、もう一方のものと相関している場合に、その用語が本明細書で用いられるように、お互いと「関連している(associated)」。例えば、特定の実体(例えば、ポリペプチド)は、その存在、レベルおよび/または形態が疾患、障害または状態の発生率および/または感受性と相関している場合(例えば、関連の集団にまたがって)、その特定の疾患、障害または状態と関連しているとみなされる。いくつかの実施形態では、2つまたはそれ超の実体は、それらがお互いと物理的に近接しており、かつ近接したまま直接または間接的に相互作用する場合、お互いと物理的に「関連している、会合している(associated)」。いくつかの実施形態では、お互いと物理的に会合している2つまたはそれ超の実体は、お互いに共有結合している;いくつかの実施形態では、お互いと物理的に会合している2つまたはそれ超の実体は、お互いと共有結合はしていないが、例えば、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、磁力およびそれらの組合せによって非共有結合的に会合している。
【0017】
β−ヒドロキシ脂肪酸連結ドメイン:「β−ヒドロキシ脂肪酸連結ドメイン」という用語は、本明細書において用いる場合、β−ヒドロキシ脂肪酸をアミノ酸に共有結合して、アシルアミノ酸を形成するポリペプチドドメインを指す。種々のβ−ヒドロキシ脂肪酸連結ドメインが、当業者に公知である。しかし、異なるβ−ヒドロキシ脂肪酸連結ドメインは、1つまたは複数のβ−ヒドロキシ脂肪酸について特異性を示す場合が多い。1つの非限定的な例として、サーファクチンシンテターゼ由来のβ−ヒドロキシ脂肪酸連結ドメインは、脂肪酸鎖中に13〜15個の炭素を含有する、β−ヒドロキシミリスチン酸に特異的である。したがって、サーファクチンシンテターゼ由来のβ−ヒドロキシ脂肪酸連結ドメインは、脂肪酸β−ヒドロキシミリスチン酸を含むアシルアミノ酸の生成に有用な操作されたポリペプチドを構築するために本発明によって用いられ得る。
【0018】
β−ヒドロキシ脂肪酸:「β−ヒドロキシ脂肪酸」という用語は、本明細書において用いる場合、脂肪酸鎖のβ位でヒドロキシ基を含む脂肪酸鎖を指す。当業者によって理解されるとおり、β位は、脂肪酸鎖の第3の炭素に相当し、第1の炭素は、カルボキシレート基の炭素である。したがって、本発明のアシルアミノ酸に対する言及で用いる場合、脂肪酸のカルボン酸部分は、アミノ酸の窒素に共有結合されている場合、β位は、エステル基を有している炭素から除去された2つの炭素の炭素に相当する。本発明によって用いられるべきβ−ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸鎖中に任意の数の炭素原子を含有してもよい。非限定的な例として、β−ヒドロキシ脂肪酸は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、3、14、15、15、16、17、18、19、20またはそれまたはそれ超の炭素原子を含有してもよい。本発明によって用いられるべきβ−ヒドロキシ脂肪酸は、直鎖の炭素鎖を含有してもよく、ここで鎖の各々の炭素は、アミノ酸の末端の炭素原子および窒素に結合した炭素を除いて、2つの他の炭素原子に直接共有結合されている。さらにまたはあるいは、本発明によって用いられるべきβ−ヒドロキシ脂肪酸は、分岐した炭素鎖を含有してもよく、ここでこの鎖の少なくとも1つの炭素が3つまたはそれ超の他の炭素原子に直接共有結合されている。本発明によって用いられるべきβ−ヒドロキシ脂肪酸は、隣接する炭素原子の間に1つまたは複数の二重結合を含んでもよい。あるいは、本発明によって用いられるべきβ−ヒドロキシ脂肪酸は、隣接する炭素原子の間に単結合のみを含有してもよい。本発明によって用いられ得る非限定的な例のβ−ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸鎖の中に13〜15個の炭素を含有するβ−ヒドロキシ酸であるか、またはそれを含む;いくつかの実施形態では、本発明によって用いられ得る例示的なβ−ヒドロキシ脂肪酸は、ミリスチン酸であるか、またはそれを含み、ミリスチンとは、通常14個の炭素を意味して用いられる。当業者は、本発明によって用いられ得る種々のβ−ヒドロキシ脂肪酸を承知している。他のβヒドロキシ脂肪酸(例えば、天然に存在するか、または天然には存在しないβ−ヒドロキシ脂肪酸)について特異性を示す異なるβ−ヒドロキシ脂肪酸連結ドメインを、本発明によって用いて、実施者の選ぶ任意のアシルアミノ酸を生成してもよい。
【0019】
特徴的な配列エレメント:本明細書において用いる場合、「特徴的な配列エレメント」という句は、ポリマーの特徴的な部分を表すポリマー(例えば、ポリペプチドまたは核酸)中で見出される配列エレメントを指す。いくつかの実施形態では、特徴的な配列エレメントの存在は、ポリマーの特定の活性または特性の存在またはレベルと相関する。いくつかの実施形態では、特徴的な配列エレメントの存在(または非存在)は、このようなポリマーの特定のファミリーまたは群のメンバーとして(またはメンバーではない)特定のポリマーを規定する。特徴的な配列エレメントは通常は、少なくとも2つのモノマー(例えば、アミノ酸またはヌクレオチド)を含む。いくつかの実施形態では、特徴的な配列エレメントは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50個、またはそれ超のモノマー(例えば、隣接して連結されたモノマー)を含む。いくつかの実施形態では、特徴的な配列エレメントは、その長さが配列エレメントを共有するポリマーにまたがって変化してもしなくてもよい、1つまたは複数のスペーサー領域ずつ離れている連続のモノマーの少なくとも第1および第2のストレッチを含む。
【0020】
併用療法:本明細書において用いる場合、「併用療法」という用語は、対象が、2つまたはそれ超の治療剤に連続して曝される状況を指す。いくつかの実施形態では、このような薬剤は、同時に投与される;いくつかの実施形態では、このような薬剤は、連続して投与される;いくつかの実施形態では、このような薬剤は、重複する投与計画で投与される。
【0021】
匹敵する:「匹敵する」という用語は、本明細書において用いる場合、観察された相違または類似性に基づいて結論が合理的に導かれ得るように、お互いに同一でなくてもよいが、その間の比較を可能にするように十分に類似している、2つまたはそれ超の薬剤、実体、状況、条件のセットなどのことを指す。当業者は、文脈上、匹敵すると考えられる2つまたはそれ超のこのような薬剤、実体、状況、条件のセットなどについて任意の所定の状況でどの程度の同一性が必要とされるかを理解する。
【0022】
〜に対応する、〜相当する:本明細書中で使用される場合、「〜に対応する」という用語は、核酸中のポリペプチドまたはヌクレオチド残基中のアミノ酸残基など、ポリマー中の残基の位置/同一性を指定するために用いられる場合が多い。当業者は、単純にするために、このようなポリマー中の残基が、参照の関連のポリマーに基づいて正準のナンバリングシステムを用いて指定される場合が多く、その結果、例えば、参照ポリマー中の190位の残基「に対応する」第1のポリマー中の残基は、実際に第1のポリマーにおける190番目の残基である必要はなく、参照ポリマーにおいて190番目の位置に見られる残基に対応することを認識する;当業者は、ポリマー配列比較のために特に設計された1つまたは複数の市販のアルゴリズムの使用を通じることを含めて、どのようにして「対応する」アミノ酸を同定するかを容易に理解する。
【0023】
ドメイン、ポリペプチドドメイン:「ドメイン」および「ポリペプチドドメイン」という用語は、本明細書において用いる場合、一般には、他のポリペプチドまたはポリペプチドドメインから単離された(例えば、切断された)場合でさえ、特定の活性を示すポリペプチド部分を指す。いくつかの実施形態では、ポリペプチドドメインは、三次元空間で特定の個別の構造に折り畳まれる。いくつかの実施形態では、さらに長い方のポリペプチド中のポリペプチドドメインは、例えば、アミノ酸の実質的に構造化されていないストレッチを含んでもよい、リンカーエレメントのおかげで、長いポリペプチド内の1つまたは複数の他のポリペプチドドメインから分離される。いくつかの実施形態では、この用語は、より長いポリペプチド中に天然に存在するドメインを指す;いくつかの実施形態では、この用語は、このような天然に存在するポリペプチド部分に対して、または他の参照ポリペプチド部分(例えば、歴史的な操作された部分)に対して、有意な相同性および/または同一性に対応するかおよび/または示す操作されたポリペプチド部分を指す。いくつかの実施形態では、天然に存在するかまたは他の参照部分に対して有意な相同性および/または同一性に相当するかおよび/または示す操作されたドメインは、特徴的な構造(例えば、一次構造、例えば、ドメインのアミノ酸配列、および/または二次、三次、四次などの構造など)を共有する;あるいは、またはさらに、このような操作されたドメインは、その参照ポリペプチド部分と共有する1つまたは複数の別個の機能を示し得る。当業者によって理解されるとおり、多くの場合、ポリペプチドは、モジュールであり、1つまたは複数のポリペプチドドメインを含む;いくつかのこのような実施形態では、各々のドメインは、ポリペプチドの全体的機能に寄与する1つまたは複数の別個の機能を示す。いくつかの実施形態では、多くのこのようなドメインの構造および/または機能は、当業者に公知である。
【0024】
操作された:「操作された」(engineered)という用語は、本明細書において用いる場合、人の手で創出した天然には存在しない部分を指す。例えば、ポリペプチドに関連して、「操作されたポリペプチド」とは、人の手で設計されるか、および/または産生されたポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、操作されたポリペプチドは、天然には存在しない1つまたは複数の配列エレメントを含むアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、操作されたポリペプチドは、天然に存在するが、天然に存在するものとは異なる配列状況では(例えば、天然に連結されているか、および/または天然に連結されていない少なくとも1つの配列エレメントと連結されている少なくとも1つの配列から分離される)操作されたポリペプチド中に存在する、1つまたは複数の配列エレメントを含むアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、操作されたポリペプチドとは、天然に存在する配列エレメント(単数または複数)が、それらが天然に会合されている(例えば、連結されている)少なくとも1つの配列から分離されているか、および/またはそうでなければ天然には存在しないポリペプチドを含むように操作されているものである。種々の実施形態では、操作されたポリペプチドは、2つまたはそれ超の共有結合されたポリペプチドドメインを含む。典型的には、このようなドメインは、ペプチド結合を介して連結されるが、本発明は、ペプチド結合を介して連結されたポリペプチドドメインを含む操作されたポリペプチドに限定されず、当業者に公知の他の共有結合を包含する。操作されたポリペプチドの1つまたは複数の共有結合されたポリペプチドドメインは、天然に存在し得る。したがって、特定の実施形態では、本発明の操作されたポリペプチドは、2つまたはそれ超の共有結合されたドメインを含む(そのうちの少なくとも1つは天然に存在する)。特定の実施形態では、2つまたはそれ超の天然に存在するポリペプチドドメインは、共有結合されて、操作されたポリペプチドを生成する。例えば、2つまたはそれ超の異なるポリペプチド由来の天然に存在するポリペプチドドメインは、操作されたポリペプチドを生成するために共有結合されてもよい。特定の実施形態では、操作されたポリペプチドの天然に存在するポリペプチドドメインは、天然に共有結合されるが、ドメインが自然に連結されるのとは異なる方法で操作されたポリペプチド中で共有結合される。例えば、同じポリペプチド中に天然に存在するが、1つまたは複数の介在するアミノ酸残基で分離される2つのポリペプチドドメインを、直接共有結合して(例えば、介在するアミノ酸残基を除去することによって)、本発明の操作されたポリペプチドを生成する。さらにまたはあるいは、一緒に直接共有結合される同じポリペプチド中に天然に存在する2つのポリペプチドドメイン(例えば、1つまたは複数の介在するアミノ酸残基によって隔てられない)は、本発明の操作されたポリペプチドを生成するために間接的に共有結合されてもよい(例えば、1つまたは複数の介在するアミノ酸残基を挿入することによって)。特定の実施形態では、操作されたポリペプチドの1つまたは複数の共有結合されたポリペプチドドメインは、天然には存在しなくてもよい。例えば、このようなポリペプチドドメインは、それ自体遺伝子操作されてもよい。
【0025】
脂肪酸連結ドメイン:「脂肪酸連結ドメイン」という用語は、本明細書において用いる場合、脂肪酸をアミノ酸に共有結合して、アシルアミノ酸を形成するポリペプチドドメインを指す。いくつかの実施形態では、脂肪酸連結ドメインは、縮合ドメインである;いくつかの実施形態ではこのような脂肪酸連結ドメインは、単一のポリペプチドまたは少なくともまたは唯一のアデニル化ドメイン、チオール化ドメインまたはその両方とのポリペプチド複合体の一部である。種々の脂肪酸連結ドメイン、例えば、リポペプチドを生成する種々のペプチドシンテターゼ複合体に存在する脂肪酸連結ドメインなどは、当該分野で公知である。特定の実施形態では、脂肪酸連結ドメインは、β−ヒドロキシ脂肪酸をアミノ酸に連結する;いくつかの実施形態では、脂肪酸連結ドメインは、β−アミノ脂肪酸をアミノ酸に連結する;いくつかの実施形態では、脂肪酸連結ドメインは、β位で未修飾の脂肪酸をアミノ酸に連結する。いくつかの実施形態では、脂肪酸連結ドメインは、脂肪酸およびアミノ酸の縮合を触媒し、その結果、例えば、脂肪酸上のカルボン酸部分とアミノ酸上のアミノ部分との間でアミド結合(amide both)が形成される。
【0026】
相同性:本明細書において用いる場合、「相同性」という用語は、ポリマー分子間、例えば、核酸分子(例えば、DNA分子および/またはRNA分子)間および/またはポリペプチド分子間の全体的な関連性のことを指す。いくつかの実施形態では、ポリマー分子は、それらの配列が、少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%同一である場合、互いに「相同」であるとみなされる。いくつかの実施形態では、ポリマー分子は、それらの配列が、少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%類似である場合、互いに「相同」であるとみなされる(例えば、対応する位置で関連の化学特性を有する残基を含有する)。例えば、当業者に周知であるとおり、特定のアミノ酸は、「疎水性」または「親水性」アミノ酸として、および/または「極性」または「非極性」側鎖を有するとしてお互いに類似であると通常は分類される。1つのアミノ酸の同じ種類の別のアミノ酸との置換は、「相同」置換とみなされる場合が多い場合もある。典型的なアミノ酸の分類を下にまとめる:
【表3-1】
【表3-2】

当業者に理解されるとおり、異なる配列中でお互いに対して残基が「対応する」ことを考慮する場合、それらの相同性の程度を決定するための配列比較を可能にすることを含めて(例としては、一方に対して1つの配列中の指定の長さのギャップを可能にすることによって)、種々のアルゴリズムが利用可能である。例えば、2つの核酸配列の間の相同性パーセントの計算は、最適比較の目的のために2つの配列を整列させることによって行われ得る(例えば、最適アラインメントのために第1および第2の核酸配列の一方または両方にギャップが導入されてもよく、対応しない配列は、比較目的に関しては無視されてもよい)。特定の実施形態では、比較目的で整列される配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または実質的に100%である。次いで、対応するヌクレオチドの位置でヌクレオチドが、比較される。第1の配列内の位置が、第2の配列内の対応する位置と同じヌクレオチドによって占められている場合、その分子は、その位置において同一である;第1の配列中の位置が第2の配列中の対応する位置と類似のヌクレオチドで占められているならば、その分子はその位置で類似である。2つの配列の間の相同性パーセントは、2つの配列の最適アラインメントのために導入される必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮したとき、その配列によって共有される同一である位置および類似の位置の数の関数である。2つのヌクレオチド配列間の相同性パーセントの決定に有用な代表的なアルゴリズムおよびコンピュータープログラムとしては、例えば、PAM120重み付き残基表(weight residue table)、12というギャップ長ペナルティ(gap length penalty)および4というギャップペナルティ(gap penalty)を用いる、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれた、MeyersおよびMillerのアルゴリズム(CABIOS、1989年、4巻:11〜17頁)が挙げられる。あるいは、2つのヌクレオチド配列間の相同性パーセントは、例えば、NWSgapdna.CMPマトリックスを用いる、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラムを用いて決定され得る。
【0027】
同一性:本明細書において用いる場合、「同一性」という用語は、ポリマー分子間、例えば、核酸分子(例えば、DNA分子および/またはRNA分子)間および/またはポリペプチド分子間の全体的な関連性のことを指す。いくつかの実施形態では、ポリマー分子は、それらの配列が、少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%同一である場合、互いに「実質的に同一」であるとみなされる。当業者によって理解されるとおり、異なる配列中でお互いに対して残基が「対応する」ことを考慮する場合、それらの相同性の程度を決定するための配列比較を可能にすることを含めて(例としては、一方に対して1つの配列中の指定の長さのギャップを可能にすることによって)、種々のアルゴリズムが利用可能である。例えば、2つの核酸配列の間の同一性パーセントの計算は、最適比較の目的のために2つの配列を整列させることによって行われてもよい(例えば、最適アラインメントのために第1および第2の核酸配列の一方または両方にギャップが導入されてもよく、対応しない配列は、比較目的に関しては無視されてもよい)。特定の実施形態では、比較目的で整列される配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または実質的に100%である。次いで、対応するヌクレオチドの位置におけるヌクレオチドが、比較される。第1の配列内の位置が、第2の配列内の対応する位置と同じヌクレオチドによって占められているならば、その分子は、その位置において同一である。2つの配列の間の同一性パーセントは、2つの配列の最適アラインメントのために導入される必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮したとき、その配列によって共有される同一である位置の数の関数である。2つのヌクレオチド配列間の相同性パーセントの決定に有用な代表的なアルゴリズムおよびコンピュータープログラムとしては、例えば、PAM120重み付き残基表、12というギャップ長ペナルティおよび4というギャップペナルティを用いる、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれた、MeyersおよびMillerのアルゴリズム(CABIOS、1989年、4巻:11〜17頁)が挙げられる。あるいは、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、例えば、NWSgapdna.CMPマトリックスを用いる、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラムを用いて決定され得る。
【0028】
単離された:本明細書中で用いる場合、「単離された」という用語は、(1)最初に産生されたときに関連していた成分の少なくともいくつかから分離された物質および/もしくは実体(天然に存在するかおよび/または実験環境に存在するかにかかわらず)、ならびに/または(2)人の手によって設計、生産、調製および/もしくは製造された物質および/もしくは実体のことを指す。単離された物質および/または実体は、それらが最初に関連していた他の成分の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約99%超から分離され得る。いくつかの実施形態では、単離された薬剤は、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約99%超純粋である。本明細書中で用いる場合、物質は、それが他の成分を実質的に含まない場合、「純粋」である。いくつかの実施形態では、当業者によって理解されるとおり、ある物質は、例えば、1つまたは複数の担体または賦形剤(例えば、緩衝液、溶媒、水など)のような特定の他の成分を合わされた後に、「単離された」またはさらに「純粋」であるとさらにみなされ得る;このような実施形態では、物質の単離または純度のパーセントは、担体または賦形剤などを含むことなく計算される。いくつかの実施形態では、単離は、共有結合の破壊を含むか、または必要とする(例えば、長いポリペプチドからポリペプチドドメインを単離するか、および/または長いオリゴヌクレオチドもしくは核酸からヌクレオチド配列エレメントを単離するために)。
【0029】
天然に存在する:「天然に存在する」という用語は、本明細書において用いる場合、自然に存在することが公知である薬剤または実体を指す。
【0030】
核酸:本明細書中で用いる場合、「核酸」という用語は、その最も広い意味では、オリゴヌクレオチド鎖に組み込まれるかまたは組み込まれ得る任意の化合物および/または物質のことを指す。いくつかの実施形態では、核酸とは、ホスホジエステル連結を介してオリゴヌクレオチド鎖に組み込まれているかまたは組み込まれ得る化合物および/または物質である。文脈上明らかであるとおり、いくつかの実施形態では、「核酸」とは、個々の核酸残基(例えば、ヌクレオチドおよび/またはヌクレオシド)のことを指す;いくつかの実施形態では、「核酸」とは、個々の核酸残基を含むオリゴヌクレオチド鎖のことを指す。いくつかの実施形態では、「核酸」はRNAであるか、またはRNAを含む;いくつかの実施形態では、「核酸」はDNAであるか、またはDNAを含む。いくつかの実施形態では、核酸は、1つまたは複数の天然の核酸残基であるか、天然の核酸残基を含むか、または天然の核酸残基からなる。いくつかの実施形態では、核酸は、1つまたは複数の核酸アナログであるか、核酸アナログを含むか、または核酸アナログからなる。いくつかの実施形態では、核酸(nuclic acid)アナログは、それがホスホジエステル骨格を利用しないという点で核酸とは異なる。例えば、いくつかの実施形態では、核酸は、当該分野で公知であり、かつ骨格中でホスホジエステル結合の代わりにペプチド結合を有しており、本発明の範囲内であるとみなされる、1つまたは複数の「ペプチド核酸」であるか、それを含むか、またはそれからなる。あるいはまたはさらに、いくつかの実施形態では、核酸は、1つまたは複数のホスホロチオエートおよび/または5’−N−ホスホラミダイト連結を、ホスホジエステル結合ではなく有する。いくつかの実施形態では、核酸は、1つまたは複数の天然のヌクレオシド(例えば、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシンおよびデオキシシチジン)であるか、それらを含むか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、核酸は、1つまたは複数のヌクレオシドアナログ(例えば、2−アミノアデノシン、2−チオチミジン、イノシン、ピロロ−ピリミジン、3−メチルアデノシン、5−メチルシチジン、C−5プロピニル−シチジン、C−5プロピニル−ウリジン、2−アミノアデノシン、C5−ブロモウリジン、C5−フルオロウリジン、C5−ヨードウリジン、C5−プロピニル−ウリジン、C5−プロピニル−シチジン、C5−メチルシチジン、2−アミノアデノシン、7−デアザアデノシン、7−デアザグアノシン、8−オキソアデノシン、8−オキソグアノシン、O(6)−メチルグアニン、2−チオシチジン、メチル化塩基、インターカレートされた塩基、およびそれらの組合せ)であるか、それらを含むか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、核酸は、天然の核酸中の糖と比較して、1つまたは複数の修飾された糖(例えば、2’−フルオロリボース、リボース、2’−デオキシリボース、アラビノースおよびヘキソース)を含む。いくつかの実施形態では、核酸は、RNAまたはタンパク質のような機能的な遺伝子生成物をコードするヌクレオチド配列を有する。いくつかの実施形態では、核酸は、1つまたは複数のイントロンを含む。いくつかの実施形態では、核酸は、天然の供給源からの単離、相補的なテンプレートに基づく重合化による酵素的合成(インビボまたはインビトロ)、組み換え細胞または組み換え系の中での再生、および化学的合成のうちの1つまたは複数によって調製される。いくつかの実施形態では、核酸は少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、20、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、またはそれ超の残基長である。
【0031】
ペプチドシンテターゼ複合体:「ペプチドシンテターゼ複合体」という用語は、本明細書において用いる場合、ペプチドの非リボソーム生成物を触媒する酵素を指す。当業者によって理解されるとおり、ペプチドシンテターゼ複合体は、モジュールであって、最終的なペプチドの合成中で異なるステップを行う個々のペプチドシンテターゼモジュールを含む;通常は、各々のモジュールは、1ステップを行う(例えば、単一のアミノ酸を追加する)。ペプチドシンテターゼ複合体は、単一の酵素的サブユニット(例えば、単一のポリペプチド)を含んでもよいし、または2つまたはそれ超の酵素的サブユニット(例えば、2つまたはそれ超のポリペプチド)を含んでもよい。ペプチドシンテターゼ複合体は通常は、少なくとも1つのペプチドシンテターゼドメインを含み、かつさらに、例えば、脂肪酸連結ドメイン、チオエステラーゼドメイン、レダクターゼドメインなどのような、1つまたは複数の追加のドメインを含んでもよい。ペプチドシンテターゼ複合体のペプチドシンテターゼドメインは、2つまたはそれ超のペプチドシンテターゼドメインが所定の酵素的サブユニット中に存在する、2つまたはそれ超の酵素的サブユニットを含んでもよい。例えば、サーファクチンペプチドシンテターゼ複合体(また、本明細書では、単に「サーファクチンシンテターゼ複合体」とも呼ばれる)は、3つの別個のポリペプチド酵素的サブユニットを含み、その最初の2つのサブユニットは、3つのペプチドシンテターゼドメインを含むが、その三番目のサブユニットは、単一のペプチドシンテターゼドメインを含む。
【0032】
ペプチドシンテターゼドメイン:「ペプチドシンテターゼドメイン」という用語は、本明細書において用いる場合、最小で以下の3つのドメインを含むポリペプチドドメインを指す:アデニル化(A)ドメイン(特定のアミノ酸を選択的に認識し、かつ活性化することを担う)、チオール化(T)ドメイン(この活性化されたアミノ酸を補因子に対してチオエステル連結を介してテザリングする)、および縮合(C)ドメイン(アミド結合の形成によって、ペプチドシンテターゼの連続単位に接合されたアミノ酸を連結する)。ペプチドシンテターゼドメインは通常、単一の、特異的なアミノ酸を認識して活性化し、かつペプチドシンテターゼドメインがこの経路で第1のドメインでない状況では、特定のアミノ酸を、成長しているペプチド鎖に連結する。
【0033】
ポリペプチド:「ポリペプチド」という用語は、本明細書において用いる場合、ペプチド連結で一緒に接合された一連のアミノ酸を指す。いくつかの実施形態では、「ポリペプチド」は、天然に存在する生物中でリボソーム機構による合成を通じて達成される構造を有する。いくつかの実施形態では、「ポリペプチド」は、化学合成(例えば、インビトロ)を通じて達成される構造を有する。いくつかの実施形態では、「ポリペプチド」は、非限定的な例としては、ペプチドシンテターゼによって合成されたポリペプチドなどの手段による、非リボソーム機構によって一緒に接合された一連のアミノ酸の接合を通じて達成される構造を有する。このような非リボソーム的に生成されたポリペプチドは、リボソームによって合成されたポリペプチドよりも共有結合で大きい多様性を示す(しかし、当業者は、リボソームとして生成されたポリペプチドのアミノ酸が、ジスルフィド結合を介するシステインの連結などのペプチド結合ではない共有結合によっても連結されてもよいことを理解する)。いくつかの実施形態では、この用語を用いて、例えば、自己抗原ポリペプチド、ニコチン性アセチルコリン受容体ポリペプチド、同種抗原ポリペプチドなどのようなポリペプチドの特定の機能的な分類を指す。各々のこのようなクラスに関しては、本明細書は、この分類内の公知の例示的なポリペプチドのアミノ酸配列のいくつかの例を提供する;いくつかの実施形態では、このような公知のポリペプチドは、このクラスの参照ポリペプチドである。このような実施形態では、「ポリペプチド」という用語は、関連の参照ポリペプチドと有意な配列相同性または同一性を示すクラスの任意のメンバーを指す。多くの実施形態では、このようなメンバーはまた、参照ポリペプチドと有意な活性を共有する。例えば、いくつかの実施形態では、あるメンバーのポリペプチドは、少なくとも約30〜40%であり、かつ約50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはそれ超の、参照ポリペプチドとの全体的な程度の配列相同性もしくは同一性を示すか、および/または90%超、もしくは95%、96%、97%、98%、もしくは99%でさえある場合が多い、極めて高い配列同一性を示す少なくとも1つの領域(すなわち、特徴的な配列エレメントを含む場合が多い保存された領域)を含む。このような保存された領域は通常は、少なくとも3〜4、およびしばしば最大20またはそれ超のアミノ酸を包含する;いくつかの実施形態では、保存された領域は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15またはそれ超の連続アミノ酸の少なくとも1つのストレッチを包含する。ポリペプチドは、2つまたはそれ超のアミノ酸長であってもよいが、リボソームおよびペプチドシンテターゼによって産生されるほとんどのポリペプチドは、2アミノ酸よりも長い。例えば、いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10,000またはそれ超のアミノ酸長であってもよい。
【0034】
レダクターゼドメイン:「レダクターゼドメイン」という用語は、本明細書において用いる場合、ペプチドシンテターゼ複合体からペプチドシンテターゼ複合体によって産生されるアシルアミノ酸の放出を触媒するポリペプチドドメインを指す。特定の実施形態では、レダクターゼドメインは、ペプチドシンテターゼドメインおよび脂肪酸連結ドメイン、例えば、β−ヒドロキシ脂肪酸連結ドメインに対して共有結合されて、アシルアミノ酸の合成に有用な操作されたポリペプチドを生成する。種々のレダクターゼドメインが、種々の種由来の非リボソームペプチドシンテターゼ複合体中で天然に見出される。本発明によって用いられ得るレダクターゼドメインの非限定的な例としては、直鎖状グラミシジン(ATCC8185)由来のレダクターゼドメインが挙げられる。しかし、ペプチドシンテターゼ複合体からペプチドシンテターゼ複合体によって産生される、アシルアミノ酸を放出する任意のレダクターゼドメインが本発明に従って用いられてもよい。いくつかの実施形態では、レダクターゼドメインは、以下の連続配列:[LIVSPADNK]−x(9)−{P}−x(2)−Y−[PSTAGNCV]−[STAGNQCIVM]−[STAGC]−K−{PC}−[SAGFYR]−[LIVMSTAGD]−x−{K}−[LIVMFYW]−{D}−x−{YR}−[LIVMFYWGAPTHQ]−[GSACQRHM](配列番号1)の存在によって特徴付けられ、ここで角括弧(「[]」)は、その位置に通常存在するアミノ酸を示し、波括弧(squiggly bracket)(「{}」)
は、その位置に通常は存在しないアミノ酸を示し、「x」は、任意のアミノ酸またはギャップを示す。X(9)は例えば、9連続位置についての任意のアミノ酸またはギャップを示す。当業者は、所定のポリペプチドドメインがレダクターゼドメインであるか否かを決定する方法を承知している。
【0035】
低分子:本明細書において用いる場合、「低分子」という用語は、生物学的過程の酵素基質または調節因子として役割を果たし得る、低分子量の有機化合物を意味する。一般には、「低分子」とは、サイズが約5キロダルトン(kD)未満の分子である。いくつかの実施形態では、提供されるナノ粒子はさらに、1つまたは複数の低分子を含む。いくつかの実施形態では、低分子は、約4kD、3kD、約2kD、または約1kD未満である。いくつかの実施形態では、低分子は、約800ダルトン(D)、約600D、約500D、約400D、約300D、約200D、または約100D未満である。いくつかの実施形態では、低分子は、約2000g/mol未満、約1500g/mol未満、約1000g/mol未満、約800g/mol未満、または約500g/mol未満である。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の低分子が、ナノ粒子内にカプセル化される。いくつかの実施形態では、低分子は非ポリマーである。いくつかの実施形態では、本発明によれば、低分子は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、多糖類、糖タンパク質類、プロテオグリカンなどではない。いくつかの実施形態では、低分子は治療剤である。いくつかの実施形態では、低分子はアジュバントである。いくつかの実施形態では、低分子は薬物である。
【0036】
サーファクチン:サーファクチンは、グラム陽性の内生胞子形成細菌のBacillus subtilisを含む特定の細菌によって天然に産生される環状のリポペプチドである。サーファクチンは、両親媒性分子(疎水性の特性および親水性の特性の両方を有する)であり、したがって、有機溶媒および水の両方に可溶性である。サーファクチンは、優れた界面活性剤特性を示し、これによって商業的に価値のある分子となっている。その界面活性剤特性に起因して、サーファクチンはまた、抗生物質としても機能する。例えば、サーファクチンは、抗菌、抗ウイルス、抗真菌、抗マイコプラズマ、および溶血性の化合物として有効であることが公知である。サーファクチンは、その膜の組成が異なる、グラム陰性細菌およびグラム陽性細菌の両方を含む、全種類の細菌の細胞膜に浸透し得る。グラム陽性細菌は、それらのリン脂質二重層の外側に厚いペプチドグリカン層を有する。対照的に、グラム陰性細菌は、それらのリン脂質二重層の外側に比較的薄いペプチドグリカン層を有し、さらに追加して外側にリポ多糖膜を含む。サーファクチンの界面活性剤活性によって、脂質二重層に浸透性の環境を創出することが可能になり、両方の種類の細菌の膜を溶解する破壊が生じる。サーファクチンが最小抗菌効果を実行するためには、最小阻害濃度(MIC)は、12〜50μg/mlの範囲である。その抗菌特性に加えて、サーファクチンもまた、抗菌特性を示し、HIVおよびHSVのようなエンベロープウイルスを破壊することが公知である。サーファクチンは、ウイルスの脂質エンベロープを破壊するだけでなく、それらのキャプシドもイオンチャネル形成を通じて破壊する。14または15個の炭素原子を有する脂肪酸鎖を含有するサーファクチンアイソフォームは、ウイルスエンベロープの破壊の改善に起因すると考えられる、ウイルス不活化の改善を示した。サーファクチンは、7つのアミノ酸ペプチドループ、および疎水性脂肪酸鎖(β−ヒドロキシミリスチン酸)(13〜15炭素長である)からなる。脂肪酸鎖によって、サーファクチンは細胞膜に浸透することが可能になる。ペプチドループは、アミノ酸L−アスパラギン、L−ロイシン、グリシン、L−ロイシン、L−バリンおよび2つのD−ロイシンを含む。グリシンおよびアスパラギン残基は、それぞれ1位および6位でマイナーな極性ドメインを構成する。反対側では、バリン残基は、4位で、脂肪酸鎖に面して下に伸びて主な疎水性ドメインを形成する。サーファクチンは、3つのサーファクチンシンテターゼポリペプチドサブユニットSrfA−A、SrfA−B、およびSrfA−Cを含む、サーファクチンシンテターゼ複合体によって合成される。サーファクチンシンテターゼポリペプチドサブユニットSrfA−AおよびSrfA−Bは各々が、3つのペプチドシンテターゼドメインを含み、その各々が、単一のアミノ酸を、成長しているサーファクチンペプチドに追加するが、モノモジュールのサーファクチンシンテターゼポリペプチドサブユニットSrfA−Cは、単一のペプチドシンテターゼドメインを含み、かつ最後のアミノ酸残基をヘプタペプチドに追加する。さらに、SrfA−Cサブユニットは、チオエステラーゼドメインを含み、このチオエステラーゼドメインは、ペプチドのC末端Leuのカルボニル上の脂肪酸のβヒドロキシの求核性攻撃を介して生成物の放出を触媒し、エステルの形成を介して分子を環化する。β−ヒドロキシ脂肪酸のスペクトルは、イソ、アンテイソC13、イソ、ノーマルC14およびイソ、アンテイソC15として解明され、近年の研究では、界面活性剤がC−βでR構成を保持することが示された(Nagaiら、Study on surfactin,a cyclic depsipeptide.2.Synthesis of surfactin B2 produced by Bacillus natto KMD 2311.Chem Pharm Bull(Tokyo)、44巻:5〜10頁、1
996年)。
【0037】
サーファクチンは、サーファクチンシンテターゼ複合体によって合成されたリポペプチドである。サーファクチンは、7つのアミノ酸(これは最初にペプチド結合によって接合される)、および第1のアミノ酸、グルタミン酸に共有結合されたβ−ヒドロキシ脂肪酸を含む。しかし、最終のアミノ酸(ロイシン)の付加の際、ポリペプチドが放出され、SRFCタンパク質のチオエステラーゼドメインは、ペプチドのC末端Leuのカルボニル上の脂肪酸のβヒドロキシの求核性攻撃を介して生成物の放出を触媒し、エステルの形成を介して分子を環化し、脂肪酸のb−ヒドロキシル(b-hydroxyl)基に結合したラクトンを介して結合されたロイシンのC末端カルボキシル基を生じる。
【0038】
チオエステラーゼドメイン:「チオエステラーゼドメイン」という用語は、本明細書において用いる場合、ペプチドシンテターゼ複合体からペプチドシンテターゼ複合体によって産生されたアシルアミノ酸の放出を触媒するポリペプチドドメインを指す。種々のチオエステラーゼドメインが、種々の種に由来する非リボソームペプチドシンテターゼ複合体中で天然に見出される。本発明によって用いられ得るチオエステラーゼドメインの非限定的な例としては、Srf−Cサブユニットに存在するBacillus subtilisサーファクチンシンテターゼ複合体由来のチオエステラーゼドメインが挙げられる。しかし、ペプチドシンテターゼ複合体からペプチドシンテターゼ複合体によって産生されたアシルアミノ酸を放出する任意のチオエステラーゼドメインが、本発明によって用いられてもよい。いくつかの実施形態では、チオエステラーゼドメインは、以下の連続配列:[LIV]−{KG}−[LIVFY]−[LIVMST]−G−[HYWV]−S−{YAG}−G−[GSTAC](配列番号2)の存在によって特徴付けられ、ここで角括弧(「[]」)は、その位置に通常存在するアミノ酸を示し、波括弧(「{}」)は、その位置に通常は存在しないアミノ酸を示す。当業者は、所定のポリペプチドドメインがチオエステラーゼドメインであるか否かを決定する方法を承知している。
【0039】
アシルアミノ酸の生成に有用な操作されたポリペプチド
本発明は、アシルアミノ酸の生成のための組成物および方法を提供する。特定の実施形態では、本発明の組成物は、アシルアミノ酸の産生に有用な操作されたポリペプチドを含む。特定の実施形態では、本発明の操作されたポリペプチドは、ペプチドシンテターゼドメインを含む。
【0040】
一態様では、本発明は、例えばペプチドシンテターゼ複合体で通常見出される別のドメイン(例えば、脂肪酸連結ドメイン、チオエステラーゼドメイン、レダクターゼドメインなどおよび/またはそれらの組合せ)と関連していない(例えば、共有結合していないか、および/または他でも会合していない)単一のペプチドシンテターゼドメインが、本明細書に記載されるようなアシルアミノ酸を産生するのに十分であり得るという認識を包含する。
【0041】
本発明の多くの実施形態によれば、本明細書に記載のアシルアミノ酸の産生のために有用なペプチドシンテターゼドメインは、天然に存在するペプチドシンテターゼ複合体で見出される第1のペプチドシンテターゼドメインに対して、相当するか、ならびに/または有意な相同性および/もしくは同一性を示す。すなわち、当該分野で公知のとおり、いくつかのペプチドシンテターゼドメイン(すなわち、アデニル化(A)、チオール化(T)、および縮合(C)のドメインを含むいくつかのポリペプチド)は、脂肪酸とアミノ酸との縮合を触媒し、そしていくつかは、2つのアミノ酸の互いとの縮合を触媒する。本発明のいくつかの実施形態によれば、本明細書に記載のアシルアミノ酸の産生のために有用なペプチドシンテターゼドメインは、アミノ酸と脂肪酸との縮合を触媒するドメインである;このようなペプチドシンテターゼドメインは通常は、本明細書では、別のペプチドシンテターゼドメインとは隔てられているか、および/または別のペプチドシンテターゼドメインを含まない形態で(例えば、ポリペプチドの一部として)利用される。多くの天然に存在するペプチドシンテターゼドメインは、天然には、リポペプチドを合成するペプチドシンテターゼ複合体内に見出される。このようなペプチドシンテターゼ複合体は、原核生物および真核生物の両方で見出される多酵素的複合体であり、種々のペプチドの非リボソーム産生を触媒する1つまたは複数の酵素的サブユニットを含む(例えば、Kleinkaufら
、Annu.Rev.Microbiol.、41巻:259〜289頁、1987年を参照のこと;また米
国特許第5,652,116号、および米国特許第5,795,738号も参照のこと)。非リボソーム合成はまた、チオテンプレート合成としても公知である(例えば、Kleinkaufらを参照のこと)。ペプチドシンテターゼ複合体は通常は、特定のアミノ酸を認識し
、かつポリペプチド鎖に対するアミノ酸の付加を触媒することを担う1つまたは複数のペプチドシンテターゼドメインを含む。
【0042】
アミノ酸の追加における触媒ステップは通常は、以下を含む:ペプチドシンテターゼドメインによるアミノ酸の認識、アミノ酸の活性化(アミノ−アシルアデニレートの形成)、アミノ酸のカルボキシル基と酵素的な補因子のSH基との間のチオエステル結合を介する酵素への活性化アミノ酸の結合(この補因子は、それ自体が、各々のペプチドシンテターゼドメインの内側の酵素に結合される)、およびアミノ酸の間のペプチド結合の形成。
【0043】
ペプチドシンテターゼドメインは、ペプチド生成物を形成するためにこれらのステップで特別な役割を実行するサブドメインを含む。1つのサブドメインであるアデニル化(A)ドメインは、ペプチドシンテターゼの特定のユニットによって組み込まれるべきであるアミノ酸を選択的に認識して活性化することを担う。この活性化されたアミノ酸は、別のサブドメインであるチオール化(T)ドメイン(一般には、Aドメインに隣接して位置する)の酵素的作用を通じてペプチドシンテターゼに接合される。ペプチドシンテターゼの連続単位に接合されるアミノ酸は、別のサブドメインである縮合(C)ドメインによって触媒されるアミド結合の形成によってその後に一緒に連結される。
【0044】
Dアミノ酸の付加を触媒するペプチドシンテターゼドメインはまた、Dアミノ酸へのLアミノ酸のラセミ化(recemization)を触媒する能力も有する。ペプチドシンテターゼ複合体は通常は、成長中のアミノ酸鎖を終わらせて、生成物を放出する保存されたチオエステラーゼドメインを含む。
【0045】
ペプチドシンテターゼ複合体をコードする遺伝子は、複合体の機能的なドメイン構造と並行するモジュール構造を有する(例えば、Cosminaら、Mol.Microbiol.、8巻:821
頁、1993年;Kratzxchmarら、J.Bacteriol.、171巻:5422頁、1989年;Weckermannら、Nuc.Acids res.、16巻:11841頁、1988年;Smithら、EMBO J.、9巻:741頁、1990年;Smithら、EMBO J.、9巻:2743頁、1990年;MacCabeら、J.Biol.Chem.、266巻:12646頁、1991年;Coqueら、Mol.Microbiol.、5巻:1125頁、1991年;Diezら、J.Biol.Chem.、265巻:16358頁、1990年を参照のこと)。
【0046】
数百のペプチドがペプチドシンテターゼ複合体によって産生されることが公知である。このような非リボソーム的に産生されたペプチドは、非直線性の構造を有する場合が多く、この構造としては、ペプチドサーファクチン、サイクロスポリン、チロシジン、およびミコバシリンで例示される環状構造、またはペプチドポリミキシンおよびバシトラシンで例示される分岐した環状構造が挙げられる。さらに、このような非リボソーム的に産生されたペプチドは、例えば、ノルロイシン、β−アラニンおよび/またはオルニチンなどのリボソーム的に産生されたポリペプチド中に通常は存在しないアミノ酸、ならびにD−アミノ酸を含んでもよい。さらにまたはあるいは、このような非リボソーム的に産生されたペプチドは、ペプチドに共有結合される1つまたは複数の非ペプチド部分を含んでもよい。1つの非限定的な例としては、サーファクチンは、リポペプチドの第1のグルタミン酸に共有結合されたβ−ヒドロキシ脂肪酸を含む環状リポペプチドである。ペプチドシンテターゼ複合体によって産生されるペプチドに共有結合される他の非ペプチド部分は、当業者に公知であり、これには、例えば、糖、塩素または他のハロゲン基、N−メチルおよびN−ホルミル基、グリコシル基、アセチル基などが挙げられる。
【0047】
通常は、非リボソーム的に産生されたペプチドの各々のアミノ酸は、別個のペプチドシンテターゼドメインによって特定される。例えば、リポペプチドサーファクチンの重合化を触媒するサーファクチンシンテターゼ複合体は、3つの酵素的サブユニットからなる。この第1の2つのサブユニットは各々が、3つのペプチドシンテターゼドメインを含むが、三番目は1つしか有さない。これらの7つのペプチドシンテターゼドメインは、サーファクチン中に存在するアミノ酸であるL−Glu、L−Leu、D−Leu、L−Val、L−Asp、D−LeuおよびL−Leuの認識、活性化、結合および重合化を担う。
【0048】
個別の反復されるペプチドシンテターゼドメイン中の類似の組織化が、細菌および真菌、を含む、種々の種の種々のペプチドシンテターゼ遺伝子、例えば、srfA(Cosmina
ら、Mol.Microbiol.、8巻、821〜831頁、1993年)、grsAおよびgrsB(Kratzxchmarら、J.Bacterial.、171巻、5422〜5429頁、1989年)、t
ycAおよびtycB(Weckermannら、Nucl.Acid.Res.、16巻、11841〜11843頁、1988年)、ならびに種々の真菌種由来のACV(Smithら、EMBO J.、9巻、
741〜747頁、1990年;Smithら、EMBO J.、9巻、2743〜2750頁、1
990年;MacCabeら、J.Biol.Chem.、266巻、12646〜12654頁、1991
年;Coqueら、Mol.Microbiol.、5巻、1125〜1133頁、1991年;Diezら、J.Biol.Chem.、265巻、16358〜16365頁、1990年)の中で生じる。遠い種
のペプチドシンテターゼドメインでさえ、高い相同性の配列領域(そのいくつかは、全てのペプチドシンテターゼについて保存されておりかつ特異的である)を含有する。さらに、ペプチドシンテターゼドメイン内の特定の配列領域は、同じアミノ酸を認識するペプチドシンテターゼドメインの中でもさらに高度に保存されている(Cosminaら、Mol.Microbiol.、8巻、821〜831頁、1992年)。
【0049】
自然にペプチドシンテターゼ複合体によって合成される例示的なリポペプチドを、下の表1に列挙する(また、NORINEデータベースも参照のこと、ここでは、ペプチドシンテターゼ酵素によって産生されることが公知であるか、またはいくつかの場合には、産生されると考えられる、ペプチドおよびリポペプチド上での情報に対するアクセスが提供される(さらには、Segoleneら(引用文献4)を参照のこと)。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【0050】
本発明は、通常、リポペプチドを合成するペプチドシンテターゼ複合体中で、第1の活性なペプチドシンテターゼドメインが、アミノ酸に脂肪酸を連結するものであるということを認識する;その後のペプチドシンテターゼドメインは、通常、追加のアミノ酸を付加する。本発明の特定の実施形態によれば、アシルアミノ酸は、リポペプチドを合成するペプチドシンテターゼ複合体中で見出される第1のペプチドシンテターゼドメインを含む操作されたペプチドシンテターゼの使用を通じて調製され、そして、ペプチドシンテターゼ複合体中で見出される少なくともいくつかの他のドメインから分離されているという点で遺伝子操作されている。
【0051】
天然に存在するペプチドシンテターゼによって利用される脂肪酸は、β−ヒドロキシ脂肪酸(例えば、サーファクチンおよび表1に記載される他のβ−ヒドロキシリポペプチド中で見出される)であってもよい。他の場合には、利用される脂肪酸は、β−アミノ脂肪酸(例えば、イツリン;表1を参照のこと)である。特定の場合には、利用される脂肪酸は、β位で未修飾である(例えば、ダプトマイシンおよび表1に記載の特定の他のリポペプチドの中のように)。
【0052】
本明細書に記載されるとおり、本発明は、リポペプチドを合成するペプチドシンテターゼによって利用される3種の全ての脂肪酸について、関連のペプチドシンテターゼ複合体の第1のモジュールの第1のタンパク質ドメインが、通常、リポ−開始(lipo-initiation)に重要な役割を果たすという見解を包含する。しかし、リポ−開始の正確な機序は、
3種の脂肪酸の各々について異なる。一般論として、リポ−ペプチドを天然に創出する、ペプチドシンテターゼ酵素の第1のモジュールは、特定の機構を有する。各々のモジュールはリポ−開始反応に必要な縮合ドメインで始める。縮合ドメインには、アデニル化ドメインが続き、これには、チオール化ドメイン(ペプチジルキャリアタンパク質(PCP)ドメインとしても公知)が続く。このアデニル化ドメインは、リポ−ペプチド中に組み込まれる第1のアミノ酸を選択し、アミノ酸アデニレートを創出する。アデニル化の後で、アミノ酸は、チオール化ドメインに結合される、ホスホパンテチオン部分に対する連結を介して酵素にテザリングされる。アミノ酸のテザリングを生じる化学反応は、副産物としてAMPを放出する。
【0053】
結合されたアミノ酸に対してβ−ヒドロキシ脂肪酸を結合するシンテターゼについて、第1のモジュールの縮合ドメインは、β−ヒドロキシ脂肪酸CoAを基質として利用し、かつ脂肪酸をチオール化ドメインにテザリングされている、アミノ酸基質のN末端に移す。Cドメイン自体の活性以外に、この特定の反応に必要な酵素活性はないが、srfDタンパク質が、リポ−開始反応を刺激するということが報告された(7,981,685号に引用されたStellerら、を参照のこと)(引用文献5)。
【0054】
脂肪酸にβアミノ酸を結合するシンテターゼについて、縮合ドメインは、いくつかのサブドメインを有し、その各々が特定の機能を有する(Duitmanらの
図6を参照のこと)(
引用文献6)。イツリンシンテターゼ(マイコスブチリンシンテターゼとしても公知)を特異的な実施例として考慮すれば、リポ−開始の機序は以下である(詳細については、Hansenら、(引用文献7)およびAronら、(引用文献8)を参照のこと):アシルリガーゼドメインは、長鎖脂肪酸(この場合、ミリスチン)をアデニル化し、次いで、脂肪酸を、酵素連結4−ホスホパンテテインに移し、AMPが放出され、別の反応では、fenF遺伝子生成物は、マロン酸塩(マノニル−CoAから)の第二のアシルキャリアドメイン(モジュール1内に位置する)への移動を触媒する。β−ケトアシルシンテターゼドメインは、マロニルおよびアシルチオエステルの縮合を触媒し、β−ケトチオエステルを創出し、B−ケトチオエステルは、アミノ酸トランスフェラーゼに対して相同なトランスアミナーゼドメインによってβ−アミノ脂肪酸に変換され、βアミノ脂肪酸は、チオール化ドメインに移され、次いで、モジュール1アデニル化ドメインの作用を介して酵素に以前に連結された基質アミノ酸(この場合、アスパラギン)に接合される。この反応の系列は、アミノ酸へのβ−アミノ脂肪酸の接合を生じる。
【0055】
β位で未修飾の脂肪酸に結合するシンテターゼについては、第1のモジュールの縮合ドメインは、チオール化ドメインにテザリングされる、アミノ酸基質のN末端への脂肪酸の移動を触媒する。ダプトマイシンシンテターゼを例として考慮して、2つの追加のタンパク質が含まれる:アシル−CoAリガーゼ(DptE)(配列表GenBank:AAX31555.1)およびアシルキャリアタンパク質(DptF)(配列表GenBank:AAX31556.1)。DptEは、それをCoAに連結することによって脂肪酸基質を活性化し、次いで、活性化された脂肪酸は、DptFに移され、その後、酵素結合されたアミノ酸基質に移される(Wittmannらを参照のこと)(引用文献9)。インビトロで行われた研究によって、DptEは、脂肪酸をDptFに移すことが確認されたが、DptFからアミノ酸基質への脂肪酸のその後の移行における縮合ドメインの関与を実証する目的の実験は、この文献では報告されていないと考えられることに注意のこと。
【0056】
ペプチドシンテターゼ縮合ドメインの系統発生学的分析は、Roongsawangら(引用文献
2)に、およびRauschら(引用文献3)に記載されている。当業者は、本開示によって導かれ、必要に応じてこのような引用文献と連携して、本発明によるアシルアミノ酸の産生のために操作されたペプチドシンテターゼを設計、構築、産生および/またはそうでなければ提供するのにおける使用のために適切なペプチドシンテターゼ縮合ドメインを容易に同定、選択および/または遺伝子操作し得る。
【0057】
本明細書に記載されるような操作されたペプチドシンテターゼの特定、選択、設計および/または産生において有用なペプチドシンテターゼドメインを含み得るペプチドシンテターゼ複合体の非限定的な例としては、例えば、サーファクチンシンテターゼ、フェンギシンシンテターゼ、アルスロファクチンシンテターゼ、リケナイシンシンテターゼ、シリンゴマイシンシンテターゼ、シリンゴペプチンシンテターゼ、サフラマイシンシンテターゼ、グラミシジンシンテターゼ、シクロスポリンシンテターゼ、チロシジンシンテターゼ、マイコバシリンシンテターゼ、ポリミキシンシンテターゼ、バシトラシンシンテターゼ、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0058】
したがって、本発明は、操作されたペプチドシンテターゼを提供し、これは、いくつかの実施形態では、リポペプチドを合成する参照ペプチドシンテターゼ複合体から単離されたペプチドシンテターゼドメインを含むか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、このような参照ペプチドシンテターゼ複合体は、公知のペプチドシンテターゼ複合体である。いくつかの実施形態では、このような参照ペプチドシンテターゼ複合体は、天然に存在するペプチドシンテターゼ複合体である。いくつかの実施形態では、提供された操作されたペプチドシンテターゼは、単一のペプチドシンテターゼドメインを含むか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、提供される操作されたペプチドシンテターゼは、リポペプチドを合成するペプチドシンテターゼ複合体由来の第1のペプチドシンテターゼドメインを含むか、またはそれらからなる。
【0059】
いくつかの実施形態では、操作されたペプチドシンテターゼ、ペプチドシンテターゼドメイン、またはそれらの成分(例えば、アデニル化(A)ドメイン、チオール化(T)ドメイン、および/または縮合(C)ドメイン)は、参照ペプチドシンテターゼ、ドメイン、または成分と比較して、1つまたは複数の配列の修飾を含んでもよい。しかし、通常は、操作されたペプチドシンテターゼ、ペプチドシンテターゼドメイン、またはそれらの成分は、その参照ペプチドシンテターゼ、ドメイン、または成分と高い全体的な程度の配列同一性および/または相同性を示す。
【0060】
いくつかの実施形態では、操作されたペプチドシンテターゼ、ペプチドシンテターゼドメイン、またはそれらの成分は、その関連の参照と比較した場合、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95またはそれ超のアミノ酸の挿入、欠失、置換または介入を含む。
【0061】
特定の実施形態では、このようなアミノ酸置換は、関連の参照における対応するアミノ酸と比較して、その側鎖が構造的に類似の側鎖を含有するアミノ酸を含む、操作されたポリペプチドを生じる。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む、脂肪族側鎖を有するアミノ酸は、お互いに置換されてもよく;セリンおよびトレオニンを含む、脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸は、お互いに置換されてもよく;アスパラギンおよびグルタミンを含む、アミド含有側鎖を有するアミノ鎖は、お互いに置換されてもよく;フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンを含む、芳香族側鎖を有するアミノ酸は、お互いに置換されてもよく;リジン、アルギニン、およびヒスチジンを含む、塩基性側鎖を有するアミノ酸は、お互いに置換されてもよく;システインおよびメチオニンを含む、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸は、お互いに置換されてもよい。
【0062】
特定の実施形態では、アミノ酸置換は、その側鎖が関連の参照中に存在する対応するアミノ酸に対して類似の化学的特性を示すアミノ酸を含む、操作されたポリペプチドを生じる。例えば、特定の実施形態では、疎水性側鎖を含むアミノ酸は、お互いに置換されてもよい。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、それらの側鎖が類似の分子量またはバルクである場合、お互いに置換されてもよい。例えば、操作されたドメイン中のアミノ酸は、その側鎖が最小/最大の分子量を示すか、または最小量/最大量の空間をとる場合、関連の参照中に存在するアミノ酸と置換されてもよい。
【0063】
特定の実施形態では、操作されたポリペプチドは、関連の参照と少なくとも約50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%の相同性または同一性を示す(例えば、少なくとも5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000またはそれ超のアミノ酸にまたがる部分にわたって)。
【0064】
特定の実施形態では、本発明の操作されたポリペプチドは、1つまたは複数の天然に存在するかまたは他の公知の参照ポリペプチドに出現するが、i)それらが参照ポリペプチド中で関連する1つまたは複数の配列エレメントとは隔てられている;ii)それらが参照ポリペプチド(単数または複数)中で関連しない1つまたは複数の配列エレメントと関連しているか;および/またはiii)それらが参照ポリペプチド中で関連している1つまたは複数の配列エレメントと異なる手段で(例えば、異なる順序または異なる連結を介して)会合する、2つまたはそれ超のポリペプチドドメインを含む。非限定的な例としては、自然に直接共有結合されている、2つの天然に存在するポリペプチドドメインは、操作されたポリペプチド中で、1つまたは複数の介在するアミノ酸残基で隔てられてもよい。さらにまたはあるいは、自然に間接的に共有結合されている、2つの天然に存在するポリペプチドドメインは、操作されたポリペプチド中で、例えば、1つまたは複数の介在するアミノ酸残基を除去することによって、直接共有結合されてもよい。
【0065】
特定の実施形態では、異なるペプチドシンテターゼ由来である、2つの天然に存在するペプチドドメインは、本発明の操作されたポリペプチドを生成するために共有結合される。
【0066】
いくつかの実施形態では、本発明によって提供されるか、および/または本発明による使用のための、操作されたペプチドシンテターゼは、チオエステラーゼおよび/またはレダクターゼドメインを含まない。このようなドメインは、それらを産生する非リボソームペプチドシンテターゼ複合体からのペプチドおよびリポペプチドの放出に機能することが公知である。1つの態様では、本発明は、ペプチドシンテターゼ複合体からのリポペプチドの放出におけるそれらの中心的な役割にかかわらず、このようなドメインは、本明細書に記載の操作されたペプチドシンテターゼからのアシルアミノ酸の放出に必要がない場合が多いという驚くべき知見を提供する。このチオエステラーゼおよび/またはレダクターゼドメインは必要に応じて、本発明のいくつかの実施形態には含まれてもよいが、いくつかの実施形態では特異的に除かれる。
【0067】
特定の実施形態では、本発明の組成物および方法は、アシルアミノ酸の大規模産生に有用である。特定の実施形態では、アシルアミノ酸は、本発明の組成物および方法を用いて商業的に実行可能な量で産生される。例えば、本発明の操作されたポリペプチドは、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000mg/Lまたはそれ超のレベルまでアシルアミノ酸を産生するために用いられ得る。当業者によって理解されるとおり、本発明の操作されたポリペプチドを用いるアシルアミノ酸の生物学的産生は、アシルアミノ酸を産生する他の方法を上回る特定の利点を達成する。例えば、化学的産生方法と比較して、本発明の組成物および方法を用いるアシルアミノ酸の産生は、より容易に利用可能であり、かつ貯蔵が容易である出発材料を利用し、製造過程において有害で、時には危険な化学試薬を用いる必要性を減じ、バイオリアクターとして宿主細胞を利用することによってその合成の困難性および効率を低下し、化学的な副産物の廃棄の会計的および環境的なコストを低下する。他の利点は、本発明の組成物および方法を利用する実施者には明らかである。
【0068】
アシルアミノ酸および組成物
本発明は、本明細書に記載のような操作されたペプチドシンテターゼによって産生されるアシルアミノ酸を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、このような組成物は、同じ操作されたペプチドシンテターゼによって各々が合成されるという点でお互いに関連しており、および合成の条件下で(例えば、インビボまたはインビトロで)、関連の操作されたペプチドシンテターゼによって合成される、正確な化学構造が(例えば、アシル鎖の種々の長さおよび/または組成物、このようなアシル鎖内の連結、および/またはアシル鎖とアミノ酸との間などに起因して)変化した、化学物質の分布を一緒になって表す、個々のアシルアミノ酸分子の収集物を含む。いくつかの実施形態では、提供される組成物は、直鎖のアシル部分、分岐したアシル部分、および/またはそれらの組合せを含む。
【0069】
すなわち、いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸の操作された産生物の1つの特色は、特にインビボで作用する場合、その操作されたペプチドシンテターゼが単一の化学物質の純粋な集団を生成し得ないということであることを当業者は理解する。したがって、上記で注記されるとおり、本発明は、化学物質の分布を含むアシルアミノ酸組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、実質的に全てのアシルアミノ酸が同じアミノ酸部分を含むアシルアミノ酸組成物であって、ただし、この組成物が、アシル部分の分布を含む組成物を提供する。
【0070】
本明細書において用いる場合、本発明は、広範な種々のアシルアミノ酸および組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アミノ酸部分が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、および/またはバリンからなる群から選択されるアミノ酸中で見出されるものであるか、またはそれを含むものを提供する。あるいはまたはさらに、いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、ここでこのアミノ酸部分が、セレノシステインおよび/またはピロリジンからなる群から選択されるアミノ酸中で見出されるものであるか、またはそれを含むものを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アミノ酸部分がノルロイシン、β−アラニンおよび/またはオルニチンからなる群から選択されるアミノ酸中で見出されるものであるか、またはそれを含むものを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アミノ酸部分がL−アミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸中で見出されるものであるか、またはそれを含むものを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アミノ酸部分がD−アミノ酸からなる群から選択されるアミノ酸中で見出されるものであるか、またはそれを含むものを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アミノ酸部分が、アミノ酸D−gluまたはD−ジアミノプロピオン酸中で見出されるものであるか、またはそれを含むものを提供する。当業者は、このようなアミノ酸部分を含有しているアシルアミノ酸を生成するための本明細書に記載のペプチドシンテターゼによって(そして特に、本明細書に記載の操作されたペプチドシンテターゼによって)使用可能な、適切なアミノ酸基質を承知している。いくつかの実施形態では、アミノ酸基質は、列挙されたアミノ酸であるか、またはそれらを含む。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アシル基が、酪酸(butryic acid)、カプロ
ン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリンアラキジン酸、ベヘン酸、および/またはリグノセリン酸のような飽和脂肪酸中で見出されるものを提供する。本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アシル基が、不飽和脂肪酸、例えば、限定するものではないが、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、および/またはドコサヘキサエン酸中で見出されるものを提供する。他の飽和および不飽和の脂肪酸(そのアシル部分が、本発明によって用いられ得る)は、当業者に公知である。特定の実施形態では、本発明によって提供されるアシルアミノ酸および組成物は、β−ヒドロキシ脂肪酸を脂肪酸部分として含む。当業者に理解されるとおり、β−ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸鎖の第3の炭素に結合されたヒドロキシ基を含み、この第1の炭素は、カルボキシレート基の炭素である。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アシル基がC2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20、C21、C22、C23、C24、C25、C26、C27、C28、C29、C30からなる群から選択される下位の方の長さで、ならびにC30、C29、C28、C27、C26、C25、C24、C23、C22、C21、C20、C19、C18、C17、C16、C15、C14、C13、C12、C11、C10、C9、C8、C7、C6、C5、C4、C3、C2、およびC1からなる群から選択される上位の方の長さ(ここで上位の方の長さは、下位の方の長さと同じかまたはそれより長い)で結合される範囲内の長さを有する脂肪酸鎖を含むか、またはそれらからなるものを提供する。いくつかの特定の実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アシル基が、C10〜C14脂肪酸鎖、C13〜16脂肪酸鎖、C13〜15脂肪酸鎖、C16〜24脂肪酸鎖、C18〜22脂肪酸鎖、C18〜24脂肪酸鎖、C8〜C16脂肪酸鎖を含むか、またはそれらからなるものを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アシル基が、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、および/またはC20脂肪酸鎖を含むか、主にそれらからなるか、またはそれらからなるものを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アシル基が、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、C15、および/またはC16脂肪酸鎖を含むか、主にそれらからなるか、またはそれらからなるものを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸および組成物であって、アシル基が、C12、C13、C14、C15、および/またはC16脂肪酸鎖を含むか、主にそれらからなるか、またはそれらからなるものを提供する。
【0072】
いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸組成物であって、全てのアシルアミノ酸が同じアミノ酸部分を含む(または同じアミノ酸由来のアミノ酸部分を含む)アシルアミノ酸組成物を提供する。
【0073】
いくつかの実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸組成物であって、組成物内の異なるアシルアミノ酸が、異なるアシル部分、(例えば、組成物中で、(1つまたは複数の鎖)の構造、分岐および/または長さが異なるアシル部分)を有するアシルアミノ酸組成物を提供する。いくつかの実施形態では、このような組成物は、上記のような長さ(または長さの範囲内)のアシル部分を主に含む。いくつかのこのような実施形態では、このような優勢なアシル部分は、少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%<98%、または99%のレベルで組成物中に存在する。本明細書の図および実施例は、本発明の特定の実施形態によって提供され、かつ調製され得る、特定の特別なアシルアミノ酸および/またはアシルアミノ酸組成物を、描写および/または記載する。いくつかの特定の実施例を挙げれば、本発明は2,4ジアミノ酪酸、(2S)−2,3−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、β−ヒドロキシミリストイルグルタミン酸、β−ヒドロキシミリストイルジアミノプロピオン酸、ベタイン、ココイルグリシン(cocyl glycinate)、グリシンラウレエート(gycine laureate)、グルタミンラウレエート(glutamine laureate)などを含むか、それらから主になるか、またはそれら
からなる特定のアシルアミノ酸および/またはアシルアミノ酸組成物を特異的に例証するか、および/またはそうでなければ提供する。例えば、いくつかの特定の実施形態では、本発明は、アシルアミノ酸組成物であって、組成物中のアシルアミノ酸内のアミノ酸部分が、グリシンまたはグルタミン酸由来であり、かつ脂肪酸部分が主にC12脂肪酸である(すなわち、ラウリン酸由来である)アシルアミノ酸組成物を提供する;いくつかのこのような実施形態では、組成物中の全てのアシルアミノ酸は、同じアミノ酸部分を有する。
【0074】
宿主細胞
本発明の操作されたポリペプチドは、アシルアミノ酸の産生のための任意の種々の宿主細胞中に導入されてもよい。当業者によって理解されるとおり、操作されたポリペプチドは、通常は、発現ベクター中で宿主細胞に導入される。宿主細胞が、このような発現ベクターを受容および増殖可能であり、かつ操作されたポリペプチドを発現可能である限り、このような宿主細胞は、本発明によって包含される。本発明の操作されたポリペプチドは、目的の宿主細胞中に一過性に導入されても、または安定に導入されてもよい。例えば、本発明の操作されたポリペプチドは、宿主細胞の染色体中に操作されたポリペプチドを組み込むことによって安定に導入され得る。追加して、または代替的には、本発明の操作されたポリペプチドは、操作されたポリペプチドを含むベクターを宿主細胞に導入することによって一過性に導入されてもよく、このベクターは、宿主細胞のゲノム中に統合されないが、それにもかかわらず宿主細胞によって増殖される。
【0075】
特定の実施形態では、宿主細胞は、細菌である。本発明の宿主細胞として有用な細菌の非限定的な例としては、Escherichia、Streptococcus、Bacillusの属、および当業者に公知の種々の他の属の細菌が挙げられる。特定の実施形態では、本発明の操作されたポリペプチドは、Bacillus subtilis種の宿主細胞に導入される。
【0076】
本発明の細菌の宿主細胞は、野性型であってもよい。あるいは、本発明の細菌の宿主細胞は、野性型種と比較して1つまたは複数の遺伝子変化を含んでもよい。特定の実施形態では、このような遺伝子変化は、細菌の宿主中へのアシルアミノ酸の産生に有益である。例えば、このような遺伝子変化は、アシルアミノ酸の収率もしくは純度の増大を生じてもよいし、および/またはアシルアミノ酸の産生に有用な種々の利点(例えば、生存度の増大、別のエネルギー源を利用する能力など)を有する細菌の宿主細胞をもたらし得る。
【0077】
特定の実施形態では、宿主細胞は植物細胞である。当業者は、例えば、限定するものではないが、金ボンバードメント(gold bombardment)およびアグロバクテリウム形質転
換などの、本発明の操作されたポリペプチドを目的の植物細胞へ導入するための標準的な技術を承知している。特定の実施形態では、本発明は、目的のアシルアミノ酸を産生する操作されたポリペプチドを含むトランスジェニック植物を提供する。任意の種々の植物種は、本発明の操作されたポリペプチドの導入によってトランスジェニックにしてもよく、その結果、操作されたポリペプチドが、植物中で発現されて、目的のアシルアミノ酸を産生する。本発明のトランスジェニック植物の操作されたポリペプチドは、全身的に(例えば、各々の組織において全ての時点で)発現されてもよいし、または局在する組織においてのみ、および/または特定の期間の間のみ発現されてもよい。当業者は、操作されたポリペプチドが発現されるとき、および発現される場所を制御するために使用され得る種々のプロモーター、エンハンサーなどを承知している。
【0078】
農作物に脅威である昆虫を含めて昆虫は、昆虫の生理学に重要であるかまたは必須であると考えられるアシルアミノ酸を産生する。例えば、ペプチドシンテターゼに関する酵素は、Drosophila Ebony遺伝子の生成物を産生し、この生成物は、ハエの適切な色素に重要であるが、神経系の適切な機能にも重要である(例えば、Richardtら、Ebony、a novel nonribosomal peptide synthetase for beta-alanine conjugation with biogenic amines in Drosophila、J.Biol.Chem.、278巻(42号):41160〜6頁、2003年を参照のこと)。アシルアミノ酸はまた、作物に対して脅威である特定のLepidoptera種によっても産生される。したがって、本発明の組成物および方法は、このような昆虫を殺傷するか、そうでなければ作物に対するそれらの有害な影響を壊す、目的のアシルアミノ酸を産生するトランスジェニック植物を産生するために用いられてもよい。例えば、このような植物にはびこる昆虫を殺傷するように、所定の昆虫種に対して毒性であるアシルアミノ酸を産生する操作されたポリペプチドを、植物に導入してもよい。さらにまたはあるいは、昆虫の必須の活動(例えば、摂食、交尾など)を乱すアシルアミノ酸を産生する操作されたポリペプチドを、昆虫の侵襲の商業上有害な影響が最小化または排除されるように植物に導入してもよい。特定の実施形態では、植物に対する昆虫の有害な影響を軽減する、本発明のアシルアミノ酸は、このような昆虫によって天然に産生されるアシルアミノ酸である。特定の実施形態では、植物に対する昆虫の有害な影響を軽減する本発明のアシルアミノ酸は、このような昆虫によって天然に産生されるアシルアミノ酸の構造的なアナログである。本発明の組成物および方法は、任意の種々のアシルアミノ酸を産生する、操作されたポリペプチドの構築を可能にするのに極めて強力であり、このアシルアミノ酸は、1つまたは複数の植物種の有害な昆虫の侵襲を制御または排除するのに有用であり得る。
【0079】
アシルアミノ酸および組成物を産生するステップ
アシルアミノ酸および組成物は、本明細書に記載の操作されたペプチドシンテターゼによって産生され得る。いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸は、インビトロで産生される。いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸は、インビボで、例えば、操作されたペプチドシンテターゼまたはその成分もしくはドメインを発現するために操作された宿主細胞中で産生される。いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸は、細胞の1つまたは複数の成分と、および/または操作されたペプチドシンテターゼと会合して産生される。いくつかの実施形態では、アシルアミノ酸組成物は、例えば、当該分野で公知のような、1回またはそれ超の単離手順に供されて、例えば、産生されたアシルアミノ酸化合物がそれらの産生系の1つまたは複数の成分から(例えば、操作されたペプチドシンテターゼまたはそれらの成分もしくはドメインから、および/または操作された細胞のなど細胞の1つまたは複数の成分から)分離される。
【実施例】
【0080】
(実施例1)
β−ヒドロキシアミノ酸を用いてアシルアミノ酸を産生するためのペプチドシンテターゼ遺伝子操作
本発明のいくつかの実施形態では、アシルアミノ酸を産生する操作されたペプチドシンテターゼを、公知のペプチドシンテターゼドメインを単離するか、および/もしくはそうでなければ遺伝子操作することによって設計するか、ならびに/または産生して(例えば、リポペプチド合成複合体の他のエレメント、ドメインまたは成分からリポペプチドを合成するペプチドシンテターゼ複合体中で見出される第1のペプチドシンテターゼドメインを分離することによって)、アシルアミノ酸を産生する。
【0081】
例えば、β−ヒドロキシ脂肪酸を有するアシルアミノ酸は、適切な宿主生物中で、srf(サーファクチン)シンテターゼなどのシンテターゼのモジュール1を発現することによって創出され得る。srfAAのモジュール1(配列表のsrfAAモジュール1)は、グルタミン酸特異的であるので、適切な宿主中のモジュール1の発現は、β−ヒドロキシルミリストイルグルタミン酸の産生をもたらす。
【0082】
同じアプローチを用いて、脂肪酸を種々の異なるアミノ酸に連結してもよい。なぜならそれらは、公知の(配列決定された)「モジュール1 DNAセグメント」であって、4つの別個のアミノ酸(Leu、Glu、SerまたはDhb;表を参照のこと)に特異的なアデニル化ドメインとともに、種々の天然の系からクローニングされ得るからである。さらに、種々の天然に存在するβ−ヒドロキシリポペプチド(ペプチドシンテターゼ酵素によって産生されると考えられる)が報告されており、これについては、それらの産生を担うシンテターゼをコードする遺伝子クラスターは配列決定されていない。新規なβ−ヒドロキシアシルアミノ酸は、これらのシンテターゼのうちの1つの「モジュール1」(これは、まだ配列決定されていない「モジュール1」のセットに属する)を具体的に同定するための標準的な分子生物学的技術を用いること、および適切な宿主中でそのモジュール1を発現することによって、産生してもよい。このアプローチは、β−ヒドロキシアシル:Phe、D−Ala、2,3−デヒドロ−2−アミノ酪酸、NMe−Ile、Gly、ThrおよびD−アロ−トレオニンを含むさらなる新規なβ−ヒドロキシアシルアミノ酸の生成をもたらす。下の表は、それらを天然に合成する、公知のリポペプチドおよびペプチドシンテターゼの種々の性格をまとめており、これには関連のモジュール1のアミノ酸アシル基およびアミノ酸の特異性を含む。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【0083】
本明細書の実施例に具体的に記載のとおり、追加の新規なβ−ヒドロキシアシルアミノ酸は、特定の所望のアミノ酸を特定するアデニル化ドメインに対して、β−ヒドロキシ脂肪酸の付加を特定する縮合ドメインを、作動可能に連結することによって産生され得る。実施例XXXでは、縮合ドメインは、グリシンに特異的なアデニル化ドメインに対して作動可能に連結され、適切な宿主中でのキメラの発現の際に、β−ヒドロキシミリスチルグリシンが産生される。所望のアミノ酸に特異的なアデニル化ドメインが利用可能である限りは、このアプローチは、任意の所望のβ−ヒドロキシアシルアミノ酸を創出するのに用いられてもよいことが、当業者には理解される。
【0084】
標準的な20個のアミノ酸の各々の使用を特定する、天然に存在するペプチドシンテターゼモジュールが利用可能であり、さらに、約300の追加のアミノ酸、またはアミノ酸様分子に特異的であるアデニル化ドメインが利用可能である(Kleinkaufら)(引用文献
10)。このアプローチは、β−ヒドロキシ脂肪酸を、任意のこれらのアミノ酸、またはアミノ酸様分子に連結するために用いられてもよい。
【0085】
(実施例2)
マイコスブチリンモジュール1(MycA)を含むかまたはそれからなる操作されたペプチドシンテターゼ
上記のストラテジーと同様のストラテジーを用いて、β−アミノ脂肪酸を任意の所望のアミノ酸に連結してもよい。1つのアプローチは、天然に存在する「モジュール1」(例えば、マイコスブチリンシンテターゼのMycA、Duitmanらを参照のこと)(引用文献
6)を同定すること、およびそのモジュールを、適切な宿主中で発現することである。この特異的な実施例では、FenF遺伝子は、望ましくはまた、宿主中で発現される(配列表AAF08794.1)。
【0086】
一般には、特定のβ−アミノ脂肪酸は、宿主生物中で天然には見出されない重要な追加の機能をコードする任意の遺伝子(単数または複数)(例えば、FenFなど)とともに、特定のアミノ酸に対するβ−アミノ脂肪酸の接合を特定するために公知のモジュールを発現することによって、適切な宿主中で産生されてもよい。追加的な新規のβ−アミノアシルアミノ酸は、β−アミノ脂肪酸の付加を特定する縮合ドメインを、特定の所望のアミノ酸を特定するアデニル化ドメインに対して作動可能に連結することによって産生され得る。やはり、追加的な必要な因子(例えば、FenFのホモログ)をコードする遺伝子も、宿主中で発現されてもよい。所望のアミノ酸に特異的なアデニル化ドメインが利用可能である限り、このアプローチを用いて、β−アミノ脂肪酸を任意のアミノ酸に連結してもよい。
【0087】
(実施例3)
ダプトマイシンシンテターゼモジュール1を含むか、またはそれからなる操作されたペプチドシンテターゼ
上記のストラテジーと同様のストラテジーを用いて、任意の所望のアミノ酸に対して脂肪酸(β位で未修飾)を連結してもよい。1つのアプローチは、天然に存在する「モジュール1」(例えば、ダプトマイシンシンテターゼのTrp1モジュール、Miaoらを参照のこと)(引用文献11)を同定すること、およびそのモジュールを、適切な宿主中で発現することである(配列表:ダプトマイシンシンテターゼのdptA1モジュール1)。さらに、この特定の実施例では、DptEおよびDptF遺伝子も、宿主中で発現されるべきである。
【0088】
一般には、特定のアシルアミノ酸(β位で未修飾)は、宿主生物中で天然には見出されない重要な追加の機能をコードする任意の遺伝子(単数または複数)(例えば、DptEおよびDptFなど)とともに、特定のアミノ酸に対する脂肪酸の接合を特定するために公知のモジュールを発現することによって、適切な宿主中で産生されてもよい。追加的な新規のアシルアミノ酸は、脂肪酸の付加を特定する縮合ドメインを、特定の所望のアミノ酸を特定するアデニル化ドメインに対して作動可能に連結することによって産生され得る。例えば、β位で未修飾である脂肪酸は、そのアデニル化に連結されたdptA1モジュール1の縮合ドメイン、およびdptA1モジュール5(配列表dptA1モジュール5)のチオール化ドメイン(グリシンに特異的である)から構成されるキメラシンテターゼを用いてグリシンに結合されてもよい。
【0089】
(実施例4)
いくつかの実施形態について有用なまたは必須の追加の遺伝子
カルシウム依存性抗生物質(CDA)システムについては、特異的な遺伝子座関連脂肪酸シンターゼが、ヘキサン酸を産生し、これが、CDAの第1のアミノ酸に接合されると考えられる;詳細には、ACP(SCO3249)、FabH4(SCO3246)、FabF3(SCO3248)遺伝子生成物は、ヘキサン酸(これが次に、アミノ酸基質、この場合は、Serに接合される)の産生に重要であると考えられる(引用文献12)。
【0090】
(実施例5)
FA−Glu組成物
いくつかの実施形態では、FA−Gluを合成するために操作されたペプチドシンテターゼを利用する、典型的な操作された株によって産生される脂肪酸の分布は、全てがβ−ヒドロキシルを有するが、変化する鎖長を有する脂肪酸から構成される。いくつかの特定の実施形態では、この鎖長は、以下の方式で変化する:C12、1.6%;C13、16.2%;C14、55%;C15、25.9%;C16、1.2%およびC17、0.01%。
【0091】
いくつかの実施形態では、偶数の脂肪酸のうちのいくつかは分岐されて、いくつかは直鎖である。
【0092】
いくつかの実施形態では、奇数の脂肪酸のうち直鎖であるものはない(すなわち、それらは全て分岐している)。奇数の鎖は、イソまたはアンテイソのいずれであってもよい;いくつかの実施形態では、本発明は、これらの形態の異なる関連の量(例えば、比)を有する異なる組成物を提供する。分岐の命名法は、引用文献16の
図1に十分示される。Fatty Acids of the Genus Bacillus:an example of branched-chain preference、Toshi Kaneda、Bacteriological Review、1977年、41巻(2号)、391〜418頁。
【0093】
いくつかの実施形態では、操作されたペプチドシンテターゼを用いてFA−Gluを産生する操作された株については、脂肪酸鎖分布は、特定のケト酸が株に供給される場合に変化する(下の表1を参照のこと)。脂肪酸鎖分布における劇的な変化は、Bacillus中で脂肪酸合成を開始するために用いられるケト酸を合成する酵素がノックアウトされ、単一のケト酸が鎖に供給される場合に、生じ得る。いくつかの実施形態では、ケト酸の濃度が変化するにつれて、脂肪酸種のパターンは変更される。
【0094】
いくつかの実施形態では、変異体に20mMのイソ酪酸を供給することによって95%C14脂肪酸を有するFA−Gluを含有する組成物が提供される。
【0095】
いくつかの実施形態では、奇数の鎖を有する分岐した脂肪酸を産生するためにのみ用いられ得る、低レベルのケト酸の供給を利用して、C14長の脂肪鎖を有する約80%(100uMの2−メチル酪酸または100uMのイソ吉草酸)の界面活性剤を含む脂肪酸の集団を産生する。
【0096】
有意には、変異体は、偶数の分岐した鎖の脂肪酸鎖合成のためのそれ自体のケト酸スターターを合成できないので、低濃度のこれらのケト酸のいずれか(100uMの2−メチル酪酸または100uMのイソ吉草酸)の供給によって、主に偶数であってかつ直鎖である界面活性剤の集団の産生が可能になる。したがって、本発明は驚くべきことに、B.subtilisによって産生される、ほとんど直鎖(分岐ではない)の脂肪酸を含む組成物、組成物を生成するための方法および組成物を提供する。実際、本発明は直鎖脂肪酸を排他的に産生するBacillus株を生成するためのストラテジー(およびそのように生成された株)を具体的に記載する。
【0097】
(実施例6)
両性界面活性剤の産生
本実施例は、負の電荷を保有する1つの領域(単数または複数)および正の電荷を保有する別の領域(単数または複数)を有する両性界面活性剤を産生する、(操作された宿主細胞中での)操作されたペプチドシンテターゼの使用を記載する。このような界面活性剤を産生するために用いられ得るアミノ酸の例は、下の図に示す。このアミノ酸は全てが2つのアミノ基を有し、かつ:2,4−ジアミノ酪酸、(2S)−2,3−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、オルニチンおよびリジンを含む。
【化1】
【0098】
この種類の界面活性剤の1つの特別な実施例は、下の図に示され、これは、β−ヒドロキシミリストイルジアミノプロピオン酸である:
【化2】
【0099】
この界面活性剤は、2,3−ジアミノプロピオン酸のβアミンのpKaが9.57であり、かつαカルボキシルのpKaが約2.2であるならば、生理学的pHでは両性イオンである。この界面活性剤を生成するために、アミノ酸に対するβ−ヒドロキシル脂肪酸の連結を指向し得る縮合ドメイン(例えば、SRFAAモジュール1の縮合ドメイン)(配列表srfAAモジュール1)を、2,3−ジアミノプロピオン酸(DAP)に特異的なモジュールのアデニル化ドメインおよびチオール化ドメインに連結する。Felnagleらは、DAPを組み込むペプチドシンテターゼを記載している。このシンテターゼは、Saccharothrix mutabilis subsp.capreolus ATCC 23892に見出される。このDAP特異的なモジュールは、CmnAの第2のモジュールである(配列表CmaA、A2)。
【0100】
Bacillus subtilis 168は、DAPを合成しない。セリンをDAPに変換できるには、Bacillusに2つの遺伝子を追加する必要がある。この遺伝子は、下で引用される引用文献に記載されている。この遺伝子は、Staphylococcus aureusおよび他の細菌に見出される。この遺伝子は、sbnAおよびsbnBと呼ばれる。例えば、この遺伝子は、Staphylococcus aureusの株JH9に存在し、またStaphylococcus aureusの株Mu50/ATCC 700699にも存在する。sbnA遺伝子(配列表sbnA)は、SaurJH9 0103としても公知である。sbnB遺伝子(配列表sbnB)はまた、SaurJH9 0104としても公知である。
【0101】
sbnAおよびsbnB遺伝子のホモログが、sbnAおよびsbnBの代わりに、またはそれらに加えて用いられてもよい。例えば、ツヴィッターマイシンを合成するBacillus cereus株は、それぞれ、ZmaU(配列表ZmaU)およびZmaV(配列表ZmaV)と呼ばれる、sbnAおよびsbnBのホモログをコードする。
【0102】
上の図に示す界面活性剤の第一級アミンの電荷は、pHに依存し、pH7.0の付近では正である。pHが上がるにつれて、アミンは水素を失い、電荷が中性になる。pHに依存して正の電荷を有する界面活性剤は、上記で示される界面活性剤をベタイン(第四級アンモニウム基を保有する)に変換することによって産生され得る。下の図を参照のこと。
【化3】
【0103】
これは、SimonおよびShokat(引用文献リストの引用文献を参照のこと)に記載の方法
を用いてインビトロで行ってもよい。100mgの(2−ブロモエチル)トリメチルアンモニウムブロミドを微小遠心管に添加する。脂肪酸−DAP(FA−DAP)界面活性剤の1mLの溶液を、この管に添加する。この混合物を50℃で固体が溶けるまで振盪する。反応を約5時間進行させる。残りのアルキル化剤を消費するために、反応を50μlの20メルカプトエタノールを用いてクエンチし、室温で30分間インキュベートする。
【0104】
あるいはまたはさらに、メチルトランスフェラーゼを用いてインビボでメチル化を遂行してもよい。記号のうちの1つは翻訳されず、これはboxBacterialとして示される。−N−メチルトランスフェラーゼがZhangらによって記載されている。例として、メチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、Bacillus subtilis(配列表Bacillus prmA)またはE.coli(配列表E.coli
prmA)から得てもよい。シペマイシンを修飾するメチルトランスフェラーゼを用いてもよい(配列表のシペマイシンメチルトランスフェラーゼ);この遺伝子は、Streptomyces sp.OH−4156に見出される。類似のタンパク質(76%同一)をコードする遺伝子は、Streptomyces griseus subsp.griseus NBRC 13350(配列表Streptomyces griseusメチルトランスフェラーゼ)から得てもよい。
【0105】
(実施例7)
特別な脂肪酸分岐パターンを有する脂肪酸および脂肪酸誘導体の産生
生きている生物によって産生される天然に存在する脂肪酸は、通常は、脂肪酸およびそれらの誘導体の溶融温度に影響する2つの種類の修飾を有する。これらの修飾は、分岐および不飽和化(すなわち、特別な二重結合の存在)であって、両方の修飾とも脂肪酸の融点を低くする。
【0106】
特別なグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌を含む特定の生物、ならびに酵母のような代表的な真核生物は、脂肪酸の不飽和化によって膜の流動性を制御する。膜に不飽和脂肪酸を導入する能力は、温度が低下する場合の膜流動性の維持に関して重要である。特定の細菌、例えば、Bacillus subtilisは、膜流動性を増大するのに不飽和化に依拠しない。その代わり、これらの細菌は、分岐した脂肪酸の合成を介して膜流動性を制御する(分岐した脂肪酸を合成する代表的な細菌の属のリストに関しては、引用文献13の表3を参照のこと)。
【0107】
膜流動性を制御するための生物の一般的な要件を考えれば、生物学的に産生されたオイルは通常は、分岐、二重結合または両方とも含む。脂肪酸およびそれらの誘導体の市販の産生物の展望から、消費者にとって特別な利益をもたらす特別な特徴を有する脂肪酸を産生するには、これらの分岐および不飽和化反応を制御する必要がある。分岐および不飽和化を制御するための方法は下に記載される。
【0108】
背景情報として、本発明者らは、E.coliを直鎖脂肪酸(すなわち、分岐を欠いている脂肪酸)を合成する生物の例とみなし、脂肪酸合成は、酵素fadH(β−ケトアシル−ACPシンターゼIII)がアセチル−コエンザイムA(アセチルCoA)とマロニル−アシルキャリアタンパク質(マロニル−ACP)との縮合を触媒する場合に開始する(引用文献14)。この縮合は、アセトアセチル−ACPを産生し、これは、次にE.coliの脂肪酸合成機構の相互作用によって延長される。
【0109】
Bacillus subtilisにおける脂肪酸合成の開始は、異なっているが類似の機序によって生じる。Bacillus subtilisは、2つのβ−ケトアシル−ACPシンターゼIII酵素(fadHAおよびfadHB)をコードする。これらの酵素は、基質としてアセチル−CoAを利用するが、それらは、分岐した基質、例えば、イソブチリル−CoA、2−メチルブチリル−CoAおよびイソバレリル−CoAを用いることを選好する(引用文献15)。これらのCoA誘導体は、それぞれ、アミノ酸L−バリン、L−イソロイシンおよびL−ロイシンから産生される(引用文献16)。
【0110】
分岐したスターターユニットによる脂肪酸合成の開始は、最終的に分岐した脂肪酸の合成をもたらす。分岐したスターターの正確な化学的組成は、合成された脂肪酸の長さおよび特異的な分岐に影響する。例えば、Bacillus中のイソブチレートでの開始は、14個の炭素(C14)および16個の炭素(C16)のような偶数の長さを有する「イソ」脂肪酸の産生をもたらす。2−メチルブチレートによる開始では、奇数の「アンテイソ」脂肪酸(例えば、C15およびC17)の合成がもたらされる。イソバレレートでの開始。
【0111】
特別なアミノ酸(L−バリン、L−イソロイシンおよびL−ロイシン)をそれらのそれぞれのケト酸に変換することを担う酵素活性は、α−ケト酸デヒドロゲナーゼである。α−ケト酸デヒドロゲナーゼ活性を欠く変異体Bacillus細胞は、成長のために少なくとも1つのケト酸の追加を必要とする(イソブチレート、2−メチルブチレートまたはイソバレエート)(引用文献17)。βケト酸デヒドロゲナーゼ活性を欠く株への特定のケト酸の供給は、変異体株の成長不全を救済するだけでなく、細胞の脂肪酸組成物にも特異的に影響する。例えば、変異体へのイソブチレートの供給は、偶数の鎖長を有する脂肪酸の排他的な合成をもたらす。これらの脂肪酸鎖は、イソブチレートスターター由来の脂肪酸(i14:0、33%;i16:0、51%)およびまたスターターとして新規に合成された酢酸塩を用いて産生された直鎖脂肪酸(14:0、2%;16:0、13%)も含む(引用文献17を参照のこと)。さらに、奇数の脂肪酸は、β−ケト酸デヒドロゲナーゼ活性を欠く株がイソブチレートを供給される(ただし、2−メチルブチレート、および/またはイソバレエートを供給されるのではない)場合、排除されることに注意のこと。
【0112】
2−メチルブチレートの供給によって、新規に産生された酢酸塩(14:0、2%;16:0、8%)の利用を介してやはり産生された、いくつかの直鎖の偶数の脂肪酸を有するa15:0、51%およびa17:0、39%の産生がもたらされる(引用文献17)。
【0113】
イソバレエートの供給は、以下のパターンをもたらす:i15:0、56%;a15:0、7%;i17:0、12%;a17:0、2%;14:0、3%および16:0、16%)。アンテイソ脂肪酸の存在は、予想されず、この研究で用いられるイソバレレートは、2−メイルブチレートのようなケト酸が混入されることが示唆される。直鎖の偶数の脂肪酸は、新規に産生された酢酸塩を利用して産生される(これらのデータは引用文献17からとる)。
【0114】
正確な長さおよび分岐を有する脂肪酸および脂肪酸誘導体を産生する商業的必要性がある。本明細書の実施例では、本発明者らは、アシルアミノ酸界面活性剤のような脂肪酸および脂肪酸誘導体の特別な集団を産生するための方法を記載する。
【0115】
Bacillusなどの生物中で脂肪酸の分岐を特異的に制御することに加えて、分岐した脂肪酸テールではなく直鎖を有する界面活性剤を産生するために、例えば、Bacillusのような生物中での分岐を排除することが特定の場合には有利である。これは、アセチルCoAのような直鎖スタートを用いることを選好する、Bacillus中でβ−ケトアシル−ACPシンターゼIII酵素を発現することによって遂行され得る。この例として、Liおよび共同研究者は、内因性β−ケトアシル−ACPシンターゼIII酵素をE.coliのfabHで置き換えることによって、Streptomyces coelicolorの株(これは、通常は分岐した脂肪酸を主に合成する)を、86%の直鎖脂肪酸を合成する株に変換した(引用文献18)。一般的方法の次には、E.coliのfadHと同様の方式(すなわち、それらは、直鎖脂肪酸の合成を生じるアシルCoAのような主に直鎖のスターターユニットを用いて脂肪酸合成を開始する)で機能する酵素を同定することが続いてもよい。
【0116】
ガス液体クロマトグラフィーなどの方法を用いて、生物が直鎖脂肪酸を合成するか、または代わりに直鎖および分岐した脂肪酸の混合物を合成するかを決定してもよい。例えば、Kaneda(引用文献16)は、ガス液体クロマトグラフィーを用いて、16種類のBacillusの脂肪酸を特徴付け、16種全てが直鎖および分岐した脂肪酸の混合物を合成したことを見出した。対照的に、KanedaおよびSmith(引用文献19)が報告した類似の
研究によって、特定の細菌および酵母が排他的に直鎖脂肪酸を合成することが示され、そして実際にほとんどの生物が排他的に直鎖脂肪酸を合成する。KanedaおよびSmith
は、細菌E.coliおよびPseudomonas fluorescensが直鎖脂肪酸を排他的に合成することを報告した。排他的に直鎖脂肪酸を合成する生物の他の例は、引用文献20に報告されており、これには種々のStreptococcusおよびEnterococcus種、ならびに他の種が挙げられる。
【0117】
直鎖脂肪酸を排他的に合成する生物が一旦同定されれば、生物のゲノムが配列決定されていると仮定し、比較の配列分析を用いて、その生物がE.coli fabHと類似のタンパク質をコードするか否かを決定してもよい。例えば、Streptococcus
pneumoniaのfabHホモログをコードする遺伝子は、E.coliのfabHに対して39%同一である。Streptococcus fabHをクローニングし、酵素が産生されてインビトロで研究されたとき、短い直鎖CoAプライマーを利用すること、および直鎖脂肪酸を合成することが選好されることが見出された(引用文献21)(配列表AF384041を参照のこと)。
【0118】
特定の場合には、直鎖脂肪酸を排他的にまたは主に合成する生物は、E.coliのfabHに対して機能的に等価であるが、fabHに相同性は有さない酵素をコードする。例としては、Pseudomonas aeruginosaのPA5174遺伝子は、fadHに対して相同ではないが、同じ機能を果たし、かつ脂肪酸合成のためのスターターとしてアセチルCoAを用いることを選好するfabY酵素をコードする(この引用文献22「Fatty Acid Biosynthesis in Pseudomonas aeruginosa is initiated by the FabY Class of-Ketoacyl Acyl Carrier Protein Synthases」を参照のこ
と)。この目的のために用いられ得るPA5174に対して相同な遺伝子としては、以下の遺伝子およびそれらのホモログが挙げられる−配列表:Pmen_0396、MDS_0454、Psefu_4068、Avin_05510、PSPA7_5914、PLES_55661およびPA14_68360を参照のこと。
【0119】
分岐した脂肪酸を産生する株(例えば、Bacillus subtilis)を、直鎖脂肪酸を主にまたは排他的に産生する株に変換するために、E.coliのfabHまたはPseudomonas aeruginosa PA5174などの遺伝子を、それが正確な時間およびレベルで発現されるように、その株に導入する。Bacillus
subtilisの特定の場合には、直鎖スターターを選好する異種酵素が正確な時間で、および正確なレベルで発現されることを保証するためには、Bacillus fadHAの発現を通常制御するプロモーター(fadhAプロモーター、配列表「fabhAプロモーター」を参照のこと)の制御下に、β−ケトアシル−ACPシンターゼIII酵素をコードする異種遺伝子を置くことが有利である。
【0120】
異種β−ケトアシル−ACPシンターゼIII酵素が一旦、Bacillus中で発現されれば、分岐された脂肪酸合成は、β−ケト酸デヒドロゲナーゼ活性を低下、変更または排除することによってさらに低下され得る。さらに、分岐した脂肪酸のレベルは、内因性Bacillus fadHAおよび/またはfadHB遺伝子(fadH1またはfadH2としても公知)の活性を低下、変更または排除することによって低下され得る。
【0121】
操作された株が、低レベルの分岐した脂肪酸で発達される場合、Bacillus中でデサチュラーゼ酵素を発現して、Bacillusが膜の流動性を維持することを可能にするためにBacillusの脂肪酸のサブセット中に十分な二重結合を導入することが有利である。用いられ得るデサチュラーゼの例としては、Psychrobacter urativorans由来の9−脂肪酸デサチュラーゼ(引用文献23)(配列表EF617339)およびMortierella alpine由来の9−脂肪酸デサチュラーゼ(引用文献24)(配列表AB015611)が挙げられる。
【0122】
代替的に、または追加して、内因性のBacillusデサチュラーゼ、des(引用文献25)(配列表AF037430)の構成的発現を生じる遺伝子変化を行ってもよい。例えば、構成的なdes発現は、deskの欠失を介して可能になり得る(配列表DesK gen)(引用文献26)。lipA(yutB)ノックアウトの株は脂肪酸を合成できず、成長のためにケト酸および酢酸塩の両方を必要とすることが実証された(引用文献26)。desの構成的発現は、転写活性化因子DesRの過剰発現をもたらし、desの構成的発現を生じる、desKをノックアウトすることによって達成された。desの過剰発現は、約13%のBacillus脂肪酸の不飽和化をもたらし、ケト酸の必要性を排除し、これによって、分岐した脂肪酸を産生できないことによって生じる成長欠陥が、Bacillus脂肪酸の特定の集団の不飽和化によって克服され得ることが示される。
【0123】
直鎖脂肪酸を有するアシルアミノ酸界面活性剤を産生するための別のストラテジーは、E.coliのような分岐した脂肪酸を産生しない株中でアシルアミノ酸を産生するペプチドシンテターゼ酵素を発現することである。サーファクチンの産生のために必要なsrfAオペロンは、E.coli中でクローニングされ、発現されたことが報告された(引用文献27)。しかし、リポペプチドは、直接特徴付けされず、そうではなく、著者らは、操作された株が、新規な疎水性化合物(これを対照としてサーファクチンを用いるTCLによって分析した)を生じることを報告している。サーファクチンのRf値は、0.63であって、新規な疎水性化合物は、0.52というRf値を示した。著者らは、Rf値が異なった理由は推測しなかった。
【0124】
直鎖脂肪酸を有するアシルアミノ酸は、アシルアミノ酸の合成を指向し得るペプチドシンテターゼ酵素をコードする遺伝子(例えば、srfAAのモジュール1)を、T7プロモーターなどのプロモーターの制御下でE.coliのプラスミド中にクローニングすること、およびこのクローニングされた遺伝子をE.coli中に導入することによって産生され得る。ペプチドシンテターゼ酵素を改変して、それらの酵素を機能的に活性化するために必要なホスホパンテテイニルトランスフェラーゼである、Bacillus sfpなどの遺伝子をクローニングおよび発現することも必要である(引用文献28を参照のこと)。産生される界面活性剤の量、および界面活性剤分子の集団に存在する脂肪酸テールの長さは、引用文献29に記載のLCMSを用いて決定され得る。
【0125】
所望のアシルアミノ酸を産生する株が一旦生成されれば、その株をさらに改変して、アシルアミノ酸の収率を増大してもよい。収率を増大するための1つのストラテジーは、アシルアミノ酸の産生を制限する遺伝子を不活性化する(例えば、欠失する)ことである。欠失された場合、アシルアミノ酸の収率を増大する遺伝子が一旦同定されれば、複数のこのような欠失を保有している株を生成してもよい。さらに、界面活性剤収率に影響しない遺伝子、または界面活性剤収率にネガティブに影響する遺伝子のいずれも、アシルアミノ酸産生を刺激する遺伝子で置き換えられてもよい。本明細書の実施例は、FA−Gluと呼ばれる、欠失された場合、アシルグルタミン酸界面活性剤の収率を増大する遺伝子を記載している。
【0126】
(実施例8)
ファーメンテーションによるβ−ヒドロキシミリストイルグリシネートの産生
米国特許第7,981,685号に記載のとおり、Modular Genetics,Inc.(Modular)は、操作されたペプチドシンテターゼ酵素が、アシルアミノ酸(β−ヒドロキシミリストイルグルタミン酸)を産生するのに用いられ得ることを示す。このアプローチは、β−ヒドロキシミリストイルグリシネートを産生するために拡張された。これは、β−ヒドロキシミリストイルグリシネートの産生についての詳細な情報である。
【0127】
srfAAモジュール1の縮合ドメインをコードするDNAと、Linear Gramicidinのモジュール2のアデニル化ドメインをコードするDNAとの間の融合を用いるFA−GLY−TE構築物の遺伝子操作。
【0128】
本実施例では、本発明者らは、FA−GLUの産生を担う遺伝子をコードするOKB105Δ(upp)SpectRFA−GLU−TE−MG由来のゲノムDNAを増幅し、この領域は、プライマー35664−C4:5’−TTGTACTGAGAGTGCACCATAtATCGACAAAAATGTCATGAAAGAATCG−3’および35664−D4:5’−ACGCCAAGCTTGCATGCCtTTATGAAACCGTTACGGTTTGTGTATT−3’を用いて増幅した。このフラグメントを、テンプレートpUC19、ならびにプライマー35664−B4:5’−AGGCATGCAAGCTTGGCGtAATCATGGTCATAGCTGTTTCCTGTG−3’および35664−A4:5’−ATATGGTGCACTCTCAGTACAaTCTGCTCTGATGCCGCATAGTT−3’から得られたPCR生成物にアニーリングした。このアニーリングされた混合物を、SURE細胞中に形質転換して、プラスミドPsrf−Glu−TE−pUC19を産生した。
【0129】
Psrf−Glu−TE−pUC19を、テンプレートとして用いて、このプラスミドの改変体を遺伝子操作し、これにはLinear Gramicidin(このアデニル化ドメインは、アミノ酸グリシンに特異的である)のモジュール2のアデニル化ドメインに対するsrfAAモジュール1の縮合ドメインの融合、続いてTEを含有した。
【0130】
Linear Gramicidinのモジュール2に対応するDNA配列を、プライマー35664−G4:5’−GCTTGCTTGCGGAGCAGATCA−3’および35664−H4:5’−TCGAATCTCCGCCCAGTTCGA−3’を用いて、株Bacillus brevis(ATCC 8185)のゲノムDNAから増幅した。得られたPCRを、プライマー35664−H2:5’−CACTGATTTCTGATGCGGAgAAACGCGATTTGTTTTTGCGG−3’および35664−F2:5’−CTCCGAGCGCAAAGAAATcGTCGCGAATCCCGATCCG−3’のためのテンプレートとして用いた。
【0131】
このフラグメントを、プライマー35664−C7:5’−GATTTCTTTGCGCTCGGAgGGCATTCCTTGAAGGCCATGA−3’および35664−E7:5’−CTCCGCATCAGAAATCAGTgTTAATTCATCAATTGTATGTTCTGGATGC−3’を用いて、テンプレートPsrf−Glu−TE−pUC19から得たPCR生成物にアニーリングした。このアニーリングされた混合物を、SURE細胞に形質転換して、プラスミドPsrf−Gly−lgr_m2−F3−TE−pUC19を産生した。このプラスミドを用いて、23844−d1 OKB105Δ(upp)SpectR(Δmod(2−7))upp+KanRを形質転換した。得られた株をOKB105Δ(upp)SpectRFA−GLY−TEと命名した。
【0132】
このストラテジー由来の1つの株(FA−GLYを産生するために正確な配列を有した)は、37237−d3と命名された。株OKB105Δ(upp)SpectRFA−GLY−TEによるFA−GLYの産生の分析によって、その株は、検出可能な量のFA−GLYを産生できたことが示される。データは、LC−MS分析を用いて得た。OKB105Δ(upp)SpectRFA−GLY−TE由来の物質のMS−MS分析によって、その生成物が実際にFA−GLYであったことが明らかになった(配列表Psrf−Gly−lgr_m2−F3−TE−pUC19)。
【0133】
FA−GlyのLCMS分析。300ダルトンの種は、14個の炭素の脂肪酸テールを有するFA−Gluである。600ダルトンの種は、300ダルトンの種の二量体である。314ダルトンの種は、FA−Gluであって、15個の炭素の脂肪酸テールを有する。628ダルトンの種は、314ダルトンの種の二量体である。
【化4】
314ダルトンの種および328ダルトンの種のMS/MS分析:314の種は、Gly+CH
3COを有する1つの種および残りの脂肪酸の予想サイズである第2の種(「−Gly」と表示)に断片化される。328の種は、Gly+CH
3COを有する1つの種および残りの脂肪酸の予想サイズである第2の種(「−Gly」と表示)に断片化される。
【化5】
【0134】
(実施例9)
Bacillusのα−ケト酸デヒドロゲナーゼ活性は、2つの酵素bkdAAおよびbkdABをコードする遺伝子を欠失することによってノックアウトされた。これらの遺伝子は、α−ケト酸デヒドロゲナーゼのBacillusE1およびE1β成分をコードする(分岐した鎖α−オキソ酸デヒドロゲナーゼとしても公知)(引用文献30を参照のこと)。これらの遺伝子は、アミノ酸であるグルタミン酸(Glu)に連結された脂肪酸(FA)から構成される、FA−Gluと呼ばれるアシルアミノ酸界面活性剤を産生する株ではノックアウトされた。
【0135】
対照株(α−ケト酸デヒドロゲナーゼ活性を保持する)について表Aに示されるとおり、界面活性剤は、長さがC12〜C17で変化し、C14が優勢である(55%)脂肪酸テールを有する分子の集団から構成される。変異体株(これは、α−ケト酸デヒドロゲナーゼ活性を欠く)に20mMのイソブチレートが供給される場合、界面活性剤集団の脂肪酸組成物は、約95%のC14に狭まる。C14の長さの脂肪酸テールを有する界面活性剤は、特定の適用、例えば、シャンプー、ボディソープおよび他の製品などのパーソナルケア製品における使用に特に有用である。界面活性剤集団の脂肪酸テール長は、変異体株に対して、奇数の分岐した脂肪酸の産生を生じるスターターケト酸を供給することによって特異的に改変され得る。具体的には、C13:0、27%;C15:0、65%という脂肪酸テール組成物を有する界面活性剤分子の集団は、変異体の20mMの2−メチル酪酸を供給する際に産生された。したがって、この株は、90%を超える奇数の分岐した脂肪酸テール(おそらく、アンテイソ)を有する界面活性剤を産生した。C12:0、3.71%;C14:0、76.04%;C16:0、2.20%という脂肪酸テール組成物を有する界面活性剤分子の集団は、変異体100μMの2−メチル酪酸を供給した際に産生された。したがって、この株は、80%超の偶数の脂肪酸テールを有する界面活性剤を産生した。変異体株が、偶数の鎖長を有する分岐した脂肪酸を産生不能であり、かつ奇数の分岐した脂肪酸を産生するためにのみ用いられ得るケト酸を供給されたとすれば、偶数の脂肪酸分子のこの集団は、直鎖(未分岐の)脂肪酸を含む。20mMのイソ吉草酸の供給では、90%を超える奇数の分岐した脂肪酸(おそらくイソ)を有する界面活性剤が産生された。100μMのイソ吉草酸の供給では、80%を超える偶数(直鎖)脂肪酸テールを有する界面活性剤が産生された。
【0136】
本発明者らは、アシラーゼを用いてアシルアミノ酸界面活性剤を特異的に切断して、遊離の脂肪酸およびアミノ酸を生成し得ることを以前に実証した。このアプローチを上記の界面活性剤集団とともに用いて、脂肪酸の特別な精製された集団、例えば、90%超のC14脂肪酸からなる集団、または90%超のアンテイソC13およびC15、もしくは90%超のイソC13およびC15、もしくは80%超の直鎖(偶数の脂肪酸)からなる集団を産生してもよい。
【0137】
実験の詳細:
本実施例では、本発明者らは、bkdAAおよびbkdAB遺伝子をコードするB.subtilis株OKB105のゲノム領域、ならびに上流および下流の隣り合った遺伝子(buk、lpdV、bkdB、bmrR、およびbmr)を、プライマー47014:5’−AATATCGTATTGAATAGACAGACAGG−3’および47015:5’−ATCTTTATTTGCATTATTCGTGGAT−3’を用いて増幅した。得られたPCRを、テンプレートとして用いて、上流および下流の両方のフラグメントを増幅した。
【0138】
上流のフラグメントを、プライマー47020:5’−GTGTAAATCATTTAATGAAAAAAGGAAAAATTGACGTG−3’および47023:5’−ATCATTAAGCCTTCCTGGCAGTCAGCCCTAGTGCTTGATGTCGGTTTG−3’を用いて増幅した。下流のフラグメントは、プライマー47026:5’−AATTAAAAGCCATTGAGGCAGACGTAAGGGAGGATACAATCATGGCAATT−3’および47021:5’−GGTATTCTTGCTGACAACGGTACATTCATATG−3’を用いて増幅した。UPP/Kanをコードする遺伝子は、テンプレートpUC19−UPP−KANから、プライマー47024:5’−ACACGATATAGCCAGGAAGGCGGGTTTTTTGACGATGTTCTTGAAACTC−3’および47025:5’−AATTAAAAGCCACAAAGGCCTAGGTACTAAAACAATTCATCCAGTAA−3’を用いて増幅した。
【0139】
上流、下流およびUPP/Kanのフラグメントは全て、制限エンドヌクレアーゼBglIで完了するように設計した。全ての3つのフラグメントを、その後、T4 DNAリガーゼと一緒にライゲーションした。このライゲーションされたDNAミックスを、FA−Glu産生株43074−B2中に形質転換して、形質転換体を、カナマイシン(30ug/mL)およびイソ酪酸、イソ吉草酸および2−メチル酪酸(100uM)を補充したLB寒天上で成長する能力について選択した。このストラテジーに由来する1つの株(bkdAAおよびbkdABをUPP/Kanで置き換えるために正確な配列を有した)を、47392−A6と命名し、続く実験に用いた。
【0140】
47392−A6を、10mMの培養物中37℃に4日間、0、100uM、1mM、5mMまたは20mMの2−メチル酪酸、イソ吉草酸、イソ酪酸(全てがpH7.5に中性化される)を補充されたS7(Phos7.5)(100mMのリン酸カリウム緩衝液pH7.5、10mMの硫酸アンモニウム、20mMのグルタミン酸ナトリウム(Monosodium Glutamate)、2%のグルコースおよび微量金属を含有する最小培地)中で43074−B2と平行して成長させた。
【表A-1】
【表A-2】
制限部位を用いるBKDアップ−U/K−ダウン配列:
【化6-1】
【化6-2】
【化6-3】
【0141】
(実施例10)
以下の遺伝子を、各々の遺伝子のコード配列を、upp/kanカセットで置き換えることによって欠失させた。FA−Glu収率に対する効果を表#に示す:Maf、Abh、RocG、degU、RapC、eps、yngF、yhaR、mmgB.spxA。
【0142】
以下の遺伝子の各々の追加のコピーを、構成用プロモーター(例えば、PgroEL)の制御下で、または通常は、srfオペロン(この遺伝子は、サーファクチンの産生に必要である)における遺伝子の発現を正常に制御するPsrfプロモーターの制御下でBacillus中に導入した。FA−Glu収率に対する効果は、表Bに示す:
【表B】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
配列表
2,3−ジアミノプロピオン酸の合成のためのタンパク質
【化7】
メチルトランスフェラーゼ
【化8】
シペマイシンメチルトランスフェラーゼ
【化9】
直鎖脂肪酸合成の開始のためのタンパク質
直鎖脂肪酸合成の開始のためのfadHファミリーメンバー
【化10-1】
【化10-2】
直鎖脂肪酸合成の開始のためのfadYファミリーのメンバー
【化11】
【化12-1】
【化12-2】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
fabHAプロモーター
【化18】
短い直鎖スターターを用いる脂肪酸合成を開始することを選好するタンパク質
【化19】
【化20】
デサチュラーゼ酵素(不飽和化酵素)
【化21】
調節性因子
【化22】
ペプチドシンテターゼモジュール
srfAAモジュール1
(縮合ドメイン、アデニル化ドメイン、チオール化ドメイン、これはグルタミン酸特異的である)
【化23-1】
【化23-2】
dptA1モジュール5
【化24-1】
【化24-2】
【化24-3】
【化25-1】
【化25-2】
【化25-3】
【化25-4】
CoAリガーゼ
GenBank:AAX31555.1
【化26】
アシルキャリアタンパク質
GenBank:AAX31556.1
推定アシルキャリアタンパク質[Streptomyces roseosporus NRRL 11379]
【化27】
マロニル−CoAアシル基転移酵素
【化28】