【実施例1】
【0041】
図1は、本願発明の実施例1に係る吸油紙1(本願請求項の「吸収シート」の一例)の概要を示す模式図である。吸油紙1は、唐揚げなどの対象物の表面に付いた油滴や油膜を吸い取るものであり、一般的なペーパータオルの大きさである。吸油紙1は、シート部3(本願請求項の「シート部」の一例)と、複数の切れ目5とを備える。シート部3は、縁部7(本願請求項の「縁部」の一例)と、短冊部9とを有する。具体的には、吸油紙1には、約1cmの縁部7を残して同じ方向に同じ長さの切れ目5が入っている。結果として、吸油紙1は、縁部7でつながった幅約1cmの短冊状のシートとなっている。ただし、使用前の切れ目5は、ミシン目でつながっている。
【0042】
続いて、
図2を参照して、吸油紙1の使用方法について述べる。
図2は、吸油紙の使用方法について示す図である。
図2(a)に示すように、使用者は、吸油紙1を使用する前に切れ目5を切り離す。続いて、
図2(b)に示すように、吸油紙1を揉んで複数の短冊からなる短冊部9を絡み合わせることにより吸油紙1を立体化させる(以下、「立体化工程」と記載)。さらに、
図2(c)に示すように、立体化した吸油紙1の中に唐揚げ等の対象物11を入れることにより、対象物11の表面に付いた油滴や油膜を吸い取る。
【0043】
以下、
図3を参照して、本実施例の吸油紙の効果を確認した実験方法について述べる。
図3は、3種類の吸油方法を比較した様子を示す図である。(1)鶏肉5個を油で揚げた状態(
図3(a)-(c))。(2)(1)で揚げた唐揚げ5個を3種類の吸油紙に5分静置した状態(
図3(d)-(f))。(3)から揚げを取り除き油を吸った吸油紙の状態(
図3(g)-(i))である。
【0044】
ここで、3種類の吸油紙として、本実施例に係る吸油紙に対して立体化工程を施したもの、平置き(立体化工程を経ずに平面状のまま油を吸わせること)の吸油紙、平置きのキッチンペーパーを使用した。
【0045】
なお、計測内容として、油を吸う前の吸油紙の重さ、油を吸った後の吸油紙の重さ、唐揚げの重さを計測し、記録した。また、3種類の吸油方法についてそれぞれ3回計測を行い、その平均値を計測結果とした。計測結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、吸油紙に対して立体化工程を施して吸油させることにより、平置きの場合に比べて2倍超の吸油が可能となった。これは、吸油紙が立体的であることにより唐揚げなどの対象物との接点が増えた結果、より多くの毛細管現象が生じたためと考えられる。
【0048】
さらに、吸油紙に切れ目が入ったことにより、吸油紙の立体配位の自由度が増したことも、吸油紙の空間的な拡がり度合いを増加させている。結果として、唐揚げ等の対象物が吸油紙の中に埋もれやすくなり、吸油紙との接点を増やしているものと考えられる。
【0049】
なお、吸油紙は、唐揚げの油を吸油する他にも、果物等の対象物の水滴を吸収することに用いてもよい。その他、対象物の表面に付いた液滴や液膜を除去する吸収シートとして用いてもよい。
【0050】
また、から揚げは大きさや形がそれぞれ異なるため、データのバラツキが大きいと考えられる。そのため、形状に規格性がある対象物で本実施例の吸油紙の効果を確認した実験方法について述べる。計測内容として、油を吸う前の全体の重量、油を吸った後の全体の重量、揚げた対象物を除いた重量を計測し、記録した。また、3種類の対象物において、それぞれ吸油紙が吸った油の重量を算出し、比較した測定結果を
図4に示す。
【0051】
図4に示すように、「消しゴム片」や「うずらの卵」などの立体的で球体に近い形状の対象物は、吸油紙に対して立体化工程を施して吸油させることにより、平置きの場合に比べて4倍前後の吸油が可能となった。しかしながら、バームクーヘンは平置きの吸油紙の方が多く吸油する結果となった。これは、扁平部の設置面積が大きいことによると考えられる。一般的な形状では、必ずしも扁平部の接地面積が大きいとは限らないため、「消しゴム片」や「うずらの卵」の実験結果に近い実験結果になると考えられる。
【0052】
続いて、吸油紙を揉み込んだ時に効果的に立体形状になるような切れ目パターンについての効果を確認した実験方法について述べる。
図5(A)〜(C)に示すような切れ目が入った吸油紙を各5枚ずつ20秒間揉み込んで平面に静置した時の吸油紙の広がりと高さを比較した。また、
図5に示されている吸油紙への切れ目パターンの裏図面(底面図)は表図面(平面図)と対称につき省略する。
【0053】
立体形状に揉み込んだ吸油紙の広がりを比較した結果を
図6に示す。
図6に示すように、
図5(A)の立体形状を上部から見た状態11と
図5(C)の立体形状を上部から見た状態15は吸油紙同士が絡まりにくく、平面に置いた時に絡まりが解けて開きそうになっているが、
図5(B)の立体形状を上部から見た状態13は吸油紙同士が絡まり纏まっていることが分かる。
【0054】
また、立体形状に揉み込んだ吸油紙の高さを比較した結果を
図7に示す。
図7に示すように、
図5(A)の立体形状を側面から見た状態17と
図5(C)の立体形状を側面から見た状態21は、立体形状が形成されてはいるものの、高さと密度が比較的低い。それに比べ、
図5(B)の立体形状を側面から見た状態19は、纏まっているため高さもあり密度も高くなっている。
【0055】
上記の理由から
図5(B)の切れ目パターンは、
図5(A)や
図5(C)の切れ目パターンよりも、広がらず良く絡まった解けにくい立体形状を形成できていることが分かる。
【0056】
さらに、吸油紙への切れ目パターンは
図8の(a)〜(i)に示すような形状でもよい。また、
図8に示されている吸油紙への切れ目パターンの裏図面(底面図)は表図面(平面図)と対称につき省略する。
【0057】
続いて、
図9を参照して、切れ目のピッチについて検討した結果について述べる。
図9は、吸油紙の切れ目のピッチと吸油紙のからみ具合との関係を示す図である。なお、吸油紙の縁は、1cmに統一した。
【0058】
図9(a)に示すように、ピッチを1mmとした場合、吸油紙が充分に膨らまなかったため、対象物が吸油紙に沈まず、かつ、油が付着するとちぎれてしまう等、期待するほどの効果が得られなかった。他方、2mm〜9cmまでは、吸油紙が適切に立体的な膨らみを見せた。したがって、今回の実験からは、切れ目のピッチが2mm以上9cm以下が好ましいことが分かった。
【0059】
さらに、
図10を参照して、縁の幅について検討した結果について述べる。
図10は、吸油紙の切れ目の縁の幅と吸油紙のからみ具合との関係を示す図である。なお、吸油紙の切れ目のピッチは1cmに統一した。
【0060】
図10(h)に示すように、縁の幅を1辺(約21.5cm)の41.9%も取ると、切れ目の数が減ることに加えて切れ目の長さも短くなり、吸油紙同士がからまずに立体的に十分に膨らまなかった。他方、縁の幅を1辺の0.5%〜33%とした場合は、吸油紙同士がからんで立体的な膨らみが得られた。
【0061】
なお、
図9及び
図10においては、正方形の吸油紙の4辺全ての縁を残す形とした。しかし、長方形の吸油紙や、1〜3辺のみ縁を残す形としてもよい。
【0062】
吸油紙の大きさは、市販されている一般的なキッチンペーパーの標準的なサイズ(横220mm×縦230mm)か、その他の大きさでもよい。
【0063】
吸油紙の形状は、正方形及び長方形に限定されず、円形、台形、平行四辺形又は多角形としてもよい。
【0064】
また、吸油紙は、紙以外の吸収体であってもよい。輸送の利便性を考えると、シート状のものに切れ目が入ることで容易に絡ませて立体化するものが好ましい。
【0065】
さらに、吸油紙の切れ目は、異なる方向であってもよいし、異なる長さであってもよい。
【0066】
さらに、吸油紙の切れ目は、シート部を短冊状にするものに限らず、他の切れ目であってもよい。切れ目を切り離した後もシート部が分離せずにつながっているように切れ目を入れることは、吸油紙を処分する際に手間が省ける点で好ましい。
【0067】
さらに、本実施例の吸油紙を切り取り線で接続した吸油シートロール(本願請求項の「吸収シートロール」の一例)として提供してもよい。また、一般的なティッシュペーパーのように、複数の吸油紙が接続されずに1つの箱に収められて提供されるものであってもよい。
【実施例2】
【0068】
図11は、本願発明の実施例2に係る吸油紙31(本願請求項の「吸収シート」の一例)の概要を示す模式図である。吸油紙31は、実施例1と同様にシート部33(本願請求項の「シート部」の一例)と、実施例1の切れ目5に相当する第1切れ目35(本願請求項の「第1切れ目」の一例)とを備える。シート部33は、実施例1と同様に、縁部37(本願請求項の「縁部」の一例)と、短冊部39とを有する。
【0069】
吸油紙31は、第1切れ目35よりも短い第2切れ目41(本願請求項の「第1切れ目」の一例)と、第3切れ目43(本願請求項の「第3切れ目」の一例)をさらに備える。具体的には、吸油紙31は正方形であり、吸油紙31の向かい合う二辺に約1cmずつの縁部37を残し、縁部37の二辺に対して垂直方向に同じ長さの第1切れ目35が複数設けられている。複数の第2切れ目41のうち少なくとも一部は、第1切れ目35同士の間に設けられていて、また、第1切れ目に接続しており、第1切れ目35に対して垂直に、千鳥状に設けられている。ここで、「千鳥状」とは、向かい合う複数の第2切れ目41の間に互いに切れ込んでいる状態を指す。そのため、シート部33を第2切れ目41に対して垂直方向に引っ張るとシート部33が網状に広がる。また、第2切れ目と交差する方向のシート部の二辺に複数の第2切れ目が接続している。そのため、網状に広がる部分が多く、より立体的に膨らんだ形状にすることができ、また、全部の第2切れ目を容易に網状に広げることができる。第3切れ目43は、第1切れ目35に対して垂直な吸油紙31の辺側の縁部37に、第1切れ目35に対して垂直方向に設けられている。
【0070】
シート部33を第2切れ目41に対して垂直方向に引っ張ってシート部33を網状に広げた後(本願請求項の「網状化工程」の一例)、シート部33を揉むと短冊部39がお互いに絡み合って立体的に膨らんだ形状になり、さらに少なくとも一部の第2切れ目41が、第1切れ目35、シート部33の辺又は他の第2切れ目41などのシート部33の任意の部分に引っかかることで立体的に膨らんだ形状を安定化することが可能となる(本願請求項の「立体化工程」の一例)。複数の第1切れ目35と複数の第2切れ目41が複数の切れ端を形成する結果、立体化した後のシート部33は、対象物を外から包み込むだけでなく、立体形状のの内部でも切れ端が対象物と接することとなる。これにより、対象物を膨らんだ形状の内部に埋没させるように入れ込んだ際(本願請求項の「静置工程」の一例)、吸油紙31との接触面積を飛躍的に増大させることが可能となり、表面に付いた液滴や液膜を除去することが容易となる。同時に、多数の切れ端が発生することはエントロピーの増大を伴い、立体化が不可逆変化となることを促進する。このため、立体形状が平面化することを防ぐことが容易となる。
【0071】
また、対向する辺の縁部37を第3切れ目43に入れ込むことで、吸油紙31を揉みこむことなく対象物を風呂敷のように包み込むことが可能となる。これにより、対象物の表面に付いた液滴や液膜を除去することがさらに容易となる。
【0072】
図12は、吸油紙45の第2切れ目47及び第3切れ目49を示す図であり、第1切れ目を設けていない状態の図である。
図12(a)に示すように、第2切れ目47は千鳥状に設けられていて、第3切れ目49は対向する2本の線分を形成するように2つ設けられている。吸油紙45を第2切れ目47に対して垂直方向に引っ張ると、
図12(b)に示すように吸油紙45が網状に広がる。
【0073】
図13は、例として三角錐形状の対象物を吸油紙45で包んだ状態を示す図である。
図13(a)に示すように、2つの第3切れ目49を互いに入れ込んで固定すると、吸油紙45で22個の対象物を風呂敷のように包み込むことができる。また、
図13(b)に示すように、対象物の上に吸油紙を乗せ、その外側を1枚の吸油紙で包むことで、隙間を埋めることができ、吸油性をさらに高めることが可能になる。
図13(c)は、ここで例として用いた対象物を示す図である。
【0074】
第1切れ目、第2切れ目及び第3切れ目のパターンは
図14の(a)〜(d)に示すような形状でもよい。また、
図14に示されている切れ目のパターンの裏図面(底面図)は、表図面(平面図)と対称につき省略する。
【0075】
なお、
図11及び
図14に示すように第2切れ目が第1切れ目と接続している場合、並びに、第2切れ目が網状に広がるように設けられている場合は、特に第2切れ目がシート部の一部に絡み合いやすくなり、立体的に膨らんだ形状を保持しやすい。
【0076】
さらに、第2切れ目は、第1切れ目に対して垂直方向に限られず、第1切れ目と交差する方向であれば、例えば
図14に示すように第1切れ目に対して斜めに設けてもよい。また、
図14に示すように、第2切れ目が隣接する第1切れ目に接続する第2切れ目の間に互いに切れ込む長さであれば網状に広がるため、特に第2切れ目が絡み合いやすくなる。
【0077】
さらに、第3切れ目は、
図14に示すように縁部上に、対向する2本の線分を形成するように2つ設けてもよい。
【実施例3】
【0078】
図15(a)は、本願発明の実施例3に係る吸油紙51の断面の概要を示す模式図である。吸油紙51の表図面(平面図)は、実施例2と同様である。
【0079】
吸油紙51のシート部53は、吸収性が高い第1シート55(本願請求項の「第1シート」の一例)と、剛性が高い第2シート57(本願請求項の「第1シート」の一例)の2層構造である。第1切れ目、第2切れ目及び第3切れ目は、第1シート55及び第2シート57を貫通している。
【0080】
吸油紙51は、高い吸収性と剛性が高い特性の両方を備えた特殊なシートを使用せずとも、高い吸収性と高い剛性を有する。
【0081】
なお、第1切れ目、第2切れ目及び第3切れ目は、第1シート55と第2シート57のどちらか一方のみに設けてもよい。
【0082】
図15(b)は、白色の吸収性が高い第1シートと、茶色の剛性が高い第2シートとからなる吸油紙、
図15(c)は、白色の吸収性が高い第1シート2枚からなる吸油紙を示す図である。
図15の(d)と(e)は、(b)と(c)の吸油紙をそれぞれ横に引っ張って第2切れ目を広げた状態、(f)と(g)は、第2切れ目同士が絡み合って吸油紙が立体的に膨らんだ状態を示す図である。吸収性が高い第1シートに、剛性が高い第2シートを組み合わせると、
図15(f)に示すように第2切れ目同士が絡み合った立体状態が安定していた。一方で、吸収性が高いが剛性は低い第1シートを2枚用いた場合は、
図15(g)に示すように第2切れ目同士が絡み合って立体的にはなったが、部分的に隙間ができ、(f)よりは崩れやすかった。
【実施例4】
【0083】
図16(a)は、本願発明の実施例4に係る吸油紙61の断面の概要を示す模式図である。吸油紙61の表図面(平面図)は、実施例2と同様である。
【0084】
吸油紙61のシート部63は、2枚の吸収性が高い第1シート65で、剛性が高い第2シート67を挟み込むように積層されている3層構造である。
【0085】
吸油紙61は、実施例3の吸油紙51と同様に吸収性と高い剛性を併せ持つ。さらに、吸油紙61は対象物に接する面が必ず吸収性が高い第1シート65になるため、使用者が吸収シートの表裏を気にすることなく利用することができる。
【0086】
図16(b)は、白色の吸収性が高い第1シート2枚の間に、茶色の剛性が高い第2シート1枚を挟んでなる吸油紙、
図16(c)は、白色の吸収性が高い第1シート3枚からなる吸油紙を示す図である。
図16の(d)と(e)は、(b)と(c)の吸油紙をそれぞれ横に引っ張って第2切れ目を広げた状態、(f)と(g)は、第2切れ目同士が絡み合って吸油紙が立体的に膨らんだ状態を示す図である。吸収性が高い第1シートに、剛性が高い第2シートを組み合わせると、
図16(f)に示すように第2切れ目同士が絡み合った立体状態が安定していた。一方で、吸収性が高いが剛性は低い第1シートを2枚用いた場合は、
図16(g)に示すように第2切れ目同士が絡み合って立体的にはなったが、部分的に隙間が目立った。
図16(h)は、(f)と(g)に示す立体状態の吸油紙に一定の振動を与えた後の状態を示す図であり、(f)は振動を与えた後も嵩高いままであり、立体状態を安定させやすいことが分かる。
【0087】
なお、吸油紙の形状は、正方形に限定されず、長方形、円形、台形、平行四辺形又は多角形としてもよい。
【0088】
また、第1切れ目、第2切れ目及び第3切れ目は、シンプルな直線状に限定されず、曲線、波線又はジグザグ線といった直線以外の線状であってもよい。
【0089】
さらに、第2切れ目は、利用者が網状に広げた際に切れ目となる程度に、例えばミシン目などを形成するように弱く接続されたものであってもよい。