特許第6803448号(P6803448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803448最大摩擦係数推定システムおよび最大摩擦係数推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6803448
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】最大摩擦係数推定システムおよび最大摩擦係数推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/02 20060101AFI20201214BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20201214BHJP
   G01L 5/16 20200101ALI20201214BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20201214BHJP
   B60C 23/04 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   G01N19/02 B
   B60C19/00 Z
   B60C19/00 B
   G01L5/16
   G01L5/00 G
   B60C23/04 150E
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-218316(P2019-218316)
(22)【出願日】2019年12月2日
【審査請求日】2020年9月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】石神 直大
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−016756(JP,A)
【文献】 特開2013−180639(JP,A)
【文献】 特開2002−154418(JP,A)
【文献】 特開2007−308027(JP,A)
【文献】 特表2012−503192(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0163454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/02
G01M 17/02
G01N 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの転動速度、荷重、温度および路面状態レベルに基づいて、タイヤと路面との間の最大摩擦係数を代表のタイヤについて算出するテーブルまたは関数を記憶する記憶部と、
前記テーブルまたは関数を個々のタイヤ仕様に応じて補正し、最大摩擦係数を算出する最大摩擦係数算出部と、
を備えることを特徴とする最大摩擦係数推定システム。
【請求項2】
前記最大摩擦係数算出部は、前記タイヤ仕様におけるタイヤトレッド配合特性に基づいて、前記テーブルまたは関数を補正することを特徴とする請求項1に記載の最大摩擦係数推定システム。
【請求項3】
前記最大摩擦係数算出部は、タイヤの接地面画像から得られるパラメータに基づいて前記テーブルまたは関数を補正することを特徴とする請求項1に記載の最大摩擦係数推定システム。
【請求項4】
タイヤに配設されたセンサによって計測されるタイヤの物理量を取得するセンサ情報取得部と、
前記センサ情報取得部によって取得したタイヤの物理量を入力して前記荷重および前記路面状態レベルを推定する演算モデルと、
を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の最大摩擦係数推定システム。
【請求項5】
前記演算モデルは、天候情報によって重みづけされて前記路面状態レベルを算出することを特徴とする請求項4に記載の最大摩擦係数推定システム。
【請求項6】
タイヤの転動速度、荷重、温度および路面状態レベルに基づいて、タイヤと路面との間の最大摩擦係数を代表のタイヤについて算出するテーブルまたは関数を読み出す読出ステップと、
前記テーブルまたは関数を個々のタイヤ仕様に応じて補正し、最大摩擦係数を算出する最大摩擦係数算出ステップと、
を備えることを特徴とする最大摩擦係数推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大摩擦係数推定システムおよび最大摩擦係数推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行を支援するために、路面の摩擦値および車両の制動距離などを推定し、車両におけるアクセル操作、ブレーキ操作、操舵などを運転者に代わって自動的に制御することが検討されている。
【0003】
特許文献1には従来の運転限界速度を決定する方法が記載されている。この従来の方法は、タイヤと路面との間のグリップ潜在力を影響パラメータの関数として推定し、間近に迫った経路イベント上でのグリップ要求がグリップ潜在力を超えないように運転限界速度を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018−517978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の運転限界速度の決定方法では、グリップ要求であるタイヤ力が車両の分析モデルに基づき車両で発生している加速度から決定される。個々のタイヤの仕様に応じてタイヤと路面との間の最大摩擦係数が異なるため、タイヤごとに作成される分析モデルが膨大な数になってしまうという問題点があった。本発明者は、タイヤの種類等に応じて代表的なタイヤを定め、個々のタイヤ仕様に応じて補正することによって最大摩擦係数を効率的に推定し得ることに気付いた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤと路面との間の最大摩擦係数を効率良く推定することができる最大摩擦係数推定システムおよび最大摩擦係数推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は最大摩擦係数推定システムである。最大摩擦係数推定システムは、タイヤの転動速度、荷重、温度および路面状態レベルに基づいて、タイヤと路面との間の最大摩擦係数を代表のタイヤについて算出するテーブルまたは関数を記憶する記憶部と、前記テーブルまたは関数を個々のタイヤ仕様に応じて補正し、最大摩擦係数を算出する最大摩擦係数算出部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は最大摩擦係数推定方法である。最大摩擦係数推定方法は、タイヤの転動速度、荷重、温度および路面状態レベルに基づいて、タイヤと路面との間の最大摩擦係数を代表のタイヤについて算出するテーブルまたは関数を読み出す読出ステップと、前記テーブルまたは関数を個々のタイヤ仕様に応じて補正し、最大摩擦係数を算出する最大摩擦係数算出ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイヤと路面との間の最大摩擦係数を効率良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る最大摩擦係数推定システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】演算モデルの学習について説明するための模式図である。
図3】最大摩擦係数算出部による最大摩擦係数の算出について説明するための模式図である。
図4図4(a)〜図4(c)は、摩擦係数の路面状態、荷重および速度依存性の例を示すグラフである。
図5図5(a)〜図5(c)は、最大摩擦係数の荷重、速度および温度依存性の例を示すグラフである。
図6】摩擦係数推定装置による最大摩擦係数算出処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図6を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る最大摩擦係数推定システム100の機能構成を示すブロック図である。最大摩擦係数推定システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20によってタイヤ10で発生している加速度、空気圧および温度等のタイヤ物理量を車両の走行時に計測し、タイヤ10の物理量を演算モデル33aに入力してタイヤ力Fおよび路面状態レベルを算出する。
【0013】
最大摩擦係数推定システム100は、タイヤ10が属するタイヤの種類における代表タイヤについて最大摩擦係数を算出するためのテーブルまたは関数を記憶し、タイヤ10の仕様に応じて当該テーブルまたは関数を補正して最大摩擦係数を算出する。当該テーブルまたは関数は、タイヤ10の転動速度、タイヤ力Fの鉛直方向成分Fzである荷重、温度および路面状態レベルを入力して最大摩擦係数を算出する。
【0014】
タイヤ力Fの鉛直方向成分Fzである荷重、および路面状態レベルは、演算モデル33aによって求められる。また、タイヤ10の温度は、センサ20によって計測される。タイヤ10の転動速度は、車両の走行速度に基づいて算出される。また、路面状態レベルは、天候情報に基づいて演算モデル33aにおける演算に重みづけされて算出されるようにしてもよい。
【0015】
最大摩擦係数推定システム100は、タイヤ10のタイヤトレッド配合特性、タイヤの静的な接地面画像から得られるパラメータに基づいて、最大摩擦係数を算出するテーブルまたは関数を補正する。タイヤトレッド配合特性は、損失正接tanδ、複素弾性率、硬度等である。タイヤ10と路面との接地面画像から得られるパラメータは、実接地面積、接地長、接地圧力分布等である。
【0016】
最大摩擦係数推定システム100は、センサ20および摩擦係数推定装置30を備える。センサ20は、加速度センサ21、圧力センサ22および温度センサ23等を有し、加速度、タイヤ空気圧およびタイヤ温度などタイヤ10における物理量を計測する。センサ20は、タイヤ10に生じる歪を計測するために歪ゲージを有していてもよい。これらのセンサは、タイヤ10の物理量として、タイヤ10の変形や動きに関わる物理量を計測している。
【0017】
加速度センサ21は、タイヤ10のゴム材料等で形成されたタイヤ本体部分またはタイヤ10の一部をなすホイール15に配設されており、タイヤ10とともに機械的に運動しつつ、タイヤ10に生じる加速度を計測する。加速度センサ21は、タイヤ10の周方向、軸方向および径方向の3軸における加速度を計測する。圧力センサ22および温度センサ23は、例えばタイヤ10のエアバルブへの装着やホイール15への固定によって配設されており、それぞれタイヤ10の空気圧および温度を計測する。また圧力センサ22および温度センサ23は、タイヤ10のインナーライナー等に配設されていてもよい。
【0018】
センサ20は、タイヤ10における加速度および歪、タイヤ空気圧、並びにタイヤ温度などタイヤ10の物理量を計測しており、計測したデータを摩擦係数推定装置30へ出力する。摩擦係数推定装置30は、センサ20で計測されたデータに基づいてタイヤ力Fおよび路面状態レベルを算出し、最大摩擦係数を推定する。
【0019】
タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID11等が取り付けられていてもよい。例えば、タイヤ10に取り付けたRFID11の固有情報に応じて、演算モデル33aを予め用意したデータ群の中から選択して設定してもよいし、またはサーバ装置などで提供されるデータベースから選択するようにしてもよい。また、RFID11の固有情報に対してタイヤ10の仕様が記録され、更にタイヤ10の仕様に応じた演算モデル33aがデータベースで提供されてもよい。RFID11の固有情報からタイヤ10の仕様を呼び出し、演算モデル33aを設定してもよいし、呼び出したタイヤ10の仕様に応じた演算モデル33aをデータベースから選択するようにしてもよい。またタイヤ10の仕様は、後述する記憶部32に記憶された最大摩擦係数を算出するためのテーブルまたは関数の補正にも用いられる。
【0020】
摩擦係数推定装置30は、センサ情報取得部31、記憶部32および演算処理部33を有する。摩擦係数推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。摩擦係数推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0021】
センサ情報取得部31は、無線通信等によりセンサ20で計測された加速度、タイヤ空気圧およびタイヤ温度等のタイヤ物理量を取得する。記憶部32は、タイヤ10が属するタイヤの種類における代表タイヤについて最大摩擦係数を算出するためのテーブルまたは関数を記憶する。記憶部32に記憶されたテーブルまたは関数は、タイヤ10の転動速度、タイヤ力Fの鉛直方向成分Fzである荷重、温度および路面状態レベルを入力して最大摩擦係数を算出する。
【0022】
演算処理部33は、演算モデル33a、補正処理部33b、最大摩擦係数算出部33cおよび外部情報取得部33dを有する。演算処理部33は、センサ情報取得部31から入力されたタイヤ物理量を演算モデル33aに入力してタイヤ力Fおよび路面状態レベルを算出し、最大摩擦係数算出部33cによってタイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を算出する。外部情報取得部33dは、例えば天候情報を外部装置から取得している。
【0023】
図1に示すように、タイヤ力Fは、タイヤ10の前後方向の前後力Fx、横方向の横力Fy、および鉛直方向の荷重Fzの3軸方向成分を有する。演算モデル33aは、少なくとも鉛直方向の荷重Fzを算出し、他の2軸方向成分のいずれか1成分または両成分の算出を行うようにしてもよい。また、路面状態レベルは、路面の乾燥、湿潤、積雪または氷結などの状態をレベルに応じて表している。路面状態レベルは、例えば数値によって、0は乾燥、1は湿潤、2は積雪、3は氷結の各状態などと表し、整数間の値で各状態の中間域の状態を示す。
【0024】
演算モデル33aは、ニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。演算モデル33aは、例えばCNN(Convolutional Neural Network)型であり、その原型であるいわゆるLeNetで使用された畳み込み演算およびプーリング演算を備える学習型モデルなどを用いる。演算モデル33aは、入力層に入力されたデータに対して畳み込み演算およびプーリング演算などを用いて特徴量を抽出して中間層の各ノードへ伝達し、中間層の各ノードに対して線形演算等を実行して全結合し、出力層の各ノードへ結び付ける。全結合では、線形演算に加えて、活性化関数などを用いて非線形演算を実行するようにしてもよい。演算モデル33aの出力層の各ノードには、3軸方向のタイヤ力Fおよび路面状態レベルが出力される。
【0025】
図2は演算モデル33aの学習について説明するための模式図である。演算モデル33aへの入力データは、センサ情報取得部31によって取得されたタイヤ物理量のほか、外部領域情報等を用いることができる。タイヤ物理量には、加速度、タイヤ空気圧、タイヤ温度およびタイヤに生じる歪などを用いる。外部領域情報としては、天候、気温および降水量などの気象情報、並びに、路面の凹凸、温度および凍結状態等の路面情報を用いる。入力データは、これらの他、車両に搭載されたデジタルタコグラフのデータによる車重、速度などを用いてもよい。
【0026】
演算モデル33aの学習の際には、演算結果としてのタイヤ力Fおよび路面状態レベルと、教師データとを比較して演算モデル33aの更新を繰り返すことによって演算モデル33aの精度が高められる。路面状態レベルの教師データは、学習中に用いられる種々の路面について既知であるものとする。演算モデル33aは、タイヤ10とタイヤ10を接地させる接地面の路面状態レベルを変えて回転試験を行って学習させるとよい。さらには、実際の車両にタイヤ10を装着し、該車両を路面状態レベルの異なる路面を試験走行させて演算モデル33aの学習を実行することもできる。
【0027】
演算モデル33aは、基本的にタイヤ10の仕様に応じて例えばモデル内の全結合部における階層数等の構成や重みづけが変わるが、各仕様のタイヤ10(ホイールを含む)での回転試験において演算モデル33aの学習を実行することができる。
【0028】
但し、厳密にタイヤ10の仕様ごとに演算モデル33aの学習を実行する必要性はない。例えば乗用車用タイヤ、トラック用タイヤなどのタイプ別に演算モデル33aを学習させて構築し、タイヤ力Fおよび路面状態レベルが一定の誤差範囲内で推定されるようにすることで、複数の仕様に含まれるタイヤ10に対して1つの演算モデル33aを共用し、演算モデル数を低減してもよい。また演算モデル33aは、実際の車両にタイヤ10を装着し、該車両を試験走行させて演算モデル33aの学習を実行することもできる。タイヤ10の仕様には、例えばタイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。
【0029】
補正処理部33bは、タイヤ10の状態に基づいて演算モデル33aを補正する。タイヤ10は、車両への装着時にアライメント誤差が生じ、経時的にゴム硬度等の物性値が変化し、走行することによって摩耗が進行する。アライメント誤差、物性値や摩耗等の要素を含むタイヤ10の状態が使用状況によって変化し、演算モデル33aによるタイヤ力Fおよび路面状態レベルの算出に誤差が生じる。補正処理部33bは、演算モデル33aの誤差を低減するためにタイヤ10の状態に応じた補正項を演算モデル33aに付加する処理を行う。
【0030】
補正処理部33bは、外部情報取得部33dによって外部装置から取得した天候情報によって演算モデル33aを補正するようにしてもよい。演算モデル33aによって算出される路面状態レベルは、天候情報に拠るものである。補正処理部33bは、天候情報に基づいて演算モデル33aにおける演算に重みづけし、天候情報に近い路面状態レベルが出力されるように補正する。例えば、天候情報が晴れである場合には、演算モデル33aの出力としての路面状態レベルが乾燥を表す0に近い値となるように演算モデル33aにおける演算が重みづけされる。
【0031】
図3は最大摩擦係数算出部33cによる最大摩擦係数の算出について説明するための模式図である。最大摩擦係数算出部33cは、記憶部32から最大摩擦係数を算出するためのテーブルまたは関数を読み出し、タイヤ10の仕様に応じて当該テーブルまたは関数を補正する。補正には、タイヤ10のタイヤトレッド配合特性、タイヤの静的な接地面画像から得られるパラメータ等が用いられる。上述のように、記憶部32に記憶されたテーブルまたは関数は、タイヤの各種類における代表的なタイヤに関するものであり、個々のタイヤ10の仕様に応じてテーブルまたは関数を補正して用いる。
【0032】
タイヤトレッド配合特性は、損失正接tanδ、複素弾性率、硬度等であり、これらの特性は、最大摩擦係数と相関関係にある接地面積や接地部分における弾性変形のパラメータとなっている。また、タイヤ10と路面との静的な接地面画像から得られるパラメータは、実接地面積、接地長、接地圧力分布等であり、これらのパラメータも最大摩擦係数と相関関係にある。最大摩擦係数算出部33cは、代表タイヤに対するテーブルまたは関数を、タイヤ10の仕様に基づくタイヤトレッド配合特性、タイヤの静的な接地面画像から得られるパラメータ等で補正することで、個々のタイヤ10について精度良く最大摩擦係数を推定する。
【0033】
最大摩擦係数算出部33cは、最大摩擦係数を算出するためのテーブルまたは関数をタイヤ10の仕様に応じて補正し、タイヤ10の転動速度、タイヤ力Fの鉛直方向の荷重Fz、温度および路面状態レベルを、テーブルまたは関数に代入して最大摩擦係数を算出する。タイヤ力Fの鉛直方向成分Fzである荷重、および路面状態レベルは、演算モデル33aによって求められており、タイヤ10の温度はセンサ20によって計測される。また、タイヤ10の転動速度は、車両の走行速度に基づいて算出される。
【0034】
図4(a)〜図4(c)は、摩擦係数の路面状態、荷重および速度依存性の例を示すグラフである。図4(a)〜図4(c)において横軸はスリップ比、縦軸は摩擦係数を表している。図4(a)は路面が乾燥、湿潤、積雪および氷結の各状態のときの摩擦係数である。また図4(b)はタイヤに加わる各荷重における摩擦係数を、図4(c)はタイヤの各転動速度における摩擦係数を示している。図4(a)〜図4(c)に示すように、タイヤ10と路面との間の摩擦係数は、路面状態、荷重および速度に依存して変化する。
【0035】
図5(a)〜図5(c)は、最大摩擦係数の荷重、速度および温度依存性の例を示すグラフである。図5(a)〜図5(c)において横軸はそれぞれ荷重、速度、温度を表し、縦軸は最大摩擦係数を表している。図5(a)ではタイヤへの荷重が大きくなるにつれて最大摩擦係数が低下し、図5(b)でもタイヤの転動速度の増加につれて最大摩擦係数が低下することを示している。また図5(c)ではタイヤの温度に応じて最大摩擦係数が変化することを示している。図5(a)〜図5(c)に示すように、タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数は、タイヤの荷重、速度および温度に依存して変化する。
【0036】
次に最大摩擦係数推定システム100の動作を説明する。図6は、摩擦係数推定装置30による最大摩擦係数算出処理の手順を示すフローチャートである。摩擦係数推定装置30のセンサ情報取得部31は、センサ20で計測されたタイヤ10における加速度、タイヤ空気圧およびタイヤ温度などのタイヤ物理量の取得を開始する(S1)。
【0037】
演算処理部33は、タイヤ物理量を演算モデル33aに入力し、タイヤ力F、および路面状態レベルを算出する(S2)。ステップS2において、演算モデル33aは天候情報によって重みづけされ、実際の天候情報を加味した演算により路面状態レベルが算出されてもよい。
【0038】
最大摩擦係数算出部33cは、代表タイヤについての最大摩擦係数を算出するテーブルまたは関数を記憶部32から読み出す(S3)。最大摩擦係数算出部33cは、タイヤ10の仕様に応じて最大摩擦係数を算出するテーブルまたは関数を補正する(S4)。最大摩擦係数算出部33cは、補正したテーブルまたは関数に基づき最大摩擦係数を算出し(S5)、処理を終了する。
【0039】
最大摩擦係数推定システム100は、タイヤの種類毎に、代表タイヤについて最大摩擦係数を算出するテーブルまたは関数が設定されており、個々のタイヤ仕様に応じて当該テーブルまたは関数を補正することで、タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を効率良く推定することができる。最大摩擦係数を算出するテーブルまたは関数の補正には、タイヤ10のタイヤトレッド配合特性、タイヤの静的な接地面画像から得られるパラメータ等を用いることで、タイヤ10の仕様に応じた個々のタイヤに対するテーブルまたは関数を構築することができる。
【0040】
最大摩擦係数推定システム100は、タイヤの転動速度、荷重、温度および路面状態レベルを、最大摩擦係数を算出するテーブルまたは関数に代入し、最大摩擦係数を算出する。タイヤの転動速度、荷重、温度および路面状態レベルは、センサ20等を用いて直接的に計測され、または間接的に算出することによって取得することができる。
【0041】
最大摩擦係数推定システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20で計測されたタイヤ物理量を入力とする学習型の演算モデル33aを用いてタイヤ10の鉛直方向の荷重Fzおよび路面状態レベルを精度良く算出することができる。演算モデル33aは、天候情報に基づいて路面状態レベルの演算に重みづけして補正することで、実際の天候が反映された路面状態レベルが出力される。例えば、演算モデル33aがCNNを用いたニューラルネットワークにより構成されている場合、畳み込み演算等によって抽出された特徴量や、中間層から出力層への結合演算に対して天候情報に基づく重みづけによる補正をすることができる。
【0042】
次に実施形態に係る最大摩擦係数推定システム100および最大摩擦係数推定方法の特徴について説明する。
実施形態に係る最大摩擦係数推定システム100は、記憶部32および最大摩擦係数算出部33cを備える。記憶部32は、タイヤ10の転動速度、荷重、温度および路面状態レベルに基づいて、タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を代表のタイヤについて算出するテーブルまたは関数を記憶する。最大摩擦係数算出部33cは、前記テーブルまたは関数を個々のタイヤ仕様に応じて補正し、最大摩擦係数を算出する。これにより、最大摩擦係数推定システム100は、個々のタイヤ仕様に応じて前記テーブルまたは関数を補正することで、タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を効率良く推定することができる。
【0043】
最大摩擦係数算出部33cは、タイヤ仕様におけるタイヤトレッド配合特性に基づいて、前記テーブルまたは関数を補正する。また、最大摩擦係数算出部33cは、タイヤの接地面画像から得られるパラメータに基づいて前記テーブルまたは関数を補正する。これにより、最大摩擦係数推定システム100は、タイヤ10の仕様に応じた個々のタイヤに対するテーブルまたは関数を構築することができる。
【0044】
タイヤ10に配設されたセンサ20によって計測されるタイヤ10の物理量を取得するセンサ情報取得部31と、センサ情報取得部31によって取得したタイヤ10の物理量を入力して前記荷重および前記路面状態レベルを推定する演算モデル33aと、を更に備える。これにより、最大摩擦係数推定システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20で計測されたタイヤ物理量を入力とする演算モデル33aを用いてタイヤ10の鉛直方向の荷重Fzおよび路面状態レベルを精度良く算出することができる。
【0045】
演算モデル33aは、天候情報によって重みづけされて前記路面状態レベルを算出する。これにより、最大摩擦係数推定システム100は、天候情報に基づいて路面状態レベルの演算に重みづけして補正することで、実際の天候が反映された路面状態レベルを出力することができる。
【0046】
最大摩擦係数推定方法は、読出ステップおよび最大摩擦係数算出ステップを備える。読出ステップは、タイヤ10の転動速度、荷重、温度および路面状態レベルに基づいて、タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を代表のタイヤについて算出するテーブルまたは関数を読み出す。最大摩擦係数算出ステップは、前記テーブルまたは関数を個々のタイヤ仕様に応じて補正し、最大摩擦係数を算出する。この最大摩擦係数推定方法によれば、個々のタイヤ仕様に応じて前記テーブルまたは関数を補正することで、タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を効率良く推定することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0048】
10 タイヤ、 20 センサ、 31 センサ情報取得部、
32 記憶部、 33a 演算モデル、 33c 最大摩擦係数算出部、
100 最大摩擦係数推定システム。
【要約】
【課題】タイヤと路面との間の最大摩擦係数を効率良く推定することができる最大摩擦係数推定システムおよび最大摩擦係数推定方法を提供する。
【解決手段】最大摩擦係数推定システム100は、記憶部32および最大摩擦係数算出部33cを備える。記憶部32は、タイヤ10の転動速度、荷重、温度および路面状態レベルに基づいて、タイヤ10と路面との間の最大摩擦係数を代表のタイヤについて算出するテーブルまたは関数を記憶する。最大摩擦係数算出部33cは、前記テーブルまたは関数を個々のタイヤ仕様に応じて補正し、最大摩擦係数を算出する。
【選択図】図1
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図2
図3
図4
図5
図6