【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1に係る板反り矯正装置を備えた溶融金属めっき設備の構成について、
図1から
図4を参照して説明する。
【0016】
図1に示すように、溶融金属めっき設備1には、溶融された金属(溶融金属)Mが貯留されるめっき浴槽11が設けられている。溶融金属めっき設備1に通板された鋼板Sがめっき浴槽11(溶融金属M)の中を走行することにより、溶融金属Mが鋼板Sの表面に付着する。
【0017】
めっき浴槽11内には、回転自在に支持されるシンクロール12および複数(
図1においては、二つ)の浴中ロール13,14が設けられている。シンクロール12は、鋼板Sが巻き掛けられた多数のロールのうちの一つであり、鋼板Sは、これら多数のロール(シンクロール12を含む)によって連続的に走行される。なお、めっき浴槽11(溶融金属M)の中を走行する鋼板Sは、このシンクロール12によって走行方向を変換され、略鉛直方向上側(
図1においては、上方側)へ向けて走行される。
【0018】
浴中ロール13,14は、シンクロール12の通板方向下流側(鉛直方向上側であって、
図1においては上方側)において、鋼板Sを間に挟むように、すなわち、鋼板Sにおける一方(
図1においては、左方側)の面および他方(
図1においては、右方側)の面とそれぞれ対向するように配置されている。
【0019】
浴中ロール13,14には、当該浴中ロール13,14を鋼板Sに対して接近離反するように移動可能なロール移動モータ21,22がそれぞれ機械的に接続されている。溶融金属めっき設備1においては、ロール移動モータ21,22を駆動して浴中ロール13,14を移動することにより、当該浴中ロール13,14を鋼板Sと接触させ、鋼板Sの板幅方向における形状および鋼板Sのパスライン(通板位置)を調整することができる。
【0020】
浴中ロール13,14の通板方向下流側(鉛直方向上側であって、
図1においては上方側)には、鋼板Sの表面に形成される金属めっき層の厚みを調整するワイピングノズル15が設けられている。ワイピングノズル15は、鋼板Sを間に挟むように配置された第一ノズルユニット31と第二ノズルユニット32とから概略構成されている。ここで、第一ノズルユニット31は、鋼板Sの一方の面に対向して配置されており、第二ノズルユニット32は、鋼板Sの他方の面に対向して配置されている。
【0021】
第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32は、鋼板Sに対して所定のガスを噴き付けることにより、当該鋼板Sの表面に付着した余剰分の溶融金属Mを払拭するものである。なお、溶融金属めっき設備1において鋼板Sの表面に形成される金属めっき層の厚みは、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32と鋼板Sとの距離、ならびに、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32から鋼板Sに対して噴き付けられるガスの圧力によって調整される。
【0022】
ワイピングノズル15の通板方向下流側(鉛直方向上側であって、
図1においては上方側)には、鋼板Sの板形状を矯正する板反り矯正装置16が設けられている。板反り矯正装置16は、鋼板Sを間に挟むように配置された第一矯正ユニット41と第二矯正ユニット42とから概略構成されている。ここで、第一矯正ユニット41は、鋼板Sの一方の面に対向して(鋼板Sの板厚方向一方側に)配置されており、第二矯正ユニット42は、鋼板Sの他方の面に対向して(鋼板Sの板厚方向他方側に)配置されている。
【0023】
第一矯正ユニット41および第二矯正ユニット42は、鋼板Sに対して磁力を作用させることにより、鋼板Sの板幅方向における形状を矯正(板反り矯正)すると共に、当該鋼板Sの振動を抑制(制振)するものである。
【0024】
図2および
図3に示すように、第一矯正ユニット41には、鋼板Sと対向して当該鋼板Sの板幅方向(水平方向であって、
図2においては左右方向)に延びる支持フレーム(第一支持部材)51が設けられており、この支持フレーム51には、当該支持フレーム51を図示しない構造物に対して鋼板Sの通板方向と直交する面(水平面)内で移動可能な第一フレーム移動モータ52、第二フレーム移動モータ53および第三フレーム移動モータ54が機械的に接続されている。
【0025】
図3に示すように、第一フレーム移動モータ52は、支持フレーム51の一端部(
図3においては、右方側端部)と接続し、当該支持フレーム51を鋼板Sの板幅方向(
図3においては、左右方向)に移動するものである。第二フレーム移動モータ53は、支持フレーム51の一端部と接続し、当該支持フレーム51の一端部を鋼板Sの板厚方向(
図3においては、上下方向)に移動するものである。第三フレーム移動モータ54は、支持フレーム51の他端部(
図3においては、左方側端部)と接続し、当該支持フレーム51の他端部を鋼板Sの板厚方向に移動するものである。
【0026】
例えば、第二フレーム移動モータ53および第三フレーム移動モータ54が同方向に駆動された場合には、支持フレーム51は鋼板の通板方向と直交する面(水平面)内であって鋼板Sの板厚方向に平行移動(シフト)され、第二フレーム移動モータ53または第三フレーム移動モータ54のいずれか一方が駆動された場合、あるいは、第二フレーム移動モータ53および第三フレーム移動モータ54が逆方向に駆動された場合には、支持フレーム51は鋼板の通板方向と直交する面(水平面)内において旋回移動(スキュー)される。
【0027】
図2に示すように、支持フレーム51には、当該支持フレーム51の長手方向(鋼板Sの板幅方向であって、
図2においては左右方向)に並んで当該支持フレーム51の下方(鉛直方向下側)へ延びる複数(
図2においては、四つ)の移動ブロック55a,55b,55c,55dが設けられており、これら複数の移動ブロック55a〜55dには、当該移動ブロック55a〜55dを支持フレーム51に対して長手方向に移動可能な複数(
図2においては、四つ)のブロック移動モータ56a,56b,56c,56dがそれぞれ機械的に接続されている。
【0028】
複数のブロック移動モータ56a〜56dは、支持フレーム51内に収容された図示しないギヤ機構を介して、各移動ブロック55a〜55dと接続されており、複数の移動ブロック55a〜55dは、各ブロック移動モータ56a〜56dの駆動によってそれぞれ独立して支持フレーム51の長手方向に移動される。
【0029】
もちろん、本発明は、本実施例のように複数の移動ブロック55a〜55dをそれぞれ独立して移動する複数のブロック移動モータ56a〜56dを備えたものに限定されない。例えば、複数の移動ブロック55a〜55dを支持フレーム51内に収容された図示しないギヤ機構を介して一つのブロック移動モータ(不図示)と機械的に接続し、当該複数の移動ブロック55a〜55dが一つのブロック移動モータの駆動によって支持フレーム51の長手方向において対称的に移動されるようにしても良い。
【0030】
複数の移動ブロック55a〜55dには、鋼板Sに対して磁力を作用させる電磁石57a,57b,57c,57dと、鋼板Sまでの距離(当該移動ブロック55a〜55dに設けられた電磁石57a〜57dと鋼板Sとの間の距離)を検出する距離センサ58a,58b,58c,58dとがそれぞれ設けられている。なお、電磁石57a〜57dおよび距離センサ58a〜58dは、各移動ブロック55a〜55dの長手方向(鉛直方向であって、
図2においては上下方向)に並んで配置されており、電磁石57a〜57dは、距離センサ58a〜58dよりも通板方向上流側(第一ノズルユニット31に近い側であって、
図2においては下方側)に位置している。
【0031】
また、
図2に示すように、支持フレーム51には、その両端部(
図2においては、左右両端部)に設けられた接続フレーム51aを介して、第一ノズルユニット31が連結されている。よって、第一フレーム移動モータ52、第二フレーム移動モータ53および第三フレーム移動モータ54の駆動によって支持フレーム51が水平面内において移動されると、当該支持フレーム51の移動に伴って第一ノズルユニット31が水平面内において移動される(
図2および
図3参照)。なお、第一ノズルユニット31を支持フレーム51に対して相対的に移動させる機構(不図示)を設けることにより、第一ノズルユニット31の精緻な位置合わせを行うことができる。
【0032】
図2および
図3に示すように、第二矯正ユニット42には、第一矯正ユニット41と同様に、支持フレーム(第二支持部材)61と、移動ブロック65a,65b,65c,65dと、電磁石67a,67b,67c,67dと、距離センサ68a,68b,68c,68dとがそれぞれ設けられている。
【0033】
第二矯正ユニット42の支持フレーム61は、第一矯正ユニット41の支持フレーム51と同様に、第一フレーム移動モータ62、第二フレーム移動モータ63および第三フレーム移動モータ64と機械的に接続されており、これら第一フレーム移動モータ62と第二フレーム移動モータ63と第三フレーム移動モータ64とによって鋼板Sの通板方向と直交する面(水平面)内において移動されるようになっている。
【0034】
また、支持フレーム61は、その両端部(
図2においては、左右両端部)に設けられた接続フレーム61aを介して、第二ノズルユニット32と連結されている。よって、第一フレーム移動モータ62、第二フレーム移動モータ63および第三フレーム移動モータ64の駆動によって支持フレーム61が水平面内において移動されると、当該支持フレーム61の移動に伴って第二ノズルユニット32が水平面内において移動される。なお、第二ノズルユニット32を支持フレーム61に対して相対的に移動させる機構(不図示)を設けることにより、第二ノズルユニット32の精緻な位置合わせを行うことができる。
【0035】
第二矯正ユニット42の移動ブロック65a〜65dは、第一矯正ユニット41の移動ブロック55a〜55dと同様に、ブロック移動モータ66a,66b,66c,66dとそれぞれ機械的に接続されており、支持フレーム61の長手方向(鋼板Sの板幅方向)にそれぞれ独立して移動されるようになっている。
【0036】
本実施例においては、支持フレーム51,61と、第一フレーム移動モータ52,62と、第二フレーム移動モータ53,63と、第三フレーム移動モータ54,64と、移動ブロック55a〜55d,65a〜65dと、ブロック移動モータ56a〜56d,66a〜66dとによって、電磁石57a〜57d,67a〜67dを鋼板Sに対して移動可能な移動機構を構成しており、第一フレーム移動モータ52,62と第二フレーム移動モータ53,63と第三フレーム移動モータ54,64とによって支持フレーム51,61を鋼板Sの通板方向と直交する面内でそれぞれ移動可能とし、ブロック移動モータ56a〜56d,66a〜66dによって電磁石57a〜57d,67a〜67dを鋼板Sの板幅方向にそれぞれ移動可能としている。
【0037】
図2および
図3に示すように、板反り矯正装置16には、鋼板Sの板幅方向における端部の位置を検出するエッジセンサ59,69が設けられている。一方のエッジセンサ59は、第一矯正ユニット41の支持フレーム51における一端部(
図3においては、左方側端部)に設けられており、このエッジセンサ59によって、鋼板Sの板幅方向における一方側の端部(
図3においては、左方側端部)が検出される。他方のエッジセンサ69は、第二矯正ユニット42の支持フレーム61における他端部(
図3においては、右方側端部)に設けられており、このエッジセンサ69によって、鋼板Sの板幅方向における他方側の端部(
図3においては、右方側端部)が検出される。つまり、第一矯正ユニット41および第二矯正ユニット42に設けられた二つのエッジセンサ59,69により、鋼板Sの板幅方向における両端部が検出される。
【0038】
もちろん、本発明は、本実施例のように各支持フレーム51,61に一つずつ設けられるエッジセンサ59,69を備えたものに限定されない。例えば、鋼板Sの板幅方向における一方側の端部を検出するエッジセンサ59および他方側の端部を検出するエッジセンサ69を、支持フレーム51または支持フレーム61のいずれか一方に設ける、または、支持フレーム51および支持フレーム61の両方にそれぞれ設けるようにしても良い。
【0039】
また、
図4に示すように、溶融金属めっき設備1には、鋼板Sの板反り矯正の動作制御を行う制御部17が設けられており、この制御部17には、ロール移動モータ21,22および板反り矯正装置16がそれぞれ電気的に接続されている。
【0040】
つまり、制御部17には、板反り矯正装置16における電磁石57a〜57d,67a〜67dに流れる電流値、距離センサ58a〜58d,68a〜68dによる検出結果(鋼板Sと移動ブロック55a〜55d,65a〜65dとの間の距離)、および、エッジセンサ59,69による検出結果(鋼板Sの板幅方向における両端部の位置)の情報が送られるようになっている。そして、制御部17は、これらの情報に基づいて、ロール移動モータ21,22、第一フレーム移動モータ52,62、第二フレーム移動モータ53,63、第三フレーム移動モータ54,64、および、ブロック移動モータ56a〜56d,66a〜66dの駆動をそれぞれ制御するようになっている。
【0041】
なお、各電磁石57a〜57d,67a〜67dに流れる(供給される)電流の電流値は、当該電磁石57a〜57d,67a〜67dの動作を制御する制御部17に把握されるものとする。もちろん、本発明は、本実施例に限定されず、例えば、各電磁石に供給される電流の電流値を検出する電流計を備えたものであっても良い。
【0042】
本発明の実施例1に係る板反り矯正装置を備えた溶融金属めっき設備の動作について、
図1から
図7を参照して説明する。
【0043】
溶融金属めっき設備1によるめっき処理の工程において、鋼板Sは、多数のロール(シンクロール12を含む)によって連続的に走行され、めっき浴槽11の溶融金属Mに浸されることにより、その表面に溶融金属Mが付着する(
図1参照)。
【0044】
続いて、鋼板Sは、シンクロール12および浴中ロール13,14を介して鉛直方向上側へ向けて走行され、ワイピングノズル15における第一ノズルユニット31と第二ノズルユニット32との間を通過する際に、その表面に付着した余剰分の溶融金属Mが払拭される。
【0045】
このとき、鋼板Sは、ワイピングノズル15の通板方向下流側に配置された板反り矯正装置16によって板反り矯正および制振されている。ここで、溶融金属めっき設備1における板反り矯正の動作は、制御部17によって制御されており(
図4参照)、以下に示す第一ステップから第四ステップを含む。
【0046】
まず、第一ステップ(第二移動制御)として、制御部17は、電磁石57a〜57d,67a〜67dに印加していない状態で、エッジセンサ59,69の検出結果に基づいて、複数のブロック移動モータ56a〜56d,66a〜66dを駆動し、複数の移動ブロック55a〜55d,65a〜65dを所定の位置に移動する(
図2から
図4参照)。
【0047】
第一ステップにおいて、複数の移動ブロック55a〜55d,65a〜65d(電磁石57a〜57d,67a〜67dおよび距離センサ58a〜58d,68a〜68d)は、支持フレーム51,61の長手方向(鋼板Sの板幅方向)にそれぞれ移動され、鋼板Sの板幅方向外側に位置するそれぞれ二つの移動ブロック55a,55d,65a,65dは、鋼板Sの板幅方向における端部近傍にそれぞれ配置され、鋼板Sの板幅方向内側に位置するそれぞれ二つの移動ブロック55b,55c,65b,65cは、各移動ブロック55a〜55d,65a〜65d間の距離が略同じとなるように配置される(
図5Aおよび
図5B参照)。
【0048】
第一ステップによれば、板幅方向に並んで配置された複数の電磁石57a〜57d,67a〜67dによって生じる磁力が、鋼板Sの板幅方向全体に効率的に作用することとなるので、本実施例においては、電磁石57a〜57d,67a〜67dとして吸引力の大きいものを採用しなくても、鋼板Sを十分に矯正することができる。もちろん、電磁石57a〜57d,67a〜67dとして吸引力の十分に大きいものを採用する場合には、板反り矯正の動作において第一ステップを省略することも可能である。
【0049】
なお、鋼板Sが支持フレーム51,61における移動ブロック55a〜55d,65a〜65dの可動領域内に存在しない場合には、制御部17は、エッジセンサ59,69の検出結果に基づいて、第一フレーム移動モータ52,62を駆動し、支持フレーム51,61を移動する。
【0050】
よって、鋼板Sが支持フレーム51,61における移動ブロック55a〜55d,65a〜65dの可動領域内に存在するようになり、第一ステップを行うことができるようになる。
【0051】
次に、第二ステップ(第三移動制御)として、制御部17は、電磁石57a〜57d,67a〜67dに印加していない状態で、距離センサ58a〜58d,68a〜68dの検出結果に基づいて、第二フレーム移動モータ53,63および第三フレーム移動モータ54,64を駆動し、支持フレーム51,61を所定の位置に移動する(
図2から
図4参照)。
【0052】
このとき、制御部17は、鋼板Sの板形状(エッジセンサ59,69および距離センサ58a〜58d,68a〜68dの検出結果)に基づいて、目標とする鋼板Sの板形状(目標パスラインL
1)を演算する(
図5C参照)。
【0053】
第二ステップにおいて、支持フレーム51,61(第一矯正ユニット41および第二矯正ユニット42、ならびに、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32)は、水平面内で(鋼板Sの板厚方向に)移動され、目標パスラインL
1から所定の距離に配置される(
図5D参照)。つまり、支持フレーム51,61(電磁石57a〜57d,67a〜67d)は、鋼板Sのパスライン(目標パスラインL
1)と平行、かつ、電磁石57a〜57d,67a〜67dの吸引力が鋼板Sに対して十分に作用可能な範囲に位置される。
【0054】
第二ステップによれば、鋼板Sと電磁石57a〜57d,67a〜67dとの相対的な位置の偏りが小さくなる(
図6A参照)ので、本実施例においては、電磁石57a〜57d,67a〜67dとして吸引力の大きいものを採用しなくても、鋼板Sを十分に矯正することができる。もちろん、電磁石57a〜57d,67a〜67dとして吸引力の十分に大きいものを採用する場合には、板反り矯正の動作において第二ステップを省略することも可能である。ここで、
図6Aは、第一矯正ユニット41と第二矯正ユニット42との間において目標パスラインL
1に対して鋼板Sが位置する状態を示したものであり、第二ステップの前(第一ステップの後)における鋼板Sの状態を二点差鎖線で示し、第二ステップの後における鋼板Sの状態を実線で示している。
【0055】
次に、第三ステップ(磁力制御)として、制御部17は、距離センサ58a〜58d,68a〜68dの検出結果に基づいて、電磁石57a〜57d,67a〜67dを動作し、鋼板Sの板反りを矯正する(
図2から
図4および
図5E参照)。
【0056】
第三ステップにおいて、電磁石57a〜57d,67a〜67dと鋼板Sとの距離に応じた電流が各電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給され、各電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給された電流値に応じた(比例する)吸引力が鋼板Sに作用する。具体的には、鋼板Sの板形状が目標パスラインL
1に一致する(近づく)ように、各電磁石57a〜57d,67a〜67dの吸引力(磁力)、すなわち、各電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給する電流値が調整される。
【0057】
第三ステップによれば、鋼板Sの板反りが適性に矯正される(
図6B参照)。ここで、
図6Bは、第一矯正ユニット41と第二矯正ユニット42との間において目標パスラインL
1に対して鋼板Sが位置する状態を示したものであり、第三ステップの前(第二ステップの後)における鋼板Sの状態を二点差鎖線で示し、第三ステップの後における鋼板Sの状態を実線で示している。
【0058】
本実施例においては、電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力をそれぞれ調整することにより、鋼板Sを目標パスラインL
1、すなわち、対向する電磁石57a〜57dと電磁石67a〜67dとの間の中央位置(厳密には距離センサ58a〜58dと距離センサ68a〜68dとの間の中央位置)に位置させている。
【0059】
もちろん、本発明は、本実施例に限定されず、例えば、ワイピングノズル15と板反り矯正装置16、すなわち、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32と第一矯正ユニット(電磁石57a〜57d)および第二矯正ユニット(電磁石67a〜67d)との相対位置関係を考慮して、電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力をそれぞれ調整しても良い。つまり、鋼板Sが対向する電磁石57a〜57dと電磁石67a〜67dとの間の中央位置からずれた所定位置に位置するように、電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力をそれぞれ調整することにより、鋼板Sを確実に第一ノズルユニット31と第二ノズルユニット32との中央位置に位置させることができる。
【0060】
また、鋼板Sの表面に形成する金属めっき層の厚みを考慮して、電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力をそれぞれ調整しても良い。つまり、鋼板Sが対向する電磁石57a〜57dと電磁石67a〜67dとの間の中央位置から金属めっき層を薄く形成する側(例えば、電磁石57a〜57dの側)に寄せた所定位置に位置するように、電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力をそれぞれ調整することにより、鋼板Sの表面に形成する金属めっき層の厚みを一方の面および他方の面(表裏面)で異にすることができる。
【0061】
次に、第四ステップ(第一移動制御)として、制御部17は、電磁石57a〜57d,67a〜67dに印加している状態で、各電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給される電流値に基づいて、第二フレーム移動モータ53,63および第三フレーム移動モータ54,64を駆動し、支持フレーム51,61すなわち電磁石57a〜57dおよび電磁石67a〜67dをそれぞれ一群として移動する(
図2から
図4参照)。
【0062】
このとき、制御部17は、所定の条件で支持フレーム51,61を平行移動するシフト制御と、所定の条件で支持フレーム51,61を旋回移動するスキュー制御とを行う(
図5Eおよび
図5F参照)。
【0063】
第四ステップにおけるシフト制御は、第一矯正ユニット41における各電磁石57a〜57dに供給される電流値の合計(I
SUM1=I
57a+I
57b+I
57c+I
57d)と、第二矯正ユニット42における各電磁石67a〜67dに供給される電流値の合計(I
SUM2=I
67a+I
67b+I
67c+I
67d)とを求め、これら合計の差が小さくなるように支持フレーム51,61を平行移動するものである(I
SUM1−I
SUM2≒0、すなわち、I
SUM1≒I
SUM2)。ここで、I
57a〜I
57d,I
67a〜I
67dは、各電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給される電流値である。
【0064】
第四ステップにおけるスキュー制御は、第一矯正ユニット41の板幅方向において中央よりも一端側に配置された二つの電磁石57a,57bに供給される電流値の合計(I
57a+I
57b)と第二矯正ユニット42の板幅方向において中央よりも他端側に配置された二つの電磁石67c,67dに供給される電流値の合計(I
67c+I
67d)との総和(I
SUM3=I
57a+I
57b+I
67c+I
67d)と、第二矯正ユニット42の板幅方向における中央よりも一端側に配置された二つの電磁石67a,67bに供給される電流値の合計(I
67a+I
67b)と第一矯正ユニット41の板幅方向における中央よりも他端側に配置された二つの電磁石57c,57dに供給される電流値の合計(I
57c+I
57d)との総和(I
SUM4=I
57c+I
57d+I
67a+I
67b)とを求め、これら総和の差が小さくなるように支持フレーム51,61を旋回移動するものである(I
SUM3−I
SUM4≒0、すなわち、I
SUM3≒I
SUM4)。
【0065】
言い換えると、第四ステップにおけるスキュー制御は、支持フレーム51,61の長手方向中央を回転中心にして当該支持フレーム51,61を一方(例えば、
図5Eにおいては、反時計回り)に旋回させる引張力を生じる側の電磁石57a,57bおよび電磁石67c,67dに供給される電流値の合計(I
SUM3=I
57a+I
57b+I
67c+I
67d)と、支持フレーム51,61の長手方向中央を回転中心にして当該支持フレーム51,61を他方(例えば、
図5Eにおいては、時計回り)に旋回させる引張力を生じる側の電磁石57c,57dおよび電磁石67a,67bに供給される電流値の合計(I
SUM4=I
57c+I
57d+I
67a+I
67b)との差が最も小さくなるまで、支持フレーム51,61を旋回移動するものである。
【0066】
第四ステップにおいて、シフト制御とスキュー制御とが組み合わせて行われることにより、支持フレーム51,61(第一矯正ユニット41および第二矯正ユニット42、ならびに、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32)は、各電磁石57a〜57d,67a〜67dの負荷(吸引力)が略同等(均一)となるように水平面内で移動され、鋼板Sは、前述の目標パスラインL
1から新たなパスラインL
2へ移動される(
図5Eおよび
図5F参照)。
【0067】
もちろん、本発明は、本実施例のように、電磁石57a〜57d,67a〜67dに流れる電流値I
57a〜I
57d,I
67a〜I
67dをモニタリングしながら支持フレーム51,61を移動することにより、鋼板Sが最終的に新たなパスラインL
2へ移動されるものに限定されない。例えば、電磁石57a〜57d,67a〜67dに流れる電流値I
57a〜I
57d,I
67a〜I
67dの変化と鋼板Sのパスライン(通板位置)の移動量との関係を予め数式化またはデータ化しておき、ある時点での電磁石57a〜57d,67a〜67dに流れる電流値I
57a〜I
57d,I
67a〜I
67dに基づいて、各電磁石57a〜57d,67a〜67dの負荷(吸引力)を均一化するための新たな目標パスラインL
2を予め(第三ステップの後に)演算し、支持フレーム51,61を演算した目標パスラインL
2から所定の距離に移動するようにしても良い。
【0068】
第四ステップによれば、電磁石57a〜57d,67a〜67dの吸引力、すなわち、電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給された電流値が均一かつ小さくなる(
図7参照)。ここで、
図7は、鋼板Sの板幅方向に配置された各電磁石57a〜57d,67a〜67d(
図7においては、a=57a,67a、b=57b,67b、c=57c,67c、d=57d,67dをそれぞれ示す)の吸引力を示したものであり、第四ステップの前(第三ステップの後)における各電磁石57a〜57d,67a〜67dの吸引力を二点差鎖線で示し、第四ステップの後における各電磁石57a〜57d,67a〜67dの吸引力を実線で示している。
【0069】
なお、第四ステップにおいて、制御部17は、シフト制御およびスキュー制御を行いつつ、距離センサ58a〜58d,68a〜68dの検出結果に基づいて各電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力を調整し、鋼板Sが対向する電磁石57a〜57dと電磁石67a〜67dと間の所定位置に位置するように制御しており、各電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給される電流値I
57a〜I
57d,I
67a〜I
67dは、支持フレーム51,61の移動(平行移動および旋回移動)に応じて変化している。
【0070】
よって、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32は、支持フレーム51,61と共に、鋼板Sから所定の距離に維持されながら移動されるので、当該第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32と鋼板Sとの距離が変化することはなく、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32によって鋼板Sの表面に付着した余剰分の溶融金属Mを適正に払拭し、所望の厚みの金属めっき層が形成される(
図2から
図4参照)。
【0071】
本実施例においては、電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力をそれぞれ調整することにより、鋼板Sを目標パスラインL
1(第四ステップ参照)、すなわち、対向する電磁石57a〜57dと電磁石67a〜67dとの間の中央位置(厳密には距離センサ58a〜58dと距離センサ68a〜68dとの間の中央位置)に位置させている。
【0072】
もちろん、本発明は、本実施例に限定されず、例えば、ワイピングノズル15と板反り矯正装置16、すなわち、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32と第一矯正ユニット(電磁石57a〜57d)および第二矯正ユニット(電磁石67a〜67d)との相対位置関係、または、鋼板Sの表面に形成する金属めっき層の厚みを考慮して、電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力をそれぞれ調整しても良い。
【0073】
本発明に係る板反り矯正方法は、上述した板反り矯正装置16の動作によるものに限定されず、電磁石に流れる電流値に基づいて電磁石が配置される位置よりも通板方向上流側に配置されたロールを移動する第五ステップ(ロール移動制御)を含むものであっても良い。つまり、溶融金属めっき設備1における板反り矯正の動作は、上述した第一ステップから第四ステップに加え、以下に示す第五ステップを含むことも可能である。
【0074】
第五ステップ(ロール移動制御)として、制御部17は、電磁石57a〜57d,67a〜67dに印加している状態で、電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給される電流値に基づいて、ロール移動モータ21,22を駆動し、浴中ロール13,14を移動する(
図2参照)。
【0075】
第五ステップにおいて、浴中ロール13,14は、ロール移動モータ21,22の駆動によって鋼板Sに対して接近離反され、均一化された各電磁石57a〜57d,67a〜67dの負荷(吸引力)が更に小さくなるように配置される。
【0076】
第五ステップによれば、第一ステップから第四ステップにおいて略均一化された各電磁石57a〜57d,67a〜67dの負荷(吸引力)が更に小さくなるので、電磁石57a〜57d,67a〜67dによる鋼板の板反りの矯正をより効率的に行うことができる。
【0077】
なお、第五ステップにおいて、制御部17は、浴中ロール13,14およびロール移動モータ21,22を動作制御しつつ、距離センサ58a〜58d,68a〜68dの検出結果に基づいて各電磁石57a〜57d,67a〜67dの磁力を調整し、鋼板Sが対向する電磁石57a〜57dと電磁石67a〜67dと間の所定位置に位置するように制御しており、各電磁石57a〜57d,67a〜67dに供給される電流値は、浴中ロール13,14の移動に応じて変化している。
【0078】
よって、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32は、支持フレーム51,61と共に、鋼板Sから所定の距離に維持されながら移動されるので、当該第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32と鋼板Sとの距離が変化することはなく、第一ノズルユニット31および第二ノズルユニット32によって鋼板Sの表面に付着した余剰分の溶融金属Mを適正に払拭し、所望の厚みの金属めっき層が形成される(
図2から
図4参照)。
【0079】
もちろん、本発明は、上述したように、電磁石57a〜57d,67a〜67dに流れる電流値をモニタリングしながら浴中ロール13,14を移動することにより、鋼板Sが最終的に新たなパスラインへ移動されるものに限定されない。例えば、各電磁石57a〜57d,67a〜67dの負荷(吸引力)を均一化するための新たな目標パスラインを予め(第四ステップの後に)演算し、鋼板Sが演算した目標パスラインと一致するように浴中ロール13,14を移動するようにしても良い。
【0080】
以上に説明した本実施例による作用および効果について、鋼板の特性に触れて従来技術のものと比較する。
【0081】
一般に、鋼板を製造する設備において連続的に走行される鋼板には、その鋼種や操作条件の変更等および板反り矯正の動作に伴って、板厚方向へ移動(平行移動や旋回移動)する特性がある。
【0082】
ここで、従来技術においては、平行移動や旋回移動する鋼板を電磁石の磁力によって矯正する、すなわち、電磁石の磁力によって鋼板の移動を抑止しつつ板反りの矯正を行っている。よって、電磁石には、鋼板の板反りを矯正する矯正力だけでなく、鋼板の移動を抑止する抑止力が必要であり、当該電磁石に掛かる負荷すなわち電流値は大きい。
【0083】
これに対し、本実施例においては、電磁石57a〜57d,67a〜67dに流れる電流値に基づいて当該電磁石57a〜57d,67a〜67dを移動(平行移動や旋回移動)することにより、鋼板Sの移動を電磁石57a〜57d,67a〜67dに流れる電流値から読み取り、鋼板Sの移動に応じて電磁石57a〜57d,67a〜67dを移動することができる。つまり、鋼板Sの移動を許容しつつ板反りの矯正を行っている。よって、電磁石57a〜57d,67a〜67dには、鋼板Sの板反りを矯正する矯正力のみが必要であり、鋼板Sの移動を抑止する抑止力が必要ないので、電磁石57a〜57d,67a〜67dに掛かる負荷すなわち電流値は低減される。
【0084】
なお、従来技術においては、鋼板の移動を抑止しつつ板反りの矯正を行っているため、鋼板が溶融金属めっき設備(地面)に対して常に一定の位置(パスライン)で搬送されるのに対し、本実施例においては、鋼板Sの移動を許容しつつ板反りの矯正を行っているため、鋼板Sが溶融金属めっき設備1(地面)に対して移動されながら(パスラインが変化しながら)搬送されることとなる。