【実施例】
【0055】
以下に、本開示による耐摩耗性銅亜鉛合金の1つの実施例について、
図1を用いて説明する。
【0056】
図1のNo.5、6、8〜18、22〜26に示すように、本実施例において、耐摩耗性銅亜鉛合金は28〜55質量%のZnを含む銅亜鉛合金(ベース材:No.1〜4参照)にP又はMnのうちのいずれかを含有させて母相に固溶させたものである。Znは、Cuよりも低コストであるため、含有量を多くしており、また、母相をα相、(α+β)相、β相又は(β+γ)相とするような含有量としている。例えば、Znの含有量は、28〜55質量%であり、典型的には30、40、45、又は52質量%である。
【0057】
耐摩耗性を向上させる手段として、ビッカース硬さで1500HV程度以上の硬さとなるアルミナに代表されるような硬質な酸化物や硬質な金属間化合物を母相に分散させる手段も用いられているが、本実施例においては、母相にPやMnを固溶させることで硬さを高くして耐摩耗性を向上させる。この場合、製造時や使用時に生じ得る表面の酸化被膜においては少なくともアルミナよりは軟質なPやMnの酸化物を生成させる。このように表面に生成され得る酸化物を比較的軟質なものとすることで、摩耗の進行の際に摺動面から酸化被膜の一部を脱落させてもその噛み込みによる摺動面の損傷を抑制し摩耗の過度な進行を抑制して、向上させた耐摩耗性を維持しようとするものである。
【0058】
また、Znよりも酸化しやすいP又はMnを第3元素として含むため、脱亜鉛腐食をも抑制できる。
【0059】
さらに、Pは、CuやZnとは原子半径が大きく異なるため、母相に固溶させることで材料をより強化させ得る。なお、Pは、母相に固溶するだけでなく、CuやZnと金属間化合物を形成する傾向があり、これによっても硬さの向上に寄与し得ると考えられるが、積極的に金属間化合物を生成させようとするものではない。Pの金属間化合物は、Siなどの金属間化合物に比べて軟質ではあるものの、少なくとも母相よりは硬い。そのため、摩耗の進行により脱落しても摺動面への影響をより小さくするよう、その金属間化合物の平均粒径を5μm以下としてもよい。
【0060】
本実施例による耐摩耗性銅亜鉛合金によれば、少なくとも高力黄銅合金として知られるCu−26Zn−4.2Al−2.2Fe−3Mnや、硬質なMn珪化物を耐摩耗性粒子として含むCu−28Zn−3.2Al−3Mn−0.6Si−1Niよりも高い耐摩耗性を得られる。
【0061】
次に、
図1に示す成分組成の銅亜鉛合金において、導電率の測定、硬さ測定、比摩耗量の測定を行ったのでその結果について説明する。
【0062】
No.1〜28に示す成分組成の銅亜鉛合金の溶湯をφ77mm×160mmLの形状に鋳込み、そのうちの一部(No.11、13、24、26及び27)についてはさらに熱間鍛造して35mm角に成形し、各測定に供した。
【0063】
導電率は、JIS Z 0505に準拠して測定した。また、硬さはJIS Z 2243に準拠してブリネル硬さを測定した。なお、試験力は500kgf(4903N)、1000kgf(9807N)、3000kgf(29420N)に、適宜、変更した。
【0064】
比摩耗量は、葉山式摩耗試験機を用いたピン・オン・リング式試験によって測定した。試験片の寸法を5mm×5mm×25mmとし、相手材に硬さHRC50に調整したSCM435材を用い、潤滑油なしで、面圧を40kgf/cm
2(392N/cm
2)、周速を1.0m/sec、走行距離を2kmとした。
【0065】
図1に示すように、No.1〜4は、Cu及びZnの2元素からなる銅亜鉛合金で他の材料の比較対象とするベース材であり、Znの含有量(質量%)を30%、40%、45%及び52%とした。その結果、比摩耗量をそれぞれ4.40×10
−7、7.00×10
−7、5.20×10
−7、及び、4.40×10
−7mm
2/kgf(4.49×10
−8、7.14×10
−8、5.30×10
−8、及び、4.49×10
−8mm
2/N)とした。つまり、Znの含有量を40%とする場合に最も比摩耗量が大きく、30%に減少させても、52%に増加させても比摩耗量が小さくなった。また、導電率についてはZnの含有量を多くすると高くなる傾向にあり、29〜39%IACSの範囲で変化した。
【0066】
図2に示すように、ベース材(No.1〜4)の硬さについては、Znの含有量を[Zn]質量%とすると、
硬さ(HBW)=3.6[Zn]−55 (式1)
と近似できるほぼ線形の関係があった。
【0067】
No.5〜26のうち、同等のZnを含有するベース材よりも比摩耗量を小さくすれば、少なくともP又はMnの第3元素やその他の添加元素によって、耐摩耗性を向上させていると言える。すなわち、No.5、6、8〜18、及び、22〜26はいずれも同等のZnを含有するベース材よりも比摩耗量を小さくし、耐摩耗性を向上させている。
【0068】
より詳細には、Znを約45質量%とし、第3元素としてPを含有させたNo.7〜13において、約0.2質量%の含有では、比摩耗量は5.88×10
−7mm
2/kgf(6.00×10
−8mm
2/N)とベース材(No.3)の5.20×10
−7mm
2/kgf(5.30×10
−8mm
2/N)よりも大きくしたものの、添加量を増加させると比摩耗量は減じ、約1質量%の添加において最も小さく2.21×10
−7mm
2/kgf(2.25×10
−8mm
2/N)となった。これより含有量を増やすと比摩耗量は増加傾向にある。すなわち、Pの含有量を0.5〜2質量%の範囲内とすることで耐摩耗性を向上させている。
【0069】
また、Znを約30質量%として、同様に第3元素としてPを含有させたNo.5及び6において、約1質量%及び約2質量%の含有でそれぞれ比摩耗量を2.82×10
−7及び2.10×10
−7mm
2/kgf(2.88×10
−8及び2.14×10
−8mm
2/N)と、ベース材(No.1)の4.40×10
−7mm
2/kgf(4.49×10
−8mm
2/N)よりも小さくした。つまり、Znを約30質量%の含有量とした場合も、第3元素としてPを含有させることで耐摩耗性を向上させ得る。
【0070】
また、その他の添加物としてMnやSnをさらに含有させてもよい。No.14〜16に示すように、MnやSnをさらに含ませても、ベース材であるNo.3よりも小さい比摩耗量とし得る。このとき、Mnは3質量%以下とされ、Snは2質量%以下とされる。
【0071】
さらに、No.17、18に示すように、Znの含有量を約52質量%及び約54質量%としても同様にP、Mn、Snの含有によって比摩耗量をベース材(No.4)の4.40×10
−7mm
2/kgf(4.49×10
−8mm
2/N)よりも低減し得る。以上により、Pを第3元素として添加した場合に比摩耗量を低減し得るようなZnの含有量は28〜55質量%の範囲内とされる。
【0072】
第3元素をPの代わりにMnとした場合においても、Pの場合と同様に比摩耗量を向上させる観点からMnの含有量は、No.21〜24の結果より、1〜6質量%の範囲内とされる。但し、No.19及び20の結果から、Znの含有量を約30質量%とした場合に、Pの場合とは異なり第3元素としてMnを添加しても比摩耗量をベース材(No.1)よりも大きくしてしまう。つまり、Mnを第3元素として添加する場合のZnの含有量は40〜55質量%の範囲内とされる。
【0073】
また、第3元素をMnとした場合に、その他の添加物としてPやSnをさらに含有させてもよい。No.25やNo.26に示すように、さらにSnを含有させても、Znの含有量を約45質量%とするベース材であるNo.3よりも小さい比摩耗量とし得る。Pについても同様に添加し得る。このとき、Snは、2質量%以下とされる。また、Pは上記したPを第3元素とする場合との重複を避ける意味で0.5質量%未満とされる。
【0074】
鍛造材であるNo.11、13、24、26を、それぞれ鋳造材であるNo.10、12、23、25と比べると、鍛造材は比摩耗量を鋳造材と同等程度としたまま、硬さを鋳造材よりも高くさせる傾向にあることが判る。つまり、鍛造によって、耐摩耗性を損なうことなく材料の機械強度を向上させ得る。
【0075】
上記したNo.5、6、8〜18、22〜26は、導電率を11〜33%IACSとしている。導電率は、P、Mn、Snの含有量の増加に伴い低下する傾向のあることが判る。つまり、導電率は、P、Mn、Snの含有量を上記した範囲とするための、すなわちベース材に対して耐摩耗性を向上させるために第3元素及びその他の添加元素を固溶させる量の1つの指標となり得て、10〜33%IACSの範囲内とされる。
【0076】
また、硬さを高くすることは、耐摩耗性に直結するものではないものの、一般に耐摩耗性を向上させることに寄与する。例えば、No.21の場合、ベース材相当硬さ(式1)である112HBWよりも低い96HBWの硬さを得ており、比摩耗量をベース材であるNo.3よりも大きくしてしまっている。これは、Mnの固溶による硬さの向上が少なかったことに加えて鋳放しでの熱履歴等のばらつきなどによって硬さが低下し、かかる硬さの低下によって耐摩耗性が低下したものと考えられる。そこで、耐摩耗性を確保するためにはZnの含有量から式1によって求められるベース材相当硬さ以上の硬さであることも必要である。つまり、硬さは、Znの含有量を[Zn]質量%として、3.6[Zn]−55(HBW)以上とする。なお、硬さは、主として上記した第3元素及びその他の添加元素の固溶量によって制御される。
【0077】
また、Pは母相に固溶するとともにその一部を析出させて金属間化合物を形成する傾向がある。硬さは、このような金属間化合物の量やその粒径等にも影響を受けると考えられる。つまり、固溶量とともに金属間化合物によっても硬さを制御しているものと言える。但し、上記したように金属間化合物を積極的に生成させるものではない。
【0078】
また、No.27は、いわゆる高力黄銅合金であって、JIS H 5120に定められるCAC303の鍛造材である。その比摩耗量は7.97×10
−7mm
2/kgf(8.13×10
−8mm
2/N)であった。これに比べて、上記したNo.5、6、8〜18、及び、22〜26はいずれも比摩耗量を小さくしており、耐摩耗性が高いと言える。
【0079】
さらに、No.28は、Mn及びSiを含有させることにより、硬質粒子であるマンガン珪化物を耐摩耗性粒子として母相中に分散させた高力黄銅である。その、比摩耗量は8.70×10
−7mm
2/kgf(8.87×10
−8mm
2/N)であった。これに比べて、上記したNo.5、6、8〜18、及び、22〜26はいずれも比摩耗量を小さくしており、同様に耐摩耗性が高いと言える。
【0080】
次に、
図1に示す成分組成の銅亜鉛合金において、光学顕微鏡により金属組織観察を行った。各銅亜鉛合金の金属組織観察結果を
図1に示す。No.1の金属組織は、母相がα単相で形成されていた。No.2の金属組織は、母相が(α+β)相で形成されていた。No.3の金属組織は、母相がβ単相で形成されていた。No.4の金属組織は、母相が(β+γ)相で形成されていた。
【0081】
No.5〜6の金属組織は、母相がα単相からなり、平均径が5μm以下の金属間化合物(Cu,Zn)
XPの粒子からなる析出相を有していた。No.7〜16の金属組織は、母相がβ単相からなり、平均径が5μm以下の金属間化合物(Cu,Zn)
XPの粒子からなる析出相を有していた。No.17〜18の金属組織は、母相が(β+γ)相からなり、金属間化合物の粒子からなる析出相を有していなかった。
【0082】
No.19〜20の金属組織は、母相が(α+β)相からなり、金属間化合物の粒子からなる析出相を有していなかった。No.21〜26の金属組織は、母相がβ単相からなり、金属間化合物の粒子からなる析出相を有していなかった。
【0083】
No.27の金属組織は、母相が(α+β)相からなり、金属間化合物の粒子からなる析出相を有していなかった。No.28の金属組織は、母相がβ単相からなり、金属間化合物Mn
5Si
3等の粒子からなる析出相を有していた。
【0084】
次に、
図1に示す成分組成の銅亜鉛合金において、高温硬さを測定した。高温硬さは、上記の硬さの測定と同様に、JIS Z 2243に準拠してブリネル硬さを測定した。なお、試験力は500kgf(4903N)とした。試験温度は、150℃、200℃、250℃、300℃及び350℃とした。
【0085】
図3は、各銅亜鉛合金の高温硬さ測定結果を示す図である。なお、
図3には、
図1に示す各銅亜鉛合金の室温硬さも合わせて記載した。No.5〜6は、ベース材の銅亜鉛合金No.1よりも、高温硬さが高くなる傾向が得られた。No.8〜16は、ベース材の銅亜鉛合金No.3よりも、高温硬さが高くなる傾向が得られた。No.17から18は、ベース材の銅亜鉛合金No.4よりも、高温硬さが高くなる傾向が得られた。No.22〜26は、ベース材の銅亜鉛合金No.3よりも、高温硬さが高くなる傾向が得られた。この結果から、本実施例による耐摩耗性銅亜鉛合では、母相にPまたはMnを固溶させることで高温硬さを高くできることがわかった。
【0086】
また、本実施例のNo.5〜6、8〜18、22〜26の中で、No.5〜6、9〜11、15〜18、25〜26は、いずれも比摩耗量がより小さくなり、耐摩耗性がより向上することがわかった。
【0087】
より詳細には、No.5〜6の比摩耗量がより小さくなることから、耐摩耗性銅亜鉛合金は、質量%で、Zn:30〜33%、及び、P:0.9〜2%を含み、残部Cu及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相がα単相からなり、平均径が5μm以下の金属間化合物の粒子からなる析出相を含むとよいことがわかった。
【0088】
No.9〜11の比摩耗量がより小さくなることから、耐摩耗性銅亜鉛合金は、質量%で、Zn:44〜47%、及び、P:0.8〜1%を含み、残部Cu及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相がβ単相からなり、平均径が5μm以下の金属間化合物の粒子からなる析出相を含むとよいことがわかった。
【0089】
No.15の比摩耗量がより小さくなることから、耐摩耗性銅亜鉛合金は、質量%で、Zn:44〜47%、P:0.8〜1%、及び、Sn:1〜1.1%、を含み、残部Cu及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相がβ単相からなり、平均径が5μm以下の金属間化合物の粒子からなる析出相を含むとよいことがわかった。
【0090】
No.16の比摩耗量がより小さくなることから、耐摩耗性銅亜鉛合金は、質量%で、Zn:44〜47%、P:0.8〜1%、Mn:1.4〜2%、及び、Sn:1〜1.1%を含み、残部Cu及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相がβ単相からなり、平均径が5μm以下の金属間化合物の粒子からなる析出相を含むとよいことがわかった。
【0091】
No.17〜18の比摩耗量がより小さくなることから、耐摩耗性銅亜鉛合金は、質量%で、Zn:51〜55%、P:0.8〜1%、Mn:0.8〜1.1%、及び、Sn:1〜1.1%を含み、残部Cu及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相が(β+γ)相からなり、金属間化合物の粒子からなる析出相を含まないとよいことがわかった。また、No.17〜18は、No.5〜6、No.9〜11、No.15及びNo.16よりも硬さが高くなる傾向があることがわかった。
【0092】
No.25〜26の比摩耗量がより小さくなることから、耐摩耗性銅亜鉛合金は、質量%で、Zn:44〜47%、Mn:1.4〜2%、及び、Sn:1〜1.1%を含み、残部Cu及び不可避的不純物からなり、金属組織は、母相がβ単相からなり、金属間化合物の粒子からなる析出相を含まないとよいことがわかった。
【0093】
次に、
図1に示す成分組成の銅亜鉛合金の一部について、耐焼付き性を評価した。本実施例の耐摩耗性銅亜鉛合金には、No.10及びNo.23を用いた。比較例の銅亜鉛合金には、No.1、No.3及びNo.7を用いた。更に、比較例の銅亜鉛合金として、Cu−30質量%Zn−3質量%Al合金(No.29)、Cu−45%質量Zn−2%質量Mn−0.6質量%Si合金(No.30)についても評価した。
【0094】
まず、耐焼付き性の評価方法について説明する。試験装置には、高速軸受摩擦試験装置を用いた。
図4は、耐焼付き性試験方法を説明するための模式図である。
図4に示すように、供試軸受に対してスラストカラーを対向させて、スラスト荷重を負荷した。供試軸受は、中空円板形状の試験片とした。供試軸受は、ホルダの円周方向の4箇所に配置した。軸受荷重は、供試軸受の背面から油圧シリンダにて負荷し、荷重を段階的に増加させた。試験中の急激な温度上昇およびトルク上昇を焼付きと判断して、焼付き時の軸受面圧を求めて焼付面圧とした。軸受面圧は、3分間毎に0.03MPaで昇圧した。潤滑油には、エンジンオイル(SAE10W−30)を用いた。スラストカラー材には、クロムモリブデン鋼(SCM435)を用いた。軸の回転数は、約25000rpmとした。
【0095】
次に、耐焼付き性の試験結果について説明する。
図5は、耐焼付き性の試験結果を示すグラフである。
図5のグラフでは、横軸に各銅亜鉛合金を取り、縦軸に焼付面圧を取り、各銅亜鉛合金の焼付面圧を棒グラフで示している。焼付面圧が大きいほど、耐焼付き性に優れていることを示している。なお、各銅亜鉛合金の焼付面圧は、4個の供試軸受の平均で求めた。
【0096】
比較例の銅亜鉛合金の焼付面圧は、No.1が約1.4MPa、No.3が約1.6MPa、No.7が約0.7MPa、No.29が約0.5MPa、No.30が約1.0MPaであった。これに対して本実施例の耐摩耗性銅亜鉛合金は、No.10が約2.7MPa、No.23が約2.7MPaであった。このように、No.10及びNo.23の耐摩耗性銅亜鉛合金は、No.1、No.3、No.7、No.29及びNo.30の銅亜鉛合金よりも焼付面圧が大きくなった。この結果から、本実施例による耐摩耗性銅亜鉛合金は、耐焼付き性に優れていることが明らかとなった。
【0097】
以上のように、28〜55質量%のZnを含有した銅亜鉛合金にPを第3元素として所定量固溶させ、40〜55質量%のZnを含有した銅亜鉛合金にMnを第3元素として所定量固溶させ、又は、さらにその他の添加元素を所定量含ませることで、Cu及びZnの2元素からなるベース材に比べて耐摩耗性を向上させ得る。主として母相に第3元素を固溶させることで硬さを高くして耐摩耗性を向上させたものと考えられる。
【0098】
また、摩耗の進行に伴い、新たな表面には酸化被膜を形成させ得るが、PやMnを含むもののSiを含まないことからSiの酸化物すらも形成せず、かかる酸化被膜は少なくともアルミナよりは軟質な酸化物である。このように表面に生成され得る酸化物を比較的軟質なものとすることで、摩耗の進行によって摺動面から脱落した酸化被膜の噛み込みによる摺動面の損傷を抑制し摩耗の過度な進行を抑制されたものと考えられる。つまり、摺動面の変化に対しても耐摩耗性を発揮し、結果として従来材である高力黄銅(No.27、28参照)に比べて耐摩耗性を向上させたものと考えられる。また、摺動の相手材に対する攻撃性をも低下させ得る。
【0099】
また、特にPを第3元素として含有させたときに、5μm以下の粒径の金属間化合物が観察されたが、このような金属間化合物が摩耗によって脱落しても、径が小さいだけでなく比較的軟質なものなので、摺動面への噛み込みによる摺動面の損傷を抑制できると考えられる。つまり、同様に耐摩耗性を発揮できると考えられる。
【0100】
なお、本実施例においては上記したように、鋳造又はその鍛造によって銅亜鉛合金を得ており、特に熱処理を必要としていないが、必要に応じて熱処理をしてもよい。
【0101】
本実施例による銅亜鉛合金は、回転機械などの摺動部を有する機械装置において、被摺動部材と摺動する摺動部材として用いられると耐摩耗性を発揮し得る。例えば、
図6に示すように、機械装置としての過給機1において、タービンインペラ2とコンプレッサインペラ3とを連結するシャフト4(被摺動部材)に対して摺動するラジアル軸受(フローティングメタル)5(摺動部材)及び/又はスラスト軸受6(摺動部材)として、本実施例による銅亜鉛合金を使用できる。特に、過給機1のラジアル軸受5及びスラスト軸受6のような高速摺動においては、上記したように材料の硬さが耐摩耗性に直結するものではない。そのため、表面に生成され得る酸化物を比較的軟質なものとする本実施例による銅亜鉛合金を用いることで、耐摩耗性を発揮し得る。
【0102】
以上、本開示による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本開示は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本開示の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。例えば、合金の成分組成については、本開示の本質的な特徴を失わない限りにおいて追加の合金成分を与え、追加の効果を得られるようにし得る。