(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細孔容積分布において、全細孔容積に対する細孔径が5nm以上15nm未満の細孔容積の割合が5%以上35%以下であり、全細孔容積に対する細孔径が15nm以上25nm未満の細孔容積の割合が10%以上50%以下である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本実施形態の排ガス浄化触媒用多孔質構造体(以下、単に「多孔質構造体」ともいう)は、例えば基材と該基材表面に形成された触媒層とを有する排ガス浄化触媒における該触媒層として用いられる。多孔質構造体は、単層の触媒層からなるものであってもよく、あるいは複数層の触媒層からなるものであってもよい。
【0012】
本実施形態の排ガス浄化触媒用多孔質構造体は、好ましくは酸素貯蔵成分(OSC材料ともいう、OSCはoxygen storage capacityの略)及び無機多孔質体を含んでなる。本実施形態の排ガス浄化触媒用多孔質構造体の多孔質構造は主として無機多孔質体に由来し、更に、酸素貯蔵成分が多孔質体である場合には、酸素貯蔵成分にも由来する。
排ガス浄化触媒用多孔質構造体の多孔質の程度は、これを水銀圧入ポロシメータにより測定される細孔容積分布で表すと、細孔径が5nm以上15nm未満の細孔容積(A)に対する15nm以上25nm未満の細孔容積(B)の比(B/A)が以下の特定の範囲であることが好ましい。すなわち、B/Aの値が1.3以上2.5以下であることが好ましく、1.4以上2.3以下であることがより好ましく、1.6以上2.1以下であることが特に好ましい。
【0013】
細孔径が5nm以上15nm未満の細孔容積(A)に対する細孔径が15nm以上25nm未満の細孔容積(B)の比(以下、「B/A比」ともいう)が1.3以上2.5以下である多孔質構造体によりライトオフ性能が向上する理由としては、以下のように考えられる。細孔径が15nm以上25nm未満の比較的大きな細孔には排ガスが流入しやすいので、該細孔の細孔容積が特定の割合となるよう制御することで、排ガスが多孔質構造体中の細孔に流入する量を制御でき、細孔内に存在する触媒活性成分と排ガスとの接触性を高めることができる。一方、細孔径が5nm以上15nm未満の比較的小さな細孔を増やすと、比表面積が増加するため、該細孔の細孔容積が特定の割合となるよう制御することで、排ガスが触媒活性成分に接触する有効面積を確保できる。したがって、細孔径が5nm以上15nm未満の細孔の細孔容積(A)と、細孔径が15nm以上25nm未満の細孔の細孔容積(B)とが上述した関係を保つことにより、多孔質構造体に配置される触媒活性成分に排ガスが効率よく接触でき、ライトオフ性能を向上させることができる。
上述した通り、本発明において重要なのは、多孔質構造体中の細孔径が5nm以上15nm未満の細孔の細孔容積(A)と細孔径が15nm以上25nm未満の細孔の細孔容積(B)とのバランスであるから、厚み方向におけるこれらの細孔の配置に関わらず、B/A比が特定範囲であることでライトオフ性能を向上させることができると本発明者は考えている。
【0014】
ライトオフ性能を一層高める観点から、例えば前記細孔容積分布において、細孔径5nm以上25nm未満の細孔容積は、600×10
−3cm
3/g以下が好ましく、特に10×10
−3cm
3/g以上350×10
−3cm
3/g以下がより好ましい。
【0015】
本実施形態において、細孔容積分布は水銀圧入ポロシメータにより測定される。水銀圧入ポロシメータによる測定は、水銀に加える圧力を変化させ、その際の細孔中に浸入した水銀の量を測定することにより、細孔(空隙)分布を測定する方法である。細孔内に水銀が浸入し得る条件は、圧力P、細孔径D、水銀の接触角θ、表面張力σとすると、PD=−4σcosθで表すことができる。圧力Pとそのときに浸入する液量Vを、圧力Pを変えて測定し、圧力Pを上記式から細孔径Dに換算してDV曲線を得ることで細孔容積分布を求めることができる。なお、細孔容積は細孔に浸入した水銀量を測定することで得られる。多孔質構造体が排ガス浄化触媒の基材表面に形成された触媒層である場合、基材の細孔径は通常500nm以上であるため、基材の有無は細孔径25nm以下の細孔容積分布に影響を及ぼさない。このため、水銀圧入ポロシメータにより測定される細孔容積分布は、多孔質構造体及び基材を有する排ガス浄化触媒の状態で測定したものであってよい。細孔容積分布は後述の実施例記載の方法にて測定できる。
【0016】
本実施形態の多孔質構造体は、水銀圧入ポロシメータにより測定される細孔容積分布において、細孔径15nm以上25nm未満の範囲に少なくとも1つのピークトップを有していることが、多孔質構造体内に排ガスを効率よく浸透させることが可能となり、触媒活性成分と排ガスの接触性を高めてライトオフ性能を一層向上させることとなる点で好ましい。特に、20nm以上25nm未満の範囲にピークトップを有することがより好ましい。なお、本発明においては細孔径15nm以上25nm未満の範囲に少なくとも1つのピークトップを有していれば、他の範囲にピークトップを有していても構わない。
【0017】
ここでいう「ピークトップ」は次のように求められる。すなわち、細孔径が15nm以上25nm未満の範囲において、水銀圧入ポロシメータによる細孔容積の測定を行う。得られたDV曲線において、2つの隣り合う測定点に対して細孔容積の増加分を計算する。次いで、細孔容積の増加分が最も大きい測定区間を抽出し、その区間の小さい側の細孔径をピークトップとする。測定点は、実施例に示す測定装置の仕様に基づく。
【0018】
本実施形態の多孔質構造体における、細孔径5nm以上15nm未満の範囲における細孔容積は、ライトオフ性能を更に一層高める観点から、250×10
−3cm
3/g以下が好ましく、特に5×10
−3cm
3/g以上150×10
−3cm
3/g以下がより好ましい。一方、細孔径15nm以上25nm未満の範囲における細孔容積は、同様の観点から、400×10
−3cm
3/g以下が好ましく、特に5×10
−3cm
3/g以上250×10
−3cm
3/g以下がより好ましい。
【0019】
多孔質構造体に前記の細孔容積分布を有させるためには、触媒層を構成する無機多孔質体粉末及び/又は酸素貯蔵成分粉末の細孔径や、無機多孔質体粉末及び酸素貯蔵成分粉末の量や焼成温度・時間を調整すればよい。
【0020】
本実施形態の多孔質構造体における細孔容積分布は細孔径5nm以上25nm未満の範囲におけるB/A比が前記範囲内であれば、細孔容積分布における他の構成に限定はないが、例えば基材を含めて測定した細孔容積分布の好適な例としては、以下の細孔容積比率のものが挙げられる。
【0021】
例えば、多孔質構造体の前記細孔容積分布を基材ごと測定したときに、比表面積を上げつつ排ガスの拡散性を向上させてライトオフ性能を一層向上させる観点から、全細孔容積中、細孔径5nm以上15nm未満の細孔容積の割合は、5%以上35%以下であることが好ましく、5%以上20%以下であることがより好ましい。
一方、全細孔容積中、細孔径15nm以上25nm未満の細孔容積の割合は、10%以上50%以下であることが好ましく、13%以上30%以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう「全細孔容積」とは、水銀圧入ポロシメータにより測定される3nm〜350000nmの範囲における細孔容積をいい、多孔質構造体に由来する細孔のみならず、基材の細孔の容積も含むものである。
なお、基材ごと測定した多孔質構造体の細孔容積分布において、基材の細孔の細孔径は通常500nm以上であることから、基材の有無に関わらず細孔径500nm未満の領域にて細孔容積分布を求めることができる。
なお、上述した通り、本発明の排ガス浄化触媒は、基材に本発明の多孔質構造体を設けたものであるから、上記基材ごと測定した本発明の多孔質構造体の細孔容積分布は、本発明における排ガス浄化触媒の細孔容積分布に該当する。基材の例は後述する。
【0022】
本発明においては、ライトオフ性能を更に一層向上させる観点から、細孔容積分布において、細孔径が5nm以上200nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が5nm以上15nm未満の細孔の細孔容積の割合が15%以上40%以下であることが好ましく、15%以上35%以下であることが更に好ましく、15%以上30%以下であることが一層好ましい。細孔径が5nm以上200nm以下の範囲に観察される細孔は、主に多孔質構造体に由来するものである。したがってこの測定は、多孔質構造体そのものを測定対象とした場合と、多孔質構造体を有する基材を測定対象とした場合とで結果に本質的な相違は生じない。
【0023】
前記と同様の観点から、細孔容積分布において、細孔径が5nm以上200nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が15nm以上25nm未満の細孔の細孔容積の割合が20%以上60%以下であることが好ましく、25%以上55%以下であることが更に好ましく、30%以上50%以下であることが一層好ましい。
【0024】
多孔質構造体は、触媒活性成分を含有していることが好ましい。触媒活性成分としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)のうちのいずれか1種又は2種以上を挙げることができ、中でも、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)から選ばれる少なくとも1種を用いることが、排ガス浄化性能を高める点で好ましい。
例えば、多孔質構造体を下層触媒層及び上層触媒層を含む二層以上の構成とする場合には、下層触媒層及び上層触媒層に異なる触媒活性成分を含有させることが、排ガス浄化性能を高める点で好ましく、特に下層触媒層にパラジウム(Pd)を含有させ、上層触媒層に白金(Pt)又はロジウム(Rh)を含有させることが、排ガス浄化性能を一層高める点で好ましい。
【0025】
なお、下層触媒層とは、多孔質構造体が基材表面に形成された場合の基材側に位置する層であり、上層触媒層とは、下層触媒層に対して、基材とは反対側に位置する層である。多孔質構造体は、下層触媒層及び上層触媒層に加えて他の層を有していてもよく、例えば基材と下層触媒層との間に別の層を有していてもよく、また下層触媒層及び上層触媒層の間に別の層を有していてもよい。
【0026】
触媒活性成分は、多孔質構造体中に担持されていることが好ましく、具体的には、多孔質構造体を構成する酸素貯蔵成分及び無機多孔質体に担持されていることが好ましい。本明細書中、「担持されている」とは、外表面又は細孔内表面に物理的若しくは化学的に吸着又は保持されている状態をいう。具体的には、一の粒子が他の粒子を担持していることは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの粒径の測定により確認できる。例えば、一の粒子の表面上に存在している粒子の平均粒径は当該一の粒子の平均粒径に対して、10%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。ここでいう平均粒径とは、SEMで観察したときの30個以上の粒子の最大フェレ径の平均値である。最大フェレ径とは2本の平行線で挟まれた粒子図形の最大の距離である。
【0027】
多孔質構造体が含有する触媒活性成分の量は、コストを低減しつつライトオフ性能を一層高める点から、多孔質構造体中、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。多孔質構造体における触媒活性成分の含有量は、例えば次の方法で測定する。まず、多孔質構造体を溶解させて溶液となし、該溶液を測定対象として、各元素の量をICP−AESで測定する。測定された各元素の量のうち、触媒活性成分の量を求め、残りの元素の量をそれらの酸化物に換算して全量を100としたときの元素換算の触媒活性成分の量の割合を算出する。なお、多孔質構造体が基材に形成されている場合には、多孔質構造体を基材から分離し、分離させた多孔質構造体について同様に測定する。
【0028】
多孔質構造体は、上述した通り、酸素貯蔵成分及び無機多孔質体を有する。OSC材料としては、例えばセリア(CeO
2)及びセリア−ジルコニア複合酸化物(以下、CeO
2−ZrO
2とも記載する)が挙げられ、CeO
2−ZrO
2であることがOSC能が高いために好ましい。CeO
2−ZrO
2はCeO
2とZrO
2との固溶体である。CeO
2とZrO
2が固溶体となっていることは、X線回折装置(XRD)を用い、CeO
2−ZrO
2に由来する回折パターンが得られるか否かにより確認することができる。
本実施形態では、多孔質構造体は酸素貯蔵成分(OSC材料)に加えて無機多孔質体を含有するものであるが、OSC材料それ自体も多孔質体であることが触媒活性成分を担持しやすいため好ましい。多孔質構造体においてOSC材料が多孔質体であることは、走査型電子顕微鏡により多孔質構造体を観察すると共に、多孔質構造体の組成をエネルギー分散型X線分光法(EDX)にて分析したり、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)にて分析することで確認できる。
【0029】
CeO
2及びCeO
2−ZrO
2等の酸素貯蔵成分は、セリウム以外の希土類元素やBa,Sr,Ca等のアルカリ土類金属元素、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)等の元素が添加されていてもよい。ここで「添加」とは、「固溶」と「修飾」を含む。「修飾」とは、酸素貯蔵成分の表面に、他の元素が存在している状態をいい、「担持」を包含する概念である。また、ここでいう「表面」とは、酸素貯蔵成分の細孔の内面や該酸素貯蔵成分の外面を指す。セリウム以外の希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)を挙げることができる。これらの希土類元素は、例えば酸化物として酸素貯蔵成分に添加されている。これらは2種以上の複合酸化物であってもよい。これら、セリウム以外の希土類元素の酸化物は、CeO
2又はCeO
2−ZrO
2と固溶体を形成していてもよく、形成していなくてもよい。セリウム以外の希土類元素の酸化物がCeO
2又はCeO
2−ZrO
2と固溶体を形成しているか否かは、前記と同様にX線回折装置(XRD)で確認できる。
【0030】
酸素貯蔵成分とともに用いられる無機多孔質体としては、酸素貯蔵成分以外の無機化合物からなる多孔質体が挙げられる。無機多孔質体としては、Al
2O
3(アルミナ)、ZrO
2、SiO
2、TiO
2、La
2O
3などの希土類酸化物(Re
2O
3)、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、アパタイト型ランタンシリケート、MgO、ZnO、SnO
2等をベースとした酸化物材料や、これらの材料を互いに複合化させた酸化物材料が挙げられる。アルミナとしては、γ,δ,θ,αの各結晶型のアルミナが挙げられる。また、Al、Zr、Si、Ti、希土類元素、Mg、Zn等のリン酸塩、ケイ酸塩及びホウ酸塩、Ba、Sr等のアルカリ土類金属の難溶性硫酸塩などが挙げられる。
なお、無機多孔質体がアパタイト型ランタンシリケートである場合、かかる無機多孔質体の有無はX線回折測定及びICP−AESによる組成分析により確認できる。また、多孔質構造体においてOSC材料以外の無機多孔質体が存在することは、走査型電子顕微鏡により多孔質構造体を観察し、且つ多孔質構造体の組成をエネルギー分散型X線分光法(EDX)にて分析したり、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)にて分析することで確認できる。
また、後述するように多孔質構造体中にバインダーを用いた場合、バインダー成分と、無機多孔質体やOSC材料とが同じ材料となることがある。この場合に関しても、バインダー成分と、無機多孔質体やOSC材料とを区別する方法として、上述のようにEDXやEPMAを用い、材料の粒径や各材料に添加される成分等を分析することが挙げられる。
【0031】
アルミナ等の無機多孔質体には、他の物質が添加されていてもよい。他の物質としては、酸化ランタン、ZrO
2、CeO
2等が挙げられる。ここで「添加」とは、酸素貯蔵成分で説明したように「固溶」と「修飾」を含む。なお、CeO
2は上述した通り、酸素貯蔵成分であるが、前記の「酸素貯蔵成分以外の無機多孔質体」は、CeO
2等の酸素貯蔵成分を修飾ないし担持しているものを含む。したがって、「酸素貯蔵成分以外の無機多孔質体」は例えばアルミナ等の孔部の内表面や外表面に、CeO
2が修飾されたものであってもよい。
【0032】
上述した通り、多孔質構造体は単層構造であっても複数層構造であってもよいところ、複数層構造を有する場合、各層にOSC材料及び無機多孔質体の両方を有するものであってもよく、1つの層にOSC材料及び無機多孔質体のうちの一方を有し、他の層に他方を有するものであってもよい。とりわけ、本実施形態の多孔質構造体は、上層触媒層及び下層触媒層の二層構造を有し、各層がOSC材料及び無機多孔質体を有することが、排ガス浄化性能を一層高いものとする点で好ましい。多孔質構造体が二層以上の構造を有し、各層がOSC材料及び無機多孔質体を有する場合、各層を区別する方法としては、例えば各層に含まれた触媒活性成分の種類やその量が異なる場合は、その違いにより区別する方法が挙げられる。例えば、触媒をその長手方向に直交する断面で切断し樹脂に埋め込んだサンプルについてEDXのライン分析により触媒活性成分の分布を数値化して得られるゆらぎ曲線に基づいて区別することが可能である。
【0033】
多孔質構造体中におけるOSC材料の含有量は、OSC性能を発揮させて低温での排ガス浄化性能を高めることと耐熱性とのバランスを図る点から、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。一方、多孔質構造体中における無機多孔質体の含有量は、上記と同様の観点から5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
多孔質構造体においては特に、OSC材料の含有量は無機多孔質体の含有量よりも多いことが、排ガス浄化触媒に流入する排ガスの空燃比(A/F)の変動を低温から十分に吸収し、排ガス浄化性能を向上させる観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、OSC材料の含有量に対する無機多孔質体の含有量の比率は、0.2以上0.8以下であることが好ましく、0.3以上0.7以下であることが更に好ましく、0.4以上0.6以下であることが一層好ましい。この場合、多孔質構造体が多層である場合には、多孔質構造体全体として見たときにOSC材料の含有量が無機多孔質体の含有量よりも多ければよく、多孔質構造体全体として見たときに前記の比率を満たすことが好ましく、各層においてOSC材料の含有量が無機多孔質体の含有量よりも多いことがより好ましく、各層において前記の比率を満たすことが更に好ましい。
【0035】
多孔質構造体におけるOSC材料及び無機多孔質体の含有量は、例えば次の方法で測定する。OSC材料が例えばCeO
2−ZrO
2であり、無機多孔質体が例えばAl
2O
3である場合には、まず多孔質構造体を溶解させて溶液となし、該溶液を測定対象として、各元素の量をICP−AESで測定する。測定された各元素の量のうち、CeO
2、ZrO
2、Al
2O
3の量を求め、残りの元素の量をそれらの酸化物に換算して全量を100としたときの酸化物換算のCeO
2、ZrO
2、Al
2O
3の量の割合を算出する。CeO
2−ZrO
2以外のOSC材料の量及びAl
2O
3以外の無機多孔質体の量も同様にして求める。なお、多孔質構造体が基材に形成されている場合には、多孔質構造体を基材から分離し、分離させた多孔質構造体について同様に測定する。
【0036】
本実施形態の多孔質構造体は、これを基材表面に触媒層として形成させた排ガス浄化触媒とすることにより、運転始動時であっても、排ガスを効率よく触媒活性成分と接触させることができ、ライトオフ性能を高めることができる。基材としては多孔質のものが好ましく用いられ、その形状としては例えばハニカム形状が挙げられる。基材の材質としては、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、ムライト(3Al
2O
3−2SiO
2)、コージェライト(2MgO−2Al
2O
3−5SiO
2)、チタン酸アルミニウム(Al
2TiO
5)、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスを挙げることができる。
【0037】
本実施形態の排ガス浄化触媒用多孔質構造体及び排ガス浄化触媒を製造する好適な方法としては、OSC材料粉末及び無機多孔質体粉末並びに必要に応じて触媒活性成分の塩やバインダーを含むスラリーを調製し、これを基材に塗工(例えばウォッシュコート)した後、乾燥し、焼成して、基材表面に多孔質構造体である触媒層を形成する方法が挙げられる。
【0038】
また、無機多孔質体の細孔分布・細孔径・含有量及び必要に応じOSC材料の細孔分布・細孔径・含有量を調整することにより、所望のB/A比を有する本発明の多孔質構造体及び排ガス浄化触媒を容易に得ることができる。ここでいう細孔径とは、無機多孔質体並びにOSC材料の一次粒子及び二次粒子における細孔容積分が確認できるよう3nm〜500nmの範囲において測定したときに、最も微分細孔容積の大きなピークの細孔径である。
【0039】
無機多孔質体の細孔径は、所望のB/A比を有する多孔質構造体及び排ガス浄化触媒が得やすくなる観点から、多孔質構造体が単層であるか多層であるかを問わず、3〜50nmであることが好ましく、3〜35nmであることがより好ましく、5〜25nmであることが特に好ましい。無機多孔質体に替えてあるいは無機多孔質体に加えてOSC材料の細孔径を調整することで所望のB/A比を有する多孔質構造体及び排ガス浄化触媒を得ようとする場合には、多孔質構造体が単層であるか多層であるかを問わず、OSC材料の細孔径は3〜50nmであることが好ましく、5〜50nmであることが更に好ましく、10〜50nmであることが一層好ましく、15〜45nmであることが更に一層好ましい。
【0040】
また、無機多孔質体は、多孔質構造体が単層であるか多層であるかを問わず、BET比表面積が好ましくは30m
2/g〜300m
2/g、特に好ましくは50m
2/g〜200m
2/gのものが触媒活性成分の担持性や排ガス浄化性能等の点から好適に用いられる。一方、OSC材料は、それが多孔質体である場合には、多孔質構造体が単層であるか多層であるかを問わず、BET比表面積が好ましくは10m
2/g〜200m
2/g、特に好ましくは30m
2/g〜150m
2/gのものが触媒活性成分の担持性や排ガス浄化性能等の点から好適に用いられる。
【0041】
更に無機多孔質体は、所望のB/A比を有する多孔質構造体及び排ガス浄化触媒が得やすくなる観点から、多孔質構造体が単層であるか多層であるかを問わず、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D
50が、好ましくは3μm〜50μmであり、更に好ましくは5μm〜45μmであり、一層好ましくは5μm〜40μmである。一方、OSC材料は、それが多孔質体である場合には、多孔質構造体が単層であるか多層であるかを問わず、触媒活性成分の担持性や排ガス浄化性能等の点から、体積累積粒径D
50が、好ましくは3μm〜30μmであり、更に好ましくは5μm〜20μmであり、一層好ましくは5μm〜10μmである。
【0042】
スラリーの液媒としては水が挙げられる。触媒活性成分の塩としては、例えば、硝酸パラジウム、硝酸ロジウム塩及び硝酸白金等が挙げられる。
【0043】
得られる排ガス浄化触媒の触媒活性の点から、スラリーを塗布した基材を焼成する温度は、大気中において400℃〜800℃が好ましく、450℃〜600℃がより好ましい。焼成時間は、30分〜6時間が好ましく、1時間〜4時間がより好ましい。基材に塗布したスラリーは、焼成前に大気中において乾燥することが好ましく、その温度は、40℃〜200℃が好ましく、70℃〜150℃がより好ましい。乾燥時間は、5分〜6時間が好ましく、10分〜2時間がより好ましい。
【0044】
以上の工程にて製造された本発明の排ガス浄化触媒用多孔質構造体及び排ガス浄化触媒は、ライトオフ性能に優れたものとなる。したがって、本発明の排ガス浄化触媒用多孔質構造体及び触媒を、内燃機関から排出される排ガスと接触せしめることで、効率的にNO
x、HC、COの浄化が可能である。同様に、本発明の排ガス浄化触媒を内燃機関に用いることで、運転始動時における排ガス中のNO
x、HC、COを効率的に浄化できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、乾燥及び焼成はすべて大気中で行った。各実施例・比較例で用いた材料の比表面積はカンタクローム社製比表面積・細孔分布測定装置(型番:QUADRASORB SI)を用い、BET3点法で求めた。測定用のガスとしては窒素を用いた。また、各実施例・比較例で用いたアルミナ粉末は、いずれもγ相であった。
【0046】
<実施例1>
(1)下層触媒層用スラリーの調製
容器に硝酸パラジウム水溶液を入れ、OSC材料粉末(CeO
2−ZrO
2複合酸化物(CeO
2:40質量%、ZrO
2:50質量%、その他10質量%含有)、BET比表面積:85m
2/g、細孔径:20nm、D
50:6μm)、第一無機多孔質体粉末(4質量%のLa
2O
3で修飾されたAl
2O
3、BET比表面積:150m
2/g、細孔径:17.6nm、D
50:35μm)、及び、第二無機多孔質体粉末(4質量%のLa
2O
3で修飾されたAl
2O
3、BET比表面積:170m
2/g、細孔径:9.8nm、D
50:30μm)を入れて撹拌した。第一無機多孔質体粉末と第二無機多孔質体粉末との質量比が91:9となるように調製した。次いで、上述した粉末材料が十分に拡散した後に、バインダーとしてアルミナゾル(D
50:<0.2μm)を入れ、更に撹拌して、下層触媒層用スラリーを調製した。スラリーは、触媒層とした際にOSC材料60質量%、無機多孔質体(第一無機多孔質体+第二無機多孔質体)29質量%、アルミナゾル由来のアルミナ8質量%、パラジウム3質量%の構成比率となるように調製されてなる。
【0047】
(2)上層触媒層用スラリーの調製
容器に硝酸ロジウム水溶液を入れ、OSC材料粉末(CeO
2−ZrO
2複合酸化物(CeO
2:15質量%、ZrO
2:70質量%、その他15質量%含有、BET比表面積:55m
2/g、細孔径:40nm、D
50:6μm)及び無機多孔質体粉末(4質量%のLa
2O
3で修飾されたAl
2O
3、BET比表面積:150m
2/g、細孔径:14.0nm、D
50:7μm)を入れて撹拌した。次いで、上述した粉末材料が十分に拡散した後にバインダーとしてアルミナゾル(D
50:<0.2μm)を入れ、更に撹拌して、上層触媒層用スラリーを調製した。スラリーは、触媒層とした際にOSC材料60質量%、無機多孔質体31質量%、アルミナゾル由来のアルミナ8質量%、ロジウム1質量%の構成比率となるように調製されてなる。
【0048】
(3)排ガス浄化触媒の作製
セラミックス製ハニカム基材(セル数600cpi、壁厚3.5mil)に、(1)で調製した下層触媒層用スラリーをコートし、150℃で1時間乾燥させた後、450℃で3時間焼成して、コート量が95g/Lの下層触媒層を形成した。次いで、下層触媒層上に(2)で調製した上層触媒層用スラリーをコートし、150℃で1時間乾燥させた後、450℃で3時間焼成して、コート量が50g/Lの上層触媒層を形成し、基材上に2層の触媒層(多孔質構造体)が形成された排ガス浄化触媒を作製した。
【0049】
<実施例2>
実施例1の(1)の下層触媒層用スラリーの調製の際に、第一無機多孔質体粉末及び第二無機多孔質体粉末の質量比を50:50に変更した。その点以外は、実施例1と同様にして、実施例2の排ガス浄化触媒を得た。
【0050】
<実施例3>
実施例1の(1)の下層触媒層用スラリーの調製の際に、第一無機多孔質体粉末及び第二無機多孔質体粉末に替えて、無機多孔質体粉末(La
2O
3が1質量%修飾されたAl
2O
3、BET比表面積:150m
2/g、細孔径:16.0nm、D
50:35μm)を用いた。その点以外は実施例1と同様にして、実施例3の排ガス浄化触媒を得た。
【0051】
<実施例4>
実施例1の(1)の下層触媒層用スラリーの調製の際に、第一無機多孔質体粉末及び第二無機多孔質体粉末の質量比を30:70に変更した。その点以外は、実施例1と同様にして、実施例4の排ガス浄化触媒を得た。
【0052】
<実施例5>
実施例1の(1)の下層触媒層用スラリーの調製の際に、第一無機多孔質体粉末及び第二無機多孔質体粉末の質量比を9:91に変更した。その点以外は、実施例1と同様にして、実施例5の排ガス浄化触媒を得た。
【0053】
<比較例1>
実施例1の(1)の下層触媒層用スラリーの調製の際に、第一無機多孔質体粉末及び第二無機多孔質体粉末の質量比を0:100に変更した。その点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の排ガス浄化触媒を得た。
【0054】
<実施例6>
(1)下層触媒層用スラリーの調製
実施例1の(1)の下層触媒層用スラリーの調製の際に、第一無機多孔質体粉末及び第二無機多孔質体粉末の質量比を100:0に変更した。その点以外は、実施例1と同様にして、下層触媒層用スラリーを調製した。
【0055】
(2)上層触媒層用スラリーの調製
容器に硝酸ロジウム水溶液を入れ、OSC材料粉末(CeO
2−ZrO
2複合酸化物(CeO
2:15質量%、ZrO
2:70質量%、その他15質量%含有、BET比表面積:55m
2/g、細孔径:40nm、D
50:6μm)、第三無機多孔質体粉末(4質量%のLa
2O
3で修飾されたAl
2O
3、BET比表面積:150m
2/g、細孔径:9.8nm、D
50:7μm)を入れて撹拌した。次いで、上述した粉末材料が十分に拡散した後にバインダーとしてアルミナゾル(D
50:<0.2μm)を入れ、更に撹拌して、上層触媒層用スラリーを調製した。スラリーは、触媒層とした際にOSC材料60質量%、第三無機多孔質体31質量%、アルミナゾル由来のアルミナ8質量%、ロジウム1質量%の構成比率となるように調製されてなる。
【0056】
(3)排ガス浄化触媒の作製
セラミックス製ハニカム基材(セル数600cpi、壁厚3.5mil)に、実施例6の(1)で調製した下層触媒層用スラリーをコートし、150℃で1時間乾燥させた後、450℃で3時間焼成して、コート量が95g/Lの下層触媒層を形成した。次いで、下層触媒層上に、実施例6の(2)で調製した上層触媒層用スラリーをコートし、150℃で1時間乾燥させた後、450℃で3時間焼成して、コート量が50g/Lの上層触媒層を形成し、排ガス浄化触媒を作製した。
【0057】
前記の排ガス浄化触媒の細孔容積分布を下記方法にて測定し、以下の事項を求めた。結果を表1に示す。
1)細孔径5nm以上15nm未満の細孔の細孔容積A(cm
3/g)
2)全細孔容積に対するAの割合(%)
3)細孔径が5nm以上200nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が5nm以上15nm未満の細孔の細孔容積Aの割合(%)
4)細孔径15nm以上25nm未満の細孔の細孔容積B(cm
3/g)
5)全細孔容積に対するBの割合(%)
6)細孔径が5nm以上200nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が15nm以上25nm未満の細孔の細孔容積Bの割合(%)
7)B/A比
8)細孔径15nm以上25nm未満の範囲における細孔径ピークトップの有無(ピークトップがある場合にはその測定値(nm)を示す)
【0058】
〔排ガス浄化触媒における細孔容積分布の測定〕
測定装置としては、株式会社島津製作所製自動ポロシメータ「オートポアIV9520」を用いて、下記条件・手順で測定を行った。
(測定条件)
測定環境:25℃
測定セル:試料室体積 3cm
3、圧入体積 0.39cm
3
測定範囲:0.0035MPa から 254.925MPa まで
測定点:131点(隣り合う測定点の細孔径をD1、D2(D1>D2)としたとき、各細孔径の常用対数の差:logD1-logD2=0.037となるように測定圧力を決定した)
圧入体積:25%以上80%以下になるように調節した。
(低圧パラメーター)
排気圧力:50μmHg
排気時間:5.0min
水銀注入圧力:0.0034MPa
平衡時間:10sec
(高圧パラメーター)
平衡時間:10sec
(水銀パラメーター)
前進接触角:130.0degrees
後退接触角:130.0degrees
表面張力:485.0mN/m(485.0dyne/cm)
水銀密度:13.5335g/mL
(測定手順)
(1)実施例・比較例で得た排ガス浄化触媒において基材に2層の触媒層が形成された基材外壁部を除く部分を10mm×10mm×10mmで切り出してサンプルとし、測定を行った。
(2)低圧部で0.0035MPaから0.2058MPa以下の範囲で46点測定。
(3)高圧部で0.2241MPaから254.9250MPa以下の範囲で85点測定。
(4)水銀注入圧力及び水銀注入量から、細孔径分布を算出する。
なお、前記(2)、(3)、(4)は、装置付属のソフトウエアにて、自動で行った。その他の条件はJIS R 1655:2003に準じた。
【0059】
【表1】
【0060】
各実施例及び比較例の排ガス浄化触媒について、以下の方法でライトオフ性能を調べた。
(T50測定条件)
排ガス浄化触媒(触媒容積15ml)に、A/Fが14.6である下記組成モデルガスをA/Fが14.4〜14.8の範囲で変動するようにCO濃度とO
2濃度を調整しつつ、25L/minで流通させた。排ガス浄化触媒に流入するガス温度を常温から所定昇温速度で漸次上昇させていき、触媒を通過した排ガスに含まれるHC、NO
x、CO量を下記装置にて求め、X:触媒未設置のときの検出量、Y:触媒設置後の検出量としたときに、下記式にて浄化率を求めた。
浄化率(%)=(X−Y)/X×100
浄化率が50%に達したときの触媒の入口ガス温度をライトオフ温度T50として求めた。T50は、昇温時について測定した。
・モデルガス(組成は体積基準):CO:0.5%、C
3H
6:1200ppmC、NO:500ppm、O
2:0.50%、CO
2:14%、H
2O:10%、H
2:0.17%、N
2:残部
・昇温速度:20℃/分
・HC、NO
x、CO量の測定:評価装置として堀場製作所社製MOTOR EXHAUST GAS ANALYZER MEXA7100を用いて行った。
【0061】
【表2】
【0062】
前記表2の通り、細孔容積比(B/A比)=1.3〜2.5を満たす各実施例の排ガス浄化触媒(多孔質構造体)は、HC、NO
x、COのいずれについても、B/A比=1.29の比較例1に比してT50が低い。このことから、無機多孔質体及び酸素貯蔵成分を有し細孔容積比(B/A比)=1.3〜2.5を満たす本発明の多孔質構造体を用いることにより、排ガス浄化触媒のライトオフ性能が優れたものになることが明らかである。