特許第6803502号(P6803502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803502アルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803502
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】アルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   C23C18/31 Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-250083(P2016-250083)
(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公開番号】特開2018-104741(P2018-104741A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 和志
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 章央
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭49−027933(JP,B1)
【文献】 特開平10−219470(JP,A)
【文献】 特開平11−021673(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/157334(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材に対して置換スズ皮膜を形成するメッキ浴であり、
上記置換スズメッキ浴が、
(a)可溶性第二スズ塩と、
(b)錯化剤と、
(c)水酸化物とを含有するアルカリ性置換スズメッキ浴であって、
上記錯化剤(b)が、分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類であることを特徴とするアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴。
【請求項2】
上記アミノカルボン酸類(b)がジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、テトラエチレンペンタミン七酢酸(TPHA)、ペンタエチレンヘキサミン八酢酸、ヘキサエチレンヘプタミン九酢酸、ヘプタエチレンオクタミン十酢酸及びその塩の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴。
【請求項3】
上記アミノカルボン酸類(b)がDTPA、TTHA、TPHA及びその塩の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴。
【請求項4】
上記成分(a)がスズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムから選ばれたスズ酸アルカリ金属塩、スズ酸カルシウム、スズ酸マグネシウム、スズ酸バリウムから選ばれたスズ酸アルカリ土類金属塩の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴。
【請求項5】
上記水酸化物(c)が水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれたアルカリ金属の水酸化物、並びに水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウムから選ばれたアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化アンモニウムの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム基材にスズ皮膜を形成するためのアルカリ性置換スズメッキ浴に関して、作業時に白濁の発生がないメッキ浴の安定性と基材へのスズ皮膜の密着性に優れるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材は容易に表面酸化されるので表面処理は難しい。酸性の置換スズはチオ尿素を使用するが、酸性置換ではスズが析出しても粉状を呈する場合が多く、均質なスズ皮膜を得ることは容易でない。
従って、実際にはアルカリ性の置換スズが直接メッキ可能なほぼ唯一の方法である。
このアルカリ性の置換スズではチオ尿素が作用しないため、アルミニウムとスズの単純な電位差を利用した置換メッキが基本原理となる。
【0003】
そこで、アルミニウム基材に対するアルカリ性置換スズメッキ浴の従来技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1
アミノカルボン酸系及びポリヒドロキシカルボン酸系の錯化剤(ジョングキンドキレート剤(=ヨンキント錯化剤))と、スズ酸ナトリウム及びスズ酸カリウムから選ばれたスズ酸塩とを含有する水溶液中にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を浸漬して、アルミニウム上にスズ皮膜を形成する。
上記アミノカルボン酸系錯化剤にはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)の各種塩、グルコン酸、グルコヘプトン酸、グリセリン酸、糖類の酸、酒石酸の各種塩が挙げられる(第5欄第21行〜第6欄第12行、第7欄第2〜33行)。
【0004】
(2)特許文献2
リン酸化合物、シアン化物及びフッ素イオンを含まない水系アルカリ性pH液浸スズコーティング組成物であって、スズイオン源と、スラッジ抑制剤と、付着性促進に有効な量のモリブデンイオンと、緩衝作用に有効な量の無機緩衝剤と、付着性促進に有効な量の有機ポリヒドロキシ化合物とを含有するコーティング組成物である。
上記スズイオン源はスズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムなどである(第7頁)。
上記スラッジ抑制剤は有機錯化剤であり、EDTA、ニトリロ3酢酸(NTA)、DHEG、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノカルボン酸及びその塩、ジエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、テトラエチレントリアミンなどである(第7頁)。
上記無機緩衝剤はホウ酸化合物、炭酸化合物などである(第8頁)。
上記ポリヒドロキシ化合物はエチレングリコール、プロピレングリコール、グルコン酸などである(第8頁)。
【0005】
(3)特許文献3
均一で摺動性に優れたスズ皮膜を形成する目的で、スズ酸アルカリ金属塩と、アミノ酸類と、及び2価の銅塩とを各所定量で含有する水溶液からなるアルミニウム合金上へのスズ置換液である(請求項1、段落6〜7)。
上記アミノ酸はグリシン、グルタミン酸、リジンなどである(請求項2)。
比較例1〜4には、EDTAの塩、グルコン酸塩、クエン酸、EDTAと酒石酸の混合物を夫々錯化剤に用いたスズ置換液が開示される(段落34〜40)。
【0006】
(4)特許文献4
均一で摺動性に優れたスズ皮膜を形成する目的で、スズ酸アルカリ金属塩と、ピロリン酸塩と、2価の銅塩とを各所定量で含有する水溶液からなるアルミニウム合金上へのスズ置換液である(請求項1、段落6〜7)。
上記特許文献3と同様に、比較例1〜4には、EDTAの塩、グルコン酸塩、クエン酸、EDTAと酒石酸の混合物を夫々錯化剤に用いたスズ置換液が開示される(段落29〜35)。
【0007】
(5)特許文献5
アルミニウム基材に置換スズ皮膜を形成することに関して、スズ酸塩(スズ酸ナトリウム塩、同カリウム塩)とヨンキント錯化剤を含む置換スズメッキ浴が開示される。前記先行文献1に先行する特許である。
上記ヨンキント錯化剤としては、前記先行文献1と同じく、アミノカルボン酸系錯化剤(EDTA、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸など)とポリヒドロキシカルボン酸系錯化剤(グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセリン酸塩など)が開示される。
尚、米国特許第3616291号には、アルミニウム基材上に電気メッキでスズ皮膜を形成することが開示される。
【0008】
(6)特許文献6
アルミニウム基材に置換スズ皮膜を形成することに関して、スズ酸塩(スズ酸ナトリウム塩、同カリウム塩)とヨンキント錯化剤を含む置換スズメッキ浴が開示される。前記先行文献5に先行する特許である。
上記ヨンキント錯化剤としては、前記特許文献1のうち、ポリヒドロキシカルボン酸系錯化剤(グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセリン酸塩、糖類酸の塩、酒石酸塩など)が開示される。
【0009】
(7)その他の特許文献
以下は参考的な文献であり、アルミニウム基材上への置換又は無電解メッキであってスズメッキを含むもの、或は、スズイオン含有液による前処理に関するものである。
特開平7−34254号公報には、アルミニウム系材料上に、亜鉛又はスズを主成分とする置換液で皮膜を形成し、次いで、還元剤を含有する水溶液で処理を行なった後、無電解メッキ処理をするアルミニウム系材料への無電解めっき方法が開示される(請求項1)。還元剤を含有する水溶液により金属置換皮膜の表面を均一に活性化でき、形成された無電解皮膜の外観性、密着性などを改善できる(段落7)。スズ置換液はスズ酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを含有する(段落15)。
特開2009−127101号公報には、少なくともアルミニウムと置換可能な金属の塩と、アルカリ化合物(水酸化第4級アンモニウム)とを含有するアルミニウム合金上への金属置換処理液が開示される。上記金属は亜鉛、スズ、ニッケル、銅などであり(請求項4、段落16)、置換はジンケート処理が中心であり、スズ置換の例示はない。
特開2016−148086号公報には、アルミニウム系基材に置換スズメッキ処理(=スタネート処理)又はジンケート処理からなるメッキ促進処理をした後、スズ−銅合金メッキ皮膜及びスズ皮膜を順次形成することが開示される(請求項1〜3)。但し、上記置換スズメッキ浴の組成は不明である(段落21)。
特開2002−079771号公報には、陽極酸化処理をしたアルミニウム系基材に無電解メッキにてスズの下地皮膜を形成した後、銅皮膜を形成することが開示されるが、無電解スズメッキ浴の組成は不明である(段落29〜30)。
特開2012−041579号公報はアルミニウム系基材の表面加工方法及び前処理液に関して、アルミニウム合金材をスズ酸カリウムと酸化亜鉛と水酸化ナトリウムの含有液で前処理して所定の皮膜を形成した後(段落62)、エッチングにより粗化処理することが開示される(請求項1)。
特開2014−043632号公報には、アルミニウム系基材にジンケート処理で亜鉛皮膜を形成した後、置換スズメッキ処理を施すことが開示される(請求項1)。置換スズ浴には錯化剤として奥野製薬のサブスターAS−25が用いられる(段落30)。
【0010】
【特許文献1】特公昭50−003253号公報
【特許文献2】特表平9−510502号公報
【特許文献3】特開平10−219470号公報
【特許文献4】特開平10−219471号公報
【特許文献5】米国特許第3342330号公報
【特許文献6】米国特許第3274021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した通り、アルミニウム基材上へのアルカリ性置換スズメッキは単純な電位差を利用したものであるが、チオ尿素に代わる錯化剤は必要であり、上記特許文献に見るように、グルコン酸、グルコヘプトン酸などのヒドロキシカルボン酸系錯化剤、或は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)などのアミノカルボン酸系錯化剤が使用される。
アルカリ性置換スズメッキ浴において、錯化剤に上記特許文献に開示されたグルコン酸などのヒドロキシカルボン酸を使用すると、ランニングによりスラッジが発生してメッキ浴が白濁するうえ、アルミニウム基材への密着性も高くなく、メッキ浴の安定性と皮膜の密着性の両面で問題が多い。
また、上記特許文献に開示されたNTA、EDTAなどのアミノカルボン酸系錯化剤は、グルコン酸などのヒドロキシカルボン酸系列の錯化剤より安定性は少し改善されるが、依然として白濁が生じるうえ、白濁に起因して密着性も良くないという問題がある。
【0012】
本発明は、アルミニウム基材上へのアルカリ性置換スズメッキに際して、メッキ作業時の白濁を防止してメッキ浴の安定性を向上し、且つ、スズ皮膜をアルミニウム基材に対して強固に密着することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、アルミニウム基材上へのアルカリ性置換スズメッキにおいて、当該スズメッキ浴に使用されるアミノカルボン酸系錯化剤に着目し、上記特許文献に開示されたEDTAやNTAではなく、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)などの特定のアミノカルボン酸類を上記置換スズメッキ浴に適用すると、アミノカルボン酸類に属する同じ系列の錯化剤であっても、上記文献公知のEDTA、NTAに対して、DTPA、TTHAのような分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類では、作業時のスズメッキ浴の性状、並びに、当該浴から得られるスズ皮膜のアルミニウム基材に対する性質に顕著な優位性があるという予測外の知見を得た。
即ち、DTPA、TTHAなどで代表される分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類を上記アルカリ性置換スズメッキ浴に適用すると、メッキ作業時の白濁を防止して浴の安定性が飛躍的に改善すること、また、浴から得られるスズ皮膜をアルミニウム基材に強固に密着できることを見い出して、本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明1は、アルミニウム基材に対して置換スズ皮膜を形成するメッキ浴であり、
上記置換スズメッキ浴が、
(a)可溶性第二スズ塩と、
(b)錯化剤と、
(c)水酸化物とを含有するアルカリ性置換スズメッキ浴であって、
上記錯化剤(b)が、分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類であることを特徴とするアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴である。
【0015】
本発明2は、上記本発明1において、上記アミノカルボン酸類(b)がジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、テトラエチレンペンタミン七酢酸(TPHA)、ペンタエチレンヘキサミン八酢酸、ヘキサエチレンヘプタミン九酢酸、ヘプタエチレンオクタミン十酢酸及びその塩の少なくとも一種であることを特徴とするアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴である。
【0016】
本発明3は、上記本発明1又は2において、上記アミノカルボン酸類(b)がDTPA、TTHA、TPHA及びその塩の少なくとも一種であることを特徴とするアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴である。
【0017】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、上記成分(a)がスズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムから選ばれたスズ酸アルカリ金属塩、スズ酸カルシウム、スズ酸マグネシウム、スズ酸バリウムから選ばれたスズ酸アルカリ土類金属塩の少なくとも一種であることを特徴とするアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴である。
【0018】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかにおいて、上記水酸化物(c)が水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれたアルカリ金属の水酸化物、並びに水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウムから選ばれたアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化アンモニウムの少なくとも一種であることを特徴とするアルミニウム基材へのアルカリ性置換スズメッキ浴である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、アルカリ性置換スズメッキ浴において、前記特許文献に開示されたEDTA、NTAに代えて、DTPA、TTHAなどの分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類系列の錯化剤を使用するので、メッキ作業時にスラッジが発生せず、メッキ浴が白濁することがないため、メッキ作業に際してスズ浴の安定性に優れる。
また、当該白濁の防止も一つの理由と思われるが、上記特許文献に開示されたEDTA、NTAを錯化剤に用いた場合に比べて、メッキ浴から得られるスズ皮膜をアルミニウム基材に対して強固に密着できる。
このように、アルカリ性置換スズメッキに際して、同じアミノカルボン酸類の系列に属しながら、DTPA、TTHAのような分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類を上記置換スズメッキ浴の錯化剤に選択すると、作業時のメッキ浴の安定性とアルミニウム基材へのスズ皮膜の密着性との両面で、EDTA、NTAのような4個以下の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類を選択した場合に比べて、顕著な優位性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は可溶性第二スズ塩と錯化剤と水酸化物を含有するアルミニウム基材用のアルカリ性置換スズメッキ浴であって、分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類を上記錯化剤に選択したスズ浴である。
上記アルミニウム基材は純アルミニウム、アルミニウム合金を包含する概念である。当該アルミニウム合金はアルミニウムと他の金属との各種合金が製品化されているが、アルミニウムとシリコンからなるアルミニウム−シリコン系合金が本発明の置換スズ浴には好適である。ちなみに、同じアルミニウム材であってもアルミニウム合金とアルミダイキャストはJIS規格では別々に分類されるが、本発明に好適な上記アルミニウム−シリコン系合金は、JIS規格において4000番台の系列に分類されるアルミニウム合金、並びに、アルミニウム及びシリコンに加えて、さらに銅などの他種金属成分を含むアルミダイキャストの両方を包含するものである(後述の評価試験例の試料1〜2参照)。
【0021】
上述したように、本発明のアルカリ性置換スズメッキ浴は、アルミニウム基材に対して置換スズ皮膜を形成するためのメッキ浴であって、
(a)可溶性第二スズ塩と、
(b)所定のアミノカルボン酸類からなるスズイオンの錯化剤と、
(c)水酸化物とを含有する。
上記可溶性第二スズ塩(a)は4価のスズ塩であり、基本的にスズ酸アルカリ金属塩、スズ酸アルカリ土類金属塩から選ばれ、これらを単用又は併用できる。
上記スズ酸アルカリ金属塩としてはスズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムなどが挙げられ、上記スズ酸アルカリ土類金属塩としてはスズ酸カルシウム、スズ酸マグネシウム、スズ酸バリウムなどが挙げられる。
上記可溶性第二スズ塩(a)のメッキ浴に対する含有量は0.20〜0.80モル/L、好ましくは0.30〜0.60モル/L、より好ましくは0.40〜0.60モル/Lである。
【0022】
上記水酸化物(c)はメッキ浴をアルカリ性に調整するためのもので、具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれたアルカリ金属の水酸化物、並びに水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウムから選ばれたアルカリ土類金属の水酸化物、或は水酸化アンモニウムなどを単用又は併用できる。
上記水酸化物(c)のメッキ浴に対する含有量は0.01〜0.30モル/L、好ましくは0.03〜0.10モル/L、より好ましくは0.05〜0.10モル/Lである。
【0023】
本発明の置換スズメッキ浴の最大の特徴は、上述の通り、錯化剤に前記特許文献に開示されたEDTAやNTAではなく、上記(b)で特定されたアミノカルボン酸類を使用する点にある。
即ち、本発明の置換スズメッキ浴で用いるアミノカルボン酸類(b)は、分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸及びその塩に限定され、これらを必須の錯化剤成分とするものである。従って、分子内に4個以下の酢酸基が結合したEDTAやNTAなどのアミノカルボン酸類、或は、分子内にプロピオン酸基などが結合したアミノカルボン酸類は本発明の錯化剤(b)の適用外である。
但し、本発明の置換スズメッキ浴では、上記アミノカルボン酸類(b)に加えて、従来のEDTAやNTA、或はグルコン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸類との併用まで排除するものではない。
上記アミノカルボン酸類(b)としては、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、テトラエチレンペンタミン七酢酸(TPHA)、ペンタエチレンヘキサミン八酢酸、ヘキサエチレンヘプタミン九酢酸、ヘプタエチレンオクタミン十酢酸及びその塩を単用又は併用でき、DTPA、TTHA、TPHA及びその塩が好ましく、より好ましくはDTPA、TTHA及びその塩である。
即ち、本発明にあっては、分子内の酢酸基の結合数が5〜10個のアミノカルボン酸類(b)のうち、酢酸基の結合数が5〜7個のアミノカルボン酸類が好ましい。
上記アミノカルボン酸類(b)のメッキ浴に対する含有量は0.03〜0.30モル/L、好ましくは0.05〜0.15モル/Lである。
【0024】
本発明の置換スズメッキ浴には、界面活性剤、光沢剤、半光沢剤、防腐剤などの各種添加剤を含有することができる。
上記界面活性剤には通常のノニオン系、アニオン系、両性、或はカチオン系などの各種界面活性剤が挙げられ、メッキ皮膜の外観、緻密性、平滑性、密着性などの改善に寄与する。
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、モノ〜トリアルキルアミン塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、トリメチルアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、C1〜C25アルキルフェノール、アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシルリン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。
当該界面活性剤のメッキ浴に対する含有量は0.01〜100g/L、好ましくは0.1〜50g/Lである。
【0025】
上記光沢剤、或は半光沢剤としては、ベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、2,4,6−トリクロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、フルフラール、1−ナフトアルデヒド、2−ナフトアルデヒド、2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド、3−アセナフトアルデヒド、ベンジリデンアセトン、ピリジデンアセトン、フルフリルデンアセトン、シンナムアルデヒド、アニスアルデヒド、サリチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、グルタルアルデヒド、パラアルデヒド、バニリンなどの各種アルデヒド、トリアジン、イミダゾール、インドール、キノリン、2−ビニルピリジン、アニリン、フェナントロリン、ネオクプロイン、ピコリン酸、チオ尿素類、N―(3―ヒドロキシブチリデン)―p―スルファニル酸、N―ブチリデンスルファニル酸、N―シンナモイリデンスルファニル酸、2,4―ジアミノ―6―(2′―メチルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、2,4―ジアミノ―6―(2′―エチル―4―メチルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、2,4―ジアミノ―6―(2′―ウンデシルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、サリチル酸フェニル、或は、ベンゾチアゾール、2―メルカプトベンゾチアゾール、2―メチルベンゾチアゾール、2―アミノベンゾチアゾール、2―アミノ―6―メトキシベンゾチアゾール、2―メチル―5―クロロベンゾチアゾール、2―ヒドロキシベンゾチアゾール、2―アミノ―6―メチルベンゾチアゾール、2―クロロベンゾチアゾール、2,5―ジメチルベンゾチアゾール、5―ヒドロキシ―2―メチルベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール類などが挙げられる。
【0026】
上記防腐剤としては、ホウ酸、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、塩化ベンザルコニウム、フェノール、フェノールポリエトキシレート、チモール、レゾルシン、イソプロピルアミン、グアヤコールなどが挙げられる。
上記置換スズメッキ浴では添加する可溶性第二スズ塩、水酸化物によってアルカリ性に調整されるので、pH調整剤を用いる必要はないが、別途、塩基を加えてpHを適正に調整しても良い。
また、本発明のアルカリ性置換スズメッキ浴で使用するスズ酸塩は4価のスズであって浴中で安定であるため、2価スズ塩を用いた場合のようにアスコルビン酸又はその塩、ハイドロキノン、カテコールなどの酸化防止剤は不要である。
【0027】
置換スズメッキの条件は任意であるが、浴温は45〜90℃が好ましく、析出速度を増す見地から50〜70℃がより好ましい。浸漬時間は30秒〜30分が好ましいが、浴温にも左右される。
【実施例】
【0028】
以下、本発明のアルカリ性置換スズメッキ浴の実施例、当該スズメッキ浴を用いてアルミニウム基材に置換メッキした直後の初期密着性並びにメッキ作業時の浴安定性の評価試験例を順次説明する。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0029】
《本発明のアルカリ性置換スズメッキ浴の実施例》
下記の実施例1〜10のうち、実施例1はスズ酸カリウム(可溶性第二スズ塩)とDTPA(錯化剤)と水酸化カリウム(水酸化物)を含有する置換スズメッキ浴である。実施例2は当該実施例1を基本として錯化剤をTTHAに変更した例、実施例3は同じくTPHAに変更した例である。実施例4は実施例1を基本としてスズ酸塩をスズ酸ナトリウムに変更した例、実施例5は実施例2を基本としてスズ酸塩をスズ酸カルシウムに変更した例である。実施例6は実施例1を基本として水酸化物を水酸化ナトリウムに変更した例、実施例7は同じく上記実施例2を基本として水酸化物を水酸化カルシウムに変更した例である。実施例8は上記実施例3を基本としてスズ酸塩にスズ酸カリウムとスズ酸ナトリウムを併用した例、実施例9は上記実施例1を基本として水酸化物に水酸化カリウムと水酸化ナトリウムを併用した例である。実施例10は実施例1を基本として錯化剤にDTPAとTTHAを併用した例である。
特に、上記実施例1〜3では、本発明の成分(a)と(c)の種類と含有量を固定し、錯化剤(b)の種類を変えながら、その含有量を0.05〜0.15モル/Lの範囲で変化させている。
【0030】
一方、比較例1〜6は冒述の特許文献1〜6に準拠した例であり、比較例1は上記実施例1を基本として錯化剤にEDTAを用いた例(特に特許文献1〜2、5)、比較例2は同じくNTAを用いた例(特に特許文献1〜2)、比較例3は同じくグリシン誘導体であるDHEGを用いた例(特に特許文献2、5)である。比較例4は上記実施例1を基本として錯化剤にグルコン酸を用いた例(特に特許文献2、5〜6)、比較例5は同じくアミノ酸としてのグルタミン酸を用いた例(特に特許文献2〜3)、比較例6は同じくピロリン酸を用いた例(特に特許文献4)である。
【0031】
(1)実施例1
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA) 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.0μm
【0032】
(2)実施例2
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA) 0.15モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.2μm
【0033】
(3)実施例3
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
テトラエチレンペンタミン七酢酸(TPHA) 0.05モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.1μm
【0034】
(4)実施例4
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸ナトリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA) 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 0.9μm
【0035】
(5)実施例5
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カルシウム(Sn4+として) 0.35モル/L
トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA) 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.0μm
【0036】
(6)実施例6
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA) 0.10モル/L
水酸化ナトリウム 0.06モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.0μm
【0037】
(7)実施例7
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA) 0.10モル/L
水酸化カルシウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.1μm
【0038】
(8)実施例8
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.30モル/L
スズ酸ナトリウム(Sn4+として) 0.20モル/L
テトラエチレンペンタミン七酢酸(TPHA) 0.05モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.0μm
【0039】
(9)実施例9
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA) 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.03モル/L
水酸化ナトリウム 0.03モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 0.9μm
【0040】
(10)実施例10
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA) 0.05モル/L
トリチレンテトラミン六酢酸(TTHA) 0.05モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.2μm
【0041】
(11)比較例1
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
エチレンジアミン四酢酸(EDTA) 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 0.9μm
【0042】
(12)比較例2
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
ニトリロ三酢酸(NTA) 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 0.9μm
【0043】
(13)比較例3
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG) 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 1.0μm
【0044】
(14)比較例4
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
グルコン酸 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 0.7μm
【0045】
(15)比較例5
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
グルタミン酸 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 0.8μm
【0046】
(16)比較例6
下記の組成でアルカリ性置換スズメッキ浴を建浴した。
スズ酸カリウム(Sn4+として) 0.40モル/L
ピロリン酸 0.10モル/L
水酸化カリウム 0.05モル/L
pH 13.0
[メッキ条件]
浴温 60℃
メッキ膜厚 0.6μm
【0047】
そこで、上記実施例1〜10並びに比較例1〜6の各アルカリ性置換スズメッキ浴を2種類のアルミニウム基材に適用して、基材に対するスズ皮膜の初期密着性並びにメッキ作業時のスズ浴の安定性の各評価試験例を述べる。
《メッキ浴から得られたスズ皮膜の初期密着性の評価試験例》
[置換スズメッキ方法]
先ず、下記(i)及び(ii)で示す2種類のアルミニウム基材を試料として用意した。
(i)試料1:アルミニウム合金/Al−Si系(A4032;JIS規格)
(ii)試料2:アルミダイキャスト/Al−Si−Cu系(ADC12;JIS規格)
次いで、上記各試料1〜2を水酸化ナトリウム水溶液(2重量%)で25℃、3分の条件でアルカリ脱脂し、実施例及び比較例に示す各置換スズメッキ浴に60℃、3分間の条件で浸漬した後、25℃、約30秒の条件で水洗し、乾燥して置換スズ皮膜を得た(スズ皮膜の膜厚は各実施例、比較例に示した)。
[評価方法]
得られたスズ皮膜について、JIS K5600クロスカット法(25マス)に準拠して、スズ皮膜の初期密着性の優劣を試料ごとに評価した。
尚、上記初期密着性とはメッキ直後のスズ皮膜の密着性を意味し、メッキ作業終了から時間を経た後の皮膜の密着性を評価したものではない。
初期密着性の評価基準は次の通りである。
◎ :スズ皮膜に切り込みを入れた25マスの全てが試料から剥離しなかった。
△ :スズ皮膜の上記25マスのうち、1〜15マスが試料から剥離した。
× :スズ皮膜の上記25マスのうち、16〜24マスが試料から剥離した。
××:スズ皮膜の上記25マスの全てが試料から剥離した。
【0048】
一方、置換スズメッキ浴を用いてメッキ作業を行った場合、浴の白濁の有無、或は白濁の発生度合に基づいて当該スズ浴の安定性を評価した。
《置換スズメッキ浴の安定性の評価試験例》
上記白濁の発生度合は試料をメッキ処理する面積量で違い、一般に、メッキ浴に浸漬するAl合金試料の面積が増すほど白濁の発生度合は高くなるため、処理面積で比較を行った。
スズ浴の安定性の評価基準は次の通りである。
〇:30dm2/Lの処理を行った時点で、白濁の発生がなかった。
△:15〜20dm2/Lの処理を行った時点で、白濁が発生した。
×:10〜15dm2/Lの処理を行った時点で、白濁が発生した。
この場合、例えば、上記「○」の評価は、1dm2のAl合金試料を30枚用意し、1Lのメッキ浴にこれらの試料を1枚ごとに順次30回浸漬し続けても白濁しなかったことを意味する。
【0049】
《スズ皮膜の初期密着性とスズメッキ浴の安定性の試験結果》
下表Aはその試験結果である。
但し、前述の通り、初期密着性の評価試験は試料1〜2ごとに行ったが、各実施例及び比較例ともに、前記4段階評価(◎〜××)に基づく試験結果は試料1と試料2の間で差異はなかった。例えば、実施例1において、試料1の評価は◎、試料2でも◎であった(他の実施例、比較例も同じ)。従って、下表では試料1と2に分けて結果を示すことはせず、初期密着性は試料1〜2の間で同じ評価であることを表している。
【0050】
[表A] 初期密着性 浴の安定性 初期密着性 浴の安定性
実施例1 ◎ ○ 比較例1 △ △
実施例2 ◎ ○ 比較例2 △ △
実施例3 ◎ ○ 比較例3 × ×
実施例4 ◎ ○ 比較例4 ×× ×
実施例5 ◎ ○ 比較例5 ×× ×
実施例6 ◎ ○ 比較例6 ×× ×
実施例7 ◎ ○
実施例8 ◎ ○
実施例9 ◎ ○
実施例10 ◎ ○
【0051】
《スズ皮膜の初期密着性とスズ浴の安定性の総合評価》
上表Aを見ると、冒述の特許文献2、5〜6に開示されたヒドロキシカルボン酸類であるグルコン酸を錯化剤に用いた比較例4、同じく冒述の特許文献2〜3に開示されたグルタミン酸を比較例5、或は同じく特許文献4に開示されたピロリン酸を用いた比較例6では、共にスズ皮膜のアルミニウム基材に対する初期密着性は××であり、また、スズ浴は顕著に白濁しており、浴の安定性は×であった。
冒述の特許文献2、5に開示されたグリシン誘導体であるDHEGを錯化剤に用いた比較例3では、初期密着性は×、スズ浴の安定性は×であって、浴の安定性は上記比較例4〜6と変わらないが、初期密着性は比較例4〜6より少しだけ改善傾向が見られた。
また、冒述の特許文献1〜2、5に開示されたEDTA、NTAを錯化剤に用いた比較例1〜2では、上記比較例3より初期密着性及び浴安定性の両面で更なる改善傾向が見られたが、評価は共に△にとどまった。
これらに対して、分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類であるDTPA、TTHA、TPHAを錯化剤に用いた実施例1〜10では、25マスの全てがアルミニウム基材に強固に密着しており、初期密着性の評価は◎であるとともに、メッキ浴についても白濁は認められず、浴の安定性も○であった。
従って、グルタミン酸、ピロリン酸を錯化剤に用いた比較例5〜6はもとより、メッキ浴の錯化剤として比較的多用されるグルコン酸を用いた比較例4に比べても、実施例1〜10は初期密着性と浴安定性の両面で顕著な優位性を示した。
【0052】
次いで、実施例の優位性は、グリシン誘導体であるDHEGを用いた比較例3に対しても同じであるが、特に、EDTA、NTAを用いた比較例1〜2に対して、実施例1〜10は、EDTAなどと同じ系列に属するアミノカルボン酸類を用いながら、想定外の顕著な優位性を示すことに注目すべきである。
EDTA、NTAを用いた比較例1〜2では、メッキ浴の安定性が低く浴が白濁して、アルミニウム基材に対する密着性自体を発現しなかったが、実施例1〜10ではメッキ浴に白濁がなく浴安定性に優れる点がEDTAやNTAに対する特段の相違であり、また、アルミニウム基材への初期密着性もEDTAやNTAに比べて飛躍的に向上した。おそらく、実施例1〜10では、メッキ浴の高い安定性に起因して強力な密着機能を発現したものと推定される。
以上のように、最も明解な比較例1〜2との対比で実施例1〜10を考察すると、同じ系列のアミノカルボン酸類をアルカリ性置換スズメッキに適用した場合であっても、アミノカルボン酸類の分子内における酢酸基の結合数がスズ浴の安定性、並びにスズ皮膜の初期密着性に顕著な影響を及ぼし、DTPA、TTHA、TPHAのような分子内に5個以上の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類は、EDTA、NTAのような4個以下の酢酸基が結合したアミノカルボン酸類とは異なる特異な錯化機能を果たすことが推定でき、浴安定性と初期密着性の両方について、酢酸基の結合数が5個以上のアミノカルボン酸類の顕著な優位性が裏付けられた。
【0053】
以下、実施例1〜10を詳細に考察する。
DTPA、TTHA、TPHAを夫々用いた実施例1〜3では、初期密着性と浴安定性は共に同じ評価であるため、アミノカルボン酸類の分子内における酢酸基の結合数が5個以上であれば、これら両面の有効性に差異はないことが分かる。また、実施例10のように、本発明の錯化剤であるアミノカルボン酸類(b)を併用しても、有効性は変わらないことが分かる。
実施例3ではTPHAの含有量は0.05モル/Lであり、実施例2ではTTHAの含有量は0.15モル/Lであるが、初期密着性と浴安定性の評価は両者間で同じであるため、本発明の錯化剤(b)の含有量は0.05モル/L前後の少量でも有効であり、過剰の含有量は必要ないことが判断できる。
実施例1、4、5、8を対比すると、スズ酸塩をアルカリ金属塩、アルカリ土類金属の間で変更し或は併用しても、初期密着性及び浴安定性の有効性に変わりはなく、実施例6〜7、9を対比すると、水酸化物をアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物の間で変更し或は併用しても、初期密着性及び浴安定性の有効性に変わりはないことが判断できる。