(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0016】
(実施の形態)
<燃料電池の構造>
図1は、本発明の実施形態にかかる燃料電池の基本構成を示す断面図である。本実施の形態にかかる燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる高分子電解質型燃料電池である。なお、本実施の形態は、高分子電解質形燃料電池に限定されるものではなく、種々の燃料電池に適用可能である。
【0017】
本実施形態にかかる燃料電池は、
図1の断面図に示すように、MEA10と、MEA10の両面に配置された一対の板状のアノードセパレータ20A、カソードセパレータ20Cとを有するセル(単電池)5を備えている。
【0018】
なお、本実施形態にかかる燃料電池は、このセル5を複数個積層して構成されていてもよい。この場合、互いに積層されたセル5は、燃料ガス及び酸化剤ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材(図示せず)により所定の締結圧にて加圧締結されていることが好ましい。
【0019】
MEA10は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜11と、この高分子電解質膜11の両面に形成された一対の電極層がある。その電極は、アノード電極12A(燃料極ともいう)と、カソード電極12C(空気極ともいう)である。
【0020】
アノード電極12Aは、高分子電解質膜11の一方の面上に形成されろ。アノード電極12Aは、白金属触媒を坦持した炭素粉末を主成分とする一対のアノード触媒層13Aと、このアノード触媒層13A上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つアノードガス拡散層14Aとを有している。
【0021】
カソード電極12Cは、高分子電解質膜11の他方の面上に形成される。カソード電極12Cは、白金属触媒を坦持した炭素粉末を主成分とする一対のカソード触媒層13Cと、このカソード触媒層13C上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つカソードガス拡散層14Cとを有している。
【0022】
アノードセパレータ20Aには、アノードガス拡散層14Aと当接する主面に、燃料ガスを流すための燃料ガス流路21Aが設けられている。燃料ガス流路21Aは、例えば、互いに略平行な複数の溝で構成されている。
【0023】
カソードセパレータ20Cには、カソードガス拡散層14Cと当接する主面に、酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路21Cが設けられている。酸化剤ガス流路21Cは、例えば、互いに略平行な複数の溝で構成されている。
【0024】
なお、アノードセパレータ20A及びカソードセパレータ20Cには、冷却水などが通る冷却水流路(図示せず)が設けられていてもよい。燃料ガス流路21Aを通じてアノード電極12Aに燃料ガスが供給されるとともに、酸化剤ガス流路21Cを通じてカソード電極12Cに酸化剤ガスが供給される。このことで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。ここで、より効率的に電気化学反応を起こすためには、燃料ガスおよび酸化剤ガスを加湿し、前述したアノード電極12Aおよびカソード電極12Cを所定の保水状態に維持することが重要である。これは、反応物質が水分を介して移動するためであり、加湿条件は燃料電池の構成、仕様により適宜調整する。
【0025】
なお、この実施の形態では、燃料ガス流路21Aをアノードセパレータ20Aに設けたが、本実施の形態はこれに限定されない。例えば、燃料ガス流路21Aは、アノードガス拡散層14Aに設けてもよい。この場合、アノードセパレータ20Aは平板状であってもよい。
【0026】
同様に、この実施の形態では、酸化剤ガス流路21Cをカソードセパレータ20Cに設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、酸化剤ガス流路21Cは、カソードガス拡散層14Cに設けてもよい。この場合、カソードセパレータ20Cは平板状であってもよい。
【0027】
アノードセパレータ20Aと高分子電解質膜11との間には、燃料ガスが外部に漏れることを防ぐために、アノード触媒層13A及びアノードガス拡散層14Aの側面を覆うようにシール材としてアノードセパレータ15Aが配置されている。
【0028】
また、カソードセパレータ20Cと高分子電解質膜11との間には、酸化剤ガスが外部に漏れることを防ぐために、カソード触媒層13C及びカソードガス拡散層14Cの側面を覆うようにシール材としてカソードセパレータ15Cが配置されている。
【0029】
アノードセパレータ15A及びカソードセパレータ15Cとしては、一般的な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。例えば、アノードセパレータ15A及びカソードセパレータ15Cとして、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、液晶性ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン、ガラス繊維強化樹脂などを用いることができる。
【0030】
なお、アノードセパレータ20A及びカソードセパレータ20Cは、それらの一部がアノードガス拡散層14A又はカソードガス拡散層14Cの周縁部に含浸しているほうが好ましい。これにより、発電耐久性及び強度を向上させることができる。
【0031】
また、アノードセパレータ20A及びカソードセパレータ20Cに代えて、アノードセパレータ20Aとカソードセパレータ20Cとの間に、高分子電解質膜11、アノード触媒層13A、アノードガス拡散層14A、カソード触媒層13C及びカソードガス拡散層14Cの側面を覆うように、セパレータを配置してもよい。これにより、高分子電解質膜11の劣化を抑制し、MEA10のハンドリング性、量産時の作業性を向上させることができる。
【0032】
<触媒の製造方法>
アノード触媒層13Aとカソード触媒層13Cの少なくとも1方の触媒として、本実施の形態の白金族金属粒子担持触媒(以降、触媒と述べる)を用いる。
【0033】
本実施の形態では、特に触媒金属合成時に合成原材料(添加剤)の一部を触媒金属表面に残す工程2の金属粒子担持工程と、その残した添加剤を除去する4の電気化学的処理が重要である。他の工程は必須ではない。本実施形態にかかる触媒の製造方法について
図2を用いて説明する。
【0034】
<1.前処理工程>
担体であるカーボン材料を前処理し、密度が低いカーボンを除去する工程を実施する。
【0035】
<2.金属粒子担持工程>
次に前処理工程で所定の処理を行ったカーボンを用い、カーボン上へ少なくとも白金を含有した金属粒子を担持させる。この金属粒子担持工程では、添加剤を用いるが、添加剤を一部金属粒子に残留させる。
【0036】
<3.表面処理工程>
さらに、金属粒子が担持されたカーボンを、酸化溶液中に含浸させ、カーボン表面に官能基を導入する。この工程により、カーボンをより親水性にすることができ、前述した燃料電池を構成し発電する際、アノード電極層、もしくは/および、カソード電極層の保水効果が得られ、効率的に発電させることができる。
【0037】
以上、前述した前処理工程、金属粒子担持工程、酸化処理工程の順に処理することが望ましいが、特に限定されるものではなく、前処理工程と酸化処理工程を省く処理を用いても構わない。 なお、さらに以下の工程をするのが好ましい。
【0038】
<4.電気化学処理工程>
上記触媒を用いて、燃料電池(MEA)を作製し、触媒をCV(酸化還元スイープ処理)する。MEA発電特性評価(後述)で、金属粒子担持工程の添加剤を除去することが好ましい。この工程では、燃料電池を作製する工程と同じである。
【0039】
<前述した各工程における詳細内容を以下に説明する。>
[1.前処理工程]
本実施の形態に用いられるカーボン111としては、比表面積が250〜1200m
2/gの炭素粉末を適用することが望ましい。
【0040】
比表面積を250m
2/g以上とすることにより、触媒が付着する面積を増加させることができるので触媒粒子を高い状態で分散させ有効表面積を高くすることが可能となる。
【0041】
一方、比表面積が1200m
2/gを超えると、電極を形成する際にイオン交換樹脂の進入しにくい超微細孔(約20Å未満)の存在割合が高くなり触媒粒子の利用効率が低くなる。
【0042】
カーボンの具体例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。なお、これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0043】
上記カーボンを600〜1500℃で熱処理した。ここで、熱処理の手段について得に限定されるものではなく、バッチ式焼成炉、ロータリーキルン、ガス循環型焼成炉などを使用することができる。また、酸素が存在する雰囲気で加熱すると、カーボンが燃焼してしまうため、不活性ガス中で処理することが望ましい。
【0044】
また、熱処理温度が、600℃以下だと、密度が低いカーボンの除去が不十分である。熱処理温度が、1500℃以上になると、カーボン全体が結晶化し表面積の低下を招く。このため、熱処理温度は、600℃以上1500℃以下にすることが望ましい。
【0045】
そこで熱処理する時間の管理が必要である。除去したい密度が低いカーボンが熱分解し、残したい密度が高いカーボンは分解しない温度と処理時間の調整が必要である。
【0046】
さらに本前処理工程の別の手段として、短時間の高温処理をする、大気プラズマやUV光、レーザー光を用いることも有効である。このことにより、処理時間の短縮による製造コスト低減や、温度ムラによる処理のバラツキ等が低減でき品質面で安定する効果が期待できる。
【0047】
[2.金属粒子担持工程]
上述した前処理を施したカーボンと、金属粒子の原料となる金属前駆体121と、および、必要に応じて添加剤122とを、溶媒123に混合/分散させ、所定の温度、時間の条件で攪拌した。
【0048】
また、攪拌する間、pHを4〜10の範囲でpH調整剤124を用いて調整し、温度を30〜40℃で保持した。ここでpHの調整範囲は特に限定されるものではなく、カーボンおよび金属前駆体121を均一に分散、溶解させるために、カーボンの表面のゼータ電位や金属前駆体の溶解性を制御するためである。そのため、使用する材料に合わせて調整することが必要である。
【0049】
その後、還元剤125を添加し、金属前駆体121を構成する金属イオンを還元させることで、金属粒子をカーボンへ担持させる。
【0050】
還元反応時の温度は、通常4℃以上、好ましくは10℃以上、また、通常沸点以下、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下の範囲である。還元反応時の温度が高過ぎると、還元反応が速く進行する為、目的の白金族化合物以外が生成する場合がある一方、温度が低過ぎると、還元力が弱すぎて目的の白金族化合物を得ることができない場合がある。
【0051】
なお、還元反応を開始する手順としては、以下の二つの手法(a)、(b)が挙げられるが、何れの手順を用いてもよい。
【0052】
(a)還元剤を加えても還元反応が進行しない程度の低い温度(上記規定還元温度範囲未満の温度である。通常は常温以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下)において、白金族塩溶液と炭素粉末分散液の混合溶液に還元剤(還元剤溶液)を加えて混合し、その後に還元反応が進行するのに十分な温度(上記規定温度範囲内の温度)まで昇温する手法である。
【0053】
(b)白金族塩の還元反応が十分に進行する温度(上記規定温度範囲内の温度)まで白金族塩溶液と炭素粉末分散液の混合溶液を予め加熱しておき、その状態で還元剤を加えて還元反応を開始する手法である。
【0054】
これまでの工程を経て、カーボン上に金属粒子を担持させた金属粒子担持カーボン144が分散した溶液が製造できた。この分散した金属粒子担持カーボン144を濾別し、水やエタノールなどで十分に洗浄した。ここで洗浄は、濾液がアルカリ性ではなく、十分中性になったことを確認し、洗浄操作を終了とした。
【0055】
また、濾別した金属粒子担持カーボン144に付着した添加剤の一部を残留させて除去するため、50〜110℃で乾燥、もしくは、減圧雰囲気下に放置した。さらに、焼成工程で、100℃以上500℃以下に管理することが望ましく、さらに、焼成時間も3時間以上9時間以下に管理することが望ましい。以下
図3で説明するように、金属粒子担持カーボン144の金属粒子表面の添加剤122を完全に除去するのではなく、一部残留させることが必要である。
【0056】
<メカニズム>
図3(a)〜
図3(c)で、本実施の形態にかかるプロセスの概略を説明する。
【0057】
図3(a)は、金属粒子担持工程の金属粒子担持カーボン144を示す。この工程では、金属粒子担持カーボン144の表面上に金属前駆体121が付着をさせる。かつ、金属前駆体121に添加剤122の一部を付着させる。
【0058】
図3(b)は、以下で詳細に説明する電気化学処理工程の前半での金属粒子担持カーボン144を示す。
図3(c)は、電気化学処理工程の後半での金属粒子担持カーボン144を示す。
【0059】
電気化学処理工程では、一旦、金属前駆体121表面が樹脂151で覆われる。しかし、添加剤122を金属前駆体121から飛ばすことで、樹脂151を破る。結果、金属前駆体121(触媒)が活性化する。樹脂151は、金属粒子担持カーボン144を覆い、かつ、金属前駆体121の表面の一部を除き、金属前駆体121の表面を覆う。
【0060】
金属粒子担持工程における各材料について更に以下に説明する。
【0061】
<各材料>
[金属前駆体121]
本実施の形態では、金属粒子として白金族粒子を用いた白金族金属粒子担持触媒を製造した。そのために用いる金属前駆体121として、白金族の無機化合物(白金族の酸化物、硝酸塩、硫酸塩等)、ハロゲン化物(白金族の塩化物等)、有機酸塩(白金族の酢酸塩等)、錯塩(白金族のアンミン錯体等)、有機金属化合物(白金族のアセトルアセトナート錯体等)等が挙げられる。また、白金族金属そのものを反応溶液中に溶解させて使用してもよい。なお、白金族とは、通常知られているように、Ptの他、Ru、Rh、Pd、Os、Ir等の各元素を含む。
【0062】
中でも、白金族塩としては、白金族を含有する無機化合物、白金族のハロゲン化物、又は白金族を含有する有機金属化合物を用いることが好ましく、具体的には、白金族の塩化物を用いることが特に好ましい。
【0063】
なお、白金族塩は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で組み合わせて用いてもよい。
【0064】
[添加剤122]
次に添加剤122について説明する。この添加剤122は、カーボンおよび金属前駆体121を溶媒中に均一に分散/溶解させるために用いる。そのため添加剤122は、それ自身溶媒に溶解もしくは分散し、金属前駆体121の溶媒への溶解を妨げない、カーボンの溶媒への親和性を向上させる、以後の工程で金属粒子やカーボンを凝集させない制約の範囲で選定する必要がある。
【0065】
上述した範囲であれば、添加剤122としては、一般的な錯化剤、分散剤や界面活性剤と称される添加剤を用いることができる。錯化剤の具体的なものとして、エチレンジアミン(ethylene diamine)(略称EDA:分子式:H
2N(CH
2)
2NH
2)やジエタノールアミン(Diethanolamine)(略称DEA:分子式:(HOCH
2CH
2)
2NH)などのような、窒素原子もしくは酸素原子を含む化合物が望ましい。また界面活性剤として臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(hexadecyltrimethylammonium bromide)(略称CTAB:分子式(CH
3(CH2)
15N(CH
3)
3Br)などのような、親水性のアミノ基と疎水性の炭化水素からなる化合物が望ましい。また、錯化剤と界面活性剤の両方の特性を有する化合物を使用することも出来る、しかしここで錯化剤や界面活性剤の種類について限定されるものではない。
【0066】
[溶媒123]
溶媒123の種類は、本発明の課題を解決し効果を奏する限り何ら制限されないが、通常は水または有機溶媒が使用される。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類が挙げられる。
【0067】
中でも、溶媒としては、pHを制御しやすいという観点から、水が好ましく、特に蒸留水やイオン交換水を用いることが好ましい。
【0068】
なお、溶媒は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。しかしpHの制御という観点から、水とアルコール類の混合比は、全体容量に対しアルコール類の混合容量は50%以下が望ましい。
【0069】
[pH調整剤124]
次に、上述した金属前駆体121、カーボン、および添加剤122を溶媒123に溶解、分散させた混合溶液を、pH調整剤124によりpHを調整した。これは、溶液中の微粒子は表面に電荷を有しており、その電荷はpH依存性があることが一般的である。そのためpHにより電荷がプラス〜0〜マイナスと変化する。電荷が0に近いとカーボンが凝集してしまい、後の工程でカーボン上に担持される金属粒子の担持位置に偏りが発生する懸念がある。
【0070】
その場合はpHを酸性側もしくはアルカリ性側に調整して、カーボンの凝集を防ぐことが望ましい。
【0071】
またpHを調整する手法は制限されないが、通常はpH調整剤を用いる。pH調整剤の例としては、硝酸、硫酸、塩酸、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。中でも、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウムが好ましい。なお、pH調整剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0072】
[還元剤125]
還元剤125は、金属前駆体121およびカーボンを溶解/分散している溶媒123に可溶なものであれば、その種類は制限されない。
【0073】
還元剤の具体例としては、ヒドラジン等の窒素化合物、水素化ホウ素ナトリウム等のホウ素化合物、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類、L−アスコルビン酸および類似するカルボン酸類、メタノール等のアルコール類、等が挙げられる。
【0074】
中でも、還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジンが好ましい。
【0075】
なお、上記例示の還元剤は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0076】
還元剤125の使用量としては、上記の白金族塩溶液中に含有される全ての白金族錯体を、十分に白金族に還元できる量が好ましい。
【0077】
一般的には、金属1当量に対して、通常1倍当量以上であればよく、還元反応の効率を考慮すれば、好ましくは1.2倍当量以上、より好ましくは1.5倍当量以上、更に好ましくは2倍当量以上が望ましい。また、未反応物の後処理等を考慮すると、上限としては通常、500倍当量以下、中でも100倍当量以下、更には40倍当量以下が好ましい。
【0078】
また、白金族塩溶液と炭素粉末分散液と還元剤125とを接触させる方法は制限されない。通常は、前述の白金族塩溶液と前述の炭素粉末分散液を混合した混合溶液に還元剤125を加えて混合し、白金族金属の還元反応を行なえばよい。
【0079】
なお、白金族塩溶液に還元剤125を直接加えて混合してもよいが、白金族塩溶液に対する混合、溶解を容易にするために、還元剤125を予め溶媒に溶解させておき、この溶液(以下、「還元剤溶液」という)を白金族塩溶液に加えて混合してもよい。
【0080】
この場合、溶媒としては、還元剤125を溶解させることが可能なものであれば、その種類は制限されない。また、一種の溶媒を単独で用いてもよく、二種以上の溶媒を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。但し、通常は白金族塩溶液の溶媒と同種の溶媒を用いる。還元剤溶液における還元剤125の濃度や、還元剤溶液の使用量も特に制限されない。還元剤溶液を白金族塩溶液に加えた場合に、白金族塩溶液中の金属に対する還元剤の量が上記範囲を満たすように、適宜調整すればよい。
【0081】
[3.表面処理工程]
上述した濾別された金属粒子担持カーボン144を、再度水に分散させた。そして硝酸、硫酸、塩酸から少なくとも1種類以上の酸溶液131を添加し、pHを1〜2になるように調整した。
【0082】
また、酸の濃度は1〜3mol/L、温度は50〜80℃で設定し、0.5〜12h攪拌した後、金属粒子担持カーボン144を濾別し、水やエタノールなどで十分に洗浄した。ここで洗浄は、濾液が酸性ではなく、十分中性になったことを確認した。この工程により、カーボン表面をより親水性にすることができ、前述した燃料電池を構成し発電する際、アノード電極層、もしくは/および、カソード電極層の保水効果が得られる。その結果、反応物質が水分を介して伝導し易くなり、効率的に発電させることができる。
【0083】
前述した[1.前処理工程]、[2.金属粒子担持工程]、[3.酸化処理工程]を経て、金属粒子担持カーボン144を得る。
【0084】
以上、実施の形態では、1.前処理工程と、2.金属粒子担持工程と、3.酸処理工程とからなる。その結果、合成原材料の一部添加剤を金属粒子担持カーボン144表面に残留させるという効果がある。
【0085】
また、前述した前処理工程、金属粒子担持工程、酸化処理工程の順に処理することが望ましいが、特に限定されるものではなく、前処理工程と酸化処理工程を省く処理を用いても構わない。
【0086】
さらに、金属粒子担持工程で、添加剤を用いることと、焼成により添加剤を一部残留させることと、MEA発電特性評価(後述)で、その添加剤を除去することを特徴とする。
【0087】
[4.電気化学処理工程]
(1)インク化工程
上記触媒を、所定比率に混合したエチルアルコール/水混合溶媒、もしくは、2−プロパノール/n−プロパノール/水混合溶媒に分散させた。必要に応じて超音波を照射して分散させた。次に、その分散溶液にイオン交換樹脂(商品名:ナフィオンDupont製、イオノマー(以後、樹脂151と述べる。))の5%溶液を添加し攪拌混合しインク化した。
(2)電極形成工程
次にこの混合溶液を、高分子電解質膜11へスプレー塗布し、白金量を0.2〜0.3mg/cm
2の所定量になるように調整して、塗布膜を形成した。つぎのこの塗布膜を130〜150℃、5〜30kg/cm
2でホットプレスし、カソード電極12Cを形成した。
【0088】
アノード電極12Aは、アノード電極標準触媒としてTEC10E50E(田中貴金属製)を用い、カソード電極12Cと同等の製造方法で製造した。
【0089】
次に、このカソード電極12Cとアノード電極12Aを用い、一対の電極で挟持した膜・電極接合体MEA10を形成した。発電評価装置を用いて電気化学的に、MEA10の触媒を酸化還元スイープCV処理する。
(3)除去工程
酸化還元スイープCVでは、例えば、付着性物質を除去したい触媒金属を含む電極を作用極とし、電解質膜を挟んで反対側に設ける電極を対極として、対極に水素、作用極に窒素又は酸素を流し、対極と作用極間に電位差を生じさせる。このことで、触媒金属表面に付着した付着性物質を除去することができる。
【0090】
対極と作用極間の電位差は、対極に水素、作用極に酸素を供給した場合の電極反応による電位を利用する他、電圧印加手段を用いて電位差を生じさせてもよい。この時、電極反応による電位を利用すると共に、電圧印加手段を用いてもよいし、電圧印加手段によってのみ対極と作用極間に電位差を生じさせてもよい。
【0091】
対極に窒素ガスを流す場合、通常、開回路電圧は0.2V以下であるため、付着性物質
を除去するために必要な電位、特に0.7V以上の電位を得るためには、電圧印加手段に
より外部から電位を印加することとなる。
【0092】
水素電極側に水素ガス、酸素電極側に窒素ガス(不活性ガス)をMEA10に供給して行う。電位走査を行うことで水素/酸素ガス供給時に、式1の反応で、本来消費されるべき水素ガスが金属粒子担持カーボン144の白金表面に吸着脱離を繰り返す(0.1〜0.4Vの間)。その結果、水素吸脱着量が電流値として得られる。
【0093】
図4の実施の形態にかかる酸化還元スイープCV結果を示す図で、斜線部で示した部分は、白金の水素脱着領域であり、式3により電気量(C:クーロン)を求めることが出来る。
【0094】
水素極 H
2 → 2H
++2e
− ・・・(式1)
酸素極 1/20
2+2H
++2e
− →H
2O ・・・(式2)
C=∫A・ds(A:電流、s:秒) ・・・(式3)
以下実施例で効果を示す。
【0095】
<実施例・比較例>
[1.前処理工程]
まず、カーボンとしてケッチェンブラックEC(ライオン社製)を用い、バッチ式焼成炉を用いて、カーボンの熱処理を行った。
【0096】
[2.金属粒子担持工程]
次に金属前駆体としてヘキサクロロ白金(4価)酸六水和物(H2Cl6Pt・6H2O)を用い、添加剤としてエチレンジアミンを錯化剤として用いた。この金属前駆体と添加剤の混合比は、モル比で1:2〜1:10の割合で、水:エタノール比率1:0.1〜1:0.4のエタノール水溶液中に溶解させた。その溶解液を、30〜50℃で12〜24h加熱攪拌した。ここで、カーボンの分散性を向上させるために、界面活性剤を添加することも可能である。またpH調整剤として硝酸と水酸化ナトリウムを用い、所定のpHで保持するように調整した。
【0097】
次に、前述した攪拌後の溶解液に、水素化ホウ素ナトリウムを投入し所定時間攪拌することで白金を還元させ、金属粒子をカーボン上へ担持し、金属粒子担持カーボン144を溶液中で製造した。
【0098】
[3表面処理工程]
さらに、前述した熱処理後の金属粒子担持カーボン144を再度水に分散させ、酸溶液131を添加しpHを1〜2になるように調整した。酸濃度は1〜3mol/L酸溶液を50〜80℃で0.5〜12h攪拌し、濾別、洗浄、乾燥し、金属粒子担持カーボン144を得た。
【0099】
[4.電気化学処理工程]
次に、前述した金属粒子担持カーボンを用いて、カソード電極12Cを製造し(電極形成工程)、アノード電極12Aとして標準触媒TEC10E50E(田中貴金属製)を用い、一対の電極で挟持した膜・電極接合体MEA10を形成し、発電評価装置を用いて電気化学的に酸化還元スイープCVを複数回繰り返し変化させて、電気化学処理をした。
【0100】
ここで前述したMEA10のカソード電極12Cの製造では、比較例、実施例により製造した触媒を、所定比率に混合したエチルアルコール/水混合溶媒、もしくは、2−プロパノール/n−プロパノール/水混合溶媒に分散させた。必要に応じて超音波を照射して分散させた。次に、その分散溶液にイオン交換樹脂(商品名:ナフィオンDupont製、イオノマー(以後、樹脂151と述べる。))の5%溶液を添加し攪拌混合しインク化した。
【0101】
次に、この混合溶液を、電解質膜へスプレー塗布し、白金量を0.2〜0.3mg/cm2の所定量になるように調整して、塗布膜を形成した。つぎのこの塗布膜を130〜150℃、5〜30kg/cm2でホットプレスし、カソード電極12Cを形成した。
【0102】
アノード電極12Aは、アノード電極標準触媒としてTEC10E50E(田中貴金属製)を用い、カソード電極12Cと同等の製造方法で製造した。
【0103】
<燃料電池としての評価>
完成したMEA10を用い、燃料電池を構成して、以下の条件で発電特性を評価した。ここで、MEA10の評価の電圧は、セル温度80℃、カソード電極12Cおよびアノード電極12Aの露点温度を65℃、酸素利用率、水素利用率の利用率を50〜70%。電流密度0.25mA/cm
2で発電させた電圧を測定した。
【0104】
ここで0.25mA/cm
2に設定した理由は、家庭用燃料電池で使用する電流密度を想定して設定している。しかし本実施の形態において、この電流密度について特に限定されるものではない。
【0105】
ここで使用する金属粒子担持カーボン144の金属粒子担持工程での焼成の詳細な条件は以下に示す。また、MEA10の評価で電気化学的に酸化還元スイープCV(サイクリックボルタンメトリー)として印加した電位、電流を
図4に示す。複数回繰り返し変化させた条件は以下に示し、発電評価を検討した評価結果を表1に示す。
【0106】
実施例、比較例では、金属粒子担持カーボン144工程での焼成処理の条件と、酸化還
元スイープCVの条件を変化させている。
[実施例1]
上記、金属粒子担持工程で、300℃で3時間焼成処理を施した金属粒子担持カーボン
144を用い、それ以外は上記と同等の方法で触媒を製造しMEA評価した。
[実施例2]
MEA評価で、電気化学的に酸化還元スイープCVを50回繰り返し、それ以外は実施
例1と同等の方法でMEA評価した。
[実施例3]
上記金属粒子担持工程で、300℃で9時間焼成処理を施した金属粒子担持カーボン1
44を用い、それ以外は実施例1と同等の方法で触媒を製造しMEA評価した。
[実施例4]
MEA評価で、電気化学的に酸化還元スイープCVを100回繰り返し、それ以外は実
施例1と同等の方法でMEA評価した。
[比較例1]
上記金属粒子担持工程で、焼成をせず、それ以外は上記実施例の条件で触媒を製造した。
MEA評価した。
[
比較例2]
上記金属粒子担持工程で、500℃で3時間焼成処理を施した金属粒子担持カーボン1
44を用い、それ以外は実施例1と同等の方法で触媒を製造しMEA評価した。
[
比較例3]
上記金属粒子担持工程で、100℃で3時間焼成処理を施した金属粒子担持カーボン1
44を用い、それ以外は実施例1と同等の方法で触媒を製造しMEA評価した。
[実施例5]
MEA評価で、電気化学的に酸化還元スイープCVを200回繰り返し、それ以外は実
施例1と同等の方法でMEA評価した。
【0107】
<評価項目>
[MEA発電特性評価<電位差>]
(燃料電池としての評価)
まず、実施例、比較例の触媒を用いて、燃料電池を作製する。その燃料電池の発電特性を測定することで評価した。
(燃料電池の作製)
カソード電極に本実施の形態における触媒を用い、燃料電池を構成し、その発電特性を検討するものである。カソード電極の製造では、本実施の形態の比較例、実施例により製造した触媒を、所定比率に混合したエチルアルコール/水混合溶媒、もしくは2−プロパノール/n−プロパノール/水混合溶媒に分散させた。必要に応じて超音波を照射して分散させた。次に、その分散溶液にイオン交換樹脂(商品名:ナフィオンDupont製)の5%溶液を添加し攪拌混合した。次にこの混合溶液を、電解質膜へスプレー塗布し、白金量を0.2〜0.3mg/cm
2の所定量になるように調整して、塗布膜を形成した。つぎのこの塗布膜を130〜150℃、5〜30kg/cm
2でホットプレスし、カソード電極を形成した。
【0108】
アノード電極は、アノード標準触媒としてTEC10E50E(田中貴金属製)を用い、カソード電極と同等の製造方法で製造した。
【0109】
完成したMEAを用い、燃料電池を構成して、以下の条件で発電特性を評価した。
【0110】
(燃料電池の評価)
ここでMEA評価の電圧は、セル温度80℃、カソードおよびアノードの露点温度を65℃、酸素利用率と水素利用率の利用率を50〜70%とした。電流密度0.25mA/cm
2で発電させた電圧を測定した。ここで0.25mA/cm
2に設定した理由は、家庭用燃料電池で使用する電流密度を想定して設定している。しかし、本実施の形態において、この電流密度について特に限定されるものではない。
【0111】
[MEA発電特性評価後の電圧降下量]
MEA発電特性評価で得られた結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
MEA発電特性で得られた、反応過電圧(酸素還元反応時の電圧降下)とO
2ゲイン(カソードに起因する電圧降下)の結果から、発電特性の良否を判定する。当然どちらも小さいほどよい。
【0113】
<基準>
この数値の良し悪しは、燃料電池の仕様によっても異なるが、既成標準品からの数値として反応過電圧360〜370mVの範囲を良好(○と表示)、その範囲外の場合を不良(×と表示)とした。
【0114】
また、O
2ゲイン50〜52mVの範囲を良好(○と表示)、その範囲外の場合を不良(×と表示)とした。
【0115】
両方合格した場合○、片方合格は△とした。
【0116】
<考察>
比較例1は、金属粒子担持工程で、熱処理を施さない状態での触媒である。この場合、触媒に、付着性物質である添加剤が残留し、熱処理および、酸化還元スイープCV処理では除去できない。結果、金属粒子担持カーボン144と樹脂151間に付着性物質の添加剤が多く残留する。結果、反応物質が水分を介して金属粒子担持カーボン144に移動されにくくなり、MEA発電特性評価が悪化すると考える。
【0117】
焼成なしの触媒は、添加剤が残留し、金属粒子担持カーボン144と樹脂151間に添加剤が多く残留することで、反応物質が金属粒子担持カーボン144に移動されにくくなり、MEA発電特性の悪化の要因と考える。
【0118】
また、実施例1において、焼成300℃を3時間施すことにより、触媒の付着性物質の添加剤(不純物)の残留量が減少したと考えられる。結果、MEA10の発電特性が向上したと考える。
【0119】
ここで、
比較例2〜3、実施例3において、焼成温度100〜500℃、焼成時間3〜9時間の範囲で添加剤の除去量を制御し、MEA発電特性を評価した。
【0120】
その結果、焼成温度300℃、焼成時間9時間におけるMEA10の発電特性が最も向上することを確認できた。これは、上述するように、焼成により多くの残留添加剤を除去し、一部の添加剤のみを残留させるように処理できたと考える。
【0121】
しかし、500℃の高温領域だと金属粒子が凝集し表面積が減少することでMEA10の発電特性を悪化させることになると考える。
【0122】
また、実施例2において、酸化還元スイープCV処理の回数を5回から50回に増加したところ、さらに、MEA10の発電特性の向上効果が得られた。これは、焼成で残留した添加剤が、酸化還元スイープCV処理の増加により減少効果が向上した結果と考える。
【0123】
さらに、実施例4〜5において、酸化還元スイープCV処理の回数を100〜200回の範囲で添加剤の除去量を制御し、MEA10の発電特性を評価した。
【0124】
その結果、酸化還元スイープCV処理の回数が100回と200回とも同様に、MEA10の発電特性が最も向上することを確認できた。若干100回のMEA10の発電特性が良好であったため、コストの観点から、酸化還元スイープCV処理の回数100回が好適と考える。結果、回数は、50回より多く、200回以下が好ましい。
【0125】
上記結果から、金属粒子担持工程で、焼成により多くの添加剤を除去するが、一部の添加剤を残留させるように処理し、その一部残留の添加剤を酸化還元スイープCV処理の電位差(0.8V以上)で除去するのがよい。また、酸化還元スイープCV処理時の加湿条件は、50%以上が好ましく、70%以上が好適と考える。これにより、金属粒子担持カーボン144表面の一部に空間ができ、金属粒子担持カーボン144と樹脂151間に被膜されない箇所が形成されることで、反応物質が水分を介して金属粒子担持カーボン144に移動されやすくなり、MEA発電特性の向上効果が得られると考える。
【0126】
なお、
比較例2、3と実施例1〜5とから、焼成温度は、200℃から400℃までがよい。
【0127】
以上の結果より、焼成温度、時間も含め、高温領域だと金属粒子が凝集し表面積が減少することでMEA発電特性を悪化させることになり、酸化還元スイープCV処理も多くなり過ぎると効果が飽和することが分かった。