(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、銅三次元ナノ構造体にSnを取り込む方法として、めっき法により銅三次元ナノ構造体にスズを担持する方法を検討している。無電解スズめっきは、薄板状の析出物がランダムに交錯した複雑な形態を備える銅三次元ナノ構造体の内部にまでめっき液が行き渡ることで、銅三次元ナノ構造体の内部の析出物の表面にも均一にスズめっきを施すことができる。
【0007】
しかしながら、銅三次元ナノ構造体に無電解スズめっきを施すと、銅三次元ナノ構造体を支持している基板である銅板がめっき時に溶解するという問題が生じた。銅三次元ナノ構造体は、銅の薄板の基部部分で基板と連結するから、基板が溶融すると銅三次元ナノ構造体と基板との密着性が損なわれ、銅三次元ナノ構造体の構造も損なわれてしまうという問題がある。
【0008】
本発明は銅三次元ナノ構造体を形成した被めっき物に対し無電解スズめっきを施した際に基板を溶解したりすることなく、三次元ナノ構造体の形態を保持して確実にスズめっきを施すことができる銅三次元ナノ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る銅三次元ナノ構造体の製造方法は、
銅からなる基板の表面に、無電解スズめっきにより溶解しない金属からなるバリア層を形成する工程と、前記バリア層を形成した基板に電解銅めっきを施し、前記バリア層の表面に、銅からなる薄板状の析出物がランダムに交錯して形成された銅三次元ナノ構造体を形成する工程と、
前記銅三次元ナノ構造体を形成した基板に無電解スズめっきを施し、前記銅三次元ナノ構造体にスズを担持させる工程とを備え、前記バリア層を形成する工程においては、バリア層としてニッケル層を形成し、前記銅三次元ナノ構造体を形成する工程においては、ポリアクリル酸を添加剤とし、ポリアクリル酸の添加濃度cを2×10-5M<c<2×10-3Mの範囲に設定した銅めっき浴を使用して銅三次元ナノ構造体を形成し、前記銅三次元ナノ構造体にスズを担持させる工程においては、添加剤としてチオ尿素を使用するめっき浴を用いて銅三次元ナノ構造体にスズを担持することを特徴とする。
銅三次元ナノ構造体を形成した基板に無電解スズめっきを施し、銅三次元ナノ構造体にスズを担持させる工程を備えることにより、スズを担持した銅三次元ナノ構造体を製造することができる。無電解スズめっきを利用することにより、銅三次元ナノ構造体の内部まで均一にスズめっきが施され、きわめて比表面積の大きな銅三次元ナノ構造体にスズが担持された三次元ナノ構造体を得ることができる。
銅三次元ナノ構造体に均一に活物質のスズを担持したことにより、リチウムイオンの吸排効率が極めて高く、優れた電気容量特性を備えるリチウムイオン電池の負極材料として利用することができる。
【0010】
基板に形成するバリア層は、銅三次元ナノ構造体を形成した基板に無電解スズめっきを施す際に、銅基板が無電解スズめっき液により溶解することを防止する目的で設ける。したがって、バリア層には無電解スズめっきの際に溶解しない金属であれば適宜金属を用いることができる。無電解スズめっきにおいては添加剤としてチオ尿素を使用する。銅と比較してこのチオ尿素(またはその誘導体)と錯イオンを形成しにくい金属であればバリア層の金属として用いることができる。
バリア層としてニッケル層を設ける方法は、めっき法により簡単にバリア層を設けることができること、ニッケル層が無電解スズめっきを施す際に基板が溶解することを防止するバリア層として確実に作用する点で有効である。
なお、電解めっきにより銅三次元ナノ構造体を形成する場合の下地層は銅に限定されるものではなく、ニッケル層等のバリア層を下地層として銅三次元ナノ構造体を形成することが可能である。
【0011】
電解銅めっきにより基板のバリア層上に銅三次元ナノ構造体を形成する際には、ポリアクリル酸を添加剤とする銅めっき浴を用いることにより銅三次元ナノ構造体を形成することができる。銅めっき浴に添加するポリアクリル酸の添加
濃度cを、2×10-5M<c<2×10-3Mの範囲に設定した銅めっき浴を使用することにより、銅が薄板状にランダムに交錯して析出した銅三次元ナノ構造体を形成することができ
る。
【0012】
また、銅三次元ナノ構造体にスズを担持させた銅三次元ナノ構造体を製造する他の方法として、銅三次元ナノ構造体を形成する基板そのものを無電解スズめっきにより溶解しない金属により作製し、この基板に銅三次元ナノ構造体を形成し、次いで無電解スズめっきを施すことにより銅三次元ナノ構造体にスズを担持させた銅三次元ナノ構造体を製造することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る銅三次元ナノ構造体の製造方法によれば、無電解スズめっきを利用して銅三次元ナノ構造体に確実にスズを担持させることができ、リチウムイオン電池の負極材料等として好適に利用できる銅三次元ナノ構造体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る銅三次元ナノ構造体の製造方法は、銅三次元ナノ構造体に無電解スズめっきを施す際に、銅三次元ナノ構造体を支持する基板が溶解することを防止し、銅三次元ナノ構造体の特徴的な構造が阻害されないように無電解スズめっきを施すことができる銅三次元ナノ構造体を提供するものである。
銅三次元ナノ構造体を支持する基板が無電解スズめっき液によって溶解されないようにし、銅三次元ナノ構造体の構造を維持する方法として、本発明では、基板の表面に無電解スズめっきによって基板が侵されることを防止するバリア層を設け、バリア層上に銅三次元ナノ構造体を形成する。
【0016】
バリア層は、無電解スズめっきの際に基板が溶解することを防止するための層であり、無電解スズめっきによって侵されない金属、たとえばニッケルを用いることができる。バリア層は、無電解スズめっきによって侵されないバリア機能を基板に付与するためのものであり、バリア機能を備えるものであればニッケル以外の金属を用いることができる。
バリア層を形成する方法にはめっき等の適宜成膜方法を利用することができる。
基板に設けるバリア層の厚さも、無電解スズめっきの際に基板が侵されることが防止できる厚さであればよい。ニッケルめっきによってバリア層を形成した実験例では、ニッケルめっき層の厚さを0.15μm〜1.5μmとすることでバリア層として機能する実験結果が得られている。
【0017】
基板にバリア層を形成し、バリア層の上に電解銅めっきを施して銅三次元ナノ構造体を形成する。実験によれば、バリア層としてニッケル層を設け、電解銅めっきによりこのニッケル層を下地層として銅三次元ナノ構造体が得られることを確認している。すなわち、銅三次元ナノ構造体は基板(下地層)を銅以外の金属を使用しても形成することができる。
銅三次元ナノ構造体を形成する際のめっき条件として、銅めっき浴に添加剤としてポリアクリル酸を使用し、ポリアクリル酸の添加濃度cを2×10
-5 M<c<2×10
-3 Mの範囲に設定することで銅三次元ナノ構造体を形成することができること、とくに好適な範囲cが、1×10
-4 M<c<5×10
-4 Mであることが知られている(特許文献1)。銅以外の下地層を利用する場合も、銅めっき浴に添加するポリアクリル酸の濃度をこれらの範囲内に設定することにより銅三次元ナノ構造体を形成することができる。
【0018】
(銅三次元ナノ構造体の作製例:基板 銅板)
基板に銅板を使用し、基板にバリア層を形成せずに電解銅めっき法により、基板上に銅三次元ナノ構造体を形成した。めっき浴として下記のめっき浴を使用した。
CuSO
4・5H
2O :0.85M
H
2SO
4 :0.55M
添加剤 ポリアクリル酸(分子量:5000) :3×10
-4 M
電解銅めっきにより銅三次元ナノ構造体を形成する場合に、添加剤としてポリアクリル酸を特定の範囲で添加することが有効である。ここでは銅三次元ナノ構造体を形成するためのポリアクリル酸の添加量をとくに好適な範囲内に設定した。
【0019】
めっき膜作製条件は下記のように設定した。
カソード :銅板
アノード :含リン銅板
電流規制法 電流密度 :1.0 Adm
-2
通電量 :30C (膜厚約3〜4μm)
液温 : 25℃±0.5℃
撹拌 :なし
時間 :300sec
【0020】
図1に、銅三次元ナノ構造体を形成した銅板の外観写真を示す。
図1で黒色に見える部分が銅三次元ナノ構造体が形成されている領域である。銅三次元ナノ構造体は光を反射しないため、黒色に見える。
図2に銅三次元ナノ構造体の表面SEM像を示す。
図2からわかるように、銅三次元ナノ構造体は銅の薄い板状体(厚さ数十nm)が交錯してランダムに入り組んだ形態となる。板状体がランダムに交錯した形態となることから、構造体の内部に複雑な空隙が形成され、比表面積がきわめて大きな構造体となる。
【0021】
(銅三次元ナノ構造体の作製例:基板 銅板に光沢ニッケルめっき)
銅板にバリア層として光沢ニッケルめっきを施し、電解銅めっきにより、バリア層の上に銅三次元ナノ構造体を形成した。
光沢ニッケルめっきとして、下記の光沢ワット浴を使用した。
NiSO
4・6H
2O :1M
NiCl
2・6H
2O :0.2M
H
3BO
3 :0.5M
サッカリンNa :0.01M
ブチンジオール :0.0025M
【0022】
光沢ニッケルめっきのめっき膜作製条件を以下に示す。
カソード : Cu板
アノード : Ni板
電流規制法 電流密度 :3.0 Adm
-2
通電量 :30C、15C、6C、3C
液温 : 25℃±0.5℃
撹拌 :なし
時間 : 100sec、50sec、20sec、10sec
【0023】
めっき時間を変えて銅板上にめっき厚が1.5μm、0.7μm、0.3μm、0.15μmのニッケルめっきを施した4種のサンプルを作製した後、電解銅めっきにより、バリア層の上に銅三次元ナノ構造体を形成した。
銅三次元ナノ構造体を形成するめっき浴及び電析条件は、上述した銅板上に銅三次元ナノ構造体を形成しためっき条件と同一である。
【0024】
図3に、銅板に光沢ニッケルめっきをし、さらに電解銅めっきを施して銅三次元ナノ構造体を形成したサンプルの外観写真を示す。
図3(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ厚さ1.5μm、0.7μm、0.3μm、0.15μmの光沢ニッケルめっき膜を施したサンプルの表面に、銅三次元ナノ構造体を形成したものである。
図3に示すサンプルの外観からは、ニッケルめっきの厚さによる差異はほとんど見られない。
【0025】
図4は、
図3に示した下地層のニッケルめっきの厚さが異なる4種のサンプルの表面SEM像である。ニッケルめっきの厚さに関わらず、4種のサンプルとも同様の形態の銅三次元ナノ構造体が形成されている。
図5は、
図4のSEM像をより高倍率にしたものである。
図5に示すSEM像からも、
図2に示したと同様に、すなわち銅板上にじかに銅三次元ナノ構造体を形成した場合と同様な、銅三次元ナノ構造体が形成されていることがわかる。
【0026】
(銅三次元ナノ構造体の作製例:基板 銅板に無光沢ニッケルめっき)
銅板に無光沢ニッケルめっきを施し、電解銅めっきにより、銅三次元ナノ構造体を形成した。
無光沢ニッケルめっきとして、下記の無光沢ワット浴を使用した。
NiSO
4・6H
2O :1M
NiCl
2・6H
2O :0.2M
H
3BO
3 :0.5M
【0027】
無光沢ニッケルめっきによるめっき膜作製条件は、上述した光沢ニッケルめっきによるめっき膜作製条件と同一とした。
図6に、銅板に無光沢ニッケルめっきをし、さらに電解銅めっきを施して銅三次元ナノ構造体を形成したサンプルの外観写真を示す。
図6(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ厚さ1.5μm、0.7μm、0.3μm、0.15μmの無光沢ニッケルめっき膜を施したサンプルの表面に、銅三次元ナノ構造体を形成したものである。
図6に示すサンプルの外観と
図3に示すサンプルの外観を比較すると、無光沢ニッケルめっきを施したものの方が、光沢ニッケルめっきを施したものよりも、若干むらがある(不均一)ように見える。
【0028】
図7は、
図6のニッケルめっきの厚さが異なる4種のサンプルについての表面SEM像、
図8は
図7よりも高倍率とした表面SEM像である。
これらの表面SEM像と、
図2の銅板上に銅三次元ナノ構造体を形成したサンプルの表面SEM像とを比較すると、銅三次元ナノ構造体の構造にはほとんど差異がみられない。すなわち、銅板に無光沢ニッケルめっきを施し、電解銅めっきにより銅三次元ナノ構造体を形成した場合も、銅板にじかに銅三次元ナノ構造体を形成した場合と同様の銅三次元ナノ構造体が形成される。すなわち、銅三次元ナノ構造体を形成する下地層は銅に限定されるものではなく、ニッケル層を下地層として銅三次元ナノ構造体を形成することができる。
【0029】
(銅三次元ナノ構造体:無電解スズめっき)
銅板の表面にバリア層としてニッケルめっきを施し、次いで電解銅めっきにより銅三次元ナノ構造体を形成し、さらに無電解スズめっき(置換スズめっき)を施す実験を行った。
銅板の基板にはバリア層として光沢ニッケルめっきを施した。光沢ニッケルめっきに用いためっき浴、めっき膜作製条件は前述した光沢ニッケルめっきと同一である。また、バリア層上に電解めっきにより銅三次元ナノ構造体を形成するためのめっき浴及びめっき膜作製条件は下記のとおりである。
めっき浴
CuSO
4・5H
2O :0.85M H
2SO
4 :0.55M
ポリアクリル酸(分子量:5000) :2.5×10
-4 M
めっき膜作製条件
カソード :光沢ニッケルめっき銅板 アノード :含リン銅板
電流規制法 電流密度 :1.2 Adm
-2 通電量 :90C
液温 : 25℃±1℃ 撹拌 :なし 時間 :750sec
【0030】
無電解スズめっきに用いためっき浴とめっき膜作製条件は下記のとおりである。
めっき浴
K
4P
2O
7 :0.5M
Sn
2P
2O
7 :0.15M
チオ尿素 :3M
HCl 適量(pH 5に調整)
PEG600(ポリエチレングリコール) :0.002M
次亜リン酸Na :0.005M
SDS(ドデシル硫酸ナトリウム) :0.1g/L
めっき膜作製条件
基板 :ニッケルめっき上に銅三次元ナノ構造体を形成
セル :500mLビーカー
液量 :300mL
温度 :85℃
時間 :15sec
攪拌 :カソードロッカー
【0031】
図9は、基板に光沢ニッケルめっきを施し、銅三次元ナノ構造体を形成したサンプルに無電解スズめっきを施す前後における表面SEM像である。スズめっきを施す前と、スズめっきを施した後のそれぞれについて、低倍率と高倍率の像を示す。
無電解スズめっきを施した前後で銅三次元ナノ構造体の構造はほとんど変わらない。
図9の表面SEM像から、無電解スズめっきを施したことにより、銅三次元ナノ構造体の構造に変化が生じないことがわかる。
【0032】
図10は、無電解スズめっきを施す前後における断面SEM像である。それぞれ低倍率と高倍率の像を示す。この断面SEM像からも、無電解スズめっきを施した前後における銅三次元ナノ構造体の構造について明らかな変化は見られない。すなわち、無電解スズめっきを施しても銅三次元ナノ構造体の構造はそのまま維持されている。
【0033】
図11は、無電解スズめっきを施したサンプルの断面SEM像とEPMA像(電子線マイクロアナライザによる像)である。EPMA像から、銅三次元ナノ構造体の全体にわたってCu(銅)が分布していること、また銅三次元ナノ構造体の厚さ方向の全体にわたってSn(スズ)が分布していることがわかる。すなわち、無電解スズめっきにより、銅三次元ナノ構造体の内部にまで均等にスズめっきが施されている。
【0034】
図12は、バリア層としてのニッケルめっき層の作用を示す。
図12(a)は、銅板上にニッケルめっきを施した後に、銅三次元ナノ構造体を形成し、さらに無電解スズめっきを施したサンプル、
図12(b)は、銅板にニッケルめっきを施さずに銅三次元ナノ構造体を形成し、無電解スズめっきを施したサンプルの断面SEM像を示す。
銅板にあらかじめニッケルめっきを施したもの(
図12(a))では、無電解スズめっきを施しても、銅板の表面が溶解せず、銅三次元ナノ構造体は当初の構造を維持している。
一方、銅板にニッケルめっきを施さずに無電解スズめっきを施したものでは(
図12(b))、基板の表面が溶解して侵食され銅三次元ナノ構造体の構造が崩れてしまっている。
この
図12に示す実験結果は、銅板の表面にニッケルめっきを施す方法が、銅三次元ナノ構造体の構造を損なうことなく、無電解スズめっきにより銅三次元ナノ構造体の表面にスズを担持させる方法として有効であることを示す。
【0035】
(銅三次元ナノ構造体:無電解スズめっき方法)
銅板にバリア層と銅三次元ナノ構造体を形成した後、無電解スズめっきを施す際に用いるめっき浴の添加剤による作用を調べた結果について説明する。
バリア層として光沢ニッケルめっきを施した。光沢ニッケルめっきのめっき条件は前述した光沢ニッケルめっきと同一である。バリア層上に形成する銅三次元ナノ構造体のめっき条件も上述した無電解スズめっきのめっき条件と同一である。
【0036】
無電解スズめっきには下記の基本浴と光沢浴の2種類を使用した。それぞれのめっき浴の組成と無電解スズめっき条件を以下に示す。
基本浴
K
4P
2O
7 :0.5M Sn
2P
2O
7 :0.15M チオ尿素 :3M
光沢浴
K
4P
2O
7 :0.5M Sn
2P
2O
7 :0.15M チオ尿素 :3M
PEG600 :0.003M
ベンズアルデヒド :0.1g/L
基本浴、光沢浴ともに、HClを用いてめっき浴をpH=5に調整した。基本浴は添加剤PEG600とベンズアルデヒドを添加していないものである。
無電解スズめっき条件
基板 :銅板、光沢ニッケルめっき、銅三次元ナノ構造体
液量 :300mL
液温 :85℃
攪拌 :なし
時間 :15sec
【0037】
図13は、めっき浴に添加した添加剤の作用を調べるため、銅三次元ナノ構造体を形成していない銅板に上記めっき条件で無電解スズめっきを施したサンプルの表面SEM像である。
図13で基本浴とあるのは、上記基本浴を用いてめっきしたもの、光沢浴とあるのは上記光沢浴を用いてめっきしたものである。
図13から、添加剤を加えない場合には、銅板の表面に析出するSn粒子の大きさが数μm程度であるのに対し、添加剤を加えためっき浴を用いるとSn粒子の粒径がはるかに小さくなることがわかる。
【0038】
図14は、銅三次元ナノ構造体を形成した基板に基本浴と光沢浴を用いて無電解スズめっきを施したサンプルの表面SEM像、
図15は断面SEM像である。断面SEM像には銅基板の表面位置(ニッケルめっきのよるバリア層の位置)を示す。
図14のSEM像から、無電解スズめっきにより銅三次元ナノ構造体を構成する銅の薄板の表面に微細なSn粒子が均一に析出していることがわかる。
図15の断面SEM像からは、無電解スズめっきにより銅基板が侵食されていないことがわかる。
【0039】
図16は、基本浴と光沢浴を用いて無電解スズめっきを施したサンプルの断面における元素マッピング像である。
図16から、銅基板の表面位置に薄くニッケル層からなるバリア層が形成され、バリア層の上に銅三次元ナノ構造体が形成されていること、Snが銅三次元ナノ構造体の全体に均一に析出していることがわかる。この実験結果は、銅三次元ナノ構造体の内部にまで均一にSnを析出させる方法として無電解スズめっき方法が有効であることを示す。
【0040】
(コインセルを用いた充放電試験)
銅三次元ナノ構造体に無電解スズめっきを施した銅板の充放電特性を調べるため、下記の構成を備える二電極式コインセルを用いて充放電試験を行った。
セル :2電極式コインセル(2032型)
負極 :作製試料(銅三次元ナノ構造体に無電解スズめっき)
電解液 :1 M LiPF
6 (EC:DEC= 1:1 vol %)
測定電位範囲 :0.02 −1.5 V
電流密度 :200mA/g
【0041】
図17に、銅三次元ナノ構造体を形成していない銅板に無電解スズめっきを施したサンプル(Cu基板)と、銅板に銅三次元ナノ構造体を形成し無電解スズめっきを施したサンプル(三次元銅)について充放電特性を測定した結果を示す。いずれのサンプルも無電解スズめっきには上記基本浴を用いた。
図17は、充放電サイクル30回行った結果である。
図17から、銅板に単に無電解スズめっきを施した場合と、銅三次元ナノ構造体に無電解スズめっきを施した場合とでは、充電量、放電量に大きな差があることがわかる。
【0042】
図18は電池のサイクル特性(サイクル数30)を示す。「Cu基板」とあるのは銅基板に銅三次元ナノ構造体を形成せずに無電解スズめっきを施したサンプル、「三次元銅」とあるのは、銅基板に銅三次元ナノ構造体を形成し無電解スズめっきを施したサンプルである。
図18には、無電解スズめっきを施すめっき浴として基本浴を使用した場合と、光沢浴を使用した場合について示す。
銅三次元ナノ構造体に無電解スズめっきを施したサンプルについては、30サイクル経過後の状態で、グラファイトの理論容量(375mAh/g)の約2倍の放電容量が得られている。なお、無電解スズめっきに基本浴を使用したサンプルと光沢浴を使用したサンプルとで明確な差異は見られない。