特許第6803573号(P6803573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803573
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】Ni基一方向凝固合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20201214BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20201214BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
   C22C19/05 C
   !C22F1/10 H
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 606
   !C22F1/00 611
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 640B
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 650D
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-504465(P2018-504465)
(86)(22)【出願日】2017年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2017008676
(87)【国際公開番号】WO2017154809
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2018年8月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-43875(P2016-43875)
(32)【優先日】2016年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、エネルギー・環境新技術先導プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】川岸 京子
(72)【発明者】
【氏名】原田 広史
(72)【発明者】
【氏名】横川 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】小泉 裕
(72)【発明者】
【氏名】小林 敏治
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正雄
(72)【発明者】
【氏名】湯山 道也
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−034720(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/104059(WO,A1)
【文献】 特開2005−097650(JP,A)
【文献】 特開昭62−116748(JP,A)
【文献】 特開平11−246954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
C22F 1/10
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr:6質量%以上12質量%以下、
Mo:0.4質量%以上3.0質量%以下、
W:6質量%以上10質量%以下、
Al:4.0質量%以上6.5質量%以下、
Nb:0質量%以上1質量%以下、
Ta:8質量%以上12質量%以下、
Hf:0.05質量%以上0.15質量%以下、
Si:0.01質量%以上0.2質量%以下、
Zr:0.01質量%以上0.04質量%以下、
B:0.01質量%以上0.03質量%以下、および
C:0.01質量%以上0.3質量%以下、
を含有し、
残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基一方向凝固合金であって、
温度900℃で応力392MPaにおけるクリープ寿命が65時間以上であり、
熱疲労(TMF)特性試験において試験片が破断するまでの繰返し回数が155サイクル以上であり、ここで、前記TMF特性試験は、ガスタービンの運用条件を模擬した試験であって、タービン翼の表面温度が、定常時に900℃、停止時に400℃であると仮定し、平行部の直径5mmで、長さが15mmの試験片に対して高周波により加熱して実施され、温度範囲を下限である400℃から上限である900℃まで、昇降温速度を166.7℃/minで変動させ、この温度の変動に連動させて±0.64%のひずみを加え、周波数は1サイクルで66min、波形は三角波とし、圧縮時に60minの保持を行う試験条件であり、
前記Ni基一方向凝固合金からなる試料を鏡面仕上げしてから電気炉で1100℃に大気中加熱し、12時間保持した後の重量変化と、前記試料の表面を観察して特性を判定する高温酸化試験において、
前記試料の重量変化が−0.1[mg/cm]以上0.3[mg/cm]以下であり、
前記試料の表面が金属光沢を備えてなることを特徴とするNi基一方向凝固合金
【請求項2】
Cr:7質量%以上12質量%以下、
Mo:0.4質量%以上2.5質量%以下、
W:7質量%以上10質量%以下、
Al:4.0質量%以上6.5質量%以下、
Nb:0質量%以上1質量%以下、
Ta:9質量%以上11質量%以下、
Hf:0.05質量%以上0.15質量%以下、
Si:0.01質量%以上0.2質量%以下、
Zr:0.01質量%以上0.04質量%以下、
B:0.01質量%以上0.03質量%以下、および
C:0.01質量%以上0.3質量%以下、
を含有し、
残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基一方向凝固合金であって、
温度900℃で応力392MPaにおけるクリープ寿命が65時間以上であり、
熱疲労(TMF)特性試験において試験片が破断するまでの繰返し回数が155サイクル以上であり、ここで、前記TMF特性試験は、ガスタービンの運用条件を模擬した試験であって、タービン翼の表面温度が、定常時に900℃、停止時に400℃であると仮定し、平行部の直径5mmで、長さが15mmの試験片に対して高周波により加熱して実施され、温度範囲を下限である400℃から上限である900℃まで、昇降温速度を166.7℃/minで変動させ、この温度の変動に連動させて±0.64%のひずみを加え、周波数は1サイクルで66min、波形は三角波とし、圧縮時に60minの保持を行う試験条件であり、
前記Ni基一方向凝固合金からなる試料を鏡面仕上げしてから電気炉で1100℃に大気中加熱し、12時間保持した後の重量変化と、前記試料の表面を観察して特性を判定する高温酸化試験において、
前記試料の重量変化が−0.1[mg/cm]以上0.3[mg/cm]以下であり、
前記試料の表面が金属光沢を備えてなることを特徴とするNi基一方向凝固合金
【請求項3】
Cr:8質量%以上10質量%以下、
Mo:0.4質量%以上2.0質量%以下、
W:7質量%以上9質量%以下、
Al:4.0質量%以上6.5質量%以下、
Nb:0質量%以上1質量%以下、
Ta:10質量%以上11質量%以下、
Hf:0.05質量%以上0.15質量%以下、
Si:0.01質量%以上0.2質量%以下、
Zr:0.01質量%以上0.04質量%以下、
B:0.01質量%以上0.03質量%以下、および
C:0.01質量%以上0.3質量%以下、
を含有し、
残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基一方向凝固合金であって、
温度900℃で応力392MPaにおけるクリープ寿命が65時間以上であり、
熱疲労(TMF)特性試験において試験片が破断するまでの繰返し回数が155サイクル以上であり、ここで、前記TMF特性試験は、ガスタービンの運用条件を模擬した試験であって、タービン翼の表面温度が、定常時に900℃、停止時に400℃であると仮定し、平行部の直径5mmで、長さが15mmの試験片に対して高周波により加熱して実施され、温度範囲を下限である400℃から上限である900℃まで、昇降温速度を166.7℃/minで変動させ、この温度の変動に連動させて±0.64%のひずみを加え、周波数は1サイクルで66min、波形は三角波とし、圧縮時に60minの保持を行う試験条件であり、
前記Ni基一方向凝固合金からなる試料を鏡面仕上げしてから電気炉で1100℃に大気中加熱し、12時間保持した後の重量変化と、前記試料の表面を観察して特性を判定する高温酸化試験において、
前記試料の重量変化が−0.1[mg/cm]以上0.3[mg/cm]以下であり、
前記試料の表面が金属光沢を備えてなることを特徴とするNi基一方向凝固合金
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のNi基一方向凝固合金であって、
温度900℃で応力392MPaにおけるラーソン・ミラーパラメータの値が25.6以上25.9以下であり、
温度1100℃で応力137MPaにおけるラーソン・ミラーパラメータの値が28.8以上29.3以下であるNi基一方向凝固合金。
【請求項5】
請求項に記載のNi基一方向凝固合金であって、
応力137MPaにおけるラーソン・ミラーパラメータの値から求めたクリープ寿命であって、その1000時間寿命が耐用温度960℃以上1010℃以下であるNi基一方向凝固合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジンやガスタービンのタービンブレードやタービンベーンの高温かつ高応力下で使用される部材に好適に用いられるNi基一方向凝固合金に関し、特に主要元素にCo、Reを含まないNi基一方向凝固合金に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni基合金は鍛造合金、鋳造合金、一方向凝固合金、単結晶合金と開発が進み、それにつれて耐用温度が向上した。Ni基単結晶合金はNi基一方向凝固合金に比べて高温強度で優れるものの、鋳造時に起こる縦割れや異結晶の発生が問題となっている。特に大型部材になるほど影響を受けやすく製造歩留まりが落ちる傾向にあり、製造に関してはNi基一方向凝固合金がコストパフォーマンスの点で勝っている。
【0003】
また、超合金に共通する問題として、クリープ特性・熱疲れ特性・耐環境特性がある。タービンブレード等の回転部材では高温の燃焼ガスに晒される中で高速回転し、部材に対して遠心力が加わるため、高応力のクリープに耐えなければならない。ジェットエンジンやガスタービンのタービンブレードやタービンベーンとして使用される高温部材は起動・停止が頻繁に行われることから熱疲労(Thermo-mechanical fatigue: TMF)による材料劣化も問題となる。さらに、高温の燃焼ガスに晒されることから耐環境特性にも優れた材料の出現も期待される。
【0004】
Ni基一方向凝固合金として、IN792(商標)、Rene80(商標)が知られているがIN792およびRene80ともに合金中にCoを含有する。また下記特許文献1、2、3、4、5、6および7に記載されたNi基合金が知られているが、これら特許文献の合金も成分中にCoあるいはReのどちらか一元素、あるいはCoとReの両方を含有する。Coは銅またはニッケル生産の共産物として生産されるため、銅またはニッケルの価格状況により生産量が左右されることもあり、供給が不安定である。Reは地球上できわめて少なく、レアメタルのなかでも最も希少で高価な金属である。
【0005】
またReを添加したNi基一方向凝固合金は鋳造後の熱処理が難しいこと、さらに高温部材として使用中にTCP相が析出し易く高温強度に影響を及ぼすことがある。こうしたことから特に大型部材での高温特性やコストパフォーマンスを考えるとCoおよびReの使用は望ましくない。特許文献8はCoおよびReを含有しないがNi基単結晶合金であるのでコストパフォーマンスの点で望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許公報第2905473号
【特許文献2】特開2006−45654公報
【特許文献3】特開2011−74493公報
【特許文献4】特開2004−197131公報
【特許文献5】特開2000−63969公報
【特許文献6】特開平10−273748公報
【特許文献7】特開平9−272933公報
【特許文献8】特開2014−34720公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、CoとReを含まない第1世代のNi基一方向凝固合金であって、TMF特性、クリープ特性および耐環境特性に優れ、実用面においてコストパフォーマンスに優れたNi基一方向凝固合金を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のとおりの課題を解決するために、本発明は、以下のとおりの特徴を有している。
【0009】
すなわち、本発明のNi基一方向凝固合金は、
Cr:6質量%以上12質量%以下、
Mo:0.4質量%以上3.0質量%以下、
W:6質量%以上10質量%以下、
Al:4.0質量%以上6.5質量%以下、
Nb:0質量%以上1質量%以下、
Ta:8質量%以上12質量%以下、
Hf:0質量%以上0.15質量%以下、
Si:0.01質量%以上0.2質量%以下、
Zr:0質量%以上0.04質量%以下、
B:0.01質量%以上0.03質量%以下、および
C:0.01質量%以上0.3質量%以下、
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴としている。
【0010】
また、本発明のNi基一方向凝固合金は、
Cr:7質量%以上12質量%以下、
Mo:0.4質量%以上2.5質量%以下、
W:7質量%以上10質量%以下、
Al:4.0質量%以上6.5質量%以下、
Nb:0質量%以上1質量%以下、
Ta:9質量%以上11質量%以下、
Hf:0質量%以上0.15質量%以下、
Si:0.01質量%以上0.2質量%以下、および
Zr:0質量%以上0.04質量%以下、
B:0.01質量%以上0.03質量%以下、および
C:0.01質量%以上0.3質量%以下、
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴としている。
【0011】
また、本発明のNi基一方向凝固合金は、
Cr:8質量%以上10質量%以下、
Mo:0.4質量%以上2.0質量%以下、
W:7質量%以上9質量%以下、
Al:4.0質量%以上6.5質量%以下、
Nb:0質量%以上1質量%以下、
Ta:10質量%以上11質量%以下、
Hf:0質量%以上0.15質量%以下、
Si:0.01質量%以上0.2質量%以下、および
Zr:0質量%以上0.04質量%以下、
B:0.01質量%以上0.03質量%以下、および
C:0.01質量%以上0.3質量%以下、
を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴としている。
【0012】
本発明のNi基一方向凝固合金において、好ましくは、温度900℃で応力392MPaにおけるクリープ寿命が65時間以上であり、所定条件の熱疲労(TMF)特性試験での繰返し回数が155サイクル以上であるとよい。ここで、熱疲労(TMF)特性試験は、ガスタービンの運用条件を模擬した試験で行われるもので、タービン翼の表面温度が、定常時に900℃、停止時に400℃であると仮定し、所定形状の試験片が破断するまでの繰返数で評価される。熱疲労(TMF)特性試験の詳細は、明細書で詳細に規定される。
さらに好ましくは、温度900℃で応力392MPaにおけるクリープ寿命が65時間以上115時間以下であり、TMF特性試験での繰返し回数が155サイクル以上215サイクル以下であるとよく、最も好ましくは、温度900℃で応力392MPaにおけるクリープ寿命が75時間以上105時間以下であり、TMF特性試験での繰返し回数が170サイクル以上195サイクル以下であるとよい。
クリープ寿命が65時間未満では、従来例と比較してクリープ寿命が改善されない。クリープ寿命が115時間超えは、クリープ寿命試験の試験結果のバラツキを考慮しても、本発明のNi基一方向凝固合金におけるクリープ寿命の上限値を超える。
熱疲労(TMF)特性試験での繰返し回数が155サイクル未満では、従来例と比較してTMF特性が改善されない。熱疲労(TMF)特性試験での繰返し回数が215サイクル超えは、熱疲労(TMF)特性試験の試験結果のバラツキを考慮しても、本発明のNi基一方向凝固合金におけるTMF特性の上限値を超える。
【0013】
本発明のNi基一方向凝固合金において、好ましくは、温度900℃で応力392MPaにおけるラーソン・ミラーパラメータの値が25.6以上25.9以下であり、温度1100℃で応力137MPaにおけるラーソン・ミラーパラメータの値が28.8以上29.3以下であるとよい。
温度900℃で応力392MPaにおけるラーソン・ミラーパラメータの値が25.6未満では、従来例と比較してクリープ寿命が改善されない。同ラーソン・ミラーパラメータの値が25.9超えは、ラーソン・ミラーパラメータを求めるクリープ寿命試験の試験結果のバラツキを考慮しても、本発明のNi基一方向凝固合金におけるラーソン・ミラーパラメータの上限値を超える。
温度1100℃で応力137MPaにおけるラーソン・ミラーパラメータの値が28.8未満では、従来例と比較してクリープ寿命が改善されない。同ラーソン・ミラーパラメータの値が29.3超えは、ラーソン・ミラーパラメータを求めるクリープ寿命試験の試験結果のバラツキを考慮しても、本発明のNi基一方向凝固合金におけるラーソン・ミラーパラメータの上限値を超える。
【0014】
本発明のNi基一方向凝固合金において、好ましくは、応力137MPaにおけるラーソン・ミラーパラメータの値から求めたクリープ寿命であって、その1000時間寿命が耐用温度960℃以上1010℃以下であるとよい。さらに好ましくは、1000時間寿命が耐用温度970℃以上1000℃以下であるとよく、最も好ましくは1000時間寿命が耐用温度980℃以上990℃以下であるとよい。
クリープ寿命の1000時間寿命に対する耐用温度960℃未満では、従来例と比較してクリープ寿命が改善されない。同耐用温度の1010℃超えは、クリープ寿命試験の試験誤差を考慮しても、本発明のNi基一方向凝固合金におけるクリープ寿命の上限値を超える。
【0015】
本発明のNi基一方向凝固合金において、好ましくは、当該Ni基一方向凝固合金からなる試料であって、前記試料を鏡面仕上げしてから電気炉で1100℃に大気中加熱し、12時間保持した後の高温酸化試験での重量変化と、前記試料の表面を観察して特性を判定する高温酸化試験において、前記試料の重量変化が−0.1[mg/cm]以上0.3[mg/cm]以下であり、前記試料の表面が金属光沢を備えてなるとよい。さらに好ましくは、高温酸化試験での重量変化が0.0[mg/cm]以上0.2[mg/cm]以下であるとよい。
高温酸化試験での重量変化が−0.1[mg/cm]未満では、従来例と比較して耐酸化性が改善されない。高温酸化試験での重量変化の0.3[mg/cm]超えは、高温酸化試験の試験誤差を考慮しても、本発明のNi基一方向凝固合金における耐酸化性として、耐酸化性の改善が不充分である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のNi基一方向凝固合金は、TMF特性、クリープ特性および耐高温酸化のような耐環境特性に優れ、実用面においてコストパフォーマンスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1、参考例1および参考例2の試料について、900℃で392MPaのクリープ試験の結果とTMF試験の結果を示したグラフである。
図2】実施例1、参考例3および参考例4の試料について、900℃で392MPaと1100℃で137MPaの条件でクリープ試験を行った結果をLMP(ラーソン・ミラーパラメータ(Larson-Miller parameter))とひずみの関係で示したグラフである。
図3図2から求めた137MPaのクリープ条件で1000時間寿命の耐用温度(℃)を示したグラフである。
図4】実施例1、実施例2および参考例5の試料について、電気炉で1100℃に大気中加熱し、12時間保持した後の重量変化を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上記のとおりの特徴を有するNi基一方向凝固合金における組成成分およびその組成比は、以下の観点に基づいている。
Cr(クロム)は、Ni基一方向凝固合金の高温耐食性および高温耐酸化性を向上させる。Crの組成比は、6質量%以上12質量%以下である。組成比が、6質量%未満であると、高温耐食性および高温耐酸化性を確保することが難しく、12質量%を超えると、σ相やμ相の有害相が生成して高温強度が低下する。Crの組成比は、好ましくは7質量%以上12質量%以下であり、より好ましくは8質量%以上10質量%以下である。
【0019】
Mo(モリブデン)は、素地中に固溶し、かつ析出硬化により高温強度の上昇に寄与する。Moの組成比は、0.4質量%以上3.0質量%以下である。組成比が、0.4質量%未満であると、高温強度が低下し、3.0質量%を超えると、有害相が生成して高温強度が低下する。Moの組成比は、好ましくは0.4質量%以上2.5質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以上2.0質量%以下である。
【0020】
W(タングステン)は、Moと同様に、固溶強化および析出硬化の作用があり、Ni基一方向凝固合金の高温強度を向上させる。Wの組成比は、6質量%以上10質量%以下である。組成比が、6質量%未満であると、TMF特性およびクリープ特性が低下し、10質量%を超えると、有害相が生成してTMF特性およびクリープ特性が低下する。Wの組成比は、好ましくは7質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以上9質量%以下である。
【0021】
Al(アルミニウム)は、Niと化合して、ガンマ母相中に析出するガンマプライム相を構成するNiAlで示される金属間化合物を形成し、特に1000℃以下の低温側のTMF特性およびクリープ特性を向上させる。Alの組成比は、4.0質量%以上6.5質量%以下である。組成比が、4質量%未満であると、ガンマプライム相量が少なく、要求されるTMF特性およびクリープ特性が得られず、6.5質量%を超えると、要求されるTMF特性およびクリープ特性が得られない。
【0022】
Nb(ニオブ)の組成比は、0質量%以上1質量%以下である。組成比が、1質量%を超えると、高温において有害相が生成し、TMF特性およびクリープ特性が低下する。
Ta(タンタル)は、ガンマプライム相を強化してクリープ特性を向上させる。Taの組成比は、8質量%以上12質量%以下である。組成比が、8質量%未満であると、要求されるTMF特性およびクリープ特性が得られず、12質量%を超えると、共晶ガンマプライム相の生成を促し、溶体化熱処理が困難となる。Taの組成比は、好ましくは9質量%以上11質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上11質量%以下である。
Hf(ハフニウム)は、一方向凝固による柱状結晶化の際、粒界強化に寄与するものであり、かつ耐酸化性を向上させ、そのうえTMF特性を改善する可能性がある。Hfの組成比は、0質量%以上0.15質量%以下である。組成比が、0.15質量%を超えると、有害相の生成が助長され、TMF特性およびクリープ特性が低下する。
【0023】
Si(ケイ素)は、合金表面にSiO2皮膜を生成させて保護被膜として耐酸化性を向上させ、かつ合金表面からの微少クラックの発生を抑制してTMF特性を改善する可能性がある。Siの組成比は、0.01質量%以上0.2質量%以下である。組成比が0.01質量%未満であると、耐酸化性の向上、TMF特性の改善の効果が得られない。また、組成比が0.2質量%を超えると、他の元素の固溶限を低下させることになるため、要求されるTMF特性およびクリープ特性が得られない。
Zr(ジルコニウム)は、Ni基一方向凝固合金の結晶粒界を強化する目的で添加されるが、特にTMF特性を改善する可能性がある。Zrの組成比は、0質量%以上0.04質量%未満である。
B(ホウ素)は、Ni基一方向凝固合金の高温におけるクリープ特性、疲労特性などを改善することができる。Bの組成比は、0.01質量%以上0.03質量%以下である。
C(炭素)は、Ni基一方向凝固合金の高温における延性、クリープ特性などを改善することができる。Cの組成比は、0.01質量%以上0.3質量%以下である。
【0024】
また、Ni基一方向凝固合金は、所定の組成を有する鋳造物に対して以下のような熱処理を施して製造することができる。すなわち、熱処理は、1260℃〜1300℃で2時間〜40時間保持後に200℃/min〜400℃/minで空冷または不活性ガス雰囲気中で冷却する溶体化処理、1000℃〜1150℃で2時間〜5時間保持後に空冷または不活性ガス雰囲気中で冷却する1次時効処理、そして850℃〜950℃で10時間〜30時間保持後に空冷または不活性ガス雰囲気中で冷却する2次時効処理という一連のものである。
【0025】
このような一連の所定温度で所定時間の保持は、すべて真空中または不活性ガス雰囲気中で行うことが、高温酸化の影響を受けないという観点からも好ましい。
【0026】
以下、実施例を示し、本発明のNi一方向凝固合金についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0027】
表1に示した組成(質量%)を有するNi基一方向凝固合金を、真空溶解炉を用いて溶解し、加熱保持されたロストワックス鋳型で鋳造し、鋳型を200mm/hの凝固速度で引き下げて一方向凝固鋳造物を得た。次に、得られた一方向凝固鋳造物を真空中において1280℃で5時間保持してから約300℃/minで空冷する溶体化処理を行った。その後、真空中において1100℃で2時間保持してから空冷する1次時効処理と、真空中において870℃で24時間保持してから空冷する2次時効処理とを行った。実施例1および実施例2のNi基一方向凝固合金の溶体化処理の温度範囲は1260℃〜1300℃であり、1次時効処理の温度範囲は1000℃〜1150℃である。参考例1および参考例2は、1280℃で1時間保持してから1300℃に昇温し5時間保持後に空冷した。次いで1100℃に4時間保持してから空冷し、この後、870℃に20時間保持して空冷する熱処理を施した。参考例3の熱処理は、1130℃で1時間保持してから1180℃に昇温し2時間保持後に空冷し、その後1050℃に4時間保持してから空冷し、この後、870℃に20時間保持して空冷する熱処理を施した。参考例4は1147℃で1時間保持してから1197℃に昇温し2時間保持後に空冷し、その後1050℃に4時間保持してから空冷し、この後、870℃に20時間保持して空冷する熱処理を施した。参考例5は鋳造のまま試験に供した。
【0028】
【表1】
【0029】
熱処理後の一方向凝固合金鋳造物を平行部の直径が4mmで、長さが20mmのクリープ試験片に加工し、900℃で392MPaおよび1100℃で137MPaの条件でクリープ試験を行った。また、TMF試験は、平行部の直径5mmで、長さが15mmの試験片に対して高周波により加熱して実施した。TMF試験では、温度範囲を下限である400℃から上限である900℃まで変動させ、この温度の変動に連動させて±0.64%のひずみを加えた。周波数は1サイクルで66min、波形は三角波とし、圧縮時に60minの保持を行った。これらの試験条件は、ガスタービンの運用条件を模擬したものであり、タービン翼の表面温度が、定常時に900℃、停止時に400℃であると仮定した。また、昇降温速度は166.7℃/minとした。TMF特性は、試験片が破断するまでの繰返数で評価されるものである。
【0030】
実施例1、参考例1および参考例2のNi基一方向凝固合金について900℃で392MPaのクリープ試験の結果とTMF試験の結果を図1に示す。図1から実施例1のNi基一方向凝固合金が優れたクリープ特性とTMF特性を併せ持つことが確認される。
【0031】
実施例1、参考例3および参考例4のNi基一方向凝固合金について900℃で392MPaと1100℃で137MPaの条件でクリープ試験を実施した。その結果を図2に示した。図2の横軸に取ったLMPは、ラーソン・ミラーパラメータ(Larson-Miller parameter)であり、異なる温度条件における破断時間を整理するためのパラメータとして知られているものである。図2において、LMPを定義付ける式中のTは温度(K)を、trは破断時間(h)を示している。LMPが大きいほど、より高温で、またはより長時間クリープに耐えられることを意味する。
【0032】
実施例1のNi基一方向凝固合金は、参考例1〜4に比べ、クリープ特性に優れていることが、図1および図2からも確認される。
【0033】
図2のLMP線図から137MPaのクリープ条件で1000時間寿命の耐用温度(℃)を求めた結果を図3に示す。参考例3の耐用温度(922℃)、参考例4の耐用温度(895℃)に対し実施例1の耐用温度は983℃であることから、実施例1のNi基一方向凝固合金は、より高温で、またはより長時間クリープに耐えられることが確認される。
【0034】
また、耐環境特性を調べるために高温酸化試験を行った。酸化試験は、鏡面仕上げをした試料を電気炉で1100℃に大気中加熱し、12時間保持した後の重量変化と試料表面を観察して特性を判定した。酸化試験の結果は図4に示したとおり、実施例1および実施例2のNi基一方向凝固合金は、12時間後でも重量減少しておらず金属光沢を有しており耐酸化特性に優れたものであると評価される。なお、図中に示した参考例5は耐高温酸化特性の良好な合金として知られている。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のNi基一方向凝固合金は、TMF特性、クリープ特性および耐高温酸化のような耐環境特性に優れ、実用面においてコストパフォーマンスに優れている。したがって、ジェットエンジンやガスタービンのタービンブレードやタービンベーンの高温かつ高応力下で使用される部材に有効である。
図1
図2
図3
図4