(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
(水分解光電気化学セル)
本発明の水分解光電気化学セルは、化合物半導体微粒子と、該化合物半導体微粒子上に担持された増感色素とを含む光電極を備えた水分解光電気化学セルであって、前記増感色素が、炭素を含む少なくとも1種の半金属元素と水素を含む少なくとも1種の非金属元素とからなる有機色素化合物又はその塩である。したがって、化合物半導体微粒子上に担持された増感色素は、中心金属を必須とする金属錯体色素と異なり、場合によって塩の対イオンとして含まれる金属イオン(例えばナトリウムイオン)を除いて金属フリーである。なお、本願出願書類中において、「半金属元素」とは、金属元素と非金属元素との中間の性質を示す元素を意味し、具体的には、ホウ素、炭素、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、アンチモン、テルル、ポロニウム、及びアスタチンの11元素を意味するものとする。
【0025】
(有機色素化合物)
前記有機色素化合物は、酸性基や塩基性基を有する場合には、その塩であってもよい。前記有機色素化合物の塩としては、(1)少なくとも1つの酸性基(カルボキシ基、リン酸基、スルホ基、芳香環上のヒドロキシ基等)を有する有機色素化合物を、酸性基の少なくとも1つを脱プロトン化して共役塩基とし、この共役塩基(アニオン)と対カチオンとの間で塩を形成させたもの、(2)少なくとも1つの塩基性基(例えば、アミノ基)を有する有機色素化合物を、塩基性基の少なくとも1つをプロトン化してカチオンとし、このカチオンと対アニオン(例えば、塩化物イオン)との間で塩を形成させたものなどが挙げられる。上記対カチオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン;テトラメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピペラジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどの4級アンモニウムイオンのような有機カチオンを挙げることができる。
【0026】
本発明で用いる有機色素化合物又はその塩としては、例えば、後述する一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物においてCが式(C−1)で表される置換基である化合物等のアニリン系色素;ジピロメテン系色素(例えば、後述する一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物においてCが式(C−2)で表される置換基である化合物);エオシンY(ナトリウム塩;特開平10−92477号公報参照)を遊離酸に変換したもの、特開平11−97725号公報に記載の9−フェニルキサンテン系色素、特開平11−67285号公報に記載の9−フェニルキサンテン系色素、ローダミン類等の9−フェニルキサンテン系色素;モーダントブルー29等のトリフェニルメタン系色素(特開平10−093118号公報参照);アクリジン系色素(特開平10−093118号公報参照);クマリン系色素(特開平10−093118号公報参照);無金属フタロシアニン系色素、;オキサジン系色素(特開平11−074003号公報参照);インジゴ系色素(特開平11−074003号公報参照);シアニン系色素(特開平11−126917号公報、特開平11−144773号公報、荒川裕則企画監修、「色素増感型太陽電池の最新技術」、株式会社シーエムシー、2001年のp.136−141参照));下記構造式
【化1】
で表されるメロシアニン系色素、特開平11−167937号公報に記載のメロシアニン系色素、特開平11−238905号公報に記載のメロシアニン系色素等のメロシアニン系色素(荒川裕則企画監修、「色素増感型太陽電池の最新技術」、株式会社シーエムシー、2001年のp.136−141参照);ロダシアニン系色素(特開平11−185836号公報参照)、無金属ポルフィリン系色素(荒川裕則企画監修、「色素増感型太陽電池の最新技術」、株式会社シーエムシー、2001年のp.170−173及びp.304−307参照)等が挙げられる。
【0027】
前記有機色素化合物又はその塩としては、A−B−C(式中、Aは電子共役基Aを表し、Bは共役系結合基を表し、吸着基(アンカー部位)を表し、AはBを介さず直接Cに結合する構造であってもよい。)で表されるタイプの有機色素化合物又はその塩が好ましい。
【0028】
上記タイプの有機色素化合物又はその塩の中でも、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物又はその塩が特に好ましい。
【0029】
【化2】
[前記一般式(1)中におけるm1は1乃至4の整数を表し、
前記一般式(2)中におけるm2は2乃至3の整数を表し、
前記一般式(1)及び(2)中におけるrは0又は1を表し、
前記一般式(1)及び(2)中におけるAは、カルボキシ基、リン酸基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、アルコキシシリル基、ヒドロキシ基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は下記式(A−1)乃至(A−5)の何れか1つで表される置換基を表し、
【化3】
(式(A−1)乃至(A−5)中、
*Bは前記一般式(1)及び(2)におけるBとの結合部位を表し、X
1、X
2、Y
1、及びY
2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、シアノ基、リン酸基、スルホ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、又はカルボンアミド基を表し、R
1乃至R
8はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、リン酸基、アルコキシカルボニル基、アシル基、カルボンアミド基、アミド基、アリールオキシ基、又はカルボキシメチル基を表し、R
8はベンゼン環上の4つの基(水素原子を含む)を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、Z
1乃至Z
5はそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−CRR’−基、−CR=CR’−基、又は−NR''−基(式中、R、R’及びR''はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R及びR’は互いに結合を形成してもよい。)を表す。)
前記一般式(1)及び(2)中におけるBは、下記式(B−1)乃至(B−4)の何れか1つで表される置換基を表し、
【化4】
(式(B−1)乃至式(B−4)中、
*Aは前記一般式(1)及び(2)におけるAとの結合位置を、
*Cは前記一般式(1)及び(2)におけるCとの結合位置をそれぞれ表し、R
101乃至R
106はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、アミノ基、ヒドロキシ基、リン酸基、シアノ基、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アミド基、カルボキシ基、カルボンアミド基、アルコキシカルボニル基、又はアシル基を表し、R
105はベンゼン環上の4つの基(水素原子を含む)を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、R
106はベンゼン環上の2つの基(水素原子を含む)を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、Z
101乃至Z
104はそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−CRR’−基、−CR=CR’−基、又は−NR''−基(式中、R、R’およびR''はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。)を表し、n1乃至n4はそれぞれ独立に1乃至7の整数を表す。)
前記一般式(1)及び(2)中におけるCは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、又は下記式(C−1)若しくは式(C−2)で表される置換基を表す。
【化5】
(式(C−1)中、
*Bは、前記一般式(1)及び(2)におけるBとの結合位置を表し、R
201は水素原子又は1個若しくは複数個の置換基を表し、それら複数個の置換基は、互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに結合して又はR
202若しくはR
203と結合して環を形成してもよく、R
202及びR
203はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。)
【化6】
(式(C−2)中、
*Bは、前記一般式(1)及び(2)におけるBとの結合位置を表し、p1は1乃至4の整数を表し、M
1はホウ素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、ヒ素原子、アンチモン原子、及びテルル原子からなる群より選択される半金属原子を表し、R
204乃至R
206はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、Q
1及びQ
2はそれぞれ独立にハロゲン原子を表し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立に芳香環を表す。)]
【0030】
なお、本願出願書類の一般式では、部分構造を括弧で括り、部分構造の繰り返し数を表す記号(例えばn1)を右下付き添字で括弧に付している部分(例えば式(B−1)の部分)は、部分構造の繰り返し数が2以上である場合、2以上の部分構造が有する基(例えばR
101)同士は同一であってもよく異なっていてもよい。
【0031】
まず、前記一般式(1)及び(2)中のAについて説明する。
【0032】
前記一般式(1)及び(2)中におけるAが表すアルコキシカルボニル基としては、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0033】
Aが表すアシル基としては、例えば、炭素数1乃至10のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1乃至4のアルキルカルボニル基である。炭素数1乃至4のアルキルカルボニル基としては、具体的にはアセチル基、プロピオニル基等が挙げられる。
【0034】
Aが表すアルコキシシリル基としては、例えばSiRs
m(ORs)
3-m(Rsは炭素数1〜20のアルキル基を表し、mは0〜2の整数を表し、互いのRsは同一でも異なっていても良い)で示されるアルコキシシリル基が挙げられる。Rsで表される炭素数1〜20のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基である。
【0035】
Aが表す芳香族炭化水素基とは、芳香族炭化水素環(芳香族炭化水素)から水素原子1個を除いた基を意味し、該芳香族炭化水素環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナンスレン環、ピレン環、ペリレン環、及びテリレン環等の芳香環等が挙げられる。前記芳香族炭化水素環は、炭素数6乃至16の芳香環(芳香族炭化水素環及び芳香族炭化水素環を含む縮合環)を有する芳香族炭化水素環であることが好ましい。
【0036】
Aが表す複素環基とは、複素環から水素原子1個を除いた基を意味し、該複素環の具体例としては、インデン環、アズレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピラゾール環、ピラゾリジン環、チアゾリジン環、オキサゾリジン環、ピラン環、クロメン環、ピロール環、ピロリジン環、ベンゾイミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、トリアジン環、ジアゾール環、インドリン環、チオフェン環、チエノチオフェン環、フラン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアジン環、チアゾール環、インドール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ナフトチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ナフトオキサゾール環、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、ピラジン環、キノリン環、及びキナゾリン環等の芳香族複素環;並びにフルオレン環、及びカルバゾール環等の縮合型芳香族複素環等が挙げられる。前記複素環は、炭素数5乃至16の芳香族複素環(芳香族複素環及び芳香族複素環を含む縮合環)を有する複素環基であることが好ましい。
【0037】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としては、特に限定されないが、例えば、スルホ基、スルファモイル基、シアノ基、イソシアノ基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ニトロ基、ニトロシル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、リン酸基、リン酸エステル基、アミノ基、メルカプト基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アシル基、アルデヒド基、カルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、及び置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
【0038】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、臭素原子、又は塩素原子が好ましい。
【0039】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのリン酸エステル基としては、リン酸(炭素数1乃至4)アルキルエステル基等が挙げられる。リン酸エステル基の具体例としては、リン酸メチル基、リン酸エチル基、リン酸(n−プロピル)基及びリン酸(n−ブチル)基が挙げられる。
【0040】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのアミノ基としては、アミノ基;モノ又はジメチルアミノ基、モノ又はジエチルアミノ基並びにモノ又はジ(n−プロピル)アミノ基等のアルキル置換アミノ基;モノ又はジフェニルアミノ基並びにモノ又はジナフチルアミノ基等のアリール置換アミノ基;モノアルキルモノフェニルアミノ基等のような、アルキル基と芳香族炭化水素基とが一つずつ置換したアミノ基;ベンジルアミノ基、アセチルアミノ基、フェニルアセチルアミノ基等が挙げられる。
【0041】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのメルカプト基としては、メルカプト基;メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、n−プロピルメルカプト基、イソプロピルメルカプト基、n−ブチルメルカプト基、イソブチルメルカプト基、sec−ブチルメルカプト基、及びt−ブチルメルカプト基等の炭素数1乃至4のアルキルメルカプト基;フェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0042】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのアミド基としては、アミド基、アセトアミド基、N−メチルアミド基、N−エチルアミド基、N−(n−プロピル)アミド基、N−(n−ブチル)アミド基、N−イソブチルアミド基、N−(sec−ブチルアミド)基、N−(t−ブチル)アミド基、N,N−ジメチルアミド基、N,N−ジエチルアミド基、N,N−ジ(n−プロピル)アミド基、N,N−ジ(n−ブチル)アミド基、N,N−ジイソブチルアミド基、N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−(n−プロピル)アセトアミド基、N−(n−ブチル)アセトアミド基、N−イソブチルアセトアミド基、N−(sec−ブチル)アセトアミド基、N−(t−ブチル)アセトアミド基、N,N−ジメチルアセトアミド基、N,N−ジエチルアセトアミド基、N,N−ジ(n−プロピル)アセトアミド基、N,N−ジ(n−ブチル)アセトアミド基、N,N−ジイソブチルアセトアミド基、フェニルアミド基、ナフチルアミド基、フェニルアセトアミド基、ナフチルアセトアミド基等が挙げられる。
【0043】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0044】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのアリールオキシ基としては、フェノキシ基及びナフトキシ基等が挙げられ、これらはフェニル基又はメチル基を置換基として有していてもよい。
【0045】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのアシル基としては、炭素数1乃至10のアルキルカルボニル基やアリールカルボニル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1乃至4のアルキルカルボニル基であり、具体的にはアセチル基、プロピオニル基、トリフルオロメチルカルボニル基、ペンタフルオロエチルカルボニル基、ベンゾイル基及びナフトイル基等が挙げられる。
【0046】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、n−ペントキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、n−ノニルオキシカルボニル基及びn−デシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0047】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての芳香族炭化水素基又は複素環基の具体例としては、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基と同様のものが挙げられる。また、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての芳香族炭化水素基又は複素環基は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0048】
Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和の、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられ、炭素数1乃至36であることが好ましく、炭素数1乃至20であることがより好ましく、炭素数が3乃至18であることがさらに好ましい。また、環状のアルキル基としては、例えば炭素数3乃至8のシクロアルキル基などが挙げられる。これら脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、シクロヘキシル基、ビニル基、プロペニル基、ペンチニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘキサジエニル基、イソプロペニル基、イソへキセニル基、シクロへキセニル基、シクロペンタジエニル基、エチニル基、プロピニル基、ペンチニル基、へキシニル基、イソへキシニル基、及びシクロへキシニル基等が挙げられる。脂肪族炭化水素基は、特に好ましくは上記炭素数が3乃至18の直鎖のアルキル基である。これらの脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0049】
次に、前記式(A−1)乃至(A−5)で表される置換基について説明する。
【0050】
前記式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アミノ基」「アルコキシ基」「ハロゲン原子」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アミノ基」「アルコキシ基」「ハロゲン原子」と同様である。前記式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」はそれぞれ、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」と同様である。
【0051】
前記式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表すカルボンアミド基としては、炭素数1〜10のカルボンアミド基が好ましく、例えば、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、n−オクタノイルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基等が挙げられる。
【0052】
前記式(A−1)乃至(A−5)中のR
1乃至R
8が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アミノ基」「アルコキシ基」「ハロゲン原子」「アミド基」「アリールオキシ基」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アミノ基」「アルコキシ基」「ハロゲン原子」「アミド基」「アリールオキシ基」と同様である。前記式(A−1)乃至(A−5)中のR
1乃至R
8が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」はそれぞれ、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」と同様である。前記式(A−1)乃至(A−5)中のR
1乃至R
8が表す「カルボンアミド基」は、式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表す「カルボンアミド基」と同様である。
【0053】
前記式(A−1)乃至(A−5)中のZ
1乃至Z
5が表す−CRR’−基、−CR=CR’−基、又は−NR''−基に含まれるR、R’及びR''はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表すが、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基であることが好ましい。R、R’及びR''が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」と同様である。R、R’及びR''が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」はそれぞれ、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」と同様である。
【0054】
次に、前記一般式(1)及び(2)中における、前記式(B−1)乃至(B−4)の何れか1つで表される置換基Bについて説明する。
【0055】
前記式(B−1)乃至式(B−4)中のR
101乃至R
106が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アミノ基」「アルコキシ基」「ハロゲン原子」「アミド基」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アミノ基」「アルコキシ基」「ハロゲン原子」「アミド基」と同様である。前記式(B−1)乃至式(B−4)中のR
101乃至R
106が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」はそれぞれ、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」と同様である。前記式(B−1)乃至式(B−4)中のR
101乃至R
106が表す「カルボンアミド基」は、式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表す「カルボンアミド基」と同様である。
【0056】
前記式(B−1)乃至式(B−4)中のZ
101乃至Z
104が表す、−CRR’−基、−CR=CR’−基、及び−NR''−基はそれぞれ、式(A−1)乃至(A−5)中のZ
1乃至Z
5が表す−CRR’−基、−CR=CR’−基、及び−NR''−基と同様である。
【0057】
次に、前記一般式(1)及び(2)中におけるCについて説明する。
【0058】
前記一般式(1)及び(2)中のCが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」はそれぞれ、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」と同様である。
【0059】
次に、式(C−1)で表される置換基について説明する。
【0060】
前記式(C−1)中の1個又は複数個の置換基R
201は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、シアノ基、アシル基、アミド基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいベンゼンスルホニル基であることが好ましい。前記式(C−1)中の1個又は複数個の置換基R
201が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「(無置換の)アルコキシカルボニル基」「アシル基」はそれぞれ、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」と同様であり、アルコキシカルボニル基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。前記式(C−1)中の1個又は複数個の置換基R
201が表す「置換基を有していてもよい芳香族複素環基」としては、Aが表す「置換基を有していてもよい複素環基」の例として挙げた種々の芳香族複素環基が挙げられ、芳香族複素環基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。前記式(C−1)中の1個又は複数個の置換基R
201が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「(無置換の)アルコキシ基」「アミド基」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アルコキシ基」「アミド基」と同様である。前記式(C−1)中の1個又は複数個の置換基R
201が表すベンゼンスルホニル基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。
【0061】
前記式(C−1)中のR
202及びR
203が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」と同様である。前記式(C−1)中のR
202及びR
203が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」は、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」と同様である。
【0062】
次に、前記式(C−2)で表される置換基について説明する。
【0063】
式(C−2)中、
*Bは、前記一般式(1)及び(2)におけるBとの結合位置を表す。前記一般式(1)及び(2)におけるBとの結合位置は、芳香環Ar
1又はAr
2上であることが好ましい。p1は1乃至4の整数を表し、1乃至2であることが好ましく、2であることがより好ましい。M
1はホウ素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、ヒ素原子、アンチモン原子、及びテルル原子からなる群より選択される半金属原子を表す。前記半金属原子としては、ホウ素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、及びアンチモン原子が挙げられる。前記半金属原子は、ホウ素原子であることが好ましい。R
204〜R
206はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。
【0064】
式(C−2)におけるR
204〜R
206が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」はそれぞれ、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「置換基を有していてもよい複素環基」と同様である。
【0065】
式(C−2)におけるR
204は、水素原子であることが好ましい。また、式(C−2)におけるR
205及びR
206はそれぞれ独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であることが好ましく、フェニル基、ナフチル基、又はチエニル基であることがより好ましく、フェニル基であることがさらに好ましい。
【0066】
式(C−2)中、Q
1及びQ
2はそれぞれ独立にハロゲン原子を表す。該ハロゲン原子としては、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としてのハロゲン原子と同様のものが挙げられ、フッ素原子であることが好ましい。また、式(C−2)中のQ
1及びR
205、並びにQ
2及びR
206は、互いに連結して環を形成してもよく、また、R
205及びR
206が芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の場合、Q
1及びR
205が表す芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基上の置換基、並びにQ
2及びR
206が表す芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基上の置換基は、互いに連結して環を形成してもよい。
【0067】
式(C−2)中、Ar
1及びAr
2はそれぞれ独立に芳香環を表す。該芳香環の具体例としては、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基の説明部分において具体例として記載した芳香族炭化水素環又は複素芳香環と同様のものが挙げられる。Ar
1及びAr
2はそれぞれ独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、又はチオフェン環であることが好ましく、ベンゼン環であることがより好ましい。
【0068】
前記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物又はその塩は、例えば、国際公開第02/011213号、国際公開第03/005481号、国際公開第2004/082061号、特許第4610160号公報、特開2014−196283号公報、国際公開第2015/137382号等に記載されている。
【0069】
前記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物又はその塩について、幾つかの好ましい形態を以下に示す。
【0070】
前記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物又はその塩の第1の好ましい形態は、前記一般式(1)で表される化合物又はその塩であり、
r、A、及びBの組み合わせが、
(a)rが0又は1であり、Aが前記式(A−1)で表される置換基であり、前記式(A−1)中のX
1及びY
1がそれぞれ独立に、水素原子、カルボキシ基、シアノ基、リン酸基、又はスルホン酸基であり、前記式(A−1)中のR
1が、水素原子、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、又はアルコキシ基であり、Bが前記式(B−1)で表される置換基であり、前記式(B−1)中のn1が1乃至5の整数であり、前記式(B−1)中のR
101及びR
102がそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、又はアルコキシ基である組み合わせ、
(b)rが1であり、Aが前記式(A−1)で表される置換基であり、前記式(A−1)中のX
1及びY
1がそれぞれ独立に、水素原子、カルボキシ基、シアノ基、リン酸基、又はスルホン酸基であり、前記式(A−1)中のR
1が、水素原子、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、又はアルコキシ基であり、Bが前記式(B−2)で表される置換基であり、前記式(B−2)中のn2が1乃至5の整数であり、前記式(B−2)中のR
103及びR
104がそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、又はアルコキシ基であり、前記式(B−2)中のZ
101が、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子である組み合わせ、
(c)rが0又は1であり、Aがホルミル基であり、Bが前記式(B−2)で表される置換基であり、前記式(B−2)中のn2が1乃至5の整数であり、前記式(B−2)中のR
103及びR
104がそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、又はアルコキシ基であり、前記式(B−2)中のZ
101が、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子である組み合わせ、
の何れか1つであるものである。
【0071】
このような化合物は、特開2014−196283号公報に記載されている。このような化合物の例としては、下記構造式
【化7】
で表される化合物(特開2014−196283号公報の化合物194)が挙げられる。
【0072】
前記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物又はその塩の第2の好ましい形態は、前記一般式(1)で表される化合物又はその塩であり、
m1が1であり、
Aが、
(a)前記式(A−1)で表され、X
1及びY
1がカルボキシ基である置換基、
(b)前記式(A−1)で表され、X
1及びY
1の一方がカルボキシ基であり、他方がシアノ基である置換基、
(c)前記式(A−3)で表され、R
5がカルボキシメチル基であり、R
6が水素原子であり、Z
2が酸素原子であり、Z
3及びZ
4が硫黄原子である置換基、
(d)前記式(A−3)で表され、R
5がエチル基であり、R
6が水素原子であり、Z
2が酸素原子であり、Z
3が下記式
【化8】
で表される基であり、Z
4が硫黄原子である置換基、
(e)前記式(A−3)で表され、R
5がエチル基であり、R
6が水素原子であり、Z
2が酸素原子であり、Z
3が−C(CN)(COOH)−基であり、Z
4が硫黄原子である置換基、
(f)前記式(A−3)で表され、R
5がエチル基であり、R
6が水素原子であり、Z
2が酸素原子であり、Z
3が−C(COOH)
2−基であり、Z
4が硫黄原子である置換基、
(g)前記式(A−3)で表され、R
5がカルボキシメチル基であり、R
6が4−(ジフェニルアミノ)フェニル基であり、Z
2及びZ
3が酸素原子であり、Z
4が硫黄原子である置換基、
(h)前記式(A−3)で表され、R
5がカルボキシメチル基であり、R
6がp−トリル基であり、Z
2が酸素原子であり、Z
3及びZ
4が硫黄原子である置換基、
の何れか1つであり、
Bが、前記式(B−1)で表され、R
101及びR
102が水素原子であり、
Cが、下記式(C−1−1)
【化9】
(式(C−1−1)中、R
15は、下記式(101)〜(105)
【化10】
の何れか1つで表される芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、R
16及びR
17の組み合わせは、
(i)R
16及びR
17がメチル基である組み合わせ、
(ii)R
16が水素原子、R
17がフェニル基である組み合わせ、
(iii)R
16及びR
17がフェニル基である組み合わせ、
(iv)R
16及びR
17がp−トリル基である組み合わせ、
(v)R
16が2−チエニル基、R
17が水素原子である組み合わせ、
(vi)R
16及びR
17が2,4−キシリル基である組み合わせ、
(vii)R
16が1−ナフチル基、R
17が水素原子である組み合わせ、
の何れか1つであり、R
18は水素原子又はフェニル基を表し、R
19及びR
20は水素原子を表し、X
3は、アミノ基と共に下記式(106)〜(110)
【化11】
の何れか1つで表される環状構造を形成する連結基を示し、nは0又は1を示す。)
で表される置換基であるものである。
【0073】
このような化合物は、特許第4610160号公報に記載されている。このような化合物の例としては、下記構造式
【化12】
で表される化合物(特許第4610160号公報の化合物(A−4))が挙げられる。
前記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物又はその塩の第3の好ましい形態は、前記一般式(1)で表される化合物又はその塩であり、
m1が1であり、rが1であり、
Aが、前記式(A−1)で表される置換基であり、
前記式(A−1)中のX
1及びY
1がそれぞれ独立に、水素原子、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、脂肪族炭化水素基、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基、シアノ基、アシル基、アミド基、アルコキシカルボニル基、又はフェニルスルホニル基であり、
前記式(A−1)中のR
1が、水素原子、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、脂肪族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基であり、
Bが、下記式(B−11)
【化13】
(式(B−11)中、
*Aは前記一般式(1)におけるAとの結合位置を、
*Cは前記一般式(1)におけるCとの結合位置をそれぞれ表し、
jは0乃至3の整数を表し、kは1乃至3の整数を表し、qは1乃至5の整数(ただし、qはj+k+q≦7を満たす)を表し、
Z
11乃至Z
13はそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、又は−NR''−基(式中、R''はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表す。)を表し、
A
4は、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アルコキシ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、又はアシル基を表し、
A
7乃至A
10はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、又はアシル基を表し、
R
301は、下記式(302)
【化14】
(式(302)中、pは0乃至3の整数を表し、qは0乃至6の整数を表し、
X
4及びY
4はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基、シアノ基、アシル基、アミド基、アルコキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいベンゼンスルホニル基を表し、
Z
14は酸素原子、硫黄原子、セレン原子、又は−NR
12−基(R
12は水素原子、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表す)を表し、
A
11及びA
12はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、又はアシル基を表し、
A
13乃至A
15はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボンアミド基、アミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボニル基、又はアシル基を表す。)
で表される置換基を表し、
Cが、前記式(C−1)で表される置換基であり、前記式(C−1)中の1個又は複数個の置換基R
201は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、シアノ基、アシル基、アミド基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいベンゼンスルホニル基であり、前記式(C−1)中のR
202及びR
203はそれぞれ独立に、下記式(301)
【化15】
(式(301)中、R
12及びR
13はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表す。)
で表される置換基であるものである。
【0074】
前記式(B−11)中のZ
11乃至Z
13が表す−NR''−基はそれぞれ、式(A−1)乃至(A−5)中のZ
1乃至Z
5が表す−NR''−基と同様である。前記式(B−11)中のZ
11乃至Z
13が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」は、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」と同様である。前記式(B−11)中のZ
11乃至Z
13が表す「置換基を有していてもよい芳香族複素環基」としては、Aが表す「置換基を有していてもよい複素環基」の例として挙げた種々の芳香族複素環基が挙げられ、芳香族複素環基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。前記式(B−11)中のZ
11乃至Z
13が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」と同様である。
【0075】
前記式(B−11)中のA
4が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「ハロゲン原子」「アルコキシ基」「アミド基」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「ハロゲン原子」「アルコキシ基」「アミド基」と同様である。前記式(B−11)中のA
4が表す「カルボンアミド基」は、式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表す「カルボンアミド基」と同様である。前記式(B−11)中のA
4が表す「アルコキシカルボニル基」「アシル基」はそれぞれ、Aが表す「アルコキシカルボニル基」「アシル基」と同様である。
【0076】
前記式(B−11)中のA
7乃至A
10が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「ハロゲン原子」「アルコキシ基」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「ハロゲン原子」「アルコキシ基」と同様である。前記式(B−11)中のA
7乃至A
10が表す「カルボンアミド基」は、式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表す「カルボンアミド基」と同様である。前記式(B−11)中のA
7乃至A
10が表す「アルコキシカルボニル基」「アシル基」はそれぞれ、Aが表す「アルコキシカルボニル基」「アシル基」と同様である。
【0077】
前記式(302)中のX
4及びY
4が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「アシル基」「アルコキシカルボニル基」は、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「アシル基」「アルコキシカルボニル基」と同様である。前記式(302)中のX
4及びY
4が表す「置換基を有していてもよい芳香族複素環基」としては、Aが表す「置換基を有していてもよい複素環基」の例として挙げた種々の芳香族複素環基が挙げられ、芳香族複素環基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。前記式(302)中のX
4及びY
4が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アミド基」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「アミド基」と同様である。前記式(302)中のX
4及びY
4が表すベンゼンスルホニル基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。
【0078】
前記式(302)中のZ
14としての−NR
12−基中のR
12が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」は、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」と同様である。前記式(302)中のZ
14としての−NR
12−基中のR
12が表す「置換基を有していてもよい芳香族複素環基」としては、Aが表す「置換基を有していてもよい複素環基」の例として挙げた種々の芳香族複素環基が挙げられ、芳香族複素環基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。前記式(302)中のZ
14としての−NR
12−基中のR
12が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」と同様である。
【0079】
前記式(302)中のA
11及びA
12が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「ハロゲン原子」「アルコキシ基」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「ハロゲン原子」「アルコキシ基」と同様である。前記式(302)中のA
11及びA
12が表す「カルボンアミド基」は、式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表す「カルボンアミド基」と同様である。前記式(302)中のA
11及びA
12が表す「アルコキシカルボニル基」「アシル基」はそれぞれ、Aが表す「アルコキシカルボニル基」「アシル基」と同様である。
【0080】
前記式(302)中のA
13乃至A
15が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」はそれぞれ、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」「アルコキシカルボニル基」「アシル基」と同様である。前記式(302)中のA
13乃至A
15が表す「置換基を有していてもよい芳香族複素環基」としては、Aが表す「置換基を有していてもよい複素環基」の例として挙げた種々の芳香族複素環基が挙げられ、芳香族複素環基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。前記式(302)中のA
13乃至A
15が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「ハロゲン原子」「アミド基」「アルコキシ基」「アリールオキシ基」はそれぞれ、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」「ハロゲン原子」「アミド基」「アルコキシ基」「アリールオキシ基」と同様である。前記式(302)中のA
13乃至A
15が表す「カルボンアミド基」は、式(A−1)乃至(A−5)中のX
1、X
2、Y
1、及びY
2が表す「カルボンアミド基」と同様である。
【0081】
前記式(302)中のA
13乃至A
15が表すアリールカルボニル基としては、例えばベンゾイル、ナフトイル等の6〜10員の単環式または二環式アリール基が置換したカルボニル基が挙げられる。
【0082】
前記式(301)中のR
12及びR
13が表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」は、Aが表す「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」と同様である。前記式(301)中のR
12及びR
13が表す「置換基を有していてもよい芳香族複素環基」としては、Aが表す「置換基を有していてもよい複素環基」の例として挙げた種々の芳香族複素環基が挙げられ、芳香族複素環基が有していてもよい置換基は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基と同様である。前記式(301)中のR
12及びR
13が表す「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」は、Aが表す芳香族炭化水素基又は複素環基が有していてもよい置換基としての「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」と同様である。
【0083】
このような化合物は、国際公開第2015/137382号に記載されている。このような化合物の例としては、下記構造式
【化16】
で表される化合物(国際公開第2015/137382号の化合物1)が挙げられる。
【0084】
(水分解光電気化学セルの構成)
本発明の水分解光電気化学セルは、化合物半導体微粒子と、該化合物半導体微粒子上に担持された増感色素(前記有機色素化合物)とを含む光電極を備えている。
【0085】
前記化合物半導体粒子としては、酸化物半導体微粒子が好ましく、金属酸化物半導体微粒子がより好ましい。金属酸化物半導体微粒子を構成する金属酸化物の具体例としては、チタン、スズ、亜鉛、タングステン、ジルコニウム、ガリウム、インジウム、イットリウム、ニオブ、タンタル、バナジウムなどの金属の酸化物が挙げられる。これら金属酸化物のうち、チタン、スズ、亜鉛、ニオブ又はインジウム等の金属の酸化物が好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化スズが最も好ましい。また、化合物半導体微粒子の平均粒子径は、通常は1〜500nmであり、好ましくは1〜100nmである。また、化合物半導体微粒子は、大きな粒径の化合物半導体微粒子と小さな粒径の化合物半導体微粒子とを混合したり、大きな粒径の化合物半導体微粒子と小さな粒径の化合物半導体微粒子とを多層にして用いることもできる。また、前記化合物半導体微粒子は、単一で使用することもできるが、他の成分と混合したり、半導体の表面にコーティングさせて使用することもできる。
【0086】
前記半導体粒子は、薄膜として基板上に設けられることによって光電極を構成していることが好ましい。半導体薄膜の厚みは、通常1〜200μmで、好ましくは1〜50μmである。
【0087】
前記基板としては、その表面が導電性である透光性基板が好ましく、そのような表面が導電性である透光性基板は、市場にて容易に入手可能である。そのような表面が導電性である透光性基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリエーテルスルフォン等の透明性のある高分子材料又はガラス等からなる透光性基板の表面に、導電性金属酸化物の薄膜又は金属の薄膜を設けたものを用いることができる。導電性金属酸化物の薄膜としては、インジウム、フッ素、若しくはアンチモンをドープした酸化スズなどの導電性金属酸化物の薄膜が挙げられ、金属の薄膜としては、銅、銀、金等の金属の薄膜が挙げられる。導電性金属酸化物の薄膜としては、インジウム、フッ素、若しくはアンチモンをドープした酸化スズなどの透明導電性金属酸化物の薄膜が好ましい。そのような表面が導電性である透光性基板は、その導電性として、通常1000Ω以下の電気抵抗を示すものであればよく、特に100Ω以下の電気抵抗を示すものが好ましい。
【0088】
基板上に半導体粒子の薄膜を形成する方法としては、化合物半導体微粒子をスプレイ噴霧などで直接前記基板上に化合物半導体微粒子の薄膜として形成する方法、基板を電極として電気的に化合物半導体微粒子を薄膜状に析出させる方法、化合物半導体微粒子のスラリー又は半導体アルコキサイド等の化合物半導体微粒子の前駆体を加水分解することにより得られた微粒子を含有するペーストを基板上に塗布した後、乾燥、硬化もしくは焼成する方法等を用いることができる。光電極の性能上、スラリーを用いる方法が好ましい。この方法の場合、スラリーは2次凝集している化合物半導体微粒子を常法により分散媒中に平均1次粒子径が1〜200nmになるように分散させることにより得られる。
【0089】
スラリーを分散させる分散媒としては、化合物半導体微粒子を分散させ得るものであれば何でも良く、水、エタノール等のアルコール、アセトン及びアセチルアセトン等のケトン、ヘキサン等の炭化水素等が用いられ、これらは混合して用いてもよく、また水を用いることはスラリーの粘度変化を少なくするという点で好ましい。また、化合物半導体微粒子の分散状態を安定化させる目的で分散安定剤を用いることができる。用いうる分散安定剤の例としては例えば酢酸、塩酸、硝酸等の酸、又はアセチルアセトン、アクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の有機溶媒等が挙げられる。
【0090】
スラリーを塗布した基板は焼成してもよく、その焼成温度は通常100℃以上、好ましくは200℃以上で、かつ上限はおおむね基板の材料の融点(軟化点)以下であり、通常上限は900℃であり、好ましくは600℃以下である。また、焼成時間は、特に限定はないが、概ね4時間以内が好ましい。
【0091】
半導体粒子の薄膜の形成後に、化合物半導体微粒子の薄膜に対して2次処理を施してもよい。例えば、化合物半導体微粒子が金属酸化物半導体粒子である場合、金属酸化物半導体粒子を構成する金属と同一の金属のアルコキサイド、塩化物、硝化物、硫化物等の溶液に直接、基板ごと化合物半導体微粒子の薄膜を浸積させて乾燥もしくは再焼成することにより化合物半導体微粒子の薄膜の性能を向上させることができる。金属アルコキサイドとしては、チタンエトキサイド、チタンイソプロポキサイド、チタンt−ブトキサイド、n−ジブチル−ジアセチルスズ等が挙げられ、それらのアルコール溶液が用いられる。塩化物としては、例えば四塩化チタン、四塩化スズ、塩化亜鉛等が挙げられ、その水溶液が用いられる。このようにして得られた半導体薄膜は、化合物半導体微粒子から成っている。
【0092】
次に、化合物半導体微粒子に増感色素を担持させる方法について説明する。
化合物半導体微粒子に増感色素を担持させる方法としては、増感色素を溶解しうる溶媒にて増感色素を溶解して得た増感色素の溶液、又は溶解性の低い増感色素の場合にはにあっては増感色素を分散せしめて得た増感色素の分散液に、化合物半導体微粒子の薄膜を浸漬する方法が挙げられる。半導体粒子の薄膜を基板上に設けることによって光電極を構成する場合、この方法では、基板上に設けられた半導体粒子の薄膜を増感色素の溶液又は分散液に浸漬すればよい。浸漬温度は、おおむね常温から溶媒の沸点迄であり、また、浸漬時間は1分間から48時間程度である。増感色素を溶解させるのに使用しうる溶媒の具体例として、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、n−ブタノール、t−ブタノール、水、n−ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン等が挙げられ、増感色素の溶解度等に合わせて、単独又は複数を混合して用いることができる。溶液中の増感色素濃度は、通常1×10
-6M〜1Mであり、好ましくは1×10
-5M〜1×10
-1Mである。浸漬が終わった後、風乾するか、必要であれば加熱することにより、溶媒を除去する。
【0093】
化合物半導体微粒子に担持する増感色素は、1種類の増感色素でもよいし、複数種類の増感色素の混合物でもよい。特に吸収波長の異なる複数種類の増感色素を混合することにより、幅広い吸収波長を利用することができ、効率の高い水分解光電気化学セルが得られる。複数種類の増感色素を用いる場合には、複数種類の増感色素を化合物半導体微粒子の薄膜に順次吸着させても、複数種類の増感色素を混合溶解して化合物半導体微粒子の薄膜に吸着させてもよい。
【0094】
化合物半導体微粒子の薄膜に色素を担持する際、色素同士の会合を防ぐために包摂化合物の共存下、増感色素を担持することが有利である。ここで包摂化合物としては、コール酸等のステロイド系化合物、クラウンエーテル、シクロデキストリン、カリックスアレン、ポリエチレンオキサイドなどが挙げられるが、好ましいものの具体例としては、デオキシコール酸、デヒドロデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、コール酸メチルエステル、コール酸ナトリウム等のコール酸類、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。また、増感色素を担持させた後、4−t−ブチルピリジン等のアミン化合物で化合物半導体微粒子の薄膜を処理してもよい。処理の方法としては、例えばアミンのエタノール溶液に増感色素を担持した化合物半導体微粒子の薄膜の設けられた基板を浸す方法等を用いることができる。
【0095】
このようにして、増感色素が担持された化合物半導体微粒子を含む光電極を得ることができる。
【0096】
本発明の水分解光電気化学セルは、好ましくは、前記光電極に加えて、前記光電極に対向する還元電極と、電解質を含む水溶液を収容するためのものであって、前記水分解光電気化学セルの外部から前記水分解光電気化学セルに照射された光を前記光電極へ透過させることが可能な光透過性容器とをさらに備え、前記光電極及び還元電極がそれぞれ負極及び正極として互いに離間して対向するように前記光透過性容器内に配設されており、負極及び正極が互いに、直接、又は外部回路を介して電気的に接続されており、前記光電極は、前記化合物半導体微粒子で構成された化合物半導体薄膜を備えている構成である。そして、負極(光電極)に光を照射することで、負極(光電極)で水が酸化されて過酸化水素が生成され、正極(還元電極)ではプロトンが還元されて水素が発生し、水が過酸化水素(H
2O
2)と水素とに分解される。
【0097】
前記還元電極としては、水中の電解質の還元反応を触媒的に進行させるものが好ましい。前記還元電極としては、例えば、ガラス又は高分子フィルムに白金、カーボン、ロジウム、ルテニウム等を蒸着したものや、導電性微粒子をガラス又は高分子フィルムに塗り付けたものを用いることができる。
【0098】
前記光透過性容器の内部は、通常、隔膜によって、負極を含む負極室と、正極を含む正極室とに仕切られている。前記隔膜としては、プロトン選択性膜であるテトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2−(フルオロスルホニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体(商品名「NAFION(登録商標)」)膜等のイオン交換膜を用いることができる。
【0099】
(水分解光電気化学セルの実施形態)
次に、水分解光電気化学セルの実施の一形態について、
図1及び
図2に基づいて説明する。
【0100】
図1に示すように、本発明の実施の一形態に係る水分解光電気化学セル10は、前記構成の光電極3と、前記光電極3に対向する還元電極4と、電解質を含む水溶液1を収容するためのものであって、前記水分解光電気化学セルの外部の光源6(太陽や人工光源(例えばキセノンランプ)等)から前記水分解光電気化学セルに照射された光を前記光電極へ透過させることが可能な光透過性容器2を備え、光電極3及び還元電極4がそれぞれ負極及び正極として互いに離間して対向するように光透過性容器2内に挿入されており、光電極3及び還元電極4が外部回路5を介して電気的に接続されており、光電極3が光源6からの光を受光できるようになっている構成である。光電極3は、
図2に模式的に示すように、基板3aと、基板3a上に形成された化合物半導体微粒子3bで構成された化合物半導体薄膜と、化合物半導体微粒子3bに担持された増感色素3cとで構成されている。なお、外部回路5は、光電極3及び還元電極4の間の導通を可能にするものであればよく、外部回路5を短絡線に置き換えてもよい。
【0101】
水分解光電気化学セル10では、
図2に示すように、光源8からの光が増感色素3cに照射されると、増感色素3cの分子が光励起されて電子を化合物半導体微粒子3bを構成する半導体の伝導帯に注入する。光電極3では、励起された増感色素3cが水を酸化させて(水から電子を獲得して)過酸化水素及びプロトンを生成する。一方、化合物半導体微粒子3bを構成する半導体の伝導帯に注入された電子は、基板3a及び外部回路5を通って還元電極4に達する。そして、光電極3で生成したプロトンが、還元電極4で電子を受け取って還元され、水素を発生させる。なお、本発明に係る水分解光電気化学セルは、増感色素自らが、水を酸化して水から電子を獲得している点で、非特許文献2の光触媒系と根本的に異なる。
【0102】
水分解光電気化学セルは、光による水の分解によって水素を生成できることから、光エネルギーを利用して水素を製造する水素製造装置や、光エネルギーを利用して過酸化水素を製造する過酸化水素製造装置として利用できる。
【0103】
本発明の水素製造装置は、本発明の水分解光電気化学セルを備えていればよいが、好ましくは、前記光電極に対向する還元電極と、電解質を含有する水溶液を収容するためのものであって、前記水分解光電気化学セルの外部から前記水分解光電気化学セルに照射された光を前記光電極へ透過させることが可能な光透過性容器とをさらに備え、前記光電極及び還元電極は、前記光透過性容器内に配設され、互いに電気的に接続されており、前記光電極は、前記化合物半導体微粒子で構成された化合物半導体薄膜を備えており、前記光透過性容器内に電解質を含有する水溶液が収容されて、その水溶液に前記光電極及び前記還元電極が浸されており、前記水分解光電気化学セルの外部から前記水分解光電気化学セルに光が照射されたときに、前記還元電極で水素を発生させる構成である。
【0104】
本発明の過酸化水素製造装置は、本発明の水分解光電気化学セルを備えていればよいが、好ましくは、前記光電極に対向する還元電極と、電解質を含有する水溶液を収容するためのものであって、前記水分解光電気化学セルの外部から前記水分解光電気化学セルに照射された光を前記光電極へ透過させることが可能な光透過性容器とをさらに備え、前記光電極及び還元電極は、前記光透過性容器内に配設され、互いに電気的に接続されており、前記光電極は、前記化合物半導体微粒子で構成された化合物半導体薄膜を備えており、前記光透過性容器内に電解質を含有する水溶液が収容されて、その水溶液に前記光電極及び前記還元電極が浸されており、前記水分解光電気化学セルの外部から前記水分解光電気化学セルに光が照射されたときに、前記光電極で過酸化水素を発生させる構成である。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0106】
〔実施例1〕
本実施例に係る実験用の水分解光電気化学セル10Aは、
図3に示すように、
図1の水分解光電気化学セル10とほぼ同様であるが、
図1の水分解光電気化学セル10が備える各構成要素に加えて、光電流を測定するために光透過性容器2内に挿入され外部回路5に接続されたAg/AgClからなる参照電極7と、光透過性容器2の内部を光電極(負極)3を含む負極室と還元電極(正極)4を含む正極室とに仕切るイオン交換膜8とを備えている。
【0107】
本実施例では、増感色素3cとして、下記構造式
【化17】
で表される化合物(特開2014−196283号公報の化合物194;以下、「BODIPY」と略記する)を用い、基板3a及び化合物半導体微粒子3bとして、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)薄膜をガラス板上に形成してなる透明導電性ガラス基板上に、酸化チタン微粒子薄膜を9mm×9mmのサイズで膜厚9μmとなるように形成してなる半導体薄膜電極(以下、「FTO/TiO
2」と略記する)を用いた。そして、光電極3を以下のようにして作製した。すなわち、BODIPYのメタノール溶液を、FTO/TiO
2における多孔質酸化チタン膜上に12時間かけて堆積させることにより、BODIPYをFTO/TiO
2に吸着させて、光電極3を作成した。
【0108】
得られた光電極3を作用電極として使用して、
図3に示すように水分解光電気化学セル10Aに組み込んだ。また、本実施例では、還元電極4として、導電性基板上に白金をスパッタして成膜したものを用い、光電極3と還元電極4とを外部回路5を介して接続した。また、本実施例では、電解質として硫酸ナトリウムを0.1Mの濃度で含む水(硫酸ナトリウム水溶液)1を使用した。
【0109】
〔実施例2〕
本実施例では、増感色素3cとして、BODIPYに代えて、下記構造式
【化18】
で表される化合物(特許第4610160号公報の化合物(A−4);以下、「D102」と略記する)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実験用の水分解光電気化学セル10Aを作製した。
【0110】
〔対照〕
増感色素3cを使用しないこと以外は、実施例1と同様における水分解光電気化学セル10Aの作製と同様にして、対照のセルを作製した。
【0111】
〔光電流の定電位測定〕
実施例1の水分解光電気化学セル、実施例2の水分解光電気化学セル、及び対照のセルのそれぞれについて、光源6として300Wのキセノンランプ(朝日分光株式会社製)を用いて、このキセノンランプからの光を、400nmロングパスフィルタ9を通して光電極3に照射し、印加電圧(バイアス電圧)0Vにおける光電流波形を測定した。実施例1の水分解光電気化学セル、実施例2の水分解光電気化学セル、及び対照のセルの測定結果をそれぞれ、破線、実線、及び一点鎖線で
図4に示す。
【0112】
図5に示すように、実施例2の水分解光電気化学セルは、著しく高い光電流(600μA/cm
2)を示し、水素発生効率が高いと考えられるが、200μA/cm
2を超える光電流値を維持した時間は1500秒間であった。実施例1の水分解光電気化学セルは、実施例2の水分解光電気化学セルと比較して、光電流は低く140μA/cm
2であったが、50μA/cm
2を超える光電流値を維持した時間は1時間に及び、安定性に勝っていた。なお、光電流の経時的な減少は、増感色素の分子が酸化チタン微粒子(ナノ粒子)から脱離することに起因していると考えられる。
【0113】
〔ガス分析〕
対照のセル(FTO/TiO
2)、実施例1の水分解光電気化学セル(FTO/TiO
2/BODIPY)、及び実施例2の水分解光電気化学セル(FTO/TiO
2/D102)のそれぞれについて、光電流の定電位測定と同様にして光照射を行ったときのガス(水素、酸素、及び過酸化水素)の分析を行った。水溶液中に溶存している酸素の量を溶存酸素計(デルタオーム社製の溶存酸素・温度計、型番「HD 2109.2」)を用いて測定し、正極室における水素ガスの量を水素ガス検知器(新コスモス電機株式会社製の高感度可燃性ガス検知器、型番「XP−3160」)を用いて測定し、過酸化水素の存在を過マンガン酸カリウムの酸性溶液を用いて検出した。得られた結果を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
実施例1及び実施例2の水分解光電気化学セルの何れにおいても、正極室において表1に示す量の水素ガスが検出された。水溶液中の酸素の量を測定した結果、酸素ガスが発生していないことが確認された。過マンガン酸カリウムの酸性溶液を用いた過酸化水素の存在試験の結果、実施例2の水分解光電気化学セルにおいて、過酸化水素の発生が検出された。このことは、負極における水の酸化が過酸化水素の生成を介して進むことを示唆している。
【0116】
このように、実施例1及び実施例2の水分解光電気化学セルでは、中性のpHで、バイアス電圧0Vで、しかも水の酸化触媒が存在しない条件下で、キセノンランプを照射したときに、水素発生及びそれに伴う光電流が観測された。
【0117】
〔増感色素の合成例1〕
増感色素として、下記構造式
【化19】
で表される化合物(国際公開第2002/011213号の化合物(7);以下、「NK−003」と称する)を、N,N−ジエチルアミノベンズアルデヒドに代えて4−(N,N−ジフェニルアミノ)ベンズアルデヒドを使用したこと以外は国際公開第2002/011213号の合成例1と同様にして合成した。
【0118】
すなわち、シアノ酢酸1質量部と4−(N,N−ジフェニルアミノ)ベンズアルデヒド3.1質量部をエタノール10質量部に溶解し、ここにピペラジン無水物0.6質量部を滴下した。還流で2時間反応させた後、冷却し得られた固体を濾過、洗浄、乾燥し、次いでエタノールとヘキサンとの混合溶媒(エタノール/ヘキサン=3/1)で再結晶した後、濾過、洗浄、及び乾燥し、NK003を得た。
【0119】
〔増感色素の合成例2〕
増感色素として、下記構造式
【化20】
で表される化合物(8)(ロダニン含有ジベンゾBODIPY;以下、「Rho−BODIPY」と称する)を次に示すスキームで合成した。
【0120】
【化21】
【0121】
〔1−(2−ベンゾイル−5−ブロモフェニル)エタン−1−オン(化合物(2))の合成〕
氷浴下、2−[1−(5−ブロモ−2−ヒドロキシフェニル)エチリデン]ヒドラジド(化合物(1);C. Z. Zheng, L. Wang, J. Liu, Adv. Mater. Res., 2011, 239-242, p.2153-2157参照)10.4g(31.5mmol)を溶解させたテトラヒドロフラン(THF)540mLへ酢酸鉛(IV)(Pb(OAc)
4)16.8g(37.8mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌した。反応液からPb(OAc)
4を除いた後、溶媒を留去した。これにより、8.97gの化合物(2)を得た(収率93%)。
【0122】
化合物(2)の
1H NMR(核磁気共鳴)スペクトル及びFAB(高速原子衝撃法)−MS(質量分析スペクトル)の測定結果を以下に示す。
【化22】
1H NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=2.50(s,3H,H
a),7.30(d,1H,J=8.15Hz,H
d),7.43(tt,2H,J=7.70 and 1.57 Hz,H
f,),7.56(tt,1H,J=7.43 and 1.45 Hz,H
g),7.72(dt,2H,J=6.85 and 1.55 Hz,H
e),7.75(dd,1H,J=8.10 and 1.90 Hz,H
c),7.96(d,1H,J=1.90Hz,H
b)
FAB−MS:m/z=301[M]
+
【0123】
〔(Z)−6−ブロモ−1−((6−ブロモ−3−フェニル−2H−イソインドール−1−イル)メチレン)−3−フェニル−1H−イソインドール(化合物(3))の合成〕
化合物(2)8.97g(29.6mmol)のエタノール(EtOH)溶液385mLへ酢酸77mLを室温で加えた。その後、酢酸アンモニウム13.7g(178mmol)及び塩化アンモニウム1.58g(29.6mmol)を65℃で加えた。その混合溶液を90℃で5時間攪拌し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液へ注いだ。生じた沈殿物をジクロロメタンとメタノールとを用いて再結晶し、4.91gの化合物(3)を得た(収率60%)。
【0124】
化合物(3)の
1H NMRスペクトル及びFAB−MSの測定結果を以下に示す。
【化23】
1H NMR(500MHz,CDCl
3):δ=(ppm)7.37(dd,2H,J=8.55 and 1.70 Hz,H
c),7.45(s,1H,H
a),7.48(tt,2H,J=7.40 and 1.41 Hz,H
g),7.57(t,4H,J=7.65Hz,H
f),7.86(d,2H,J=8.65Hz,H
d),7.98(dd,4H,J=8.15 and 1.0 Hz,H
e),8.04(d,2H,J=1.25Hz,H
b)
FAB−MS:m/z=553[M]
+
【0125】
〔ジフルオロ[6−ブロモ−1−[[6−ブロモ−3−フェニル−2H−イソインドール−l−イル]メチレン]−3−フェニル−1H−イソインドレート−N
1,N
2]ボロン(化合物(4))の合成〕
窒素雰囲気下、化合物(3)1.91g(3.45mmol)を乾燥トルエン140mLに溶解させ、得られた溶液へトリエチルアミン(NEt
3)0.70mL(0.505mmol)を加えた。さらに、その溶液へ三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF
3・EtO
2)4.5mL(35.8mmol)を80℃で加えた後、その混合溶液を100℃で3時間攪拌した。反応溶液を水に注いだあと、塩化メチレンで抽出した。有機層を水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去した後、固体の化合物(4)0.806gを得た(収率39%)。
【0126】
化合物(4)の
1H NMRスペクトル、
13C NMRスペクトル、FAB−MS、及びHRMS(高分解能質量分析スペクトル)(FAB)の測定結果を以下に示す。
【化24】
1H NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=7.34(dd,2H,J=8.72 and 1.62 Hz,H
c),7.46-7.52(m,8H,H
d,H
f,H
g,and H
h),7.77(dd,4H,J=8.15 and 1.55 Hz,H
e and H
i)7.78(s,1H,H
a),8.06(dd,2H,J=1.50 and 0.50 Hz,H
b)
13C NMR(125MHz,CDCl
3):δ(ppm)152.3,135.2,130.0,129.9,129.1,128.8,128.3,126.8,125.2,124.3,121.8,115.2,77.6
FAB−MS:m/z=600[M+H]
+,602[M+2+ H]
+,604[M+4+H]
+
HRMS(FAB):m/z[M]
+ C
29H
17BBr
2F
2N
2としての計算値599.9820;分析値599.9810
【0127】
〔ジフルオロ[6−(3−ヘキシル−5−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)チオフェン−2−イル)−1−[[6−(3−ヘキシル−5−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン)チオフェン−2−イル)−3−フェニル−2H−イソインドール−1−イル]メチレン]−3−フェニル−1H−イソインドレート−N
1,N
2]ボロン(化合物(6))の合成〕
化合物(4)1.20g(1.99mmol)及び2−(5−(5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−3−ヘキシルチオフェン−2−イル)−4,4,5,5−トリメチル−1,3,2−ジオキサボロラン(化合物(5);Y. Kubo, D. Eguchi, A. Matsumoto, R. Nishiyabu, H. Yakushiji, K. Shigaki, M. Kaneko, J. Mater. Chem. A, 2014, 2, p.5204-5211参照)2.50g(6.12mmol)をTHF96mLに溶解させ、そこへ2M炭酸カリウム水溶液19.7mLを添加した。その溶液を凍結脱気した後、窒素雰囲気下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh
3)
4)0.5g(0.433mmol)を加え、70℃で一晩攪拌した。反応溶液を水に注いだ後、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、その残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン(CH
2Cl
2)/ヘキサン=1/1(v/v))で精製した。こうして、1.34gの化合物(6)を得た(収率67%)。
【0128】
化合物(6)の
1H NMRスペクトル、
13C NMRスペクトル、及びFAB−MSの測定結果を以下に示す。
【化25】
1H NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=0.81(s,12H,H
q),1.25(sextet,4H,J=3.68Hz,H
l),1.29-1.32(m,8H,H
j and H
k),1.31(t,6H,J=6.22Hz,H
m),1.63(q,4H,J=7.63Hz,H
i),2.70(t,4H,J=7.82Hz,H
h),3.67,(d,4H,J=10.8Hz,H
p),3.79(d,4H,J=11.3Hz,H
p),5.64(s,2H,H
o),7.08(s,2H,H
n)7.32(dd,2H,J=8.47 and 1.48 Hz,H
c)7.45-7.52(m,6H,H
g and H
f),7.63(dd,2H,J=8.42 and 0.63 Hz,H
d),7.80(s,1H,H
a),7.83(dd,4H,J=7.93 and 1.42 Hz,H
e),7.93-7.94(m,2H,H
b)
13C NMR(125MHz,CDCl
3):δ(ppm)=151.7,140.0,139.1,137.9,135.8,134.7,131.0,130.2,129.6,128.3,128.0,127.7,127.0,123.7,119.4,114.4,98.4,77.6,31.6,30.9,30.3,29.7,29.2,29.0,23.0,22.6,21.9,14.1
FAB−MS:m/z=1004[M]
+
【0129】
〔ジフルオロ[6−(3−ヘキシル−5−ホルミルチオフェン−2−イル)−1−[[6−(3−ヘキシル−5−ホルミルチオフェン−2−イル)−3−フェニル−2H−イソインドール−1−イル]メチレン]−3−フェニル−1H−イソインドレート−N
1,N
2]ボロン(化合物(7))の合成〕-
化合物(6)1.34g(1.33mmol)をTHF172mLに溶解させ、得られた溶液にp−トルエンスルホン酸一水和物0.512g(2.69mmol)の水溶液35.5mLを添加した。その混合溶液を40℃で7時間攪拌し、水へ注いだ後、酢酸エチルで抽出した。その有機層を水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:CH
2Cl
2/ヘキサン=3/2(v/v))で精製した。こうして、0.498gの化合物(7)を得た(収率45%)。
【0130】
化合物(7)の
1H NMRスペクトル、
13C NMRスペクトル、FAB−MS、及びHRMS(FAB)の測定結果を以下に示す。
【化26】
1H NMR(500MHz,CDCl
3):δ(ppm)=0.838(t,6H,J=6.98Hz,H
m),1.25-1.27(m,8H,H
k and H
l),1.33(q,4H,J=7.06Hz,H
j),1.66(q,4H,J=7.59Hz,H
i),2.76(t,4H,J=7.80Hz,H
h),7.32(dd,2H,J=8.45 and 1.45 Hz,H
c),7.48-7.53(m,6H,H
f and H
g),7.70(d,2H,J=9.70Hz,H
d),7.70(s,2H,H
n),7.84(dd,4H,J=7.67 and 1.77 Hz,H
e),7.89(s,1H,H
a),7.99(s,2H,H
b),9.90(s,2H,H
o)
13C NMR(125MHz,CDCl
3):δ(ppm)=182.8,152.2,148.1,141.8,141.1,138.4,134.5,134.2,130.6,130.2,129.9,128.4,128.1,126.5,124.2,119.8,114.8,77.6,31.6,30.7,29.0,28.8,22.6,14.0
FAB−MS:m/z=832[M]
+
HRMS(FAB):m/z[M]
+ C
51H
47BF
2N
2O
2S
2としての計算値 832.3140;分析値832.3145
【0131】
〔Rho−BODIPY(化合物(8))の合成〕
窒素雰囲気下、化合物(7)0.288g(0.346mmol)、ロダニン−3−酢酸0.225g(1.18mmol)、及び酢酸アンモニウム0.138g(1.80mmol)を酢酸10mLに溶解させ、120℃で一晩攪拌した。その反応溶液を水100mLに注ぎ、固体物を濾別して得た。固体物をpH7になるまで水で洗浄した後、その残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:CH
2Cl
2/メタノール(MeOH)(0〜100%))で精製した。こうして、化合物(8)を0.130gの化合物(8)・2H
2Oとして得た(収率31%)。
【0132】
Rho−BODIPY(化合物(8))の
1H NMRスペクトル、
13C NMRスペクトル、
19F NMRスペクトル、
11B NMRスペクトル、FAB−MS、及び元素分析の測定結果を以下に示す。
【化27】
1H NMR(500MHz,THF−d
8):δ(ppm)=0.83(t,6H,J=6.85Hz,H
m),1.27-1.29(m,12H,H
j,H
k and H
l),1.32-1.37(m,4H,H
i),2.86(t,4H,J=7.62Hz,H
h),4.78(s,4H,H
p),7.46-7.53(m,8H,H
c,H
f,and H
g),7.59(s,2H,H
n),7.75(d,2H,J=8.35Hz,H
d),7.86(d,4H,J=6.75Hz,H
e),7.98(s,2H,H
o),8.29(s,2H,H
b),8.55(s,1H,H
a).
13C NMR(125MHz,THF−d
8):δ(ppm)=204.8,192.9,167.3,152.7,147.2,142.8,138.7,137.6,135.6,135.4,131.9,131.1,130.4,129.4,129.0,126.9,126.1,124.8,121.5,121.1,45.7,32.5,31.5,30.6,30.4,30.0,29.6,23.5,14.4.
19F NMR(470MHz,THF−d
8):δ(ppm)=−129.6(quartet,J
BF=31.1Hz).
11B NMR(160MHz,THF−d
8):δ(ppm)=3.98(t,J
FB=31.2Hz).
FAB−MS:m/z=1179[M]
+
元素分析:C
61H
53BF
2N
4O
6S
6・2H
2Oとしての計算値C,60.28%;H,4.73%;N,4.61%、分析値C,60.13%;H,4.41%;N,4.61%
【0133】
〔実施例3〕
〔光電極3の作成〕
溶媒としてアセトンを用い、NK003をアセトンに溶解させて色素溶液を調製した。この色素溶液をBODIPYのメタノール溶液に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、光電極3を作成した。
【0134】
〔色素吸着量の測定〕
得られた光電極3上の色素吸着量を、FTO/TiO
2電極を色素溶液へ浸漬する前後の吸収スペクトルデータから計算した。色素吸着量を後段の表2に示す。
【0135】
〔水分解光電気化学セル10Aの作製〕
得られた光電極3を作用電極として使用し、電解質として硫酸ナトリウム水溶液に代えてpH7.0のリン酸緩衝液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、水分解光電気化学セル10Aを作製した。
【0136】
〔実施例4〕
電解質としてpH7.0のリン酸緩衝液に代えてpH5.8のリン酸緩衝液を使用したこと以外は実施例3と同様にして、水分解光電気化学セル10Aを作製した。
【0137】
〔実施例5〕
〔光電極3の作成〕
溶媒としてTHFとアセトンとの混合溶媒(THF/アセトン=1/9(v/v))を用い、Rho−BODIPYをこの混合溶媒に溶解させて色素溶液を調製した。この色素溶液をBODIPYのメタノール溶液に代えて用いたこと以外は実施例1と同様にして、光電極3を作成した。
【0138】
〔色素吸着量の測定〕
得られた光電極3上の色素吸着量を、FTO/TiO
2電極を色素溶液へ浸漬する前後の吸収スペクトルデータから計算した。色素吸着量を表2に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
〔水分解光電気化学セル10Aの作製〕
得られた光電極3を作用電極として使用し、電解質として硫酸ナトリウム水溶液に代えてpH7.3のフッ化ナトリウム(NaF)水溶液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、水分解光電気化学セル10Aを作製した。
【0141】
〔実施例6〕
電解質としてpH7.3のNaF水溶液に代えてpH5.8のリン酸緩衝液を使用したこと以外は実施例5と同様にして、水分解光電気化学セル10Aを作製した。
【0142】
〔水の電気分解実験〕
実施例3〜6の水分解光電気化学セルのそれぞれについて、光源6として300Wのキセノンランプを用いて、このキセノンランプからの光を、400nmロングパスフィルタ9を通して光電極3に2000秒間、照射し、このときの水素(H
2)の発生量をガスクロマトグラフィーで定量した。一方、このときの過酸化水素(H
2O
2)の発生量は、Fe
2+の酸化にともなうFe
3+の吸収スペクトル変化を測定することにより定量した。また、「Faraday係数(%)」を測定した。これらの測定結果を表3にまとめて示す。
【0143】
【表3】
【0144】
以上のように、実施例3〜6の水分解光電気化学セルの何れにおいても、光照射時に光電流の発生及び水素ガスの発生が確認され、実施例6の水分解光電気化学セルにおいては、光照射時に過酸化水素の発生が確認された。